近年、地球環境に対する負荷を軽減するべく、化石燃料を用いる火力発電以外の種々の発電方法、たとえば風力発電、波力発電、太陽光発電などが試みられている。その中でも、最も注目され、実用化の先端に位置付けられているのが太陽光発電である。太陽光発電では、半導体材料で形成される太陽電池に太陽光を照射し、半導体界面の光起電力効果を利用して電気を発生させる。太陽電池には、その素材として多結晶シリコンが用いられる。多結晶シリコンはシート状に形成されて使用される。
多結晶シリコンを製造する代表的な方法としては、不活性ガス雰囲気下において、リン(元素記号P)またはボロン(元素記号B)などのドーパントを添加した高純度シリコンを坩堝中で加熱溶融させ、この融液を鋳型に流し込んで冷却し、多結晶シリコンインゴットを得る鋳造法がある(たとえば、特許文献1参照)。
太陽電池に使用されるシート状シリコン(以下、シリコンシートとも称する)は、このようにして得られる多結晶シリコンインゴットを、バンドソーなどでより小さなブロックに切断し、さらにワイヤソーまたは内周刃法などでシート状に切断(スライス)することによって製造される。
この製造方法では、多結晶シリコンインゴットを得るための鋳造工程に加え、多結晶シリコンインゴットをシリコンシートの外形ブロックサイズに切断する切断工程と、所望の厚みのシートにスライスするスライシング工程とが必要であり、製造工程が煩雑である。また、スライシング工程では、ワイヤまたは内周刃の厚み分以上の材料損失が生じるので、太陽電池の製造原価の低減を図る上で大きな障害になる。
このような問題を解決するために、前述の切断工程およびスライシング工程を経ることなく、シリコンシートを製造する技術が提案されている。たとえば、シリコンを溶融させて溶湯とし、この溶湯に冷却体を浸漬し、冷却体の一方の表面部にシリコンを付着させて凝固析出させることによって、シリコンシートなどの析出板を製造する析出板製造装置が提案されている(たとえば、特許文献2〜4参照)。
以下、従来技術による析出板製造装置について、本発明に係る析出板製造装置を説明するための図であるけれども、後述する図5〜7および図9を用いて説明する。析出板製造装置10を用いて、析出板30としてたとえばシリコンシート30を製造する際には、冷却体1を冷却体浸漬手段13によって坩堝19内に収容されるシリコンの溶湯18に浸漬した後引上げる。これによって、溶融したシリコンの一部が冷却体1で冷却されて冷却体1の一方の表面部に凝固析出し、シリコンシート30が形成される。形成されたシリコンシート30は、さらに冷却された後、冷却体1から剥離される。
従来技術では、本発明に係る冷却体1に代えて、図16に示す冷却体60が用いられる。図16は、従来の冷却体60の構成を簡略化して示す斜視図である。図16(a)は冷却体60を冷却体浸漬手段13に保持される側から見て示す斜視図であり、図16(b)は冷却体60を冷却体浸漬手段13に保持される側の反対側、すなわち溶湯18に臨む側から見て示す斜視図である。冷却体60は、基体61と突起部62とを含む。冷却体60の溶湯18に浸漬される面、すなわち基体61の一方の表面部61aは、厚み方向に垂直な仮想平面に平行に形成される。冷却体60は、矢符37方向に搬送されて溶湯18に浸漬される。
シリコンシートは、融解されたシリコンを冷却体で冷却して凝固析出させることによって製造されるので、シリコンシートには、凝固析出過程およびその後の冷却過程における急激な温度変化で生じる内部応力が内包される。このため、シリコンシートは、搬送時の振動などによって破壊するおそれがある。
この内部応力によるシリコンシートの破壊は、シリコンシートの寸法が小さい場合には大きな問題とはならない。たとえば、シリコンシートが、一辺が100mm以下の矩形状である場合には、内部応力による破壊はほとんど発生しない。
しかしながら、これよりも寸法の大きいシリコンシートの場合には、内部応力による破壊が比較的高い確率で発生する。最近では、太陽電池用シリコンシートの寸法は大きくなる傾向にあり、たとえば、一辺が150mm程度の矩形状のシリコンシートが用いられるようになってきており、内部応力によるシリコンシートの破壊が問題となっている。寸法の大きいシリコンシートにおいて内部応力による破壊が発生しやすいのは、厚みが均一でなく、相対的に厚みの小さい部分が部分的に存在するので、その厚みの小さい部分に応力が集中するためであると推察される。
寸法の大きいシリコンシートで厚みが不均一になる原因としては、以下の2つが挙げられる。第1の原因としては、溶湯の表面温度が分布を有することが挙げられる。図5に示す析出板製造装置10において、溶解炉14として、高周波誘導方式の加熱炉(以後、単に高周波誘導加熱炉とも称する)14を用いる場合、図6に示すように、坩堝19内の溶湯18の表面温度は、坩堝19の側壁部近傍の溶湯18表面が最も高く、溶湯18の表面中央部18aが最も低くなることが多い。
このような表面温度分布を有する溶湯18に、前述の図16に示す従来の冷却体60を浸漬すると、表面温度が最も低い溶湯18の表面中央部18a付近に浸漬される冷却体60の中央部付近では、表面温度が相対的に高い領域の溶湯18に浸漬される冷却体60の両端部に比べて、より短時間で溶湯18が凝固点まで冷却される。このため、冷却体60の中央部付近では、他の部分に比べてより多くの溶湯18が析出し、形成されるシリコンシート30の厚みが大きくなる。前述のように一辺が150mm以上という寸法の大きいシリコンシートを作製する場合には、それに対応して寸法の大きい冷却体が用いられるので、この溶湯18の表面温度分布の影響が無視できないレベルとなり、厚みの不均一性が顕著になると推察される。
第2の原因としては、溶湯18の表面高さが均一でない、すなわち溶湯18の表面形状が平坦でないことが挙げられる。坩堝19内の溶湯18の表面高さは、図7に示すように、坩堝19の側壁部近傍の溶湯18表面が最も低く、溶湯18の表面中央部18aが最も高くなることが多い。このように表面が凸状である溶湯18に対して、図16に示す従来の冷却体60を浸漬すると、表面高さが相対的に高い溶湯18の表面中央部18a付近に浸漬される冷却体60の中央部付近では、表面高さが相対的に低い坩堝19の側壁部近傍の溶湯18に浸漬される両端部付近に比べて、溶湯18に浸漬されている時間が長くなる。このため、冷却体60の中央部では、他の部分に比べて、より多くの溶湯18が凝固析出し、形成されるシリコンシート30の厚みが大きくなる。前述のように寸法の大きいシリコンシートを作製する場合には、冷却体60の寸法も大きくなるので、溶湯の表面形状の影響を受けやすくなり、厚みの不均一性が増大するものと推察される。
坩堝19内の溶湯18の表面温度および表面高さは、溶湯18の表面中央部18aが極値になるとは限らず、坩堝19の側面部近傍で極値を取ることがある。たとえば、溶湯18の表面高さが図9に示すように坩堝19の側壁部近傍で極大値を取る場合、シリコンシート30は、外方に露出する表面部が冷却体60の浸漬される面に対して傾斜するように形成される。すなわち、冷却体60に析出するシリコンシート30の厚みは、溶湯18の表面中央部18aに浸漬される冷却体60の中央部で最も大きくなるのではなく、表面高さが極大となる坩堝19の側壁部近傍の溶湯18に浸漬される冷却体60の一端部から他端部に向かって全体に傾斜した厚み分布となる。このため、溶湯18の表面高さが溶湯18の表面中央部18aで極大となる場合よりも、厚みのばらつきが大きくなる。特に、寸法の大きいシリコンシート30を作製する場合には、冷却体60の寸法が大きくなるので、厚みのばらつきが一層大きくなる。
以上に述べたように、従来の冷却体60を用いた場合、均一な厚みのシリコンシートを製造することは困難である。この厚みの不均一性は、冷却体の寸法が大きくなるほど、すなわち作製するシリコンシートの寸法が大きくなるほど顕著になり、シリコンシートの内部応力による破壊(以後、自壊とも称する)が生じやすくなる。特に、生産性向上の観点から1個の冷却体を用いて複数枚のシリコンシートを同時に作製する場合には、1枚のシリコンシートを作製する場合よりも冷却体の寸法が大きくなるので、厚みの不均一性が顕著であり、シリコンシートの自壊が発生しやすい。
シリコンシートの自壊を防ぎ、製造歩留を向上させる方法としては、析出させるシリコンシートの平均厚みを大きくし、シリコンシートの強度を高める方法が考えられるけれども、この方法では、材料の使用効率が低下し、製造原価が上昇する。特に、1個の冷却体で複数枚のシリコンシートを同時に作製する場合には、冷却体の寸法に対応して坩堝の寸法を大きくする必要があるので、材料の使用効率の低下が著しく、製造原価が大幅に上昇することになる。また、坩堝の寸法を大きくすることは、装置の製造原価の上昇および坩堝の加熱に使用する消費電力量の増大などの問題から実現困難である。
特開平6−64913号公報(第4頁,第1図)
特開平10−29895号公報(第3−4頁,第1図)
特開2002−175996号公報(第5頁,第7図)
特開2003−59849号公報(第6−7頁,第1図)
図1は、本発明の実施の第1形態である冷却体1を用いて析出板30を製造する本発明の実施の第2形態である析出板製造装置10の構成を簡略化して示す部分断面図である。図2は、図1に示す冷却体1の構成を簡略化して示す斜視図である。図2(a)は冷却体1を冷却体浸漬手段13に保持される側から見て示す斜視図であり、図2(b)は冷却体1を、冷却体浸漬手段13に保持される側の反対側すなわち溶湯18を臨む側から見て示す斜視図である。図3は、図2に示す冷却体1を基体部21の厚み方向29に垂直な基準方向25から見て示す側面図である。図2に示す基準方向25は、図3の紙面に垂直な方向に一致し、図3において、基体部21の厚み方向29は、図3の紙面に向かって上下に垂直に延びる直線方向に平行になる。析出板製造装置10は、坩堝19に収容される溶湯18に冷却体1を浸漬した後引上げることによって、冷却体1の一方の表面部に溶湯18の一部を凝固析出させて板状の析出板30を形成させる装置である。
析出板製造装置10は、筐体であるチャンバ11と、チャンバ11の内方の処理空間12内に設けられる冷却体浸漬手段13および溶解炉14と、チャンバ11の外方に設けられ、冷却体浸漬手段13および溶解炉14などの、析出板製造装置10の各部の動作を制御する制御装置15とを含んで構成される。冷却体浸漬手段13には、冷却体1が着脱可能に保持される。チャンバ11の一方の側壁部には、冷却体1を処理空間12内に搬入するための冷却体搬入口16が形成される。チャンバ11の一方の側壁部に対向する他方の側壁部には、冷却体1を処理空間12から外部に搬出するための冷却体搬出口17が形成される。なお、本実施の形態とは異なるけれども、チャンバ11の一方の側壁部または他方の側壁部のみに開口部を形成し、冷却体1の搬送および搬出の両方を行なうように構成してもよい。
図2および図3に示すように、冷却体1は、基体部21と突起部22とを含む。冷却体1は、突起部22で冷却体浸漬手段13に保持され、基体部21の少なくとも厚み方向29一方側の表面部(以後、単に一方の表面部とも称する)23が溶湯18に浸漬される。突起部22は、基体部21の厚み方向29他方側の表面部(以後、単に他方の表面部とも称する)24から突出するように形成される。突起部22は、基体部21に一体的に形成されてもよく、別個に形成されて基体部21に固着されてもよい。本実施の形態とは異なるけれども、突起部22は、必ずしも基体部21の他方の表面部24から突出するように形成される必要はなく、たとえば、基体部21に他方の表面部24側から一方の表面部23側に延びる凹所を形成することによって凹所の内方に残存する基体部21として形成されてもよい。
基体部21の外周縁部は、本実施の形態では矩形状である。基体部21の溶湯18に浸漬される厚み方向29の一方の表面部23は、凹曲面状に形成される。具体的には、基体部21の一方の表面部23は、厚み方向29に垂直な矢符25で示される基準方向に垂直な切断面線I−Iにおける断面形状が円弧状となるような円筒形状の凹曲面(以下、単に凹円筒面とも称する)で形成される。すなわち、基体部21の一方の表面部23は、厚み方向29に垂直な基準方向25に一様な形状に形成される。本実施の形態では、基体部21の一方の表面部23全体が、厚み方向29に垂直な仮想平面40に対して傾斜する傾斜部分となる。基体部21の他方の表面部24は、厚み方向29に垂直な仮想平面に対して平行になるように、すなわち厚み方向29に平行な仮想平面における断面形状が直線状になるように、平面状に形成される。
本発明において、冷却体が基体部を有し、基体部の少なくとも一方の表面部が溶湯に浸漬される場合には、冷却体の一方の表面部とは、基体部の一方の表面部を意味し、冷却体の他方の表面部とは、基体部の他方の表面部を意味する。
冷却体1を構成する材料としては、耐熱性に優れ、溶湯18となる溶湯素材の融点よりも融点が高く、かつ溶湯素材との反応性に乏しいものが好ましい。このような材料としては、グラファイト、炭化ケイ素、石英、窒化ケイ素などが挙げられ、その中でもグラファイトが好適に用いられる。冷却体1の材質は、これに限定されず、溶湯素材の種類などに応じて広い範囲から適宜選択することができる。冷却体1は、たとえば切削加工によって作製することができる。
図1に示す析出板製造装置10において、冷却体1は、厚み方向29に垂直な方向であって基体部21の一方の表面部23が傾斜部分を有するような断面形状に切断される仮想平面に垂直な基準方向25が、図1の紙面に向かって右方向である矢符37方向に一致するように冷却体浸漬手段13に保持される。
溶解炉14は、高周波誘導加熱方式の溶解炉であり、溶湯18および溶湯18となる溶湯素材を収容する溶湯容器である坩堝19と、坩堝19の周囲に設けられ、坩堝19に収容される溶湯18および溶湯18となる溶湯素材を加熱する加熱手段であるコイル20とを含む。
図4は、図1に示す坩堝19およびコイル20を同一平面上に投影して示す図である。図4では、坩堝19およびコイル20を、図1の紙面に向かって上方側から、図1の紙面に垂直であって図1の紙面に向かって左右に延びる水平方向31に平行な仮想平面X−Y上に投影した状態を示す。坩堝19は、側壁部が円筒状になるように形成される。コイル20は、坩堝19の周囲を旋回するように回装して形成される。本実施の形態では、坩堝19およびコイル20は、X−Y平面に投影したときに、坩堝19の中心位置73とコイル20の巻き中心位置72とが一致するように配置される。ここで、坩堝19の中心位置73とは、坩堝19を図4に示すX−Y平面に投影したときに、坩堝19の底面中央部を通る坩堝19の軸線71が投影される位置のことである。
図4において、コイル20の巻き中心位置72を通り、図4の紙面に向かって右方に水平に延びるX軸方向は、図1の紙面手前側に垂直に延びる直線の方向に一致する。図4において、コイル20の巻き中心位置72を通り、図4の紙面に向かって上方に垂直に延びるY軸方向は、図1の紙面に向かって右方向である冷却体1の搬送方向37に一致する。すなわち、冷却体1は、図4に示すY軸の正(+)方向に搬送されて溶湯18に浸漬される。
溶解炉14は、コイル20で高周波を発生させて坩堝19を加熱することによって、坩堝19に収容される溶湯18および溶湯18となる溶湯素材を加熱する。なお、坩堝19は、側壁部が角筒状になるように形成されてもよい。また、本実施の形態とは異なるけれども、溶解炉14は、抵抗加熱方式の加熱炉であってもよい。この場合には、坩堝19の周囲にヒータを設け、ヒータで坩堝19を加熱することによって、坩堝19に収容される溶湯18および溶湯素材を加熱する。
溶湯18となる溶湯素材としては、シリコン、ゲルマニウムなどの単体半導体材料、ガリウム−ヒ素化合物、インジウム−リン化合物などの化合物半導体材料などの半導体材料、アルミニウム、ニッケルなどの金属材料などを用いることができる。たとえば、溶湯素材としてシリコンを用いることによって、冷却体1の一方の表面部すなわち基体部21の一方の表面部23に、析出板30としてシート状シリコンを形成することができる。
図1に戻って、冷却体浸漬手段13は、冷却体搬入口16から冷却体搬出口17に向かって水平に延びて設けられる水平方向移動軸33に沿って、図1の紙面に向かって左右に水平に延びる水平方向31に移動可能に設けられる。冷却体浸漬手段13は、冷却体1を保持する冷却体保持部材34と、冷却体保持部材34を傾動可能に保持する垂直方向移動軸35と、垂直方向移動軸35を水平方向31に垂直な矢符32で示される垂直方向すなわち図1の紙面に向かって上下方向32に移動可能に保持する移動軸保持部材36とを含む。
冷却体浸漬手段13は、移動軸保持部材36で水平方向移動軸33に保持される。移動軸保持部材36は、水平方向移動軸33に設けられる図示しない案内レールに案内されるガイドローラを有し、図示しない水平方向移動手段によって水平方向31に移動可能に水平方向移動軸33に保持される。移動軸保持部材36を図示しない水平方向移動手段によって水平方向31に移動させることによって、冷却体浸漬手段13を水平方向31に移動させることができる。
冷却体保持部材34は、冷却体1の一方の表面部である基体部21の一方の表面部23を坩堝19に収容される溶湯18に浸漬することができるように、具体的には溶湯18に浸漬していない状態で基体部21の一方の表面部23が溶湯18を臨むように、冷却体1を保持する。冷却体1は、基体部21の厚み方向29が、図1の紙面に垂直な方向である冷却体保持部材34の角変位軸線80に垂直な方向に延びる基準軸線に対して平行になり、かつ図2に示す基準方向25が冷却体浸漬手段13の搬送方向37に一致するように保持される。
冷却体保持部材34には、垂直方向32に延びるように設けられる図示しない2本の傾動軸が接続される。2本の傾動軸をそれぞれ垂直方向32に昇降させることによって、角変位軸線80を支点として冷却体保持部材34を傾動させることができる。冷却体保持部材34を傾動させることによって、冷却体1を傾動させることができる。冷却体保持部材34の角変位量を調整することによって、冷却体1の水平面に対する傾斜角度を調整することができる。ここで、冷却体1の水平面に対する傾斜角度とは、冷却体1を構成する基体部21の厚み方向29に垂直な仮想平面と水平面との成す角度のことである。冷却体1を溶湯18から引上げる際に、冷却体保持部材34によって冷却体1の水平面に対する傾斜角度を調整することによって、冷却体1の基体部21の一方の表面部23と溶湯18の表面との成す角度を調整し、液だれなどを防ぐことができる。ここで、液だれとは、冷却体を引上げる際に、溶湯が冷却体の基体部に引かれて基体部の端部に付着し、凝固析出する現象のことである。
垂直方向移動軸35には、移動軸保持部材36に設けられるガイドローラを案内する図示しない案内レールが、垂直方向32に延びるように設けられる。垂直方向移動軸35は、図示しない垂直方向移動手段によって垂直方向32に移動可能に移動軸保持部材36に保持される。垂直方向移動軸35を垂直方向移動手段によって垂直方向32に昇降させることによって、垂直方向移動軸35に保持される冷却体保持部材34および冷却体保持部材34に保持される冷却体1を垂直方向32に昇降させることができる。
冷却体浸漬手段13は、冷却体保持部材34によって冷却体1を保持し、冷却体1の基体部21の少なくとも一方の表面部23を溶湯18に浸漬する位置と、溶湯18から退避した位置とにわたって変位駆動する。
本発明の実施の第3の形態である析出板の製造方法は、図1に示す析出板製造装置10によって実行することができる。図5は、図1に示す析出板製造装置10を用いて析出板30を作製する様子を模式的に示す側面配置図である。図5では、説明の便宜上、冷却体浸漬手段13を3つ示すけれども、実際には、1つの冷却体浸漬手段13が図5に示す冷却体浸漬手段13の各位置に移動されて冷却体1の浸漬動作を行なう。
析出板製造装置10によって析出板30を製造する際には、まず、図示しない冷却体搬入手段によって冷却体搬入口16からチャンバ11の内方の処理空間12に冷却体1を搬入する。搬入した冷却体1を図示しない冷却体装着手段によって冷却体浸漬手段13の冷却体保持部材34に装着する。冷却体1は、基体部21の一方の表面部23が外方に臨み、かつ基準方向25が冷却体浸漬手段13の搬送方向である矢符37方向に一致するように、冷却体浸漬手段13に保持される。
冷却体1が装着された冷却体浸漬手段13を図示しない水平方向移動手段によって矢符37方向に水平方向移動軸33に沿って移動させ、坩堝19の上方に配置する。これによって、冷却体浸漬手段13に保持された冷却体1の一方の表面部すなわち基体部21の一方の表面部23が、坩堝19に収容される溶湯18を臨む状態となる。
次いで、冷却体浸漬手段13の垂直方向移動軸35を図5の紙面に向かって下方側に移動させることによって、冷却体保持部材34に保持された冷却体1の少なくとも一方の表面部、すなわち基体部21の少なくとも一方の表面部23を坩堝19に収容される溶湯18に浸漬する。次いで、冷却体浸漬手段13の垂直方向移動軸35を図5の紙面に向かって上方側に移動させることによって、冷却体保持部材34に保持された冷却体1を坩堝19内の溶湯18から引上げる。この冷却体1を溶湯18に浸漬した後、引上げるという一連の動作によって、溶湯18の一部が冷却体1で凝固点以下に冷却されて冷却体1の一方の表面部である基体部21の一方の表面部23に凝固析出し、析出板30が形成される。たとえば、溶湯18となる溶湯素材としてシリコンを用いた場合には、溶融したシリコンが冷却体1の一方の表面部である基体部21の一方の表面部23に凝固析出し、析出板30としてシート状シリコン(以後、シリコンシートとも称する)が形成される。
このとき、本実施の形態では、冷却体1の基体部21を一方の端部から順に溶湯18に浸漬し、基体部21の少なくとも一方の表面部23全体を溶湯18に浸漬した後、最初に浸漬した側の端部から順に冷却体1を溶湯18から離脱させるという手順で、冷却体1の溶湯18への浸漬および溶湯18からの引上げを行なう。
具体的には、垂直方向移動軸35を下方側に下降させるとともに、冷却体1の搬送方向37下流側の端部が下方を向き、搬送方向37上流側の端部が上方を向くように冷却体保持部材34を傾動させ、冷却体1を搬送方向37の下流側の端部から順に溶湯18に浸漬する。冷却体保持部材34の角変位量を調整して冷却体1を徐々に水平に戻し、冷却体1の一方の表面部すなわち基体部21の一方の表面部23全体を溶湯18に浸漬する。次いで、垂直方向移動軸35を上方側に上昇させるとともに、冷却体保持部材34の角変位量を調整し、冷却体1の搬送方向37下流側の端部を上方に徐々に向かせ、搬送方向37下流側の端部が上方を向き、搬送方向37上流側の端部が下方を向いた状態で、最初に浸漬された搬送方向37下流側の端部から順に溶湯18から引上げる。ここで、冷却体1を水平に戻すとは、冷却体1の基体部21の厚み方向29に垂直な仮想平面と水平面との成す角度を略0°にすることをいう。
このような手順で冷却体1の溶湯18への浸漬および溶湯18からの引上げを行なうことによって、冷却体1の一方の表面部23に析出した析出板30に作用する溶湯18の表面張力の影響を抑え、冷却体1を溶湯18から引上げる際に析出板30が冷却体1から脱離することを防ぐことができる。
次いで、析出板30が形成された冷却体1を保持した冷却体浸漬手段13を図示しない水平方向移動手段によって溶湯18の上方位置から冷却体搬出口17に向かって矢符37方向に移動させる。冷却体浸漬手段13に保持される冷却体1および冷却体1に形成された析出板30は、冷却体浸漬手段13の移動に伴って冷却体搬出口17近傍に搬送される。
冷却体搬出口17近傍に搬送された冷却体1は、図示しない冷却体取外手段によって冷却体浸漬手段13から取外され、図示しない冷却体搬出手段によって冷却体搬出口17から処理空間12の外部に搬出される。次いで、冷却体1および冷却体1に形成された析出板30を冷却した後、冷却体1から析出板30を剥離させ、析出板30を得る。以上のようにして、析出板30の製造が終了する。なお、本実施の形態とは異なるけれども、析出板30は、冷却体1を冷却体浸漬手段13から取外さずに冷却体浸漬手段13に保持させたまま、冷却体1から剥離されてもよい。
本実施の形態による析出板製造装置10では、以上に述べた一連の析出板製造動作を繰返し実行することによって、複数枚の析出板30を製造することができる。ただし、析出板製造動作を繰返し行なうと、坩堝19に収容される溶湯18が減少し、析出板30の製造に支障が出る。このため、複数枚の析出板30を製造する場合には、析出板30を何枚か製造する毎に、析出板30の製造を一旦停止し、図示しない溶湯素材追加装置によって坩堝19内に溶湯素材を導入して溶融させ、減少分の溶湯18を補充する。
以上に述べた析出板30の製造過程において、坩堝19内に収容される溶湯18の表面温度は、均一でなく、表面中央部18aが極小になることが多い。図6は、溶解炉14における熱の流れを模式的に示す図である。図6では、図4に示す溶解炉14のX軸を含み、かつY軸に垂直な仮想平面における断面形状、すなわち図1の紙面に垂直な仮想平面における断面形状を示す。図1に示す冷却体浸漬手段13の搬送方向37、すなわち図2に示す冷却体1の基準方向25は、図6の紙面奥側に垂直に延びる直線方向に一致する。溶解炉14では、坩堝19の周囲に設けられるコイル20から発生する磁界によって坩堝19に誘導電流が流れ、その結果坩堝19が発熱する。坩堝19で発生した熱63は、坩堝19内の溶湯18に伝導し、溶湯18の表面から外方に放出される。
坩堝19の側壁部近傍の溶湯18表面は、発熱している坩堝19の側壁部に接するか、または近接している。溶湯18の表面中央部18aは、発熱している坩堝19の側壁部から最も離れており、かつ最も放熱量が大きい位置にある。このため、溶湯18の表面温度は、表面中央部18aが最も低く、坩堝19の側壁部近傍にいくにつれて高くなることが多い。このような溶湯18の表面温度分布は、溶解炉14として、本実施の形態のように高周波誘導加熱方式の加熱炉を用いる場合だけでなく、抵抗加熱方式の加熱炉を用いる場合にも同様に生じ、ヒータ近傍の溶湯の表面温度が、それ以外の部分よりも高くなる傾向は避けられない。
ここで、溶湯18の表面中央部18aとは、坩堝19内に収容される溶湯18を坩堝19の底面部に投影したときに、坩堝19の底面中央部に投影される部分のことであり、坩堝19の軸線71と溶湯18の表面との交点、すなわち図4に示すX−Y平面に投影したときに、坩堝19の軸線71が投影される坩堝19の中心位置72と同じ位置に投影される溶湯18の部分のことである。
溶湯18が表面温度分布を有する場合、本実施の形態では、基体部21の一方の表面部23を形成する凹状面の最深部、すなわち厚み方向29一方側に一方の表面部23を含まないように仮想される厚み方向29に垂直な仮想平面からの距離が最も大きい中央部28が、溶湯18の表面温度が極小となる部分に浸漬されるように、冷却体1を位置決めして溶湯18に浸漬する。たとえば、溶湯18の表面温度が表面中央部18aで極小となる場合には、基体部21の一方の表面部23の中央部28が、溶湯18の表面中央部18aに浸漬されるように、冷却体1を配置して溶湯18への浸漬を行なう。
これによって、表面温度が極小となる部分たとえば表面中央部18a付近の溶湯18に浸漬される冷却体1の中央部28が溶湯18に浸漬されている時間を、他の部分に比べて短くすることができる。溶湯18は、その温度が低いほど速く凝固点まで冷却されて凝固析出するので、前述のように位置決めして冷却体1を浸漬させることによって、溶湯18の表面温度分布の影響を打消し、基体部21の一方の表面部23に形成される析出板30の厚みを均一にすることができる。したがって、内部応力の集中による析出板30の自壊を防ぐことができるので、析出板30の製造歩留を向上させることができる。
また、溶湯18の表面形状は、平坦にならずに凸状になることが多い。図7は、坩堝19内の溶湯18の表面形状を模式的に示す図である。図7では、図6と同様、図4に示す溶解炉14のX軸を含み、かつY軸に垂直な仮想平面における断面形状、すなわち図1の紙面に垂直な仮想平面における断面形状を示す。図2に示す冷却体1の基準方向25は、図7の紙面奥側に垂直に延びる直線方向に一致する。
前述のように、坩堝19には、コイル20が発生する磁界64によって誘導電流が流れる。これによって、坩堝19が発熱するとともに、誘導電流が坩堝19内の溶湯18自体にも流れる。その結果、コイル20が発生する磁界64と溶湯18自体に流れる誘導電流との相互作用によって、坩堝19の側面部近傍の溶湯18に、坩堝19の底面部側に向かう力すなわち図7の紙面に向かって下向きの力が作用し、坩堝19の底面部側に向かう溶湯18の流れ65が発生する。
発生した溶湯18の流れ65は、坩堝19の両側壁部付近から底面中央部に向かって進み、坩堝19の底面中央部付近で合流し、坩堝19の開口部に向かう方向すなわち図7の紙面に向かって上向きの流れとなる。このため、溶湯18の表面は、表面中央部18aが持ち上がって相対的に高くなり、図7に示すように凸状、具体的には半球面状になる。すなわち、溶湯18の表面高さは、表面中央部18aで極大となる。ここで、溶湯18の表面高さとは、坩堝19内に収容される溶湯18の表面から坩堝19の底面部までの最短距離のことである。
溶湯18が表面中央部18aで表面高さの極大値をとるような凸状になる場合、本実施の形態では、基体部21の一方の表面部23を形成する凹状面の最深部である中央部28が、溶湯18の表面高さが極大となる部分に浸漬されるように、冷却体1を位置決めして溶湯18に浸漬する。たとえば、溶湯18の表面高さが表面中央部18aで極大になる場合には、溶湯18の表面温度が表面中央部18aで極小となる場合と同様、冷却体1を、基体部21の一方の表面部23の中央部28が溶湯18の表面中央部18aに浸漬されるように配置して、溶湯18に浸漬させる。
このようにして冷却体1の溶湯18への浸漬を行なうと、表面高さが極大となる部分たとえば表面中央部18a付近の溶湯18に浸漬される冷却体1の中央部28は、表面高さが相対的に低い部分の溶湯18に浸漬される冷却体1の他の部分とほぼ同時に浸漬を開始し、ほぼ同時に浸漬を終える。すなわち、本実施の形態では、溶湯18に浸漬されている時間を冷却体1の一方の表面部である基体部21の一方の表面部23全体にわたって均一にすることができる。したがって、溶湯18の表面形状の影響を打消し、基体部21の一方の表面部23に、均一な厚みの析出板30を形成させることができる。
基体部21の一方の表面部23を形成する凹曲面の曲率は、特に制限されず、坩堝19に収容される溶湯18の表面形状および表面温度分布などに応じて適宜選択することができる。すなわち、基体部21の一方の表面部23の形状は、溶湯18の表面形状および表面温度分布の双方を考慮して設計することが好ましい。たとえば、溶湯18の表面が図7に示すような凸状であり、表面中央部18aで表面温度が極小となる場合には、溶湯18の表面形状を転写した凹曲面よりも大きな曲率を有するように、基体部21の一方の表面部23を形成することが好ましい。
以上に述べたように、本実施の形態では、冷却体1を浸漬する際には、冷却体1を基準方向25に沿う方向に角変位させて溶湯18に浸漬するけれども、角変位させずに溶湯18に浸漬させてもよい。たとえば、冷却体浸漬手段13の垂直方向移動軸35によって、冷却体1を溶湯18の上方位置からそのまま図5の紙面に向かって下方側に下降させて溶湯18に浸漬した後、上方側に上昇させて溶湯18から引上げるようにしてもよい。この場合には、溶湯18に浸漬される冷却体1の一方の表面部である基体部21の一方の表面部23は、半球面状の凹曲面で形成されることが好ましい。これによって、溶湯18の表面温度分布および表面形状の影響を一層抑制し、析出板30の厚みの均一性を向上させることができる。
また、基体部21の一方の表面部23は、外方に突出するような部分円筒形状、球面状などの凸曲面で形成されてもよい。このように基体部21の一方の表面部23が凸曲面で形成される冷却体は、たとえば溶湯18の表面形状が凹面状になる場合に有効であり、このような冷却体を用いることによって、厚みの均一な析出板30を製造することができる。
また、本実施の形態による基体部21の一方の表面部23は、全体が曲面状に形成されるけれども、これに限定されず、一部分が曲面状に形成され、残余の部分が平面状に形成されてもよい。また、基体部21の一方の表面部23は、異なる曲率を有する複数の曲面部分で形成されてもよい。しかしながら、本実施の形態による冷却体1のように、基体部21の一方の表面部23を一様な曲率に形成する方が、加工が容易であるので好ましい。
また、冷却体1の他方の表面部である基体部21の他方の表面部24は、平面状に形成されるけれども、これに限定されず、一方の表面部23と同様に、凹曲面状、凸曲面状などの曲面状に形成されてもよい。また、基体部21の他方の表面部24は、一部分が曲面状に形成され、残余の部分が平面状に形成されてもよく、また異なる曲率を有する複数の曲面部分で形成されてもよい。
また、本実施の形態の析出板製造装置10では、図2に示す冷却体1を用いて析出板30の製造を行なうけれども、これに限定されず、後述する図10〜図15に示す冷却体2〜4などを用いて析出板30の製造を行なうこともできる。析出板製造装置10では、坩堝19に収容される溶湯18の表面温度分布および表面形状などに応じて、最適な冷却体を用いて析出板30の製造を行なうことによって、均一な厚みの析出板30を得ることができる。
前述のように、本実施の形態による析出板製造装置10では、坩堝19内の溶湯18の表面温度および表面高さは、溶湯18の表面中央部18aで極値をとる。坩堝19内の溶湯18の表面温度および表面高さは、溶湯18の表面中央部18aが極値になるとは限らず、坩堝19の側面部近傍で極値を取ることがある。これは、坩堝19の周囲への放熱およびコイル20が発生する磁界64の影響が、坩堝19の側壁部の各部において均一でないことが原因である。このような磁界および放熱の不均一性は、坩堝19の設置位置の偏り、溶解炉14の周辺に設けられる図示しない補記類および冷却装置などの影響などによって発生する。
図8は、坩堝19が、X−Y平面上において坩堝19の中心位置73がコイル20の巻き中心位置72からX軸の正方向に偏心するように配置された状態を示す図である。図9は、坩堝19が図8に示すように偏心して配置される場合の溶湯18の表面形状を模式的に示す図である。
たとえば図8に示すように、X−Y平面に投影したときに坩堝19の中心位置73がコイル20の巻き中心位置72からX軸の正方向に偏心するように坩堝19が配置されていると、Xが正の領域である第1象限および第4象限に投影される坩堝19の側壁部ではコイル20との距離が相対的に小さくなり、Xが負の領域である第2象限および第3象限に投影される坩堝19の側壁部ではコイル20との距離が相対的に大きくなる。このため、Xの正領域に投影される坩堝19の側壁部近傍の溶湯18には、Xの負領域に投影される坩堝19の側壁部近傍の溶湯18に比べて、コイル20が発生する磁界64がより大きく作用し、坩堝19の底面部側に向かう力が大きくなる。したがって、坩堝19に収容される溶湯18の表面高さは、図9に示すように、溶湯18の表面中央部18a付近ではなく、X−Y平面に投影したときにXの負領域に投影される坩堝19の側壁部近傍で極大値を取る。
この場合には、図10および図11に示す冷却体2を用いて析出板30を製造することが好ましい。図10は、本発明の実施の第4形態である冷却体2の構成を簡略化して示す斜視図である。図10(a)は冷却体2を冷却体浸漬手段13に保持される側から見て示す斜視図であり、図10(b)は冷却体2を、溶湯18を臨む側から見て示す斜視図である。図11(a)は、図10に示す冷却体2を基体部38の厚み方向29に垂直な基準方向39から見て示す側面図である。図11(b)は、図10に示す冷却体2を基準方向39の逆方向から見て示す側面図である。本実施の形態の冷却体2は、実施の第1形態の冷却体1に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
冷却体2において注目すべきは、基体部38の溶湯18を臨む一方の表面部38aが、厚み方向29に平行な仮想平面における断面形状が直線状になるように平面状に形成され、基体部38の一方の表面部38a全体が、厚み方向29に垂直な仮想平面40に対して傾斜するように形成されていることである。本実施の形態では、冷却体2の基体部38は、基準方向39に一様な形状に形成される。具体的には、冷却体2の基体部38は、基準方向39に垂直な切断面線II−IIにおける断面形状が、基準方向39に平行な両端部38c,38dを上底および下底とする台形形状になるように形成される。図1に示す析出板製造装置10において、冷却体2は、図10に示す基準方向39または基準方向39の反対方向が、冷却体浸漬手段13の搬送方向37に一致するように冷却体浸漬手段13に保持されて、坩堝19内に収容される溶湯18に浸漬される。
前述の図9に示すように、坩堝19内の溶湯18の表面高さが坩堝19の側壁部近傍で極大値を取る場合には、冷却体2を、その厚みが最も小さい部分である他方の側壁部38dが、溶湯18の表面高さが極大となる部分付近に浸漬されるように位置決めして溶湯18に浸漬する。このことによって、溶湯18に浸漬されている時間を冷却体2の一方の表面部である基体部38の一方の表面部38a全体にわたって均一にすることができる。したがって、溶湯18の表面形状の影響を打消し、基体部38の一方の表面部38aに均一な厚みの析出板30を形成することができる。
また、溶湯18の表面形状が図9に示すようになる場合には、前述の図16に示すように基体部61の一方の表面部61aが厚み方向に垂直な仮想平面に対して平行な平面状に形成される従来の冷却体60を、溶湯18の表面形状に合わせて傾斜させて浸漬することも考えられる。しかしながら、この場合には、冷却体浸漬手段13の構成および動作を変更する必要があるので、析出板製造装置が複雑化する。また、冷却体浸漬手段13の構成および動作を変更することは困難である。これに対し、本実施の形態では、図1に示す析出板製造装置10において、冷却体1を冷却体2に変更するだけでよい。
また、従来の冷却体60を傾斜させて用いる場合には、冷却体60の端部が溶湯18に浸漬されないおそれがあるけれども、本実施の形態では、冷却体2の一方の表面部自体を傾斜させるので、基体部38の一方の表面部38a全体をより確実に溶湯18に浸漬させることができる。
冷却体2において、基体部38の厚み方向29に垂直な仮想平面40に対する傾斜角度θ1は、たとえば0.5〜5°程度である。前記角度θ1は、これに限定されず、坩堝19に収容される溶湯18の表面形状などに応じて適宜選択することができる。
図12は、本発明の実施の第5形態である冷却体3の構成を簡略化して示す斜視図である。図12(a)は冷却体3を冷却体浸漬手段13に保持される側から見て示す斜視図であり、図12(b)は冷却体3を溶湯18に臨む側から見て示す斜視図である。図13は、図12に示す冷却体3を基体部41の厚み方向29に垂直な基準方向39から見て示す側面図である。本実施の形態の冷却体3は、実施の第4形態の冷却体2に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
本実施形態の冷却体3において注目すべきは、基体部41の溶湯18を臨む一方の表面部41aが、厚み方向29に垂直な仮想平面40における断面形状が直線状になるように平面状に形成される2つの面部分43,44を有し、この2つの面部分43,44が、厚み方向29に垂直な仮想平面40に対する傾斜角度が互いに異なるように形成されていることである。すなわち、基体部41の一方の表面部41aは、前記仮想平面40に対する傾斜角度θ2,θ3が異なる第1傾斜部43および第2傾斜部44の2つの傾斜部で形成される。第1傾斜部43と第2傾斜部44とは互いに交わり、基体部41の一方の表面部41aは、第1傾斜部43と第2傾斜部44との交線(以後、分割線と称する)42で分割されるように形成されている。分割線42は、基準方向39に平行に形成される。
冷却体3の基体部41は、図10および図11に示す実施の第4形態の冷却体2を構成する基体部38を、その厚みが最も小さい部分38d同士で2個つなぎ合わせた形状である。冷却体3の基体部41は、矢符39方向では均一な厚みを有し、矢符39に垂直な方向では厚みが変化する。基体部41の厚みは、両端部から分割線42の部分にいくにつれて減少し、分割線42の部分で最も小さくなる。
本実施の形態では、基体部41の溶湯18に浸漬される一方の表面部41aの面積は、作製しようとする析出板30の面積の約2倍に選択される。冷却体3を用いて析出板30を製造する際には、図1に示す析出板製造装置10において、基体部41の一方の表面部41aを2つの傾斜部43,44に分割する分割線42が、冷却体浸漬手段13の搬送方向37に平行になり、かつ坩堝19に収容される溶湯18の表面高さが極大になる部分付近に浸漬されるように、冷却体3を冷却体浸漬手段13に保持し、溶湯18に浸漬させる。これによって、基体部41の一方の表面部41aでは、分割線42で分割された第1傾斜部43および第2傾斜部44のそれぞれに析出板30が形成される。すなわち、基体部41の一方の表面部41aには、分割線42で分割された2枚の析出板30が形成される。このように、本実施の形態の冷却体3を用いることによって、溶湯18への一回の浸漬動作で2枚の析出板30を生産することができるので、生産性を向上させることができる。
なお、本実施の形態の冷却体4は、基体部41の一方の表面部41aの面積を作製しようとする析出板30の面積と等しい面積に選択することによって、1枚の析出板30を作製する場合に使用することができる。この場合にも、基体部41の一方の表面部41aを、図13に示すように凹状、具体的には基準方向39に垂直な仮想平面における断面形状がV字型になるように形成することが好ましい。このように形成される冷却体4は、たとえば前述の図6に示すように溶湯18の表面温度が表面中央部18aで極小となる場合、図7に示すように溶湯18の表面高さが表面中央部18aで極大となる場合などに有効である。この場合には、冷却体4を、分割線42の部分が、溶湯18の表面中央部18a付近に浸漬されるように位置決めして溶湯18に浸漬する。
本実施の形態の冷却体4では、溶湯18に浸漬される基体部41の一方の表面部41aは、冷却体4の基準方向39に平行な分割線42で区切られた2つの傾斜部43,44で形成される。第1傾斜部43の厚み方向29に垂直な仮想平面40に対する傾斜角度(以後、単に傾斜角度と称する)θ2および第2傾斜部44の厚み方向29に垂直な仮想平面40に対する傾斜角度(以後、単に傾斜角度と称する)θ3は、特に制限されず、坩堝19に収容される溶湯18の表面形状などに応じて適宜選択することができる。坩堝19に収容される溶湯18の表面形状に応じて、第1傾斜部43の傾斜角度θ2および第2傾斜部44の傾斜角度θ3をそれぞれ最適化することによって、析出板30の厚みの均一性を向上させることができる。
以上に述べたように、本実施の形態の冷却体3では、基体部41の一方の表面部41aは、分割線42で区切られた2つの面部分で形成されるけれども、これに限定されず、図14に示す冷却体4のように、3つ以上の複数の面部分で形成されてもよい。
図14は、本発明の実施の第6形態である冷却体4の構成を簡略化して示す斜視図である。図14(a)は冷却体4を冷却体浸漬手段13に保持される側から見て示す斜視図であり、図14(b)は冷却体4を溶湯18に臨む側から見て示す斜視図である。図15は、図14に示す冷却体4を基体部45の厚み方向29に垂直な基準方向39から見て示す側面図である。本実施の形態の冷却体4は、実施の第5形態の冷却体3に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
冷却体4において、基体部45の溶湯18を臨む一方の表面部45aは、基準方向39に垂直であって厚み方向29に平行な仮想平面における断面形状が直線状になるように平面状に形成される、3つの面部分47a,47b,47cを有するように形成されている。隣合う2つの面部分、すなわち第1傾斜部47aと平面部47bおよび平面部47bと第2傾斜部47cは、それぞれ厚み方向29に垂直な仮想平面40に対する傾斜角度が互いに異なるように形成されている。
本実施の形態では、3つの面部分47a,47b,47cのうち、冷却体4の中央部に位置する面部分47bは、厚み方向29に垂直な仮想平面40に対する傾斜角度が略0°であり、前記仮想平面40に対して平行な平行平面部47bとして形成される。残余の2つの平面部47a,47cは、厚み方向29に垂直な仮想平面40に対して傾斜する第1傾斜部47aおよび第2傾斜部47cとして形成される。なお、冷却体4の中央部に位置する平行平面部47bは、厚み方向29に垂直な仮想平面40に対して傾斜する傾斜部として形成されてもよい。
図1に示す析出板製造装置10において、冷却体4は、冷却体3と同様に、基体部45の一方の表面部45aを構成する各面部分47a,47b,47cの交線である2本の分割線46a,46bが冷却体浸漬手段13の搬送方向37に平行になるように冷却体浸漬手段13に保持され、かつ冷却体4の中央部の平行平面部47bが坩堝19に収容される溶湯18の表面高さが極大の部分を通過するように保持されて溶湯18に浸漬される。
冷却体4において、基体部45の一方の表面部45aは、第1傾斜部47a、平行平面部47bおよび第2傾斜部47cの面積が、それぞれ、作製しようとする析出板30の面積に略等しくなるように形成される。すなわち、基体部45の一方の表面部45aの面積は、析出板30の面積の約3倍に選択される。このような冷却体4を用いることによって、溶湯18への一回の浸漬動作で3枚の析出板30を生産することができる。また、坩堝19に収容される溶湯18の表面形状などに応じて、各面部分47a,47b,47cの厚み方向29に垂直な仮想平面40に対する傾斜角度を適宜選択することによって、均一な厚みの析出板30を得ることができる。
このように、基体部の溶湯を臨む一方の表面部が、複数本の分割線で分割された3つ以上の面部分で形成された冷却体を用いることによって、溶湯への一度の浸漬操作で3枚以上の複数枚の析出板を製造することができるので、生産性を大幅に向上させることができる。
複数枚の析出板を一度の浸漬操作で製造する場合、冷却体には、基体部の溶湯を臨む一方の表面部が、作製しようとする析出板の枚数と同数の面部分で形成される冷却体を用いればよい。基体部の他方の表面部に対する各面部分の傾斜角度は、たとえば、予め冷却体を溶湯に浸漬して析出板を作製する浸漬試験を実施し、そのとき形成される析出板の厚みから溶湯の表面温度分布および表面高さ分布を分析し、それによって得られる結果に応じて適宜設定すればよい。