以下、本発明による磁気センサの各実施形態について図面を参照しながら説明する。概略平面図である図1に示した第1実施形態に係る磁気センサ10は、例えばSiO2/Si、ガラス又は石英からなり、互いに直交するX軸、及びY軸に沿った辺を有する略正方形で、同X軸及び同Y軸に直交するZ軸の方向に厚みを有する基板10aと、2個の薄膜状の磁気トンネル効果素子(群)11,12と、磁気トンネル効果素子11,12に外部磁界検出(測定)用のバイアス磁界をそれぞれ付与するため、同磁気トンネル効果素子(群)11,12の各々の下方(基板10a側、即ちZ軸負方向側)であって前記薄膜の膜平面と平行な面(即ち、X−Y平面)内に形成されたバイアス磁界用コイル21,22とを備えている。
磁気トンネル効果素子(群)11,12、及びバイアス磁界用コイル21,22は、基板10aに対して配設された位置、及び向きを除き、互いに同一構造を有している。従って、以下においては、図2〜図5を参照して、磁気トンネル効果素子(群)11、及びバイアス磁界用コイル21を代表例として説明する。
図2は、磁気トンネル効果素子(群)11とバイアス磁界用コイル21の形状及び相対位置を示した部分拡大平面図である。この図においては、磁気トンネル効果素子11の後述する上部電極、層間絶縁層等は省略されている。また、図3、及び図4は、図2の1−1線に沿った平面、及び2−2線に沿った平面で磁気トンネル効果素子11及びバイアス磁界用コイル21をそれぞれ切断した断面図である。
磁気トンネル効果素子11は、前記基板10aの上に形成された第1絶縁層10bと、同第1絶縁層10bの上に形成された第2絶縁層10cとを備えている。第1絶縁層10bにはバイアス磁界用コイル21の両端部にそれぞれ接続されたAl(アルミニウム)からなる引き出し線21a,21bが埋設され、第2絶縁層10cにはAlからなるバイアス磁界用コイル21が埋設されている。
第2絶縁層10cの上には、平面形状がX軸及びY軸に沿った辺を有する長方形でZ軸方向に厚みを有する下部電極11aが形成されている。下部電極11aは、導電性非磁性金属材料であるTa(Cr,Tiでも良い。)により膜厚30nm程度に形成されている。下部電極11aの上には、同下部電極11aと同一平面形状を有し、膜厚15nm程度のPtMnからなる反強磁性膜11bが形成されている。
反強磁性膜11bの上には、図4に示したように、膜厚20nm程度のNiFeからなる一対の強磁性膜11c,11cがX軸方向において間隔を隔てて積層されている。この強磁性膜11c,11cの各々は、平面形状がX軸、及びY軸にそれぞれ沿った短辺、及び長辺を有する長方形で、Z軸方向に厚みを有する薄膜であって、各長辺が互いに平行に対向するように配置されている。強磁性膜11c,11cは、反強磁性膜11bにより磁化の向きが短辺方向(X軸正方向)に弱く固定(ピン)されたピンド層を構成している。即ち、強磁性膜11c,11cと、反強磁性膜11bは、一般には固着層と呼ばれる層を形成し、本実施形態においてはセンス層とも称呼される。
各強磁性膜11cの上には、同強磁性膜11cと同一平面形状を有する絶縁層11dがそれぞれ形成されている。この絶縁層11dは、絶縁材料であるAl2O3(Al−O)からなり、その膜厚は1nm程度となるように形成されている。
各絶縁層11dの上には、同絶縁層11dと同一平面形状を有し、膜厚80nm程度のNiFeからなる強磁性膜11eがそれぞれ形成されている。この強磁性膜11eは、その磁化の向きが外部磁界の向きに応じて変化するフリー層(自由磁化層)を構成していて、前記強磁性膜11cからなるピンド層と前記絶縁層11dとともに磁気トンネル接合構造を形成している。即ち、反強磁性膜11b、強磁性膜11c、絶縁層11d、及び強磁性膜11eにより、一つの磁気トンネル効果素子(電極等を除く)が構成される。なお、本実施形態において、強磁性膜11eは参照層とも称呼される。
各強磁性膜11eの上には、同各強磁性膜11eと同一平面形状のダミー膜11fがそれぞれ形成されている。このダミー膜11fは、膜厚40nm程度のTa膜からなる導電性非磁性金属材料により構成されている。
第2絶縁層10c、下部電極11a、反強磁性膜11b、強磁性膜11c、絶縁層11d、強磁性膜11e、及びダミー膜11fを覆う領域には、層間絶縁層10dが設けられている。層間絶縁層10dはSiO2からなり、その膜厚は250nm程度である。
この層間絶縁層10dには、各ダミー膜11f上においてコンタクトホール10d1,10d1がそれぞれ形成されている。このコンタクトホール10d1を埋設するとともに、一対のダミー膜11f,11fの各々を図示しないIC回路に電気的に接続するように、例えば膜厚300nmのAlからなる上部電極11g,11gが形成されている。このように、下部電極11aと、上部電極11g,11gとにより、一対の磁気トンネル接合構造の各強磁性膜11e,11eと各強磁性膜11c,11cとを電気的に接続することで、ピンド層の磁化の向きが同一であって、且つ、複数の(一対の)磁気トンネル接合構造を直列に接続した磁気トンネル効果素子(群)11が形成される。なお、上部電極11g,11gの上にはSiO及びSiNからなる保護膜10eが形成されている。
前述したバイアス磁界用コイル21は、上記磁気トンネル効果素子(群)11に対し、Y軸方向に沿って変化する交流のバイアス磁界を付与するためのものであって、図2に示したように、直線状の導線がX−Y平面内(磁気トンネル効果素子11の各薄膜のなす平面と平行な面内)で直角に折れ曲がりながら、平面視で(「平面視で」とはZ軸方向の位置からZ軸に沿って磁気センサを見ての意味であり、以下同様である。)互いに略同一形状の一対の渦巻を形成している。即ち、バイアス磁界用コイル21は、平面視で反時計周り(時計周りであってもよい。)に回転するにしたがって渦中心P1からの径が次第に大きくなる渦巻を形成する第1の導線(第1コイル部)21−1と、平面視で反時計周りに回転するにしたがって渦中心P2からの径が次第に大きくなる渦巻を形成する第2の導線(第2コイル部)21−2とからなっている。以下、このコイル21を、従来のコイル(シングルスパイラル型のコイル)と区別するため、ダブルスパイラル型のコイルと称呼することもある。
また、前記磁気トンネル効果素子11は、平面視で前記第1の導線21−1の渦中心P1と前記第2の導線21−2の渦中心P2との間に配置されている。そして、バイアス磁界用コイル21は、前記リード部21a,21bに所定の電位差が付与されたとき、平面視で少なくとも磁気トンネル効果素子11と重なる部分に位置する(同部分を通過する)各導線に同一方向の電流が流れるように、第1の導線21−1と第2の導線21−2の各最外周部がS字状に接続されることにより構成されている。
ここで、以上のように構成された磁気トンネル効果素子11の作用(磁界検出原理)について説明する。上述したように、センス層の強磁性膜11cは、その磁化が短辺方向(X軸正方向)に弱くピンされている。この強磁性膜11cに対し同強磁性膜11cの長辺に沿った方向(即ち、Y軸方向であり、ピンされた磁化の向きと直交する方向)内で大きさ及び向きが変化する磁場を付与すると、センス層(強磁性膜11c)の磁化の向きは徐々に変化(回転)し、同磁場の変化方向における同センス層の磁化は図5に示したように変化する。即ち、センス層の磁化(の大きさ)は、前記磁場の大きさが飽和磁界H1より大きい場合及び飽和磁界H2より小さい場合に略一定となるとともに、同磁場が飽和磁界H2〜H1の範囲内の場合に同磁場の大きさ略比例して(略直線的)に変化する。
一方、参照層の強磁性膜11eに前述した磁場(Y軸方向内で大きさ及び向きが変化する磁場)を付与すると、同磁場の変化方向における同参照層の磁化は図6に示したように変化する。即ち、参照層の磁化(の大きさ)は、前記磁場の大きさが飽和磁界H3より大きい場合及び飽和磁界H4より小さい場合に略一定となるとともに、同磁場の大きさが飽和磁界H3,H4に一致するとステップ状に変化するようになっている。この参照層の磁化特性は、長手方向に磁化の向きが揃う強磁性膜11eの形状異方性によるものである。
この結果、磁気トンネル効果素子11の抵抗Rは、図7に示したように変化する。図7において、実線は前記磁場が負から正に変化する際の抵抗値変化を示し、破線は同磁場が正から負に変化する際の抵抗値変化を示している。図7から明らかなように、抵抗値は磁場に対して偶関数(磁場をx軸にとり抵抗を同x軸に直交するy軸にとると、y軸について線対称)となっている。
そして、本磁気センサ10においては、前記コイル21を使用して、上記磁気トンネル効果素子11に対し、Y軸方向(強磁性膜11eの長辺方向)内で図8に示すように三角波状に変化する交流バイアス磁界HACを付与する。この交流バイアス磁界HACは、周期4Tにて最大値Hmax(=Ha>0)と同最大値Hmaxの絶対値の符号を反転した値(=-Ha)に等しい最小値Hminとの間を直線的に変化(スイープ)する磁界である。また、この交流バイアス磁界HACの最大値Hmaxは、参照層の飽和磁界H3より大きく、センス層の飽和磁場H1より小さいものとする。同様に、交流バイアス磁界の最小値Hminは、参照層の飽和磁界H4より小さく、センス層の飽和磁場H2より大きいものとする。
このような交流バイアス磁界HACを上記磁気トンネル効果素子11に付与するとともに、同交流バイアス磁界HACと平行な方向内において検出すべき外部磁界hを変化させると、同磁気トンネル効果素子11の抵抗Rは図9に示すように変化する。図9において、一点鎖線Aは検出すべき外部磁界hが「0」の場合、実線Bは同外部磁界hが正の所定値の場合、及び破線Cは同外部磁界hが負の所定値の場合における抵抗Rをそれぞれ示している。
一方、磁気センサ10は、磁気トンネル効果素子11の抵抗Rが所定の閾値Thを上から下へ横切った第1時点から次に同抵抗Rが同閾値Thを上から下へ横切る第2時点までの時間x(又はx1,x2)と、同第2時点から更に同抵抗Rが同閾値Thを上から下へ横切る第3時点までの時間y(又はy1,y2)とを計測し、下記数1により示される検出値Dを出力する図示しないIC回路を備えている。
D=y/(x+y) …数1
この検出値(デューティ)Dは、図10に示したように、検出すべき外部磁界h(の大きさ)に比例するとともに交流バイアス磁界HACの最大値Haに依存して変化する。その一方、同検出値Dは、磁気トンネル効果素子11の出力特性変化には依存しない。従って、磁気トンネル効果素子11は、素子温度変化や経時変化により同磁気トンネル効果素子(群)11の出力特性が変化した場合であっても、これを補償し、極めて微小なY軸方向の磁場を精度良く検出し得るものとなっている。なお、上記時間x(又はx1,x2)は、抵抗Rが所定の閾値Thを下から上へ横切った第1時点から次に同抵抗Rが同閾値Thを下から上へ横切る第2時点までの時間とし、時間y(又はy1,y2)は同第2時点から更に同抵抗Rが同閾値Thを下から上へ横切る第3時点までの時間としてもよい。また検出値DはD=x/(x+y)としてもよい。
再び、図1を参照すると、バイアス磁界用コイル21は、図示しない制御回路に接続され、磁気トンネル効果素子11に上記交流バイアス磁界HACを付与するようになっている。一方、磁気トンネル効果素子12は、上記磁気トンネル効果素子11を90°だけ左回りに回転させた状態で基板10aに形成されたものと同じである。また、バイアス磁界用コイル22は、図示しない制御回路に接続され、磁気トンネル効果素子12にX軸方向内において変化する上記交流バイアス磁界HACを付与するようになっている。この結果、磁気トンネル効果素子11,12は、それぞれY軸方向の磁場を検出するY軸磁気センサ、及びX軸方向の磁場を検出するX軸磁気センサを構成する。
ところで、上記コイル21,22の各々は、平面視で一対の渦巻を形成したダブルスパイラル型のコイルであるので、その占有面積が小さく、且つ消費電力が小さい。以下、この点について、図2に示したコイル21と、図33に示した従来型のコイル110と比較しながら説明する。なお、比較を容易にするため、図2、及び図33においては、各コイルを形成する導線の幅、及び隣接する導線間のスペースの幅を、それぞれ互いに同一とするとともに、磁気トンネル効果素子11,100の各直下部(平面視で各磁気トンネル効果素子11,100と重なる部分)に9本の導線が通過するものを例示した。
先ず、占有面積について検討すると、コイル21は、バイアス磁界の発生に直接寄与する導線部分(磁気トンネル効果素子11の直下を通過する導線の部分)の全体に占める割合が大きいので、コイル110よりも明らかに小型であることが理解できる。実際に、導線の幅を5.6μm、隣接する導線間のスペースの幅を0.7μm、磁気トンネル効果素子11,100の大きさを120×64μm2として、図33に示した従来形状のコイル110を作成すると、同コイル110の面積は282×332μm2となったのに対し、図2に示したダブルスパイラル型のコイル21を作成すると、その面積は191×286μm2となった。
次に、バイアス磁界用コイルを、従来のコイル110のようにシングルスパイラル型とした場合と、コイル21のようにダブルスパイラル型とした場合であって、磁気トンネル効果素子11,100の各大きさを共に60×120μm2とし、その領域に15Oeのバイアス磁界を発生させたときの各コイルの電気的数値を調べた。その結果を表1に示す。
表1において、パターンA〜Dは従来のシングルスパイラル型コイルであり、パターンE,Fは本願発明に係るダブルスパイラル型コイルである。また、表1における「a」は、図2及び図33に示したように、磁気トンネル効果素子11,100の各直下部を通過する導線(バイアス磁界発生に直接的に寄与する導線)の幅、「b」は磁気トンネル効果素子11,100の各長辺に平行に延びる導線の幅(即ち、磁気トンネル効果素子11,100のX軸方向両側における導線の幅)、「c」は磁気トンネル効果素子11,100の直下部でなく、且つ同磁気トンネル効果素子11,100の短辺に平行に延びる導線の幅、「N」は渦の巻き数、「R」は各コイルの抵抗、「I」は各コイルの電流、「V」は各コイルの両端電圧、及び「W」は各コイルの消費電力である。また、各コイルの何れの部位においても、隣接する導線間のスペースの幅は0.7μmとした。
表1に示した各数値の求め方について簡単に述べると、先ず、コイルの上部に1Oeの磁界を発生させるために、同コイルを構成する導線の単位幅あたりに必要な電流i(即ち、電流密度)を求める。そして、電流iと、コイルの導線幅aと隣接する導線間のスペースの幅の和(a+0.7)μmとを考慮することにより、下記数2にしたがってコイルの上部に15Oeの磁界を発生させるために必要な電流Iを求める。
I=i・15・(a+0.7) …数2
一方、コイルのターン数Nは、素子の長辺の長さ(120μm)をコイルの導線幅と隣接する導線間のスペースの幅の和(a+0.7)μmで除することにより求められる。これにより、コイルの形状が決まるので、同コイルの全長と、コイルに用いる材料(この場合はAl)のシート抵抗値と、コイルの各部の導線幅「a」,「b」,「c」とから抵抗Rが求められ、従って、電流Iと抵抗Rとから、電圧V、及び消費電力Wが求められる。
表1から解るように、導線幅a〜cを総べて同一とした場合、パターンA〜Dに示した従来のシングルスパイラル型コイルは、導線幅a〜cを大きくするに従って、電流Iは大きくなり、巻き数N及び電圧Vは小さくなる。消費電力Wは、導線幅a〜cの各々が約4μmのとき最小値をとる(パターンCを参照)。
これに対し、パターンEに示した本発明によるダブルスパイラル型コイルは、抵抗R、両端電圧V、及び消費電力Wを従来のコイルに比べ非常に小さくすることができる。例えば、パターンDとパターンEとの比較から理解できるように、パターンEのコイルは、その消費電力をパターンDの従来のコイルの約半分程度にまで低下できる。パターンEのコイルは、消費電力Wが最小値近傍のパターンCのコイルと比べても、その消費電力Wを相当量小さくすることができる。
また、表1から解るように、本発明によるコイルは両端電圧Vを小さくすることができる。従って、本発明によるコイルは、電源電圧が低い場合であっても必要な大きさの磁界を発生することができる。加えて、パターンEとパターンFとの比較から理解できるように、本発明のコイルにおいて素子の直下部に位置していない部分の導線幅b,cを調整することにより、即ち、前記磁気抵抗効果素子である磁気トンネル効果素子11と平面視で重なる部分に位置する前記第1及び前記第2の導線の各幅aは互いに等しく、且つ、他の部分に位置する同第1及び同第2の導線の各幅b,cと異なるように形成することにより、消費電力Wを更に低下させることができる。
以上に説明したように、第1実施形態によれば、センス層と参照層とを有するTMR素子にバイアス磁界を付与して外部磁場を検出するように構成したことにより、検出特性変化の小さい磁気センサが得られる。また、第1実施形態によれば、コイルがダブルスパイラル型であるので、小型で低消費電力の磁気センサが提供される。なお、上記磁気センサ10の各磁気トンネル効果素子(群)11,21は、それぞれ一対の磁気トンネル効果素子を直列に接続したものであったが、更に多くの磁気トンネル効果素子を直列に接続したものであってもよい。
次に、本発明による磁気センサの第2実施形態について説明すると、上記第1実施形態の磁気センサはTMR素子を採用していたのに対し、第2実施形態の磁気センサはピンド層を含むピン層、スペーサ層、及びフリー層からなるGMR素子(巨大磁気抵抗効果素子)を採用している点で相違する。また、第1実施形態のコイル21,22は外部磁界を検出するためのバイアス磁界を発生するものであったが、第2実施形態のコイルはGMR素子のフリー層の磁化の向きを初期化するための初期化用磁界を発生する点で相違する。
より具体的に述べると、図11に示したように、第2実施形態に係る磁気センサ30は、互いに直交するX軸、及びY軸に沿った辺を有する長方形状(略正方形状)であって、X軸、及びY軸に直交するZ軸方向に小さな厚みを有する石英ガラスからなる基板30aと、同基板30aの上に形成された合計で8個のGMR素子31〜38と、GMR素子31〜38のそれぞれに初期化用磁界を付与するための初期化用コイル41〜48と、各コイル41〜48にそれぞれ接続されるとともに、同コイル41〜48の各々の両端に所定の電位差を付与する制御回路51〜58とを備えている。
第1X軸GMR素子31は、基板30aのY軸方向略中央部下方でX軸負方向端部近傍に形成されていて、ピンド層のピンされた磁化の向きはX軸負方向となっている。第2X軸GMR素子32は、基板30aのY軸方向略中央部上方でX軸負方向端部近傍に形成されていて、ピンド層のピンされた磁化の向きはX軸負方向となっている。第3X軸GMR素子33は、基板30aのY軸方向略中央部上方でX軸正方向端部近傍に形成されていて、ピンド層のピンされた磁化の向きはX軸正方向となっている。第4X軸GMR素子34は、基板30aのY軸方向略中央部下方でX軸正方向端部近傍に形成されていて、ピンド層のピンされた磁化の向きはX軸正方向となっている。
第1Y軸GMR素子35は、基板30aのX軸方向略中央部左方でY軸正方向端部近傍に形成されていて、ピンド層のピンされた磁化の向きはY軸正方向となっている。第2Y軸GMR素子36は、基板30aのX軸方向略中央部右方でY軸正方向端部近傍に形成されていて、ピンド層のピンされた磁化の向きはY軸正方向となっている。第3Y軸GMR素子37は、基板30aのX軸方向略中央部右方でY軸負方向端部近傍に形成されていて、ピンド層のピンされた磁化の向きはY軸負方向となっている。第4Y軸GMR素子38は、基板30aのX軸方向略中央部左方でY軸負方向端部近傍に形成されていて、ピンド層のピンされた磁化の向きはY軸負方向となっている。
GMR素子31〜38、及びコイル41〜48は、基板30aに対して配設された位置、及び向きを除き、互いに同一構造を有している。従って、以下においては、第1X軸GMR素子31、及びコイル41を代表例として説明する。
図12にコイル41とともに平面図を示した第1X軸GMR素子31は、拡大平面図である図13、及び、図12の3−3線に沿った平面にて第1X軸GMR素子31及びコイル41を切断した概略断面図である図14に示したように、スピンバルブ膜SVからなりY軸方向に長手方向を有する複数の幅狭帯状部31a…31aと、各幅狭帯状部31aのY軸方向両端部の下方に形成されたCoCrPt等の硬質強磁性体であって、高保磁力、高角型比を有する材質からなるバイアス磁石膜(硬質強磁性体薄膜層)31b…31bとを備えている。各幅狭帯状部31aは、各バイアス磁石膜31bの上面にてX軸方向に伸び、隣接する幅狭帯状部31aと接合している。
第1X軸GMR素子31のスピンバルブ膜SVは、図15に膜構成を示したように、基板30aの上に順に積層されたフリー層(自由層、自由磁化層)F、膜厚が2.4nm(24Å)のCuからなる導電性のスペーサ層S、ピン層(固着層、固定磁化層)P、及び膜厚が2.5nm(25Å)のチタン(Ti)又はタンタル(Ta)からなるキャッピング層Cを含んで構成されている。
フリー層Fは、外部磁界の向きに応じて磁化の向きが変化する層であり、基板30aの直上に形成された膜厚が8nm(80Å)のCoZrNbアモルファス磁性層31−1と、CoZrNbアモルファス磁性層31−1の上に形成された膜厚が3.3nm(33Å)のNiFe磁性層31−2と、NiFe磁性層31−2の上に形成された1〜3nm(10〜30Å)程度の膜厚のCoFe層31−3とからなっている。CoZrNbアモルファス磁性層31−1とNiFe磁性層31−2は軟質強磁性体薄膜層を構成している。CoFe層31−3はNiFe層31−2のNi、及びスペーサ層SのCu31−4の拡散を防止するものである。なお、前述したバイアス磁石膜31b…31bは、フリー層Fの一軸異方性を維持するため、同フリー層Fに対してY軸方向(図12、及び図13の幅広矢印にて示したY軸負方向)にバイアス磁界を与えている。
ピン層Pは、膜厚が2.2nm(22Å)のCoFe磁性層31−5と、Ptを45〜55mol%含むPtMn合金から形成した膜厚が24nm(240Å)の反強磁性膜31−6とを重ね合わせたものである。CoFe磁性層31−5は、着磁(磁化)された反強磁性膜31−6に交換結合的に裏打されることにより、前述したように、磁化の向きがX軸負方向にピン(固着)されている。
このように構成された第1X軸GMR素子31は、図16の実線にて示したように、X軸に沿って変化する外部磁界に対し、−Hc〜+Hcの範囲において、同外部磁界に略比例して変化する抵抗値を呈し、図16の破線にて示したように、Y軸に沿って変化する外部磁界に対しては略一定の抵抗値を呈する。
この磁気センサ30においては、図17に示したように、第1〜第4X軸GMR素子31〜34がフルブリッヂ接続されることによりX軸方向の磁界を検出するX軸磁気センサが構成される。図17において、各GMR素子31〜34の中に付した矢印は同GMR素子31〜34のピン層(ピンド層)のピンされた磁化の向きを示している。このような構成において、第2X軸GMR素子32と第3X軸GMR素子33との結合点Vaと、第1X軸GMR素子31と第4X軸GMR素子34との結合点Vbの間に一定の電位差が付与され、第1X軸GMR素子31と第3X軸GMR素子33との結合点Vcと、第2X軸GMR素子32と第4X軸GMR素子34との結合点Vdとの間の電位差(Vc−Vd)がセンサ出力Voutとして取り出される。
この結果、X軸磁気センサは、図18の実線にて示したように、X軸に沿って変化する外部磁界に対し、−Hc〜+Hcの範囲において、同外部磁界に略比例して変化する出力電圧Vxoutを示し、同図18の破線にて示したように、Y軸に沿って変化する外部磁界に対しては略「0」の出力電圧を示す。
Y軸磁気センサは、X軸磁気センサと同様に、第1〜第4Y軸GMR素子35〜39がフルブリッヂ接続されることにより構成され、Y軸に沿って変化する外部磁界に対し、−Hc〜+Hcの範囲において、同外部磁界に略比例して変化する出力電圧Vyoutを示すとともに、X軸に沿って変化する外部磁界に対しては略「0」の出力電圧を示す。以上説明したように、磁気センサ30は、磁気センサ10のように外部磁界を検出するための交流バイアス磁界HAC等を必要とすることなく、外部磁界を検出することができる。
その一方、図12、及び図13に示したように、幅狭帯状部31aのフリー層Fにはバイアス磁石膜31b…31bから幅広矢印で示した向きのバイアス磁界が与えられ、これにより、外部磁界が加わらない状態においてフリー層Fの磁化の向きが一定となるように設計されている。しかしながら、強い外部磁界が加わると、フリー層Fはバイアス磁石膜31b…31bから離間した位置(図12,図13においてY軸方向中央部近傍)において磁化の向きが反転することがあり、その結果、GMR素子の特性が変化してしまう。
そこで、本実施形態においては、上述したコイル41〜48により、フリー層Fの磁化の向きを初期化するためのバイアス磁界を付与するようになっている。以下、この点につき、第1X軸GMR素子31とコイル41を代表例として詳述する。コイル41は、図12に示したように、上記第1実施形態のバイアス磁界用コイル21と同様な構成を有するダブルスパイラル型のコイルであって、一対の渦巻を形成する導線(即ち、第1の導線41−1,第2の導線41−2)からなっている。また、第1X軸GMR素子31は、平面視で(Z軸正方向からみて)一対の渦中心P1,P2の間に配置されている。更に、同平面視で第1X軸GMR素子31と重なる部分(第1X軸GMR素子31の直下を通過する部分)の第1の導線41−1及び第2の導線41−2の部分は、互いに平行な直線状であって、この部分の各導線には同一方向の電流が流れ、しかも、同部分の各導線の長手方向は平面視で幅狭帯状部31aの長手方向と直交している。また、図11に示した制御回路51は、外部磁界の測定開始前等の所定の条件下において、コイル41の両端に電位差を付与し、これによりコイル41に所定の電流を流すようになっている。
即ち、この実施形態の磁気センサは、GMR素子及びTMR素子等のフリー層とピン層とを含む磁気抵抗効果素子を含んでなる磁気センサであって、外部磁界が加わらない状態におけるフリー層の磁化の向きを安定化させるために同フリー層の両端に配設されるとともに同フリー層に所定の向き(ピン層のピンされた磁化の向きと直交する向き)のバイアス磁界を発生させるバイアス磁石31b…31bと、同フリー層の下方に(同フリー層に近接して)設けられ所定条件下(例えば、磁気検出開始前等)での通電により前記バイアス磁界と同一方向の磁界を発生するとともに同磁界を同フリー層に加える初期化用コイル41〜48を備えた磁気センサである。
以上の構成により、コイル41は所定条件下にてフリー層Fの磁化の向きを設計された向き(バイアス磁石膜31b…31bによるバイアス磁界の向き)に戻すための初期化用磁界を発生させるので、強い磁界が磁気センサに加わる等の何らかの理由によりフリー層Fの磁化の向きが乱された場合であっても(即ち、磁区が不安定となった場合であっても)、これを修正することができ、信頼性の高い磁気センサが提供される。
このように、第2実施形態においては、フリー層Fの磁化の向きを初期化することができるので、GMR素子の特性を初期の特性に維持することが可能となる。また、各コイル41〜48はダブルスパイラル型のコイルであるから、同コイルの占有面積が小さいことにより磁気センサ30を小型化することができるとともに、初期化のための消費電力を低下することが可能となる。また、第2実施形態においては、各コイル41〜48に対し、初期化用磁界を発生させるための電流を流す制御回路51〜58がそれぞれ設けられている。従って、各コイル41〜48を直列に接続して一つの制御回路により電流を流すように構成した場合に比較して、電気的接続経路の全長を短くできるので、全体の抵抗値が低下できて消費電力を抑制することができる。
次に、本発明による磁気センサの第3実施形態について説明する。図19は、第3実施形態に係る磁気センサ60の平面図であり、この磁気センサ60は上記第2実施形態に係る磁気センサ30に対し、コイル71〜78の向きと、同コイル71〜78間の接続方法が異なっている。また、磁気センサ30のコイル41〜48は初期化用磁界を発生させるものであったのに対し、磁気センサ60のコイル71〜78は各GMR素子が正常に機能する(外部磁界を正常に検出する)か否かを判定するためのテスト用磁界を発生させる点で相違している。
具体的に述べると、磁気センサ60は基板60a上に8個のGMR素子61〜68と、各GMR素子61〜68の下方であってGMR素子61〜68の各膜平面と平行な面内にそれぞれ形成された8個のコイル71〜78と、一つの制御回路79とを備えている。
GMR素子61〜68は、上記第2実施形態のGMR素子31〜38と、基板に対する位置、及び構成において同一である。即ち、GMR素子61〜64はブリッヂ接続されてX軸方向の磁界を検出するX軸磁気センサを構成し、GMR素子65〜68は同様にブリッヂ接続されてY軸方向の磁界を検出するY軸磁気センサを構成する。更に、GMR素子61〜68の各々は、図示しない検出回路(磁場検出用の制御LSI)に接続されていて、同GMR素子61〜68の呈する抵抗値が検出されるようになっている。
コイル71〜78は、上記第1実施形態のコイル21,22、及び上記第2実施形態のコイル41〜48と同様のダブルスパイラル型コイルである。コイル71〜74は、図19の幅広矢印にて示したように、各渦中心を結ぶ線分の近傍においてX軸正方向の磁界を発生させるように形成され、コイル75〜78は、各渦中心を結ぶ線分の近傍においてY軸負方向の磁界を発生させるように形成されている。また、制御回路79の一端とコイル76の一端が接続されるとともに、以下、コイル76,75,72,71,78,77,74,73の順に直列接続され、最後にコイル73のコイル74と接続されていない側の端部が制御回路79の他端に接続されている。更に、GMR素子61〜68は、第1,第2実施形態と同様に、コイル71〜78の平面視で各対応する各一対の渦中心の間に配置されている。
このような構成において、磁気センサ60による外部磁界の検出開始時等の所定の条件が成立すると、制御回路79は前記両端に電位差を発生し、これにより、各コイル71〜78に電流が流れ、同コイル71〜78によりGMR素子61〜68にテスト用の磁界がそれぞれ付与される。磁気センサ60は、図示しない前記検出回路により、この状態における各GMR素子61〜68の出力を監視し、予定した出力が検出されたか否かに基づいて同各GMR素子61〜68の異常の有無を判定する。異常有無の判定は、例えば、各GMR素子61〜68のオープン故障の有無、ショート(短絡)故障の有無、感度不足となっているか否か、及び制御用トランジスタの異常有無等について行われる。
このように、第3実施形態においては、各GMR素子61〜68の異常の有無を判定するための磁界を発生することができるので、磁気センサ60の自己診断を行うことができる。また、各コイル71〜78はダブルスパイラル型のコイルであるから、同コイルの占有面積が小さいことにより磁気センサ60の小型化が達成され得るとともに、テスト用磁界を発生するための消費電力を低下することが可能となる。更に、各コイル71〜78は直列接続されていて、一つの制御回路79により同時に電流が流されるから、同一の大きさのテスト用磁界を各GMR素子61〜68の各々に対して発生することができ、より精度良く各GMR素子61〜68の異常の有無を判定することができる。
また、前記検出回路が、各GMR素子61〜68の一つを独立して選択する機能を有している場合、同選択機能の異常有無を簡単に検出することができる。これは、テスト用磁界が総べてのGMR素子61〜68に同時に付与されるため、検出回路の選択機能が異常であると、例えばX軸方向の磁場を検出するGMR素子を選択したにもかかわらず、Y軸方向の磁場に応じた出力が得られるからである。
次に、本発明による磁気センサの第4実施形態について説明する。図20は、第4実施形態に係る磁気センサ80の平面図であり、この磁気センサ80は基板80aの上に形成された2個のTMR素子81,82と、各TMR素子81,82の下方の基板80a内であって同TMR素子81,82の各膜平面と平行な面内にそれぞれ形成された2個の検査用(テスト用)コイル91,92とを備えている。また、磁気センサ80は、基板80aの上にそれぞれ形成された、検出回路93、電流供給回路94、及び制御回路95を備えている。
第1磁気検出部(X軸磁気検出部)を構成するTMR素子81は、第1実施形態において説明したTMR素子と同様の膜構造を備えている(図3,図4を参照。)。但し、TMR素子81のピンド層は磁化の向きがX軸負方向に強く固定(ピン)されていて、検出しようとする外部磁界に対して同磁化の向きが変化しないようになっている。また、TMR素子81のフリー層は検出しようとする磁界のX軸方向成分の向きと大きさにしたがって磁化の向きと大きさが直線的に変化するようになっている。
この結果、TMR素子81は、図20において白抜きの矢印にて示した検出方向を有する。即ち、TMR素子81は、図21に示したように、第1の方向(即ち、X軸方向)内の第1の向き(即ち、X軸正方向)の磁界の大きさが所定値となるまでの範囲内で大きくなるほど大きい物理量である抵抗値を示すとともに、同第1の方向内の同第1の向きと反対の向き(即ち、X軸負方向)の磁界の大きさが所定値となるまでの範囲内で大きくなるほど小さい物理量である抵抗値を示すようになっている。
また、TMR素子81は、その特性が正常であれば、第1の検査用コイル91から前記第1の方向内の第1の向き(即ち、X軸正方向)に所定の大きさHbの磁界が加えられたときに第1の大きさの抵抗値Sx1を示し、第1の検査用コイル91から磁界が加えられないとき抵抗値Sx2を示し、第1の検査用コイル91から前記第1の方向内の第1の向きと反対の向き(即ち、X軸負方向)に前記所定の大きさHbの磁界が加えられたとき第2の大きさの抵抗値Sx3を示すようになっている。
第2磁気検出部(Y軸磁気検出部)を構成するTMR素子82は、TMR素子81と同様な膜構造を備え、TMR素子82のピンド層は磁化の向きがY軸負方向に強く固定(ピン)されていて、検出しようとする外部磁界に対して同磁化の向きが変化しないようになっている。また、TMR素子82のフリー層は検出しようとする磁界のY軸方向成分の向きと大きさにしたがって磁化の向きと大きさが直線的に変化するようになっている。
この結果、TMR素子82は、図20において白抜きの矢印にて示した検出方向を有する。即ち、TMR素子82は、図22に示したように、前記第1の方向(即ち、X軸方向)と交差する(この場合は、直交する)第2の方向(即ち、Y軸方向)内の第2の向き(即ち、Y軸正方向)の磁界の大きさが所定値となるまでの範囲内で大きくなるほど大きい物理量である抵抗値を示すとともに、同第2の方向内の同第2の向きと反対の向き(即ち、Y軸負方向)の磁界の大きさが所定値となるまでの範囲内で大きくなるほど小さい物理量である抵抗値を示すようになっている。
また、TMR素子82は、その特性が正常であれば、第2の検査用コイル92から前記第2の方向内の第2の向き(即ち、Y軸正方向)に所定の大きさHbの磁界が加えられたときに第1の大きさの前記物理量である抵抗値Sx1と同じ大きさの抵抗値Sy1を示し、第2の検査用コイル92から磁界が加えられないとき抵抗値Sx2と同じ大きさの抵抗値Sy2を示し、第2の検査用コイル92から前記第2の方向内の第2の向きと反対の向き(即ち、Y軸負方向)に前記所定の大きさHbの磁界が加えられたとき第2の大きさの前記物理量である抵抗値Sx3と同じ大きさの抵抗値Sy3を示すようになっている。
第1の検査用コイル91は、磁気センサ10のコイル22と同様に形成されたダブルスパイラル型のコイルであって、その一端が接続導線96aを介して電流供給回路94の一の端子P1に接続されるとともに、その他端が接続導線96bを介して第2の検査用コイル92の一の端子と接続されていて、TMR素子81にX軸方向において向き及び大きさが変化する磁界を加えるようになっている。第2の検査用コイル92は、磁気センサ10のコイル22と同様に形成されたダブルスパイラル型のコイルであって、その他端が接続導線96cを介して電流供給回路94の他の端子P2と接続されていて、TMR素子82にY軸方向において向き及び大きさが変化する磁界を加えるようになっている。
このように、第1の検査用コイル91及び第2の検査用コイル92は、電流供給回路94に対して接続導線96a〜96cを介して直列に接続されているから、第1の検査用コイル91及び第2の検査用コイル92には大きさが同一の電流が流れるようになっている。また、図20において黒塗りの矢印にて示したように、第1の検査用コイル91に所定の向きで所定の大きさの電流が流されたとき、同第1の検査用コイル91はX軸正方向で所定の大きさHbの磁界をTMR素子81に加え、第2の検査用コイル92はY軸負方向で同所定の大きさHbの磁界をTMR素子82に加えるとともに、第1の検査用コイル91に同所定の向きとは反対の向きで同所定の大きさの電流が流されたとき、同第1の検査用コイル91はX軸負方向で同所定の大きさHbの磁界をTMR素子81に加え、同第2の検査用コイル92はY軸正方向で同所定の大きさHbの磁界をTMR素子82に加えるように構成されている。
検出回路93は、TMR素子81又はTMR素子82の何れかを選択し、同選択されたTMR素子の抵抗値をデジタル値として検出し、同検出したデジタル値を制御回路95に出力するための回路であって、1チャンネルのアナログ−デジタルコンバータ93a(以下「ADC93a」と称呼する。)と、実際にはトランジスタからなるスイッチング素子93bとを備えている。
ADC93aの一つの入力端子はTMR素子81及びTMR素子82の両素子の各一端に接続され、他の一つの入力端子はスイッチング素子93bの固定端子に接続されている。スイッチング素子93bは制御回路95から指示信号が入力されるとともに、同指示信号に応じて、固定端子をTMR素子81の他端又はTMR素子82の他端と接続し、これにより、ADC93aがその出力である抵抗値をAD変換する素子を選択するようになっている。
電流供給回路94は、スイッチング素子MS、電流方向切換回路を構成するスイッチング素子S1〜S4(スイッチング素子MSとスイッチング素子S1〜S4は通電制御回路を構成する。)、及び一定電流を供給する定電流源(電流供給源)ISを備えている。スイッチング素子MS,S1〜S4は、実際にはトランジスタであって、制御回路95からの指示信号に応じて「オン」状態(導通状態)又は「オフ」状態(非導通状態)に切り換えられるようになっている。
スイッチング素子MSは、所謂メインスイッチとして機能するもので、一端が前記定電流源ISの出力側に接続され、他端が電流方向切換回路のスイッチング素子S1,S3の各一端に接続されている。スイッチング素子S1の他端はスイッチング素子S2の一端に接続され、同スイッチング素子S2の他端は定電流源ISの他端に接続されている。同様に、スイッチング素子S3の他端はスイッチング素子S4の一端に接続され、同スイッチング素子S4の他端は定電流源ISの他端に接続されている。また、第1の検査用コイル91が接続された電流供給回路94の端子P1はスイッチング素子S3とS4の間に接続され、第2の検査用コイル92が接続された同電流供給回路94の端子P2はスイッチング素子S1とS2の間に接続されている。
制御回路95は、通常時はスイッチング素子MS、及び電流方向切換回路のスイッチング素子S1〜S4を「オフ」状態とする指示信号を同スイッチング素子MS,S1〜S4に送出するとともに、所定時間の経過毎にスイッチング素子93bに指示信号を供給し、その抵抗値がADC93aによりAD変換されるTMR素子を選択し、AD変換されたTMR素子81,82の何れか一方の抵抗値をデジタル値として取得するようになっている。
また、制御回路95は、図示しないスイッチが投入される等の所定の条件(検査条件)が成立したとき、スイッチング素子MSを「オン」状態とする指示信号を同メインスイッチMSに供給するとともに、電流方向切換回路のスイッチング素子S1,S4を「オン」状態及びスイッチング素子S3,S2を「オフ」状態とする指示信号、又は、電流方向切換回路のスイッチング素子S3,S2を「オン」状態及びスイッチング素子S1,S4を「オフ」状態とする指示信号を、同スイッチング素子S1〜S4に供給するようになっている。
次に、上記のように構成された磁気センサ80における作動について説明する。前述したように、通常時はスイッチング素子MS、及び電流方向切換回路のスイッチング素子S1〜S4が「オフ」状態とされるから、第1,第2の検査用コイル91,92は、如何なる磁界も発生しない。また、所定時間の経過毎にスイッチング素子93bが切換られるので、TMR素子81の示す抵抗値又はTMR素子82の示す抵抗値がADC93aにより交互にデジタル値に変換され(検出され)、同変換された値が制御回路による地磁気の検出等に用いられる。
次に、前記所定の条件が成立して、磁気センサ80の検査を行う際の作動について説明する。この磁気センサ80においては、TMR素子81,82の特性不良(感度不良であるか否か、ヒステリシスが過大であるか否か)の検査に加え、第1,第2のテスト用コイル91,92が予定するテスト用磁界を発生しているか否か(検出回路93や電流供給回路94が正常に機能するか否か)についても判定される。以下、かかる検査の手順について、磁気センサ80のTMR素子81,82、検出回路93、及び電流供給回路94の総べてが正常に作動する場合を例にして説明を行う。
(第1手順)
制御回路95は、先ず、メインスイッチMSを「オン」状態とする指示信号、電流方向切換回路のスイッチング素子S1,S4を「オン」状態及びスイッチング素子S3,S2を「オフ」状態とする指示信号、並びに、スイッチング素子93bにTMR素子81を選択するための指示信号を、各対応するスイッチング素子に供給する。
この場合、総べては正常に作動するから、スイッチング素子MSが「オン」状態へと切り換えられるとともに、電流方向切換回路のスイッチング素子S1,S4が「オン」状態へと切り換えられ、スイッチング素子S3,S2が「オフ」状態へと切り換えられる。これにより、定電流源ISの電流は、スイッチング素子MS、スイッチング素子S1、第2の検査用コイル92、第1の検査用コイル91、スイッチング素子S4、及び同定電流源ISの順に流れる。なお、本明細書において、かかる状態は第1,第2の検査用コイルに対する指示電流を所定の大きさの正の電流とした状態であるとも言う。
この場合、第2の検査用コイル92はY軸負方向であって大きさがHbの磁界をTMR素子82に加え、第1の検査用コイル91はX軸正方向であって大きさがHbの磁界をTMR素子81に加える。このとき、TMR素子81は抵抗値Sx1の抵抗を示し、ADC93aはTMR素子81の抵抗値をデジタル値に変換する。従って、図23(A)に示したように、制御回路95は、ADC93aから抵抗値Sx1を値X1として取得する。
(第2手順)
次に、制御回路95は、スイッチング素子MSを「オフ」状態とする指示信号を同スイッチング素子MSに供給する。この結果、スイッチング素子MSは「オン」状態から「オフ」状態へと切り換えられるので、第1の検査用コイル91、及び第2の検査用コイル92は、定電流源ISからの電流が遮断された非通電状態となる。従って、第1,第2の検査用コイル91,92は、いかなる磁界をも発生しない。
このとき、TMR素子81は抵抗値Sx2の大きさの抵抗を示し、ADC93aはTMR素子81の抵抗値をデジタル値に変換するから、図23(A)に示したように、制御回路95はADC93aから抵抗値Sx1より小さい抵抗値Sx2を値X2として取得する。
(第3手順)
次に、制御回路95は、メインスイッチMSを再び「オン」状態とする指示信号と、電流方向切換回路のスイッチング素子S1,S4を「オフ」状態及びスイッチング素子S3,S2を「オン」状態とする指示信号とを、各対応するスイッチング素子に供給する。
この結果、スイッチング素子MSが「オン」状態へと切り換えられるとともに、電流方向切換回路のスイッチング素子S1,S4が「オフ」状態へと切り換えられ、スイッチング素子S3,S2が「オン」状態へと切り換えられる。これにより、定電流源ISの電流は、スイッチング素子MS、スイッチング素子S3、第1の検査用コイル91、第2の検査用コイル92、スイッチング素子S2、及び同定電流源ISの順に流れる。なお、本明細書において、かかる状態は、第1,第2の検査用コイルに対する指示電流を所定の大きさの負の電流とした状態であるとも言う。
この結果、第1の検査用コイル91はX軸負方向であって大きさがHbの磁界をTMR素子81に加え、第2の検査用コイル92はY軸正方向であって大きさがHbの磁界をTMR素子82に加える。このとき、TMR素子81は抵抗値Sx3の大きさの抵抗を示していて、ADC93aはTMR素子81の抵抗値をデジタル値に変換するから、図23(A)に示したように、制御回路95はADC93aから抵抗値Sx3を値X3として取得する。
(第4手順)
次に、制御回路95は、スイッチング素子MSを「オフ」状態とする指示信号を同スイッチング素子MSに供給する。この結果、スイッチング素子MSは「オン」状態から「オフ」状態へと切り換えられるので、第1の検査用コイル91、及び第2の検査用コイル92は、定電流源ISからの電流が遮断された非通電状態となる。従って、第1,第2の検査用コイル91,92は、いかなる磁界をも発生しない。
このとき、TMR素子81は抵抗値Sx2近傍の大きさSx4の抵抗を示し、ADC93aはTMR素子81の抵抗値をデジタル値に変換するから、図23(A)に示したように、制御回路95はADC93aから抵抗値Sx4を値X4として取得する。
(第5手順)
次いで、制御回路95は、メインスイッチMSを「オン」状態とする指示信号、電流方向切換回路のスイッチング素子S1,S4を「オン」状態及びスイッチング素子S3,S2を「オフ」状態とする指示信号、並びに、スイッチング素子93bにTMR素子82を選択するための指示信号を、各対応するスイッチング素子に供給する。
これにより、定電流源ISの電流は、スイッチング素子MS、スイッチング素子S1、第2の検査用コイル92、第1の検査用コイル91、スイッチング素子S4、及び同定電流源ISの順に流れる。この結果、第2の検査用コイル92はY軸負方向であって大きさがHbの磁界をTMR素子82に加えるから、TMR素子82は抵抗値Sy3の抵抗を示していて、ADC93aはTMR素子82の抵抗値をデジタル値に変換する。従って、図23(B)に示したように、制御回路95は、ADC93aから抵抗値Sy3を値Y1として取得する。
(第6手順)
次に、制御回路95は、スイッチング素子MSを「オフ」状態とする指示信号を同スイッチング素子MSに供給する。この結果、スイッチング素子MSは「オン」状態から「オフ」状態へと切り換えられるので、第1の検査用コイル91、及び第2の検査用コイル92は、定電流源ISからの電流が遮断された非通電状態となる。従って、第1,第2の検査用コイル91,92は、いかなる磁界をも発生しない。
このとき、ADC93aはTMR素子82の抵抗値をデジタル値に変換するから、図23(B)に示したように、制御回路95はADC93aから抵抗値Sy3より大きい抵抗値Sy2を値Y2として取得する。
(第7手順)
次に、制御回路95は、メインスイッチMSを再び「オン」状態とする指示信号と、電流方向切換回路のスイッチング素子S1,S4を「オフ」状態及びスイッチング素子S3,S2を「オン」状態とする指示信号とを、各対応するスイッチング素子に供給する。
この結果、スイッチング素子MSが「オン」状態へと切り換えられるとともに、電流方向切換回路のスイッチング素子S1,S4が「オフ」状態へと切り換えられ、スイッチング素子S3,S2が「オン」状態へと切り換えられる。これにより、第2の検査用コイル92はY軸正方向であって大きさがHbの磁界をTMR素子82に加える。このとき、TMR素子82は抵抗値Sy1の大きさの抵抗を示していて、ADC93aはTMR素子82の抵抗値をデジタル値に変換するから、図23(B)に示したように、制御回路95はADC93aから抵抗値Sy1を値Y3として取得する。
(第8手順)
次に、制御回路95は、スイッチング素子MSを「オフ」状態とする指示信号を同スイッチング素子MSに供給する。この結果、スイッチング素子MSは「オン」状態から「オフ」状態へと切り換えられるので、第1の検査用コイル91、及び第2の検査用コイル92は、定電流源ISからの電流が遮断された非通電状態となる。この結果、第1,第2の検査用コイル91,92は、いかなる磁界をも発生しない。
このとき、TMR素子82は抵抗値Sy2近傍の大きさの値Sy4の抵抗を示し、ADC93aはTMR素子82の抵抗値をデジタル値に変換するから、図23(B)に示したように、制御回路95はADC93aから抵抗値Sy4を値Y4として取得する。
(第9手順:異常判定ステップ)
制御回路95は、以上の第1〜第8手順により、値X1〜X4、及び値Y1〜Y4を取得すると、下記の数3〜数6が成立するか否かを判定する。
X1−X3≧C1 …数3
|X2−X4|<C2 …数4
Y3−Y1≧C1 …数5
|Y2−Y4|<C2 …数6
上記数3,数5における値C1は、TMR素子81の感度が不十分であるときの値(X1−X3)の最大値及びTMR素子82の感度が不十分であるときの値(Y3−Y1)の最大値の各々よりも大きい値に選択されている。上記数4,数6における値C2は、TMR素子81のヒステリシスが過大であるときの値|X2−X4|及びTMR素子82のヒステリシスが過大であるときの値|Y2−Y4|の最小値よりも小さい値に選択されている。なお、値C1,C2は、何れも正の値である。
現時点では、磁気センサ80のTMR素子81,82、検出回路93、及び電流供給回路94の総べてが正常に作動していて、X1−X3=Sx1−Sx3≧C1、|X2−X4|=|Sx2−Sx4|<C2、Y3−Y1=Sy3−Sy1≧C1、及び|Y2−Y4|=|Sy2−Sy4|<C2となる。即ち、上記数3〜数6は総べて成立する。従って、制御回路95は、磁気センサ80のTMR素子81,82、検出回路93、及び電流供給回路94の総べてが正常であると判定する。
次に、TMR素子81の感度が不足し、且つ、他は正常に作動している場合について説明する。この場合、TMR素子81は、X軸正方向に大きさがHbの磁界が加わったとき、抵抗値Sx1よりも小さく抵抗値Sx2よりも大きい値を示し、X軸負方向に大きさがHbの磁界が加わったとき、抵抗値Sx3よりも大きく抵抗値Sx2よりも小さい値を示す。このため、制御回路95は、上記手順1〜手順8を行うことで、図24(A)に示した値X1〜X4、及び図24(B)に示した値Y1〜Y4を取得する。
この場合、上記数4〜6は成立するが、TMR素子81の感度が不足しているから、値(X1−X3)が小さくなるために上記数3が成立しない。制御回路95は、この結果に基いて、TMR素子81の感度が不足する異常が発生していると判定する。
次に、TMR素子82の感度が不足し、且つ、他は正常に作動している場合について説明する。この場合、TMR素子82は、Y軸正方向に大きさがHbの磁界が加わったとき、抵抗値Sy1よりも小さく抵抗値Sy2よりも大きい値を示し、Y軸負方向に大きさがHbの磁界が加わったとき、抵抗値Sy3よりも大きく抵抗値Sy2よりも小さい値を示す。このため、制御回路95は、上記手順1〜手順8を行うことで、図25(A)に示した値X1〜X4、及び図25(B)に示した値Y1〜Y4を取得する。
この場合、上記数3,数4,数6は成立するが、TMR素子82の感度が不足しているから、値(Y3−Y1)が小さくなって上記数5が成立しない。制御回路95は、この結果に基いて、TMR素子82の感度が不足する異常が発生していると判定する。
次に、TMR素子81のヒステリシスが過大となっており、且つ、他は正常に作動している場合について説明する。このようなTMR素子81は、X軸正方向に大きさがHbの磁界が加えられた後、同磁界を消滅させた場合、抵抗値Sx2より相当大きく抵抗値Sx1より小さい値を示し、X軸負方向に大きさがHbの磁界が加えられた後、同磁界を消失させた場合、抵抗値Sx2よりも相当小さく抵抗値Sx3より大きい値を示す。このため、制御回路95は、上記手順1〜手順8を行うことで、図26(A)に示した値X1〜X4、及び図26(B)に示した値Y1〜Y4を取得する。
この場合、上記数3,数5,数6は成立するが、TMR素子81のヒステリシスが過大となっているから、値|X2−X4|が大きくなって上記数4が成立しない。制御回路95は、この結果に基いて、TMR素子81のヒステリシスが過大となる異常が発生していると判定する。
次に、TMR素子82のヒステリシスが過大となっており、且つ、他は正常に作動している場合について説明する。このようなTMR素子82は、Y軸負方向に大きさがHbの磁界が加えられた後、同磁界を消滅させた場合、抵抗値Sy2より相当小さく抵抗値Sy3より大きい値を示し、Y軸正方向に大きさがHbの磁界が加えられた後、同磁界を消失させた場合、抵抗値Sy2よりも相当大きく抵抗値Sy1より小さい値を示す。このため、制御回路95は、上記手順1〜手順8を行うことで、図27(A)に示した値X1〜X4、及び図27(B)に示した値Y1〜Y4を取得する。
この場合、上記数3〜数5は成立するが、TMR素子82のヒステリシスが過大となっているから、値|Y2−Y4|が大きくなって上記数6が成立しない。制御回路95は、この結果に基いて、TMR素子82のヒステリシスが過大となる異常が発生していると判定する。
次に、メインスイッチとして機能するスイッチング素子MSが常時「オン」の状態となり、「オフ」状態に変化しないような場合等であって、第1,第2の検査用コイル91,92に電流が流れ続けてしまう(但し、第1,第2の検査用コイル91,92に流れる電流の向きは切り換えられ得る)異常が発生しているが、その他は正常に作動する場合について説明する。
この場合も、制御回路は上記手順1〜手順8を行う。このような異常状態が発生すると、手順1と手順2において、TMR素子81には第1の検査用コイル91によりX軸正方向の一定の大きさHbの磁界が加わるので、TMR素子81は抵抗値Sx1を示す。また、手順3と手順4において、TMR素子81には第1の検査用コイル91によりX軸負方向の一定の大きさHbの磁界が加わるので、TMR素子81は抵抗値Sx3を示す。同様に、手順5と手順6において、TMR素子82には第2の検査用コイル92によりY軸負方向の一定の大きさHbの磁界が加わるので、TMR素子82は抵抗値Sy3を示す。また、手順7と手順8において、TMR素子82には第2の検査用コイル92によりY軸正方向の一定の大きさHbの磁界が加わるので、TMR素子82は抵抗値Sy1を示す。このため、制御回路95は、図28(A)に示した値X1〜X4、及び図28(B)に示した値Y1〜Y4を取得する。
この結果、上記数3,数5は成立するが、値X2は値X1と同一の抵抗値Sx1となるとともに値X4は値X3と同一の抵抗値Sx3となるため、上記数4は不成立となる。同様に、値Y2は値Y1と同一の抵抗値Sy3となるとともに値Y4は値Y3と同一の抵抗値Sy1となるので、上記数6は不成立となる。制御回路95は、かかる結果が得られたとき、磁気センサ80に異常が発生していると判定する。
次に、メインスイッチとして機能するスイッチング素子MSが常時「オフ」の状態となり「オン」状態に変化しないような場合、第1,第2の検査用コイル91,92が断線した場合、或いは接続導線96a〜96cが断線した場合等であって、第1,第2の検査用コイル91,92に電流を流すことができない異常が発生している場合について説明する。
この場合にも、制御回路は上記手順1〜手順8を行う。このような異常状態が発生すると、上記手順1〜手順8の総べての場合において第1,第2の検査用コイル91,92は如何なる磁界も発生しない。従って、図29(A)に示したように、値X1〜X4は総べて同一の値である抵抗値Sx2となり、図29(B)に示したように、値Y1〜Y4は総べて同一の値である抵抗値Sy2となる。従って、上記数4,数6は成立するが、上記数3,数5は不成立となる。制御回路95は、かかる結果が得られたとき、磁気センサ80に異常が発生していると判定する。
次に、電流方向切換回路のスイッチング素子S1,S4が常時「オン」の状態となり「オフ」状態に変化せず、且つスイッチング素子S2,S3が常時「オフ」の状態となり「オン」状態に変化しないような場合等であって、第1,第2の検査用コイル91,92に流れる電流の向きを変更することができない異常が発生している場合について説明する。
この場合にも、制御回路は上記手順1〜手順8を行う。このような異常状態においては、手順1と手順3において、同じ向きで同じ大きさの電流が第1の検査用コイル91に流れるので、TMR素子81にはX軸正方向で大きさHbの磁界が加わる。従って、図30(A)の実線にて示したように、制御回路95が取得する値X1と値X3は同一の抵抗値Sx1となるから、上記数4は成立するが、上記数3は不成立となる。
同様に、手順5と手順7において、同じ向きで同じ大きさの電流が第2の検査用コイル92に流れるので、TMR素子82にはY軸負方向で大きさHbの磁界が加わる。従って、図30(B)の実線にて示したように、値Y1と値Y3は同一の値Sy3となるから、上記数6は成立するが、上記数5は不成立となる。制御回路95は、かかる結果が得られたとき、磁気センサ80に異常が発生していると判定する。
なお、電流方向切換回路のスイッチング素子S3,S2が常時「オン」の状態となり「オフ」状態に変化せず、且つスイッチング素子S1,S4が常時「オフ」の状態となり「オン」状態に変化しないような場合、図30(A),(B)の破線にて示したように、値X1と値X3は同一の抵抗値Sx3となり、値Y1と値Y3は同一の抵抗値Sy1となるので、やはり、上記数3,数5は不成立となる。従って、制御回路95は、かかる結果が得られたときも、磁気センサ80に異常が発生していると判定する。
次に、検出回路93のスイッチング素子93bが、常にTMR素子81を選択するようになり、TMR素子82を選択できなくなった異常が発生している場合について説明する。
このような異常状態においては、常にTMR素子81の抵抗値が検出され、手順5〜手順8の結果は手順1〜手順4の結果と実質同一となるので、図31(A),(B)に示したように、値X1〜値X4と値Y1〜値Y4の各値は実質的にそれぞれ同じ値となる。即ち、値Y1は値X1と同じ抵抗値Sx1、値Y3は値X3と同じ抵抗値Sx3となるので、値(Y3−Y1)は値(X3−X1)と同じ負の値となる。従って、上記数3,数4,数6は成立するが、上記数5は不成立となる。制御回路95は、かかる結果が得られたとき、磁気センサ80(検出回路93)に異常が発生していると判定する。
同様に、検出回路93のスイッチング素子93bが、常にTMR素子82を選択するようになり、TMR素子81を選択できなくなった異常が発生している場合について説明する。
このような異常状態においては、常にTMR素子82の抵抗値が検出され、手順1〜手順4の結果は手順5〜手順8の結果と実質同一となるので、図32(A),(B)に示したように、値X1〜値X4と値Y1〜値Y4の各値は実質的にそれぞれ同じ値となる。即ち、値X1は値Y1と同じ抵抗値Sy3、値X3は値Y3と同じ抵抗値Sy1となるので、値(X1−X3)は値(Y1−Y3)と同じ負の値となる。従って、上記数4〜数6は成立するが、上記数3は不成立となる。制御回路95は、かかる結果が得られたとき、磁気センサ80(検出回路93)に異常が発生していると判定する。
(第10手順:バランス判定ステップ)
最後に、制御回路95は、これまでの手順にて異常が発生していないと判定したとき、TMR素子81とTMR素子82の特性上のバランスがとれているか否かを判定するため、下記数7,数8が成立するか否かを判定する。値C3は正の所定値である。
|X1−Y3|<C3 …数7
|X3−Y1|<C3 …数8
そして、上記数7及び数8の何れかが成立しないとき、制御回路95はTMR素子81とTMR素子82の出力の均衡(バランス)が崩れている異常が生じていると判定する。
以上、説明したように、第4実施形態に係る磁気センサ80によれば、第1の検査用コイル91と第2の検査用コイル92をチップ(基板80a)内に備えていて、TMR素子81,82に検査用の磁界を付与することができるので、磁気センサ80の検査装置に磁界発生機能を備えさせる必要がない。
また、係る磁気センサ80によれば、第1の検査用コイル91と第2の検査用コイル92が電流供給源である定電流源ISに対して直列に接続され、通電制御回路として機能するスイッチング素子MS及びスイッチング素子S1〜S4をその閉回路中に介装しているから、スイッチング素子MS,S1〜S4の抵抗値等の特性がばらついたとしても、第1,第2の検査用コイル91,92には同じ大きさの電流を流すことができる。従って、TMR素子81,82に同じ大きさの磁界を加えることが可能であるので、例えば、上記数7,数8の判定を行うことにより、即ち、TMR素子81,82の呈する抵抗値に基いて、両素子の出力上の均衡がとれているか否かを判定することが可能となる。
更に、第4実施形態に係る磁気センサ80によれば、検出回路93がTMR素子81,82の何れかを選択してAD変換するようになっているから、ADC93aは安価で小型な1チャンネルのADCを採用することが可能となるとともに、その検出回路93(のスイッチング素子93b)の選択機能が正常であるか否かをも判定できるので、信頼性の高い磁気センサ80を提供することができる。
また、以上に説明したように、本発明による各実施形態に係る磁気センサは、ダブルスパイラルコイルを採用しているので、小型で且つ低消費電力でありながら、それぞれに必要な磁界を発生させることができる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、第3実施形態の磁気センサ60は、GMR素子を採用していたが、同GMR素子に代えてTMR素子を採用することもできる。また、第4実施形態の磁気センサ80は、TMR素子81,82を採用していたが、TMR素子81,82に代えて、GMR素子等の他の磁気抵抗効果素子を採用してもよく、又は、これらの磁気抵抗効果素子が基板上に分散配置されて形成されるとともに接続導線でブリッジ回路状に接続されることにより構成される磁気検出部を採用してもよい。更に、上記の初期化用コイル、バイアス磁界用コイル、検査用コイルの任意の二つ以上のコイルを、各磁気センサの基板内に積層して組込んでもよい。
また、上記各実施形態においては、初期化用コイル、バイアス磁界用コイル、検査用コイルは、TMR素子やGMR素子が形成される基板と同一基板内(同一チップ内)に形成されているが、これらの素子が形成される基板とは別体の基板内にこれらのコイルを形成するとともに、素子が形成された基板とコイルが形成された基板とを密着させる構造とすることもできる。