本発明は、被験者の体内組織等の状態を検査するための超音波診断装置に関するものである。
被験者の体内組織等の状態を検査や診断するための超音波診断装置、主に体腔内に挿入される電子走査式の超音波診断装置は、超音波振動子が先端に設けられた超音波プローブと、この超音波プローブが着脱可能に接続される超音波観測装置とから概略構成され、超音波プローブの先端に設けられた複数の超音波振動子から構成される超音波トランスデューサが体腔内に向けて超音波パルスを出射して、その反射エコーが電気信号に変換された反射エコー信号が超音波観測装置に入力され、所定の信号処理が行われることにより、体内組織の状態が超音波診断像として形成される。
このような超音波診断装置においては、超音波プローブの先端に設けられた超音波振動子と超音波観測装置との間で信号の授受を行う必要があるため、超音波プローブには信号伝達のためのケーブルが内包される。ここで、ケーブルにより伝達される信号としては、超音波振動子を駆動するための駆動信号と超音波振動子からの反射エコー信号とがあるため、これら各信号は駆動信号を送信するための送信用ケーブルおよび反射エコー信号を受信するための受信用ケーブルを介して夫々伝達される。また、超音波振動子が複数ある場合は、その数に応じて送信用ケーブルおよび受信用ケーブルの数も増加する。
従って、超音波振動子の数が多数になると、ケーブルの数も増加してしまい、これらケーブルを束ねた集合ケーブルが太く、且つ重くなるという問題がある。特に、電子走査式の超音波プローブの場合は、多数の超音波振動子により構成されるため、集合ケーブルの太径化が激しくなると、体腔内に挿入して超音波検査を行うときに、被験者の体腔内への挿入操作性が悪くなるだけでなく、検査を受ける被験者にとって大きな苦痛が強いられる恐れがある。また、同様に集合ケーブルの重量が増すと、術者の操作性が悪くなるという問題も発生する。
従って、超音波観測装置と超音波振動子との間にあるケーブルの数を減らし、集合ケーブルを細径化するということは、体内挿入型の超音波診断装置にあっては非常に重要な課題である。この課題に対して、超音波観測装置が駆動信号を超音波振動子に対して送信するためのケーブルと、超音波振動子からの反射エコー信号を受信するためのケーブルとを、スイッチまたは高電圧通過ゲートおよび低電圧通過ゲートを設けて一本化することにより、ケーブルの本数を削減するものは従来から知られている(例えば、特許文献1参照。)。
特開2002−291741号公報
この特許文献1の発明では、スイッチを用いることにより、または高電圧通過ゲートおよび低電圧通過ゲートを用いることにより、1本のケーブルを送受信両用のケーブルにしている。しかしながら、この特許文献1の発明にあっては、探触子に設けられる振動子の数に応じたケーブルの数が必要になるため、振動子の数が増えると、ケーブルの数も増加してしまい、ケーブルが太径化するといった問題や重量の問題等は依然として解消されないため、やはり体内挿入時における被験者への苦痛や術者の操作性の問題は依然として大きいものになる。そのため、ケーブルの数をできる限り減らすことは、超音波診断を行う際に、非常に重要な問題になる。
そこで、本発明は、複数の超音波振動子を設けた場合であっても、各超音波振動子の送受信を行うケーブルを一本化することにより、ケーブルの数を大幅に削減することができる超音波診断装置を提供することを目的とする。
超音波診断装置についての第1の発明は、所定の方向に配列された複数の超音波振動子を、それぞれ同順位の組から出射される超音波の音場が相互に影響を及ぼさない位置となる超音波振動子毎に複数の超音波振動子群を構成し、これら各群の同順位の組の超音波振動子に向けて駆動信号を送信する送信部と、前記各超音波振動子が受信した反射エコー信号を受信する受信部とを有する超音波観測装置と、前記送信部からの駆動信号を前記各超音波振動子に伝達し、前記各超音波振動子からの前記反射エコー信号を前記超音波観測装置の前記受信部に伝達するための単一の送受信用ケーブルと、前記超音波観測装置の前記送信部から前記送受信用ケーブルを経由して送信された前記駆動信号を、前記超音波振動子群を構成する前記各超音波振動子に分岐し、且つ前記各超音波振動子からの複数の前記反射エコー信号を合流させる分岐合流部と、前記複数の超音波振動子群のうち、第2組以下の同順位の超音波振動子に対して直列に設けられ、前記分岐合流部において分岐された前記駆動信号に対して少なくとも前記各超音波振動子が受信を行う受信時間の半分の時間の遅延をかけ、且つ前記超音波振動子からの反射エコー信号に対して少なくとも前記時間の遅延をかける複数の遅延回路と、を有することを特徴とする。
また、超音波診断装置における第2の発明は、所定の方向に配列された複数の超音波振動子を、それぞれ同順位の組から出射される超音波の音場が相互に影響を及ぼさない位置となる超音波振動子毎に複数の超音波振動子群を構成し、これら各群の同順位の組の超音波振動子に向けて駆動信号を送信する送信部と、前記各超音波振動子が受信した反射エコー信号を受信する受信部とを有する超音波観測装置と、前記送信部からの駆動信号を前記各超音波振動子に伝達し、前記各超音波振動子からの前記反射エコー信号を前記超音波観測装置の前記受信部に伝達するための単一の送受信用ケーブルと、前記超音波観測装置の前記送信部から前記送受信用ケーブルを経由して送信された前記駆動信号を、前記超音波振動子群を構成する前記各超音波振動子に分岐し、且つ前記各超音波振動子からの複数の前記反射エコー信号を合流させる分岐合流部と、前記複数の超音波振動子群のうち、第2組以下の同順位の超音波振動子に対して並列に設けられ、前記分岐合流部において分岐された前記駆動信号に対して少なくとも前記各超音波振動子が受信を行う受信時間の半分の時間が級数的に加算された異なる時間の遅延をかけ、且つ前記超音波振動子からの反射エコー信号に対して少なくとも前記時間の遅延をかける複数の遅延回路と、を有することを特徴とする。
ここで、超音波振動子組は多数設けられてもよいが、多数の超音波振動子組が設けられているとすると、1つの超音波振動子組から次の超音波振動子組に制御が移行するときに、若干の誤差が発生する恐れがあるため、あまり多数の超音波振動子組が設けられると、フレームレートに影響が出る可能性がないとはいえない。従って、超音波振動子組の数としては、好ましくは3組乃至5組程度が好ましい。
また、駆動信号を送信するための送信用ケーブルと反射エコー信号を受信するための受信用ケーブルとは必ずしも一本化する必要はなく、これらを別個に設けて2本のケーブルとしても、ケーブルの削減という観点からは問題ない。この場合、駆動信号と反射エコー信号とは別個独立に信号伝達することが可能であるため、上述したようなフレームレートの問題を低減することができる。
本発明は、反射エコー信号を時分割で受信部に受信させることにより、送受信ケーブルを一本化することができ、ケーブルの数を大幅に削減することができる。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1において、本発明の超音波診断装置は、振動子部2とケーブル部1と超音波観測装置3とを有して構成され、振動子部2と超音波観測装置3とは、ケーブル部1に内包されるケーブルにより接続される。そして、これらのうち、振動子部2とケーブル部1とは超音波プローブとして構成される。
ケーブル部1は、2本のケーブルを有して構成される。すなわち、図1に示されるように、信号の送受信を行うための1本の送受信用ケーブル11と振動子部2に設けられる複数の超音波振動子を接地するための1本の接地用ケーブル12とがケーブル部1に内包される。このうち、送受信用ケーブル11は、超音波観測装置3から振動子部2に設けられる各超音波振動子に対して駆動信号を送信し、また各超音波振動子からの反射エコー信号を超音波観測装置3に対して受信させるためのケーブルである。従って、この送受信用ケーブル11は、一端において超音波観測装置3における駆動信号を送信するための送信部31と反射エコー信号を受信するための受信部32とに接続され、また他端において振動子部2に設けられる各超音波振動子に接続される。そして、接地用ケーブル22には、振動子部2の各超音波振動子の接地用の配線が一本化されて接続され、超音波観測装置3のアース3Gにおいて接地される。
次に、振動子部2は、n個の超音波振動子2−0、2−1、2−2・・・2−n(以下、総称して超音波振動子2Aという)を有する超音波トランスデューサとして構成される。これら各超音波振動子2Aは、送信部31からの駆動信号をトリガーとして被検部位に向けて超音波パルスを出射し、その反射エコーを電気信号である反射エコー信号に変換して、受信部32に出力する。ここで、このような各超音波振動子2Aは、出射する超音波の音場が相互に影響を及ぼさない程度に離れた位置に設けられる。すなわち、各超音波振動子2Aの間を非常に近接した状態で設けることにより、各超音波振動子2Aが出射する超音波が相互に干渉し、ビーム方向の制御や電子フォーカス等を行うことができるが、本実施形態ではビーム方向の制御や電子フォーカス等は行わず、各超音波振動子2Aは、自身が出射した超音波の反射波のみを個別に受信する。そのため、出射する音場が相互に影響を及ぼさない程度に各超音波振動子2A間の距離を離しておく必要がある。なお、影響を及ぼさないとは、理想的には、相互の音場を形成する超音波が完全に干渉しないことであるが、超音波診断画像に影響を及ぼさない程度の許容誤差範囲内であれば多少干渉したとしてもよい。
このような各超音波振動子2Aに対して超音波観測装置3の送信部31からの駆動信号を分岐し、また各超音波振動子2Aからの反射エコー信号を合流させるために、振動子部2Aには複数の分岐合流部J0、J1、J2・・・Jn−1(以下、総称して分岐合流部Jという)が設けられる。すなわち、ケーブル部1の1本の送受信用ケーブル11を経由して、送信部31から各超音波振動子2Aに駆動信号を送信し、各超音波振動子2Aから受信部32に反射エコー信号を受信させるために、駆動信号を各超音波振動子2Aに対して分岐し、各超音波振動子2Aからの反射エコー信号を合流させる必要がある。このために、分岐合流部Jが設けられる。
すなわち、送信部31から送受信用ケーブル11を経由して送信された駆動信号は、最初に分岐合流部J0において超音波振動子2−0と超音波振動子2−1以降の超音波振動子とに分岐され、次に、分岐合流部J1において駆動信号がさらに、超音波振動子2−1と超音波振動子2−2以降の超音波振動子とに分岐され、以降同様に超音波振動子2−nに分岐されるまで行われる。また、各超音波振動子2Aが受信した反射エコー信号は、各分岐合流部Jにおいて合流されて、送受信用ケーブル11を経由して受信部32に受信される。従って、各超音波振動子2Aに送信される駆動信号と各超音波振動子2Aから受信される反射エコー信号とは、図中の矢印に示されているように、同一の経路を辿ることになる。
以上のように、反射エコー信号は分岐合流部Jにおいて合流されて送受信用ケーブル11を経由して受信部32に受信されるが、単に分岐合流部を設けたのみでは、同じタイミングで各超音波振動子2Aからの各反射エコー信号が各分岐合流部Jにおいて合流し、各反射エコー信号が合成されてしまう。すなわち、上述したような分岐合流部が設けられているだけでは、各超音波振動子2Aに同時に駆動信号が到達することにより、超音波の出射タイミングが同一になり、反射エコー信号の受信部32への出力のタイミングも同じになる。その結果、各超音波振動子2Aからの反射エコー信号が同じタイミングで合流されてしまい、これら各反射エコー信号が合成された波形として送受信用ケーブル11に伝達され、受信部32はこの合成波を受信することになる。このように合成波を受信部32が受信した場合、合成された信号から各超音波振動子2Aの反射エコー信号を復元することは不可能であるため、正常な超音波診断画像を形成することができない。そこで、振動子部2には、各反射エコー信号が分岐合流部Jに合流されるタイミングを変えて、時分割された状態で各反射エコー信号を受信部32に受信させるための複数の遅延回路が設けられる。
すなわち、振動子部2には、各超音波振動子2Aのうち、超音波振動子2−0を除く全ての超音波振動子2−1、2−2・・・2−nに対応して、入力される駆動信号および超音波振動子から出力される反射エコー信号に対して遅延をかける複数の遅延回路DL1、DL2・・・DLn(以下、総称して遅延回路DLという)が直列した状態で設けられる。つまり、各超音波振動子2Aのうち超音波振動子2−0を除く全ての超音波振動子に対しては、送信部31から送信された駆動信号は、直列状態に設けられている複数の遅延回路DLを経由することになる。例えば、図示している超音波振動子2−3に対しては、遅延回路DL1、DL2およびDL3の3つの遅延回路DLが直列状態で接続されていることになる。また、各超音波振動子2Aから出力される反射エコー信号も、直列状態で接続された遅延回路DLを経由して受信部32に受信される。例えば、超音波振動子2−3から出力される反射エコー信号も、直列状態で接続された遅延回路DL1、DL2およびDL3を経由して受信部32に受信される。このような各遅延回路DLは駆動信号および反射エコー信号に対して、少なくとも各超音波振動子2Aが受信する受信期間TRの半分の時間である遅延時間TDの遅延をかけるものとする。
例えば、図2の時刻t0において、超音波振動子2−0に対して駆動信号が入力され駆動が開始されたとする。超音波振動子2−0は、出射した超音波の反射波を受信期間TRの時間だけ受信し、反射エコー信号を随時、送受信用ケーブル11を経由して受信部32に受信させている。また、時刻t0においては、分岐合流部J0において分岐された駆動信号が遅延回路DL1に到達する。この駆動信号は、遅延回路DL1において、TDの時間の遅延がかけられる。そして、分岐合流部J1において分岐された駆動信号が、時刻t0から遅延時間TDだけ遅れた時刻t1において、超音波振動子2−1に入力される。
ここで、超音波振動子2−1は、時刻t1から受信部32に向けて反射エコー信号の出力を開始するが、この反射エコー信号は、さらに遅延回路DL1を経由するため、TDの時間の遅延がかけられた後に送受信用ケーブル11を経由して受信部32に入力される。この場合、超音波振動子2−1からの反射エコー信号が受信部32に出力されるタイミングとしては、時刻t1から遅延時間TDの時間が経過した後、すなわち時刻t2であるが、この時刻t2には、超音波振動子2−0が反射エコー信号の出力を開始した時刻t0からTD+TD=2×TR、すなわち受信期間TRが経過しているため、この超音波振動子2−0からの信号の出力は終了している。従って、受信部32が超音波振動子2−1からの反射エコー信号の受信を開始したときには、超音波振動子2−0からの反射エコー信号の受信は終了しているため、これら各反射エコー信号は合成されることはない。従って、超音波振動子2−0の反射エコー信号と超音波振動子2−1の反射エコー信号とは時分割された状態で受信部32に受信される。
次に、超音波振動子2−2を駆動する駆動信号は、この超音波振動子2−2に対して直列に接続された2つの遅延回路DL1およびDL2を経由して超音波振動子2−2に到達するため、時刻t2において超音波振動子2−2から超音波が出射され、受信が開始される。そして受信した反射エコー信号は、受信部32に向けて出力されるが、やはり直列に接続された遅延回路DL2およびDL1を経由するため、送受信用ケーブル11に出力されるタイミングは、時刻t2からTD+TD=2×TD、すなわち受信期間TRを経過した時刻t4であるため、この時刻t4は、超音波振動子2−1の反射エコー信号の出力が終了したときである。従って、受信部32には、超音波振動子2−1からの反射エコー信号と超音波振動子2−2からの反射エコー信号とが異なる時間に受信されるため、これら各反射エコー信号が重なりあうことはない。
以下、超音波振動子2−3以降も、各超音波振動子2Aに対して直列状態の複数の遅延回路DLを経由して駆動信号が入力され、また任意の超音波振動子からの反射エコー信号もやはり直列状態の複数の遅延回路DLを経由して送受信用ケーブル11に出力されるため、夫々、遅延時間TDを持つ遅延回路DLを往復する時間である受信期間TRの時間ずつずらされたタイミングで送受信用ケーブル11を経由して受信部32に受信される。従って、受信部32は、夫々受信期間TRの時間ごとに時分割されて超音波振動子2−0から順に超音波振動子2−1、2−2・・・2−nの反射エコー信号を連続的に受信するため、各信号の波形が合成されることなく、各超音波振動子2Aのうちどの超音波振動子からの反射エコー信号であるかを認識することができる。
なお、上述したものは、各遅延回路DLの遅延時間TDは、受信期間TRの半分の時間であるものとして説明したが、遅延時間TDは、受信期間TRの半分の時間に加えて、サイドローブによる虚像等を考慮してさらに微小時間を加えた時間であってもよい。
以上のように、振動子部2の各超音波振動子2Aのうち1個を除く全ての超音波振動子に対して、受信期間TRの半分の時間の遅延時間TDをかける遅延回路DLが直列状態に接続されることにより、各超音波振動子2Aからの反射エコー信号は送受信の往復で受信期間TRの時間ずらされて夫々送受信用ケーブル11に出力されるため、時分割された状態で各反射エコー信号が受信部32に受信される。そのため、駆動信号を送信するためのケーブルおよび反射エコー信号を受信するためのケーブルが送受信用ケーブル11に一本化されていたとしても、受信部32は、夫々の反射エコー信号を認識することができる。これにより、信号を送受信するためのケーブルを一本化することができるため、ケーブルの数を大幅に削減することができる。
次に、上記実施形態の変形例について説明する。図3は、変形例における超音波診断装置の概略構成図である。図3において、ケーブル部1および超音波観測装置3は図1のものと差異がないため説明を省略する。
本変形例においては、振動子部2における各遅延回路DLが送信部31からの駆動信号に対して並列に設けられ、各遅延回路DLは異なる遅延時間を持つものとする。すなわち、超音波振動子2−0を除く全ての超音波振動子2Aに対しては、夫々の超音波振動子に対応した位置に設けられる1個の遅延回路DLのみを経由して駆動信号が入力される。そして、上述した超音波振動子2Aから出力される反射エコー信号は、やはり上述した1個の遅延回路DLのみを経由して送受信用ケーブル11に出力される。
ここで、各遅延回路DLは、夫々異なる遅延時間を持つ。すなわち、遅延回路DL1は遅延時間TDを、遅延回路DL2は遅延回路DL1よりもさらに遅延時間TDが加算された時間を、遅延回路DL3は遅延回路DL2よりもさらに遅延時間TDが加算された時間を、以降、各遅延回路DLは順次遅延時間TDが級数的に加算された時間を遅らせる。
以上のように構成された場合、送信部31から送信された駆動信号は、送受信用ケーブル11を経由して振動子部2に入力される。そして、各分岐合流部Jを経由して一斉に超音波振動子2−0または各遅延回路DLに入力される。図2に示されるように、この時刻をt0とすると、時刻t0において超音波振動子2−0が駆動され、反射エコー信号が受信部32に出力される。そして、超音波振動子2−1には、遅延回路DL1の遅延時間TDが経過した時刻t1に駆動信号が入力され、受信が開始される。そして、反射エコー信号はやはり遅延回路DL1を経由するため、この反射エコー信号が受信部32に入力される時刻は時刻t1より遅延時間TDが経過した時刻t2である。この時刻t2においては、超音波振動子2−0からの反射エコー信号の出力は終了しているため、超音波振動子2−0からの反射エコー信号と超音波振動子2−1からの反射エコー信号とは重なり合うことはない。超音波振動子2−2には、時刻t0から遅延回路DL2の遅延時間である2×TDの時間経過した時刻t2に駆動信号が入力され、反射エコー信号はさらに遅延回路DL2の遅延時間である2×TDの時間経過した時刻t4に受信部32に入力される。以降、順次遅延時間TDが加算された遅延回路DLを経由することにより、送受信の往復でTD+TD=TRの時間ずらされたタイミングで受信部32に反射エコー信号が受信されるため、各超音波振動子2Aから出力された各反射エコー信号同士が相互に重なり合うことはない。従って、受信部32は時分割された状態で各販社エコー信号を受信することができるため、各信号を認識することができる。
なお、この変形例においても、遅延時間TDに、受信期間TRの半分の時間にさらに微小時間を加味したものであってもよい。
また、各遅延回路DLは、DL1から順に遅延時間TDが級数的に加算されたものを示したが、これに限られず、例えば、遅延回路DLnが遅延時間TDをもち、DLnからDL1に向かって順に遅延時間TDが級数的に加算されたものであってもよい。要は、夫々遅延時間TDずつずらされたものであれば、その順番は任意に設けられてよい。
以上のように、各遅延回路が直列ではなく、並列状態で接続されている場合においても、各遅延回路が遅延時間TDの時間ずつ順次ずらされた遅延時間、すなわち級数的に加算された異なる遅延時間を持つことにより、各超音波振動子2Aからの各反射エコー信号が合成されることなく、一本の送受信用ケーブル11で夫々の反射エコー信号を認識することができる。これにより、ケーブルの本数を大幅に削減することができる。
次に、上述した実施形態が適用される実施例1について説明する。図4に示されるように、振動子部2には15個の超音波振動子がリニアの状態に配置されている。これら15個の超音波振動子は、図4に示されるように、A(1)〜E(1)の5つの超音波振動子からなる第1群の超音波振動子群、A(2)〜E(2)の5つの超音波振動子からなる第2群の超音波振動子群、およびA(3)〜E(3)の5つの超音波振動子からなる第3群の超音波振動子群の以上3群の超音波振動子の群にグループ分けがされている。また、各群には順位別に組が設けられており、A(1)、A(2)、A(3)からなるA組の超音波振動子組、B(1)、B(2)、B(3)からなるB組の超音波振動子組、C(1)、C(2)、C(3)からなるC組の超音波振動子組、D(1)、D(2)、D(3)からなるD組の超音波振動子組、E(1)、E(2)、E(3)からなるE組の超音波振動子組の5つの超音波振動子組によりグループ分けがされている。
このように配置される各群における各組の超音波振動子同士は相互に音場が影響しないように設けられる。すなわち、A組を構成するA(1)、A(2)、A(3)は、出射する超音波の音場が相互に影響しない程度の位置に設けられる。同様に、B組、C組、D組、E組を構成する各超音波振動子も出射する音場が相互に影響しない位置に設けられる。
また、振動子部2には3つのスイッチSW1、SW2、SW3(以下、総称してスイッチSWという)が備えられている。これら各スイッチは、各群を構成する超音波振動子のうち1つの超音波振動子に対して接続され、その超音波振動子からの反射エコー信号の出力が終了すると、隣の超音波振動子に接続を切り替える。さらに、振動子部2には、遅延回路DL1およびDL2が備えられており、これら遅延回路DL1およびDL2は入力された信号に対して、上述した実施形態で説明した遅延時間TDの遅延をかける。ここでは、遅延回路DL1およびDL2は直列に接続されているため、遅延回路DL1の遅延時間と遅延回路DL2の遅延時間とは同一のものである。従って、第2群を構成する各超音波振動子に対してはTDの遅延が、第3群を構成する各超音波振動子に対しては2×TDの遅延がかけられることになる。
以上のように構成される超音波診断装置の動作について説明する。なお、初期状態においては、各スイッチSWはA組の超音波振動子組に接続されているものとする。すなわち、スイッチSW1は超音波振動子A(1)に、スイッチSW2は超音波振動子A(2)に、スイッチSW3は超音波振動子A(3)に接続された状態で開始する。
最初に、時刻t0において、送信部31から駆動信号が送受信用ケーブル11を経由して振動子部2に送信される。このとき、超音波振動子A(1)が駆動され、分岐合流部J0において分岐された駆動信号が遅延回路DL1に入力される。そして、遅延時間TDが経過した時刻t1に超音波振動子A(2)に駆動信号が入力される。さらに分岐合流部J1において分岐された駆動信号が遅延回路DL2に入力される。時刻t1から遅延時間TDが経過した時刻t2において超音波振動子A(3)が駆動され、遅延回路DL1を経由した超音波振動子A(2)からの反射エコー信号が受信部32に受信されるが、この時刻t2において、超音波振動子A(1)からの受信は終了しているため、超音波振動子A(1)の反射エコー信号と超音波振動子A(2)の反射エコー信号とは重なりあうことはない。ここで、時刻t2において、超音波振動子A(1)からの反射エコー信号の出力は終了したため、スイッチSW1は、隣の超音波振動子B(1)に切り替えられる。
次に、時刻t2から受信期間TRが経過した時刻t4において、受信部32の超音波振動子A(2)からの反射エコー信号の受信が終了し、超音波振動子A(3)の受信が開始される。このとき、スイッチSW2は超音波振動子B(2)に切り替えられる。
そして、時刻t4から受信期間TRが経過した時刻t6において、超音波振動子A(3)からの受信が終了すると、スイッチSW3は超音波振動子B(3)に切り替えられる。このとき同時に送信部31は駆動信号を振動子部2に対して送信する。以降B組、C組、D組、E組と同様の動作を繰り返すことにより、各超音波振動子からの反射エコー信号を時分割して受信部32に受信させることができる。
ここで、受信部32には1つの超音波振動子組を構成する各超音波振動子からの反射エコー信号を順番に受信した後に、次の超音波振動子組を構成する各超音波振動子からの反射エコー信号を順番に受信していく。すなわち、受信部32は、A(1)、A(2)、A(3)、B(1)、B(2)・・・のような順番で反射エコー信号を受信する。
ところで、このような順番で受信部32が受信した反射エコー信号は、超音波診断画像のフレームの1ラインを形成するが、上述した順番でラインを形成していくと、正常な超音波診断画像を得ることはできない。すなわち、フレームを構成する各ラインは、超音波振動子の並び順、すなわちA(1)〜E(1)、A(2)〜E(2)、A(3)〜E(3)の順番でアドレスが割り当てられなくてはならない。しかしながら、上述した受信部32の反射エコー信号の受信の順番は、超音波振動子組の順番により受信されるため、正常な超音波診断画像を形成する各ラインのアドレスの並び順とは異なる。従って、各反射エコー信号を正しいアドレスに並び替える必要がある。
そこで、図5に、受信した各反射エコー信号を正常なアドレスに並び替えを行った後にモニタ4に表示するための超音波観測装置3の一例を示す。この超音波観測装置3は、送信部31、受信部32、検波回路33、A/D(A/D変換器)34、ラインメモリ35、スキャンコントローラ36、フレームメモリ37、D/A(D/A変換器)38およびデータメモリ39を有して構成され、さらにD/A38はモニタ4に接続される。また、接地用ケーブル12が接続されるためのアース3Gが設けられる。
これらのうち送信部31および受信部32は上述した実施形態と同一のものであるため、説明を省略する。次に、受信部32が受信した反射エコー信号は、順次、検波回路33において画像情報の信号が検出される。ところで、振動子部2からは時分割されている各反射エコー信号の信号波が連続的に送られてくるが、検波回路33はこの連続的な信号波から1ラインごとに区切って各反射エコー信号を抽出しなくてはならない。例えば、図2を参照すると、各反射エコー信号は受信期間TRごとに時分割された状態で送られてくるが、検波回路33は各反射エコー信号の開始および終了のタイミングを把握していなくてはならない。そのため、各反射エコー信号のタイミングを区切るために、検波回路33はデータメモリ39に記憶されている検波を開始するトリガーとなる時間と振動子部2に設けられる遅延回路DL1およびDL2の遅延時間であるTDとを基準にして検波を行う。すなわち、データメモリ39には、受信部32が最初に反射エコー信号を受信する時刻、すなわち超音波振動子A(1)から受信される反射エコー信号の波形の先頭が検波回路33に到達する時刻(以下、検波開始時刻という)と遅延回路DL1およびDL2の遅延時間TDとが記憶される。
検波回路33は、データメモリ39に記憶されている検波開始時刻をトリガーとして検波を開始し、遅延時間TDの2倍の時間分(微小時間が加味されていない場合は受信期間TR)の信号を1ライン分として検波する。すなわち、遅延時間TDの2倍の時間遅れて各反射エコー信号は検波回路33に到達するため、検波開始時刻と遅延時間TDとを認識することができると、各反射エコー信号を1ラインごとに区切ることができる。
そして、検波回路33において検波された各反射エコー信号は、A/D34においてアナログ信号からデジタル信号に変換された後に、ラインメモリ35に入力される。このとき、図6(a)に示されるように、ラインメモリ35には、先頭アドレスから順にA(1)〜A(3)、B(1)〜B(3)、C(1)〜C(3)、D(1)〜D(3)、E(1)〜E(3)の各組の並び順でアドレス付けがされている。この並び順は、本来の超音波振動子のアドレスとは異なるため、アドレスの変換を行わなくてはならない。そこで、このラインメモリ35に記憶された各ラインを並び替えるために、スキャンコントローラ36が設けられる。
スキャンコントローラ36は、ラインメモリ35に記憶されている各ラインのアドレスを並び替えるためのものであるが、この並び替えはデータメモリ39に記憶されているアドレス変換テーブルに基づいて行う。このアドレス変換テーブルには、振動子部2に設けられる各超音波振動子の各群および各組の並び順が記憶されている。スキャンコントローラ36は、データメモリ39に記憶されているアドレス変換テーブルを参照して、ラインメモリ35に記憶されている各ラインのうち、各組の先頭のラインから順番にアドレス付けを行い、各組を構成する全てのラインのアドレス付けが終了すると、次の組の先頭のラインから順番にアドレス付けを行っていく。これにより、図6(b)に示されるような正常な超音波診断画像が完成し、この超音波診断画像はフレームメモリ37に記憶される。そして、フレームメモリ37の画像がD/A38によりアナログ信号に変換されてモニタ4に映し出される。
以上により、振動子部2の各超音波振動子が複数の群と組とにより構成される場合であっても、1本の送受信用ケーブル11により信号の送受信が可能になり、ケーブルの削減を図ることができる。
なお、本実施例は、実施形態において遅延回路DLが直列に接続されたものを一例として取り上げたが、実施形態の変形例における遅延回路DLが並列に接続されたものに適用してもよい。
次に、実施例2について説明する。本実施例では、振動子部2の各超音波振動子が円環状に構成されており、これら各超音波振動子によりラジアル走査を行うようにしている。図7に示されるように、第1群の超音波振動子A(1)〜E(1)、第2群の超音波振動子A(2)〜E(2)、第3群の超音波振動子A(3)〜E(3)が夫々120°の角度をなすようにグループ分けがされており、各群は順位別に夫々A組、B組、C組、D組およびE組によりさらにグループ分けされている。そして、遅延回路DL1およびDL2が設けられていることにより、第1群、第2群および第3群の各組の超音波振動子へ入力される駆動信号のタイミングは、夫々遅延時間TDずつずらされており、また、第1群、第2群および第3群の超音波振動子から出力される反射エコー信号のタイミングも、夫々遅延時間TDだけずらされている。従って、図7のように円環状に超音波振動子を配列した場合においても、各信号が時分割された状態で受信部32に受信されるため、1本の送受信用ケーブル11により信号の送受信を行うことができる。
なお、本実施例においても、遅延回路DLが直列ではなく並列に接続されたものに適用してもよい。
超音波診断装置の全体構成図である。
反射エコー信号のタイムチャートである。
変形例における超音波診断装置の全体構成図である。
実施例1における超音波診断装置の全体構成図である。
超音波観測装置の概略構成図である。
ラインメモリとフレームメモリに記憶される画像の説明図である。
超音波振動子が円環状に配列された振動子部の概略構成図である。
符号の説明
1 ケーブル部 2 振動子部
3 超音波観測装置 4 モニタ
11 送受信用ケーブル 31 送信部
32 受信部
2−0〜2−n 超音波振動子
DL1〜DLn 遅延回路
J0〜Jn 分岐合流部