JP4391732B2 - エリスリトールの結晶化阻害方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬、食品及び工業用途において使用されるエリスリトール(ERT)水溶液に関するものであり、詳しくは、エリスリトール及びポリビニルアルコールを含有して成る、エリスリトールの結晶化が阻害された水溶液に関するものである。また、本発明は、エリスリトール水溶液にポリビニルアルコール(PVA)を共存させることによるエリスリトールの結晶化阻害方法に関するものである。
また別の観点から見ると、本発明は、食品や医薬等の製造に用いられる被覆液又は該被覆液によって覆われた被覆組成物に関するものである。詳しくは低カロリーもしくはノンカロリーで、非う蝕性のエリスリトール水溶液並びに、肌理が良好で、充分な強度とバリア性を有し、嚥下性が良く、低吸湿性であることを特徴とする糖衣組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、苦味などを伴う薬品や、水分で活性が低下してしまう薬品などは、糖衣液により被覆して服用しやすい形にして提供されてきた。この糖衣液としては主としてショ糖と結合剤および水からなるものが多く利用されてきた。
近年ショ糖が健康に及ぼす悪影響、即ち高カロリー、う蝕性、血糖値上昇などを回避する目的で、低カロリーの糖アルコールを用いて糖衣層を形成することが試みられてきた。これらの糖アルコールとしてはエリスリトール、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、ラクチトール、パラチニットなどが検討されてきた。
【0003】
エリスリトールは四炭糖の糖アルコールで結晶化しやすく、甘味の強さはショ糖の70〜80%であり、食すると爽やかな冷涼感を感じ、更にノンカロリーである唯一の糖アルコールである。また、経日や温度上昇により褐変することは無く、低吸湿性であるため、糖衣に適した特長を有する糖アルコールとして検討が行われたが、それ自体に結合性が無いため糖衣層を形成しにくく、形成した場合も結晶性の良さから肌理が荒れるといった難点を有していた。
【0004】
この難点を解決する為、還元澱粉糖化物を添加しているものがある(例えば、特許文献1参照。)が、還元澱粉糖化物は食品であり、医薬品には使用することができず、平滑な肌理を得るために比較的多量に添加する必要があることから、糖衣錠の水分含量が上昇するといった欠点があった。
また、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを添加しているものもある(例えば、特許文献2参照。)が、これも平滑な肌理を得るために比較的多量に添加する必要があり、その服用感は必ずしも満足できるものではなかった。エリスリトールの最適含有率も20〜30%と低く、糖衣工程の作業効率は低かった。さらにヒドロキシプロピルメチルセルロースは40℃以上でゲル化する特性を有しているため、平滑な肌理を得るには40℃以下で糖衣層を形成させる必要があるなどの制限があった。
また、増粘安定剤を添加しているものもある(例えば、特許文献3参照。)が、これによりエリスリトールの微結晶を均一に懸濁させるのは作業が煩雑であり、且つ再現性に欠けるという欠点を有していた。
【0005】
ポリビニルアルコールを用いて糖衣錠を製造する方法は、ショ糖を使用する処方においては既に実施されている手法(例えば、特許文献4及び5参照。)であるが、当然シュガーレス化を目指したものではなく、結合剤の添加量を減少させる目的や、光沢を与える結合剤として利用されており、結晶化阻害の目的で添加されていたものではなかった。
また、水溶性高分子及び水溶性糖類からなる糖衣錠の保護被膜が開示(例えば、特許文献6参照。)され、それぞれポリビニルアルコールとエリスリトールが記載されているが、実際に行った例は記載されていない。更にその目的は内核錠への水分浸透を防止しつつ水溶解性を高めることであり、結晶化阻害については全く示唆及び教示していない。
【0006】
【特許文献1】
特許第2656435号公報
【特許文献2】
特開平09−25245号公報
【特許文献3】
特開平08−322504号公報
【特許文献4】
特公昭44−22316号公報
【特許文献5】
特公昭56−39287号公報
【特許文献6】
特開2000−169365号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、結晶性の良さからその取扱いが難しかったエリスリトール水溶液の結晶化を阻害する方法を提供することにある。また、従来、糖衣層形成原料として使用されてきた高カロリー糖であるショ糖を、ノンカロリー甘味料であるエリスリトールに代替し、且つ比較的少ない結合剤などの添加剤を加えることで、充分な強度を有し、肌理が滑らかであり、服用感が良く、嚥下性の良い糖衣組成物を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、鋭意検討した結果、エリスリトール水溶液中にポリビニルアルコールを共存させることによって、エリスリトールの結晶化を効果的に阻害することができることを見出した。更に、このポリビニルアルコール共存エリスリトール水溶液を使用することにより糖衣層の肌理が非常に滑らかとなり、なおかつ得られた糖衣組成物は低吸湿性で光沢を有しており、充分な強度も有していることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
すなわち本発明は、エリスリトール水溶液中にポリビニルアルコールを共存させることを特徴とするエリスリトールの結晶化阻害方法に関する。
別の観点から見ると、本発明は、エリスリトール及びポリビニルアルコールを含有してなる水溶液に関する。好ましくは、本発明はポリビニルアルコール対エリスリトールの重量比が1:8〜1:35であることを特徴とする水溶液に関する。更に好ましくは、本発明は、ポリビニルアルコール対エリスリトールの重量比が1:8〜1:35であり、エリスリトール含有量が20〜60重量%、ポリビニルアルコール含有量が0.5〜5重量%であることを特徴とする水溶液に関する。
また更に別の観点から見ると、本発明は、薬剤又は食品素材からなる素錠又は組成物をエリスリトール及びポリビニルアルコールを含有する水溶液によって被覆乾燥してなる糖衣組成物に関する。
【0011】
本発明における結晶化阻害方法は、エリスリトール水溶液中にポリビニルアルコールを共存させることによってその効果を発揮する。このエリスリトール水溶液のポリビニルアルコール対エリスリトールの重量比は、1:8〜1:35であることが好ましい。また、エリスリトール含有量が10〜80重量%、好ましくは20〜60重量%、更に好ましくは30〜50重量%、ポリビニルアルコール含有量が0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%、更に好ましくは1.5〜3重量%であると良い。
本発明の溶液組成として、エリスリトールとポリビニルアルコールの他に、結晶化阻害効果を損なわない範囲であれば、他の物質を使用してよい。
【0012】
本発明における糖衣組成物とは、素錠などの核を甘味を呈する皮膜で覆ったものの総称であり、具体的には医薬の糖衣錠剤や、糖衣で被覆された菓子、食品類が挙げられる。本発明の水溶液はポリビニルアルコールとエリスリトールを主に含有するものであり、これで被覆することで糖衣組成物が製造される。本発明の水溶液におけるポリビニルアルコールとエリスリトールの含有比を1:8〜1:35とすると、付着性、肌理、服用感ともに極めて優れた糖衣組成物が得られる。また、エリスリトールの含有量は、糖衣の核への付着性及び肌理を良好とする為に、通常、水溶液の20〜60重量%、好ましくは30〜50重量%であると良い。一方、ポリビニルアルコールの含有量は、0.5〜5重量%が好ましい範囲であり、1.5〜3.0重量%が更に好ましい範囲である。
【0013】
本発明の糖衣組成物に用いる溶液組成として、エリスリトールとポリビニルアルコールの他に、低吸湿性や低カロリーなどの特性を損なわない範囲で増粘剤や他の糖アルコールを併用することで、糖衣掛け工程の際のエリスリトールの結晶成長をより抑制し、さらに平滑な表面を得ることができる。併用できる増粘剤としては、増粘作用のあるものであれば限定されないが、例えばグアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、ジェランガム、カードラン、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉などが挙げられる。
【0014】
一方、糖アルコールとしては、マルチトール、ソルビトール、マンニトール、アラビトール、キシリトール、ラクチトール、パラチニット、イノシトール、還元デンプン糖化物などが挙げられる。
また、本発明の糖衣組成物に用いる水溶液には低吸湿性や低カロリーなどの特性を損ねない範囲で、必要に応じショ糖、乳糖、マルトース、キシロース、トレハロース、セルロース、カップリングシュガー、パラチノース等の糖類を含有しても良い。
【0015】
本発明の糖衣組成物に用いる水溶液及び糖衣組成物には、強度や硬度の向上などを目的として、低吸湿性や低カロリーなどの特性を損ねない範囲で、他の結合剤を併用することができる。例えばアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、アルファー化デンプン、エチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースナトリウム、含水二酸化ケイ素、寒天、グアーガム、グリセリン、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、コポリビドン、酢酸ビニル樹脂、酢酸フタル酸セルロース、ショ糖脂肪酸エステル、ゼラチン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デキストリン、澱粉、トガラント、乳糖、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、プルラン、ペクチン、ポリエチレングリコール、メチルセルロースなどが挙げられる。
【0016】
また、本発明により製造される糖衣組成物に用いる水溶液及び糖衣組成物には着色剤、賦形剤、滑沢剤、遮光剤なども必要に応じて添加することができる。例えば、各種色素、澱粉類、沈降炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、カオリンなどを水溶液に分散させたものを用いることができる。
【0017】
また、本発明により製造される糖衣組成物に用いる水溶液及び糖衣組成物には、服用感の向上を目的として、着香剤・香料を適量使用することができる。例えばイソ吉草酸イソアミル、イソチオシアン酸アリル、ウイキョウ末、エタノール、エチルバニリン、エチルマルトール、オレンジ、オレンジエキス、オレンジエッセンス、オレンジ油、カプシカムフレーバー、カミツレ油、カラメル、カンゾウ末、d‐カンフル、dl‐カンフル、魚燐箔、ケイヒ末、ケイヒ油、ゲラニオール、サリチル酸メチル、シトロネラー油、シュガーフレーバー、ジンコウ末、シンナムアルデヒド、スペアミント油、チェリーフレーバー、チョウジ油、チリフレーバー、テレビン油、トウヒチンキ、トウヒ油、パインオイル、ハッカ水、ハッカ油、バニラフレーバー、バニリン、ビターエッセンス、ビタベース、ピペロナール、ヒマラヤスギ油、フルーツフレーバー、フレーバーG1、ヘスペリジン、ペパーミントエッセンス、ベルガモット油、ペルーバルサム、ベルモットフレーバー、d‐ボルネオール、dl−ボルネオール、ミックスフレーバー、ミントフレーバー、dl‐メントール、l‐メントール、ユーカリ油、ラベンダー油、リュウノウ、リュウノウ末、レモンパウダー、レモン油、ロジン、ローズ水、ローズ油、ロート油、ローマカツミレ油等が挙げられる。
【0018】
また、本発明により製造される糖衣組成物に用いる水溶液及び糖衣組成物には、服用感の向上を目的として、矯味剤も適量使用することができる。例えばアセスルファームカリウム、アスコルビン酸、L‐アスパラギン酸、L‐アスパラギン酸ナトリウム、L‐アスパラギン酸マグネシウム、アスパルテーム、アセンヤク末、アマチャ、アマチャエキス、アマチャ末、アミノエチルスルホン酸、DL-アラニン、5'‐イノシン酸二ナトリウム、ウイキョウ、ウイキョウチンキ、ウイキョウ油、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩酸、オイゲノール、オウバク末、オウヒエキス、オウレン、オウレン末、オノニス根乾燥エキス、カカオ末、果糖、果糖ブドウ糖液糖、カラメル、カルバコール、還元麦芽糖水飴、カンゾウ、カンゾウエキス、乾燥酵母、カンゾウ粗エキス、カンゾウ末、d‐カンフル、dl‐カンフル、希塩酸、5'‐グアニル酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、グリシン、グリセリン、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸二アンモニウム、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、グルコノ‐δ‐ラクトン、L‐グルタミン酸、L‐グルタミン酸 L‐アルギニン、L‐グルタミン酸塩酸塩、 L‐グルタミン酸ナトリウム、黒砂糖、クロレラエキス、クロレラ末、ケイヒチンキ、ケイヒ末、ケイヒ油、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム六水和物、コンブ末、酢酸、サッカリン、サッカリンナトリウム、サフラン、サフランチンキ、サリチル酸メチル、サンショウチンキ、サンショウ末、β‐シクロデキストリン、シュクシャ末、酒石酸、D-酒石酸、酒石酸水素カリウム、DL-酒石酸ナトリウム、ショウキョウチンキ、ショウキョウ末、食用ニンジン末、シンナムアルデヒド、スクラロース、ステアリン酸、ステビア、精製カンゾウエキス末、精製ハチミツ、センブリ、ソヨウ末、ソーマチン、ダイズ油、タイソウ末、脱脂粉乳、タラクサシ根・草乾燥エキス、炭酸水素ナトリウム、単シロップ、タンニン酸、チモール、中鎖脂肪酸トリグリセリド、チョウジチンキ、チンピチンキ、トウガラシ、トウガラシチンキ、銅クロロフィリンナトリウム、トウヒチンキ、トウヒ末、ニガキ末、乳酸、梅肉エキス、氷酢酸、ピロリン酸四ナトリウム、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、粉末還元麦芽糖水飴、ペパーミントパウダー、ペルーバルサム、d‐ボルネオール、マルツエキス、ミルラ流エキス、ミレフォリウム草乾燥エキス、ユーカリ油、緑茶末、リンゲル液、リンゴ果汁、dl‐リンゴ酸、dl‐リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酢、リンゴ濃縮果汁、ローヤルゼリーなどが挙げられる。
【0019】
本発明では、素錠又は組成物の形態、重量は目的に応じて任意のものを用いることができる。例えば、医薬では顆粒剤、粒剤、丸剤或いは錠剤などが、食品ではガム、キャンディー、チョコレートなどが利用可能である。
【0020】
本発明の水溶液を用いて糖衣組成物を製造するための糖衣掛け工程は、従来の方法に従って実施すれば良い。一般的には自動糖衣機、コーティングパン、糖衣パンなどの回転釜を用いて実施される。糖衣液は室温ないし加温して使用することができる。エリスリトールを高濃度で溶解させる場合は糖衣液を加温する必要があるが、室温の範囲であっても、エリスリトールの結晶を懸濁させたり、あるいは展延時に粉末で添加するいわゆるソフト掛けの手法などによって製造することができる。
【0021】
添加する水溶液の量は、素錠又は組成物の表面積や糖衣の目的により適宜調節すればよい。また、本発明の水溶液は手掛けすることも可能であるし、滴下することも噴霧することも可能である。
【0022】
標準的な操作としては、本発明の水溶液を素錠又は組成物の表面に均一に展延させた後、乾燥を開始する。乾燥は通常、回転釜の中で送風により行う。送風の温度は工程の目的毎に適宜調節することができるが、好ましくは20℃から60℃の範囲である。糖衣組成物が乾燥したら、さらに溶液をふりかけ、乾燥する工程を数回繰り返して被覆を行い、糖衣組成物を製造する。さらに、得られた糖衣組成物に必要に応じてワックス、シェラックなどを添加し艶出しを行っても良い。
【0023】
【実施例】
本発明を以下の実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例において素錠は乳糖を打錠機にて成形(φ8mm、170mg、糖衣型)したのち、ヒドロキシプロピルメチルセルロースにてプロテクトコーティングを施したものを使用した。
【0024】
<実施例1>
エリスリトール40重量%、各種結合剤3重量%、水57重量%の溶液を調製し、これを50℃に加温して完全に溶解させた後、1L当たり20mgの種晶を加え、2日間20℃で保存した。この際に生成したエリスリトール結晶の乾燥重量を測定し、エリスリトール結晶化の阻害効果を比較した。
【0025】
【表1】
PVA:ポリビニルアルコール HPC:ヒドロキシプロピルセルロース
PVP:ポリビニルピロリドン HPMC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース
PEG:ポリエチレングリコール
阻害率(%)=100−〔100×(結合剤入溶液の結晶重量)÷(無添加溶液の結晶重量)〕
【0026】
表1の結果の通り、ポリビニルアルコールを添加した場合のエリスリトールの結晶化阻害率が44%と他の結合剤と比較して圧倒的に高かったことにより、ポリビニルアルコールが効果的にエリスリトールの結晶化を阻害することが判明した。また、ポリビニルアルコールを添加した場合のエリスリトール結晶は、無添加水溶液及び他の結合剤を添加した水溶液での結晶と比較して、非常に微細であった。これにより、エリスリトール糖衣の肌理がポリビニルアルコール添加により平滑になることが予測された。
【0027】
<実施例2>
下記の表2に示すように、エリスリトール濃度を50重量%としてポリビニルアルコール濃度を変化させ、水溶液500gを用意した。そして直径15cmの糖衣パンを用い、1錠173mgのプロテクトコーティング済み素錠500gを投入し、回転数40rpmにて、この水溶液を各工程毎に錠剤の表面に行き渡る程度にかけ、充分に展延させた後、温度60℃、10L/sの風量で2分乾燥した。この工程を10回繰り返して糖衣錠を製造した。
【0028】
【表2】
【0029】
ポリビニルアルコールを含まないエリスリトール濃度50重量%水溶液を素錠に被覆したものは、乾燥時の剥離が多く、被覆された糖衣層も数回の落下で剥離してしまった。これにポリビニルアルコールを2〜3重量%の範囲で添加したものは素錠への付着が良好で、充分な錠剤強度を得ることができ、肌理も平滑であった。服用感に関しては、濃度比がポリビニルアルコール:エリスリトール=1:17〜1:33の範囲において良好な結果が得られた。又、いずれの水溶液も粘度が低く取扱いが容易であった。
【0030】
<実施例3>
下記の表3に示すようにポリビニルアルコール濃度2.5重量%としてエリスリトール濃度を変化させた以外は実施例2と同様に行った。
【0031】
【表3】
【0032】
ポリビニルアルコール濃度を2.5重量%とし、エリスリトール濃度を30〜60重量%とした水溶液によって被覆した錠剤は、肌理が平滑であり、充分な錠剤強度を有し、服用感の良好な糖衣錠となった。よってその濃度比はポリビニルアルコール:エリスリトール=1:8〜1:24の範囲において良好な結果が得られたこととなった。又、いずれの水溶液も粘度が低く取扱いが容易であった。
【0033】
<実施例4>
下記の表4に示すようにエリスリトール濃度を40重量%とし、ポリビニルアルコール濃度を0〜3重量%に変化させた以外は実施例2と同様に行った。
【0034】
【表4】
【0035】
エリスリトール濃度を40重量%とし、ポリビニルアルコール濃度を1.5〜3.0重量%とした水溶液によって被覆した錠剤は、肌理が平滑であり、充分な錠剤強度を有し、服用感の良好な糖衣錠となった。特にエリスリトール濃度を40重量%、ポリビニルアルコール濃度を2.0重量%とした水溶液では、肌理、錠剤強度、服用感ともに非常に優れた糖衣錠が得られた。又、いずれの水溶液も粘度が低く取扱いが容易であった。
【0036】
<実施例5>
<比較例1〜3>
糖としてショ糖、マンニトール、ラクチトールを使用し、下記の表5に示す水溶液を調製し、これを用いて実施例2と同様に糖衣錠を製造した。
【表5】
【0037】
糖類40%、ポリビニルアルコール2%の水溶液で比較したところ、ショ糖処方は粘りが強く、乾燥時にパン内に付着して続行不可能となった。ラクチトールも同様にパン内に付着した。マンニトールは製造できたものの、肌理は荒れ、糖衣層厚さにムラがあり、服用感も甘さが少なく、エリスリトール糖衣錠より劣っていた。
【0038】
<実施例6>
糖衣錠の嚥下性を評価するため、下記組成1の水溶液を使用し、直径15cmの糖衣パンに1錠173mgのプロテクトコーティング済み素錠500gを投入し、回転数40rpmにて、60℃に加温したこの水溶液を各工程毎に錠剤の表面に行き渡る程度にかけ、充分に展延させた後、温度60℃、10L/sの風量で乾燥させた。この工程を繰り返し、幅9mm、高さ5mm、錠剤重量316mgの糖衣錠を製造した。
【0039】
[組成1]
エリスリトール水溶液
エリスリトール 50重量%
PVA 3重量%
水 47重量%
【0040】
<比較例4>
直径15cmの糖衣パンに1錠173mgのプロテクトコーティング済み素錠500gを投入し、回転数40rpmにて、60℃に加温した下記組成2の水溶液を各工程毎に錠剤の表面に行き渡る程度にかけ、充分に展延させた後、温度60℃、10L/sの風量で乾燥させた。この工程を繰り返して下掛けを行った。その後下記組成3の水溶液により、同様の工程にて上掛けを行い、幅9mm、高さ5mm、錠剤重量315mgの糖衣錠を製造した。
【0041】
[組成2]
ショ糖糖衣下掛け液
ショ糖 50重量%
タルク 22重量%
アラビアゴム 3重量%
水 25重量%
【0042】
[組成3]
ショ糖糖衣上掛け液
ショ糖 70重量%
水 30重量%
【0043】
<試験例1>
実施例6で製造したエリスリトール糖衣錠と、比較例4で製造したショ糖糖衣錠について、8名のパネラーにより、各3錠をそのまま、あるいは水と同時に服用し、嚥下性、喉に感じる残留感、総合評価について官能評価を行った。
【0044】
【表6】
官能評価結果
数値は好ましいと評価した人数。( )内はその割合
【0045】
表8の結果より、実施例6のポリビニルアルコールを使用したエリスリトール糖衣錠の方が、比較例4のショ糖糖衣錠より、嚥下しやすく、喉に感じる残留感が少なく、好ましいと評価する人が多かった。よって、本発明により嚥下しにくい人などが糖衣錠を服用する際の負担を軽減することができる。
【0046】
試料説明
エリスリトール:日研化学(株)製
マンニトール:日研化学(株)製
ラクチトール:日研化学(株)製
ショ糖:和光純薬工業(株)製
ポリビニルアルコール(PVA):日本合成化学工業(株)製 ゴーセノールEG-05
【0047】
【発明の効果】
エリスリトール水溶液中にポリビニルアルコールを共存させることにより、エリスリトールの結晶化が阻害され、取扱いの容易なエリスリトール水溶液が得られた。
また、糖衣組成物に用いる溶液組成としてエリスリトールとポリビニルアルコールを用いることにより、粘度が低く作業性に有利で、且つ被覆したものの肌理が非常に滑らかで、素錠との結合性も良好で、充分な強度を有し、服用感の好ましいノンカロリーな糖衣層を有する糖衣組成物が得られた。このエリスリトール糖衣組成物は、従来繁用されているショ糖糖衣層が有する高カロリー、う蝕性、血糖値上昇などの欠点を改善することができ、特に毎日服用する医薬品などに適している。さらに本発明の糖衣組成物は嚥下性が良く、のどに詰まりにくい錠剤にすることができるため、苦味を敬遠しがちで嚥下しにくい幼児や老人などに非常に好ましく、それ以外の方にも当然好ましいため、患者のクオリティーオブライフ(QOL)やコンプライアンスの向上に繋がる錠剤を提供することができる。
Claims (4)
- エリスリトールを40〜60重量%含有する、薬剤又は食品素材からなる素錠又は組成物の被覆用水溶液におけるエリスリトールの結晶化阻害方法であって、ポリビニルアルコールをポリビニルアルコール対エリスリトールの重量比1:8〜1:35で共存させることを特徴とするエリスリトールの結晶化阻害方法。
- エリスリトール及びポリビニルアルコールを含有し、エリスリトール含有量が40〜60重量%であり、ポリビニルアルコール対エリスリトールの重量比が1:8〜1:35である薬剤又は食品素材からなる素錠又は組成物の被覆用水溶液。
- ポリビニルアルコール含有量が0.5〜5重量%であることを特徴とする請求項2に記載の水溶液。
- 薬剤又は食品素材からなる素錠又は組成物を請求項2又は3に記載の水溶液によって被覆乾燥してなる糖衣組成物。
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