JP4390126B2 - ロボット指関節等に応用できる高感度トルクセンサ調整方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ロボット指関節などのようなサイズの小さい関節軸及びロボット以外のあらゆる関節軸において、高感度のトルクセンシングを行うことができるトルクセンシングに用いる高感度トルクセンサの調整方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ロボットの多指ハンドが性能を十分発揮するためには、ハンドの汎用性や操作性の良いことが重要な条件である。操りや協調作業を意識した場合に、指リンクの中間、つまり指の腹や背の部分をうまく使うことが有効であることは、我々人間の操り、包み込み把持や持ち替えなどを見ても明白である。このような指の協調操作を行うとき、ロボット多指ハンドにおける指関節のトルクをセンシングすることは、操作時の力情報を得るために必要であると考えられる。
機構的に見ると、回転1自由度をもつ関節において2本のリンクは関節軸によってつながっている。一般に、リンクの1つを関節軸に固定して、もう1つを関節軸の周りに回転させることが多い。この場合、アクチュエータなどから直接的にあるいは歯車やワイヤ、べルトなどを経由して間接的に関節軸を駆動すればリンク間の相対回転が生成できる。また、駆動されたリンクが負荷を受けるとき、関節軸、伝動装置またはアクチュエータのある表面部分に歪み変形などが発生し得る。
【0003】
これまでの、回転関節トルクのセンシングを大きく2つに分類してみると、モータへの入力電流を計る間接的方法と、歪みゲ−ジなどを使用してトルク負荷を受けた部分の変形をトルクへ変換して計測する直接的方法とがある(浅田:計測自動制御学会論文集、vol.22、no.8、pp.75〜80、1986)。前者の間接的方法では、計測精度が電磁気的な特性に依存してしまうので、使用環境によって精度が低下することがある。また、あらかじめ入力電流と出力トルクの関係を出しておきその関係と入力電流からトルクを計測するため、正確なトルクを決定するのは難しい。後者においては、トルク負荷を受けることにより歪み変形を起こす関節軸に直接歪みゲ−ジを貼るトルク計測法(塩田、谷口:実践メカトロニクス 「センサ」.産業図書、1983 他)が基本的な方法として知られているが、感度を上げようとすると軸の剛性を犠牲にしなければならない。このため、ロボットとしての動的影響が問題になる。これを改善するために、浅田のダイレクト・ドライブモ−タと関節軸の間に弾性体を取り付け、歪みゲ−ジを貼ってトルクを計測する方法や、Hashimotoのハ−モニックドライブのフレクスピラインに歪みゲ−ジを貼ることによるトルクセンサ(M.Hashimoto,T.Ishitsuka,I.Godler anndM.Horiuchi:“Velocity Dependence of the Characteristics of Harmonic Drive Bult−inTorque Sensing ,”Proc.of IEEE Int.Conf.on Robotics and Automation, vol.2,pp.1334−1339,May 2000)が提案されている。浅田らはダイレクト・ドライブア−ムにおいて入出力側のロ−タ慣性を調節しやすいことに注目し、その調節によって被計測部の剛性を低めても慣性比が十分小さい限り動的影響は無視できるとしてそのための条件を明らかにしている。Hashimotoらもハ−モニックドライブ減速機に含まれる既存の弾性体に歪みゲ−ジを貼り軸の剛性を低下させることなく関節トルクの計測に成功している。ただし、これらの方法は、サイズの大きなロボットア−ム関節には適用できるが、サイズの小さな指関節に応用することは困難であると考えられる。また、関節軸に固定したリンクの根元部分に弾性体を取り付け歪みゲ−ジを貼ってトルクを計測する方法(羅:“歪みフィ−ドバックによるフレキシブルロボットア−ムの制御の理論的実験的考察”,計測自動制御学会論文集,vol.28,no1,pp.67−76,1992 他)も提案されているが、このように導入された弾性体によりリンクの剛性を低下させることは避けられない。
【0004】
一方、指関節でのトルク計測という目的に対して、金子らは腱駆動による指関節機構に対し、張力差動型トルクセンサを提案し(M.Kaneko,K.Yokoi and K.Tanie :“On a New Torque Sensor for Tendon Drive Finger,”IEEE Transaction on Robotics and Automation,vol.6,no.4,pp.501−507,1990.)、腱張力の変化からトルクを計測している。
指関節軸のトルク計測の難しい理由として、関節のサイズが小さいため、トルク負荷を受けた部分の歪み変形が小さくなったり、歪みゲ−ジを貼る十分なスペ−スが確保できないなどの問題が生ずる。このため、関節の剛性を低下させることなく、トルク負荷を受けた部分の歪み変形からトルクを直接計測することは困難である。
【0005】
そこで、本発明者は、関節軸にトルクが加わったときの軸のねじり変形に注目し、関節軸にはり状のものを固定しておくことでねじり変形の影響を拡大して抽出することによって、トルクをセンシングする方法と高感度センサを発明した。この高感度センサはモ−タ駆動などの回転関節軸が存在する場合において、現在まで計測不可能なサイズの小さな関節でもトルクを計測可能にし、また、軸の剛性などに影響せずに高感度なトルクセンシングを実現することができることを示した(平成12年9月12日:日本ロボット学会学術講演会)。しかし、そこではセンサからの測定値とアクチュエータからのトルク間の関係については明確にされていない。したがって、センシングに必要なトルクがアクチュエータトルクの何割を占めるのは不明であり、関節トルクなどのセンサ値によるフィ−ドバック制御への実用は困難であった。
また、前記発明では、センサの感度拡大の可能性を示したが要求によってその感度拡大率が調整できるか、どのようにして高感度のセンサが得られるかについては明らかにされていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
発明者らは、アクチュエータからのトルク=関節軸にかかるトルク+センサにかかるトルク、との関係を発見して、その三者中の二者がそれぞれ線形関係を有することを明らかにした。また、これらの関係を用いて設計のときにセンサの材質および寸法を調整してモータトルクに存在するセンシングに必要なトルクを小さく調整する方法を発明した。更に、上述した線形関係を考慮に入れて、センサの感度拡大率とセンサの材質、寸法および上述した諸トルクの間の関係を明確にし、これらの関係を適当に調整して大きな感度拡大率を持たせるセンサの設計を発明した。
【0007】
【課題を解決するための手段】
このため、本発明が採用した技術解決手段は、
第1リンクと第2リンク間の回転関節にモータ駆動などの回転関節軸を有し、第2リンクに設けたモータの回転軸に回転可能に第1リンクを連結し、さらに前記回転軸に軸と直交的に、途中にくびれ部分を有し前記くびれ部分が変形可能な梁状をしたセンサ弾性体の一端を固定し、さらに前記センサ弾性体の他端を前記第1リンクに形成した対向する突起によって挟持することにより、前記センサ弾性体の他端側が回転可能でかつ前記弾性体の長手方向に変位可能で前記長手方向と直交方向には変位出来ないように拘束して構成した高感度トルクセンサの調整方法であって
モータからのトルク
=第1リンクを連結した関節軸にかかるトルク+センサ弾性体にかかるトルク
の式に基づき
センサの形状、材料を変えることにより、センサ弾性体にかかるトルクおよびセンシング感度に関わるセンサ弾性体歪変形を調整できることを特徴とする高感度トルクセンサの調整方法である。
また、前記センサは、形状、材料を変えることにより、センサ弾性体にかかるトルクおよびセンサ弾性体歪変形の調整で、一つの前記モータトルクに対して関節軸歪変形より弾性体歪変形を大きく調整してセンシング感度を高めることができるようにしたことを特徴とする高感度トルクセンサの調整方法である。
【0008】
【発明の実施形態】
図1は、従来のトルクの計測方法について説明する。
図1に示すように軸の一端を固定し他端にトルクTaxisが加わると、軸がねじり変形を起こす。軸の半径をR、長さをL、横弾性係数(剛性率)をGaxisとする。このとき、軸に加わるトルクTaxisと長さLのねじれ角Φとの関係は、
【0009】
【数1】
となる。上式より、TaxisとΦとは線形関係で表すことができ、TaxisとΦから計測可能である。従来の方法は、ねじり変形を起こす軸の表面に直接歪みゲ−ジを貼り、ねじり変形に起因する表面の歪みからトルクを計測していた。しかしこのような計測法は、細かい軸径を有する指関節に対しては、実現困難と考えられる。
次に、本発明について図2から図4を使って説明する。
本発明のセンサ機構1は図2に示すように関節回転部2に装着し、モータ3と指リンク4の間にセンサ5と回転軸6が機構的に並列につながるものとする。すなわち、センサ機構1はセンサ5とゲ−ジ7からなり、センサ5の一方は、関節回転部2を構成するモータ3の回転軸6に固定され、他方は、第1指リンク9の突起体8によって回転軸6まわりの回転方向に拘束されている。指4は、第1指リンク9と第2指リンク10からなり、第1指リンク9は、第2指リンク10に設けられたブラケット11、11に支持されたモータ3の回転軸6に回転可能に支持されている。更に詳述すると、センサ機構1のセンサ5を図3に示す。センサ5は長手のはり状で、途中にくびれ部を有し、その長手の方向は前記回転軸6と直交して、変形がないときは前記指リンク4の長手方向と平行にする。センサ5の一端はトルクを伝える回転軸6に固定し、他端は長手方向と前記突起体8まわりの回転方向には変位可能であり、その直交方向には変位できないように指リンク4の前記突起体8により拘束されている。くびれている変形可能な部分の長さをlx (その部分の厚さをh、幅をb)、センサ5と回転軸6との結合部分からlx の中央までの長さをl1 、残りの部分をl2 とする(図3(a))。lx 以外の部分は厚く設計し変形を押さえるもので、図3(b)に示すように、l1 部分が軸のねじれ角Φに連動したときにlx 部分に変形が集中するようにする。
【0010】
図4は図2を回転軸方向から見たもので、センサ5の動きと特徴について示している。図4(a)の状態から指リンクを回転させ、対象物に接触したとすると、指リンクが接触力を受ける。この接触力により、軸の部分に抵抗トルクが加えられる。
この抵抗トルクとモータに加えられたトルクから、リンクとセンサの間の関節軸にねじり変形が起こる(図5参照)。軸の剛性が高くてセンサのl1 の部分がより柔らかいので、センサにおいては、l1 の部分が軸のねじり変形に連動する。このときl2 部分が長手方向と直交する方向に拘束を受けるので、lx の部分に図4(b)(c)のようにたわみ変形が生じる。このたわみ変形の計測により軸のねじり変形をセンシングすることができる。ただし、実際の軸のねじれ角Φが10-2〜10-3〔deg〕のオ−ダ−であることを考慮して、軸のねじれ角、センサのlx 部分のたわみ変形、およびl2 部分の回転変位と長手方向変位は、実際にかなり微小である。ここに、論述をわかりやすくするために、軸のねじれ角、lx の変形およびl2 の変位を適当に大きくして図示している。
この機構において、モータの発生トルクをTmotor 、軸と指リンクの結合部分に働くトルクをTaxis、軸とセンサの結合部分に働くトルクをTsensorとする。図2と図5に示すようにモータから発生したTmotor は、リンクの結合部分とセンサの結合部分において2つに分かれてリンク上の外力の作用部分に伝達される。つまりTaxis、Tsensor、Tmotor の間には次式の関係が成り立つ。
Tmotor =Taxis+Tsensor
よって、本発明によるトルクセンサを導入する前には、Tmotor はすべてTaxisに働いていたが、本発明のセンサを導入することで、一部のTmotor はTsensorは分かれてセンサのたわみの変形を引き起こす。従来の研究では、モータとリンクの間に弾性体を直列的に取り付け、モータトルク全部を弾性体に通させてその変形が実現される。
【0011】
これに対して、本発明では弾性体を回転軸と並列的につながり、一部のモータトルクにより弾性体変形を行うので、関節剛性の低下が避けられる。並列的につながった剛性の低いセンサと剛性の高い回転軸に対して、センサのたわみ変形が軸のねじり変形に連動しているので、軸の変形にセンサからの抵抗が生じると考えられる。よって、関節全体の剛性は軸の剛性にセンサの剛性を加えたものとなる。軸の剛性が一定の場合、センサの剛性を高めにすると、関節の剛性は軸の剛性より高く得られるが、一定のTmotor で軸のねじり変形が小さくなるので、センサのたわみ変形も小さくなる。逆に、センサの剛性を低めにすると、関節の剛性は軸の剛性よりあまり高くならないが、センサのたわみ変形がより大きく得られる。また、これに伴い変形に必要なTsensorがより小さくなる。したがって、軸の剛性を低下させずより大きなセンサたわみ変形が得られるために、Tsensorは小さければよい。さらに、多指ハンド操作の制御をうまく遂行するために、Tmotor とTaxisとが一定の線形関係を持つことが望ましい。以下では、センサの変形に関する幾何学的解析を行ったのち、これらのトルク間の関係やトルクとセンサの変形の関係について解析する。
【0012】
ここでは、まず本発明のセンサに関して、トルクを受けることでセンサが変形したときの歪みと関節軸のねじれ角Φとの関係を解析する。その結果により、本発明のセンサでトルク計測が可能であることを示す。
つぎに、実際にこのように変形するための必要トルクとセンサの歪み変形の関係について論ずる。そして、センサの感度と関節軸歪み変形に対する感度拡大率を定義し、高感度センサの実現手法について述べる。
図6は図3の変形後のセンサを簡略化して図に示したものである。実際にはねじれ角Φが微小であるので、変形したセンサを表す三角形の両辺について、長い部分の長さをl1 、短い部分の長さをl2 とおける。まず、lx 部分の歪みを求めるために、角ΘをΦで表す。lx 以外の部分が一切たまわずlx 部分のみが変形するので、ねじれ角Φとαの関係を考えると、
【0013】
【数2】
が成り立つ。よって、次の式が得られる。
【0014】
【数3】
つぎに図3に示したたわみ変形の生じたlx 部分の表面の歪みειx を求める。lx の厚さはh、中立軸の長さはlx であるので、たわみ変形時の曲率半径をρ(=lx /Θ)、lx 部分表面の長さの変化をΔlとすると、次式が得られる。
【0015】
【数4】
式(6)によって、ειx はΦで表すことができ、
【0016】
【数5】
のように得られる。さらに、Φが微小であるからsinΦ≒Φ、cosΦ≒1となるので、式(7)から次式が得られる。
【0017】
【数6】
実際の歪みειx は10-3のオ−ダ−であることを考慮し、(2lx ειx )/hが十分小さくなるようにlx とhを設計すれば、sin(2lx ειx /h)≒(2lx ειx /h)、cos(2lx ειx /h)≒1であるので、
ειx は、
【0018】
【数7】
のように求められる。よって、たわみ変形しているlx 部分の歪みειx は、軸のねじれ角Φとの線形関係式として表すことができる。さらに、式(1)と(9)からΦを消去すると
【0019】
【数8】
が得られ、関節軸トルクTaxisとειx の間にも線形関係が成り立つ。
以上より、本発明の構造のセンサを使用してセンサの歪みειx から関節軸トルクTaxisをセンシングすることは可能であることがわかる。この機構は、小サイズの関節に適用できるだけでなく、はり構造によって軸表面の多方向の歪み測定を一方向の歪み測定に変換できるため、関節軸に直接歪みゲ−ジを貼るなどの多軸交叉型の手法を用いた場合の歪みゲ−ジの位置決め誤差や貼りつけ誤差を軽減することができる。
【0020】
つぎに、センサの変形を起こすためのトルクおよび関節軸上の諸トルクの関係について述べる。
図3に示すようにセンサのlx 部分に関して、加えられたTsensorと、センサのたわみ変形部分の曲率半径ρとの関係は断面二次モ−メントIを用いて次式で表される。
【0021】
【数9】
ここでEsensorはセンサの材質の縦弾性係数(ヤング率)である。センサ変形部分の断面を長方形とするとI=bh3 /12で表される。また、式(6)とlx =ρΘから次式が得られる。
【0022】
【数10】
上式により、材質が一定な場合、lx 部分の厚さhや幅bを小さくすれば、より小さいTsensorで一定の歪みειx を実現することが可能である。式(12)を書き換えると、歪みειx を実現するために必要なトルクTsensorは次のように表される。
【0023】
【数11】
つぎに、式(2)、(10)と(13)から、Tmotor 、Taxis、Tsensorの諸トルク間の関係を考える。TaxisとTsensorの関係は、式(10)と(13)より次のような線形関係であることがわかる。
【0024】
【数12】
また、式(2)と(14)より
【0025】
【数13】
であるので、Tmotor 、Taxis、Tsensorは互いに線形関係であることがわかる。上式において、たとえばセンサ変形部分の厚さhや幅bをより小さくしていくと、一定のTmotor に対してのTaxis、の値は大きくなり、その結果トルクセンサに働くトルクTsensorが小さくなる。つまり、計測対象となる関節軸の素材や寸法にかかわらず、センサの寸法の決定などによって、これら諸トルクの関係をある程度調整できる。
【0026】
次に、関節軸の一定のねじり変形に対して、本発明のトルクセンサの感度の拡大率について論ずる。従来の軸トルク計測に用いられていた軸に直接歪みゲ−ジを貼る方法と本発明のトルクセンサとの感度を比較する。ここでは、単位関節軸トルクに対するセンシング用の歪みの大きさを、トルクセンサの感度と定義する。まず、軸径Rの軸に直接歪みゲ−ジを貼る方法において、トルクTaxisが加わったことによる軸表面の歪みεaxisは、軸の剛性係数Gaxisを用いて次式で表される。
【0027】
【数14】
よって、その感度は
【0028】
【数15】
となる。一方、本発明のトルクセンサの感度は
【0029】
【数16】
のように記述できる。式(10)と(16)より、ειx /εaxisは
【0030】
【数17】
のように求められる。ειx /εaxisが1より大きいとき、感度ειx /Taxisはεaxis/Taxisより大きくなるので、ここでειx /εaxisを関節軸歪み変形に対する感度拡大率と呼ぶことにする。
式(19)についてさらに詳細に考察すると、感度拡大率とセンサの各幾何学的要素の間の関係は以下のように特徴付けられる。
まず、式(19)においてL/Rはトルク計測の対象となる軸の寸法により決まる因子を表しており、決定されている部分である。
そのためセンサの設計のときにこの因子を調整することは一般にできない場合が多いと考えられる。つぎに(l1 +l2 )/l2 はセンサの長手の方向の長さとlx 部分の位置により決まる因子で、センサの設計によって拡大率を調整することができる。つまり、l2 部分に対するl1 部分の長さを長くすれば感度拡大率を大きくすることが可能である。最後にh/lx はセンサの変形可能部分の因子で、長さlx を短くし、厚さhを厚くすることによって大きくすることができる。ただし、式(15)から、これらの調整で感度拡大率を大きくするとき、幅bが一定であれば実際にlx の変形に必要なトルク少しずつ大きくなるという影響があるが、bを適当に小さくすればこの影響を軽減することまたは打ち消すことは可能である。
また、感度拡大率とそれを実現するための各関節トルクとの関係は、式(12)と(16)より
【0031】
【数18】
と表すことができる。式(20)から、より小さいTsensorで望みの拡大率にするために、センサ変形部分の厚さhを薄く(または幅bを縮めに)すればよい。ただしこの場合、望ましい拡大率に応じて、式(19)により、l1 部分を長くしたりl2 部分を短くしたりしてhの薄くなった分を打ち消す必要がある。
望ましい感度拡大率がわかれば、式(20)のGaxis/Esensorの部分に注目して、センサ材質の選定によって、トルクTsensorとTaxisとの関係を調整することも可能である。
【0032】
図7は、実験で使用したセンサ機構の場合を例にして、トルクの関係と材質の関係をグラフにしたものである。ここに、センサの使用材質範囲をアルミニウムからマグネシウムに、関節軸の使用材質範囲をからマグネシウムから、ステンレスに変えることを考えた場合、Gaxis/Esensorの範囲は1≦(Gaxis/Esensor)≦5となる。前述したようにTsensor/Taxisの値は小さいほど良いので、ず7を参考にしてTsensor/Taxisの値がなるべく小さくなるようにセンサの材質を選定すればよい。上述により、本発明のトルクセンサを用いれば、関節軸表面の歪み変形を拡大して関節軸トルクをセンシングすることができる。
本発明のトルクセンサを製作し、それを3リンク3関節のロボット指機構に実装して実験装置とした。実験装置と本発明のトルクセンサの概観を図8と図9に示す。装置の各寸法は表1(Table1)に示すとおりである。
【0033】
【表1】
本実験で使用した材質は、センサとしてジュラルミン(A2014−T4)、関節軸としてオ−ステナイト系ステンレス(SUS304)である。また、式(19)と(20)により、センサの感度拡大率は3.70倍であり、Tsensor/Taxisは0.065である。
【0034】
静特性の評価である〔直線性〕〔ヒステリシス特性〕の各々について述べる。
〔直線性〕一つの関節に関して、関節の指根元側のリンクを固定して関節軸中心から45〔mm〕離れた指先側のリンクの先端に重りを吊り下げて、軸に−0.21〔Nm〕から0.21〔Nm〕までのトルクを加えた。各関節トルクセンサからほぼ同じ実験結果が得られた。図10に第1リンクと第2リンク間のトルクセンサの直線性の実験結果を示す。横軸は重りから計算したトルクの値を、縦軸は本発明のセンサからの出力を示す。誤差は±0.004〔Nm〕の範囲であったので、直線度(100×誤差/計測範囲)は±0.95〔%〕であった。
〔ヒステリシス特性〕リンクの先端に変動負荷を与え、フォ−スゲ−ジ(日本電産シンポ製FGC−5N)と本発明のトルクセンサの出力を計算し比較した。計測方法は実験装置指先部分にフォ−スゲ−ジを固定し、手動にて徐々に負荷を正方向に加え、フォ−スゲ−ジが0.16〔Nm〕を示した瞬間今度は徐々に負荷を減少させていき、さらに0〔Nm〕を通過し、−0.16〔Nm〕を示すまで負方向に負荷を徐々に加え、その後0〔Nm〕に戻した。図11は変動負荷でのデータからのグラフである。その誤差は±0.005〔Nm〕の範囲に収まっている。このデータをもとに、ヒステリシス差をプロットしたグラフが図12である。図12の上のグラフは、横軸にフォ−スゲ−ジの値を表し、縦軸に本発明のトルクセンサの値を表したものである。図12の下のグラフは、ヒステリシス差を表したものである。グラフの結果からヒステリシス差は0.0055〔Nm〕であることがわかる。ただし、グラフのゼロクロスの近傍には差があまりないので、このヒステリシス差には線形性の誤差による影響が大きいと考えられる。
【0035】
次に、動特性の評価である〔ステップ応答性〕〔周波数特性〕の各々について述べる。
〔ステップ応答〕本発明のトルクセンサの動特性を調べるためにステップ応答性を評価した。実験方法は以下のとおりである。重りを糸で吊るすことにより関節軸にトルクを発生させて、その糸を一瞬に切断することでゼロトルクにする。この実験に0.040、0.084、0.128、0.172、0.216〔Nm〕の5種類のトルクを加えた。実験結果を図13に示す。この結果により、加えるトルクによってオ−バ−シュ−トや時間遅れなどの変化は見られないことがわかる。
〔周波数特性〕1、2、3、4、5〔Hz〕と、5〔Hz〕から5〔Hz〕おきに50〔Hz〕までの正弦波電圧をモータに指令し、本発明のトルクセンサの出力信号を計測した。サンプリング周波数は200〔Hz〕で計測時間は5〔s〕間とした。また、低周波領域として0.1〔Hz〕刻みで0.1〔Hz〕から0.9〔Hz〕までのデータを取得した。このときサンプリング周波数は100〔Hz〕で計測時間は10〔s〕間とした。いずれの場合も出力された1000個のデータを2048個の標本に対してFFTを施し、周波数特性を解析した。
得られたデータはモータの周波数特性と本発明のトルクセンサの周波数特性を足し合わせたものである。このデータを元にモータの周波数特性を除いて、本発明のトルクセンサのみの周波数特性をグラフにしたものが図14である。ゲインをデシベル値で、位相遅れを角度で示した。その結果より、ゲインの変化は最大で0.64〔db〕、位相遅れは最大で2.695〔deg〕であった。
【0036】
次に、本発明のセンサの感度拡大率を実証するために、歪みゲ−ジが直接貼りつけられた半径R=3.0〔mm〕の関節軸を有する1リンク1関節の実験装置を製作した。この装置の各部品の材質は先に述べた3リンク3関節実験装置のと同じであり、それらの寸法はいかの通りである。リンクの長さはLlink=81〔mm〕、リンクとセンサ間の軸部分の長さはL=10〔mm〕、センサについてはlx =6〔mm〕、 l1 =35〔mm〕、l2 =15〔mm〕、h=2〔mm〕、b=4〔mm〕である。実験では、リンク先端に重りを吊り下げ0.32、0.48、0.64〔Nm〕の3種類のトルクを加えて、本発明のトルクセンサで測定した出力値と、軸に直接歪みゲ−ジを貼り付けたときの出力値をそれぞれ収集した。図15はそのときの両出力値の比をプロットしたものである。
これらの結果を比較すると、本発明のトルクセンサの感度拡大率は平均3.67倍であった。また、実験に使った軸や本発明のトルクセンサの寸法を与えて理論計算した感度拡大率(式(19)参照)は平均3.70倍であった。理論値と実験値とはほぼ同じであることがわかった。
【0037】
次に、実施可能性の検証実験を行った。
3リンク3関節のロボット指による対象物の把持において、各関節のトルク計測が可能であることを以下の実験により検討した。
ロボット指の第1関節は台座に固定され、その回転が拘束されている。第2、第3関節には駆動モータが取り付けてあり、一定の電圧指令によりリンクが回転するようになっている。また、指の各関節軸と重力の作用方向とを平行するように装置を設置し、回転に対して重力が影響をしないようにした。この指で直径52〔mm〕の木製円柱の把持実験を行った。実験は60〔s〕間行い、本発明のトルクセンサで各関節のトルクセンシングを行った。
図16は指ロボットの状況を時系列順に図示したもので、▲1▼から▲5▼の5つのプロセスに分かれている。それらは、全ての関節が静止しているプロセス▲1▼、第1、第2リンクが対象物と接触させようとする第2関節が回転しているプロセス▲2▼、第1、第2リンクは対象物と接触しながら、第3リンクを接触させようとする第3関節が回転しているプロセス▲3▼、第3リンクで対象物を接触した後の3関節で把持力のバランスを保つためにトルクを調整しているプロセス▲4▼、第3リンクで対象物を完全に安定把持した状態になっているプロセス▲5▼からなる。実験の様子を図17に示した。図18はそのときの第1、第2および第3関節のトルクをプロットしたものである。把持状態での各関節の定常トルクは第1、第2および第3関節でそれぞれ0.194、0.257、0.267〔Nm〕を計測した。実験結果から、作業中において各関節のトルクは良好にセンシング可能であることが明らかになった。
なお、このセンシング方法は、ロボット多指ハンドの指関節のみならず、ロボットアーム関節などのサイズの大きな軸径に対しても関節の剛性を低下させずに高感度なトルクセンシングを行うことができる。
【0038】
【発明の効果】
以上説明したように、ロボットの多指ハンドによる把持と操りにおいて、その汎用性や器用さなどを向上させるためには、操作時に指関節のトルクをセンシングすることが必要である。本発明の、サイズの小さい指回転関節において、トルク発生時のねじり変形に着目して、関節に新たな弾性はりを導入し、軸のねじり変形によりはりに生じた歪み変形から関節トルクをセンシングする方法により、従来では計測不可能な指関節でもトルクセンシングを可能にする。また、軸表面の歪み変形より大きな歪み変形が得られるので、軸の剛性などを低下させずに高感度なトルクセンシングを実現することができる。また、回転関節に取り付けられる歪変形拡大メカニズム(トルクセンサ機構)とそれに基づく関節トルクのセンシング原理を提案し、ついで、提案したセンサ機構の変形および関節軸上の諸トルクについて理論的に解析を行い、これらのトルクはセンサ機構により線形的に計測可能であることを示した。そして、センサの感度とその感度拡大率を定義し、大きな感度拡大率が得られるセンサ機構の設計方法を明らかにした。また、関節トルクセンサ素子の装着が簡単でコストもやすく、さらに、感度についてはトルクセンサ素子の設計によって従来の関節軸のねじり変形を直接計測する方法に比べて1〜9倍程度向上できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】軸の一端を固定し、他端にトルクを加えて軸がねじり変形を起こす図である。
【図2】本発明の、センサ機構と指リンクとの関係斜視図である。
【図3】本発明の、センサ機構で(a)は、センサの変形前、(b)は、センサの変形後の図である。
【図4】指リンクを回転させ対象物に接触したときの、本発明のセンサの動きの説明図である。
【図5】図4における、指リンクとセンサ間の関節軸にねじり変形が起きたときの各トルク、ねじれ角のの関係の説明図である。
【図6】図3の変形後のセンサを簡略化して図に示したものである。
【図7】トルクの関係と材質の関係をグラフにした図である。
【図8】本発明の、トルクセンサを、3リンク3関節のロボット指機構に実装した実験装置の図である。
【図9】本発明の、トルクセンサの概観の写真である。
【図10】第1と第2リンク間のトルクセンサの直線性の実験結果図である。
【図11】変動負荷でのデータからのグラフを示す。
【図12】ヒステリシス差をプロットしたグラフである。
【図13】5種類トルクを加えたステップ応答性の実験結果の図である。
【図14】本発明の、トルクセンサのみの周波数特性をグラフにした図である。
【図15】本発明の、トルクセンサで測定した出力値と、軸に直接歪みゲ−ジを貼りつけたときの出力値の比をプロットした図である。
【図16】指ロボットの状況を時系列順に図示したものである。
【図17】図16の、実験の様子の写真図である。
【図18】図16における、第1、第2および第3関節のトルクをプロットした図である。
【符号の説明】
1 センサ機構
2 関節回転部
3 モータ
4 指リンク
5 センサ
6 回転軸
7 ゲ−ジ
8 突起体
9 第1指リンク
10 第2指リンク
11 ブラッケト
Claims (2)
- 第1リンクと第2リンク間の回転関節にモータ駆動などの回転関節軸を有し、第2リンクに設けたモータの回転軸に回転可能に第1リンクを連結し、さらに前記回転軸に軸と直交的に、途中にくびれ部分を有し前記くびれ部分が変形可能な梁状をしたセンサ弾性体の一端を固定し、さらに前記センサ弾性体の他端を前記第1リンクに形成した対向する突起によって挟持することにより、前記センサ弾性体の他端側が回転可能でかつ前記弾性体の長手方向に変位可能で前記長手方向と直交方向には変位出来ないように拘束して構成した高感度トルクセンサの調整方法であって
モータからのトルク
=第1リンクを連結した関節軸にかかるトルク+センサ弾性体にかかるトルク
の式に基づき
センサの形状、材料を変えることにより、センサ弾性体にかかるトルクおよびセンシング感度に関わるセンサ弾性体歪変形を調整できることを特徴とする高感度トルクセンサの調整方法。 - 前記センサは、形状、材料を変えることにより、センサ弾性体にかかるトルクおよびセンサ弾性体歪変形の調整で、一つの前記モータトルクに対して関節軸歪変形より弾性体歪変形を大きく調整してセンシング感度を高めることができるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の高感度トルクセンサの調整方法。
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