JP4388639B2 - 略円運動体の線速度測定方法及びその装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、略円運動体の線速度を測定する略円運動体の線速度測定方法及びその装置に係り、詳しくは、バットやゴルフクラブ等のスイング時におけるヘッド部分のような略円運動体に向けて送波した超音波、電波、光等の波の反射波を受波して得られたドップラー信号成分に基づいて、そのヘッド部分の速度すなわち該略円運動体の線速度を測定する線速度測定方法及びその装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種の線速度測定装置としては、ゴルフクラブをスイングしたときに略円運動を行うヘッド部分の速度を測定するものが知られている。このような速度測定装置としては、上記ヘッド部分の軌道に沿って列をなして設けられた複数の発光部と、これら発光部が発するビームをそれぞれ受光する受光部とから構成されたものが特公平4−12154号公報に開示されている。この装置は、ゴルフクラブのヘッド部分が上記各発光部が発するビームを横切ったときに上記各受光部が該ヘッド部分を検知する。そして、各受光部からの検知信号に基づいて該受光部間の距離から上記ヘッド部分の平均速度及び平均加速度を演算し、該演算結果を速度表示部及び加速度表示部に表示する。
【0003】
また、特開平11−57105号公報には、ゴルフクラブのヘッド部分の軌道に沿って複数の磁気センサを設け、該磁気センサによって該ヘッド部分に取り付けた磁気発生源の通過を検知し、その検知結果に基づいてヘッド速度及びヘッド加速度を演算してその演算結果を表示するゴルフクラブヘッドの運動測定装置が開示されている。この装置は、上記磁気センサとしてセンサコイルを使用し、上記ヘッド部分に取り付けた磁気発生源が該センサコイルから100〜150mm程度離れた位置を通過することで該センサコイルに発生する誘起電力によって該ヘッド部分の通過を検出する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上述した従来の速度測定装置においては、特公平4−12154号公報に開示された光電式のものであっても、特開平11−57105号公報に開示された磁界検出式のものであっても、その装置本体を測定対象物であるゴルフクラブのヘッド部分の軌道に近接して配置しなければ測定することができないという問題があった。この場合、測定対象物が速度測定装置に接触して該速度測定装置を壊してしまうことが起こり得る。
【0005】
また、その他、ゴルフクラブのヘッド速度を測定するものとしては、該ゴルフクラブのヘッド付近のシャフト部分に取り付けられるバネ式の速度測定器が製品化されている。この装置は、安価ではあるが測定精度や分解能が低く、正確な速度測定をすることができないという問題がある。
【0006】
一方で、このような略円運動体の線速度測定は、上述したゴルフクラブのヘッド速度測定以外に、野球のバットスイング時のヘッド速度測定にもニーズがある。このようなバットのヘッド速度の測定装置は特に製品として市場に出回っていないが、従来、バットのヘッド部分の軌道を挟み込むようにしてその鉛直方向に発光器及び受光器を配置し、該ヘッド部分が該発光部が発するビームを横切ったときに該受光部が該ヘッド部分によってビームが遮られた時間と該ヘッド部分の幅とから該ヘッド部分の速度を算出する装置が提案されている。
【0007】
ところで、従来、音波等の波を利用してボール等のように略直線運動する測定対象物から反射されてきた波を受波して得られたドップラー信号成分に基づいて該測定対象物の速度を測定する速度測定装置が知られている。このような速度測定装置は、所定周波数の基準信号に基づいて生成した波を測定対象物に向けて送波する送波手段と、該対象物から反射してきた反射波を受波して受信信号とし、該受信信号中のドップラー信号成分を抽出する受波手段と、該ドップラー信号成分に基づいて本装置に対する該対象物の相対移動速度を演算する速度演算手段とを備えた構成となっている。この速度測定装置によれば、測定対象物からある程度離れた位置から該測定対象物の速度を測定することができる。
【0008】
この速度測定装置のようにドップラー効果を利用して速度測定するものは、測定対象物の速度方向にドップラーシフトを受けた反射波に基づいて速度演算する。従って、ボール等のように速度の向きが一定である略直線運動体を測定対象とした場合にはそのドップラー信号成分の周波数の経時変化は少ない。この結果、その周波数データの平均を算出すれば、高い精度で速度測定することができる。一方、略円運動体のように速度(線速度)の向きが経時的に変化するものを測定対象とする場合、該測定対象物によってドップラーシフトを受けた反射波からはその線速度の余弦成分が演算されることになる。従って、このドップラー信号成分の周波数は経時的に大きく変化し、その周波数データの平均を算出しても正確な速度測定をすることができなかった。
【0009】
また、上記特公平4−12154号公報に開示された装置や上述したバットのヘッド速度測定装置のような光電式のものにおいては、屋外で使用すると太陽光の影響を受けて測定ができないという問題もあった。
【0010】
本発明は、以上の背景に鑑みなされたものであり、第1の目的は、従来より測定対象物である略円運動体から離れた位置から該略円運動体の線速度を高い精度で測定することができる略円運動体の線速度測定方法及びその装置を提供することである。また、第2の目的は、屋外での測定が可能な略円運動体の線速度測定方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記第1の目的を達成するために、請求項1の発明は、所定周波数の基準信号に基づいて生成された波を略円運動で移動する測定対象物に向けて送波し、該測定対象物からの反射波を受波し、該反射波のドップラー信号成分に基づき該測定対象物の線速度を測定する略円運動体の線速度測定方法において、上記測定対象物の軌道上における測定点の接線方向から上記波を送波し、その反射波を該接線方向で受波し、受波した該測定対象物からの反射波のドップラー信号成分を複数サンプリングし、サンプリングした複数のドップラー信号成分のサンプリングデータの周波数の経時変化に基づいて該サンプリングデータの中に最大速度に相当する周波数をもつ特定サンプリング値が含まれているか否かの判定を行い、含まれていると判定したときにはそのサンプリングデータの中から該特定サンプリング値を特定する一方、含まれていないと判定したときには再び上記測定対象物からの反射波のドップラー信号成分をサンプリングし、特定した該特定サンプリング値に基づいて該測定対象物の相対移動速度を演算するものであり、上記判定では、上記サンプリングデータの周波数の経時変化が、単位時間当たり所定の小さな範囲内の変化量で変化する速度変化に相当するときには、該サンプリングデータの中に該特定サンプリング値が含まれていないと判定することを特徴とするものである。
【0012】
このように測定対象物からの反射波がもつドップラー信号成分に基づいて速度演算を行う測定方法においては、その測定方法を実行する該測定対象物と測定手段とを結ぶ方向(以下、「速度測定方向」という。)における該測定手段に対する該測定対象物の相対移動速度を測定することができる。しかし、測定対象が略円運動体である場合、該測定対象物の線速度の向きはその軌道上の接線方向に向いており、その向きは該測定対象物が移動することによって経時的に変化する。従って、上記測定手段を任意の位置に配置して略円運動体の相対移動速度を測定する場合、速度測定方向と上記軌道上における各点の接線方向とのなす角における線速度の余弦成分が上記相対移動速度を示すことになる。
【0013】
そこで、本請求項の線速度測定方法においては、まず、略円運動で移動する測定対象物の軌道上の所望の測定点に対してその接線方向の延長線上に測定手段を配置する。これにより、測定点における測定対象物の線速度の向きと上記速度測定方向とを一致させることができる。このとき、この線速度測定方法で演算される測定対象物の相対移動速度が、測定点において該測定対象物の線速度そのものとなる。
【0014】
上記測定手段は、上記軌道上の各点における測定対象物からの反射波を受波する。この測定手段に受波された反射波から求められる相対移動速度は、上述したように上記測定対象物の線速度の余弦成分であるため、該測定手段を測定点における測定対象物の進行方向に配置した場合には、測定点における反射波から求められる相対移動速度が一番大きい値を示すことになる。一方、上記測定手段を測定点における測定対象物の進行方向に対して反対方向に配置した場合には、測定点における反射波から求められる相対移動速度が一番小さい値を示すことになる。従って、上記測定手段でサンプリングされたドップラー信号成分のサンプリングデータの中から最大速度に相当する周波数をもつサンプリング値を特定すれば、測定点における測定対象物の相対移動速度を演算することができ、測定対象物の線速度を測定することができる。ここで、最大速度に相当する周波数とは、上記測定手段を測定点における測定対象物の進行方向に配置した場合には最大周波数を意味し、進行方向に対して反対方向に配置した場合には最小周波数を意味する。
【0015】
特に、請求項2の発明は、請求項1の略円運動体の線速度測定方法において、上記測定対象物からの反射波のドップラー信号成分をサンプリングするとき、該測定対象物がとり得る速度範囲に相当する周波数をもつドップラー信号成分のみをサンプリングすることを特徴とするものである。
【0016】
この線速度測定方法においては、測定対象物がとり得る速度範囲を予測してその速度範囲内のものだけをサンプリングするので、ノイズによる影響を少なくすることができる。
【0017】
また、請求項1の発明は、上記サンプリングデータの中から上記特定サンプリング値を特定する場合、該サンプリングデータの周波数の経時変化に基づいて該サンプリングデータの中に該特定サンプリング値が含まれているか否かを判定し、含まれていると判定したときにはそのサンプリングデータの中から該特定サンプリング値を特定し、一方、含まれていないと判定したときには再び上記測定対象物からの反射波のドップラー信号成分をサンプリングする。
【0018】
よって、請求項1の線速度測定方法は、サンプリング数を限定して上記特定サンプリング値を有するサンプリングデータを得るまでサンプリングを繰り返し行うリアルタイムでの処理が可能となる。このリアルタイムで処理する方法を用いれば、運動中の測定対象物によるドップラー信号成分を全てサンプリングした後にバッチ処理で行う方法に比べて、サンプリングデータを記憶する記憶手段の記憶容量を小さく抑えることが可能となる。また、バッチ処理で行う方法では、測定開始及び終了を装置に知らせる手段も必要になり、装置構成が複雑化するという不具合があるが、そのような不具合も解消される。
【0019】
ところで、通常、サンプリング数やサンプリング間隔は、サンプリングデータの周波数の経時変化を判定できるように、測定対象物がとり得る速度範囲に対応して設定される。従って、ほとんど経時変化のないサンプリングデータを得た場合には、そのサンプリングデータはノイズかあるいは等速運動する他の反射対象物によるものと考えられる。
【0020】
そこで、請求項1では、このようなノイズ等によるサンプリングデータを排除するようにしている。すなわち、請求項1の発明は、上記サンプリングデータの周波数の経時変化が、単位時間当たり所定の小さな範囲内の変化量で変化する速度変化(以下、「所定の不変傾向」という。)に相当するときには、該サンプリングデータの中に該特定サンプリング値が含まれていないと判定する。
ここで、「単位時間当たり所定の小さな範囲内の変化量」とは、測定対象物の速さの時間に対する傾きが規定範囲内に収まるような速度変化のことであり、該速さがほとんど変化しない程度の速度変化を意味する。
【0021】
この線速度測定方法においては、所定の不変傾向に相当するサンプリングデータを排除することでノイズ等を除去し、誤計測の要因を低減することができる。
【0022】
また、上述した請求項1の線速度測定方法では、全てのサンプリングデータのうちの一部のサンプリングデータ内に特定サンプリング値が含まれているか否かを判定する。しかし、上記判定によって「特定サンプリング値が含まれていない」と判定された場合には、再びサンプリングを開始して再度上記判定を行うことになる。このため、例えば、1回目のサンプリングデータの判定を行っている間、すなわち、その1回目のサンプリングと2回目のサンプリングとの間にちょうど特定サンプリング値が存在してしまった場合、該特定サンプリング値をサンプリングし損ねてしまうことがある。この場合には、線速度測定を行うことができない。
【0023】
そこで、請求項3及び4では、上記特定サンプリング値付近のサンプリングデータも抽出できるようにしている。すなわち、請求項3の発明は、請求項1又は2の略円運動体の線速度測定方法において、上記サンプリングデータの周波数の経時変化が、上記測定対象物の速度の大きさが単位時間当たり第1規定値以上の変化量で増加した後、単位時間当たり第2規定値以下の変化量で増加する速度変化に相当するときには、該サンプリングデータの中に該特定サンプリング値が含まれていると判定することを特徴とするものである。この線速度測定方法における判定対象となるサンプリングデータは、比較的大きい変化量で増加した後にほぼ一定となるような速度変化に相当するものである。
【0024】
また、請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の略円運動体の線速度測定方法において、上記サンプリングデータの周波数の経時変化が、上記測定対象物の速度の大きさが単位時間当たり第3規定値以上の変化量で減少した後、単位時間当たり第4規定値以下の変化量で減少する速度変化に相当するときには、該サンプリングデータの中に該特定サンプリング値が含まれていると判定することを特徴とするものである。この線速度測定方法における判定対象となるサンプリングデータは、ほぼ一定の状態から比較的大きい変化量で減少するような速度変化に相当するものである。
【0025】
上記請求項3の線速度測定方法においては、単位時間当たり第2規定値以下の変化量で増加する特定サンプリング値の直前にあるサンプリングデータを抽出することができる。また、上記請求項4の線速度測定方法においては、単位時間当たり第3規定値以上の変化量で減少する特定サンプリング値の直後にあるサンプリングデータを抽出することができる。
一方で、上記請求項3及び4において判定されるサンプリングデータが上述した請求項1の所定の不変傾向に該当してしまうとこれらサンプリングデータがノイズ等と判断されてしまうので、請求項3及び4の線速度測定方法では、第1規定値及び第4規定値を設定して、請求項1との区別を図っている。
【0026】
また、上記請求項3及び4の線速度測定方法で判定される特定サンプリング値付近のサンプリングデータは、上述した理由により必要とされるのに対して、該特定サンプリング値から時間的に離れたサンプリングデータは不要のものである。そこで、請求項5では、この不要なサンプリングデータを排除している。すなわち、請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の略円運動体の線速度測定方法において、上記サンプリングデータの周波数の経時変化が、上記測定対象物の速度の大きさが単位時間当たり上記第1規定値以上の変化量で増加する速度変化(以下。「所定の増加傾向」という。)に相当するときには、該サンプリングデータの中に上記特定サンプリング値が含まれていないと判定することを特徴とするものである。
【0027】
この線速度測定方法では、常に所定の増加傾向をもつサンプリングデータを上記特定サンプリング値よりも前の時間的に離れたものと判断し、このようなサンプリングデータを排除している。
【0028】
また、特定サンプリング値よりも後ろのサンプリングデータも同様に不要のものである。しかし、上記請求項3及び4の線速度測定方法を採用して特定サンプリング値付近のサンプリングデータを抽出するようにしても、やはりサンプリングデータをサンプリングし損ねてしまう場合が起こり得る。この場合、その測定における線速度を全く知ることができない。
【0029】
そこで、請求項6では、特定サンプリング値よりも後のサンプリングデータであっても抽出できるようにしている。すなわち、請求項7の発明は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の略円運動体の線速度測定方法において、上記サンプリングデータの周波数の経時変化が、上記測定対象物の速度の大きさが単位時間当たり第4規定値以下の変化量で減少する速度変化(以下、「所定の減少傾向」という。)に相当するときには、該サンプリングデータの中に該特定サンプリング値が含まれていると判定することを特徴とするものである。
【0030】
この線速度測定方法においては、所定の減少傾向に相当するサンプリングデータ中に特定サンプリング値が含まれていると判定することにより、その測定における線速度を全く知ることができずにNGになる頻度を少なくすることができる。また、このようなサンプリングデータは特定サンプリング値からあまり離れたものではないと考えられ、しかも該特定サンプリング値付近では周波数の経時変化が非常に小さい。従って、このサンプリングデータ中に特定サンプリング値が含まれていると判定してもその誤差は少なく抑えることができる。
【0031】
請求項7の発明は、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の略円運動体の線速度測定方法において、上記サンプリングデータの中から上記特定サンプリング値を特定するとき、移動平均法を用いて該サンプリングデータの移動平均値を計算し、該移動平均値の中から最大速度に相当する周波数をもつ移動平均値を特定することを特徴とするものである。
【0032】
この線速度測定方法においては、サンプリングしたドップラー信号成分のサンプリングデータをそのまま用いるのではなく、該サンプリングデータの移動平均値を計算して、その移動平均値の中から最大速度に相当する周波数をもつ移動平均値を特定する。これにより、サンプリングデータ中にノイズが含まれている場合であっても、該ノイズによる測定誤差を軽微に抑えることができる。
【0033】
上記第2の目的を達成するために、請求項8の発明は、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の略円運動体の線速度測定方法において、上記波として、超音波、電波又はコヒーレントな光を用いたことを特徴とするものである。
【0034】
この線速度測定方法においては、超音波、電波又はコヒーレントな光を利用して速度測定するので、従来の光電式の速度測定装置のように太陽光の影響を受けることがない。
【0035】
上記第1の目的を達成するために、請求項9の発明は、所定周波数の基準信号に基づいて生成された波を測定対象物に向けて送波する送波手段と、該測定対象物からの反射波を受波する受波手段と、該反射波のドップラー信号成分に基づいて該測定対象物の相対移動速度を演算する速度演算手段とを備えた略円運動体の線速度測定装置において、上記測定対象物からの反射波のドップラー信号成分をサンプリングするサンプリング手段と、該サンプリング手段によってサンプリングした複数のドップラー信号成分のサンプリングデータの周波数の経時変化に基づいて該サンプリングデータの中に最大速度に相当する周波数をもつ特定サンプリング値が含まれているか否かを判定し、含まれていると判定したときにはそのサンプリングデータの中から該特定サンプリング値を特定するデータ特定手段とを設け、上記データ特定手段は、上記サンプリングデータの周波数の経時変化が、単位時間当たり所定の小さな範囲内の変化量で変化する速度変化に相当するときには、該サンプリングデータの中に該特定サンプリング値が含まれていないと判定するものであり、上記データ特定手段によって特定された該特定サンプリング値に基づいて上記速度演算手段により上記相対移動速度を演算するとともに、上記判定手段によって含まれていないと判定したときには再び上記サンプリング手段によって上記測定対象物からの反射波のドップラー信号成分をサンプリングすることを特徴とするものである。
【0036】
略円運動で移動する測定対象物の軌道上の所望の測定点に対してその接線方向の延長線上にこの線速度測定装置を配置すると、該測定点における上記測定対象物の線速度の向きと、該線速度測定装置に対する該測定対象物の相対移動速度の向きである速度測定方向とが一致する。このように一致させれば、この線速度測定装置を測定点における測定対象物の進行方向に配置した場合には、測定点における反射波から求められる相対移動速度が一番大きい値を示すことになる。一方、上記線速度測定装置を測定点における測定対象物の進行方向に対して反対方向に配置した場合には、測定点における反射波から求められる相対移動速度が一番小さい値を示すことになる。従って、上記データ特定手段で最大速度に相当する最大周波数若しくは最小周波数をもつサンプリング値を特定すれば、上記速度演算手段によって測定点における測定対象物の相対移動速度を演算することができ、測定対象物の線速度を測定することができる。
【0037】
特に、請求項10の発明は、請求項9の略円運動体の線速度測定装置において、上記サンプリング手段が、上記測定対象物がとり得る速度範囲に相当する周波数をもつドップラー信号成分のみをサンプリングすることを特徴とするものである。
【0038】
この線速度測定装置においては、測定対象物がとり得る速度範囲を予測してその速度範囲内のものだけをサンプリングするので、ノイズによる影響を少なくすることができる。
【0039】
また、請求項11の発明は、請求項9又は10の略円運動体の線速度測定装置において、上記データ特定手段が、上記サンプリングデータの中から上記特定サンプリング値を特定するときに、請求項3乃至6のいずれか1項に記載の略円運動体の線速度測定方法を実行することを特徴とするものである。
【0040】
この線速度測定装置においては、サンプリング手段によってサンプリングしたサンプリングデータの中から特定サンプリング値を特定するデータ特定手段が、請求項3乃至6のいずれか1項に記載の線速度測定方法の処理動作を実行するので、サンプリングデータを記憶する記憶手段の記憶容量を小さく抑え、リアルタイムでの迅速な処理が可能となる。
【0041】
また、請求項12の発明は、請求項9乃至11のいずれか1項に記載の略円運動体の線速度測定装置において、移動平均法を用いて上記サンプリングデータの移動平均値を算出する移動平均算出手段を設け、上記データ特定手段が、該移動平均値の中から最大速度に相当する周波数をもつ移動平均値を特定し、その移動平均値に基づいて上記速度演算手段により上記相対移動速度を演算することを特徴をするものである。
【0042】
この線速度測定装置においては、サンプリングしたドップラー信号成分のサンプリングデータをそのまま用いるのではなく、該サンプリングデータの移動平均値を計算して、その移動平均値の中から最大速度に相当する周波数をもつ移動平均値を特定する。これにより、サンプリングデータ中にノイズが含まれている場合であっても、該ノイズによる測定誤差を軽微に抑えることができる。
【0043】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を、スイング時において略円運動する略円運動体であるバットの線速度すなわち該バットのヘッド速度を測定するヘッド速度測定装置(以下、単に「測定装置」という。)に適用した一実施形態について説明する。本実施形態では、この速度測定に使用する波として超音波を利用し、この超音波を測定対象物であるスイング中のバットのヘッド部分に向けて送波する。そして、このバットから反射してきた反射波のドップラー効果を利用して該バットのヘッド速度を測定する。
【0044】
まず、本実施形態に係る測定装置によってバットのヘッド速度を測定するための測定システム全体の構成について説明する。この測定システムにおいては、バットのスイング中にボールがインパクトする位置すなわちボールの進行方向に対してバットが垂直になる位置におけるヘッド速度を測定する。
【0045】
図1は、本実施形態における測定システムの概略構成図である。この測定システムでは、上記測定装置1は、バッター3が打席に立ってバット2をスイングするときのピッチャー方向に配置されている。バッター3がバット2をスイングしたとき、そのヘッド部分2aは図1中破線矢印Aに示す軌道に沿って略円軌道を描いて移動する。尚、以下の説明では、上記測定装置1と測定点におけるヘッド部分2aの位置とを結ぶ方向をX方向という。
【0046】
次に、上記測定装置1の構成について説明する。
図2は、本実施形態に係る測定装置1を示すブロック図である。この測定装置1は、送波手段としての超音波送波部10と、受波手段としての超音波受波部20と、信号処理部30と、報知手段としての表示部40とを備えている。以下、各部の構成及び動作に説明する。
【0047】
まず、上記超音波送波部10の構成及び動作について説明する。この超音波送波部10は、所定周波数Foの基準信号に基づいて超音波を連続的にバット2のヘッド部分2aに向けて送波する。この超音波送波部10は、所定周波数Foの基準信号を発生させるための基準発振器11と、該基準信号を所定レベルにまで増幅する出力増幅器12と、該出力増幅器で増幅された所定の電気信号を超音波に変換する超音波送波器13とを備えている。
【0048】
次に、上記超音波受波部20の構成及び動作について説明する。この超音波受波部20は、上記超音波送波部10から送波された超音波が上記バット2に反射され、その戻ってきた反射波を含む超音波を受波し、受波した超音波の受信信号の中からドップラー信号成分を抽出する。この超音波受波部20は、超音波を電気信号に変換する超音波受波器21と、該超音波受波器から出力される微弱な受信信号を増幅する前置増幅器22と、該前置増幅器から出力された受信信号の中から上記超音波送波部10からの直接波及び静止物体からのドップラーシフトを受けていない反射波を除去するノッチフィルタ25と、該ノッチフィルタを通過したドップラー信号成分がとり得る周波数帯域によって該ドップラー信号成分を選択的に通過させるフィルタ群26と、該フィルタ群を通過した複数のドップラー信号成分をそれぞれ検出する信号検出器群27と、該信号検出器群の検出結果に基づいてヘッド部分2aによるドップラー信号成分を選択する信号選択部28と、該信号選択部の選択結果に基づいて該フィルタ群から出力される複数のドップラー信号成分の中の1つを出力する出力切換器29とから構成されている。
【0049】
上記超音波受波器21で受波された超音波は電気信号に変換された後、上記前記増幅器22によって増幅されて上記ノッチフィルタ25に入力される。このノッチフィルタ25によって、上記超音波送波部10から送波される超音波の基準信号と同じ周波数である基準周波数Foの信号成分を選択的に減衰させ、後段の回路の飽和を防ぐことができる。
【0050】
このノッチフィルタ25は、その減衰帯域の中心周波数が該基準周波数Foに設定されている。これにより、上記超音波送波部10から直接伝搬した強い超音波を減衰させて、受波した超音波の中から上記バット2からの微弱な反射波を効率よく抽出することができる。上記ノッチフィルタ25としては、例えば、ローパスフィルタ及びハイパスフィルタのカットオフ周波数を同じにしたものを並列に組み合わせて構成したものを利用することができる。この場合、比較的Qの高い特性を得ることができる。尚、このノッチフィルタ25の基本波信号成分に対する減衰率は、後段の回路において所定の信号処理を行えるように適宜設定される。
【0051】
上記フィルタ群26は、上記バット2からの反射波によるドップラー信号成分がとり得る周波数帯域を5つに分割して得られた5つの周波数帯域(HH,HL,M,LH,LL)のみをそれぞれ通過させる5個のバンドパスフィルタ(BPF1,BPF2,BPF3,BPF4,BPF5)から構成されている。上記ノッチフィルタ25から出力されて5つに分岐されたドップラー信号成分は、上記各バンドパスフィルタ(BPF1,BPF2,BPF3,BPF4,BPF5)にそれぞれ入力される。そして、各バンドパスフィルタを通過したそれぞれの帯域信号Se(SeHH〜SeLL)は、信号検出器群27及び出力選択器29に出力される。尚、上記フィルタ群26に設けられるバンドパスフィルタの個数は、5個に限定されるものではなく、測定速度範囲や要求される測定精度に応じて適宜決定される。
【0052】
上記フィルタ群26に使用する各バンドパスフィルタ(BPF1,BPF2,BPF3,BPF4,BPF5)は、例えば、上記基準信号の周波数Foを32.768kHzとし、測定速度範囲を50〜180km/hとした場合には、ドップラー信号成分がとり得る周波数帯域は、35.5k〜43.9kHzとなるので、上記フィルタ群26の各バンドパスフィルタ(BPF1,BPF2,BPF3,BPF4,BPF5)の中心周波数をそれぞれ36.3kHz、38.0kHz、39.7kHz、41.4kHz、43.1kHzに設定し、通過帯域幅を1.7kHzに設定する。
【0053】
上記フィルタ群26を通過した各帯域信号Seは上記信号検出器群27に入力される。この信号検出器群27は、上記フィルタ群26に設けられたバンドパスフィルタの個数に対応した5つの信号検出器から構成されている。これら信号検出器は、各信号検出器において予め設定されている閾値よりも上記バンドパスフィルタから出力された帯域信号Seの方が大きな信号レベルをもつ場合に、検出信号Sfを上記信号選択部28に出力する。
【0054】
また、上記フィルタ群26を通過した各帯域信号Seは上記出力切換器29にも入力される。この出力切換器29は、上記信号選択部28の制御の下で、入力された帯域信号Seのうちの1つの信号Shを上記信号処理部30に出力する。
【0055】
上記信号選択部28は、上記信号検出器群27から出力された検出信号Sfの中から最も周波数の高い検出信号を選択し、上記出力切換器29を制御して、選択した検出信号Sfに対応する帯域信号Shを上記信号処理部30に出力させる。すなわち、この信号選択部28は、上記超音波受波器21によって受波した超音波のドップラー信号成分の中から最も周波数が高いものを選択する。
【0056】
このようにドップラー信号成分の中から最も高い周波数を選択するのは、上記超音波受波器21で受波される超音波のドップラー信号成分が必ずしもバット2のヘッド部分2aからのものであるとは限らないからである。具体的に説明すると、ドップラーシフトを受けた反射波を発生させる物体が上記ヘッド部分2aのみであれば、上記超音波受波器21で受波した超音波のドップラー信号成分は1つであると考えることができる。しかし、上記超音波送波部10から送波される超音波は、回析によって広がりながら進行するため、測定対象であるヘッド部分2aのみに当てることはほぼ不可能である。このため、上記超音波受波器21にはヘッド部分2aからの反射波以外に、例えば、バットの胴体部分やグリップ部分、該バットをスイングするバッターの腕や身体などからの反射波も受波されることになる。上記超音波受波器21に受波される反射波は各反射対象物によってそれぞれ異なるドップラーシフトを受けている。従って、上記超音波受波器21には周波数の異なる複数の反射波が受波されることになり、その受信信号は周波数の異なる複数のドップラー信号成分が重畳したものとなる。このため、バット2のヘッド速度を正確に測定することができないおそれがある。
【0057】
しかし、測定対象物であるヘッド部分2aは、バッター3の身体を中心に略円運動するので、本実施形態における測定範囲内に存在する反射対象物の中で最も速度が速いと考えられる。従って、このヘッド部分2aによるドップラー信号成分は、受波されたドップラー信号成分の中で最も高い周波数をもつことになる。よって、このドップラー信号成分の中から最も高い周波数をもつものを選択すれば、上記ヘッド部分2aからの反射波に基づくドップラー信号成分を得ることができる。そこで、本実施形態では、上記フィルタ群26、上記信号検出器群27及び上記信号選択部28を用いてドップラー信号成分の中から最も周波数が高いものを選択し、そのドップラー信号成分を速度演算に使用するように構成している。
【0058】
次に、上記信号処理部30の構成及び動作について説明する。この信号処理部30は、上記超音波受波部20の出力切換器29から連続的に出力される帯域信号Shの周波数Fiを計測する周波数計測器31と、該周波数計測器で計測された周波数データの中からヘッド部分2aの軌道上における測定点の周波数データを特定するデータ特定手段としてのデータ特定部32と、該データ特定部で特定された周波数データに基づいて速度を演算する速度演算手段としての速度演算部33と、気温による音速変動を補正するために気温を計測する温度計測器34とから構成されている。
【0059】
上記出力切換器29から出力された帯域信号Shは、上記周波数計測器31によって等時間間隔でサンプリングし、上記データ特定部32に出力する。ここで計測される周波数Fiは、図1中に示すX方向におけるドップラーシフトを受けたものである。
【0060】
以下、本発明の特徴部分であるデータ特定部32のデータ処理動作について説明する。
図3は、上記データ特定部32のデータ処理動作を示すフローチャートである。本実施形態では、スイング中のヘッド部分2aのドップラー信号成分の周波数データ中の連続する15個の周波数データをサンプリングし、このサンプリングデータの経時変化に基づいて特定サンプリング値である測定点の周波数データを特定する。ここでは、サンプリング数が15個の場合について説明するが、このサンプリング数はサンプリング間隔や測定精度等に応じて適宜設定される。尚、上記データ特定部32には、サンプリングした周波数データの数をカウントする図示しないデータ数カウンターが設けられており、該データ数カウンターの初期状態は「1」に設定されている。
【0061】
上記データ特定部32では、まず、上記周波数計測器31によって計測された1個目の周波数データを取り込み(S1)、該周波数データが予め設定された規定速度範囲内にある速度に対応するものであるか否かを判断する(S2)。本実施形態における規定速度範囲は、後述する速度演算部33の演算処理によって速度が50〜180km/hとなる周波数範囲に設定されている。これは、取り込んだ周波数データが50km/hよりも小さい速度に対応するものである場合には該周波数データはバッター3の身体等からの反射波によるものであると考えられ、また、バットのヘッド速度測定では180km/hよりも大きい速度の必要性が低いため、このような速度範囲も除外している。
【0062】
上記S2において周波数データが規定速度範囲内のものであると判断された場合には、この周波数データを1個目の周波数データとしてメモリ35に格納する(S3)。一方、上記周波数データが規定速度範囲内のものではないと判断された場合には、上記周波数計測器31からの新しい周波数データを再び1個目の周波数データとして取り込みを開始する(S1)。
【0063】
上記S3において1個目の周波数データをメモリに格納したら、上記周波数計測器31からの新しい周波数データを2個目の周波数データとして取り込み(S4)、上記S2と同様に該周波数データが上記規定速度範囲内のものであるか否かを判断する(S5)。このとき、取り込んだ2個目の周波数データが規定速度範囲内のものでないと判断された場合には上記データ数カウンターをリセットする(S6)。そして、この2個目の周波数データを1個目の周波数データとして上記メモリ35に格納し(S3)、上記周波数計測器31からの新しい周波数データを再び2個目の周波数データとして取り込みを開始する(S4)。
【0064】
上記S5において2個目の周波数データが規定速度範囲内のものであると判断された場合には、この2個目の周波数データと、1つ前に取り込まれた1個目の周波数データとの差の絶対値を算出し(S7)、この絶対値が予め設定された規定変動範囲内にある速度に対応するものであるか否かを判断する(S8)。本実施形態における規定変動範囲は、後述する速度演算部33の演算処理によって速度が5km/h以下となる周波数範囲に設定されている。この周波数範囲は、大量のバットスイングやゴルフスイングの実測データに基づいて最適であるとされた範囲である。これは、最上記データ特定部32の周波数データ取込間隔が360μsecであり、この時間内に5km/h以上の速度変動があるものはノイズであると考えられるためである。また、ヘッド部分2aが測定点に達するまでは、他の反射対象物によって周波数データの経時変動に大きなバラツキが生じるため、その部分のデータを排除して該ヘッド部分のX方向速度に対応した周波数データのみをサンプリングするためでもある。この理由については後述する。
【0065】
上記S8において上記絶対値が規定変動範囲内にないと判断された場合には、上記S6に移行して上記データ数カウンターをリセットした後(S6)、上記2個目の周波数データを1個目の周波数データとして上記メモリ35に格納し(S3)、上記周波数計測器31からの新しい周波数データを再び2個目の周波数データとして取り込みを開始する(S4)。
【0066】
一方、上記S8において上記絶対値が規定変動範囲内にあると判断された場合には、上記データ数カウンターを1増加させる(S9)。そして、このデータ数カウンターが規定値に達したか否かを判断する(S10)。本実施形態では、周波数データのサンプリング数が15個であるため、この規定値は15に設定されている。ここでは、まだ2個目の周波数データしか取り込んでいないため、上記S10においてデータ数カウンターがまだ規定値に達していないと判断される。この場合、再び上記S3に戻ってこの2個目の周波数データを上記メモリ35に格納し(S3)、上記周波数計測器31からの新しい周波数データを3個目の周波数データとして取り込みを開始する(S4)。以後、上記データ数カウンターが規定値に達したと判断されるまで上記S10までの工程を繰り返す。
【0067】
このように、連続する15個の周波数データをサンプリングして上記S10においてデータ数カウンターが規定値に達したと判断されたら、上記1〜15個目の周波数データの経時変化を示すこれら周波数データの傾きの外形が、図4に示す予め設定された判定基準のどれに該当するかの傾き判定を行う(S11)。
【0068】
ここで、図4に示す判定基準について説明する前に、スイング中のバット2の運動状態について説明する。
図5は、スイング時におけるバット位置の経時変化を示す概略図である。この図は、バッター3によってスイングされたバット2を鉛直方向上方から1/60秒間隔で撮影して得たものである。図中、白丸はバット2のグリップ部分を示し、黒丸は該バットのヘッド部分を示す。また、測定点Oはボールのインパクト時のヘッド部分2aが位置する点であり、上記測定装置1はX軸上に配置されている。
【0069】
図5に示すように、上記ヘッド部分2aの軌道は、スイング開始当初はバッター3の身体を中心として略円軌道を描き、バット2のグリップ部分の位置がバッターの正面すなわち図中Y軸上に来たら、今度は該グリップ部分が固定されてこれを中心に略円軌道を描く。そして、上記ヘッド部分2aがY軸上を通過してしばらくすると、該ヘッド部分は再びバッター3の身体を中心に略円運動を行う。
【0070】
上記ヘッド部分2aが上記測定点Oを通過するまでのヘッド速度のX方向成分VXは、図5に示すように、該軌道の接線方向とX方向のなす角θにおける該ヘッド速度Vの余弦となる。また、このX方向成分VXは測定点Oに達したときに最大となり、ヘッド速度Vそのものとなる。
【0071】
図6は、図5に示すバットスイング時における測定範囲内のX方向において測定される速度(以下、「X方向速度」という。)と時間との関係を示すグラフである。このグラフの外形は、スイング開始時からしばらくの間は速度変動にバラツキがあり、途中で1度落ち込んで後、ほぼ正弦波形を示して減少する。尚、この外形の特徴は、何度測定を行ってもほぼ同様であった。
【0072】
図6に示すグラフから推測すると、測定範囲内において、スイング開始時では、バッター3の身体や腕等の他の反射対象物、特にバット2のグリップ部分におけるX方向速度がヘッド部分2aのものよりも速く、しかもこのような他の反射対象物が複数存在するため、速度変動にバラツキが出てしまうと考えられる。また、しばらくすると、急激に速度が落ち込む部分が存在するが、この部分は、図5でも示したようにグリップ部分の動きが一度止まったときのものであると考えられる。具体的には、バッター3がバット2をスイングする場合、通常、該バットのグリップ部分が身体の側方から正面に高速で移動するので、ここまでのスイング動作中ではこのグリップ部分のX方向速度が最も速いと考えられる。従って、このグリップ部分が身体の正面に来て動きを止めたことにより、測定範囲内のX方向速度が一時的に落ち込んだものと考えられる。
【0073】
このように落ち込んだ後は、急速に速度が上昇し、最速点に達してからほぼ正弦波形を示して減少する。上述のようにグリップ部分が止まった後、図5に示したようにバット2は該グリップ部分を中心に回転し始め、今度はそのヘッド部分2aのX方向速度が増加してくる。しばらくすると、このヘッド部分2aのX方向成分VXが測定範囲内の他の反射対象物のX方向速度よりも速くなる。従って、上述のように落ち込んだ後は、上記X方向成分VXのみが測定されることになり、図6に示すグラフにおいてはバラツキの少ない正弦波形が得られることになると考えられる。
【0074】
以上、スイング中のバットの運動状態について考察した結果、図6におけるグラフにおいて落ち込んだ後に得られる最速点が、図5における測定点Oにおけるヘッド速度VのX方向成分VXであると考えられる。これは、測定点Oに光電センサを設置し、図6に示した速度測定と並行して測定したとき、該光電センサの反応と最速点とがほぼ同一タイミングであったことにより確認されている。そこで、上記S11では、測定範囲内のX方向速度を示す15個の周波数データの時間に対する傾きの表す外形が、図4に示す判定基準A〜Fのどれに該当するかを判定することにより、サンプリングされた周波数データの中に測定点Oにおける周波数データが含まれているか否かを判定する。
【0075】
図4において、判定基準Aに示す傾きの外形は、ヘッド部分2aのX方向成分VXが、1個目の周波数データの計測時から所定の増加傾向をもつ場合を示している。すなわち、この判定基準Aに該当する場合、サンプリングされた周波数データは、バッター3がバット2をスイングし始めてからそのヘッド部分2aが測定点Oに達していないときのものであると言える。この場合、これら周波数データ中には測定点Oにおける周波数データが含まれていない。従って、上記S11においてこの判定基準Aに該当すると判定された場合には、上記S6に移行して上記データ数カウンターをリセットした後(S6)、最後に取り込んだ15個目の周波数データを1個目の周波数データとして上記メモリ35に格納し(S3)、上記周波数計測器31からの新しい周波数データを再び2個目の周波数データとして取り込みを開始する(S4)。
【0076】
判定基準Bに示す傾きの外形は、上記X方向成分VXが、1個目の周波数データの計測時から所定の増加傾向をもった後にほぼ一定とみなすことができる程度になった場合を示している。すなわち、この判定基準Bに該当する場合、サンプリングされた周波数データは、ヘッド部分2aが測定点O前から該測定点にほぼ達したときのものであると言える。従って、上記S11においてこの判定基準Bに該当すると判定された場合には、サンプリングした周波数データ中に測定点Oにおける周波数データが含まれているとして、これら周波数データを次のデータ処理工程に移行する。
【0077】
判定基準Cに示す傾きの外形は、上記X方向成分VXが、1個目の周波数データの計測時から不変傾向をもつ場合を示している。本実施形態で設定した周波数データ取込間隔及びそのサンプリング数の場合、上記判定基準Cのように速度変化がほとんどないということは考えにくく、この周波数データはむしろ超音波ノイズである可能性の方が高い。従って、上記S11においてこの判定基準Cに該当すると判定された場合には、上記S6に移行して上記データ数カウンターをリセットした後(S6)、最後に取り込んだ15個目の周波数データを1個目の周波数データとして上記メモリ35に格納し(S3)、上記周波数計測器31からの新しい周波数データを再び2個目の周波数データとして取り込みを開始する(S4)。
【0078】
判定基準Dに示す傾きの外形は、上記X方向成分VXが、1個目の周波数データの計測時から予め設定された規定値以上の傾きをもって増加した後に予め設定されたもう1つの規定値以下の傾きをもって減少する場合を示している。すなわち、サンプリングした周波数データの中央部分にピークをもつ場合を示している。この判定基準Dに該当する場合、サンプリングされた周波数データは、ヘッド部分2aがちょうど測定点Oに達したときのものであると言える。従って、上記S11においてこの判定基準Dに該当すると判定された場合には、サンプリングした周波数データ中に測定点Oにおける周波数データが含まれているとして、これら周波数データを次のデータ処理工程に移行する。
【0079】
判定基準Eに示す傾きの外形は、上記X方向成分VXが、1個目の周波数データの計測時からしばらくの間はほとんど変化せず、その後所定の減少傾向をもつ場合を示している。すなわち、この判定基準Eに該当する場合、サンプリングされた周波数データは、ヘッド部分2aが測定点Oに達して通過したときのものであると言える。従って、上記S11においてこの判定基準Eに該当すると判定された場合には、サンプリングした周波数データ中に測定点Oにおける周波数データが含まれているとして、これら周波数データを次のデータ処理工程に移行する。
【0080】
判定基準Fに示す傾きの外形は、上記X方向成分VXが、1個目の周波数データの計測時から所定の減少傾向をもつ場合を示している。すなわち、この判定基準Eに該当する場合、サンプリングされた周波数データは、ヘッド部分2aが測定点Oを通過した後のものであると言える。この場合、これら周波数データ中には測定点Oにおける周波数データが含まれていない可能性がある。しかし、上記S5やS8において何度もデータ数カウンタがリセットされた場合、S1〜S10までの処理工程を繰り返しているうちに、測定点Oにおける周波数データをとり過ごしてしまうことがある。
【0081】
今までの判断基準A〜Eに該当しないでこの判定基準Fに該当したということは、この周波数データが測定点O直後にサンプリングされたものであると考えられ、また、この測定点O付近では図6に示すようにX方向成分VXの速度変動は非常に少ない。従って、これら周波数データ中に測定点Oの周波数データが含まれていると推定することができる。そこで、上記S11においてこの判定基準Eに該当すると判定された場合には、サンプリングした周波数データ中に測定点Oにおける周波数データが含まれていると推定し、これら周波数データを次のデータ処理工程に移行する。
【0082】
上記S11において上述した判定基準A〜Fのどれに該当するかを判定する場合、本実施形態ではサンプリングした1個目と8個目と15個目の周波数データを用いて各判定基準A〜Fとの比較を行う。尚、このS11においてはサンプリングした周波数データが上述した判定基準A〜Fのどれに該当するのかを判定できればよく、上述した3つの周波数データを用いて比較する以外にも、例えば、2個目と8個目と14個目の周波数データを用いて比較したり、1、2及び3個目の平均値と、7、8及び9個目の平均値と、13、14及び15個目の平均値とを用いて比較したりしてもよい。また、このように3つの周波数データを用いて各判定基準のどれに該当するかを判定する方法以外に、例えば、適宜選択した4つや5つの周波数データ若しくは全ての周波数データを用いて判定してもよい。
【0083】
また、このS11において、サンプリングした周波数データの傾きが増加しているのか、一定であるのか、あるいは減少しているのかを判断する際、場合によっては判定基準A〜Fのどの判断基準に該当するのかが曖昧になるが、その区別が明確となるような規定値や所定範囲を適切に設定する必要がある。この規定値や所定範囲は、測定対象物の速さその他の運動特性に応じて適宜設定する。本実施形態では、どの判定基準に該当するかの判断を以下のように行う。このとき、どの判定基準にも該当しないデータはNGとして、上記判定基準A及びCと同様の処理を行う。
【0084】
1)判定基準A
少なくとも8個目の周波数データよりも15個目の周波数データの方が大きく、これらデータに相当する速度の差が2Km/h以上の時。
本実施形態では、1個目と8個目との関係は無視する。
2)判定基準B
1個目の周波数データよりも8個目の周波数データの方が大きく、これらデータに相当する速度の差が10Km/h以下であって、かつ、
8個目の周波数データよりも15個目の周波数データの方が大きく、これらデータに相当する速度の差が2Km/h以下の時。
3)判定基準C
1個目と8個目の周波数データの差に相当する速度差が1Km/h以下であって、かつ、
8個目と15個目の周波数データの差に相当する速度差が1Km/h以下の時。
4)判定基準D
1個目の周波数データよりも8個目の周波数データの方が大きく、これらデータに相当する速度の差が1Km/h以上10Km/h以下であって、かつ、
8個目の周波数データよりも15個目の周波数データの方が小さく、これらデータに相当する速度の差が1Km/h以上10Km/h以下の時。
5)判定基準E、F
1個目の周波数データよりも8個目の周波数データの方が小さく、これらデータに相当する速度の差が10Km/h以下であって、かつ、
8個目の周波数データよりも15個目の周波数データの方が小さく、これらデータに相当する速度の差が10Km/h以下の時。
【0085】
尚、上記判定基準についてはこれに限定されるものではなく、測定速度範囲や測定対象物に応じて適宜設定すればよい。
【0086】
このようにして図4に示す判定基準B,D,E,Fのいずれかに該当した周波数データは、次にその移動平均値を計算する(S12)。具体的には、1、2及び3個目の周波数データを足して3で割り、次に2、3及び4個目の周波数データを足して3で割るという計算を順次行い、その計算結果を上記メモリ35に格納する。取り込んだ周波数データが上記S8において規定変動範囲内にあると判断された場合であってもその周波数データにノイズが含まれている可能性があるので、このように移動平均値を算出すれば、次のS13で最大値を検出するときにノイズによる最大値の誤差を低減することができる。ここでは、移動平均値を算出する際に3つのデータを用いたが、4つや5つのデータから移動平均値を算出してもよい。
【0087】
次に、これら移動平均値の中の最大値を検出する(S13)。上述したように、サンプリングした周波数データ中の最大値を示す周波数データが測定点Oにおけるヘッド部分2aのものであるので、上記S12で計算した移動平均値の中の最大値を検出することで、測定点Oにおけるヘッド部分2aの周波数データを特定することができる。
【0088】
以上、上記データ特定部32において、測定点Oにおけるヘッド部分2aの周波数データを特定したら、特定した周波数データを上記速度演算部33に出力する。この速度演算部33では、上記データ特定部32で特定された周波数FiMAXと上記超音波送波部10の基準発振器11から出力される基準周波数Foとから、数1に示す演算式に基づいて測定点OにおけるX方向成分VXを演算する。このとき、測定点OにおけるX方向成分VXはヘッド速度Vそのものであるので、この数1から直接ヘッド速度Vを算出できる。ここで、数1に示す演算式中の記号Cは音速を示している。
【0089】
【数1】
FiMAX−Fo=2・V・Fo/(C−V)
【0090】
また、上記数1に示す演算式で使用する音速Cは気温によって変動するので、正確な速度測定を行うためにはこの気温による音速変動を補正する必要がある。そこで、本実施形態では、上記温度計測器34によって計測された気温に基づいて数2に示す演算式から正確な音速を算出し、上記数1の演算式で使用する音速Cを補正する。尚、数2に示す演算式中の記号tは上記温度計測器34によって計測される気温を示している。
【0091】
【数2】
C=331.5+0.6・t 〔m/sec〕
【0092】
このようにして演算されたヘッド速度Vは、上記表示器40に送られて、文字情報として利用者に表示される。尚、本実施形態では、測定したヘッド速度Vを報知する報知手段としてヘッド速度Vを表示器40に表示して出力する表示手段を用いた構成について説明したが、これ以外にも例えば測定したヘッド速度Vを音声で出力する音声出力手段を用いてもよい。
【0093】
以上、本実施形態によれば、略円運動体であるバット2のヘッド部分2aの線速度すなわち該バットのヘッド速度を正確に測定することができる。また、本実施形態に係る測定装置1は、サンプリング数を15個に限定してリアルタイムでデータ処理を行うので、バットスイングしたらすぐにそのヘッド速度を表示させることができる。また、このようにサンプリング数を限定することで、全部のデータをサンプリングしてからデータ処理を行う場合に比べて、上記メモリ35のメモリ容量は小さくすることができ、装置の低コスト化、小規模化を図ることができる。
【0094】
〔変形例1〕
次に、本実施形態におけるデータ特定部32のデータ処理工程の変形例(以下、本変形例を「変形例1」という。)について説明する。
上記S1やS4において上記データ特定部32に取り込まれる周波数データの中には、上記ヘッド部分2aからのドップラー信号成分によるもの以外のノイズ成分が含まれる。上記実施形態で説明したデータ処理工程においては、このようなノイズ成分による周波数データを取り込んだ場合、上記S5においては規定速度範囲内にないとして、又は上記S8においては規定変動範囲内にないとして、上記S6に移行しデータ数カウンターがリセットされる。従って、上記実施形態のようにサンプリング数が15個に設定されている場合、例えば11個目に取り込んだ周波数データがノイズ成分であると判断されたときには、ここまでサンプリングした10個の周波数データが無駄になってしまう。特に、判定基準EやFに該当するあたりの時間帯でデータ数カウンターがリセットされると、測定点Oにおけるヘッド部分2aの周波数データを取り過ごしてしまい、測定精度が悪化する。
【0095】
そこで、本変形例では、所定数以上、例えば5個以上の周波数データを取り込んだ後にノイズ成分を取り込んでも、データ数カウンターをリセットせずにデータ処理を続行する構成としている。具体的には、5個目までの周波数データを取り込んだ後の例えば6個目の周波数データがノイズ成分であると判断された場合、上記S6及びS3のデータ処理を行わずに、そのまま上記S4に戻って上記周波数計測器31からの新しい周波数データを再び6個目の周波数データとして取り込む。
【0096】
尚、再び6個目の周波数データとして取り込んだ周波数データは、上記S7において2個前の周波数データとの差の絶対値が算出されるので、上記S8における規定変動範囲を一時的に例えば2倍程度に広げるように修正する。また、ノイズ成分があまり多く取り込まれると測定精度の悪化につながるので、例えば、該ノイズ成分の取込回数をカウントするノイズカウンターやノイズフラグを設けて、該ノイズ成分の数が所定数以上になったときにはデータ数カウンターをリセットしてデータ処理工程を最初から開始するように構成するとよい。
【0097】
〔変形例2〕
次に、本実施形態におけるデータ特定部32のデータ処理工程の他の変形例(以下、本変形例を「変形例2」という。)について説明する。
本変形例は、上記変形例1と同様に、データ処理工程の途中でノイズ成分が取り込まれてデータ処理をやり直すことによって発生する不具合を解消するものである。上記変形例1では、ノイズ成分を上記メモリ35に格納せずに無視して、次の新しい周波数データを取り込んでデータ処理を続行するように構成したが、本変形例では、ノイズ成分の前後で取り込まれた2つの周波数データの平均値を計算し、該平均値を該ノイズ成分が格納されるべき場所に格納する。このようにノイズ成分が取り込まれた部分を補完することにより、ほぼ等時間間隔で連続する周波数データをサンプリングすることができ、上記変形例1に比べてより現実に沿ったデータの補完をすることができる。
【0098】
〔変形例3〕
次に、本実施形態におけるデータ特定部32のデータ処理工程の更に他の変形例(以下、本変形例を「変形例3」という。)について説明する。
上述した実施形態並びに変形例1及び2はリアルタイムでデータ処理を行う構成なのでバットスイング中に、取り込んだ各周波数データに対してS3からS11までのデータ処理を行う。本変形例では、周波数データを格納する記憶手段として大容量のメモリを使用し、一旦すべての周波数データを取り込んで該メモリに格納するように構成する。この場合、周波数データをすべて取り込んだ後、上記データ特定部32によって、このメモリに格納された周波数データを用いて上述したデータ処理工程を開始する。
【0099】
〔変形例4〕
次に、本実施形態における信号選択部28の変形例(以下、本変形例を「変形例4」という。)について説明する。
上述した実施形態並びに変形例1、2及び3においては、上記信号検出器群27から同時に複数の検出信号Sfが出力された場合、上記信号選択部28では最も周波数の高い検出信号を選択するようにして、受波したドップラー信号成分の中からヘッド部分2aに対応するものを抽出するように構成されている。しかし、上記信号検出器群27の信号検出器が検出可能な閾値を超える信号レベルをもつ帯域信号Seが1つしか存在しない場合には、該信号検出器群からは1つの検出信号しか出力されない。この場合、上記信号選択部28は、この検出信号に対応する帯域信号Sfをヘッド部分2aに対応するものとして抽出することになる。このため、ヘッド部分2a以外のドップラー信号成分が抽出されることがある。
【0100】
このようにヘッド部分2a以外のドップラー信号成分が抽出された場合、その周波数データによるX方向速度は図6に示したように経時変動が大きい。このため、上記データ特定部32のデータ処理工程におけるS8で規定変動範囲を超えると判断され、測定結果に影響を及ぼすことはほとんどない。しかし、ごく希に、例えばバッター3の身体による周波数データが、上記S8における規定変動範囲内に収まり、かつ、上記S11における判定基準も満たすと判定される場合がある。このような場合、上述した実施形態並びに変形例1、2及び3の測定装置においては、測定点Oにおける周波数データをサンプリングする前に、このバッターの身体の移動速度をヘッド速度として演算して速度測定を終了してしまう。
【0101】
そこで、本変形例においては、上記信号選択部28を、上記信号検出器群27における最も高い周波数帯域HH用の信号検出器からの検出信号Sfのみを受け取り、該検出信号を受け取ったときだけ上記出力切換器29を制御して、該検出信号に対応する帯域信号Shを上記信号処理部30に出力させるように構成している。上述したバッター3の身体等からのドップラー信号成分は、ヘッド部分2aに比べてその周波数帯域が低いため、このようなドップラー信号成分のほとんどは上記周波数帯域HH以外の周波数帯域用の信号検出器に検出される。従って、本変形例においては、上記信号選択部28において、このようなヘッド部分2a以外のドップラー信号成分を速度測定から除去することができ、誤測定を防ぐことが可能となる。
【0102】
上述した実施形態並びに変形例1、2及び3の測定装置は、上記データ特定部32以外の構成が、上記X方向に略直線運動するボール等を測定する従来の速度測定装置とほぼ同じである。また、このデータ特定部32のデータ処理動作は、従来の速度測定装置に設けられた上記信号選択部部28及び速度演算部33の動作を実行するCPU等の演算器によって行うことができる。すなわち、上記データ処理工程をこの演算器を動作させるアルゴリズムで実現すれば、既存の速度測定装置の構造をそのまま利用し、そのアルゴリズムを変更するだけで、略円運動体の線速度を測定することが可能となる。
【0103】
また、これにより、例えば、ボールの球速を測定する機能と、バットのヘッド速度を測定する機能とを併せ持つ測定装置を提供することも可能となる。この場合、この測定装置に測定モードを切り換える切換手段を設け、ヘッド速度を測定するときには上記演算器が上記データ特定部32のデータ処理工程を実行し、ボールの球速を測定するときには該演算器が従来のボールの球速を測定するデータ処理工程を実行するようにすればよい。
【0104】
尚、上述した実施形態並びに変形例1、2、3及び4においては、受波した超音波中のドップラーシフトを受けたドップラー信号成分の周波数を用いて速度演算する構成について説明したが、本発明は、ドップラーシフトを受けた反射波のドップラー効果を利用して測定対象物の速度演算を行うことができれば、例えば、上記ノッチフィルタ25の後に、該ノッチフィルタから出力された周波数Fiのドップラー信号成分と基準周波数Foの基準信号とを混合する混合器としてのミキサを追加した構成としてもよい。この場合、上記フィルタ群26には、ドップラー信号成分ではなく、上記ミキサによって得られた差分周波数Fd(Fd=Fi−Fo)をもつ差分信号成分が入力されることになるので、これに対応して各部を適宜設定することになる。このとき、上記速度演算部33では、数1に示した演算式にFd=Fi−Foを代入して得られる演算式に基づいて速度演算をするように構成する。
【0105】
また、上述した実施形態並びに変形例1、2、3及び4におけるフィルタ群26、信号検出器群27、信号選択部28、出力切換器29、周波数計測器31、データ特定部32及び速度演算部33に変え、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器と、これら各部の機能を有するディジタル信号処理手段とで構成してもよい。このディジタル信号処理手段としては、DSPや高性能マイコン等を用いてもよい。尚、上記ディジタル信号処理手段に持たせる機能は、上述したフィルタ群26、信号検出器群27、信号選択部28、出力切換器29、周波数計測器31、データ特定部32及び速度演算部33の機能に限定されるものではなく、該ディジタル信号処理手段の処理能力に合わせてその範囲を適宜選択すればよい。
【0106】
また、上述した実施形態並びに変形例1、2、3及び4においては、ヘッド速度の測定に使用する波として超音波を利用した構成について説明したが、本発明は、測定対象物に反射することができ、そのときのドップラー効果を利用して速度演算することができるものであれば、例えば電波やコヒーレントな光を利用することも可能である。
【0107】
また、上述した実施形態並びに変形例1、2、3及び4においては、バットのヘッド速度を測定する測定装置に適用した態様ついて説明したが、本発明は、略円軌道を描いて運動する略円運動体、特に毎回異なる速度で運動するものであれば、例えば、ゴルフクラブのヘッド速度、円盤投げやハンマー投げの投擲時の回転速度を測定することも可能である。
【0108】
【発明の効果】
請求項1乃至8の発明によれば、波を利用して線速度測定を行うため、従来より測定対象物である略円運動体から離れた位置から測定することができる略円運動体の線速度測定方法を提供することができるという優れた効果がある。
また、受波したドップラー信号成分の中から測定点における略円運動体によるドップラー信号成分を特定することができるので、測定点における線速度を高い精度で測定することができるという優れた効果もある。
また、サンプリング数が少なくても測定点における特定サンプリング値を特定することが可能となり、サンプリングデータを記憶する記憶手段の記憶容量を小さく抑え、装置の小型化、小規模化を図ることができるという優れた効果がある。
また、ノイズ等によるサンプリングデータを除去して、誤計測の要因を低減することができるという優れた効果もある。
特に、請求項2の発明によれば、測定対象物に向けて送波した波その他のノイズによる影響を少なくすることができるので、より高い精度で線速度測定を行うことができるという優れた効果がある。
また、請求項3、4及び6の発明によれば、線速度測定がNGになる頻度を低くすることができ、線速度測定の安定性を向上することができるという優れた効果がある。
また、請求項7の発明によれば、サンプリングデータ中にノイズが含まれている場合であっても、該ノイズによる測定誤差を軽微に抑えることができるので、より高い精度で線速度測定を行うことができるという優れた効果がある。
請求項8の発明によれば、太陽光に影響を受けずに速度測定を行うことができるので、屋外での測定が可能な略円運動体の線速度測定方法を提供することができるという優れた効果がある。
請求項9乃至12の発明によれば、波を利用して線速度測定を行うため、従来より測定対象物である略円運動体から離れた位置から測定することができる略円運動体の線速度測定装置を提供することができるという優れた効果がある。
また、受波したドップラー信号成分の中から測定点における略円運動体によるドップラー信号成分を特定することができるので、測定点における線速度を高い精度で測定することができるという優れた効果もある。
また、サンプリング数が少なくても測定点における特定サンプリング値を特定することが可能となり、サンプリングデータを記憶する記憶手段の記憶容量を小さく抑え、装置の小型化、小規模化を図ることができるという優れた効果がある。
また、ノイズ等によるサンプリングデータを除去して、誤計測の要因を低減することができるという優れた効果もある。
特に、請求項10の発明によれば、測定対象物に向けて送波した波その他のノイズによる影響を少なくすることができるので、より高い精度で線速度測定を行うことができるという優れた効果がある。
また、請求項11の発明によれば、上述した請求項3乃至7の線速度測定方法の効果をもって線速度測定を行うことができるという優れた効果がある。
また、請求項12の発明によれば、サンプリングデータ中にノイズが含まれている場合であっても、該ノイズによる測定誤差を軽微に抑えることができるので、より高い精度で線速度測定を行うことができるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態における測定システムの概略構成図。
【図2】実施形態に係る測定装置の概略構成を示すブロック図。
【図3】同測定装置のデータ特定部におけるデータ処理動作を示すフローチャート。
【図4】同データ特徴部のデータ処理工程におけるデータ傾き判定で使用する判定基準表。
【図5】スイング時におけるバット位置の経時変化を示す概略図。
【図6】同バットスイング時における測定範囲内のX方向速度の時間に対する変化を示すグラフ。
【符号の説明】
1 測定装置
2 バット
2a ヘッド部分
3 バッター
10 超音波送波部
13 超音波送波器
20 超音波受波部
21 超音波受波器
25 ノッチフィルタ
26 フィルタ群
27 信号検出器群
28 信号選択部
29 出力切換器
30 信号処理部
31 周波数計測器
32 データ特定部
33 速度演算部
34 温度計測器
40 表示器
Claims (12)
- 所定周波数の基準信号に基づいて生成された波を略円運動で移動する測定対象物に向けて送波し、該測定対象物からの反射波を受波し、該反射波のドップラー信号成分に基づき該測定対象物の線速度を測定する略円運動体の線速度測定方法において、
上記測定対象物の軌道上における測定点の接線方向から上記波を送波し、
その反射波を該接線方向で受波し、
受波した該測定対象物からの反射波のドップラー信号成分を複数サンプリングし、
サンプリングした複数のドップラー信号成分のサンプリングデータの周波数の経時変化に基づいて該サンプリングデータの中に最大速度に相当する周波数をもつ特定サンプリング値が含まれているか否かの判定を行い、
含まれていると判定したときにはそのサンプリングデータの中から該特定サンプリング値を特定する一方、含まれていないと判定したときには再び上記測定対象物からの反射波のドップラー信号成分をサンプリングし、
特定した該特定サンプリング値に基づいて該測定対象物の相対移動速度を演算するものであり、
上記判定では、上記サンプリングデータの周波数の経時変化が、単位時間当たり所定の小さな範囲内の変化量で変化する速度変化に相当するときには、該サンプリングデータの中に該特定サンプリング値が含まれていないと判定することを特徴とする略円運動体の線速度測定方法。 - 請求項1の略円運動体の線速度測定方法において、
上記測定対象物からの反射波のドップラー信号成分をサンプリングするとき、該測定対象物がとり得る速度範囲に相当する周波数をもつドップラー信号成分のみをサンプリングすることを特徴とする略円運動体の線速度測定方法。 - 請求項1又は2の略円運動体の線速度測定方法において、
上記サンプリングデータの周波数の経時変化が、上記測定対象物の速度の大きさが単位時間当たり第1規定値以上の変化量で増加した後、単位時間当たり第2規定値以下の変化量で増加する速度変化に相当するときには、該サンプリングデータの中に該特定サンプリング値が含まれていると判定することを特徴とする略円運動体の線速度測定方法。 - 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の略円運動体の線速度測定方法において、
上記サンプリングデータの周波数の経時変化が、上記測定対象物の速度の大きさが単位時間当たり第3規定値以上の変化量で減少した後、単位時間当たり第4規定値以下の変化量で減少する速度変化に相当するときには、該サンプリングデータの中に該特定サンプリング値が含まれていると判定することを特徴とする略円運動体の線速度測定方法。 - 請求項1乃至4のいずれか1項に記載の略円運動体の線速度測定方法において、
上記サンプリングデータの周波数の経時変化が、上記測定対象物の速度の大きさが単位時間当たり上記第1規定値以上の変化量で増加する速度変化に相当するときには、該サンプリングデータの中に上記特定サンプリング値が含まれていないと判定することを特徴とする略円運動体の線速度測定方法。 - 請求項1乃至5のいずれか1項に記載の略円運動体の線速度測定方法において、
上記サンプリングデータの周波数の経時変化が、上記測定対象物の速度の大きさが単位時間当たり第4規定値以下の変化量で減少する速度変化(以下、「所定の減少傾向」という。)に相当するときには、該サンプリングデータの中に該特定サンプリング値が含まれていると判定することを特徴とする略円運動体の線速度測定方法。 - 請求項1乃至6のいずれか1項に記載の略円運動体の線速度測定方法において、
上記サンプリングデータの中から上記特定サンプリング値を特定するとき、移動平均法を用いて該サンプリングデータの移動平均値を計算し、該移動平均値の中から最大速度に相当する周波数をもつ移動平均値を特定することを特徴とする略円運動体の線速度測定方法。 - 請求項1乃至7のいずれか1項に記載の略円運動体の線速度測定方法において、
上記波として、超音波、電波又はコヒーレントな光を用いたことを特徴とする略円運動体の線速度測定方法。 - 所定周波数の基準信号に基づいて生成された波を測定対象物に向けて送波する送波手段と、
該測定対象物からの反射波を受波する受波手段と、
該反射波のドップラー信号成分に基づいて該測定対象物の相対移動速度を演算する速度演算手段とを備えた略円運動体の線速度測定装置において、
上記測定対象物からの反射波のドップラー信号成分をサンプリングするサンプリング手段と、
該サンプリング手段によってサンプリングした複数のドップラー信号成分のサンプリングデータの周波数の経時変化に基づいて該サンプリングデータの中に最大速度に相当する周波数をもつ特定サンプリング値が含まれているか否かを判定し、含まれていると判定したときにはそのサンプリングデータの中から該特定サンプリング値を特定するデータ特定手段とを設け、
上記データ特定手段は、上記サンプリングデータの周波数の経時変化が、単位時間当たり所定の小さな範囲内の変化量で変化する速度変化に相当するときには、該サンプリングデータの中に該特定サンプリング値が含まれていないと判定するものであり、
上記データ特定手段によって特定された該特定サンプリング値に基づいて上記速度演算手段により上記相対移動速度を演算するとともに、上記判定手段によって含まれていないと判定したときには再び上記サンプリング手段によって上記測定対象物からの反射波のドップラー信号成分をサンプリングすることを特徴とする略円運動体の線速度測定装置。 - 請求項9の略円運動体の線速度測定装置において、
上記サンプリング手段が、上記測定対象物がとり得る速度範囲に相当する周波数をもつドップラー信号成分のみをサンプリングすることを特徴とする略円運動体の線速度測定装置。 - 請求項9又は10の略円運動体の線速度測定装置において、
上記データ特定手段が、上記サンプリングデータの中から上記特定サンプリング値を特定するときに、請求項3乃至6のいずれか1項に記載の略円運動体の線速度測定方法を実行することを特徴とする略円運動体の線速度測定装置。 - 請求項9乃至11のいずれか1項に記載の略円運動体の線速度測定装置において、
移動平均法を用いて上記サンプリングデータの移動平均値を算出する移動平均算出手段を設け、
上記データ特定手段が、該移動平均値の中から最大速度に相当する周波数をもつ移動平均値を特定し、その移動平均値に基づいて上記速度演算手段により上記相対移動速度を演算することを特徴をする略円運動体の線速度測定装置。
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