JP4386394B2 - 歯列矯正部材 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、歯牙に接着されるブラケット,バッカルチューブ,リンガルリテーナ,リンガルボタン,リンガルアタッチメント等の歯列矯正部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
歯列を矯正するために用いられるブラケットは、矯正線を保持可能な本体と、歯牙に接着可能な面状のボンディングベースとで形成されている。
このようなブラケットは、例えば本体およびボンディングベースを適宜な機械加工により一体成形したり、あるいは機械加工により個別に成形された本体およびボンディングベースをろう付け,溶接等により接続することにより製造される。
【0003】
そして、従来より、これらのブラケットにおいて、歯牙に対する接着強度を向上させるために、ボンディングベースの接着面にあらかじめ凹凸を形成しておくことが多い。
具体的には、本体およびボンディングベースをろう付け,溶接等により接続する場合、ボンディングベースとして極細のステンレス線を格子状に編んだメッシュ部材が採用される(従来例1)。
このような従来例1によれば、ボンディングベースであるメッシュ部材に接着剤を塗布して歯牙に接着すると、メッシュ部材に対して接着剤の投錨効果が得られるため、歯牙に対するブラケットの接着強度を一定以上確保できる。
【0004】
また、本願出願人は、歯牙に対する接着強度を更に向上させるために、前述したメッシュ部材を複数積層させた歯列矯正装置を提案した(特許第 2532870号:従来例2)。
この従来例2によれば、複数積層されたメッシュ部材により接着剤の流入経路が階層状、かつ、非直線状となるため、接着剤の投錨効果が確実、かつ、強固となり、これにより従来に比較して歯牙に対する接着強度を向上できるという極めて優れた効果が得られる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、ブラケットがステンレス製であるとニッケルが溶出してニッケルアレルギーの問題が生じる虞れがあるため、近年では、ニッケルレスステンレス製あるいはチタン製のブラケットが用いられている。
これに従い、ボンディングベースもニッケルレスステンレスあるいはチタンにより形成する必要があるが、一般に、ニッケルレスステンレスあるいはチタンは細線加工が難しく、技術的に製造が困難であった。
このような問題は、ブラケット以外にも、例えばバッカルチューブ,リンガルリテーナ,リンガルボタン,リンガルアタッチメント等、歯牙に直接接着するタイプの歯列矯正部材全般に生じている。
【0006】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は歯牙に対する接着強度を向上できるとともに、製造コストを低減し、ニッケルを含まない材質を使用した場合はニッケルアレルギーを回避できる歯列矯正部材を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、歯列を矯正するために、歯列を矯正するための本体と、前記本体に接続されて歯牙に接着可能なボンディングベースとを有する歯列矯正部材を前提としている。そして、前述した目的を達成するために、本発明は、請求項1に記載したように、少なくとも一枚の金属板に多数のスリットを形成してから面方向に引き伸ばして歯茎側に向かって斜めに開口している多数の貫通孔を設けた板部材により前記ボンディングベースが形成されていることを特徴としている。ここで、板部材としては、貫通孔の開口縁部に切起加工,バーリング加工,カーリング加工等を施すことにより、表裏に突起を形成してもよい。
【0008】
このように構成された歯列矯正部材においては、金属板に引張加工を施して各スリットを歯茎側に向かって斜めに開口している貫通孔とした板部材によりボンディングベースが形成されているため、所定の金属を細線加工して格子状に編み込んだ従来のボンディングベースと同様に良好な接着剤の投錨効果が得られ、これにより歯牙に対する接着強度を十分確保できることになるだけでなく、歯牙に接着されると、咬合時の圧力に最大限耐え、かつ、歯牙の側面から容易に取り外せ、換言すれば接着強度に方向性を与えられることになる。そして、この歯列矯正部材においては、金属板を基にボンディングベースが形成されているため、細線加工が難しい素材を採用しても、従来に比較してボンディングベースを容易に製造でき、これにより当該歯列矯正部材の製造コストを低減できることになる。
【0009】
また、本発明においては、請求項2に記載したように前記板部材がチタン製あるいはチタン合金製であることが好ましく、あるいは請求項3に記載したように前記板部材が全くニッケルを含まないか、あるいはニッケルが1%以下のステンレス製であることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明は、請求項4に記載したように、前記ボンディングベースが前記板部材を複数積層することにより形成され、かつ、前記各板部材における前記各貫通孔の開口縁部が互いに一致しないように積層されていることを特徴としている。
本発明における板部材は、金属板に多数のスリットを規則的に設けた後、板部材を面方向に沿って引き伸ばす引張加工により形成されるため、スリットが平面略菱形あるいは平面略正方形に拡大変形して貫通孔となる。
ここで、各貫通孔は、平面略菱形である場合、平面長対角線が同一方向に沿って平行となる。
【0011】
そして、ボンディングベースとしては、貫通孔の開口形状,開口寸法,開口位置等が同一の板部材を2枚以上積層させて形成する場合、各板部材における各貫通孔の平面長対角線が例えば45度,60度,90度の角度をもって交差するように積層させればよく、あるいは各板部材を面方向に沿って所定寸法ずらして積層させてもよい。
また、ボンディングベースとしては、貫通孔の開口形状,開口寸法,開口位置等のうちの少なくとも一つが異なるよう各板部材を形成しておくことにより、各板部材における貫通孔の開口縁部が一致しないように積層させてもよい。
【0012】
このように構成された歯列矯正部材においては、各板部材における貫通孔の開口縁部が一致しないように積層されているため、貫通孔の開口形状,開口寸法,開口位置等が同一の板部材を単純に積層させた場合に比較して、接着剤の投錨効果が確実に向上することになる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、本発明に係る実施形態の歯列矯正部材は、歯牙11の歯列を矯正するためのブラケット10であり、本体12と、歯牙11の唇面11Aに接着可能な面状のボンディングベース13とを有している。本体12およびボンディングベース13は、適宜な機械加工等により個別に製造された後、ろう付け,溶接等により接続される。
【0015】
そして、ボンディングベース13は、歯牙11に対する接着強度を向上させるために、本発明に基づいて板部材21,22を厚み方向に2枚積層させるとともに、ベース板23に溶接することにより形成されている。
板部材21,22は、例えばニッケルレスステンレス製あるいはチタン製の金属板に対してスリットを規則的に多数設けた後、金属板を面方向に沿うとともにスリットに対して直交する方向に沿って引き伸ばす引張加工を施すことにより製造される。
【0016】
従って、図2に示すように、これらの板部材21,22は、引張加工に伴ってスリットが拡大変形して形成された平面略四角形あるいは平面略菱形の貫通孔24が規則的に配置されている(図2は平面略菱形)。
これらの貫通孔24は、互いに隣り合う二辺(図2中の上側二辺)の上部剪断面24A,24Bが表面側(図2中の手前側)に傾き、かつ、縁部が表面側に突出している。
一方、上部剪断面24A,24Bに対面する下部剪断面24C,24D(図2中の下側二辺)が裏面側(図2中の奥行側)に傾き、かつ、縁部が裏面側に突出している。
そして、図3に示すように、貫通孔24の貫通方向Aは、板部材21,22の面方向Bに対して所定の角度αで交差する方向となっている。
【0017】
図4に示すように、これらの板部材21,22は、それぞれの貫通孔24の平面長対角線が略直交(略90度)するように積層されている。
従って、この実施形態のボンディングベース13は、各板部材21,22おける貫通孔24の開口縁部が互いに一致せず、貫通方向が当該ボンディングベース20の面方向に対して交差するとともにジグザグに折れ曲がる非直線状となっている。
【0018】
また、図5に示すように、この実施形態において、歯牙11の唇面11Aに接触する板部材21は、各貫通孔24が歯茎側(図5中の上方)に向かって斜めに開口する断面略ブラインド状に配向されている。従って、ブラケット10は、歯茎側から咬合側に向かって板部材21に接着剤を押し込むように塗布すれば、各貫通孔24に接着剤が充塞されるとともに十分な投錨効果が得られるため、咬合時の圧力に対して十分な強度が得られる。
【0019】
また、図6に示すように、歯牙11からブラケット10を取り外すディボンディング時には、ディボンディングプライヤ30の先端をそれぞれブラケット10および歯牙11の咬合側に係止し、ブラケット10を歯牙11の咬合側にずらすように取り外すが、板部材21の各貫通孔24が歯茎側に向かって斜めに開口しているため、接着剤が歯茎側から咬合側に向かって剪断され、これにより容易にディボンディングできる。
【0020】
以上のようなブラケット10によれば、ボンディングベース20が板部材21,22により形成されているため、従来のメッシュ状のボンディングベースを採用した場合と同様に歯牙に対する十分な接着強度が得られるとともに、極細の金属線を格子状に編み込む必要があるメッシュ状のボンディングベースを採用した場合に比較して製造コストを大幅に低減できる。
特に、このブラケット10によれば、板部材21,22を積層させることによりボンディングベース20が形成されているため、顕著な投錨効果が得られる。
【0021】
その上、ボンディングベース20は、貫通孔24の開口縁部が一致しないように各板部材21,22が積層されているため、貫通孔24の貫通方向がジグザグな非直線状となって投錨効果を一層向上できる。
さらに、ボンディングベース20は、各板部材21,22における貫通孔24の開口縁部が一致しないように、各貫通孔24の平面長対角線が90度の角度をもって交差するように積層させているため、貫通孔24の開口形状,開口寸法,開口位置等が同一の板部材21,22を採用でき、これにより製造コストを一層低減できる。
【0022】
また、このブラケット10によれば、各板部材21,22によりボンディングベース20が形成されているため、ニッケルアレルギーの問題が生じないように、チタン製あるいはチタン合金製のボンディングベースを得るために、チタンあるいはチタン合金を細線加工するという極めて困難な作業を行う必要がなく、これにより従来に比較して加工コストを飛躍的に低減できるという効果がある。
【0023】
次に、本発明に基づくボンディングベースを実施例とするとともに、従来のメッシュ状のボンディングベースを比較例としてベースに接着した後、それぞれ剪断テストおよび引張テストを行い、それぞれの結果を表1ないし表3に示したので説明する。
【0024】
【表1】
Figure 0004386394
【0025】
【表2】
Figure 0004386394
【0026】
【表3】
Figure 0004386394
【0027】
ここで、実施例1および実施例2は、前述した実施形態に示した板部材であり、相違点はサンドブラストの有無である。一方、比較例1および比較例2は、極細金属線を格子状に編み込んだ既存のメッシュ状のボンディングベースであり、相違点はサンドブラストの有無である。
そして、これらの各実施例および各比較例について、それぞれ5枚づつ用意して剪断テストおよび引張テストを行い、平均値を求めた。
【0028】
これらの表において、実施例1および実施例2は、比較例1および比較例2に比較して高い剪断強度を得られることが判る。
特に、実施例2は、サンドブラスト加工が施されているため、比較例2に比較して引張強度も向上していることが判る。
【0029】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものでなく、適宜な変形,改良等が可能である。
例えば、前述した実施形態は、ボンディングベースとして、二枚の板部材をそれぞれの貫通孔の長対角線が略直交するように積層されていたが、その交差角度は90度に限定されず、図7に示すように各板部材21,22における長対角線の交差角度が略45度あるいは略60度でもよい。
また、本発明のボンディングベースは、図8に示すように、板部材21,22を互いに面方向に沿って相対的にずらして積層させてもよい。
【0030】
さらに本発明には、図9ないし図11に示す板部材30,40,50も適用可能である。
図9に示す板部材30は、開口形状が異なる複数種類の貫通孔34,35が形成されている。また、図10に示す板部材40は、偏平な六角形の貫通孔44が形成されている。さらに、図11に示す板部材50は、略菱形の貫通孔54が形成されているとともに、表面および裏面が平坦化されている。
【0031】
その他、前述した実施形態において例示した本体,ボンディングベース,歯列矯正部材,板状部材,凹部,凸部等の材質,形状,寸法,形態,数,配置個所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0032】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明によれば、請求項1に記載したように、金属板に引張加工を施して各スリットを歯茎側に向かって斜めに開口している貫通孔とした板部材によりボンディングベースが形成されているため、所定の金属を細線加工して格子状に編み込んだ従来のボンディングベースと同様に良好な接着剤の投錨効果が得られるだけなく、咬合時の圧力に最大限耐え、かつ、歯牙の側面から容易に取り外せるという接着強度に方向性が得られるとともに、当該歯列矯正部材の製造コストを低減できる。
【0033】
そして、本発明によれば、請求項2に記載したように板部材がチタン製またはチタン合金製、あるいは請求項3に記載したように板部材がニッケル含有率が1%以下のステンレス製であれば、同種のブラケットやチューブ等の歯列矯正部材のボンディングベースとして使用した場合にニッケルアレルギーの問題が生じない。
【0034】
そして、本発明によれば、請求項4に記載したように、ボンディングベースが板部材を複数有し、各板部材における各貫通孔の開口縁部が一致しないように積層されているため、単純に複数の板部材を積層させた場合に比較して、接着剤の投錨効果が確実に向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る実施形態を示す全体斜視図である。
【図2】ボンディングベースを形成する板部材の部分拡大平面図である。
【図3】板部材における貫通孔の貫通方向と面方向との交差角度を示す模式断面図である。
【図4】各板部材の積層状態を示す部分拡大平面図である。
【図5】歯牙に接着された板部材を示す拡大模式断面図である。
【図6】ディボンディング時の作業を示す模式図である。
【図7】本発明の変形例を示す板部材の部分拡大平面図である。
【図8】本発明の変形例を示す板部材の部分拡大平面図である。
【図9】貫通孔の開口形状が異なる板部材を示す部分拡大平面図である。
【図10】貫通孔の開口形状が異なる板部材を示す部分拡大平面図である。
【図11】貫通孔の開口形状が異なる板部材を示す部分拡大平面図である。
【符号の説明】
10 ブラケット(歯列矯正部材)
12 本体
13 ボンディングベース
21,22 板部材
24 貫通孔

Claims (4)

  1. 歯列を矯正するための本体と、前記本体に接続されて歯牙に接着可能なボンディングベースとを有する歯列矯正部材であって、
    少なくとも一枚の金属板に多数のスリットを形成してから面方向に引き伸ばして歯茎側に向かって斜めに開口している多数の貫通孔を設けた板部材により前記ボンディングベースが形成されていることを特徴とする歯列矯正部材。
  2. 前記板部材がチタン製あるいはチタン合金製であることを特徴とする請求項1に記載した歯列矯正部材。
  3. 前記板部材がニッケルを全く含まないかあるいはニッケルが1%以下のステンレス製であることを特徴とする請求項1に記載した歯列矯正部材。
  4. 前記ボンディングベースが前記板部材を複数積層することにより形成され、かつ、前記各板部材における前記各貫通孔の開口縁部が互いに一致しないように積層されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載した歯列矯正部材。
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