以下、この実施例にかかる車両用前照灯の構成について説明する。図2において、符号1は、この実施例にかかる車両用前照灯である。前記車両用前照灯1は、たとえば、プロジェクタタイプのヘッドランプである。前記車両用前照灯1は、光源としての放電灯2と、リフレクタ3と、投影レンズ(集光レンズ)4と、複数のシェードとしての第1シェード5および第2シェード6と、切替装置としての第1駆動部71および第2駆動部72と、1個の光センサ24と、第1遮蔽部25および第2遮蔽部26と、第1通過部27および第2通過部28と、故障検出部30と、を備えるものである。
前記放電灯2は、いわゆる、メタルハライドランプなどの高圧金属蒸気放電灯、高輝度放電灯(HID)などである。前記放電灯2は、前記リフレクタ3にソケット機構8を介して着脱可能に取り付けられている。前記放電灯2の発光部分は、前記リフレクタ3の第1焦点F1もしくはその近傍に位置する。なお、光源としては、前記放電灯2以外に、ハロゲン電球、白熱電球でも良い。
前記リフレクタ3の内凹面には、アルミ蒸着もしくは銀塗装などが施されていて、反射面が形成されている。前記リフレクタ3の反射面は、楕円を基調とした反射面、たとえば、回転楕円面や楕円を基本とした自由曲面(NURBS曲面)などの反射面(図1、図2の垂直断面が楕円面をなし、かつ、図示しない水平断面が放物面ないし変形放物面をなす反射面)からなる。このために、前記リフレクタ3の反射面は、第1焦点F1と、第2焦点(水平断面上の焦線)F2とを有する。前記リフレクタ3は、ホルダなどのフレーム部材9に固定保持されている。なお、前記リフレクタ3の反射面の自由曲面(NURBS曲面)は、「Mathematical Elemennts for Computer Graphics」(Devid F. Rogers、J Alan Adams)に記載されているNURBSの自由曲面(Non-Uniform Rational B-Spline Surface)である。
前記投影レンズ4は、非球面レンズの凸レンズである。前記投影レンズ4の前方側は、凸非球面をなし、一方、前記投影レンズ4の後方側は、平非球面をなす。前記投影レンズ4は、前記フレーム部材9に固定保持されている。前記投影レンズ4は、図示されていないが、前記リフレクタ3の反射面の第2焦点F2よりも前側に物空間側の焦点面(メリジオナル像面)を有する。
前記第1シェード5および第2シェード6は、前記リフレクタ3の反射面から前記投影レンズ4に向かう反射光を、図9(C)に示すすれ違い用の配光パターンLPが得られるロービーム(すれ違いビーム)と、図10(C)に示す高速道路(モータウエイ)用の配光パターンMPが得られるミッドビーム(高速道路ビーム)と、図11(C)に示す走行用の配光パターンHPが得られるハイビーム(走行ビーム)とに、切り替えるものである。
一方、切替装置としての前記第1駆動部71および前記第2駆動部72は、前記第1シェード5および第2シェード6を、第1伝達部51および第2伝達部61を介して、前記ロービームが得られるロービーム姿勢(すれ違い用の姿勢であって、図9(A)および(B)に示す姿勢)と、前記ミッドビームが得られるミッドビーム姿勢(高速道路用の姿勢であって、図10(A)および(B)に示す姿勢)と、前記ハイビームが得られるハイビーム姿勢(走行姿勢であって、図11(A)および(B)に示す姿勢)とに、切り替えるものである。切替装置としての前記第1駆動部71および前記第2駆動部72は、前記フレーム部材9に固定保持されている。
前記第1シェード5は、図3、図5に示すように、前側シェード部50Fおよび後側シェード部50Bから構成されている。前記前側シェード部50Fおよび前記後側シェード部50Bは、横方向(左右方向、水平方向)に長いほぼ長方形の薄板部材から構成されている。前記前側シェード部50Fの下部と前記後側シェード部50Bの下部とが水平板により連結されている。この結果、前記前側シェード部50Fと前記後側シェード部50Bとの間には、隙間が形成される。前記前側シェード部50Fの上端縁および前記後側シェード部50Bの上端縁には、前記すれ違い用の配光パターンLPの上水平カットオフラインCL1Lおよび斜めカットオフラインCL2Lおよび下水平カットオフラインCL3Lを形成するための下水平エッジ541および斜めエッジ542および上水平エッジ543がそれぞれ設けられている。前記前側シェード部50Fの下部の左側やや半分には、切欠50が設けられている。
前記第1伝達部51は、長方形の薄板部材から構成されている。前記第1伝達部51の一端(後端)が前記前側シェード部50Fの下部の右側に固定されていて、前記第1伝達部51が前記前側シェード部50Fから前側に突出している。前記前側シェード部50Fおよび前記後側シェード部50Bの板面がほぼ垂直であり、一方、前記第1伝達部51の板面がほぼ水平である。前記第1伝達部51の上面の左右両辺のほぼ中央には、第1支持部52がそれぞれ一体に設けられている。前記2枚の第1支持部52には、円形の透孔が設けられている。
前記第2シェード6は、同じく、図3、図5に示すように、シェード部60から構成されている。前記シェード部60は、横方向(左右方向、水平方向)に長いほぼ長方形の薄板部材から構成されている。前記シェード部60は、前記第1シェード5の前記前側シェード部50Fと前記後側シェード部50Bとの間の隙間に配置されている。前記シェード部60の上端縁には、前記高速道路用の配光パターンMPの上水平カットオフラインCL1Mおよび斜めカットオフラインCL2Mおよび下水平カットオフラインCL3Mを形成するための下水平エッジ641および斜めエッジ642および上水平エッジ643がそれぞれ設けられている。
前記第2伝達部61は、長方形の薄板部材から構成されている。前記第2伝達部61の一端(後端)が前記第1シェード5の前記切欠50を通して前記シェード部60の下部の左側に固定されていて、前記第2伝達部61が前記シェード部60から前側に突出している。前記シェード部60の板面がほぼ垂直であり、一方、前記第2伝達部61の板面がほぼ水平である。前記第2伝達部61の上面の左右両辺のほぼ中央には、第2支持部62がそれぞれ一体に設けられている。前記2枚の第2支持部62には、円形の透孔が設けられている。
前記第1シェード5および前記第2シェード6は、回動軸10およびストッパ部材11を介して前記フレーム部材9に姿勢切替可能に取り付けられている。すなわち、前記第1シェード5および前記第2シェード6は、前記回動軸10に回動可能に取り付けられている。前記回動軸10は、前記ストッパ部材11に固定されている。一方、前記ストッパ部材11は、前記フレーム部材9に取り付けられている。
前記ストッパ部材11は、図5〜図8に示すように、左右両端の2個の固定部12と、左右中間の2個の規制部13および2個のストッパ部14と、中央の押え部15とから構成されている。前記2個の固定部12には、前記回動軸10の両端がそれぞれ固定されていて、前記回動軸10は、左右方向(水平方向)に配置されている。前記2個の規制部13の間には、前記第1シェード5および前記第2シェード6が配置されている。また、前記第1シェード5の前記前側シェード部50Fおよび前記後側シェード部50Bおよび前記第2シェード6の前記シェード部60の左右両端は、前記2個のストッパ部14の下面に対向する。前記2個のストッパ部14は、前記第1シェード5および前記第2シェード6の回動位置を決めるものである。前記第1シェード5の第1支持部52および前記第2シェード6の第2支持部62が前記回動軸10に回動可能に保持されている。この結果、前記第1シェード5および前記第2シェード6が前記回動軸10および前記ストッパ部材11を介して前記フレーム部材9に姿勢切替可能に取り付けられることとなる。また、前記第2シェード6の前記シェード部60の上端縁のエッジ641、642、643が前記リフレクタ3の反射面の第2焦点F2もしくはその近傍に位置する。
前記第1シェード5および前記第2シェード6と前記回動軸10との間には、スプリング16が設けられている。前記スプリング16は、図3〜図5に示すように、中央の固定部17と、左右中間の2個のコイル部18と、左右両端の2個の付勢部19とから構成されている。前記2個のコイル部18中には、前記回動軸10が挿通されている。前記固定部17は、前記ストッパ部材11の押え部15に固定されている。前記2個の付勢部19は、前記第1シェード5の前記第1伝達部51の上面のうち前記第1支持部52よりも前側の箇所と、前記第2シェード6の前記第2伝達部61の上面のうち前記第2支持部62よりも前側の箇所とに、それぞれ弾性当接している。前記2個のコイル部18は、相互に対向する前記第1シェード5の前記第1支持部52と前記第2シェード6の前記第2支持部62とにそれぞれ弾性当接する。
そして、前記2個のコイル部18の左右方向に外側に作用するスプリング力P1と、前記2個の規制部13の左右方向の規制作用とにより、前記第1シェード5および前記第2シェード6の左右方向の移動が規制されている。また、前記2個の付勢部19の前記回動軸10回りに作用するスプリング力P2と、前記2個のストッパ部14の前記回動軸10回りのストッパ作用とにより、ロービーム姿勢における前記第1シェード5および前記第2シェード6の前記回動軸10周りの回転が規制されている。この結果、前記第1シェード5および前記第2シェード6は、左右方向にかつ前記回動軸10回りにガタなく支持されていることとなる。また、前記第1シェード5および前記第2シェード6がロービーム姿勢にあるときには、図6に示すように、前記第1シェード5の前記第1伝達部51と前記第2シェード6の第2伝達部61とはほぼ同レベル(同じ高さ)に位置する。
前記第1駆動部71および第2駆動部72は、図2、図3、図6〜図8に示すように、それぞれソレノイドから構成されている。前記第1駆動部71および第2駆動部72は、上面が前記第1シェード5の前記第1伝達部51の下面および前記第2シェード6の前記第2伝達部61の下面に対向するように、前記ストッパ部材11に固定されている。この結果、前記第1駆動部71および第2駆動部72は、前記ストッパ部材11を介して前記フレーム部材9に取り付けられている。
前記第1駆動部71および第2駆動部72の上面には、第1進退ロッド(プランジャ)22および第2進退ロッド(プランジャ)23が上下に進退可能に設けられている。前記第1進退ロッド22の一端(上端)は、前記第1シェード5の前記第1伝達部51の下面のうち前記第1支持部52よりも前側の箇所に対向している。一方、前記第2進退ロッド23の一端(上端)は、前記第2シェード6の前記第2伝達部61の上面のうち前記第2支持部62よりも前側の箇所に対向している。前記2個の付勢部19のスプリング力P2が前記第1伝達部51および第2伝達部61を介して前記第1進退ロッド22の一端および前記第2進退ロッド23の一端に押し下げ力として作用している。この結果、前記第1進退ロッド22の一端と前記第1シェード5の前記第1伝達部51の下面のうち前記第1支持部52よりも前側の箇所とは、弾性当接している。一方、前記第2進退ロッド23の一端と前記第2シェード6の前記第2伝達部61の上面のうち前記第2支持部62よりも前側の箇所とは、弾性当接している。
前記光センサ24は、図1に示すように、前記第1シェード5の前記後側シェード部50Bおよび前記第2シェード6の前記シェード部60の下方に配置されている。そして、前記光センサ24は、前記第1シェード5および前記第1駆動部71および前記第1伝達部51からなる第1系統と、前記第2シェード6および前記第2駆動部72および前記第2伝達部61からなる第2系統と、に跨るように光LTを検出する1個の光センサである。前記光センサ24は、前記放電灯2からの光LT、または、図1(A)に示すように、別個に設けられている発光部としての赤外線LED31からの光LT(赤外線、赤外光)を検出するものである。前記光センサ24は、光を検出するとたとえばH信号を出力し、光を検出しないときにはたとえばL信号を前記故障検出部30に出力する。
前記第1遮蔽部25は、図1に示すように、前記第1シェード5の前記後側シェード部50Bの下端から下方に一体に設けられている。また、前記第2遮蔽部26は、同じく図1に示すように、前記第2シェード6の前記シェード部60の下端から下方に一体に設けられている。この結果、前記第1遮蔽部25および前記第2遮蔽部26は、前記第1シェード5および前記第2シェード6の姿勢の切替と連動する。前記第1シェード5および前記第2シェード6の回動に連動して前記第1遮蔽部25および前記第2遮蔽部26が上下動する。なお、前記第1遮蔽部25および前記第2遮蔽部26は、前記第1シェード5および前記第2シェード6に設けずに、前記第1伝達部51および前記第2伝達部61に、あるいは、前記第1進退ロッド22および前記第2進退ロッド23に設けてもよい。
前記第1遮蔽部25および前記第2遮蔽部26は、前記光センサ24に入る光LTを遮蔽するものである。すなわち、前記第1遮蔽部25および前記第2遮蔽部26は、図1(A)および(C)に示すように、ストッパ部材11に設けられている透孔の通過部29を通過した光LTを遮蔽してその光LTが前記光センサ24に入るのを阻止するものである。
前記第1通過部27は、図1に示すように、透孔であって、前記第1遮蔽部25に設けられている。また、前記第2通過部28は、同じく図1に示すように、切欠であって、前記第2遮蔽部26に設けられている。前記第1通過部27および前記第2通過部28は、図1(B)に示すように、所定の配光パターン、この例では、高速道路用の配光パターンMPが得られる前記第1シェード5および前記第2シェード6の姿勢(図1(B)および図10(A)および(B)に示す姿勢)のとき、ストッパ部材11の通過部29を通過した光LTを前記光センサ24に通過させるものである。なお、前記第1通過部27および前記第2通過部28および前記通過部29は、前記の透孔や切欠や透孔であるが、その他のもの、たとえば、透明部として光が通過するものであってもよい。
前記故障検出部30は、前記第1駆動部71および前記第2駆動部72を駆動させて前記第1シェード5および前記第2シェード6を各配光パターンLP、MP、HPが得られる各姿勢に切り替え、かつ、前記第1シェード5および前記第2シェード6の各姿勢における前記光センサ24から出力される信号に基づいて前記第1シェード5および前記第2シェード6および前記第1駆動部71および前記第2駆動部72および前記第1伝達部51および前記第2伝達部61の故障を検出する。
前記故障検出部30は、故障を検出すると、前記第1駆動部71および前記第2駆動部72を駆動させて前記第1シェード5および前記第2シェード6をすれ違い用の配光パターンLPが得られる姿勢に切り替え、または、別個の駆動装置により前記車両用前照灯1の光軸Z−Zを下に向け、または、前記放電灯2を消灯させる。
前記の別個の駆動装置により車両用前照灯1の光軸Z−Zを下に向ける構成について図14を参照して説明する。前記車両用前照灯1は、図14に示すように、ランプハウジング32およびランプレンズ33により区画されている灯室34内に配置されている。すなわち、前記車両用前照灯1は、前記ランプハウジング32にピボット機構35を介して水平軸H−H回りに上下に回転可能に取り付けられている。この結果、前記車両用前照灯1は、前記ランプハウジング32に取り付けられている前記別個の駆動装置のレベリングアクチュエータ36の駆動により、前記水平軸H−H回りに上下に回転する。すなわち、前記車両用前照灯1の光軸Z−Zは、上向きにまたは下向きにすることができる。
この実施例にかかる車両用前照灯1は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。最初に各配光パターンLP、MP、HPが得られる作用について説明する。
まず、放電灯2を点灯する。すると、放電灯2からの光は、リフレクタ3の反射面で反射される。その反射光は、リフレクタ3の反射面の第2焦点F2に集光され、かつ、その第2焦点F2を通って拡散され、さらに、投影レンズ4を経て前方に投影(放射、照射)される。その投影光(放射光、照射光)は、図9(C)に示す所定のすれ違い用の配光パターンLPが得られるロービームとして、または、図10(C)に示す所定の高速道路用の配光パターンMPが得られるミッドビームとして、または、図11(C)に示す所定の走行用の配光パターンHPが得られるハイビームとして、それぞれ前方に投影される。
ここで、すれ違い用の配光パターンLPが得られる場合について説明する。第1駆動部71および第2駆動部72が無通電状態のときには、スプリング16のスプリング力により、第1進退ロッド22および第2進退ロッド23は、それぞれ図6に示す位置、すなわち、後退位置に位置している。このとき、第1進退ロッド22の一端(上端)と第2進退ロッド23の一端(上端)とは、ほぼ同レベルの位置に位置している。これにより、第1シェード5および第2シェード6は、図6および図9(A)および(B)に示す位置に位置していて、すれ違い用の配光パターンLP(ロービーム)が得られるロービーム姿勢にある。すなわち、第1シェード5および第2シェード6は、共に上位の姿勢に切り替えられている。この結果、図9(C)に示すように、カットオフラインCL1L、CL2L、CL3Lを有するすれ違い用の配光パターンLPが得られる。
つぎに、高速道路用の配光パターンMPが得られる場合について説明する。第2駆動部72を無通電の状態で、第1駆動部71を通電すると、第1進退ロッド22が前進して、第1進退ロッド22とこの第2進退ロッド23とは、図7に示す位置に位置する。すなわち、第1進退ロッド22は、前進位置に位置しており、また、第2進退ロッド23は、後退位置に位置している。これにより、第1シェード5および第2シェード6は、図7および図10(A)および(B)に示す位置に位置していて、高速道路用の配光パターンMP(ミッドビーム)が得られるミッドビーム姿勢にある。すなわち、第1シェード5は、下位の姿勢に切り替えられていて、一方、第2シェード6は、上位の姿勢に切り替えられている。この結果、図10(C)に示すように、高速道路用の配光パターンMPが得られる。
この高速道路用の配光パターンMPは、上位の姿勢の第2シェード6のエッジ641、642、643により、カットオフラインCL1M、CL2M、CL3Mが上縁にすれ違い用の配光パターンLPのカットオフラインCL1L、CL2L、CL3Lよりも若干上位に形成されている。また、この高速道路用の配光パターンMPは、下位の姿勢の第1シェード5により、リフレクタ3から投影レンズ4に向かう反射光の遮蔽量が第1シェード5の上位の姿勢のときよりも減らされている。この結果、この高速道路用の配光パターンMPにより、すれ違い用の配光パターンLPよりも遠方を高光度で照明することができ、かつ、すれ違い用の配光パターンLPとほぼ同様に対向車などに対してグレアとなるのを防ぐことができる。これにより、この高速道路用の配光パターンMPは、高速で走行し、かつ、対向車との遭遇の頻度が高い高速道路を走行するときに最適な配光パターンである。
それから、走行用の配光パターンHPが得られる場合について説明する。第1駆動部71および第2駆動部72を同時に通電すると、第1進退ロッド22と第2進退ロッド23とは、共に前進して、図8に示す位置に位置する。すなわち、第1進退ロッド22と第2進退ロッド23とは、共に前進位置に位置している。これにより、第1シェード5および第2シェード6は、図8および図11(A)および(B)に示す位置に位置していて、走行用の配光パターンHP(ハイビーム)が得られるハイビーム姿勢にある。すなわち、第1シェード5と第2シェード6とは、共に下位の姿勢に切り替えられている。この結果、図11(C)に示すように、走行用の配光パターンHPが得られる。
この走行用の配光パターンHPは、下位の姿勢の第1シェード5および第2シェード6により、リフレクタ3から投影レンズ4に向かう反射光の遮蔽量が第1シェード5の下位の姿勢および第2シェード6の上位の姿勢のときよりも減らされている。この結果、この走行用の配光パターンHPは、高速道路用の配光パターンMPよりも遠方を高光度で照明することができるので、遠方の視認性が向上される。
以下、複数のシェードおよび切替装置の故障検出について図12、図13を参照して説明する。故障検出部30は、車両始動前、たとえば、前記レベリングアクチュエータ36からなるオートレベリングシステム(自動光軸調整装置)、もしくは、AFS(Adaptive Front lighting System)のスイブルユニット(灯具をほぼ垂直軸周りに左右に回転させるスイブル装置)のイニシャライズと同時に、故障の検出を行う。
すなわち、最初(図12の「チェック順序0」を参照)、第1駆動部71および第2駆動部72が共にOFFで無通電状態のときには、第1シェード5および第2シェード6は、図1(A)に示す姿勢にあるので、ストッパ部材11の通過部29からの光LTは、第1シェード5の第1遮蔽部25で遮蔽されて光センサ24に入らない。このために、光センサ24は、L信号を故障検出部30に出力する。
つぎに、故障検出部30は、図12の「チェック順序1」に示すように、第1駆動部71および第2駆動部72を共にONして通電状態とする。すると、第1シェード5および第2シェード6は、図1(C)に示す姿勢、すなわち、走行用の配光パターンHPが得られる姿勢に切り替わるので、ストッパ部材11の通過部29からの光LTは、第1シェード5の第1遮蔽部25の第1通過部27を通過するが、第2シェード6の第2遮蔽部26で遮蔽されて光センサ24に入らない。このために、光センサ24は、L信号を故障検出部30に出力する。
故障検出部30は、「チェック順序1」において、光センサ24からL信号を入力すると、複数のシェードおよび切替装置には一応故障がないと判断して、「チェック順序2」に進む。ここで、故障検出部30は、「チェック順序1」において、光センサ24からH信号を入力すると、第2シェード6および第2駆動部72および第2伝達部61からなる第2系統に故障があると判断する。すなわち、「チェック順序1」において、第1シェード5および第2シェード6が図1(C)に示す姿勢にあれば故障がない状態であり、故障がある状態とは、第2シェード6が図1(B)に示す姿勢にあるときであって、第2系統に故障があるときである。
なお、故障検出部30が光センサ24からのL信号に基づいて一応故障がないと判断した場合においても、複数のシェードおよび切替装置に故障がある場合がある。たとえば、第1シェード5および第1駆動部71および第1伝達部51からなる第1系統と第2系統とに故障がある場合、第1シェード5および第2シェード6は、図1(A)に示す姿勢にあり、また、第1系統に故障がある場合、第1シェード5は、図1(A)に示す姿勢にあるので、ストッパ部材11の通過部29からの光LTは、第1シェード5の第1遮蔽部25で遮蔽されて光センサ24に入らず、光センサ24がL信号を故障検出部30に出力する。このために、故障があるのにもかかわらず、故障検出部30は、故障がないと判断して、「チェック順序2」に進む。
それから、故障検出部30は、図12の「チェック順序2」に示すように、第1駆動部71をONして通電状態とし、一方、第2駆動部72をOFFして無通電状態とする。すると、第1シェード5および第2シェード6は、図1(B)に示す姿勢、すなわち、高速道路用の配光パターンMPが得られる姿勢に切り替わるので、ストッパ部材11の通過部29からの光LTは、第1シェード5の第1遮蔽部25の第1通過部27および第2シェード6の第2遮蔽部26の第2通過部28を通過して光センサ24に入る。このために、光センサ24は、H信号を故障検出部30に出力する。
故障検出部30は、「チェック順序2」において、光センサ24からH信号を入力すると、複数のシェードおよび切替装置には一応故障がないと判断して、「チェック順序3」に進む。ここで、故障検出部30は、「チェック順序2」において、光センサ24からL信号を入力すると、第1系統および第2系統、または、第1系統、または、第2系統に故障があると判断する。すなわち、「チェック順序2」において、第1シェード5および第2シェード6が図1(B)に示す姿勢にあれば故障がない状態であり、故障がある状態とは、第1シェード5が図1(A)に示す姿勢にあるときであって、第1系統および第2系統、または、第1系統に故障があるときであり、また、第2シェード6が図1(C)に示す姿勢にあるときであって、第2系統に故障があるときである。
なお、故障検出部30が光センサ24からのH信号に基づいて一応故障がないと判断した場合においても、複数のシェードおよび切替装置に故障がある場合がある。たとえば、第2系統に故障がある場合、第2シェード6は、図1(B)に示す姿勢にあるので、ストッパ部材11の通過部29からの光LTは、第1シェード5の第1遮蔽部25の第1通過部27および第2シェード6の第2遮蔽部26の第2通過部28を通過して光センサ24に入り、光センサ24がH信号を故障検出部30に出力する。このために、故障があるのにもかかわらず、故障検出部30は、故障がないと判断して、「チェック順序3」に進む。
そして、故障検出部30は、図12の「チェック順序3」に示すように、第1駆動部71および第2駆動部72を共にOFFして無通電状態とする。すると、第1シェード5および第2シェード6は、図1(A)に示す姿勢、すなわち、すれ違い用の配光パターンLPが得られる姿勢に切り替わるので、ストッパ部材11の通過部29からの光LTは、第1シェード5の第1遮蔽部25で遮蔽されて光センサ24に入らない。このために、光センサ24は、L信号を故障検出部30に出力する。
故障検出部30は、「チェック順序3」において、光センサ24からL信号を入力すると、複数のシェードおよび切替装置には一応故障がないと判断して、チェックを終了させる。ここで、故障検出部30は、「チェック順序3」において、光センサ24からH信号を入力すると、第1系統に故障があると判断する。すなわち、「チェック順序3」において、第1シェード5および第2シェード6が図1(A)に示す姿勢にあれば故障がない状態であり、故障がある状態とは、第1シェード5が図1(B)に示す姿勢にあるときであって、第1系統に故障があるときである。
なお、故障検出部30が光センサ24からのL信号に基づいて一応故障がないと判断した場合においても、複数のシェードおよび切替装置に故障がある場合がある。たとえば、第2系統に故障がある場合、第1シェード5は、図1(A)に示す姿勢にあり、また、第1系統に故障がある場合、第2シェード5は、図1(C)に示す姿勢にあるので、ストッパ部材11の通過部29からの光LTは、第1シェード5の第1遮蔽部25で遮蔽されて、また、ストッパ部材11の通過部29からの光LTは、第1シェード5の第1遮蔽部25の第1通過部27を通過するが、第2シェード6の第2遮蔽部26で遮蔽されて光センサ24に入らず、光センサ24がL信号を故障検出部30に出力する。このために、故障があるのにもかかわらず、故障検出部30は、故障がないと判断して、チェックを終了する。
このように、故障検出部30は、車両始動前に第1駆動部71および第2駆動部72を駆動させて第1シェード5および第2シェード6を各配光パターンLP、MP、HPが得られる各姿勢に切り替え、かつ、第1シェード5および第2シェード6の各姿勢における光センサ24から出力される信号に基づいて第1シェード5および第2シェード6および第1駆動部71および第2駆動部72および第1伝達部51および第2伝達部61の故障を検出する。なお、前記のように、図12の各「チェック順序1、2、3」において、故障があるのにもかかわらず、故障検出部30が故障なしと判断した場合でも、図12の「チェック順序1、2、3」のチェックをすべて行うことにより、故障検出部30は、複数のシェードおよび切替装置の故障を検出することができる。
たとえば、複数のシェードおよび切替装置が正常状態においては、第1駆動部71および第2駆動部72を共にOFFして無通電状態として、第1シェード5および第2シェード6を図13(A)に示す姿勢に切り替えることにより、図9(C)に示すすれ違い用の配光パターンLPが得られる。ここで、第2系統に故障があり、図13(B)に示すように、第2シェード6のシェード部60が上がらずに下がった状態の場合であっても、第1シェード5により図9(C)に示すすれ違い用の配光パターンLPが得られる。このために、すれ違い用の配光パターンLPには変化がないので、すれ違い用の配光パターンLPからは第2系統の故障に気付くことができない。しかも、この第2系統の故障は、すれ違い用の配光パターンLPから走行用の配光パターンHPに切り替えても、第1シェード5が下がるだけであって、この走行用の配光パターンHPからでも気付くことができない。ただし、すれ違い用の配光パターンLPもしくは走行用の配光パターンHPから高速道路用の配光パターンMPに切り替えると、第2シェード6が下がったままの状態で第1シェード5が下がるので、高速道路用の配光パターンMPに変化があり、第2系統の故障に気が付く。これに対して、この実施例の車両用前照灯1は、故障検出部30の作用により、車両の始動前に第2系統の故障を検出することができ、交通安全に貢献することができる。なお、第1系統の故障、第2系統の故障とは、第1系統の第1シェード5、第1駆動部71、第1伝達部51の個々の故障および複数個組み合わせられた故障、第2系統の第2シェード6、第2駆動部72、第2伝達部61の個々の故障および複数個組み合わせられた故障である。
故障検出部30は、故障を検出すると、第1駆動部71および第2駆動部72を共にOFFして無通電状態として、第1シェード5および第2シェード6を図1(A)、図9(A)、(B)に示す姿勢に切り替えて、図9(C)に示すすれ違い用の配光パターンLPに切り替える。または、故障検出部30は、故障を検出すると、図14において、レベリングアクチュエータ36を駆動させて、車両用前照灯1を水平軸H−H回りに下に回転させて、車両用前照灯1の光軸Z−Zを下向きにする。または、故障検出部30は、故障を検出すると、点灯状態の放電灯2を消灯させる。なお、故障の検出を行う時点は、車両始動前以外でもよい。たとえば、走行の配光パターンHPからすれ違い用の配光パターンLPを切り替える際に、走行の配光パターンHPから高速道路用の配光パターンMPに切り替えてからすれ違い用の配光パターンLPに切り替えることにより、故障検出部30は、前記の「チェック順序1」「チェック順序2」「チェック順序3」にしたがって故障を検出することができる。
この実施例にかかる車両用前照灯1は、以上のごとき構成および作用からなり、以下、その効果について説明する。
この実施例にかかる車両用前照灯1は、第1シェード5および第2シェード6および切替装置(第1駆動部71および第2駆動部72および第1伝達部51および第2伝達部61)が正常状態において、第1シェード5および第2シェード6が高速道路用の配光パターンMPが得られる姿勢にあるときには光センサ24が光を検出し、一方、第1シェード5および第2シェード6がすれ違い用の配光パターンLPおよび走行用の配光パターンHPが得られる姿勢にあるときには光センサ24が光を検出することができない。したがって、切替装置が第1シェード5および第2シェード6を高速道路用の配光パターンMPが得られる姿勢に切り替えたときに光センサ24が光を検出できなかった場合、また、切替装置が第1シェード5および第2シェード6をすれ違い用の配光パターンLPおよび走行用の配光パターンHPが得られる姿勢に切り替えたときに光センサ24が光を検出した場合には、第1シェード5および第2シェード6および切替装置に故障があると判断することができる。この結果、この実施例にかかる車両用前照灯1は、故障検出部30が切替装置を駆動させて第1シェード5および第2シェード6を各配光パターンLP、MP、HPが得られる各姿勢に切り替え、かつ、第1シェード5および第2シェード6の各姿勢における光センサ24から出力される信号に基づいて第1シェード5および第2シェード6および切替装置の故障を検出することができる。これにより、この実施例にかかる車両用前照灯1は、ドライバーなどが配光パターンの切替時に配光パターンの異常に気が付くまでは第1シェード5および第2シェード6および切替装置の故障に気が付かないという不具合がない。
また、この実施例にかかる車両用前照灯1は、光センサ24が放電灯2からの光LTを検出するものであるから、故障検出用の発光部を別個に設ける必要がないので、部品点数が増してコストが高くなることがない。なお、この発明においては、図1(A)に示すように、光センサ24が別個に設けられている発光部としての赤外線LED31からの光LT(赤外線、赤外光)を検出するものであってもよい。この場合においては、放電灯2からの光がストッパ部材11の通過部29および第1遮蔽部25の第1通過部27および第2遮蔽部26の第2通過部28を通過して外部に漏れることがない。
さらに、この実施例にかかる車両用前照灯1は、故障検出部30が、故障を検出すると、切替装置を駆動させて第1シェード5および第2シェード6をすれ違い用の配光パターンLPが得られる姿勢に切り替え、または、別個の駆動装置のレベリングアクチュエータ36により車両用前照灯1の光軸Z−Zを下に向け、または、点灯状態の放電灯2を消灯させる。このために、この実施例にかかる車両用前照灯1は、第1シェード5および第2シェード6および切替装置の故障によりグレアとなることを確実に防止することができる。
さらにまた、この実施例にかかる車両用前照灯1は、第1シェード5および第1駆動部71および第1伝達部51からなる第1系統と第2シェード6および第2駆動部72および第2伝達部61からなる第2系統とに跨るように1個の光センサ24が光LTを検出するものである。このために、この実施例にかかる車両用前照灯1は、1個の光センサ24で2系統のシェード5、6および切替装置の故障を検出することができるので、製造コストを安価にすることができる。しかも、この実施例にかかる車両用前照灯1は、故障検出部30が第1駆動部71および第2駆動部72を順次駆動させたり停止させたりして、第1伝達部51および第2伝達部61を介して第1シェード5および第2シェード6を各配光パターンLP、MP、HPが得られる各姿勢に切り替え、かつ、第1シェード5および第2シェード6の各姿勢における1個の光センサ24から出力される信号に基づいて第1シェード5および第2シェード6および切替装置(第1駆動部71および第2駆動部71および第1伝達部51および第2伝達部61)の故障を確実に検出することができる。この結果、この実施例にかかる車両用前照灯1は、信頼性の高い故障検出を行うことができ、交通安全に貢献することができる。
なお、前記の実施例においては、第1シェード5および第2シェード6の姿勢を切り替えて、すれ違い用の配光パターンLPと、高速道路用の配光パターンMPと、走行用の配光パターンHPと、が得られるプロジェクタタイプのヘッドランプについて説明するものである。ところが、この発明においては、得られる配光パターンとしては特に限定されない。また、得られる配光パターンは2つでも4つ以上でもよい。たとえば、濡路用の配光パターンや霧用配光パターンなど。さらに、プロジェクタタイプのヘッドランプ以外にフォグランプなどであってもよい。
また、前記の実施例においては、シェードとしてエッジが直線をなす第1シェード5と第2シェード6を使用するものである。ところが、この発明においては、エッジが湾曲したシェードを使用してもよい。
さらに、前記の実施例においては、第1シェード5および第2シェード6の姿勢を切り替える切替装置として、それぞれソレノイドから構成されている第1駆動部71および第2駆動部72および第1伝達部51および第2伝達部61を使用するものである。ところが、この発明においては、切替装置としては、特にこの実施例のものに限定しない。たとえば、1個の駆動部と、この1個の駆動部の駆動力を第1シェード5に伝達する第1伝達部と、この1個の駆動部の駆動力を第2シェード6に伝達する第2伝達部と、から構成されている切替装置などである。具体的には、1個の駆動部として1台のモータなどを使用し、この1台のモータと第1進退ロッド22および第2進退ロッド23とを駆動力伝達機構を介して連結するものである。この駆動力伝達機構としては、ギア群から構成されているもの、ギア群とアイドル機構とから構成されているもの、ギア群とカム機構とから構成されているものなどがある。1台のモータなどの駆動により、駆動力伝達機構を介して、第1進退ロッド22の進退と第2進退ロッド23の進退とが制御される。