特許文献2では、枠部材の中心部を貫通するアンカーを地山中に挿入し、緊張する作業に加え、枠部材同士の連結のために、枠部材の長さ方向に緊張材を配置し、張力を導入する作業を必要とするため、現場での作業が複雑化する。特許文献3では、ある枠部材が受ける、法面崩壊時の荷重を周囲の枠部材に分散させることができず、法面からの荷重に対し、各枠部材が独立した挙動をする可能性があるため、全枠部材が法面の崩壊防止のために協働することを期待し難い。
本発明は上記背景より、プレキャストコンクリート製等、既製の枠部材を連結するための格別な部材を要することなく、全枠部材が協働して法面の崩壊防止の機能を発揮する法面保護装置を提案するものである。
請求項1に記載の法面保護装置は、保護すべき法面の表面に沿って2方向に敷設される既製の枠部材と、前記2方向の枠部材が交差する交差部に配置され、この2方向の枠部材に跨って両枠部材を保持する保持部材と、この保持部材と少なくとも1方向の前記枠部材を厚さ方向に貫通して地山中に貫入し、前記保持部材と前記枠部材を連結しながらこれらを地山に定着させるアンカーとを備え、
前記アンカーが地山への定着により前記保持部材を法面側へ押圧し、前記2方向の枠部材を法面に密着させ、
前記保持部材は、前記枠部材の表面からその幅方向に形成された係合溝に食い込んで前記枠部材の軸方向に係止する係合部を有し、この係合部が前記枠部材の前記係合溝に食い込んだ状態で、前記枠部材の軸方向に係止し、前記枠部材を軸方向に拘束していることを構成要件とする。
「保護すべき法面」とは、対象となる法面全体の内、法面の勾配や不陸の程度、土質、地山の透水性等の条件から、保護すべき法面が法面の勾配方向と横方向のそれぞれに付き、一部の限られた領域になることもあることを言う。例えば法面の状況によっては法面全体の内、勾配方向、または横方向に連続的にではなく、部分的(断続的)に「保護すべき法面」が存在することもある。
「既製の」とは主にプレキャストコンクリート製の意味であるが、形態、あるいは断面形状によっては角形鋼管の単体の他、H形鋼やT形鋼、溝形鋼、山形鋼、その他の形鋼を組み合わせて形成された組立鉄骨、あるいは鋼材とコンクリートとの合成構造等も含まれる。アンカーは地盤アンカーを指し、例えば地山に法面からの深度方向に形成された削孔に挿入、もしくは圧入(回転圧入を含む)された状態で削孔中に充填されるモルタル、セメントミルク等の固化剤が硬化することによって地山中に定着される。地盤アンカーの種類は問われず、先端が拡大(拡径)することにより地盤中に定着される形式のアンカーも使用される。
アンカーは先端部(下端部)が地山(地盤)中に定着された状態で、頭部から緊張力が与えられることにより常に引張力を負担した状態になり、引張力の反力を枠部材から法面に与え、法面の崩落を防止する。アンカーは緊張力が与えられた状態で、保持部材から突出する頭部においてナットや楔等により保持部材に定着される。
2方向の枠部材が交差する交差部における枠部材の組み合わせの仕方は複数通りあり、図2−(a)に示すようにいずれか1方向の枠部材が交差部を貫通する場合と、(b)に示すように2方向の枠部材が交差部を貫通する場合、並びに(c)に示すように2方向の枠部材の端部が交差部で会する(交差部に集合する)場合がある。図2中、○は交差部に配置される保持部材4を、□は1方向の枠部材の端部同士を連結する、図7−(d)に示すような継手部材8を示す。
1方向の枠部材が交差部を貫通するとは(図2−(a))、その方向の枠部材が交差部において連続することを言い、2方向の枠部材が交差部を貫通するとは(図2−(b))、2方向の枠部材が互いに重なりながら、交差部において連続することを言う。1方向の枠部材が交差部を貫通する場合、他の方向の枠部材は1方向の枠部材にその幅方向に突き当たる状態で組み合わせられる。継手部材8は図7−(d)に示すように図3等に示す十字形の保持部材4のいずれか両側の部分を切り落としたI字状の形状をし、1方向に配置され、互いに連結される2本の枠部材を幅方向に挟み込み、拘束する機能を有する。
継手部材8は保持部材4と同様、連結された状態にある1方向、2本の枠部材の厚さ方向と幅方向の安定性、並びに地山への定着状態での安定性を確保する上では図7−(d)に示すように上下(背面材81と表面材82とで)で対になって2本の枠部材を挟み込むことが適切であるが、必ずしも上下で対になる必要はない。
2方向の枠部材が交差部を貫通する場合は(図2−(b))、各方向の枠部材の端部同士が交差部間の中間部位置で、継手部材8により互いに連結される。1方向の枠部材が交差部を貫通する場合は(図2−(a))、その方向の枠部材の端部同士が交差部間の中間部位置で、同様に継手部材8により互いに連結される。
いずれか1方向の枠部材が交差部を貫通する場合(図2−(a))、保持部材はその1方向の枠部材とそれに交差する方向の枠部材に跨って配置され、アンカーは保持部材とその1方向の枠部材を貫通して地山に定着される。この場合、保持部材がアンカーによって地山に定着されることで、交差する2方向の枠部材の幅方向と厚さ方向の移動が拘束される。
2方向の枠部材が交差部を貫通する場合(図2−(b))も、保持部材は2方向の枠部材に跨って配置されるが、アンカーは保持部材と2方向の枠部材を貫通して地山に定着される。この場合、2方向の枠部材は互いに重なることで、各方向の枠部材が互いに幅方向に係合した状態になるため、重なることの結果として2方向の枠部材がそれぞれの幅方向の移動に対して拘束された状態になる。この状態で、アンカーが保持部材と2方向の枠部材を貫通することで、2方向の枠部材は直接的に地山に定着されることになる。
いずれか1方向、または2方向の枠部材が交差部を貫通する場合(図2−(a)、(b))において、継手部材8によって連結される1方向、2本の枠部材の安定性が継手部材8によっては確保されない場合には、継手部材8の位置に、継手部材8と枠部材を貫通するアンカー5が配置され、地山に定着される。アンカー5が継手部材8を貫通して地山に定着されることにより継手部材8と枠部材が地山に拘束され、併せて枠部材の厚さ方向と幅方向の移動に対する安定性が確保される。
この場合、1方向、2本の枠部材2、2は図4−(a)の下段側に位置する枠部材2、2のように一方の枠部材2が他方の枠部材2に重なった状態で組み合わせられる。この2本の枠部材2、2が重なった部分に継手部材8が配置され、継手部材8と2本の枠部材2、2を貫通してアンカーが地山中に挿入される。
2方向の枠部材の端部が交差部で会する場合(図2−(c))は、保持部材が2方向の枠部材をそれぞれの幅方向に挟み込みながら上方から地山側へ押さえ込むことで、2方向の枠部材を地山に定着させる。この場合に、図示するようにいずれか1方向の枠部材の端部同士が重なり、その重なり部分をアンカーが貫通する場合には、その方向の枠部材はアンカーと保持部材によって直接的に地山に定着されることになる。
交差部に2方向の枠部材の端部が集合し、交差部において4本の枠部材が保持部材によって連結される場合(図2−(c))、それ以外の場合(図2−(a)、(b))より枠部材端部の幅方向の移動の自由度が高いため、いずれか1方向の枠部材が他の方向の枠部材の幅方向の移動を拘束する機能が発揮されにくい。この関係から、図2−(a)、(b)との対比で、相対的に2方向の枠部材が幅方向に移動し易く、交差部における安定性が損なわれ易い可能性がある。
これに対し、交差部を少なくともいずれか1方向の枠部材が貫通する場合(図2−(a)、(b))には、その枠部材に突き当たる他の方向の枠部材が1方向の枠部材の幅方向の移動を拘束しようとするため、交差部に2方向の枠部材の端部が集合する場合より枠部材の端部が揺動することが起こりにくく、2方向の枠部材から構成される格子体の安定性が高い。
このことから、格子体全体の安定性の面からは、少なくともいずれか1方向の枠部材が交差部を貫通し、他の方向の枠部材がその1方向の枠部材の側面に突き当たる状態で組み合わせられる方がよい。但し、交差部を貫通する枠部材の端部は交差する方向の枠部材との取合いがないため、前記のようにその方向の枠部材同士が継手部材によって連結され(図2−(a)、(b))、更に必要に応じ、アンカーが継手部材と枠部材を貫通して配置されることになる。
図2−(a)〜(c)から分かるように交差部を少なくともいずれか1方向の枠部材が貫通する場合には、交差部以外の位置において1方向の枠部材の端部同士が継手部材によって連結されることになり、枠部材同士の連結箇所数(保持部材数)が増える不利益があるため、連結箇所数を節減する観点からは(c)に示すように交差部に2方向の枠部材の端部が集合する方が合理的と言える。
図2−(a)〜(c)のいずれの形態でも、アンカーの保持部材と枠部材への貫通によって2方向の枠部材が地山に定着されることで、アンカーが2方向の枠部材を連結するための連結材を兼ねるため、枠部材を地山に定着させるためのアンカーの他に、2方向の枠部材を連結するための連結材を別途、付加する必要がない。
この結果、アンカーの地山への定着によって2方向の枠部材の連結状態と地山への定着(拘束)状態が得られ、全枠部材が協働して法面の崩壊防止の機能を枠部材に付与することが可能になる。保持部材は枠部材の表面と側面に図3−(a)〜(d)に示すように枠部材の表面から食い込んだ状態で重なり、食い込むことで、枠部材の軸方向の移動を拘束する効果も発揮する。図3−(a)〜(c)は図2−(a)〜(c)に対応する。
特に図6、図7に示すように保持部材が枠部材の背面に重なる背面材と、枠部材の表面に重なり、背面材と対になって2方向の枠部材を挟み込む表面材からなる場合(請求項2)には、背面材と表面材によって2方向の枠部材が上下から拘束され、枠部材の厚さ方向の移動が拘束されるため、枠部材の交差部における安定性が向上する。
この場合も保持部材(表面材と背面材)は枠部材の表面(背面)と側面に、枠部材の表面(背面)から食い込んだ状態で重なる。図3に示すように保持部材が上下で対になる(背面材と表面材からなる)場合には、上下の保持部材(背面材と表面材)同士が互いに衝突しないよう、保持部材(背面材と表面材)の高さは枠部材の高さの半分以下に設定される。継手部材も図7−(d)に示すように上下で対になる場合には、図7−(a)〜(c)に示す保持部材と同様に枠部材の高さの半分程度の高さになる。
更にアンカーが図6−(a)、(b)に示すように表面材を貫通して背面材に螺入し、アンカーの背面材への螺入に伴い、背面材が表面材に接近する向きに移動可能である場合(請求項3)には、保持部材への螺入によってアンカーが2方向の枠部材の一体性を確保する機能を発揮する。従って2方向の枠部材が全体として協働することによる、法面の崩壊防止効果が向上する。アンカーは背面材に直接、螺入する場合と背面材の下面側に一体化したナットに螺入する場合がある。
この場合、アンカーは例えば地山中への挿入工程の最終段階で、表面材に直接、あるいは座金等を介して間接的に当接した状態で軸回りに回転させられることにより、少なくとも背面材との接続部分に形成されている雄ねじが背面材に螺入し、背面材を表面材側へ引き寄せる。図6ではアンカーの頭部が保持部材(表面材)にナットで定着される形式を示しているが、頭部の定着方法はこれには限定されず、楔が使用されることもある。図6はまた、アンカーの頭部に回転力を与えられることでアンカーが圧入するよう、先端部にスクリュー羽根を形成した場合を示している。
前記のように2方向の枠部材は、1方向の枠部材が交差部を貫通する形で敷設され、他の方向の枠部材が1方向の枠部材の側面に突き合わせられる形で組み合わせられる場合に、2方向の枠部材が交差部に集合する場合より格子体全体としての安定性が高い。但し、その場合、交差部を貫通する方向の枠部材の内、格子体の最も周囲に位置する枠部材の端部を開放させておくことはできないことから、その端部は他の方向の枠部材の端部と連結される必要がある。
結局、1方向の枠部材を交差部において貫通させる場合にも、周囲においては他の方向の枠部材の端部と連結されることになるから、2方向の枠部材の端部が交差部に集合する場合の交差部における枠部材の安定性を確保することが必要になる。そこで、図4、図5に示すように保持部材の配置位置(交差部)において、2方向の枠部材の内、いずれか1方向の枠部材が厚さ方向に互いに重なり、他方向の枠部材が1方向の枠部材に厚さ方向に重なって配置されることにすれば(請求項4)、2方向の枠部材の端部が交差部に集合する場合の安定性を確保することが可能になる。
2方向の枠部材の内、いずれか1方向の枠部材が保持部材の配置位置において、枠部材の厚さ方向に重なり、他方向の枠部材が1方向の枠部材に厚さ方向に重なって配置されることで、交差部に集合する2方向、4本の枠部材が交差部において厚さ方向に重なる状態を得ることができる。このため、枠部材の厚さ寸法によっては図5に示すように4本の全枠部材を貫通させてアンカーを地山中に挿入することが可能である。アンカーが4本の枠部材を同時に貫通することで、4本の枠部材の端部が交差部に拘束されることになる。
枠部材はアンカーに作用している張力を背面から法面に作用させる上で、背面が法面に接触した状態で敷設されることが適切であるため、2方向の枠部材と保持部材、及びアンカーから構成される法面保護装置は主として、既に法面の整地とモルタルの吹付け等による保護工事が実施されているような、全体として表面に不陸がない法面に対して設置される。不陸の存在する法面に直接、枠部材を敷設した場合、枠部材の背面の少なくとも一部が法面から浮く状況になることが想定され、法面から浮いた状態にある枠部材からは法面を押圧することができないことによる。
そこで、法面の不陸の程度が大きい場合には、2方向の枠部材が法面から浮いた状態でも、法面に圧力を与えることが可能となるよう、2方向の枠部材で区画された領域に配置される押さえ板と、押さえ板の法面側に充填される充填材が法面保護装置に備えられる(請求項5)。押さえ板は2方向の枠部材で区画された領域に配置され、長さ方向の両端部、もしくは幅方向の両側部において枠部材に保持され、枠部材から伝達される、アンカーの反力を直接、もしくは充填材を介して間接的に法面に伝達する。充填材は押さえ板と法面との間に充填される。充填材としては法面から浸透する水の排出性を確保する上で、透水性のよい砂利、砕石等が適する。
2方向に、格子状に配置される枠部材によって法面上の空間が複数の領域に区画されるが、請求項5ではアンカーに作用する張力が枠部材から押さえ板に伝達され、押さえ板から直接、法面に伝達される他、押さえ板から充填材に伝達されるため、結果として法面を押圧すべき枠部材の圧力が押さえ板を通じて充填材から法面に作用することになる。各枠部材の領域側には押さえ板の周囲(縁部)が差し込まれ、押さえ板を拘束する保持溝が形成される。
押さえ板と充填材を備えた請求項5の法面保護装置は上記のように法面に不陸がある場合に好適であるが、不陸のない、あるいは整地が一旦完了している法面への設置を阻害する要因はないため、設置は可能である。
アンカーが保持部材と枠部材を貫通して地山に定着され、2方向の枠部材を地山に定着することで、アンカーが2方向の枠部材を連結するための連結材を兼ねるため、枠部材を地山に定着させるためのアンカーの他に、2方向の枠部材を連結するための連結材を別途、付加する必要がない。従ってアンカーの地山への定着によって2方向の枠部材の連結状態と地山への定着(拘束)状態が得られ、全枠部材が協働して法面の崩壊を防止する機能を枠部材に付与することができる。
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は保護すべき法面の表面に沿って2方向に敷設される既製の枠部材2、3と、2方向の枠部材2、3が交差する交差部に配置され、この2方向の枠部材2、3に跨って両枠部材2、3を保持する保持部材4と、保持部材4と少なくとも1方向の枠部材2(3)を厚さ方向に貫通して地山中に貫入し、保持部材4と枠部材2、3を連結しながらこれらを地山に定着させるアンカー5とを備えた法面保護装置1の構成例を示す。
アンカー5は主に地山中に形成された削孔中に挿入(圧入)され、削孔中に充填されるモルタル(グラウト)等の固化剤52の硬化によって先端部において地山に定着される。先端部の定着後、全長に張力が与えられた状態で、頭部において保持部材4に定着されることにより。保持部材4を法面側へ押圧し、2方向の枠部材2、3を法面に密着させる機能を発揮する。2方向の枠部材2、3は基本的に法面の勾配方向と横方向(水平方向)に敷設され、全体として格子状に配置され、格子体を構成する。
図1は法面の勾配方向に敷設される枠部材2と、それに交差する方向の横方向(水平方向)に敷設される枠部材3、及び保持部材4とアンカー5からなる法面保護装置1の設置例を示しているが、これらの構成要素からなる法面保護装置1は主として不陸の少ない、あるいは不陸の程度が小さい法面に対して設置される。例えば整地と表面へのモルタルの吹付けが施工されている既存の法面は表層部分での排水性能が付与されていない場合に、地山中への滞水により崩落の危険性を秘めるため、崩壊を未然に防止する意味では、崩落防止の処理が済んでいる法面に対しても法面保護装置1を設置することに意義がある。
また不陸の程度が大きく、法面保護装置1の枠部材2、3の背面を法面に密着させた状態で敷設することができない状況下では、アンカー5の反力を枠部材2、3を通じて地山に与えることができないため、枠部材2、3と保持部材4、及びアンカー5を構成要素とする法面保護装置1は不陸の少ない法面への設置に適する。不陸の程度が大きい法面に対しては図8に示すように枠部材2、3に周囲を保持される押さえ板6とその背面に充填される砕石等の充填材6が図1に示す法面保護装置1に付加される。押さえ板6が法面に対向して配置され、その対向する押さえ板6と法面間に充填材7が介在することで、枠部材2、3と法面との間の空隙が埋められ、枠部材2、3背面からその全長に亘って法面に圧力を与える状態になる。
枠部材2、3はプレキャストコンクリートにより、もしくは角形鋼管、形鋼等の鋼材の組み合わせから、あるいはコンクリートと鋼材の合成構造で、一定の長さと幅を持って製作され、軸方向(長さ方向)の端部、もしくは中間部にはアンカー5が挿通するための挿通孔2a、3aが形成される。法面の勾配方向に敷設される枠部材2と横方向に敷設される枠部材3の長さは同一の場合と相違する場合がある。
挿通孔2a、3aの形成位置は2方向の枠部材2、3の組み合わせの仕方によって異なり、図2−(a)に示すようにいずれか一方の枠部材2が交差部を貫通する形で配置される場合には、その枠部材2の軸方向中間部に挿通孔2aが形成される。この場合、他方の枠部材3には一方の枠部材2との組み合わせにより、挿通孔3aが形成される場合と形成されない場合がある。例えば他方の枠部材3、3の端部が互いに重なりながら、一方の枠部材2に重なるように2方向の枠部材2、3が組み合わせられる場合には、他方の枠部材3にも挿通孔3aが形成される。図2−(b)に示すように2方向の枠部材2、3が交差部を貫通する形で配置される場合には、図3−(b)に示すように両枠部材2、3に挿通孔2a、3aが形成される。
図2−(c)に示すように2方向の枠部材2、3の端部が交差部で会する場合には、図3−(c)、図5に示すようにいずれか一方の枠部材2(3)、もしくは両枠部材2、3に挿通孔2a、3aが形成される。図2−(a)〜(c)に対応した交差部における2方向の枠部材2、3の主な取合いを図3−(a)〜(c)に示すが、2方向の枠部材2、3の取合いは図3の例には限定されない。
図3−(a)は2方向の枠部材2、3の内、勾配方向に敷設される一方の枠部材2が交差部を貫通し、横方向の枠部材3が一方の枠部材2の側面に突き当たって敷設された様子を示す。この場合、交差部には一方の枠部材2が位置することから、この枠部材2の軸方向中間部に挿通孔2aが形成される。(b)は2方向の枠部材2、3が交差部を貫通する形で敷設された様子を示す。この場合、交差部には2方向の枠部材2、3が位置するため、両枠部材2、3の軸方向中間部が木造仕口の「合欠き」状に切り欠かれ、この切り欠き部分に挿通孔2a、3aが形成される。図3では交差部に配置される保持部材4に挿通孔4cが形成されている様子を示しているが、挿通孔2a、3aはこの挿通孔4cの下方に位置している。
図3−(c)は2方向の枠部材2、3の端部が交差部で会する形で敷設された様子を示す。ここでは特に一方(勾配方向)の枠部材2、2の端部を互いに重ねた状態で連結するために、双方の端部を木造継手の「合欠き継ぎ」状に切り欠き、この切欠き部分で枠部材2、2を厚さ方向に重ねた様子を示している。他方(横方向)の枠部材3は一方の枠部材2の側面に突き当たって敷設される。この場合、交差部には一方の枠部材2、2の端部が位置するため、この一方の枠部材2、2の端部(両端部)に挿通孔2aが形成される。
図3−(d)は図3−(a)〜(c)のいずれかの場合において、保持部材4に、枠部材2、3に上面側から食い込む係合部4bを形成したことに対応し、枠部材2、3に係合部4bが食い込む係合溝2b、3bを枠部材2、3の幅方向に形成した様子を示す。係合溝2b、3bは枠部材2、3の上面側から形成されればよく、その位置と区間は問われないが、係止部4aと係合部4bの連続性を維持するために、枠部材2、3の幅方向に連続させている。
枠部材2、3の係合溝2b、3bの深さは係合溝2b、3bの形成が枠部材2、3の曲げ強度と曲げ剛性に影響しない程度の大きさに抑えられる。一方、係合溝2b、3bに入り込む係合部4bは交差部で互いに連結される2本の枠部材2、2(3、3)の内、一方の枠部材2(3)からの引張力を他方の枠部材2(3)に伝達する機能を発揮できるだけの深さを有すればよい。
保持部材4は基本的に各方向の枠部材2、3に対し、係止部4aにおいて幅方向に係止することで、枠部材2、3の幅方向の移動を拘束するが、図3−(d)に示すように保持部材4が枠部材2、3の軸方向にも係止することで、枠部材2、3を軸方向の移動に対しても拘束することができるため、交差部における2方向の枠部材2、3の安定性が向上する。保持部材4は主に鋼板から形成されるが、合成樹脂、繊維強化プラスチック等からも製作される。
保持部材4は図3に示すように2方向の枠部材2、3の交差部に配置され、両枠部材2、3を少なくとも軸方向に拘束し、アンカー5の貫通により枠部材2、3を連結する働きをすることから、平面上、2方向の枠部材2、3に跨る十字形の形状をする。図3−(a)〜(c)は図2に示す格子体の周囲以外の交差部に配置される保持部材4を示している。図2において格子体の周囲に位置する交差部に配置される保持部材4は交差部の部位に応じ、図7−(b)、(c)に示すように図3に示す保持部材4の、中央部以外のいずれかの凸部分が切り落とされたT字形、L字形に形成される。図7−(b)は格子体の周囲の内、隅角部以外の部分に配置される保持部材4を、(c)は隅角部に配置される保持部材4を示している。
保持部材4の周囲の、枠部材2、3の側面に対応した位置には枠部材2、3の側面に係止し、枠部材2、3の幅方向の移動を拘束する係止部4aが形成される。保持部材4の平面上の中心部にはアンカー4が挿通する挿通孔4cが形成される。図3−(d)は上記のように係止部4aに加え、枠部材2、3の上面に対応した位置に、枠部材2、3の係合溝2b、3bに差し込まれる係合部4bを形成し、保持部材4に、各枠部材2、3を幅方向と軸方向の2方向に拘束する機能を持たせた場合を示している。図3−(a)〜(c)は係止部4aを有する保持部材4が2方向の枠部材2、3に跨り、上下で対になって配置されている様子を、(d)は係止部4aと係合部4bを有する保持部材4が2方向の枠部材2、3に跨り、上下で対になって配置されている様子を示している。
図4、図5は交差部に2方向の枠部材2、3の端部が集合する図2−(c)の場合に、2方向の枠部材2、3を重ねながら組み合わせた場合の取合い例を示す。図4は(a)に示すように交差部において一方の枠部材2、2の端部を互いに重ねると共に、その内の上側に位置する枠部材2の、交差部に対応する部分を他方の枠部材3の端部の形状に応じて切り欠き、この切り欠き部分に他方の枠部材3を差し込むことで、(b)に示すように他方の枠部材3が一方の枠部材2に幅方向に係合する状態で組み合わせた場合である。この場合、アンカー5は一方の2本の枠部材2、2のみを貫通する。
図5はいずれか一方の枠部材2が交差部を貫通する図2−(a)の場合に、図5−(a)に示すようにその枠部材2の、交差部に位置する部分の両側面に全高に亘って切欠きを形成し、この切欠きに他方の枠部材3、3の端部を突き合わせて組み合わせた場合を示す。他方の枠部材3は端部において一方の枠部材2の切欠きに突き合わせられた状態で、その切欠きに沿って落とし込まれる。
図5はまた、両枠部材2、3の上下面に図7−(a)に示す保持部材4(背面材41と表面材42)を配置し、図5−(b)に示すように保持部材4によって2方向の枠部材2、3を挟み込んで拘束した場合を示している。2方向の枠部材2、3の上下面には係合溝2b、3bが形成され、係合溝2b、3bに保持部材4の係合部4bが入り込むことにより2方向の枠部材2、3は組み合わせられた状態で2方向の移動に対して拘束される。
図6、図7は保持部材4が枠部材2、3の背面に重なる背面材41と、枠部材2、3の表面に重なり、背面材41と対になって2方向の枠部材2、3を挟み込む表面材42から構成される場合の保持部材4の使用例を示す。この場合、アンカー5は背面材41と表面材42を貫通するため、背面材41と表面材42の双方に挿通孔4cが形成される。
前記した図3−(a)〜(c)は保持部材4が背面材41と表面材42からなる場合の2方向の枠部材2、3への装着状態を示している。ここに示すように保持部材4が背面材41と表面材42とで対になる場合、対向して枠部材2、3に装着されたときに互いに衝突しないよう、係止部4aと係合部4bの高さは枠部材2、3の高さ(厚さ)の半分以下の大きさになる。係止部4aと係合部4bの高さを等しくする場合には、係止部4aと係合部4bの高さは枠部材2、3の高さ(厚さ)の半分以下の大きさで設定される。継手部材8が図7−(d)に示すように背面材81と表面材82とで上下で対になる場合も、保持部材4と同様に、背面材81と表面材82の高さは枠部材2、3の高さ(厚さ)の半分以下の大きさになる。
図6は特にアンカー5が表面材42を貫通して背面材41に螺入し、アンカー5の背面材41への螺入に伴い、背面材41が表面材42に接近する向きに移動可能である場合の交差部の断面を示す。この場合、アンカー5が螺入する背面材41の挿通孔4cはねじ孔になり、アンカー5の、背面材41に対応した区間に雄ねじが形成される。表面材42の挿通孔4cはアンカー5がクリアランスを持って挿通可能な大きさを持つ。アンカー5は頭部が表面材42の表面に当接した状態で、雄ねじ部が背面材41の挿通孔4c(ねじ孔)に螺入することにより背面材41を表面材42側へ引き寄せ、背面材41と表面材42を枠部材2、3に密着させる。
図6ではアンカー5の背面材41への螺入に伴い、表面材42が枠部材2、3の表面に密着した状態のまま、背面材41がアンカー5の頭部側へ移動するため、枠部材2、3が背面材41と表面材42に挟み込まれる状態が得られる。アンカー5の螺入はアンカー5の挿入後、最終段階で行われる。図6では特にアンカー5の背面材41への螺入長さを稼ぐために、背面材41の下面側(地山側)にナット41aを一体化させ、ナット41aにもアンカー5を螺入させている。
図6ではまた、アンカー5の頭部に雄ねじを形成し、この雄ねじにナット51を螺合させることにより、アンカー5の定着時にナット51の締め付けによってアンカー5に張力を導入し、その張力を枠部材2、3に付与し、枠部材2、3の背面から法面に圧力を与えている。
図7−(a)〜(c)は保持部材4が背面材41と表面材42からなる場合に、背面材41と表面材42の双方に前記した係止部4aを形成した場合を示している。この場合、保持部材4は背面材41と表面材42によって2方向の枠部材2、3を厚さ方向に挟み込むと同時に、幅方向にも挟み込むことにより枠部材2、3の厚さ方向と幅方向の移動を拘束することができるため、2方向の枠部材からなる格子体の安定性が向上する利点を有する。
図7−(a)は図2に示す格子体の中で、内周側に位置する交差部に使用される保持部材4を、(b)、(c)は周囲に位置する交差部に使用される保持部材4を示している。(c)は特に格子体の隅角部に位置する交差部用の保持部材4を示す。図7−(d)は前記したように図2−(a)、(b)に示すように格子体の中に継手部が生ずる場合の継手部に使用される継手部材8を示す。ここに示す継手部材8も保持部材4と同様、背面材81と表面材82から構成し、背面材81と表面材82のそれぞれに挿通孔8cを形成しているが、挿通孔8cは必ずしも必要ではない。8aは係止部を示す。
図1に示す法面保護装置1は原則的に法面の下流側から施工される。具体的には最も下流側に位置する枠部材3とそれに交差する方向の枠部材2を法面上に敷設し、下流側の交差部に保持部材4を設置すると共に、アンカー5を地山中に打設する作業を上流側へ向けて施工することが行われる。
図8−(a)は法面保護装置1が図1に示す法面保護装置1に加え、2方向の枠部材2、3で区画された領域に配置される押さえ板6と、この押さえ板6と法面との間に充填される砕石等の充填材7を備える場合の構成例を示す。押さえ板6はその長さ方向の両端部、もしくは幅方向の両側部において枠部材2、3に保持され、枠部材2、3を通じて直接、もしくは充填材7を介して間接的に法面に圧力を加える。充填材7には法面の崩落を防止する意味で、透水性のよい砕石、砂利、あるいは両者の混合物等が使用される。図8−(b)は(a)の一部を拡大した様子を示す。図10は図8に示す法面保護装置1の使用状態を示す。
図8に示す法面保護装置1は少なくとも押さえ板6、または充填材7において法面に接触していれば法面を押圧する状態を得ることができるため、必ずしも全枠部材2、3の背面が法面に接触した状態で設置される必要はない。図8は最も下流に位置する枠部材3と最も上流に位置する枠部材3の背面の少なくとも一部が法面に接触している場合を示している。
枠部材2、3の側面には押さえ板6の縁部が収納され、押さえ板6を拘束する保持溝2c、3cが形成される。押さえ板6は基本的に長方形等、方形状をし、長さ方向(長辺方向)の両端部、もしくは幅方向(短辺方向)の両側部においてそれぞれの側に位置する枠部材2、3に保持される。長方形状の板の曲げ変形は長さ方向両端部において拘束されたときに生じ易く、幅方向両側において拘束されたときに生じにくいことから、押さえ板6の曲げ変形を抑制する上では幅方向の両側において保持されることが望ましい。
例えば2方向の枠部材2、3によって区画された領域が、いずれか一方側の長さが大きい長方形状である場合には、長方形の長辺が領域の短辺方向を向いて配置されることが合理的である。また区画された領域が長方形状である場合、必ずしも1枚の押さえ板6が領域の長辺、または短辺に跨る必要はなく、領域の長辺方向、もしくは短辺方向に複数枚の押さえ板6が配列することもある。押さえ板6には曲げ剛性を補うために、長辺方向と短辺方向の少なくとも一方に連続するリブが形成されることもある。
図8、図10に示す法面保護装置1も法面の下流側から施工される。具体的には最も下流側に位置する枠部材3とそれに交差する方向の枠部材2を法面上に敷設し、下流側の交差部に保持部材4を設置すると共に、アンカー5を地山中に打設する作業と、押さえ板6を2方向の枠部材2、3に保持させながら配置する作業と、押さえ板6の背面側(法面側)に充填材7を充填する作業を上流側へ向けて施工することが行われる。
長方形状の押さえ板6は例えば4辺の内の3辺を包囲する枠部材2、3の敷設後に、並列する枠部材2、2(3、3)の保持溝2c、3cを通じて差し込まれ、設置される。この関係で、図8に示す法面保護装置1が下流側から上流側へ向けて施工される場合において、勾配方向を向く枠部材2の敷設が横方向を向く枠部材3の敷設に先行する場合には、図4に示すように後から敷設される枠部材3の少なくとも下流側の保持溝3cは枠部材3の下面から連続して形成される。枠部材3の下面から連続する保持溝3cが枠部材3の幅方向両側に形成された場合、枠部材3は図4に示すようにT字形の断面形状をし、幅方向片側にのみ形成された場合にはL形の断面形状をする。先行して敷設される、勾配方向を向く枠部材2の保持溝2cは押さえ板6がその面内方向に差し込まれるよう、枠部材2の側面から形成されればよい。
この場合、下流側の横方向を向く枠部材3の敷設と、勾配方向を向く枠部材2、2の敷設が終了した時点で、枠部材2、2の保持溝2cに押さえ板6が差し込まれ、その後に下流側の枠部材3に対向する上流側の枠部材3が落とし込まれて敷設される。横方向を向く枠部材3の敷設が勾配方向を向く枠部材2の敷設に先行する場合には、勾配方向を向く枠部材2の保持溝2cが下面から連続して形成される。
図9は2方向の枠部材2、3の交差部付近における枠部材2、3への押さえ板6の保持状況を示す。ここに示すように枠部材2、3の保持溝2c、3cは保持部材4との干渉を回避するために枠部材2、3を幅方向に挟み込む保持部材4の係止部4aの下端より下に形成される。
図11は枠部材2、3が角形鋼管である場合の、2方向の枠部材2、3の連結例を示す。ここでは交差部を貫通するいずれかの方向の、あるいは両方向の枠部材2(3)の端部に、枠部材2(3)の内部に嵌合、あるいは内接する形状をした「ほぞ」状の連結部材9を挿入して一部を突出させ、その突出部分に、同一方向に連続する枠部材2(3)を連結した場合を示している。いずれか一方の枠部材2(3)が交差部を貫通する場合は図2−(a)の配置例に該当し、2方向の枠部材2、3が交差部を貫通する場合は図2−(b)の配置例に該当する。
枠部材2、3が角形鋼管である場合には、交差部を貫通するいずれか一方の枠部材2(3)の側面に他方の枠部材3(2)の端面を突き合わせて溶接することにより、2方向の枠部材2、3からなる十字形の部材を予め形成(製作)しておき、その2方向の枠部材2、3の端部に、それぞれの方向に連続する枠部材2、3を上記連結部材9を介して連結することが現場での作業効率上、合理的である。但し、枠部材2、3が鋼材の場合にも2方向の枠部材2、3の組み合わせ方法は地山の法面の状況に応じて任意に決定され、交差部において2方向の枠部材2、3が組み合わせられながら、アンカー5によって連結されることもある。