JP4356377B2 - フェノール副生油とビスフェノールa残渣の処理方法 - Google Patents

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Description

【0001】
本発明は、フェノール副生油とビスフェノールA残渣の処理方法に関し、詳しくは、燃料として利用可能な油状混合物を得るためのフェノール副生油およびビスフェノールA残渣の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
フェノールは工業的にクメン法によって製造される。すなわち、先ず、クメンを空気酸化してクメンヒドロキシペルオキシドを生成し、鉱酸によりクメンヒドロキシペルオキシドを酸分解する。次いで、アルカリ水を加えて鉱酸を中和して油水分離した後、酸分解反応液を蒸留処理して各種の有価成分と共にフェノールを得る。そして、得られた残留物は、熱分解および蒸留処理され、フェノール、α−メチルスチレン及びクメンが回収される。残留物は、「フェノール副生油」と称され、燃料として利用されている。
【0003】
ところで、フェノール副生油には、中和処理に起因する塩が残存し、燃料として使用した場合、焼却バーナーの腐食やスケールの沈積を引き起こすという問題がある。フェノール副生油中の塩の除去は水抽出によって可能であるが、この際、相分離を達成するためのエマルジョン崩壊剤が使用される。因に、酸分解反応液の蒸留処理により得られた残留物(フェノール副生油の原料)に存在している塩を除去する際のエマルジョン崩壊剤として粗製ケトン缶出液を使用することは公知である(特許文献1参照)。
【0004】
また、ビスフェノールAは、フェノールとアセトンとを反応して得られた反応液に晶析、蒸留などの処理を行って得られる。そして、これらの処理によって副生した残渣物は必要に応じて塩基性触媒の存在下に分解処理され、得られた残渣は「ビスフェノールA残渣」と称され、燃料として利用されている。
【0005】
ところで、ビスフェノールA残渣は、常温で固体であるため、燃料として利用する場合は溶剤に溶解する必要があり、ナフサ分解副生油などの芳香族炭化水素を主成分とする副生油にビスフェノールA残渣を溶解して燃料として利用する方法が提案されている(特許文献2参照)。また、ビスフェノールA残渣が塩基性触媒を含有する場合は、前記のフェノール副生油の場合と同様、焼却バーナーの腐食やスケールの沈積を引き起こすという問題がある。ビスフェノールA残渣中の塩基性触媒の除去は、フェノール副生油中の塩の除去の場合と同様に、水抽出によって可能であり、また、相分離を達成するためのエマルジョン崩壊剤の使用が必要と考えられる。
【0006】
【特許文献1】
特表2002−543170号公報
【特許文献2】
特公平6−70229号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その第1の目的は、フェノール副生油中の塩を除去することが出来、しかも、ビスフェノールA残渣を液状化することが出来、燃料として利用可能な油状混合物を得るためのフェノール副生油およびビスフェノールA残渣の処理方法を提供することにある。
【0008】
また、本発明の第2の目的は、ビスフェノールA残渣中の塩基性触媒を除去することが出来、しかも、ビスフェノールA残渣を液状化することが出来、燃料として利用可能な油状混合物を得るためのフェノール副生油およびビスフェノールA残渣の処理方法を提供することにある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、次の様な知見を得た。すなわち、水抽出によってフェノール副生油中の塩を除去する際のエマルジョン崩壊剤として、燃料用途のために液状化が必要であるビスフェノールA残渣が有効である。つまり、フェノール副生油にビスフェノールA残渣と水とを加えるならば、相分離が良好に行われてフェノール副生油中の塩が除去されると同時にビスフェノールA残渣の液状化が達成される。また、ビスフェノールA残渣にフェノール副生油と水とを加えるならば、相分離が良好に行われてビスフェノールA残渣中の塩基性触媒が除去されると同時にビスフェノールA残渣の液状化が達成される。
【0010】
本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、その第1の要旨は、フェノール製造工程で副生され且つ塩を含有するフェノール副生油とビスフェノールA製造工程で副生されたビスフェノールA残渣と水とを混合・撹拌処理した後に、油水分離するフェノール副生油とビスフェノールA残渣の処理方法であって、上記のフェノール副生油が、クメンの空気酸化工程、得られたクメンヒドロキシペルオキシドの鉱酸による酸分解工程、酸分解反応液にアルカリ水を加えて鉱酸を中和して油水分離する中和工程、中和された酸分解反応液の蒸留処理工程、当該蒸留処理工程で得られた残留物の熱分解および蒸留処理を行う熱分解工程を包含するフェノール製造工程において、熱分解工程の残留物として得られたものであることを特徴とする、フェノール副生油とビスフェノールA残渣の処理方法に存する。
【0011】
本発明の第2の要旨は、ビスフェノールA製造工程で副生され且つ塩基性触媒を含有するビスフェノールA残渣とフェノール製造工程で副生されたフェノール副生油と水とを混合・撹拌処理した後に、油水分離するフェノール副生油とビスフェノールA残渣の処理方法であって、上記のフェノール副生油が、クメンの空気酸化工程、得られたクメンヒドロキシペルオキシドの鉱酸による酸分解工程、酸分解反応液にアルカリ水を加えて鉱酸を中和して油水分離する中和工程、中和された酸分解反応液の蒸留処理工程、当該蒸留処理工程で得られた残留物の熱分解および蒸留処理を行う熱分解工程を包含するフェノール製造工程において、熱分解工程の残留物として得られたものであることを特徴とする、フェノール副生油とビスフェノールA残渣の処理方法に存する。
【0012】
そして、本発明の好ましい態様においては、フェノール製造工程で副生され且つ塩を含有するフェノール副生油とビスフェノールA製造工程で副生され且つ塩基性触媒を含有するビスフェノールA残渣と水とを混合・撹拌処理した後に、油水分離する。この場合、油水分離により、フェノール副生油中の塩とビスフェノールA残渣中の塩基性触媒が共に除去される。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の処理方法として、以下の態様が挙げられる。(1)塩を含有するフェノール副生油とビスフェノールA残渣と水とを混合・撹拌処理した後に、油水分離する。(2)塩基性触媒を含有するビスフェノールA残渣とフェノール副生油と水とを混合・撹拌処理した後に、油水分離する。(3)塩を含有するフェノール副生油と塩基性触媒を含有するビスフェノールA残渣と水とを混合・撹拌処理した後に、油水分離する。中でも、(3)態様が好ましい。上記何れの場合においても、油水分離によって塩および/または塩基性触媒は、水に移行して除去される。
【0014】
本発明で使用するフェノール副生油には、フェノール製造工程のオイルパージラインからのオイル、または、アルキルフェノールなどのフェノール誘導体を製造するプラントからの副生油が混合されていてもよい。また、本発明で使用するビスフェノールA残渣には、ビスフェノールA製造工程のオイルパージラインからのオイルが混合されていてもよい。
【0015】
フェノール副生油に対するビスフェノールA残渣の混合比率(ビスフェノールA残渣/フェノール副生油)は、0.3:1〜1.3:1(重量比)の範囲が好ましい。ビスフェノールA残渣の混合比率が1.3:1を超える場合は、得られた混合物の粘度が増加するため、送液ポンプにより負荷がかかり送液が困難となる。
【0016】
水の添加量は、特に限定されるものではなく、例えば、フェノール副生油とビスフェノールA残渣の混合物に対して0.5:1〜2.0:1(重量比)の範囲が好ましい。
【0017】
フェノール副生油とビスフェノールA残渣と水との混合は、公知のバッチ法または連続法で行う。例えば、配管内混合またはラインミキサーによる混合が挙げられる。その混合温度は、ビスフェノールA残渣が液状であれば、特に限定されるものではない。
【0018】
フェノール副生油とビスフェノールA残渣と水の混合方法としては、以下の形態が挙げられる。例えば、(a)フェノール副生油とビスフェノールA残渣を混合し、得られた混合物に水を加える。(b)フェノール副生油とビスフェノールA残渣と水を同時に加える。(c)フェノール副生油と水を混合し、得られた混合物にビスフェノールA残渣を加える。(d)ビスフェノールA残渣と水を混合し、得られた混合物にフェノール副生油を加える。中でも、(a)形態が好ましい。斯かる混合形態は、前記の(1)〜(3)の何れの態様においても同じである。
【0019】
油水分離の方法は、特に限定されるものではなく、公知のバッチ法または連続法が挙げられる。例えば、油水分離槽を使用して、当該分離槽内で連続法による静置分離が好ましい。油水分離の温度は、特に限定されるものではない。例えば、その下限値が、好ましくは40℃、より好ましくは50℃であり、上限値が、好ましくは120℃、より好ましくは100℃である。
【0020】
混合・撹拌から油水分離に至る各工程の運転圧力としては、運転温度において各成分が液相状態を維持するするに必要な圧力が適宜選択される。
【0021】
本発明の処理方法おいて、ビスフェノールA残渣はフェノール副生油と混合することにより液状化し、しかも、前記の(1)の態様では、フェノール副生油中の塩が除去され、前記の(2)の態様では、ビスフェノールA残渣中の塩基性触媒を除去され、前記の(3)の態様では、フェノール副生油中の塩およびビスフェノールA残渣中の塩基性触媒が除去される。
【0022】
上記(a)形態において、得られる混合物の粘度を考慮すると、配管内混合またはラインミキサーで混合する際のフェノール副生油およびビスフェノールA残渣の温度は、夫々40〜100℃および100℃〜250℃が好ましい。具体的には、ビスフェノールA製造工程の分解工程で副生した直後の温度100℃〜250℃のビスフェノールA残渣にフェノール副生油を添加する方法が挙げられる。ビスフェノールA残渣の温度が250℃を超える場合は、前記分解工程の温度よりも高い温度にすることになるため好ましくない。100℃未満の場合は、ビスフェノールA残渣が固化するので好ましくない。また、油水分離温度は、フェノール副生油とビスフェノールA残渣の混合物に水を加えた後の油水分離操作を速やかに行うため、フェノール副生油とビスフェノールA残渣の混合物と水とを混合する温度とほぼ同じにすることが好ましい。
【0023】
また、芳香族炭化水素化合物を添加することによって、塩および/または塩基性触媒の除去効率が高められる。芳香族炭化水素化合物は、例えば、混合前のフェノール副生油および/またはビスフェノールA残渣に、フェノール副生油とビスフェノールA残渣との混合の際に、フェノール副生油とビスフェノールA残渣の混合物に、または、フェノール副生油とビスフェノールA残渣と水との混合・撹拌の間に添加される。
【0024】
芳香族炭化水素化合物としては、ベンゼン、炭素数1〜4の置換基を有するベンゼン誘導体などが挙げられる。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン、プロピルベンゼン、クメン、メチルスチレン類、ブチルベンゼン類が挙げられる。これらの芳香族炭化水素化合物は、単独又は2種以上の混合物として使用される。芳香族炭化水素化合物の添加量は、フェノール副生油とビスフェノールA残渣の混合物に対しては、0.5:1〜2.0:1(重量比)の範囲が好ましい。
【0025】
芳香族炭化水素化合物を混合する場合、その混合方法は、特に限定されるものではなく、公知のバッチ法または連続法を採用しえる。芳香族炭化水素化合物の混合温度は、特に限定されるものではない。例えば、フェノール副生油とビスフェノールA残渣の混合物に芳香族炭化水素化合物を添加する場合、混合温度の下限値が、通常40℃、好ましくは50℃であり、上限値が、通常120℃、好ましくは100℃である。
【0026】
油水分離された水層は、塩および/または塩基性触媒を含まない水でその一部を置換した後、油水分離工程へ供給して再使用するのが好ましい。置換された水層の一部は、公知の脱塩処理により塩および/または塩基性触媒を除去した後、前記の塩および/または塩基性触媒を含まない水として使用するのが好ましい。
【0027】
他方、油水分離された油層はそのまま燃料として利用してもよい。芳香族炭化水素化合物が混合された場合は、蒸留などの操作によって、芳香族炭化水素化合物を分離した後、得られた混合物だけを燃料として利用するのが好ましい。蒸留分離した芳香族炭化水素化合物は、芳香族炭化水素化合物の添加工程へ供給して、再使用するのが好ましい。
【0028】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1
クメン法フェノールプラントにて副生されたフェノール副生油10重量部と、アルキルフェノールプラントにて副生された副生油2重量部と、ビスフェノールAプラントにて副生されたビスフェノールA残渣8重量部とを混合した。得られた混合物1重量部に水1重量部を加え、90℃で5分間攪拌した後、15分間静置して、油層および水層に分離した。油層および水層のサンプリングをして、各サンプル中の塩および塩基性触媒の濃度としてのNa濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0030】
実施例2
実施例1と同様にして得られた混合物1重量部にトルエン1重量部および水2重量部を加え、実施例1と同様にして油層および水層に分離した。油層および水層のサンプリングをして、各サンプル中の塩および塩基性触媒の濃度としてのNa濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0031】
比較例1
クメン法フェノールプラントにて副生されたフェノール副生油1重量部に水1重量部を加え、90℃で5分間攪拌した後、15分間静置した。しかし、エマルジョン状態となり、油層及び水層の分離が出来なかった。
【0032】
比較例2
ビスフェノールAプラントにて副生されたビスフェノールA残渣1重量部に水1重量部を加え、90℃で攪拌したが、粘度が高いために十分に攪拌することが出来なかった。
【0033】
【表1】
Figure 0004356377
【0034】
【発明の効果】
以上説明した本発明によれば、フェノール副生油とビスフェノールA残渣と水とを混合することにより、フェノール副生油に含まれる塩および/またはビスフェノールA残渣に含まれる塩基性触媒の濃度を低下させることが出来、しかも、ビスフェノールA残渣を液状化することが出来、かつ、燃料として利用可能な油状混合物を得ることが出来るフェノール副生油とビスフェノールA残渣の処理方法が提供され、本発明の工業的な価値は顕著である。

Claims (6)

  1. フェノール製造工程で副生され且つ塩を含有するフェノール副生油とビスフェノールA製造工程で副生されたビスフェノールA残渣と水とを混合・撹拌処理した後に、油水分離するフェノール副生油とビスフェノールA残渣の処理方法であって、上記のフェノール副生油が、クメンの空気酸化工程、得られたクメンヒドロキシペルオキシドの鉱酸による酸分解工程、酸分解反応液にアルカリ水を加えて鉱酸を中和して油水分離する中和工程、中和された酸分解反応液の蒸留処理工程、当該蒸留処理工程で得られた残留物の熱分解および蒸留処理を行う熱分解工程を包含するフェノール製造工程において、熱分解工程の残留物として得られたものであることを特徴とする、フェノール副生油とビスフェノールA残渣の処理方法
  2. ビスフェノールA残渣が塩基性触媒を含有する請求項1記載の処理方法。
  3. ビスフェノールA製造工程で副生され且つ塩基性触媒を含有するビスフェノールA残渣とフェノール製造工程で副生されたフェノール副生油と水とを混合・撹拌処理した後に、油水分離するフェノール副生油とビスフェノールA残渣の処理方法であって、上記のフェノール副生油が、クメンの空気酸化工程、得られたクメンヒドロキシペルオキシドの鉱酸による酸分解工程、酸分解反応液にアルカリ水を加えて鉱酸を中和して油水分離する中和工程、中和された酸分解反応液の蒸留処理工程、当該蒸留処理工程で得られた残留物の熱分解および蒸留処理を行う熱分解工程を包含するフェノール製造工程において、熱分解工程の残留物として得られたものであることを特徴とする、フェノール副生油とビスフェノールA残渣の処理方法
  4. フェノール副生油に対するビスフェノールA残渣の混合割合が0.3:1〜1.3:1である請求項1〜3の何れかに記載の処理方法。
  5. 芳香族炭化水素化合物を添加する請求項1〜4の何れかに記載の処理方法。
  6. フェノール副生油およびビスフェノールA残渣の合計量に対する芳香族炭化水素化合物の添加割合が0.5:1〜2.0:1である請求項1〜5の何れかに記載の処理方法。
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