JP4356168B2 - 継目無鋼管の製造方法及び継目無鋼管製造用治具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、継目無鋼管の製造方法及び継目無鋼管製造用治具に係わり、特に、丸鋼鋳片を穿孔して得た素管を延伸圧延するエロンゲータ、リーラ等の圧延機で、圧延中に発生する内面疵(通称、アバタ・ピット疵)を抑制し、内面品質に優れた継目無鋼管を製造する技術である。
【0002】
【従来の技術】
一般に、継目無鋼管は、長尺、中実で、円形断面を有する丸鋼鋳片(丸ビレットという)を素材とし、これを圧延用ロール間で前進させながら、砲弾状の形状をした圧延補助治具(プラグという)を押し当て、穿孔、圧延したり、孔型ロールを用いて形状や寸法を調整することで製造される。そのため、製造工程は、プラグを備えたものとして、素材に穿孔する圧延機(例えば、ピアサ)、得られた素管の拡径と肉厚を低減する圧延機(エロンゲータ)、肉厚を調整しながら延伸する圧延機(プラグミル)、偏肉矯正と磨管を行なう圧延機(リーラ)、及びプラグを備えず、外径を絞り定径する圧延機(サイザ、ストレッチ・レデューサ)等が直列に順次配置されている。
【0003】
ところで、かかる工程を経て製造された継目無鋼管の内面には、アバタ・ピット疵を主体とする内面疵が存在し、製品品質を低下させる。そのため、製造された製品は、通常、バイト等を用いて内面を研磨する所謂「手入作業」が必要である。また、前記アバタ・ピット疵が、主としてエロンゲータ、リーラで形成されることは、従来より周知であり、そのメカニズムは、以下の通りである。
【0004】
被圧延材である素管1がエロンゲータのロール2で「空もみ」されると、図5に示すように、該素管1の内表面に生じているスケール(酸化鉄)が粉粒状で剥離、落下し、該素管1の内部に集積する。素管1は、軸を中心に回転しながら前進し、この集積した粉粒状のスケール3を素管内面とある位置に固定されているプラグの外面とが接触する所謂「圧延領域」に押し込まれる。そして、圧延領域で、前記粉粒状のスケール3が素管1の内面にプラグで押し付けられ、アバタあるいはピットを形成するのである。特に、集積したスケール3は、素管1の前進に伴いその後端側へ移動するので、素管1の後端ほど集積量が多くなり、内面肌も悪化する。
【0005】
従って、以前より、エロンゲータやリーラで素管を圧延する前に、該素管の内面に形成されているスケールを、高圧水を吹き付けて除去するようにしている(デスケーリングという)。また、最近、特開平9−239409号公報は、エロンゲータで素管を圧延中に、プラグの先端から高圧水を噴射し、スケールを除去したことを開示している。
【0006】
しかしながら、素管の内面スケールは、エロンゲータ等での圧延中にも新たに、しかも多量に生じる。この新たに発生したスケールは、前記圧延前のデスケーリングでは当然のことながら除去できない。また、特開平9−239409号公報は、圧延中にスケール除去の可能な装置の構成について詳しい開示がある。つまり、プラグ冷却用の水を、プラグと該プラグに接続しているプラグ・バー(長尺の筒体で、内部に冷却水通路がある)との係止、着脱に利用すること、冷却水を高圧にする流路の追設することが主体である。そのため、プラグ先端から水を噴射させてデスケーリングする方法、条件、及びその効果については、何ら具体的に教示していない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる事情に鑑み、エロンゲータやリーラで素管を延伸圧延するにあたり、圧延中に素管内面に存在するスケールを、従来より低圧の水を噴射させて除去し、内面肌の良い製品にする継目無鋼管の製造方法及び継目無鋼管製造用治具を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究、実験を重ね、その成果を本発明に具現化した。
【0009】
すなわち、本発明は、穿孔された素管にプラグを挿入し、該素管を延伸、拡径圧延する継目無鋼管の製造方法において、前記素管の延伸、拡径圧延中に、該素管に挿入したプラグより前方位置で、該プラグの先端から後端方向、且つ斜め方向に、素管の内面スケールを除去する水を、噴射時の圧力を0.51〜20.4MPaとして噴射し、素管内面の圧延領域に水を吹き付けながら圧延することを特徴とする継目無鋼管の製造方法である。
【0010】
また、本発明は、前記水の噴射時圧力を0.51〜3.06MPaとしたり、あるいは前記延伸、拡径圧延をエロンゲータ及び/又はリーラで行うことを特徴とする継目無鋼管の製造方法である。
【0011】
さらに、本発明は、穿孔された素管を延伸、拡径圧延する際に使用され、素管内面と接触し、素管を押し広げるプラグと、該プラグを係止し、プラグの冷却水を供給、排出させる流路を内部に設けた長尺のプラグ・バーとを備えた継目無鋼管製造用治具において、
前記プラグ・バーには、前記プラグを貫通し、水を先端側へ供給する流路と、水の供給手段を設けると共に、該プラグは、その前方位置で水を後端方向、且つ斜め方向に噴射し素管の内面の圧延領域に水を吹き付けるノズルを設けてなり、前記供給手段が、水の噴射圧力を0.51〜3.06MPaまで変更自在であることを特徴とする継目無鋼管製造用治具である。この場合、前記供給手段は、水の噴射圧力を0.51〜20.4MPaに変えて、0.51〜3.06MPaまで変更自在であるのが好ましい。
【0012】
本発明によれば、エロンゲータやリーラで素管を延伸圧延する際、圧延中に素管内面に存在するスケールを、圧延領域内で水を噴射させるので、素管の変形でスケールが剥離し易くなり、従来より良く除去できるようになる。その結果、研磨手入れを従来より減らしても、内面肌の良い継目無鋼管が製造できるようになった。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
まず、発明者は、従来のデスケーリングを見直し、圧延前より圧延中に行なう方が、素管の変形によってスケールが剥離し易くなると考え、実験で確認することにした。しかも、素管の変形は、圧延ロールに噛み込んだ素管がプラグと接触する領域であることが望ましいので、以下のような継目無鋼管製造用治具を試作した。
【0015】
それは、図1に示すように、素管1を押し広げる砲弾のような形状をしたプラグ4と、該プラグ4を係止し、プラグ用冷却水を供給、排出させる流路を内部に設けた長尺のプラグ・バー(筒体)5とを備えた従来の継目無鋼管製造用治具に改良を加えたものである。つまり、前記プラグ・バー5には、前記プラグ4を貫通し、水7を先端側へ供給する流路6と、水7の供給手段(図示せず)を設けると共に、該プラグ4には、その前方位置で水7を後端方向、且つ斜め方向に噴射するノズル8を設けたのである。
【0016】
この治具を使用して素管の圧延をすると、先端から噴射された水7は、確実にプラグ4が素管1の内面と接触する位置若しくはその近傍に吹き付けられることになる。そして、その位置では、素管1が揉まれる状態になるので、変形が著しく起こり、スケール3の該素管内面からの剥離に多大な効果があると期待できた。また、プラグ4の前方へ水7を噴射するより、後方へ向ける方がはるかに効果があるとも考えられた。前方へ噴射した場合には、素管1の変形が小さいので、その効果は、圧延前のデスケーリングに近いと考えられるからである。
【0017】
なお、この治具では、プラグ4に設けたノズル8の水噴射角度は、特に限定しないことにした。圧延する素管1のサイズによって最も好ましい範囲があるからである。また、水7の供給手段は、公知のもので良いが、噴射時の水圧を種々変更できるように、0.51MPaの低圧から20.4MPaの高圧まで可能なものであることが好ましい。さらに、プラグ4は、通常、エロンゲータやリーラに用いられている公知の形状で良い。これらの圧延機で使用されるプラグ4の形状は、素材の穿孔用圧延機(ピアサ)のものと異なり、元々先端が鋭く尖っていないので、ノズルを取り付け易いからである。
【0018】
次に、この水7を斜め後方へ噴射するノズル8を取り付けた治具を用い、実際の製造工程で継目無鋼管を製造した。外径350mmの丸鋼鋳片を、ピアサで穿孔し、素管1とした。この素管1をエロンゲータで拡径、延伸のための圧延を施した。その際、表1に示す6つの条件でデスケーリング実験を行なった。すなわち、素管のデスケーリングをまったく行なわない場合、エロンゲータ上流の既設装置で行なう場合、及び試作した治具を用い、噴射水の圧力を種々変更した場合である。その他の圧延条件(素管温度、ロール圧下率、素管の移動速度等)は、いずれの場合も同じとした。そして、これらの実験を経た各素管1は、その後端300mmを切断して、図3に示すような試料9とし、内面をサンドブラストで研磨してから、内面状態を調査した。
【0019】
【表1】
【0020】
その調査は、目視にてピットの個数を数えること、ピットの深さをデプスゲージ(深さ測定器)で測定することで行なわれた。その結果を、単位面積(cm2)当たりのピット個数及びピットの深さとの関係で整理し、図2に示す。図2より、デスケーリングを施さなかった場合(記号A),既設装置で行なった場合(記号B)に比べて、後方噴射式のノズルを用いた場合(水圧力が2.04MPaを記号C,15.31MPaを記号D)の方がはるかに、ピットの深さが浅く、またピット個数も少ないことが明らかである。すなわち、上記後方噴射式のノズル8を備えたプラグは、エロンゲータでの圧延において、素管1の拡径だけでなく、デスケーリングにも非常に有効であり、試作した治具及びそれを用いる継目無鋼管の製造方法は、十分に発明に価すると確認できた。そこで、本発明では、水7の噴射圧を0.51〜20.4MPaにすることが好ましいことした。0.51MPa未満では、デスケーリング効果が、エロンゲータ上流の既設装置で行なった程度であり、20.4MPa超えでは、効果が飽和するからである。特に、デスケーリングに、従来のような高圧水を用いないでも、2.04MPa程度の低圧で有効な効果が得られたことは、非常に注目されべきである。
【0021】
なお、プラグから前方への水噴射については、今回の実験では効果を確認していないが、図2の記号に近い効果が予想される。
【0022】
【実施例】
本発明に係る治具及び継目無鋼管の製造方法を用いて、鋼種が炭素鋼の外径185〜406mmφ,肉厚4.5〜35.0mmの継目無鋼管を多数製造した。製造工程は、素材である丸鋼鋳片を1200℃に加熱する加熱炉、素材を穿孔する圧延機(例えば、ピアサ)、得られた素管の拡径と肉厚を低減する圧延機(エロンゲータ)、肉厚を調整しながら延伸する圧延機(プラグミル)、偏肉矯正と磨管を行なう圧延機(リーラ)、素管の再加熱炉、外径を絞り定径する圧延機(サイザ)を直列に順次配置したものである。製造条件は、この鋼種、製品サイズに対して、通常採用されているものである。なお、効果の比較のため、デスケーリングを行なわない場合、及び既設装置を利用したデスケーリングを施した場合等、従来の方法でも実施した。
【0023】
得られた製品は、サンドブラストで内面のスケールを除去した後、該内面の粗度が測定された。その平均的な測定結果を図4に示す。図4より、本発明によれば、製品の内面粗度が従来に比べ非常に良くなっていることが明らかである。また、内面研磨は、本発明に係る製造方法で得た鋼管は、研磨作業が省略できたり、あるいは短時間で良く、研磨費用が従来に比べて大幅に低減できる効果もあった。さらに、製品の内面手入れ率(全製品数に対する手入れした数の割合)は、表2に示すように従来より低減し、製品歩留の向上も達成できた。
【0024】
【表2】
【0025】
なお、上記実施例は、本発明に係る治具をエロンゲータに使用した場合で説明したが、それは、リーラで使用しても良い。同様にスケールが発生するからである。その際、エロンゲータと併用すれば、製品の内面肌は一層向上するものと予想できる。
【0026】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明により、エロンゲータやリーラで素管を延伸圧延する際、圧延中に素管内面に存在するスケールを従来より良く除去できるようになる。その結果、研磨手入れを従来より減らしても、内面肌の良い継目無鋼管が製造できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る継目無鋼管製造用治具を示す縦断面図である。
【図2】図1の治具を使用した効果を確認した実験結果を示す図である。
【図3】製品内面状態を調査する試料の形状を示す図である。
【図4】製品内面の粗度を測定した結果を示す図である。
【図5】素管をエロンゲータで圧延中の状況を示す縦断面図である。
【符号の説明】
1 素管
2 ロール
3 スケール
4 プラグ
5 プラグ・バー(長尺の筒体)
6 流路
7 水
8 ノズル
9 試料
Claims (5)
- 穿孔された素管にプラグを挿入し、該素管を延伸、拡径圧延する継目無鋼管の製造方法において、
前記素管の延伸、拡径圧延中に、該素管に挿入したプラグより前方位置で、該プラグの先端から後端方向、旦つ斜め方向に、素管の内面スケールを除去する水を、噴射時の圧力を0.51〜20.4MPaとして噴射し、素管内面の圧延領域に水を吹き付けながら圧延することを特徴とする継目無鋼管の製造方法。 - 穿孔された素管にプラグを挿入し、該素管を延伸、拡径圧延する継目無鋼管の製造方法において、
前記素管の延伸、拡径圧延中に、該素管に挿入したプラグより前方位置で、プラグの先端から後端方向、且つ斜め方向に、素管の内面スケールを除去する水を、噴射時の圧力を0.51〜3.06MPaとして噴射し、素管内面の圧延領域に水を吹き付けながら圧延することを特徴とする継目無鋼管の製造方法。 - 前記延伸、拡径圧延をエロンゲータ及び/又はリーラで行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載の継目無鋼管の製造方法。
- 穿孔された素管を延伸、拡径圧延する際に使用され、素管内面と接触し、素管を押し広げるプラグと、該プラグを係止し、プラグの冷却水を供給、排出させる流路を内部に設けた長尺のプラグ・バーとを備えた継目無鋼管製造用治具において、
前記プラグ・バーには、前記プラグを貫通し、水を先端側へ供給する流路と、水の供給手段を設けると共に、該プラグには、その前方位置で水を後端方向、且つ斜め方向に噴射し素管の内面の圧延領域に水を吹き付けるノズルを設けてなり、
前記供給手段が、水の噴射圧力を0.51〜20.4MPaまで変更自在であることを特徴とする継目無鋼管製造用治具。 - 穿孔された素管を延伸、拡径圧延する際に使用され、素管内面と接触し、素管を押し広げるプラグと、該プラグを係止し、プラグの冷却水を供給、排出させる流路を内部に設けた長尺のプラグ・バーとを備えた継目無鋼管製造用治具において、
前記プラグ・バーには、前記プラグを貫通し、水を先端側へ供給する流路と、水の供給手段を設けると共に、該プラグには、その前方位置で水を後端方向、且つ斜め方向に噴射し素管の内面の圧延領域に水を吹き付けるノズルを設けてなり、
前記供給手段が、水の噴射圧力を0.51〜3.06MPaまで変更自在であることを特徴とする継目無鋼管製造用治具。
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