JP4355838B2 - 熱硬化性ポリイミド樹脂組成物、ポリイミド樹脂の製造方法およびポリイミド樹脂 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種耐熱性コーティング材料や電気絶縁材料、例えばプリント配線基板の層間絶縁材料、ビルドアップ材料、半導体の絶縁材料、耐熱性接着剤等の分野に有用な熱硬化性ポリイミド樹脂組成物、これに用いるポリイミド樹脂の製造方法およびポリイミド樹脂に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電気電子産業を中心に各種分野において樹脂の耐熱性や電気特性の向上が要望されている。こうした中、上記要望に対して、耐熱性を有する樹脂組成物として、イソシアヌレート環含有ポリイソシアネートと、芳香族イソシアネートと、ラクタムおよび酸無水物を含有するポリカルボン酸とをクレゾール系溶媒中で合成したポリアミドイミド樹脂並びにエポキシ樹脂を含有するポリイミドアミド樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、前記クレゾール等の臭気が強く、毒性の強い溶剤ではなく、汎用溶剤、例えばケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤等の非プロトン系極性有機溶剤に溶解可能なポリイミド樹脂、例えば、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物および/または脂環式イソシアネート化合物とトリカルボン酸無水物および/またはテトラカルボン酸無水物とを反応させて得られるポリイミド樹脂の製造方法、および、前記ポリイミド樹脂とエポキシ樹脂を含有するポリイミド樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
しかしながら、前記特許文献1および特許文献2に記載されたポリイミド樹脂とエポキシ樹脂を含有するポリイミド樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物は、耐熱性に優れるが、誘電率と誘電正接が高く、しかも、引張強度、引張伸度等の機械物性に劣るため硬くて脆いという課題がある。
【0005】
【特許文献1】
特開昭55−137161号公報(第2−5頁)
【特許文献2】
特開2001−316469号公報(第3−9頁)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、ポリイミド樹脂とエポキシ樹脂を含有するポリイミド樹脂組成物であって、耐熱性に優れ、誘電率と誘電正接が低く、しかも、引張強度、引張伸度等の機械物性の良好な硬化物が得られる熱硬化性ポリイミド樹脂組成物、このポリイミド樹脂組成物に用いるポリイミド樹脂およびその製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の課題に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、以下の知見(a)〜(c)を見い出し、本発明を完成するに至った。
(a)ポリイミド樹脂としてカルボキシル基と炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル構造を有するポリイミド樹脂(X)と、エポキシ樹脂(Y)を含有する熱硬化性ポリイミド樹脂組成物は、耐熱性、機械物性に優れ、誘電率と誘電正接の低い誘電特性の良好な硬化物が得られること。
(b)前記ポリイミド樹脂(X)は、ポリイソシアネート化合物(a1)と炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル化物であって、2個以上の水酸基を有する脂肪酸エステル化合物(a2)を反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するプレポリマー(A)と、3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の酸無水物(B)を有機溶剤中で反応させることにより容易に製造できること。
(c)前記ポリイミド樹脂(X)は、新規な樹脂であり、なかでも、環式脂肪族ポリイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネートと炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル化物であって、2個以上の水酸基を有する脂肪酸エステル化合物(a2)を反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するプレポリマーと、3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の酸無水物(B)を有機溶剤中で反応させて得られるポリイミド樹脂であり、しかも、酸価が20〜250で、脂肪酸エステル化合物(a2)のエステル構造部分の含有率が10〜40重量%で、イソシアヌレート環の濃度が0.3〜1.2mmol/gで、数平均分子量が1,000〜30,000で、重量平均分子量が2,000〜100,000であるポリイミド樹脂、および、後記する一般式(1)で示される構造単位と後記する一般式(2)で示される構造単位を有し、かつ、後記する一般式(3)、(4)および(5)で示される末端構造のいずれか1種以上を有するポリイミド樹脂であり、しかも、酸価が20〜250で、炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル構造部分の含有率が10〜40重量%で、イソシアヌレート環の濃度が0.3〜1.2mmol/gで、数平均分子量が1,000〜30,000で、重量平均分子量が2,000〜100,000であるポリイミド樹脂がいずれも好ましいこと。
【0008】
すなわち本発明は、カルボキシル基と炭素原子数10〜20の脂肪酸エステル構造を有するポリイミド樹脂(X)と、エポキシ樹脂(Y)を含有することを特徴とする熱硬化性ポリイミド樹脂組成物を提供するものである。
また、本発明は、ポリイソシアネート化合物(a1)と炭素原子数10〜20の脂肪酸エステル化合物であって、2個以上の水酸基を有する脂肪酸エステル化合物(a2)を反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するプレポリマー(A)と、3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の酸無水物(B)を有機溶剤中で反応させることを特徴とするポリイミド樹脂の製造方法を提供するものである。
【0009】
さらに、本発明は、環式脂肪族ポリイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネートと炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル化物であって、2個以上の水酸基を有する脂肪酸エステル化合物(a2)を反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するプレポリマーと、3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の酸無水物(B)を有機溶剤中で反応させて得られるポリイミド樹脂であり、しかも、酸価が20〜250で、脂肪酸エステル化合物(a2)のエステル構造部分の含有率が10〜40重量%で、イソシアヌレート環の濃度が0.3〜1.2mmol/gで、数平均分子量が1,000〜30,000で、重量平均分子量が2,000〜100,000であることを特徴とするポリイミド樹脂、および、下記一般式(1)で示される構造単位と下記一般式(2)で示される構造単位を有し、かつ、下記一般式(3)、(4)および(5)で示される末端構造のいずれか1種以上を有するポリイミド樹脂であり、しかも、酸価が20〜250で、炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル構造部分の含有率が10〜40重量%で、イソシアヌレート環の濃度が0.3〜1.2mmol/gで、数平均分子量が1,000〜30,000で、重量平均分子量が2,000〜100,000であることを特徴とするポリイミド樹脂を提供するものである。
【化5】
(ただし、式中のR1は炭素数原子6〜13の環式脂肪族構造を有する有機基を示し、R2は炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル構造を示す。)
【化6】
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるポリイミド樹脂(X)は、カルボキシル基と炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル構造(炭素原子数10〜20の脂肪酸をエステル化して得られる構造)を有するポリイミド樹脂であればよいが、なかでも汎用溶剤、例えばケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤等の非プロトン系極性有機溶剤に対する溶解性と耐熱性と機械物性に優れることから、カルボキシル基と炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル構造とウレタン結合とイミド環とイソシアヌレート環と環式脂肪族構造を有するポリイミド樹脂(X1)が好ましい。前記脂肪酸エステル構造としては、誘電率、誘電正接等の誘電特性と引張強度、引張伸度等の機械物性とに優れ、これらのバランスも良好なポリイミド樹脂が得られることから、炭素原子数10〜20の脂肪酸のグリセリンエステル構造であることがより好ましく、リシノール酸のグリセリンエステル構造であることが最も好ましい。
【0011】
前記ポリイミド樹脂(X1)としては、例えば、前記一般式(1)で示される構造単位と前記一般式(2)で示される構造単位を有し、かつ、前記一般式(3)、(4)および(5)で示される末端構造のいずれか1種以上を有するポリイミド樹脂(X2)が挙げられ、なかでも、酸価が20〜250で、炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル構造がリシノール酸のグリセリンエステル構造で、前記脂肪酸のエステル構造部分の含有率が10〜40重量%で、イソシアヌレート環の濃度が0.3〜1.2mmol/gで、数平均分子量が1,000〜30,000で、しかも、重量平均分子量が2,000〜100,000のポリイミド樹脂がより好ましい。
【0012】
なお、本発明において、ポリイミド樹脂(X)の酸価、イソシアヌレート環の濃度、数平均分子量および重量平均分子量は、以下の方法で測定したものである。
(1)酸価:JIS K−5601−2−1に準じて測定する。尚、試料の希釈溶剤としては、無水酸の酸価も測定できるようにアセトン/水(9/1体積比)の混合溶剤で酸価0のものを使用する。
(2)イソシアヌレート環の濃度:13C−NMR分析〔溶媒:重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO−d6)を行い、149ppmにあるイソシアヌレート環に起因する炭素原子のスペクトル強度から検量線を用いてポリイミド樹脂(X)1g当たりのイソシアヌレート環の濃度(mmol)を求める。なお、13C−NMR分析により169ppmにあるイミド環に起因する炭素原子のスペクトル強度から同様にイミド環の濃度を求めることもできる。
(3)数平均分子量と重量平均分子量:ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算の数平均分子量と重量平均分子量を求める。
【0013】
なお、ポリイミド樹脂(X)中における炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル構造の含有率は、ポリイミド樹脂(X)が後記する本発明の製造方法で製造したポリイミド樹脂である場合、合成原料中における脂肪酸エステル化合物(a2)の使用重量割合から求めることができ、前記炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル構造部分の炭素原子数は前記脂肪酸エステル化合物(a2)を構成する脂肪酸の炭素原子数から求めることができる。
【0014】
また、製造方法が不明のポリイミド樹脂中における脂肪酸のエステル構造部分の含有率と脂肪酸の炭素原子数は、ポリイミド樹脂を通常の加水分解法、例えば有機アミンの存在下で熱処理してエステル結合とウレタン結合を分解して脂肪酸とポリオールを前記ポリイミド樹脂から切り離し、分離した後、それぞれの量の測定と、GC(ガスクロマトグラフィ)分析を行うことで求めることができる。
【0015】
本発明の熱硬化性ポリイミド樹脂組成物に用いる前記ポリイミド樹脂の製造方法は、特に限定されないが、本発明のポリイミド樹脂の製造方法、即ち、ポリイソシアネート化合物(a1)と炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル化物であって、2個以上の水酸基を有する脂肪酸エステル化合物(a2)とを反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するプレポリマー(A)と、3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の酸無水物(B)を有機溶剤中で反応させる方法が好ましい。
【0016】
例えば、前記本発明の製造方法によりポリイミド樹脂(X2)を製造するには、炭素原子数が6〜13の環式脂肪族構造を有するジイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネートと炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル化物であって、2個以上の水酸基を有する脂肪酸エステル化合物、好ましくはリシノール酸のグリセリンエステルを反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するプレポリマーと、トリカルボン酸の酸無水物を有機溶剤中で反応させればよい。なお、リシノール酸のグリセリンエステルとしては、リシノール酸のグリセリンエステルを主成分として多量に含むことからひまし油を用いることができる。
【0017】
前記本発明の製造方法で用いるポリイソシアネート化合物(a1)は、分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であり、例えば、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート(環式脂肪族ポリイソシアネートを含む);これらポリイソシアネートのヌレート体、ビュレット体、アダクト体、アロハネート体等が挙げられる。
【0018】
前記芳香族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−キシレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI)、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、3,3′−ジメチルジフェニル−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジエチルジフェニル−4,4′−ジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、p−キシレンジイソシアネート、1,3-ビス(α,α−ジメチルイソシアナートメチル)ベンゼン、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ジフェニレンエーテル−4,4′−ジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0019】
前記脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、ノルボヌレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0020】
前記ポリイソシアネート化合物(a1)としては、有機溶剤溶解性やエポキシ樹脂や有機溶剤との相溶性が良好で、硬化物の誘電率と誘電正接が低いポリイミド樹脂が得られることから、脂肪族ポリイソシアネートが好ましい。また、硬化物の耐熱性の良好なポリイミド樹脂が得られることからイソシアヌレート型ポリイソシアネートが好ましい。
【0021】
更に、前記ポリイソシアネート化合物(a1)としては、有機溶剤溶解性やエポキシ樹脂や有機溶剤との相溶性が良好で、硬化物の誘電率と誘電正接が低く、耐熱性が良好なポリイミド樹脂が得られることから、脂肪族ポリイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物(a11)がより好ましく、環式脂肪族ポリイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物が更に好ましい。前記環式脂肪族ポリイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物としては、イソシアヌレート環の1モルに対して環式脂肪族構造を2〜3モル倍有するものが挙げられるが、該環式脂肪族構造を2.5〜3モル倍有するものがより好ましい。
【0022】
前記ポリイソシアネート化合物(a11)としては、例えば、1種または2種以上の脂肪族ジイソシアネート化合物を、第4級アンモニウム塩等のイソシアヌレート化触媒の存在下あるいは非存在下において、イソシアヌレート化することにより得られるものであって、3量体、5量体、7量体等のイソシアヌレートの混合物からなるもの等が挙げられる。前記ポリイソシアネート化合物(a11)の具体例としては、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート型ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート型ポリイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネートのイソシアヌレート型ポリイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートのイソシアヌレート型ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0023】
前記ポリイソシアネート化合物(a11)としては、有機溶剤溶解性や硬化物の耐熱性が良好なポリイミド樹脂が得られることから、ポリイソシアネート化合物(a1)100重量部中に3量体のイソシアヌレートを30重量部以上含有するものが好ましく、50重量部以上含有するものが特に好ましい。
【0024】
また、前記ポリイソシアネート化合物(a11)としては、イソシアネート基の含有率が10〜30重量%であることも、有機溶剤溶解性や硬化物の耐熱性が良好なポリイミド樹脂が得られることからより好ましい。従って、前記ポリイソシアネート化合物(a11)としては、環式脂肪族ポリイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物であって、イソシアネート基の含有率が10〜30重量%であるものが最も好ましい。
【0025】
前記イソシアヌレート環を有するポリイソシアネートは、他のポリイソシアネートと併用しても良いが、イソシアヌレート型ポリイソシアネートを単独で使用するのが好ましい。
【0026】
本発明の製造方法で用いる脂肪酸エステル化合物(a2)としては、炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル化物であって、2個以上の水酸基を有するものであればよく、例えば水酸基を有する炭素原子数10〜20の脂肪酸とポリオールをエステル化反応させて得られる2個以上の水酸基を有する脂肪酸エステル化合物や、炭素原子数10〜20の脂肪酸とポリオールをカルボキシル基に対して水酸基が過剰となる条件でエステル化反応させて得られる末端に2個以上の水酸基を有する脂肪酸エステル化合物等が挙げられる。
【0027】
前記脂肪酸エステル化合物(a2)の具体例としては、ステアリン酸のモノグリセリンエステル、オレイン酸のモノグリセリンエステル等の脂肪酸モノグリセリンエステル、あるいはステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸と、トリメチロールプロパン、ペンタエリスルトール、ソルビトール、マンニトール等の多価アルコール等とのエステル;リシノール酸のブリレングリコールエステル、リシノール酸のヘキサンジオールエステル、リシノール酸のノナンジオールエステル、リシノール酸のトリメチロールプロパンエステル、リシノール酸のペンタエリスルトールエステル、リシノール酸のグリセリンエステル;ひまし油、ひまし油と各種ポリオールとのエステル交換反応で得られる化合物等のひまし油誘導体;各種油脂類と各種ポリオールとのエステル交換反応で得られる化合物等が挙げられるが、なかでも有機溶剤やエポキシ樹脂(Y)との相溶性が良好で、誘電率、誘電正接等の誘電特性と引張強度、引張伸度等の機械物性に優れ、これらのバランスも良好なポリイミド樹脂が得られることから、リシノール酸のグリセリンエステル、ひまし油が好ましく、工業的にはひまし油が特に好ましい。
【0028】
前記ひまし油は、とうごまの種子から圧搾法または圧抽法で得られる不乾性油であり、水酸基をもったリシノール酸を80〜90%含む。このため、ひまし油は粘度が比較的高く、水酸基価が大きく、旋光性に富み、アルコール・氷酢酸に溶解し、石油系溶剤に溶けにくいなど、他の植物性油脂にみられない大きな特徴を示し、通常、沃素価80〜90、鹸化価176〜187、アセチル価144〜150、水酸基価155〜177、不鹸化物1重量%以下、 屈折率1.475〜1.480、比重0.953〜0.965である。また、脂肪酸組成は、通常、パルミチン酸0.8〜1.1%、 ステアリン酸0.7〜1.0%、オレイン酸2.0〜4.1%、リノール酸4.1〜5.2%、リノレン酸0.5〜0.9%、 アラキン酸0.3〜0.8%、リシノール酸87.2〜89.6%、その他0.3〜1.1%である。
【0029】
また、前記脂肪酸エステル化合物(a2)は、ポリイソシアネート化合物(a1)と反応させて末端にイソシアネート基を有するプレポリマー(A)を得る際に、本発明の効果を損ねない程度にその他のポリオールと併用しても良い。この際のその他のポリオールの使用割合は、前記脂肪酸エステル化合物(a2)を含む全ポリオール成分に対して、通常80重量%以下であるが、なかでも70重量%以下が好ましく、10〜60重量%がより好ましい。
【0030】
前記脂肪酸のエステル化反応やエステル交換反応で用いるポリオール、および、プレポリマー(A)を得る際に併用しても良いその他のポリオールとしては、飽和のポリオールでも、不飽和のポリオールでも良く、また、低分子のポリオール化合物でも、オリゴマーやポリマー等のより高分子のポリオールでもよい。
【0031】
前記低分子のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジオール、トリシクロデカンジメチロール、水添ビスフェノールA、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールエタン、ジトリメチロールプロパン、グリセリン、ジグリセロール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、2,2,6,6−テトラメチロールシクロヘキサノール−1、マンニット、ソルビトール、イノシトール、グルコース、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジクロロネオペンチルグリコール、ジブロモネオペンチルグリコール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、スピログリコール、エチレンオキサイド付加ビスフェノールA、プロピレンオキサイド付加ビスフェノ−ルA、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等の2官能ジオール;トリス2ヒドロキシエチルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0032】
前記のより高分子のポリオールとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン、ブチレンオキサイド等の環状エーテル化合物から重合されるポリエチレンポリオール;ポリプロピレンポリオール、ポリテトラメチレンポリオール、ポリブチレンポリオール等のポリエーテルポリオールやこれら環状エーテルの共重合体であるポリエーテルポリオール;上述の低分子ポリオールと多塩基酸から合成されるポリエステルポリオール;ポリカーボネートポリオール、ウレタンポリオール、ポリジメチルシロキサンポリオール等のシリコンポリオール;アクリルポリオール;エポキシポリオール、ポリオレフィン構造を有するポリオール、ポリジエン構造を有するポリオール、ポリジエン構造を有するポリオールの水素添加物等のオリゴマーやポリマーが挙げられる。
【0033】
前記ポリオールのなかでも、プレポリマー(A)を得る際に併用しても良いその他のポリオールとしては、誘電率、誘電正接等の誘電特性と引張強度、引張伸度等の機械物性を更に改善することが可能なことから、ポリオレフィン構造を有するポリオール、ポリジエン構造を有するポリオール、ポリジエン構造を有するポリオールの水素添加物が好ましい。
【0034】
前記オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、ペンテン、メチルペンテン等が挙げられ、前記ジエンとしては、例えば、ペンタジエン、ヘキサジエン、ペンタジエン、イソプレン、ブタジエン、プロパジエン、ジメチルブタジエン等が挙げられる。
【0035】
前記ポリオレフィン構造を有するポリオール、ポリジエン構造を有するポリオールおよびポリジエン構造を有するポリオールの水素添加物としては、例えば、ポリエチレン系ポリオール、ポリプロピレン系ポリオール、ポリブタジエンポリオール、水素添加ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、水素添加ポリイソプレンポリオール等が挙げられ、なかでも、ポリブタジエンポリオールおよび/または水素添加ポリブタジエンポリオールが好ましく、水素添加ポリブタジエンポリオールがより好ましい。これらポリオール中の水酸基の数は、平均1.5〜3個であることが、ゲル化しにくく、分子成長が良好で、機械物性が優れるポリイミド樹脂が得られることから好ましい。更に水酸基の数は、平均1.8〜2.2個のものが特に好ましい。また、これらは単独で用いても、2種以上併用しても良い。
【0036】
また、前記ポリオレフィン構造を有するポリオール、ポリジエン構造を有するポリオール、および、ポリジエン構造を有するポリオールの水素添加物としては、ポリオレフィン構造部分、ポリジエン構造部分、水素添加ポリジエン構造部分の数平均分子量が300〜6,000のポリオール化合物が好ましく、なかでも、有機溶剤溶解性やエポキシ樹脂や有機溶剤との相溶性と機械物性が良好で、硬化物の誘電率と誘電正接が低く、造膜性に優れるポリイミド樹脂が得られることから、前記構造部分の数平均分子量が700〜4,500のポリオール化合物がより好ましく、前記構造部分の数平均分子量が800〜4,200のポリオール化合物が特に好ましい。
【0037】
これらの市販品としては、例えば、日本曹達(株)製のNISSO PB(Gシリーズ)、出光石油化学(株)製のPoly−bd等の両末端に水酸基を有する液状ポリブタジエン;日本曹達(株)製のNISSO PB(GIシリーズ)、三菱化学(株)製のポリテールH、ポリテールHA等の両末端に水酸基を有する水素添加ポリブタジエン;出光石油化学(株)製のPoly−iP等の両末端に水酸基を有する液状C5系重合体;出光石油化学(株)製のエポール、クラレ(株)製のTH−1、TH−2、TH−3等の両末端に水酸基を有する水素添加ポリイソプレンなどが挙げられる。
【0038】
本発明で用いる3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の酸無水物(B)としては、例えば、トリカルボン酸の酸無水物、テトラカルボン酸の酸無水物等が挙げられる。
【0039】
トリカルボン酸の酸無水物としては、例えば、無水トリメリット酸、ナフタレン−1,2,4−トリカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0040】
テトラカルボン酸の酸無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノン−3,4,3′,4′−テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルエーテル−3,4,3′,4′−テトラカルボン酸二無水物、ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−3,4,3′,4′−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−2,3,2′,3′−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,8,4,5−テトラカルボン酸二無水物、デカヒドロナフタレン−1,8,4,5−テトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、
【0041】
2,6−ジクロロナフタレン−1,8,4,5−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロナフタレン−1,8,4,5−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,8,4,5−テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン−1,2,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ベリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物等の分子内に芳香族有機基を有するテトラカルボン酸の無水物が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることが可能である。また、トリカルボン酸の無水物とテトラカルボン酸の無水物を混合して使用してもよい。
【0042】
次に、本発明のポリイミド樹脂の製造方法について説明する。
本発明のポリイミド樹脂の製造方法は、ポリイソシアネート化合物(a1)と炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル化物であって、2個以上の水酸基を有する脂肪酸エステル化合物(a2)とを反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するプレポリマー(A)と、3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の酸無水物(B)を有機溶剤中で反応させることを特徴とする方法であり、なかでも、有機溶剤中で、ポリイソシアネート化合物(a1)と脂肪酸エステル化合物(a2)とを、前記脂肪酸エステル化合物(a2)中の水酸基に対してポリイソシアネート化合物(a1)中のイソシアネート基が過剰となる条件下で反応させて末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを得た後、3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の酸無水物(B)を反応させる方法が好ましい
【0043】
前記ポリイソシアネート化合物(a1)と脂肪酸エステル化合物(a2)の反応の際の反応温度は通常50〜150℃、好ましくは60〜100℃であり、前記イミド化反応の際の反応温度は通常80〜250℃、好ましくは100〜200℃である。
【0044】
この際に用いる脂肪酸エステル化合物(a2)中の水酸基に対するポリイソシアネート化合物(a1)中のイソシアネート基のモル比(NCO/OH)は通常1.2〜20、好ましくは1.5〜10である。また、この際には各種のウレタン化触媒を使用することができる。
【0045】
前記脂肪酸エステル化合物(a2)の使用割合としては、造膜性、機械物性、耐熱性が良好なポリイミド樹脂が得られることから、ポリイソシアネート化合物(a1)と脂肪酸エステル化合物(a2)と3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の酸無水物(B)の合計100重量部に対して、5〜50重量部が好ましく、10〜40重量部がより好ましい。
【0046】
本発明の製造方法では、前記末端にイソシアネート基を有するプレポリマー(A)と3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の酸無水物(B)とを有機溶剤中で反応させてポリイミド樹脂を得る際、これらプレポリマー(A)と酸無水物(B)との重量比を変えることによって、得られるポリイミド樹脂の分子量および酸価を調整することができる。また、この際に触媒を使用しても良く、さらに酸化防止剤や重合禁止剤等を併用してもよい。
【0047】
前記末端にイソシアネート基を有するプレポリマー(A)と3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の酸無水物(B)の重量比(A)/(B)は通常90/10〜50/50であるが、なかでも耐熱性、機械物性等の各種物性に優れるポリイミド樹脂が得られることから80/20〜60/40が好ましい。
【0048】
本発明の製造方法で得られるポリイミド樹脂の酸価としては、有機溶剤溶解性と硬化物物性を良好にするために、固形物換算で20〜250が好ましく、20〜150がより好ましい。また、前記ポリイミド樹脂の分子量としては、溶媒溶解性を良好にするために、数平均分子量が1,000〜30,000で、かつ重量平均分子量が2,000〜100,000であることが好ましく、数平均分子量が1,000〜10,000で、かつ重量平均分子量が2,000〜50,000であることがより好ましい。
【0049】
本発明のポリイミド樹脂の製造方法で用いる有機溶剤としては、系中にあらかじめ存在させてから化反応を行っても、途中で導入してもよく、その使用するタイミングや量には制限は特にないが、末端にイソシアネート基を有するプレポリマー(A)と3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の酸無水物(B)の反応の開始時には存在させておくことが好ましい。また、この反応に際して適切な反応速度を維持するために系中の有機溶剤の割合は、反応系の80重量%以下が好ましく、10〜70重量%がより好ましい。かかる有機溶剤としては、原料成分としてイソシアネート基を含有する化合物を使用するため、水酸基やアミノ基等の活性プロトンを有しない非プロトン性極性溶剤が好ましい。
【0050】
前記非プロトン性極性溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤等が挙げられる。なかでもエーテル系溶剤は、弱い極性を持ち、前記末端にイソシアネート基を有するプレポリマー(A)と3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の無水物(B)とのイミド化反応において優れた反応場を提供する。
【0051】
かかるエーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等のエチレングリコールジアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル等のポリエチレングリコールジアルキルエーテル類;
【0052】
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、等のポリエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;
【0053】
プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル等のプロピレングリコールジアルキルエーテル類;ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル等のポリプロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;
【0054】
ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;低分子のエチレン−プロピレン共重合体等の共重合ポリエーテルグリコールのジアルキルエーテル類;共重合ポリエーテルグリコールのモノアセテートモノアルキルエーテル類;共重合ポリエーテルグリコールのアルキルエステル類;共重合ポリエーテルグリコールのモノアルキルエステルモノアルキルエーテル類等が挙げられる。
【0055】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。また、これらにジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトンなどの極性溶媒を併用することもできる。
【0056】
次に、本発明の熱硬化性ポリイミド樹脂組成物について説明する。
本発明の熱硬化性ポリイミド樹脂組成物は、前記ポリイミド樹脂(X)とエポキシ樹脂(Y)とを必須成分とし、更に必要によりフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Z)を含有してなる樹脂組成物である。
【0057】
前記エポキシ樹脂(Y)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型ノボラック等のノボラック型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエンと各種フェノール類と反応させて得られる各種ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のエポキシ化物;2,2′,6,6′−テトラメチルビフェノールのエポキシ化物等のビフェニル型エポキシ樹脂;ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂;フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂等の芳香族系エポキシ樹脂やこれら芳香族系エポキシ樹脂の水素添加物;ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ樹脂;3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス−(3,4−エポキヒシクロヘキシル)アジペート等の脂環式エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート等のごときヘテロ環含有エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのなかでも、耐熱性に優れる熱硬化性ポリイミド樹脂組成物が得られることから、芳香族系エポキシ樹脂が好ましい。
【0058】
ポリイミド樹脂(X)とエポキシ樹脂(Y)の配合比率としては、ポリイミド樹脂(X)とエポキシ樹脂(Y)の重量比(X)/(Y)が1〜10となる範囲であることが好ましく、1〜5となる範囲であることがより好ましい。また、ポリイミド樹脂(X)中のカルボキシル基(x)とエポキシ樹脂(Y)中のエポキシ基(y)のモル比(x)/(y)としては、0.7〜1.3であることが好ましい。
【0059】
本発明の熱硬化性ポリイミド樹脂組成物としては、ポリイミド樹脂(X)とエポキシ樹脂(Y)の硬化時の架橋密度等の制御のためフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Z)を併用することが好ましい。ポリイミド樹脂(X)とエポキシ樹脂(Y)での架橋密度をフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Z)を併用することで高めることが可能であり、これによりガラス転移点以上の温度における線膨張係数等を低下させることが可能である。前記架橋密度を高め、線膨張係数等を低下させるため、熱硬化性ポリイミド樹脂組成物中のポリイミド樹脂(X)とエポキシ樹脂(Y)とフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Z)の配合比率は、これらの合計100重量%に対して、ポリイミド樹脂(X)が40〜85重量%、エポキシ樹脂(Y)が10〜40重量%、フェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Z)が5〜20重量%であることが好ましい。また、ポリイミド樹脂(X)中のカルボキシル基(x)とフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Z)中の水酸基(z)の合計とエポキシ樹脂(Y)中のエポキシ基(y)のモル比(x+z)/(y)としては、0.7〜1.3であることが好ましい。
【0060】
前記フェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Z)としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール系化合物;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック樹脂、フェノールサリチルアルデヒドノボラック樹脂、テルペンジフェノールノボラック樹脂等のノボラック系樹脂;ビフェノール、ビフェノールノボラック、テトラメチルビフェノール、これらの誘導体等のビフェノール系化合物;フェノールフルオレン、クレゾールフルオレン等のフルオレン系化合物等が挙げられる。これらのなかでも、耐熱性に優れる熱硬化性ポリイミド樹脂組成物が得られることから、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物が好ましい。
【0061】
本発明の熱硬化性ポリイミド樹脂組成物は、必要に応じて、前記以外の硬化剤や硬化促進剤を併用することができ、例えば、メラミン、ジシアンジアミド、グアナミンやその誘導体、アミン類、水酸基を1個有するフェノール類、有機フォスフィン類、ホスホニュウム塩類、4級アンモニュウム塩類、多塩基酸無水物、光カチオン触媒、シアネート化合物、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0062】
また、本発明の熱硬化性ポリイミド樹脂組成物は、更に必要に応じて、種々の充填材、有機顔料、無機顔料、体質顔料、防錆剤等を添加することができる。これらは単独でも2種以上を併用してもよい。
【0063】
前記充填材としては、例えば、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、酸化けい素酸粉、微粒状酸化けい素、シリカ、タルク、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルムニウム、雲母等が挙げられる。
【0064】
前記有機顔料としては、アゾ顔料;フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーンの如き銅フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料等が挙げられる。
【0065】
前記無機顔料としては、例えば、黄鉛、ジンククロメート、モリブデート・オレンジの如きクロム酸塩;紺青の如きフェロシアン化物、酸化チタン、亜鉛華、ベンガラ、酸化鉄;炭化クロムグリーンの如き金属酸化物、カドミウムイエロー、カドミウムレッド;硫化水銀の如き金属硫化物、セレン化物;硫酸鉛の如き硫酸塩;群青の如き珪酸塩;炭酸塩、コバルト・バイオレッド;マンガン紫の如き燐酸塩;アルミニウム粉、亜鉛末、真鍮粉、マグネシウム粉、鉄粉、銅粉、ニッケル粉の如き金属粉;カーボンブラック等が挙げられる。
【0066】
また、その他の着色、防錆、体質顔料のいずれも使用することができる。これらは単独でも2種以上を併用してもよい。
【0067】
本発明の熱硬化性ポリイミド樹脂組成物は、通常、キャスト法、含浸、塗装等目的の方法で塗工施行される。硬化温度は80〜300℃で、硬化時間は20分間〜5時間である。
【0068】
【実施例】
次に、本発明を実施例、比較例によりさらに具体的に説明する。以下において、部および%は特に断りのない限り、すべて重量基準であるものとする。
【0069】
実施例1
攪拌装置、温度計、コンデンサーを付けた20リットルのフラスコに、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(以下、EDGAと略記する。)4996gと、イソホロンジイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート(以下、IPDI−Nと略記する。イソシアネート基含有率18.2%、イソシアヌレート環含有トリイソシアネート含有率85%)2760g(イソシアネート基として12モル)と、ひまし油(水酸基価160.3mgKOH/g)700g(水酸基として2モル)を仕込み、攪拌を行いながら発熱に注意して80℃に昇温した後、3時間反応を行った。次いで、無水トリメリット酸(以下、TMAと略記する。)1536g(8モル)を仕込み、160℃まで昇温した後、4時間反応させた。反応は発泡とともに進行した。系内は薄茶色のクリアな液体となり、ポリイミド樹脂の溶液を得た。
【0070】
得られたポリイミド樹脂溶液をKBr板に塗装し、溶剤を揮発させた試料の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、イソシアネート基の特性吸収である2270cm−1が完全に消滅し、725cm−1と1780cm−1と1720cm−1にイミド環の吸収、1690cm−1と1460cm−1にイソシアヌレート環の特性吸収、1550cm−1にウレタン結合の特性吸収が確認された。また、ポリイミド樹脂の酸価は固形分換算で83mgKOH/g、イソシアヌレート環の濃度は0.88mmol/g(樹脂固形分換算)、数平均分子量(以下、Mnと略記する。)は3,400、重量平均分子量(以下、Mwと略記する。)は7,200であった。以下、このポリイミド樹脂溶液を(X−1)と略記する。
【0071】
実施例2
攪拌装置、温度計、コンデンサーを付けた20リットルのフラスコに、EDGA 4856gと、IPDI−N 2070g(イソシアネート基として9モル)と、1,6−ヘキサンジイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート(イソシアネート基の含有率22.9%、イソシアヌレート環含有トリイソシアネート含有率63.3%)550g(イソシアネート基として3モル)を仕込み、混合して均一とした後、ひまし油(水酸基価160.3)700g(水酸基として2モル)を加えて攪拌を行いながら発熱に注意して80℃に昇温した後、3時間反応を行った。次いで、TMA 1536g(8モル)を仕込み、160℃まで昇温した後、4時間反応させた。この際の反応は、発泡とともに進行し、粘度が高くなり、系内が攪拌しにくくなったときに、さらにEDGA2000gを加えて行った。系内は薄茶色のクリアな液体となり、ポリイミド樹脂の溶液を得た。
【0072】
得られたポリイミド樹脂溶液を用いて実施例1と同様に赤外線吸収スペクトルを測定した結果、イソシアネート基の特性吸収である2270cm−1が完全に消滅し、725cm−1と1780cm−1と1720cm−1にイミド環の吸収、1690cm−1と1460cm−1にイソシアヌレート環の特性吸収、1550cm−1にウレタン結合の特性吸収が確認された。さらに、また、ポリイミド樹脂の酸価は固形分換算で86、イソシアヌレート環の濃度は0.91mmol/g、Mnは3,200、Mwは6,800であった。以下、このポリイミド樹脂溶液を(X−2)と略記する。
【0073】
実施例3
攪拌装置、温度計、コンデンサーを付けた20リットルのフラスコに、EDGA 5135gと、IPDI−N 1380g(イソシアネート基として6モル)と、ノルボヌレンジイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート(イソシアネート基含有率18.75%、イソシアヌレート環含有トリイソシアネート含有率65.5%)1344g(イソシアネート基として6モル)を仕込み、80℃で加熱溶解させ、ひまし油(水酸基価160.3)875g(水酸基として2.5モル)をさらに仕込み、攪拌を行いながら80℃にて5時間反応を行った後、TMA 1536g(8モル)を仕込み、170℃まで昇温した後、4時間反応させた。反応は発泡とともに進行した。系内は薄茶色のクリアな液体となり、ポリイミド樹脂の溶液が得られた。
【0074】
得られたポリイミド樹脂溶液を用いて実施例1と同様に赤外線吸収スペクトルを測定した結果、イソシアネート基の特性吸収である2270cm−1が完全に消滅し、725cm−1と1780cm−1と1720cm−1にイミド環の吸収、1690cm−1と1460cm−1にイソシアヌレート環の特性吸収、1550cm−1にウレタン結合の特性吸収が確認された。また、ポリイミド樹脂の酸価は固形分換算で82、イソシアヌレート環の濃度は0.85mmol/g、Mnは4,300、Mwは11,500であった。以下、このポリイミド樹脂溶液を(X−3)と略記する。
【0075】
実施例4
攪拌装置、温度計、コンデンサーを付けた20リットルのフラスコに、EDGA 5715gと、IPDI−N 2760g(イソシアネート基として12モル)と、ひまし油(水酸基価160.3)700g(水酸基として2モル)と、NISSO−PB G−3000〔日本曹達(株)製の両末端に水酸基を有する液状ポリブタジエン、数平均分子量4,000、水酸基価28〕1000g(水酸基として0.5モル)を仕込み、攪拌を行いながら発熱に注意して80℃に昇温した後、3時間反応を行った。次いで、さらにEDGA 1537gとTMA 1536g(8モル)を仕込み、160℃まで昇温した後、4時間反応させた。反応は発泡とともに進行した。系内は薄茶色のクリアな液体となり、ポリイミド樹脂の溶液が得られた。
【0076】
得られたポリイミド樹脂溶液を用いて実施例1と同様に赤外線吸収スペクトルを測定した結果、イソシアネート基の特性吸収である2270cm−1が完全に消滅し、725cm−1と1780cm−1と1720cm−1にイミド環の吸収、1690cm−1と1460cm−1にイソシアヌレート環の特性吸収、1550cm−1にウレタン結合の特性吸収が確認された。また、ポリイミド樹脂の酸価は固形分換算で75、イソシアヌレート環の濃度は0.72mmol/g、Mnは4,800、Mwは12,500であった。以下、このポリイミド樹脂溶液を(X−4)と略記する。
【0077】
実施例5
攪拌装置、温度計、コンデンサーを付けた20リットルのフラスコに、EDGA 5712gと、IPDI−N 2760g(イソシアネート基として12モル)と、ひまし油(水酸基価16.3)700g(水酸基として2モル)と、NISSO−PB GI−3000〔日本曹達(株)製の両末端に水酸基を有する水素添加液状ポリブタジエン、数平均分子量3,000、水酸基価38〕738g(水酸基として0.5モル)を仕込み、攪拌を行いながら発熱に注意して80℃に昇温した後、3時間反応を行った。次いで、さらにEDGA 1728gとTMA 1152g(6モル)と無水ピロメリット酸327g(1.5モル)を仕込み、160℃まで昇温した後、4時間反応させた。反応は発泡とともに進行した。系内は薄茶色のクリアな液体となり、ポリイミド樹脂の溶液が得られた。
【0078】
得られたポリイミド樹脂溶液を用いて実施例1と同様に赤外線吸収スペクトルを測定した結果、イソシアネート基の特性吸収である2270cm−1が完全に消滅し、725cm−1と1780cm−1と1720cm−1にイミド環の吸収、1690cm−1と1460cm−1にイソシアヌレート環の特性吸収、1550cm−1にウレタン結合の特性吸収が確認された。また、ポリイミド樹脂の酸価は固形分換算で74、イソシアヌレート環の濃度は0.76mmol/g、Mnは4,200、Mwは18,900であった。以下、このポリイミド樹脂溶液を(X−5)と略記する。
【0079】
実施例6
攪拌装置、温度計、コンデンサーを付けた20リットルのフラスコに、EDGA 5472gと、IPDI−N 2070g(イソシアネート基として9モル)と、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート〔水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)、以下、H12MDIと略記する。〕262g(イソシアネート基として2モル)と、ひまし油(水酸基価160.3)700g(水酸基として2モル)と、ポリテールHA〔三菱化学(株)製の両末端に水酸基を有する水素添加液状ポリブタジエン、数平均分子量2,100、水酸基価51.2〕1096g(水酸基として1モル)を仕込み、攪拌を行いながら発熱に注意して80℃に昇温した後、3時間反応を行った。次いで、さらにTMA 1344g(7モル)を仕込み、160℃まで昇温した後、4時間反応させた。反応は発泡とともに進行した。系内は薄茶色のクリアな液体となり、ポリイミド樹脂の溶液が得られた。
【0080】
得られたポリイミド樹脂溶液を用いて実施例1と同様に赤外線吸収スペクトルを測定した結果、イソシアネート基の特性吸収である2270cm−1が完全に消滅し、725cm−1と1780cm−1と1720cm−1にイミド環の吸収、1690cm−1と1460cm−1にイソシアヌレート環の特性吸収、1550cm−1にウレタン結合の特性吸収が確認された。また、ポリイミド樹脂の酸価は固形分換算で75、イソシアヌレート環の濃度は0.59mmol/g、Mnは3,600、Mwは7,800であった。以下、このポリイミド樹脂溶液を(X−6)と略記する。
【0081】
比較例1
攪拌装置、温度計、コンデンサーを付けた10リットルのフラスコに、ジメチルホルムアミド1496gとイソホロンジイソシアネート888g(イソシアネート基として8モル)とTMA 960g(5モル)を仕込み、160℃まで昇温して反応させた後、4時間反応させた。反応は発泡とともに進行した。系内は薄茶色のクリア液体となり、ポリイミド樹脂の溶液を得た。
【0082】
得られたポリイミド樹脂溶液を用いて実施例1と同様に赤外線吸収スペクトルを測定した結果、イソシアネート基の特性吸収である2270cm−1が完全に消滅し、725cm−1と1780cm−1と1720cm−1にイミド基の吸収が確認された。また、ポリイミド樹脂の酸価は固形分換算で94、Mnは770、Mwは2,500であった。以下、このポリイミド樹脂溶液を(X−1′)と略記する。
【0083】
比較例2
攪拌装置、温度計、コンデンサーを付けた10リットルのフラスコに、EDGA 1496gと、IPDI−N 2760g(イソシアネート基として12モル)と、TMA 1728g(水酸基として9モル)を仕込み、150℃まで昇温した後、8時間反応させた。反応は発泡とともに進行した。系内は薄茶色のクリアな液体となり、ポリイミド樹脂の溶液が得られた。
【0084】
得られたポリイミド樹脂溶液を用いて実施例1と同様に赤外線吸収スペクトルを測定した結果、イソシアネート基の特性吸収である2270cm−1が完全に消滅し、725cm−1と1780cm−1と1720cm−1にイミド環の吸収、1690cm−1と1460cm−1にイソシアヌレート環の特性吸収、1550cm−1にウレタン結合の特性吸収が確認された。また、ポリイミド樹脂の酸価は固形分換算で95、イソシアヌレート環の濃度は0.64mmol/g、Mnは4,100、Mwは12,000であった。以下、このポリイミド樹脂溶液を(X−2′)と略記する。
【0085】
実施例7〜17および比較例3〜4
第1表〜第2表に示す配合により本発明の熱硬化性ポリイミド樹脂組成物No.1〜11と、比較対照用熱硬化性ポリイミド樹脂組成物No.1′〜2′を調製した。なお、これらの樹脂組成物は、いずれも硬化触媒としてトリフェニルフォスフィン1部を添加した。また、第1表〜第2表中の数値は、樹脂固形分の配合重量を表す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
第1表〜第2表の脚注
・N680 :大日本インキ化学工業(株)製クレゾールノボラックエポキシ樹脂 EPICLON N−680、(軟化点80℃、エポキシ当量213g/eq)
・HP7200 :大日本インキ化学工業(株)製ジシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂 EPICLON HP−7200
・EXA4700:大日本インキ化学工業(株)製多官能ナフタレンノボラック型エポキシ樹脂 EPICLON EXA−4700
・TD2090 :大日本インキ化学工業(株)フェノールノボラック樹脂 フェノライト TD−2090(軟化点120℃、水酸基当量105g/eq)
【0089】
試験例1〜11および比較試験例1〜2
前記本発明の熱硬化性ポリイミド樹脂組成物No.1〜11と比較対照用熱硬化性ポリイミド樹脂組成物No.1′〜2′を用いて、下記に示す方法で、相溶性試験、塗膜造膜性試験、ガラス転移点(Tg)測定、引っ張り試験、プレッシャークッカー耐性試験(PCT)、ハンダ耐熱性試験および導電特性測定を行った。結果を第3表〜第5表に示す。
【0090】
(1)相溶性試験
第1表〜第2表に示す配合により熱硬化性ポリイミド樹脂組成物No.1〜13と、比較対照用熱硬化性ポリイミド樹脂組成物No.1′〜2′を調製した際の相溶状態と、さらに得られた樹脂組成物をガラス板に塗装し、120℃で乾燥した後の塗膜の状態を、下記の評価基準で評価した。
評価基準
◎:攪拌により容易に均一となり、塗膜面にも異物等が見られない。
○:攪拌により均一となり、塗膜面にも異物等が見られない。
△:攪拌により均一になりにくく、塗膜面にもやや異物等が見られる。
×:均一に溶解せず、塗膜面は、はじき、異物、不溶解物が確認できる。
【0091】
(2)塗膜造膜性試験
熱硬化性ポリイミド樹脂組成物を乾燥後の膜厚が30μmになるようにブリキ板にアプリケーターにて塗布後、110℃で30分間乾燥させて得た試験片を、室温にて24時間放置し、塗膜外観を以下の評価基準で評価した。
評価基準
○:塗膜にクラック等の異常は見られない。
△:塗膜に若干クラックが見られる。
×:塗膜全面にクラックが発生した。
【0092】
(3)ガラス転移点(Tg)測定
<試験用試験片の作製>
熱硬化性ポリイミド樹脂組成物を硬化後の膜厚が50μmになるようにブリキ基板上に塗装し、120℃の乾燥機で20分間乾燥した後、150℃と170℃でそれぞれ1時間硬化させて、2種の硬化塗膜を作成し、室温まで冷却した後、硬化塗膜を塗装板から切り出し、Tg測定用試料とした。
<Tg測定方法>
前記Tg測定用試料を用い、下記の条件で動的粘弾性を測定し、得られたスペクトルのTanδの最大の温度をTgとした。
測定機器:レオメトッリク社製RSA−II
治具:引っ張り
チャック間:20mm
測定温度:25〜300℃
測定周波数:1Hz
昇温速度:3℃/min
【0093】
(4)引っ張り試験
<試験用試験片の作製>
熱硬化性ポリイミド樹脂組成物を硬化後の膜厚が50μmになるように、ブリキ基板上に塗装した。次いでこの塗装板を120℃の乾燥機で20分間乾燥した後、150℃と170℃で1時間硬化させた2水準の硬化塗膜を作成した。室温まで冷却した後、硬化膜を所定の大きさに切り出し、基板から単離して測定用試料とした。
<引っ張り試験測定方法>
前記Tg測定用試料と同様にして170℃で1時間硬化させた測定サンプルを5枚作成し、下記の条件で引っ張り試験を行い、破断強度と破断伸度を求めた。
測定機器:東洋ボールドウィン社製テンシロン
サンプル形状:10mm×70mm
チャック間:20mm
引っ張り速度:10mm/min
測定雰囲気:22℃、45%RH
【0094】
(5)プレッシャークッカー耐性試験(PCT)
熱硬化性ポリイミド樹脂組成物を、予めエッチングした銅回路パ夕一ン形成したガラスエポキシ系プリント基板上に硬化後の膜厚が50μmになるように塗装を行った。次いでこの塗装板を120℃の乾燥機で20分間乾燥した後、170℃で1時間硬化させてテストピースを作成し、プレッシャークッカー試験機(株式会社平山製作所製PC−304RIII)で121℃、100%RH(飽和蒸気圧下)で50時間処理した後、室温状態にもどし、外観の変化を目視にて下記評価基準で評価した。また、前記テストピース上の塗膜に1mm間隔で碁盤目状のクロスカットを入れ、その上にセロハンテープを貼り付けてピーリング試験を行い、塗膜の剥離数を数えて、下記基準で塗膜の付着性を評価した。
▲1▼外観評価基準
◎:試験前後で変化、異常が見られない。
○:試験後、塗膜面積の5%未満の範囲でブリスター、白化、溶解等の塗膜異常が確認できる。
△:試験後、塗膜面積の5%以上30%未満の範囲でブリスター、白化、溶解等の塗膜異常が確認できる。
×:試験後、塗膜面積の30%以上の範囲でブリスター、白化、溶解等の塗膜異常が確認できる。
▲2▼付着性評価基準
◎:碁盤目状塗膜の剥離なし。
○:碁盤目状塗膜100個に対して剥離した塗膜数が20個未満。
△:碁盤目状塗膜100個に対して剥離した塗膜数が20個以上70個未満。
×:碁盤目状塗膜100個に対して剥離した塗膜数が70個以上。
(6)ハンダ耐熱性試験
前記プレッシャークッカー耐性試験と同様に作成し、25×25mmの大きさに切断したテストピースを、塗膜面を下にして260℃の半田浴に10秒間浮かせるのを1サイクルとして、3サイクル行い、塗膜の膨れ等の欠陥と密着性を下記の評価基準で評価した。
評価基準
評価基準
◎:試験前後で全く変化が見られない。
○:試験後、塗膜面積の5%未満の範囲で欠陥や剥離等が見られる。
△:試験後、塗膜面積の5%以上30%未満の範囲で欠陥や剥離等が見られる。
×:試験後、塗膜面積の30%以上の範囲で欠陥や剥離等が見られる。
【0095】
(7)誘電特性測定
熱硬化性ポリイミド樹脂組成物を硬化後の膜厚が200μmになるようにブリキ基板上に塗装し、120℃の乾燥機で20分間乾燥した後、150℃で1時間硬化させ冷却した後、剥離した硬化塗膜を切り出した測定用試料を、アジレントテクノロジー社製4291Bを用いて、周波数は1GHzの条件で誘電率(ε)と誘電損失(Tanδ)を測定した。
【0096】
【表3】
【0097】
【表4】
【0098】
【表5】
【0099】
第3表〜第5表の結果から明らかなように、実施例の熱硬化性ポリイミド樹脂組成物からなる硬化塗膜は、非常に高いTgを示しており、高温においても耐熱性を発揮できうる材料と言える。さらに、こうした高Tgを有しながら、誘電率と誘電正接が低く誘電特性が良好で、機械物性的にも伸度が大きいという特徴を有している。また、PCT耐性や半田耐熱試験においても非常に高い耐性を有している。
【0100】
一方、比較試験例1の熱硬化性ポリイミド樹脂組成物からなる硬化塗膜は、実施例の硬化塗膜に比較して低いTgであり、破断伸度、PCT耐性、半田耐熱性、誘電率、誘電正接においても悪い結果であった。また、比較試験例2の熱硬化性ポリイミド樹脂組成物からなる硬化塗膜は、非常に高いTgを示しているが、実施例の硬化塗膜に比較して塗膜増膜性、PCT耐性(付着性)、誘電率、誘電正接において悪い結果であった。
【0101】
【発明の効果】
本発明の熱硬化性ポリイミド樹脂組成物は、耐熱性に優れ、誘電率と誘電正接が低く、しかも、引張強度、引張伸度等の機械物性の良好な硬化物が得られる。また、本発明の製造方法によれば、本発明の硬化性ポリイミド樹脂組成物に用いるポリイミド樹脂が容易に製造できる。
Claims (20)
- カルボキシル基と炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル構造を有することを特徴とするポリイミド樹脂(X)。
- 更に、ウレタン結合とイミド環とイソシアヌレート環と環式脂肪族構造を有する請求項1に記載のポリイミド樹脂(X)。
- 酸価が20〜250で、炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル構造がリシノール酸のグリセリンエステル酸基で、前記脂肪酸のエステル構造部分の含有率が10〜40重量%で、イソシアヌレート環の濃度が0.3〜1.2mmol/gで、数平均分子量が1,000〜30,000で、しかも、重量平均分子量が2,000〜100,000のポリイミド樹脂である請求項3に記載のポリイミド樹脂(X)。
- ポリイソシアネート化合物(a1)と炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル化物であって、2個以上の水酸基を有する脂肪酸エステル化合物(a2)を反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するプレポリマー(A)と、3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の酸無水物(B)を有機溶剤中で反応させて得られるポリイミド樹脂である請求項1に記載のポリイミド樹脂(X)。
- ポリイソシアネート化合物(a1)として環式脂肪族ジイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネートを用い、かつ、前記脂肪酸エステル化合物(a2)としてリシノール酸のグリセリンエステルを、ポリイソシアネート化合物(a1)とポリオール化合物(a2)と3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の酸無水物(B)の合計100重量部に対して10〜40重量部用いて得られたポリイミド樹脂である請求項5に記載のポリイミド樹脂(X)。
- 環式脂肪族ポリイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネートが炭素原子数6〜13の環式脂肪族構造を有するジイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネートで、しかも、脂肪酸エステル化合物(a2)がリシノール酸のグリセリンエステルである請求項6に記載のポリイミド樹脂(X)。
- 3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の酸無水物(B)がトリカルボン酸無水物である請求項6又は7に記載のポリイミド樹脂(X)。
- ポリイソシアネート化合物(a1)と炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル化物であって、2個以上の水酸基を有する脂肪酸エステル化合物(a2)を反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するプレポリマー(A)と、3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の酸無水物(B)を有機溶剤中で反応させることを特徴とするカルボキシル基と炭素原子数10〜20の脂肪酸のエステル構造を有するポリイミド樹脂(X)の製造方法。
- 脂肪酸エステル化合物(a2)が炭素原子数10〜20の脂肪酸のグリセリンエステルである請求項9に記載のポリイミド樹脂(X)の製造方法。
- 脂肪酸エステル化合物(a2)がリシノール酸のグリセリンエステルである請求項9に記載のポリイミド樹脂(X)の製造方法。
- ポリイソシアネート化合物(a1)と脂肪酸エステル化合物(a2)と3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の酸無水物(B)の合計100重量部に対して、脂肪酸エステル化合物(a2)を10〜40重量部用いる請求項10に記載のポリイミド樹脂(X)の製造方法。
- ポリイソシアネート化合物(a1)が脂肪族ジイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネートである請求項9〜12のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂(X)の製造方法。
- ポリイソシアネート化合物(a1)が、環式脂肪族ジイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネートであって、かつ、イソシアネート基の含有率が10〜30重量%のポリイソシアネートである請求項9〜12のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂(X)の製造方法。
- 有機溶剤が非プロトン性極性有機溶剤である請求項9〜12のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂(X)の製造方法。
- 非プロトン性極性有機溶剤がエーテル系溶剤である請求項15に記載のポリイミド樹脂(X)の製造方法。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂(X)と、エポキシ樹脂(Y)を含有することを特徴とする熱硬化性ポリイミド樹脂組成物。
- ポリイミド樹脂(X)が酸価20〜250のポリイミド樹脂であって、かつ、ポリイミド樹脂(X)とエポキシ樹脂(Y)との重量比(X)/(Y)が1〜10である請求項17に記載の熱硬化性ポリイミド樹脂組成物。
- 更に、フェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Z)を含有する請求項17又は18に記載の熱硬化性ポリイミド樹脂組成物。
- ポリイミド樹脂(X)とエポキシ樹脂(Y)とフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Z)の合計100重量%に対して、ポリイミド樹脂(X)が40〜85重量%、エポキシ樹脂(Y)が10〜40重量%、フェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Z)が5〜20重量%である請求項19に記載の熱硬化性ポリイミド樹脂組成物。
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