JP4352113B2 - 品質保持剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な品質保持剤に関する。さらに詳しくは、加工食品・農水産品などの食品類、金属製品、精密機械などの工業製品、医薬品、美術工芸品、文化財などの広い分野の物品の保存用に好適な品質保持剤を提供することを目的とする。
【0002】
【従来の技術】
従来、食品類の品質保持については、好気性菌、カビなどの繁殖による腐敗や、乾性油の酸化劣化を防止する目的で、鉄系を中心とした種々の脱酸素剤が提案されている(例えば、特許文献1、2および3参照)。しかし、この鉄系の脱酸素剤を封入した食品包装品は、針や金属片などの金属異物の混入防止のために用いる金属探知機に感応し誤動作を生じるという問題点が以前から指摘されている(例えば、特許文献4参照)。また、この鉄系の脱酸素剤を封入した食品包装品は電子レンジに使用することができないなどさらに改善されるべき実用上の重大な課題を残している。
【0003】
このような脱酸素剤の金属探知機への誤動作を改善する方法として、有機化合物であって酸素吸収能を有するアスコルビン酸を主剤とする脱酸素剤や、フェノール誘導体を主剤とする脱酸素剤などが提案されている(例えば、特許文献5、6および7参照)。しかし、これらの脱酸素剤は何れも有機物質であるため、使用の条件によっては溶融、溶解を生じることが危惧され、また、有機化合物であるため反応などに伴う発熱による燃焼の危険性も指摘されている(例えば、特許文献8参照)。
【0004】
野菜や果実等からはその保存中にエチレンガスが発生し、この発生したエチレンガスが野菜や果実自身の腐敗を促進する作用を有するため、このようなエチレンガスを除去するためのエチレンガス吸着剤が鮮度保持剤として提案されているが、その性能は未だ不十分である。
また、食品類などの腐敗の原因となる嫌気性菌等に対しては、脱酸素剤などを使用してもその効果が認められず、銀などを含んだ抗菌剤や殺菌剤が使用されているが、安全性の点で問題があり、その用途が限定されるという問題がある。
【0005】
一方、酸素欠損を有する二酸化チタンを用いて、食品、衣料品、医薬品、革製品、木製品、精密機械などの種々の物品や商品を、カビ、菌、虫、および酸化などによる品質の劣化から防止する品質保持剤として使用することが提案されている(例えば、特許文献9参照)。そして、この酸素欠損を有する二酸化チタンは、二酸化チタンを無酸素雰囲気下で加熱することにより製造することができるとしており、酸素吸収能力を大きくするには加熱温度が高いほどよく800℃程度の加熱が好ましいとしている。しかし、加熱温度が800℃のような高温になると二酸化チタンの結晶転移が急激に起こり、アナターゼ型結晶からルチル型結晶になることが報告されているところから(例えば、非特許文献1および2参照)、800℃付近までの加熱によって二酸化チタンの結晶構造の転移や変化と共に、酸素欠損個所に歪みを生じることが予想されるため、酸素吸収量が低下して、安定して良好な酸素吸収剤を得ることが難しい。
【0006】
また、二酸化チタンについては、それが光触媒作用を有するため前記したエチレンガスの分解に効果があることが期待されるとともに、抗菌作用による食品類などの品質保持剤としての利用が期待されるが、これらの性質を十分に生かした品質保持剤は見出されていない。
以上述べたように、これまで種々の品質保持剤が提案されているが、脱酸素、鮮度保持、抗菌というさまざまな要請をすべて十分に満足する、広い分野に有効な品質保持剤は未だ提案されていない。
【0007】
【特許文献1】
特開昭56−2845号公報(第1〜18頁)
【特許文献2】
特開昭56−130222号公報(第1〜4頁)
【特許文献3】
特開昭58−128145号公報(第1〜3頁)
【特許文献4】
特開平10−314581号公報(第1頁)
【特許文献5】
特開昭59−29033号公報(第1〜2頁)
【特許文献6】
特許第2658640号公報(第1〜8頁)
【特許文献7】
特開2000−50849号公報(第1〜6頁)
【特許文献8】
特開平10−314581号公報(第2頁)
【特許文献9】
特許第3288265号公報(第1〜10頁)
【非特許文献1】
田部浩三、清山哲郎、笛木和夫編、「金属酸化物と複合酸化物」講談社サイエンティフィク(1978年)、103頁
【非特許文献2】
西本精一、大谷文章、坂本章、鍵谷勉、日本化学会誌、1984、246-252(1984)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、安全性が高く、金属探知機等への影響がなく、酸素吸収能が優れ、かつ光触媒作用による抗菌性、鮮度保持性も併せ持つ、食品類、金属製品、精密機械などの工業製品、医薬品、美術工芸品、文化財などの広い分野の物品の保存用に好適な品質保持剤を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、以上の状況に鑑み、また上記の課題を解決するために鋭意研究を行い、特定の低次酸化チタンを水で処理することによって得られた物質が、その酸素吸収速度が著しく増大することを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の内容をその要旨とするものである。
(1)水で処理し、または水分含有物質と混合し、硫酸根およびニッケル種を含有し、かつ二酸化チタンのオリジナルの結晶構造を保持し、一般式TiO 2−x (ここで、xは0.1から0.5の実数を示す)で表される構造を有する低次酸化チタン複合体を含有することを特徴とする、品質保持剤。
(2)低次酸化チタン複合体が、二酸化チタンの還元により生成し、オリジナルの結晶構造を保持した低次酸化チタンから得られたものである、前記(1)記載の品質保持剤。
(3)低次酸化チタン複合体が、アナターゼの結晶構造を保持する低次酸化チタンから得られたものである、前記(1)又は(2)に記載の品質保持剤。
(4)水で処理した低次酸化チタン複合体が、低次酸化チタン複合体に水を混合したもの、または低次酸化チタン複合体に水を噴霧したものである、前記(1)乃至(3)のいれかに記載の品質保持剤。
(5)水分含有物質と混合した低次酸化チタン複合体が、水を含浸させたシリカ、アルミナ、ゼオライトまたは活性炭の粉末と低次酸化チタン複合体を混合したものである、前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の品質保持剤。
(6)水の含有量が、低次酸化チタン複合体10質量部に対して水が0.1〜10質量部である、前記(1)乃至(5)のいずれかに記載の品質保持剤。
(7)前記(1)乃至(6)記載の品質保持剤を、無酸素雰囲気下で気密性の包装容器に封入した形態である、品質保持剤製品。
(8)二酸化チタンの還元により生成し、オリジナルの結晶構造を保持した低次酸化チタンから得られた硫酸根およびニッケル種を含有する低次酸化チタン複合体に、水または水分含有物質を添加することを特徴とする、低次酸化チタン複合体の酸素吸収速度の増強方法。
(9)水の添加量が、低次酸化チタン複合体10質量部に対して水が0.1〜10質量部である、前記(8)記載の低次酸化チタン複合体の酸素吸収速度の増強方法。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を具体的に説明する。
本発明に使用する低次酸化チタンは、TiO2で表される二酸化チタンの酸素原子が一部脱離したTiO2−xで表されたものを言い、ここでxは0.1から0.5の実数である。このような低次酸化チタンは、後に詳しく記載するように、一般的に二酸化チタンを比較的温和な条件で水素ガス等により還元処理することにより、オリジナルの結晶構造をそのまま保持しながら、かつその酸素原子の一部を脱離させることによって得られる。
【0012】
本発明において用いる原料の二酸化チタン(TiO2)は、アナターゼ型、ルチル型若しくはブルッカイト型の結晶系のもの、又はアモルファスのもののいずれも使用し得るが、アナターゼ型の二酸化チタンが光触媒の作用が優れていることから好適である。その形状は、特に制限はなく、例えば粒状、球状、顆粒状、粉末状であってもよいが、表面積が大きいほうが、還元反応がしやすく、還元反応で製造された低次酸化チタンの酸素吸収能が大きく、また光触媒作用も優れるため好ましい。それらの粒径は、1nm(10− 9m)から1μm(10−6m)程度のものまでを使用でき、より好ましくは3nm(3×10− 9m)から0.1μm(10−5m)のものが使用できるが、一般には粒径の小さいものが好ましい。また、望ましくは、直径1mm程度の大きさの粒状に造粒した二酸化チタンを使用してもよい。比表面積は5m2/gから400m2/g程度、好ましくは50m2/gから390m2/gのものを使用することができるが、比較的大きな値を有するものが還元処理には効果的である。以上のような原料の二酸化チタンとしては、製品として市販されているものをそのまま使用することも可能であり、あるいは硫酸チタン、四塩化チタン、硝酸チタンなど無機酸のチタン塩あるいはチタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシドあるいはチタンテトラ(2−エチルヘキサノエート)などの有機チタン化合物を加水分解あるいは苛性ソーダで中和、沈殿などの方法により調製することもできる。
【0013】
市販のアナターゼ型二酸化チタンの代表的な製品としては、堺化学工業株式会社製のSSP25、CSPM、テイカ株式会社製のAMT−100、石原産業株式会社製のST01あるいはMC−50などが知られている。更にこれらの二酸化チタンを使用して、以下に詳しく記載する本発明のニッケル種や硫酸根を含む二酸化チタンを使用することができる。
【0014】
本発明には低次酸化チタンに硫酸根およびニッケル種を含んだ低次酸化チタン複合体を使用する。
本発明に使用する硫酸根を含有する低次酸化チタン複合体は、二酸化チタンに含浸、吸着、共沈殿又は物理的混合によって硫酸根を含有させ、還元処理を施すことによって、酸素原子が一部脱離したオリジナルの結晶構造をそのまま保持した低次酸化チタンと硫酸根との複合体、又は、原料の二酸化チタンとして硫酸根を含むものを使用し、これを還元処理することによって得られる酸素原子が一部脱離した低次酸化チタンと硫酸根の複合体である。或いは、これに含浸、吸着、共沈殿又は物理的混合によって更にニッケル種を含有させ、還元処理した低次酸化チタン複合体が更に好ましい。
【0015】
本発明の品質保持剤には硫酸根およびニッケル種を含む低次酸化チタン複合体を使用する。本発明に使用するニッケル種とは、ニッケル原子を必須成分とする化合物、又はニッケル原子を必須成分とする金属若しくは合金を言う。また、ここでニッケル原子はいわゆる電離したイオン状態のものも含む。
ニッケル原子を必須成分とする化合物としては、例えば、無機酸のニッケル塩、有機酸のニッケル塩、ニッケルアルコキシド、および配位子を配位したニッケル錯塩からなる群から選ばれる化合物である。このような化合物としては、例えば、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸ニッケルなどの無機酸のニッケル塩;酢酸ニッケル、プロピオン酸ニッケル、蓚酸ニッケルなどの有機酸のニッケル塩;その無水和物、結晶水を持つ水和物が挙げられ、あるいはそれらにアンモニア、エチレンジアミンなどの配位したニッケル錯塩、アセチルアセトンなどを配位したニッケル化合物、ニッケルイソプロポキシドなどのニッケルアルコキシドを用いることができる。
【0016】
ニッケル原子を必須成分とする金属または合金としては、例えば、ニッケル金属そのものまたはニッケルと他の金属元素から構成される合金、ニッケル金属と他の金属との混合物である。このような合金又は金属混合物としては、例えば、ニッケルとコバルト、鉄、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムなどから選ばれる金属との合金又は混合物が挙げられる。
【0017】
本発明の品質保持剤は、通常は低次酸化チタンの中に硫酸根および/またはニッケル種を含有した低次酸化チタン複合体を水で処理したものであるが、特に望むなら硫酸根またはニッケル種を含まない低次酸化チタンを水で処理したものでも良い。この低次酸化チタンおよび低次酸化チタン複合体は、水で処理することによって、低次酸化チタンの酸素吸収速度が著しく増加する。その作用機構は明らかではないが、低次酸化チタン粒子内部への酸素の拡散速度を速め、その結果、酸素吸収速度を速めているものと考えられる。
【0018】
本発明の品質保持剤は、このような低次酸化チタンあるいはその複合体を水で処理したもの、または低次酸化チタンあるいはその複合体と水分含有物質とを混合したものを含有するものである。
低次酸化チタンあるいはその複合体を水で処理する方法としては、水を直接低次酸化チタンと混合する方法、スプレー等で低次酸化チタンの表面に噴霧する方法、水を加温したりして気体状にし、低次酸化チタンと接触させる方法等が挙げられる。また、低次酸化チタンあるいはその複合体と水分含有物質とを混合する方法としては、水をシリカ、アルミナ、ゼオライト、活性炭などの粉末に含浸または坦持させてから低次酸化チタンに分散・混合させる方法等があげられる。特に、低次酸化チタンあるいはその複合体に対し、シリカ、アルミナ等の金属酸化物の粉末に水を含ませた形態で混合することが好ましい。低次酸化チタンあるいはその複合体と水との混合は、窒素ガス雰囲気等の酸素ガスのない雰囲気下で行うのが好ましい。
【0019】
以上のような本発明の品質保持剤は、鉄系の成分を一切使用しないため、従来の鉄系の酸素吸収剤にみられる金属探知機等へ感応するという悪影響がなく、また、アスコルビン酸系の酸素吸収剤のような有機化合物を使用した場合にみられる融解、溶解、燃焼などのトラブルが発生する心配も存在せず、安全性の高い品質保持剤として広い用途に適用し得るものである。即ち、本発明の品質保持剤は、良好な酸素吸収能を有しており品質保持剤としての性能に優れると同時に、二酸化チタンを使用しているため、毒性が少なく、広い温度範囲にわたり固体状であり融解や溶解による食品等への汚染の心配がないこと、不燃性であること等の点において、従来の品質保持剤に比べて優れた性質と極めて広範な安全性を有するものである。
【0020】
また、本発明に使用する低次二酸化チタンは、原料の二酸化チタンのオリジナルの結晶構造を保持したまま還元を行うことが好ましい。そして、アナターゼ型の結晶構造の二酸化チタンを使用する場合には光触媒作用を有しており、この光触媒作用による抗菌性、鮮度保持性をも併せて品質保持剤の作用として付与させることができる。従って、酸素吸収、抗菌、鮮度保持を目的として幅広い用途に品質保持剤として使用でき、かつ安全性の優れた品質保持剤として提供することができる。
【0021】
本発明に使用する低次酸化チタンは、オリジナルの二酸化チタン(TiO2)の結晶構造を保持したものであることが好ましい。
低次酸化チタンを製造する方法としては、二酸化チタンを水素ガス等の還元剤を用いて還元する方法等が挙げられる。オリジナルの二酸化チタン(TiO2)の結晶構造を保持した状態で還元を行なうためには、できるだけ低い温度で還元反応を行うことが望ましく、450℃以下で行うことがより好ましい。還元反応に使用する二酸化チタンには、硫酸根を含むものが好ましく、更にこれにニッケル種を含むものを使用することが好ましい。硫酸根及びニッケル種を含む二酸化チタンを使用することによって、350℃以下の比較的低い温度、好ましくは150から300℃、より好ましくは180から280℃、最も好ましくは180から260℃という低い温度で、オリジナルの二酸化チタンの結晶構造を保持したまま容易に還元することができ、酸素吸収能の優れた低次酸化チタンまたはその複合体が得られる。硫酸根とニッケル種との作用は明らかではないが、還元反応の触媒的な働きをしているものと考えられる。
【0022】
硫酸根を含有する二酸化チタンを得る方法としては、例えば、チタン鉱石を硫酸で溶解し、加熱してメタチタン酸または水酸化チタンにして濾過、洗浄後焼成して製造する工程において、洗浄の程度を調節して硫酸根を残留させる方法、二酸化チタンの製造過程で硫酸根が含有されない場合には、製造された二酸化チタンを硫酸水溶液に含浸し、乾燥後焼成することにより硫酸根を含有する二酸化チタンを得る方法等が挙げられる。
二酸化チタン中の硫酸根の含有量は、チタン原子に対して通常0.01から10質量%(以下、単に「%」と記載する)程度であるが、特に望むなら20%あるいはそれ以上の量を用いてもよい。硫酸根の含有量が少なすぎる場合は、還元後の二酸化チタンの酸素吸収速度が不十分であり、また硫酸根の含有量が多すぎても、酸素吸収速度はそれほど向上しない。
【0023】
ニッケル種を含む二酸化チタンを得る方法としては、二酸化チタンに前記したニッケル化合物を溶液の形で含浸または吸着する方法、無機酸のチタン塩等のチタン化合物の水溶液と前記ニッケル化合物の水溶液を共沈殿する方法、さらに特に望むなら二酸化チタンと前記ニッケル化合物又はニッケル原子含有金属粉をごく微細な状態にして単に混合する方法などがある。また、本発明に使用するニッケル種を含む二酸化チタンとしては、上記のように含浸、吸着、共沈殿、あるいは混合により得られるもののほかに、これらのニッケル種を含む二酸化チタンを、更にその後、洗浄、加熱乾燥、焼成、粉砕等の諸工程で熱分解などにより化学構造変化を生じたものも含む。
【0024】
二酸化チタン中のニッケル種の含有割合は、二酸化チタンを還元するために必要な量であって特別な制限を求めないが、還元の際に触媒としての作用を発揮する量であればよい。一般的に、二酸化チタンに対して、ニッケル原子として0.01から15%、好ましくは0.03から10%の範囲で用いるのがよいが、特に望むなら15%あいはそれ以上の量を用いてもよい。
ニッケル種の含有割合が0.01%よりも少ないと二酸化チタンの還元があまり進まず、その結果酸素吸収速度の増加が不十分となり、またニッケル種の含有割合が15%より多くても酸素吸収速度の向上がみられないのみならず、酸化チタンの結晶構造がアナターゼ型になりにくく、光触媒作用の十分なものが得られ難い。
【0025】
本発明に使用する低次酸化チタンまたはその複合体は、硫酸根および/またはニッケル種を含む二酸化チタンを還元剤、通常は水素ガスを用いて還元することにより容易に製造することができる。還元温度は450℃以下の温度で実施することが二酸化チタンの結晶構造をそのままに保つ上から望ましく、好ましくは150から300℃範囲、さらに好ましくは180から280℃、最も好ましくは180から260℃である。
【0026】
還元剤としては水素ガスが最も好ましく、水素ガスによって支障なく還元を行い得るが、従来から還元剤として知られる化合物、例えば、エチルアルコールなどのアルコール類、プロピレンなどの炭化水素化合物を使用してもよい。また、特に望むなら、紫外線などの照射による反応を促進する方法も妨げるものではない。
還元処理に際しては、特に望むならばアルミナあるいはシリカなどを併用してもよく、また、ニッケル以外の原子、例えば、コバルト、鉄、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムなどの原子を必須成分とする化合物および/または金属をニッケル種とともに使用してもよい。
【0027】
還元反応は、酸素ガスを遮断し、その混入のない装置で行なうことが求められる。本発明に使用する二酸化チタンの還元では、還元に用いる装置について特別の制限は必要としない。通常はステンレス製反応管式で耐圧性を備えたものを用い、不活性ガスをキャリアガスに用い、加圧、加熱下に還元剤、例えば水素ガスを導入して還元反応を行う。キャリアガスとしてはアルゴンガスなどの希ガス、窒素ガスが用いられる。反応器内の圧力は通常0.01MPaから0.7MPa程度、好ましくは0.05MPaから0.5MPaの範囲で行う。還元反応は、反応器内を上記の圧力に保ち、還元温度は、上述の如く450℃以下、好ましくは150℃から300℃の範囲で数時間かけて行う。二酸化チタンは、水素ガスなどの還元剤により還元処理を行われると二酸化チタンの酸素の一部が水素との反応により脱離して水を生成する。還元反応を終了して得られる反応物は暗灰色から黒色を呈し、冷却後、反応器と共にグローブボックスに移し酸素を遮断した窒素ガス気流中で密封容器中に取出される。
【0028】
このようにして得られた低次酸化チタンまたはその複合体を、前述のように無酸素雰囲気下に水で処理する、または水分含有物質と混合することにより本発明の品質保持剤が得られる。低次酸化チタンと水との混合は、窒素ガス雰囲気等の酸素ガスのない雰囲気下で行なうのが好ましい。
【0029】
低次酸化チタンを処理する水の添加量は、低次酸化チタンに対して質量基準で0.01倍量以上、2倍量以下であることが好ましい。水の添加量が少なすぎる場合は酸素吸収速度向上効果が少なく、また、水の添加量が多すぎても、酸素吸収速度はそれほど向上しない。好ましくは、低次酸化チタン10質量部に対し、水の添加量が0.1から10質量部、さらに好ましくは0.1から5質量部である。
【0030】
このようにして得られた水で処理した低次酸化チタンまたはその複合体を、好ましくは窒素などで置換した無酸素雰囲気下で、気密性の包装容器や包装袋の中に入れて、本発明の品質保持剤製品とする。包装容器は気密性の合成樹脂製の袋や金属製の容器で、使用時に気密状態を開放する構造のものであればよい。包装袋は酸素透過性のない合成樹脂製や金属箔、その他の材料でできたもので、使用時にその封を開いて使用する構造のものであればよい。
また、本発明の品質保持剤製品には、補助的な成分として、シリカ、モンモリロナイトなどの天然産の鉱物、活性白土などの加工された鉱物、合成シリカ、ゼオライトなどの合成鉱物、活性炭などの吸着剤を必要に応じて使用してもよい。また、従来から使用されている酸素吸収促進剤の成分なども必要に応じて、本発明の特徴を損なわない範囲で併用することを妨げるものではない。
【0031】
二酸化チタンを還元して得られる低次酸化チタンのみの場合は、通常100から700時間をかけてゆっくりと酸素を吸収する。しかし、本発明の水で処理した低次酸化チタンを使用した品質保持剤の場合には、酸素吸収の速度が大きく増加し、20から40時間程度で酸素の吸収を完了する。
【0032】
また、アナターゼ型の二酸化チタンを出発原料に用いた場合には、光触媒作用をも兼ね備えているので、エチレン分解性、抗菌活性などの付加的な機能を有するため、従来のものに見られない、より一層広い用途の品質保持剤を提供することができる。
【0033】
【実施例】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、「%」は、特別に記載しない限り質量基準である。
【0034】
実施例1:
1.1 酢酸ニッケルの含浸による二酸化チタン複合体( 1-2 )の調製
堺化学工業株式会社より提供された硫酸根(SO4)10.0%を含むアナターゼ型の結晶構造を有する白色の二酸化チタン(1-1、比表面積 268.0 m2/g)の20.0g(250mmol)を磁性のシャーレに入れ、次いで酢酸ニッケル(Ni(CH3COO)2・4H2O)3.1g(12.5mmol)と水20.0gの均一溶液を加えて、よく混合した後、一夜放置する。マッフル炉で250℃、2.5時間乾燥し、冷却後粉砕し、さらに350℃で4時間焼成し、硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン複合体(1-2)[TiO2・(Ni(CH3COO)2)0 . 05、MW:88.7、(硫酸根は分子量の計算に含めない)]の20.2gを得た。この硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン複合体(1-2)は、X線回折装置(XRD)の測定結果からアナターゼ型の結晶構造を有することが確かめられた。なお、X線回折装置(XRD)はマックサイエンス社製、全自動回折装置、MXP3Aを用いた。
【0035】
1.2 二酸化チタン複合体( 1-2 )の水素還元
ステンレス製1/8インチ管に圧力ゲージの付いたイナートガスライン、同じく水素ガスラインを、温度計を付したステンレス製の内径35mm、高さ130mmの円筒形のステンレス製反応器に接続し、反応器の排出ガス用ステンレス製1/8インチ管ラインに組成分析用のガスクロマトグラム、トラップ、バックプレッシャーバルブを付した反応装置を用意した。この反応装置を用い、上記の硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン(1-2)の5.0g(56.4mmol)を反応器内に仕込んだ。キャリアガスとして窒素ガスを付加圧力0.4MPa、流速100ml/minで導入し、加熱を開始した。200℃に加熱しガスクログラムで水のピークがほぼ認められない程度まで表面付着水を除去し、温度を200℃に調節して水素ガスの付加圧力0.4MPa、バックプレッシャーバルブのゲージ圧を0.3MPaに設定した。すなわち反応装置内の圧力を0.3MPaに保って、還元ガスとして水素ガスを流速で22ml/minで導入して還元反応を開始し、反応状況をガスクロマトグラムにより調べた。200℃で水素ガスの導入を開始すると水素ガスが二酸化チタンの酸素原子を還元したことによると推定される水の生成が認められた。200℃の温度で還元反応を続行し水の生成量の低下がみられた後、220℃に昇温して水の生成量の低下するまで継続し、以後、反応温度を240℃に高めて合計430分間(7.2時間)水素ガスを導入して還元反応を行った。この間に生成した水の量を積算すると硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン複合体(1-2)[TiO2・(Ni(CH3COO)2)0 . 05、分子量:88.7]の1グラム(11.3mmol)当たり水57.4ml(25℃)(52.6ml、2.35mmol、0℃の換算値)であった。反応器を冷却した後バルブを閉じ加圧状態で、グローブボックス内に反応物を移し窒素ガスで完全に置換してグローブボックス内の酸素濃度が40ppm以下に到達した後、窒素ガス流通下に酸素濃度を50ppm以下に保ちながら反応物(1-3)を反応器から気密な二つのプラスチック袋(ガスバリヤー袋)に分けて取り出した。これを計量し、黒色の反応物(1-3)の4.3gを得た。
【0036】
この二つのプラスチック袋に納められた反応物(1-3)のうちの、一つの反応物(1-3)の3.0gを含むプラスチック袋(ガスバリヤー袋)中に空気750mlを導入し、その後の酸素濃度を測定した。この結果から、反応物(1-3)は約30日で酸素の吸収を終了し、酸素の吸収量は22.0ml/g(25℃)(0.900mmol/g、0℃の換算値)であることが判明した。この酸素吸収量から算出したxの値は0.159(=0.90×2/11.3)であり、TiO2−xで表した場合にTiO1.84である低次酸化チタンが得られた。この反応物(1-3) は、X線回折装置(XRD)の測定結果からアナターゼ型の結晶構造を有することが確かめられた。これらの結果から、反応物(1-3) は、オリジナルの二酸化チタンの結晶構造を保持し、かつ(TiO 1.84)で表わされる低次酸化チタンに硫酸根及びニッケル種を含む低次酸化チタン複合体であることが確かめられた。グローブボックスから取り出した際は黒色であった反応物(1-3)は、酸素を吸収した後、淡い灰色に変化した(1-4)。この酸素を吸収した淡い灰色の反応物(1-4)は、XRDの測定結果からアナターゼ型の結晶構造を有することが確認された。酸素濃度の分析にはPBI‐Dansensor A/S社製、酸素濃度計Check Mate O2/CO2を使用した。以下の実施例においても同じ装置を用いて測定した。
【0037】
1.3 低次酸化チタン複合体( 1-3 )の水による処理
グローブボックス内で反応物を2部に分けて取出す際、上記の酸素吸収能の測定用と別に取り出した反応物(1-3)の1.3gと共に、合成シリカ(日本シリカ工業株式会社製のニップシールNS-K)0.7gに水0.4gを含浸させたものをプラスチック袋(ガスバリヤー袋)に入れ、密閉クリップ(三菱瓦斯化学株式会社製 A-74)で仮シールして取りだし、熱シール機で密閉し、本発明の品質保持剤に相当する水を含浸した合成シリカを混合した低次酸化チタン(1-5)混合物を得た。この密封した低次酸化チタン(1-5)混合物の袋に325mlの空気を注射器で注入した。なお、注入の際には、ゴムテープを袋に貼り付け封入の際における外気の混入を防いだ。反応生成物と水が接触するように、軽く振ってから暗所に1時間放置した後の酸素吸収量は15.1ml/g(25℃)であり、24時間後の酸素吸収量は、22.0ml/g(25℃)に達し、48時間後には23.4ml/g(25℃)であった。
以上のように、水による処理を行なわずに反応物(1-3)に空気を封入しそのまま放置した場合には酸素を吸収するのに30日以上を要するが、水の添加により酸素吸収が加速され、1日から2日(24から48時間)程度で反応生成物が吸収し得る最大の酸素吸収量に達することができ、品質保持剤として使用した場合に短時間で酸素を除去できるという優れた作用を発揮することがわかった。
【0038】
1.4酸素を吸収した反応物( 1-6 )の光触媒作用によるエチレンガスの分解
上記の1.3で得られた酸素を吸収した水処理反応物 (1-6)の0.1gを内径8.5cm(57cm2)のガラス製シャーレに採り、3gの純水を加えて均一に混合し、乾燥して薄膜状にし、後述する蛍光灯(BL東芝ライテック社製FL20S・BLB-A 20W/本を6本使用)を3時間照射して反応物(1-6)の表面を清浄な状態にした。このシャーレを透明なテドラーバッグ(Tedlar bags、材質 フッ素樹脂、サイズ170mm×250mm、井内盛栄堂製)に収め、熱シールする。袋内の空気をアルゴン/酸素=80/20の混合ガスで置換し、ついでエチレンガス1000ppmを注射器で注入した。注入の際には、ゴムテープを袋に貼り付け注入の際における外気の混入を防いだ。この試料などを収めたテドラーバッグを光照射箱に収め、40ワット蛍光灯(ブラックライト(BL)、0.1mW/cm2(光の波長436nm)、1mW/cm2(光の波長365nm))で照射したところ、5時間経過後で当初のエチレンガス濃度が1000ppmから500ppm以下に半減した。従って、酸素吸収後の反応物(1-6)は優れた光触媒作用を有することがわかる。
【0039】
実施例1のまとめ:
実施例1では、硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタンを還元した。その結果、200℃〜240℃の温和な加熱条件で、容易に二酸化チタンに含まれる酸素原子が還元され酸素原子が一部脱離した低次酸化チタン複合体を得た。この低次酸化チタン複合体の結晶構造はアナターゼ型を保持していた。この低次酸化チタン複合体の収量4.3gのうち1.3gを使用し水で処理して得た本発明の品質保持剤について、その酸素吸収能を測定した。その結果、酸素吸収量は23.4ml(25℃)つまり21.4ml/g(0℃の換算値)と優れ、同時に24〜48時間で酸素吸収が終了するような、酸素吸収速度も大きな低次酸化チタンが得られた。また、エチレンガス分解能も優れ、光触媒作用を有していることが確認された。
一方、水で処理しない低次酸化チタン複合体を使用した場合には、酸素吸収量は20.2ml/g(0℃の換算値)と同程度の酸素吸収量を有するものの、酸素吸収に要する合計時間が約720時間(30日)と非常に遅い結果であった。即ち、水での処理によって、酸素吸収速度が15倍以上に促進され、このような水で処理した低次酸化チタンが酸素吸収速度が大きく、品質保持剤として優れていることがわかった。
【0040】
実施例2:
2.1 酢酸ニッケルの含浸による二酸化チタン複合体 (2-2) の調製
堺化学工業株式会社より提供された硫酸根を含むアナターゼ型の結晶構造を有する白色の二酸化チタン(2-1)[比表面積:109.4m2/g、蛍光X線による硫黄の分析値(S=3.04%)であり、硫酸根への換算値9.1%]の30.0g(375mmol)を磁性のシャーレに入れ、次いで酢酸ニッケル[Ni(CH3COO)2・4H2O]4.7g(18.8mmol)と水30gの均一溶液を加えて、よく混合した後、一夜放置した。マッフル炉で250℃で2.5時間乾燥し、冷却後粉砕し、さらに350℃で4時間加熱して、硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン複合体(2-2)[TiO2・Ni(CH3COO)2)0.05、MW:88.7、(硫酸根は分子量の計算に含めない)]の26.0gを得た。この硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン複合体(2-2)は、XRDの測定結果からアナターゼ型の結晶構造を有することが確かめられた。
【0041】
3.2二酸化チタン複合体 (2-2) の水素還元
実施例1と同じ反応装置を用い、上記の硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン複合体(2-2)の13.0g(146.6mmol)を反応器内に仕込んだ。イナートガスとしてアルゴンガスを付加圧力0.2MPa、流速100ml/minで導入し、200℃の温度に加熱し、水素ガスの付加圧力0.4MPa、バックプレッシャーバルブのゲージ圧を0.1MPaに設定し、すなわち反応装置内を0.1MPaに保って、水素ガスの流速を57ml/minで導入して還元反応を開始し、反応状況をガスクロマトグラムにより調べた。200℃から240℃の反応温度で水素ガスの導入を開始すると、水素が二酸化チタンの酸素原子を還元したことによると推定される水の生成が認められた。合計510分間アルゴンガスを導入して反応を終了した。この間に生成した水の量を積算すると硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン[TiO2・Ni(CH3COO)2)0.05、MW:88.7]の1グラム(11.3mmol)当たり水46.5ml(0℃の換算値)(2.08mmol、0℃の換算値)であった。反応器を冷却した後バルブを閉じ加圧状態で、グローブボックス内に反応物を移し窒素ガスで完全に置換してグローブボックス内の酸素濃度が40ppm以下に到達した後、窒素ガス流通下に酸素濃度を50ppm以下に保ちながら反応物(2-3)を反応器から気密な六つのプラスチック袋(ガスバリヤー袋)に分けて取出した。つまり、グローブボックス内へ小型の電池作動式電子天秤を入れておき、反応物(2-3)を五つのプラスチック袋(ガスバリヤー袋)にそれぞれ2.0gづつはかり入れ、一つはそのまま密閉クリップで仮シールしてサンプル(2-3-a)を調製し、他の4枚のプラスチック袋(ガスバリヤー袋)には、反応物(2-3)の2.0gと共に、それぞれ下記の表1に示す割合の、予め水を含浸させた合成シリカ(グローブボックス内へ窒素ガスで置換する前から入れておいたもの)を入れて、密閉クリップで仮シールしたサンプルを調製し[(2-3-b)〜 (2-3-e)]、残りの1枚のプラスチック袋(ガスバリヤー袋)には反応生成物の残りを入れて密閉クリップで仮シールしたものとし(2-3-f)、これらをグローブボックスから取出した。これらのサンプル[(2-3-a)〜 (2-3-f)]を合計すると、黒色の反応物(2-3)は12.2gであった。このうちの反応物(2-3)に水を含浸させた合成シリカを混合したもの[(2-3-b)〜 (2-3-e)]が本発明の品質保持剤に相当するものである。
【0042】
この六つのプラスチック袋に収められた反応物[(2-3-a)〜 (2-3-f)]のうちの一つの、水を含浸させた合成シリカを入れない反応物(2-3-a)の2.0gを含むプラスチック袋(ガスバリヤー袋)に空気500mlを導入し、30日余り後の酸素濃度を測定した結果から、反応物(2-3-a) は20.5ml/g(25℃)(0.84mmol/g、0℃の換算値)の酸素を吸収していることが判明した。酸素ガス吸収量から算出したxの値は0.15(=0.84×2/11.3)であり、TiO2−xで表した場合にTiO1.85である酸化チタンを得た。この反応物(2-3-a) はXRDの測定結果からアナターゼ型の結晶構造を有することがたしかめられ、オリジナルの二酸化チタンの結晶構造を保持した低次酸化チタン複合体(TiO1.85)であることが確かめられた。
また、グローブボックスから取出した際は黒色だった反応物(2-3-a) は酸素を吸収した後、淡い灰色に変化した(2-4-a)。この酸素を吸収した淡い灰色の反応物(2-4-a)は、XRDの測定結果からアナターゼ型の結晶構造を有することが確認された。
【0043】
3.3 低次酸化チタン (2-3) の水による処理
グローブボックス内で六つのプラスチック袋に分取した反応物(2-3)のうちの、予め表1に示す重量の水を含浸させた合成シリカを加えたサンプル[(2-3-b)〜 (2-3-e)]を入れた四つの気密なプラスチック袋(ガスバリヤー袋)を、熱シール機で密閉し、それぞれに500mlの空気を注射器で注入した。なお、注入の際には、ゴムテープを袋に貼り付け、注入の際における外気の混入を防いだ。反応生成物と水が接触するように、軽く振ってから、暗所に24時間、及び48時間放置後の酸素吸収量(25℃)を測定した。その結果を、含水シリカを加えない場合と共に、表1に示す。また、酸素吸収量から求めたTiO2−xのxの値とこの式による表示も同じく表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
上記の表1に示すように、水で処理しない反応物を用いたサンプル(2-3-a)の場合に、空気を封入しそのまま放置した場合には、酸素を吸入するのに約30日を要するが、少量の水の添加により酸素吸収速度が大幅に加速され、1日〜2日(24から48時間)程度で同程度の酸素を吸収することがわかった。
また、グローブボックスから取出した際は黒色だった反応物[(2-3-b)〜(2-3-e)]は酸素を吸収した後、淡い灰色に変化した[(2-4-b)〜(2-4-e)]。この酸素を吸収した淡い灰色の反応物[(2-4-b)〜(2-4-e)]は、XRDの測定結果からアナターゼ型の結晶構造を有することが確認された。
【0046】
3.4 酸素を吸収した反応物 (2-4-b) の光触媒作用によるエチレンガスの分解
上記の酸素を吸収した水含浸シリカを混合した反応物(2-4-b)の0.1gを用いて、実施例1に記載したと同じ方法でエチレンガスの分解を試験した結果、5時間で当初の1000ppmから500ppm以下の濃度に半減した。
【0047】
実施例2のまとめ:
実施例2は、硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン複合体を還元した。その結果、200℃〜240℃の温和な加熱条件で、容易に二酸化チタンに含まれる酸素原子が還元され酸素原子が一部脱離した低次酸化チタン複合体を得た。この低次酸化チタン複合体の結晶構造はアナターゼ型を保持していた。この低次酸化チタンを使用し少量の水で処理して得た本発明の品質保持剤について、その酸素吸収能を測定したところ、表1に示す通り優れた酸素吸収量と、24時間〜48時間で酸素吸収が終了するように、大きな酸素吸収速度を有する低次酸化チタンが得られた。また、エチレンガス分解能も優れ、光触媒作用を有していることが確認された。
一方、水で処理しない低次酸化チタンを使用した場合には、酸素吸収量は20.5ml/g(0℃の換算値)と水処理した場合と同程度の酸素吸収量を有するものの、酸素吸収に要する合計時間が約720時間(30日)と非常に遅い結果であった。即ち、水で処理することによって、酸素吸収速度が15〜30倍に促進された。
【0048】
実施例3:保存試験
3.1品質保持剤の作製
ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンをラミネートし小孔を開けた通気性の袋(約6cm×約6cm)に、実施例1で調製したと同じ方法で作製した低次酸化チタンの6.0gを入れ、併せて水2.0gを合成シリカ(日本シリカ工業株式会社製ニップシールNS-K)の3.0gに含浸して調製した均一混合物を入れ、これをガスバリヤー性のプラスチック小袋に入れてすばやく熱シールし、本発明の品質保持剤製品を作成した。使用時には、これを軽く振って均一にして、ガスバリヤー性のプラスチック子袋を破って使用する。
【0049】
3.2洋菓子を用いた品質保持試験
ガスバリヤー性の透明な袋に、3.1で作成した品質保持剤製品の開封した小袋と84gのワッフルをすばやく入れ、入り口を熱シールし、内部の空気を注射器で抜き出し、あらたに、空気500mlを注射器で注入した。注射器で排出、注入の際には、ゴムテープを袋に貼り付け外気の混入を防いだ。24時間後に袋内の酸素濃度を測定したところ、3.2vol%、48時間後に0.5vol%、72時間後には0vol%になっていた。このサンプルを室温(20〜25℃)、暗所に15日放置したが、ワッフルの外観の変化はなく、品質の変化も生じなかった。二酸化炭素濃度は、初期から15日間の放置の間、1vol%以下であった。
【0050】
比較例1
ガスバリヤー製の透明なプラスチック袋に、86gのワッフルのみを入れ、入り口を熱シールし、内部の空気を注射器で抜き出し、あらたに、空気500mlを注射器で注入した。注射器で排出、注入の際には、ゴムテープを袋に貼り付け外気の混入を防いだ。このサンプルを室温(15〜25℃)で、暗所で放置し、酸素濃度を測定したところ、48時間後で20.2vol%、72時間後で10.5vol%であり、4日目には表面にカビが発生し幾つもの黒青色を呈するカビのコロニーが認められた。また、カビは発生後徐々に拡大した。酸素濃度は低下して、96時間後に0vol%になった。
この時の二酸化炭素の濃度は40vol%以上となり、二酸化炭素が非常に多く発生しており、カビの増殖作用で酸素濃度が低下し、二酸化炭素濃度が急増したと思われる。このことから、72時間後には、目視では確認できなかったが、すでにカビが増殖を開始して酸素濃度が低下していたと思われる。
【0051】
実施例3と比較例1の比較:
実施例3では、本発明の水で処理した低次酸化チタンを用いた品質保持剤の効果により、サンプル作成後48〜72時間の間に、ガスバリヤー性のプラスチック袋内の酸素濃度が容積0%になり、ワッフルも15日以上保存しても異常が認められなかった。これに較べて、比較例1では、3日後にワッフルにカビが増殖を始め、4日目に肉眼で認められ、その後も急速に増殖を続けた。
【0052】
実施例4:保存試験
実施例3の3.1で作製した本発明の品質保持剤製品の開封した小袋をガスバリヤー性の透明プラスチック袋内に入れ、さらにバナナ300g(2本をおのおの1/2に切った状態で)も入れ、すばやく熱シールする。内部の空気を注射器で吸い出した後、空気500mlを注射器で注入する。なお、注射針を刺す部分にはゴムテープを張りつけ、注入時や注入後の外気の流入を防いだ。このガスバリヤー性の透明プラスチック袋に蛍光灯(ブラックライト)30Wを照射し、48時間後に袋内の気体の酸素濃度を測定したところ0.0vol%であった。
次に袋を破り、バナナを取り出し、バナナの表面と内部の大腸菌数を測定した。つまり、表面は滅菌水を付けた滅菌綿棒で擦り取るようにし、45ml入りの滅菌水に綿棒を付けて付着物を洗い、45倍の希釈液を作成した。その1mlを島久細菌検査機器株式会社の大腸菌用培養皿に滴下し、培養皿に付属のシートを被せて35℃で24時間インキュベータ内で培養した。培養皿は4枚使用した(n=4)。一方、バナナの内部は、滅菌ナイフで5g切り出し、45mlの希釈液の入った滅菌ビニール袋に入れ、島久細菌検査機器株式会社製検査キットに付属のロールで袋の外からこすり、バナナを粉砕し、10倍希釈液を作成した。その1mlを、島久細菌検査機器株式会社の大腸菌用培養皿に滴下し、培養皿に付属のシートを被せて35℃24時間インキュベータ内で培養した。培養皿は4枚使用した(n=4)。培養後のコロニー数を計数したところ、バナナの表面、内側ともゼロであった。
一方、試験に供したバナナを、ガスバリヤー袋内に入れる前に、上記と同様に、バナナの表面と内側(照射後の測定に用いた部分とは別の部分)の大腸菌コロニー数を計数したところ、培養皿各4枚づつの平均で、表面で11.3個/希釈液ml、内部で5.0個/希釈液mlであった。
このように、蛍光灯(ブラックライト)の照射による還元酸化チタンの光触媒作用と脱酸素作用によって抗菌性が認められたと思われる。
【0053】
【発明の効果】
このような本発明の品質保持剤は、大きな酸素吸収能と酸素吸収速度を有するとともに、従来から使用されている鉄系の酸素吸収剤と異なり、鉄系の成分を使用しないため金属探知機での誤動作や電子レンジ等での使用に問題を生じない。また、本発明の品質保持剤は、その成分が無機化合物であるため、従来の有機化合物を使用した酸素吸収剤に見られる融解、溶解、燃焼などのトラブルの心配も存在しないため安全性が高く、広い用途に適用し得る品質保持剤を提供するものである。
Claims (9)
- 水で処理し、または水分含有物質と混合し、硫酸根およびニッケル種を含有し、かつ二酸化チタンのオリジナルの結晶構造を保持し、一般式TiO 2−x (ここで、xは0.1から0.5の実数を示す)で表される構造を有する低次酸化チタン複合体を含有することを特徴とする、品質保持剤。
- 低次酸化チタン複合体が、二酸化チタンの還元により生成し、オリジナルの結晶構造を保持した低次酸化チタンから得られたものである、請求項1に記載の品質保持剤。
- 低次酸化チタン複合体が、アナターゼの結晶構造を保持する低次酸化チタンから得られたものである、請求項1又は2に記載の品質保持剤。
- 水で処理した低次酸化チタン複合体が、低次酸化チタン複合体に水を混合したもの、または低次酸化チタン複合体に水を噴霧したものである、請求項1乃至3のいずれかに記載の品質保持剤。
- 水分含有物質と混合した低次酸化チタン複合体が、水を含浸させたシリカ、アルミナ、ゼオライトまたは活性炭の粉末と低次酸化チタン複合体を混合したものである、請求項1乃至4のいずれかに記載の品質保持剤。
- 水の含有量が、低次酸化チタン複合体10質量部に対して水が0.1〜10質量部である、請求項1乃至5のいずれかに記載の品質保持剤。
- 請求項1乃至6のいずれかに記載の品質保持剤を、無酸素雰囲気下で気密性の包装容器に封入した形態である、品質保持剤製品。
- 二酸化チタンの還元により生成し、オリジナルの結晶構造を保持した低次酸化チタンから得られた硫酸根およびニッケル種を含有する低次酸化チタン複合体に、水または水分含有物質を添加することを特徴とする、低次酸化チタン複合体の酸素吸収速度の増強方法。
- 水の添加量が、低次酸化チタン複合体10質量部に対して水が0.1〜10質量部である、請求項8に記載の低次酸化チタン複合体の酸素吸収速度の増強方法。
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