JP4347654B2 - 可変形状反射鏡及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、可変形状反射鏡に関し、特に、高精度の形状制御が可能である小型の可変形状反射鏡、及びそのような可変形状反射鏡を半導体製造技術を用いて製造する製造方法に関する。
光ピックアップなどのマイクロオプティクスに適用される微小な光学系においては、従来は電磁式アクチュエータを用いていたフォーカシング等に関係する機構の簡素化を目的として、反射面の曲率を変えることができる超小型の可変焦点鏡の提案が行われている。また、可変焦点鏡の適用は、小型の撮像用光学系の更なる小型化においても大きく寄与することができる。
このような可変焦点鏡では半導体製造技術による、いわゆるMEMS(Micro Electro-Mechanical System)技術を適用する事によって、低コストで高精度な製品の製作が期待できる。この種の技術の一例として、例えば、特許文献1で提案されている技術が挙げられる。この技術について、図17及び図18を用いて説明する。
図17において、ガラス等の絶縁基板11の上面に導電性薄膜からなる固定側の電極層12が被着されている。また、シリコン基板13の一主面には絶縁薄膜として二酸化シリコンの薄膜14が形成されている。シリコン基板13の中央部の他主面には空所15が形成されており、この空所15によって二酸化シリコンの薄膜14の中央部を厚さ方向へ変位可能である。更に、二酸化シリコンの薄膜14には可動側の電極層16が積層されている。また、前述の二酸化シリコンの薄膜14及び電極層16の中央部は反射鏡部17を構成している。そして、この反射鏡部17は、電極層12,16間に印加された電圧により、固定側の電極層12側へ凸入状に変形するようになっている。
また、シリコン基板13は、二酸化シリコンの薄膜14側を図面の下側にして絶縁基板11にスペーサ部材18を介して接合されている。なお、シリコン基板13の他主面にも二酸化シリコンの薄膜19が形成されている。
このような反射鏡装置の製造は図18(A)〜図18(E)に示すようにして行われる。まず、図18(A)に示すように両面を鏡面研磨した面方位<100>のシリコン基板13の両面に厚さ400〜500nmの二酸化シリコンの薄膜14,19を形成し、更に下側の薄膜14上に厚さ100nm程度の金属膜を電極層16として被着する。
次に図18(B)に示すように所定パターンのフォトレジスト20を塗布し、フォトリソグラフィーにより円形の窓孔21を形成する。その後、基板の下側の面を保護した状態で、フォトレジスト20をマスクとして、フッ酸系の溶液で二酸化シリコンの薄膜14に窓あけを行う。
次に図18(C)に示すようにエチレン・ジアミン・ピロカテコールの水溶液にシリコン基板13を浸して、図18(B)の窓孔21の部分からシリコン基板をエッチングする。この際、図示したようにエッチングは下面側の二酸化シリコンの薄膜14が露出した時点で停止する。このようにして、二酸化シリコンの薄膜14と電極層16よりなる薄膜上の反射鏡部17が残存する。
一方、これとは別に図18(D)に示すように厚さ300μmの絶縁基板11の上面に、固定電極として厚さ100nmの金属膜を電極層12として形成する。
次に18(E)に示すように、絶縁基板11上に、厚さ100μm程度のポリエチレン製のスペーサ部材18を介して接着すれば、図17に示した反射鏡装置が製作される。
このような可変形状鏡では、二酸化シリコンの薄膜14と固定側の電極層12との間には均一な電位差が生じることになるが、この場合の変形形状は最大変位量が等しい場合の球面と比較すると概略的に図19のようになり、特に周辺部での変形量が不足して大きな球面収差が生じるので高い結像性能は望めない。更に、小型の反射鏡を撮像用光学系に適用する場合には、斜め入射となるのが一般的で、この場合に良好な結像性能を得るには回転非対称の非球面が必要とされる。
このような要求に対して、可変形状鏡を任意に、もしくは特定の理想形状に変形させるためには、固定側電極層を複数の領域に分割して、変形面の電極との間にそれぞれ異なった電位差を与える方法が考えられる。このような電極の分割形態には、同心円状、格子状、ハニカム状などが考えられ、例えば非特許文献1においてはハニカム形状に固定側電極を分割する手法が提案されている。
また、変形形状を例えば球面や放物面といった特定の形状に合わせ込むための手法としては、非特許文献2で、部位によって厚さが異なる変形面を形成する手法が提案されている。
特開平2−101402号公報 特開平8−334708号公報 J.Opt.Soc.Am.,Vol.67,No.3,March 1977「The membrane mirror as an adaptive optical element」 精密工学会誌Vol.61,No5,1995「Siダイアフラム式可変焦点ミラーの収差軽減」
しかしながら、固定側電極を複数の領域に分割する手法で高い形状精度を得るためには、電極の分割数を多くする必要がある。つまり、異なった電圧を印加するための多くのリード線の接続を要し、結果として素子の小型化を妨げることになる。加えて、電極数の増大が制御回路の複雑化を招いてしまう。更に、図19に示したように、均一な電位差では、球面や放物面の場合に外周部の変形量が不足するのが一般的で、必然的に外周部に大きな電位差を与えることになるが、これは実質的な駆動電圧を増大させることにつながってしまう。
一方、変形面の剛性に分布を持たせる手法では、前述のような問題が発生することはないが、厚さもしくは弾性率を局部的に制御するのは難しく、生産性の高い形成方法で高精度の変形形状を得ることが非常に困難である。加えて、例えば厚さに分布を持たせる手法では最も小さい剛性が求められる領域(球面や放物面に変形させる場合は外周部近傍となるのが一般的)で、変形膜を技術的に可能なレベルで最も薄くすることになり、他の領域では必然的にそれよりも厚くすることになる。したがって、平均的な変形膜の厚さが大きくなるので、均一な厚さを用いる場合と比較して大きな駆動電圧を必要とすることになる。
本発明は前記の事情に鑑みてなされたもので、固定側電極の数を増やすことなく、生産性の高い方法で構成可能な一様な剛性を有する変形膜で形成され、比較的低い駆動電圧であっても動作可能であって、高い結像性能が得られる可変形状反射鏡、及びそのような可変形状反射鏡の製造方法を提供することを目的とする。
前記の目的を達成するために、本願第1の発明による可変形状反射鏡は、反射面と導電性電極とを備え、枠部材に周囲を支持された可撓性薄膜の前記導電性電極と、これに対向する複数の分割電極間に、静電気力を作用させて前記反射面の形状を変化させる可変形状反射鏡において、前記複数の分割電極は、この複数の分割電極が形成された下部基板上の領域の中央部を中心とする円周方向に分割されているとともに、半径方向にも分割されており、 その外周部における円周方向の分割数が中央部における円周方向の分割数よりも多いことを特徴とする
つまり、下部基板上に設けられた分割された電極は、外周部における円周方向の分割数が中央部における円周方向の分割数よりも多いので、外周部における反射面の形状の制御が細かく行われる。
また、前記の目的を達成するために、本願第2の発明による可変形状反射鏡は、本願第1の発明において、前記可撓性薄膜の外周部近傍に、可撓性薄膜の他の領域よりも剛性の低い部位を設けたことを特徴とする。
つまり、可変形状反射鏡の外周部に剛性の低い部位を設けることにより、この領域での曲げ剛性が低下し、小さな力でも反射面の形状が大きく変形する。
また、前記の目的を達成するために、本願第3の発明による可変形状反射鏡は、本願第2の発明において、前記剛性の低い部位は、前記可撓性薄膜、前記反射面、又は前記導電性電極の少なくとも一つに離散的に設けられた開口であることを特徴とする。
つまり、可変形状反射鏡に、離散的に開口を設けることにより、この領域での曲げ剛性が低下し、小さな力でも反射面の形状が大きく変形する。
また、前記の目的を達成するために、本願第4の発明による可変形状反射鏡は、本願第2の発明において、前記可撓性薄膜は、変形時における外周部近傍での、平坦時の前記反射面に対する鉛直方向の変位勾配が部位によって異なっており、変位勾配が大きい部位における前記剛性の低い部位の占める割合が、変位勾配が小さい部位における前記剛性の低い部位の占める割合よりも大きいことを特徴とする。
つまり、反射面に同じ静電気力を作用させても、剛性の低い部位では変位勾配が大きくなり、剛性の高い部位では変位勾配が小さくなる。
また、前記の目的を達成するために、本願第5の発明による可変形状反射鏡は、本願第3の発明において、前記可撓性薄膜は、変形時における外周部近傍での、平坦時の前記反射面に対する鉛直方向の変位勾配が部位によって異なっており、変位勾配が大きい部位における前記開口の占める割合が、変位勾配が小さい部位における前記開口の占める割合よりも大きいことを特徴とする。
本発明によれば、固定側電極の数を増やすことなく、生産性の高い方法で構成可能な一様な剛性を有する変形膜で形成され、比較的低い駆動電圧であっても動作可能であって、高い結像性能が得られる可変形状反射鏡、及びそのような可変形状反射鏡の製造方法を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について図1〜図6を用いて説明する。図1は本実施の形態の可変形状反射鏡を適用する光学系の構成を模式的に示したものである。
入射側の前群レンズ101と固体撮像素子102側の後群レンズ103とは光軸が直交するように配置され、その交点に可変形状反射鏡104が配置される。この可変形状反射鏡104の反射面を有する変形膜105は、静電気力によって平面(図中の破線の状態)から凹面(図中の実線の状態)まで連続的に変形することによって、光学系の焦点位置を変化させる。すなわち、可変形状反射鏡104の変形によってレンズ群の繰り出しを行うことなくピント調整が可能となる。
この場合、反射面が平面の時には無限遠にピントが合い、凹面の時に近点にピントが合うことになるが、凹面鏡に対しては光束が斜め方向から入射することになるので、その変形面が単純な球面や放物面の場合には、大きな球面収差が発生する。このとき、高精細の撮像を行うことはできないので、反射面を回転非対称の自由曲面に変形させる必要がある。
図2及び図3は実際のレンズ構成に対して近点時の球面収差を抑制するように設計した反射面の形状の例を示している。図2は、反射面の形状を立体的に示した図である。ここで反射面が変形する領域のサイズは、半径3mmの一対の半円で、6mm×2mmの長方形を挟んだ形状となっている。図3は反射面の変位を表したコンター図である。なお、この図3には、図2及び図3で示す反射面を持つ可変形状反射鏡を図1の光学系に適用した場合の固体撮像素子102の有効画素に対するイメージエリアも併せて示している。
ここで、可変形状反射鏡の変形面に対して一様な静電気力を作用させた場合の変形形状と、図2あるいは図3に示した光学設計に基づく理想形状との誤差の分布を図4に示す。実際には図示されたイメージエリア内の誤差のみが問題となるが、誤差は変形面の外周近傍において特に大きくなっている。加えて、変形面の外周部では、円周方向に対して誤差が一様ではなく、誤差の程度について大きな差があることがわかる。当然のことであるが、このような誤差分布は光学系の設計によって異なる。しかし、通常の回転対称形状のレンズと組み合わせる場合はおおむね同様の傾向を示すことになる。
また、高精細の撮像を行うためには反射面の変形形状を理想形状に近づけることが不可欠であり、そのためには前述の従来技術で提案されているように、対向する電極の一方を分割して、可変形状反射鏡の変形面に作用させる静電気力に分布を持たせることが必要である。
ここで、本実施の形態における可変形状反射鏡104の構成について図5を用いて説明する。可変形状反射鏡104は、上部基板106と下部基板107を、下部基板107に形成されたスペーサ108を隔てて張り合わせた構成となっている。なお、図5では、説明のために上部基板106と下部基板107とを分離した状態を示している。上部基板106は枠部材109によって支持された変形膜105を有している。また、下部基板107上の、変形膜105に対向する領域には複数の領域に分割された固定電極110が形成されている。なお、変形膜105は特許請求の範囲に記載の「可撓性薄膜」に対応する。
また、ここでは図示を省略しているが、変形膜105には「反射面」が形成されている。更に、この変形膜105は導電性を有するものであって、これと固定電極110の各領域は外部コントローラに電気的に接続され、各々独立した電位を与えられるものである。
なお、枠部材109の光入射側を黒く塗装するか、変形膜105のイメージエリアに開口を設けた黒い板を張り付けておくことがフレア防止上望ましい。
図6は、図2あるいは図3において示した形状に合わせ込むように分割した固定電極110の形状と、この中心近傍に作用させる静電気力を1とした場合に、他の領域に作用させる静電気力を示している。このように静電気力を作用させれば、イメージエリアのほぼ全域で形状誤差を100nm以下とすることができる。
ここで、図6から判るように、固定電極110の円周方向での分割線は、変形領域の外周部では中心部と比較して細かく分割されている。これは、前述したように、変形領域の外周部では中心近傍と比較して、円周方向に対する誤差の違いが大きいので、細かく静電気力を作用させる必要があることを示している。なお、半径方向への分割線に関しては、図3に示した等高線にほぼ沿った形状となっている。
また、図3においてイメージエリア外周もしくは変形領域外周を複数の等高線が横切っていることから判るように、光学設計上の変形領域外周の高さは一様でない。しかし、可変形状反射鏡の場合は、その構造上、変形領域外周の高さを等しくする必要があり、変形領域外周からイメージエリア外周までの領域では、半径方向の勾配が、円周方向で大きく異なるのが一般的である。
したがって、誤差量の円周方向での違いが比較的大きくなる変形領域の外周部の電極を、中心近傍の電極よりも細かく分割することによって、単純に矩形状もしくはハニカム状に電極を分割する手法と比較して、より少ない分割数で理想形状との誤差を小さくすることができる。
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態について図7及び図8を用いて説明する。第1の実施の形態にあっては図5に示したように、中心部と比較して外周部に著しく大きな静電気力を作用させる必要がある。このため、外周部には特に高電圧を印加する必要があり、駆動電圧の増大につながる。この原因の1つは変形領域の外周部では変形膜が完全に固定されており、この領域で急峻に変形膜を曲げるには大きな力を有することにある。
この問題はイメージエリアから変形領域外周までの距離を大きくすることによって回避できるが、これは可変形状反射鏡自体の大型化につながるので望ましくない。そこで、本第2の実施の形態の目的は、駆動電圧を高くすることなく小型で形状精度の高い可変形状反射鏡を得ることにある。
図7は本実施の形態の可変形状反射鏡の上部基板の形状を示している。枠部材201に支持された直径7.5mmの円形の変形膜202は、反射膜兼電極膜となる厚さ50nmのアルミ薄膜203と厚さ1μmのポリイミド薄膜204との2層構造となっており、その外周部近傍において、等しい間隔で円形の開口205が形成されている。
この上部基板は半導体製造技術に基づいて製作され、また、開口205の形成は、通常のフォトリソグラフィー技術を適用することで簡単に行うことができる。このように外周部に離散的に開口を設けることによって、外周部での変形膜の曲げ剛性が著しく低下し、結果として外周部にそれほど強い静電気力を作用させなくても所定の形状に変形させることが可能となる。
なお、図7においては図をわかり易くするために比較的大きな開口を記述したが、あまり開口のサイズが大きいと反射面に剛性の不均一に起因したうねりが生じる可能性があるので、可能な限り小さな開口を細かな間隔で配置することが望ましい。
また、本実施の形態にあっては、開口205を完全な貫通孔としているが、これは離散的に曲げ剛性の小さい領域を形成することが肝要であるからで、アルミ薄膜203もしくはポリイミド薄膜204のいずれか一方のみに開口を形成してもよい。
また、本実施の形態では円周方向に1列の開口を形成しているが、これを図8に示すように2列とすることも可能である。このように複数列配置すれば、それだけ大幅にこの領域での曲げ剛性を低下させることができる。
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について、図9及び図10を用いて説明する。
図9は本第3の実施の形態における可変形状反射鏡の上部基板の形状を示している。枠部材301に支持された変形膜302は反射膜兼電極膜となる厚さ50nmのアルミ薄膜303と、厚さ1μmのポリイミド薄膜304の2層構造となっており、その外周部近傍において、不均一な間隔で円形の開口305が形成されている。一般的に、図1に示したような構成で適用される可変形状反射鏡は回転非対称の変形形状が求められるので、外周部近傍における中心方向への変位勾配は部位によって異なる。
図10は本実施の形態における光学設計に基づく変形形状を立体的に示している。ここで、可変形状反射鏡の変形領域は図9に示すような直径7.5mmの円形である。このとき、図中のCで示した部位を基点として、外周の円周方向に反時計回りで、中心部に向かう平均変位勾配を示したのが図11である。この図から判るように、図9のC,Eの部位では変位勾配が小さく、D,Fの部位では変位勾配が大きい。このため、変形膜302に静電気力を作用させる場合には、C,Eの部位では曲げ剛性を大きくして、D,Fの領域では曲げ剛性が小さくなるようにすることが望ましい。このとき、外周部の曲げ剛性は開口305の間隔に依存するので、この間隔を小さくすれば曲げ剛性を小さくすることができる。一方、間隔を大きくする、もしくは開口305を形成しないことによって曲げ剛性を大きくすることができる。
したがって、外周部の各部位の変位勾配に応じて開口305の間隔を調整することによって、変形膜302に作用させる静電気力を変形膜の部位によって大きく変えることなく、図10に示された変形形状に近づけることができる。
なお、本実施の形態においては全ての開口305の大きさ及び形状を等しくして間隔を部位によって異なるようにしたが、同一の間隔で開口の大きさもしくは形状を変えることによっても同様の効果が得られることは言うまでもない。また、前述の図8に示したのと同様に、開口305を2列に配置することによって部位による曲げ剛性の差を大きくすることも可能である。
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について図12を用いて説明する。
図12は本実施の形態における可変形状反射鏡の上部基板の形態を示している。枠部材401に支持された変形膜402は反射膜兼電極膜となる厚さ50nmのアルミ薄膜403と厚さ1μmのポリイミド薄膜404との2層構造となっており、その外周部近傍において、不均一な間隔で円形の開口405が形成され、変形膜402の中心から半径2mmの円周上に不均一な間隔で円形の開口406が形成されている。変形膜402の変形すべき形状については第3の実施の形態と同じ図10に示された形状とし、変形領域に関しても図10に示された形状である。また、開口405は、図9における開口305と同じ形状、間隔で配置されているものとする。
ここで、図12に示された変形膜402の中心を中心とする半径2mmの円周上で図中のGに示した部位を基点として円周方向に反時計回りで、中心部に向かう平均変位勾配を示したのが図13である。この図から判るように、図12のG,Iの部位では変位勾配が大きく、H,Jの部位では変位勾配が小さい。このため、変形膜402に静電気力を作用させる場合には、G,Iの部位では剛性を小さくして、H,Jの領域では剛性が大きくなるようにすることが望ましい。このとき、図12の円周GHIJ近傍における剛性は開口406の間隔に依存するので、この間隔を小さくすれば剛性を小さくすることができる。一方、間隔を大きくする、もしくは開口406を形成しないことによって剛性を相対的に大きくすることができる。
したがって、外周部の各部位の変位勾配に応じて開口406の間隔を調整することによって、変形膜402に作用させる静電気力を部位によって大きく変えることなく、図10に示された変形形状に近づけることができる。
なお、本実施の形態においては全ての開口406の大きさ及び形状を等しくして間隔を部位によって異なるようにしたが、同一の間隔で開口の大きさもしくは形状を変えることによっても同様の効果が得られることは言うまでもない。
また、図8に示したのと同様に、開口406を2列に配置することによって部位による曲げ剛性の差を大きくすることも可能である。更に、本実施の形態にあっては説明を簡単にするために、変形膜402に形成する開口406を円周GHIJ上に限って配置したが、開口406は変位勾配に応じた密度で変形膜402全面に配置しても良いことは言うまでもない。
更に、均一な密度で円周GHIJ上もしくは変形膜402の全面に開口406を形成しても、変形膜402の剛性を、低下させる効果があり、駆動電圧の低減に寄与できる。また、第2の実施の形態及び第3の実施の形態の場合と異なり、イメージエリア内に開口406を形成する本実施の形態の手法では、光学系の結像性能がある程度低下するのは避けられず、開口406の数は許容される結像性能の低下に応じて決められることになる。開口406の大きさについては端部での回折及び光量損失の両面から可能な限り小さくすることが望ましく、光の波長以下の直径とすることが特に望ましい。
また、本実施の形態にあっては、外周部近傍と半径2mmの円周上の、2つの円周上に開口405もしくは406を設けたが、より多くの円周上の変位勾配に応じた密度の開口を配置したり、変形膜の全面にわたって変形すべき形状の変位勾配に応じた密度の開口を設けても良い。さらに、本実施の形態では変形膜402を円形としたが、楕円形などの他の形状であっても同様に適用可能であることは言うまでもない。
また、第2の実施の形態から本第4の実施の形態にあっては、前述の第1の実施の形態に示した静電駆動式可変形状反射鏡の構成を前提に説明したが、変形膜にコイルを形成して、それに直交する磁界を発生させる磁石を配置した電磁式可変形状反射鏡に適用することも可能である。電磁式可変形状反射鏡、特に小型の電磁式の場合には、例えば特許文献2に記載されているように、その構造上、変形膜の各部位で異なる力を作用させることが難しい。このため、第2の実施の形態から本第4の実施の形態に示したように、変形膜に剛性分布を持たせる手法は形状の制御性を考えると特に有効である。
次に本実施の形態における可変形状反射鏡の上部基板の製造方法について、図14(A)〜図14(D)を用いて説明する。まず、図14(A)に示すようにシリコン基板451の両面にシリコン窒化膜452を形成し、裏面側のシリコン窒化膜に通常のフォトリソグラフィー技術により開口部453を形成する。
次に、図14(B)に示すように表面側にスピンコートによって厚さ1μmのポリイミド薄膜404を形成し、フォトリソグラフィー技術によってポリイミド薄膜404の所定部位に開口405及び開口406を形成する。
次に、図14(C)に示すように表面側を保護した状態で裏面側からシリコン窒化膜の開口部453からアルカリ系水溶液で表面側のシリコン窒化膜452が露出するまでシリコン基板をエッチングする。この際、シリコン基板451の残存部位が上部基板の枠部材401となる。
次に図14(D)に示すように反応性イオンエッチングによって裏面側から露出した表面側のシリコン窒化膜452をエッチングする。次に表面側に厚さ50nmのアルミ薄膜403をスパッタもしくは蒸着で形成する。この時、開口405及び開口406の大きさをアルミ薄膜403の厚さよりも十分に大きくすることによって、開口405及び開口406は貫通孔となる。ここで、アルミ薄膜403は反射面兼静電気力を作用させるための電極として機能する。
このようにして貫通孔をフォトリソグラフィーで形成することによって、微細かつ多数の貫通孔を高精度に形成することが容易に可能となる。
次に、本実施の形態における可変形状反射鏡の上部基板の他の製造方法について図15(A)〜図15(D)を用いて説明する。まず、図14(A)に示したようにシリコン基板451の両面にシリコン窒化膜452を形成し、裏面側のシリコン窒化膜に通常のフォトリソグラフィー技術で開口部453を形成した後、図15(A)に示すように表面側にスピンコートによって厚さ1μmのポリイミド薄膜404と厚さ50nmのアルミ薄膜403を順次形成する。
次に、図15(B)に示すように、通常のフォトリソグラフィー技術によってアルミ薄膜403に開口454及び開口455を形成する。これらは、図14(B)における開口405及び開口406の部位にそれぞれ対応する。
次に、図15(C)に示すように、表面側を保護した状態で裏面側からシリコン窒化膜の開口部453からアルカリ系水溶液で表面側のシリコン窒化膜452が露出するまでシリコン基板をエッチングする。
次に、図15(D)に示すように反応性イオンエッチングによって裏面側から露出した表面側のシリコン窒化膜452をエッチングする。
このような製造方法に基づく上部基板にあっては開口454及び開口455は貫通孔ではないが、該当領域にあっては変形膜の剛性が低下するため、貫通孔を形成した場合と比較して程度の差はあるものの同様の効果が期待できる。
[第5の実施の形態]
本発明の第5の実施の形態について図16を用いて説明する。図16は本実施の形態における下部基板の電極構造を示している。シリコン基板501に絶縁膜502を介して下部電極503が形成され、この中心部近傍には多数の開口504が形成されている。また、下部電極503の外側にはスペーサ505が形成されており、これは図5におけるスペーサ108に対応し、これに張り合わされる上部基板は図301に示されたもので、変形領域の外周に不均一間隔で開口が設けられているものとする。また、本実施の形態の可変形状反射鏡の動作に当たっては、変形膜とシリコン基板501とを接地して、下部電極503に電圧を印加するものとする。なお、シリコン基板501の代わりにガラス基板を用いてもよい。この場合は、絶縁膜502が不要である。
前述の第3の実施の形態おいて説明した上部基板では、外周部における円周方向の変位勾配に応じて曲げ剛性を変えることによって光学的な設計形状に近づけたが、一般的には変形領域に均一な電位差を与えて静電気力を作用させると理想形状との誤差が生じるので、変形膜に開口を設けない場合と比較すると少数で良いものの、第1の実施の形態に示したように下部電極をいくつかの領域に分割する必要はある。
しかしながら本実施の形態にあっては下部電極の一部に開口を設けることによって、変形膜に作用する静電気力に分布を持たせて変形形状を制御する。第4の実施の形態の手法と比較すると、外周部を除く変形膜自体の剛性を小さくする効果はないので駆動電圧は高くなるが、変形膜の開口での回折に起因した結像性能の劣化はなく、単一もしくは非常に少数の駆動電圧で所定の形状に変形させることが可能で、制御回路を単純化して低コスト化と小型化に寄与できる。
なお、本実施の形態にあっては説明を簡略化するために中心近傍に一様な密度の比較的大きな開口を図示したが、変形膜が所定の形状に変形するように、大きな静電気力を作用させる必要がある領域では、開口の密度を小さく、小さな開口の配置が静電気力を作用させる必要がある領域では、開口の密度を大きくし、開口自体のサイズは可能な限り小さくすることが望ましい。
また、本実施の形態にあっては変形膜に作用する静電気力に所定の分布を持たせる手法として、下部電極に領域によって密度の異なる開口を配置したが、変形膜に対向して変形膜と異なる電位が与えられる下部電極の存在する領域の割合が部位によって異なるように形成されていればよい。
以上実施の形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は前述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
さらに、上記した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適当な組合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成も発明として抽出され得る。
ここで、本願第1の発明の効果では、外周部において形状の誤差が大きくなりやすいが、電極を単純に矩形あるいはハニカム状に分割するよりも、少ない分割数で理想的な変形形状を達成することができる。
また、本願第2及び第3の発明では、外周部に大きな静電気力を作用させることなく、所定の形状に変形させることができる。
また、本願第4〜第7の発明では、電極に作用させる静電気力の大きさを部位によって大きく変化させることなく、理想的な形状に変形させることができる。
また、本願第8及び第9の発明では、可変形状反射鏡の変形量を細かく制御して、より理想的な光学的設計形状とすることができる。
また、本願第10の発明の効果では、可撓性薄膜にフォトリソグラフィーで開口を形成し、開口を形成した後に電極を形成するので、微細で高精度の貫通孔を容易に形成することができる。
本発明の第1の実施の形態に係る可変形状反射鏡を適用した光学系の構成を模式的に示した図である。 第1の実施の形態における反射面の変形形状の立体図である。 反射面の変位を表したコンター図である。 可変形状反射鏡の変形面に対して一様な静電気力を作用させた場合の変形形状と理想形状との誤差の分布図である。 本発明の第1の実施の形態に係る可変形状反射鏡の構成図である。 固定電極の形状と、この中心近傍に作用させる静電気力を1とした場合の他の領域に作用させる静電気力を示す図である。 本発明の第2の実施の形態に係る可変形状反射鏡の上部基板の形状を示す図である。 第2の実施の形態の変形例に対する説明図である。 本発明の第3の実施の形態に係る可変形状反射鏡の上部基板の形状を示す図である。 第3の実施の形態における反射面の変形形状の立体図である。 第3の実施の形態における中心部に向かう平均変位勾配を示す分布図である。 本発明の第4の実施の形態に係る可変形状反射鏡の上部基板の形状を示す図である。 第4の実施の形態における中心部に向かう平均変位勾配を示す分布図である。 可変形状反射鏡の製造方法の説明図である。 可変形状反射鏡の他の製造方法の説明図である。 本発明の第5の実施の形態に係る可変形状反射鏡の下部電極の電極構造図である。 従来例の可変形状鏡の構造図である。 従来例の可変形状鏡の製造方法の説明図である。 均一な電位差を与えた場合における可変形状鏡の変形量の異なりに関する説明図である。
符号の説明
101…前群レンズ、102…固体撮像素子、103…後群レンズ、104…可変形状反射鏡、105,202,302,402…変形膜、106…上部基板、107…下部基板、108,505…スペーサ、109,201,301,401…枠部材、110…固定電極、203,303,403…アルミ薄膜、204,304,404…ポリイミド薄膜、205,305,405,406,454,455,504…開口、451,501…シリコン基板、452…シリコン窒化膜、453…開口部、502…絶縁膜、503…下部電極

Claims (5)

  1. 反射面と導電性電極とを備え、枠部材に周囲を支持された可撓性薄膜の前記導電性電極と、これに対向する複数の分割電極間に、静電気力を作用させて前記反射面の形状を変化させる可変形状反射鏡において、
    前記複数の分割電極は、この複数の分割電極が形成された下部基板上の領域の中央部を中心とする円周方向に分割されているとともに、半径方向にも分割されており、 その外周部における円周方向の分割数が中央部における円周方向の分割数よりも多いことを特徴とする可変形状反射鏡。
  2. 前記可撓性薄膜の外周部近傍に、可撓性薄膜の他の領域よりも剛性の低い部位を設けたことを特徴とする請求項1に記載の可変形状反射鏡。
  3. 前記剛性の低い部位は、前記可撓性薄膜、前記反射面、又は前記導電性電極の少なくとも一つに離散的に設けられた開口であることを特徴とする請求項2に記載の可変形状反射鏡。
  4. 前記可撓性薄膜は、変形時における外周部近傍での、平坦時の前記反射面に対する鉛直方向の変位勾配が部位によって異なっており、
    変位勾配が大きい部位における前記剛性の低い部位の占める割合が、変位勾配が小さい部位における前記剛性の低い部位の占める割合よりも大きいことを特徴とする請求項2に記載の可変形状反射鏡。
  5. 前記可撓性薄膜は、変形時における外周部近傍での、平坦時の前記反射面に対する鉛直方向の変位勾配が部位によって異なっており、
    変位勾配が大きい部位における前記開口の占める割合が、変位勾配が小さい部位における前記開口の占める割合よりも大きいことを特徴とする請求項3に記載の可変形状反射鏡。
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