JP4346036B2 - 化粧歯およびその製造方法 - Google Patents

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Description

この発明は、口腔内に装着することで歯や歯肉の外観改善または歯の装飾を行う化粧歯に係り、通常のフェイスメイク等と同等の手軽さで、前記外観改善や装飾が可能な構造および当該構造を有する化粧歯の製造方法に関するものである。
現在公知となっている身体の美粧技術を例示すれば枚挙に遑がなく、その代表格であるフェイスメイクやヘアメイクをとってみても年齢層やTPO等に応じて多種多様の態様が存在する。また、個性が尊重される近年の時代趨勢にあって、美粧対象はより多面化し、今日ではネイルアートやカラーコンタクトによる爪や瞳の装飾などもファッションの一つとして定着するに至っている。
こうした中、歯の審美性についても、従来から関心が高かった。歯は本来、食物の摂取・咀嚼・嚥下、言語の発声等の実生活に不可欠な機能を司る器官であるが、その一方で、面貌を形成する一要素としての機能を併せ持つ。例えば、白く並びの整った健康な歯は、それだけで口元の美麗さや清潔さなどを演出し、対話や笑みを通じて接する者に快美感を与え得ることは多くの者の共通の認識であろう。そして、白く健康な歯や引き締まった歯肉は、通常、歯ブラシ等の口腔衛生品を用いた日常的ケアによって維持される。
他方、歯を人工的に装飾する方法も種々提案されている(例えば、特許文献1〜9を参照)。これら歯の装飾方法は、実生活上の支障の有無とは無関係に、個性的なファッションの一環として、歯を積極的に美粧化しようとするものである。そして、これら歯の装飾方法は、装飾内容によって、概ね次のように大別することができる。
即ち、装飾方法1(特許文献1)は、歯に宝石等の宝飾品を直接埋め込むことによって歯を美粧化するもので、これによれば歯と宝飾品の一体感が強く、一生涯的な装飾効果を得ることが可能となる。
一方、装飾方法2(特許文献2〜9)は、所望の形態や装飾を施した装飾体を備え、これを歯面に装着するものである。このうち、装飾体をシールとしたもの(特許文献2〜5)は、爪に適用する装飾用ネイルシールの如く、汎用性や多様性、さらに量産性に優れ、他方、装着面(裏面)を個々の歯面形状に適合させたカバー状の装飾体(特許文献6〜9)にあっては、装着感に優れるという利点がある。
さらに、装飾方法2は、装飾体の装着方法という観点から、接着剤を用いる装飾方法3(特許文献2〜8)と、接着以外の手段を用いる装飾方法4(特許文献9)とに細分類することができる。ここで装飾方法4は、装飾体の着脱を可能としたものであり、特許文献9によれば、歯が欠損している場合は欠損部位と適合する裏面形状と唾液の表面張力によって、また歯に欠損等の凹凸が少ない場合は装飾する歯の隣在歯にリンプルを穿設すると共に装飾体に小突起を設け、リンプルと小突起の凹凸嵌合によって、それぞれ装飾体を着脱可能に歯に添着するものである。
なお、上述した日常的ケアや人工的装飾以外に、歯に人為的改善をもたらす分野として歯科医療がある。この歯科医療は、本来、歯や歯列等に自然治癒や自己解決が望めない不備・欠陥が生じた場合、歯科医や歯科技工士といった専門家による診察・施術等の下に行われる医療行為の一つである。そして、歯科医療では、欠損等のある歯は人工歯冠や義歯等によって修復する補綴治療が、また歯並びに関しては矯正治療などが施される。特に本発明者は、歯科補綴に関して、患者個々の症例に応じた適合性と、天然歯の複雑な表面形状や色合いを忠実に再現した審美性とを兼ね備える義歯およびその製造方法を既に開示している(例えば、特許文献10・11を参照)。
特開平11−4838号公報 特開2004−136064号公報 特開2003−212742号公報 実用新案登録第3082987号公報 実用新案登録第3064654号公報 特開平11−128249号公報 実開平7−43071号公報 実開平3−80713号公報 実開昭61−88713号公報 特開平10−305036号公報 特開平11−267139号公報
上述した従来技術のうち、口腔衛生品を用いた日常的ケアでは、個人が手軽に歯等の健康や綺麗さを維持できるものの、歯の装飾または外観改善といった積極的効果は得られない。なお、市販の口腔衛生品の中には、漂白成分や再石灰化成分を含んだ歯磨き粉等も存在するが、その効果は低く、即効性および持続性にも欠ける。
他方、歯の人工的装飾方法であっても、技術面および実用面において、それぞれ次のような問題がある。
即ち、装飾方法1(特許文献1)は、歯に直接宝石等の宝飾品を埋め込むため、熟練施術者であっても歯の穿設から宝石の埋込みまでの緻密な作業を正確に進めるには相当な技量と時間を要する上、この間、ユーザーの肉体的負担も大きい。つまり、この装飾方法1によって、製作中の義歯に宝飾品を埋め込むならまだしも、実生活上、何ら問題のない健康な天然歯に穴を開けることへの抵抗感は極めて強い。また、埋め込む宝飾品の大きさや形状等によって適用可能な歯も制限される上、一度施術した後は宝飾品の変更や穴埋め作業も容易ではない。
一方、装飾体を接着剤により歯面に装着する装飾方法3(特許文献2〜8)は、装飾方法1のような歯に対する直接的且つ大掛かりな加工を必要としないが、それでも様々な問題点を指摘することができる。先ず、装飾方法3において用いる接着剤は、人体にとって毒性がないことを最低条件として、装飾体の不用意な脱落による誤飲を防止するためにも、常に湿潤している口腔内で高い接着力を持続可能な特殊なものを選択しなければならない。しかも、所期の接着力を充分に発揮させるには、装飾体素材との相性はもちろんのこと、接着前の歯についても下処理が必要で、ブラッシングにより歯垢等を除去した上、例えばアクリル酸系の液状クリーナーにより歯面を清浄するなどの手間が生じる。その上、個人で接着作業を行う場合は、本来的に作業しにくい狭小な口腔にあって、鏡を見ながらの作業を強いられ、装飾体の位置決めに手間取りやすい。このとき不適当な位置決めが行われると、装飾効果が半減したり、最悪逆効果になる可能性もある。そして、接着完了までには、少なくとも数分の時間を要し、この間、使用者は口を継続して開けたまま、手指または適当な器具により装飾体を歯面に圧接するなどの無理な姿勢が強いられる。さらに、この装飾方法3においても、一旦、装飾体の接着が完了すると、これを個人では簡単且つ綺麗に取り外せず、装飾の解除や変更に不便が伴うことは上記装飾方法1と同じである。
対して、装飾方法4は、装飾体を脱着可能に構成しているため、装飾方法1や3のように装飾が長期間固定的となる等の問題はないが、前記脱着可能な構成の前提として、歯に欠損部位が存在するか、歯にリンプルを穿孔することを要件とする。しかし、装飾を希望する歯が必ずしも欠損部位を有しているとは限らず、また個人で歯の穿設作業を行うことはできない。従って、この装飾方法4は、適用可能な範囲が極端に狭く制約されるという問題がある。また、専門的施術者の手で歯の正常部位にリンプルを穿設するとしても、これに伴うユーザーの肉体的負担は大きく、歯を弱める危険性(リスク)もあって、その適用にやはり抵抗感を生ずることは上記装飾方法1と同じである。さらに、装飾体の未装着時には、歯面からリンプルが露呈するから、歯の審美性を損なうなどの矛盾も生じる。
なお、従来の人工装飾方法1〜4の全てに共通する実用的問題として、宝飾の埋込み用土台や装飾体を樹脂(レジン)で製作した場合の衛生面への配慮に欠いていたことを指摘することができる。つまり、樹脂は口腔内のような湿潤した環境下では雑菌の繁殖原因となることが知られており、市販の入れ歯洗浄剤等を用いても完全除去できないにもかかわらず、その対策は何ら講じられていない。また、装飾性についても、口中の審美性は歯と歯肉(歯肉)の双方によって成り立つが、何れの装飾方法も、歯と歯肉のトータルコーディネートという視点に欠けていた。
ところで、歯科医療は、専門家によって補綴技術や矯正技術等が安全且つ高精度に行われるため、歯に実生活上の不備・欠陥等が生じた場合は、当該医療に頼るのが最善の選択であることはいうまでもない。また、歯科医療によれば、実生活に支障がない歯についても、審美化のみを目的とする施術が技術的に可能である。
しかしながら、何れの場合であっても、歯科医療では、施術に際して個々の症例に応じた適合性や咬合性を無視できず、このため歯や歯肉に器具や薬剤による歯科的施術を行いつつ、また義歯の試適・補正等を繰り返し経るなどして、医療行為としての使命を果たすものである。つまり、歯科医療によれば、歯の審美化のみを目的として、変色歯を脱色するにしても、欠損歯を修復するにしても、歯並びを矯正するにしても、診察から施術に至るまでユーザーの時間的・肉体的負担、さらには費用的負担も大きい。そもそも歯科医療は医療行為であるから、通常のフェイスメイク等のように、その日の気分やTPO等に応じて、歯の審美や装飾内容を日常的に変更する美粧方法として、これを採用することは現実的でない。
以上、従来技術を総じて見れば、日常的ケアでは歯の美粧化について実効性が得られず、歯科医療を通常のフェイスメイク等と同じように歯の日常的な美粧方法とするには余りにも非現実的であり、これらの中間的手段とも言える人工的装飾方法にあっても、従来の装飾方法1〜4を個人レベルで実施するには技術面および実用面の双方において未解決な部分が多い。
ここで、上記従来技術の課題に鑑みると共に、フェイスメイクやネイルアート等が日常的な美粧方法として、また産業として広く普及した理由に照らせば、歯の美粧化についても、先ず安全や衛生が確保され、歯科的整形等による肉体的リスクがないものでなければならない。その上、一定の美粧効果が得られ、これにかかる時間的・肉体的・費用的負担も、一般的な美粧方法と遜色ないものでなければならない。こうした基本条件の下、装着性や使用感を高めることによって、装飾効果の事前確認や装飾内容の変更が容易に行え、且つ、使用時に痛みや過度の違和感が伴わないものでなければならない。さらに、生産性に優れたものとすることで、バリエーションの豊富化を図り、もって各人の嗜好や流行に対応できるものでなければならない。
こうした観点に立ち、本発明の目的とするところは、各人の口腔内態様および希望する美粧内容に応じた製造が容易に行え、現状の口腔内事情のまま個人レベルでも短時間で高い適合性および装飾性を持って歯に適用でき、しかも、その日の気分やTPO等に応じて日常的な脱着が可能な化粧歯とその製造方法を提供することである。また、この化粧歯を通じて、歯科医療との橋渡しを図ることも本発明の目的の一つである。
上述した目的を達成するために、本発明に係る化粧歯は、口腔内の左右小臼歯間に存在する複数の歯および歯肉の前面を被化粧部位として、硬質樹脂をU字バンド状に曲成して前記被化粧部位を被覆可能に形成してなる。そして、当該U字バンド状の表面は所望する歯列および歯肉の表面形状とする一方、裏面は前記被化粧部位と密着可能な凹凸形状とする。而して、本発明では、硬質樹脂の可撓性により前記裏面を少なくとも歯頚および歯間と凹凸係合させて前記被化粧部位に脱着可能に装着するという手段を用いる。なお、被化粧部位に存在する歯、即ち本発明に係る化粧歯で被覆される歯には、天然歯の他、義歯(人工歯)も含む。
上記手段において、本発明に係る化粧歯は、その表面を装飾面、裏面を装着面とするものであり、これを口腔内の被化粧部位に装着することによって、それまでの歯冠や歯肉の色および形態、また歯頚ラインまでも、本人が希望する色や形態に改善することができる。ただし、被化粧部位の歯や歯肉に外観上、変色や欠損等の不備があるか否かは関係ない。何れにしても、本発明に係る化粧歯を適用することで、前記不備がある場合はそれが隠蔽され、外観を例えば理想的な色や歯並びに改善することができる。さらに、本発明に係る化粧歯は硬質樹脂によって形成されるから、所期成型のみならず、事後的に形態を修正・修理することも容易である。また、硬質樹脂として歯冠色と歯肉色の二色を用いることで、表面の歯列部分は歯冠色に、表面の歯肉部分は歯肉色として、審美性の高い色調とすることができる。
さらに、装飾面に装飾部材を固設することによって、上述した外観改善と同時に、口腔内を積極的に装飾することができる。ここで装飾部材は、個人の好み等に応じた形状および色から選択でき、その素材は、人体に影響がないことを前提として、宝石、貴金属、ガラス、樹脂、紙、布、写真など、従来公知のものを採用することができる。
また、表面に透明樹脂製のラミネートシートを貼着することで、当該シートの透過性の低下(くすみ)を目安として、本発明に係る化粧歯の交換時期を知ることができる。つまり、樹脂(レジン)はその吸水性等によって雑菌の営巣となり得るが、この場合、ラミネートシートがくすみはじめるため、不衛生なままの装着を回避することができる。さらに、装飾部材を被覆するようにラミネートシートを貼着することで、装飾部材の脱落を防止できると共に、装飾部材の輝き具合など装飾効果の低下によって、ラミネートシートの透過性低下を確実に知ることができる。
一方、本発明に係る化粧歯の裏面は、被化粧部位に対する装着面として、使用者ごとの口腔内態様を再現した凹凸形状に形成される。また、硬質樹脂の可撓性がもたらす適度な締付感によって、被覆する歯や歯肉の前面に対してその凹凸形状を圧接状態に密着できるため、適合性に優れる。さらに、当該裏面は被化粧部位の少なくとも歯頚および歯間と凹凸係合するといったように、複雑で立体的な凹凸係合が実現されるため、本発明に係る化粧歯をぐらつきや不用意な脱落がない状態で被化粧部位に装着することができる。また、締付感に抗してU字が若干拡開するように本発明に係る化粧歯を撓ませることで、前記凹凸係合が解除され、本発明に係る化粧歯を口腔内から取り外すことができる。さらに、裏面の少なくとも歯の隣接部を含む歯頚部分を柔軟性を有する樹脂によって形成したため、歯個々の動きに対する緩衝作用等によって、脱着に際して痛みや過度の違和感がない。なお、本発明でいう柔軟性を有する樹脂とは、物の間にあって、その物の変動に追従して変形することによるクッション(緩衝)作用を有する樹脂をいい、必ずしも弾性変形・塑性変形の意味ではない。つまり、本発明にあっては、物として歯の微妙な動きに追従して変形するものであればよい。また、当該柔軟性を有する樹脂の適用裏面、即ち歯の隣接部を含む歯頚部分とは、歯と歯肉との境目から歯頚部分までをいう。
ところで、裏面の装着面形状は各人固有のものであるが、一度、口腔内形態の印象を採取すれば、その印象型を保存しておくことで、以後、表面(装飾面)だけを変更しての化粧歯製作が可能である。また、表面についても、その形態をある程度パターン化することができるため、複数の形態パターンについて型を用意しておけば、前記印象型との組み合わせによって、各人の希望等に適合した化粧歯製作が容易に行える。そして、表面の形態や装飾内容が異なる複数の化粧歯を持つことで、その日の気分やTPO等に応じて、歯の美粧化を日常的に行うことができる。
つまり、本発明に係る化粧歯を製作するには、左右の小臼歯間に存在する複数の歯および歯肉の前面形状を印記してなる雄型と、所望する歯列と歯肉の前面形状を印記してなる雌型とで構成される型のキャビティに硬質樹脂を注入する工程と、前記キャビティ内において硬質樹脂を硬化させる工程と、当該硬化後に離型する工程とによって実現可能である。また、上記化粧歯を製造する方法として、歯冠色と歯肉色の二色の硬質樹脂を型のキャビティに注入したり、雄型の少なくとも歯の隣接部を含む歯頚印記部分に柔軟性を有する樹脂を埋入し、硬質樹脂と柔軟性を有する樹脂を一体としたり、雌型の歯列印記部分に装飾部材を配置し、前記装飾部材を硬化後の硬質樹脂に一体的に固設したり、雌型の歯列印記部分に透明樹脂製のラミネートシートを配置したり、ラミネートシートは装飾部材を被覆するように雌型の歯列印記部分に配置するといった各手段を選択的に用いる。
なお、本発明に係る化粧歯による被覆範囲(被化粧部位)は、必ずしも左右小臼歯間に存在する複数の歯の全部でなくてもよい。つまり、一部の歯について、本人が積極的な審美性改善や装飾部材による美粧化を望まない場合、あるいは例えば出歯であるため、本発明に係る化粧歯を適用すれば厚みが増す分、前記出歯症状を助長して、口元が却って不自然となるような場合は、こうした歯を除いて一部を被覆する態様であってもよい。ただし、この一部被覆であっても、歯肉部分については、左右小臼歯間の全てを被覆するものとする。歯肉部分までも一部被覆とすれば、本発明に係る化粧歯を連続したU字バンド状に構成できない場合が生ずるからである。そして、当該一部被覆の場合、本発明に係る化粧歯は、使用者本人の歯を露出させる部分を欠損させた態様に構成されることになる。対して、左右小臼歯間に、無頚・有頚を問わず、欠損歯が存在する場合、当該欠損部位については、本人が審美化や美粧化を希望しないなどの特段の理由がない限り、原則として、これを隠蔽するための表面(装飾面)を構成する。口腔内の形態改善という本発明の目的に沿うからである。ただし、この欠損部位については、当然、裏面において密着・係合させる凹凸面が存在しないため、裏面の凹凸形状を省略することができる。
以上説明したように、本発明によれば、表面を理想的な色や歯並びあるいは本人が別途希望する形態に構成可能で、例えば欠損や変色のある歯を自然な色および形態としたり、退縮した歯肉を正常位置としたり、さらに歯頚ラインをも同時に改善できると共に、この表面に適当な装飾部材を設けることで、本人が希望する歯の美粧化を手軽に行うことができる。また、裏面は被化粧部位と密着して適合性がよく、さらに柔軟性を有する樹脂により形成することで、脱着に際して痛みや過度の違和感もない。しかも、本発明に係る化粧歯は、硬質樹脂の可撓性により前記裏面を少なくとも歯頚および歯間と凹凸係合させて前記被化粧部位に脱着可能に装着されるため、接着剤やリンプルによる凹凸嵌合等の装着構造を有する従来技術のように、専門的な施術や時間的・肉体的負担を一切伴わず、個人レベルで本発明に係る化粧歯を短時間で且つ容易に脱着することができる。また、一度、使用者の口腔内形態の印象を採取することで裏面形状が決定されれば、以後、表面については、サンプル等から使用者が好みのものを選ぶ等することで、使用者の好みに応じた歯の外観改善や装飾が可能となる。さらに、本発明に係る化粧歯は、硬質樹脂によって成型されるため、従来の樹脂成形技術によって安価に製造でき、また事後的な修正・修理も容易である。従って、仮装着や試適によって細部の適合性や装飾効果を確認することも可能で、このとき適合性や装飾内容に問題があれば、その部分の修正や変更も容易に行うことができる。さらに、表面に透明樹脂製のラミネートシートを貼着したものにあっては、当該シートの透過性の低下によって本発明に係る化粧歯の交換時期を知ることができ、衛生面でも良好な化粧歯とすることができる。さらに、ラミネートシートにより装飾部材を被覆したものにあっては、装飾部材の脱落を防止すると共に、装飾部材の光沢等からラミネートシートの透過性低下を容易に判断することができる。さらに、本発明に係る化粧歯は歯および歯肉の前面に装着されるものであるから、咬合になんら影響を与えず、安全である。
以下、本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。図1は、本発明に係る化粧歯を適用する上で、本発明者を使用者として予め印象を採取した使用者の上顎模型を示したものである。即ち、この使用者本人の口腔内態様は、上顎について、右側の側切歯Bが無頚欠損している他、右側の第一小臼歯Dに金属冠による補綴治療があるものとする。そして、この使用者本人は、少なくとも前記欠損部位と金属冠について審美性の改善を望んでいるものとする。同時に、対話時や笑みを浮かべたときに見える範囲で、宝飾による美粧化を望んでいるものとする。対して、中切歯Aについては左右二本とも審美化や美粧化を望んでいないものとする。なお、同図を用いて、口腔内の各部名称を列挙すれば、Aは中切歯、Bは側切歯、Cは犬歯、Dは第一小臼歯、Eは第二小臼歯、Fは歯肉であり、個々の歯についてGは歯冠、Hは歯頚、さらにIは歯間である。
上記態様の上顎例に対して、本実施形態に係る化粧歯10は、図2に示したように、左右の第二小臼歯E・E間に存在する歯のうち、左右の中切歯A・Aを除く複数の歯(8本)と、第二小臼歯E・E間の歯肉全てに関し、その前面を被化粧部位として被覆する形態を有する。即ち、全体形状として、硬質樹脂を曲成してなるU字バンド状(馬蹄状)の形状を呈する。より具体的には、その被覆範囲において、所望する歯肉の表面形状を模倣した歯肉部1と、所望する第二小臼歯・第一小臼歯・犬歯並びに側切歯の表面形状をそれぞれ模した連続する歯列部2とで、表面に装飾面を構成している。ここで、歯肉部1は歯肉色の硬質樹脂によって、また歯列部2は歯冠色の硬質樹脂によって成型されている。つまり、この実施形態では、化粧歯10を成形するにあたり、歯肉色と歯冠色の二色の硬質樹脂を使用している。さらに、この化粧歯10では、その歯列部2の中切歯に相当する部位に、装飾部材3として薄紫のキュービックジルコニアを固設している。さらにまた、この装飾部材3は透明樹脂製の薄いラミネートシート4によって被覆されている。
なお、本実施形態では、審美性改善を重要視しているため、表面(装飾面)を理想的な歯並びを基準として構成したが、表面の構成基準はこれに限定されない。同時に、表面については、使用者本人の口腔内形態を忠実に再現する必要もない。例えば、仮装や遊び心による変装目的の場合は、出歯のような形態とするように、使用目的に応じて、一部の歯について大きさや角度を特別に変えることも可能である。何れにしても、本発明における表面は、本人の希望に応じて、種々の形態から選択することができる。また、歯肉部1の歯列部2の色調も然りで、歯肉色と歯冠色の二色を使用することが、最も自然な仕上がりとなるが、必ずしも二色に限定することはなく、より多色の硬質樹脂を用いることで、さらに天然歯や天然歯肉に近い色調に設定することもできる。さらに、硬質樹脂の一部をセラミックやコンポジットレジン等の高機能素材に置換することで、より審美性が高い化粧歯を得ることができる。
一方、化粧歯10の裏面は、使用者の口腔内態様から印象を採取し、これを忠実に再現してなる。具体的には、図3に示したように、化粧歯10の被覆範囲における第一・第二小臼歯D・E、犬歯C、側切歯Bの各歯について、その歯冠・歯頚・歯間と、歯肉とに密着可能な凹凸形状の装着面を構成する。この構成によれば、裏面の上下方向は歯頚を境目としてほぼ凹状に、また左右方向は歯間によってほぼ凸状に、さらに歯肉によって複雑な凹凸形状に形成される。なお、裏面は、その全部を硬質樹脂によって構成することもできるが、少なくとも歯肉(歯間乳頭を含む)との密着部分を柔軟性を有する樹脂によって成型することで、装着時の痛みや過度の違和感を緩和ないしは解消することができて、好ましいものである。このとき、柔軟性を有する樹脂の色は限定しないが、表面から見て当該弾性樹脂の色が透過され、その結果、表面の審美性や装飾効果を失うようなもの避けることが好ましい。
上記本実施形態に係る化粧歯10によれば、U字バンド状にある化粧歯を若干拡開しつつ、口の前面または側面から口腔内に挿入し、裏面を被化粧部位に密着させると共に、少なくとも歯頚および歯間について凹凸係合させることで装着される。つまり、装着に際して、拡開した力を解除することで、化粧歯は硬質樹脂の形状復元力により元の曲率のU字状に戻り、適度な締付感と共に上記凹凸係合によって容易には脱落しない程度で被化粧部位に装着される。このように、裏面の凹凸形状が単に歯冠と合致するだけのものよりも、本化粧歯10のように歯頚、歯間、さらには歯肉とも合致させることで、多次元で複雑且つ立体的な凹凸係合が実現され、装着後、本化粧歯10のぐらつきや不用意な脱落を防止することができる。そして、装着後は、化粧歯10の表面形状に従って、本実施形態では欠損した右側の側切歯Bを仮装すると共に、右側の第一小臼歯Dの金属冠を隠蔽するなど、被化粧部位(被覆範囲)における歯や歯茎の形態や色を審美性高いものとすることができる。また当時に、装飾部材3によって口腔内を積極的に装飾することができる。
なお、本発明者による上記化粧歯10の試適実験によれば、会話などの日常生活では化粧歯10がぐらついたり外れることはなかった。ただし、非常に固いものやガムなどの粘着物を食しているときには、本化粧歯10が外れることがあった。しかし、本発明に係る化粧歯の最大の目的は、日常的な口腔内の外観改善および装飾であって、咬合の改善ではないため、咀嚼時の脱落は問題とはならない。また、長期使用にあっては(この実施形態の場合、約2ヶ月で800時間程度での使用)、表面において装飾部材3を被覆したラミネートシート4がくすみ、装飾部材3の装飾効果が低下した。しかし、ラミネートシート4のくすみは、雑菌が増殖したことによるもので、これを目安として、本化粧歯10の使用を中止すれば、口腔内の衛生を悪化させることがない。また、経時的に、硬質樹脂の可撓性が低下して、装着時の締付感も低下してきたが、この場合も、装着時の違和感として使用者が感じ取ることが容易であるため、これを目安として本化粧歯10の使用を中止することで、口腔内の安全性が保たれる。
続いて、本発明に係る化粧歯の製造方法を、図4に従って説明する。先ず、同図(a)は、型20の製作工程を示したものであり、この工程では、雌型21と雄型22に分割された二つの型を製作する。雌型21は、化粧歯の表面形状(装飾面)を形成するためのもので、例えば理想的な歯列模型23の唇側および頬側の前面形状から印象型を取得することができる。具体的には、歯科技工における通法のロストワックス法を用い、例えば石膏によって製作することができる。なお、雌型21を製作する上での印象型は、前記理想歯列模型23に限らず、上述したように、本人が希望する形態の印象型を採用することができる。一方、雄型22は、化粧歯の裏面形状(装着面)を形成するためのものであり、使用者本人の口腔内態様(唇側および頬側における歯および歯肉の前面形状)を印記した印象型24を用い、雌型と同様にロストワックス法によって製作することができる。また、素材は速乾性の石膏を用いることができる。
次に、同図(b)は、分割製作した雌型21と雄型22とを合体させた型20のキャビティに、素材を注入・配置する工程を示したものである。具体的には、先ず合体前の雄型22に透明樹脂製のラミネートシート25、シールやラメ混入等により所望する形態や色に形成された装飾層26を配置し、その上から粘度状態の歯冠色および歯肉色の二色の硬質樹脂27・28を注入する。また、雄型22の歯の隣接部を含む歯頚部分に柔軟性を有する樹脂29を埋入しておく。なお、図面では説明の便宜上、柔軟性を有する樹脂29を歯の隣接部分を含む歯頚部分に築盛した状態を示しているが、実際はより少量の樹脂が埋入される。次に、雄型22や雌型21に対する素材の配置・充填が完了すれば、雄型22と雌型21を合体させ、当該型20を加圧釜(図示せず)に投入し、上記粘度状態の硬質樹脂27・28を加圧重合する。このとき、硬質樹脂27・28と柔軟性を有する樹脂29とで、重合時間に差が存在する場合は、重合時間が長い方の樹脂を先に注入もしくは埋入しておくようにして、両者の重合完了時間を合わせるようにすることが好ましい。なお、この実施形態において、二色の硬質樹脂27・28は、歯科技工で用いられる注入型レジンを用い、加圧(重合)成形法を採用した。また、これら二色の注入型レジンは、硬化後、可撓性を有するものから選択する。一方、柔軟性を有する樹脂29は、モノマーとポリマーを混練してなり、重合後も変形可能な柔軟性を有するものである。
そして、同図(c)は、上記注入型レジンが硬化するのを待ってから、雌型21と雄型22を再度分割して、化粧歯を離型する工程を示したものである。離型後は、バリ除去等の適宜修正を行って、本発明に係る化粧歯を得ることができる。この製造方法によれば、上記実施形態に係る化粧歯10を約2時間で製作することができた。
なお、上記製造方法によれば、表面(装飾面)に装飾部材やこれを被覆するための透明樹脂製ラミネートシートを設ける方法は、二通りある。その一つは、離型後の表面に対して、装飾部材を埋め込んだり、接着するなどして固設する方法である。また、装飾部材の固設と共に、その上からラミネートシートを接着等により設ける方法である。この方法によれば、完成した化粧歯に事後的な装飾が可能となる。一方、他の方法は、先に雌型21に装飾部材やラミネートシートを配置しておき、この状態で雄型22と合体させ、キャビティに樹脂充填を行うものである。この他の方法によれば、化粧歯に対して装飾部材やラミネートシートを強い一体感を持って固設できると共に、樹脂硬化後、離型工程で既に装飾が完了することになって、化粧歯製作を合理化することができる。ただし、何れの方法を採用するかは、装飾部材やラミネートシートの物性、大きさ、形状、また硬質樹脂との相性などを総合的に考慮して、適当な方法を採用すればよい。
本発明の一実施形態に係る化粧歯を適用する使用者の口腔内態様を示した斜視図 同実施形態に係る化粧歯の表面側を示した斜視図 同実施形態に係る化粧歯の裏面側を示した斜視図 本発明の化粧歯の製造方法を示した工程図
符号の説明
A 中切歯
B 側切歯
C 犬歯
D 第一小臼歯
E 第二小臼歯
F 歯肉
G 歯冠
H 歯頚
I 歯間
1 歯肉部
2 歯列部
3 装飾部材
4 透明樹脂製のラミネートシート
10 化粧歯
20 型
21 雌型
22 雄型
23 理想歯列模型
24 使用者本人の口腔内態様を印記した印象型
25 透明樹脂製のラミネートシート
26 装飾層
27 歯冠色の注入型レジン
28 歯肉色の注入型レジン
29 柔軟性を有する樹脂

Claims (12)

  1. 口腔内の左右小臼歯間に存在する複数の歯および歯肉の前面を被化粧部位として、硬質樹脂をU字バンド状に曲成することで前記被化粧部位を被覆可能に形成すると共に、その表面は所望する歯列および歯肉の表面形状とする一方、裏面は前記被化粧部位と密着可能な凹凸形状とし、硬質樹脂の可撓性により前記裏面を少なくとも歯頚および歯間と凹凸係合させて前記被化粧部位に脱着可能に装着することを特徴とした化粧歯。
  2. 歯冠色と歯肉色の二色の硬質樹脂によって、表面を所望する歯列および歯肉の色調とした請求項1記載の化粧歯。
  3. 裏面の少なくとも歯の隣接部を含む歯頚部分を柔軟性を有する樹脂によって形成した請求項1または2記載の化粧歯。
  4. 表面に装飾部材を固設した請求項1、2または3記載の化粧歯。
  5. 表面に透明樹脂製のラミネートシートを貼着した請求項1から4のうち何れか一項記載の化粧歯。
  6. ラミネートシートは装飾部材を被覆するように表面に貼着した請求項5記載の化粧歯。
  7. 左右の小臼歯間に存在する複数の歯および歯肉の前面形状を印記してなる雄型と、所望する歯列と歯肉の前面形状を印記してなる雌型とで構成される型のキャビティに硬質樹脂を注入する工程と、前記キャビティ内において硬質樹脂を硬化させる工程と、当該硬化後に離型する工程とからなることを特徴とした化粧歯の製造方法。
  8. 硬質樹脂の注入工程において、歯冠色と歯肉色の二色の硬質樹脂を型のキャビティに注入する請求項7記載の化粧歯の製造方法。
  9. 硬質樹脂の注入工程において、雄型の少なくとも歯の隣接部を含む歯頚印記部分に柔軟性を有する樹脂を埋入すると共に、硬質樹脂の硬化工程において、当該硬質樹脂と柔軟性を有する樹脂を一体とした請求項7または8記載の化粧歯の製造方法。
  10. 硬質樹脂の注入工程において、雌型の歯列印記部分に装飾部材を配置し、硬質樹脂の硬化行程において、前記装飾部材を硬化後の硬質樹脂に一体的に固設した請求項7、8または9記載の化粧歯の製造方法。
  11. 硬質樹脂の注入工程において、雌型の歯列印記部分に透明樹脂製のラミネートシートを配置し、硬質樹脂の硬化行程において、前記ラミネートシートを硬化後の硬質樹脂に一体的に貼着した請求項7から10のうち何れか一項記載の化粧歯の製造方法。
  12. ラミネートシートは装飾部材を被覆するように雌型の歯列印記部分に配置した請求項11記載の化粧歯の製造方法。
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