JP4342700B2 - 電気機器用コーティング部材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電力機器の通電部材を構成する金属基材の耐アーク性を向上させるために、異種金属によるコーティングを施した電気機器用コーティング部材及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
昨今の電力需要の増大と省スペース化の要請に伴って、電力機器の小型縮小化が強く要求されている。このような要求に応える機器としては、例えば、線路の地絡故障や線間短絡故障の際に送電系統や配電系統を保護するために、比較的小形で高電流を遮断することができるガス遮断器が広く普及している。このガス遮断器は、消弧性ガスが充填された容器内に電極を対向配置したものであり、電流遮断時に発生するアークを絶縁ガスによって吹き消すことによって、優れた遮断性能を発揮することができる。
【0003】
しかし、かかるガス遮断器をはじめとする電力機器は、製品の市場競争力を高めるためには、製造コストを抑えつつ、更なる小型縮小化を進めることが望ましい。そして、このような小型縮小化を行なう場合には、電力機器の接点部を小型縮小化することが必須となる。例えば、上記のガス遮断器の場合には、電極やその周辺部材である通電部材を小型縮小化することが有効である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、一般に、ガス遮断器等の電力機器の通電部材においては、融点の低い高導電率材料であるアルミニウムやアルミニウム合金、銅若しくは銅合金が多く使用されている。このため、接点部を小型縮小化すると、接点の開閉時に発生するアークの熱により、接点部周辺におけるアルミ部材や銅部材等が溶損する場合がある。このような部材の溶損は部材の機械的強度低下や、溶損により発生する金属蒸気のために絶縁抵抗の低下を招く可能性があるため、機器の小型縮小化にとっての一つの制約となる。
【0005】
本発明は、以上のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、電気機器を構成する部材にコーティング層を形成することによって、耐アーク性を向上した電力機器用コーティング部材及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、製造コストが安価な電力機器用コーティング部材及びその製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、請求項1記載の発明である電気機器用コーティング部材は、少なくともアルミニウム、アルミニウム合金、銅若しくは銅合金を含む基材の一部に、前記基材よりも高融点の異種金属によるコーティング層が設けられ、前記コーティング層の膜厚は、0.3〜10mmであり、前記コーティング層の端部における前記基材との自由縁をなす角度が、110度以上若しくは25度〜85度であり、前記コーティング層が、溶射法により形成され、前記コーティング層における前記基材側に、ボンド層としてニッケル−アルミ合金若しくはニッケル−クロム合金が形成されていることを特徴とする。以上のような請求項1記載の発明では、基材に施されたコーティング層によって、アークによる溶損が防止されるので、耐アーク性を高めることができる。特に、コーティング層の肉厚が10mmを超えないので、コーティング層を形成するための時間が短くて済み、コーティング損の肉厚が0.3mm以上なので、十分に溶損を防止することができる。また、開先角度が25〜85度若しくは110度以上なので、温度変化による基材とコーティング層との剥離が生じ難い。また、成膜速度の速い溶射法によりコーティング層を形成するので、製造コストを節約することができ、さらにボンド層によって基材とコーティング層との間の密着力が高まるので、界面で剥離が生じ難く信頼性が向上する。
【0007】
請求項2は、請求項1記載の電気機器用コーティング部材において、前記コーティング層の端部に、嵌合部が設けられていることを特徴とする。以上のような請求項2記載の発明では、コーティング層の端部に形成された嵌合部によって、コーティング層が基材から剥離、離脱することが防止される。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の電気機器用コーティング部材において、前記ボンド層の厚さが、5μm以上であることを特徴とする。以上のような請求項3記載の発明では、ボンド層の厚さを5μm以上とすることにより、密着強度の向上効果を高めることができる。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気機器用コーティング部材において、溝加工を施した前記基材に対して、前記コーティング層が形成されていることを特徴とする。以上のような請求項4記載の発明では、基材に溝加工が施されているので、コーティング層との密着力が向上し、信頼性が高まる。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気機器用コーティング部材において、前記コーティング層中の気孔率が20%以下であることを特徴とする。以上のような請求項5記載の発明では、20%を超えると体積膨張が起きる気孔率が、20%以下に設定されているので、損耗が防止されて信頼性が高まる。
【0013】
請求項6記載の発明は、少なくともアルミニウム、アルミニウム合金、銅若しくは銅合金を含む基材の一部に、前記基材よりも高融点の異種金属によるコーティング層が設けられ、前記コーティング層の膜厚は、0.3〜10mmであり、前記コーティング層の端部における前記基材との自由縁をなす角度が、110度以上若しくは25度〜85度であり、前記高融点の異種金属の熱膨張係数が、前記基材よりも小さく、前記コーティング層が、溶湯鍛造プロセスにより形成され、この溶湯鍛造プロセスにおいて前記高融点の異種金属を鋳包むことにより、前記コーティング層が形成されていることを特徴とする。以上のような請求項6記載の発明では、基材の熱膨張係数が高融点の異種金属よりも大きいので、溶湯鍛造プロセスで鋳包む凝固時に、基材でコーティング材を締め付けるため、コーティング層と基材の界面で圧縮残留応力が作用して、界面での亀裂が生じ難くなる。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の電気機器用コーティング部材において、前記コーティング層と前記基材との間に、金属間化合物層が形成されていることを特徴とする。以上のような請求項7記載の発明では、金属間化合物層によって基材とコーティング層との間の亀裂の発生を防止することができるので、信頼性が向上する。
【0015】
請求項8記載の発明は、請求項6又は請求項7記載の電気機器用コーティング部材において、前記高融点の異種金属材料の表面に亜鉛層を設けてから、溶湯鍛造プロセスで鋳包むことにより、前記コーティング層が形成されていることを特徴とする。以上のような請求項8記載の発明では、亜鉛層によって金属間化合物が厚くなり過ぎることが防止されるため、基材とコーティング層との界面で亀裂が発生し難くなり、信頼性が向上する。
【0016】
請求項9記載の発明は、請求項6〜8のいずれか1項に記載の電気機器用コーティング部材において、前記高融点の異種金属材料の表面に、粗面化処理を施してから、溶湯鍛造プロセスで鋳包むことにより、前記コーティング層が形成されていることを特徴とする。以上のような請求項9記載の発明では、粗面化処理によって、基材とコーティング層とが接合する面積が拡大するので、界面における亀裂が発生し難くなり、信頼性が向上する。
【0017】
請求項10記載の発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載の電気機器用コーティング部材において、電力用遮断器の接点周辺部材に使用されていることを特徴とする。以上のような請求項10記載の発明では、アークによる溶損のない電気機器用コーティング部材を用いることによって、電力用遮断器の小形縮小化と信頼性の向上を実現することができる。
【0018】
請求項11記載の発明は、請求項4記載の電気機器用コーティング部材を製造する方法において、溶射中の前記基材温度を200℃以下に制御することを特徴とする。以上のような請求項11記載の発明では、溶射時の基材温度を200℃以下にすることによって、硬度の低下を防止して、電気機器用コーティング部材の信頼性を向上させることができる。
【0019】
請求項12記載の発明は、請求項6〜10のいずれか1項に記載の電気機器用コーティング部材を製造する方法において、前記溶融鍛造プロセスの冷却時において、250℃以下の降温速度を200℃/h以下とすることを特徴とする。以上のような請求項12記載の発明では、冷却速度が200℃/h以下なので、基材とコーティング層との熱膨張係数差による界面の熱応力の発生と、これによる亀裂の発生が防止され、欠陥発生率を低下させることができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
1.第1の実施の形態
1−1.構成
本発明の第1の実施の形態を図1を参照して説明する。すなわち、本実施の形態の電気機器用コーティング部材は、金属製の基材1に対して、これよりも高融点の金属材料のコーティング層2を形成することによって構成されている。基材1の材質としては、例えば、Al−Mi−Si系のアルミニウム合金であるA6061材若しくは無酸素銅の合金であるC1020材を用いる。コーティング層2の材質としては、13Crステンレス鋼を用いる。
【0021】
ここで、コーティング層2の形成は、溶射法を用いて行われている。溶射法は、燃焼若しくは電気エネルギーを用いてコーティング層2の金属材料を加熱し、溶融又はこれに近い状態にした粒子を、基材1に吹き付けて皮膜を形成する方法であり、酸素と可燃性ガスとの燃焼若しくは爆発のエネルギーを用いるガス式溶射法と、アークやプラズマ等の電気エネルギーを用いる電気式溶射法がある。そして、コーティング層2の端部における基材1との自由縁をなす角度、つまり、コーティング層2の開先角度3は30度となるように、且つコーティング層2の肉厚が3mmとなるように形成されている。
【0022】
1−2.作用効果
以上のような本実施の形態によれば、以下に述べるように、基材1の耐アーク性を大きく向上させることができる。すなわち、A6061材である基材1に13Crステンレス鋼のコーティング層2を形成した部材、C1020材である基材1に13Crステンレス鋼のコーティング層2を形成した部材、耐アーク性コーティング層を設けていないA6061材から成る部材、耐アーク性コーティング層を設けていないC1020材から成る部材の4種の部材について、耐アーク性評価試験を行った。この耐アーク性評価試験ではプラズマ溶射ガンを用いて、プラズマフレームに部材を曝した後の部材の損耗状態により、評価した。
【0023】
この試験の結果、耐アーク性コーティング層を設けていないA6061材では肉厚方向に7mm以上の溶損が見られた。耐アーク性コーティング層を設けていないC1020材では肉厚方向に4mm以上の溶損が見られた。これに対し、コーティング層2を設けたA6061材及びC1020材の溶損は0.3mm以下であった。従って、小型縮小化した電気機器であっても、本実施の形態の適用によって、機械的強度を向上し、溶損により発生する金属蒸気による絶縁抵抗の低下などの問題を防止することができる。
【0024】
2.第2の実施の形態
2−1.構成
本発明の第2の実施の形態について、図1を参照して説明する。本実施の形態は、上記の第1の実施の形態と同様に、A6061材を基材1として、肉厚が3mmとなるように、13Crステンレス鋼のコーティング層2を溶射法によって形成した電気機器用コーティング部材である。但し、本実施の形態においては、コーティング層2の肉厚を0.1mm〜20mmに変化させたものを製作した。
【0025】
2−2.作用効果
以上のような本実施の形態によれば、以下に述べるように、コーティング層2の肉厚が0.3〜10mmのものが、基材1の耐アーク性を大きく向上させることができるとともに、製造コストを節約することができる。すなわち、コーティング層2の肉厚が10mmを越えるものは、コーティングのための施工時間が非常に長くなる。このため、安価に部材を作製することが困難となる。一方、コーティング層2の肉厚が10mm以下のコーティング部材については、上記の第1の実施の形態と同様の耐アーク試験を行った。この結果、コーティング層2の肉厚が0.3mmより薄いものでは溶損がアルミ基材にまで及んでいた。従って、小形縮小化した電気機器であっても、コーティング層2の肉厚が0.3〜10mmの本実施の形態を適用することによって、耐アーク性に優れ、安価な製品を構成することができる。
【0026】
3.第3の実施の形態
3−1.構成
本発明の第3の実施の形態について、図1及び図2を参照して説明する。本実施の形態は、上記の第1の実施の形態と同様に、A6061材を基材1として、肉厚が3mmとなるように、13Crステンレス鋼のコーティング層2を溶射法によって形成した電気機器用コーティング部材である。但し、本実施の形態においては、コーティング層2の開先角度3を種々変化させたものを製作した。
【0027】
3−2.作用効果
以上のような本実施の形態によれば、以下に述べるように、開先角度を25〜85度若しくは110度以上にしたものが、温度変化による基材1とコーティング層2の剥離が生じにくくなる。すなわち、上記のように作製した種々の試験体に関し、耐熱サイクル特性を評価した。この耐熱サイクル性試験は、試験体を室温と450℃の温度サイクルを15回繰り返したものである。試験体の加熱、冷却は電気炉への出し入れによって行い、昇温、降温、保持時間は全て10分間とした。このような耐熱サイクル性試験の結果として、耐熱サイクル性と開先角度との関係を、図2に示す。ここで、耐熱サイクル性としては、基材1とコーティング層2の剥離が生じない熱サイクル回数を示しており、15回を示している開先角度では試験中に剥離が生じなかったことを示す。
【0028】
この図2に示す試験結果によれば、開先角度を25〜85度若しくは110度以上にしたものが、温度変化による基材1とコーティング層2の剥離が生じ難くなるので、かかるコーティング層2とすることによって、信頼性を向上させることができる。
【0029】
4.第4の実施の形態
4−1.構成
本発明の第4の実施の形態を、図3を参照して説明する。本実施の形態は、上記の第1の実施の形態と同様に、A6061材を基材1として、肉厚が3mm、開先角度3が30度となるように、13Crステンレス鋼のコーティング層2を溶射法によって形成した電気機器用コーティング部材である。但し、本実施の形態においては、図3に示すように、コーティング層2の端部に嵌合部4が設けられている。
【0030】
4−2.作用効果
以上のような本実施の形態によれば、以下に述べるように、コーティング層2の剥離、離脱を防止できる。すなわち、上記のように嵌合部4を設けた本実施の形態と、嵌合部4を設けない以外は本実施の形態と同様に作成した電気機器用コーティング部材とを試験体として、試験体の表面温度が650℃になるまで、バーナー加熱した後、水中で急冷する熱衝撃試験を行った。
【0031】
かかる試験の結果、嵌合部4を設けていない試験体は、コーティング層2が基材1から剥離、離脱したが、嵌合部4が設けられた試験体は、コーティング層2と基材1の間に亀裂が生じても、コーティング層2が基材1から剥離、離脱することはなかった。従って、コーティング層2の端部に嵌合構造を設けることにより、信頼性を向上させることができる。
【0032】
5.第5の実施の形態
5−1.構成
本発明の第5の実施の形態を、図1を参照して説明する。本実施の形態は、上記の第1の実施の形態と同様に、A6061材を基材1として、肉厚が3mm、開先角度3が30度となるように、コーティング層2を溶射法によって形成した電気機器用コーティング部材である。但し、本実施の形態においては、コーティング層2の材料を、銅、13Crステンレス鋼、炭素鋼、モリブデン、タングステンとしたものを、それぞれ作製した。
【0033】
5−2.作用効果
以上のような本実施の形態によれば、以下に述べるような作用効果が得られる。すなわち、上記のように種々の材料によってコーティング層2を作製した電気機器用コーティング部材を試験体として、上記の第1の実施の形態と同様の耐アーク性試験を実施した。その結果、コーティング材料を銅とした試験体では溶損が0.4mm、その他の材料では溶損が0.3mm以下であった。
【0034】
従って、コーティング層2が上述の材料であれば、基材1の耐アーク性を向上させることができる。なお、コーティング層2に高融点材料であるモリブデンやタングステンを使用した場合には、コストは高くなるが、融点が1400℃以上の13Crステンレス鋼、炭素鋼であれば、十分な耐アーク性が得られるとともに、安価に製造できる。また、アルミやアルミ合金を基材1とした場合には、銅をコーティング層2とした場合であっても、十分な効果が得られる。
【0035】
6.第6の実施の形態
本発明の第6の実施の形態について、図1を参照して説明する。本実施の形態は、A6061材を基材1として、肉厚が3mm、開先角度3が30度となるように、軟鋼のコーティング層2を形成した電気機器用コーティング部材である。但し、本実施の形態においては、コーティングプロセスを溶射、PVD(Physical Vapor Deposition)、メッキの3種類としたものをそれぞれ作製した。なお、溶射法はアーク溶射とした。
【0036】
以上のように作製したもののうち、PVD、メッキのプロセスを用いたものは、コーティング層2の成膜速度が非常に遅いため、肉厚3mmのコーティング膜を形成するためには非常に時間がかかる。これに対して、溶射プロセスを用いたものは、成膜速度が速いため、簡易に肉厚3mmのコーティング膜を形成することができる。従って、コーティングプロセスとして溶射を用いることにより、耐アーク性の高い電気機器用コーティング部材を安価に製造できる。
【0037】
7.第7の実施の形態
7−1.構成
本発明の第7の実施の形態について、図3を参照して説明する。本実施の形態は、上記の第4の実施の形態と同様に、A6061材を基材1として、肉厚が3mm、開先角度3が30度となるように、端部に嵌合部4を設けたコーティング層2を溶射法によって形成した電気機器用コーティング部材である。但し、本実施の形態においては、コーティング層2の材料を13Crステンレス鋼、炭素鋼としたものをそれぞれ作製した。
【0038】
7−2.作用効果
以上のように作製した電気機器用コーティング部材について、コーティング層2の表面の残留応力を、X線法を用いて測定した。その結果、13Crステンレス鋼のコーティング層2では、約100MPaの圧縮残留応力が発生していた。これに対して、炭素鋼のコーティング層2では約100MPaの引張残留応力が発生していた。一般に溶射プロセスにおいて、溶射された噴霧粒子は、基材1の表面で急激に凝固、収縮するため、溶射膜中には引張の残留応力が発生する。
【0039】
しかしながら、13Crステンレス鋼の場合は、凝固時にマルテンサイト相変態膨張が起こるために、圧縮残留応力が発生する。溶射膜中に引張残留応力が発生していると、基材1と溶射膜の界面に剥離が生じやすくなるため、引張の残留応力が作用している炭素鋼を溶射材料とした場合よりも、圧縮の残留応力が作用している13Crステンレス鋼を溶射材料とした場合の方が、基材1と溶射膜の界面での剥離が生じにくい。従って、13Crステンレス鋼を溶射材料とすることによって、信頼性を向上させることができる。
【0040】
8.第8の実施の形態
8−1.構成
本発明の第8の実施の形態を、図4及び図5を参照して説明する。本実施の形態は、図4に示すように、A6061材を基材1として、肉厚が1mmとなるように、13Crステンレス鋼のコーティング層2を溶射法によって形成した電気機器用コーティング部材の密着強度試験用試験片である。ここで、溶射プロセスとしては、ガス溶射、プラズマ溶射、アーク溶射の3プロセスを用いたものをそれぞれ作製した。
【0041】
8−2.作用効果
以上のように作製した試験片について、それぞれ密着強度試験を実施した。この密着強度試験は、基材1とコーティング層2の表面を接着剤で治具に固定し、引張試験を行うことによって、コーティング層2と基材1との密着力を測定することによって行なった。かかる密着強度試験の結果を、図5に示す。すなわち、図5に示すように、アーク溶射7を用いた場合によりも、ガス溶射5やプラズマ溶射6を用いた場合の方が密着力が高い。
【0042】
これは、アーク溶射7の場合には溶射皮膜の成膜速度が速すぎるので、基材1との十分な密着力が得られないためである。従って、溶射プロセスをガス溶射または、プラズマ溶射にすることにより、基材1とコーティング層2の界面での剥離が生じにくく、信頼性を向上させることができる。
【0043】
9.第9の実施の形態
9−1.構成
本発明の第9の実施の形態を、図4及び図6を参照して説明する。本実施の形態は、A6061材を基材1として、肉厚が1mmとなるように、13Crステンレス鋼のコーティング層2を溶射法によって形成した電気機器用コーティング部材の密着強度試験用試験片である。但し、本実施の形態においては、基材1とコーティング層2との密着力を高めるために、基材1にコーティング層2の材料と異なる100μmの溶射膜から成るボンド層を設けてから、上記のコーティング層2が形成されている。ここで、ボンド層の材料としてはニッケル−アルミ合金を用いたもの、ニッケル−クロム合金を用いたものをそれぞれ作製した。
【0044】
9−2.作用効果
以上のような本実施の形態による試験片と、ボンド層を設けない以外は本実施の形態と同様に作製した試験片とに対して、上記の第8の実施の形態における密着強度試験を実施した結果を、図6に示す。すなわち、図6に示すように、ボンド層を設けない試験片8よりも、ニッケル−アルミ合金をボンド層として設けた試験片9及びニッケル−クロム合金をボンド層として設けた試験片10の場合には、密着力が向上する。これは、ニッケルーアルミ合金若しくはニッケルークロム合金は溶射時に合金化発熱反応がおこるため、基材1との密着力が13Crステンレス鋼を直接溶射した場合よりも高まるためである。
【0045】
従って、ニッケルーアルミ合金若しくはニッケルークロム合金のボンド層を設けることによって、基材1とコーティング層2の界面での剥離が生じにくく、信頼性を向上させることができる。
【0046】
10.第10の実施の形態
10−1.構成
本発明の第10の実施の形態を、図4及び図7を参照して説明する。本実施の形態は、上記の第9の実施の形態と同様に、ニッケル−アルミ合金のボンド層を形成した試験片である。但し、本実施の形態においては、ニッケル−アルミ合金のボンド層の厚さを変化させたものをそれぞれ試験片として作製した。
【0047】
10−2.作用効果
以上のような本実施の形態による試験片に対して、上記の第8の実施の形態における密着強度試験を実施した結果を、図7に示す。すなわち、図7に示すように、ボンド層として厚さ5μm以上のボンド層の場合に、密着強度が向上する。従って、ボンド層の厚さを5μm以上にすることにより、信頼性を向上させることができる。なお、ここではボンド層材料としてニッケル−アルミ合金を用いた場合の結果を示したが、ボンド層材料としてニッケル−クロム合金を用いた場合にも同様なボンド層厚さの効果があることは確認済みである。
【0048】
11.第11の実施の形態
11−1.構成
本発明の第11の実施の形態を、図8を参照して説明する。本実施の形態は、A6061材を基材1として、肉厚が3mm、開先角度3が30度となるように、13Crステンレス鋼のコーティング層2をガス溶射によって形成した電気機器用コーティング部材である。但し、図8に示すように、溶射を施す基材1の表面には、溝加工部11が設けられている。なお、コーティング層2の端部には嵌合部は設けていない。
【0049】
11−2.作用効果
以上のように作製した本実施の形態と、溝加工部11が施されていない以外は本実施の形態と同様に作製された電気機器用コーティング部材を試験体として、上記の第3の実施の形態と同様の耐熱サイクル性試験を実施した。その結果、溝加工部11を施した試験体は20回の温度サイクルを繰り返した後も、コーティング層2と基材1との界面に亀裂は生じず、健全であった。これに対して、溝加工部11を施していない試験体は18回の温度サイクル後に界面で亀裂が生じた。従って、基材1の被溶射面に溝加工部11を施すことにより、コーティング層2と基材1との密着力が向上し、信頼性を高めることができる。
【0050】
12.第12の実施の形態
12−1.構成
本発明の第12の実施の形態を、図1及び図9を参照して説明する。本実施の形態は、A6061材を基材1として、肉厚が3mm、開先角度3が30度となるように、13Crステンレス鋼のコーティング層2をガス溶射によって形成した電気機器用コーティング部材である。但し、本実施の形態は、溶射条件を種々、変化させることにより、コーティング層2中における気孔率が異なるものをそれぞれ作製した。
【0051】
12−2.作用効果
以上のように作製した本実施の形態を試験体として、上記の第1の実施の形態と同様の耐アーク性評価試験を実施し、損耗した厚さを測定した。この試験の結果におけるコーティング層2中の気孔率と損耗厚さの関係を、図9に示す。すなわち、図9に示すように、気孔率が20%以下であると損耗厚さが少なく、良好な耐アーク性を示す。これは気孔率が20%を越えるとコーティング層2がアークに曝されたときに気孔内の空気の体積膨張が起こり、損耗を加速させるためである。従って、コーティング層2の気孔率を20%以下にすることにより、信頼性を高上させることができる。
【0052】
13.第13の実施の形態
本発明の第13の実施の形態を、図1を参照して説明する。本実施の形態は、A6061材を基材1として、肉厚が3mm、開先角度3が30度となるように、13Crステンレス鋼のコーティング層2をガス溶射によって形成した電気機器用コーティング部材である。但し、本実施の形態は、溶射時の冷却条件を変化させ、溶射完了時の基材1の温度が200℃以下になる場合と250℃程度になる場合で異なる試験体を作製した。
【0053】
この試験体の基材1におけるコーティング層2近傍の領域のビッカーズ硬さを測定した。その結果、溶射時の基材1の温度を200℃以下とした試験体では、溶射前と同じHv98を示したが、基材1の温度が250℃程度まで増加した試験体はHv75まで硬度が低下していた。このように、基材1の温度が上昇しすぎると、基材1の機械的強度が低下するため、信頼性の高い電気機器用コーティング部材を提供することができない。従って、溶射中の基材1の温度を200℃以下に抑制することにより、信頼性を向上させることができる。
【0054】
14.第14の実施の形態
14−1.構成
本発明の第14の実施の形態を、図1を参照して説明する。本実施の形態は、A5056材を基材1として、肉厚が3mm、開先角度3が150度となるように、13Crステンレス鋼のコーティング層2を形成した電気機器用コーティング部材である。但し、本実施の形態は、コーティング層2を溶湯鍛造にて形成したものである。この溶湯鍛造プロセスは、加熱した金型内に予めコーティング層2となる高融点材料を置いておき、その金型内に基材1となるアルミや銅の溶湯を注ぎ、油圧プレスにて加圧しながら凝固し、高融点材料を基材1で鋳包むことによって、コーティング層を作製するものである。
【0055】
14−2.作用効果
以上のように作製した本実施の形態と、展伸材であるA5056材から加工したアルミニウムのみの電気機器用コーティング部材とを試験体として、上記の第1の実施の形態と同様の耐アーク性評価試験を実施した。その結果、アルミニウムのみの試験体は、試験体の肉厚方向に7mm以上のアーク溶損が見られたが、本実施の形態による試験体のアーク溶損は0.3mm以下であった。このことから、溶湯鍛造プロセスを用いて、基材1でコーティング層2となる材料を鋳包むことにより、耐アーク性に優れ、安価な電気機器用コーティング部材を提供できる。
【0056】
15.第15の実施の形態
15−1.構成
本発明の第15の実施の形態を、図1を参照して説明する。本実施の形態は、C1100材を基材1として、肉厚が3mm、開先角度3が150度となるように、13Crステンレス鋼(SUS420)のコーティング層2を上記の第14の実施の形態と同様の溶湯鍛造プロセスによって形成した電気機器用コーティング部材である。
【0057】
15−2.作用効果
以上のように作製した本実施の形態と、コーティング層2の高融点材料として18Crステンレス鋼(SUS304)を用いた以外は本実施の形態と同様に作製したものとを試験体として、上記の第3の実施の形態と同様の耐熱サイクル性試験を、温度サイクルを5回繰り返すことによって行ない、その後、基材1とコーティング層2の界面についてカラーチェックを実施した。その結果、SUS420材を高融点材料とした試験体では界面に亀裂が発生していなかったが、SUS304材を高融点材料とした試験体の界面には亀裂が生じていた。
【0058】
これは、高融点材料の熱膨張係数の影響である。つまり、SUS420材の熱膨張係数は10.3×10−6/℃であり、基材1であるC1100材の熱膨張係数は16.8×10−6/℃であるため、基材1の方がコーティング材よりも熱膨張係数が大きい。基材1の熱膨張係数が大きいと、溶湯鍛造プロセスで鋳包む凝固時に基材でコーティング材を締め付けるため、コーティング材と基材の界面で圧縮残留応力が作用する。このため、熱サイクル試験において、界面で亀裂が生じ難い。これに対して、SUS304材の熱膨張係数は17.2×10−6/℃であるため、基材のC1100材の熱膨張係数よりも大きい。このため、溶湯鍛造プロセスにおいて、コーティング材と基材1の界面で引張残留応力が作用し、熱サイクル試験時に界面で亀裂が生じやすい。従って、高融点材料の熱膨張係数を基材1よりも小さくすることにより、信頼性を向上させることができる。
【0059】
16.第16の実施の形態
16−1.構成
本発明の第16の実施の形態を、図1を参照して説明する。本実施の形態は、A5056材を基材1として、肉厚が3mm、開先角度3が150度となるように、13Crステンレス鋼のコーティング層2を溶湯鍛造プロセスによって形成した電気機器用コーティング部材である。但し、本実施の形態においては、溶湯鍛造プロセスにおける金型温度やアルミ溶湯温度を変化させたものを試験片として種々作製した。
【0060】
16−2.作用効果
以上のように作製した試験体に対して、上記の第15の実施の形態と同様の熱サイクル性試験を行い、基材1とコーティング層2の界面についてカラーチェックを実施した。その結果、一部の試験体において、界面に亀裂が生じていた。ここで、亀裂が生じていた試験体と生じていない複数の試験体について、基材1とコーティング層2の断面における組織観察を、走査型電子顕微鏡にて行った。すると、亀裂の生じていない試験体の界面では、アルミと鉄の金属間化合物が全面にわたり生成されていたが、亀裂が生じた試験体の界面ではアルミと鉄の金属間化合物が生成されていない部分が見られた。
【0061】
従って、溶湯鍛造プロセス条件を制御し、基材1とコーティング層2の界面の全面にわたって金属間化合物層が形成されるように、溶湯鍛造プロセス条件を制御することによって、信頼性を高上させることができる。
【0062】
17.第17の実施の形態
17−1.構成
本発明の第17の実施の形態を、図1を参照して説明する。本実施の形態は、A5056材を基材1として、肉厚が3mm、開先角度3が150度となるように、13Crステンレス鋼のコーティング層2を溶湯鍛造プロセスによって形成した電気機器用コーティング部材である。但し、本実施の形態においては、溶湯鍛造時にコーティング層2となる高融点材料の表面に、予めZnメタライズ処理を施した後に、基材1で鋳包んだものを作製した。
【0063】
17−2.作用効果
以上のように作製した本実施の形態と、Znメタライズ処理を施さない以外は本実施の形態と同様に作製したものとを試験体として、複数個の試験体について、上記の第3の実施の形態と同様の熱サイクル性試験を、熱サイクルを20回繰り返すことによって行ない、その後、基材1とコーティング層2の界面についてカラーチェックを実施した。その結果、Znメタライズ処理を施さない一部の試験体で亀裂が見られたが、Znメタライズ処理を施した試験体では亀裂の発生はなかった。
【0064】
これは、基材1とコーティング層2の界面における金属間化合物の形成状態が影響している。つまり、金属間化合物は脆いため、界面の金属間化合物層が厚くなると、熱サイクル時に亀裂が発生しやすい。Znメタライズ処理は金属間化合物層の成長を抑制する効果があるため、溶湯鍛造時にコーティング層2となる高融点材料に、予めZnメタライズ処理を施すことにより、基材1とコーティング層2の界面で亀裂が発生しにくくなり、信頼性を高上させることができる。
【0065】
18.第18の実施の形態
18−1.構成
本発明の第18の実施の形態を、図1を参照して説明する。本実施の形態は、A5056材を基材1として、肉厚が3mm、開先角度3が150度となるように、13Crステンレス鋼のコーティング層2を上記の第14の実施の形態と同様の溶湯鍛造プロセスによって形成した電気機器用コーティング部材である。但し、本実施の形態においては、溶湯鍛造時に、コーティング層2となる高融点材料の表面に、予めブラストによる粗面化処理を施した後、基材1で鋳包んだものを作製した。
【0066】
18−2.作用効果
以上のように作製した本実施の形態と、粗面化処理を施さない以外は本実施の形態と同様に作製したものとを試験体として、複数個の試験体について、上記の第3の実施の形態と同様の耐熱サイクル性試験を、熱サイクルを10回繰り返すことによって行ない、その後、基材1とコーティング層2の界面についてカラーチェックを実施した。その結果、粗面化処理を施していない一部の試験体に亀裂の発生が認められた。これに対して、粗面化処理を施した試験体では亀裂の発生は認められなかった。これは、溶湯鍛造前に、コーティング層2となる高融点材料に粗面化処理を施すことにより、基材1とコーティング層2との界面において、金属間化合物が形成され、基材1とコーティング層2が接合する面積が増大するために、基材1とコーティング層2の界面において、亀裂が発生しにくくなるためである。従って、溶湯鍛造プロセスにおいて、予めコーティング層2となる材料に粗面化処理を施すことにより、信頼性を向上させることができる。
【0067】
19.第19の実施の形態
本発明の第19の実施の形態を、図1及び図10を参照して説明する。本実施の形態は、A5056材を基材1として、肉厚が3mm、開先角度3が150度となるように、13Crステンレス鋼のコーティング層2を溶湯鍛造プロセスによって形成した電気機器用コーティング部材である。但し、本実施の形態は、溶湯鍛造プロセスにおいて、金型から取り出した後の250℃以下における冷却時の降温速度を変化させて、試験片を複数作製した。なお、降温速度の制御はオーブン中での温度制御にて行った。
【0068】
この複数個の試験体に対して、超音波探傷試験を行なうことにより、基材1とコーティング層2の界面の欠陥検出を行った結果を、図10に示す。なお、図10は、横軸が250℃以下の降温速度(℃/h)、縦軸が欠陥発生率(%)を示す。すなわち、図10に示すように、降温速度を200℃/h以下にすることにより、欠陥の発生が無くなる。これは溶湯鍛造プロセスにおてい、冷却速度が速いと、基材1とコーティング層2となる高融点材料の熱膨張係数差により、その界面において熱応力が発生し、基材1とコーティング層2の界面にて、亀裂が生じ、欠陥が検出されるためである。従って、溶湯鍛造プロセスの冷却時において、250℃以下の降温速度を200℃/h以下にすることにより、信頼性を向上させることができる。
【0069】
20.第20の実施の形態
20−1.構成
本発明の第20の実施の形態を、図11を参照して説明する。すなわち、本実施の形態においては、上記の実施の形態で説明した電気機器用コーティング部材を、電力用ガス遮断器へ適用したものである。すなわち、消弧性のガスが充填されたガスタンク20内に、極間絶縁筒16及び対地絶縁筒19が内蔵されている。極間絶縁筒16内には可動側支え17を介して対地絶縁筒19に支持された可動接触子14、ノズル15及び可動電極23から成る可動接触子部と、上記の実施の形態で示した電気機器用コーティング部材12(コーティング層2が施されている)によって支持された固定接触子13及び固定電極18から成る固定接触子部とが、対向配置されている。なお、可動接触子部と固定接触子部は、それぞれブッシング変流器21及びブッシング22に接続されている。
【0070】
20−2.作用効果
以上のような本実施の形態の作用効果を説明する。すなわち、本実施の形態においては、電流遮断時には固定電極18と可動電極23の間に発生するアークをノズル15内から噴出させる絶縁ガスにより、吹き消して電流を遮断する。この場合、アーク熱がガス流方向に流れ、その近傍での部材のアーク溶損が問題となることがある。特に、ガス遮断器を小型縮小化させたときに、アーク溶損が問題となる。
【0071】
この場合、例えば、図11に示すように、高融点金属によるコーティング層2を施した電気機器用コーティング部材12を用いた場合、アークによるこの部材の溶損を抑制することができる。しかし、コーティングを施さないアルミ部材または銅部材を用いた場合には、アーク熱による大きな溶損が起こり、部材の機械的強度の低下とともに蒸発金属によ絶縁ガスの絶縁性の低下が起こるため、ガス遮断器が十分な遮断性能を持つことができない。従って、電力用ガス遮断器に、上記の電気機器用コーティング部材12を適用することにより、ガス遮断器の小型縮小化と信頼性の向上を達成することができる。
【0072】
21.他の実施の形態
本発明は上記のような実施の形態に限定されるものではない。例えば、上記の第1の実施の形態においては、基材をA6061材若しくはC1020材とした時の結果を示し、第2〜13の実施の形態においては、基材をA6061材とした時の結果を示し、第14〜19の実施の形態においては、基材をC1100材やA5056材とした時の結果を示したが、その他のアルミ、アルミ合金、銅若しくは銅合金を基材とした場合にも、同様の作用効果が得られることは確認済みである。
【0073】
また、コーティング層の材料も、上記の実施の形態で示したものには限定されず、銅、鉄、クロム、コバルト、ニッケルおよびその合金であっても、安価で耐アーク性の高い製品を製造することができる。
【0074】
また、上記の実施の形態においては、コーティング層の製造プロセスとして、溶射、溶湯鍛造を適用した場合について説明したが、その他にも、複合化のための接合プロセスとして、摩擦圧接プロセスを用いることも有効である。すなわち、図12に示すように、アルミ、アルミ合金、銅若しくは銅合金の基材1に、これよりも高融点金属であるコーティング層2を摩擦圧接で形成することにより、電気機器用コーティング部材を作製する。
【0075】
ここで、一般に異種材料間の接合においては、ロウ付けが多用されるが、図12に示すような電気機器用コーティング部材の作製にロウ付けを適用した場合、接合層となるロウ材の融点が低いため、アークに曝されると、基材1の融点以下の温度でロウ材が溶融し、ロウ付けした高融点金属が離脱する可能性がある。これに対して、摩擦圧接の場合、接合層を介しない直接接合であるため、基材1が融点以上になるまでは、高融点金属が離脱する可能性が無い。さらに、摩擦圧接プロセスは瞬間的な摩擦熱により接合するので、処理時間が短く、安価に部材を製造することができ、また、基材1への熱影響が少ないので、基材1が軟化する問題は生じない。従って、摩擦圧接によって、基材1にコーティング層2を接合することにより、安価で信頼性の高い製品とすることができる。
【0076】
また、上記の実施の形態においては、コーティング層の製造プロセスとして、溶射、溶湯鍛造若しくは摩擦圧接を用いた場合を説明したが、その他の製造プロセスとして、ガス溶接肉盛り、アーク溶接肉盛り、レーザ溶接肉盛り若しくは電子ビーム肉盛りのプロセスを用いることも有効である。すなわち、アルミ、アルミ合金、銅若しくは銅合金の基材1に、高融点金属であるコーティング層2を肉盛りすることによって、電気機器用コーティング部材を作製する。この際、肉盛りする熱源として、ガス、アーク、レーザ若しくは電子ビームを用いる。
【0077】
以上のように作製した各部材に対して、上記の第1の実施の形態と同様の耐アーク性評価試験を実施した結果、良好な耐アーク性を示した。従って、ガス溶接肉盛り、アーク溶接肉盛り、レーザ溶接肉盛り若しくは電子ビーム肉盛りを用いて、基材1にコーティング層2を肉盛ることにより、信頼性を向上させることができる。
【0078】
【発明の効果】
本発明によれば、電気機器を構成する部材にコーティング層を形成することによって、耐アーク性を向上した電力機器用コーティング部材及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、製造コストが安価な電力機器用コーティング部材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電気機器用コーティング部材の実施の形態を示す平面図(A)及び断面図(B)
【図2】本発明の電気機器用コーティング部材の実施の形態におけるコーティング開先角度と耐熱サイクル性の関係を示す図
【図3】本発明の電気機器用コーティング部材の嵌合部を形成した実施の形態を示す断面図
【図4】本発明の電気機器用コーティング部材の実施の形態における密着強度試験片を示す断面図
【図5】本発明の電気機器用コーティング部材における溶射プロセスと密着力の関係を示す図
【図6】本発明の電気機器用コーティング部材におけるボンド層条件と密着力の関係を示す図
【図7】本発明の電気機器用コーティング部材におけるボンド層厚さと密着力の関係を示す図
【図8】本発明の電気機器用コーティング部材における溝加工を施した実施の形態を示す断面図
【図9】本発明の電気機器用コーティング部材におけるコーティング膜気孔率と損耗厚さの関係を示す図
【図10】本発明の電気機器用コーティング部材における溶湯鍛造降温速度と欠陥発生率の関係を示す図
【図11】本発明の電気機器用コーティング部材を適用した電力用遮断器を示す模式図
【図12】本発明の電気機器用コーティング部材の他の実施の形態を示す平面図(A)及び断面図(B)
【符号の説明】
1…基材
2…コーティング層
3…開先角度
4…嵌合部
11…溝加工部
12…電気機器用コーティング部材
13…固定接触子
14…可動接触子
15…ノズル
16…極間絶縁筒
18…固定電極
19…対地絶縁筒
20…ガスタンク
21…ブッシング変流器
22…ブッシング
23…可動電極
Claims (12)
- 少なくともアルミニウム、アルミニウム合金、銅若しくは銅合金を含む基材の一部に、前記基材よりも高融点の異種金属によるコーティング層が設けられ、
前記コーティング層の膜厚は、0.3〜10mmであり、
前記コーティング層の端部における前記基材との自由縁をなす角度が、110度以上若しくは25度〜85度であり、
前記コーティング層が、溶射法により形成され、
前記コーティング層における前記基材側に、ボンド層としてニッケル−アルミ合金若しくはニッケル−クロム合金が形成されていることを特徴とする電気機器用コーティング部材。 - 前記コーティング層の端部に、嵌合部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の電気機器用コーティング部材。
- 前記ボンド層の厚さが、5μm以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の電気機器用コーティング部材。
- 溝加工を施した前記基材に対して、前記コーティング層が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気機器用コーティング部材。
- 前記コーティング層中の気孔率が20%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気機器用コーティング部材。
- 少なくともアルミニウム、アルミニウム合金、銅若しくは銅合金を含む基材の一部に、前記基材よりも高融点の異種金属によるコーティング層が設けられ、
前記コーティング層の膜厚は、0.3〜10mmであり、
前記コーティング層の端部における前記基材との自由縁をなす角度が、110度以上若しくは25度〜85度であり、
前記高融点の異種金属の熱膨張係数が、前記基材よりも小さく、
前記コーティング層が、溶湯鍛造プロセスにより形成され、
この溶湯鍛造プロセスにおいて前記高融点の異種金属を鋳包むことにより、前記コーティング層が形成されていることを特徴とする電気機器用コーティング部材。 - 前記コーティング層と前記基材との間に、金属間化合物層が形成されていることを特徴とする請求項6記載の電気機器用コーティング部材。
- 前記高融点の異種金属材料の表面に亜鉛層を設けてから、溶湯鍛造プロセスで鋳包むことにより、前記コーティング層が形成されていることを特徴とする請求項6又は請求項7記載の電気機器用コーティング部材。
- 前記高融点の異種金属材料の表面に、粗面化処理を施してから、溶湯鍛造プロセスで鋳包むことにより、前記コーティング層が形成されていることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の電気機器用コーティング部材。
- 電力用遮断器の接点周辺部材に使用されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の電気機器用コーティング部材。
- 請求項4記載の電気機器用コーティング部材を製造する方法において、溶射中の前記基材温度を200℃以下に制御することを特徴とする電気機器用コーティング部材の製造方法。
- 請求項6〜10のいずれか1項に記載の電気機器用コーティング部材を製造する方法において、前記溶融鍛造プロセスの冷却時において、250℃以下の降温速度を200℃/h以下とすることを特徴とする電気機器用コーティング部材の製造方法。
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