JP3651819B2 - 銅または銅合金表面の改質方法 - Google Patents

銅または銅合金表面の改質方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高温、高磨耗、高腐食環境下で使用されるために冷却構造を有する銅または銅合金、特に溶鋼を鋳造するための連続鋳造用鋳型や転炉のランスの表面改質方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
銅または銅合金は他の金属と比べて安価で、かつ熱伝導度が高いため、水冷などの冷却構造を配して高温環境下で使用されることがある。例えば溶鋼を鋳造する連続鋳造用の鋳型や、溶鋼をこの鋳型に注入する転炉のランスに用いられる。しかし、銅または銅合金は硬度が低く、磨耗を受けやすい。また、酸などの腐食も受けやすい。そのため銅を高温、高磨耗、高腐食環境で使用するには銅の表面を改質する必要がある。
【0003】
こうした問題を解決するための技術として、例えば、特公平3−37454号公報、特開平1−186245号公報、特公昭56−1978号公報、特公平6−36963号公報に記載されているように、硬質の被膜を銅の表面に形成する溶射技術などの開発がなされてきた。また、溶射の被膜と母材の密着性が低いという課題を克服するために、特開昭58−192661号公報、特開昭62−253758号公報に記載されているように、溶射後に熱処理を加えるフュ−ジング処理技術の開発もなされており、ここでは熱処理の加熱源に炉、電子ビ−ムあるいはレ−ザ−を用いている。また、硬質被膜の形成手段としては肉盛も代表的な技術である。これは粉末、線あるいは棒形状の材料を、プラズマ、ア−ク、ガスによって加熱し、母材に溶着させるものである。
【0004】
銅または銅合金が溶鋼の連続鋳造用の鋳型である場合、溶射材料としてはNi、Ni基合金、Cr、Co基合金などが用いられる。さらに、特開平1−186245号公報には、これら金属にWCやTiCを添加した金属炭化物系の材料が記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来の溶射技術では、密着強度は280MPa程度で、かつ界面が脆性破壊をするために信頼性が高くない。一方、溶射後の熱処理(フュ−ジング処理技術)では、溶密着強度は350MPaと高く、かつ母材と被膜の界面は延性破壊を呈するという大きな利点がある。しかし、この場合、溶射と後処理という2工程が必要で施工時間が長くなること、溶射被膜中の酸素混入量が数百ppm以上になるため熱処理で表面に大きな凹凸やボイドが発生すること、溶射被膜の膜の厚みの制御が20%程度であるため溶融処理時の溶込み深さの精密な制御(20%未満での制御)が極めて困難であることなど課題が多い。
【0006】
また、従来からの肉盛では、熱伝導の高い銅表面へ直接肉盛をすることは困難である。加えて粉末、線あるいは棒形状の材料の肉盛では被膜形成速度が低いため、施工時間の短縮を図る必要がある。
【0007】
特に連続鋳造用鋳型へ用いる材料は、セラミックスを添加することによって耐磨耗性が大幅に改善されてきた。しかし、耐腐食性や耐局部電気腐食性という面では、最も耐沸酸性の高いNi基合金であってもこれまでの成分では十分とは言い難い。即ち、耐腐食性の優れたNi基合金にセラミックスを添加した材料の開発が必要である。
【0008】
従って、本発明の目的は、銅または銅合金母材と密着強度が高く、かつ耐磨耗性と耐腐食性を兼ね備えた被膜を短時間で形成する表面改質方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は以下の( ) ( )の通りである。
【0010】
( ) 銅または銅合金の表面の一部または全部に、Niを93wt%以上含み、その厚みが0.05〜5mmであるメッキを施し、このメッキ上に、Niを40%以上含むNi基合金である板形状材料を電子ビームまたはレーザーを用いて肉盛し、密着強度が高くかつ耐磨耗性と耐腐食性が優れた被膜を形成することを特徴とする銅または銅合金表面の改質方法。
【0011】
( ) Ni基合金がハステロイC(53Ni19Mo17Cr)、インコネル(80Ni13Cr)、モネル(65Ni31Cu4(Fe+Mn))、NiCoCrAlY(23Co20Cr8.5Al0.6Y)、NiCr(50Ni50Cr)であることを特徴とする前記( )の銅または銅合金表面の改質方法。
【0012】
( ) Ni基合金にCa、Ta、Hfの少なくとも何れか一種類を合計で10%以下添加することを特徴とする前記( )または( )の銅または銅合金表面の改質方法。
【0013】
( ) Ni基合金にCr 3 2 、WC、SiCの炭化物セラミックスあるいはSi 3 4 、TiNの窒化物セラミックスを 1 〜50wt%添加することを特徴とする前記( ) ( ) のいずれかの銅または銅合金表面の改質方法。
【0014】
( ) 肉盛の際、板形状材料の外周を仮付けし、次いで、肉盛幅が5〜20mmでかつ肉盛部を重ね合わせて板の全面を溶接することを特徴とする前記( ) ( ) のいずれかの銅または銅合金表面の改質方法。
【0015】
( ) 銅または銅合金の母材が連続鋳造用鋳型であることを特徴とする前記( ) ( ) のいずれかの銅または銅合金表面の改質方法。
【0018】
銅または銅合金(以下単に銅合金という)の表面あるいは一部にメッキを予め施すのは、熱伝導度が高く、かつ肉盛材料のヌレ性が悪い銅合金への肉盛を可能とするためである。
【0019】
板形状材料を用いるのは、▲1▼粉末、棒、線形状の材料と比べて、大面積に瞬時に肉盛でき、▲2▼板厚みの精度を溶射被膜と比べて1桁以上高くでき、肉盛時のバラツキを抑制でき、▲3▼材料中の酸素量を低減できるため(このためには溶解材やHIP材が望ましい)である。
【0020】
電子ビ−ムまたはレ−ザ−ビ−ムを加熱源に用いるのは、ア−クやプラズマと比べてビ−ムのエネルギ−密度が高いために母材への熱伝導ロスが低減し、かつ母材への熱影響または熱変形が抑制できるからである。
【0021】
メッキ材料にNiを93%以上含むのは、▲1▼Niが他のメッキ材料よりも安価であり、▲2▼肉盛材料とのヌレ性がよいために肉盛時に肉盛層が比較的平滑になり、▲3▼硬度がHvで300程度であり、肉盛時にメッキが割れにくいからである。さらにこのメッキ厚みを0.05mm以上にするのはヌレ性を確保するためで、5mm以下にするのはコストおよび銅合金本来の熱伝導性を維持するためである。
【0022】
肉盛時に仮付けを行ってから肉盛を行うのは、熱応力によって板形状材料が歪み、未肉盛部にクラック・材料が飛散するのを抑制するためである。
【0023】
肉盛に際し、ビ−ムのオシレ−ション幅を5mm以上にすると処理時間を短縮できる。一方、ビ−ム幅が広いと処理部表面の表面張力差が大きくなり、処理部表面の凹凸が大きくなるため、20mm以下にする。
【0024】
肉盛が部分的であると、母材と金属的に接合していない箇所で母材との密着性や母材への熱伝導性が著しく低くなるため、肉盛部を重ね合わせて板形状材料の全面を肉盛する。
【0025】
尚、特に電子ビ−ムを用いる場合のオシレ−ションのモ−ドとしては、端部の溶け込み形状を良好にする三角波にすることが好ましい。また、処理速度も金属蒸気の排出のために100cm/min以下に、かつ周囲のガス巻き込みやCOガスの発生を抑制するために25cm/min以上にすることが好ましい。
【0026】
連続鋳造用鋳型に用いる場合の肉盛材料の主成分としては、耐沸酸性のためにNi基合金を用い、かつ下地のNiメッキとの局部電気腐食量を低減させるために(材料にクラックが発生しても下地のNiメッキととも金であるために腐食電位小さく、電気腐食速度が低いため)Niを40%以上有する材料が好ましい。この代表的な市販の材料としてはハステロイC、インコネル、モネル、NiCoCrAlYがある。さらに耐沸酸性をあげるためにはCa、Ta、Hfを添加することが望ましいが、材料の価格や機械的特性(硬度、靭性)を保つためにはこれら添加量の合計を10%以下に抑制する。また、これらの材料の耐磨耗性を向上させるためには、硬質の炭化物(Cr3 2 、WC、SiC)あるいは窒化物(Si3 4 、TiN)を1%以上添加する。しかし、添加量を増すと耐磨耗性の向上に相反して靭性が低下する。靭性が急激に減少する添加量は50%であるため、添加量は50%以下にする。また、こうした材料の厚みは耐腐食、磨耗効果を得るためには0.1mm以上で、鋳型の抜熱効果を確保するために2.0mm以下にすることが好ましい。
【0027】
【実施例1】
図1(a)に示すように、銅または銅合金1にNiメッキ2を施す。Niメッキ2の表面に、図1(b)に示すように、板形状材料3を4枚載せ、その外周5bを電子ビーム4によって仮付けする。この時の電子ビ−ム4のオシレ−ション6bは円波形とする。次いで、図1(c)に示すように、肉盛方向5cに対して垂直方向のオシレ−ション6cを行いながら、電子ビ−ム4によって板形状材料3を肉盛する。この時形成した処理部7のビ−ドを重ねて板形状材料3全体を肉盛する。
【0028】
図2は肉盛部の断面の概略図である。処理部7を重ね合わせて板形状材料3全体を肉盛するが、この時、板形状材料3とNiメッキ2の境界が溶融するよう重ね部8を形成する。
【0029】
【実施例2】
各種材料の耐腐食試験を行った。銅合金表面にNiメッキを形成し、各種板形状材料を肉盛して、80℃で耐酸腐食試験を行った結果を表1に示す。Ni基合金、サ−メットは総合で腐食性が良好であった。Co系合金は何れの酸環境下でも耐腐食性が劣った。Cr系は耐酸腐食性は良好であるものの、クラック部位での電気腐食が大きかった。Ni基合金が耐腐食性に優れていた。
【0030】
【表1】
Figure 0003651819
【0031】
【実施例3】
幅2500mm×高さ900mmの長辺鋳型の下端部(高さ300mm)への施工条件を以下に記す。
【0032】
・Ni電気メッキ:従来の手法と同様に鋳型表面を酸洗した後、速やかにメッキ浴中に浸し、鋳型に通電し平均厚み2mmのNiメッキを形成した。
【0033】
・板形状材料:サイズは100×50×t0.7mmで、材質はNi23Co20Cr8.5Al0.6Y+4Ta+2Caで、枚数は150枚とした。
【0034】
・電子ビ−ム処理条件を表2に示す。
【0035】
【表2】
Figure 0003651819
【0036】
・溶接後の母材の熱変形量:鋳型の両端(幅2600mm)を直線で結んだ線と中心部のたわみ量の変化で定義した変形量は70μm以下であった。
【0037】
以上の条件で作製した溶射鋳型を実際の鋳型として用いて、150トンの鋳造を3000チャ−ジ行うことができ、従来のCrメッキを施した鋳型と比べて、寿命が4倍に向上した。
【0038】
【発明の効果】
本発明により、熱変形が無く、耐磨耗性の優れた鋳型等の製造が可能となり、従来よりも鋳型等の寿命が延びることにより、鋳型等の維持に要するコストの大幅な削減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】電子ビ−ムを用いて板形状材料を肉盛する本発明の概略を示す図である。
【図2】肉盛部の断面の概略図である。
【符号の説明】
1 銅または銅合金
2 Niメッキ
3 板形状材料
4 電子ビ−ム
5b 外周
5c 肉盛方向
6b オシレ−ション
6c オシレ−ション
7 処理部
8 重ね部

Claims (6)

  1. 銅または銅合金の表面の一部または全部に、Niを93wt%以上含み、その厚みが0.05〜5mmであるメッキを施し、このメッキ上に、Niを40%以上含むNi基合金である板形状材料を電子ビームまたはレーザーを用いて肉盛し、密着強度が高くかつ耐磨耗性と耐腐食性が優れた被膜を形成することを特徴とする銅または銅合金表面の改質方法。
  2. Ni基合金がハステロイC(53Ni19Mo17Cr)、インコネル(80Ni13Cr)、モネル(65Ni31Cu4(Fe+Mn))、NiCoCrAlY(23Co20Cr8.5Al0.6Y)、NiCr(50Ni50Cr)であることを特徴とする請求項記載の銅または銅合金表面の改質方法。
  3. Ni基合金にCa、Ta、Hfの少なくとも何れか一種類を合計で10%以下添加することを特徴とする請求項1または2記載の銅または銅合金表面の改質方法。
  4. Ni基合金にCr 3 2 、WC、SiCの炭化物セラミックスあるいはSi34 、TiNの窒化物セラミックスを1〜50wt%添加する ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の銅または銅合金表面の改質方法。
  5. 肉盛の際、板形状材料の外周を仮付けし、次いで、肉盛幅が5〜20mmでかつ肉盛部を重ね合わせて板の全面を溶接することを特徴とする請求項1 〜4のいずれかに記載の銅または銅合金表面の改質方法。
  6. 銅または銅合金の母材が連続鋳造用鋳型であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の銅または銅合金表面の改質方法。
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