JP4340485B2 - 炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭素繊維強化アルミニウム基複合材料およびその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属マトリックス中に、強化材として炭素繊維を含有させてなる炭素繊維強化金属基複合材料は、高い機械的強度と優れた軽量性とを併せ持ち、たとえば、電子部品材料、航空機、自動車などの輸送機器の部品、ゴルフクラブのシャフトおよびヘッド、テニスラケット、釣竿などのスポーツまたはレジャー用品といった広範な分野で、その応用が図られている。
【0003】
炭素繊維強化金属基複合材料の中でも、炭素繊維強化アルミニウム基複合材料は、半導体と同程度の熱膨張係数を有し、純粋なアルミニウムと同等の熱伝導率を示し、しかも切削加工が容易であることから、たとえば電子部品材料として大きな注目を集めている。
【0004】
従来、炭素繊維強化アルミニウム基複合材料は、たとえば、炭素繊維からなる予備成形体に、溶湯鍛造によってアルミニウム溶湯を加圧含浸させることによって製造される(たとえば、特許文献1、非特許文献1参照)。しかしながら、従来の方法では、炭素繊維からなる予備成形体にアルミニウム溶湯を含浸させる前に、炭素繊維とアルミニウム溶湯との濡れ性を高め、アルミニウム溶湯を予備成形体に効率良く含浸させるために、また得られる炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の熱伝導率などの物性を向上させるために、予備成形体を3000℃前後の非常に高い温度で予備加熱することが必要である。このような予備加熱は、特殊な加熱装置を必要とし、しかも3000℃前後まで昇温させるには長い時間を要するので、製造コストが高騰するという問題がある。さらにそれだけではなく、3000℃前後の高温は、予備成形体に含まれる炭素繊維に大きな損傷を与え、炭素繊維を著しく脆化させる。その結果、炭素繊維が本来有する補強材としての性能が顕著に損なわれ、得られる炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の機械的強度が充分に向上しないという問題がある。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−58255号公報
【非特許文献1】
津島栄樹、外1名「炭素繊維の応用事例−炭素基アルミニウム複合材料」、工業材料、1999年3月、第47巻、第3号、p.65−68
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、高い機械的強度と軽量性とを併せ持ち、切削加工性に優れる炭素繊維強化アルミニウム基複合材料および、該炭素繊維強化アルミニウム基複合材料を3000℃前後という非常に高温での予備加熱を行うことなく、効率良くかつ低コストで製造する方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属マトリックス中に、強化材として、アルミナが被覆された炭素繊維を含有することを特徴とする炭素繊維強化アルミニウム基複合材料である。
【0008】
本発明に従えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属マトリックス中に、アルミナが被覆された炭素繊維を含有させることによって、従来の炭素繊維強化アルミニウム基複合材料、すなわち予備成形体に3000℃前後の予備加熱処理を施した後にアルミニウムまたはアルミニウム合金を含浸させて得られる複合材料に比べ、機械的強度がさらに高く、軽量性、熱膨張係数、熱伝導率などの物理的特性および切削加工性が同等またはそれ以上である炭素繊維強化アルミニウム基複合材料が提供される。
【0009】
また本発明の炭素基含有複合材料は、アルミナが被覆された炭素繊維の含有量が、アルミニウムまたはアルミニウム合金全量の15〜70体積%(15体積%以上70体積%以下)であることを特徴とする。
【0010】
本発明に従えば、本発明の炭素繊維強化アルミニウム基複合材料において、アルミナが被覆された炭素繊維の含有量を、アルミニウムまたはアルミニウム合金全量の15〜70体積%にすることによって、その軽量性、物理的特性、切削加工性などを損なうことなく、機械的強度を向上させることができる。
【0013】
本発明は、アルミナ前駆体が被覆された炭素繊維開繊糸を含む予備成形体に、600〜1200℃(600℃以上1200℃以下)の温度下に予備加熱を施したのち、アルミニウムまたはアルミニウム合金を溶湯鍛造により含浸させることを特徴とする炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の製造法であって、該アルミナ前駆体が被覆された炭素繊維開繊糸が、炭素繊維開繊糸をアルミニウムアルコキシドの濃度が0.01〜5重量%であるアルミニウムアルコキシド溶液中に浸漬した後、引き上げて乾燥し加熱することにより得られるものであることを特徴とする炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の製造法である。
【0014】
本発明に従えば、炭素繊維にアルミナ前駆体を被覆し、このアルミナ前駆体被覆炭素繊維を用いて予備成形体を作成することによって、予備成形体の予備加熱温度を、従来法の3000℃前後の高温から、600〜1200℃という相対的に非常に低い温度に下げることができるとともに、予備加熱温度を下げることによって、炭素繊維の脆化が防止され、得られる炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の物理的特性、切削加工性などを損なうことなく、機械的物性をさらに向上させることができる。なお、アルミナ前駆体被覆炭素繊維のアルミナ前駆体は、予備加熱によってアルミナに変換される。
【0015】
本発明においてこのような優れた効果が得られる理由は明らかではないけれども、炭素繊維をアルミナで被覆することによって、炭素繊維とアルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯との濡れ性が向上し、従来のように予備成形体を3000℃前後という高温で予備加熱する必要がなくなるので、予備加熱による炭素繊維の脆化が防止され、炭素繊維が本来有する強化材としての性能がほぼ充分に発揮されることによるものであると推測される。
【0016】
また本発明の製造法は、アルミナ前駆体が被覆された炭素繊維が、炭素繊維とアルミニウムアルコキシド溶液との反応により得られることを特徴とする。
【0017】
本発明に従えば、炭素繊維にアルミナ前駆体を被覆するに際しては、炭素繊維を、アルミニウムアルコキシドの溶液にて処理する方法、すなわち溶媒中にて炭素繊維とアルミニウムアルコキシドとを接触させ、反応させるのが好ましい。これによって、得られる炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の諸物性、特に機械的強度を向上させることができる。ここでアルミナ前駆体とは、たとえば、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム含有化合物である。
【0018】
また本発明の製造法は、前述のアルミニウムアルコキシド溶液が、アルミニウムアルコキシド、アミノ基またはグリシドキシ基が置換した炭素数1〜4のアルキル基と炭素数1〜4のアルコキシ基とが置換したアルキルアルコキシシラン、および有機溶剤を含有することを特徴とする。
【0019】
本発明に従えば、アルミニウムアルコキシド溶液として、アルミニウムアルコキシド、アミノ基またはグリシドキシ基が置換した炭素数1〜4のアルキル基と炭素数1〜4のアルコキシ基とが置換したアルキルアルコキシシラン、および有機溶剤を含むものを使用することによって、炭素繊維表面に形成される、アルミナを含有する被膜の強度および均一性がさらに向上し、予備加熱による炭素繊維の脆化がさらに防止されるので、得られる炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の諸物性、特に機械的強度を向上させることができる。
【0020】
また本発明の製造法は、炭素繊維が炭素繊維開繊糸であることを特徴とする。本発明に従えば、炭素繊維として炭素繊維開繊糸を用いることによって、アルミナを含有する被膜の均一性ひいてはマトリックス金属の含浸性がさらに一層向上し、得られる炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の諸物性のさらなる向上をもたらす。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の炭素繊維強化アルミニウム基複合材料は、たとえば、アルミナ前駆体が被覆された炭素繊維を含む予備成形体を600〜1200℃、好ましくは700〜900℃の温度下に予備加熱した後、この予備成形体にアルミニウムまたはアルミニウム合金を溶湯鍛造法により含浸させることによって製造できる。
【0022】
アルミナ前駆体が被覆された炭素繊維は、たとえば、溶媒中にて炭素繊維とアルミニウム含有化合物とを反応させる溶液反応法(ゾル−ゲル法)、炭素繊維とアルミニウム含有化合物とを混合し、この混合物を酸化性雰囲気中で加熱処理する方法などにより製造することができる。これらの方法の中でも、アルミニウムまたはアルミニウム合金溶湯に対する炭素繊維の耐久性を向上させ、ひいては得られる炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の諸物性、特に機械的強度を向上させることなどを考慮すると、溶液反応法が好ましい。
【0023】
溶液反応は、公知の方法に従って実施できる。たとえば、アルミニウム含有化合物としてアルミニウムアルコキシドを用い、アルミニウムアルコキシドを適当な有機溶剤に溶解させ、この溶液と炭素繊維とを混合し、アルミニウムアルコキシドと炭素繊維とを接触させればよい。このとき、アルミニウムアルコキシドの溶液には、炭素繊維の表面に形成されるアルミナ含有被膜の均一性および強度を向上させるために、アミノ基またはグリシドキシ基が置換した炭素数1〜4のアルキル基と炭素数1〜4のアルコキシ基とが置換したアルキルアルコキシシラン(以後特に断らない限り「オルガノシラン化合物」と称す)が含まれているのが好ましい。
【0024】
アルミニウムアルコキシドとしては公知のものを使用でき、たとえば、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムsec−ブトキシドなどの、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖状アルキルであるアルミニウムアルコキシドが挙げられる。アルミニウムアルコキシドは1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。アルミニウムアルコキシドの溶液における、アルミニウムアルコキシドの含有量は特に制限されず、アルミニウムアルコキシド自体の種類、有機溶剤の種類、オルガノシラン化合物を併用する場合のその種類、得ようとする炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の用途などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択できるけれども、通常は0.01〜5重量%、好ましくは0.03〜3重量%である。0.01重量%未満では、アルミニウムアルコキシドの添加効果が充分に発揮されず、予備成形体の予備加熱温度を充分に下げることができない可能性がある。5重量%を大幅に超えると、アルミニウムアルコキシド溶液の分散性が低下し、また、アルミニウムアルコキシドが大気中の水分と反応して析出し、炭素繊維表面に被覆されるアルミニウムアルコキシドの量が減少し、充分な強度を有するアルミナ被膜が形成できないおそれがある。
【0025】
アルミニウムアルコキシドと併用することがあるオルガノシラン化合物である、アミノ基またはグリシドキシ基が置換した炭素数1〜4のアルキル基と炭素数1〜4のアルコキシ基とが置換したアルキルアルコキシシランとしては公知のものを使用でき、たとえば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。オルガノシラン化合物は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。オルガノシラン化合物の含有量は特に制限されず、オルガノシラン化合物自体の種類、アルミニウムアルコキシドの種類および含有量、有機溶剤の種類、得ようとする炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の用途などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択できるけれども、通常はアルミニウムアルコキシド溶液全量の0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%である。0.1重量%未満では、オルガノシラン化合物を添加する効果が充分に発揮されない可能性がある。5重量%を大幅に超えると、溶液中でシリカが析出し、炭素繊維の表面にオルガノシラン化合物を充分に含む被膜が形成されないおそれがある。
【0026】
有機溶剤としては、アルミニウムアルコキシドおよびオルガノシラン化合物を溶解することができ、これらの化合物と炭素繊維との反応に影響を及ぼさないものを使用でき、たとえば、イソプロパノール、無水エタノール、プロパノール、ブタノール、メタノール、エチレングリコール、エチレンオキサイド、トリエタノールアミン、キシレン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキサン、2−メトキシエタノールなどが挙げられる。
【0027】
アルミニウムアルコキシド溶液は、まずアルミニウムアルコキシドを有機溶剤に溶解し、得られる溶液にオルガノシラン化合物を加えて溶解することによって製造できる。アルミニウムアルコキシドの有機溶剤への溶解は、通常75〜85℃程度の加熱下に行われ、1〜3時間程度で終了する。還流を行ってもよい。オルガノシラン化合物の溶解は、撹拌下、10〜40℃程度の温度下に行われ、1〜3時間程度で終了する。
【0028】
アルミニウムアルコキシド溶液によって処理する炭素繊維としては公知のものを使用でき、たとえば、ピッチ系炭素繊維、液晶系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、アクリロニトリル系炭素繊維などが挙げられる。炭素繊維は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。炭素繊維の繊維径は特に制限されず広い範囲から適宜選択できるけれども、通常は0.1〜30μm程度、好ましくは3〜10μm程度である。
【0029】
また、前述の炭素繊維を複数のフィラメントからなるフィラメント糸とし、このフィラメント糸を公知の方法に従って開繊処理した炭素繊維開繊糸を用いることができる。炭素繊維開繊糸におけるフィラメント数は特に制限されず広い範囲から適宜選択できるけれども、通常は1000〜50000程度、好ましくは12000〜48000程度である。炭素繊維開繊糸の幅の広さは特に制限されず、広い範囲から適宜選択できるけれども、通常はその断面の巾が8〜60mm、好ましくは10〜50mmであり、開繊度(開繊糸断面の厚み/開繊糸断面の巾)が通常0.05以下、好ましくは0.01以下、より好ましくは0.0005〜0.01である。市販の炭素繊維開繊糸を用いてもよく、たとえば、トレカ(登録商標、東レ(株)製)、パイロフィル(登録商標、三菱レーヨン(株)製)、ベスファイト(登録商標、東邦レーヨン(株)製)、グラノック(登録商標、日本グラファイトファイバー(株)製)などが挙げられる。
【0030】
さらに、炭素繊維からなる織物、不織布などを用いてもよい。不織布には、一方向布帛などが含まれる。一方向布帛は、たとえば、一方向強化繊維シート、一方向性強化繊維材などとも呼ばれている。
【0031】
炭素繊維からなる織物としては特に制限されず、たとえば、目付けが通常50〜320g/m2、好ましくは70〜300g/m2であり、厚みが通常0.02〜0.3mm、好ましくは0.08〜0.2mmのものが使用される。
【0032】
炭素繊維からなる一方向布帛としては特に制限されず、たとえば、目付けが通常20〜125g/m2、好ましくは30〜85g/m2、厚みが通常0.01〜0.2mm、好ましくは0.05〜0.1mmのものが使用される。
【0033】
これらの中でも、得られる炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の機械的強度などを考慮すると、炭素繊維開繊糸、炭素繊維開繊糸からなる織物、不織布などが好ましく、炭素繊維開繊糸からなる織物、不織布などが特に好ましい。
【0034】
炭素繊維とアルミニウムアルコキシド溶液との反応は、たとえば、アルミニウムアルコキシド溶液に炭素繊維を浸漬することにより行われる。浸漬は、撹拌下または無撹拌下、室温にて行われ、通常5秒〜10分程度で終了する。この反応により、炭素繊維の表面に、アルミニウムアルコキシドまたはアルミニウムアルコキシドとオルガノシラン化合物とを含む被膜が形成される。
【0035】
被膜が形成された炭素繊維をアルミニウムアルコキシド溶液から取り出し、乾燥し、熱処理を施すことによって、アルミナ前駆体からなる被覆層が形成された炭素繊維を得ることができる。ここでアルミナ前駆体とは、主に水酸化アルミニウムなどのアルミニウム含有化合物である。乾燥は室温下または30〜180℃、好ましくは20〜170℃の温度下に行うことができる。乾燥を加熱下に行う場合には、乾燥時間は5秒〜5時間程度である。熱処理は、通常80〜180℃、好ましくは100〜160℃の温度下に行われ、通常0.5分〜5時間、好ましくは1分〜2時間で終了する。この熱処理によって、アルミナ前駆体の一部がアルミナに変換されることがある。
【0036】
このようにして得られるアルミナ前駆体が被覆された炭素繊維を用いて予備成形体を作成する。たとえば、アルミナ前駆体が被覆された炭素繊維を経糸および/または緯糸に用いて製織し、得られる織物を予備成形体として使用することができる。製織は、たとえば、レピア織機、シャトル織機、グリッパ織機、ジェット織機などの公知の織機を用いて行われる。また、アルミナ前駆体が被覆された炭素繊維を隣同士が重なり合うように一方向に引き揃えて一方向布帛などの不織布を作成し、これを予備成形体として用いることができる。織物および不織布の目付けおよび厚みは、前述の炭素繊維の織物および不織布と同程度でよい。
【0037】
また、アルミナ前駆体が被覆された炭素繊維を用い、溶湯鍛造法において予備成形体を作成するための一般的な方法に従って予備成形体を作成してもよい。たとえば、アルミナ前駆体が被覆された炭素繊維、ポリビニルアルコールなどのバインダ、シリカゾルなどの賦形剤、水などの適量を混合し、得られるスラリーを成形用型に入れて所定の形状に加圧成形し、必要に応じて乾燥することにより、予備成形体を得ることができる。このとき、各成分の使用量は特に制限されず、アルミナ前駆体が被覆された炭素繊維の繊維径および繊維長、得ようとする炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の用途などに応じて広い範囲から適宜選択できるけれども、バインダの使用量は、アルミナ前駆体が被覆された炭素繊維全量の1〜3体積%程度にするのが好ましい。
【0038】
炭素繊維開繊糸からなる織物、不織布などにアルミナ前駆体を被覆した場合には、そのまま、予備成形体として使用できる。
【0039】
なお、本発明において使用する予備成形体には、その好ましい特性を損なわない範囲で、アルミナ前駆体が被覆されていない炭素繊維、その他の無機強化繊維などが含まれていてもよい。
【0040】
このようにして得られる予備成形体に、アルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を含浸させるに際しては、予備成形体の予熱温度を600〜1200℃にする以外は、従来の溶湯鍛造法と同様に実施することができる。
【0041】
たとえば、予備成形体を600〜1200℃、好ましくは700〜900℃に予備加熱し、同様に予熱されている溶湯鍛造用の金型内に設置する。この予備加熱により、炭素繊維に被覆されたアルミナ前駆体の大部分または全部がアルミナに変換され、アルミナ被覆層が形成された炭素繊維からなる予備成形体が得られる。予備加熱の温度が600℃未満では、溶湯の予備成形体への含浸が円滑に進行せず、機械的強度、物理的特性などが不均一な炭素繊維強化アルミニウム基複合材料が得られる可能性がある。1200℃を大幅に超えると、炭素繊維の脆化が起こり、得られる炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の諸物性、特に機械的強度が低下するおそれがある。予備加熱時間は特に制限されず、予備成形体の内部まで均一に加熱される時間を適宜選択すればよい。予備加熱は空気中で行うことができ、または必要に応じてアルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガス中で行うこともできる。
【0042】
次いで、予備加熱された予備成形体が設置された金型にアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を供給し、予備成形体と溶湯とを接触させ、プレス装置を用い、押し子(加圧用パンチ)を介して溶湯に圧力をかけ、溶湯を予備成形体に含浸させる。溶湯の含浸量は特に制限されず、予備成形体に含まれる炭素繊維自体の強度、アルミナの被覆量、得ようとする炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の用途などに応じて広い範囲から適宜選択できるけれども、通常はアルミナが被覆された炭素繊維全量の20〜70体積%、好ましくは40〜70体積%である。溶湯の温度は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の融点よりも50〜450℃程度高い温度にするのが好ましい。圧力は溶湯が予備成形体に充分含浸される圧力とすればよく、通常は30〜120MPa、好ましくは70〜100MPaである。含浸時間は、予備成形体の大きさおよび密度、溶湯の種類などによって広い範囲から適宜選択できるけれども、通常は3〜20分、好ましくは5〜10分である。
【0043】
溶湯の含浸終了後、冷却することにより、炭素繊維強化アルミニウム基複合材料と、含浸しなかった溶湯の凝固体とが一体化した接合体が得られる。この接合体を金型から取り出し、溶湯の凝固体を切削、溶解などの公知の方法に従って取り除くことによって、本発明の炭素繊維強化アルミニウム基複合材料が得られる。
【0044】
このようにして得られる本発明の炭素繊維強化アルミニウム複合材料の中でも、アルミナが被覆された炭素繊維の含有量が、アルミニウムまたはアルミニウム合金の含有量の15〜70体積%であるものが、機械的強度、物理的特性、切削加工性などの面から好ましい。
【0045】
本発明の炭素繊維強化アルミニウム基複合材料は、従来の炭素繊維強化アルミニウム基複合材料が用いられている用途およびその他の用途に使用できる。用途の具体例としては、たとえば、自動車、航空機などの輸送機器の部品材料、人工衛星、宇宙開発用ロケットなどの部品材料、ロボットアーム、ステッパーなどの部品材料、電子部品材料、放熱基板材料、建築資材(たとえば壁材)、ハンダゴテ材料などが挙げられる。
【0046】
[実施例]
以下に実施例および試験例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
【0047】
実施例1
アルミニウムsec−ブトキシド(武生ファインケミカル(株)製)3.69gをイソプロピルアルコール300mlに溶解し、80℃で2時間加熱還流し、自然冷却した。この溶液に、N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン2.67gを加えて2時間撹拌を行い、アルミニウムアルコキシド溶液を調製した。アルミニウムアルコキシド溶液中のアルミニウムsec−ブトキシドの含有量は約1.5重量%、N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの含有量は1重量%であった。
【0048】
このアルコキシド溶液に、炭素繊維開繊糸の織物(目付け80g/m2、厚さ0.1mm、20cm×30cm)を5分間浸漬した後、アルコキシド溶液から取り出し、自然乾燥した。このものを100℃で2時間熱処理し、水酸化アルミニウムが被覆された炭素繊維開繊糸織物を作成した。
【0049】
得られた織物を1000℃で90分焼成し、被覆層のみを残存させた。これについて蛍光X線分析を行ったところ、アルミニウムの存在が確認された。
【0050】
上記で得られた水酸化アルミニウムが被覆された織物70枚を、金型内に重ねて設置し、予備成形体として用いた。予備成形体を金型内に設置し、アルゴン雰囲気下にて800℃に予備加熱した。この中に800℃のアルミニウム合金溶湯を供給し、100MPaの圧力を加えてアルミニウム合金溶湯を予備成形体に含浸させた。アルミニウム合金としては、JIS H 5202−1992のAC1Aの化学組成(下記の組成)のものを使用した。
Cu:4.0〜5.0重量%、Si:1.2重量%以下、Mg:0.2重量%以下、Zn:0.3重量%以下、Ni:0.05重量%以下、Ti:0.25重量%以下、Pb:0.05重量%以下、Sn:0.05重量%以下、Cr:0.05重量%以下、Al:残部
【0051】
含浸終了後、自然冷却し、金型から、炭素繊維強化アルミニウム基複合材料とアルミニウム合金の凝固体との接合体を取り出し、切削により本発明の炭素繊維強化アルミニウム基複合材料(寸法20cm×30cm×1.6cm)を得た。このものは、炭素繊維29体積%とアルミニウム合金71体積%とからなる複合材料であった。
【0052】
実施例2
N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの使用量を7.2gに変更する以外は、実施例1と同様にして、アルミニウムアルコキシド溶液を調製した。アルミニウムアルコキシド溶液中のアルミニウムsec−ブトキシドの含有量は約1.5重量%、シラン化合物の含有量は約3重量%であった。
【0053】
以後、実施例1と同様に操作し、本発明の炭素繊維強化アルミニウム基複合材料(寸法20cm×30cm×1.6cm)を製造した。このものは、炭素繊維32体積%とアルミニウム合金68体積%とからなる複合材料であった。
【0054】
試験例1
実施例1および実施例2で得られた本発明の炭素繊維強化アルミニウム基複合材料について、下記の物性を測定した。結果を表1に示す。
密度:重量(g)および体積(cm3)を測定し、算出した。
熱膨張率:JIS H 7404−1993に基づいて測定した。
比熱:複合則により算出した(20℃)。
熱伝導度:熱拡散率(cm2/秒)を測定し、下記の式に基づいて算出した。
熱伝導度(W/m・k)=熱拡散率(cm2/秒)×比熱(J/g・k)×密度(g/cm3)×100
【0055】
【表1】
【0056】
実施例3
アルミナが被覆された炭素繊維開繊糸織物(炭素繊維長15cm)1枚を金型内に設置する以外は、実施例1と同様にして、本発明の炭素繊維強化アルミニウム基複合材料(寸法30cm×20cm×0.45mm)を製造した。
【0057】
この炭素繊維強化アルミニウム基複合材料を1N塩酸100mlに24時間浸漬し、次いでおよび16%フッ酸100mlに24時間浸漬して炭素繊維を取り出し、繊維長を測定したところ、11cmであり、炭素繊維の脆化が少ないことが明らかである。
【0058】
実施例4
アルミニウムアルコキシド溶液の調製は実施例2と同様にし、炭素繊維開繊糸織物(炭素繊維長15cm)のアルミニウムアルコキシド溶液への浸漬時間を10秒とする以外は、実施例3と同様に操作し、本発明の炭素繊維強化アルミニウム基複合材料(寸法30cm×20cm×0.45mm)を製造した。
【0059】
このものを実施例3と同様に塩酸およびフッ酸で処理し、炭素繊維を取り出したところ、炭素繊維の繊維長は15cmであり、炭素繊維の脆化がないことが明らかである。
【0060】
実施例5
N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン2.67gに代えて3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2.67gを使用する以外は、実施例1と同様にして、アルミニウムアルコキシド溶液を調製した。アルミニウムアルコキシド溶液中のアルミニウムsec−ブトキシドの含有量は約1.5重量%、シラン化合物の含有量は約1重量%であった。
【0061】
以後、アルミナが被覆された炭素繊維開繊糸織物(炭素繊維長15cm)1枚を金型内に設置する以外は、実施例1と同様に操作して、本発明の炭素繊維強化アルミニウム基複合材料(寸法30cm×20cm×0.45mm)を製造した。
【0062】
このものを実施例3と同様に塩酸およびフッ酸で処理し、炭素繊維を取り出したところ、炭素繊維の繊維長は11cmであった。これらのことから、本発明の方法によって炭素繊維の脆化が抑制されることが明らかである。
【0063】
【発明の効果】
本発明によれば、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属マトリックス中に、アルミナが被覆された炭素繊維および/またはこの炭素繊維からなる成形体を含有する炭素繊維強化アルミニウム基複合材料が提供される。本発明の炭素繊維強化アルミニウム基複合材料は、予備成形体に3000℃前後の予熱処理を施した後にアルミニウムまたはアルミニウム合金を含浸させて得られる従来の炭素繊維強化アルミニウム基複合材料に比べ、機械的強度、軽量性、熱膨張係数、熱伝導率などの物理的特性および切削加工性が同程度またはそれ以上である。
【0064】
本発明によれば、アルミナが被覆された炭素繊維の含有量が、アルミニウムまたはアルミニウム合金の含有量の15〜70体積%である炭素繊維強化アルミニウム基複合材料は、優れた機械的強度、軽量性、物理的特性、切削加工性などを有す。
【0065】
本発明によれば、炭素繊維として炭素繊維開繊糸を用いることによって、アルミナを含有する被膜の均一性ひいてはマトリックス金属の含浸性がさらに一層向上し、得られる炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の諸物性のさらなる向上をもたらす。
【0066】
本発明によれば、炭素繊維にアルミナ前駆体を被覆し、このアルミナ前駆体被覆炭素繊維を用いて予備成形体を作成することによって、予備成形体の予備加熱温度を、従来法の3000℃前後の高温から、600〜1200℃という相対的に非常に低い温度に下げることができるとともに、予備加熱温度を下げても、得られる炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の物理的特性、切削加工性などを損なうことなく、機械的物性がさらに向上する。
【0067】
本発明によれば、炭素繊維にアルミナ前駆体を被覆するに際しては、溶媒中にて炭素繊維とアルミニウムアルコキシドとを接触させ、反応させるのが好ましい。これによって、得られる炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の諸物性、特に機械的強度をさらに向上させることができる。
【0068】
本発明によれば、アルミニウムアルコキシド溶液として、アルミニウムアルコキシド、オルガノシラン化合物および有機溶剤を含むものを使用することによって、炭素繊維表面に形成される、アルミナを含有する被膜の強度および均一性がさらに向上し、予備加熱による炭素繊維の脆化がさらに防止されるので、得られる炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の諸物性、特に機械的強度を一層向上させることができる。
Claims (5)
- アルミナ前駆体が被覆された炭素繊維開繊糸を含む予備成形体に、600〜1200℃の温度下に予備加熱を施したのち、アルミニウムまたはアルミニウム合金を溶湯鍛造により含浸させる炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の製造法であって、
該アルミナ前駆体が被覆された炭素繊維開繊糸が、炭素繊維開繊糸をアルミニウムアルコキシドの濃度が0.01〜5重量%であるアルミニウムアルコキシド溶液中に浸漬した後、引き上げて乾燥し加熱することにより得られるものであることを特徴とする炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の製造法。 - 前記アルミナが被覆された炭素繊維開繊糸の含有量が、アルミニウムまたはアルミニウム合金全量の15〜70体積%であることを特徴とする請求項1記載の製造法。
- 前記アルミニウムアルコキシド溶液が、アルミニウムアルコキシドとともに、オルガノシラン化合物を含有することを特徴とする請求項1または2記載の製造法。
- 前記アルミニウムアルコキシド溶液におけるオルガノシラン化合物の濃度が0.1〜5重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造法。
- 前記オルガノシラン化合物がアミノ基、グリシドキシ基が置換した炭素数1〜4のアルキルアルコキシシランであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造法。
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