JP4336024B2 - 船舶推進機の点火時期制御装置 - Google Patents

船舶推進機の点火時期制御装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は船舶推進機の点火時期制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、船舶推進機、いわゆる船外機は湖沼あるいは海洋で淡水あるいは海水をゴムインペラからなる給水ポンプで取水し、内燃機関の冷却水として使用している。その結果、外気や水温が低下して氷点以下になると、給水ポンプが氷結したり、冷却水通路の水分が凍結したりして取水が困難となる場合がある。
【0003】
これは、自動車と異なり、船外機にあっては船外から取水した水分を冷却水として使用しているため、不凍液を使用できないことに起因する。同様のことは冷却水通路の取水口に浮遊しているゴミなどが詰まり、一時的に取水が中断される場合にも生じる。
【0004】
そのため、冷却水通路に温度センサを配置し、冷却水遮断による冷却水通路温度の上昇を検出し、内燃機関がオーバーヒート状態が発生する恐れがあるとき、警報装置(ブザーなど)で警報すると共に、点火をカット(中止)あるいは燃料供給をカット(停止)するなどしてオーバーヒート状態がとなるのを未然に回避している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、機関始動時から冷却水通路で冷却水が遮断される場合、冷却水通路に配置された温度センサの雰囲気が空気となることから、熱伝達の媒体が空気となって応答性が低下し、検出遅れが生じてオーバーヒート状態が発生するのを未然かつ確実に回避するのが困難な場合があった。
【0006】
従って、この発明の目的は上記した従来技術の不都合を解消し、船外から取水して内燃機関に送る冷却水通路を備えた船舶推進機において、機関始動時から冷却水通路で冷却水が遮断されるなどして取水が困難となるときも、オーバーヒート状態が発生するのを未然にかつ確実に回避するようにした船舶推進機の点火時期制御装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、この発明は請求項1項において、内燃機関、前記内燃機関の出力でプロペラを駆動して船舶を前進あるいは後進させると共に、船外から取水して前記内燃機関に送る冷却水通路を備えた船舶推進機の点火時期制御装置において、前記内燃機関の回転数を検出する機関回転数検出手段、前記冷却水通路の温度を検出する冷却水通路温度検出手段、前記検出された温度が所定温度以下であると共に、前記検出された回転数が所定回転数を超えるとき、前記内燃機関の点火をカットする点火カット制御を実行する点火カット制御実行手段、および前記内燃機関が始動されてからの時間を計測する第1の時間計測手段を備え、前記点火カット制御実行手段は、前記第1の時間計測手段によって計測された時間が第1の所定時間内にあるとき、前記点火カット制御を実行する如く構成した。
【0008】
検出された温度が所定温度以下であると共に、検出された回転数が所定回転数を超えるとき、内燃機関の点火をカットする点火カット制御を実行するようにしたので、冷却水通路が氷結によって熱伝達の媒体が空気となって温度検出手段の応答性が低下するときも、その可能性を予測し、上記条件が成立するときは点火カットを実行することで応答遅れを解消することができ、オーバーヒート状態が発生するのを未然かつ確実に回避することができる。また、計測された時間が第1の所定時間内にあるとき、点火カット制御を実行するように制限することで、上記した作用効果に加え、点火カットの実行を必要最小限に止めることができ、始動性あるいは始動フィーリングを損なうことがない。
【0009】
請求項2項にあっては、前記所定温度は、氷結によって前記取水が困難となる温度である如く構成した。
【0010】
上記した作用効果に加え、前記所定温度が氷結によって取水が困難となる温度であるように設定することで、点火カットの実行を必要最小限に止めることができ、始動性あるいは始動フィーリングを損なうことがない。
【0013】
請求項項にあっては、内燃機関と、前記内燃機関の出力でプロペラを駆動して船舶を前進あるいは後進させると共に、船外から取水して前記内燃機関に送る冷却水通路を備えた船舶推進機の点火時期制御装置において、前記内燃機関の回転数を検出する機関回転数検出手段、前記冷却水通路の温度を検出する冷却水通路温度検出手段、前記検出された温度が所定温度以下であると共に、前記検出された回転数が所定回転数を超えるとき、前記内燃機関の点火をカットする点火カット制御を実行する点火カット制御実行手段、および前記検出された回転数が前記所定回転数を超えてからの時間を計測する第2の時間計測手段を備え、前記点火カット制御実行手段は、前記第2の時間計測手段によって計測された時間が第2の所定時間に達したとき、前記点火カット制御を実行する如く構成した。
【0014】
計測された時間が第2の所定時間に達したとき、点火カット制御を実行するように制限することで、上記した作用効果に加え、点火カットの実行を必要最小限に止めることができ、始動性あるいは始動フィーリングを損なうことがない。
【0015】
請求項項にあっては、内燃機関と、前記内燃機関の出力でプロペラを駆動して船舶を前進あるいは後進させると共に、船外から取水して前記内燃機関に送る冷却水通路を備えた船舶推進機の点火時期制御装置において、前記内燃機関の回転数を検出する機関回転数検出手段、前記冷却水通路の温度を検出する冷却水通路温度検出手段、前記検出された温度が所定温度以下であると共に、前記検出された回転数が所定回転数を超えるとき、前記内燃機関の点火をカットする点火カット制御を実行する点火カット制御実行手段、および前記内燃機関の潤滑油の油圧を検出する油圧検出手段を備え、前記点火カット制御実行手段は、前記検出された潤滑油の油圧が所定値以下、あるいは前記検出された温度が第2の所定温度を超えるとき、前記点火カット制御の実行を中止する如く構成した。
【0016】
上記した作用効果に加え、内燃機関の異常が検出されたとき、点火カット制御を中止することで、内燃機関の異常にも可能な限り速やかに対処することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面に即してこの発明の一つの実施の形態に係る船舶推進機の点火時期制御装置を説明する。
【0018】
図1はその船舶推進機(船外機)の点火時期制御装置を全体的に示す概略側面図である。
【0019】
図1において符合10は船外機(船舶推進機)を示し、船外機10は内燃機関(以下「エンジン」という)12を備える。エンジン12はエンジンカバー14で被覆され、エンジンカバー14はエクステンションケース16に固定される。エクステンションケース16にはブラケット18からなるクランプユニット20が取り付けられ、船外機10は、ブラケット18で船舶24の船尾板を把持させることで船舶24の船尾に固定される。
【0020】
エンジン12は4サイクル2気筒の火花点火式のガソリンエンジンからなり、鉛直軸方向に上下に配置された2個のシリンダ(気筒)26を備える。シリンダ26内にはピストン28が移動自在に収納され、ピストンロッドを介してクランク軸30に連結される。クランク軸30はクランクプーリ32、タイミングベルト34、およびカムプーリ36を介してカム軸38に接続される。
【0021】
カム軸38にはシリンダ26の個数に対応して複数個のカム38a,38b,..が固定され、タペット、ロッカーアームなどの動弁機構(図示せず)を介して吸気弁および排気弁(共に図示せず)を開閉する。空気取入口42から導入された空気は吸気管44を流れ、スロットルバルブ(図示せず)で流量を調節されつつ、その付近に配置されたキャブレタ(図示せず)でガソリン燃料を噴霧される。よって生じた混合気は、インテークマニホルド(図示せず)を通り、吸気弁が開弁されたとき、各シリンダの燃焼室46に流入する。
【0022】
カム軸38には前記したデコンプ機構48が設けられる。デコンプ機構48は具体的には、実公昭63−2565号公報で提案されるように、カム軸38に取り付けられた鎌形の重錘(図示せず)と、重錘に取り付けられて動作位置にあるときに吸排気弁を少量だけ開弁方向に駆動する弁開放部材(図示せず)と、弁開放部材が動作位置にあるようにカム軸38に作用する遠心力に抗して重錘を付勢するスプリング(付勢手段。図示せず)などから構成され、遠心力に抗し得る低回転時に吸排気弁を少量だけ開弁させてピストン駆動を容易にし、操縦者の労力(リコイル荷重)を低減する。
【0023】
クランク軸30のクランクプーリ32の配置位置の上方には、オルタネータ50が設けられると共に、クランク軸30の先端側にはフライホイール54が取り付けられる。フライホイール54はオルタネータ50のロータ部としても機能し、クランク軸の回転に伴って回転してオルタネータ50で交流を発電させる。
【0024】
オルタネータ50で発電された交流は適宜な整流回路(図示せず)で直流に変換されて点火コイル(図1で図示省略)を通電すると共に、通電停止によって二次側に生じた高電圧をディストリビュータ(図示せず)を介して点火プラグ(図示せず)に送り、燃焼室46の混合気を点火して燃焼させ、ピストン28を駆動させてクランク軸30を回転させる。よって生じた排気ガスは、排気管56を通ってエンジン12の外に排出される。
【0025】
クランク軸30は下部で駆動軸58に連結され、駆動軸58はプロペラ軸60を介してプロペラ64を回転させる。プロペラ軸60にはベベルギヤ・ドグ・クラッチ機構66が設けられ、エンジンカバー14の付近に設けられたシフトレバー(図示せず)の操縦者によって選択されたクラッチ位置が前進あるいは後進ののときはプロペラ64を前進方向あるいは後進方向に回転させて船舶24を前進あるいは後進させると共に、中立位置が選択されたときは駆動軸58とプロペラ軸60の回転を遮断する。
【0026】
フライホイール54には把手68およびロープ70からなるリコイルスタータ74が設けられ、把手68を引いてフライホイール54を回転させてエンジン12を始動させると共に、始動した後は、操縦者はスロットルグリップ76を回転させてスロットル開度を調節することで前進あるいは後進速度を調整する。
【0027】
スロットルグリップ76はスイーベル軸78に連結され、操縦者がスロットルグリップ76を左右に回動させるにつれてプロペラ64の向きを変えるラダーとしても機能する。
【0028】
エンジン12は冷却用の冷却水通路80を備え、冷却水通路80はプロペラ64の付近まで延び、その先端には取水口80aが開口すると共に、その中途にはウォータポンプ84が設けられる。ウォータポンプ84はゴム製インペラからなり、駆動軸58の回転に連動して回転し、湖沼(あるいは海洋)86から淡水(あるいは海水)を汲み上げ、エンジン12の周囲に形成された冷却路(図示せず)に送る。冷却水は冷却路を一巡した後、排水路88から湖沼86に戻る。
【0029】
さらに、エンジン12においてシリンダ26の下部にはオイルケース90が配置され、潤滑油(オイル)を貯留するオイルパンとして機能する。貯留した潤滑油はオイルポンプ(図示せず)によって管94を介してシリンダ26などに送られる。
【0030】
上記において、カム軸38の付近には電磁ピックアップからなるパルサコイル100が配置され、各シリンダのBTDC10度でパルス信号を出力する。また冷却水通路80の適宜位置には温度センサ102が配置され、冷却水通路80の温度(以下「SDTMP」という)に比例した信号を出力する。
【0031】
またオイルケース90の管94には油圧スイッチ104が配置され、管94内の油圧が所定値(例えば1kgf/cm2 )を超えるときはオフ信号を、所定値以下のときはオン信号(アラート信号)を出力する。
【0032】
パルサコイル100、温度センサ102および油圧スイッチ104の出力は、マイクロコンピュータからなる電子制御ユニット(以下「ECU」)106に送られる。ECU106は適宜なケースに収納され、エンジンカバー14内に配置される。尚、直流に変換されたオルタネータ出力はさらに5V程度に降圧され、ECU106にも動作電源として送られる。
【0033】
図2はECU106を機能的に示すブロック図である。
【0034】
図示の如く、ECU106はパルサコイル100が出力するパルス信号を入力してエンジン回転数NEを算出する。また、温度センサ102および油圧スイッチ104の出力信号を入力し、それらの故障検知を行うと共に、エンジン12が過熱するオーバーヒート状態あるいは油圧が低下する油圧アラート状態が発生する恐れがあるか否か判断し、その判断結果と算出したエンジン回転数NE、および温度センサ102の出力信号に基づいて後述する如く始動時を含む点火時期制御を行い、点火回路108(図1で図示省略)を介して点火コイル110(図1で図示省略)を通電制御する。
【0035】
またECU106は、オーバーヒート状態あるいは油圧アラート状態が発生する恐れがあると判断するときは、オーバーヒートランプ112あるいは油圧ランプ114(共に図1で図示省略)を点灯すると共に、ブザー116(図1で図示省略)を鳴動させる。
【0036】
より具体的には、後で触れる図4に示すように、オーバーヒート判定温度としてOHATP(エンジン始動時)と、それより低いOHTMP(エンジン始動後)の2種を備え、検出した温度SDTMPが該当する判定温度を超えるときは、オーバーヒート状態が発生する恐れがあると判断し、オーバーヒートランプ112を点灯すると共に、ブザー116を鳴動させる。
【0037】
また、油圧スイッチ104がオン信号を出力するときは、油圧アラート状態が発生する恐れがあると判断し、油圧ランプ114を点灯すると共に、ブザー116を鳴動させる。
【0038】
続いて、この実施の形態に係る船舶推進機の点火時期制御装置の動作を説明する。これは具体的には、ECU106が行う処理である。
【0039】
図3はその動作を示すフロー・チャートである。尚、図3フロー・チャートに示すプログラムは、パルサコイル100のパルス信号が出力される各シリンダ26のBTDC10度で起動される。
【0040】
以下説明すると、S10で算出したエンジン回転数NEを検出し(読み出し)、S12に進み、検出したエンジン回転数今回値NEn が所定の回転数NESTH(例えば600rpm)を超えるか否か判断し、否定されるときはS14に進み、点火時期θigをIGHRDとする。ここで、「IGHRD」は固定されたクランク角度(即ち、パルサコイル100のパルス信号が出力されるBTDC10度)を意味し、この明細書において、この固定されたクランク角度における点火時期あるいは点火時期制御を「IGHRD」という。
【0041】
図4は図3フロー・チャートの処理を説明するタイム・チャートであるが、この実施の形態に係る制御装置にあっては、検出したエンジン回転数NEが、同図に示す所定の回転数NESTHを超えるまでは、前述したように固定されたクランク角度IGHRDに点火時期θigが設定される。
【0042】
そして、検出したエンジン回転数NEが所定の回転数NESTHを超えると、エンジン回転数NEに対して予め設定されたテーブル(特性図示省略)を、検出したエンジン回転数NEから検索し、よって得た検索値(クランク角度)に点火時期θigが制御される。
【0043】
より具体的には、リコイルスタータ74を介してエンジン12が始動されるとき、操縦者によって手回しされたクランク軸30の回転によるクランキングが所定時間継続すると、オルタネータ50の発電が開始すると共に、所定の回転数NESTL(例えば400rpm)に達するとECU106が動作を開始し、所定回転数NESTHを超えるまではBTDC10度で点火する。それを超えると、エンジン回転数NEが上昇するにつれて進角方向に設定されたテーブルを検索して得たクランク角度に点火時期が制御される。尚、パルサコイル100の出力は点火回路108にも送られ、ECU106が動作を開始するまでは、点火回路108の出力に基づいてハード点火(IGHRD)のみが行われる。
【0044】
尚、この明細書および図面で「n 」は離散系のサンプル時間、具体的には今回値、より具体的には今回の図3フロー・チャートのプログラムループで得た値を示し、後で触れる「n-1 」は前回の値を示す。
【0045】
図3フロー・チャートの説明に戻ると、S12で肯定されるときはS16に進み、異常時、即ち、前記したオーバーヒート状態あるいは油圧アラート状態が発生する恐れがあるか否か判断し、否定されるときはS18に進み、検出した冷却水通路の温度SDTMPを検出し(読み出し)、S20に進み、検出した温度SDTMPが所定温度SDTMP4を超えるか否か判断する。
【0046】
S20で肯定されるときはS22に進み、上記したように、エンジン回転数NEに対して予め設定されたテーブルを検出したエンジン回転数NEから検索し、よって得た検索値(クランク角度)を点火時期θigとする。
【0047】
他方、S20で否定されて検出した温度SDTMPが所定温度SDTMP4以下と判断されるときはS24に進み、フラグFSDTMのビット(初期値0)が1にセットされているか否か判断する。この判断は、後述する値SDTMがダウンカウンタにセットされているか否か判断することを意味する。最初のプログラムループではS24の判断は通例否定されてS26に進み、SDTMテーブルを検索する(後述)。次いでS28に進み、検索した値をダウンカウンタ(前記した第1の時間計測手段)にセットする。ダウンカウンタは、検出したエンジン回転数今回値NEnが前記した所定の回転数NESTHを超えてからの時間、より概略的に言えばエンジン12が始動されてからの時間を計測する。
【0048】
図5は上記したSDTMテーブルの特性を示すグラフである。SDTMは時間値(前記した第1の所定時間)であり、図示の如く、SDTMは温度SDTMP(より具体的にはSDTMP1からSDTMP4)に対して設定され、温度が低下するにつれて増加、換言すれば延長されるように設定される。最大値は例えば、300secとする。
【0049】
図5においてSDTMが零である温度(0℃)が、前記した所定温度SDTMP4に相当する。この所定温度SDTMP4は、より具体的には氷結によって取水が困難となる温度を意味する。
【0050】
即ち、淡水の氷点は0℃であり、海水の氷点はそれより若干低い−2℃程度である。対流している場合、それらの氷点はさらに低くなるが、冷却水通路80の内部に貯留する水分あるいはウォータポンプ84に付着する水分は、0℃付近で氷結して取水が困難あるいは不可能となる、換言すれば冷却水通路80を通って冷却路に供給されるのが困難あるいは不可能となる恐れがある。
【0051】
従って、この実施の形態にあっては、S20で肯定されるときは氷結によって取水が困難となる恐れがないと判断してS22に進んでテーブル値に基づいて点火時期を制御すると共に、S20で否定されるときはS24以降に進み、SDTM(第1の所定時間)内にあるか否か判断し、SDTM内にあると判断される場合、後述する条件が成立するとき、図4に示す如く、点火をカット(中止)してエンジン回転数NEの上昇を制限し、よってオーバーヒート状態が発生するのを未然にかつ確実に回避するようにした。
【0052】
図3フロー・チャートの説明を続けると、次いでS30に進みフラグFSDTMのビットを1にセットし、S32に進む。
【0053】
また、S24で肯定されるときは、既に値SDTMがダウンカウンタにセットされていることからS32に進み、値SDTMをデクリメント(時間の計測)する。次いでS34に進み、値SDTMが零になったか、換言すれば第1の時間計測手段によって計測された時間が第1の所定時間内にないか否か判断し、肯定されるときはS36に進み、フラグFSDTMを0にリセットしてS22に進むと共に、否定されて第1の所定時間内にあると判断されるときはS38に進み、検出したエンジン回転数今回値NEn が第2の所定回転数SCDNEH(前記した所定回転数)を超えるか否か判断する。
【0054】
第2の所定回転数SCDNEHは、上記した状況にあるとき、上昇を制限しないで放置すると、オーバーヒート状態を招く恐れがある回転数、例えば2000rpmに設定する。
【0055】
S38で肯定されるときはS40に進み、フラグFTMIGCTDLのビット(初期値0)が1にセットされているか否か判断する。この判断は、後述する所定値TMIGCTDLが第2のダウンカウンタにセットされているか否か判断する。最初のプログラムループではS40の判断は通例否定されてS42に進み、第2のダウンカウンタ(前記した第2の時間計測手段)に所定値TMIGCTDL(前記した第2の所定時間。例えば0.8sec)をセットする。第2のダウンカウンタは、検出したエンジン回転数今回値NEnが前記した第2の所定回転数SCDNEHを超えてからの時間を計測する。次いでS44に進み、フラグFTMIGCTDLのビットを1にセットし、S46に進む。
【0056】
また、S40で肯定されるときは、既に所定値TMIGCTDLがセットされているためS46に進み、所定値TMIGCTDLのデクリメント(時間の計測)を開始する。次いでS48に進み、第2のダウンカウンタ(第2の時間計測手段)にセットした値TMIGCTDL(第2の所定時間)が零になったか、換言すれば第2の時間計測手段によって計測された時間が第2の所定時間に達したか否か判断する。
【0057】
最初のプログラムループではS48の判断は通例否定されてS50に進み、検出したエンジン回転数今回値NEn が第2の所定エンジン回転数NETMCSCA(例えば1500rpm)以上か否か判断し、肯定されるときはS52に進み、フラグFTMIGCTDLを0にリセットしてS22に進むと共に、否定されるときはS54に進み、前記した第2のダウンカウンタに所定値TMIGCTDLをセットし直し、S22に進む。他方、S48で肯定されるときはS56に進み、点火カット(中止)を実行する。
【0058】
図4を参照して説明すると、SDTM(第1の所定時間)内にあるとき、検出した温度SDTMPがSDTMP4(0℃)以下であると共に、エンジン回転数NEnがSCDNEH(2000rpm)を超える場合、オーバーヒート状態が発生する恐れがあることから、計測時間がTMIGCTDL(第2の所定時間)に達するのを待って、点火カットを実行してエンジン回転数NEの上昇を制限し、オーバーヒート状態が発生するのを未然にかつ確実に回避する。
【0059】
また、エンジン回転数NEnがSCDNEH(2000rpm)を超えた後に低下したとしても、依然NETMCSCA(1500rpm)以上であればオーバーヒート状態が発生する恐れが解消されたとは言い難いので、TMIGCTDL(第2の所定時間)に達するのを待って点火カットを実行する。
【0060】
他方、エンジン回転数NEnがNETMCSCA(1500rpm)未満に低下していればオーバーヒート状態が発生する恐れが解消される可能性があることから、TMIGCTDL(第2の所定時間)を計測し直して点火カットの実行をディレイさせるようにした。
【0061】
尚、図3フロー・チャートにおいて、S38で否定されるときはS58に進み、検出したエンジン回転数前回値NEn-1 が前記した所定回転数SCDNEHを超えているか否か判断し、否定されるときはエンジン回転数NEの前回値も今回値も前記した所定回転数を超えておらず、オーバーヒート状態が発生する恐れはないと判断してS22に進む。
【0062】
他方、S58で肯定されるときはS60に進み、検出したエンジン回転数今回値NEn が第4の所定回転数SCDNELを超えているか否か判断する。そしてS60で否定されるときはS22に進むと共に、肯定されるときはS48に進む。これは主として制御ハンチングを防止するためである。
【0063】
尚、S16で肯定されるときはS62に進み、点火時期θigを異常時テーブル検索点火時期IGABとする。尚、異常時テーブル検索点火時期IGABとは、エンジン回転数NEを低下させるようにエンジン回転数NEに対して予め設定されたテーブル、具体的には、点火時期θigが遅角方向に設定されたテーブル(特性図示省略)を、検出されたエンジン回転数NEから検索し、よって得た検索値である。
【0064】
この実施の形態においては上記の如く、エンジン12の始動時、冷却水通路80の温度が0℃以下のときは、冷却水通路80の内部に貯留する水分あるいはウォータポンプ84に付着する水分が氷結して取水が困難あるいは不可能となる恐れがあることから、エンジン始動からある時間内、具体的にはSDTM内にある間、エンジン回転数NEnがSCDNEH(2000rpm)を超えるとき、計測時間がTMIGCTDL(第2の所定時間)に達するのを待って、点火カットを実行してエンジン回転数NEの上昇を制限し、オーバーヒート状態が発生するのを未然にかつ確実に回避することができる。
【0065】
即ち、冷却水通路80において熱伝達の媒体が空気となって温度センサ102の応答性が低下する可能性を予測し、上記した条件が成立する場合には点火カットを実行してエンジン回転数NEの上昇を制限するようにしたので、実際に氷結によってセンサ応答性が低下したとしても、オーバーヒート状態が発生するのを未然にかつ確実に回避することができる。
【0066】
また、SDTM内を検出した温度SDTMPに応じて決定することで、制御すべき時間を最適に決定することができる。
【0067】
さらに、点火カットの実行は所定値TMIGCTDLが経過するまでディレイさせる、換言すれば、所定値TMIGCTDLに対応する時間においてエンジン回転数NEの上昇を許容するようにしたので、始動性あるいは始動フィーリングを損なうことがない。
【0068】
さらに、点火カットは上記した条件が成立する場合に限定、換言すれば必要最小限度に止め、成立しなくなったときは点火を再開することから、その時点でエンジン回転数を上昇させることができ、同様に始動性あるいは始動フィーリングを損なうことがない。
【0069】
さらに、点火カットの実行はTMIGCTDLが経過するまでディレイさせる間、エンジン回転数NEnがSCDNEHを超えた後に低下したとしても、依然NETMCSCA以上であればオーバーヒート状態が発生する恐れが解消されたとは言い難いので、TMIGCTDLに達するのを待って点火カットを実行することで、オーバーヒート状態が発生するのを未然にかつ確実に回避することができると共に、エンジン回転数NEnがNETMCSCA未満に低下していればTMIGCTDLを計測し直して点火カットの実行をさらにディレイさせるようにしたことで、点火カットを一層必要最小限度に止めることができる。
【0070】
以上の如く、この実施の形態にあっては、内燃機関(エンジン12)、前記内燃機関の出力でプロペラ64を駆動して船舶24を前進あるいは後進させると共に、船外(湖沼あるいは海洋86)から取水して前記内燃機関に送る冷却水通路80を備えた船舶推進機の点火時期制御装置において、前記内燃機関の回転数(エンジン回転数NE)を検出する機関回転数検出手段(パルサコイル100,ECU106,S10)、前記冷却水通路の温度SDTMPを検出する冷却水通路温度検出手段(温度センサ102,ECU106,S18)、前記検出された温度SDTMPが所定温度SDTMP4以下であると共に、前記検出された回転数NEが所定回転数SCDNEHを超えるとき、前記内燃機関の点火をカットする点火カット制御を実行する点火カット制御実行手段(ECU106,S20からS60)、および前記内燃機関が始動されてからの時間SDTMを計測する第1の時間計測手段(ECU106,S26,S28,S34)を備え、前記点火カット制御実行手段は、前記第1の時間計測手段によって計測された時間が第1の所定時間内にあるとき、前記点火カット制御を実行する(ECU106,S34,S56)如く構成した。
【0071】
また、前記所定温度SDTMP4は、氷結によって前記取水が困難となる温度、より具体的には0℃である如く構成した。
【0073】
また、内燃機関(エンジン12)と、前記内燃機関の出力でプロペラ64を駆動して船舶24を前進あるいは後進させると共に、船外(湖沼あるいは海洋86)から取水して前記内燃機関に送る冷却水通路80を備えた船舶推進機の点火時期制御装置において、前記内燃機関の回転数(エンジン回転数NE)を検出する機関回転数検出手段(パルサコイル100,ECU106,S10)、前記冷却水通路の温度SDTMPを検出する冷却水通路温度検出手段(温度センサ102,ECU106,S18)、前記検出された温度SDTMPが所定温度SDTMP4以下であると共に、前記検出された回転数NEが所定回転数SCDNEHを超えるとき、前記内燃機関の点火をカットする点火カット制御を実行する点火カット制御実行手段(ECU106,S20からS60)、および前記検出された回転数(エンジン回転数NE)が前記所定回転数SCDNEHを超えてからの時間TMIGCTDLを計測する第2の時間計測手段(ECU106,S42,S48)を備え、前記点火カット制御実行手段は、前記第2の時間計測手段によって計測された時間が第2の所定時間に達したとき、前記点火カット制御を実行する(ECU106,S48,S56)ように構成した。
【0074】
また、内燃機関(エンジン12)と、前記内燃機関の出力でプロペラ64を駆動して船舶24を前進あるいは後進させると共に、船外(湖沼あるいは海洋86)から取水して前記内燃機関に送る冷却水通路80を備えた船舶推進機の点火時期制御装置において、前記内燃機関の回転数(エンジン回転数NE)を検出する機関回転数検出手段(パルサコイル100,ECU106,S10)、前記冷却水通路の温度SDTMPを検出する冷却水通路温度検出手段(温度センサ102,ECU106,S18)、前記検出された温度SDTMPが所定温度SDTMP4以下であると共に、前記検出された回転数NEが所定回転数SCDNEHを超えるとき、前記内燃機関の点火をカットする点火カット制御を実行する点火カット制御実行手段(ECU106,S20からS60)、および前記内燃機関の潤滑油の油圧を検出する油圧検出手段(油圧スイッチ104)を備え、前記点火カット制御実行手段は、前記検出された潤滑油の油圧が所定値(OHATPあるいはOHTMP)以下、あるいは前記検出された温度SDTMPが第2の所定温度を超えるとき、前記点火カット制御の実行を中止する如く構成した。
【0075】
尚、上記において点火カット(中止)を介してエンジン回転数の上昇を制限する場合を説明したが、燃料供給のカット(中止)を介してエンジン回転数の上昇を制限しても良い。
【0076】
また、この発明の実施の形態を船外機を例にとって説明したが、それに限られるものではなく、この発明は船内機関にも妥当する。
【0077】
請求項1項にあっては、検出された温度が所定温度以下であると共に、検出された回転数が所定回転数を超えるとき、内燃機関の点火をカットする点火カット制御を実行するようにしたので、冷却水通路が氷結によって熱伝達の媒体が空気となって温度検出手段の応答性が低下するときも、その可能性を予測し、上記条件が成立するときは点火カットを実行することで応答遅れを解消することができ、オーバーヒート状態が発生するのを未然かつ確実に回避することができる。また、計測された時間が第1の所定時間内にあるとき、点火カット制御を実行するように制限することで、上記した作用効果に加え、点火カットの実行を必要最小限に止めることができ、始動性あるいは始動フィーリングを損なうことがない。
【0078】
請求項2項にあっては、上記した作用効果に加え、前記所定温度が氷結によって取水が困難となる温度であるように設定することで点火カットの実行を必要最小限に止めることができ、始動性あるいは始動フィーリングを損なうことがない。
【0080】
請求項項にあっては、計測された時間が第2の所定時間に達したとき、点火カット制御を実行するように制限することで、上記した作用効果に加え、点火カットの実行を必要最小限に止めることができ、始動性あるいは始動フィーリングを損なうことがない。
【0081】
請求項項にあっては、上記した作用効果に加え、内燃機関の異常が検出されたとき、点火カット制御を中止することで、内燃機関の異常にも可能な限り速やかに対処することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一つの実施の形態に係る船舶推進機の点火時期制御装置を全体的に示す概略側面図である。
【図2】図1装置の電子制御ユニット(ECU)を機能的に示すブロック図である。
【図3】図1装置の動作を示すフロー・チャートである。
【図4】図3フロー・チャートの処理を説明するタイム・チャートである。
【図5】図3フロー・チャートで使用するSDTMテーブルの特性を示すグラフである。
【符号の説明】
10 船舶推進機(船外機)
12 内燃機関(エンジン)
24 船舶
26 シリンダ(気筒)
30 クランク軸
38 カム軸
48 デコンプ機構
54 フライホイール
58 駆動軸
60 プロペラ軸
64 プロペラ
74 リコイルスタータ
80 冷却水通路
84 ウォータポンプ
100 パルサコイル
102 温度センサ
104 油圧スイッチ
106 電子制御ユニット(ECU)

Claims (4)

  1. 内燃機関、前記内燃機関の出力でプロペラを駆動して船舶を前進あるいは後進させると共に、船外から取水して前記内燃機関に送る冷却水通路を備えた船舶推進機の点火時期制御装置において、
    a.前記内燃機関の回転数を検出する機関回転数検出手段、
    b.前記冷却水通路の温度を検出する冷却水通路温度検出手段、
    c.前記検出された温度が所定温度以下であると共に、前記検出された回転数が所定回転数を超えるとき、前記内燃機関の点火をカットする点火カット制御を実行する点火カット制御実行手段、
    および
    d.前記内燃機関が始動されてからの時間を計測する第1の時間計測手段、
    を備え、前記点火カット制御実行手段は、前記第1の時間計測手段によって計測された時間が第1の所定時間内にあるとき、前記点火カット制御を実行することを特徴とする船舶推進機の点火時期制御装置。
  2. 前記所定温度は、氷結によって前記取水が困難となる温度であることを特徴とする請求項1項記載の船舶推進機の点火時期制御装置。
  3. 内燃機関と、前記内燃機関の出力でプロペラを駆動して船舶を前進あるいは後進させると共に、船外から取水して前記内燃機関に送る冷却水通路を備えた船舶推進機の点火時期制御装置において、
    a.前記内燃機関の回転数を検出する機関回転数検出手段、
    b.前記冷却水通路の温度を検出する冷却水通路温度検出手段、
    c.前記検出された温度が所定温度以下であると共に、前記検出された回転数が所定回転数を超えるとき、前記内燃機関の点火をカットする点火カット制御を実行する点火カット制御実行手段、
    および
    e.前記検出された回転数が前記所定回転数を超えてからの時間を計測する第2の時間計測手段、
    を備え、前記点火カット制御実行手段は、前記第2の時間計測手段によって計測された時間が第2の所定時間に達したとき、前記点火カット制御を実行することを特徴とする船舶推進機の点火時期制御装置。
  4. 内燃機関と、前記内燃機関の出力でプロペラを駆動して船舶を前進あるいは後進させると共に、船外から取水して前記内燃機関に送る冷却水通路を備えた船舶推進機の点火時期制御装置において、
    a.前記内燃機関の回転数を検出する機関回転数検出手段、
    b.前記冷却水通路の温度を検出する冷却水通路温度検出手段、
    c.前記検出された温度が所定温度以下であると共に、前記検出された回転数が所定回転数を超えるとき、前記内燃機関の点火をカットする点火カット制御を実行する点火カット制御実行手段、
    および
    f.前記内燃機関の潤滑油の油圧を検出する油圧検出手段、
    を備え、前記点火カット制御実行手段は、前記検出された潤滑油の油圧が所定値以下、あるいは前記検出された温度が第2の所定温度を超えるとき、前記点火カット制御の実行を中止することを特徴とする船舶推進機の点火時期制御装置。
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