JP4330351B2 - 抗原性物質を失活させる方法および装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、正負両イオンの作用等により抗原性物質(アレルゲンともいうが、本願では抗原性物質と記す。)を失活させる方法および装置に関するものである。さらに本発明は、該方法および装置を利用した空気調節装置(例えば、空気清浄機、空気調和機、除湿機、加湿器、電気ヒータ、石油ストーブ、ガスヒータ、クーラーボックス、及び冷蔵庫等)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、住環境の変化に伴い、人へのアレルギー疾患の原因となる花粉やダニ等の有害な空気中の浮遊物質を取り除き、健康で快適な生活を送りたいという要望が強くなっている。この要望に応えるため、各種のフィルタを備えた空気調節装置が開発されている(特許文献1〜4)。
【0003】
しかしながら、このような空気調節装置では、空間の空気を吸引してフィルタにより有害な浮遊物質を吸着若しくはろ過する方式であるため、長期にわたる使用によりフィルタの交換等のメンテナンスが不可欠であり、しかもフィルタの特性が充分でないため満足のいく性能が得られない場合がある。
【0004】
一方、ワクチンなどによる予防方法が提案されているが、人それぞれにより免疫の質および量が異なることから効果が発揮されない場合がある。
【0005】
したがって、現在のところこれらの不都合や困難を伴うことなくアレルギー疾患を低減させる有効な方法は知られていない。
【0006】
【特許文献1】
特開平6−154298号公報
【0007】
【特許文献2】
特開平7−807号公報
【0008】
【特許文献3】
特開平8−173843号公報
【0009】
【特許文献4】
特開2000−111106号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような状況に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、定期的なフィルタの交換等の煩雑さがなく、しかも抗体の個人差による影響を受ける等の予防法上の困難性を伴なうこともない、アレルギー疾患を低減させる有効な方法および装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、アレルギー疾患を誘発する直接的な原因は花粉等自体ではなくそこに含まれている抗原性物質にあり、この抗原性物質を失活させることが最も有効であるとの知見を得、この知見に基づきさらに研究を続けたところ、ついに本発明を完成させるに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明は、抗原性物質に対して正イオンと負イオンとを作用させることにより、抗原性物質を失活させる方法に関する。該抗原性物質は、タンパク質もしくは糖タンパク質からなるものであり、このような抗原性物質に対して正イオンと負イオンとを作用させると当該物質(特にその抗体反応部位)は変性ないし破壊され、これによりアレルギー反応性が失活し、以ってアレルギー疾患の誘発を低減させることが期待できる。
【0013】
また、本発明の抗原性物質を失活させる方法は、抗原性物質に対して正イオンと負イオンとを作用させることにより、抗原性物質を失活させる方法であって、抗原性物質の失活率を略50%以上とすることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の抗原性物質を失活させる方法は、抗原性物質に対して正イオンと負イオンとを作用させることにより、抗原性物質を失活させる方法であって、抗原性物質の失活率を略75%以上とすることを特徴としている。
【0015】
また、上記抗原性物質を失活させる方法は、正負両イオンの濃度が、それぞれ略10万個/cm3以上となる雰囲気中において、正イオンと負イオンとを作用させることにより実行することができる。このようなイオン濃度を設定することにより、正負両イオンの作用により抗原性物質を効果的に失活させることができる。なお、本明細書では、イオン濃度とは臨界移動度を1cm2/V・秒以上の小イオンの濃度を意味しており、該小イオンの濃度測定には、空気イオンイオンカウンター(たとえばダン科学製空気イオンカウンタ(品番83−1001B))を用いて行なう。
【0016】
また、上記方法における正イオンは、H3O+(H2O)n(nは0または自然数)であり、負イオンは、O2 -(H2O)m(mは0または自然数)とすることができる。なお、ここで、正イオンとして記載したH3O+(H2O)n(nは0または自然数)は、表記方法を変更するとH+(H2O)n(nは自然数)と記述することが可能であり、同等のイオンを示すものである。
【0017】
また、上記正イオンと負イオンとは、化学反応することによって過酸化水素H2O2、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHの少なくとも1種を生成することができる。
【0018】
さらに、本発明は、抗原性物質の抗体反応部位を電気的衝撃および/または化学反応により変性ないし破壊させることによって、抗原性物質を失活させる方法に関する。
【0019】
一方、本発明は、抗原性物質に対して正イオンと負イオンとを作用させるために、正イオンと負イオンとを空気中に送出する機構を有することを特徴とする、抗原性物質を失活させる装置に関する。
【0020】
また、本発明は、抗原性物質の失活率が略50%以上となるように、正イオンと負イオンとを空気中に送出する機構を有することを特徴とする、抗原性物質を失活させる装置に関する。
【0021】
また、本発明は、抗原性物質の失活率が略75%以上となるように、正イオンと負イオンとを空気中に送出する機構を有することを特徴とする、抗原性物質を失活させる装置に関する。
【0022】
また、上記装置は、過酸化水素H2O2、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHの少なくとも1種を生成することができる。
【0023】
また、上記装置は、正負両イオンの濃度が、それぞれ略10万個/cm3以上となる雰囲気を提供するように、正イオンと負イオンとを空気中に送出することができる。
【0024】
さらに、本発明は、抗原性物質の抗体反応部位を電気的衝撃および/または化学反応により変性ないし破壊させるための放電機構を有することを特徴とする、抗原性物質を失活させる装置に関する。
【0025】
なお、上記各装置は、空気調節機構を備えているものとすることができる。これにより、抗原性物質を失活させる能力をもった各種の空気調節装置(例えば、空気清浄機、空気調和機、除湿機、加湿器、電気ヒータ、石油ストーブ、ガスヒータ、クーラーボックス、及び冷蔵庫等)を提供することが可能となる。
【0026】
【発明の実施の形態】
<抗原性物質>
本発明が対象とする抗原性物質は、スギ、ヒノキ、ブタクサ等の花粉類やダニ等の生物に含まれる物質であって、生体に作用することにより抗原抗体反応の一種であるアレルギー反応を生ぜしめ、アレルギー疾患を誘発する物質をいうものとする。該抗原性物質は、通常、タンパク質もしくは糖タンパク質からなるものであるが、その形状または大きさは特に限定されず、それらのタンパク質や糖タンパク質自体の分子状のもの、あるいはそれらが集合して粒子状になったもの、またあるいはその分子状のものの一部である抗原決定基等が含まれるものとする。
【0027】
<抗体反応部位>
抗体反応部位とは、抗原性物質に含まれる特定の部分であって、抗体と結合する部位をいう。抗原性物質は、この抗体反応部位が変性ないし破壊(分解)されると、抗体と結合することができなくなり、このためアレルギー反応を抑制することができる。
【0028】
<抗原性物質を失活させる方法>
本発明に係る抗原性物質を失活させる方法は、抗原性物質に対して正イオンと負イオンとを作用させることにより達成されるものである。これらの正負両イオンは、正イオンもしくは負イオンそれぞれ単独では抗原性物質に対して格別の効果は示されない。しかし、これらのイオンが共存すると後述のような化学反応によって活性物質を発生し、この活性物質が抗原性物質を構成するタンパク質、とりわけその抗体反応部位を攻撃することによリ、該タンパク質を変性ないし破壊(分解)することによって抗原性物質を失活させるものと解せられる。
【0029】
ここで、抗原性物質を失活させるとは、上述のように抗原性物質を変性ないし破壊(分解)することにより、抗原性物質を消滅させることのみならず、該抗原性物質の量を減少させたり、その活性度を低下させることをも含むものとする。
【0030】
<抗原性物質の失活率>
本発明における抗原性物質の失活率とは、正負両イオンを作用させた抗原性物質(以下単にイオン処理抗原性物質ともいう)と正負両イオンを作用させていない抗原性物質(以下単に未処理抗原性物質ともいう)とを用いて、イライザ(ELISA:enzyme−liked immunosorbent assay)法によりそれぞれの蛍光強度を求め、その蛍光強度から以下の式(1)に基づいて得られる数値をいうものとする。
失活率%=(1−A/B)×100・・・(1)
A:イオン処理抗原性物質の蛍光強度
B:未処理抗原性物質の蛍光強度
ここでイライザ法とは、抗原抗体反応を評価する従来公知の方法であって、酵素で標識した抗体と抗原性物質とを反応させ、次いで該酵素と反応する基質をさらに加えて蛍光発色させ、その蛍光強度を測定することにより抗原性物質の抗体反応性を評価する方法をいう。
【0031】
該失活率が、大きな値になる程、抗原性物質の失活割合が大きくなり、抗原性物質が原因となって引き起こされる各種のアレルギー疾患をほぼ抑制することができると期待される。
【0032】
<正負両イオンの濃度>
抗原性物質に対して正イオンと負イオンとを作用させる雰囲気における正負両イオンの濃度は、一定の抗原性物質量に対して高濃度であるほど短時間で失活させ、低濃度であるほど失活までに長時間を要すると考えられる。また、一定の時間で比較した場合には、高濃度であるほど失活率が高くなり、低濃度であるほど失活率が低くなると考えられる。そして特に、抗原性物質の失活率を略50%以上、好ましくは略75%以上とするためには、正負両イオンの濃度をそれぞれ10万個/cm3以上とすることが好ましいが、これに限定されるものではなく、10万個/cm3以下であってもより多くの時間を要するか、もしくは抗原性物質が低濃度の場合には、十分に効果を発揮するものと考えられる。
【0033】
一方、正負両イオンの濃度の上限は特に限定されるものではないが、過度に高濃度のイオンを発生させると人体に有害な量のオゾンを発生することとなるため好ましくない。すなわち、後述するようにこれらの正負両イオンは通常放電により発生するが、正負両イオンを高濃度に発生させるためには高電圧の印加を要し、これによりオゾンが副生するおそれがある。そのため、正負両イオンの濃度を上げると、本技術を製品に組み込んだ場合に、送風口付近においてオゾン濃度が0.1ppmを上回る可能性がある。この0.1ppmという濃度は、わが国における産業衛生学会が8時間労働の際の許容濃度として定める基準濃度を超えるものとなり、また米国労働衛生専門官会議(ACGIH)が定める許容濃度をも超えるものとなる。このため、正負両イオンの濃度の上限は、オゾン濃度0.1ppmを下回る範囲に設計することが好ましい。これにより、オゾン等の人体に有害な副生成物の濃度を十分な安全性の基準内に収めることが可能になる。なお、イオン濃度の上限は、放電方式を改善することにより、高めることが可能である。また、オゾン吸収性の物質、たとえば酸化銅あるいは活性炭などを配置し、オゾンを分解する構造を設ける対策により、同様にイオン濃度の上限を高めることができる。特にオゾンのみを吸収する物質はより効果がある。
【0034】
このように本発明の方法によれば、人体に有害な量のオゾン等を副生することなく抗原性物質を失活させられるという極めて有利な効果を示すことができる。なお、本発明における抗原性物質を失活させる雰囲気とは、正負両イオンの濃度が上述のような範囲にある雰囲気をいうが、たとえば正負両イオンを送出する装置の吹出し口から10cm以内の範囲内において上述のイオン濃度が達成されていれば、そのような系は本発明でいう抗原性物質を失活させる雰囲気に該当するものとする。
【0035】
<正負両イオンの送出方法>
本発明に係る正負両イオンは、主としてイオン発生素子の放電現象により発生するものであり、通常、正負の電圧を交互に印加させることにより正負両イオンをほぼ同時に発生させ空気中に送出することができる。しかしながら、本発明の正負両イオンの送出方法はこれのみに限られることはなく、正負いずれか一方の電圧のみを一定時間印加し正負いずれか一方のみのイオンを先に送出させた後、次に逆の電圧を一定時間印加しすでに送出されたイオンとは逆の電荷をもったイオンを送出させることもできる。なお、これらの正負両イオンの発生、送出に必要な印加電圧は、電極の構造にもよるが電極間のピークトゥーピーク(peakto peak)電圧として2〜10kV、好ましくは3〜7kVの範囲とすることができる。
【0036】
また、本発明の正イオンおよび負イオンは、20〜90%、好ましくは40〜70%の相対湿度の下で発生させることが好適である。後述の通り正負両イオンの発生は、空気中の水分子の存在と関係するからである。すなわち、相対湿度が20%未満の場合は、イオンを中心に据えた水分子によるクラスター化が適切に進まず、イオン同士の再結合が起こりやすくなるので発生したイオンの寿命が短くなってしまう。また90%を超える場合は、イオン発生素子の表面に水分が結露することによりイオンの発生効率が著しく低下するし、発生したイオンもクラスター化が進み過ぎて多くの水分子により取囲まれてしまうので、重量が増しあまり遠くへ放出されないまま沈降してしまうという状況となるおそれがある。したがって、このように極端な低湿度や高湿度でのイオンの発生はいずれの場合も好ましくない。
【0037】
なお、本発明の正負両イオンの送出方法としては、上述のような放電現象のみにかかわらず、紫外線や電子線を放射するデバイス等を利用する方法を用いても良い。
【0038】
<正負イオンの同定>
本発明の正イオンおよび負イオンは、放電素子の表面に存在する酸素分子および/または水分子を原料として発生させることができる。この発生方法によれば、特別な原料を必要としないためコスト的に有利であるばかりでなく、原料自体に有害性がなく、また他の有害なイオンや物質を発生することがないため好ましい。
【0039】
上記のイオン発生素子の放電現象により発生した正負両イオンの組成は、主として正イオンとしてはプラズマ放電により空気中の水分子が電離して水素イオンH+が生成し、これが溶媒和エネルギーにより空気中の水分子とクラスタリングすることによりH3O+(H2O)n(nは0または自然数)を形成したものである。水分子がクラスタリングしていることは、図2(a)において最小に観測されるピークが分子量19の位置にあり、後のピークはこの分子量19に対して水の分子量に相当する18を順次足した位置に現れることから明らかである。すなわち、この結果は分子量1の水素イオンH+に分子量18の水分子が一体となって水和していることを示している。一方、負イオンとしてはプラズマ放電により空気中の酸素分子または水分子が電離して酸素イオンO2 -が生成し、これが溶媒和エネルギーにより空気中の水分子とクラスタリングすることによりO2 -(H2O)m(mは0または自然数)を形成したものである。水分子がクラスタリングしていることは、図2(b)において最小に観測されるピークが分子量32の位置にあり、後のピークはこの分子量32に対して水の分子量に相当する18を順次足した位置に現れることから明らかである。すなわち、この結果は分子量32の酸素イオンO2 -に分子量18の水分子が一体となって水和していることを示している。
【0040】
そして、空間に送出されたこれらの正負両イオンは空気中に浮遊している抗原性物質を取り囲み、抗原性物質の表面で正負両イオンが以下のような化学反応(i)〜(ii)によって活性種である過酸化水素H2O2、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHを生成する。
【0041】
【化1】
【0042】
そして、このように正負両イオンが作用して生成した過酸化水素H2O2、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHは、抗原性物質の抗体反応部位を変性ないし破壊(分解)して抗原性物質と抗体との結合能力を喪失させることにより、効率的に空気中の抗原性物質を失活させることができるものと解される。
【0043】
なお、上記の説明においては、正イオンとしてH3O+(H2O)n(nは0または自然数)、負イオンとしてO2 -(H2O)m(mは0または自然数)をそれぞれ中心に述べてきたが、本発明における正負イオンはこれらのみに限られるものではない。上記2種の正負イオンを主体としつつ、たとえば、正イオンとしてはN2 +、O2 +等を、負イオンとしてはNO2 -、CO2 -等をそれぞれ例示することができ、これらを含んでいたとしても同様の効果が期待できる。
【0044】
<イオン発生素子>
本発明のイオン発生素子は、正イオンと負イオンとを発生させるものであり、また後述のような電気的衝撃により直接的に抗原性物質のアレルギー反応を失活させることができるものともなり得る。このようなイオン発生素子は、その付設箇所は特に限定されないものの、通常は抗原性物質を失活させる装置の風路に付設されていることが好ましい。イオン発生素子により発生させられる正負両イオンは短時間で消失するため、これらの正負両イオンを効率良く空気中に拡散させることができるようにするためである。なお、イオン発生素子の設置個数は、1個であっても、2個以上であっても差し支えない。
【0045】
このようなイオン発生素子としては、放電機構により正負両イオンを発生する従来公知のイオン発生素子が用いられる。特に、抗原性物質に対して正イオンと負イオンとを作用させる雰囲気中の正負両イオンの濃度が、それぞれ10万個/cm3以上となるように正イオンと負イオンとを空気中に送出できるものであることが好ましい。
【0046】
ここでいう放電機構とは、絶縁体を電極で挟み込んだ構造を持ち、片側に交流の高電圧を印加させるとともに、もう一方の電極は接地させ、高電圧を印加させることにより接地電極に接している空気層にプラズマ放電を形成し、空気中の水分子や酸素分子を電離または解離することにより正負両イオンを生成するような機構をいう。このような放電機構において、たとえば電極の形状を電圧印加側は板状またはメッシュ状とし、接地側電極をメッシュ状とした場合、高電圧を印加すると接地側電極のメッシュ端面部で電界が集中して沿面放電が起こりプラズマ領域が形成される。このプラズマ領域に空気を流し込むと正負両イオンが生成するだけでなくプラズマによる電気的衝撃が得られる。
【0047】
このよう放電機構を有する素子としては、例えば沿面放電素子、コロナ放電素子、プラズマ放電素子等を挙げることができるがこれらのみに限られるものではない。また、放電素子の電極の形状や材質においても、上述のようなもののみに限られるものではなく、針型などを含め、あらゆる形状、材質のものを選択することができる。
【0048】
このようなイオン発生素子としてより具体的には、図1に示すように誘電体1003を板形状の電極1002とメッシュ形状の電極1004で挟み込み、電源1001により板形状の電極に正極と負極の電圧を交互に印加することによって、メッシュ形状電極のメッシュ端面で電界が集中してプラズマ放電が起こりプラズマ領域1005が形成され正負両イオンが生成されるような構造のものが特に好ましい。
【0049】
なお、これらの正負両イオンの発生、送出に必要な印加電圧は、イオン発生素子の構造にもよるが電極間のピークトゥーピーク(peak to peak)電圧として2〜10kV、好ましくは3〜7kVの範囲とすることができる。
【0050】
<その他の方法等>
抗原性物質を失活させる方法は、上述のように化学反応ばかりではなく、抗原性物質の抗体反応部位を電気的衝撃により変性ないし破壊させることにより実行することもできる。すなわち、抗原性物質の抗体反応部位は、正負両イオンを発生させる際の電圧印加によるプラズマ放電自体によっても変性ないし破壊され、以ってこのような電気的衝撃によっても抗原性物質と抗体との結合能力は喪失し、抗原性物質を失活させることができる。このように本発明においては、抗原性物質の抗体反応部位を電気的衝撃および/または化学反応により変性ないし破壊させることによって抗原性物質を失活させることができるものであり、特に上記の作用、すなわち電気的衝撃と化学反応の両者が相乗的に奏されることにより抗原性物質を効果的に失活させることが促進すると思われる。
【0051】
<装置>
本発明の抗原性物質を失活させる装置は、抗原性物質に対して正イオンと負イオンとを作用させるために、正イオンと負イオンとを空気中に送出する機構を有することを特徴としている。そして特に、抗原性物質の失活率が略50%以上、好ましくは略75%以上となるように、正イオンと負イオンとを空気中に送出する機構を有していることが好ましい。通常、該機構は放電現象により正負両イオンを発生する従来公知のイオン発生素子が該当する。また該装置は、このようにして発生した正負両イオンの化学反応により過酸化水素H2O2、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHを生成することを特徴とする。さらに該装置は、抗原性物質に対して正イオンと負イオンとを作用させる雰囲気中の正負両イオンの濃度が、それぞれ略10万個/cm3以上となるように正イオンと負イオンとを空気中に送出することができる。このようにすることにより、抗原性物質の失活率を略50%以上、好ましくは略75%以上とすることができる。また、該装置は、放電機構を有することを特徴とする。ここでいう放電機構とは、たとえば絶縁体を電極で挟み込んだような構造の電極を用い、片側の電極に交流の高電圧を印加するとともにもう一方の電極を接地させることにより、該接地電極に接している空気層にプラズマ放電が形成されて空気中の水分子や酸素分子を電離または解離することによってイオンを生成するような機構をいい、より具体的には電極の形状を電圧印加側は板状またはメッシュ状にするとともに接地側はメッシュ状とし、このような構造の電極に対して高電圧を印加すると接地側電極のメッシュ端面部で電界が集中して沿面放電が起こりプラズマ領域が形成されてイオンを生成するような機構を挙げることができる。
【0052】
一方、本発明の抗原性物質を失活する装置は、空気調節機構を備えたものとすることができる。ここでいう空気調節機構とは、例えば空気清浄機、空気調和機、除湿機、加湿器、電気ヒータ、石油ストーブ、ガスヒータ、クーラーボックス、及び冷蔵庫等の空気調節装置が備えている通常の空気を調節する機構であって、したがって、本発明の抗原性物質を失活する装置はこれらの空気調節装置としての機能を兼備したものとすることができる。
【0053】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
本実施例は、スギ花粉の抗原性物質を用いて、正負両イオンの作用による抗原性物質の失活を確認したものである。以下、図3〜8を参照して説明する。
【0055】
図3は、正イオンと負イオンの作用による抗原性物質を失活させる方法を実行するための装置の概略図である。図4〜5は、イライザ(ELISA)法によるスギ抗原性物質(略称CJP)と、患者19〜60の計42名の血清IgEとの反応性評価を示した図である。なお、図3の装置は、図1のイオン発生素子を備えており、これにより送出される正イオンおよび負イオンの質量スペクトルを図2に示す。
【0056】
<抗原性物質を失活させる方法を実行するための装置>
まず、図3に示した装置では、イオン発生素子1021(図1に示したイオン発生素子と同じもの)として縦37mm、横15mmの平板状の沿面放電素子を用いた。電極間に正と負の電圧を交互に印加することにより表面電極部で沿面放電を起こし、大気圧下での放電プラズマにより正イオン1022と負イオン1023をほぼ同時に生成し送出させた。印加した電圧は電極間のピークトゥーピーク(peak to peak)電圧として3.3kV〜3.7kVであり、この範囲の電圧において有害な量のオゾンが発生することはなかった。該イオン発生素子は、内径140mm、長さ500mmのアクリル製の円筒型密閉容器1027の内部に4個取り付け固定し、この容器の一方には抗原性物質を含んだ溶液を噴霧する注入口1028を、もう一方には抗原性物質を含んだ溶液の回収容器1025を取り付けるとともに、この容器の底部に脱気用の脱気口1026を設けた。
【0057】
すなわち、この図3に示した装置において、抗原性物質は注入口1028から噴霧されて回収容器1025まで自然落下する間に正負両イオンに晒されてその作用を受けることになる。
【0058】
<スギ花粉および抗原性物質>
抗原性物質としては、スギ花粉より抽出した抗原性物質を用いた。スギ花粉は広島県豊町に生育する日本杉(学名:Cryptomeria japonica)の枝より採取した。その際、メッシュを取り付けた掃除機を用い、その後ふるいにかけて収集した。収集後の保存は−30℃のフリーザーを用いた。
【0059】
また、スギ花粉より抗原性物質を抽出するために、スギ花粉80gを20mMのリン酸緩衝溶液(PBS、pH7.4)3.2L中で、温度4℃の下4時間攪拌した後、6000rpmで30分間遠心分離した。その後、上清に終濃度80%飽和になるように硫酸アンモニウムを加え、6000rpmで30分間遠心分離した。この遠心分離後、6時間の透析を6回繰り返し行ない、続いて10000rpmで30分間遠心分離した。この遠心分離後、得られた上清を凍結乾燥し、スギ抗原性物質とした。なお、このスギ抗原性物質には、さらに抗原性物質であるクリジェイ1(Cry j 1)とクリジェイ2(Cry j 2)が含まれている。
【0060】
<フォーリンローリー(Folin−Lowry)法によるタンパク質の定量>
スギ抗原性物質を含んだ溶液0.2mlと下記D液1mlとを混合し、10分間放置した。つぎに、下記A液を0.1ml加え30分間放置した後750nmで吸光度を測定した。また、牛血清タンパク質(BSA)で標準系列を作成し、同手順で検量線を作成することにより、スギ抗原性物質のタンパク質の量をBSA換算量として定量した。その結果、そのタンパク質の濃度は200ng/mlであった。なお、ここで用いた各試薬は、以下の通りである。
(試薬)
A液;フェノール試薬を酸として1Nとしたもの。
B液;2%Na2CO3+0.1NのNaOH
C液;0.5%CuSO4・5H2O+1%クエン酸ナトリウム
D液;B液:C液=50:1(v/v)
<抗原性物質の噴霧と回収>
このようにして得られた抗原性物質であるスギ抗原性物質を含んだ溶液(タンパク質濃度200ng/ml)をネブライザー1024に8ml入れ、図3に示した装置の抗原性物質溶液噴霧用の注入口1028に接続した。一方、噴霧された抗原性物質を含んだ溶液を回収できるように、回収容器1025を円筒型密閉容器1027の底に設置した。
【0061】
ネブライザーは、エアコンプレッサーと接続して、圧縮空気(流量5L/分)により注入口1028から抗原性物質を噴霧した。噴霧量は8.0ml(噴霧時間90分)とした。90分後円筒型密閉容器1027の底に沈降した抗原性物質を回収容器1025で回収した。なお、噴霧された抗原性物質は、円筒型密閉容器1027中を自然落下するのに約90秒間かかった。
【0062】
なお、このような抗原性物質の噴霧と回収は、イオン発生素子1021を作動させる場合(すなわちイオン処理の場合)と作動させない場合(すなわち未処理の場合)の2通りについて行なった。
【0063】
イオン発生素子1021を作動させて抗原性物質に対して正イオンと負イオンとを作用させる場合、その雰囲気中(すなわち円筒型密閉容器1027中)の正負両イオンの濃度は、イオン発生素子1021を設置した円筒型密閉容器1027の抗原性物質溶液噴霧用の注入口1028よりエアコンプレッサーにより流量5L/分で空気を流し、抗原性物質溶液の回収容器1025にダン科学製空気イオンカウンタ(品番83−1001B)を設置し、正負両イオンの濃度を測定することにより求めた。その結果、該イオン発生素子1021に電極間のピークトゥーピーク(peak to peak)電圧として3.3kV〜3.7kVの電圧をそれぞれ印加した場合、円筒型密閉容器1027内の正負両イオンの濃度はそれぞれ10万個/cm3であった。なお、空間雰囲気は温度25℃、相対湿度60%RHであった。また、図2に示したように送出された正イオンはH3O+(H2O)n(nは0または自然数)、負イオンはO2 -(H2O)m(mは0または自然数)であり、これらの正負両イオンは前記の化学反応(i)〜(ii)により過酸化水素H2O2、二酸化水素HO2およびヒドロキシラジカル・OHを生成しているものと推定された。
【0064】
<イライザ(ELISA)法による反応性の評価>
次いで、このようにして捕集されたスギ抗原性物質と、花粉症の患者19〜60より採取した血清IgE抗体との反応性をイライザ(ELISA:enzyme−liked immunosorbent assay)法で測定した。なお、抗原性物質については、上記の通り正イオンと負イオンとを作用させたもの(イオン処理スギ抗原性物質)と未処理のもの(未処理スギ抗原性物質)とを比較することにより該反応性を評価した。
【0065】
具体的には、イライザ用96穴プレート(ELISA用96−well plate)に炭酸水素ナトリウム緩衝溶液(Bicarbonate buffer)で0.1μg/mlに希釈したイオン処理スギ抗原性物質と未処理スギ抗原性物質とをウェル(well)に50μlアプライした。同時にヒトIgE標準(human IgE standard)を炭酸水素ナトリウム緩衝溶液で200μg/mlから2倍希釈を5回繰り返したものをそれぞれ50μlづつウェル(well)にアプライし、室温で2時間静置した。洗浄用緩衝溶液(Washing buffer)でプレートを3回洗浄後、ブロッキング用緩衝溶液(Blocking buffer)を300μlアプライし、4℃で一晩静置した。
【0066】
一晩静置後、プレートを3回洗浄し、(3%スキムミルク+1%BSA)/PBSTでスギ花粉症の患者の血清を10倍希釈し1時間インキュべートしたものをウェル(well)に50μlアプライし、4時間静置した。プレートを3回洗浄後、(3%スキムミルク+1%BSA)/PBSTで1000倍希釈したビオチン標識抗ヒトIgE(Biotin−labeled anti−human IgE)をウェル(well)に50μlアプライし2.5時間静置した。
【0067】
該静置後、プレートを3回洗浄し、(3%スキムミルク+1%BSA)/PBSTで1000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識streptavidinを50μlアプライし、室温で1.5時間静置した。プレートを4回洗浄後、アトフォス(商標)基質緩衝溶液(Attophos(商標) substrate buffer)をウェル(well)に50μlアプライし、遮光の状態で発色するまで放置した。その蛍光強度を分光光度計(Cyto(商標)FluorII)で測定した。その結果を図4と図5に示す。
図4と図5に示すように、イオン発生素子1021を作動させない場合(すなわち正負両イオンが発生せず未処理の状態)と、正負両イオンの濃度がそれぞれ10万個/cm3となった場合とにおける、花粉症の患者の血清IgE抗体とスギ抗原性物質との反応性(結合性)は、花粉症の患者19〜60の42人中、患者40、患者49、患者54および患者57を除く38人の患者において、前記イオン処理を行なった抗原と、上記患者の血清IgE抗体との反応性が有意に低下していることが確認された(蛍光強度が低いほど、反応性が低いことを示している)。そして、このうち33人の患者において、著しく抗体反応性が低下していることが分かった。なお、ここで用いた各試薬は、以下の通りである。
(試薬)
炭酸水素ナトリウム緩衝溶液;100mMのNaHCO3(pH9.2〜9.5)
リン酸緩衝溶液(PBS);4gのNaCl、0.1gのNa2HPO4・12H2O、1.45gのKCl、1gのKH2PO4を蒸留水で500mlにメスアップ
PBST;PBS+0.5%ツウィーン20(Tween−20)
ブロッキング用緩衝溶液;PBS+3%スキムミルク+1%BSA
洗浄用緩衝溶液;43gのNa2HPO4・12H2O、3.6gのNaH2PO4、263gのNaCl、15mlのツウィーン20(Tween−20)を蒸留水で3Lにメスアップ
<イライザ(ELISA)法によるモノクローナル抗体との反応性評価>
ネブライザー1024で噴霧後、イオン発生素子1021を作動させない未処理の場合と、該素子に電極間のピークトゥーピーク(peak to peak)電圧として3.3kV〜3.7kVの電圧をそれぞれ印加して正負両イオンを送出し、円筒型密閉容器1027内の正負両イオンの濃度を正負両イオンがそれぞれ10万個/cm3とした場合の抗原性物質Cry j 1およびCry j2とそのモノクロ−ナル抗体との反応性の低下を調べた。
【0068】
具体的には、イライザ用96穴プレート(ELISA用96−well plate)に炭酸水素ナトリウム緩衝溶液(Bicarbonate buffer)で0.1μg/mlに希釈したイオン処理Cry j 1、イオン処理Cry j 2と未処理Cry j 1、未処理Cry j 2とをウェル(well)に50μlアプライした。洗浄用緩衝溶液(Washing buffer)でプレートを3回洗浄後、ブロッキング用緩衝溶液(Blocking buffer)を300μlアプライし、4℃で一晩静置した。
【0069】
一晩静置後、プレートを3回洗浄し、(3%スキムミルク+1%BSA)/PBSTでanti Cry j 1およびCry j 2ウサギ抗体を1000倍希釈したものをそれぞれ50μlづつウェル(well)に加え、1時間静置した。その後、プレートを3回洗浄後、(3%スキムミルク+1%BSA)/PBSTでHRP標識抗ラビットIgE(HRP標識 anti−rabbit IgE)を1500倍希釈したものをウェル(well)に50μlアプライし1時間静置した。
【0070】
該静置後、プレートを3回洗浄し、基質溶液(500μlのABTS(20mg/ml)、10μlの30%過酸化水素水、1mlの0.1M クエン酸(pH4.2)および8.49mlの蒸留水からなるもの)をウェル(well)に50μlアプライし、遮光の状態で発色するまで静置した。その蛍光強度を分光光度計(ARVO(商標)SX)で測定した。なお、試薬は、特に断りのない限り上記と同じものを各用いた。
【0071】
上記で得られた結果を図6に示す。図6に示されているようにイオン発生素子を作動させない場合(すなわち未処理Cry j 1、未処理Cry j 2)と、正負両イオンの濃度がそれぞれ略10万個/cm3となる雰囲気で作用させた場合(すなわちイオン処理Cry j 1、イオン処理Cry j 2)とを比較すると、イオン処理をした場合において抗原性物質であるCry j 1およびCry j 2とそのモノクロ−ナル抗体との反応性(結合性)は有意に低下していることが確認された。すなわち、Cry j 1とモノクローナル抗体との反応性は、未処理のものとイオン処理のものとの間で、約5分の1に低下しており、Cry j 2においても約2分の1に低下していることが分かった。
【0072】
<抗原性物質の失活率の測定>
上記のイライザ(ELISA)法における患者19の血清IgEを抗体として用い、スギ抗原性物質の濃度(タンパク質濃度として)を100ng/ml、200ng/ml、400ng/ml、800ng/mlの4通りの濃度として、上記と同様(すなわち装置としては図3の装置を用い、イオン処理する場合は正負イオンそれぞれ略10万個/cm3の濃度とする)にしてイライザ法によりそれぞれ未処理スギ抗原性物質とイオン処理スギ抗原性物質との蛍光強度を求めた。そして、この蛍光強度から前述の式(1)に基づいて抗原性物質の失活率を求めた。その結果を以下の表1に示すとともに、抗原性物質濃度と失活率との関係を図7に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1および図7から明らかな通り、正負両イオンの濃度をそれぞれ10万個/cm3とすれば、少なくとも失活率を56%以上とすることができる。特に失活率が75%以上の部分は一段と失活率が向上している。さらに、83%以上の部分ではより効果的である。したがって、住環境に存在する抗原性物質に対してイオン濃度と抗原性物質と正負両イオンとの作用時間を調整して抗原性物質の失活率を略50%以上、好ましくは略75%以上とすることにより、抗原性物質が原因で誘発される各種のアレルギー疾患を有効に抑制することが期待される。
【0075】
<イライザインヒビッション(ELISA inhibition)法による評価>
また、イオン処理スギ抗原性物質および未処理スギ抗原性物質と、花粉症患者の血清IgEとの反応性を定量的に評価するためにイライザインヒビッション(ELISA inhibition:enzyme−liked immunosorbent assay inhibition)法により確認した。
【0076】
具体的には、噴霧後回収したスギ抗原性物質を、遠心分離機(Centriprep YM−10)に入れ、2500rpmで遠心濃縮した。さらに、この濃縮液を遠心分離機(ULTRA FLEE−MC)に入れ7000rpmで遠心濃縮した。濃縮したイオン処理スギ抗原性物質および未処理スギ抗原性物質をタンパク質濃度11μg/mlから5倍希釈を8回繰り返し行なった。希釈したそれぞれの抗原性物質50μlと10倍希釈した患者血清IgE50μlとを混合し4℃で一晩プレインキュベートした。
【0077】
イライザ用96穴プレート(ELISA用96−well plate)に炭酸水素ナトリウム緩衝溶液(Bicarbonate buffer)で1μg/mlに希釈したスギ抗原性物質(噴霧も行なっていないもの)をウェル(well)に50μlアプライし2時間静置した。洗浄用緩衝溶液(Washingbuffer)でプレートを3回洗浄後、ブロッキング用緩衝溶液(Blocking buffer)を300μlアプライし、4℃で一晩静置した。
【0078】
一晩静置後、プレートを3回洗浄し、プレインキュベートしていたサンプルをそれぞれ50μlウェルにアプライし、4時間静置した。プレートを3回洗浄後、(3%スキムミルク+1%BSA)/PBSTで1000倍希釈したビオチン標識抗ヒトIgE(Biotin−labeled anti−human IgE)をウェル(well)に50μlアプライし2.5時間静置した。
【0079】
該静置後、プレートを3回洗浄し、(3%スキムミルク+1%BSA)/PBSTで1000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識streptavidinを50μlアプライし、室温で1.5時間静置した。プレートを4回洗浄後、アトフォス(商標)基質緩衝溶液(Attophos(商標) substrate buffer)をウェル(well)に50μlアプライし、遮光の状態で発色するまで放置した。その蛍光強度を分光光度計(Cyto(商標)FluorII)で測定した。なお、試薬は、特に断りのない限り上記と同じものを各用いた。
【0080】
イオン発生素子を作動させない未処理の場合(すなわち未処理スギ抗原性物質)と、該素子に電極間のピークトゥーピーク(peak to peak)電圧として3.3kV〜3.7kVの電圧をそれぞれ印加して正負両イオンを送出し、円筒型密閉容器1027内の正負両イオンの濃度を正負両イオンそれぞれ10万個/cm3とした場合(すなわちイオン処理スギ抗原性物質)についての、花粉症患者の血清IgE抗体との反応性(結合性)を調べた。その結果を図8に示す。
【0081】
図8に示したように、未処理スギ抗原性物質は、50%阻害(スギ抗原性物質の血清IgE抗体に対する反応性が50%に低下すること)に必要なスギ抗原性物質量が2.53×103pg/wellであるのに対し、イオン処理スギ抗原性物質は、50%阻害に必要なスギ抗原性物質量が1.34×104pg/wellとなり、反応失活率は81%であることを確認した。なお、ここでいう反応失活率は、以下の式(2)により求めた。
反応失活率%=(1−C/D)×100・・・(2)
C:50%阻害に必要な未処理スギ抗原性物質の濃度
D:50%阻害に必要なイオン処理スギ抗原性物質の濃度
このように、正負両イオンの濃度をそれぞれ10万個/cm3とした場合、上述の式(1)以外の方法によっても、抗原性物質の反応失活率が75%以上となることが確認できた。
【0082】
<皮内反応試験>
イオン処理スギ抗原性物質および未処理スギ抗原性物質を、それぞれ0.9%NaClでタンパク質濃度0.5μg/mlに希釈したものを、ツベルクリン用注射器で0.02mlスギ花粉症患者の前腕屈側皮内に注射した。約15分後に現れた紅斑、膨疹の直径と短径を測定し、それらの平均径から反応性を評価した。その結果を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
上記表2において、紅斑が10mm未満の場合を「−」、紅斑が10mm以上20mm未満の場合を「±」、紅斑が20mm以上30mm未満であるか、または膨疹が10mm未満の場合を「+」、紅斑が30mm以上40mm未満であるか、または膨疹が10mm以上15mm未満の場合を「++」、紅斑が40mmより以上か、または膨疹が15mm以上の膨疹に偽足を呈している場合を「+++」とした。
【0085】
表2に示すように、イオン発生素子を作動させない未処理の場合(すなわち正負両イオンが発生していない状態、未処理スギ抗原性物質)と、正負両イオンの濃度がそれぞれ10万個/cm3である雰囲気中で処理した場合(イオン処理スギ抗原性物質)を比較すると、花粉症の患者A〜Fの6名全員の皮内反応性が有意に低下していることが確認された。
【0086】
<結膜反応試験>
イオン処理スギ抗原性物質および未処理スギ抗原性物質を、それぞれ0.9%NaClでタンパク質濃度5μg/mlに希釈したものをピペットマンで5μlスギ花粉症患者A〜Fの眼に滴下し、約15分後結膜反応の有無として半月皮壁、眼瞼皮および球結膜の充血、痒み、流涙等を観察した。
【0087】
判定は全く充血が認められない場合を「−」、わずかに充血が認められ痒み感のある場合を「±」、球結膜上部または下部の一方に充血の認められる場合を「+」、球結膜の上部および下部のいずれにも充血の認められる場合を「++」、球結膜全体に充血が認められる場合を「+++」、さらに眼瞼の浮腫等を認めた場合を「++++」として評価した。その結果を同じく上記表2に示す。
【0088】
表2に示すように、イオン発生素子を作動させない未処理の場合(すなわち正負両イオンが発生していない状態、未処理スギ抗原性物質)と、正負両イオンの濃度がそれぞれ10万個/cm3である雰囲気中で処理した場合(すなわちイオン処理スギ抗原性物質)とを比較すると、花粉症患者A〜Fの6名のうち、患者Aを除く5名において結膜反応性が有意に低下していることが確認された。
【0089】
<失活率まとめ>
本発明の方法による評価をまとめると下記の通りとなる。
正負両イオンの濃度:それぞれ10万個/cm3、イオン作用時間:90秒
(1)イライザ法による反応性評価
42人中33人が著しく低下(79%)
42人中38人が有意に低下(90%)
反応失活率56%〜94%(表1)
(2)イライザインヒビッション法による評価
反応失活率81%
(3)皮内反応評価
6人中6人が有意に低下(100%)(表2)
(4)結膜反応評価
6人中5人が有意に低下(83%)(表2)
このように本発明の方法によると、正負両イオンを作用させることにより抗原性物質を有効に失活させることができるため、この種の抗原性物質が原因となる花粉症やダニアレルギーなどの各種アレルギー疾患を有効に低減することが期待できる。特に、正負両イオンの濃度をそれぞれ10万個/cm3とすれば、抗原性物質の失活率を75%以上とすることができ、かつこの条件下において皮内反応試験および結膜反応試験よりアレルギー反応性が有意に抑制されていることを確認することができた。
【0090】
本実施例では、正負両イオンの濃度をそれぞれ略10万個/cm3とし、正負両イオンを約90秒間作用させたが、抗原性物質の失活率を略50%以上、好ましくは略75%以上とする本発明は、上記条件に限定されるものではなく、イオン濃度、抗原性物質濃度、イオン作用時間を変えることにより、異なる条件でも達成することが可能であり、本発明に含まれるものである。
【0091】
また、本発明の方法または装置を空気調節装置の内部または外部に用いることにより、抗原性物質の失活した空気の送風や、上記イオン放出による空中に浮遊する抗原性物質の直接失活が可能になる。
【0092】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0093】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、定期的なフィルタの交換等の煩雑さがなく、しかも抗体の個人差による影響を受ける等の予防法上の困難性を伴なうこともなく、正負両イオンの作用により抗原性物質を失活させることができる。特に、抗原性物質の失活率を略50%以上、好ましくは略75%以上とすることにより、抗原性物質が原因となって引き起こされる各種のアレルギー疾患を有効に抑制することが期待される。そして、このような抗原性物質の失活率は、正負両イオンの濃度がそれぞれ10万個/cm3以上となる雰囲気中で抗原性物質に対して正負両イオンを作用させることにより達成することができる。一方、抗原性物質に対して正負両イオンを作用させる際に、人体に有害な量のオゾン等の副生をともなうこともない。また、本発明の装置によれば、正負両イオンを空気中に送出し抗原性物質を失活させることができる。
【0094】
したがって、本発明の方法または装置を利用した空気調節装置は、効率的に空気中の抗原性物質を失活させることができ、アレルギー疾患を低減させた快適な居住空間等を提供することができるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 イオン発生素子の構造の一例を示す概略図である。
【図2】 イオン発生素子から生成される正イオンおよび負イオンの質量スペクトルを示した図である。
【図3】 抗原性物質を失活させる方法を実行するための装置の一例を示す概略図である。
【図4】 抗原性物質(スギ抗原性物質)をイオン処理した場合と未処理の場合とについて、花粉症患者19〜40の血清IgE抗体とのアレルギー反応の関係を示した図である。
【図5】 抗原性物質(スギ抗原性物質)をイオン処理した場合と未処理の場合とについて、花粉症患者41〜60の血清IgE抗体とのアレルギー反応の関係を示した図である。
【図6】 抗原性物質をイオン処理した場合と未処理の場合とについて、Cry j 1およびCry j 2とそのモノクロ−ナル抗体との反応性の関係を示した図である。
【図7】 抗原性物質濃度と失活率との関係を示すグラフである。
【図8】 イライザインヒビッション(ELISA inhibition)法により、抗原性物質(スギ抗原性物質)をイオン処理した場合と未処理の場合とについて、抗原性物質と花粉症患者の血清IgE抗体のアレルギー反応性の関係を示した図である。
【符号の説明】
1001 電源、1002,1004 電極、1003 誘電体、1004 接地電極、1005 プラズマ領域、1021 イオン発生素子、1022 正イオン、1023 負イオン、1024 ネブライザー、1025 回収容器、1026 脱気口、1027 円筒型密閉容器、1028 注入口。
Claims (6)
- タンパク質もしくは糖タンパク質からなる抗原性物質に対して主として正イオンがH 3 O + (H 2 O) n (nは0または自然数)であり、負イオンがO 2 - (H 2 O) m (mは0または自然数)である正イオンと負イオンとを作用させることにより、前記抗原性物質の抗体反応部位を変性ないし破壊することにより抗原性物質を失活させる方法。
- 正負両イオンの濃度が、それぞれ略10万個/cm3以上となる雰囲気中において、前記正イオンと前記負イオンとを作用させることを特徴とする、請求項1に記載の抗原性物質を失活させる方法。
- 前記正イオンと前記負イオンとが、化学反応することによって過酸化水素H2O2、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHの少なくとも1種を生成することを特徴とする、請求項1または2に記載の抗原性物質を失活させる方法。
- 抗原性物質に対して、主として正イオンがH 3 O + (H 2 O) n (nは0または自然数)であり、負イオンがO 2 - (H 2 O) m (mは0または自然数)である正イオンと負イオンとを作用させるために、前記正イオンと前記負イオンとを空気中に送出する機構を有することを特徴とする、抗原性物質を失活させる装置。
- 前記正負両イオンの濃度が、それぞれ略10万個/cm3以上となる雰囲気を提供するように、前記正イオンと前記負イオンとを空気中に送出することを特徴とする、請求項4に記載の抗原性物質を失活させる装置。
- 空気調節機構を備えていることを特徴とする、請求項4または5に記載の抗原性物質を失活させる装置。
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