《実施形態1》
本実施形態1では、本発明を実施したモーターサイクルの例として、図1に示すスクータ型車両1を例に挙げて、本発明の好ましい実施形態の一例について説明する。但し、本発明において、「モーターサイクル」は、スクータ型車両に限定されない。「モーターサイクル」は、所謂広義のモーターサイクルを意味する。具体的に、本明細書において「モーターサイクル」は、車両を傾斜させることによって方向転換を行う車両全般をいう。このため、「モーターサイクル」は、自動二輪車に限定されない。前輪及び後輪のうちの少なくとも一方が複数の車輪により構成されていてもよい。具体的には、「モーターサイクル」は、前輪及び後輪のうちの少なくとも一方が相互に隣接して配置された2つの車輪によって構成されている車両であってもよい。「モーターサイクル」には、狭義のモーターサイクル、スクータ型車両、モペット型車両及びオフロード型車両が少なくとも含まれる。
(スクータ型車両1の概略構成)
まず、図1を参照しながらスクータ型車両1の概略構成について説明する。尚、以下の説明において、前後左右といった方向は、スクータ型車両1のシート14に着座したライダーから視た方向をいうものとする。
スクータ型車両1は、車体フレーム10を備えている。車体フレーム10は、図示しないヘッドパイプを有する。ヘッドパイプは、車両の前方部分において、下方に向かってやや斜め前方に延びている。ヘッドパイプには、図示しないステアリングシャフトが回転可能に挿入されている。ステアリングシャフトの上端部には、ハンドル12が設けられている。一方、ステアリングシャフトの下端部には、フロントフォーク15が接続されている。フロントフォーク15の下端部には、従動輪としての前輪16が回転可能に取り付けられている。
車体フレーム10には、車体カバー13が取り付けられている。車体フレーム10の一部は、この車体カバー13によって覆われている。車体カバー13は、レッグシールド27を有する。このレッグシールド27によって車両の前面が覆われている。また、車体カバー13は、レッグシールド27よりも後方に配置され、車両の左右両側に設けられた足載せ台17を有している。足載せ台17には、足載せ面17aが形成されている。スクータ型車両1のライダーの足は、この足載せ面17aに載せられる。
左右両側の足載せ台17の間には、車体カバー13の一部を構成するセンターカバー26が配置されている。センターカバー26は足載せ台17の足載せ面17aから上方に向かって突出し、前後方向に延びるトンネル状に形成されている。車体カバー13のセンターカバー26よりも後方の部分には、ライダーが着座するシート14が取り付けられている。また、車両のほぼ中央において、車体フレーム10には、サイドスタンド23が取り付けられている。
車体フレーム10には、エンジンユニット20が揺動可能に懸架されている。具体的に、エンジンユニット20は、スイングユニット式のエンジンである。エンジンユニット20には、エンジンブラケット21が一体結合されている。エンジンユニット20は、このエンジンブラケット21を介して、車体フレーム10のピボット軸19に揺動可能に取り付けられている。また、エンジンユニット20には、クッションユニット22の一端が取り付けられている。クッションユニット22の他端は、車体フレーム10の後部に取り付けられている。このクッションユニット22によって、エンジンユニット20の揺動が抑制される。
エンジンユニット20は、エンジンユニット20において発生した動力を出力する出力軸33(図2を参照)を備えている。後輪18は、この出力軸33に取り付けられている。よって、後輪18は、エンジンユニット20において生じた動力により駆動される。つまり、本実施形態1において、後輪18は、駆動輪を構成している。
図2に示すように、本実施形態では、出力軸33に対して、車速センサ88が設けられている。具体的には、車速センサ88は、出力軸33と共に回転する第14のギア80に対して設けられている。但し、車速センサ88は、出力軸33以外の回転軸に対して設けられていてもよい。
(エンジンユニット20の構成)
図2は、エンジンユニット20の断面図である。図4は、エンジンユニット20の構成を表す模式図である。図2に示すように、エンジンユニット20は、エンジン30と、変速装置31とを備えている。尚、本実施形態1ではエンジン30が単気筒エンジンである例について説明する。但し、本発明において、エンジン30は、単気筒エンジンに限定されない。エンジン30は、例えば、2気筒エンジンなどの多気筒のエンジンであってもよい。
−エンジン30−
エンジン30は、クランクケース32と、シリンダボディ37と、シリンダヘッド40と、クランク軸34とを備えている。クランクケース32の内部には、クランク室35が区画形成されている。シリンダボディ37の内部には、クランク室35に開口するシリンダ38が区画形成されている。シリンダボディ37の先端には、シリンダヘッド40が取り付けられている。クランク室35には、車幅方向に延びるクランク軸34が配置されている。クランク軸34には、コンロッド36が取り付けられている。コンロッド36の先端には、シリンダ38内に配置されたピストン39が取り付けられている。このピストン39とシリンダボディ37と、シリンダヘッド40とによって燃焼室41が区画形成されている。シリンダヘッド40には、先端の発火部が燃焼室41に位置するように点火プラグ42が取り付けられている。
図3は、キックスタータ100及びセルモータ101を表すエンジンユニット20の部分断面図である。図1及び図3に示すように、エンジンユニット20には、キックスタータ100が設けられている。スクータ型車両1のライダーは、このキックスタータ100を操作することによってエンジン30を始動させることができる。
キックスタータ100は、キックペダル24を有する。キックペダル24は、図1に示すように、クランク軸34よりも後方かつ上方において、クランクケース32の左側に配置されている。図3に示すように、キックペダル24は、キック軸102に取り付けられている。キック軸102とクランクケース32との間には、圧縮コイルばね103が設けられている。この圧縮コイルばね103は、ライダーの操作により回転したキック軸102に対して逆回転方向の付勢力を付与する。また、キック軸102には、ギア104が設けられている。一方、軸105には、ギア106が回転不能に設けられている。ギア104は、このギア106と噛合している。このギア104とギア106とによってキック軸102の回転が軸105に伝達される。
軸105には、ラチェット107が形成されている。軸105のラチェット107が形成された部分には、ラチェット108が取り付けられている。軸105が回転すると、ラチェット108は、ラチェット107によって案内されて軸105の軸方向右側に移動する。一方、圧縮コイルばね103の付勢力によって軸105が逆方向に回転すると、ラチェット108は、ラチェット107によって案内されて軸105の軸方向左側に移動する。
ラチェット108の右側端面には、係合部109が形成されている。一方、軸105に回転可能に設けられたギア111の左側端面には係合部110が形成されている。ラチェット108の係合部109は、ラチェット108が右方向に移動したときに係合部110と係合する。これにより、ラチェット108が右方向に移動したときには、軸105の回転がギア111に伝達する。ギア111は、バランサ軸115に形成されたギア116と噛合している。また、ギア116は、クランク軸34に形成されたギア117と噛合している。これにより、ギア111の回転は、バランサ軸115を介してクランク軸34に伝達される。よって、キックペダル24が操作されると、クランク軸34が回転し、エンジン30が始動される。
なお、キック軸102は、平面視において、変速装置31をまたぐように車両中央側に延びている。すなわち、図3に示すように、キック軸102は、車幅方向の左側から車両中央側に延びており、変速装置31の一部と上下方向に並ぶように配置されている。
また、エンジン30には、セルモータ101も設けられている。セルモータ101は、クランクケース32に対して取り付けられている。このセルモータ101の回転は、ギア120、121及び122を介してクランク軸34に伝達される。これにより、ライダーの操作によりセルモータ101が駆動されることによって、エンジン30が始動する。
−発電機45−
クランクケース32の右側には、発電機カバー43が取り付けられている。この発電機カバー43とクランクケース32とによって、発電機室44が区画形成されている。
クランク軸34の右側端部は、クランク室35から突出して、発電機室44に至っている。発電機室44内において、クランク軸34の右側端部には、発電機45が取り付けられている。発電機45は、インナ45aと、アウタ45bとを備えている。インナ45aは、クランクケース32に対して回転不能に取り付けられている。一方、アウタ45bは、クランク軸34の右側端部に取り付けられている。アウタ45bは、クランク軸34と共に回転する。よって、クランク軸34が回転すると、アウタ45bはインナ45aに対して相対的に回転する。これによって、発電が行われる。尚、アウタ45bには、ファン46が設けられている。このファン46がクランク軸34と共に回転することで、エンジン30の冷却が行われる。
クランクケース32の左側には、変速装置カバー50が取り付けられている。この変速装置カバー50とクランクケース32とによって、クランクケース32の左側に位置する変速装置室51が区画形成されている。
−変速装置31の構成−
次に、主として図4を参照しながら、変速装置31の構成について詳細に説明する。変速装置31は、入力軸52と出力軸33とを備えた4速の有段式自動変速装置である。変速装置31は、複数の変速ギア対を介して入力軸52から出力軸33へと動力が伝達される所謂ギアトレイン型の有段式変速装置である。
図2に示すように、クランク軸34の左側端部は、クランク室35から突出して、変速装置室51に至っている。クランク軸34は、変速装置31の入力軸52を兼ねている。
〜回転軸構成〜
変速装置31は、第1の回転軸53と、第2の回転軸54と、第3の回転軸64と、出力軸33とを有する。第1の回転軸53と、第2の回転軸54と、第3の回転軸64と、出力軸33とのそれぞれは、入力軸52と平行に配置されている。
図5において、符号C1,C2,C3,C4,C5は、それぞれ、入力軸52の軸線、第1の回転軸53の軸線、第2の回転軸54の軸線、第3の回転軸64の軸線、出力軸33の軸線を表している。図5に示すように、入力軸52と、第1の回転軸53と、第2の回転軸54と、第3の回転軸64と、出力軸33とは、側面視において、入力軸52の軸方向と垂直な略水平方向に配列されている。より具体的には、入力軸52の軸線C1と、第1の回転軸53の軸線C2と、第2の回転軸54の軸線C3と、第3の回転軸64の軸線C4と、出力軸33の軸線C5とは、側面視において、略水平な直線上に配列されている。このように各回転軸を配置することで、入力軸52と出力軸33との間の距離を比較的長くすることができる。尚、図5において、符号94は、アイドルギアを表している。符号95は、スタータ用のワンウェイギアを表している。
尚、本実施形態1では、出力軸33と第3の回転軸64とがそれぞれ別個に設けられている例について説明する。但し、本発明はこの構成に限定されない。出力軸33と第3の回転軸64とは共通であってもよい。言い換えれば、第3の回転軸64に対して後輪18が取り付けられていてもよい。
〜上流側クラッチ群81〜
入力軸52には、上流側クラッチ群81が設けられている。上流側クラッチ群81は、第1のクラッチ55と、第2のクラッチ59とを備えている。第1のクラッチ55は、第2のクラッチ59よりも右側に配置されている。第1のクラッチ55と、第2のクラッチ59とは、それぞれ遠心クラッチにより構成されている。具体的に、本実施形態1では、第1のクラッチ55と、第2のクラッチ59とは、それぞれドラム式の遠心クラッチにより構成されている。但し、本発明は、この構成に限定されない。第1のクラッチ55と、第2のクラッチ59とは、遠心クラッチ以外のクラッチであってもよい。例えば、第1のクラッチ55と、第2のクラッチ59とは、油圧式のクラッチであってもよい。但し、第1のクラッチ55は、遠心クラッチであることが好ましい。
第1のクラッチ55は、入力側クラッチ部材としてのインナ56と、出力側クラッチ部材としてのアウタ57とを備えている。インナ56は、入力軸52に対して回転不能に設けられている。このため、インナ56は、入力軸52の回転と共に回転する。一方、アウタ57は、入力軸52に対して回転可能である。入力軸52の回転速度が所定の回転速度よりも大きくなると、インナ56に働く遠心力により、インナ56とアウタ57とが接触する。これにより第1のクラッチ55がつながる。一方、インナ56とアウタ57とがつながった状態で回転しているときに、その回転速度が所定の回転速度よりも小さくなると、インナ56に働く遠心力が弱くなり、インナ56とアウタ57とが離れる。これにより第1のクラッチ55が切断される。
第2のクラッチ59は、出力側クラッチ部材としてのインナ60と、入力側クラッチ部材としてのアウタ61とを備えている。インナ60は、後述する第3のギア62に対して回転不能に設けられている。入力軸52が回転すると、その回転が第1の変速ギア対86と、第1の回転軸53と第2の変速ギア対83とを介して、インナ60に伝達される。このため、インナ60は、入力軸52の回転と共に回転する。アウタ61は、入力軸52に対して回転可能である。入力軸52の回転速度が所定の回転速度よりも大きくなると、インナ60に働く遠心力により、インナ60とアウタ61とが接触する。これにより第2のクラッチ59がつながる。一方、インナ60とアウタ61とがつながった状態で回転しているときに、その回転速度が所定の回転速度よりも小さくなると、インナ60に働く遠心力が弱くなり、インナ60とアウタ61とが離れる。これにより第2のクラッチ59が切断される。
尚、本実施形態1では、アウタ57とアウタ61とが同一の部材で構成されている。但し、本発明はこの構成に限定されない。アウタ57とアウタ61とを別の部材によって構成してもよい。
第1のクラッチ55が接続されるときの入力軸52の回転速度と、第2のクラッチ59が接続されるときの入力軸52の回転速度とは相互に異なる。言い換えれば、第1のクラッチ55が接続されるときのインナ56の回転速度と、第2のクラッチ59が接続されるときのインナ60の回転速度とは相互に異なる。具体的には、第1のクラッチ55が接続されるときの入力軸52の回転速度の方が、第2のクラッチ59が接続されるときの入力軸52の回転速度よりも低い。より具体的に説明すると、第1のクラッチ55は、入力軸52の回転速度が第1の回転速度以上のときにつながる。一方、第1のクラッチ55は、入力軸52の回転速度が第1の回転速未満であるときに切断された状態となる。第2のクラッチ59は、入力軸52の回転速度が上記第1の回転速度よりも高い第2の回転速度以上のときにつながる。一方、第2のクラッチ59は、入力軸52の回転速度が第2の回転速度未満であるときに切断された状態となる。
第1のクラッチ55のアウタ57には、第1のギア58が、アウタ57に対して回転不能に設けられている。第1のギア58は、第1のクラッチ55のアウタ57と共に回転する。一方、第1の回転軸53には、第2のギア63が設けられている。第2のギア63は第1のギア58と噛合している。第1のギア58と第2のギア63とは第1の変速ギア対86とを構成している。本実施形態では、第1の変速ギア対86は、第1速の変速ギア対を構成している。
第2のギア63は、所謂一方向ギアである。具体的には、第2のギア63は、第1のギア58の回転を第1の回転軸53に伝達する。一方、第2のギア63は、第1の回転軸53の回転を入力軸52には伝達しない。つまり、第2のギア63は、一方向回転伝達機構96を兼ね備えている。
第2のクラッチ59の出力側クラッチ部材としてのインナ60には、第3のギア62が設けられている。第3のギア62はインナ60と共に回転する。一方、第1の回転軸53には、第4のギア65が設けられている。第4のギア65は第3のギア62と噛合している。第4のギア65と第3のギア62とは第2の変速ギア対83とを構成している。第2の変速ギア対83は、第1の変速ギア対86とは異なるギア比を有する。具体的に、第2の変速ギア対83は、第1の変速ギア対86のギア比よりも小さなギア比を有している。第2の変速ギア対83は第2速の変速ギア対を構成している。
第1の変速ギア対86と第2の変速ギア対83との間には、上記第1のクラッチ55と第2のクラッチ59が位置している。言い換えれば、上記第1のクラッチ55と第2のクラッチ59とは、第1の変速ギア対86と第2の変速ギア対83との間に配置されている。
本実施形態では、第4のギア65は、第5のギア87としての機能も兼ね備えている。言い換えれば、第4のギア65と第5のギア87とは共通である。第2の回転軸54には、第6のギア75が、第2の回転軸54に対して回転不能に設けられている。第6のギア75は第2の回転軸54と共に回転する。第4のギア65としての機能も兼ね備える第5のギア87は、第6のギア75と噛合している。第4のギア65としての機能も兼ね備える第5のギア87と、第6のギア75とは、第1の伝達ギア対84を構成している。
第2の回転軸54には、第7のギア74が、第2の回転軸54に対して回転不能に設けられている。第7のギア74は第2の回転軸54と共に回転する。一方、第3の回転軸64には、第8のギア78が第3の回転軸64に対して回転不能に設けられている。第3の回転軸64は、第8のギア78と共に回転する。第7のギア74と第8のギア78とは相互に噛合している。第7のギア74と第8のギア78とは、第2の伝達ギア対85を構成している。
第8のギア78は、所謂一方向ギアである。具体的には、第8のギア78は、第2の回転軸54の回転を第3の回転軸64に伝達する。一方、第8のギア78は、第3の回転軸64の回転を第2の回転軸54には伝達しない。つまり、第8のギア78は、一方向回転伝達機構93を兼ね備えている。
但し、本発明において、第8のギア78が所謂一方向ギアであることは必須ではない。例えば、第8のギア78を通常のギアとし、第7のギア74を所謂一方ギアとしてもよい。言い換えれば、第7のギア74に一方向回転伝達機構を兼ね備えさせてもよい。具体的には、第7のギア74を第2の回転軸54の回転を第8のギア78に伝達する一方、第8のギア78の回転を第2の回転軸54に伝達しないようにしてもよい。
〜下流側クラッチ群82〜
第2の回転軸54には、下流側クラッチ群82が設けられている。下流側クラッチ群82は上流側クラッチ群81の後方に位置している。図2に示すように、下流側クラッチ群82と上流側クラッチ群81とは、入力軸52の軸方向に関して、少なくとも一部が重なる位置に配置されている。言い換えれば、下流側クラッチ群82と上流側クラッチ群81とは、車幅方向に関して、少なくとも一部が重なる位置に配置されている。具体的には、下流側クラッチ群82と上流側クラッチ群81とは、車幅方向に関して、実質的に重なる位置に配置されている。
下流側クラッチ群82は、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とを備えている。第4のクラッチ66は、第3のクラッチ70よりも右側に配置されている。このため、第1のクラッチ55が第2のクラッチ59に対して位置する方向と、第4のクラッチ66が第3のクラッチ70に対して位置する方向とは等しくなっている。そして、図2に示すように、第1のクラッチ55と第4のクラッチ66とは、車幅方向に関して少なくとも一部が重なるように配置されている。言い換えれば、第1のクラッチ55と第4のクラッチ66とは、入力軸52の軸方向に関して少なくとも一部が重なるように配置されている。一方、第2のクラッチ59と第3のクラッチ70とも、車幅方向に関して少なくとも一部が重なるように配置されている。言い換えれば、第2のクラッチ59と第3のクラッチ70とは、入力軸52の軸方向に関して少なくとも一部が重なるように配置されている。具体的には、第1のクラッチ55と第4のクラッチ66とは、車幅方向に関して実質的に重なるように配置されている。一方、第2のクラッチ59と第3のクラッチ70とも、車幅方向に関して実質的に重なるように配置されている。
第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とは、それぞれ所謂油圧式クラッチにより構成されている。具体的には、本実施形態1では、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とは、それぞれディスク式の油圧式クラッチにより構成されている。但し、本発明は、この構成に限定されない。第4のクラッチ66と第3のクラッチ70とは、油圧式のクラッチ以外のクラッチであってもよい。例えば、第4のクラッチ66と第3のクラッチ70とは、遠心クラッチであってもよい。但し、第4のクラッチ66と第3のクラッチ70とは、油圧式のクラッチであることが好ましい。
このように、第1のクラッチ55、第2のクラッチ59、第4のクラッチ66及び第3のクラッチ70のそれぞれは、ドラム式又はディスク式の遠心クラッチであってもよいし、ドラム式又はディスク式の油圧式クラッチであってもよい。第1のクラッチ55、第2のクラッチ59、第4のクラッチ66及び第3のクラッチ70のすべてが遠心クラッチであってもよい。第1のクラッチ55、第2のクラッチ59、第4のクラッチ66及び第3のクラッチ70のすべてが油圧式クラッチであってもよい。また、第1のクラッチ55、第2のクラッチ59、第4のクラッチ66及び第3のクラッチ70のうち、比較的ギア比の大きい1又は複数のクラッチを遠心クラッチとし、それ以外の比較的ギア比の小さいクラッチを油圧式クラッチとしてもよい。具体的には、第1のクラッチ55のみを遠心クラッチとし、それ以外のクラッチ59、66、70を油圧式クラッチとしてもよい。逆に、第1のクラッチ55、第2のクラッチ59、第4のクラッチ66及び第3のクラッチ70のうち、比較的ギア比の大きい1又は複数のクラッチを油圧式クラッチとし、それ以外の比較的ギア比の小さいクラッチを遠心クラッチとしてもよい。
第3のクラッチ70が接続されるときの第2の回転軸54の回転速度と、第4のクラッチ66が接続されるときの第2の回転軸54の回転速度とは相互に異なる。言い換えれば、第3のクラッチ70が接続されるときのインナ71の回転速度と、第4のクラッチ66が接続されるときのインナ67の回転速度とは相互に異なる。具体的には、第3のクラッチ70が接続されるときの第2の回転軸54の回転速度の方が、第4のクラッチ66が接続されるときの第2の回転軸54の回転速度よりも低い。
第3のクラッチ70は、入力側クラッチ部材としてのインナ71と、出力側クラッチ部材としてのアウタ72とを備えている。インナ71は、第2の回転軸54に対して回転不能に設けられている。このため、インナ71は、第2の回転軸54の回転と共に回転する。一方、アウタ72は、第2の回転軸54に対して回転可能である。第3のクラッチ70がつながっていない状態では、第2の回転軸54が回転すると、インナ71は第2の回転軸54と共に回転する一方、アウタ72は第2の回転軸54と共には回転しない。第3のクラッチ70がつながっている状態では、インナ71とアウタ72との両方が第2の回転軸54と共に回転する。
第3のクラッチ70の出力側クラッチ部材としてのアウタ72には、第9のギア73が取り付けられている。第9のギア73は、アウタ72と共に回転する。一方、第3の回転軸64には、第10のギア77が第3の回転軸64に対して回転不能に設けられている。第10のギア77は、第3の回転軸64と共に回転する。第9のギア73と第10のギア77とは、相互に噛合している。よって、アウタ72の回転は、第9のギア73と第10のギア77とを介して第3の回転軸64に伝達される。
第9のギア73と第10のギア77とは、第3の変速ギア対91を構成している。第3の変速ギア対91は、第1の変速ギア対86のギア比と、第2の変速ギア対83のギア比と、第4の変速ギア対90のギア比は異なるギア比を有する。
第3の変速ギア対91は、第3のクラッチ70に対して、第2のクラッチ59に対して第2の変速ギア対83が位置する側と同じ側に位置している。具体的には、第3の変速ギア対91は、第3のクラッチ70に対して左側に位置している。第2の変速ギア対83も同様に、第2のクラッチ59に対して左側に位置している。
また、第3の変速ギア対91と第2の変速ギア対83とは、車幅方向に関して、少なくとも一部同士が重なるように配置されている。言い換えれば、第3の変速ギア対91と第2の変速ギア対83とは、入力軸52の軸方向に関して、少なくとも一部同士が重なるように配置されている。具体的には、第3の変速ギア対91と第2の変速ギア対83とは、車幅方向に関して、実質的に重なるように配置されている。
第4のクラッチ66は、入力側クラッチ部材としてのインナ67と、出力側クラッチ部材としてのアウタ68とを備えている。インナ67は、第2の回転軸54に対して回転不能に設けられている。このため、インナ67は、第2の回転軸54の回転と共に回転する。一方、アウタ68は、第2の回転軸54に対して回転可能である。第4のクラッチ66がつながっていない状態では、第2の回転軸54が回転すると、インナ67は第2の回転軸54と共に回転する一方、アウタ68は第2の回転軸54と共には回転しない。第4のクラッチ66がつながっている状態では、インナ67とアウタ68との両方が第2の回転軸54と共に回転する。
第4のクラッチ66の出力側クラッチ部材としてのアウタ68には、第11のギア69が取り付けられている。第11のギア69は、アウタ68と共に回転する。一方、第3の回転軸64には、第12のギア76が第3の回転軸64に対して回転不能に設けられている。第12のギア76は、第3の回転軸64と共に回転する。第11のギア69と第12のギア76とは、相互に噛合している。よって、アウタ68の回転は、第11のギア69と第12のギア76とを介して第3の回転軸64に伝達される。
第12のギア76と第11のギア69とは第4の変速ギア対90を構成している。第4の変速ギア対90は、第1の変速ギア対86のギア比及び第2の変速ギア対83のギア比とは異なるギア比を有する。
第3の変速ギア対91と第4の変速ギア対90との間には、上記第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とが位置している。言い換えれば、上記第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とは、第3の変速ギア対91と第4の変速ギア対90との間に配置されている。
第4の変速ギア対90は、第4のクラッチ66に対して、第1のクラッチ55に対して第1の変速ギア対86が位置する側と同じ側に位置している。具体的には、第4の変速ギア対90は、第4のクラッチ66に対して右側に位置している。第1の変速ギア対86も同様に、第1のクラッチ55に対して右側に位置している。
また、第4の変速ギア対90と第1の変速ギア対86とは、車幅方向に関して、少なくとも一部同士が重なるように配置されている。言い換えれば、第4の変速ギア対90と第1の変速ギア対86とは、入力軸52の軸方向に関して、少なくとも一部同士が重なるように配置されている。具体的には、第4の変速ギア対90と第1の変速ギア対86とは、車幅方向に関して、実質的に重なるよう
に配置されている。
第3の回転軸64には、第13のギア79が第3の回転軸64に対して回転不能に設けられている。第13のギア79は、車幅方向に関して、第12のギア76と、第10のギア77よりも左側に配置されている。第13のギア79は第3の回転軸64と共に回転する。一方、出力軸33には、第14のギア80が出力軸33に対して回転不能に設けられている。言い換えれば、第14のギア80は、出力軸33と共に回転する。この第14のギア80と第13のギア79とによって、第3の伝達ギア対98が構成されている。この第3の伝達ギア対98によって、第3の回転軸64の回転が出力軸33に伝達される。
〜下流側クラッチ群82の詳細構造〜
次に、主として図6〜図8を参照しながら、下流側クラッチ群82についてさらに詳細に説明する。
第3のクラッチ70には、プレート群136が設けられている。プレート群136は、複数のフリクションプレート134と複数のクラッチプレート135とを備えている。複数のフリクションプレート134と複数のクラッチプレート135とは、互い違いとなるように車幅方向に積層されている。フリクションプレート134は、アウタ72に対して回転不能である。一方、クラッチプレート135は、インナ71に対して回転不能である。
インナ71は、アウタ72に対して回転可能である。インナ71のアウタ72とは車幅方向の反対側には、プレッシャープレート163が配置されている。プレッシャープレート163は、圧縮コイルスプリング92によって車幅方向右側に付勢されている。すなわち、プレッシャープレート163は、圧縮コイルスプリング92によってボス部162側に付勢されている。
ボス部162とプレッシャープレート163との間には、作動室137が区画形成されている。作動室137には、オイルが満たされている。この作動室137内の油圧が高くなると、プレッシャープレート163は、ボス部162から離れる方向に変位する。これにより、プレッシャープレート163とインナ71との間の距離が短くなる。従って、プレート群136が相互に圧接された状態となる。その結果、インナ71とアウタ72とが共に回転し、第3のクラッチ70が接続状態となる。
一方、作動室137内の圧力が低くなると、プレッシャープレート163は、圧縮コイルスプリング92によってボス部162側に変位する。これにより、プレート群136の圧接状態が解除される。その結果、インナ71とアウタ72とが共に相対的に回転可能となり、第3のクラッチ70が切断される。
尚、図示は省略するが、第3のクラッチ70には、作動室137に連通する微少なリーク孔が形成されている。また、インナ71とアウタ72との間は、シールされていない。これにより、クラッチ70の切断時に、作動室137内のオイルを迅速に排出することができる。そのため、本実施形態によれば、クラッチ70の応答性を向上させることができる。また、本実施形態によれば、上記リーク孔またはインナ71とアウタ72との間の隙間から飛散したオイルによって、他の摺動箇所を円滑に潤滑することができる。
第4のクラッチ66には、プレート群132が設けられている。プレート群132は、複数のフリクションプレート130と複数のクラッチプレート131とを備えている。複数のフリクションプレート130と複数のクラッチプレート131とは、互い違いとなるように車幅方向に積層されている。フリクションプレート130は、アウタ68に対して回転不能である。一方、クラッチプレート131は、インナ67に対して回転不能である。
インナ67は、アウタ68に対して回転可能かつ車幅方向に変位可能である。インナ67のアウタ68とは車幅方向の反対側には、プレッシャープレート161が配置されている。プレッシャープレート161は、圧縮コイルスプリング89によって車幅方向左側に付勢されている。すなわち、プレッシャープレート161は、圧縮コイルスプリング89によってボス部162側に付勢されている。
ボス部162とプレッシャープレート161との間には、作動室133が区画形成されている。作動室133には、オイルが満たされている。この作動室133内の油圧が高くなると、プレッシャープレート161は、ボス部162から離れる方向に変位する。これにより、プレッシャープレート161とインナ67との間の距離が短くなる。従って、によってプレート群132が相互に圧接された状態となる。その結果、インナ67とアウタ68とが共に回転し、第4のクラッチ66が接続状態となる。
一方、作動室133内の圧力が低くなると、プレッシャープレート161は、圧縮コイルスプリング89によってボス部162側に変位する。これにより、プレート群132の圧接状態が解除される。その結果、インナ67とアウタ68とが共に相対的に回転可能となり、第4のクラッチ66が切断される。
尚、図示は省略するが、第4のクラッチ66には、作動室133に連通する微少なリーク孔が形成されている。また、インナ67とアウタ68との間は、シールされていない。これにより、クラッチ66の切断時に、作動室133内のオイルを迅速に排出することができる。そのため、本実施形態によれば、クラッチ66の応答性を向上させることができる。また、本実施形態によれば、上記リーク孔またはインナ67とアウタ68との間の隙間から飛散したオイルによって、他の摺動箇所を円滑に潤滑することができる。
〜オイル経路139〜
図7に示すように、第4のクラッチ66の作動室133内の圧力と第3のクラッチ70の作動室137内の圧力とは、オイルポンプ140によって付与されると共に調整される。図7に示すように、クランク室35の底部には、オイル溜まり99が形成されている。このオイル溜まり99には、図8にも示すストレーナ141が漬けられている。ストレーナ141は、オイルポンプ140に接続されている。オイルポンプ140が駆動されることで、このストレーナ141を介してオイル溜まり99に溜められたオイルが吸い上げられる。
第1のオイル経路144の途中には、リリーフバルブ147が設けられている。吸い上げられたオイルは、オイルクリーナ142において浄化され、リリーフバルブ147により所定の圧力に調圧される。その後、浄化されたオイルの一部は、クランク軸34や、シリンダヘッド40内の摺動部に対して供給される。また、浄化されたオイルの一部は、第4のクラッチ66の作動室133と第3のクラッチ70の作動室137とにも供給される。具体的には、オイルクリーナ142から延びる第1のオイル経路144には、第2のオイル経路145と第3のオイル経路146とが接続されている。第2のオイル経路145は、バルブ143からクランクケース32側を経て、第2の回転軸54の右端部から、第2の回転軸54内に延びている。そして、第2のオイル経路145は作動室133に至っている。よって、第2のオイル経路145を経由して作動室133にオイルが供給され、作動室133内の圧力が調節される。一方、第3のオイル経路146は、バルブ143から変速装置カバー50側を経て、第2の回転軸54の左端部から、第2の回転軸54内に延びている。そして、第3のオイル経路146は作動室137に至っている。よって、第3のオイル経路146を経由して作動室137にオイルが供給される。
第1のオイル経路144と、第2のオイル経路145及び第3のオイル経路146との接続部には、バルブ143が設けられている。このバルブ143によって、第1のオイル経路144と第3のオイル経路146との間の開閉、及び第1のオイル経路144と第2のオイル経路145との間の開閉が行われる。
バルブ143には、図6に示すように、バルブ143を駆動するモータ150が取り付けられている。このモータ150によってバルブ143が駆動されることで、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66の断続が行われる。つまり、本実施形態では、オイルポンプ140と、バルブ143と、モータ150とによって、油圧式クラッチである第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とに対して油圧を付加するアクチュエータ103が構成されている。そして、そのアクチュエータ103が、図6に示すECU138によって制御されることで、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とがON/OFFされる。具体的には、アクチュエータ103が作動室133と作動室137とに対して適宜に油圧を加え、これにより、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66の断続が行われる。
より具体的に説明すると、図6に示すように、ECU138には、スロットル開度センサ112と車速センサ88とが接続されている。制御部としてのECU138は、このスロットル開度センサ112によって検出されるスロットル開度と、車速センサ88により検出される車速とのうちの少なくとも一方に基づいてアクチュエータ103を制御している。本実施形態では、制御部としてのECU138は、このスロットル開度センサ112によって検出されるスロットル開度と、車速センサ88により検出される車速との両方に基づいてアクチュエータ103を制御している。具体的には、ECU138は、スロットル開度センサ112から出力されるスロットル開度と、車速センサ88から出力される車速とを、メモリ113から読み出したV−N線図に適用して得られた情報に基づいてアクチュエータ103を制御している。
具体的に、バルブ143は、略円柱状に形成されている。バルブ143には、第1のオイル経路144と第2のオイル経路145とを開通するための内部経路148と、第1のオイル経路144と第3のオイル経路146とを開通するための内部経路149とが形成されている。モータ150によってバルブ143が回転することで、上記内部経路148、149によって、第1のオイル経路144と第2のオイル経路145とが開通する一方、第1のオイル経路144と第3のオイル経路146とが切断されるポジション、第1のオイル経路144と第3のオイル経路146とが開通する一方、第1のオイル経路144と第2のオイル経路145とが切断されるポジション、及び第1のオイル経路144と第3のオイル経路146とが切断されると共に、第1のオイル経路144と第2のオイル経路145とも切断されるポジションのうちのいずれかが選択されるようになっている。これにより、第4のクラッチ66及び第3のクラッチ70の両方が切断された状態、第4のクラッチ66が接続されている一方、第3のクラッチ70は切断されている状態、又は第4のクラッチ66が切断されている一方、第3のクラッチ70が接続されている状態のいずれかが選択される。
−変速装置31の動作−
次に変速装置31の動作について、図9〜図12を参照しながら詳細に説明する。
〜発進時、1速〜
まず、エンジン30が始動すると、クランク軸34(=入力軸52)の回転が開始する。第1のクラッチ55のインナ56は入力軸52と共に回転する。このため、入力軸52の回転速度が所定の回転速度(=第1の回転速度)以上になり、インナ56に所定以上の大きさの遠心力がかかりだすと、図9に示すように、第1のクラッチ55がつながる。第1のクラッチ55がつながると、第1のクラッチ55のアウタ57と共に、第1の変速ギア対86が回転する。これにより、入力軸52の回転が第1の回転軸53に伝達される。
第5のギア87は、第1の回転軸53と共に回転する。このため、第1の回転軸53の回転に伴って、第1の伝達ギア対84も回転する。よって、第1の伝達ギア対84を介して、第1の回転軸53の回転が第2の回転軸54に伝達される。
第7のギア74は、第2の回転軸54と共に回転する。このため、第2の回転軸54の回転に伴って、第2の伝達ギア対85も回転する。よって、第2の伝達ギア対85を介して、第2の回転軸54の回転が第3の回転軸64に伝達される。
第13のギア79は、第3の回転軸64と共に回転する。このため、第3の回転軸64の回転に伴って、第3の伝達ギア対98も回転する。よって、第3の伝達ギア対98を介して、第3の回転軸64の回転が出力軸33に伝達される。
このように、スクータ型車両1の発進時、すなわち1速時は、図9に示すように、第1のクラッチ55、第1の変速ギア対86、第1の伝達ギア対84、第2の伝達ギア対85及び第3の伝達ギア対98を介して、入力軸52から出力軸33へと回転が伝達される。
〜2速〜
上記1速時において、第5のギア87と共通の第4のギア65は、第1の回転軸53と共に回転している。このため、第4のギア65と噛合する第3のギア62と、第2のクラッチ59のインナ60とも共に回転している。よって、入力軸52の回転速度が上昇すると、第2のクラッチ59のインナ60の回転速度も上昇する。入力軸52の回転速度が上記第1の回転速度よりも速い第2の回転速度以上になると、インナ60の回転速度もその分上昇し、図10に示すように、第2のクラッチ59がつながる。
ここで、本実施形態では、第2の変速ギア対83のギア比の方が、第1の変速ギア対86のギア比よりも小さい。よって、第4のギア65の回転速度の方が、第2のギア63の回転速度よりも速くなる。このため、第2の変速ギア対83を介して、入力軸52から第1の回転軸53に回転が伝達される。一方、第1の回転軸53の回転は、一方向回転伝達機構96により入力軸52には伝達されない。
第1の回転軸53から出力軸33への回転力の伝達は、上記1速時と同様に、第1の伝達ギア対84、第2の伝達ギア対85及び第3の伝達ギア対98を介して行われる。
このように、2速時は、図10に示すように、第2のクラッチ59、第2の変速ギア対83、第1の伝達ギア対84、第2の伝達ギア対85及び第3の伝達ギア対98を介して、入力軸52から出力軸33へと回転が伝達される。
〜3速〜
上記2速時において、クランク軸34(=入力軸52)の回転速度が第2の回転速度よりも高くなり、且つ、車速が所定の車速以上になると、図11に示すように、バルブ143が駆動され、第3のクラッチ70がつながる。このため、第3の変速ギア対91の回転が開始する。ここで、第3の変速ギア対91のギア比は、第2の伝達ギア対85のギア比よりも小さい。このため、第3の変速ギア対91の第10のギア77の回転速度が、第2の伝達ギア対85の第8のギア78の回転速度よりも高くなる。このため、第2の回転軸54の回転は、第3の変速ギア対91を介して第3の回転軸64に伝達される。一方、第3の回転軸64の回転は、一方向回転伝達機構93により第2の回転軸54には伝達されない。
第3の回転軸64の回転は、上記1速時、2速時と同様に、第3の伝達ギア対98を介して出力軸33へと伝達される。
このように、3速時は、図11に示すように、第2のクラッチ59、第2の変速ギア対83、第1の伝達ギア対84、第3のクラッチ70、第3の変速ギア対91及び第3の伝達ギア対98を介して、入力軸52から出力軸33へと回転が伝達される。
〜4速〜
上記3速時において、クランク軸34(=入力軸52)の回転速度がさらに高くなり、且つ、車速もさらに高くなると、図12に示すように、バルブ143が駆動され、第4のクラッチ66がつながる。その一方で、第3のクラッチ70は切断される。このため、第4の変速ギア対90の回転が開始する。ここで、第4の変速ギア対90のギア比も、第2の伝達ギア対85のギア比よりも小さい。このため、第4の変速ギア対90の第12のギア76の回転速度が、第2の伝達ギア対85の第8のギア78の回転速度よりも高くなる。このため、第2の回転軸54の回転は、第4の変速ギア対90を介して第3の回転軸64に伝達される。一方、第3の回転軸64の回転は、一方向回転伝達機構93により第2の回転軸54には伝達されない。
第3の回転軸64の回転は、上記1速時〜3速時と同様に、第3の伝達ギア対98を介して出力軸33へと伝達される。
このように、4速時は、図12に示すように、第2のクラッチ59、第2の変速ギア対83、第1の伝達ギア対84、第4のクラッチ66、第4の変速ギア対90及び第3の伝達ギア対98を介して、入力軸52から出力軸33へと回転が伝達される。
以上説明したように、本実施形態では、所謂ギアトレイン式の変速装置31を採用している。このため、例えば、Vベルトを使用した無段変速装置と比較して、エネルギーの伝達ロスが少ない。その結果、車両の燃費を向上させることができる。
特に、本実施形態1のエンジンユニット20のように、入力軸52と出力軸33との間の距離が比較的長いエンジンユニットの場合、Vベルトを使用すると、Vベルトの長さが比較的長くなる。このため、燃費が特に悪くなるばかりか、Vベルトのばたつきの問題が生じる。このため、本実施形態で説明した所謂ギアトレイン式の変速装置31は、入力軸52と出力軸33との間の距離が比較的長いエンジンユニットに特に有用である。
本実施形態では、入力軸52と第1の回転軸53との間、及び第2の回転軸54と第3の回転軸64との間で変速する構成となっている。具体的には、第1の変速ギア対86及び第2の変速ギア対83が入力軸52と第1の回転軸53との間に設けられている。第3の変速ギア対91及び第4の変速ギア対90が第2の回転軸54と第3の回転軸64との間に設けられている。このため、プラネタリーギアを用いた変速装置のように、単独の回転軸上に設けられた変速機構を用いる場合と比較して、変速装置31の構成をシンプルにすることができる。かつ、変速装置31をコンパクト化することができる。
さらに、本実施形態では、第2の変速ギア対83の第4のギア65と、第1の伝達ギア対84の第5のギア87とが共通である。よって、変速装置31のさらなるコンパクト化が可能となる。
また、このように、本実施形態では、変速のために設けた第1の回転軸53と第3の回転軸64とを利用して、所謂ギアトレイン方式で入力軸52と出力軸33との間の動力伝達が行われる。よって、チェーンなどの別途の動力伝達手段を設ける必要はない。さらに、例えばチェーンを設けた場合のように、チェーンガイドやチェーンテンショナなどのチェーンのばたつきを抑制する部材等も別途設ける必要はない。よって、変速装置31の構成を特にシンプルにすることができる。かつ、変速装置31を特にコンパクト化することができる。
本実施形態では、変速装置31は4速である。このため、3速の変速装置よりも、車両を使用する速度領域の広さに対して、変速段数が比較的多いため、快適な自動変速の実現が容易となる。
本実施形態では、入力軸52、第1の回転軸53、第2の回転軸54、第3の回転軸64及び出力軸33が入力軸52の軸方向と垂直な方向(すなわち、前後方向)に配列されているため、入力軸52の軸方向に関して、変速装置31をコンパクト化することができる。その結果、スクータ型車両1の車幅方向の幅を抑制することができる。従って、スクータ型車両1のバンク角を比較的大きくとることができる。
特に、本実施形態では、上流側クラッチ群81と下流側クラッチ群82とが、入力軸52の軸方向に関して、少なくとも一部が重なる位置に配置されている。よって、例えば、上流側クラッチ群81と下流側クラッチ群82とが、入力軸52の軸方向に関して重なっていない場合と比較して、変速装置31の入力軸52の軸方向に関する幅をさらに小さくすることができる。その結果、スクータ型車両1の車幅方向の幅をさらに小さくすることができる。スクータ型車両1の車幅方向の幅をより小さくする観点から、上流側クラッチ群81と下流側クラッチ群82とが、入力軸52の軸方向に関して実質的に重なっていることが好ましい。
本実施形態では、第1のクラッチ55と第4のクラッチ66とを車幅方向に関して少なくとも一部同士が重なるように配置されていると共に、第2のクラッチ59と第3のクラッチ70とを車幅方向に関して少なくとも一部同士が重なるように配置されている。このため、変速装置31の入力軸52の軸方向に関する幅をより小さくすることができる。変速装置31の入力軸52の軸方向に関する幅をさらに小さくする観点からは、第1のクラッチ55と第4のクラッチ66とを車幅方向に関して実質的に重なるように配置すると共に、第2のクラッチ59と第3のクラッチ70とを車幅方向に関して実質的に重なるように配置することが好ましい。
さらに、本実施形態では、入力軸52の軸方向に関して、第1の変速ギア対86と第4の変速ギア対90とが、少なくとも一部同士が重なる位置に配置されている。第2の変速ギア対83と第3の変速ギア対91とが、少なくとも一部同士が重なる位置に配置されている。このため、変速装置31の入力軸52の軸方向に関する幅を特に小さくすることができる。
尚、本実施形態のように、軸線C1〜C5が、側面視において、略水平な直線上に位置するように、入力軸52、第1の回転軸53、第2の回転軸54、第3の回転軸64及び出力軸33を配列することで、入力軸52と出力軸33との間の距離を比較的長くすることができる。また、軸線C1〜C5の配置を調節することで、入力軸52と出力軸33との間の距離を調節することも可能である。例えば、軸線C1〜C5のうちの少なくともいずれかひとつの軸線が上記直線からはずれるようにすることで、入力軸52と出力軸33との間の距離を短く調節することができる。
例えば、第1の変速ギア対86を第1のクラッチ55に対して右側に配置する一方、第4の変速ギア対90を第4のクラッチ66に対して左側に配置することも考えられる。また、第2の変速ギア対83を第2のクラッチ59に対して左側に配置する一方、第3の変速ギア対91を第3のクラッチ70に対して右側に配置することも考えられる。つまり、前後方向に配列された第1のクラッチ55及び第4のクラッチ66に対して、第1の変速ギア対86と第4の変速ギア対90とを相互に逆側に配置することも考えられる。前後方向に配列された第2のクラッチ59及び第3のクラッチ70に対して、第2の変速ギア対83と第3の変速ギア対91とを相互に逆側に配置することも考えられる。しかしながら、そのように配置した場合、変速装置31の車幅方向の幅が比較的大きくなる。
それに対し、本実施形態のように、第4の変速ギア対90を、第4のクラッチ66に対して、第1のクラッチ55に対して第1の変速ギア対86が位置する側と同じ側に位置させると共に、第3の変速ギア対91を第3のクラッチ70に対して、第2のクラッチ59に対して第2の変速ギア対83が位置する側と同じ側に位置させることで、変速装置31の車幅方向の幅を抑制することができる。言い換えれば、前後方向に配列された第1のクラッチ55及び第4のクラッチ66に対して、第1の変速ギア対86と第4の変速ギア対90とを相互に同じ側に配置すると共に、前後方向に配列された第2のクラッチ59及び第3のクラッチ70に対して、第2の変速ギア対83と第3の変速ギア対91とを相互に同じ側に配置することで、変速装置31の車幅方向の幅を小さくすることができる。
変速装置31の車幅方向の幅をさらに抑制する観点からは、同じ回転軸上に配列された複数のクラッチを隣接して配置させることが好ましい。具体的には、本実施形態のように、第1の変速ギア対86と第2の変速ギア対83との間に、第1のクラッチ55と第2のクラッチ59を配置することが好ましい。第3の変速ギア対91と第4の変速ギア対90との間に、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66を配置することが好ましい。
例えば、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とを遠心クラッチにより構成することもできる。その場合、例えば、第3のクラッチ70の方が第4のクラッチ66よりも第2の回転軸54の回転速度が低いときに断続される場合は、第4のクラッチ66が接続されている一方、第3のクラッチ70が切断されている状態にすることができない。このため、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66との両方がつながった状態において、第4の変速ギア対90によって第2の回転軸54と第3の回転軸64との間の動力伝達を行うために、一方向クラッチや一方向ギアを設ける必要がある。このため、変速装置31の構成が複雑化する傾向にある。それに対して、本実施形態では、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とが油圧式クラッチにより構成されている。よって、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とを自由に断続できる。このため、一方向クラッチや一方向ギアを別途設ける必要がない。従って、変速装置31の構成をよりシンプルにすることができる。
《実施形態2》
上記実施形態1では、本発明を実施した好ましい形態の一例について、スクータ型車両1を例に挙げて説明した。但し、本発明において、モーターサイクルは、スクータ型車両に限定されない。本実施形態2では、本発明を実施した好ましい形態の一例について、所謂モペット2を例に挙げて説明する。尚、本実施形態2の説明において、共通の機能を有する部材は、上記実施形態1と共通の符号で説明する。図4、図7及び図9〜図12は、上記実施形態1と共通に参酌する。
(モペット2の概略構成)
まず、図13及び図14を参照しながらモペット2の概略構成について説明する。尚、以下の説明において、前後左右といった方向は、モペット2のシート14に着座したライダーから視た方向をいうものとする。
図14に示すように、モペット2は、車体フレーム10を備えている。車体フレーム10は、ヘッドパイプ(図示せず)を有する。ヘッドパイプは、車両の前方部分において、下方に向かってやや斜め前方に延びている。ヘッドパイプの上端部には、ハンドル12が設けられている。一方、ヘッドパイプの下端部には、フロントフォーク15が接続されている。フロントフォーク15の下端部には、従動輪としての前輪16が回転可能に取り付けられている。
車体フレーム10には、車体カバー13が取り付けられている。車体フレーム10の一部は、この車体カバー13によって覆われている。車体カバー13には、ライダーが着座するシート14が取り付けられている。また、車両のほぼ中央において、車体フレーム10には、サイドスタンド23が取り付けられている。
車体フレーム10には、エンジンユニット20が懸架されている。本実施形態では、エンジンユニット20は、車体フレーム10に固定されている。つまり、エンジンユニット20は、所謂リジットタイプのエンジンユニットである。上記実施形態1のエンジンユニット20は、比較的前後方向に長いタイプであるのに対して、本実施形態2のエンジンユニット20は、比較的前後方向に短いタイプである。具体的に、上記実施形態1のエンジンユニット20の変速装置31は、入力軸52と出力軸33との間の距離が比較的長いタイプであるのに対して、本実施形態2のエンジンユニット20の変速装置31は、入力軸52と出力軸33との間の距離が比較的短いタイプである。よって、本実施形態2のエンジンユニット20は、スクータ型車両よりも比較的高い運動性能が求められるモペットやオフロード車、オンロード車などに特に有用である。
車体フレーム10には、後方に延びるリアアーム28が取り付けられている。リアアーム28は、ピボット軸25を中心として揺動可能である。リアアーム28の後端部には、駆動輪としての後輪18が回転可能に取り付けられている。この後輪18は、図示しない動力伝達手段によって、変速装置31の出力軸33に接続されている。よって、後輪18は、エンジンユニット20によって駆動される。また、リアアーム28の後端部には、クッションユニット22の一端が取り付けられている。クッションユニット22の他端は、車体フレーム10に取り付けられている。このクッションユニット22によって、リアアーム28の揺動が抑制される。
図4に示すように、本実施形態では、出力軸33に対して、車速センサ88が設けられている。具体的には、車速センサ88は、出力軸33と共に回転する第14のギア80に対して設けられている。但し、車速センサ88は、出力軸33以外の回転軸に対して設けられていてもよく、出力軸33に対して一定の回転数比で回転する他の部材に設けられていてもよい。
(エンジンユニット20の構成)
図16は、エンジンユニット20の断面図である。図4は、エンジンユニット20の構成を表す模式図である。図16に示すように、エンジンユニット20は、エンジン30と、変速装置31とを備えている。尚、本実施形態2ではエンジン30が単気筒エンジンである例について説明する。但し、本発明において、エンジン30は、単気筒エンジンに限定されない。エンジン30は、例えば、2気筒エンジンなどの多気筒のエンジンであってもよい。
−エンジン30−
エンジン30は、クランクケース32と、シリンダボディ37と、シリンダヘッド40と、クランク軸34とを備えている。クランクケース32の内部には、クランク室35が区画形成されている。シリンダボディ37の内部には、クランク室35に開口するシリンダ38が区画形成されている。シリンダボディ37の先端には、シリンダヘッド40が取り付けられている。クランク室35には、車幅方向に延びるクランク軸34が配置されている。クランク軸34には、コンロッド36が取り付けられている。コンロッド36の先端には、シリンダ38内に配置されたピストン39が取り付けられている。このピストン39とシリンダボディ37と、シリンダヘッド40とによって燃焼室41が区画形成されている。シリンダヘッド40には、先端の発火部が燃焼室41に位置するように点火プラグ42が取り付けられている。
図17は、キックスタータ100及びセルモータ101を表すエンジンユニット20の部分断面図である。図14及び図17に示すように、エンジンユニット20には、キックスタータ100が設けられている。モペット2のライダーは、このキックスタータ100を操作することによってエンジン30を始動させることができる。
キックスタータ100は、キックペダル24を有する。キックペダル24は、図14に示すように、クランク軸34よりも後方かつ下方において、クランクケース32の右側に配置されている。キックペダル24は、キック軸102に取り付けられている。キック軸102とクランクケース32との間には、圧縮コイルばね103が設けられている。この圧縮コイルばね103は、ライダーの操作により回転したキック軸102に対して逆回転方向の付勢力を付与する。また、キック軸102には、ギア104が設けられている。一方、軸105には、ギア106が回転自在に設けられている。ギア104は、このギア106と噛合している。このギア104等を介して、キック軸102の回転がクランク軸34に伝達される。また、ギア106は、軸127に設けられたギア123と噛合している。よって、ギア104の回転は、ギア106とギア123とを介して軸127に伝達される。軸127にはギア124が設けられている。このギア124は、クランク軸34に設けられたギア125と噛合している。よって、軸127の回転は、ギア124とギア125とを介してクランク軸34に伝達される。よって、キックペダル24をライダーが操作することで、クランク軸34が回転する。
また、エンジン30には、セルモータ101も設けられている。セルモータ101は、クランクケース32に対して取り付けられている。このセルモータ101の回転は、ギア120、121及び126を介してクランク軸34に伝達される。これにより、ライダーの操作によりセルモータ101が駆動されることによって、エンジン30が始動する。
−バランサ軸115−
図16に示すように、エンジン30には、バランサ軸115を有するバランサ115Aが設けられている。バランサ軸115には、ギア118が設けられている。ギア118は、クランク軸34に設けられたギア119と噛合している。よって、バランサ軸115は、クランク軸34と共に回転する。図16及び図15に示すように、バランサ軸115の軸線C6は、第2の回転軸54の軸線C2の近くに配置されている。図16に示すように、第1の回転軸53の軸方向から視たときに、第1の回転軸53、第2のギア63、または第9のギア87の少なくとも一部と、バランサ115Aの少なくとも一部とは、互いに重なるように配置されている。ここでは特に、バランサ軸115は、第1の回転軸53の軸方向から視たときに、第1の回転軸53と少なくとも一部が重なるように配置されている。バランサ軸115は、車幅方向に関して、コンロッド36が接続されたクランク軸34の中心部に位置している。一方、第1の回転軸53は、車幅方向に関して、右側に位置している。バランサ軸115と第1の回転軸53とは、車幅方向に関して、オフセットされている。言い換えれば、バランサ軸115と第1の回転軸53とは、車幅方向に関して、相互に重ならないように配置されている。
−発電機45−
図16及び図17に示すように、クランクケース32の左側には、発電機カバー43が取り付けられている。この発電機カバー43とクランクケース32とによって、発電機室44が区画形成されている。
クランク軸34の左側端部は、クランク室35から突出して、発電機室44に至っている。発電機室44内において、クランク軸34の左側端部には、発電機45が取り付けられている。発電機45は、インナ45aと、アウタ45bとを備えている。インナ45aは、クランクケース32に対して回転不能に取り付けられている。一方、アウタ45bは、クランク軸34の左側端部に取り付けられている。アウタ45bは、クランク軸34と共に回転する。よって、クランク軸34が回転すると、アウタ45bはインナ45aに対して相対的に回転する。これによって、発電が行われる。
クランクケース32の右側には、変速装置カバー50が取り付けられている。この変速装置カバー50とクランクケース32とによって、クランクケース32の左側に位置する変速装置室51が区画形成されている。
−変速装置31の構成−
次に、主として図4を参照しながら、変速装置31の構成について詳細に説明する。変速装置31は、入力軸52と出力軸33とを備えた4速の有段式自動変速装置である。変速装置31は、複数の変速ギア対を介して入力軸52から出力軸33へと動力が伝達される所謂ギアトレイン型の有段式変速装置である。
クランク軸34の右側端部は、クランク室35から突出して、変速装置室51に至っている。クランク軸34は、変速装置31の入力軸52を兼ねている。
〜回転軸構成〜
変速装置31は、第1の回転軸53と、第2の回転軸54と、第3の回転軸64と、出力軸33とを有する。第1の回転軸53と、第2の回転軸54と、第3の回転軸64と、出力軸33とのそれぞれは、入力軸52と平行に配置されている。
図15において、符号C1,C2,C3,C4,C5は、それぞれ、入力軸52の軸線、第1の回転軸53の軸線、第2の回転軸54の軸線、第3の回転軸64の軸線、出力軸33の軸線を表している。図15に示すように、入力軸52と、第1の回転軸53と、第2の回転軸54と、第3の回転軸64とのすべての回転軸は、側面視において、相互に隣接するように配置されている。言い換えれば、入力軸52と、第1の回転軸53と、第2の回転軸54と、第3の回転軸64とは、入力軸52の軸線C1と、第1の回転軸53の軸線C2と、第2の回転軸54の軸線C3と、第3の回転軸64の軸線C4とが、側面視において、矩形を構成するように配置されている。
図15に示すように、第1の回転軸53の軸線C2と、第3の回転軸64の軸線C4とのうち少なくとも一方は、入力軸52の軸線C1と第2の回転軸54の軸線C3を含む平面P上に位置していない。詳細には、第1の回転軸53の軸線C2が平面Pに対して一方側に位置しているのに対して、第3の回転軸64の軸線C4が平面Pに対して他方側に位置している。具体的には、第1の回転軸53の軸線C2が平面Pに対して上側に位置しているのに対して、第3の回転軸64の軸線C4が平面Pに対して下側に位置している。よって、第1の回転軸53の軸線C2が比較的上側に位置し、第3の回転軸64が比較的下側に位置している。
第3の回転軸64の軸線C4は、前後方向に関して、第2の回転軸54の軸線C3よりも前方に位置している。詳細には、第3の回転軸64の軸線C4は、前後方向に関して、第2の回転軸54の軸線C3と入力軸52の軸線C1との間に位置している。
出力軸33の軸線C5は、図15に示すように、第3の回転軸64の軸線C4よりも上方且つ後方に位置している。出力軸33の軸線C5は、側面視において、入力軸52の軸線C1と、第1の回転軸53の軸線C2と、第2の回転軸54の軸線C3と、第3の回転軸64の軸線C4とにより構成される仮想矩形の外部に位置している。出力軸33の軸線C5は、側面視において、第2の回転軸54の軸線C3よりも後方に位置している。
尚、平面Pは、後方に向かって上方に延びている。つまり、第2の回転軸54の軸線C3は、入力軸52の軸線C1よりも高い位置に位置している。
尚、本実施形態2では、出力軸33と第3の回転軸64とがそれぞれ別個に設けられている例について説明する。但し、本発明はこの構成に限定されない。出力軸33と第3の回転軸64とは共通であってもよい。言い換えれば、第3の回転軸64に対して後輪18が取り付けられていてもよい。
〜上流側クラッチ群81〜
図16及び図4に示すように、入力軸52には、上流側クラッチ群81が設けられている。上流側クラッチ群81は、第1のクラッチ55と、第2のクラッチ59とを備えている。第1のクラッチ55は、第2のクラッチ59よりも右側に配置されている。第1のクラッチ55と、第2のクラッチ59とは、それぞれ遠心クラッチにより構成されている。具体的に、本実施形態2では、第1のクラッチ55と、第2のクラッチ59とは、それぞれドラム式の遠心クラッチにより構成されている。但し、本発明は、この構成に限定されない。第1のクラッチ55と、第2のクラッチ59とは、遠心クラッチ以外のクラッチであってもよい。例えば、第1のクラッチ55と、第2のクラッチ59とは、油圧式のクラッチであってもよい。但し、第1のクラッチ55は、遠心クラッチであることが好ましい。
第1のクラッチ55は、入力側クラッチ部材としてのインナ56と、出力側クラッチ部材としてのアウタ57とを備えている。インナ56は、入力軸52に対して回転不能に設けられている。このため、インナ56は、入力軸52の回転と共に回転する。一方、アウタ57は、入力軸52に対して回転可能である。入力軸52の回転速度が所定の回転速度よりも大きくなると、インナ56に働く遠心力により、インナ56とアウタ57とが接触する。これにより第1のクラッチ55がつながる。一方、インナ56とアウタ57とがつながった状態で回転しているときに、その回転速度が所定の回転速度よりも小さくなると、インナ56に働く遠心力が弱くなり、インナ56とアウタ57とが離れる。これにより第1のクラッチ55が切断される。
第2のクラッチ59は、出力側クラッチ部材としてのインナ60と、入力側クラッチ部材としてのアウタ61とを備えている。インナ60は、後述する第3のギア62に対して回転不能に設けられている。入力軸52が回転すると、その回転が第1の変速ギア対86と、第1の回転軸53と第2の変速ギア対83とを介して、インナ60に伝達される。このため、インナ60は、入力軸52の回転と共に回転する。アウタ61は、入力軸52に対して回転可能である。入力軸52の回転速度が所定の回転速度よりも大きくなると、インナ60に働く遠心力により、インナ60とアウタ61とが接触する。これにより第2のクラッチ59がつながる。一方、インナ60とアウタ61とがつながった状態で回転しているときに、その回転速度が所定の回転速度よりも小さくなると、インナ60に働く遠心力が弱くなり、インナ60とアウタ61とが離れる。これにより第2のクラッチ59が切断される。
尚、本実施形態2では、アウタ57とアウタ61とが同一の部材で構成されている。但し、本発明はこの構成に限定されない。アウタ57とアウタ61とを別の部材によって構成してもよい。
第1のクラッチ55が接続されるときの入力軸52の回転速度と、第2のクラッチ59が接続されるときの入力軸52の回転速度とは相互に異なる。言い換えれば、第1のクラッチ55が接続されるときのインナ56の回転速度と、第2のクラッチ59が接続されるときのインナ60の回転速度とは相互に異なる。具体的には、第1のクラッチ55が接続されるときの入力軸52の回転速度の方が、第2のクラッチ59が接続されるときの入力軸52の回転速度よりも低い。より具体的に説明すると、第1のクラッチ55は、入力軸52の回転速度が第1の回転速度以上のときにつながる。一方、第1のクラッチ55は、入力軸52の回転速度が第1の回転速未満であるときに切断された状態となる。第2のクラッチ59は、入力軸52の回転速度が上記第1の回転速度よりも高い第2の回転速度以上のときにつながる。一方、第2のクラッチ59は、入力軸52の回転速度が第2の回転速度未満であるときに切断された状態となる。
第1のクラッチ55のアウタ57には、第1のギア58が、アウタ57に対して回転不能に設けられている。第1のギア58は、第1のクラッチ55のアウタ57と共に回転する。一方、第1の回転軸53には、第2のギア63が設けられている。第2のギア63は第1のギア58と噛合している。第1のギア58と第2のギア63とは第1の変速ギア対86とを構成している。本実施形態では、第1の変速ギア対86は、第1速の変速ギア対を構成している。
第2のギア63は、所謂一方向ギアである。具体的には、第2のギア63は、第1のギア58の回転を第1の回転軸53に伝達する。一方、第2のギア63は、第1の回転軸53の回転を入力軸52には伝達しない。つまり、第2のギア63は、一方向回転伝達機構96を兼ね備えている。
第2のクラッチ59の出力側クラッチ部材としてのインナ60には、第3のギア62が設けられている。第3のギア62はインナ60と共に回転する。一方、第1の回転軸53には、第4のギア65が設けられている。第4のギア65は第3のギア62と噛合している。第4のギア65と第3のギア62とは第2の変速ギア対83とを構成している。第2の変速ギア対83は、第1の変速ギア対86とは異なるギア比を有する。具体的に、第2の変速ギア対83は、第1の変速ギア対86のギア比よりも小さなギア比を有している。第2の変速ギア対83は第2速の変速ギア対を構成している。
第1の変速ギア対86と第2の変速ギア対83との間には、上記第1のクラッチ55と第2のクラッチ59が位置している。言い換えれば、上記第1のクラッチ55と第2のクラッチ59とは、第1の変速ギア対86と第2の変速ギア対83との間に配置されている。
本実施形態では、第4のギア65は、第5のギア87としての機能も兼ね備えている。言い換えれば、第4のギア65と第5のギア87とは共通である。第2の回転軸54には、第6のギア75が、第2の回転軸54に対して回転不能に設けられている。第6のギア75は第2の回転軸54と共に回転する。第4のギア65としての機能も兼ね備える第5のギア87は、第6のギア75と噛合している。第4のギア65としての機能も兼ね備える第5のギア87と、第6のギア75とは、第1の伝達ギア対84を構成している。
第2の回転軸54には、第7のギア74が、第2の回転軸54に対して回転不能に設けられている。第7のギア74は第2の回転軸54と共に回転する。一方、第3の回転軸64には、第8のギア78が第3の回転軸64に対して回転不能に設けられている。第3の回転軸64は、第8のギア78と共に回転する。第7のギア74と第8のギア78とは相互に噛合している。第7のギア74と第8のギア78とは、第2の伝達ギア対85を構成している。
第8のギア78は、所謂一方向ギアである。具体的には、第8のギア78は、第2の回転軸54の回転を第3の回転軸64に伝達する。一方、第8のギア78は、第3の回転軸64の回転を第2の回転軸54には伝達しない。つまり、第8のギア78は、一方向回転伝達機構93を兼ね備えている。
但し、本発明において、第8のギア78が所謂一方向ギアであることは必須ではない。例えば、第8のギア78を通常のギアとし、第7のギア74を所謂一方ギアとしてもよい。言い換えれば、第7のギア74に一方向回転伝達機構を兼ね備えさせてもよい。具体的には、第7のギア74を第2の回転軸54の回転を第8のギア78に伝達する一方、第8のギア78の回転を第2の回転軸54に伝達しないようにしてもよい。
〜下流側クラッチ群82〜
第2の回転軸54には、下流側クラッチ群82が設けられている。下流側クラッチ群82は上流側クラッチ群81の後方に位置している。図16に示すように、下流側クラッチ群82と上流側クラッチ群81とは、入力軸52の軸方向に関して、少なくとも一部が重なる位置に配置されている。言い換えれば、下流側クラッチ群82と上流側クラッチ群81とは、車幅方向に関して、少なくとも一部が重なる位置に配置されている。詳細には、下流側クラッチ群82と上流側クラッチ群81とは、車幅方向に関して、実質的に重なる位置に配置されている。
下流側クラッチ群82は、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とを備えている。第4のクラッチ66は、第3のクラッチ70よりも右側に配置されている。このため、第1のクラッチ55が第2のクラッチ59に対して位置する方向と、第4のクラッチ66が第3のクラッチ70に対して位置する方向とは等しくなっている。そして、図16に示すように、第1のクラッチ55と第4のクラッチ66とは、車幅方向に関して少なくとも一部が重なるように配置されている。言い換えれば、第1のクラッチ55と第4のクラッチ66とは、入力軸52の軸方向に関して少なくとも一部が重なるように配置されている。一方、第2のクラッチ59と第3のクラッチ70とも、車幅方向に関して少なくとも一部が重なるように配置されている。言い換えれば、第2のクラッチ59と第3のクラッチ70とは、入力軸52の軸方向に関して少なくとも一部が重なるように配置されている。具体的には、第1のクラッチ55と第4のクラッチ66とは、車幅方向に関して実質的に重なるように配置されている。一方、第2のクラッチ59と第3のクラッチ70とも、車幅方向に関して実質的に重なるように配置されている。
第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とは、それぞれ所謂油圧式クラッチにより構成されている。具体的には、本実施形態2では、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とは、それぞれディスク式の油圧式クラッチにより構成されている。但し、本発明は、この構成に限定されない。第4のクラッチ66と第3のクラッチ70とは、油圧式のクラッチ以外のクラッチであってもよい。例えば、第4のクラッチ66と第3のクラッチ70とは、遠心クラッチであってもよい。但し、第4のクラッチ66と第3のクラッチ70とは、油圧式のクラッチであることが好ましい。
このように、第1のクラッチ55、第2のクラッチ59、第4のクラッチ66及び第3のクラッチ70のそれぞれは、ドラム式又はディスク式の遠心クラッチであってもよいし、ドラム式又はディスク式の油圧式クラッチであってもよい。第1のクラッチ55、第2のクラッチ59、第4のクラッチ66及び第3のクラッチ70のすべてが遠心クラッチであってもよい。第1のクラッチ55、第2のクラッチ59、第4のクラッチ66及び第3のクラッチ70のすべてが油圧式クラッチであってもよい。また、第1のクラッチ55、第2のクラッチ59、第4のクラッチ66及び第3のクラッチ70のうち、比較的ギア比の大きい1又は複数のクラッチを遠心クラッチとし、それ以外の比較的ギア比の小さいクラッチを油圧式クラッチとしてもよい。具体的には、第1のクラッチ55のみを遠心クラッチとし、それ以外のクラッチ59、66、70を油圧式クラッチとしてもよい。逆に、第1のクラッチ55、第2のクラッチ59、第4のクラッチ66及び第3のクラッチ70のうち、比較的ギア比の大きい1又は複数のクラッチを油圧式クラッチとし、それ以外の比較的ギア比の小さいクラッチを遠心クラッチとしてもよい。
第3のクラッチ70が接続されるときの第2の回転軸54の回転速度と、第4のクラッチ66が接続されるときの第2の回転軸54の回転速度とは相互に異なる。言い換えれば、第3のクラッチ70が接続されるときのインナ71の回転速度と、第4のクラッチ66が接続されるときのインナ67の回転速度とは相互に異なる。具体的には、第3のクラッチ70が接続されるときの第2の回転軸54の回転速度の方が、第4のクラッチ66が接続されるときの第2の回転軸54の回転速度よりも低い。
第3のクラッチ70は、入力側クラッチ部材としてのインナ71と、出力側クラッチ部材としてのアウタ72とを備えている。インナ71は、第2の回転軸54に対して回転不能に設けられている。このため、インナ71は、第2の回転軸54の回転と共に回転する。一方、アウタ72は、第2の回転軸54に対して回転可能である。第3のクラッチ70がつながっていない状態では、第2の回転軸54が回転すると、インナ71は第2の回転軸54と共に回転する一方、アウタ72は第2の回転軸54と共には回転しない。第3のクラッチ70がつながっている状態では、インナ71とアウタ72との両方が第2の回転軸54と共に回転する。
第3のクラッチ70の出力側クラッチ部材としてのアウタ72には、第9のギア73が取り付けられている。第9のギア73は、アウタ72と共に回転する。一方、第3の回転軸64には、第10のギア77が第3の回転軸64に対して回転不能に設けられている。第10のギア77は、第3の回転軸64と共に回転する。第9のギア73と第10のギア77とは、相互に噛合している。よって、アウタ72の回転は、第9のギア73と第10のギア77とを介して第3の回転軸64に伝達される。
第9のギア73と第10のギア77とは、第3の変速ギア対91を構成している。第3の変速ギア対91は、第1の変速ギア対86のギア比と、第2の変速ギア対83のギア比と、第4の変速ギア対90のギア比は異なるギア比を有する。
第3の変速ギア対91は、第3のクラッチ70に対して、第2のクラッチ59に対して第2の変速ギア対83が位置する側と同じ側に位置している。具体的には、第3の変速ギア対91は、第3のクラッチ70に対して左側に位置している。第2の変速ギア対83も同様に、第2のクラッチ59に対して左側に位置している。
また、第3の変速ギア対91と第2の変速ギア対83とは、車幅方向に関して、少なくとも一部同士が重なるように配置されている。言い換えれば、第3の変速ギア対91と第2の変速ギア対83とは、入力軸52の軸方向に関して、少なくとも一部同士が重なるように配置されている。具体的には、第3の変速ギア対91と第2の変速ギア対83とは、車幅方向に関して、実質的に重なるように配置されている。
第4のクラッチ66は、入力側クラッチ部材としてのインナ67と、出力側クラッチ部材としてのアウタ68とを備えている。インナ67は、第2の回転軸54に対して回転不能に設けられている。このため、インナ67は、第2の回転軸54の回転と共に回転する。一方、アウタ68は、第2の回転軸54に対して回転可能である。第4のクラッチ66がつながっていない状態では、第2の回転軸54が回転すると、インナ67は第2の回転軸54と共に回転する一方、アウタ68は第2の回転軸54と共には回転しない。第4のクラッチ66がつながっている状態では、インナ67とアウタ68との両方が第2の回転軸54と共に回転する。
第4のクラッチ66の出力側クラッチ部材としてのアウタ68には、第11のギア69が取り付けられている。第11のギア69は、アウタ68と共に回転する。一方、第3の回転軸64には、第12のギア76が第3の回転軸64に対して回転不能に設けられている。第12のギア76は、第3の回転軸64と共に回転する。第11のギア69と第12のギア76とは、相互に噛合している。よって、アウタ68の回転は、第11のギア69と第12のギア76とを介して第3の回転軸64に伝達される。
第12のギア76と第11のギア69とは第4の変速ギア対90を構成している。第4の変速ギア対90は、第1の変速ギア対86のギア比、第2の変速ギア対83のギア比、及び第3の変速ギア対91のギア比とは異なるギア比を有する。
第3の変速ギア対91と第4の変速ギア対90との間には、上記第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とが位置している。言い換えれば、上記第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とは、第3の変速ギア対91と第4の変速ギア対90との間に配置されている。
第4の変速ギア対90は、第4のクラッチ66に対して、第1のクラッチ55に対して第1の変速ギア対86が位置する側と同じ側に位置している。具体的には、第4の変速ギア対90は、第4のクラッチ66に対して右側に位置している。第1の変速ギア対86も同様に、第1のクラッチ55に対して右側に位置している。
また、第4の変速ギア対90と第1の変速ギア対86とは、車幅方向に関して、少なくとも一部同士が重なるように配置されている。言い換えれば、第4の変速ギア対90と第1の変速ギア対86とは、入力軸52の軸方向に関して、少なくとも一部同士が重なるように配置されている。具体的には、第4の変速ギア対90と第1の変速ギア対86とは、車幅方向に関して、実質的に重なるように配置されている。
第3の回転軸64には、第13のギア79が第3の回転軸64に対して回転不能に設けられている。第13のギア79は、車幅方向に関して、第12のギア76と、第10のギア77よりも左側に配置されている。第13のギア79は第3の回転軸64と共に回転する。一方、出力軸33には、第14のギア80が出力軸33に対して回転不能に設けられている。言い換えれば、第14のギア80は、出力軸33と共に回転する。この第14のギア80と第13のギア79とによって、第3の伝達ギア対98が構成されている。この第3の伝達ギア対98によって、第3の回転軸64の回転が出力軸33に伝達される。
〜下流側クラッチ群82の詳細構造〜
次に、主として図18を参照しながら、下流側クラッチ群82についてさらに詳細に説明する。
第3のクラッチ70には、プレート群136が設けられている。プレート群136は、複数のフリクションプレート134と複数のクラッチプレート135とを備えている。複数のフリクションプレート134と複数のクラッチプレート135とは、互い違いとなるように車幅方向に積層されている。フリクションプレート134は、アウタ72に対して回転不能である。一方、クラッチプレート135は、インナ71に対して回転不能である。
インナ71は、アウタ72に対して回転可能である。インナ71のアウタ72とは車幅方向の反対側には、プレッシャープレート163が配置されている。プレッシャープレート163は、圧縮コイルスプリング92によって車幅方向右側に付勢されている。すなわち、プレッシャープレート163は、圧縮コイルスプリング92によってボス部162側に付勢されている。
ボス部162とプレッシャープレート163との間には、作動室137が区画形成されている。作動室137には、オイルが満たされている。この作動室137内の油圧が高くなると、プレッシャープレート163は、ボス部162から離れる方向に変位する。これにより、プレッシャープレート163とインナ71との間の距離が短くなる。従って、プレート群136が相互に圧接された状態となる。その結果、インナ71とアウタ72とが共に回転し、第3のクラッチ70が接続状態となる。
一方、作動室137内の圧力が低くなると、プレッシャープレート163は、圧縮コイルスプリング92によってボス部162側に変位する。これにより、プレート群136の圧接状態が解除される。その結果、インナ71とアウタ72とが共に相対的に回転可能となり、第3のクラッチ70が切断される。
尚、図示は省略するが、第3のクラッチ70には、作動室137に連通する微少なリーク孔が形成されている。また、インナ71とアウタ72との間は、シールされていない。これにより、クラッチ70の切断時に、作動室137内のオイルを迅速に排出することができる。そのため、本実施形態によれば、クラッチ70の応答性を向上させることができる。また、本実施形態によれば、上記リーク孔またはインナ71とアウタ72との間の隙間から飛散したオイルによって、他の摺動箇所を円滑に潤滑することができる。
第4のクラッチ66には、プレート群132が設けられている。プレート群132は、複数のフリクションプレート130と複数のクラッチプレート131とを備えている。複数のフリクションプレート130と複数のクラッチプレート131とは、互い違いとなるように車幅方向に積層されている。フリクションプレート130は、アウタ68に対して回転不能である。一方、クラッチプレート131は、インナ67に対して回転不能である。
インナ67は、アウタ68に対して回転可能かつ車幅方向に変位可能である。インナ67のアウタ68とは車幅方向の反対側には、プレッシャープレート161が配置されている。プレッシャープレート161は、圧縮コイルスプリング89によって車幅方向左側に付勢されている。すなわち、プレッシャープレート161は、圧縮コイルスプリング89によってボス部162側に付勢されている。
ボス部162とプレッシャープレート161との間には、作動室133が区画形成されている。作動室133には、オイルが満たされている。この作動室133内の油圧が高くなると、プレッシャープレート161は、ボス部162から離れる方向に変位する。これにより、プレッシャープレート161とインナ67との間の距離が短くなる。従って、によってプレート群132が相互に圧接された状態となる。その結果、インナ67とアウタ68とが共に回転し、第4のクラッチ66が接続状態となる。
一方、作動室133内の圧力が低くなると、プレッシャープレート161は、圧縮コイルスプリング89によってボス部162側に変位する。これにより、プレート群132の圧接状態が解除される。その結果、インナ67とアウタ68とが共に相対的に回転可能となり、第4のクラッチ66が切断される。
尚、図示は省略するが、第4のクラッチ66には、作動室133に連通する微少なリーク孔が形成されている。また、インナ67とアウタ68との間は、シールされていない。これにより、クラッチ66の切断時に、作動室133内のオイルを迅速に排出することができる。そのため、本実施形態によれば、クラッチ66の応答性を向上させることができる。また、本実施形態によれば、上記リーク孔またはインナ67とアウタ68との間の隙間から飛散したオイルによって、他の摺動箇所を円滑に潤滑することができる。
〜オイル経路139〜
図7に示すように、第4のクラッチ66の作動室133内の圧力と第3のクラッチ70の作動室137内の圧力とは、オイルポンプ140によって付与されると共に調整される。図7に示すように、クランク室35の底部には、オイル溜まり99が形成されている。このオイル溜まり99には、ストレーナ141が漬けられている。ストレーナ141は、オイルポンプ140に接続されている。オイルポンプ140が駆動されることで、このストレーナ141を介してオイル溜まり99に溜められたオイルが吸い上げられる。
第1のオイル経路144の途中には、リリーフバルブ147が設けられている。吸い上げられたオイルは、オイルクリーナ142において浄化され、リリーフバルブ147により所定の圧力に調圧される。その後、浄化されたオイルの一部は、クランク軸34や、シリンダヘッド40内の摺動部に対して供給される。また、浄化されたオイルの一部は、第4のクラッチ66の作動室133と第3のクラッチ70の作動室137とにも供給される。具体的には、オイルクリーナ142から延びる第1のオイル経路144には、第2のオイル経路145と第3のオイル経路146とが接続されている。第2のオイル経路145は、バルブ143から変速装置カバー50側を経て、第2の回転軸54の右端部から、第2の回転軸54内に延びている。そして、第2のオイル経路145は作動室133に至っている。よって、第2のオイル経路145を経由して作動室133にオイルが供給され、作動室133内の圧力が調節される。一方、第3のオイル経路146は、バルブ143からクランクケース32側を経て、第2の回転軸54の左端部から、第2の回転軸54内に延びている。そして、第3のオイル経路146は作動室137に至っている。よって、第3のオイル経路146を経由して作動室137にオイルが供給される。
第1のオイル経路144と、第2のオイル経路145及び第3のオイル経路146との接続部には、バルブ143が設けられている。このバルブ143によって、第1のオイル経路144と第3のオイル経路146との間の開閉、及び第1のオイル経路144と第2のオイル経路145との間の開閉が行われる。
バルブ143には、図18に示すように、バルブ143を駆動するモータ150が取り付けられている。このモータ150によってバルブ143が駆動されることで、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66の断続が行われる。つまり、本実施形態では、オイルポンプ140と、バルブ143と、モータ150とによって、油圧式クラッチである第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とに対して油圧を付加するアクチュエータ103が構成されている。そして、そのアクチュエータ103が、図18に示すECU138によって制御されることで、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66との油圧が調節される。具体的には、作動室133と作動室137との油圧が調節される。これにより、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66の断続が行われる。
より具体的に説明すると、図18に示すように、ECU138には、スロットル開度センサ112と車速センサ88とが接続されている。制御部としてのECU138は、このスロットル開度センサ112によって検出されるスロットル開度と、車速センサ88により検出される車速とのうちの少なくとも一方に基づいてアクチュエータ103を制御している。本実施形態では、制御部としてのECU138は、このスロットル開度センサ112によって検出されるスロットル開度と、車速センサ88により検出される車速との両方に基づいてアクチュエータ103を制御している。具体的には、ECU138は、スロットル開度センサ112から出力されるスロットル開度と、車速センサ88から出力される車速とを、メモリ113から読み出したV−N線図に適用して得られた情報に基づいてアクチュエータ103を制御している。
具体的に、バルブ143は、略円柱状に形成されている。バルブ143には、第1のオイル経路144と第2のオイル経路145とを開通するための内部経路148と、第1のオイル経路144と第3のオイル経路146とを開通するための内部経路149とが形成されている。モータ150によってバルブ143が回転することで、上記内部経路148、149によって、第1のオイル経路144と第2のオイル経路145とが開通する一方、第1のオイル経路144と第3のオイル経路146とが切断されるポジション、第1のオイル経路144と第3のオイル経路146とが開通する一方、第1のオイル経路144と第2のオイル経路145とが切断されるポジション、及び第1のオイル経路144と第3のオイル経路146とが切断されると共に、第1のオイル経路144と第2のオイル経路145とも切断されるポジションのうちのいずれかが選択されるようになっている。これにより、第4のクラッチ66及び第3のクラッチ70の両方が切断された状態、第4のクラッチ66が接続されている一方、第3のクラッチ70は切断されている状態、又は第4のクラッチ66が切断されている一方、第3のクラッチ70が接続されている状態のいずれかが選択される。
−変速装置31の動作−
次に変速装置31の動作について、図9〜図12を参照しながら詳細に説明する。
〜発進時、1速〜
まず、エンジン30が始動すると、クランク軸34(=入力軸52)の回転が開始する。第1のクラッチ55のインナ56は入力軸52と共に回転する。このため、入力軸52の回転速度が所定の回転速度(=第1の回転速度)以上になり、インナ56に所定以上の大きさの遠心力がかかりだすと、図9に示すように、第1のクラッチ55がつながる。第1のクラッチ55がつながると、第1のクラッチ55のアウタ57と共に、第1の変速ギア対86が回転する。これにより、入力軸52の回転が第1の回転軸53に伝達される。
第5のギア87は、第1の回転軸53と共に回転する。このため、第1の回転軸53の回転に伴って、第1の伝達ギア対84も回転する。よって、第1の伝達ギア対84を介して、第1の回転軸53の回転が第2の回転軸54に伝達される。
第7のギア74は、第2の回転軸54と共に回転する。このため、第2の回転軸54の回転に伴って、第2の伝達ギア対85も回転する。よって、第2の伝達ギア対85を介して、第2の回転軸54の回転が第3の回転軸64に伝達される。
第13のギア79は、第3の回転軸64と共に回転する。このため、第3の回転軸64の回転に伴って、第3の伝達ギア対98も回転する。よって、第3の伝達ギア対98を介して、第3の回転軸64の回転が出力軸33に伝達される。
このように、モペット2の発進時、すなわち1速時は、図9に示すように、第1のクラッチ55、第1の変速ギア対86、第1の伝達ギア対84、第2の伝達ギア対85及び第3の伝達ギア対98を介して、入力軸52から出力軸33へと回転が伝達される。
〜2速〜
上記1速時において、第5のギア87と共通の第4のギア65は、第1の回転軸53と共に回転している。このため、第4のギア65と噛合する第3のギア62と、第2のクラッチ59のインナ60とも共に回転している。よって、入力軸52の回転速度が上昇すると、第2のクラッチ59のインナ60の回転速度も上昇する。入力軸52の回転速度が上記第1の回転速度よりも速い第2の回転速度以上になると、インナ60の回転速度もその分上昇し、図10に示すように、第2のクラッチ59がつながる。
ここで、本実施形態では、第2の変速ギア対83のギア比の方が、第1の変速ギア対86のギア比よりも小さい。よって、第4のギア65の回転速度の方が、第2のギア63の回転速度よりも速くなる。このため、第2の変速ギア対83を介して、入力軸52から第1の回転軸53に回転が伝達される。一方、第1の回転軸53の回転は、一方向回転伝達機構96により入力軸52には伝達されない。
第1の回転軸53から出力軸33への回転力の伝達は、上記1速時と同様に、第1の伝達ギア対84、第2の伝達ギア対85及び第3の伝達ギア対98を介して行われる。
このように、2速時は、図10に示すように、第2のクラッチ59、第2の変速ギア対83、第1の伝達ギア対84、第2の伝達ギア対85及び第3の伝達ギア対98を介して、入力軸52から出力軸33へと回転が伝達される。
〜3速〜
上記2速時において、クランク軸34(=入力軸52)の回転速度が第2の回転速度よりも高くなり、且つ、車速が所定の車速以上になると、図11に示すように、バルブ143が駆動され、第3のクラッチ70がつながる。このため、第3の変速ギア対91の回転が開始する。ここで、第3の変速ギア対91のギア比は、第2の伝達ギア対85のギア比よりも小さい。このため、第3の変速ギア対91の第10のギア77の回転速度が、第2の伝達ギア対85の第8のギア78の回転速度よりも高くなる。このため、第2の回転軸54の回転は、第3の変速ギア対91を介して第3の回転軸64に伝達される。一方、第3の回転軸64の回転は、一方向回転伝達機構93により第2の回転軸54には伝達されない。
第3の回転軸64の回転は、上記1速時、2速時と同様に、第3の伝達ギア対98を介して出力軸33へと伝達される。
このように、3速時は、図11に示すように、第2のクラッチ59、第2の変速ギア対83、第1の伝達ギア対84、第3のクラッチ70、第3の変速ギア対91及び第3の伝達ギア対98を介して、入力軸52から出力軸33へと回転が伝達される。
〜4速〜
上記3速時において、クランク軸34(=入力軸52)の回転速度がさらに高くなり、且つ、車速もさらに高くなると、図12に示すように、バルブ143が駆動され、第4のクラッチ66がつながる。その一方で、第3のクラッチ70は切断される。このため、第4の変速ギア対90の回転が開始する。ここで、第4の変速ギア対90のギア比も、第2の伝達ギア対85のギア比よりも小さい。このため、第4の変速ギア対90の第12のギア76の回転速度が、第2の伝達ギア対85の第8のギア78の回転速度よりも高くなる。このため、第2の回転軸54の回転は、第4の変速ギア対90を介して第3の回転軸64に伝達される。一方、第3の回転軸64の回転は、一方向回転伝達機構93により第2の回転軸54には伝達されない。
第3の回転軸64の回転は、上記1速時〜3速時と同様に、第3の伝達ギア対98を介して出力軸33へと伝達される。
このように、4速時は、図12に示すように、第2のクラッチ59、第2の変速ギア対83、第1の伝達ギア対84、第4のクラッチ66、第4の変速ギア対90及び第3の伝達ギア対98を介して、入力軸52から出力軸33へと回転が伝達される。
以上説明したように、本実施形態では、所謂ギアトレイン式の変速装置31を採用している。このため、例えば、Vベルトを使用した無段変速装置と比較して、エネルギーの伝達ロスが少ない。その結果、車両の燃費を向上させることができる。
本実施形態では、入力軸52と第1の回転軸53との間、及び第2の回転軸54と第3の回転軸64との間で変速する構成となっている。具体的には、第1の変速ギア対86及び第2の変速ギア対83が入力軸52と第1の回転軸53との間に設けられている。第3の変速ギア対91及び第4の変速ギア対90が第2の回転軸54と第3の回転軸64との間に設けられている。このため、プラネタリーギアを用いた変速装置のように、単独の回転軸上に設けられた変速機構を用いる場合と比較して、変速装置31の構成をシンプルにすることができる。かつ、変速装置31をコンパクト化することができる。
さらに、本実施形態では、第2の変速ギア対83の第4のギア65と、第1の伝達ギア対84の第5のギア87とが共通である。よって、変速装置31のさらなるコンパクト化が可能となる。
また、このように、本実施形態では、変速のために設けた第1の回転軸53と第3の回転軸64とを利用して、所謂ギアトレイン方式で入力軸52と出力軸33との間の動力伝達が行われる。よって、チェーンなどの別途の動力伝達手段を設ける必要はない。さらに、例えばチェーンを設けた場合のように、チェーンガイドやチェーンテンショナなどのチェーンのばたつきを抑制する部材等も別途設ける必要はない。よって、変速装置31の構成を特にシンプルにすることができる。かつ、変速装置31を特にコンパクト化することができる。
本実施形態では、変速装置31は4速である。このため、3速の変速装置よりも、車両を使用する速度領域の広さに対して、変速段数が比較的多いため、快適な自動変速の実現が容易となる。
本実施形態では、入力軸52、第1の回転軸53、第2の回転軸54、第3の回転軸64及び出力軸33が入力軸52の軸方向と垂直な方向(すなわち、前後方向)に配列されているため、入力軸52の軸方向に関して、変速装置31をコンパクト化することができる。その結果、モペット2の車幅方向の幅を抑制することができる。従って、モペット2のバンク角を比較的大きくとることができる。
特に、本実施形態では、上流側クラッチ群81と下流側クラッチ群82とが、入力軸52の軸方向に関して、少なくとも一部が重なる位置に配置されている。よって、例えば、上流側クラッチ群81と下流側クラッチ群82とが、入力軸52の軸方向に関して重なっていない場合と比較して、変速装置31の入力軸52の軸方向に関する幅をさらに小さくすることができる。その結果、モペット2の車幅方向の幅をさらに小さくすることができる。モペット2の車幅方向の幅をより小さくする観点から、上流側クラッチ群81と下流側クラッチ群82とが、入力軸52の軸方向に関して実質的に重なっていることが好ましい。
本実施形態では、第1のクラッチ55と第4のクラッチ66とを車幅方向に関して少なくとも一部同士が重なるように配置されていると共に、第2のクラッチ59と第3のクラッチ70とを車幅方向に関して少なくとも一部同士が重なるように配置されている。このため、変速装置31の入力軸52の軸方向に関する幅をより小さくすることができる。変速装置31の入力軸52の軸方向に関する幅をさらに小さくする観点からは、第1のクラッチ55と第4のクラッチ66とを車幅方向に関して実質的に重なるように配置すると共に、第2のクラッチ59と第3のクラッチ70とを車幅方向に関して実質的に重なるように配置することが好ましい。
さらに、本実施形態では、入力軸52の軸方向に関して、第1の変速ギア対86と第4の変速ギア対90とが、少なくとも一部同士が重なる位置に配置されている。第2の変速ギア対83と第3の変速ギア対91とが、少なくとも一部同士が重なる位置に配置されている。このため、変速装置31の入力軸52の軸方向に関する幅を特に小さくすることができる。
例えば、第1の変速ギア対86を第1のクラッチ55に対して右側に配置する一方、第4の変速ギア対90を第4のクラッチ66に対して左側に配置することも考えられる。また、第2の変速ギア対83を第2のクラッチ59に対して左側に配置する一方、第3の変速ギア対91を第3のクラッチ70に対して右側に配置することも考えられる。つまり、前後方向に配列された第1のクラッチ55及び第4のクラッチ66に対して、第1の変速ギア対86と第4の変速ギア対90とを相互に逆側に配置することも考えられる。前後方向に配列された第2のクラッチ59及び第3のクラッチ70に対して、第2の変速ギア対83と第3の変速ギア対91とを相互に逆側に配置することも考えられる。しかしながら、そのように配置した場合、変速装置31の車幅方向の幅が比較的大きくなる。
それに対し、本実施形態のように、第4の変速ギア対90を、第4のクラッチ66に対して、第1のクラッチ55に対して第1の変速ギア対86が位置する側と同じ側に位置させると共に、第3の変速ギア対91を第3のクラッチ70に対して、第2のクラッチ59に対して第2の変速ギア対83が位置する側と同じ側に位置させることで、変速装置31の車幅方向の幅を抑制することができる。言い換えれば、前後方向に配列された第1のクラッチ55及び第4のクラッチ66に対して、第1の変速ギア対86と第4の変速ギア対90とを相互に同じ側に配置すると共に、前後方向に配列された第2のクラッチ59及び第3のクラッチ70に対して、第2の変速ギア対83と第3の変速ギア対91とを相互に同じ側に配置することで、変速装置31の車幅方向の幅を抑制することができる。
変速装置31の車幅方向の幅をさらに抑制する観点からは、同じ回転軸上に配列された複数のクラッチを隣接して配置させることが好ましい。具体的には、本実施形態のように、第1の変速ギア対86と第2の変速ギア対83との間に、第1のクラッチ55と第2のクラッチ59を配置することが好ましい。第3の変速ギア対91と第4の変速ギア対90との間に、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66を配置することが好ましい。
例えば、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とを遠心クラッチにより構成することもできる。その場合、例えば、第3のクラッチ70の方が第4のクラッチ66よりも第2の回転軸54の回転速度が低いときに断続される場合は、第4のクラッチ66が接続されている一方、第3のクラッチ70が切断されている状態にすることができない。このため、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66との両方がつながった状態において、第4の変速ギア対90によって第2の回転軸54と第3の回転軸64との間の動力伝達を行うために、一方向クラッチや一方向ギアを設ける必要がある。このため、変速装置31の構成が複雑化する傾向にある。それに対して、本実施形態では、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とが油圧式クラッチにより構成されている。よって、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とを自由に断続できる。このため、一方向クラッチや一方向ギアを別途設ける必要がない。従って、変速装置31の構成をよりシンプルにすることができる。
《変形例1》
上記実施形態では、第1のクラッチ55のアウタ57と、第2のクラッチ59のアウタ61とが同一の部材により構成されている例について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。例えば、図19に示すように、第1のクラッチ55のアウタ57と、第2のクラッチ59のアウタ61とを別個に設けてもよい。
《変形例2》
上記実施形態では、第8のギア78に対して一方向回転伝達機構93が配置されている例について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。例えば、図20に示すように、一方向回転伝達機構93を第7のギア74に対して配置してもよい。
《変形例3》
上記実施形態では、第2のギア63に対して一方向回転伝達機構96が配置されている例について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。例えば、図21に示すように、一方向回転伝達機構96を第1のギア58に対して配置してもよい。
《変形例4》
上記実施形態では、第1のクラッチ55と第2のクラッチ59とが第1の変速ギア対86と第2の変速ギア対83との間に配置されている例について説明した。但し、本発明はこれに限定されない。例えば、図22に示すように、第1のクラッチ55を第1の変速ギア対86に対して左側に配置すると共に、第2のクラッチ59も第2の変速ギア対83に対して左側に配置してもよい。
同様に、上記実施形態では、第3のクラッチ70と第4のクラッチ66とが第3の変速ギア対91と第4の変速ギア対90との間に配置されている例について説明した。但し、本発明はこれに限定されない。例えば、図22に示すように、第3のクラッチ70を第3の変速ギア対91に対して左側に配置すると共に、第4のクラッチ66も第4の変速ギア対90に対して左側に配置してもよい。
図22に示す場合であっても、入力軸52、第1の回転軸53、第2の回転軸54、第3の回転軸64及び出力軸33が前後方向に配列されているため、比較的幅の狭い変速装置31を実現することができる。
《その他の変形例》
上記実施形態ではエンジン30が単気筒エンジンである例について説明した。但し、本発明において、エンジン30は、単気筒エンジンに限定されない。エンジン30は、例えば、2気筒エンジンなどの多気筒のエンジンであってもよい。
上記実施形態では、出力軸33と第3の回転軸64とがそれぞれ別個に設けられている例について説明した。但し、本発明はこの構成に限定されない。出力軸33と第3の回転軸64とは共通であってもよい。言い換えれば、第3の回転軸64に対して後輪18が取り付けられていてもよい。
実施形態では、第1のクラッチ55と、第2のクラッチ59とは、それぞれドラム式の遠心クラッチにより構成されている。但し、本発明は、この構成に限定されない。第1のクラッチ55と、第2のクラッチ59とは、遠心クラッチ以外のクラッチであってもよい。例えば、第1のクラッチ55と、第2のクラッチ59とは、油圧式のクラッチであってもよい。
上記実施形態では、第1のクラッチ55と、第2のクラッチ59とは、それぞれディスク式の油圧式クラッチにより構成されている例について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。第4のクラッチ66と第3のクラッチ70とは、油圧式のクラッチ以外のクラッチであってもよい。例えば、第4のクラッチ66と第3のクラッチ70とは、遠心クラッチであってもよい。但し、第4のクラッチ66と第3のクラッチ70とは、油圧式のクラッチであることが好ましい。
このように、第1のクラッチ55、第2のクラッチ59、第4のクラッチ66及び第3のクラッチ70のそれぞれは、ドラム式又はディスク式の遠心クラッチであってもよいし、ドラム式又はディスク式の油圧式クラッチであってもよい。第1のクラッチ55、第2のクラッチ59、第4のクラッチ66及び第3のクラッチ70のすべてが遠心クラッチであってもよい。第1のクラッチ55、第2のクラッチ59、第4のクラッチ66及び第3のクラッチ70のすべてが油圧式クラッチであってもよい。また、第1のクラッチ55、第2のクラッチ59、第4のクラッチ66及び第3のクラッチ70のうち、比較的ギア比の大きい1又は複数のクラッチを遠心クラッチとし、それ以外の比較的ギア比の小さいクラッチを油圧式クラッチとしてもよい。具体的には、第1のクラッチ55のみを遠心クラッチとし、それ以外のクラッチ59、66、70を油圧式クラッチとしてもよい。逆に、第1のクラッチ55、第2のクラッチ59、第4のクラッチ66及び第3のクラッチ70のうち、比較的ギア比の大きい1又は複数のクラッチを油圧式クラッチとし、それ以外の比較的ギア比の小さいクラッチを遠心クラッチとしてもよい。
尚、上記実施形態1、2及び各変形例では、ギア対が直接噛合している例について説明した。但し、本発明は、これに限定されない。ギア対は、別途設けられたギアを介して間接的に噛合していてもよい。
上記実施形態2では、図15に示すように、第1の回転軸53は、第1の回転軸53の軸線C2が第3の回転軸64の軸線C4よりも高い位置に位置するように配置された例について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。例えば、第1の回転軸53を、第1の回転軸53の軸線C2が第3の回転軸64の軸線C4よりも低い位置に位置するように配置してもよい。具体的には、第1の回転軸53を、第1の回転軸53の軸線C2が平面Pの下方に位置するように配置してもよい。第3の回転軸64を、第3の回転軸64の軸線C4が平面Pの上方に位置するように配置してもよい。
上記実施形態では、本発明を実施した好ましい形態の例について、4速の変速装置31を例に挙げて説明した。但し、本発明はこれに限定されない。例えば、変速装置31は5速以上であってもよい。その場合、第3の回転軸64と出力軸33との間にさらなる回転軸を2軸設け、その2軸に、さらなるクラッチと、さらなる変速ギア対を設けることが考えられる。
《本明細書における用語等の定義》
本明細書において、「モーターサイクル」とは、所謂狭義のモーターサイクルに限定されない。「モーターサイクル」は、所謂広義のモーターサイクルを意味する。具体的に、本明細書において「モーターサイクル」は、車両を傾斜させることによって方向転換を行う車両全般をいう。このため、「モーターサイクル」は、自動二輪車に限定されない。前輪及び後輪のうちの少なくとも一方が複数の車輪により構成されていてもよい。具体的には、「モーターサイクル」は、前輪及び後輪のうちの少なくとも一方が相互に隣接して配置された2つの車輪によって構成されている車両であってもよい。「モーターサイクル」には、狭義のモーターサイクル、スクータ型車両、モペット型車両及びオフロード型車両が少なくとも含まれる。
《変形例5》
上記実施形態1では、図2に示すように、入力軸52と出力軸33との間に3つの回転軸が配置される例について説明した。また、上記実施形態1に示す例では、図5に示すように、入力軸52の軸心C1と、第1〜第3の回転軸53,54,64の軸心C2〜C4と、出力軸33の軸心C5とが、側面視において略直線上に配置されている。しかしながら、本発明は、この構成に限定されない。入力軸52と出力軸33との間に、4つ以上の回転軸が配置されていてもよい。また、入力軸52と出力軸33との間に配置された各回転軸の軸心は、側面視において、入力軸52の軸心C1と出力軸33の軸心C5とを通る直線上に位置していなくてもよい。
図23は、変形例5におけるエンジンユニットの断面図である。図24は、変形例5におけるエンジンユニットの回転軸配置を説明するための模式的な部分断面図である。図25は、変形例5におけるエンジンユニットの構成を表す模式図である。
図23及び図25に示すように、本変形例5では、第3の回転軸64と出力軸33との間に、第4の回転軸240と、第5の回転軸241とが配置されている。第14のギア80は、第4の回転軸240に回転不能に取り付けられている。
また、第4の回転軸240には、第15のギア315が回転不能に取り付けられている。第15のギア315は、第5の回転軸241に回転可能に取り付けられた第16のギア316を介して、出力軸33に回転不能に取り付けられた第17のギア317と噛合している。これら第15のギア315、第16のギア316及び第17のギア317により、第4の伝達ギア対320が構成されている。第4の回転軸240の回転は、この第4の伝達ギア対320によって出力軸33に伝達される。 図24に示すように、第1の回転軸53の軸心C2は、入力軸52の軸心C1よりも後側に位置している。また、第1の回転軸53の軸心C2は、入力軸52の軸心C1よりも下側に位置している。第1の回転軸53の軸心C2は、入力軸52の軸心C1と出力軸33の軸心C5とを含む平面Pよりもやや下側に位置している。
第2の回転軸54の軸心C3は、入力軸52の軸心C1及び第1の回転軸53の軸心C2のそれぞれよりも後側に位置している。第2の回転軸54の軸心C3は、入力軸52の軸心C1及び第1の回転軸53の軸心C2のそれぞれよりも上側に位置している。第2の回転軸54の軸心C3は、平面Pよりも上側に位置している。
第3の回転軸64の軸心C4は、入力軸52の軸心C1、第1の回転軸53の軸心C2及び第2の回転軸54の軸心C3のそれぞれよりも後側に位置している。第3の回転軸64の軸心C4は、入力軸52の軸心C1及び第1の回転軸53の軸心C2のそれぞれよりもやや上側に位置している。第3の回転軸64の軸心C4は、第2の回転軸54の軸心C3よりも下側に位置している。第3の回転軸64の軸心C4は、平面Pよりも上側に位置している。
第4の回転軸240の軸心C7は、入力軸52の軸心C1、第1の回転軸53の軸心C2、第2の回転軸54の軸心C3及び第3の回転軸64の軸心C4のそれぞれよりも後側に位置している。第4の回転軸240の軸心C7は、入力軸52の軸心C1及び第1の回転軸53の軸心C2のそれぞれよりもやや上側に位置している。第4の回転軸240の軸心C7は、第2の回転軸54の軸心C3よりも下側に位置している。第4の回転軸240の軸心C7は、第3の回転軸64の軸心C4とほぼ同じ高さに位置している。第4の回転軸240の軸心C7は、平面Pよりも上側に位置している。
第5の回転軸241の軸心C6は、入力軸52の軸心C1、第1の回転軸53の軸心C2、第2の回転軸54の軸心C3、第3の回転軸64の軸心C4及び第4の回転軸240の軸心C7のそれぞれよりも後側に位置している。第5の回転軸241の軸心C6は、入力軸52の軸心C1及び第1の回転軸53の軸心C2のそれぞれよりもやや上側に位置している。第5の回転軸241の軸心C6は、第2の回転軸54の軸心C3、第3の回転軸64の軸心C4及び第4の回転軸240の軸心C7よりも下側に位置している。第5の回転軸241の軸心C6は、平面Pよりも上側に位置している。
また、入力軸52、第1の回転軸53、第3の回転軸64及び第4の回転軸240の下方には、オイル溜まり99が形成されている。本実施形態では、オイル溜まり99は、第4の回転軸240の軸心C7よりも前側に形成されている。第4の回転軸240の軸心C7及び第5の回転軸241の軸心C6の下方には、オイル溜まり99は形成されていない。
第1及び第2の回転軸53,54は、自動二輪車3が静止状態にあるときに、オイル溜まり99よりも高い位置に配置されている。さらに、本実施形態では、第1及び第2の回転軸53,54に設けられたギア63,65,69,73,75,74も、自動二輪車3が静止状態にあるときに、オイル溜まり99よりも高い位置に配置されている。