JP4325228B2 - 深絞り成形性と歪時効硬化特性に優れた冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用鋼板等の使途に有用なプレス成形性、特に深絞り成形性が良好で、しかもプレス成形後の熱処理により引張強さが顕著に増加する、極めて大きな歪時効硬化特性を有する、引張強さが440MPa以上、△TSが100MPa以上かつr値が1.1以上である冷延鋼板およびその製造方法に関するものである。本発明でいう「極めて大きな歪時効硬化特性」や「歪時効硬化特性に優れる」とは、具体的には、歪時効硬化特性の指標となる△TSが100MPa以上である場合をいうものとする。また、本発明において、「△TS」とは、塑性歪量5%以上の予変形処理後、150〜350℃の範囲の温度で30秒以上保持する熱処理を施したときの、引張強さの増加量{=(熱処理後の引張強さTSH)−(熱処理を施さない場合の引張強さTS)}を意味する。さらに、本発明でいう「深絞り成形性に優れる」とは、具体的には、ランクフォード値(r値)が1.1以上である場合をいうものとする。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車用部品素材や電気機器用外板素材に用いられる冷延鋼板は、高いプレス成形性、特に優れた深絞り成形性を具備することが必要とされる。なかでも自動車用部品に関しては、衝突安全性および燃費改善のための軽量化の観点から、鋼板の高強度化も要求されており、最近では高張力鋼板が積極的に使用されている。衝突時における安全性の目安となる、耐衝撃特性の向上には、完成車での強度が高いほど有利である。
【0003】
しかしながら、一般に、鋼板を高強度化すると、降伏応力が上昇して形状凍結性が劣化するとともに、ランクフォード値(r値)および延性(El)が低下し、プレス成形性が劣化する傾向にある。したがって、かかる冷延鋼板は、プレス成形時には軟質でプレス成形性に優れ、かつ、プレス成形した後の完成品(加工品)になった状態では強度が高く耐衝撃性に優れることが望ましい。
【0004】
プレス成形性の良好な高張力鋼板の代表例としては、フェライト相とマルテンサイト相の複合組織からなる複合組織鋼板が挙げられ、特に連続焼鈍後ガスジェット冷却で製造される複合組織鋼板は、降伏応力(YS)が低く、さらに高延性(El)と焼付け硬化性とを兼ね備えている。しかしながら、かかる従来の複合組織鋼板は、特にr値が低く深絞り成形性が劣るという欠点があった。
【0005】
深絞り成形性に優れる複合組織焼付硬化性鋼板の開発としては、例えば特許文献1には、C:0.002〜0.010%、Si≦1.0%、Mn:0.2〜2.5%、P≦0.20%、Al:0.005〜0.10%を含有し、フェライト相と、体積率で0.1〜5%のマルテンサイト相の複合組織からなる鋼板の製造方法が開示されており、この製造方法によって得られた鋼板は、r値が1.6以上で、かつ2%与歪を付与した後、170℃×20分処理したときの降伏点(YP)上昇量が60〜80N/mm2の機械的特性を有している。
【0006】
【特許文献1】
特開平5-163533号公報
【0007】
また、特許文献2には、C:0.02〜0.06%、Mn:0.06〜0.25%、P:0.01〜0.06%、sol.Al:0.020〜0.060%、N≦0.005%を有し、フェライト相と、体積率で10%以下の低温変態相の複合組織からなる鋼板とその製造方法が開示されており、この製造方法によって得られた鋼板は、r値が1.4以上で、かつ2%引張歪を付加した後、170℃で20分間時効処理したときの降伏強度上昇値(△YS)が8〜11kg/mm2の機械的特性を有している。
【0008】
【特許文献2】
特公昭64-6262号公報
【0009】
しかしながら、特許文献1および2に記載された技術は、もとの鋼板の引張強さが340〜440MPa級程度であり高強度鋼板としては十分な引張強さ(TS)とは言い難く、さらに、従来焼付硬化特性としては降伏応力(YS、YP)の増加のみに着目し、引張強さ(TS)の増加については全く考慮されていなかった。
【0010】
上記したような、時効処理後に降伏強度が上昇する鋼板では、部品の変形開始応力を高める効果があり、耐デント性もしくは形状凍結性には優れるが、変形開始から変形終了までの変形全域にわたる変形に要する応力(変形後引張強さ)を高める効果としては不十分である。部品の軽量化には、単に歪時効による降伏応力の上昇だけでは足りず、さらに変形が進んだときの強度特性の上昇も必要になる。言い換えれば、歪時効後の降伏応力の上昇だけでなく引張強さの上昇も望まれている。
【0011】
そのような要求に対して、歪時効後に、降伏応力のみならず引張強さをも上昇させようとする鋼板が幾つか提案されている。
【0012】
例えば、特許文献3には、重量百分率でC:0.01〜0.08%を含み、フェライトまたはフェライト主体で残部がパーライトまたはベイナイトからなるミクロ組織を有する鋼板で、220〜370℃の温度範囲で熱処理後、引張強さが60MPa以上上昇する合金化溶融亜鉛めっき鋼板が開示されている。
【0013】
【特許文献3】
特開平10-310847号公報
【0014】
しかしながら、この鋼板は、フェライトまたはフェライト主体の組織であるため、低い降伏応力が得られず、また冷間圧延前に固溶C、Nを析出固定する、いわゆるIF(Interstitial Free)化という発想がないため、冷間圧延時には多量の固溶C、Nが残存し、十分に高いr値を有する鋼板を得ることはできない。
【0015】
また、特許文献4では、C:0.008%以下、N:0.0050〜0.0250%を含有し、r値2.0以上、さらに固溶Nを活用することで、引張歪5%の予変形後、170℃×20分の条件で時効処理した後、この時効処理前後の引張強さ増加量(=△TS)が40MPa以上得られる技術が開示されている。
【0016】
【特許文献4】
特開2001−335887号公報
【0017】
しかしながら、元の鋼板(すなわち歪時効処理前)の引張強さTSが440MPaよりも小さく、さらに△TSも100MPaよりも小さい値であることから、耐衝撃特性が不十分であった。
【0018】
さらに、特許文献5には、質量%で、C:0.15%以下、Mn:3.0%以下、Cu:0.5〜3.0%、およびSi、P、S、A1、Nを適正量含有したフェライトとマルテンサイトの複合組織鋼板で、塑性歪量5%以上の予変形処理後、250℃×20分の熱処理後、処理前後の引張強さ増加量△TS≧80MPaである冷延鋼板とその製造方法が開示されている。
【0019】
【特許文献5】
特開2001-348645号公報
【0020】
しかしながら、この技術では、冷間圧延前に固溶C、Nを極力低減させる、すなわちIF化するという発想がないため、冷間圧延時には多量の固溶C、Nが存在し、これは再結晶時に高r値に有効な{111}集合組織の発達を阻害するため、例えば、特許文献5の表1に開示されているNb、Vをともに含む鋼(鋼D)を用いて製造した特許文献5の表3に示す本発明例の鋼板6であっても、r値は1.0未満で、充分な深絞り成形性は得られない。
【0021】
一方、特許文献6には、質量%で、C:0.01〜0.08%、Si:2.0%以下、Mn:3.0%以下、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.20%、N:0.02%以下およびV:0.01〜0.5%を含有し、かつ、VとCが適正な関係の範囲にあり、再結晶焼鈍前には鋼中の固溶CをV系炭化物として析出させて固溶Cを極力低減させることで{111}再結晶集合組織を発達させることにより、高r値を達成した複合組織型高張力冷延鋼板とその製造方法が開示されている。
【0022】
【特許文献6】
特開2002-226941号公報
【0023】
しかしながら、かかる冷延鋼板では、鋼中のCuは、鋼を強化することを目的として必要に応じ含有させるものであって、後述するCu含有による本発明の作用のように、予変形処理後の低温熱処理を施したときに微細析出物を出現させて、鋼板の歪時効硬化を増加させることを意図したものではなく、△TS≧100MPaの歪時効硬化特性は達成できない。
【0024】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記したように、極めて強い要求があるにもかかわらず、プレス成形性、特に深絞り成形性が良好で、しかもプレス成形後の熱処理により引張強さが顕著に増加する、極めて大きな歪時効硬化特性を有する、引張強さが440MPa以上、△TSが100MPa以上かつr値が1.1以上である冷延鋼板と、その製造技術がこれまでなかったことに鑑み達成されたものであり、上記した問題を有利に解決するものである。
【0025】
本発明は、鋼組成および製造条件を規制することにより、深絞り成形性と歪時効硬化特性に優れた複合組織型高張力冷延鋼板と、これを安定して製造できる技術を提案することを目的とする。
【0026】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するため、再結晶集合組織および歪時効硬化特性におよぼす鋼板組織と合金元素について鋭意研究を重ねた。その結果、C含有量を0.01〜0.05質量%のセミ極低炭素域とし、適正範囲のV、Nb、Cu、およびNi量を含有させて、鋼板組織をフェライト相とマルテンサイト相を含む第2相との複合組織にすることにより、高強度にもかかわらず延性に優れ、r値が高く、さらに予歪量5%以上とした予変形処理と150〜350℃の温度における熱処理後には、降伏応力の増加に加え、引張強さも顕著に増加する高い歪時効硬化特性が得られることを見出した。
【0027】
ここで、本発明鋼である冷延鋼板とは、組織が、フェライト相と、面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む第2相との複合組織を有することを特徴とする複合組織鋼板を意味する。
【0028】
まず、本発明者らが行った基礎的な実験結果について説明する。
質量%で、C:0.02%、Si:0.3%、Mn:1.8%、P:0.02%、S:0.005%、Al:0.03%、N:0.002%を基本組成とし、これにV:0.05〜0.1質量%、Nb:0.001〜0.16質量%、Cu:0.3〜1.5%の範囲で添加することによって、▲1▼Cu量が一定でVおよびNb含有量が異なる種々のシートバー、および▲2▼V、Nb量が一定でCu含有量が異なる種々のシートバーについて、1250℃に加熱−均熱後、仕上げ圧延終了温度が880℃となるように3パス圧延を行って板厚4.0mmとした。なお、仕上げ圧延終了後、コイル巻取処理として650℃×1hの保温相当処理を施した。引き続き、圧下率70%の冷間圧延を施して板厚1.2mmとした。ついで、これらの冷延板に、種々の温度で60秒間保持する再結晶焼鈍を施した。
【0029】
得られた冷延鋼板について、引張試験を実施し引張特性を調査した。さらに、これらの冷延鋼板の歪時効硬化特性について調査した。引張試験は、JIS5号引張試験片を用いて行った。引張強さTSおよび延性Elは、圧延方向に対して垂直方向に引張試験を行ったときの値である。r値は、圧延方向(rL)、圧延方向に対し45度方向(rD)、圧延方向に対し垂直方向(rC)の平均r値{=(rL+rC+2×rD)/4}として求めた。歪時効硬化特性は、引張予歪量5%の予変形処理を施し、次いで50〜550℃×20分の熱処理を施した後、引張試験を実施し引張特性を求め、熱処理前後の引張強さ増加量:△TSで評価した。△TSは、熱処理を施した後の引張強さTSHと、熱処理を施さない場合の引張強さTSとの差とした。
【0030】
図1は、VとNb含有量がC含有量との関係で、r値と強度伸びバランス(TS×El)に及ぼす影響を示した図であり、横軸はVおよびNb含有量とC含有量の原子比((V/51+Nb/93)/(C/12))であり、縦軸はr値と強度伸びバランス(TS×El)を上下に分けて示す。Cu:1.5%一定とし、鋼板は冷延後、AC1変態点以上AC3変態点以下の温度域、すなわちフェライト相とオーステナイト相の2相域(α‐γ2相域ともいう。)である800℃で保持時間60秒の再結晶焼鈍を施し、少なくとも400℃までは5℃/s以上の冷却速度を保って室温まで冷却した。
【0031】
図1から、鋼スラブ中のVおよびNb含有量をC含有量との原子比にして0.5〜2.0の範囲に制限することにより、高いr値と高い強度伸びバランスが得られ、高r値と高延性(El)を有する複合組織型冷延鋼板が製造可能となることが明らかになった。
【0032】
次に、図1で用いた冷延鋼板のうち、(V/51+Nb/93)/(C/12)=1.2の鋼で、Cuの含有量がそれぞれ0.3質量%および1.5質量%である冷延鋼板について、種々の温度で60秒間保持する再結晶焼鈍を施して、フェライト単相組織またはフェライト相とマルテンサイト相を含む第2相との複合組織とした。これらの冷延焼鈍鋼板に対し、引張予歪量5%の予変形処理を施し、次いで250℃×20分の熱処理を施して△TSを求めた。
【0033】
図2に、異なるCu量の場合の、△TSおよび歪時効処理前の再結晶焼鈍温度の関係を示す。
図2から、Cu含有量を適正範囲とし、焼鈍温度をAC1変態点以上AC3変態点以下として、組織をフェライト相とマルテンサイト相を含む第2相との複合組織とすることにより、高い歪時効硬化特性を有する冷延鋼板を製造することが可能であることが明らかとなった。
【0034】
次に、図1で用いた冷延鋼板のうち、(V/51+Nb/93)/(C/12)=1.2の鋼で、Cuの含有量がそれぞれ0.3質量%および1.5質量%である冷延鋼板について、フェライト相とオーステナイト相の2相域である800℃で保持時間60秒の焼鈍を施した後、保持温度から少なくとも400℃までは5℃/s以上の冷却速度を保って室温まで冷却した。これらの鋼板のミクロ組織は、フェライト相とマルテンサイト相(第2相)の複合組織であり、マルテンサイト相の組織分率は面積率で8%であった。これらの冷延焼鈍鋼板に対し、引張予歪量5%の予変形処理を施し、次いで、予変形処理後の熱処理温度(保持時間は20分とする。)を変化させたときの△TSを求めた。
【0035】
図3に、異なるCu含有量の場合の△TSと予変形処理後の熱処理温度の関係を示す。
図3から、高△TSを得るには、予変形後の適正な熱処理温度範囲があり、さらにCu含有量にも大きく依存することが判る。
【0036】
本発明の冷延鋼板では、再結晶焼鈍前にはV、Nbなどの炭化物を析出させて、いわゆるIF化し、固溶CおよびNが少ない状態を実現しているため、{111}再結晶集合組織が強く発達し、高r値が得られるとともに、再結晶後に主としてV系炭化物が溶解し、固溶Cがオーステナイト相に多量に濃化することにより、その後の冷却過程においてオーステナイト相がマルテンサイト相に変態し、高いr値を有するフェライト相とマルテンサイト相の複合組織が得られる。
【0037】
また、本発明の冷延鋼板では、通常の熱処理前後の変形応力増加量測定時の予歪み量である2%よりも多い歪量での予変形と、150〜350℃といった比較的低温域での熱処理により、鋼板中に極微細なCuが析出する。本発明者らの検討によれば、この極微細Cuの析出により、降伏応力の増加に加え、引張強さが顕著に増加する高い歪時効硬化特性が得られたと考えられる。
【0038】
このような低温域での熱処理による極微細Cuの析出は、これまで報告されているセミ極低炭素鋼をはじめ、極低炭素鋼および低炭素鋼でも全く認められなかった。低温域での熱処理によって極微細Cuが析出することについて、その理由は現在まで明確となっていないが、フェライト(α)相とオーステナイト(γ)相の2相域での焼鈍中に、γ相にCuが多量に分配され、それが冷却後も引き継がれてマルテンサイト中にCuが過飽和に固溶した状態となり、5%以上の予歪付加と低温熱処理により、極微細に析出したものと考えられる。
【0039】
それ故、再結晶焼鈍時の温度と保持時間を適正な条件にすることによって、予歪付加後の低温熱処理により得られる歪時効硬化特性を優れたものとすることができると考えられる。
【0040】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討して完成されたものであり、本発明の要旨は下記のとおりである。
【0041】
(1)質量%で、C:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、Cu:0.5〜3.0%、Ni:0.01〜2.0%、V:0.01〜0.2%およびNb:0.001〜0.2%を含有し、かつ、VおよびNbの含有量(質量%)とCの含有量(質量%)とが、
0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12
なる関係を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、組織が、主相であるフェライト相と、面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む第2相との複合組織を有し、下記で定義される△TSが100MPa以上でかつr値が1.1以上であることを特徴とする、深絞り成形性と歪時効硬化特性に優れた冷延鋼板。
記
「△TS」とは、塑性歪量5%以上の予変形処理後、150〜350℃の範囲の温度で30秒以上保持する熱処理を施したときの、引張強さの増加量{=(熱処理後の引張強さTS H )−(熱処理を施さない場合の引張強さTS)}を意味する。
【0042】
(2)質量%で、C:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、Cu:0.5〜3.0%、Ni:0.01〜2.0%、V:0.01〜0.2%、Nb:0.001〜0.2%およびTi:0.001〜0.3%を含有し、かつ、V、NbおよびTiの含有量(質量%)とCの含有量(質量%)とが、
0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12
なる関係を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、組織が、主相であるフェライト相と、面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む第2相との複合組織を有し、下記で定義される△TSが100MPa以上でかつr値が1.1以上であることを特徴とする、深絞り成形性と歪時効硬化特性に優れた冷延鋼板。
記
「△TS」とは、塑性歪量5%以上の予変形処理後、150〜350℃の範囲の温度で30秒以上保持する熱処理を施したときの、引張強さの増加量{=(熱処理後の引張強さTS H )−(熱処理を施さない場合の引張強さTS)}を意味する。
【0043】
(3) 上記組成に加えて、さらにMo:0.01〜0.5質量%を含有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の冷延鋼板。
【0044】
(4) 質量%で、C:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、Cu:0.5〜3.0%、Ni:0.01〜2.0%、V:0.01〜0.2%およびNb:0.001〜0.2%を含有し、かつ、VおよびNbの含有量(質量%)とCの含有量(質量%)とが、
0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12
なる関係を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを素材とし、該素材に熱間圧延を施して熱延板とし、引き続き酸洗した後、冷間圧延を施し、その後、AC1変態点以上AC3変態点以下の温度域で60秒以上滞留させる焼鈍を行った後、少なくとも400℃までの冷却速度を5℃/s以上として冷却することを特徴とする、深絞り成形性と歪時効硬化特性に優れた冷却鋼板の製造方法。
【0045】
(5) 質量%で、C:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、Cu:0.5〜3.0%、Ni:0.01〜2.0%、V:0.01〜0.2%、Nb:0.001〜0.2%およびTi:0.001〜0.3%を含有し、かつ、V、NbおよびTiの含有量(質量%)とCの含有量(質量%)とが、
0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12
なる関係を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを素材とし、該素材に熱間圧延を施して熱延板とし、引き続き酸洗した後、冷間圧延を施し、その後、AC1変態点以上AC3変態点以下の温度域で60秒以上滞留させる焼鈍を行った後、少なくとも400℃までの冷却速度を5℃/s以上として冷却することを特徴とする、深絞り成形性と歪時効硬化特性に優れた冷却鋼板の製造方法。
【0046】
(6) 上記鋼スラブは、さらにMo:0.01〜0.5質量%を含有する組成を有することを特徴とする上記(4)または(5)に記載の冷延鋼板の製造方法。
【0047】
【発明の実施の形態】
本発明の冷延鋼板は、引張強さ(TS)が440MPa以上の高張力冷延鋼板であり、r値≧1.1で深絞り成形性に優れ、かつプレス成形後の比較的低い温度での熱処理により引張強さが顕著に上昇し、△TS≧100MPaになる歪時効硬化特性に優れた冷延鋼板である。
【0048】
まず、本発明の冷延鋼板の組織について説明する。
本発明の冷延鋼板の組織は、フェライト相と、面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む第2相との複合組織を有する。また、主相であるフェライト相は{111}集合組織が発達しており、高いr値を有する。
【0049】
低い降伏応力(YS)と高い強度×延性(伸びともいう)バランス(TS×Elバランス)とを有し、かつプレス成形後の比較的低い温度での熱処理により引張強さが顕著に上昇し、△TS≧100MPaになる歪時効硬化特性を達成するために、本発明では冷延鋼板の組織を、主相であるフェライト相と、マルテンサイト相を含む第2相との複合組織とする必要がある。
【0050】
フェライト相は、組織全体に対する面積率で50%以上を占め、かつ{111}再結晶集合組織が発達していることが好ましい。フェライト相が50%未満では、高い延性を確保することが困難となり、高いTS×Elバランスが得られず、また、{111}再結晶集合組織が発達していないと、r値が低く深絞り成形性が劣り、プレス成形性が低下する。さらに良好な延性が要求される場合には、フェライト相の面積率は80%以上とするのが好ましい。なお、複合組織の利点を利用するため、フェライト相は98%以下とするのが好ましい。
【0051】
また、上記フェライト相を主相とするとともに、本発明では、第2相にマルテンサイト相を、組織全体に対する面積率で2%以上含有する必要がある。マルテンサイト相が2%未満では、低い降伏応力と高い延性を同時に満たすことができない。なお、第2相は、面積率で2%以上のマルテンサイト相単独としても、あるいは面積率で2%以上のマルテンサイト相と、副相としてそれ以外のパーライト相、ベイナイト相、残留オーステナイト相のいずれかとの混合相としてもよく、特に限定されない。
【0052】
上記した組織を有する冷延鋼板は、低降伏応力、高延性および高r値を有し深絞り成形性に優れ、かつ歪時効硬化特性に優れた鋼板である。
【0053】
本発明では、与歪処理後の低温域での熱処理によって、△TSが100MPa以上となるが、この熱処理により降伏応力も上昇し、△YSもまた、100MPa以上となることは言うまでもない。
【0054】
歪時効硬化特性を規定する場合、予歪(予変形)量は重要な因子である。本発明者らは、自動車用鋼板が適用される変形様式を想定して、予歪量がその後の歪時効硬化特性に及ぼす影響について調査した。その結果、極めて深い絞り加工以外はおおむね1軸相当歪(引張歪)量で整理できること、また実部品においては、この1軸相当歪量がおおむね5%を上回っていること、また部品強度が予歪量を5%とした歪時効処理後に得られる強度と良く対応することが明らかになった。これらのことから、本発明では、予歪(変形)量を5%以上の引張塑性歪とした。
【0055】
本発明のように、優れた歪時効硬化特性を得るため極微細Cuの析出強化を利用する場合には、与歪処理後に行う熱処理の温度を150℃以上とすることが必要となる。−方、350℃を超える温度ではその効果が飽和し、逆にやや軟化を示す傾向にあるだけでなく、熱歪やテンパーカラーの発生といった問題が顕著となる。故に、本発明では歪時効硬化のための熱処理温度は150〜350℃とした。なお、保持時間は30秒以上とする。150〜350℃ではおおむね30秒以上保持すれば十分な歪時効硬化が達成される。なお、安定してより大きな歪時効硬化を得る必要がある場合には、保持時間を60秒以上とすることが望ましく、より好ましくは5分以上である。
【0056】
予歪処理後の熱処理における加熱方法は、特に限定されないが、通常の塗装焼付処理におけるように、炉による雰囲気加熱以外に、例えば誘導加熱、無酸化炎、レーザー、プラズマなどによる加熱がいずれも好適である。また、鋼板の温度を高めてプレスする、いわゆる温間プレスも、本発明においては有効である。
【0057】
次に、本発明の冷延鋼板の組成限定理由について説明する。なお、質量%は単に%と記す。
【0058】
C:0.01〜0.05%
Cは、鋼板の強度を増加し、さらにフェライト相とマルテンサイト相の複合組織の形成を促進する元素であり、本発明では複合組織形成の観点から0.01%以上含有する必要がある。一方、0.05%を超える含有は、{111}再結晶集合組織の発達を阻害し、深絞り成形性を低下させる。このため、本発明では、C含有量は0.01〜0.05%に限定した。
【0059】
Si:0.1〜1.0%
Siは、鋼板の延性を顕著に低下させることなく、鋼板を高強度化、すなわち強度伸びバランスを向上させることができる有用な強化元素であり、この効果を得るためにSi含有量は0.1%以上とする必要がある。しかしながら、Si含有量が1.0%を超えると、深絞り成形性の劣化を招くとともに、表面性状が悪化する。このため、Siは1.0%以下に限定した。
【0060】
Mn:0.5〜3.0%
Mnは、鋼を強化する作用があり、さらにフェライト相と、マルテンサイト相を含む第2相との複合組織が得られる臨界冷却速度を低くする、すなわち複合組織形成促進の作用を有する。したがって、焼鈍後の冷却速度に応じ含有するのが好ましい。臨界冷却速度以下での緩慢な冷却速度ではマルテンサイト相は生成されず、代わりにベイナイト相あるいはパーライト相が生成されるが、第2相にマルテンサイト相が存在しない場合、強度伸びバランスが低下する傾向にある。また、Mnは、Sによる熱間割れを防止する有効な元素であり、含有するS量に応じて含有するのが好ましい。このような効果は、Mnを0.5%以上含有させることで顕著となる。一方、Mn含有量が3.0%を超えると、深絞り成形性および溶接性が劣化する。このため、本発明ではMn含有量は0.5〜3.0%の範囲に限定した。
【0061】
P:0.10%以下
Pは鋼を強化する作用があり、所望の強度に応じて適宜含有させることができるが、P含有量が0.10%を超えると、強度伸びバランスが低下するとともに深絞り成形性が劣化する。このため、P含有量は0.10%以下と限定した。なお、より優れたプレス成形性が要求される場合には、P含有量は0.08%以下とするのが好ましい。なお、強度確保の観点からは、P含有量は0.005%以上とすることが好ましい。
【0062】
S:0.02%以下
Sは、鋼板中では介在物として存在し、鋼板の延性、成形性、とくに伸びフランジ成形性の劣化をもたらす元素であるため、できるだけ低減するのが好ましく、0.02%以下に低減するとさほど悪影響を及ぼさなくなることから、本発明ではS含有量は0.02%を上限とした。なお、より優れた伸びフランジ成形性が要求される場合には、S含有量は0.01%以下とするのが好ましく、より好ましくは0.005%以下である。
【0063】
Al:0.005〜0.1%
Alは、鋼の脱酸元素として添加され、鋼の清浄度を向上させるのに有用な元素であるが、0.005%未満では添加の効果がなく、一方、0.1%を超えて含有してもより一層の脱酸効果は得られず、逆に深絞り成形性が劣化する。このため、Al含有量は0.005〜0.1%に限定した。なお、本発明では、Al脱酸以外の脱酸方法による溶製方法を排除するものではなく、例えばTi脱酸やSi脱酸を行ってもよく、これらの脱酸法による鋼板も本発明の範囲に含まれる。その際、CaやREM等を溶鋼に添加しても、本発明鋼板の特徴はなんら阻害されず、CaやREM等を含む鋼板も本発明範囲に含まれるのは、勿論である。
【0064】
N:0.02%以下
Nは、固溶強化や歪時効硬化で鋼板の強度を増加させる元素であるが、0.02%を超えて含有すると、鋼板中に窒化物が増加し、それにより鋼板の延性さらには深絞り成形性が顕著に劣化する。このため、Nは0.02%以下に限定した。なお、よりプレス成形性の向上が要求される場合には、N含有量は低減することが好ましく、この観点から0.005%以下として極力低減するのが好適である。
【0065】
V:0.01〜0.2%、Nb:0.001〜0.2%でかつ0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12の関係を満たすこと
VおよびNbは、本発明において最も重要な元素であり、再結晶前には固溶CをVおよびNb系炭化物として析出固定することにより、{111}再結晶集合組織を発達させて高いr値を得ることができる。さらにα相とγ相の2相域焼鈍時には主としてV系炭化物を溶解させて固溶Cを多量にオーステナイト相に濃化させ、その後の冷却過程においてマルテンサイト変態させることにより、主相であるフェライト相と、マルテンサイト相を含む第2相との複合組織鋼板を得る。このような効果を奏するには、VおよびNbの含有量がそれぞれ0.01%以上および0.001%以上でかつ、0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)の関係を満足することが必要である。一方、VおよびNbの少なくとも一方の含有量が0.2%を超えるか、あるいは、(V/51+Nb/93)>2×C/12であると、α相とγ相の2相域での焼鈍時におけるVおよびNb系炭化物の溶解が起こりにくくなるため、フェライト相と、マルテンサイト相の複合組織が得られない。
したがって、本発明では、V:0.01〜0.2%、Nb:0.001〜0.2%でかつ0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12の関係を満たすことに限定した。
【0066】
Cu:0.5〜3.0%
Cuもまた本発明において最も重要な元素であり、鋼板の歪時効硬化(予歪‐熱処理後の強度増加)を顕著に増加させる。Cuが0.5%未満では、たとえ予歪‐熱処理条件を変化させても、100MPa以上の引張強さ増加量(△TS)は得られない。このため、本発明では、Cuは0.5%以上の含有が必須となる。一方、3.0%を超える含有では、効果が飽和して含有に見合う効果が期待できず、非経済的であるだけでなく、プレス成形性、特に予歪‐熱処理前のr値の劣化、および表面性状の悪化を招く。このため、Cu含有量は0.5〜3.0%に限定した。なお、△TSと予歪‐熱処理前の優れたプレス成形性とをより一層バランスよく両立させるためには、Cu含有量は1.0〜2.5%の範囲にすることが好ましい。
【0067】
Ni:0.01〜2.0%
Niは、Cu添加による鋼板表面欠陥の防止に有効な元素であり、このため、Ni含有量を0.01%以上とすることが必要である。特に、Ni含有量は、Cu含有量の半分程度とすることが好ましい。なお、Ni含有量が2.0%を超えて含有しても、効果が飽和し、添加量に見合う効果が期待できず経済的でないうえ、r値が劣化する。このようなことから、Niは0.01〜2.0%の範囲に限定した。
【0068】
また、本発明では、上記した組成に加えて、質量%で、Ti:0.001〜0.3%を含有することが好ましく、この場合には、上記関係式である0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12に代えて、0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12なる関係を満たすことが必要である。
【0069】
Tiは炭化物形成元素であり、再結晶前には固溶CをV、NbおよびTi系炭化物として析出固定することにより、{111}再結晶集合組織を発達させて高いr値を得る。さらにα相とγ相の2相域焼鈍時にはV、NbおよびTi系炭化物を溶解させて固溶Cを多量にオーステナイト相に濃化させ、その後の冷却過程においてマルテンサイト変態させることにより、フェライト相とマルテンサイト相を含む第2相との複合組織鋼板を得る。このような効果を奏するには、V、NbおよびTiの含有量がそれぞれ0.01%以上、0.001%以上および0.001%以上でかつ、0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)の関係を満足することが必要である。一方、V、およびNbの少なくとも一方の含有量が0.2%を超えるか、Ti含有量が0.3%を超えるか、あるいは、(V/51+Nb/93+Ti/48)>2×C/12であると、α相とγ相の2相域での焼鈍時における炭化物の溶解が起こりにくくなるため、フェライト相と、マルテンサイト相の複合組織が得られない。従って、Tiを含有する場合には、V:0.01〜0.2%、Nb:0.001〜0.2%およびTi:0.001〜0.3%であって0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12なる関係を満たすことに限定した。
【0070】
また、本発明では、上記した組成に加えてさらにMo:0.01〜0.5%を含有することが好ましい。
Moは、Mnと同様に、主相であるフェライト相と、マルテンサイト相を含む第2相との複合組織が得られる臨界冷却速度を低くし、フェライト相とマルテンサイト相の複合組織の形成を促進する作用を有しており、必要に応じて含有できる。その効果は、0.01%以上のMoの含有により発揮される。しかしながら、Mo含有量が0.5%を超えると、深絞り成形性が低下するため、Mo含有量は0.01〜0.5%に限定した。
【0071】
なお、本発明では、上記した成分以外については、特に限定していないが、B、Ca、REM等を通常の鋼組成の範囲内であれば含有させてもなんら問題はない。
【0072】
Bは、鋼の焼入性を向上する作用を有する元素であり、必要に応じ含有できる。しかし、B含有量が0.003%を超えると、効果が飽和するため、Bは0.003%以下が好ましい。なお、より望ましい範囲は0.0001〜0.002%である。
【0073】
上記した成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、例えばSb、Sn、ZnおよびCoが挙げられ、これらの含有量の許容範囲としては、Sb:0.01%以下、Sn:0.1%以下、Zn:0.01%以下、Co:0.1%以下の範囲である。
【0074】
次に、本発明の冷延鋼板の製造方法について説明する。
本発明の冷延鋼板は、上記した範囲内の組成を有する鋼スラブを素材とし、該素材に熱間圧延を施し熱延板とする熱延工程と、該熱延板を酸洗する酸洗工程と、該熱延板に冷間圧延を施し冷延板とする冷延工程と、該冷延板に再結晶焼鈍を施す連続焼鈍工程とを順次施すことにより製造される。
【0075】
使用する鋼スラブは、成分のマクロ偏析を防止するために連続鋳造法で製造するのが好ましいが、造塊法、薄スラブ鋳造法で製造してもよい。また、鋼スラブを製造したのち、いったん室温まで冷却し、その後、再度加熱する従来法に加え、冷却しないで、温片のままで加熱炉に挿入する方法や、わずかの保熱を行った後に直ちに圧延する直送圧延・直接圧延する方法などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
【0076】
上記した素材(鋼スラブ)を加熱し、熱間圧延を施し熱延板とする熱延工程を施す。熱延工程は所望の板厚の熱延板が製造できる条件であればよく、通常の圧延条件を用いても特に問題はない。なお、参考のため、好適な熱延条件を以下に示しておく。
【0077】
スラブ加熱温度:900℃以上
スラブ加熱温度は、析出物を粗大化させることにより、{111}再結晶集合組織を発達させ、深絞り成形性を改善するため、またCu起因の表面欠陥を防止するため低い方が望ましい。しかし、加熱温度が900℃未満では、圧延荷重が増大し、熱間圧延時におけるトラブル発生の危険性が増大する。このため、スラブ加熱温度は900℃以上にすることが好ましい。また、酸化重量の増加に伴うスケールロスの増大などから、スラブ加熱温度の上限は1300℃とすることがより好適である。なお、スラブ加熱温度を低くし、かつ熱間圧延時のトラブルを防止するといった観点から、シートバーを加熱する、いわゆるシートバーヒーターを活用することは、有効な方法であることは言うまでもない。
【0078】
仕上圧延終了温度:700℃以上
仕上圧延終了温度(FT)は、冷間圧延および再結晶焼鈍後に優れた深絞り成形性が得られる均一な熱延母板組織を得るため、700℃以上にすることが好ましい。すなわち、仕上圧延終了温度が700℃未満では、熱延母板組織が不均一となるとともに、熱間圧延時の圧延負荷が高くなり、熱間圧延時におけるトラブル発生の危険性が増大するからである。
【0079】
巻取温度:800℃以下
巻取温度は、800℃以下とするのが好ましい。すなわち、巻取温度が800℃を超えると、スケールが増加しスケールロスにより歩留りが低下する傾向があるからである。なお、巻取温度は200℃未満となると、鋼板形状が顕著に乱れ、実際の使用にあたり不具合を生じる危険性が増大するため、巻取温度の下限を200℃とすることがより好適である。
【0080】
なお、本発明における熱間圧延工程では、熱間圧延時の圧延荷重を低減するため、仕上圧延の一部または全部のパス間で潤滑圧延としてもよい。加えて、潤滑圧延を行うことは、鋼板形状の均一化や材質の均一化の観点からも有効である。なお、潤滑圧延の際の摩擦係数は0.10〜0.25の範囲とすることが好ましい。また、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上圧延する連続圧延プロセスを適用することは、熱間圧延の操業安定性の観点からも望ましい。
【0081】
次いで、熱延板にスケール除去のため酸洗を施す。酸洗工程は、常法に従えばよく、酸洗液としては、例えば塩酸や硫酸系の処理液を用いることが好ましい。さらに冷間圧延を施し冷延板とする。冷間圧延条件は、所望の寸法形状の冷延板とすることができればよく、とくに限定されないが、冷間圧延時の圧下率は40%以上とすることが好ましい。圧下率が40%未満では、{111}再結晶集合組織が発達せず、優れた深絞り成形性を得ることが困難となるからである。
【0082】
引き続き、上記冷延鋼板に再結晶焼鈍を行い冷延焼鈍板とする連続焼鈍工程を施す。焼鈍は、連続焼鈍ラインで行う。再結晶焼鈍の焼鈍温度はAC1変態点以上AC3変態点以下とし、フェライト相とオーステナイト相の2相域で行う必要がある。焼鈍温度がAC1変態点未満では、フェライト単相組織となり、また再結晶も十分でなく歪時効硬化特性が得られず、強度伸びバランスも劣化する。一方、AC3変態点を超える高温では、オーステナイト単相域となり、再結晶集合組織がランダム化し高r値が得られず、さらに△TSも劣化する。
【0083】
また、再結晶焼鈍は、AC1変態点以上AC3変態点以下、すなわちα−γ2相域に60秒以上滞留させることとする。α−γ2相域の滞留時間が60秒未満だと、α−γ2相域の滞留時間が十分でないため、Cuのγ相への濃化が不十分となり高い歪時効硬化特性が得られない。なお、焼鈍中の滞留時間は長すぎると、歪時効硬化特性が飽和すると共に、結晶粒が粗大化し、TS×Elバランス、r値など諸特性が劣化する傾向にあり、また、この傾向は焼鈍温度が高い程著しくなるため、{焼鈍温度(℃)×(α−γ2相域での滞留時間(s))}は、120000以下とすることが好ましい。なお、ここでAC1変態点とAC3変態点は、以下のように測定して求めればよい。
【0084】
すなわち、昇温速度5℃/sで加熱した際の熱膨張率を測定する。
【0085】
また、再結晶焼鈍時の冷却は、マルテンサイト形成の観点から、少なくとも400℃までは5℃/s以上の冷却速度を保って冷却する必要がある。冷却速度が5℃/s未満だと、フェライト相とオーステナイト相の2相域に焼鈍しても、マルテンサイト相が形成されにくくフェライト単相組織となり、強度伸びバランスが低下するだけでなく、高い△TSも得られないからである。したがって、本発明においては、マルテンサイト相を含む第2相の存在が必須であることから、そのためには臨界冷却速度として5℃/s以上とすることが必要である。
【0086】
また、本発明の冷延鋼板には、形状矯正、表面粗さ等の調整のための調質圧延を加えてもよい。また、樹脂あるいは油脂コーティング、各種塗装あるいは電気めっき等の処理を施しても何等不都合はない。
【0087】
【実施例】
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブとした。ついで、これら鋼スラブを1250℃に加熱したのち、仕上圧延終了温度:880℃、巻取温度:650℃とする熱間圧延を施す熱延工程により、板厚4.0mmの熱延鋼帯(熱延板)とした。引き続き、これら熱延鋼帯(熱延板)に酸洗後、冷間圧延を施し、板厚1.2mmの冷延鋼帯(冷延板)とした。次いで、これら冷延鋼帯(冷廷板)に、連続焼鈍ラインで、表2に示す条件で再結晶焼鈍を行った。得られた冷延焼鈍鋼帯(冷延焼鈍板)に、さらに伸び率:0.5%の調質圧延を施した。
【0088】
【表1】
【0089】
得られた鋼帯から試験片を採取し、圧延方向と平行な断面(L断面)について、光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡を用いて微視組織を撮像し、画像解析装置を用いて主相であるフェライト相およびマルテンサイト相の面積率ならびに第2相の種類を求めた。また、得られた鋼帯から、JIS5号引張試験片を圧延方向に対して垂直な方向で採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を行い、降伏応力(YS)、引張強さ(TS)、降伏比(YR)、伸び(El)、強度伸びバランス(TS×El)およびランクフォード値(r値)を求めた。さらに、得られた鋼帯から、JIS5号引張試験片を圧延方向に採取し、予変形(引張予歪)として5%の塑性変形を与え、次いで250℃×20分の熱処理を施した後、引張試験を実施し、熱処理後の引張特性として、降伏応力YSHおよび引張強さTSHを求め、
△YS=YSH−YS
△TS=TSH−TS
を算出した。これらの結果を表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
表2に示す結果から、本発明例は、いずれも、目標とする、低い降伏比(YR≦70%)、高い伸び(El≧28%)、高いランクフォード値(r≧1.1)を有し、プレス成形性、特に深絞り成形性に優れた鋼板となっているとともに、100MPa以上の△TSを示し、歪時効硬化特性にも優れた鋼板となっている。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例では、降伏比(YR)が高いか、伸び(El)、ランクフォード値(r値)が低下した鋼板、あるいは△TSが小さく、プレス成形性および歪時効硬化特性が低下した鋼板となっている。
【0092】
【発明の効果】
本発明によれば、強度伸びバランスおよび、深絞り成形性が優れ、さらにプレス成形後の熱処理により引張強さが顕著に増加する冷延鋼板を、安定して製造することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。
【0093】
本発明の冷延鋼板を自動車部品に適用した場合、プレス成形が容易で、かつ完成後の部品の強度特性を安定して高くでき、自動車車体の軽量化および衝突安全性に十分に寄与できるという効果もある。
【0094】
本発明は、自動車部品に限らず、建設部材、機械構造部品など、構造上の強度、特に変形時の強度および/または剛性が必要とされる箇所に適用され、プレスなどによる加工成形後、あるいは加工成形時に150〜350℃の温度域で強度上昇のための熱処理がなされる成形体の素材鋼板として用いるのに適した、深絞り成形性および歪時効硬化特性に優れた鋼板である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 VおよびNbの含有量とC含有量との関係を表す比(V/51+Nb/93)/(C/12)がr値と強度伸びバランス(TS×El)に及ぼす影響を示した図である。
【図2】 0.3質量%と1.5質量%のCu量をそれぞれ含有する2種類の冷延鋼板について、△TSと歪時効処理前の再結晶焼鈍温度の関係を示した図である。
【図3】 0.3質量%と1.5質量%のCu量をそれぞれ含有する2種類の冷延鋼板について、△TSと予変形処理処理後の熱処理温度の関係を示した図である。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、Cu:0.5〜3.0%、Ni:0.01〜2.0%、V:0.01〜0.2%およびNb:0.001〜0.2%を含有し、かつ、VおよびNbの含有量(質量%)とCの含有量(質量%)とが、
0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12
なる関係を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、組織が、主相であるフェライト相と、面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む第2相との複合組織を有し、下記で定義される△TSが100MPa以上でかつr値が1.1以上であることを特徴とする、深絞り成形性と歪時効硬化特性に優れた冷延鋼板。
記
「△TS」とは、塑性歪量5%以上の予変形処理後、150〜350℃の範囲の温度で30秒以上保持する熱処理を施したときの、引張強さの増加量{=(熱処理後の引張強さTS H )−(熱処理を施さない場合の引張強さTS)}を意味する。 - 質量%で、C:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、Cu:0.5〜3.0%、Ni:0.01〜2.0%、V:0.01〜0.2%、Nb:0.001〜0.2%およびTi:0.001〜0.3%を含有し、かつ、V、NbおよびTiの含有量(質量%)とCの含有量(質量%)とが、
0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12
なる関係を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、組織が、主相であるフェライト相と、面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む第2相との複合組織を有し、下記で定義される△TSが100MPa以上でかつr値が1.1以上であることを特徴とする、深絞り成形性と歪時効硬化特性に優れた冷延鋼板。
記
「△TS」とは、塑性歪量5%以上の予変形処理後、150〜350℃の範囲の温度で30秒以上保持する熱処理を施したときの、引張強さの増加量{=(熱処理後の引張強さTS H )−(熱処理を施さない場合の引張強さTS)}を意味する。 - 上記組成に加えて、さらにMo:0.01〜0.5質量%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の冷延鋼板。
- 質量%で、C:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、Cu:0.5〜3.0%、Ni:0.01〜2.0%、V:0.01〜0.2%およびNb:0.001〜0.2%を含有し、かつ、VおよびNbの含有量(質量%)とCの含有量(質量%)とが、
0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12
なる関係を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを素材とし、該素材に熱間圧延を施して熱延板とし、引き続き酸洗した後、冷間圧延を施し、その後、AC1変態点以上AC3変態点以下の温度域で60秒以上滞留させる焼鈍を行った後、少なくとも400℃までの冷却速度を5℃/s以上として冷却することを特徴とする、深絞り成形性と歪時効硬化特性に優れた冷延鋼板の製造方法。 - 質量%で、C:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、Cu:0.5〜3.0%、Ni:0.01〜2.0%、V:0.01〜0.2%、Nb:0.001〜0.2%およびTi:0.001〜0.3%を含有し、かつ、V、NbおよびTiの含有量(質量%)とCの含有量(質量%)とが、
0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12
なる関係を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを素材とし、該素材に熱間圧延を施して熱延板とし、引き続き酸洗した後、冷間圧延を施し、その後、AC1変態点以上AC3変態点以下の温度域で60秒以上滞留させる焼鈍を行った後、少なくとも400℃までの冷却速度を5℃/s以上として冷却することを特徴とする、深絞り成形性と歪時効硬化特性に優れた冷延鋼板の製造方法。 - 上記鋼スラブは、さらにMo:0.01〜0.5質量%を含有する組成を有することを特徴とする請求項4または5に記載の冷延鋼板の製造方法。
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