JP4324305B2 - 冷媒用の密閉型圧縮機または密閉容器の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば冷凍機や空気調和機などに用いられるような、複数の部品を溶接して形成される鉄製のケースを備えた冷媒用の密閉型圧縮機または密閉容器に係り、とりわけ、そのケースの表面塗装の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
図7には、本発明が適用される一般的な冷媒用の密閉型圧縮機の鉄製ケースが例示されている。これらのケース内には、図示しない圧縮機構部や電動機部が気密に収納されるようになっている。
【0003】
図7(a)に示す圧縮機のケースは、例えば圧延鋼板等を円筒状に丸めたケース本体30に、蓋状の上部ケース31および下部ケース32をシールド溶接して形成される。また、図7(b)に示す圧縮機のケースは、例えば圧延鋼板等を有底円筒状に深絞りしたケース本体40に、蓋状の上部ケース41をシールド溶接して形成される。
【0004】
このような圧縮機のケースには、防食、防錆、耐候性などの観点から、表面全体に黒色塗料による塗装が施されるのが一般的である。具体的には、図8に示すように、各部品の組立2、溶接3、塗装前処理11、洗浄4、塗装5、乾燥6の各工程を経ることで、塗装済みのケースを備えた製品が製造される。
【0005】
上記の前処理行程11は、塗膜の密着性を向上させるために行われるものであり、脱脂洗浄12、表面調整13、化成処理14の各工程からなっている。その中でも化成処理工程14は、図9に示すように、ケース材50の表面に燐酸鉄や燐酸亜鉛などの燐酸塩の化成処理膜51を形成して表面粗さを増大させ、塗膜52の密着性を向上させるために行われる。
【0006】
なお、図7に示したような圧縮機の他、冷媒用の密閉容器(リキッドタンク)も、同様に複数の部品を溶接して形成される鉄製のケースを備え、同様の工程によって塗装済みのケースを備えた製品が製造される。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述したような従来の冷媒用の密閉型圧縮機または密閉容器には、以下のような問題点がある。すなわち、上述した塗装前処理11は、塗膜の密着性を向上させ、製品の防食・防錆性を高める上では効果的であるが、そのための設備や動力にはコストが掛かり、また省エネルギーの点でも問題がある。また、化成処理14で用いられる環境に有害な化成処理液についての廃液処理の問題も生ずる。
【0008】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、複数の部品を溶接して形成される鉄製のケースを備えた冷媒用の密閉型圧縮機または密閉容器において、従来の化成処理を含む塗装前処理を行うことなく防食性・防錆性を高めたものを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、複数の部品を溶接して形成される鉄製のケースを備えた冷媒用の密閉型圧縮機または密閉容器を製造する方法であって、
前記ケースの所定の形状に成形した複数の部品を酸洗によりその表面を凹凸状に荒らしてから組み立てて溶接することにより前記ケースを形成するとともに、
形成した前記ケースを再洗浄し、
再洗浄した前記ケースの表面にアルキッド樹脂、エポキシ樹脂またはアクリル樹脂を主成分とする水溶性塗料を用いて塗装を施し乾燥させるときに、当該塗装の塗膜厚さが10〜100μmで塗膜硬さがJIS鉛筆硬度HB〜4Hとなるようにすることを特徴とする冷媒用の密閉型圧縮機または密閉容器の製造方法である。
【0010】
この圧縮機または密閉容器によれば、ケースの各部品は、酸洗することで、表面が脱脂・除錆洗浄されると共に腐食で凹凸状に荒らされる。従って、予めケースの各部品を酸洗しておくことで、ケース表面に塗膜密着性が良く信頼性の高い塗装面を形成することができる。
【0012】
また、前記ケースにおける塗装の塗膜厚さが10〜100μmで塗膜硬さがJIS鉛筆硬度HB〜4Hとなるようにしたことで、塗膜の防錆力と傷付きにくさを両立させると共に防食性の経時変化を抑えて、より信頼性の高い塗装面をケース表面に形成することができる。
【0016】
前記水溶性塗料が自然乾燥型塗料である場合には、乾燥時間は長くなるが、乾燥に要する設備を簡略化することができる。
【0018】
前記水溶性塗料が焼付乾燥型塗料である場合には、乾燥に要する設備は必要となるが、乾燥時間を短縮することができる。
【0020】
前記ケースは、前記塗装を施し乾燥させた後、さらに、その溶接隙間部に自然乾燥型塗料による塗装が施されていると、塗装の乗りにくいケースの溶接隙間部における防食性を確実なものとすることができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1乃至図6は本発明による冷媒用の密閉型圧縮機または密閉容器の実施の形態を説明するための図である。なお、図1及び図2に示す本発明の実施の形態において、図8及び図9に示す従来例と同一の構成部分には同一符号を付すと共に、図7に示す一般的な冷媒用圧縮機と同一の構成部分にはついては図7を参照して説明する。
【0022】
[第1の実施形態]
まず、図1乃至図7により本発明の第1の実施形態について説明する。
【0023】
〈構 成〉
図7には、本発明が適用される一般的な冷媒用の密閉型圧縮機の鉄製ケースが例示されている。これらのケース内には、図示しない圧縮機構部や電動機部が気密に収納されるようになっている。
【0024】
図7(a)に示す圧縮機のケースは、例えば圧延鋼板等を円筒状に丸めたケース本体30に、蓋状の上部ケース31および下部ケース32をシールド溶接して形成される。また、図7(b)に示す圧縮機のケースは、例えば圧延鋼板等を有底円筒状に深絞りしたケース本体40に、蓋状の上部ケース41をシールド溶接して形成される。
【0025】
なお、本発明は、図7に示したような冷媒用の圧縮機の他、同様に複数の部品を溶接して形成される鉄製のケースを備えた冷媒用の密閉容器(リキッドタンク)にも適用することができる。
【0026】
本実施形態においては、冷媒用の密閉型圧縮機または密閉容器が、図1に示すような工程で製造される。図1において、まず(所定形状に成形された)ケースの各部品に酸洗(酸による洗浄)1が施される。次に、酸洗されたケース部品の組立2が行われる。なお、この段階では、圧縮機の内部機構等もケース内に組み込まれる。
【0027】
次に、組み立てられたケースの接合部分をシールド溶接するケース溶接3が行われる。そして、溶接されたケースを再洗浄4した後、表面に塗装5を施して乾燥6することで、塗装済みのケースを備えた製品が完成する。
【0028】
すなわち、本実施形態による密閉型圧縮機または密閉容器においては、図2に示すように、(酸洗された)ケース材50の表面に直接、塗膜52が形成されている。
【0029】
〈作用効果〉
次に、このような構成よりなる本実施形態の作用効果について説明する。
【0030】
本実施形態によれば、ケースの各部品は、酸洗1をすることで、表面が脱脂・除錆洗浄されると共に腐食で凹凸状に荒らされる(図5に示す酸洗の(a)有、(b)無によるケース表面の状態の違いから、そのような腐食による凹凸形成の効果が分かる)。
【0031】
従って、予めケースの各部品を酸洗しておくことで、ケース表面に塗膜密着性が良く信頼性の高い塗装面を形成することができる。このため、従来のように化成処理を含む塗装前処理を行うことなく、防食性・防錆性の高い冷媒用の密閉型圧縮機または密閉容器を提供することができる。
【0032】
〈試験結果〉
ここで、塗装済みのケース材について、各種条件による耐食性の違いを比較する試験を行った結果が図3に示されている。この耐食性試験は、図4に示すような塩水噴霧7、乾燥8、恒温恒湿保持9、外気暴露10の各工程からなるサイクル試験による発錆時間を計測したものである。
【0033】
その結果、本実施形態のように酸洗を行ったもの(図3の(a)および(c)〜(l))は、酸洗を行わなかったもの(図3の(b))に比べて発錆時間が大幅に遅くなっている。また、殆どの場合(図3の(a)および(c)〜(j))、従来の化成処理を行ったもの(図3の(m))と同様、実際の屋外使用にも耐え得るもの(発錆時間3000h以上)であった。
【0034】
なお、本実施形態による塗装済みのケース材については、JIS碁盤目試験による塗膜密着性の評価も良好であった。また、本実施形態では、塗膜に傷が生じた場合は下地が無い分だけ従来より限界特性は低下するが、塗膜に傷が無く緻密に形成されている限り、耐酸性、耐アルカリ性、耐熱性、耐シートショック性、耐水性、耐塩水噴霧性、耐候性のいずれについても良好な試験結果が得られている。
【0035】
さらに、本実施形態による冷媒用圧縮機については、図6に示すような冷凍サイクル装置に実際に組み込んで所定の運転試験も行っている。図6に示す冷凍サイクル装置においては、圧縮機20、凝縮器21、膨張弁23および蒸発器24が冷媒配管26によって順次接続されている。また、凝縮器21および蒸発器24に対応して、それぞれ通風用のファン22,25が設けられている。そして、この運転試験により、何ら問題が生じないことが確認されている。
【0036】
[第2の実施形態]
次に、図3により本発明の第2の実施形態について説明する。
【0037】
〈構 成〉
本実施形態は、図3に示した上記の試験結果に基づいて、ケースの塗装を、塗膜厚さが10〜100μmで塗膜硬さがJIS鉛筆硬度HB〜4Hとなるようにしたものであり、その他の構成は上記第1の実施形態と同様である。
【0038】
すなわち、図3において、酸洗を行ったもののうち、塗膜厚さが10〜100μmで塗膜硬さがJIS鉛筆硬度HB〜4Hの範囲内にあるもの((a)および(c)〜(j))で、実際の屋外使用にも耐え得る良好な結果(発錆時間3000h以上)が得られていることに基づくものである。
【0039】
〈作用効果〉
次に、このような構成よりなる本実施形態の作用効果について説明する。
【0040】
まず、塗膜厚さが10μm未満であると塗膜の防錆力自体が低下する。一方、塗膜厚さが100μmを超えると塗膜の硬さが低下して傷付き易くなり、初期の接触による傷で外観品質が低下するだけでなく、傷の部分からの発錆という問題が生ずる。また、塗膜硬さがJIS鉛筆硬度5H以上になると、耐食性の経時変化が生ずるという問題がある。
【0041】
従って、本実施形態のように、塗膜厚さが10〜100μmで塗膜硬さがJIS鉛筆硬度HB〜4Hとなるようにすることで、塗膜の防錆力と傷付きにくさを両立させると共に防食性の経時変化を抑えて、より信頼性の高い塗装面をケース表面に形成することができる。
【0042】
なお、以上のような観点からは、塗膜厚さが20〜60μmで塗膜硬さがJIS鉛筆硬度H〜2Hとなるようにすることが、より好ましい。
【0043】
また、本実施形態による冷媒用圧縮機についても、図6に示すような冷凍サイクル装置に実際に組み込んで運転試験も行い、良好な結果が得られている。
【0044】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0045】
〈構 成〉
本実施形態は、ケースの塗装を、消防法非該当の水溶性塗料および溶剤を用いてDIP式塗装または電着塗装により行うようにしたものである。また、当該水溶性塗料として、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂またはアクリル樹脂を主成分とする自然乾燥型塗料を用いたものである。そして、その他の構成は上記第1の実施形態と同様である。
【0046】
なお、DIP式塗装は、対象物を塗料槽に浸漬させてから引き上げる塗装方法であり、電着塗装は、電気メッキのように対象物の塗装面を陽極または陰極にして塗料を付着させる塗装方法である。
【0047】
〈作用効果〉
次に、このような構成よりなる本実施形態の作用効果について説明する。本実施形態によれば、乾燥時間は長くなるが、乾燥に要する設備を簡略化することができる。また、冷媒用圧縮機による耐食性試験についても全ての場合で良好な結果が得られた。
【0048】
なお、本実施形態においては、塗料の各樹脂成分として変性タイプのものを用いることで、耐食性を改善することができる。また、消泡剤、液切れ剤、レベリング剤などの各種添加剤を塗料に添加することで塗装の作業性を高めることができる。
【0049】
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
【0050】
〈構 成〉
本実施形態は、上記の水溶性塗料として自然乾燥型塗料に代えて焼付乾燥型塗料を用いてDIP式塗装、電着塗装または粉体塗装を行う点で上記第3の実施形態と異なり、その他の構成は上記第3の実施形態と同様である。
【0051】
ここで、焼付乾燥は、例えば130〜200℃の雰囲気中での強制乾燥として行われる。なお、粉体塗装は、溶剤を使用しない粉末状の塗料を用いて静電吹き付け法や流動浸漬法などによって塗膜を形成する塗装方法である。
【0052】
〈作用効果〉
本実施形態によれば、乾燥に要する設備は必要となるが、乾燥時間を短縮することができる。また、冷媒用圧縮機による耐食性試験についても全ての場合で良好な結果が得られた。
【0053】
なお、本実施形態の場合も、上記第3の実施形態の場合と同様、塗料の各樹脂成分として変性タイプのものを用いることで耐食性を改善することができ、消泡剤、液切れ剤、レベリング剤などの各種添加剤を塗料に添加することで塗装の作業性を高めることができる。また、本実施形態の場合は、硬さを調整するためのメラミン樹脂などの硬化剤を塗料に添加することでも、塗装の作業性を高めることができる。
【0054】
[第5の実施形態]
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。
【0055】
〈構 成〉
本実施形態は、ケースは、塗装を施し乾燥させた後、さらに、その溶接隙間部に自然乾燥型塗料による塗装が施されている点で上記第3または第4の実施形態と異なり、その他の構成は上記第3または第4の実施形態と同様である。
【0056】
そのような溶接隙間部としては、例えば図7に示す脚部33,43などの板金部の溶接箇所が挙げられる。また、自然乾燥型塗料としては、例えば上記第3の実施形態で挙げられているような塗料を用いることができ、特に粘度の高いものを用いることが好ましい。
【0057】
〈作用効果〉
本実施形態によれば、塗装の乗りにくいケースの溶接隙間部における防食性を確実なものとすることができる。実際に、上述したような耐食性試験により、その防食性の高さを確認したところ、良好な結果が得られた。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、予めケースの各部品を酸洗により表面を凹凸状に荒らしておくことで、ケース表面に塗膜密着性が良く信頼性の高い塗装面を形成することができる。このため、従来のように化成処理を含む塗装前処理を行うことなく、防食性・防錆性の高い冷媒用の密閉型圧縮機または密閉容器を提供することができる。また、ケースにおける塗装の塗膜厚さが10〜100μmで塗膜硬さがJIS鉛筆硬度HB〜4Hとなるようにしたことで、塗膜の防錆力と傷付きにくさを両立させると共に防食性の経時変化を抑えて、より信頼性の高い塗装面をケース表面に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態としての冷媒用の密閉型圧縮機または密閉容器の製造工程を示すフローチャート。
【図2】図1に示す製造工程による密閉型圧縮機または密閉容器のケース表面部分の状態を示す模式的縦断面図。
【図3】冷媒用の密閉型圧縮機または密閉容器におけるケースの塗装条件等と発錆時間との関係を示す図表。
【図4】図3に示す発錆時間を調べるための試験条件を示すフローチャート。
【図5】酸洗の(a)有、(b)無によるケース表面の状態の違いを拡大して示す図。
【図6】冷媒用圧縮機としての運転試験を行うための冷凍サイクルを示す図。
【図7】本発明が適用される一般的な冷媒用圧縮機のケースを示す分解斜視図。
【図8】従来の冷媒用の密閉型圧縮機または密閉容器の製造工程を示すフローチャート。
【図9】図8に示す製造工程による密閉型圧縮機または密閉容器のケース表面部分の状態を示す模式的縦断面図。
【符号の説明】
1 酸洗行程
2 組立工程
3 溶接行程
4 洗浄行程
5 塗装行程
6 乾燥行程
11 前処理行程
12 脱脂洗浄行程
13 表面調整行程
14 化成処理行程
50 ケース材
51 化成処理膜
52 塗膜
Claims (4)
- 複数の部品を溶接して形成される鉄製のケースを備えた冷媒用の密閉型圧縮機または密閉容器を製造する方法であって、
前記ケースの所定の形状に成形した複数の部品を酸洗によりその表面を凹凸状に荒らしてから組み立てて溶接することにより前記ケースを形成するとともに、
形成した前記ケースを再洗浄し、
再洗浄した前記ケースの表面にアルキッド樹脂、エポキシ樹脂またはアクリル樹脂を主成分とする水溶性塗料を用いて塗装を施し乾燥させるときに、当該塗装の塗膜厚さが10〜100μmで塗膜硬さがJIS鉛筆硬度HB〜4Hとなるようにすることを特徴とする冷媒用の密閉型圧縮機または密閉容器の製造方法。 - 前記水溶性塗料は、自然乾燥型塗料であることを特徴とする請求項1記載の冷媒用の密閉型圧縮機または密閉容器の製造方法。
- 前記水溶性塗料は、焼付乾燥型塗料であることを特徴とする請求項1記載の冷媒用の密閉型圧縮機または密閉容器の製造方法。
- 前記ケースに塗装を施し乾燥させた後、さらに、その溶接隙間部に自然乾燥型塗料による塗装を施すことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の冷媒用の密閉型圧縮機または密閉容器の製造方法。
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2000
- 2000-03-14 JP JP2000070352A patent/JP4324305B2/ja not_active Expired - Lifetime
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