以下、本発明を詳細に説明する。
始めに本発明の電子写真感光体中間層用塗工液について説明する。
本発明の電子写真感光体中間層用塗工液に用いられるN−アルコキシメチル化ナイロンは、ポリアミド6を構成成分として含むポリアミドを、例えば、T.L.Cairns(J.Am.Chem.Soc.71.P651(1949))が提案する方法で変性することにより得ることができる。N−アルコキシメチル化ナイロンは元のポリアミドのアミド結合の水素がメトキシメチル基によって置換されたものである。この置換率は、変性条件により広範囲で選択可能であるが、15mol%以上であることが中間層の吸湿性を抑え、環境安定性の面で好ましい。
塗工溶媒としては、N−アルコキシメチル化ナイロンはアルコール可溶性を示すため、アルコール系溶媒、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等もしくはそれらの混合溶媒が用いられる。このうち、本発明で使用するN−アルコキシメチル化ナイロンは、メタノールに対する溶解性が最も高いため、アルコール系溶媒としてはメタノールが最も適当である。
しかしながら、メタノール単独を塗工溶媒として使用した場合には、溶媒の蒸発速度が大きく、かつ潜熱が大きいために、塗膜指触乾燥時にブラッシングという塗膜欠陥を発生させる。これを回避するためには指触乾燥速度を低減させる必要がある。このため、N−アルコキシメチル化ナイロンを含む塗工液の溶媒としては、メタノールよりも蒸発速度の遅いアルコール系溶媒との併用(2種以上のアルコール系溶媒の併用)が有用となる。この際、少なくとも片方のアルコール系溶媒としてメタノールを選定することが重要となる。
メタノール以外のアルコール系溶媒としては、炭素数があまり大きくない溶媒ではブラッシング防止の効果が得られないため、炭素数が3以上のアルコール系溶媒が良好に使用される。例えば、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール等が挙げられる。炭素数があまり大きい場合には、指触乾燥時間が長くなるばかりでなく、N−アルコキシメチル化ナイロンの溶解性が低下する。また、水との親和性も低下し、その結果塗工液の安定性も低下するので、炭素数が6以下程度が適当である。
一方、上述のようにアルコール系溶媒だけで塗工液を形成すると長期間の保存や低温下の保存により白濁や増粘を引き起こす。これにより、この塗工液を使用して形成した塗膜には欠陥が発生する。このため、上記塗工液の使用に際しては、白濁や増粘の程度により、塗工液を交換して感光体を製造する必要があった。
尚、上記の白濁とは、目視でも確認できるレベルで塗工液がうっすらと白く濁ってくる現象であり、塗工液を分光光度計などにより分光透過率を評価するとより鮮明に理解できる。ほとんどの場合、波長依存性を有しており、白濁化の度合い(透過率低下として観測される)は測定波長が短波長なほど、変化率が大きく観測される。白濁が起こった場合、これを用いて塗膜を形成すると、ひどい場合には塗膜そのものが濁ってしまう場合がある。
増粘とは、初期状態よりも明らかに粘度が上昇したことを表わすものであり、市販の粘度計などで測定するとその変化がより一層鮮明に理解できる。また、塗工液全体が粘度上昇する場合と、塗工液全体の一部がゲル化したような状態として観察される場合がある。このような状態の塗工液を使用して塗膜を形成すると、前者のような場合には塗工性(例えば、浸漬塗工法における塗工速度)を一定に保つことができなくなり、製造上非常に不安定になる。また後者の場合には、塗膜に大きなムラを生じることになり、本発明の応用例である電子写真感光体の中間層に使用するような場合には、静電特性の均一性が保てなくなるため非常に大きな問題である。
本発明者らは上記の課題に鑑み、上記塗工液の変化に対して解析を行なった。
N−アルコキシメチル化ナイロンをアルコール系溶媒に溶解した塗工液の粘度特性をE型粘度計で評価(22℃)すると、ズリ速度(回転数)に対して依存性を有する擬塑性(構造粘性)を有することが分かった(図3)。一方、図3の粘度特性を示す塗工液を有効孔径が3μm以下のフィルタにより濾過を行なった塗工液の粘度特性は、ズリ速度に依存しないニュートン性に変化することが分かった(図4)。
また、保存後の塗工液(未濾過)の粘度特性を図5に示すが、作製直後の塗工液(図3)と保存後の塗工液の粘度特性を比較すると、いずれも構造粘性を示すものの、時間依存性の観点から保存後の塗工液の方がチクソトロピー性が高くなっていることが分かった。
一方、塗工液作製直後に濾過を実施した塗工液の保存後の特性を図6に示す。図から明らかなように、保存後においてもニュートン性を維持し、かつ粘度上昇がほとんど見られない。
尚、図中に示す、「行き」及び「戻り」とは、粘度測定におけるズリ速度(回転数)の変化させ方の違いを示すものである。即ち、「行き」が低速回転から高速回転に向かう場合であり、「戻り」とは高速回転から低速回転に戻る場合である。
本発明のフィルタ濾過処理は、ある種の不完全溶解物、例えば膨潤状態にある材料の分散を補助する効果もあるものと考えられる。ただし、目視レベルで不完全溶解物が残存した状況下で濾過することを前提とするものではないので、この効果が本発明の主な狙いという訳ではなく、副次的な効果というべきものである。通常の塗工液作製においては、製造レベルであると目視観察により不完全溶解物の残存がないまで溶解工程を実施して行なうわけにはいかないから、溶解工程を経た後に、濾過工程を実施して、不溶解物を除去することを行なうことも多いが、この場合、通常の不完全溶解物の除去だけを考えると、その濾過すべきものの大きさは、小さくても数十μmにはなる。(実際、目視で粒子が観察できる)。使用するフィルタの有効孔径は10μm程度よりも大きなものを使用する。これは、フィルタでの圧損、ポンプへの負荷などを考慮した結果であり、必要以上に有効孔径を小さくする必要がないからである。
一方、本発明においては、塗工液(樹脂溶解液)が白濁している様子は目視で観測できるが、粒子サイズの詳細まで観測することは難しい。
そして、本発明においては、塗工液の白濁、増粘が課題であって、「固形物が残存しない」が主目的ではない。塗工液作製直後(樹脂溶解直後)では、塗工液は透明で、かつ粘度が低い状態である。但し、上記のように、擬塑性(構造粘性)は有しており、この状態で塗工液を保存すると、白濁化やチクソトロピー性が増加するが、本発明では、この初期状態の塗工液を特定のフィルタで濾過処理を行なうことにより、白濁化や増粘を防止するものであるとも云うことができる。
本発明において、有効孔径3μm以下のフィルタを使用し、濾過処理操作を行なうことが最大の特徴の1つであるが、3μm以上の固形物を濾別するというよりむしろ、どちらかといえば、一見溶解しているナイロンが、溶液中である種の構造体(又は擬固形物状態)を形成し、これが塗工液の保存により白濁化・増粘を引き起こしているものと思われるが、これを、フィルタ濾過操作により防止することができ、濾過を行なうことにより、この構造体が崩れたり、あるいは除去されたりしているものとも推察している。実際に、フィルタの重量を濾過前後で計測しても、差異が認識できないほど変化量は小さい。
上記の結果から以下のことが分かる。
即ち、N−アルコキシメチル化ナイロンを含む塗工液は、塗工液作製直後の状態において、緩やかな構造粘性の性質を有しており、これを保存することにより構造粘性の性質が維持されたままチクソトロピー性が増大する(同時に塗工液の白濁化も進行する)。一方、作製直後の塗工液を特定サイズ以下のフィルタにより濾過することにより、この構造粘性がニュートン性の性質に変化する。
上記濾過前後における塗工液の固形分濃度の変化(低下)は非常にごく僅かであった。このことは、特定サイズ以下のフィルタによる濾過を行なうことによって起こる変化(チクソトロピー性からニュートン性)は、塗工液中に含まれる大量の物質を濾過により取り除いたことが原因ではないと思われる。即ち、ごく微量の物質を取り除いたか、これが形成していた塗工液中での構造を変化させたかの何れかであると考えられる。
また、塗工液作製直後に濾過を実施した塗工液は、保存を行なっても図6に示されるように増粘せず、白濁化も進行しない。このことは、濾過により除去された微量な物質が白濁化及び増粘を引き起こしているものであり、これを除去することにより、塗工液の安定化が図られたものと考えられる。
本発明者らはこの変化を現時点で以下のように考えている。
塗工液の保存において液が白濁化する現象は、塗工液に含まれるN−アルコキシメチル化ナイロンの一部が結晶化し、これが非常に小さい単位(1μm程度大きさは有している)で析出し、光散乱を生じることにより白濁化が観察される。
一方、増粘に関しては、N−アルコキシメチル化ナイロンを含む塗工液が、塗工液の作製直後から構造粘性を有していることから、見た目には透明であっても、微視的に見れば塗工液全体が均一でないことを示している。これは上記と同じように、N−アルコキシメチル化ナイロンの一部が結晶化したような状態の部分が、ゲル化したような状態を形成し、これが構造粘性を示しているものと考えることができる。塗工液の保存によりこの状態がより顕著になり、チクソトロピー性が現れてくるものと考えられる。
塗工液作製直後に、特定サイズ以下のフィルタにより濾過を実施した場合、このようなごく微量の成分を取り除いた(あるいは構造を変化させた)ことにより、保存による塗工液のゲル化(増粘、白濁)の原因を取り除くことができたものと考える。
この除去量は非常に微量であり、前記特定サイズ以下のフィルタにより濾過を行なうことにより除去されるが、その量が微量であるために固形分濃度の変化は少ない。このため、材料のロスは極めて少なく、同時に粘度特性を変化させることができるため、極めて有効な方法である。
粘度特性に関しては、濾過の実施によりニュートン性の液に近づくため、本発明の応用例である感光体中間層の塗工において、一般的に使用される浸漬塗工法においては、塗工ムラの発生を低減できるため、このニュートン性の性質が非常に有利である。
更に本発明のN−アルコキシメチル化ナイロンを含有する塗工液においては、アルコール系溶媒に水を混合して用いることも有用な方法である。その場合には、溶媒中の水の含有率は5〜20重量%であることがより好ましい。この含有率とは、塗工液に用いられる全溶媒中の水の重量%で表わされる。含有率が5重量%未満の塗工液を用いた場合、白濁及び増粘を抑える効果が充分でなく、長期間の保存や低温環境下の保存においてはその効果を発揮できない場合がある。一方、20重量%を超える場合では、保存性に関しては良好な方向になるものの、この塗工液を用いて製膜した際に、塗膜の指触乾燥時に水とアルコール系溶媒が層分離した状態となり、ムラが大きくなることがある。
尚、本発明で使用される水としては、水道水の使用も可能であるが、不純物が排除された蒸留水、イオン交換水等が適当であり、更には適当なサイズのフィルタによって濾過工程を経たものが更に好ましい。
この他、この塗工液を用いて作製する中間層の設計に応じて、フィラーや添加剤(例えば、電子受容性物質、硬化剤、分散剤など)を加えてもよい。また、必要に応じてアルコール系溶媒以外の有機溶媒を加えてもよい。但し、ハロゲン系の溶媒の使用は環境保全の観点から避けるべきである。
次に塗工液の濾過方法について示す。
上述のような電子写真感光体中間層用塗工液を作製し、有効孔径が3μm以下のフィルタにて濾過を行なうことにより、実施することができる。
この方法では、先の実験結果から分かるように、目視では観察できない微量なゲル化(白濁化)成分を取り除くことができ、粘度特性を改良するという点からも非常に有効な手段である。具体的には、上述のように作製した塗工液を有効孔径が3μm以下のフィルタ、より好ましくは1μm以下のフィルタにて濾過する操作を行ない、塗工液を濾過するものである。
この際、濾過される塗工液の粘度があまりにも高い場合や、チクソトロピー性が高すぎる場合には、濾過によるロスが大きくなったり、濾過の目詰まりを生じて濾過が不可能になったりする場合がある。このため、濾過前の塗工液においては、粘度の上限を予め設定しておくことが望ましい。これらは、塗工液を使用する条件によって変化するものである。例えば、浸漬塗工法により塗膜を成膜する場合、塗工液の粘度(固形分濃度)があまりにも低い場合には、所望の膜厚を得られないばかりでなく、塗膜上端のタレが大きくなったりする。このため、膜厚に応じた適正な粘度が必要であり、塗工性の観点から粘度特性が決定される。しかしながら、本発明の応用例である電子写真感光体の中間層(特に電荷ブロッキング層)に用いる場合には、必要とされる膜厚が高々数μm以下であるため、N−アルコキシメチル化ナイロンの固形分濃度として10重量%以下(ほとんどの場合は、5重量%程度)である。このため、作製される塗工液の粘度も20mPa・s以下程度(ほとんどの場合は10mPa・s以下)である。このため、実際には上述のような濾過に際する問題点はほとんど生じることはない。
分散液を濾過するフィルタに関しては、有効孔径が3μm以下のフィルタを使用すべきである。より好ましくは1μm以下の有効孔径を有するフィルタを使用することである。この有効孔径に関しては、細かいほど効果があるものであるが、あまり細かすぎると、必要な樹脂成分そのものも濾過(除去)されてしまうため、適切なサイズが存在する。また、細かすぎた場合には、濾過に時間がかかる、フィルタが目詰まりを起こす、ポンプ等を使用して送液する場合には負荷がかかりすぎる等の問題を生じる。なお、ここで使用されるフィルタの材質は、当然のことながら濾過する分散液に使用される溶媒に対して耐性のあるものが使用される。
濾過の方式に関しては、減圧濾過、加圧濾過の何れも用いることが可能であるが、取り扱い性、収率の点から加圧濾過が望ましい。
また、濾過を実施する前に溶解直後の塗工液を一旦、低温(15℃以下)に冷却し、その後に濾過を実施することは有効な手段である。これは、濾過未処理の塗工液は保存により、劣化(増粘、白濁)を起こすものであるが、この速度は塗工液の温度が低いほど加速されるので、未劣化ではあるが劣化因子を内包している状態をなるべく避けるためである。室温のまま濾過処理を実施しても、上述のように充分な効果が得られるものであるが、一旦低温にしてから処理を施すとより一層の効果が得られるものである。低温にする時間は、数時間も保持すれば充分であるが、概ね一昼夜保管するとその効果が鮮明に得られる。更に、温度に関しては、低温であればその効果はより発揮されるものであり、塗工溶媒としてアルコール系を用いるため、相当の低温でも凍結することはないが、冷却した際に塗工液が吸湿することがある。N−アルコキシメチル化ナイロンを含む塗工液は、水分を添加することにより塗工液の安定化が図られるが、この量をコントロールできないと塗膜に影響を与える場合がある。従って、あまり低温にしすぎない方が好ましく、5℃以上程度が適当である。
本発明の電子写真感光体中間層用塗工液は、上述の濾過方法により濾過を実施された塗工液である。この際、濾過処理によって塗工液の粘度低減が施されるが、粘度特性に関しては、作製直後(濾過前)よりも更にニュートン性に近い状態に改質され、良好な塗工液が形成されるものである。このような塗工液は、電子写真感光体の中間層のような薄膜を形成する場合でも、塗膜品質が良好な中間層を形成することができるものである。このように、本発明の中間層用塗工液は、換言すれば、3μm以上の径の固形分を含まず、図6に示されるように保存後にもほぼニュートン性を維持し粘度上昇のないN−アルコキシメチル化ナイロン含有塗工液とも云うことができる。
続いて、本発明の電子写真感光体について、図面を用いて詳しく説明する。
図7は、本発明に用いられる電子写真感光体の構成例を表わす断面図であり、導電性支持体上に、特定の濾過処理が施された塗工液を用いて形成された中間層、感光層が順に積層された構成をとっている。この場合、感光層は図8に示すような電荷発生層と電荷輸送層の積層構成からなっても良く、図10に示すように感光層上に保護層を設けてもよい。
次に中間層が複数の層から構成される場合を示す。
図8は、本発明に用いられる電子写真感光体の別の構成例を示す断面図であり、導電性支持体上に、特定の濾過処理が施された塗工液を用いて形成された電荷ブロッキング層、モアレ防止層、感光層が順に積層された構成をとっている。
図9は、本発明に用いられる電子写真感光体の別の構成例を示す断面図であり、導電性支持体上に、特定の濾過処理が施された塗工液を用いて形成された電荷ブロッキング層、モアレ防止層、電荷発生層、電荷輸送層が順に積層された構成をとっている。
図10は、本発明に用いられる電子写真感光体の更に別の構成例を示す断面図であり、導電性支持体上に、特定の濾過処理が施された塗工液を用いて形成された電荷ブロッキング層、モアレ防止層、電荷発生層、電荷輸送層、保護層が順に積層された構成をとっている。
上述の図7から図10の構成の中でも、図9及び図10に示す構成の感光体が最も良好に使用される。
導電性支持体としては、体積抵抗1010Ω・cm以下の導電性を示すもの、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、ニクロム、銅、金、銀、白金などの金属、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物を、蒸着またはスパッタリングにより、フィルム状もしくは円筒状のプラスチック、紙に被覆したもの、あるいは、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレスなどの板およびそれらを、押し出し、引き抜きなどの工法で素管化後、切削、超仕上げ、研摩などの表面処理した管などを使用することができる。また、エンドレスニッケルベルト、エンドレスステンレスベルトも導電性支持体として用いることができる。
この他、上記導電性支持体上に導電性粉体を適当な結着樹脂に分散して塗工したものも、本発明の導電性支持体として用いることができる。この導電性粉体としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、またアルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などの金属粉、あるいは導電性酸化スズ、ITOなどの金属酸化物粉体などがあげられる。また、同時に用いられる結着樹脂には、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などの熱可塑性、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂があげられる。このような導電性層は、これらの導電性粉体と結着樹脂を適当な溶剤、例えば、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、トルエンなどに分散して塗布することにより設けることができる。
さらに、適当な円筒基体上にポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、塩化ゴム、テフロン(登録商標)などの素材に前記導電性粉体を含有させた熱収縮チューブによって導電性層を設けてなるものも、本発明の導電性支持体として良好に用いることができる。
次に、中間層について説明する。
本発明の電子写真感光体に用いられる中間層は、前述のような濾過方法にて処理された塗工液を用いて形成されるものであるが、単層構成および複数の層から構成される多層構成の場合がある。
始めに単層構成の場合について述べる。中間層の機能は幾つかあるが、電子写真感光体が用いられる近年の画像形成装置においては、潜像形成のための書き込み光にLDやLEDといったコヒーレント光を使用することが多い。このため、導電性支持体と感光層の間に生じる干渉縞に基づくモアレ画像が発生する場合がある。これを回避するため、中間層に金属酸化物などからフィラーなどを添加することによりモアレ防止機能を有することが必要である。また、ネガ・ポジ現像における顕著な欠陥として地汚れが挙げられるが、これも中間層により導電性支持体からの電荷リークを防ぐ機能(電荷ブロッキング)が必要である。単層構成の中間層の場合には、少なくとも上記2つの機能を持たせる必要があり、以下の様な構成になる。
使用されるバインダー樹脂としては、N−アルコキシメチル化ナイロンが用いられる。必要に応じてN−アルコキシメチル化ナイロン以外のバインダー樹脂を併用してもよい。また、モアレ防止の目的で、有機フィラーや無機顔料が併用される。特に、無機顔料が有用に用いられ、無機顔料の中でも白色の顔料が有効に使用され、例えば、酸化チタン、フッ化カルシウム、酸化カルシウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムなどが良好に用いられる。
この場合には、前記電子写真感光体中間層用塗工液に、N−アルコキシメチル化ナイロンと共に前記無機顔料などが分散され用いられる。
次に、積層構成の場合について述べる。積層構成の場合には、単層構成の場合に記載した中間層の2つの機能をそれぞれの層に分担させる機能分離型の構成とすることが望ましい。その一例としては、図8に示したような電荷ブロッキング層とモアレ防止層からなる積層構成の中間層である。電荷ブロッキング層とモアレ防止層の積層順序に関しては、図8の構成の順でも、その逆の順であってもよい。但し、モアレ防止層の電気的な性質にもよるが、図8に示された順序で構成した場合の方が、繰り返し使用時の残留電位上昇が少なくなる場合が多い。
積層構成の場合には、電荷ブロッキング層とモアレ防止層の何れか一方に、N−アルコキシメチル化ナイロンが用いられる。このN−アルコキシメチル化ナイロンを含む層を形成する場合には、前述の再生処理が施された電子写真感光体中間層用塗工液が用いられる。
以下に電荷ブロッキング層とモアレ防止層の構成を示すが、本発明において最も良好な結果を示す構成としては濾過処理が施された電子写真感光体中間層用塗工液を用いて、電荷ブロッキング層が形成された場合である。
電荷ブロッキング層は、感光体帯電時に電極(導電性支持体)に誘起される逆極性の電荷が、支持体から感光層に注入するのを防止する機能を有する層である。負帯電の場合には正孔注入防止、正帯電の場合には電子注入防止の機能を有する。電荷ブロッキング層としては、酸化アルミ層に代表される陽極酸化被膜、SiOに代表される無機系の絶縁層、特開平3−191361号公報に記載されるような金属酸化物のガラス質ネットワークから形成される層、特開平3−141363号公報に記載されるようなポリフォスファゼンからなる層、特開平3−101737号公報に記載されるようなアミノシラン反応生成物からなる層、この他には絶縁性の結着剤樹脂からなる層、硬化性の結着剤樹脂からなる層等が挙げられる。中でも湿式塗工法で形成可能な絶縁性の結着樹脂あるいは硬化性の結着樹脂から構成される層が良好に使用できる。電荷ブロッキング層は、その上にモアレ防止層や感光層を積層するものであるから、これらを湿式塗工法で設ける場合には、これらの塗工溶媒により塗膜が侵されない材料あるいは構成からなることが肝要である。
使用できる結着剤樹脂としては、N−アルコキシメチル化ナイロン、ポリアミド、ポリエステル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂例えば、活性水素(−OH基、−NH2基、−NH基等の水素)を複数個含有する化合物とイソシアネート基を複数個含有する化合物及び/又はエポキシ基を複数個含有する化合物とを熱重合させた熱硬化性樹脂等も使用できる。この場合活性水素を複数個含有する化合物としては、例えばポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ヒドロキシエチルメタアクリレート基等の活性水素を含有するアクリル系樹脂等があげられる。イソシアネート基を複数個含有する化合物としては、たとえば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等とこれらのプレポリマー等があげられ、エポキシ基を複数有する化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等があげられる。また、オイルフリーアルキド樹脂とアミノ樹脂例えば、ブチル化メラミン樹脂等を熱重合させた熱硬化性樹脂、さらにまた、不飽和結合を有するポリウレタン、不飽和ポリエステル等の不飽和結合を有する樹脂と、チオキサントン系化合物、メチルベンジルフォルメート等の光重合開始剤との組合せ等の光硬化性樹脂も結着剤樹脂として使用できる。
電荷ブロッキング層は、上述のように帯電時の電荷注入防止を担う層であるため、上記材料のように絶縁性の高い材料が用いられることが多い。しかしながら、バランスを失うと感光体の残留電位上昇や使用環境による感光体特性の変化が大きくなってしまう。従って、上述した材料の中でも、N−アルコキシメチル化ナイロンを用いた場合が、電荷ブロッキング層としての機能をバランス良く最大限に発揮することができる。
また、整流性のある導電性高分子や、帯電極性に合わせてアクセプター(ドナー)性の樹脂・化合物などを加えて、基体からの電荷注入を制抑するなどの機能を持たせてもよい。
また、電荷ブロッキング層の膜厚は0.1μm以上2.0μm未満、好ましくは0.3μm以上1.0μm以下程度が適当である。電荷ブロッキング層が厚くなると、帯電と露光の繰返しによって、特に低温低湿で残留電位の上昇が著しく、また、膜厚が薄すぎるとブロッキング性の効果が小さくなる。また電荷ブロッキング層には、必要に応じて硬化(架橋)に必要な薬剤、溶剤、添加剤、硬化促進材等を加えて、常法により、ブレード塗工、浸漬塗工法、スプレーコート、ビートコート、ノズルコート法などにより基体上に形成される。塗布後は乾燥や加熱、光等の硬化処理により乾燥あるいは硬化させる。
次にモアレ防止層について述べる。
モアレ防止層は、レーザ光のようなコヒーレント光による書き込みを行なう際に、感光層内部での光干渉によるモアレ像の発生を防止する機能を有する層である。基本的には、前記書き込み光の光散乱を起こす機能を有する。このような機能を発現するために、モアレ防止層は屈折率の大きな材料を有することが有効である。一般には、無機顔料とバインダー樹脂を含有し、無機顔料がバインダー樹脂に分散された構成からなる。特に、無機顔料の中でも白色の顔料が有効に使用され、例えば、酸化チタン、フッ化カルシウム、酸化カルシウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムなどが良好に用いられる。中でも、隠蔽力の大きな酸化チタンが最も有効に使用できる。
また、前述の図4乃至図6から明らかなように、本発明の感光体では支持体からの電荷注入を電荷ブロッキング層にて防止するものであるから、モアレ防止層においては少なくとも感光体表面に帯電される電荷とは同極性の電荷を移動できる機能を有することが残留電位防止の観点から好ましい。このため、例えば負帯電型感光体の場合、モアレ防止層には電子伝導性を付与することが望ましく、使用する無機顔料に電子伝導性を有するものを使用することが望ましい。あるいは、モアレ防止層に電子伝導性の材料(例えば、アクセプター)などを使用することは本発明の効果を一層顕著なものにするものである
バインダー樹脂としては電荷ブロッキング層と同様のものを使用できるが、モアレ防止層の上に感光層を積層することを考慮すると、感光層の塗工溶媒に侵されないことが肝要である。電荷ブロッキング層にN−アルコキシメチル化ナイロンを用いない場合には、モアレ防止層のバインダー樹脂としてN−アルコキシメチル化ナイロンを使用する。
モアレ防止層のバインダー樹脂としては、熱硬化型樹脂が良好に使用される。特に、アルキッド/メラミン樹脂の混合物が最も良好に使用される。この際、アルキッド/メラミン樹脂の混合比は、モアレ防止層の構造及び特性を決定する重要な因子である。両者の比(重量比)が5/5〜8/2の範囲が良好な混合比の範囲として挙げることができる。5/5よりもメラミン樹脂がリッチであると、熱硬化の際に体積収縮が大きくなり塗膜欠陥を生じやすくなったり、感光体の残留電位を大きくする方向にあり望ましくない。また、8/2よりもアルキッド樹脂がリッチであると、感光体の残留電位低減には効果があるものの、バルク抵抗が低くなりすぎて地汚れが悪くなる方向になり望ましくない。
モアレ防止層においては、無機顔料とバインダー樹脂の容積比が重要な特性を決定する。このため、無機顔料とバインダー樹脂の容積比が1/1乃至3/1の範囲であることが重要である。両者の容積比が1/1未満である場合には、モアレ防止能が低下するだけでなく、繰り返し使用における残留電位の上昇が大きくなる場合が存在する。一方、容積比が3/1以上の領域ではバインダー樹脂における結着能が劣るだけでなく、塗膜の表面性が悪化し、上層の感光層の成膜性に悪影響を与える場合がある。この影響は感光層が積層タイプで構成され、電荷発生層のような薄層を形成する場合に深刻な問題になり得るものである。また容積比が3/1を超える場合には、無機顔料表面をバインダー樹脂が覆い尽くせない場合が存在し、電荷発生物質と直接接触することで、熱キャリア生成の確率が大きくなり、地汚れに対して悪影響を与える場合がある。
更に、モアレ防止層には、平均粒径の異なる2種類の酸化チタンを用いることで、導電性基体に対する隠蔽力を向上させモアレを抑制することが可能となるとともに、異常画像の原因となるピンホールをなくすことができる。このためには、用いる2種の酸化チタンの平均粒径の比が一定の範囲内(0.2<D2/D1≦0.5)にあることが重要である。本発明で規定する範囲外の粒径比の場合、すなわち一方の酸化チタン(T1)の平均粒径(D1)に対する他方の酸化チタン(T2)の平均粒径(D2)の比が小さすぎる場合(0.2>D2/D1)は、酸化チタン表面での活性が増加し電子写真感光体としたときの静電的安定性が著しく損なわれるようになる。また、一方の酸化チタン(T1)の平均粒径に対する他方の酸化チタン(T2)の平均粒径の比が大きすぎる場合(D2/D1>0.5)は、導電性基体に対する隠蔽力が低下し、モアレや異常画像に対する抑制力が低下する。ここでいう平均粒径は、水系で強分散を行なったときに得られる粒度分布測定から得られる。
また、粒径の小さい方の酸化チタン(T2)の平均粒径(D2)の大きさが重要な因子であり、0.05μm<D2<0.20μmであることが重要である。0.05μmよりも小さい場合には隠蔽力が低下し、モアレを発生させる場合がある。一方、0.20μmよりも大きな場合には、モアレ防止層の酸化チタンの充填率を低下させ、地汚れ抑制効果が充分に発揮できない。
また、2種の酸化チタンの混合比率(重量比)も重要な因子である。T2/(T1+T2)が0.2よりも小さい場合には、酸化チタンの充填率がそれほど大きくなく、地汚れ抑制効果が充分に発揮できない。一方、0.8よりも大きな場合には、隠蔽力が低下し、モアレを発生させる場合がある。従って、0.2≦T2/(T1+T2)≦0.8であることが重要である。
また、モアレ防止層の膜厚は1〜10μm、好ましくは2〜5μmとするのが適当である。膜厚が1μm未満では効果の発現性が小さく、10μmを越えると残留電位の蓄積を生じる場合があるので望ましくない。
モアレ防止層の形成方法としては、前述の様な湿式塗工法が採用されるが、下層の電荷ブロッキング層を浸食しない溶媒が用いられる。特に、電荷ブロッキング層にN−アルコキシメチル化ナイロンが使用される場合には、モアレ防止層の塗工溶媒にアルコール系溶媒を使用すべきではない。
次に感光層について説明する。
感光層は、図7及び図8に示すような単層構成、図9及び図10に示すような電荷発生層と電荷輸送層からなる積層構成の何れも用いることができる。先に積層構成について述べる。
電荷発生層は電荷発生材料としては公知のものが用いることができ、例えば、チタニルフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニンなどの金属フタロシアニン、無金属フタロシアニン、アズレニウム塩顔料、スクエアリック酸メチン顔料、カルバゾール骨格を有する対称型若しくは非対称型のアゾ顔料、トリフェニルアミン骨格を有する対称型若しくは非対称型のアゾ顔料、ジフェニルアミン骨格を有する対称型若しくは非対称型のアゾ顔料、ジベンゾチオフェン骨格を有する対称型若しくは非対称型のアゾ顔料、フルオレノン骨格を有する対称型若しくは非対称型のアゾ顔料、オキサジアゾール骨格を有する対称型若しくは非対称型のアゾ顔料、ビススチルベン骨格を有する対称型若しくは非対称型のアゾ顔料、ジスチリルオキサジアゾール骨格を有する対称型若しくは非対称型のアゾ顔料、ジスチリルカルバゾール骨格を有する対称型若しくは非対称型のアゾ顔料、ペリレン系顔料、アントラキノン系又は多環キノン系顔料、キノンイミン系顔料、ジフェニルメタン及びトリフェニルメタン系顔料、ベンゾキノン及びナフトキノン系顔料、シアニン及びアゾメチン系顔料、インジゴイド系顔料、ビスベンズイミダゾール系顔料などが挙げられる。
本発明で用いられるフタロシアニン顔料としては、無金属フタロシアニンまたは金属フタロシアニンが挙げられ、モーザーおよびトーマスの「フタロシアニン化合物」(ラインホールド社、1963)等に記載されている合成法、及び他の適当な方法によって得られるものを使用する。
金属フタロシアニンの一例としては、銅、銀、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、インジウム、ナトリウム、リチウム、チタン、錫、鉛、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルトなどを中心金属にもつものが挙げられる。また、フタロシアニンの中心核には前記金属原子の代わりに、三価以上の原子価を有するハロゲン化金属が存在していてもよい。なお、フタロシアニンは各種結晶形が知られているが、α型、β型、Y型、ε型、τ型、X型などの結晶形、及び非晶形など公知のものが使用できる。
中でも、下記に示すように中心金属にチタンを有するチタニルフタロシアニン(以下TiOPc)が特に感度が高く優れた特性を示しており、より望ましい。
(式中、X
1、X
2、X
3、X
4は各々独立に各種ハロゲン原子を表わし、n、m、l、kは各々独立的に0〜4の数字を表わす。)
更にチタニルフタロシアニンの中でも、CuKα線(波長1.542Å)に対するブラッグ角2θの回折ピークとして、少なくとも27.2゜に最大回折ピークを有し、更に9.4゜、9.6゜、24.0゜に主要なピークを有し、かつ最も低角側の回折ピークとして7.3゜にピークを有し、7.3゜のピークと9.4゜のピークの間にピークを有さず、更に26.3°にピークを有さないチタニルフタロシアニンが良好に使用される。
ここに示された結晶型のチタニルフタロシアニンは、特開2001−19871号公報に記載されているものであり、本発明で使用される電荷発生物質及びこれを用いた感光体、画像形成装置が開示されている。このチタニルフタロシアニン結晶を用いることで、高感度を失うことなく繰り返し使用によっても帯電性の低下を生じない安定な電子写真感光体を得ることができる。しかしながら、非常に長期間繰り返し使用される場合においては、地汚れの増加を引き起こし、感光体の寿命としては満足されるものではなかった。これは、電荷発生層に起因する地汚れ要因は改善されても、導電性支持体より注入される電荷によって引き起こされる地汚れ要因に対しては対処していないことがその原因であると考えられる。
更に本発明者らは、前記結晶型を示すチタニルフタロシアニンの改良技術に関して検討した結果、一次粒子の平均粒子サイズを0.25μm以下にすることにより、これを用いた感光体において、光感度の増大、地汚れ特性が著しく改善されることが判った。従って、本発明の電子写真感光体に用いられる電荷発生材料としては、前記結晶型を有し、かつ、一次粒子サイズをコントロールしたチタニルフタロシアニンが最も有用である。このコントロール方法に関しては、後述する。
一方、導電性支持体と感光層の間に、複数の下引き層もしくは中間層を積層した構成は、前述のように特許文献28等に記載されている技術であるが、高感度を有する感光層との組み合わせにおいては、感光層における熱キャリアの発生の影響が大きく、必ずしも地汚れを完全に防止できるものではなかった。この傾向は、本発明で用いるようなチタニルフタロシアニンに代表される長波長に吸収を有する電荷発生物質を用いた場合には顕著な問題となるものであった。
このように、電荷発生層あるいは下引き層において、各々地汚れを抑制させる方法は開示されているものの、地汚れ要因は複数存在しており、それらを同時に抑制させないと長期間繰り返し使用される状況下に耐えることは不可能である。それは、非常に小さな地汚れ要因であり、初期状態では問題にならなくても、繰り返し使用されることによって感光体が疲労したり、構成材料の劣化が進行するに伴い、地汚れ要因は成長するためである。従って、地汚れの要因は極力排除するとともに、繰り返し使用における感光体の疲労に対しても安定性を高めることが必要である。しかし、それらを同時に解決し、飛躍的な高耐久化を可能とする方法は開示されていなかった。
本発明は、多くの要因によって引き起こされる地汚れを抑制するとともに、帯電性の経時安定性を高め、さらに残留電位や環境依存性に対する副作用を最小限にすることによって、繰り返し使用に対しても安定した効果を持続させることに成功した。
次に、本発明で用いられる特定の結晶型を有するチタニルフタロシアニン結晶の合成方法について説明する。
初めにチタニルフタロシアニン結晶の合成粗品の合成法について述べる。フタロシアニン類の合成方法は古くから知られており、Moser等による「Phthalocyanine Compounds」(1963年)、「The Phthalocyanines」(1983年)、特開平6−293769号公報等に記載されている。
例えば、第1の方法として、無水フタル酸類、金属あるいはハロゲン化金属及び尿素の混合物を高沸点溶媒の存在下あるいは不存在下において加熱する方法である。この場合、必要に応じてモリブデン酸アンモニウム等の触媒が併用される。第2の方法としては、フタロニトリル類とハロゲン化金属を高沸点溶媒の存在下あるいは不存在下において加熱する方法である。この方法は、第1の方法で製造できないフタロシアニン類、例えば、アルミニウムフタロシアニン類、インジウムフタロシアニン類、オキソバナジウムフタロシアニン類、オキソチタニウムフタロシアニン類、ジルコニウムフタロシアニン類等に用いられる。第3の方法は、無水フタル酸あるいはフタロニトリル類とアンモニアを先ず反応させて、例えば1,3−ジイミノイソインドリン類等の中間体を製造し、次いでハロゲン化金属と高沸点溶媒中で反応させる方法である。第4の方法は、尿素等存在下で、フタロニトリル類と金属アルコキシドを反応させる方法である。特に、第4の方法はベンゼン環への塩素化(ハロゲン化)が起こらず、電子写真用材料の合成法としては、極めて有用な方法であり、本発明においては極めて有効に使用される。
このように本発明で用いられるチタニルフタロシアニン結晶の合成方法としては、特開平6−293769号公報に記載されているように、ハロゲン化チタンを原料に用いない方法が良好に用いられるものである。この方法の最大のメリットは、合成されたチタニルフタロシアニン結晶がハロゲン化フリーであることである。チタニルフタロシアニン結晶は不純物としてのハロゲン化チタニルフタロシアニン結晶を含むと、これを用いた感光体の静電特性において光感度の低下や、帯電性の低下といった悪影響を及ぼす場合が多い(Japan Hardcopy89論文集p.103 1989年)。本発明においても、特開2001−19871号公報に記載されているようなハロゲン化フリーチタニルフタロシアニン結晶をメインに対象にしているものであり、これらの材料が有効に使用される。ハロゲン化フリーのチタニルフタロシアニンを合成するためには、チタニルフタロシアニン合成の際の原材料に、ハロゲン化された材料を使用しないことである。具体的には、後述の方法が用いられる。
次に、不定形チタニルフタロシアニン(低結晶性チタニルフタロシアニン)の合成法について述べる。この方法は、フタロシアニン類を硫酸に溶解した後、水で希釈し、再析出させる方法であり、アシッド・ペースト法あるいはアシッド・スラリー法と呼ばれるものが使用できる
具体的な方法としては、上記の合成粗品を10〜50倍量の濃硫酸に溶解し、必要に応じて不溶物を濾過等により除去し、これを硫酸の10〜50倍量の充分に冷却した水もしくは氷水にゆっくりと投入し、チタニルフタロシアニンを再析出させる。析出したチタニルフタロシアニンを濾過した後、イオン交換水で洗浄・濾過を行ない、濾液が中性になるまで充分にこの操作を繰り返す。最終的に、綺麗なイオン交換水で洗浄した後、濾過を行ない、固形分濃度で5〜15重量%程度の水ペーストを得る。
この際、イオン交換水で充分に洗浄し、可能な限り濃硫酸を残さないことが重要である。具体的には、洗浄後のイオン交換水が以下のような物性値を示すことが好ましい。即ち、硫酸の残存量を定量的に表わせば、洗浄後のイオン交換水のpHや比伝導度で表わすことができる。pHで表わす場合には、pHが6〜8の範囲であることが望ましい。この範囲であることにより、感光体特性に影響を与えない硫酸残存量であると判断できる。このpH値は市販のpHメーターで簡便的に測定することができる。また比伝導度で表わせば、8μS/cm以下であることが望ましい(好ましくは5μS/cm以下、更に好ましくは3μS/cm以下である)。この範囲であれば、感光体特性に影響を与えない硫酸残存量であると判断できる。この比伝導度は市販の電気伝導率計で測定することが可能である。比伝導度の下限値は、洗浄に使用するイオン交換水の比伝導度ということになる。いずれの測定においても、上記範囲を逸脱する範囲では、硫酸の残存量が多く、感光体の帯電性が低下したり、光感度が悪化したりするので望ましくない。
このように作製したものが本発明に用いる不定形チタニルフタロシアニン(低結晶性チタニルフタロシアニン)である。この際、この不定形チタニルフタロシアニン(低結晶性チタニルフタロシアニン)が、CuKαの特性X線(波長1.542Å)に対するブラッグ角2θの回折ピーク(±0.2゜)として、少なくとも7.0〜7.5゜に最大回折ピークを有するものであることが好ましい。特に、その回折ピークの半値巾が1゜以上であることがより好ましい。更に、一次粒子の平均粒子サイズが0.1μm以下であることが好ましい。
次に、結晶変換方法について述べる。
結晶変換は、前記不定形チタニルフタロシアニン(低結晶性チタニルフタロシアニン)を、CuKαの特性X線(波長1.542Å)に対するブラッグ角2θの回折ピーク(±0.2゜)として、少なくとも27.2゜に最大回折ピークを有し、更に9.4゜、9.6゜、24.0゜に主要なピークを有し、かつ最も低角側の回折ピークとして7.3゜にピークを有し、かつ、前記7.3°のピークと9.4゜のピークの間にはピークを有さず、かつ26.3°にピークを有さないチタニルフタロシアニン結晶に変換する工程である。
具体的な方法としては、前記不定形チタニルフタロシアニン(低結晶性チタニルフタロシアニン)を乾燥せずに、水の存在下の元で有機溶媒と共に混合・撹拌することにより、前記結晶型を得るものである。
この際、使用される有機溶媒は、所望の結晶型を得られるものであれば、いかなる有機溶媒も使用できるが、特にテトラヒドロフラン、トルエン、塩化メチレン、二硫化炭素、オルトジクロロベンゼン、1,1,2−トリクロロエタンの中から選ばれる1種を選択すると、良好な結果が得られる。これら有機溶媒は単独で用いることが好ましいが、これらの有機溶媒を2種以上混合する、あるいは他の溶媒と混合して用いることも可能である。結晶変換に使用される前記有機溶媒の量は、不定形チタニルフタロシアニンの重量の10倍以上、好ましくは30倍以上の重量であることが望ましい。これは、結晶変換を素早く充分に起こさせると共に、不定形チタニルフタロシアニンに含まれる不純物を充分に取り除く効果が発現されるからである。尚、ここで使用する不定形チタニルフタロシアニンは、アシッド・ペースト法により作製するものであるが、上述のように硫酸を充分に洗浄したものを使用することが望ましい。硫酸が残存するような条件で結晶変換を行なうと、結晶粒子中に硫酸イオンが残存し、でき上がった結晶を水洗処理のような操作をしても完全には取り除くことができない。硫酸イオンが残存した場合には、感光体の感度低下、帯電性低下を引き起こすなど、好ましい結果を得られない。例えば、特開平8−110649号公報(比較例)には、硫酸に溶解したチタニルフタロシアニンをイオン交換水と共に有機溶媒に投入し結晶変換を行なう方法が記載されている。この際、本発明で得られるチタニルフタロシアニン結晶のX線回折スペクトルに類似した結晶を得ることができるが、チタニルフタロシアニン中の硫酸イオン濃度が高く、光減衰特性(光感度)が悪いものであるため、本発明のチタニルフタロシアニンの製造方法としては良好なものではない。この理由は、先に述べたとおりである。
以上の結晶変換方法は特開2001−19871号公報に準じた結晶変換方法である。本発明の電子写真感光体に含有される電荷発生物質においては、チタニルフタロシアニン結晶の粒子サイズをより細かくすることにより、その効果がより一層発現されるものであり、以下にその作製方法を示す。
感光層に含有されるチタニルフタロシアニン結晶の粒子サイズをコントロールするための方法は、大きく2つの方法が挙げられる。1つはチタニルフタロシアン結晶粒子を合成する際に、0.25μmより大きい粒子を含まない結晶を合成する方法であり、いま1つはチタニルフタロシアニン結晶を分散した後、0.25μmより大きい粗大粒子を取り除いてしまう方法である。勿論、両者を併用して用いることはより大きな効果を併せ持つものである。
先に、微粒子チタニルフタロシアニン結晶の合成方法を述べる。
チタニルフタロシアニン結晶の粒子サイズをより細かくするために、本発明者らが観察したところによれば、前述の不定形チタニルフタロシアニン(低結晶性チタニルフタロシアニン)は、一次粒径が0.1μm以下(そのほとんどが0.01〜0.05μm程度)であるが(図11参照、スケール・バーは0.2μmある)、結晶変換に際しては、結晶成長と共に結晶が変換されることが分かった。通常、この種の結晶変換においては、原料の残存をおそれて充分な結晶変換時間を確保し、結晶変換が十二分に行なわれた後に、濾過を行ない、所望の結晶型を有するチタニルフタロシアニン結晶を得るものである。このため、原料として充分に小さな一次粒子を有する原料を用いているにもかかわらず、結晶変換後の結晶としては一次粒子の大きな結晶(概ね0.3〜0.5μmを得ているものである(図12参照、スケール・バーは0.2μmである)。
このように作製されたチタニルフタロシアニン結晶を分散するにあたっては、分散後の粒子サイズを小さなもの(0.2μm以下程度)にするため、強いシェアを与えることで分散を行ない、更には必要に応じて一次粒子を粉砕する強いエネルギーを与えて分散を行なっている。この結果、前述の如き、粒子の一部が所望の結晶型でない結晶型へと転移してしまうものである。
一方、本発明においては、結晶変換に際して結晶成長がほとんど起こらない範囲(図7に観察される不定形チタニルフタロシアニン粒子のサイズが、結晶変換後において遜色ない小ささ、概ね0.2μm以下に保たれる範囲)で、結晶変換が完了した時点を見極めることで、可能な限り一次粒子サイズの小さなチタニルフタロシアニン結晶を得ようというものである。結晶変換後の粒子サイズは、結晶変換時間に比例して大きくなる。このため前述のように、結晶変換の効率を高くし、短時間で完了させることが重要である。このためには、いくつかの重要なポイントが挙げられる。
1つは、結晶変換溶媒を前述のように適正なものを選択し、結晶変換効率を高めること。もう1つは、結晶変換を短時間に完了させるために、溶媒とチタニルフタロシアニン水ペースト(前述の如き作製した原料:不定形チタニルフタロシアニン)を充分に接触させるために強い撹拌を用いるものである。具体的には、撹拌力の非常に強いプロペラを用いた撹拌、ホモジナイザー(ホモミキサー)のような強烈な撹拌(分散)手段を用いるなどの手法により、短時間での結晶変換を実現させるものである。これらの条件により、原料が残存することなく、結晶変換が充分に行なわれ、かつ結晶成長が起こらない状態のチタニルフタロシアニン結晶を得ることができる。この場合にも、結晶変換に使用する有機溶媒量の適正化が有効な手段である。具体的には、不定形チタニルフタロシアニンの固形分に対して、10倍以上、好ましくは30倍以上の有機溶媒を使用することが望ましい。これにより、短時間での結晶変換を確実なものとすると共に、不定形チタニルフタロシアニン中に含まれる不純物を確実に取り除くことができる。
また、上述のように結晶粒子サイズと結晶変換時間は比例関係にあるため、所定の反応(結晶変換)が完了したら、反応を直ちに停止させる方法も有効な手段である。上述のように結晶変換を行なった後、直ちに結晶変換の起こりにくい溶媒を大量に添加することが前記手段として挙げられる。結晶変換の起こりにくい溶媒としては、アルコール系、エステル系などの溶媒が挙げられる。これらの溶媒を結晶変換溶媒に対して、10倍程度加えることにより、結晶変換を停止することができる。
このようにして作製される一次粒子サイズは、細かいほど感光体の課題に対しては良好な結果を示すものであるが、顔料作製にかかる次工程(顔料の濾過工程)、分散液での分散安定性を考慮すると、あまり小さすぎても副作用がでる場合がある。即ち、一次粒子が非常に細かい場合には、これを濾過する工程において濾過時間が非常に長くなってしまうという問題が発生する。また、一次粒子が細かすぎる場合には、分散液中での顔料粒子の表面積が大きくなるため、粒子の再凝集の可能性が高くなる。したがって、適切な顔料粒子の粒子サイズは、およそ0.05μm〜0.2μm程度の範囲である。
図13には、短時間で結晶変換を行なった場合のチタニルフタロシアニン結晶のTEM像を示す(図中のスケール・バーは0.2μmである)。図12の場合とは異なり、粒子サイズが小さく、ほぼ均一であり、図12に観察されるような粗大粒子は全く認められない。
図13に示されるように1次粒子が小さい状態で作製されたチタニルフタロシアニン結晶を分散するにあたっては、分散後の粒子サイズを小さなもの(0.25μm以下、より好ましくは0.2μm以下)にするためには、1次粒子が凝集(集合)して集まって形成する2次粒子をほぐすだけのシェアを与えることで分散が可能である。この結果、必要以上のエネルギーを与えないため、前述の如き、粒子の一部が所望の結晶型でない結晶型へと転移し易い結果は生み出さずに、粒度分布の細かい分散液を容易に作製することが可能である。
ここでいう平均粒子サイズとは、体積平均粒径であり、超遠心式自動粒度分布測定装置:CAPA−700(堀場製作所製)により求めたものである。この際、累積分布の50%に相当する粒子径(Median系)として算出されたものである。しかしながら、この方法では微量の粗大粒子を検出できない場合があるため、より詳細に求めるには、チタニルフタロシアニン結晶粉末、あるいは分散液を直接、電子顕微鏡にて観察し、その大きさを求めることが重要である。
分散液の更なる観察により、微小欠陥に関して検討した結果、上記現象は次のように理解された。通常、平均粒子サイズを測定するような方法においては、極端に大きな粒子が数%以上も存在するような場合には、その存在が検出できるものであるが、全体の1%以下程度のような微量になってくると、その測定は検出限界以下になってしまうものである。その結果として、平均粒子サイズの測定だけでは粗大粒子の存在が検出されずに、上述のような微小欠陥に関する解釈を困難にしていた。
図14及び図15に、分散条件を固定して分散時間だけを変更した2種類の分散液の状態を観察した写真を示す。同一条件における分散時間の短い分散液の写真を図14に示すが、分散時間の長い図15と比較して、粗大粒子が残っている様子が観測される。図14中の黒い粒が粗大粒子である。
この2種類の分散液の平均粒径並びに粒度分布を公知の方法に従って、市販の粒度分布測定装置(堀場製作所製:超遠心式自動粒度分布測定装置、CAPA700)により測定した。その結果を図16に示す。図16における「A」が図13に示す分散液に対応し、「B」が図15に示す分散液に対応する。両者を比較すると、粒度分布に関してはほとんど差が認められない。また、両者の平均粒径値は、「A」が0.29μm、「B」が0.28μmと求められ、測定誤差を加味した上では、両者に全くの差異が認められない。
従って、公知の平均粒径(平均粒子サイズ)の規定だけでは、微量な粗大粒子の残存を検出できずに、昨今の高解像度のネガ・ポジ現像には対応できていないことが理解される。この微量な粗大粒子の存在は、塗工液を顕微鏡レベルで観察することにより、初めて認識できたものである。
このような事実に対して、結晶変換時に作製される一次粒子をできる限り小さいものを作製することは有効な手段である。このために、結晶変換溶媒を前述のように適正なものを選択し、結晶変換効率を高めつつ、結晶変換を短時間に完了させるために、溶媒とチタニルフタロシアニン水ペースト(前述の如き作製した原料)を充分に接触させるために強い撹拌を用いるような手法は有効であることがわかる。
このような結晶変換方法を採用することにより、一次平均粒子サイズの小さな(0.25μm以下、好ましくは0.2μm以下)チタニルフタロシアニン結晶を得ることができる。特開2001−19871号公報に記載された技術に加えて、必要に応じて上述のような技術(微細なチタニルフタロシアニン結晶を得るための結晶変換方法)を併用することは、本発明の効果を高めるために有効な手段である。
続いて、結晶変換されたチタニルフタロシアニン結晶は直ちに濾過されることにより、結晶変換溶媒と分別される。この濾過に際しては、適当なサイズのフィルタを用いることにより行なわれる。この際、減圧濾過を用いることが最も適当である。
その後、分別されたチタニルフタロシアニン結晶は、必要に応じて加熱乾燥される。加熱乾燥に使用する乾燥機は、公知のものがいずれも使用可能であるが、大気下で行なう場合には送風型の乾燥機が好ましい。更に、乾燥速度を早め、本発明の効果をより顕著に発現させるために減圧下の乾燥も非常に有効な手段である。特に、高温で分解する、あるいは結晶型が変化するような材料に対しては有効な手段である。特に10mmHgよりも真空度が高い状態で乾燥することが有効である。
このように得られた特定の結晶型を有するチタニルフタロシアニン結晶は、電子写真感光体用電荷発生物質として極めて有用である。しかしながら、先述のように結晶型が不安定であり、分散液を作製する際に結晶型が転移し易いという欠点を有しているものであった。しかしながら、本発明のように一次粒子を限りなく小さなものに合成することにより、分散液作製時に過剰なシェアを与えることなく、平均粒径の小さな分散液を作製することができ、結晶型も極めて安定に(合成した結晶型を変えることなく)作製することができるものである。
次にチタニルフタロシアニン結晶を分散した後に、粗大粒子を取り除く方法について述べる。
分散液の作製に関しては一般的な方法が用いられ、前記チタニルフタロシアニン結晶を必要に応じてバインダー樹脂とともに適当な溶剤中にボールミル、アトライター、サンドミル、ビーズミル、超音波などを用いて分散することで得られるものである。この際、バインダー樹脂は感光体の静電特性などにより、また溶媒は顔料へのぬれ性、顔料の分散性などにより選択すればよい。
既に述べたように、CuKα線(波長1.542Å)に対するブラッグ角2θの回折ピーク(±0.2゜)として、少なくとも27.2゜に最大回折ピークを有するチタニルフタロシアニン結晶は、熱エネルギー・機械的シェア等のストレスにより他の結晶型に容易に結晶転移をすることが知られている。本発明で用いるチタニルフタロシアニン結晶もこの傾向は変わらない。すなわち、微細な粒子を含む分散液を作製するためには、分散方法の工夫も必要であるが、結晶型の安定性と微粒子化はトレード・オフの関係になりがちである。分散条件を最適化することによりこれを回避する方法はあるが、いずれも製造条件を極めて狭くしてしまうものであり、より簡便な方法が望まれている。この問題を解決するために、以下のような方法も有効な手段である。
すなわち、結晶転移が起こらない範囲でできる限り粒子を微細にした分散液を作製後、適当なフィルタで濾過してしまう方法である。この方法では、残存する目視では観察できない(あるいは粒径測定では検出できない)微量な粗大粒子をも取り除くことができ、また粒度分布を揃えるという点からも非常に有効な手段である。具体的には、上述のように作製した分散液を有効孔径が3μm以下のフィルタ、より好ましくは1μm以下のフィルタにて濾過する操作を行ない、分散液を完成させるというものである。この方法によっても、粒子サイズの小さな(0.25μm以下、好ましくは0.2μm以下)チタニルフタロシアニン結晶のみを含む分散液を作製することができ、これを用いた感光体を画像形成装置に搭載使用することにより、本発明の効果をより一層顕著にするものである。
分散液を濾過するフィルタに関しては、除去したい粗大粒子のサイズによって異なるものであるが、本発明者等の検討によれば、600dpi程度の解像度を必要とする電子写真装置で使用される感光体としては、最低でも3μm以上の粗大粒子の存在は画像に対して影響を及ぼす。したがって、有効孔径が3μm以下のフィルタを使用すべきである。より好ましくは1μm以下の有効孔径を有するフィルタを使用することである。このようなフィルタリング処理を行なうことにより、不必要な粗大粒子を取り除くことが可能であり、粒度分布が狭く、かつ粗大粒子の含まない分散液を作製することが可能になる。
この有効孔径に関しては、細かいほど粗大粒子の除去に効果があるものであるが、あまり細かすぎると、必要な顔料粒子そのものも濾過されてしまうため、適切なサイズが存在する。また、細かすぎた場合には、濾過に時間がかかる、フィルタが目詰まりを起こす、ポンプ等を使用して送液する場合には負荷がかかりすぎる等の問題を生じる。なお、ここで使用されるフィルタの材質は、当然のことながら濾過する分散液に使用される溶媒に対して耐性のあるものが使用される。
濾過に際しては、濾過される分散液中の粗大粒子量があまりにも多い場合、取り除かれる顔料が多くなり、濾過後の分散液の固形分濃度が変化したりして好ましくない。従って、濾過を行なう際には適切な粒度分布(粒子サイズ、標準偏差)が存在する。本発明のように、濾過による顔料のロス、フィルタの目詰まり等がなく、効率よく濾過を行なうためには、濾過前の分散液の体積平均粒径が0.3μm以下で、その標準偏差が0.2μm以下に分散しておくことが望ましい。
このような分散液の濾過操作を加えることによっても、粗大粒子を取り除くことが可能になり、ひいては分散液を使用した感光体で発生する地汚れを低減化することができる。上述のように、より細かいフィルタを使用するほど、その効果は大きなもの(確実なもの)になるが、顔料粒子そのものが濾過されてしまう場合が存在してしまう。このような場合には、先に述べたチタニルフタロシアニン一次粒子を微細化合成する技術と併用することは、非常に大きな効果を発するものである。
即ち、(i)微細化チタニルフタロシアニンを合成し、これを使用することにより、分散時間の短縮化・分散ストレスの低減化が図れ、分散における結晶転移の可能性が小さくなる。(ii)分散によって残存する粗大粒子サイズが、微細化しない場合よりも小さいため、より小さなフィルタを使用することが可能になり、粗大粒子の除去効果がより確実なものとなる。また、除去されるチタニルフタロシアニン粒子量が低減し、濾過前後における分散液組成の変化が少なく、安定した製造が可能になる。(iii)その結果、製造される感光体は安定して地汚れ耐性の高い感光体が製造されることになる。
電荷発生層は、前記電荷発生材料を必要に応じてバインダー樹脂とともに適当な溶剤中にボールミル、アトライター、サンドミル、超音波などを用いて分散し、これを導電性支持体上に塗布し、乾燥することにより形成される。
必要に応じて電荷発生層に用いられる結着樹脂としては、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリケトン、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリアクリルアミド、ポリビニルベンザール、ポリエステル、フェノキシ樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリフェニレンオキシド、ポリアミド、ポリビニルピリジン、セルロース系樹脂、カゼイン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。中でも、ポリビニルブチラールに代表されるポリビニルアセタールは良好に使用される。結着樹脂の量は、電荷発生物質100重量部に対し0〜500重量部、好ましくは10〜300重量部が適当である。
ここで用いられる溶剤としては、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチルセルソルブ、酢酸エチル、酢酸メチル、ジクロロメタン、ジクロロエタン、モノクロロベンゼン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、リグロイン等が挙げられるが、特にケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒が良好に使用される。塗布液の塗工法としては、浸漬塗工法、スプレーコート、ビートコート、ノズルコート、スピナーコート、リングコート等の方法を用いることができる。
電荷発生層の膜厚は、0.01〜5μm程度が適当であり、好ましくは0.1〜2μmである。
次に電荷輸送層について説明する。
電荷輸送層は、電荷輸送物質および結着樹脂を適当な溶剤に溶解ないし分散し、これを電荷発生層上に塗布、乾燥することにより形成できる。また、必要により可塑剤、レベリング剤、酸化防止剤等を添加することもできる。
電荷輸送物質には、正孔輸送物質と電子輸送物質とがある。電荷輸送物質としては、例えばクロルアニル、ブロムアニル、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロキサントン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、2,6,8−トリニトロ−4H−インデノ〔1,2−b〕チオフェン−4−オン、1,3,7−トリニトロジベンゾチオフェン−5,5−ジオキサイド、ベンゾキノン誘導体等の電子受容性物質が挙げられる。
正孔輸送物質としては、ポリ−N−ビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリ−γ−カルバゾリルエチルグルタメートおよびその誘導体、ピレン−ホルムアルデヒド縮合物およびその誘導体、ポリビニルピレン、ポリビニルフェナントレン、ポリシラン、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、モノアリールアミン誘導体、ジアリールアミン誘導体、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、α−フェニルスチルベン誘導体、ベンジジン誘導体、ジアリールメタン誘導体、トリアリールメタン誘導体、9−スチリルアントラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、ジビニルベンゼン誘導体、ヒドラゾン誘導体、インデン誘導体、ブタジェン誘導体、ピレン誘導体等、ビススチルベン誘導体、エナミン誘導体等その他公知の材料が挙げられる。これらの電荷輸送物質は単独、または2種以上混合して用いられる。
結着樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアレート、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂等の熱可塑性または熱硬化性樹脂が挙げられる。
電荷輸送物質の量は結着樹脂100重量部に対し、20〜300重量部、好ましくは40〜150重量部が適当である。また、電荷輸送層の膜厚は5〜100μm程度とすることが好ましい。ここで用いられる溶剤としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、ジクロロメタン、モノクロロベンゼン、ジクロロエタン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトンなどが用いられる。中でも、環境への負荷低減等の意図から、非ハロゲン系溶媒の使用は望ましいものである。具体的には、テトラヒドロフランやジオキソラン、ジオキサン等の環状エーテルやトルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、及びそれらの誘導体が良好に用いられる。
また、電荷輸送層には電荷輸送物質としての機能とバインダー樹脂の機能を持った高分子電荷輸送物質も良好に使用される。これら高分子電荷輸送物質から構成される電荷輸送層は耐摩耗性に優れたものである。高分子電荷輸送物質としては、公知の材料が使用できるが、特に、トリアリールアミン構造を主鎖および/または側鎖に含むポリカーボネートが良好に用いられる。中でも、式(I)〜(X)式で表わされる高分子電荷輸送物質が良好に用いられ、これらを以下に例示し、具体例を示す。
式中、R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立して置換もしくは無置換のアルキル基又はハロゲン原子、R
4は水素原子又は置換もしくは無置換のアルキル基、R
5、R
6は置換もしくは無置換のアリール基、o、p、qはそれぞれ独立して0〜4の整数、k、jは組成を表わし、0.1≦k≦1、0≦j≦0.9、nは繰り返し単位数を表わし5〜5000の整数である。Xは脂肪族の2価基、環状脂肪族の2価基、または下記一般式で表わされる2価基を表わす。尚、(I)式は2つの共重合種が交互共重合体の形で記載されているが、ランダム共重合体でも構わない。
R
101、R
102は各々独立して置換もしくは無置換のアルキル基、アリール基またはハロゲン原子を表わす。l、mは0〜4の整数、Yは単結合、炭素原子数1〜12の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン基、−O−、−S−、−SO−、−SO
2−、−CO−、−CO−O−Z−O−CO−(式中Zは脂肪族の2価基を表わす。)または、
(aは1〜20の整数、bは1〜2000の整数、R
103、R
104は置換または無置換のアルキル基又はアリール基を表わす)を表わす。ここで、R
101とR
102、R
103とR
104は、それぞれ同一でも異なってもよい。)
式中、R
7、R
8は置換もしくは無置換のアリール基、Ar
1、Ar
2、Ar
3は同一又は異なるアリレン基を表わす。X、k、jおよびnは、(I)式の場合と同じである。尚、(II)式は2つの共重合種が交互共重合体の形で記載されているが、ランダム共重合体でも構わない。
式中、R
9、R
10は置換もしくは無置換のアリール基、Ar
4、Ar
5、Ar
6は同一又は異なるアリレン基を表わす。X、k、jおよびnは、(I)式の場合と同じである。尚、(III)式は2つの共重合種が交互共重合体の形で記載されているが、ランダム共重合体でも構わない。
式中、R
11、R
12、は置換もしくは無置換のアリール基、Ar
7、Ar
8、Ar
9は同一又は異なるアリレン基、pは1〜5の整数を表わす。X、k、jおよびnは、(I)式の場合と同じである。尚、(IV)式は2つの共重合種が交互共重合体の形で記載されているが、ランダム共重合体でも構わない
式中、R
13、R
14は置換もしくは無置換のアリール基、Ar
10、Ar
11、Ar
12は同一又は異なるアリレン基、X
1、X
2は置換もしくは無置換のエチレン基、又は置換もしくは無置換のビニレン基を表わす。X、k、jおよびnは、(I)式の場合と同じである。尚、(V)式は2つの共重合種が交互共重合体の形で記載されているが、ランダム共重合体でも構わない。
式中、R
15、R
16、R
17、R
18は置換もしくは無置換のアリール基、Ar
13、Ar
14、Ar
15、Ar
16は同一又は異なるアリレン基、Y
1、Y
2、Y
3は単結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のシクロアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基、酸素原子、硫黄原子、ビニレン基を表わし同一であっても異なってもよい。X、k、jおよびnは、(V)式の場合と同じである。尚、(VI)式は2つの共重合種が交互共重合体の形で記載されているが、ランダム共重合体でも構わない。
式中、R
19、R
20は水素原子、置換もしくは無置換のアリール基を表わし,R
19とR
20は環を形成していてもよい。Ar
17、Ar
18、Ar
19は同一又は異なるアリレン基を表わす。X、k、jおよびnは、(I)式の場合と同じである。尚、(VII)式は2つの共重合種が交互共重合体の形で記載されているが、ランダム共重合体でも構わない。
式中、R
21は置換もしくは無置換のアリール基、Ar
20、Ar
21、Ar
22、Ar
23は同一又は異なるアリレン基を表わす。X、k、jおよびnは、(I)式の場合と同じである。尚、(VIII)式は2つの共重合種が交互共重合体の形で記載されているが、ランダム共重合体でも構わない。
式中、R
22、R
23、R
24、R
25は置換もしくは無置換のアリール基、Ar
24、Ar
25、Ar
26、Ar
27、Ar
28は同一又は異なるアリレン基を表わす。X、k、jおよびnは、(I)式の場合と同じである。尚、(IX)式は2つの共重合種が交互共重合体の形で記載されているが、ランダム共重合体でも構わない。
式中、R
26、R
27は置換もしくは無置換のアリール基、Ar
29、Ar
30、Ar
31は同一又は異なるアリレン基を表わす。X、k、jおよびnは、(I)式の場合と同じである。尚、(X)式は2つの共重合種が交互共重合体の形で記載されているが、ランダム共重合体でも構わない。これらの高分子電荷輸送物質は、例えば特開平9−304955号公報に示されている。
また、電荷輸送層に使用される高分子電荷輸送物質として、上述の高分子電荷輸送物質の他に、電荷輸送層の成膜時には電子供与性基を有するモノマーあるいはオリゴマーの状態で、成膜後に硬化反応あるいは架橋反応をさせることで、最終的に2次元あるいは3次元の架橋構造を有する重合体も含むものである。
これら電子供与性基を有する重合体から構成される電荷輸送層、あるいは架橋構造を有する重合体は耐摩耗性に優れたものである。通常、電子写真プロセスにおいては、帯電電位(未露光部電位)は一定であるため、繰り返し使用により感光体の表面層が摩耗すると、その分だけ感光体にかかる電界強度が高くなってしまう。この電界強度の上昇に伴い、地汚れの発生頻度が高くなるため、感光体の耐摩耗性が高いことは、地汚れに対して有利である。これら電子供与性基を有する重合体から構成される電荷輸送層は、自身が高分子化合物であるため成膜性に優れ、低分子分散型高分子からなる電荷輸送層に比べ、電荷輸送部位を高密度に構成することが可能で電荷輸送能に優れたものである。このため、高分子電荷輸送物質を用いた電荷輸送層を有する感光体には高速応答性が期待できる。
その他の電子供与性基を有する重合体としては、公知単量体の共重合体や、ブロック重合体、グラフト重合体、スターポリマーや、また、例えば特開平3−109406号公報、特開2000−206723号公報、特開2001−34001号公報等に開示されているような電子供与性基を有する架橋重合体などを用いることも可能である。
本発明において電荷輸送層中に可塑剤やレベリング剤を添加してもよい。可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートなど一般の樹脂の可塑剤として使用されているものがそのまま使用でき、その使用量は、結着樹脂に対して0〜30重量%程度が適当である。レベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルなどのシリコーンオイル類や、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーあるいは、オリゴマーが使用され、その使用量は結着樹脂に対して、0〜1重量%が適当である。
上記は感光層が積層構成の場合について述べたが、本発明においては感光層が単層構成でも構わない。感光層を単層構成とするためには、少なくとも上述の電荷発生物質とバインダー樹脂を含有する単一層を設けることで感光層は構成され、バインダー樹脂としては電荷発生層や電荷輸送層の説明の所に記載したものが良好に使用される。また、単層感光層には電荷輸送物質を併用することで、高い光感度、高いキャリア輸送特性、低い残留電位が発現され、良好に使用できる。この際、使用する電荷輸送物質は、感光体表面に帯電させる極性に応じて、正孔輸送物質、電子輸送物質の何れかが選択される。更に、上述した高分子電荷輸送物質もバインダー樹脂と電荷輸送物質の機能を併せ持つため、単層感光層には良好に使用される。
本発明の電子写真感光体には、感光体の耐摩耗性を抑制するために、感光体の最表面に保護層を形成してもよい。これにより、感光体の耐摩耗性が向上し、繰り返し使用されても感光層の膜厚変化が低減でき、それにより電界強度の変化も低減できるために、地汚れの増加を少なくすることができる。従って、保護層を設け、耐久性を向上させることによって、本発明の高感度で異常欠陥のない感光体を有用に用いることができる。
保護層に使用される材料としてはABS樹脂、ACS樹脂、オレフィン−ビニルモノマー共重合体、塩素化ポリエーテル、アリール樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタール、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリアリルスルホン、ポリブチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリメチルベンテン、ポリプロピレン、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリスチレン、AS樹脂、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。中でも、ポリカーボネートもしくはポリアリレートが最も良好に使用できる。
保護層にはその他、耐摩耗性を向上する目的でポリテトラフルオロエチレンのような弗素樹脂、シリコーン樹脂、及びこれらの樹脂に酸化チタン、酸化錫、チタン酸カリウム、シリカ等の無機フィラー、また有機フィラーを分散したもの等を添加することができる。
また、感光体の保護層に用いられるフィラー材料のうち有機性フィラー材料としては、ポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂粉末、シリコン樹脂粉末、a−カーボン粉末等が挙げられ、無機性フィラー材料としては、銅、スズ、アルミニウム、インジウムなどの金属粉末、シリカ、酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化ビスマス、アンチモンをドープした酸化錫、錫をドープした酸化インジウム等の金属酸化物、チタン酸カリウムなどの無機材料が挙げられる。特に、フィラーの硬度の点からは、この中でも無機材料を用いることが有利である。特に、シリカ、酸化チタン、アルミナが有効に使用できる。
保護層中のフィラー濃度は使用するフィラー種により、また感光体を使用する電子写真プロセス条件によっても異なるが、保護層の最表層側において全固形分に対するフィラーの比で5重量%以上、好ましくは10重量%以上、50重量%以下、好ましくは30重量%以下程度が良好である。
また、使用するフィラーの体積平均粒径は、0.1μm〜2μmの範囲が良好に使用され、好ましくは0.3μm〜1μmの範囲である。この場合、平均粒径が小さすぎると耐摩耗性が充分に発揮されず、大きすぎると塗膜の表面性が悪くなったり、塗膜そのものが形成できなかったりするからである。
尚、本発明におけるフィラーの平均粒径とは、特別な記載のない限り体積平均粒径であり、超遠心式自動粒度分布測定装置:CAPA−700(堀場製作所製)により求めたものである。この際、累積分布の50%に相当する粒子径(Median系)として算出されたものである。また、同時に測定される各々の粒子の標準偏差が1μm以下であることが重要である。これ以上の標準偏差の値である場合には、粒度分布が広すぎて、本発明の効果が顕著に得られなくなってしまう場合がある。
また、本発明で使用するフィラーのpHも解像度やフィラーの分散性に大きく影響する。その理由の一つとしては、フィラー、特に金属酸化物は製造時に塩酸等が残存することが考えられる。その残存量が多い場合には、画像ボケの発生は避けられず、またそれは残存量によってはフィラーの分散性にも影響を及ぼす場合がある。
もう一つの理由としては、フィラー、特に金属酸化物の表面における帯電性の違いによるものである。通常、液体中に分散している粒子はプラスあるいはマイナスに帯電しており、それを電気的に中性に保とうとして反対の電荷を持つイオンが集まり、そこで電気二重層が形成されることによって粒子の分散状態は安定化している。粒子から遠ざかるに従いその電位(ゼータ電位)は徐々に低くなり、粒子から充分に離れて電気的に中性である領域の電位はゼロとなる。従って、ゼータ電位の絶対値の増加によって粒子の反発力が高くなることによって安定性は高くなり、ゼロに近づくに従い凝集しやすく不安定になる。一方、系のpH値によってゼータ電位は大きく変動し、あるpH値において電位はゼロとなり等電点を持つことになる。従って、系の等電点からできるだけ遠ざけて、ゼータ電位の絶対値を高めることによって分散系の安定化が図られることになる。
本発明の構成においては、フィラーとしては前述の等電点におけるpHが、少なくとも5以上を示すものが画像ボケ抑制の点から好ましく、より塩基性を示すフィラーであるほどその効果が高くなる傾向があることが確認された。等電点におけるpHが高い塩基性を示すフィラーは、系が酸性であった方がゼータ電位はより高くなることにより、分散性及びその安定性は向上することになる。
ここで、本発明におけるフィラーのpHは、ゼータ電位から等電点におけるpH値を記載した。この際、ゼータ電位の測定は、大塚電子(株)製レーザーゼータ電位計にて測定した。
更に、画像ボケが発生しにくいフィラーとしては、電気絶縁性が高いフィラー(比抵抗が1010Ω・cm以上)が好ましく、フィラーのpHが5以上を示すものやフィラーの誘電率が5以上を示すものが特に有効に使用できる。また、pHが5以上のフィラーあるいは誘電率が5以上のフィラーを単独で使用することはもちろん、pHが5以下のフィラーとpHが5以上のフィラーとを2種類以上を混合したり、誘電率が5以下のフィラーと誘電率が5以上のフィラーとを2種類以上混合したりして用いることも可能である。また、これらのフィラーの中でも高い絶縁性を有し、熱安定性が高い上に、耐摩耗性が高い六方最密構造であるα型アルミナは、画像ボケの抑制や耐摩耗性の向上の点から特に有用である。
本発明において使用するフィラーの比抵抗は以下のように定義される。フィラーのような粉体は、充填率によりその比抵抗値が異なるので、一定の条件下で測定する必要がある。本発明においては、特開平5−94049号公報(第1図)、特開平5−113688号公報(第1図)に示された測定装置と同様の構成の装置を用いて、フィラーの比抵抗値を測定し、この値を用いた。測定装置において、電極面積は4.0cm2である。測定前に片側の電極に4kgの荷重を1分間かけ、電極間距離が4mmになるように試料量を調節する。測定の際は、上部電極の重量(1kg)の荷重状態で測定を行ない、印加電圧は100Vにて測定する。106Ω・cm以上の領域は、HIGH RESISTANCE METER(横河ヒューレットパッカード)、それ以下の領域についてはデジタルマルチメーター(フルーク)により測定した。これにより得られた比抵抗値を本発明のいうところの比抵抗値と定義するものである。
フィラーの誘電率は以下のように測定した。上述のような比抵抗の測定と同様なセルを用い、荷重をかけた後に、静電容量を測定し、これより誘電率を求めた。静電容量の測定は、誘電体損測定器(安藤電気)を使用した。
更に、これらのフィラーは少なくとも一種の表面処理剤で表面処理させることが可能であり、そうすることがフィラーの分散性の面から好ましい。フィラーの分散性の低下は残留電位の上昇だけでなく、塗膜の透明性の低下や塗膜欠陥の発生、さらには耐摩耗性の低下をも引き起こすため、高耐久化あるいは高画質化を妨げる大きな問題に発展する可能性がある。表面処理剤としては、従来用いられている表面処理剤すべてを使用することができるが、フィラーの絶縁性を維持できる表面処理剤が好ましい。例えば、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコアルミネート系カップリング剤、高級脂肪酸等、あるいはこれらとシランカップリング剤との混合処理や、Al2O3、TiO2、ZrO2、シリコーン、ステアリン酸アルミニウム等、あるいはそれらの混合処理がフィラーの分散性及び画像ボケの点からより好ましい。シランカップリング剤による処理は、画像ボケの影響が強くなるが、上記の表面処理剤とシランカップリング剤との混合処理を施すことによりその影響を抑制できる場合がある。表面処理量については、用いるフィラーの平均一次粒径によって異なるが、3〜30重量%が適しており、5〜20重量%がより好ましい。表面処理量がこれよりも少ないとフィラーの分散効果が得られず、また多すぎると残留電位の著しい上昇を引き起こす。これらフィラー材料は単独もしくは2種類以上混合して用いられる。フィラーの表面処理量に関しては、上述のようにフィラー量に対する使用する表面処理剤の重量比で定義される。
これらフィラー材料は、適当な分散機を用いることにより分散できる。また、保護層の透過率の点から使用するフィラーは1次粒子レベルまで分散され、凝集体が少ない方が好ましい。
また、保護層には残留電位低減、応答性改良のため、電荷輸送物質を含有してもよい。電荷輸送物質は、電荷輸送層の説明のところに記載した材料を用いることができる。電荷輸送物質として、低分子電荷輸送物質を用いる場合には、保護層中における濃度傾斜を設けても構わない。耐摩耗性向上のため、表面側を低濃度にすることは有効な手段である。ここでいう濃度とは、保護層を構成する全材料の総重量に対する低分子電荷輸送物質の重量の比を表わし、濃度傾斜とは上記重量比において表面側において濃度が低くなるような傾斜を設けることを示す。また、高分子電荷輸送物質を用いることは、感光体の耐久性を高める点で非常に有利である。
上述したフィラー分散型保護層の形成法としては通常の塗布法が採用される。保護層の厚さは0.1〜10μm程度が適当である。また、フィラー分散型保護層の他に真空薄膜作成法にて形成したa−C、a−SiCなど公知の材料を保護層として用いることができる。
また、別の形態の保護層として、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層が有効に使用される。電荷輸送性構造を有する架橋型保護層を用いることにより、繰り返し使用による電界強度の増加を抑制することがさらに効率よく実現し、地汚れの抑制に有効となる。また、感光体表面の耐傷性も高く、フィルミング等も発生しにくいことから画像欠陥の発生を低減させる効果も有しており、高耐久化を実現する上で有効かつ有用である。更に、フィラー分散型保護層に比べて保護層としての均質性の点から、架橋型保護層の方が均質性が高い。このことは、クリーニング部材等による感光体表面層としての摩耗が均一になり、また微少領域での感光体静電特性も均一になるため、フィラー分散型保護層よりも更に有効に使用できる。
電荷輸送性構造を有する架橋型保護層は、3官能以上のラジカル重合性モノマーを硬化した架橋構造を有するため3次元の網目構造が発達し、架橋密度が非常に高い高硬度且つ高弾性な表面層が得られ、かつ均一で平滑性も高く、高い耐摩耗性、耐傷性が達成される。このように感光体表面の架橋密度すなわち単位体積あたりの架橋結合数を増加させることが重要であるが、硬化反応において瞬時に多数の結合を形成させるため体積収縮による内部応力が発生する。この内部応力は架橋型電荷輸送層の膜厚が厚くなるほど増加するため電荷輸送層全層を硬化させると、クラックや膜剥がれが発生しやすくなる。この現象は初期的に現れなくても、電子写真プロセス上で繰り返し使用され帯電、現像、転写、クリーニングのハザード及び熱変動の影響を受けることにより、経時で発生しやすくなることもある。
この問題を解決する方法としては、[1]架橋層及び架橋構造に高分子成分を導入する、[2]1官能及び2官能のラジカル重合性モノマーを多量に用いる、[3]柔軟性基を有する多官能モノマーを用いる、などの硬化樹脂層を柔らかくする方向性が挙げられるが、いずれも架橋層の架橋密度が希薄となり、飛躍的な耐摩耗性が達成されない。これに対し、本発明の感光体は、電荷輸送層上に3次元の網目構造が発達した架橋密度の高い電荷輸送性構造を有する架橋型保護層を1μm以上、10μm以下の膜厚で設けることで、上記のクラックや膜剥がれが発生せず、且つ非常に高い耐摩耗性が達成される。かかる電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の膜厚を2μm以上、8μm以下の膜厚にすることにより、さらに上記問題に対する余裕度が向上することに加え、更なる耐摩耗性向上に繋がる高架橋密度化の材料選択が可能となる。
本発明の感光体がクラックや膜剥がれを抑制できる理由としては、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層を薄膜化できるため内部応力が大きくならないこと、下層に電荷輸送層を有するため表面の電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の内部応力を緩和できることなどによる。このため電荷輸送性構造を有する架橋型保護層に高分子材料を多量に含有させる必要がなく、このとき生ずる、高分子材料とラジカル重合性組成物(ラジカル重合性モノマーや電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物)の反応より生じた硬化物との不相溶が原因の傷やトナーフィルミングも起こりにくい。さらに、電荷輸送層全層にわたる厚膜を光エネルギー照射により硬化する場合、電荷輸送性構造による吸収から内部への光透過が制限され、硬化反応が充分に進行しない現象が起こることがある。本発明に用いられる電荷輸送性構造を有する架橋型保護層においては、10μm以下の薄膜であることから内部まで均一に硬化反応が進行し、表面と同様に内部でも高い耐摩耗性が維持される。また、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の形成においては、上記3官能性ラジカル重合性モノマーに加え、さらに1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物を含有しており、これが上記3官能以上のラジカル重合性モノマー硬化時に架橋結合中に取り込まれる。これに対し、官能基を有しない低分子電荷輸送物質を架橋表面層中に含有させた場合、その相溶性の低さから低分子電荷輸送物質の析出や白濁現象が起こり、架橋表面層の機械的強度も低下する。一方、2官能以上の電荷輸送性化合物を主成分として用いた場合は複数の結合で架橋構造中に固定され架橋密度はより高まるが、電荷輸送性構造が非常に嵩高いため硬化樹脂構造の歪みが非常に大きくなり、架橋型電荷輸送層の内部応力が高まる原因となる。
更に、本発明の感光体は良好な電気的特性を有し、このため繰り返し安定性に優れており高耐久化並びに高安定化が実現される。これは電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の構成材料として1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物を用い、架橋結合間にペンダント状に固定化したことに起因する。上記のように官能基を有しない電荷輸送物質は析出、白濁現象が起こり、感度の低下、残留電位の上昇等繰り返し使用における電気的特性の劣化が著しい。2官能以上の電荷輸送性化合物を主成分として用いた場合は複数の結合で架橋構造中に固定されるため、電荷輸送時の中間体構造(カチオンラジカル)が安定して保てず、電荷のトラップによる感度の低下、残留電位の上昇が起こりやすい。これらの電気的特性の劣化は、画像濃度低下、文字細り等の画像として現れる。さらに、本発明の感光体においては、下層の電荷輸送層として従来感光体の電荷トラップの少ない高移動度な設計が適応可能で、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の電気的副作用を最小限に抑えることができる。
更に、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層形成において、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層が有機溶剤に対し不溶性にすることにより、特にその飛躍的な耐摩耗性が発揮される。電荷輸送性構造を有する架橋型保護層は電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーと1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物を硬化することにより形成され、層全体としては3次元の網目構造が発達し高い架橋密度を有するが、上記成分以外の含有物(例えば、1または2官能モノマー、高分子バインダー、酸化防止剤、レベリング剤、可塑剤などの添加剤及び下層からの溶解混入成分)や硬化条件により、局部的に架橋密度が希薄になったり、高密度に架橋した微小な硬化物の集合体として形成されることがある。このような架橋型電荷輸送層は、硬化物間の結合力は弱く有機溶剤に対し溶解性を示し、且つ電子写真プロセス中で繰り返し使用されるなかで、局部的な摩耗や微小な硬化物単位での脱離が発生しやすくなる。本発明のように電荷輸送性構造を有する架橋型保護層を有機溶剤に対し不溶性にせしめることにより、本来の3次元の網目構造が発達し高い架橋度を有することに加え、連鎖反応が広い範囲で進行し硬化物が高分子量化するため、飛躍的な耐摩耗性の向上が達成される。
次に、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層塗布液の構成材料について説明する。
本発明に用いられる電荷輸送性を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーとは、例えばトリアリールアミン、ヒドラゾン、ピラゾリン、カルバゾールなどの正孔輸送性構造、例えば縮合多環キノン、ジフェノキノン、シアノ基やニトロ基を有する電子吸引性芳香族環などの電子輸送構造を有しておらず、且つラジカル重合性官能基を3個以上有するモノマーを指す。このラジカル重合性官能基とは、炭素−炭素2重結合を有し、ラジカル重合可能な基であれば何れでもよい。これらラジカル重合性官能基としては、例えば、下記に示す1−置換エチレン官能基、1,1−置換エチレン官能基等が挙げられる。
〔1〕1−置換エチレン官能基としては、例えば以下の式(10)で表わされる官能基が挙げられる。
(ただし、式中、X1は、置換基を有していてもよいフェニレン基、ナフチレン基等のアリーレン基、置換基を有していてもよいアルケニレン基、−CO−基、−COO−基、−CON(R10)−基(R10は、水素、メチル基、エチル基等のアルキル基、ベンジル基、ナフチルメチル基、フェネチル基等のアラルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を表わす。)、または−S−基を表わす。)
これらの置換基を具体的に例示すると、ビニル基、スチリル基、2−メチル−1,3−ブタジエニル基、ビニルカルボニル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミド基、ビニルチオエーテル基等が挙げられる。
〔2〕1,1−置換エチレン官能基としては、例えば以下の式(11)で表わされる官能基が挙げられる。
(ただし、式中、Yは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等のアリール基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、メトキシ基あるいはエトキシ基等のアルコキシ基、−COOR11基(R11は、水素原子、置換基を有していてもよいメチル基、エチル基等のアルキル基、置換基を有していてもよいベンジル、フェネチル基等のアラルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等のアリール基、または−CONR12R13(R12およびR13は、水素原子、置換基を有していてもよいメチル基、エチル基等のアルキル基、置換基を有していてもよいベンジル基、ナフチルメチル基、あるいはフェネチル基等のアラルキル基、または置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等のアリール基を表わし、互いに同一または異なっていてもよい。)、また、X2は上記式(10)のX1と同一の置換基及び単結合、アルキレン基を表わす。ただし、Y、X2の少なくとも何れか一方がオキシカルボニル基、シアノ基、アルケニレン基、及び芳香族環である。)
これらの置換基を具体的に例示すると、α−塩化アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、α−シアノエチレン基、α−シアノアクリロイルオキシ基、α−シアノフェニレン基、メタクリロイルアミノ基等が挙げられる。
なお、これらX、Yについての置換基にさらに置換される置換基としては、例えばハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられる。
これらのラジカル重合性官能基の中では、特にアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が有用であり、3個以上のアクリロイルオキシ基を有する化合物は、例えば水酸基がその分子中に3個以上ある化合物とアクリル酸(塩)、アクリル酸ハライド、アクリル酸エステルを用い、エステル反応あるいはエステル交換反応させることにより得ることができる。また、3個以上のメタクリロイルオキシ基を有する化合物も同様にして得ることができる。また、ラジカル重合性官能基を3個以上有する単量体中のラジカル重合性官能基は、同一でも異なってもよい。
電荷輸送性構造を有しない3官能以上の具体的なラジカル重合性モノマーとしては、以下のものが例示されるが、これらの化合物に限定されるものではない。
すなわち、本発明において使用する上記ラジカル重合性モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパンアルキレン変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシ変性(以後EO変性)トリアクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキシ変性(以後PO変性)トリアクリレート、トリメチロールプロパンカプロラクトン変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンアルキレン変性トリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、グリセロールエピクロロヒドリン変性(以後ECH変性)トリアクリレート、グリセロールEO変性トリアクリレート、グリセロールPO変性トリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、ジペンタエリスリトールカプロラクトン変性ヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル化ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル化ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル化ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、リン酸EO変性トリアクリレート、2,2,5,5,−テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられ、これらは、単独又は2種類以上を併用しても差し支えない。
また、本発明に用いられる電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーとしては、架橋型電荷輸送層中に緻密な架橋結合を形成するために、該モノマー中の官能基数に対する分子量の割合(分子量/官能基数)は250以下が望ましい。また、この割合が250より大きい場合、架橋型電荷輸送層は柔らかく耐摩耗性が幾分低下するため、上記例示したモノマー等中、HPA、EO、PO、カプロラクトン等の変性基を有するモノマーにおいては、極端に長い変性基を有するものを単独で使用することは好ましくはない。また、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層に用いられる電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーの成分割合は、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層全量に対し20〜80重量%、好ましくは30〜70重量%である。モノマー成分が20重量%未満では電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の3次元架橋結合密度が少なく、従来の熱可塑性バインダー樹脂を用いた場合に比べ飛躍的な耐摩耗性向上が達成されない。また、80重量%以上では電荷輸送性化合物の含有量が低下し、電気的特性の劣化が生じる。使用されるプロセスによって要求される電気特性や耐摩耗性が異なり、それに伴い本感光体の電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の膜厚も異なるため一概には言えないが、両特性のバランスを考慮すると30〜70重量%の範囲が最も好ましい。
電荷輸送性構造を有する架橋型保護層に用いられる1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物とは、例えばトリアリールアミン、ヒドラゾン、ピラゾリン、カルバゾールなどの正孔輸送性構造、例えば縮合多環キノン、ジフェノキノン、シアノ基やニトロ基を有する電子吸引性芳香族環などの電子輸送構造を有しており、且つ1個のラジカル重合性官能基を有する化合物を指す。このラジカル重合性官能基としては、先のラジカル重合性モノマーで示したものが挙げられ、特にアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が有用である。また、電荷輸送性構造としてはトリアリールアミン構造が高い効果を有し、中でも下記一般式(1)又は(2)の構造で示される化合物を用いた場合、感度、残留電位等の電気的特性が良好に持続される。
(式中、R
1は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基、−COOR
7(R
7は水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基又は置換基を有してもよいアリール基)、ハロゲン化カルボニル基若しくはCONR
8R
9(R
8及びR
9は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基又は置換基を有してもよいアリール基を示し、互いに同一であっても異なっていてもよい)を表わし、Ar
1、Ar
2は置換もしくは未置換のアリーレン基を表わし、同一であっても異なってもよい。Ar
3、Ar
4は置換もしくは未置換のアリール基を表わし、同一であっても異なってもよい。Xは単結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のシクロアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基、酸素原子、硫黄原子、ビニレン基を表わす。Zは置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル2価基、アルキレンオキシカルボニル2価基を表わす。m、nは0〜3の整数を表わす。)
以下に、一般式(1)、(2)の具体例を示す。
前記一般式(1)、(2)において、R1の置換基中、アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基が、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等がそれぞれ挙げられ、これらは、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等により置換されていてもよい。
R1の置換基のうち、特に好ましいものは水素原子、メチル基である。
置換もしくは未置換のAr3、Ar4はアリール基であり、アリール基としては縮合多環式炭化水素基、非縮合環式炭化水素基及び複素環基が挙げられる。
該縮合多環式炭化水素基としては、好ましくは環を形成する炭素数が18個以下のもの、例えば、ペンタニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、as−インダセニル基、s−インダセニル基、フルオレニル基、アセナフチレニル基、プレイアデニル基、アセナフテニル基、フェナレニル基、フェナントリル基、アントリル基、フルオランテニル基、アセフェナントリレニル基、アセアントリレニル基、トリフェニレル基、ピレニル基、クリセニル基、及びナフタセニル基等が挙げられる。
該非縮合環式炭化水素基としては、ベンゼン、ジフェニルエーテル、ポリエチレンジフェニルエーテル、ジフェニルチオエーテル及びジフェニルスルホン等の単環式炭化水素化合物の1価基、あるいはビフェニル、ポリフェニル、ジフェニルアルカン、ジフェニルアルケン、ジフェニルアルキン、トリフェニルメタン、ジスチリルベンゼン、1,1−ジフェニルシクロアルカン、ポリフェニルアルカン、及びポリフェニルアルケン等の非縮合多環式炭化水素化合物の1価基、あるいは9,9−ジフェニルフルオレン等の環集合炭化水素化合物の1価基が挙げられる。
複素環基としては、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、オキサジアゾール、及びチアジアゾール等の1価基が挙げられる。
また、前記Ar3、Ar4で表わされるアリール基は例えば以下に示すような置換基を有してもよい。
(1)ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基等。
(2)アルキル基、好ましくは、C1〜C12とりわけC1〜C8、さらに好ましくはC1〜C4の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、これらのアルキル基にはさらにフッ素原子、水酸基、シアノ基、C1〜C4のアルコキシ基、フェニル基又はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基もしくはC1〜C4のアルコキシ基で置換されたフェニル基を有していてもよい。具体的にはメチル基、エチル基、n−ブチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−プロピル基、トリフルオロメチル基、2−ヒドロキエチル基、2−エトキシエチル基、2−シアノエチル基、2−メトキシエチル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、4−メチルベンジル基、4−フェニルベンジル基等が挙げられる。
(3)アルコキシ基(−OR2)であり、R2は(2)で定義したアルキル基を表わす。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、t−ブトキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、i−ブトキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、ベンジルオキシ基、トリフルオロメトキシ基等が挙げられる。
(4)アリールオキシ基であり、アリール基としてはフェニル基、ナフチル基が挙げられる。これは、C1〜C4のアルコキシ基、C1〜C4のアルキル基またはハロゲン原子を置換基として含有してもよい。具体的には、フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、4−メトキシフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基等が挙げられる。
(5)アルキルメルカプト基またはアリールメルカプト基であり、具体的にはメチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、p−メチルフェニルチオ基等が挙げられる。
(6)
(式中、R
3及びR
4は各々独立に水素原子、前記(2)で定義したアルキル基、またはアリール基を表わす。アリール基としては、例えばフェニル基、ビフェニル基又はナフチル基が挙げられ、これらはC
1〜C
4のアルコキシ基、C
1〜C
4のアルキル基またはハロゲン原子を置換基として含有してもよい。R
3及びR
4は共同で環を形成してもよい)
具体的には、アミノ基、ジエチルアミノ基、N−メチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N,N−ジ(トリール)アミノ基、ジベンジルアミノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基、ピロリジノ基等が挙げられる。
(7)メチレンジオキシ基、又はメチレンジチオ基等のアルキレンジオキシ基又はアルキレンジチオ基等が挙げられる。
(8)置換又は無置換のスチリル基、置換又は無置換のβ−フェニルスチリル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジトリルアミノフェニル基等。
前記Ar1、Ar2で表わされるアリーレン基としては、前記Ar3、Ar4で表わされるアリール基から誘導される2価基である。
前記Xは単結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のシクロアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基、酸素原子、硫黄原子、ビニレン基を表わす。
置換もしくは無置換のアルキレン基としては、C1〜C12、好ましくはC1〜C8、さらに好ましくはC1〜C4の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、これらのアルキレン基にはさらにフッ素原子、水酸基、シアノ基、C1〜C4のアルコキシ基、フェニル基又はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基もしくはC1〜C4のアルコキシ基で置換されたフェニル基を有していてもよい。具体的にはメチレン基、エチレン基、n−ブチレン基、i−プロピレン基、t−ブチレン基、s−ブチレン基、n−プロピレン基、トリフルオロメチレン基、2−ヒドロキエチレン基、2−エトキシエチレン基、2−シアノエチレン基、2−メトキシエチレン基、ベンジリデン基、フェニルエチレン基、4−クロロフェニルエチレン基、4−メチルフェニルエチレン基、4−ビフェニルエチレン基等が挙げられる。
置換もしくは無置換のシクロアルキレン基としては、C5〜C7の環状アルキレン基であり、これらの環状アルキレン基にはフッ素原子、水酸基、C1〜C4のアルキル基、C1〜C4のアルコキシ基を有していてもよい。具体的にはシクロヘキシリデン基、シクロへキシレン基、3,3−ジメチルシクロヘキシリデン基等が挙げられる。
置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基としては、エチレンオキシ、プロピレンオキシ、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコールを表わし、アルキレンエーテル基アルキレン基はヒドロキシル基、メチル基、エチル基等の置換基を有してもよい。
ビニレン基は、
で表わされ、R
5は水素、アルキル基(前記(2)で定義されるアルキル基と同じ)、アリール基(前記Ar
3、Ar
4で表わされるアリール基と同じ)、aは1または2、bは1〜3を表わす。
前記Zは置換もしくは未置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル2価基、アルキレンオキシカルボニル2価基を表わす。
置換もしくは未置換のアルキレン基としは、前記Xのアルキレン基と同様なものが挙げられる。
置換もしくは無置換のアルキレンエーテル2価基としては、前記Xのアルキレンエーテル基の2価基が挙げられる。
アルキレンオキシカルボニル2価基としては、カプロラクトン変性2価基が挙げられる。
また、本発明の1官能の電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物として更に好ましくは、下記一般式(3)の構造の化合物が挙げられる。
(式中、o、p、qはそれぞれ0又は1の整数、Raは水素原子、メチル基を表わし、Rb、Rcは水素原子以外の置換基で炭素数1〜6のアルキル基を表わし、複数の場合は異なってもよい。s、tは0〜3の整数を表わす。Zaは単結合、メチレン基、エチレン基、
を表わす。)
上記一般式で表わされる化合物としては、Rb、Rcの置換基として、特にメチル基、エチル基である化合物が好ましい。
本発明で用いる上記一般式(1)及び(2)特に(3)の1官能性の電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物は、炭素−炭素間の二重結合が両側に開放されて重合するため、末端構造とはならず、連鎖重合体中に組み込まれ、3官能以上のラジカル重合性モノマーとの重合で架橋形成された重合体中では、高分子の主鎖中に存在し、かつ主鎖−主鎖間の架橋鎖中に存在(この架橋鎖には1つの高分子と他の高分子間の分子間架橋鎖と、1つの高分子内で折り畳まれた状態の主鎖のある部位と主鎖中でこれから離れた位置に重合したモノマー由来の他の部位とが架橋される分子内架橋鎖とがある)するが、主鎖中に存在する場合であってもまた架橋鎖中に存在する場合であっても、鎖部分から懸下するトリアリールアミン構造は、窒素原子から放射状方向に配置する少なくとも3つのアリール基を有し、バルキーであるが、鎖部分に直接結合しておらず鎖部分からカルボニル基等を介して懸下しているため立体的位置取りに融通性ある状態で固定されているので、これらトリアリールアミン構造は重合体中で相互に程よく隣接する空間配置が可能であるため、分子内の構造的歪みが少なく、また、電子写真感光体の表面層とされた場合に、電荷輸送経路の断絶を比較的免れた分子内構造を採りうるものと推測される。
本発明の1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物の具体例を以下に示すが、これらの構造の化合物に限定されるものではない。
また、本発明に用いられる1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物は、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の電荷輸送性能を付与するために重要で、この成分は電荷輸送性構造を有する架橋型保護層に対し20〜80重量%、好ましくは30〜70重量%である。この成分が20重量%未満では電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の電荷輸送性能が充分に保てず、繰り返しの使用で感度低下、残留電位上昇などの電気特性の劣化が現れる。また、80重量%以上では電荷輸送構造を有しない3官能モノマーの含有量が低下し、架橋結合密度の低下を招き高い耐摩耗性が発揮されない。使用されるプロセスによって要求される電気特性や耐摩耗性が異なり、それに伴い本感光体の電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の膜厚も異なるため一概には言えないが、両特性のバランスを考慮すると30〜70重量%の範囲が最も好ましい。
本発明の電荷輸送性構造を有する架橋型保護層は、少なくとも電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーと1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物を硬化したものであるが、これ以外に塗工時の粘度調整、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の応力緩和、低表面エネルギー化や摩擦係数低減などの機能付与の目的で1官能及び2官能のラジカル重合性モノマー及びラジカル重合性オリゴマーを併用することができる。これらのラジカル重合性モノマー、オリゴマーとしては、公知のものが利用できる。
1官能のラジカルモノマーとしては、例えば、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−エチルヘキシルカルビトールアクリレート、3−メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、セチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンモノマーなどが挙げられる。
2官能のラジカル重合性モノマーとしては、例えば、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ビスフェノールA−EO変性ジアクリレート、ビスフェノールF−EO変性ジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなどが挙げられる。
機能性モノマーとしては、例えば、オクタフルオロペンチルアクリレート、2−パーフルオロオクチルエチルアクリレート、2−パーフルオロオクチルエチルメタクリレート、2−パーフルオロイソノニルエチルアクリレートなどのフッ素原子を置換したもの、特公平5−60503号公報、特公平6−45770号公報記載のシロキサン繰り返し単位:20〜70のアクリロイルポリジメチルシロキサンエチル、メタクリロイルポリジメチルシロキサンエチル、アクリロイルポリジメチルシロキサンプロピル、アクリロイルポリジメチルシロキサンブチル、ジアクリロイルポリジメチルシロキサンジエチルなどのポリシロキサン基を有するビニルモノマー、アクリレート及びメタクリレートが挙げられる。
ラジカル重合性オリゴマーとしては、例えば、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリエステルアクリレート系オリゴマーが挙げられる。但し、1官能及び2官能のラジカル重合性モノマーやラジカル重合性オリゴマーを多量に含有させると電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の3次元架橋結合密度が実質的に低下し、耐摩耗性の低下を招く。このためこれらのモノマーやオリゴマーの含有量は、3官能以上のラジカル重合性モノマー100重量部に対し50重量部以下、好ましくは30重量部以下に制限される。
また、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層は少なくとも電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーと1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物を硬化したものであるが、必要に応じてこの硬化反応を効率よく進行させるために電荷輸送性構造を有する架橋型保護層塗布液中に重合開始剤を含有させてもよい。
熱重合開始剤としては、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(パーオキシベンゾイル)ヘキシン−3、ジ−t−ブチルベルオキサイド、t−ブチルヒドロベルオキサイド、クメンヒドロベルオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシ)プロパンなどの過酸化物系開始剤、アゾビスイソブチルニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスイソブチルアミジン塩酸塩、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸などのアゾ系開始剤が挙げられる。
光重合開始剤としては、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−2−モルフォリノ(4−メチルチオフェニル)プロパン−1−オン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、などのアセトフェノン系またはケタール系光重合開始剤、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、などのベンゾインエーテル系光重合開始剤、ベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、2−ベンゾイルナフタレン、4−ベンゾイルビフェニル、4−ベンゾイルフェニールエーテル、アクリル化ベンゾフェノン、1,4−ベンゾイルベンゼン、などのベンゾフェノン系光重合開始剤、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、などのチオキサントン系光重合開始剤、その他の光重合開始剤としては、エチルアントラキノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、メチルフェニルグリオキシエステル、9,10−フェナントレン、アクリジン系化合物、トリアジン系化合物、イミダゾール系化合物、が挙げられる。また、光重合促進効果を有するものを単独または上記光重合開始剤と併用して用いることもできる。例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2−ジメチルアミノ)エチル、4,4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、などが挙げられる。
これらの重合開始剤は1種又は2種以上を混合して用いてもよい。重合開始剤の含有量は、ラジカル重合性を有する総含有物100重量部に対し、0.5〜40重量部、好ましくは1〜20重量部である。
更に、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層塗工液は必要に応じて各種可塑剤(応力緩和や接着性向上の目的)、レベリング剤、ラジカル反応性を有しない低分子電荷輸送物質などの添加剤が含有できる。これらの添加剤は公知のものが使用可能であり、可塑剤としてはジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の一般の樹脂に使用されているものが利用可能で、その使用量は塗工液の総固形分に対し20重量%以下、好ましくは10重量%以下に抑えられる。また、レベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル類や、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーあるいはオリゴマーが利用でき、その使用量は塗工液の総固形分に対し3重量%以下が適当である。
電荷輸送性構造を有する架橋型保護層は、少なくとも上記の電荷輸送構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーと1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物を含有する塗工液を後に記載の電荷輸送層上に塗布、硬化することにより形成される。かかる塗工液はラジカル重合性モノマーが液体である場合、これに他の成分を溶解して塗布することも可能であるが、必要に応じて溶媒により希釈して塗布される。このとき用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系、テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピルエーテルなどのエーテル系、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、セロソルブアセテートなどのセロソルブ系などが挙げられる。これらの溶媒は単独または2種以上を混合して用いてもよい。溶媒による希釈率は組成物の溶解性、塗工法、目的とする膜厚により変わり、任意である。塗布は、浸漬塗工法やスプレーコート、ビードコート、リングコート法などを用いて行なうことができる。
本発明においては、かかる電荷輸送性構造を有する架橋型保護層塗工液を塗布後、外部からエネルギーを与え硬化させ、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層を形成するものであるが、このとき用いられる外部エネルギーとしては熱、光、放射線がある。熱のエネルギーを加える方法としては、空気、窒素などの気体、蒸気、あるいは各種熱媒体、赤外線、電磁波を用い塗工表面側あるいは支持体側から加熱することによって行なわれる。加熱温度は100℃以上、170℃以下が好ましく、100℃未満では反応速度が遅く、完全に硬化反応が終了しない。170℃より高温では硬化反応が不均一に進行し電荷輸送性構造を有する架橋型保護層中に大きな歪みや多数の未反応残基、反応停止末端が発生する。硬化反応を均一に進めるために、100℃未満の比較的低温で加熱後、更に100℃以上に加温し反応を完結させる方法も有効である。光のエネルギーとしては主に紫外光に発光波長をもつ高圧水銀灯やメタルハライドランプなどのUV照射光源が利用できるが、ラジカル重合性含有物や光重合開始剤の吸収波長に合わせ可視光光源の選択も可能である。照射光量は50mW/cm2以上、1000mW/cm2以下が好ましく、50mW/cm2未満では硬化反応に時間を要する。1000mW/cm2より強いと反応の進行が不均一となり、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層表面に局部的な皺が発生したり、多数の未反応残基、反応停止末端が生ずる。また、急激な架橋により内部応力が大きくなり、クラックや膜剥がれの原因となる。放射線のエネルギーとしては電子線を用いるものが挙げられる。これらのエネルギーの中で、反応速度制御の容易さ、装置の簡便さから熱及び光のエネルギーを用いたものが有用である。
電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の膜厚は、1μm以上、10μm以下、さらに好ましくは2μm以上、8μm以下である。10μmより厚い場合、前述のようにクラックや膜剥がれが発生しやすくなり、8μm以下ではその余裕度がさらに向上するため架橋密度を高くすることが可能で、さらに耐摩耗性を高める材料選択や硬化条件の設定が可能となる。一方、ラジカル重合反応は酸素阻害を受けやすく、すなわち大気に接した表面では酸素によるラジカルトラップの影響で架橋が進まなかったり、不均一になりやすい。この影響が顕著に現れるのは表層1μm以下で、この膜厚以下の電荷輸送性構造を有する架橋型保護層は耐摩耗性の低下や不均一な摩耗が起こりやすい。また、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層塗工時において下層の電荷輸送層成分の混入が生ずる。電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の塗布膜厚が薄いと層全体に混入物が拡がり、硬化反応の阻害や架橋密度の低下をもたらす。これらの理由から、本発明の電荷輸送性構造を有する架橋型保護層は1μm以上の膜厚で良好な耐摩耗性、耐傷性を有するが、繰り返しの使用において局部的に下層の電荷輸送層まで削れた部分できるとその部分の摩耗が増加し、帯電性や感度変動から中間調画像の濃度むらが発生しやすい。従って、より長寿命、高画質化のためには電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の膜厚を2μm以上にすることが望ましい。
本発明は更に電荷発生層、電荷輸送層、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層を順次積層した構成において、最表面の電荷輸送性構造を有する架橋型保護層が有機溶剤に対し不溶性であって、飛躍的な耐摩耗性、耐傷性が達成されることを特徴とする場合を含む。この有機溶剤に対する溶解性を試験する方法としては、感光体表面層上に高分子物質に対する溶解性の高い有機溶剤、例えば、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン等を1滴滴下し、自然乾燥後に感光体表面形状の変化を実体顕微鏡で観察することで判定できる。溶解性の感光体は液滴の中心部分が凹状になり周囲が逆に盛り上がる現象、電荷輸送物質が析出し結晶化による白濁やくもり生ずる現象、表面が膨潤しその後収縮することで皺が発生する現象などの変化がみられる。それに対し、不溶性の感光体は上記のような現象がみられず、滴下前と全く変化が現れない。
本発明の構成において、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層を有機溶剤に対し不溶性にするには、〈1〉電荷輸送性構造を有する架橋型保護層塗工液の組成物、それらの含有割合の調整、〈2〉電荷輸送性構造を有する架橋型保護層塗工液の希釈溶媒、固形分濃度の調整、〈3〉電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の塗工方法の選択、〈4〉電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の硬化条件の制御、〈5〉下層の電荷輸送層の難溶解性化など、これらをコントロールすることが重要であるが、一つの因子で達成される訳ではない。
電荷輸送性構造を有する架橋型保護層塗工液の組成物としては、前述した電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマー及び1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物以外に、ラジカル重合性官能基を有しないバインダー樹脂、酸化防止剤、可塑剤等の添加剤を多量に含有させると、架橋密度の低下、反応により生じた硬化物と上記添加物との相分離が生じ、有機溶剤に対し可溶性となる。具体的には塗工液の総固形分に対し上記総含有量を20重量%以下に抑えることが重要である。また、架橋密度を希薄にさせないために、1官能または2官能のラジカル重合性モノマー、反応性オリゴマー、反応性ポリマーにおいても、総含有量を3官能ラジカル重合性モノマーに対し20重量%以下とすることが望ましい。さらに、2官能以上の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物を多量に含有させると、嵩高い構造体が複数の結合により架橋構造中に固定されるため歪みを生じやすく、微小な硬化物の集合体となりやすい。このことが原因で有機溶剤に対し可溶性となることがある。化合物構造によって異なるが、2官能以上の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物の含有量は1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物に対し10重量%以下にすることが好ましい。
電荷輸送性構造を有する架橋型保護層塗工液の希釈溶媒に関しては、蒸発速度の遅い溶剤を用いた場合、残留する溶媒が硬化の妨げとなったり、下層成分の混入量を増加させることがあり、不均一硬化や硬化密度低下をもたらす。このため有機溶剤に対し、可溶性となりやすい。具体的には、テトラヒドロフラン、テトラヒドロフランとメタノール混合溶媒、酢酸エチル、メチルエチルケトン、エチルセロソルブなどが有用であるが、塗工法と合わせて選択される。また、固形分濃度に関しては、同様な理由で低すぎる場合、有機溶剤に対し可溶性となりやすい。逆に膜厚、塗工液粘度の制限から上限濃度の制約をうける。具体的には、10〜50重量%の範囲で用いることが望ましい。電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の塗工方法としては、同様な理由で塗工膜形成時の溶媒含有量、溶媒との接触時間を少なくする方法が好ましく、具体的にはスプレーコート法、塗工液量を規制したリングコート法が好ましい。また、下層成分の混入量を抑えるためには、電荷輸送層として高分子電荷輸送物質を用いること、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の塗工溶媒に対し不溶性の中間層を設けることも有効である。
電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の硬化条件としては、加熱または光照射のエネルギーが低いと硬化が完全に終了せず、有機溶剤に対し溶解性があがる。逆に非常に高いエネルギーにより硬化させた場合、硬化反応が不均一となり未架橋部やラジカル停止部の増加や微小な硬化物の集合体となりやすい。このため有機溶剤に対し溶解性となることがある。有機溶剤に対し不溶性化するには、熱硬化の条件としては100〜170℃、10分〜3時間が好ましく、UV光照射による硬化条件としては50〜1000mW/cm2、5秒〜5分で且つ温度上昇を50℃以下に制御し、不均一な硬化反応を抑えることが望ましい。
本発明の構成において電荷輸送性構造を有する架橋型保護層を有機溶剤に対し不溶性にする手法について例示すると、例えば、塗工液として、3つのアクリロイルオキシ基を有するアクリレートモノマーと、一つのアクリロイルオキシ基を有するトリアリールアミン化合物を使用する場合、これらの使用割合は7:3から3:7であり、また、重合開始剤をこれらアクリレート化合物全量に対し3〜20重量%添加し、さらに溶媒を加えて塗工液を調製する。例えば、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層の下層となる電荷輸送層において、電荷輸送物質としてトリアリールアミン系ドナー、及びバインダー樹脂として、ポリカーボネートを使用し、表面層をスプレー塗工により形成する場合、上記塗工液の溶媒としては、テトラヒドロフラン、2−ブタノン、酢酸エチル等が好ましく、その使用割合は、アクリレート化合物全量に対し3倍量〜10倍量である。
次いで、例えば、アルミシリンダー等の支持体上に、下引き層、電荷発生層、上記電荷輸送層を順次積層した感光体上に、上記調製した塗工液をスプレー等により塗布する。その後、自然乾燥又は比較的低温で短時間乾燥し(25〜80℃、1〜10分間)、UV照射あるいは加熱して硬化させる。
UV照射の場合、メタルハライドランプ等を用いるが、照度は50mW/cm2以上、1000mW/cm2以下が好ましく、例えば200mW/cm2のUV光を照射する場合、例えば硬化に際し、複数のランプからドラム周方向を均一30秒程度照射すればよい。このときドラム温度は50℃を越えないように制御する。
熱硬化の場合、加熱温度は100〜170℃が好ましく、例えば加熱手段として送風型オーブンを用い、加熱温度を150℃に設定した場合、加熱時間は20分〜3時間である。
硬化終了後は、さらに残留溶媒低減のため100〜150℃で10分〜30分加熱して、本発明の感光体を得る。
次に、本発明の新規な電子写真感光体が搭載された電子写真画像形成装置について詳しく説明する。
図17は、本発明の電子写真プロセスおよび電子写真画像形成装置を説明するための概略図である。
図17において、感光体(21)は導電性支持体上に少なくとも上述した方法により、濾過処理を施した電子写真感光体中間層用塗工液を用いて形成された中間層(電荷ブロッキング層もしくは、モアレ防止層:望ましくは電荷ブロッキング層)、電荷発生層、電荷輸送層を含む感光層が設けられてなる。感光体はドラム状の形状を示しているが、シート状、エンドレスベルト状のものであってもよい。帯電ローラ、転写前チャージャ(26)、転写チャージャ(29)、分離チャージャ(30)、クリーニング前チャージャ(32)には、コロトロン、スコロトロン、固体帯電器(ソリッド・ステート・チャージャ)、帯電ローラ、転写ローラを始めとする公知の手段が用いられる。
これらの帯電方式のうち、特に接触帯電方式、あるいは非接触の近接配置方式がより望ましく、帯電効率が高くオゾン発生量が少ない、装置の小型化が可能である等のメリットを有する。
また、画像露光部、除電ランプ等の光源には、蛍光灯、タングステンランプ、ハロゲンランプ、水銀灯、ナトリウム灯、発光ダイオード(LED)、半導体レーザー(LD)、エレクトロルミネッセンス(EL)などの発光物全般を用いることができる。
また、所望の波長域の光のみを照射するために、シャープカットフィルタ、バンドパスフィルタ、近赤外カットフィルタ、ダイクロイックフィルタ、干渉フィルタ、色温度変換フィルタなどの各種フィルタを用いることもできる。
これらの光源のうち、発光ダイオード、及び半導体レーザーは照射エネルギーが高く、また600〜800nmの長波長光を有するため、前述の電荷発生材料であるフタロシアニン顔料が高感度を示すことから良好に使用される。
かかる光源等は、図17に示される工程の他に光照射を併用した転写工程、除電工程、クリーニング工程、あるいは前露光などの工程を設けることにより、感光体に光を照射する。
さて、現像ユニット(25)により感光体上に現像されたトナーは、転写紙(28)に転写されるが、全部が転写されるわけではなく、感光体上に残存するトナーも生ずる。このようなトナーは、ファーブラシ(33)およびブレード(34)により、感光体より除去される。クリーニングは、クリーニングブラシだけで行なわれることもあり、クリーニングブラシにはファーブラシ、マグファーブラシを始めとする公知のものが用いられる。
電子写真感光体に正(負)帯電を施し、画像露光を行なうと、感光体表面上には正(負)の静電潜像が形成される。これを負(正)極性のトナー(検電微粒子)で現像すれば、ポジ画像が得られ、また正(負)極性のトナーで現像すれば、ネガ画像が得られる。
かかる現像手段には、公知の方法が適用されるし、また、除電手段にも公知の方法が用いられる。
次に、本発明の新規な電子写真感光体が搭載された画像形成要素について、説明する。
画像形成要素は、少なくとも上述した方法により、濾過処理を施した電子写真感光体中間層用塗工液を用いて形成された中間層(電荷ブロッキング層もしくは、モアレ防止層:望ましくは電荷ブロッキング層)、および感光層から構成される電子写真感光体と、その周りに少なくとも帯電部材、現像部材およびクリーニング部材が配置されたユニットとして構成され、複数色のトナーが用いられるカラー電子写真画像形成装置の場合には、その色の数に応じた数の画像形成要素が搭載され、また各画像形成要素は画像形成装置に固定しても、また個別に差し替え使用可能とすることもできる。
図18は、画像形成要素を複数具備してなる電子写真画像形成装置(一般的には、タンデム方式のフルカラー電子写真画像形成装置と呼ばれる)を説明するための概略図であり、下記するような変形例も本発明の範疇に属するものである。
図18において、符号(1C,1M,1Y,1K)はドラム状の感光体であり、この感光体(1C,1M,1Y,1K)は図中の矢印方向に回転し、その周りに少なくとも回転順に帯電部材(2C,2M,2Y,2K)、現像部材(4C,4M,4Y,4K)、クリーニング部材(5C,5M,5Y,5K)が配置されている。帯電部材(2C,2M,2Y,2K)は、感光体表面を均一に帯電するための帯電装置を構成する帯電部材である。
この帯電部材(2C,2M,2Y,2K)と現像部材(4C,4M,4Y,4K)の間の感光体裏面側より、図示しない露光部材からのレーザ光(3C,3M,3Y,3K)が照射され、感光体(1C,1M,1Y,1K)に静電潜像が形成されるようになっている。そして、このような感光体(1C,1M,1Y,1K)を中心とした4つの画像形成要素(6C,6M,6Y,6K)が、転写材搬送手段である転写搬送ベルト(10)に沿って並置されている。転写搬送ベルト(10)は各画像形成ユニット(6C,6M,6Y,6K)の現像部材(4C,4M,4Y,4K)とクリーニング部材(5C,5M,5Y,5K)の間で感光体(1C,1M,1Y,1K)に当接しており、転写搬送ベルト(10)の感光体側の裏側に当たる面(裏面)には転写バイアスを印加するための転写ブラシ(11C,11M,11Y,11K)が配置されている。各画像形成要素(6C,6M,6Y,6K)は現像装置内部のトナーの色が異なることであり、その他は全て同様の構成となっている。
図18に示す構成のカラー電子写真画像形成装置において、画像形成動作は次のようにして行なわれる。まず、各画像形成要素(6C,6M,6Y,6K)において、感光体(1C,1M,1Y,1K)が矢印方向(感光体と連れ周り方向)に回転する帯電部材(2C,2M,2Y,2K)により帯電され、次に感光体の内側に配置された露光部(図示しない)でレーザー光(3C,3M,3Y,3K)により、作成する各色の画像に対応した静電潜像が形成される。
次に現像部材(4C,4M,4Y,4K)により潜像を現像してトナー像が形成される。現像部材(4C,4M,4Y,4K)は、それぞれC(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー),K(ブラック)のトナーで現像を行なう現像部材で、4つの感光体(1C,1M,1Y,1K)上で作られた各色のトナー像は転写紙上で重ねられる。
転写紙(7)は給紙コロ(8)によりトレイから送り出され、一対のレジストローラ(9)で一旦停止し、上記感光体上への画像形成とタイミングを合わせて転写搬送ベルト(10)に送られる。転写搬送ベルト(10)上に保持された転写紙(7)は搬送されて、各感光体(1C,1M,1Y,1K)との当接位置(転写部)で各色トナー像の転写が行なわれる。
感光体上のトナー像は、転写ブラシ(11C,11M,11Y,11K)に印加された転写バイアスと感光体(1C,1M,1Y,1K)との電位差から形成される電界により、転写紙(7)上に転写される。そして4つの転写部を通過して4色のトナー像が重ねられた記録紙(7)は定着装置(12)に搬送され、トナーが定着されて、図示しない排紙部に排紙される。また、転写部で転写されずに各感光体(1C,1M,1Y,1K)上に残った残留トナーは、クリーニング装置(5C,5M,5Y,5K)で回収される。なお、図18の例では画像形成要素は、転写紙搬送方向上流側から下流側に向けて、C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー),K(ブラック)の色の順で並んでいるが、この順番に限るものではなく、色順は任意に設定されるものである。
また、黒色のみの原稿を作成する際には、黒色以外の画像形成要素(6C,6M,6Y)が停止するような機構を設けることは本発明に特に有効に利用できる。更に、図18において帯電部材は感光体と当接しているが、両者の間に適当なギャップ(10〜200μm程度)を設けることにより、両者の摩耗量が低減できると共に、帯電部材へのトナーフィルミングが少なくて済み良好に使用できる。
以上説明した画像形成要素は、複写機、ファクシミリあるいはプリンター等の電子写真画像形成装置内に固定して組み込まれていてもよいが、プロセスカートリッジの形でそれら装置に脱着自在の構成にして組み込まれてもよい。
また、このプロセスカートリッジとしては、フルカラー電子写真画像形成装置に用いられる前記の画像形成要素という意味でなく、1色のみの画像形成用のモノカラー画像形成装置に脱着自在の構成であってもよく、本発明の少なくとも上述した方法により、濾過処理を施した電子写真感光体中間層用塗工液を用いて形成された中間層(電荷ブロッキング層もしくは、モアレ防止層:望ましくは電荷ブロッキング層)、および感光層から構成される電子写真感光体を内蔵し、さらに他に帯電手段、露光手段、現像手段、転写手段、クリーニング手段および除電手段等の少なくとも1つを具備するものについても、本発明に包含される。なお、前記の各画像形成手段のうち、プロセスカートリッジに具備されないものは、画像形成装置側に具備される。
プロセスカートリッジの形状等は多く挙げられるが、一般的な例として図19に示すものが挙げられる。
以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明が実施例により制約を受けるものではない。なお、部はすべて重量部である。
(使用材料の調製1)
特許文献38に記載の方法に準じて、N−メトキシメチル化ナイロンの再沈殿を行なった。
即ち、N−メトキシメチル化ナイロン(FR101、鉛市製)20gをメタノール200gに加熱溶解する。溶解後、室温まで冷却して、撹拌した2500gのアセトンに、前記メタノール溶液を40分かけて滴下して、再沈を行なった。
得られた沈殿分を吸引濾過(桐山濾紙;No.4)して分離し、アセトンにて洗浄した後、80℃にて2日間真空乾燥し、材料を得た(材料Aとする)。
(使用材料の調製2)
特許第2718044号公報に記載の方法に準じて、N−メトキシメチル化ナイロンの再沈殿を行なった。
即ち、N−メトキシメチル化ナイロン(FR101、鉛市製)50gをメタノール200gに加熱溶解した後、室温まで冷却して、撹拌した蒸留水10Lに、前記メタノール溶液を40分かけて滴下して、再沈を行なった。得られた沈殿分を吸引濾過(桐山濾紙;No.4)して分離し、蒸留水にて洗浄した。
更に、濾別された沈殿分を再びメタノール200gに溶解して、同様に蒸留水にて再沈殿を行なった。その後、濾別された沈殿分を100℃にて2日間真空乾燥し、材料を得た(材料Bとする)。
(比較例1)
未処理のN−メトキシメチル化ナイロン(FR101、鉛市製) 50部
メタノール 700部
n−ブタノール 300部
加熱したメタノールとブタノールの混合溶媒に、N−メトキシメチル化ナイロンを加え、撹拌した。完全に溶解した時点で加熱をやめ、室温まで冷却して塗工液を作製した(中間層用塗工液1とする)。
(比較例2)
比較例1において、使用材料を調製1により処理された材料Aに変更した以外は、比較例1と同様に塗工液を作製した(中間層用塗工液2とする)。
(比較例3)
比較例1において、使用材料を調製2により処理された材料Bに変更した以外は、比較例1と同様に塗工液を作製した(中間層用塗工液3とする)。
(参考例1)
比較例1で作製した塗工液1を、アドバンテック社製、コットンワインドカートリッジフィルター、TCW−1−CS(有効孔径1μm)を用いて、濾過を行なった。濾過に際しては、ポンプを使用し、加圧状態で濾過を行なった(中間層用塗工液4とする)。
(参考例2)
参考例1で使用したフィルタを、アドバンテック社製、コットンワインドカートリッジフィルター、TCW−3−CS(有効孔径3μm)に変えた以外は、参考例1と同様に加圧濾過を行ない、塗工液を作製した(中間層用塗工液5とする)。
(比較例4)
参考例1で使用したフィルタを、アドバンテック社製、コットンワインドカートリッジフィルター、TCW−5−CS(有効孔径5μm)に変えた以外は、参考例1と同様に加圧濾過を行ない、塗工液を作製した(中間層用塗工液6とする)。
(参考例3)
参考例2において、濾過処理を実施する前に、塗工液1を密閉した容器に入れ、10℃に保った恒温槽に24時間保管し、室温に戻してから濾過を実施した以外は、参考例2と同様に濾過処理を行なった(中間層用塗工液7とする)。
(参考例1〜3及び比較例1〜4)
以上のように作製した中間層用塗工液1〜7を密閉したフラスコ内で22±1℃の環境下において、1ヶ月間保存した。以上のように作製した塗工液1〜7を、以下の評価に供した。
[塗工液安定性評価]
目視による塗工液の状態を評価した。特に塗工液の白濁性、よどみ具合(部分的なゲル化を生じているか否か)に注目した。
(2)塗工液粘度特性評価
塗工液の粘度をTV−30型粘度計(東機産業製:TVE−30L、コーンプレートタイプ)を用いて測定した。
(粘度計測定条件)
コーンプレートローター:1°34’×R24、
測定循環水温度:22℃、
プレヒート時間:1分
回転数:1、2.5、5、10、20、50、100、50、20、10、5、2.5、1r.p.m.の順に測定した。
この際、図3〜図5に示すような粘度特性を評価した。また、100rpmでの測定値を表2に示す。
なお、それぞれの塗工液の粘度値は、測定開始から1分後の値を採用した。
(3)膜厚ムラ評価
上記中間層用塗工液1〜7を用いて直径30mm×長さ340mmのアルミドラムに塗膜を形成した。膜厚は、0.7μmになるように浸漬塗工法により塗布成膜し、加熱乾燥して膜厚ムラ評価用のサンプルとした。
塗工液としては、中間層用塗工液1〜7の保存前後いずれも使用し、それぞれの膜厚ムラの状態について評価した。
これらについて、光干渉法による膜厚測定装置を用いてドラムの長手及び周方向に膜厚を測定し、膜厚ムラを評価した。
○:ムラがなく均一である、△:若干ムラがあるが、問題ないレベル、×:ムラがひどい
表2より明らかなように、本発明の塗工液製造方法によって、初期状態において塗工液の粘度特性を改質して、塗膜ムラの少ない塗工液にすることができる。
また、保存後においても膜厚ムラの少ない均一な塗膜が成膜できることが判る。
濾過処理におけるフィルタの有効孔径が3μmを超える場合には、僅かの効果が認められるものの、その効果が充分でないことが分かる。
次に、実施例、参考例で使用するチタニルフタロシアニンの合成例を示す。
(合成例1)
特開2001−19871号公報に準じて、顔料を作製した。すなわち、1,3−ジイミノイソインドリン29.2gとスルホラン200mlを混合し、窒素気流下でチタニウムテトラブトキシド20.4gを滴下する。滴下終了後、徐々に180℃まで昇温し、反応温度を170℃〜180℃の間に保ちながら5時間撹拌して反応を行なった。反応終了後、放冷した後析出物を濾過し、クロロホルムで粉体が青色になるまで洗浄し、つぎにメタノールで数回洗浄し、さらに80℃の熱水で数回洗浄した後乾燥し、粗チタニルフタロシアニンを得た。粗チタニルフタロシアニンを20倍量の濃硫酸に溶解し、100倍量の氷水に撹拌しながら滴下し、析出した結晶をろ過、ついで洗浄液が中性になるまで水洗いを繰り返し(洗浄後のイオン交換水のpH値は6.8であった)、チタニルフタロシアニン顔料のウェットケーキ(水ペースト)を得た。得られたこのウェットケーキ(水ペースト)40gをテトラヒドロフラン200gに投入し、4時間攪拌を行なった後、濾過を行ない、乾燥して、チタニルフタロシアニン粉末を得た。これを顔料1とする。
上記ウェットケーキの固形分濃度は、15重量%であった。結晶変換溶媒のウェットケーキに対する重量比は33倍である。尚、合成例1の原材料には、ハロゲン化物を使用していない。
得られたチタニルフタロシアニン粉末を、下記の条件によりX線回折スペクトル測定したところ、Cu−Kαの特性X線(波長1.542Å)に対するブラッグ角2θが27.2±0.2°に最大ピークと最低角7.3±0.2°にピークを有し、かつ7.3°のピークと9.4°のピークの間にピークを有さず、かつ26.3°にピークを有さないチタニルフタロシアニン粉末を得られた。その結果を図20に示す。
また、合成例1で得られた水ペーストの一部を80℃の減圧下(5mmHg)で、2日間乾燥して、低結晶性チタニルフタロシアニン粉末を得た。水ペーストの乾燥粉末のX線回折スペクトルを図21に示す。
(X線回折スペクトル測定条件)
X線管球:Cu
電圧:50kV
電流:30mA
走査速度:2°/分
走査範囲:3°〜40°
時定数:2秒
(合成例2)
合成例1の方法に従って、チタニルフタロシアニン顔料の水ペーストを合成し、次のように結晶変換を行ない、合成例1よりも一次粒子の小さなフタロシアニン結晶を得た。
合成例1で得られた結晶変換前の水ペースト60部にテトラヒドロフラン400部を加え、室温下でホモミキサー(ケニス、MARKIIfモデル)により強烈に撹拌(2000rpm)し、ペーストの濃紺色の色が淡い青色に変化したら(撹拌開始後20分)、撹拌を停止し、直ちに減圧濾過を行なった。濾過装置上で得られた結晶をテトラヒドロフランで洗浄し、顔料のウェットケーキを得た。これを減圧下(5mmHg)、70℃で2日間乾燥して、チタニルフタロシアニン結晶8.5部を得た。これを顔料2とする。合成例2の原材料には、ハロゲン化物を使用していない。上記ウェットケーキの固形分濃度は、15重量%であった。結晶変換溶媒のウェットケーキに対する重量比は44倍である。
合成例1で作製された結晶変換前チタニルフタロシアニン(水ペースト)の一部をイオン交換水でおよそ1重量%になるように希釈し、表面を導電性処理した銅製のネットですくい取り、チタニルフタロシアニンの粒子サイズを透過型電子顕微鏡(TEM、日立:H−9000NAR)にて、75000倍の倍率で観察を行なった。平均粒子サイズは、以下のように求めた。
上述のように観察されたTEM像をTEM写真として撮影し、映し出されたチタニルフタロシアニン粒子(針状に近い形)を30個任意に選び出し、それぞれの長径の大きさを測定する。測定した30個体の長径の算術平均を求めて、平均粒子サイズとした。
以上の方法により求められた合成例1における水ペースト中の平均粒子サイズは、0.06μmであった。
また、合成例1及び合成例2における濾過直前の結晶変換後チタニルフタロシアニン結晶を、テトラヒドロフランでおよそ1重量%になるように希釈し、上の方法と同様に観察を行なった。上記のようにして求めた平均粒子サイズを表3に示す。なお、合成例1及び合成例2で作製されたチタニルフタロシアニン結晶は、必ずしも全ての結晶の形が同一ではなかった(三角形に近い形、四角形に近い形など)。このため、結晶の最も大きな対角線の長さを長径として、計算を行なった。
表3から、合成例1で作製された顔料1は、平均粒子サイズが大きいだけでなく、粗大粒子を含んでいる。これに対し、合成例2で作製された顔料2は、平均粒子サイズが小さいだけでなく、個々の1次粒子の大きさもほぼ揃っていることが分かる。
(合成例3)
特開平1―299874号(特許第2512081号)公報の実施例1に記載の方法に準じて、顔料を作製した。すなわち、先の合成例1で作製したウェットケーキを乾燥し、乾燥物1gをポリエチレングリコール50gに加え、100gのガラスビーズと共に、サンドミルを行なった。結晶転移後、希硫酸、水酸化アンモニウム水溶液で順次洗浄し、乾燥して顔料を得た。これを顔料3とする。合成例3の原材料には、ハロゲン化物を使用していない。
(合成例4)
特開平3―269064号(特許第2584682号)公報の製造例1に記載の方法に準じて、顔料を作製した。すなわち、先の合成例1で作製したウェットケーキを乾燥し、乾燥物1gをイオン交換水10gとモノクロルベンゼン1gの混合溶媒中で1時間撹拌(50℃)した後、メタノールとイオン交換水で洗浄し、乾燥して顔料を得た。これを顔料4とする。合成例4の原材料には、ハロゲン化物を使用していない。
(合成例5)
特開平2―8256号(特公平7―91486号)公報の製造例に記載の方法に準じて、顔料を作製した。すなわち、フタロジニトリル9.8gと1−クロロナフタレン75mlを撹拌混合し、窒素気流下で四塩化チタン2.2mlを滴下する。滴下終了後、徐々に200℃まで昇温し、反応温度を200℃〜220℃の間に保ちながら3時間撹拌して反応を行なった。反応終了後、放冷し130℃になったところ熱時ろ過し、次いで1−クロロナフタレンで粉体が青色になるまで洗浄、次にメタノールで数回洗浄し、さらに80℃の熱水で数回洗浄した後、乾燥し顔料を得た。これを顔料5とする。合成例5の原材料には、ハロゲン化物を使用している。
(合成例6)
特開昭64―17066号(特公平7―97221号公報の合成例1に記載の方法に準じて、顔料を作製した。すなわち、α型TiOPc5部を食塩10gおよびアセトフェノン5gと共にサンドグラインダーにて100℃にて10時間結晶変換処理を行なった。これをイオン交換水及びメタノールで洗浄し、希硫酸水溶液で精製し、イオン交換水で酸分がなくなるまで洗浄した後、乾燥して顔料を得た。これを顔料6とする。合成例6の原材料には、ハロゲン化物を使用している。
(合成例7)
特開平11―5919号(特許第3003664号)公報の実施例1に記載の方法に準じて、顔料を作製した。すなわち、O−フタロジニトリル20.4部、四塩化チタン部7.6部をキノリン50部中で200℃にて2時間加熱反応後、水蒸気蒸留で溶媒を除き、2%塩化水溶液、続いて2%水酸化ナトリウム水溶液で精製し、メタノール、N,N−ジメチルホルムアミドで洗浄後、乾燥し、チタニルフタロシアニンを得た。このチタニルフタロシアニン2部を5℃の98%硫酸40部の中に少しずつ溶解し、その混合物を約1時間、5℃以下の温度を保ちながら攪拌する。続いて硫酸溶液を高速攪拌した400部の氷水中に、ゆっくりと注入し、析出した結晶を濾過する。結晶を酸が残量しなくなるまで蒸留水で洗浄し、ウェットケーキを得る。そのケーキをTHF100部中で約5時間攪拌を行ない、ろ過、THFによる洗浄を行ない乾燥後、顔料を得た。これを顔料7とする。合成例7の原材料には、ハロゲン化物を使用している。
(合成例8)
特開平3―255456号(特許第3005052号)公報の合成例2に記載の方法に準じて、顔料を作製した。すなわち、先の合成例1で作製したウェットケーキ10部を塩化ナトリウム15部とジエチレングリコール7部に混合し、80℃の加熱下で自動乳鉢により60時間ミリング処理を行なった。次に、この処理品に含まれる塩化ナトリウムとジエチレングリコールを完全に除去するために充分な水洗を行なった。これを減圧乾燥した後にシクロヘキサノン200部と直径1mmのガラスビーズを加えて、30分間サンドミルにより処理を行ない、顔料を得た。これを顔料8とする。合成例8の原材料には、ハロゲン化物を使用していない。
(合成例9)
特開平8―110649号公報のチタニルフタロシアニン結晶体の製造方法に準じて、顔料を作製した。即ち、1,3−ジイミノイソインドリン58g、テトラブトキシチタン51gをα−クロロナフタレン300mL中で210℃にて5時間反応後、α−クロロナフタレン、ジメチルホルムアミド(DMF)の順で洗浄した。その後、熱DMF、熱水、メタノールで洗浄、乾燥して50gのチタニルフタロシアニンを得た。チタニルフタロシアニン4gを0℃に冷却した硫酸400g中に加え、引き続き0℃、1時間撹拌した。フタロシアニンが完全に溶解したことを確認した後、0℃に冷却した水800mL/トルエン800mL混合液中に添加した。室温で2時間撹拌後、析出したフタロシアニン結晶体を混合液より濾別し、メタノール、水の順で洗浄した。洗浄水の中性を確認した後、洗浄水よりフタロシアニン結晶体を濾別し、乾燥して、2.9gのチタニルフタロシアニン結晶体を得た。これを顔料9とする。合成例9の原材料には、ハロゲン化物を使用していない。
以上の合成例3〜9で作製した顔料は、前述と同様の方法でX線回折スペクトルを測定し、それぞれの公報に記載のスペクトルと同様であることを確認した。また、合成例2で作製した顔料のX線回折スペクトルは、合成例1で作製した顔料のスペクトルと一致した。表4にそれぞれのX線回折スペクトルと合成例1で得られた顔料のX線回折スペクトルのピーク位置の特徴を示す。
次に、前述のようにして合成した電荷発生物質を用いた電荷発生層塗工用の分散液の作製方法について説明する。
(分散液作製例1)
合成例1で作製した顔料1を下記組成の処方にて、下記に示す条件にて分散を行ない電荷発生層用塗工液として、分散液を作製した。
チタニルフタロシアニン顔料(顔料1) 15部
ポリビニルブチラール(積水化学製:BX−1) 10部
2−ブタノン 280部
市販のビーズミル分散機に直径0.5mmのPSZボールを用い、ポリビニルブチラールを溶解した2−ブタノンおよび顔料を全て投入し、ローター回転数1200r.p.m.にて30分間分散を行ない、分散液を作製した。これを電荷発生層用塗工液1とする。
(分散液作製例2〜9)
分散液作製例1で使用した顔料1に変えて、それぞれ顔料2〜9を使用して分散液作製例1と同じ条件にて分散液を作製した。これを顔料番号に対応して、それぞれ電荷発生層用塗工液2〜9とする。
(分散液作製例10)
分散液作製例1で作製した電荷発生層用塗工液1を、アドバンテック社製、コットンワインドカートリッジフィルター、TCW−1−CS(有効孔径1μm)を用いて、濾過を行なった。濾過に際しては、ポンプを使用し、加圧状態で濾過を行なった。これを電荷発生層用塗工液10とする。
(分散液作製例11)
分散液作製例10で使用したフィルタを、アドバンテック社製、コットンワインドカートリッジフィルター、TCW−3−CS(有効孔径3μm)に変えた以外は、分散液作製例10と同様に加圧濾過を行ない分散液を作製した。これを電荷発生層用塗工液11とする。
(分散液作製例12)
分散液作製例10で使用したフィルタを、アドバンテック社製、コットンワインドカートリッジフィルター、TCW−5−CS(有効孔径5μm)に変えた以外は、分散液作製例10と同様に加圧濾過を行ない分散液を作製した。これを電荷発生層用塗工液12とする。
(分散液作製例13)
分散液作製例1における分散条件において、ローター回転数を1000r.p.m.にて20分間に変更した以外はすべて分散液作製例1と同様にして分散を行なった。これを電荷発生層用塗工液13とする。
(分散液作製例14)
分散液作製例13で作製した分散液をアドバンテック社製、コットンワインドカートリッジフィルター、TCW−1−CS(有効孔径1μm)を用いて、濾過を行なった。濾過に際しては、ポンプを使用し、加圧状態で濾過を行なった。これを電荷発生層用塗工液14とする。
以上のように作製した分散液中の顔料粒子の粒度分布を、堀場製作所:CAPA−700にて測定した。結果を表5に示す。
電荷発生層用塗工液14については、濾過の途中でフィルタが目詰まりを起こして、全ての分散液を濾過することができなかったため、評価は実施できなかった。
(分散液作製例15)
下記組成の分散液をボールミリングにより作製した。分散は72時間行ない、分散液を作製した。これを電荷発生層用塗工液15とする。
ブチラール樹脂:エスレックBMS(積水化学製) 5部
下記構造式のトリスアゾ顔料 15部
シクロヘキサノン 700部
2−ブタノン 300部
(感光体の作製)
続いて、前述の電子写真感光体中間層用塗工液を用いた電子写真感光体の作製方法について説明する。ここで使用する中間層用塗工液は、先に作製した塗工液1〜7の保存前と1ヶ月保存後の塗工液を使用した。
(比較例5)
直径60mmのアルミニウムシリンダー(JIS1050)に、下記に示すモアレ防止層塗工液、電荷ブロッキング層塗工液、電荷発生層塗工液、および電荷輸送層塗工液を、順次塗布・乾燥し、0.5μmの電荷ブロッキング層、3.5μmのモアレ防止層、0.3μmの電荷発生層、25μmの電荷輸送層を形成した以外は同様にして作製した。これを感光体1とする。
◎電荷ブロッキング層用塗工液
中間層用塗工液1(保存前)を用いた。
◎モアレ防止層塗工液
酸化チタン(CR−EL:石原産業社製) 120部
アルキッド樹脂 14部
[ベッコライトM6401−50−S(固形分50%)、大日本インキ化学工業製]
メラミン樹脂 10部
[スーパーベッカミンL−121−60(固形分60%)、大日本インキ化学工業製]
2−ブタノン 140部
◎電荷発生層塗工液
前述の電荷発生層用塗工液2を用いた。
◎電荷輸送層塗工液
ポリカーボネート(TS2050:帝人化成社製) 10部
下記構造式の電荷輸送物質 7部
(比較例6)
比較例5において、電荷ブロッキング層塗工液として、中間層用塗工液1(保存後)を用いた以外は、比較例5と同様にして感光体を作製した。これを感光体2とする。
(比較例7)
比較例5において、電荷ブロッキング層塗工液として、中間層用塗工液2(保存前)を用いた以外は、比較例5と同様にして感光体を作製した。これを感光体3とする。
(比較例8)
比較例5において、電荷ブロッキング層塗工液として、中間層用塗工液2(保存後)を用いた以外は、比較例5と同様にして感光体を作製した。これを感光体4とする。
(比較例9)
比較例5において、電荷ブロッキング層塗工液として、中間層用塗工液3(保存前)を用いた以外は、比較例5と同様にして感光体を作製した。これを感光体5とする。
(比較例10)
比較例5において、電荷ブロッキング層塗工液として、中間層用塗工液3(保存後)を用いた以外は、比較例5と同様にして感光体を作製した。これを感光体6とする。
(参考例4)
比較例5において、電荷ブロッキング層塗工液として、中間層用塗工液4(保存前)を用いた以外は、比較例5と同様にして感光体を作製した。これを感光体7とする。
(参考例5)
比較例5において、電荷ブロッキング層塗工液として、中間層用塗工液4(保存後)を用いた以外は、比較例5と同様にして感光体を作製した。これを感光体8とする。
(参考例6)
比較例5において、電荷ブロッキング層塗工液として、中間層用塗工液5(保存前)を用いた以外は、比較例5と同様にして感光体を作製した。これを感光体9とする。
(参考例7)
比較例5において、電荷ブロッキング層塗工液として、中間層用塗工液5(保存後)を用いた以外は、比較例5と同様にして感光体を作製した。これを感光体10とする。
(比較例11)
比較例5において、電荷ブロッキング層塗工液として、中間層用塗工液6(保存前)を用いた以外は、比較例5と同様にして感光体を作製した。これを感光体11とする。
(比較例12)
比較例5において、電荷ブロッキング層塗工液として、中間層用塗工液6(保存後)を用いた以外は、比較例5と同様にして感光体を作製した。これを感光体12とする。
(参考例8)
比較例5において、電荷ブロッキング層塗工液として、中間層用塗工液7(保存前)を用いた以外は、比較例5と同様にして感光体を作製した。これを感光体13とする。
(参考例9)
比較例5において、電荷ブロッキング層塗工液として、中間層用塗工液7(保存後)を用いた以外は、比較例5と同様にして感光体を作製した。これを感光体14とする。
(参考例4〜9および比較例5〜12)
以上のように作製した感光体1〜14を図17に示す画像形成装置に搭載し、画像露光光源を780nmの半導体レーザー(ポリゴン・ミラーによる画像書き込み)、帯電部材としてスコロトロン帯電器、転写部材として転写ベルトを用い、感光体の帯電電位が−800Vになるように帯電を施し、書き込み率6%のチャートを用い、2万枚の通紙試験を実施した。初期1枚目及び連続2万枚後に、ハーフトーン画像および白ベタを出力、評価し、画像濃度均一性、及び地汚れの有無を確認した(試験環境は、22℃−55%RHである)。尚、地汚れ画像評価は4段階にて行ない、極めて良好なものを◎、良好なものを○、やや劣るものを△、非常に悪いものを×で表わした。以上の結果を表6に示す。
また、2万枚の試験後に、低温低湿(10℃−15%RH)環境下で画像出力を行なった。結果を表6に併せて示す。
表6から分かるように、本発明の塗工液製造方法によって作製した中間層用塗工液を用いることにより、塗工液の保存前、保存後においても良好な画像を形成する感光体を得ることができる。
また、濾過処理におけるフィルタの有効孔径が3μmを超える場合には、僅かの効果が認められるものの、その効果が充分でないことが分かる。
(参考例10)
参考例5において、電荷発生層用塗工液として、電荷発生層用塗工液1を用いた以外は、参考例5と同様に感光体を作製した。これを感光体15とする。
(参考例11)
参考例5において、電荷発生層用塗工液として、電荷発生層用塗工液3を用いた以外は、参考例5と同様に感光体を作製した。これを感光体16とする。
(参考例12)
参考例5において、電荷発生層用塗工液として、電荷発生層用塗工液4を用いた以外は、参考例5と同様に感光体を作製した。これを感光体17とする。
(参考例13)
参考例5において、電荷発生層用塗工液として、電荷発生層用塗工液5を用いた以外は、参考例5と同様に感光体を作製した。これを感光体18とする。
(参考例14)
参考例5において、電荷発生層用塗工液として、電荷発生層用塗工液6を用いた以外は、参考例5と同様に感光体を作製した。これを感光体19とする。
(参考例15)
参考例5において、電荷発生層用塗工液として、電荷発生層用塗工液7を用いた以外は、参考例5と同様に感光体を作製した。これを感光体20とする。
(参考例16)
参考例5において、電荷発生層用塗工液として、電荷発生層用塗工液8を用いた以外は、参考例5と同様に感光体を作製した。これを感光体21とする。
(参考例17)
参考例5において、電荷発生層用塗工液として、電荷発生層用塗工液9を用いた以外は、参考例5と同様に感光体を作製した。これを感光体22とする。
(参考例18)
参考例5において、電荷発生層用塗工液として、電荷発生層用塗工液10を用いた以外は、参考例5と同様に感光体を作製した。これを感光体23とする。
(参考例19)
参考例5において、電荷発生層用塗工液として、電荷発生層用塗工液11を用いた以外は、参考例5と同様に感光体を作製した。これを感光体24とする。
(参考例20)
参考例5において、電荷発生層用塗工液として、電荷発生層用塗工液12を用いた以外は、参考例5と同様に感光体を作製した。これを感光体25とする。
(参考例21)
参考例5において、電荷発生層用塗工液として、電荷発生層用塗工液13を用いた以外は、参考例5と同様に感光体を作製した。これを感光体26とする。
(参考例22)
参考例5において、電荷発生層用塗工液として、電荷発生層用塗工液15を用いた以外は、参考例5と同様に感光体を作製した。これを感光体27とする。
(参考例10〜22)
以上のように作製した感光体15〜27を図17に示す画像形成装置に搭載し、画像露光光源を780nmの半導体レーザー(ポリゴン・ミラーによる画像書き込み)、帯電部材としてスコロトロン帯電器、転写部材として転写ベルトを用い、感光体の帯電電位が−800Vになるように帯電を施し、書き込み率6%のチャートを用い、2万枚の通紙試験を実施した。初期1枚目及び連続2万枚後に、ハーフトーン画像および白ベタを出力、評価し、画像濃度均一性、及び地汚れの有無を確認した(試験環境は、22℃−55%RHである)。尚、地汚れ画像評価は4段階にて行ない、極めて良好なものを◎、良好なものを○、やや劣るものを△、非常に悪いものを×で表わした。以上の結果を参考例5と併せて表7に示す。
また、2万枚の試験後に、低温低湿(10℃−15%RH)環境下で画像出力を行なった。結果を表7に併せて示す。
表7から明らかなように、アゾ顔料を用いた場合(感光体27)には、その他の感光体(いずれもチタニルフタロシアニンを使用)を用いた場合に比べて、繰り返し使用後において画像濃度低下が発生した。
また、チタニルフタロシアニンを用いた場合でも、特定の結晶型(合成例1のチタニルフタロシアニンの結晶型)を有する場合(感光体8、10、23、24)には、良好な特性を示す。
更に、合成例1の結晶型のチタニルフタロシアニンを用いた場合でも、一次粒子サイズを0.25μmにすることにより、繰り返し使用後の地汚れ特性が特に良好になることが判る(感光体8、23、24)。一次粒子を0.25μm以下に制御する方法として、合成時に粒子サイズを小さくする方法と、分散後に粗大粒子を取り除く方法の何れも有効であることが確認できる。
(参考例23)
参考例5において、電荷輸送層塗工液を下記組成のものに変更した以外は、参考例5と同様に感光体を作製した。これを感光体28とする。
◎電荷輸送層塗工液
下記構造式の高分子電荷輸送物質 15部
「GPCにより測定した結果、nはおよそ250と求められた」
(参考例24)
参考例5において、電荷輸送層の膜厚を20μmに変更し、更に下記組成の保護層塗工液を電荷輸送層上に、スプレー法で塗布乾燥して、5μmの保護層を形成し、感光体を作製した。これを感光体29とする。
◎保護層塗工液
ポリカーボネート(TS2050:帝人化成社製) 10部
(粘度平均分子量:5万)
下記構造式の電荷輸送物質 7部
アルミナ微粒子 4部
(比抵抗:2.5×10
12Ω・cm、平均一次粒径:0.4μm)
シクロヘキサノン 500部
テトラヒドロフラン 150部
(参考例25)
参考例5において、電荷輸送層の膜厚を20μmに変更し、更に下記組成の保護層塗工液を電荷輸送層上に、スプレー法で塗布乾燥して、5μmの保護層を形成し、感光体を作製した。これを感光体30とする。
◎保護層塗工液
下記構造式の高分子電荷輸送物質 15部
「GPCにより測定した結果、nはおよそ250と求められた」
アルミナ微粒子 4部
(比抵抗:2.5×10
12Ω・cm、平均一次粒径:0.4μm)
シクロヘキサノン 500部
テトラヒドロフラン 150部
(参考例26)
参考例5において、電荷輸送層の膜厚を20μmに変更し、更に下記組成の保護層塗工液を電荷輸送層上に、スプレー法で塗布乾燥して、5μmの保護層を形成し、感光体を作製した。これを感光体31とする。
◎保護層塗工液
メチルトリメトキシシラン 100部
3%酢酸 20部
下記構造の電荷輸送性化合物 35部
酸化防止剤(サノール LS2626:三共化学社製 1部
硬化剤(ジブチル錫アセテート) 1部
2−プロパノール 200部
(実施例1)
参考例5において、電荷輸送層の膜厚を20μmに変更し、更に下記組成の保護層塗工液を電荷輸送層上に、スプレー法で塗布乾燥し、20分間自然乾燥した後に、以下の条件下で光照射を行ない、塗布膜を硬化させ、5μmの保護層を形成し、感光体を作製した。これを感光体32とする。
光照射条件:
メタルハライドランプ:160W/cm、
照射距離:120mm、
照射強度:500mW/cm2、
照射時間:60秒
◎保護層塗工液
電荷輸送性構造を有さない3官能以上のラジカル重合性モノマー 10部
(トリメチロールプロパントリアクリレート(KAYARAD TMPTA、
日本化薬製)分子量:296、官能基数:3官能、分子量/官能基数=99)
下記構造で表わされる1官能の
電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物 10部
光重合開始剤 1部
(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製))
テトラヒドロフラン 100部
(参考例5及び23〜26、実施例1)
以上のように作製した感光体8及び28〜32を図17に示す画像形成装置に搭載し、画像露光光源を780nmの半導体レーザー(ポリゴン・ミラーによる画像書き込み)、帯電部材としてスコロトロン帯電器、転写部材として転写ベルトを用い、感光体の表面電位が−800Vになるように帯電を行ない、書き込み率6%のチャートを用い、5万枚の通紙試験を実施した。初期1枚目及び、連続5万枚後にハーフトーン画像および白ベタを出力、評価し、画像濃度均一性、及び地汚れの有無を確認した(試験環境は、22℃−55%RHである)。尚、地汚れ画像評価は4段階にて行ない、極めて良好なものを◎、良好なものを○、やや劣るものを△、非常に悪いものを×で表わした。
また、5万枚ランニング試験後に、高温高湿環境下(30℃−90%RH)に画像形成装置を設置し、ハーフトーン画像の出力を行ない、画像評価を実施した。
更に、初期及び5万枚画像評価後の感光体膜厚を測定し、5万枚ランニング試験における感光体表面層の摩耗量を評価した。
以上の結果を表8に示す。
表8から明らかなように、感光体の表面に保護層を設けることにより、繰り返し使用における表面層の摩耗量が著しく低下していることが判る。また、この摩耗量の低下に伴い、本発明の効果の1つである地汚れ抑制効果が更に顕著なものになっている。
また保護層の種類によっても多少の効果が異なり、フィラーを分散して耐摩耗性を向上させた保護層の場合には、摩耗量の向上、地汚れ特性の改善はなされるものの、高温高湿環境下で僅かに画像ボケが発生する副作用を生じた(但し、問題になるレベルではない)。
一方、電荷輸送性構造を有する架橋型保護層を用いた場合(感光体31、32)には、摩耗量の著しい低減、地汚れ特性の改良のみならず、高温高湿環境下においても画像ボケが発生していない。更に、電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーの官能基が、アクリロイルオキシ基及び/又はメタクリロイルオキシ基を用いた場合(感光体32)には、最も良好な結果を得た。
(比較例13)
比較例5において、導電性支持体を直径30mmのアルミニウムシリンダー(JIS1050)に変更した以外は、比較例5と同様に感光体を作製した。これを感光体33とする。
(比較例14)
比較例6において、導電性支持体を直径30mmのアルミニウムシリンダー(JIS1050)に変更した以外は、比較例6と同様に感光体を作製した。これを感光体34とする。
(比較例15)
比較例7において、導電性支持体を直径30mmのアルミニウムシリンダー(JIS1050)に変更した以外は、比較例7と同様に感光体を作製した。これを感光体35とする。
(比較例16)
比較例8において、導電性支持体を直径30mmのアルミニウムシリンダー(JIS1050)に変更した以外は、比較例8と同様に感光体を作製した。これを感光体36とする。
(比較例17)
比較例9において、導電性支持体を直径30mmのアルミニウムシリンダー(JIS1050)に変更した以外は、比較例9と同様に感光体を作製した。これを感光体37とする。
(比較例18)
比較例10において、導電性支持体を直径30mmのアルミニウムシリンダー(JIS1050)に変更した以外は、比較例10と同様に感光体を作製した。これを感光体38とする。
(参考例27)
参考例4において、導電性支持体を直径30mmのアルミニウムシリンダー(JIS1050)に変更した以外は、参考例4と同様に感光体を作製した。これを感光体39とする。
(参考例28)
参考例5において、導電性支持体を直径30mmのアルミニウムシリンダー(JIS1050)に変更した以外は、参考例5と同様に感光体を作製した。これを感光体40とする。
(参考例29)
参考例6において、導電性支持体を直径30mmのアルミニウムシリンダー(JIS1050)に変更した以外は、参考例6と同様に感光体を作製した。これを感光体41とする。
(参考例30)
参考例7において、導電性支持体を直径30mmのアルミニウムシリンダー(JIS1050)に変更した以外は、参考例7と同様に感光体を作製した。これを感光体42とする。
(比較例19)
比較例11において、導電性支持体を直径30mmのアルミニウムシリンダー(JIS1050)に変更した以外は、比較例11と同様に感光体を作製した。これを感光体43とする。
(比較例20)
比較例12において、導電性支持体を直径30mmのアルミニウムシリンダー(JIS1050)に変更した以外は、比較例12と同様に感光体を作製した。これを感光体44とする。
(参考例31)
参考例8において、導電性支持体を直径30mmのアルミニウムシリンダー(JIS1050)に変更した以外は、参考例8と同様に感光体を作製した。これを感光体45とする。
(参考例32)
参考例9において、導電性支持体を直径30mmのアルミニウムシリンダー(JIS1050)に変更した以外は、参考例9と同様に感光体を作製した。これを感光体46とする。
(参考例27〜32及び比較例13〜20)
以上のように作製した感光体33〜46をそれぞれ4本ずつ用意し、図19に示す画像形成装置用プロセスカートリッジに搭載し、更にこれらプロセスカートリッジを図18に示すタンデム方式のフルカラー画像形成装置に搭載した。画像露光光源を780nmの半導体レーザー(ポリゴン・ミラーによる画像書き込み)を用いた。帯電部材は帯電ローラーの両端の非画像形成領域に50μ厚の絶縁テープを巻き付けることにより感光体に近接配置させた。その際、DCバイアスは900(−V)とし、ACバイアス(Vpp(Peak to peak):1.9kV、周波数:1.0kHz)を重畳させ、現像バイアスは650(−V)とした。各感光体サンプルを搭載したプロセスカートリッジは、それぞれ同じ現像剤を充填してシアンステーション、マゼンタステーション、シアンステーション、ブラックステーションにセットし、1万枚毎にステーションをローテーションさせながらトータル4万枚の画像出力を繰り返し行ない、その後の画像評価を行なった。試験環境は、23℃55%RHで行なった。
なお、画像評価のレベルは、以下の4段階で表わした。
◎:非常に良好なレベル、
○:若干画質劣化が見られるが問題ないレベル、
△:明らかに画像欠陥が認められるレベル、
×:画像欠陥の影響が大きく画像品質が非常に悪いレベル。
これらの結果を表9に示す。
表9から明らかなように、本発明の塗工液製造方法によって作製した中間層用塗工液を用いることにより、塗工液の保存前、保存後においても良好な画像を形成する感光体を得ることができる。
また、濾過処理におけるフィルタの有効孔径が3μmを超える場合には、僅かの効果が認められるものの、その効果が充分でないことが分かる。
最後に、本発明で使用するチタニルフタロシアニン結晶の特徴であるブラッグ角θの最低角ピークである7.3°について、公知材料の最低角7.5°と同一であるか否かについて検証する。
(合成例10)
合成例1における結晶変換溶媒を塩化メチレンから2−ブタノンに変更した以外は、合成例1と同様に処理を行ない、チタニルフタロシアニン結晶を得た。
合成例1の場合と同様に、合成例10で作製したチタニルフタロシアニン結晶のXDスペクトルを測定した。これを図22に示す。図22より、合成例10で作製されたチタニルフタロシアニン結晶のXDスペクトルにおける最低角は、合成例1で作製されたチタニルフタロシアニンの最低角(7.3°)とは異なり、7.5°に存在することが判る。
(測定例1)
合成例1で得られた顔料(最低角7.3°)に特開昭61−239248号公報に記載の顔料(最大回折ピークを7.5°に有する)と同様に作製したものを3重量%添加し、乳鉢で混合して、先程と同様にX線回折スペクトルを測定した。測定例1のX線回折スペクトルを図23に示す。
(測定例2)
合成例10で得られた顔料(最低角7.5°)に特開昭61−239248号公報に記載の顔料(最大回折ピークを7.5°に有する)と同様に作製したものを3重量%添加し、乳鉢で混合して、先程と同様にX線回折スペクトルを測定した。測定例2のX線回折スペクトルを図24に示す。
図23のスペクトルにおいては、低角側に7.3°と7.5°の2つの独立したピークが存在し、少なくとも7.3°と7.5°のピークは異なるものであることが判る。一方、図24のスペクトルにおいては、低角側のピークは7.5°のみに存在し、図23のスペクトルとは明らかに異なっている。
以上のことから、本願発明のチタニルフタロシアニン結晶における最低角ピークである7.3°は、公知のチタニルフタロシアニン結晶における7.5°のピークとは異なるものであることが判る。