JP4319343B2 - 水電解質補給用飲料またはゼリー - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、脱水状態の改善または予防の目的で摂取または投与する水電解質維持または補給のための飲料およびゼリー(以下、「水電解質飲料およびゼリー」または「水電解質飲料」および「水電解質ゼリー」という)に関する。
【0002】
【従来の技術】
小児(乳幼児)は体の70%以上が水分でできているが、発汗および尿排泄が活発なため、脱水症状に陥りやすい。また、急性乳幼児下痢症に伴う下痢や嘔吐、発熱などにより、脱水状態に陥る場合がありえる
一方、高齢者の場合は、体内の水分が成人の6割程度にまで減り、もともと体内の水分が少ない上に、感覚機能も衰え口渇も感じにくくなるため、容易に脱水状態になりやすい。また摂食不良などを原因とした栄養不良によっても脱水状態に陥りやすい。さらに、虚弱な高齢者の場合には身体障害や精神機能の問題で自力では飲水できない場合もあり、また、ある程度自由に飲水できても、排尿の回数が増えることを嫌って飲水を避ける場合も見受けられ、脱水状態に陥る可能性がさらに高くなる。
また、健常者でも激しいスポーツもしくは労働の際、または例えば日射病、熱射病、急性胃腸炎、気管支喘息、アセトン血性嘔吐症(自家中毒)等により脱水状態に陥る場合がありえる。
【0003】
上記のように脱水状態に陥る場合には、汗や尿などから水分だけでなく電解質も多く喪失する。したがって、脱水状態の改善には単に水分を補給するだけではなく、喪失した電解質を補給する必要がある。もし、水分だけを補給すると、体内の水分が他の溶質とりわけナトリウムに比して著しく増加し、血中電解質バランスの異常による神経や筋の異常、筋の痙縮、ひいては昏睡や全身痙攣を引き起こす水中毒にかかる危険性もある。また、電解質を水に配合することにより、喪失した電解質を補給できるだけではなく、体液成分と近い浸透圧にすることができ、摂取または投与した水分を円滑に体内に吸収させることもできる。
よって、脱水状態の改善には、電解質を含む水溶液を摂取することが有効な手段であるが、その摂取には静脈内点滴による方法と経口による方法がある。近年、家族など医療従事者でない者でも容易に行える点、特別な設備や器具が必要ない点、安価である点などから経口輸液療法が普及してきている。
【0004】
この経口輸液療法においては、従来粉末状の電解質組成物を用時に水に溶かし調製していた。しかし、家族など医療従事者でない者が調製する場合に希釈率を誤る危険性があり、その場合十分な効果が得られないばかりか、かえって容体を悪化させることもありえる。また、経口輸液療法は特別な設備や器具が必要ないことから発展途上国で盛んに行われているが、そのような国では経口輸液の溶媒として用いる飲料用水を確保することが難しい場合があるという問題がある。
一方、市販のスポーツ飲料など電解質を含む溶液は、軽度および中程度の脱水状態改善のためには、電解質、特にナトリウムイオンの含量が十分ではなく、糖質の量も多すぎる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、静脈内投与と同程度に循環血漿量を速やかに回復させることができる脱水状態の改善または予防のための水電解質飲料またはゼリーを提供することにある。
本発明の他の目的は、用時調製の必要がなくそのまま美味しく摂取できる水電解質飲料を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、電解質を予め水に溶解し飲料にしておけば、調製時の希釈率の誤りという危険性を回避できるばかりか、用時調製の必要がないので小児や高齢者でも手軽に摂取することができ、または激しいスポーツ時や労働時でもすばやく摂取できるという特徴を有する。また、固形状電解質組成物を溶解するのに必要な飲料用水が欠乏する場合においても、本発明の飲料水またはゼリーはレディ・トゥ・ユースであるから不便がない。比較的症状の進んだ脱水状態に対しても有効な経口輸液として、予め電解質および糖が本発明の比率で溶解されている形態の飲料またはゼリーはいまだ知られておらず、本発明にかかる水電解質飲料およびゼリーは上記のような優れた点を有し、脱水状態の改善または予防のために医療分野を中心に、健康維持の目的で広く一般に普及しえるものである。
【0007】
本発明者らは、水電解質飲料の組成についてさらに検討を行った。
例えば、世界保健機構(WHO)によれば、ナトリウムイオン濃度については、コレラまたはコレラ様毒素産生大腸菌による急性下痢症のようにナトリウムイオンの大量喪失を伴う脱水症状の場合、経口輸液は70〜90mEq/Lのナトリウムイオンを含有することが好ましいとされている。
しかし、日本においては上記のような疾患は少なく、むしろ便中のナトリウムイオン排泄がコレラ疾患の場合よりは少ないウィルス性下痢症が急性下痢症の病因の大半を占めていること、ナトリウムイオンの過剰摂取により高ナトリウム血症が発生しやすくなること、ナトリウムイオン濃度を少し低くしても非常に重篤な脱水状態を脱した後に用いる維持液として、または軽度もしくは中程度の脱水状態改善のための経口輸液として十分に利用価値があること等を知見した上で、本発明ではナトリウムイオン濃度を40〜60mEq/Lとした。
【0008】
また、糖質源としては、ブドウ糖以外にもショ糖などの多糖類等他の糖類も十分に考えられる。しかし、ブドウ糖はカロリー源となるだけではなく、小腸でのブドウ糖の吸収がナトリウムイオンの吸収を促進するという利点を有するため、ブドウ糖が最も好ましい。また、ナトリウムイオンの小腸での吸収をより促進するために、ナトリウムイオンとブドウ糖のモル比を1:1.5〜2.5とした。ブドウ糖以外の糖の場合は、ブドウ糖のモル数に換算しナトリウムイオンのモル数と換算したブドウ糖モル数の比が1:1.5〜2.5となるように配合する。
単純なブドウ糖−NaCl溶液を脱水時に投与すると低カリウム血症を引き起こす可能性があり、また汗や下痢便などによるカリウムの喪失を補給すべく、本発明においてはカリウムイオンを含有させた。
【0009】
脱水に伴うアシドーシスを改善するために炭酸イオンを供給する必要がある。炭酸イオンの供給源としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、乳酸、クエン酸または酢酸等が挙げられる。
炭酸イオンを最も迅速に補給するには炭酸水素ナトリウムが好ましいのだが、溶液のpHの上昇を引き起こすなど製剤上の欠点があるので有機酸を用いた。
【0010】
脱水状態を引き起こす原因となる発汗、排尿または下痢などに伴ってマグネシウムやリンなども微量ではあるが失われることから、本発明においてはこれら電解質も含有されている。マグネシウムが不足すると体内での能動輸送がうまく機能しなくなり、またマグネシウム不足が続くと血管の痙攣性収縮が起こるため、マグネシウムを含有させればこれを回避できる。また、リンについては特に高齢者には血中のリン濃度が高い人が多いので高リン血症を引き起こすのを防ぐために、リンの含有量を0〜3mmol/Lとした。
【0011】
本発明者らは、上記のような組成を有する水電解質飲料またはゼリーは、経口摂取または経口投与するにもかかわらず、腸管からすばやく吸収され、輸液を静脈内注射したときと同程度に循環血漿量を増加させることができるという知見を得た。循環血漿量を増加させることができれば、それに伴い、尿量の増加、血漿浸透圧の正常化、代謝性アシドーシスの改善を図ることができ、脱水状態から速やかに回復することができる。
本発明者らは、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)下記組成の成分を含有し、ナトリウムイオンとブドウ糖のモル比が1:1.5〜2.5であることを特徴とする飲料またはゼリー、
Na+ 40〜60mEq/L
K+ 16〜24mEq/L
Cl− 40〜60mEq/L
Mg2+ 0〜3mEq/L
リン 0〜3mmol/L
有機酸 0〜50mEq/L
(2)下記組成の成分を含有し、ナトリウムイオンとブドウ糖のモル比が1:1.8〜2.2であることを特徴とする飲料またはゼリー、
Na+ 47.5〜52.5mEq/L
K+ 19〜21mEq/L
Cl− 47.5〜52.5mEq/L
Mg2+ 1.9〜2.1mEq/L
リン 1.9〜2.1mmol/L
有機酸 15〜50mEq/L
(3)有機酸として、乳酸を15〜33mEq/Lおよび/またはクエン酸を15〜45mEq/L含有してなる前記(1)または(2)に記載の飲料またはゼリー、
に関する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明において、Na+、K+、Cl−、Mg2+、リンまたは有機酸の供給源としては、自体公知のものを用いてよい。かかる電解質成分は、無機電解質成分であってもよいし、有機電解質成分であってもよい。無機電解質成分としては、塩化物、硫酸化物、炭酸化物、リン酸化物などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩類が挙げられる。また、有機電解質成分としては、クエン酸、乳酸、アミノ酸(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸など)、アルギン酸、リンゴ酸またはグルコン酸と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩類が挙げられる。
これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合してもよい。
【0014】
本発明においてナトリウムイオンの濃度は、好ましくは40〜60mEq/L、より好ましくは47.5〜52.5mEq/Lである。
ナトリウムイオンの供給源としては、例えば、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、グリセロリン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウムまたはリン酸2水素ナトリウムなどが挙げられ、中でも、塩化ナトリウム、乳酸ナトリウムもしくはリン酸2水素ナトリウム、またはこれら任意の2種以上の混合物が好ましい。
【0015】
本発明においてカリウムイオンの濃度は、好ましくは16〜24mEq/L、より好ましくは19〜21mEq/Lである。
カリウムイオンの供給源としては、例えば、塩化カリウム、硫酸カリウム、グリセロリン酸カリウム、乳酸カリウム、酢酸カリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウムまたはリン酸2水素カリウムなどが挙げられ、中でも塩化カリウムが好ましい。
【0016】
本発明においてマグネシウムイオンの濃度は、好ましくは0〜3mEq/L、より好ましくは1.9〜2.1mEq/Lである。
マグネシウムイオンの供給源としては、例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、グリセロリン酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなどが挙げられ、中でも硫酸マグネシウムが好ましい。
【0017】
本発明においてクロールイオンの濃度は、好ましくは40〜60mEq/L、より好ましくは47.5〜52.5mEq/Lである。
クロールイオンの供給源としては、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩化物などが挙げられ、中でも塩化ナトリウムもしくは塩化カリウム、またはその混合物が好ましい。
【0018】
本発明においてリンの濃度は、好ましくは0〜3mmol/L、より好ましくは1.9〜2.1mmol/Lである。ここで、リン酸は水溶液中で一部解離して、H2PO4 −、HPO4 2−またはPO4 3−を生じる。したがって、本発明においては、これらのリンの総和を「mmol/L」として表す。
リンの供給源としては、例えば、リン酸、またはリン酸とアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属との塩などが挙げられ、中でもリン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸2水素カリウム、リン酸カルシウムまたはリン酸水素カルシウムが好ましく、リン酸2水素ナトリウムがより好ましい。
【0019】
本発明において有機酸の濃度は、好ましくは0〜50mEq/L、より好ましくは15〜50mEq/L、さらに好ましくは乳酸で15〜33mEq/Lおよび/またはクエン酸で15〜45mEq/Lとする。なお、有機酸として乳酸とクエン酸を併用する場合は、乳酸とクエン酸の含有量の合計が50mEq/Lを超えないものとする。
有機酸の供給源としては、例えば、クエン酸、乳酸、アミノ酸(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸など)、アルギン酸、リンゴ酸またはグルコン酸と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩類が挙げられる。またはこれらを2種以上混合してもよい。中でも、乳酸、乳酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸3ナトリウムまたはこれらの混合物が好ましい。
【0020】
本発明においてナトリウムイオンとブドウ糖のモル比が、好ましくは1:1.5〜2.5、より好ましくは1:1.8〜2.2となるように混合されていることが、本発明の好ましい態様である。
【0021】
本発明にかかる水電解質飲料は、その浸透圧が好ましくは250〜350mOsm/L、より好ましくは280〜320mOsm/Lであるのが好適である。この程度の浸透圧は体液の浸透圧に近く、本発明にかかる水電解質飲料が吸収されやすいからである。
【0022】
本発明にかかる水電解質飲料には、所望により上記成分以外にも各種の栄養素、ビタミン類、合成香料もしくは天然香料等の香料、着色料、チーズやチョコレート等の風味物質または合成甘味料等を添加配合してもよい。
ビタミン類としては、水溶性であっても脂溶性であってもよく、例えばパルミチン酸レチノール、トコフェロール、ビスベンチアミン、リボフラビン、塩酸ピリドキシン、シアノコバラミン、アスコルビン酸ナトリウム、コレカルシフェロール、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、葉酸、ビオチン、重酒石酸コリン等が挙げられる。また、本発明にかかる水電解質飲料を果汁飲料や野菜飲料等とするため、天然果汁や果肉等を添加してもよい。
上記添加物は、単独で用いてもよいし、任意の2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記添加物の配合割合は特に限定されるものではないが、例えば本発明にかかる水電解質飲料100重量部に対して約0〜20重量部程度の範囲から選択することができる。
【0023】
ゼリー菓子の場合は、さらにゲル化剤として、寒天、ゼラチン、カラギナン、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、その他通常使用し得る増粘多糖類の一種以上を用いることができる。好ましくは、寒天、カラギナン、キサンタンガム、ローカストビーンガムのうち1種以上を用いる。
これらゲル化剤の配合割合は、ゼリー菓子100重量部に対して2重量部以下の割合が好ましい。
【0024】
本発明にかかる水電解質飲料またはゼリーとして上記成分全てを調製する場合、その調製方法は特に制限されるものではなく、全ての成分を同時に混合してもよく、またいずれかの成分を別個に混合して調製された混合物に他の成分または他の成分の混合物を添加混合して調製してもよい。上記各成分の混合操作は、常温下に実施することもでき、また若干の加温下に実施することもできる。
このように、本発明にかかる水電解質飲料またはゼリーについては、上記成分全てが予め製品(飲料またはゼリー)に含まれているため用時調製の必要がない。
【0025】
本発明にかかる水電解質飲料またはゼリーの用途については特に限定されない。例えば、激しい労働・運動時もしくはその前後、または発熱時など激しい発汗時もしくはその前後に摂取して脱水状態の予防に用いてもよい。また、脱水状態もしくはそれに伴う諸症状、または例えば日射病、熱射病、急性胃腸炎、気管支喘息、アセトン血性嘔吐症(自家中毒)、急性乳幼児下痢症もしくは老齢者でよくみられる栄養不良に伴う脱水など脱水状態を伴う症状の緩和もしくは治癒のために用いられる。さらに、静脈内点滴による輸液療法と併用して用いてもよい。
【0026】
本発明にかかる水電解質飲料またはゼリーの摂取または投与(以下単に「摂取」という)量は、摂取する人の年齢、摂取の目的、脱水状態の度合い等により異なるので一概には言えず、また、毒性はきわめて低いので、摂取する人が欲するだけ摂取してもよい。例えば、小児における特に下痢が原因の脱水症状の場合は、本発明にかかる水電解質飲料を1〜50mL/kg/時または1〜300mL/kg/日の割合で摂取させることが好ましい。
【0027】
【実施例】
〔実施例1〕
以下の表1に示した電解質およびブドウ糖を、蒸留水800mLに溶解し、撹拌後さらに蒸留水を加え全量を1Lとした。該溶液を115℃で30秒間滅菌し、93℃まで冷却後ペットボトルに充填し、本発明に係る水電解質飲料を得た。
【表1】
【0028】
〔実施例2〕
以下の組成で、実施例1と同様にして本発明に係る水電解質飲料を得た。
【表2】
【0029】
〔実施例3〕
以下の組成で、実施例1と同様にして本発明に係る水電解質飲料を得た。
【表3】
【0030】
〔実施例4〕
表4に示した電解質、ブドウ糖および粉末寒天を、蒸留水800mLに溶解し攪拌後さらに蒸留水を加え全量を1Lとした。該溶液を80℃で5分間かけ粉末寒天を溶かした後チアバックに充填し95℃で33分滅菌して本発明にかかる水電解質ゼリーを得た。
【表4】
【0031】
〔試験例〕
以下の試験例においては、Sprague−Dawley系雄性ラット(使用時週齢:10〜12週齢、使用時体重:315〜401g、日本エスエルシー株式会社より購入)を使用した。ラットは、温度21.6〜22.9℃、湿度41.9〜61.4%、照明時間12時間/日(7:00〜19:00)に設定した飼育室で、固形飼料(F−2、船橋農場製)を自由に摂餌させ、水は水道水を自由に摂水させて飼育した。動物は入荷後3日以上経過し、一般状態の良好なものを使用した。
【0032】
ヒマシ油誘発下痢ラットにおける本発明の水電解質飲料または水道水の十二指腸内投与ならびに脱水補給輸液の静脈内投与による水電解質補給効果
実験群として、市販固形飼料(F−2、船橋農場製)および水を自由摂取させた正常群、ヒマシ油誘発下痢後絶食絶水とした無処置群、ヒマシ油誘発下痢後十二指腸内カテーテルより実施例1で得た本発明に係る水電解質飲料(以下「OS」という)または水道水を投与したOS群および水道水群、ならびにヒマシ油誘発下痢後、脱水補給輸液(株式会社 大塚製薬工場製 KN補液2A)(以下「KN2A」という。」静脈内投与したKN2A群の計5群を設け、各群7匹のラットを使用した。ここで、下痢誘発剤としてヒマシ油(和光純薬工業製)を使用した。
【0033】
1日目(投与48時間前:下記表中「前値」と表示)にラットの体重測定後、尾静脈より採血しヘマトクリット値を測定した。次いで、水は自由摂取させながら24時間絶食させた(下記表中「下痢前」と表示)。絶食後、体重測定を行いヘマトクリット値を測定した。
ついで、ヒマシ油5mL/kgを経口投与し、ヒマシ油投与24時間後(下記表中「下痢後」と表示)に体重を測定し、urethane(キシダ化学製)1.0g/kgを皮下注射(s.c.)にて投与し麻酔した。採血のために麻酔下で大腿動脈にカテーテルを挿入留置した。また、OS群または水道水群については、OSまたは水の持続注入用に十二指腸内にカテーテルを挿入留置した。また、KN2A群については、KN2Aの持続注入用に大腿静脈内にカテーテルを挿入留置した。ラットをボールマン・ケージに置き採尿を行った。カテーテル留置後直ちに動脈血の採血を行い、ヘマトクリット値を測定した。
その後、OS群または水道水群では、OSまたは水道水を37.5mL/kg/時(150mL/kg/4時間)の注入速度で十二指腸内に4時間持続投与した。一方、KN2A群では、KN2Aを37.5mL/kg/時の注入速度で静脈内へ4時間持続投与した。
【0034】
持続投与開始から2時間(下記表中、「投与2時間」と表示)、4時間(下記表中「投与4時間」と表示)および投与開始6時間後(下記表中「投与終了2時間」と表示)のへマトクリット値および体重を測定した。その後、腹部大動脈より採血し、血液酸塩基平衡(pH、HCO3 −)をpH/血液ガス分析装置(CIBA・CORNIG、238)により測定した。また、腹部大静脈より採血し、血液を遠心分離し、血漿浸透圧を浸透圧計(FISKE、ONE-TEN OSMOMETER)により測定した。
6時間に亘って採取した尿は、尿量を測定した。
循環血漿量変化率については、下痢前値を基準としW.van Be aumontの計算式(W.v a n B e a u m o n t:Evaluation of hemoconcentration from hematocrit measurements. J.Applied Physiology,32(5),712−713(1972))に準じてヘマトクリット値から算出した。
【0035】
正常群として、飼料および水の自由摂取下に24時間尿を採取した。尿採取後、直ちにペントバルビタール ナトリウム(sodium pentobarbita1)(ネンブタールR:大日本製薬製)40mg/kgを腹腔内注射にて投与して麻酔し、麻酔下に腹部大動脈より採血し、血液酸塩基平衡(pH、HCO3 −)を測定した。24時間に亘って採取した尿は、尿量を測定した。
【0036】
試験例1の結果を以下に示す。
(1)体重について
【表5】
ラットの体重は48時間の絶食およびヒマシ油投与による下痢誘発により、無処置群、OS群、水道水群およびKN2A群の全般にわたって、平均値で63〜65g減少した。投与終了2時間後では、無処置群はさらに4g減少したが、OS群およびKN2A群は無処置群に比較して有意に増加した(P<0.05)。また、水道水群でも無処置群に比較して有意に増加した(P<0.01)。
なお、群間の有意性検定には、The SAS System for Windows Ver.6.12(SAS Institute Inc.)を用いて、等分散の検定(Bartlett)の後、等分散が認められた場合はDunnettの検定を行い、等分散が認められない場合は多重比較検定(multiple range test)を行った。なお、有意水準として危険率5%を採用した。以下も同様にして群間の有意差検定を行った。
【0037】
(2)ヘマトクリット値について
【表6】
ヘマトクリット値は、無処置群、OS群、水道水群およびKN2A群の全般にわたって、前値が48〜50%であったのに対し、下痢後には55〜58%に上昇した。その後、無処置群では高い値を持続したが、OS群およびKN2A群では無処置群に比較し有意に(P<0.01)低下し、投与2時間で下痢前値レベルに回復した。一方、水道水群では回復傾向を示したが、投与2時間および投与4時間では無処置群と有意差はなかった。投与終了2時間でようやく無処置群と有意差がみられた(P<0.05)。
【0038】
(3)循環血漿量の変化率について
【表7】
循環血漿量は、無処置群、OS群、水道水群およびKN2A群の全般にわたって、下痢誘発により平均値で24.2%〜28.9%減少した。その後、無処置群では減少したまま推移したが、OS群では無処置群に比較し有意に上昇し(P<0.01)、投与2時間ですでに下痢前値レベルに回復していた。KN2A群ではOS群には及ばないが、投与2時間で無処置群に比較し有意に上昇し(P<0.05)、投与4時間で下痢前値レベルに回復した。
一方、水道水群では回復傾向を示したが、無処置群と有意差はなかった。
【0039】
(4)尿量について
尿量は、無処置群で平均1.7±0.8(mL/6時間)、OS群で平均13.8±1.5(mL/6時間)、水道水群で平均4.9±2.8(mL/6時間)KN2A群で平均14.2±5.6(mL/6時間)であった。
したがって、無処置群では尿量は非常に少ない。水道水群の尿量も無処置群に比較して有意差はなかった。しかし、OS群およびKN2A群では有意に尿量が増加した(P<0.01)。
【0040】
(5)血漿浸透圧について
血漿浸透圧は、正常群では平均304±3(mOsm/L)、無処置群で平均344±9(mOsm/L)、OS群で平均302±8(mOsm/L)、水道水群で平均282±10(mOsm/L)、KN2A群で平均312±14(mOsm/L)であった。
無処置群は、正常群に比較して有意に高い値を示した(P<0.05)。これに対し、OS群、水道水群およびKN2A群は無処置群に対し有意に低下しており(P<0.01)、特にOS群およびKN2A群は正常群と同じレベルまで回復した。
【0041】
(6)pHとHCO3 −濃度について
【表8】
無処置群では、正常群に対しpHおよびHCO3 −ともに有意に低下している(P<0.01、P<0.05)。OS群、水道水群およびKN2A群では、無処置群と比較しpHおよびHCO3 −は上昇した。特にOS群およびKN2A群のHCO3 −は正常群と同じレベルまで上昇した。
【0042】
ヒマシ油5mL/kgの経口投与による下痢等の影響により、無処置群では、体重はもとの体重の83%〜82%に減少し、循環血漿量は24%〜26%減少、尿量は1.7mL/6時間に減少、血漿浸透圧は344mOsm/Lに上昇し、また代謝性アシドーシスを示し、明らかに脱水症状を呈した。
ヒマシ油誘発下痢後にOSを十二指腸内に150mL/kg/4時間投与することにより、循環血漿量は速やかに回復した。また、上記(3)からわかるように循環血漿量の回復にかかる時間は、脱水補給輸液を静脈内投与した場合と差異はなかった。また循環血漿量が良好に回復したことが、尿量、血漿浸透圧および代謝性アシドーシスの速やかな回復に繋がり、これらの効果は脱水補給輸液を静脈内投与した場合と同等であった。
一方、水道水の十二指腸内投与では循環血漿量の回復は悪く、尿量も少なかった。さらに、いわゆる水中毒の発生が危惧された。
以上より、脱水状態においてOSの十二指腸内投与は、速やかな水電解質補給効果を示し、脱水補給輸液の静脈内投与に劣ることなく急性期脱水に優れた有用性を示すことがわかった。
【0043】
【発明の効果】
本発明に係る水電解質飲料およびゼリーは、経口摂取または投与により腸管よりすばやく吸収され、脱水状態における循環血漿量を速やかに正常状態に回復させる。その循環血漿量の回復にかかる時間は、脱水補給輸液を静脈内に投与したときと大きな差はない。さらに循環血漿量の回復により、尿量の増加、尿浸透圧の正常化、血漿浸透圧の正常化および代謝性アシドーシスの速やかな回復が可能となるので、本発明に係る水電解質飲料およびゼリーは脱水状態の改善または予防に有効である。
本発明に係る水電解質飲料およびゼリーは、調製時の希釈率の誤りという危険性を回避できるばかりか、用時調製の必要がないので小児や高齢者でも手軽に摂取することができ、または激しいスポーツ時や労働時でもすばやく摂取できる。さらに、また、固形状電解質組成物を溶解するのに必要な飲料用水が欠乏する場合においても、本発明の飲料水およびゼリーはレディ・トゥ・ユースであるから不便がない。これらの優れた利点から、本発明に係る水電解質飲料は、脱水状態の改善または予防のために医療分野を中心に、健康維持の目的で広く一般に普及しえるものである。
Claims (1)
- 下記組成の成分を含有し、ナトリウムイオンとブドウ糖のモル比が1:1.8〜2.2であることを特徴とする飲料またはゼリー。
Na+ 50mEq/L
K+ 20mEq/L
Cl− 50mEq/L
Mg2+ 2.0mEq/L
リン 2.0mmol/L
乳酸 31mEq/L
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