JP4318204B2 - 希土類含有合金薄片の製造方法、希土類磁石用合金薄片、希土類焼結磁石用合金粉末、希土類焼結磁石、ボンド磁石用合金粉末、及びボンド磁石 - Google Patents
希土類含有合金薄片の製造方法、希土類磁石用合金薄片、希土類焼結磁石用合金粉末、希土類焼結磁石、ボンド磁石用合金粉末、及びボンド磁石 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、Nd−Fe−B系合金に代表されるR−T−B系合金塊中での微細Rリッチ相領域の生成を効果的に抑制し、均質性に優れた組織を有する合金塊を製造することにより、磁石中のRリッチ相の分布の均質性を高め、磁石特性の優れた希土類磁石を提供することができる希土類含有合金薄片の製造方法、希土類磁石用合金薄片、希土類焼結磁石用合金粉末、希土類焼結磁石、ボンド磁石用合金粉末、及びボンド磁石に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、希土類磁石用合金、特にNd−Fe−B系合金がその高特性から急激に生産量を伸ばしており、HD(ハードディスク)用、MRI(磁気共鳴映像法)用或いは各種モーター用等に使用されている。通常は、Ndの一部をPr、Dy等の他の希土類元素で置換したものや、Feの一部をCo、Ni等の他の遷移金属で置換したものが一般的であり、Nd−Fe−B系合金を含め、R−T−B系合金と総称されている。ここで、RはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種である。また、TはFeを必須とする遷移金属であり、Feの一部をCo或いはNiで置換することができ、添加元素としてCu、Al、Ti、V、Cr、Ga、Mn、Nb、Ta、Mo、W、Ca、Sn、Zr、Hfなどを1種又は複数組み合わせて添加してもよい。Bは硼素であり、一部をC又はNで置換できる。
【0003】
R−T−B系合金は、磁化作用に寄与する強磁性相であるR2T14B相からなる結晶を主相とし、非磁性で希土類元素の濃縮した低融点のRリッチ相が共存する合金で、活性な金属であることから一般に真空又は不活性ガス中で溶解や鋳造が行われる。また、鋳造されたR−T−B系合金塊から粉末冶金法によって焼結磁石を作製するには、合金塊を3μm(FSSS:フィッシャーサブシーブサイザーでの測定)程度に粉砕して合金粉末にした後、磁場中でプレス成形し、焼結炉で約1000〜1100℃の高温にて焼結し、その後必要に応じて熱処理、機械加工し、さらに耐食性を向上するためにメッキを施し、焼結磁石とするのが普通である。
【0004】
R−T−B系合金からなる焼結磁石において、Rリッチ相は、以下のような重要な役割を担っている。
1)低融点であるため、焼結時に液相となり、磁石の高密度化、従って磁化の向上に寄与する。
2)粒界の凹凸を無くし、逆磁区のニュークリエーションサイトを減少させ、保磁力を高める。
3)非磁性であるため、主相を磁気的に絶縁し、保磁力を増加する。
従って、成形した焼結磁石中のRリッチ相の分散状態が悪いと、局部的な焼結不良、磁性の低下をまねくため、成形した焼結磁石中にRリッチ相が均一に分散していることが重要となる。ここでRリッチ相の分布は、鋳造された際のR−T−B系合金塊の組織に大きく影響される。
【0005】
また、R−T−B系合金の鋳造において生じるもう一つの問題は、鋳造された合金塊中にα−Feが生成することである。α−Feは、合金塊を粉砕する際の粉砕効率の悪化をもたらし、また焼結後も磁石中に残存すれば、磁石の磁気特性の低下をもたらす。そこで従来の合金塊では、必要に応じて高温で長時間にわたる均質化処理を行い、α−Feの消去を行っていた。
【0006】
この鋳造されたR−T−B系合金塊中にα−Feが生成する問題を解決するため、より速い冷却速度で合金塊を鋳造する方法として、ストリップキャスト法(以下、SC法と略す。)が開発され、実際の工程に使用されている。
SC法は、内部が水冷された銅ロール上に合金溶湯を流し、0.1〜1mm程度の薄片を鋳造することにより、合金を急冷凝固させるものであり、α−Feの析出を抑制することができる。さらに合金塊の結晶組織が微細化するため、Rリッチ相が微細に分散した組織を有する合金を生成することが可能となる。
このように、SC法で鋳造された合金は、内部のRリッチ相が微細に分散しているため、粉砕、焼結後の磁石中のRリッチ相の分散性も良好となり、磁石の磁気特性の向上に成功している。(特開平5−222488号公報、特開平5−295490号公報)
またSC法により鋳造された合金塊は、組織の均質性も優れている。組織の均質性は、結晶粒径やRリッチ相の分散状態で比較することが出来る。SC法で作製した合金薄片では、合金薄片の鋳造用回転ロール側(以降、鋳型面側とする)にチル晶が発生することもあるが、全体として急冷凝固でもたらされる適度に微細で均質な組織を得ることが出来る。
【0007】
以上のように、SC法で鋳造したR−T−B系合金は、Rリッチ相が微細に分散し、α−Feの生成も抑制されているため、焼結磁石を作製する場合には、最終的な磁石中のRリッチ相の均質性が高まり、またα−Feに起因する粉砕、磁性への弊害を防止することができる。このように、SC法で鋳造したR−T−B系合金塊は、焼結磁石を作製するための優れた組織を有している。
【0008】
しかし、磁石の特性が向上するにつれて、ますます原料合金塊の組織に均質性の向上が求められるようになってきている。そのため、各種の改良提案がなされている(例えば特許文献1など)。
【0009】
【特許文献1】
特開平10−317110号公報(段落番号0010〜0013)
【0010】
特許文献1には、鋳造されたR−T−B系合金の鋳型面側のチル晶の面積比率を5%以下にすることで、磁石特性の良好な焼結磁石を作製している技術が開示されている。具体的には、メッキや溶射等により冷却ロールの表面改質を行うものであって、チル晶部は粉砕工程で粒径1μm以下の微細粉末となるため、合金粉末の粒度分布を乱し、磁性を悪化させると考えられている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、本発明者らは、鋳造されたR−T−B系合金塊の組織と、水素解砕や微粉砕の際の挙動との関係を研究した結果、焼結磁石用の合金粉末の粒度を均一に制御するためには、合金塊の結晶粒径よりもRリッチ相の分散状態を制御することが重要であることを見出した。そして、合金塊中のチル晶の体積率は現実には数%以下であり、チル晶による弊害よりも、合金塊中の鋳型面側に生成されるRリッチ相の分散状態が極端に細かく、方向性を有していない領域(微細Rリッチ相領域)の方が、磁石用粉末の粒度を制御するためには影響が大きいことを見出した。すなわち、合金塊の組成や製造条件によりR−T−B系合金塊中のチル晶を少なくした場合でも、微細Rリッチ相領域の体積率が50%を超える場合もあること、そしてこの微細Rリッチ相領域が磁石用合金粉末の粒度分布を乱すことを確認し、微細Rリッチ相領域を減少させることが磁石特性を向上させるために最も重要であることを確認した。
【0012】
そして、本発明者らは、SC法における鋳造条件、特に鋳造用回転ロールの表面状態を変更し、R−T−B系合金薄片中の微細Rリッチ相領域が生成する体積率を比較した。すると合金薄片の鋳型面側表面の表面粗さと微細Rリッチ相領域が生成する体積率に関係があることを見出し、微細Rリッチ相領域が20%以下である組織の均質性に優れた合金薄片の製造を可能とした。
また、本発明者らは、鋳造用回転ロールの表面粗さを形成するロール面上の複数の線状の凹凸の方向を制御することで、より効果的に組織の均質化が可能であることを確認した。
【0013】
上記の方法で、組織の均質化が可能であるが、ロール表面状態の制御、管理が必要であった。
本発明は、ロールの表面粗さやその表面粗さの起源である凹凸の形状を制御、管理する以外の方法で、鋳造されたR−T−B系合金塊中での微細Rリッチ相領域の生成を効果的に抑制し、均質性に優れた組織を有する合金塊を製造することにより、磁石中のRリッチ相の分布の均質性を高め、磁石特性の優れた希土類磁石を提供することを目的とする。また、鋳造されたR−T−B系合金塊中でのチル晶の生成も効果的に抑制することにより、配向率が高く安定した希土類磁石を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、SC法における鋳造用回転ロール(以下、単にロールという場合もある。)の表面に、ロール基材よりも熱伝導率の小さい材料からなる微粉を付着させた際、R−T−B系合金薄片中の微細Rリッチ相領域、或いはチル晶の体積率が変化することを見出した。本発明は、本発明者らが上記の知見に基づき為したものである。
【0015】
すなわち本発明は、
(1)SC法による希土類含有合金薄片の製造方法において、鋳造用回転ロールの表面に、厚さ3μm以下、長さ10μmの鱗片状である基材よりも熱伝導率が低い材料からなる微粉を付着させて用いることを特徴とする希土類含有合金薄片の製造方法。
(2)鋳造用回転ロールのロール基材よりも熱伝導率が低い材料からなる微粉の表面への付着を、鋳造中に連続的に行なうことを特徴とする(1)記載の希土類含有合金薄片の製造方法。
(3)鋳造用回転ロールのロール基材よりも熱伝導率が低い材料からなる微粉を有機溶媒と混合し、回転する鋳造用回転ロールの表面に噴霧することを特徴とする(1)又は(2)記載の希土類含有合金薄片の製造方法。
(4)鋳造用回転ロールのロール基材よりも熱伝導率が低い材料からなる焼結体を、回転する鋳造用回転ロールの表面に接触させることにより、鋳造用回転ロールのロール表面に該材料の微粉を付着させることを特徴とする(1)又は(2)記載の希土類含有合金薄片の製造方法。
(5)鋳造用回転ロールのロール基材よりも熱伝導率が低い材料からなる微粉中のBN濃度が50%質量以上であることを特徴とする(1)乃至(4)記載の希土類含有合金薄片の製造方法。
(6)鋳造用回転ロールのロール基材よりも熱伝導率が低い材料からなる微粉中のBN濃度が80質量%以上であることを特徴とする(1)乃至(5)記載の希土類含有合金薄片の製造方法。
(7)鋳造ロール基材よりも熱伝導率が低い材料からなる微粉の成分が、主として製造される希土類含有合金を構成する成分の一部、又は全てであることを特徴とする(1)乃至(4)記載の希土類含有合金薄片の製造方法。
(8)合金中の微細Rリッチ相領域の体積率が20%以下であって(1)乃至(7)記載の方法で作製されたことを特徴とする希土類磁石用合金薄片。
(9)合金中のチル晶の体積率が5%以下であって、(8)記載の方法で作製されたことを特徴とする希土類磁石用合金薄片。
(10)(8)又は(9)記載の希土類磁石用合金薄片に水素解砕工程を施した後にジェットミル粉砕することで作製されたことを特徴とする希土類焼結磁石用合金粉末。
(11)(10)に記載の希土類磁石用合金粉末から粉末冶金法で製造されたことを特徴とする希土類焼結磁石。
(12)(8)又は(9)記載の希土類磁石用合金薄片を用いて、HDDR法で製造したことを特徴とするボンド磁石用合金粉末。
(13)(12)に記載のボンド磁石用合金粉末を用いて作製されたことを特徴とするボンド磁石。
【0016】
【発明の実施の形態】
従来のSC法により鋳造されたNd−Fe−B系合金(Nd31.5質量%)の薄片の断面をSEM(走査電子顕微鏡)にて観察した時の反射電子線像を図1に示す。図1で左側が鋳型面側、右側が自由面側である。
図1で白い部分が、Nd−リッチ相(RがNdになっているためRリッチ相をNd−リッチ相と呼ぶ。)で、合金薄片の中央部から自由面側(鋳造面側と反対側の表面)では、厚さ方向にラメラー状に伸びるか、ラメラーが分断したような方向性を持った形の小さなプールを形成している。しかし、鋳型面側にはNd−リッチ相が他の部位よりも極端に微細な粒状で、かつランダムに存在する領域が生成しており、これを本発明者らは微細Rリッチ相領域(Rの主成分がNdの際は微細Nd−リッチ相領域とも呼ぶ)と名づけ、特に区別することとした。この微細Rリッチ相領域は、通常鋳型面側から始まり、中央方向へ広がっている。これに対し、中央部から自由面側にかけての微細Rリッチ相領域が存在しない部分を、ここでは正常部と呼ぶこととする。
【0017】
焼結磁石作製時のR−T−B系合金薄片の水素解砕工程において、水素はRリッチ相から吸収され、膨張し脆い水素化物となる。したがって、水素解砕では、合金中にRリッチ相に沿った、或いはRリッチ相を起点とした微細なクラックが導入される。その後の微粉砕工程で、水素解砕で生成した多量の微細クラックをきっかけに合金が壊れるため、合金中のRリッチ相の分散が細かいほど微粉砕後の粒度は細かくなる傾向がある。したがって、微細Rリッチ相領域は、正常部よりも細かく割れる傾向が強く、例えば正常部から製造された合金粉末では、平均粒度がFSSS(フィッシャー サブ シーブ サイザー)での測定で3μm程度であるのに対して、微細Rリッチ相領域から製造された合金粉末では、1μm以下の微粉を含む割合が高いため、微粉砕後の粒度分布が広くなることになる。
【0018】
R−T−B系合金中のRリッチ相の分散状態は、鋳造時における溶湯が凝固した後の冷却速度の制御、或いは熱処理によって制御可能であることは特開平9−170055号公報、或いは特開平10−36949号公報に記載されている。しかし、凝固後の冷却速度、或いは熱処理による微細Rリッチ相領域内部のRリッチ相の変化の挙動は、正常部と異なり制御が困難であり、Rリッチ相の分散が粗くなりにくく、微細なままである。
【0019】
微細Rリッチ相領域の体積率は次のような方法で測定可能である。図3は図1と同じ視野の反射電子線像であるが、微細Rリッチ相領域と正常部の境界に点線を引いたものである。両領域の境界は、Rリッチ相の分散状態から容易に判断でき、微細Rリッチ相領域の面積率を計算することが出来る。その視野の断面での面積率は、合金中での体積率に対応する。また、画像解析装置を用いれば、迅速かつ一義的に求めることが可能である。
微細Rリッチ相領域中のRリッチ相は、形状、大きさ、密度が正常部とは異なる。つまり、細かく球状に近いRリッチ相の密度がある程度以上有れば、そこは微細Rリッチ相領域と判断できる。合金組成、画像解析に使用する反射電子線像の画質により、閾値は変化する。しかし、本発明者らは、それぞれのRリッチ相について、真円度が1から1.4であり、かつその面積が5平方ミクロン以下であるRリッチ相の密度が、100平方ミクロン当たりに20個以上ある部分、或いは、この基準に該当する部分の鋳型面側に、基準に該当しない部分が存在する場合には、その部分を含めて微細Rリッチ相領域と判断する事で、再現性良く、微細Rリッチ相領域を測定することができることを確認している。ここで真円度とは、対象となる図形の(周囲の長さの2乗)を(4π×面積)で割った値であり、円では1になり、形状が細長くなるにつれ増加する。さらには、このようにして計算した微細Rリッチ相領域の体積率は、合金組織の特徴、さらにはその微粉砕後の粒度分布、焼結磁石の磁気特性への影響を上手く説明できることを確認している。
なお、微細Rリッチ相領域の体積率の測定において、同時に鋳造された合金薄片であっても、微細Rリッチ相領域の量の変化は、薄片間同士、また同じ薄片内でも大きい。そのため、5〜10枚程度以上の薄片を測定し、その平均を取ることで、その合金全体の微細Rリッチ相領域の体積率を計算することが出来る。
【0020】
本発明のR−T−B系合金薄片(Nd31.5質量%)の断面の反射電子線像を図2に示す。図2で左側が鋳型面側、右側が自由面側である。本発明の合金薄片製造方法の特徴は、SC法による希土類含有合金薄片の製造方法において、鋳造用回転ロールの表面にロール基材よりも熱伝導率が低い材料からなる微粉を付着させて用いることである。図2に示す合金薄片の作製に使用した鋳造用回転ロールの表面には、純度99%のBN微粉を付着させた。鋳型面側に微細Rリッチ相領域は存在せず、鋳型面から自由面に渡ってRリッチ相の分散状態が極めて均質である。
【0021】
SC法で、鋳造用回転ロールの表面にロール基材よりも熱伝導率が低い材料からなる微粉を付着させる効果は以下のように説明できる。
鋳造用回転ロールの表面が平滑で、合金溶湯との濡れ性が良好である場合、溶湯から鋳型への熱伝達が極めて良好(熱伝達係数が大きい)であり、合金の鋳型面側が過度に急冷される。微細Rリッチ相領域は、鋳型と溶湯の熱伝達係数が大きく、合金の鋳型面側が過度に急冷される場合に生成される傾向が強いと考えられる。
これに対し、本発明のように、鋳造用回転ロールの表面にロール基材よりも熱伝導率が低い材料からなる微粉が付着していると、鋳造用回転ロールの表面と溶湯の間の熱伝達係数が低下する。また、微粉は、溶湯を鋳造用回転ロールの表面へ塗れにくくする場合が多く、その結果、熱伝達係数はさらに低下するため、合金の鋳型面側が過度に急冷されることがなくなり、微細Rリッチ相領域の生成が抑制できると考えられる。
【0022】
従来のSC法でも図2に示すような均質な組織を有する合金薄片はある程度含まれていたが、図1に示すような微細Rリッチ相領域を多量に含んだ薄片も同時に生成されてしまうため、結果として合金全体での組織の均質性に問題を生じていた。このような従来のSC法で作製した合金組織のばらつきは、微妙な鋳造用回転ロールの表面状態、溶湯の供給状態、雰囲気など、鋳造用回転ロールの表面と溶湯との接触状態の違いに起因するものと考えられる。
鋳造用回転ロールの表面に付着させた、ロール基材よりも熱伝導率が低い材料からなる微粉の存在は、溶湯が凝固する時の過度の熱伝達を抑制し、微細Rリッチ相領域の生成を再現良く抑制することができる
なお、本発明は、鋳造用回転ロールの表面粗さ、或いはさらにその表面粗さを形成する複数の線状の凹凸の方向を制御することによって、さらに効果を高めることも可能である。その線状の凹凸は、必ずしも連続している必要は無く、断続的であっても構わない。また、曲線状であっても直線状であっても構わない。
通常、ロール材質としては、純銅又は銅合金が好ましい。また、鋳造表面層にコーティングを施した場合でも、本発明は可能である。
【0023】
さらに本発明の詳細を説明する。
(1)SC法
本発明は希土類含有合金薄片に関するものである。ここでは、R−T−B系合金のSC法による鋳造について説明する。
図4にSC法による鋳造のための装置の模式図を示す。通常、R−T−B系合金は、その活性な性質のため真空又は不活性ガス雰囲気中で、耐火物ルツボ1を用いて溶解される。溶解された合金の溶湯は1350〜1500℃で所定の時間保持された後、必要に応じて整流機構、スラグ除去機構を設けたタンディッシュ2を介して、内部を水冷された鋳造用回転ロール3に供給される。溶湯の供給速度と鋳造用回転ロール3の回転数は、求める合金の厚さに応じて適当に制御させる。一般にこの鋳造用回転ロール3の回転数は、周速度にして0.5〜3m/s程度であり、その材質は、熱伝導性がよく入手が容易である点から銅、或いは銅合金が適当である。この鋳造用回転ロール3の材質やその表面状態によっては、表面にメタルが付着しやすいため、必要に応じて清掃装置を設置すると、鋳造されるR−T−B系合金の品質が安定する。本発明においては、BN等焼結体6を回転する鋳造用回転ロール3の表面に接触させて塗り付けるようにしても良く、過剰量をバフロール7で落とすようにしても良い。そして、鋳造用回転ロール3上で凝固した合金4はタンディッシュ2の反対側でロール3から離脱し、捕集コンテナ5で回収される。この捕集コンテナ5に加熱、冷却機構を設けることで正常部のRリッチ相の組織の状態を制御できる。
【0024】
本発明の合金薄片の厚さは、0.1mm以上0.5mm以下とするのが好ましい。合金薄片の厚さが0.1mmより薄いと凝固速度が過度に増加し、結晶粒径が細かくなりすぎ、磁石化工程での微粉砕粒度近くになるため、磁石の配向率、磁化の低下を招くという問題がある。また合金薄片の厚さが0.5mmより厚いと凝固速度低下によるRリッチ相の分散性の低下、α−Feの析出などの問題を招く。
【0025】
(2)ロール表面に付着させる微粉と付着方法
本発明においては、鋳造用回転ロールの表面に付着させる微粉は、ロール基材よりも熱伝導率が低い材料からなるものとする。
微粉の材質は、具体的には、BN、或いはBNを50質量%以上、好ましくは80質量%以上含有する材料が、実用性において優れている。微粉の粒径は小さい方が、同じ面積に同様の効果をもたらすために必要な量が少なくて済む。また、微粉の形状は扁平である方が効果がある。結果として、好ましい微粉は長軸方向100μm以下、厚さ20μm以下の粉である。
また、微粉のロール表面への付与は、バッチ処理の場合は、鋳造作業前に実施することも可能であるが、効果の持続性を考慮すると、鋳造中に連続的に付着させた方が効果的である。この微粉のロール表面への付着方法は特に限定するものではないが、有機溶媒と混合し、回転する鋳造用回転ロールの表面に噴霧する方法と、焼結体を回転する鋳造用回転ロールの表面に接触させ、塗り付ける方法が、作業性、効果の点から好ましい。
前者、即ち有機溶媒と混合して噴霧する方法では、溶湯と接触する前にロール表面に残留する有機溶媒を十分気化させ、溶湯との反応を防止することによって、溶湯の流動性を維持し、炭素濃度の増加も防止できる。
後者、即ち焼結体を鋳造用回転ロールに接触させる方法では、バッチ処理での鋳造前は当然として、比較的簡単に鋳造中連続的に微粉を付着させることが可能である。
何れの方法においても、過剰の微粉がロール表面に付着すると、溶湯とロール表面の塗れ性を悪化させ、鋳造が不安定となることがある。また、そのような場合には、生成したメタルの内部組織を変化させることもある。そのため、過剰の微粉は鋳造開始前には除去した方が合金の品質を安定させられる。また、鋳造中に連続的に塗布する場合は、微粉を塗布する部分と注湯部の間に、過剰の粉を除去するためのブラシや布、例えばバフロールのようなものを設置することで、過剰の粉による弊害を防止できる。
本発明でのロール表面に塗布する微粉の量は極めて微量であり、生成した希土類含有合金薄片の成分に対し、実質的な影響は無い。しかし、極めて微量の微粉成分が影響する可能性を否定できない場合には、微粉の主な成分を生成する希土類含有合金の成分の一部、又は合金そのものとすることも可能である。
【0026】
(3)合金中の微細Rリッチ相領域の体積率
本発明では、R−T−B系合金中の微細Rリッチ相領域の体積率は20%以下となる。その結果、焼結磁石の工程で微粉砕後の合金粉末の粒度分布が狭く揃ったものになるため、特性にバラツキのない均質な焼結磁石を得ることができる。
【0027】
(4)合金中のチル晶の体積率
本発明では、R−T−B系合金中のチル晶の体積率が5%以下となる。チル晶は粉砕粒度と比較して小さいため、磁石の配向性を乱す原因となるが、本発明によれば、配向率が高く安定した焼結磁石を得ることができる。
【0028】
(5)希土類焼結磁石用合金粉末、希土類焼結磁石の製造方法
本発明により鋳造した磁石用原料として使用されるR−T−B系合金からなる希土類含有合金薄片からは、粉砕、成型、焼結の工程を経て、高特性の異方性焼結磁石を製造することができる。
【0029】
合金薄片の粉砕は、通常、水素解砕、微粉砕の順で行なわれ、3μm(FSSS)程度の合金粉末が作製される。
ここで、水素解砕は、前工程の水素吸蔵工程と後工程の脱水素工程に分けられる。水素吸蔵工程では、266hPa〜0.3MPa・Gの圧力の水素ガス雰囲気で、主に合金薄片のRリッチ相に水素を吸蔵させ、この時に生成されるR−水素化物によりRリッチ相が体積膨張することを利用して、合金薄片自体を微細に割るか或いは無数の微細な割れ目を生じさせる。この水素吸蔵は常温〜600℃程度の範囲で実施されるが、Rリッチ相の体積膨張を大きくして効率良く割るためには、水素ガス雰囲気の圧力を高くすると共に、常温〜100℃程度の範囲で実施することが好ましい。好ましい処理時間は1時間以上である。この水素吸蔵工程により生成したR−水素化物は大気中では不安定であり酸化され易いため、水素吸蔵処理の後、200〜600℃程度で1.33hPa以下の真空中に合金薄片を保持する脱水素処理を行なうことが好ましい。この処理により、大気中で安定なR−水素化物に変化させることができる。脱水素処理の好ましい処理時間は30分以上である。水素吸蔵後から焼結までの各工程で酸化防止のための雰囲気管理がなされている場合は、脱水素処理を省くこともできる。
【0030】
本発明のSC法により製造されたR−T−B系合金薄片は、Rリッチ相が均一分散していることが特徴である。好ましいRリッチ相の間隔の平均値は、磁石の製造工程での粉砕粒度に依存するが、一般に3μmから8μmである。水素解砕では、Rリッチ相に沿って、或いはRリッチ相を起点にしてクラックが導入される。したがって、水素解砕してから微粉砕することで、合金中に均一かつ微細に分散したRリッチ相の効果を最大限に引き出すことが可能であり、非常に粒度分布の狭い合金粉末を効率良く生産することが可能である。この水素解砕の工程を行わずに焼結磁石を作製した場合、作製された焼結磁石の特性は劣ったものとなる。(M.Sagawa et al. Proceeding of the 5th international conference on Advanced materials,Beijing China(1999))
【0031】
微粉砕とは、R−T−B系合金薄片を3μm(FSSS)程度まで粉砕することである。微粉砕のための粉砕装置としては、生産性が良く、狭い粒度分布を得られることから、ジェットミル装置が最適である。本発明の微細Rリッチ相領域の少ない合金薄片を利用すれば、粒度分布が狭い合金粉末を高効率で、安定性良く作製することができる。
微粉砕を行う際の雰囲気は、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気とする。これらの不活性ガス中に2質量%以下、好ましくは1質量%以下の酸素を混入させてもよい。このことにより粉砕効率が向上するとともに、粉砕後の合金粉末の酸素濃度を1000〜10000ppmとすることができ、合金粉末を適度に安定化させることができる。また同時に、磁石を燒結する際の結晶粒の異常成長を抑制することもできる。
【0032】
上記の合金粉末を磁場中で成型する場合、合金粉末と金型内壁との摩擦を低減し、また粉末どうしの摩擦も低減させて配向性を向上させるため、粉末にはステアリン酸亜鉛等の潤滑剤を添加することが好ましい。好ましい添加量は0.01〜1質量%である。潤滑剤の添加は微粉砕前でも後でもよいが、磁場中成形前に、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中でV型ブレンダー等を用いて十分に混合することが好ましい。
【0033】
3μm(FSSS)程度まで粉砕された合金粉末は、磁場中成型機でプレス成型される。金型は、キャビティ内の磁界方向を考慮して、磁性材と非磁性材を組み合わせて作製される。成型圧力は0.5〜2t/cm2が好ましい。成型時のキャビティ内の磁界は5〜20kOeが好ましい。また、成型時の雰囲気はアルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気が好ましいが、上述の耐酸化処理した粉体の場合、大気中でも可能である。
また成形は、冷間静水圧成形(CIP:Cold Isostatic Press)或いはゴム型を利用した擬似静水圧プレス(RIP:Rubber Isostatic Press)でも可能である。CIPやRIPでは、静水圧的に圧縮されるため、成形時の配向の乱れが少なく、金型成形よりも配向率の増加が可能であり、最大磁気エネルギー積を増加することができる。
【0034】
成型体の焼結は、1000〜1100℃にて行なわれる。焼結の雰囲気としては、アルゴンガス雰囲気又は1.33×10-2hPa以下の真空雰囲気が好ましい。焼結温度での保持時間は1時間以上が好ましい。また焼結の際には、焼結温度に到達する前に、成型体中の潤滑剤と合金粉末に含まれる水素はできるだけ除去しておく必要がある。潤滑剤の好ましい除去条件は、1.33×10-2hPa以下の真空中又は減圧したArフロー雰囲気中で、300〜500℃で30分以上保持することである。また、水素の好ましい除去条件は、1.33×10-2hPa以下の真空中で、700〜900℃で30分以上保持することである。
【0035】
焼結が終了した後、焼結磁石の保磁力向上のため、必要に応じて500〜650℃で熱処理することができる。この場合の好ましい雰囲気は、アルゴンガス雰囲気又は真空雰囲気であり、好ましい保持時間は30分以上である。
【0036】
また、本発明の製法で作製した微細Rリッチ相領域の生成を抑制した希土類磁石用R−T−B系合金薄片は、焼結磁石以外に、ボンド磁石の作製のためにも好適に用いることができる。以下に、本発明の希土類磁石用合金薄片の製造方法で作製した合金薄片からボンド磁石を作製する場合について説明する。
【0037】
本発明のR−T−B系合金薄片は、まず必要に応じて熱処理される。熱処理の目的は、合金中のα−Feの除去と結晶粒の粗大化である。ボンド磁石作製のための合金粉末の作製には、HDDR(Hydrogenation Disproportionation Desorption Recombination)処理を行うが、合金中に存在するα−FeはHDDR処理工程では消去させることができず、磁性を低下させる原因となる。そのため、α−FeはHDDR処理を行う前に消去しておく必要がある。
【0038】
また、ボンド磁石用の合金粉末の平均粒径は50〜300μmと焼結磁石用の合金粉末と比較すると非常に大きい。HDDR法では、元の合金の結晶方位と、再結合したサブミクロンの結晶粒の方位がある一定の分布を持って一致する。そのため、原料の合金薄片中にある二つ以上の結晶方位の異なる結晶粒が、一つのボンド磁石用合金粉末に含まれてしまうと、合金粉末中に結晶方位が大きく異なる領域を含むこととなり、磁石の配向率が低下し、最大磁気エネルギー積が低下する。これを避けるためには、合金薄片中の結晶粒径は大きい方が都合が良い。SC法のような急冷凝固法で鋳造した合金では、結晶粒径が比較的小さくなる傾向があるため、熱処理による結晶粒の粗大化は磁石特性の向上に有効である。
【0039】
HDDR法によるボンド磁石用合金粉末の製造方法については、多くの報告がある(例えば、T.Takeshita et al,Proc.10th Int. Workshop on RE magnets and their application, Kyoto, Vol.1 p551(1989))。HDDR法による合金粉末の作製は、以下のように行われる。
【0040】
原料のR−T−B系合金薄片を水素雰囲気中で加熱すると、700℃から850℃程度で磁性相のR2T14B相がα‐Fe、RH2、Fe2Bの3相に分解する。次いで同程度の温度で、不活性ガス雰囲気、或いは真空雰囲気に切り替えて水素を除去すると、分解していた相がサブミクロン程度の結晶粒径を有するR2T14B相に再結合する。この際、合金の組成や処理条件を適当に制御すると、再結合した各R2T14B相の磁化容易軸(R2T14B相C軸)は、分解前の原料合金中のR2T14B相のC軸とほぼ平行となり、各微細結晶粒の磁化容易軸方向が揃った異方性磁石粉とすることができる。
【0041】
HDDR処理を施した合金は、50〜300μm程度に粉砕して合金粉末とした後、樹脂と混合して圧縮成形、射出成形などを施しボンド磁石とすることできる。
【0042】
微細Rリッチ相領域は上記した水素解砕処理同様に、HDDR処理の際にも微粉化する傾向が強い。HDDR法による磁粉の特性は、粒度が小さくなるとともに低下する。そのため、本発明の微細Rリッチ相の生成を抑制したR−T−B系合金は、HDDR処理でのボンド磁石用磁粉の作製に好適に用いることができる。また、チル晶は配向率の低下をもたらすが、本発明によればチル晶量を低減できる。
【0043】
ロール鋳造面への熱伝達を適当に弱め、チル晶の生成を抑制する方法は、前記特許文献1(特開平10−317110号公報)に開示されており、具体的にはメッキや溶射等により冷却ロールの表面改質を行うものであって、ロール表面には低熱伝導層が形成される。しかし、ロール表面に付着したメタル除去のために研摩、旋削すると、低熱伝導層が薄くなり、凝固挙動の変化をまねく。また、研摩、旋削の度に表面の低熱伝導層を肉盛溶接などで修繕することも、メンテナンスのコスト、時間の増加をまねくことになる。
一方、本発明によれば、既存の鋳造用回転ロールを使っても、簡単に微細Rリッチ相領域やチル晶の生成量の減少が可能であり、鋳造用回転ロールのメンテナンスの手間は増加しない。
【0044】
【実施例】
〔実施例1〕
合金組成が、Nd:31.5質量%、B:1.00質量%、Co:1.0質量%、Al:0.30質量%、Cu:0.10質量%、残部鉄になるように、金属ネオジウム、フェロボロン、コバルト、アルミニウム、銅、鉄を配合した原料を、アルミナ坩堝を使用して、アルゴンガスで1気圧の雰囲気中で、高周波溶解炉で溶解し、溶湯をSC法にて鋳造して、合金薄片を作製した。
鋳造用回転ロールの直径は300mm、材質は純銅で、内部は水冷されており、図4に示す装置のように注湯用タンディッシュの下側にBN焼結体をロール表面に擦りつける装置を設置し、鋳造中に連続的にBN微粉を塗布した。BN焼結体は純度99%以上であり、過剰のBNを拭き取るバフローラーをタンディッシュとBN焼結体の間に設置した。鋳造用回転ロールの表面に付着したBN微粉を採取し、SEM観察したところ、微粉は鱗片状で、厚さ3μm以下、長さ10μm程度であった。鋳造時のロールの周速度は1.0m/sで、平均厚さ0.30mmの合金薄片を生成した。
【0045】
得られた合金薄片を10枚埋め込み、研摩した後、走査型電子顕微鏡(SEM)で各合金薄片について反射電子線像(BEI)を倍率100倍で撮影した。撮影した写真を画像解析装置に取り込み測定したところ、微細Rリッチ相領域の体積率は、3%以下であった。また、BEI撮影した10枚の合金薄片を磁気カー効果顕微鏡で倍率100倍で撮影し、チル晶部分を切りとって重量を測定した。その結果、チル晶の体積率は1%以下であった。
【0046】
〔比較例1〕
実施例1と同様の組成に原料を配合し、実施例1と同様にして溶解およびSC法による鋳造を実施した。但し、BN微粉は塗布しなかった。
得られた合金薄片を実施例1と同様に評価した結果、微細Rリッチ相領域の体積率は、27%であり、チル晶の体積率は6%であった。
【0047】
〔実施例2〕
実施例1と同様の組成に原料を配合し、実施例1と同様にして溶解およびSC法による鋳造を実施した。但し、BN微粉の塗布は、鋳造前に有機溶剤に分散させた純度95%以上のBNをロール表面に散布し、十分乾燥させ、鋳造中には塗布しなかった。
得られた合金薄片を実施例1と同様に評価した結果、微細Rリッチ相領域の体積率は、10%であり、チル晶の体積率は2%であった。
【0048】
次に焼結磁石を作製した実施例を説明する。
〔実施例3〕
実施例1で得られた合金薄片を水素解砕し、ジェットミルで微粉砕した。水素解砕工程の前工程である水素吸蔵工程の条件は、100%水素雰囲気、2気圧で1時間保持とした。水素吸蔵反応開始時の金属片の温度は25℃であった。また後工程である脱水素工程の条件は、0.133hPaの真空中で、500℃で1時間保持とした。この粉末に、ステアリン酸亜鉛粉末を0.07質量%添加し、100%窒素雰囲気中でV型ブレンダーで十分混合した後、ジェットミル装置で微粉砕した。粉砕時の雰囲気は、4000ppmの酸素を混合した窒素雰囲気中とした。その後、再度100%窒素雰囲気中でV型ブレンダーで十分混合した。得られた粉体の酸素濃度は2800ppmで、粉体の炭素濃度の分析から、粉体に混合されているステアリン酸亜鉛粉末は0.05質量%と計算された。また、レーザー回折式粒度分布測定機で測定した結果、平均粒度D50は5.02μm、D10は1.75μm、D90は8.50μmであった。
【0049】
次に、得られた粉体を100%窒素雰囲気中で横磁場中成型機でプレス成型した。成型圧は1.2t/cm2であり、金型のキャビティ内の磁界は15kOeとした。得られた成型体を1.33×10-5hPaの真空中、500℃で1時間保持し、次いで1.33×10-5hPaの真空中、800℃で2時間保持した後、さらに1.33×10-5hPaの真空中、1050℃で2時間保持して焼結させた。焼結密度は7.5g/cm3以上であり、十分な大きさの密度となった。さらに、この焼結体をアルゴン雰囲気中、560℃で1時間熱処理し、焼結磁石を作製した。
【0050】
直流BHカーブトレーサーでこの焼結磁石の磁気特性を測定した結果を表1に示す。また、焼結磁石の原料の微粉の酸素濃度と粒度も表1に示す。
【0051】
〔比較例2〕
比較例1で得られた合金薄片を、実施例2と同様の方法で粉砕して微粉を得た。さらに実施例2と同様の成型、焼結の工程を経て、焼結磁石を作製した。
【0052】
比較例2で作製した焼結磁石の磁気特性を、直流BHカーブトレーサーで測定した結果を表1に示す。また、比較例2の焼結磁石の原料の微粉の酸素濃度と粒度も表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すように、比較例2では実施例2と比較してD10が小さいことから、1μm程度より小さい非常に細かい粉末の割合が大きい事がわかる。このような非常に細かい粒は酸化しやすく、比較例3では実施例2よりも微粉の酸素濃度が若干高くなっている。また、比較例2の磁石は、実施例3の磁石よりも配向率が低い。比較例2の磁石の磁気特性が実施例3と比較して低い原因は、酸素濃度増加と結晶組織の不均質性が主因と考えられる。
【0055】
次にボンド磁石を作製した実施例を説明する。
〔実施例4〕
合金組成が、Nd28.5%、B:1.00質量%、Co:10.0質量%、Ga:0.5質量%、残部鉄になるように原料を配合し、実施例1と同様の条件でSC法により合金薄片を鋳造した。
得られた合金薄片を実施例1と同様に評価した結果、微細Rリッチ相領域の体積率は5%以下、チル晶の体積率は1%以下であり、α−Feは含んでいなかった。
【0056】
上記の合金薄片を1気圧の水素中、820℃で1時間保持した後、同温度で真空で1時間保持するHDDR処理を実施した。得られた合金粉を150μm以下にブラウンミルで粉砕し、2.5質量%のエポキシ樹脂を加えて1.5Tの磁場を加えて圧縮成形してボンド磁石を得た。得られたボンド磁石の磁気特性を表1に示す。
【0057】
(比較例3)
実施例4と同様の組成に原料を配合し、比較例1と同様にして溶解およびSC法による鋳造を実施した。得られた合金薄片を実施例1と同様に評価した結果、微細Rリッチ相領域の体積率は35%、チル晶の体積率は7%であった。
【0058】
次いで、比較例3で得られた合金薄片を用いて、実施例4と同様の方法でボンド磁石を作製した。得られたボンド磁石の磁気特性を表1に示す。
【0059】
表1から実施例4と比較例3のボンド磁石では、実施例4の磁気特性が優れていることがわかる。比較例3では、微細Rリッチ相領域の体積率、チル晶の体積率が共に高く、HDDR処理、又は粉砕後に50μm以下の比較的細かい粒の量が多いために、磁性が低いものと推定できる。
【0060】
【発明の効果】
本発明の希土類含有合金薄片の製造方法は、微細Rリッチ相領域の生成を効果的に抑制し、合金中のRリッチ相の分散状態の均質性が、従来のSC材よりもさらに良好な希土類含有合金薄片を容易に製造することができる。
また、得られる希土類含有合金薄片は、チル晶が少なく、その過度に微細な結晶粒によってもたらされる配向率の低下も防止できる。そのため、このような希土類含有合金薄片から製造した焼結磁石やHDDR法によるボンド磁石は、従来のものよりも優れた磁石特性を発現する。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来のSC法で製造した微細Rリッチ相を含む希土類磁石用合金薄片の断面組織を示すSEM(走査電子顕微鏡)にて観察した時の反射電子線像である。
【図2】本発明に係る希土類磁石用合金薄片の断面組織を示すSEM(走査電子顕微鏡)にて観察した時の反射電子線像である。
【図3】図1の断面組織における微細Rリッチ相領域と正常部との境界に点線を引いた反射電子線像である。
【図4】ストリップキャスト法の鋳造装置の模式図である。
【符号の説明】
1 耐火物ルツボ
2 タンディッシュ
3 鋳造用回転ロール
4 合金
5 捕集コンテナ
6 BN等焼結体
7 バフロール
Claims (13)
- ストリップキャスト法による希土類含有合金薄片の製造方法において、鋳造用回転ロールの表面に、厚さ3μm以下、長さ10μmの鱗片状であるロール基材よりも熱伝導率が低い材料からなる微粉を付着させて用いることを特徴とする希土類含有合金薄片の製造方法。
- 鋳造用回転ロールのロール基材よりも熱伝導率が低い材料からなる微粉の表面への付着を、鋳造中に連続的に行なうことを特徴とする請求項1記載の希土類含有合金薄片の製造方法。
- 鋳造用回転ロールのロール基材よりも熱伝導率が低い材料からなる微粉を有機溶媒と混合し、回転する鋳造用回転ロールの表面に噴霧することを特徴とする請求項1又は2記載の希土類含有合金薄片の製造方法。
- 鋳造用回転ロールのロール基材よりも熱伝導率が低い材料からなる焼結体を、回転する鋳造用回転ロールの表面に接触させることにより、鋳造用回転ロールの表面に該材料の微粉を付着させることを特徴とする請求項1又は2記載の希土類含有合金薄片の製造方法。
- 鋳造用回転ロールのロール基材よりも熱伝導率が低い材料からなる微粉中のBN濃度が50質量%以上であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の希土類含有合金薄片の製造方法。
- 鋳造用回転ロールのロール基材よりも熱伝導率が低い材料からなる微粉中のBN濃度が80質量%以上であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の希土類含有合金薄片の製造方法。
- 鋳造用回転ロールのロール基材よりも熱伝導率が低い材料からなる微粉の成分が、主として製造される希土類含有合金を構成する成分の一部、又は全てであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の希土類含有合金薄片の製造方法。
- 合金中の微細Rリッチ相領域の体積率が20%以下であって、請求項1乃至7の何れか一項に記載の方法で作製されたことを特徴とする希土類磁石用合金薄片。
- 合金中のチル晶の体積率が5%以下であって、請求項8に記載の方法で作製されたことを特徴とする希土類磁石用合金薄片。
- 請求項8又は9に記載の希土類磁石用合金薄片に水素解砕工程を施した後にジェットミル粉砕することで作製されたことを特徴とする希土類焼結磁石用合金粉末。
- 請求項10に記載の希土類磁石用合金粉末から粉末冶金法で製造されたことを特徴とする希土類焼結磁石。
- 請求項8又は9に記載の希土類磁石用合金薄片を用いて、HDDR法で製造したことを特徴とするボンド磁石用合金粉末。
- 請求項12に記載のボンド磁石用合金粉末を用いて作製されたことを特徴とするボンド磁石。
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