JP4317558B2 - 試料解析方法、試料解析装置及びプログラム - Google Patents

試料解析方法、試料解析装置及びプログラム Download PDF

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本発明は、透光性基板に積層した膜をカバー部材で覆った試料の光学特性を、偏光された光を照射する測定器で測定し、試料に応じたモデル及び前記測定器の測定結果に基づいて試料の各膜層の特性を解析する試料解析方法、試料解析装置及び該試料解析装置を機能させるためのプログラムに関する。
従来、膜を有する試料の特性(膜の屈折率、消衰係数、膜厚等)を解析するためにポラリメータ及びエリプソメータ等が用いられていた。例えば、エリプソメータでは試料に偏光された光を入射させ、入射光及び反射光の偏光状態の変化を測定することで、振幅比(Ψプサイ)及び位相差(Δデルタ)を求めるものである。また、エリプソメータで求められた振幅比及び位相差だけでは、試料に対する唯一の組で膜の屈折率(n)、消衰係数(k)、及び膜厚(d)を求めることができないので、ユーザから入力される解析対象の試料の項目に対する仮定内容(基板の種類、膜厚等)に基づいて試料の構造に応じたモデルを構築し、モデル及びエリプソメータの測定結果を用いて試料の解析を行う。
具体的な解析手順は以下の通りである。先ず、モデルから理論的な演算により求められる振幅比及び位相差と、エリプソメータの測定で求められた振幅比及び位相差とを比較し、両者の相異する程度が最小となるように、モデルに係る分散式のパラメータ及びモデルの膜厚等を変更するプロセスを行う(フィッティングと称す)。両者の相異は通常、最小二乗法を用いた演算で求めており、フィッティングにより最小二乗法で得られた結果がある程度小さくなったと判断された場合、そのときの分散式のパラメータの値から膜の屈折率及び消衰係数を求めると共に、そのときの膜厚を試料が有する膜の膜厚として選択する。
なお、モデルの作成、最小二乗法による演算、フィッティング等は、コンピュータを用いて所要のプログラムに基づき手動又は自動で行うことが一般的である(例えば、特許文献1、2参照)。
このようなエリプソメータを用いて有機EL(Electroluminescence)素子の膜厚等を計測する技術が開示されている(例えば、特許文献3)。有機EL素子は、透光性基板上に下部電極と有機発光機能層を含む有機層と上部電極とを積層させた基本構造を有している。
有機EL素子の上部電極と下部電極との間に電圧を印加することによって、上部電極及び下部電極の一方に形成される陰極側から電子が有機層内に注入され、上部電極及び下部電極の他方に形成される陽極側から正孔が有機層内に注入される。そして、それらが有機層中の有機発光機能層で再結合することにより発光する。透光性基板上に有機層等が成膜された後、有機層等を覆うカバー部材を透光性基板に張り合わせて、有機EL素子パネルが完成し、製品として出荷される。
特開2002−340789号公報 特開2002−340528号公報 特開2005−322612号公報
しかしながら、特許文献3に記載の技術は、各膜の成膜後においてその膜厚を計測しているにすぎず、カバー部材を透光性基板に貼り付けた出荷段階の有機EL素子パネルの光学特性を計測できないという問題があった。特に、製造された有機EL素子パネルが設計どおりの構造になっているか、また、設計どおりになっていない場合は、どの点が悪かったのかを確認できるようにすることが要望されている。さらに、有機EL素子パネルの光学特性が経時的にどのように変化(劣化)するか精度良く検討する必要もあった。なお、特許文献1及び特許文献2には、かかる課題を解決する手段は開示されていない。
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、透光性基板側から光の偏光状態を測定すると共に、カバー部材側から光の偏光状態を測定し、この測定結果と基板側モデル及びカバー側モデルにより得られる偏光状態とに基づいて、各膜層の特性を解析することにより、一方向から計測するよりもより精度良く試料を解析することが可能な試料解析方法、試料解析装置及び該試料解析装置を機能させるためのプログラムを提供することにある。
本発明の他の目的は、経路孔が貫通された試料台の経路孔方向と試料台上方向とのそれぞれから、透光性基板側またはカバー部材側へ向けて測定器により光を照射し、反射した光の偏光状態を測定器により測定して、解析することにより、より短時間で、また簡易に試料を解析することが可能な試料解析装置を提供することにある。
本発明に係る試料解析方法は、透光性基板に積層した膜をカバー部材で覆った試料の光学特性を、偏光された光を照射する測定器で測定し、試料に応じたモデル及び前記測定器の測定結果に基づいて試料の各膜層の特性を解析する試料解析方法において、前記透光性基板側から測定器により光を照射し、前記試料で反射した光の偏光状態を測定する基板側測定ステップと、前記カバー部材側から測定器により光を照射し、前記試料で反射した光の偏光状態を測定するカバー側測定ステップと、予め記憶された透光性基板側から測定する場合の基板側モデル及びカバー部材側から測定する場合のカバー側モデルを読み出し、基板側モデルに基づく光の偏光状態及びカバー側モデルに基づく光の偏光状態をそれぞれ算出する算出ステップと、該算出ステップにより算出した、基板側モデルに基づく光の偏光状態及びカバー側モデルに基づく光の偏光状態、前記基板側測定ステップにより測定した偏光状態、並びに、前記カバー側測定ステップにより測定した偏光状態に基づいて、各膜層の特性を解析する解析ステップとを備えることを特徴とする。
本発明に係る試料解析方法は、前記解析ステップは、前記算出ステップにより算出した基板側モデルに基づく光の偏光状態及びカバー側モデルに基づく光の偏光状態、前記基板側測定ステップにより測定した偏光状態、並びに、前記カバー側測定ステップにより測定した偏光状態に基づいて、フィッティングを行うことにより、各膜層の膜厚及び光学定数を算出することを特徴とする。
本発明に係る試料解析方法は、前記解析ステップは、前記算出ステップにより算出した基板側モデルに基づく光の偏光状態及び前記基板側測定ステップにより測定した偏光状態、並びに、前記算出ステップにより算出したカバー側モデルに基づく光の偏光状態及び前記カバー側測定ステップにより測定した偏光状態に基づき平均二乗誤差を算出する誤差算出ステップと、前記誤差算出ステップにより算出した平均二乗誤差が所定値以下または最小値となるまで前記カバー側モデル及び前記基板側モデルのパラメータを変更する変更ステップと、該変更ステップにより、平均二乗誤差が所定値以下または最小値となった場合の各膜層の膜厚及び光学定数を算出する最適値算出ステップとを備えることを特徴とする。
本発明に係る試料解析方法は、前記カバー側モデル及び基板側モデルは誘電率の波長依存性を示す複数種の分散式を用いて表現され、前記変更ステップは、前記誤差算出ステップにより算出した平均二乗誤差が所定値以下または最小値となるまで、複数種の分散式それぞれについてのカバー側モデル及び基板側モデルのパラメータを変更することを特徴とする。
本発明に係る試料解析装置は、透光性基板に積層した膜をカバー部材で覆った試料の光学特性を、偏光された光を照射して測定する測定器及び、試料に応じたモデル及び前記測定器の測定結果に基づいて試料の各膜層の特性を解析する解析部を備える試料解析装置において、前記試料が載置され、一部に光の経路となる経路孔が貫通された試料台と、該試料台の前記経路孔方向または前記試料台上方向から、前記透光性基板側へ向けて前記測定器により光を照射し、前記試料で反射した光の偏光状態を前記測定器により測定する基板側測定手段と、前記試料台上方向または前記経路孔方向から、前記カバー部材側へ向けて前記測定器により光を照射し、前記試料で反射した光の偏光状態を前記測定器により測定するカバー側測定手段と、予め記憶部に記憶した透光性基板側から測定する場合の基板側モデル及びカバー部材側から測定する場合のカバー側モデルを前記解析部により読み出し、基板側モデルに基づく光の偏光状態及びカバー側モデルに基づく光の偏光状態をそれぞれ算出する算出手段と、該算出手段により算出した、基板側モデルに基づく光の偏光状態及びカバー側モデルに基づく光の偏光状態、前記基板側測定手段により測定した偏光状態、並びに、前記カバー側測定手段により測定した偏光状態に基づいて、前記解析部により各膜層の特性を解析する解析手段とを備えることを特徴とする。
本発明に係る試料解析装置は、前記解析手段は、前記算出手段により算出した基板側モデルに基づく光の偏光状態及びカバー側モデルに基づく光の偏光状態、前記基板側測定手段により測定した偏光状態、並びに、前記カバー側測定手段により測定した偏光状態に基づいて、フィッティングを行うことにより、各膜層の膜厚及び分散式のパラメータを算出する手段と、算出した分散式のパラメータに基づき各膜層の光学定数を算出する手段とを含むことを特徴とする。
本発明に係る試料解析装置は、前記解析手段は、前記算出手段により算出した基板側モデルに基づく光の偏光状態及び前記基板側測定手段により測定した偏光状態、並びに前記算出手段により算出したカバー側モデルに基づく光の偏光状態及び前記カバー側測定手段により測定した偏光状態に基づき平均二乗誤差を算出する誤差算出手段と、前記誤差算出手段により算出した平均二乗誤差が所定値以下または最小値となるまで、前記カバー側モデル及び前記基板側モデルのパラメータを変更する変更手段と、該変更手段により、平均二乗誤差が所定値以下または最小値となった場合の各膜層の膜厚及び光学定数を算出する最適値算出手段とを備えることを特徴とする。
本発明に係る試料解析装置は、前記記憶部は、前記カバー側モデル及び基板側モデルについて誘電率の波長依存性を示す複数種の分散式を記憶しており、前記変更手段は、前記記憶部に記憶した複数種の分散式を読み出す手段と、前記誤差算出手段により算出した平均二乗誤差が所定値以下または最小値となるまで、前記読み出し、各分散式それぞれについてのカバー側モデル及び基板側モデルのパラメータを変更する手段とを含むことを特徴とする。
本発明に係る試料解析装置は、前記測定器は、前記試料台を介して上側及び下側それぞれに設けられていることを特徴とする。
本発明に係る試料解析装置は、前記測定器を試料台の上側または下側に移動させる移動手段をさらに備えることを特徴とする。
本発明に係るプログラムは、透光性基板に積層した膜をカバー部材で覆った試料の光学特性を、偏光された光を照射する測定器で測定し、試料に応じたモデル及び前記測定器の測定結果に基づいて試料の各膜層の特性をコンピュータにより解析するためのプログラムにおいて、コンピュータに、前記透光性基板側から測定器により光を照射した場合に、前記試料で反射した光の偏光状態を測定した結果を受け付ける基板側測定ステップと、前記カバー部材側から測定器により光を照射した場合に、前記試料で反射した光の偏光状態を測定した結果を受け付けるカバー側測定ステップと、予め記憶された透光性基板側から測定する場合の基板側モデル及びカバー部材側から測定する場合のカバー側モデルを読み出し、基板側モデルに基づく光の偏光状態及びカバー側モデルに基づく光の偏光状態をそれぞれ算出する算出ステップと、該算出ステップにより算出した、基板側モデルに基づく光の偏光状態及びカバー側モデルに基づく光の偏光状態、前記基板側測定ステップにより受け付けた偏光状態、並びに、前記カバー側測定ステップにより受け付けた偏光状態に基づいて、各膜層の特性を解析する解析ステップとを実行させることを特徴とする。
本発明にあっては、まず、透光性基板側から測定器により光を照射し、試料で反射した光の偏光状態を測定する。その一方で、透光性基板と反対に位置するカバー部材側から測定器により光を照射し、試料で反射した光の偏光状態を測定する。双方向からの測定に対応して、解析部は予め記憶された透光性基板側から測定する場合の基板側モデルを読み出すと共に、カバー部材側から測定する場合のカバー側モデルを読み出す。解析部は基板側モデルに基づく光の理論的な偏光状態及びカバー側モデルに基づく光の理論的な偏光状態をそれぞれ算出する。
そして、解析部は、算出した基板側モデルに基づく光の偏光状態、算出したカバー側モデルに基づく光の偏光状態、基板側から測定した偏光状態、及び、カバー側から測定した偏光状態に基づいて、フィッティングを行うことにより、試料の解析、例えば各膜層の膜厚及び光学定数等を算出する。このように構成したので、カバー側と基板側との双方のデータを考慮することで、一方向からのデータのみを用いる場合と比較し、より精度良く試料を解析することが可能となる。
本発明にあっては、解析部は、算出した基板側モデルに基づく光の偏光状態及び基板側から測定した偏光状態、並びに算出したカバー側モデルに基づく光の偏光状態及びカバー側から測定した偏光状態に基づき、平均二乗誤差を、最小二乗法を用いて算出する。次いで、解析部は算出した基板側の平均二乗誤差が所定値以下または最小値となるまで、カバー側モデル及び基板側モデルのパラメータを変更する。そして解析部は、平均二乗誤差が所定値以下または最小値となった場合の各膜層の膜厚及び光学定数を算出するよう構成したので、カバー側と基板側との双方のデータに基づくフィッティングを実行でき、より信頼性の高い結果を得ることが可能となる。
本発明にあっては、カバー側モデル及び基板側モデルは誘電率の波長依存性を示す分散式を用いて表現されるところ、複数の分散式を記憶しておく。そして算出した平均二乗誤差が所定値以下または最小値となるまで、複数種の分散式を順次読み出し、それぞれの分散式について、カバー側モデル及び基板側モデルのパラメータを変更する。このように複数種の分散式が存在することに鑑み、分散式毎にパラメータを変更して、所定値以下または最小値となる平均二乗誤差を算出するので、より最適な分散式に基づく信頼性の高い結果を得ることが可能となる。
本発明にあっては、測定器及び解析部を備える試料解析装置は、試料を載置する試料台を有する。この試料台は、カバー側と基板側との双方からの測定を可能とすべく、一部に光の経路となる経路孔が貫通されている。そして、試料台の経路孔方向または試料台上方向から、透光性基板側へ向けて測定器により光を照射し、試料で反射した光の偏光状態を測定器により測定する。逆に、試料台上方向または経路孔方向から、カバー部材側へ向けて測定器により光を照射し、試料で反射した光の偏光状態を測定器により測定する。すなわち、試料台上方向または、試料台下側の経路孔方向から、基板側とカバー側との両面を測定する。
ここで、測定器は、試料台を介して上側及び下側それぞれに設けるほか、移動手段により測定器を試料台の上側または下側に移動させる。そして、解析部は、算出した基板側モデルに基づく光の偏光状態、算出したカバー側モデルに基づく光の偏光状態、基板側から測定した偏光状態、及び、カバー側から測定した偏光状態に基づいて、フィッティングを行うことにより、試料の解析を行うので、試料を裏返す作業を省け、より早期に解析結果を得ることが可能となる。
本発明にあっては、透光性基板側から偏光状態を測定すると共に、カバー部材側から偏光状態を測定する。そしてカバー側及び基板側それぞれのモデルから得られる偏光状態を算出し、これら双方向から測定及び算出データを用いてフィッティングを行うので、一方向からのデータのみを用いる場合と比較し、より精度良く試料を解析することが可能となる。
本発明にあっては、解析部は、算出した基板側モデルに基づく光の偏光状態及び基板側から測定した偏光状態、並びに、算出したカバー側モデルに基づく光の偏光状態及びカバー側から測定した偏光状態に基づき平均二乗誤差を算出する。そして、算出した基板側の平均二乗誤差が所定値以下または最小値となるまで、カバー側モデル及び基板側モデルのパラメータを変更し、平均二乗誤差が所定値以下または最小値となった場合の各膜層の膜厚及び光学定数を算出するので、カバー側と基板側との双方のデータに基づくフィッティングを実行でき、より信頼性の高い結果を得ることが可能となる。
本発明にあっては、複数種の分散式が存在することに鑑み、分散式毎にパラメータを変更して、所定値以下または最小値となる平均二乗誤差を算出するので、より最適な分散式に基づく信頼性の高い結果を得ることが可能となる。
本発明にあっては、カバー側と基板側との双方からの測定を可能とすべく、一部に光の経路となる経路孔が貫通された試料台を設け、カバー側モデル及び基板側モデルに基づく光の偏光状態、及び、双方向から測定した偏光状態に基づいて、フィッティングを行うことにより、試料の解析を行うので、試料を裏返す作業を省け、より早期に解析結果を得ることが可能となる。その結果、より多くの試料を短時間で解析することが可能となる。また、移動手段により測定器を移動させる場合は、一対の測定器を上下方向に設ける必要が無く、一つの測定器で足りるため試料解析装置のコストを低減することが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
実施の形態1
以下本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態に係る試料解析装置1のハードウェア構成を示すブロック図である。試料解析装置1はエリプソメータ及び解析部であるコンピュータ10を含んで構成される。試料解析装置1は、膜を複数積層した試料50に偏光した光を照射すると共に、試料50で反射した光を取得して反射光の偏光状態を測定し、この測定結果と試料50に応じたモデルに基づき試料50の各膜層の特性を解析するものである。以下では、試料50として有機EL素子パネル50を試料解析装置1により解析する形態につき説明する。なお、試料解析装置1には、エリプソメータの替わりにポラリメータを用いることも可能である。
図2は有機EL素子パネル50の積層状態を示す模式的断面図である。有機EL素子パネル50は、ガラス基板等の透光性基板51、有機膜56及びガラス等のカバー部材57を含んで構成される。図2(a)は、透光性基板51、有機膜56及びカバー部材57の積層状態を示す模式的断面図である。この有機EL素子パネル50は、2枚のガラス板状部材、すなわち有機膜56を挟んで透光性基板51とカバー部材57とを貼り合わせた形態となっている。有機EL素子パネル50の構造は、一方のガラス板状部材である透光性基板51の一面51aに有機膜56を形成する一方、他方のガラス板状部材であるカバー部材57に、有機膜56を収める凹部57dを設けており、凹部57dを設けた面57bを透光性基板51の一面51aに接着剤61で貼り合わせ両者を一体化している。
透光性基板51とカバー部材57との貼り合わせにより封止された凹部57dの内部は、有機膜56の保護のため真空にされるか、希ガス(例えば窒素ガス)が封入される。また、本実施の形態においては、カバー部材57及び透光性基板51にガラスを用いたが、これに限るものではない。例えば、透光性基板51として、フレキシブルな透光性プラスチック基板を用いてもよい。透光性プラスチック基板を用いる場合は、透明導電性の薄膜(ITO等)を透光性プラスチック基板上にコーティングした後、その上に有機膜56を形成するようにすればよい。また、カバー部材57は、例えば、可視光域で透明なBarix(登録商標)を封止膜として用いることができ、透光性プラスチック基板上にこれを貼り合わせるようにしても良い。
図2(b)は、凹部57d内に収められた有機膜56の詳細な構造を示している。有機膜56は、透光性を有する透光性基板51の一面51aに配置された透明電極である陽極(ITO)58の上に、正孔輸送層(Hole transport layer)52、発光層(Emitting layer)53、正孔ブロッキング層(Hole blocking layer)54、及び電子輸送層(Electron transport layer)55の計4層の膜層を順次積み重ねている。また、有機膜56は、カバー部材57と対向する表面56aに陰極59を配置している。
有機膜56は間隔(ギャップ)を隔てて凹部57dの内部に収められており、有機膜56の表面56aを覆うカバー部材57のカバー部57aとの間には空間60が生じている。空間60の厚み寸法D(有機膜56の表面56aからカバー部57aの内面57cまでの垂直寸法。間隔距離に相当)は、有機EL素子パネル50の仕様に応じて様々であり、一般には10μm以上400μm以下の範囲で厚み寸法Dが設定されていることが多い。なお、透光性基板51及びカバー部材57は、厚みTが0.5mm、0.7mm、1.1mmのものが用いられることが多く(0.7mmが最も一般的)、そのため有機EL素子パネル50の全体の厚み(2T)は1.0mm〜2.2mmの範囲の寸法になっていることが一般的である。
上述した構造の有機EL素子パネル50の有機膜56を解析する試料解析装置1は、図1に示す構成であり、一対の光照射器3及び光取得器5からなる測定器を含む測定解析系の部分及び駆動系部分に大別される。試料解析装置1は測定解析系の部分として、キセノンランプ2及び光照射器3を第1光ファイバケーブル15aで接続し、ステージ4(試料台)上に載置した試料(有機EL素子パネル50)へ偏光した状態の光を照射して光を試料へ入射させると共に、試料で反射した光を光取得器5で取り込む構成にしている。光取得器5は第2光ファイバケーブル15bを介して分光器7に接続されており、分光器7は波長毎に測定を行って測定結果をアナログ信号としてデータ取込機8へ伝送する。データ取込機8は、アナログ信号を所要値に変換してコンピュータ10へ伝送し、コンピュータ10で解析を行う。
また、図1に示すように、試料解析装置1は駆動系部分として、ステージ4、光照射器3、光取得器5及び分光器7に第1モータM1〜第6モータM6を夫々設けており、各モータM1〜M6の駆動をコンピュータ10に接続したモータ制御機9で制御することで、ステージ4、光照射器3、光取得器5及び分光器7を測定に応じた適切な位置、姿勢に変更する。モータ制御機9は、コンピュータ10から出力される指示に基づき各モータM1〜M6の駆動制御を行う。なお、試料解析装置1において、エリプソメータに相当する部分は、主にキセノンランプ2、光照射器3、ステージ4、光取得器5、分光器7、データ取込機8、モータ制御機9、及びモータM1〜M6で構成される範囲である。
次に、試料解析装置1の上述した各部分を順番に詳述する。まず、キセノンランプ2は光源であり、複数の波長成分を含む白色光を発生し、発生した白色光を光照射器3へ第1光ファイバケーブル15aを介して送る。光照射器3は半円弧状のレール6上に配置され、内部には偏光子3aを有しており、白色光を偏光子3aで偏光し、偏光状態の光を試料へ照射する。また、光照射器3は、第4モータM4が駆動されることでレール6に沿って移動し、照射する光のステージ4のステージ面4aの垂線Hに対する角度(入射角度φ)を調整可能にしている。
ステージ4は移動レール部(図示せず)に摺動可能に配置されており、第1モータM1〜第3モータM3の駆動によりステージ4を図1中のX方向、Y方向(図1の紙面に直交する方向)及び高さ方向となるZ方向へ夫々移動可能にしている。ステージ4の移動により、試料へ光を入射させる箇所も適宜変更でき、試料の面分析なども行えるようにしている。なお、ステージ4の試料を載置するステージ面4aは、光の反射を防止するため黒色にされている。
本実施の形態においては、有機EL素子パネル50を透光性基板51側からと、カバー部材57側からとのそれぞれから計測を行う。まず、透光性基板51側から計測する手順を説明する。
図3は有機EL素子パネル50を透光性基板51側から計測する際の光の入射及び反射状態を示す模式的断面図である。有機EL素子パネル50は、カバー部材57のカバー部57aの外面57fがステージ4のステージ面4aに接するように天地を逆にしてステージ4に載置される。この状態で光照射器3から光を照射することで、有機EL素子パネル50の透光性基板51の裏面51bから光が入射すると共に透光性の透光性基板51を通過して有機膜56へ達する。なお、図3では有機EL素子パネル50の陽極58及び陰極59等の図示を省略している(図2(a)及び後述の図10も同様である)。
また、図1に示すように、光取得器5は有機EL素子パネル50で反射した光を取得し、取得した光の偏光状態を測定するものである。光取得器5は、光照射器3と同様にレール6上に配置されており、PEM(Photo Elastic Modulator:光弾性変調器)5a及び検光子(Analyzer)5bを内蔵し、試料で反射された光をPEM5aを介して検光子5bへ導いている。また、光取得器5は、第5モータM5の駆動によりレール6に沿って図3中の矢印A1、A2方向に移動可能であり、基本的に光照射器3の移動に連動して反射角度φと入射角度φとが同角度になるようにモータ制御機9で制御されている。なお、光取得器5に内蔵されたPEM5aは、取り込んだ光を所要周波数(例えば50kHz)で位相変調することにより直線偏光から楕円偏光を得ている。また、検光子5bは、PEM5aで位相変調された各種偏光の中から選択的に偏光を取得して測定する。
図1に示すように、分光器7は、反射ミラー、回折格子、フォトマルチプライヤー(PMT:光電子倍増管)及び制御ユニット等を内蔵し、光取得器5から第2光ファイバケーブル15bを通じて送られた光を反射ミラーで反射して回折格子へ導いている。回折格子は第6モータM6により角度を変更し出射する光の波長を可変する。分光器7の内部へ進んだ光はPMTで増幅され、光の量が少ない場合でも、測定された信号(光)を安定化させる。また、制御ユニットは測定された波長に応じたアナログ信号を生成してデータ取込機8へ送出する処理を行う。なお、ポラリメータを用いる場合は、フォトダイオードアレイ(PDA)を組み合わせた構成にすることも可能である。
データ取込機8は、分光器7からの信号に基づき反射光の偏光状態(p偏光、s偏光)の振幅比Ψ及び位相差Δを波長毎に算出し、算出した結果をコンピュータ10へ送出する。なお、振幅比Ψ及び位相差Δは、p偏光の振幅反射係数Rp及びs偏光の振幅反射係数Rsに対し以下の数式(1)の関係が成立する。
Rp/Rs=tanΨ・exp(i・Δ)・・・(1)
但し、iは虚数単位である(以下同様)。また、Rp/Rsは偏光変化量ρと云う。
また、試料解析装置1が有するコンピュータ10は、データ取込機8で得られた偏光状態の振幅比Ψ及び位相差Δと、試料に応じたモデルとに基づき試料の解析を行うと共に、ステージ4の移動等に対する制御を行う。
コンピュータ10は、コンピュータ本体11、ディスプレイ12、キーボード13及びマウス14等から構成されており、コンピュータ本体11はCPU11a、記憶部11b、RAM11c、及びROM11dを内部バスで接続している。CPU11aは記憶部11bに記憶された各種コンピュータプログラムに従って後述するコンピュータ10に関する種々の処理を行うものであり、RAM11cは処理に係る各種データ等を一時的に記憶し、ROM11dにはコンピュータ10の機能に係る内容等を記憶する。
なお、コンピュータ10の記憶部11bは、試料解析用のコンピュータプログラム、及びステージ4の移動制御用のコンピュータプログラム等の各種プログラムを予め記憶すると共に、ディスプレイ12へ表示するための各種メニュー画像のデータ、試料に係る既知のデータ、相異する構造のモデルパターン、モデルの作成に利用される複数の分散式、作成されたモデル、各種試料に応じたリファレンスデータ、及び干渉縞に関連した比較処理に用いる基準値等を記憶する。
試料(有機EL素子パネル50)の解析に関し、コンピュータ10は有機EL素子パネル50の有機膜56を構成する各膜層52乃至55の光学特性として屈折率及び消衰係数(以下、場合により光学定数で代表する)を解析すると共に、各膜層52乃至55の膜厚等も解析する。
具体的にコンピュータ10は、測定された振幅比Ψ及び位相差Δから、透光性基板51、カバー部材57、及び有機EL素子パネル50の周囲雰囲気等の複素屈折率を既知とした場合に、記憶部11bに予め記憶されているモデリングプログラムを用いることで、ユーザに設定される試料の項目及び有機EL素子パネル50の材料構造に応じたモデルを作成して記憶部11bに記憶しておき、解析段階で記憶しているモデルを用いて有機膜56の各膜層52〜55の膜厚及び複素屈折率を求める。複素屈折率Nは、解析する膜層の屈折率n及び消衰係数kとした場合、以下の光学式で表した数式(2)の関係が成立する。
N=n−ik・・・(2)
また、入射角度をφ、光照射器3が照射する光の波長をλとすると、データ取込機8から出力されるエリプソメータで測定された振幅比Ψ及び位相差Δは、解析する膜層52〜55の膜厚d、屈折率n及び消衰係数kに対して以下の数式(3)の関係が成立する。
(d,n,k)=F(ρ)=F(Ψ(λ,φ),Δ(λ,φ))・・・(3)
なお、コンピュータ10は、解析する膜層52〜55の膜厚、及び複数のパラメータを有する複素誘電率の波長依存性を示す分散式を用いて、記憶したモデルから理論的な演算で得られるモデルスペクトル(ΨM (λi )、ΔM (λi ))(偏光状態)と、データ取込器8から出力される測定結果に係る測定スペクトル(ΨE (λi )、ΔE (λi ))(偏光状態)との差が最小になるように膜厚、分散式のパラメータ等を変化させる処理(フィッティング)を行う。なお、適用される分散式の一例を下記の数式(4)に示す。
Figure 0004317558
数式(4)において左辺のεは複素誘電率を示し、ε、εs は誘電率を示し、Γ0 、ΓD 、γj は粘性力に対する比例係数(damping factor)を示し、ωoj、ωt 、ωp は固有角振動数(oscillator frequency, transverse frequency, plasma frequency)を示す。なお、εは高周波における誘電率(high frequency dielectric constant)であり、εs は低周波における誘電率(static dielectric constant)であり、fj =(εSj−ε)である。また、複素誘電率ε(ε(λ)に相当)、及び複素屈折率N(N(λ)に相当)は、下記の数式(5)の関係が成立する。
ε(λ)=N2 (λ)・・・(5)
なお、フィッティングを簡単に説明すると、有機EL素子パネル50を測定した場合でT個の測定データ対をExp(i=1,2,・・・,T)、T個のモデルの計算データ対をMod(i=1,2,・・・,T)としたときに測定誤差は正規分布すると考えて標準偏差をσi とした際の最小二乗法に係る平均二乗誤差χ2 は下記の数式(6)で求められる。なお、Pはパラメータの数である。平均二乗誤差χ2 の値が小さいときは、測定結果と作成したモデルの一致度が大きいことを意味するため、複数のモデルを比較する場合、平均二乗誤差χ2 の値が最も小さいものがベストモデルに相当する。
Figure 0004317558
上述したコンピュータ10が行う試料解析に係る一連の処理は、記憶部11bに記憶された試料解析用のコンピュータプログラムに規定されている。本実施の形態に係る試料解析装置1は、試料における複数の反射形態に対応できるように予め作成されているモデルタイプ(モデルの構造)を記憶部11bに記憶しており、これらのモデルタイプの構造が、記憶部11bに記憶されるコンピュータプログラム(モデリングプログラム)が規定する処理に基づき読み出されて解析に用いられる。さらに、コンピュータプログラムには、透光性基板51側及びカバー部材57側の双方から計測した測定スペクトルと、透光性基板51側及びカバー部材57側の双方のモデルスペクトルから、フィッティングを行い、有機膜56の各膜層の膜厚及び光学定数を算出するプログラムも記憶されている。
本実施の形態では有機EL素子パネル50を図3に示すような形態で測定するため、有機EL素子パネル50へ照射した光Kが反射する形態として、一般に3通りの種類が想定される。1つ目の形態は有機EL素子パネル50へ入射した光Kが有機膜56と空間60の境界(有機膜56の表面56aに相当する箇所)で反射する場合であり(図3中、反射光K1の光路)、2つ目の形態は光Kが有機膜56及び空間60を通過してカバー部材57の内面57cで反射する場合であり(図3中、反射光K2の光路)、3つ目の形態はカバー部材57を通過してカバー部材57とステージ4の境界(カバー部材57の外面57fとステージ4のステージ面4aが接する箇所)とで反射する場合である(図3中、反射光K3の光路)。
なお、実際的には、図3に示すように、透光性基板51表面の点P1での反射、及び透光性基板51と有機膜56の境界となる点P2での反射や多重反射も含むが、点P1、P2での反射は、解析に用いるモデルの選択に直接利用しないため、本実施の形態では扱いを省略している。また、光K、及び反射光K1〜K3等は、透光性基板51及び有機膜56等に対する入射時に屈折すると共に出射時にも屈折するが、この時入射時と出射時の角度は同じである。さらには多重反射を含めた反射光K1〜K3の全てが測定されるかは、試料の厚み寸法に依存するので、試料解析装置1は、試料の厚み寸法によって、解析に用いるモデルの種類も選択している。
上述した3通りの反射形態では、光が通過する層がそれぞれ相異するため、解析に用いるモデルも実際の測定における反射形態に応じた構造のものを、透光性基板51側及びカバー部材57側のそれぞれにおいて選択する必要がある。図4は透光性基板51側から計測する際のモデルを示す説明図である。図4(a)は、図3の反射光K1に対応した構造のモデルm10を示している。モデルm10は、有機膜56での反射に対応することから、有機膜56の下方に位置する空間60をボイド層(空隙層)にして、そのボイド層S1(基板とみなす)に有機膜層L1(有機膜56に相当)、ガラス層L2(透光性基板51の表面粗さが無い部分に相当)、及びラフネス層L3(透光性基板51の表面粗さに応じた部分)が重なり合った構造にしている。
また、図4(b)は、図3の反射光K2に対応した構造のモデルm11を示している。モデルm11は、カバー部材57の内面57cでの反射に対応することから、カバー部材57を構成する材料(封止材料)を基板にみなし、その封止材料層S10(カバー部材57に係る層に相当)にボイド層L11(空間60の空隙層に相当)、有機膜層L12(有機膜56に相当)、ガラス層L13(透光性基板51の表面粗さが無い部分に相当)、及びラフネス層L14(透光性基板51の表面粗さに応じた部分)が重なり合った構造にしている。
さらに、図4(c)は、図3の反射光K3に対応した構造のモデルm12を示している。モデルm12は、カバー部材57とステージ4の境界面での反射に対応することから、カバー部材57の下方の周囲雰囲気を構成する媒体(図3では、カバー部材57とステージ4の間に存在する空間のボイド層が相当)を基板にみなし、そのボイド層(周囲雰囲気)S20(基板)に封止材料層L21(カバー部材57を構成する材料の層に相当)、ボイド層L22(空間60の空隙層に相当)、有機膜層L23(有機膜56に相当)、ガラス層L24(透光性基板51の表面粗さが無い部分に相当)、及びラフネス層L25(透光性基板51の表面粗さに応じた部分)が重なり合った構造にしている。
なお、上述した各モデルm10、m11、m12では、有機膜層L1、L12、L23を、図2に示す各膜層52〜55をまとめた一つの膜層として簡易的に表しているが、実際のモデリングにおける有機膜層L1、L12、L23は、有機EL素子パネル50の有機膜56と同様に、正孔輸送層52、発光層53、正孔ブロッキング層54、及び電子輸送層55が積層されたものになっており、各膜層52〜55に対応した膜厚が設定されるものとする。このように、各膜層52〜55に応じたモデリングを行うことで、有機膜56に含まれる各膜層52〜55の特性を解析できるようにしている。ユーザは有機EL素子パネル50の厚み等を考慮してキーボード13またはマウス14から、一のモデルを選択する。なお、解析対象の試料の厚み寸法が2.2mm以上である場合、反射光K3の反射方向が逸れて光取得器5の測定範囲から外れる。そのため、試料の厚み寸法が2.2mm以上である場合、反射光K3を光取得器5で測定できないので、解析に用いるモデルの構造としてモデルm10またはモデルm11を選択すればよい。
また、試料の厚み寸法が1.0mmを越えて2.2mm未満である場合、反射光K1〜K3の全てが光取得器5の測定範囲に入る可能性がある。そのため、試料の厚み寸法が1.0mmを越えて2.2mm未満である場合、解析に用いるモデルの構造として反射光K1〜K3に対応したモデルm10、m11またはm12を選択すればよい。さらに、試料の厚み寸法が1.0mm以下である場合も、反射光K1〜K3の全てが光取得器5の測定範囲に入る可能性がある。そのため、試料解析装置1は試料の厚み寸法が1.0mm以下である場合、解析に用いるモデルの構造として反射光K1〜K3に対応したモデルm10、m11またはm12を選択すれば良い。
図5は有機EL素子パネル50を透光性基板51側から計測する際の光の入射及び反射状態を示す模式的断面図である。有機EL素子パネル50は、カバー部材57側から光を照射すべく、透光性基板51がステージ4に接触する方向にて載置される。試料解析装置1は、カバー部材57へ向けて偏光状態の光Kを照射し、カバー部材57及び空間60を通過した光Kは、複数の膜層52乃至55(図2(b)参照)で構成される有機膜56に到達する。さらに光Kは有機膜56を通過してから、有機膜56と透光性基板51の境界で反射する場合(反射光K10の場合)と、透光性基板51も通過して透光性基板51とステージ4の境界で反射する場合(反射光K11の場合)が生じる。なお、いずれの反射光K10、K11もカバー部材57から出射して光取得器5で取得されて、偏光状態が測定される。
なお、図5においても実際的には、カバー部材57表面での反射(P10)、カバー部材57内面での反射(P20)、及び有機膜56表面での反射(P30)や多重反射も含むが、このような反射(P10、P20、P30)も、解析に用いるモデルの選択に直接利用しないため扱いを省略している。
図5に示す有機EL素子パネル50の載置形態で試料の解析を行う場合、解析に用いるモデルには、上述した反射光K10、K11に応じた構造のものを用いる必要がある。図6はカバー部材57側から計測する際のモデルを示す説明図である。図6(a)は、反射光K10に応じた構造のモデルm20を示している。モデルm20は、最下方の透光性基板51をガラス層(S30)にして、その上に有機膜層L31(有機膜56に相当)、ボイド層L32(空間60に相当)、封止材料層L33(カバー部材57の表面粗さが無い部分に相当)、及びラフネス層L34(カバー部材57の表面粗さに応じた部分)が重なり合った構造にしている。なお、モデルm20の各層の厚みd31〜d34は、準備段階でユーザから入力される値により設定される。
一方、図6(b)は、反射光K11に応じた構造のモデルm21を示している。モデルm21は、透光性基板51の下方の周囲雰囲気を構成する媒体(図5では、透光性基板51とステージ4の間に存在する空間のボイド層が相当)を基板にみなし、そのボイド層S40(基板)にガラス層L41(透光性基板51に相当)、有機膜層L42(有機膜56に相当)、ボイド層L43(空間60に相当)、封止材料層L44(カバー部材57の表面粗さが無い部分に相当)、及びラフネス層L45(カバー部材57の表面粗さに応じた部分)が重なり合った構造にしている。なお、モデルm21の各層の厚みd41〜d45は、準備段階でユーザから入力された値により設定される。ユーザはキーボード13またはマウス14から採用するモデルを選択する。
図7は有機EL素子パネル50の測定手順を示すフローチャートである。まず、有機EL素子パネル50を、透光性基板51を上側にしてステージ4上に載置する(ステップS71)。試料解析装置1は、光照射器3及び光取得器5を用いて、図3に示すように透光性基板51へ向けて光を照射し、透光性基板51側の測定スペクトルΨEg、ΔEgを測定し、測定結果をコンピュータ10で受け付け、記憶部11bに記憶する(ステップS72)。次いで、カバー部材57側からの計測を行うべく、有機EL素子パネル50を反対向き、すなわち、カバー部材57を上側にして有機EL素子パネル50をステージ4上に載置する(ステップS73)。
有機EL素子パネル50を反対側に向ける作業は、ユーザが手作業により行っても良く、また図示しない搬送ロボットにより、有機EL素子パネル50を把持させ、これを反転させてステージ4上に載置させるようにしても良い。試料解析装置1は、光照射器3及び光取得器5を用いて、図5に示すようにカバー部材57へ向けて光を照射し、カバー部材57側の測定スペクトルΨEc、ΔEcを測定し、測定結果をコンピュータ10で受け付け、記憶部11bに記憶する(ステップS74)。なお、本実施の形態においては透光性基板51側から先に測定を行ったが、カバー部材57側から先に測定を行っても良い。
図8は膜厚及び光学定数の算出処理の手順を示すフローチャートである。まず、試料解析装置1のCPU11aはキーボード13またはマウス14からモデルの選択を受け付ける(ステップS81)。このモデルの選択は透光性基板51側のモデルとして図4に示すモデルm10乃至m12からモデルを選択し、また、カバー部材57側のモデルとして図6に示すモデルm20またはm21からモデルを選択する。このモデルの選択は、有機EL素子パネル50の厚み等により適宜のものを選択すれば良い。なお、本実施の形態においては、透光性基板51側のモデルとして図4(b)に示すモデルm11が、カバー部材57側のモデルとして図6(a)に示すモデルm20がそれぞれ選択されたものとして説明する。
CPU11aは、選択されたモデルを記憶部11bから読み出す(ステップS82)。そして、CPU11aは、選択されたモデルm11、m20に対応して、予め記憶されていた初期値となる複数の膜厚及び複数の分散式のパラメータを記憶部11bから読み出し、キーボード13またはマウス14から、各モデルの選択を受け付け(ステップS83)、各モデルを確定する。CPU11aは読み出したモデルに基づき、透光性基板51側のモデルスペクトルΨMg、ΔMgを算出し、結果を記憶部11bに記憶する(ステップS84)。同様に、CPU11aは、カバー部材57側のモデルスペクトルΨMc、ΔMcを算出し、結果を記憶部11bに記憶する(ステップS85)。
CPU11aはステップS84で算出した透光性基板51側のモデルスペクトルΨMg、ΔMg、ステップS85で算出したカバー部材57側のモデルスペクトルΨMc、ΔMc、ステップS72で測定した透光性基板51側の測定スペクトルΨEg、ΔEg、及び、ステップS74で測定したカバー部材57側の測定スペクトルΨEc 、ΔEcをそれぞれ読み出してフィッティングを行い、有機膜56の各膜層52乃至55の膜厚及び分散式のパラメータを確定する(ステップS86)。なお、このステップの詳細な処理については後述する。最後に、CPU11aは、各膜層52乃至55の膜厚、分散式のパラメータ、及びボイド等を参照することで、有機EL素子パネル50の有機膜56の各膜層52乃至55の光学定数(屈折率n、消衰係数k)を算出する(ステップS87)。
図9はフィッティング処理の手順を示すフローチャートである。CPU11aは、ステップS72で測定した透光性基板51側の測定スペクトルΨEg、ΔEgを記憶部11bから読み出す(ステップS91)。また、CPU11aは、ステップS84で算出した透光性基板51側のモデルスペクトルΨMg、ΔMgを記憶部11bから読み出す(ステップS92)。同様にカバー部材57側も、CPU11aは、ステップS74で測定したカバー部材57側の測定スペクトルΨEc、ΔEcを記憶部11bから読み出し(ステップS93)、またステップS85で算出したカバー部材57側のモデルスペクトルΨMc、ΔMcを記憶部11bから読み出す(ステップS94)。
CPU11aは、フィッティングのため読み出した、透光性基板51側の測定スペクトルΨEg、ΔEgとモデルスペクトルΨMg、ΔMg、並びに、カバー部材57側の測定スペクトルΨEc、ΔEcとモデルスペクトルΨMc、ΔMcとを比較し測定スペクトルとモデルスペクトルとの差が最小になるように膜厚、分散式のパラメータ等を変化させる処理(フィッティング)を行う(ステップS95)。CPU11aはこのフィッティング結果として最小二乗法を用い、平均二乗誤差χ2 を得る。ステップS95における平均二乗誤差χ2 は式(7)により算出することができる。
Figure 0004317558
なお、有機EL素子パネル50を透光性基板51側から測定した場合におけるTg 個の測定データ対をExp(i=1,2,・・・,Tg )、Tg 個のモデルの計算データ対をMod(i=1,2,・・・,Tg )とし、カバー部材57側から測定した場合におけるTc個の測定データ対をExp(i=1,2,・・・,Tc )、Tc 個のモデルの計算データ対をMod(i=1,2,・・・,Tc )としている。また、Pg は透光性基板51側から測定する際のパラメータの数であり、Pc はカバー部材57側から測定する際のパラメータの数である。
フィッティングの結果としてCPU11aは算出した平均二乗誤差χ2 が所定値以下であるか否かを判断する(ステップS96)。なお、この所定値は記憶部11bに記憶されている。
CPU11aは、算出した平均二乗誤差χ2 が所定値以下でないと判断した場合(ステップS96でNO)、各モデルへ初期値として設定した膜厚及び分散式のパラメータを適宜変更して、再びモデルスペクトルΨMg、ΔMg及びモデルスペクトルΨMc、ΔMcを算出する(ステップS97)。なお、この変更はCPU11aによる変更であっても良いし、オペレータによる変更であっても良い。その後、再びステップS95へ移行し、同様の処理を繰り返す。なお、本実施の形態においては、透光性基板51側及びカバー部材57側のモデルの初期膜厚及び分散式のパラメータを変更してモデルスペクトルΨMg、ΔMg及びモデルスペクトルΨMc、ΔMcを算出するよう説明したが、透光性基板51側及びカバー部材57側において適用するモデル自体を変更しても良い。例えば、透光性基板51側のモデルとして、図4(b)のモデルを用い、またカバー部材57側のモデルとして図6(a)のモデルを用いる他、これらとは異なるモデル(例えば図4(c)及び図6(b)のモデル)を記憶部11bから読み出し、この異なるモデルの初期膜厚及び分散式のパラメータを変更して、モデルスペクトルΨMg、ΔMg及びモデルスペクトルΨMc、ΔMcを算出するようにしても良い。なお、この変更はCPU11aによる変更であっても良いし、オペレータによる変更であっても良い。その他のモデルとしては例えば、図4(b)の有機膜層L12とボイド層L11との間に膜厚dのラフネス層がさらに存在するモデル、及び図6(a)のボイド層L32と有機膜層L31との間に膜厚dのラフネス層がさらに存在するモデルが該当する。これら異なるモデルに対するモデルスペクトルを算出するためのモデルは記憶部11bに記憶されており、CPU11aはこのモデルを新たに読み出し、モデルスペクトルΨMg、ΔMg及びモデルスペクトルΨMc、ΔMcを算出する。なお、この変更はCPU11aによる変更であっても良いし、オペレータによる変更であっても良い。
試料解析装置1は、算出した平均二乗誤差χ2 が所定値以下であると判断した場合(ステップS96でYES)、そのときのフィッティングで得られた膜厚及び分散式のパラメータを採用すべき値として決定する(ステップS98)。なお、ステップS96の処理においては、所定の値以下となるまで、処理を行うようにしているが、所定時間内に各モデルへ設定すべき初期膜厚及び分散式のパラメータを逐次変更し、所定時間内で最小の平均二乗誤差をとる場合の膜厚及び分散式のパラメータを結果として採用するようにしても良い。また入射角度φ及び反射角度φを逐次変更し、平均二乗誤差が最小となる場合の膜厚及び分散式のパラメータを採用すべき値として決定しても良い。例えば、入射角度φ1 、反射角度φ1 において、所定時間各モデルの膜厚及び分散式のパラメータを変更して最小の平均二乗誤差χ2 1 を算出する。その後、入射角度をφ2 、反射角度をφ2 へ物理的に変更し、所定時間各モデルの膜厚及び分散式のパラメータを変更して最小の平均二乗誤差χ2 2 を算出する。さらにその後、入射角度をφ3 、反射角度をφ3 へ物理的に変更し、所定時間各モデルの膜厚及び分散式のパラメータを変更して最小の平均二乗誤差χ2 3 を算出する。試料解析装置1は、入射角度φ1 、入射角度φ2 、及び入射角度φ3 (反射角度φ1 、反射角度φ2 、及び反射入射角度φ3 )それぞれの平均二乗誤差χ2 1 、平均二乗誤差χ2 2 、及び平均二乗誤差χ2 3 をそれぞれ比較し、最小となる平均二乗誤差をとる入射角度における膜厚及び分散式のパラメータを結果として採用する。なお、物理的に入射角度及び反射角度を変える他、入射角度及び反射角度を一定のままで、値を適宜変更するようにしても良い。また入射角度自体をフィッティングのパラメータの一つとすることも可能である。
実施の形態2
図10は実施の形態2に係る試料解析装置1の測定器の要部を示すブロック図である。図10に示す如く、ステージ4は下方向からの測定をも可能とすべく、底面視丸形状または長方形状の開口を有する経路孔4hが貫通されている。有機EL素子パネル50は、この経路孔4hを跨いだ状態でステージ4上に載置される。ステージ4の上側には実施の形態1で説明したとおり、測定器たる光照射器3及び光取得器5を基板側測定手段またはカバー側測定手段として機能させるべく半円弧状のレール6に移動可能に載置している。
同様に、ステージ4の下側にも、ステージ4に対して対称位置に、測定器たる光照射器3h及び光取得器5hをカバー側測定手段または基板側測定手段として機能させるべく半円弧状のレール6hに移動可能に載置している。光照射器3hにはモータM4hが、光取得器5hにはモータ5Mhがそれぞれ取り付けられており、モータ制御機9の制御に従いレール6h上を移動する。なお、モータ制御機9と各モータとの間の伝送線路の記載は省略している。また、光照射器3、光取得器5、光照射器3h及び光取得器5hを、レール6及びレール6h上を移動できない固定式としても良い。かかる構成において、有機EL素子パネル50を図3に示す如く透光性基板51を上側にして、ステージ4に載置した場合、光取得器5からは、透光性基板51側に関するデータが取得でき、またステージ4下側の光取得器5hからは、カバー部材57側に関するデータが取得できる。
反対に、有機EL素子パネル50を図5に示す如くカバー部材57を上側にして、ステージ4に載置した場合、光取得器5からは、カバー部材57側に関するデータが取得でき、またステージ4下側の光取得器5hからは、透光性基板51側に関するデータが取得できる。なお、図示しないがキセノンランプ2及び分光器7もそれぞれ、光照射器3h及び光取得器5hに対応させて設けられている。
図11は実施の形態2に係る膜厚及び光学定数の算出処理の手順を示すフローチャートである。まず、有機EL素子パネル50を、ステージ4上に載置する(ステップS111)。ユーザはキーボード13またはマウス14から、有機EL素子パネル50の向きを入力する(ステップS112)。すなわち、図3に示すように透光性基板51が上側か、または図5に示すように、カバー部材57が上側かの情報を入力する。以下では、図3の例、すなわち透光性基板51が上側の場合について説明する。
試料解析装置1は、光照射器3及び光取得器5を用いて透光性基板51へ向けて光を照射し、透光性基板51側の測定スペクトルΨEg、ΔEgを測定し、測定結果を記憶部11bに記憶する(ステップS113)。次いで、カバー部材57側からの計測を行うべく、試料解析装置1は、光照射器3h及び光取得器5hを用い、ステージ4下側から経路孔4hを経て、カバー部材57へ向けて光を照射し、カバー部材57側の測定スペクトルΨEc、ΔEcを測定し、測定結果を記憶部11bに記憶する(ステップS114)。
そして、CPU11aはキーボード13またはマウス14からモデルの選択を受け付ける(ステップS115)。CPU11aは、選択されたモデルを記憶部11bから読み出す(ステップS116)。CPU11aは、選択されたモデルm11、m20に対応して、予め記憶されていた初期値となる複数の膜厚及び複数の分散式のパラメータを記憶部11bから読み出し、キーボード13またはマウス14から、各モデルの選択を受け付け(ステップS117)、各モデルを確定する。CPU11aは読み出したモデルに基づき、透光性基板51側のモデルスペクトルΨMg、ΔMgを算出し、結果を記憶部11bに記憶する(ステップS118)。同様に、CPU11aは、カバー部材57側のモデルスペクトルΨMc、ΔMcを算出し、結果を記憶部11bに記憶する(ステップS119)。
試料解析装置1はステップS118で算出した透光性基板51側のモデルスペクトルΨMg、ΔMg、ステップS119で算出したカバー部材57側のモデルスペクトルΨMc、ΔMc、ステップS113で測定した透光性基板51側の測定スペクトルΨEg、ΔEg、及び、ステップS114で測定したカバー部材57側の測定スペクトルΨEc、ΔEcをそれぞれ読み出してフィッティングを行い、有機膜56の各膜層52乃至55の膜厚及び分散式のパラメータを算出する(ステップS1110)。最後に、試料解析装置1は、各膜層52乃至55の膜厚、分散式のパラメータ、及びボイド等を参照することで、有機EL素子パネル50の有機膜56の各膜層52乃至55の光学定数(屈折率n、消衰係数k)を算出する(ステップS1111)。
本実施の形態2は以上の如き構成としてあり、その他の構成及び作用は実施の形態1と同様であるので、対応する部分には同一の参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
実施の形態3
図12は実施の形態3に係る試料解析装置1の測定器の要部を示すブロック図である。実施の形態2と異なり、実施の形態3の試料解析装置1は、単一の光照射器3及び光取得器5が設けられ、これらがステージ4の上側及び下側へ移動する。ステージ4の周囲には環状のレール6が周設されており、光照射器3はレール6に沿って時計回りに、また光取得器5は、レール6に沿って反時計回りに移動する。光照射器3及び光取得器5には、モータM4及びM5が取り付けられており、モータ制御機9の指示によりレール6上を移動する。このモータ制御機9、レール6並びにモータM4及びモータM5が移動手段を構成する。
ステージ4の上側で計測する場合、モータ制御機9は、測定器たる光照射器3を基板側測定手段またはカバー側測定手段として機能させるべく図の実線で示す2時位置に移動させ、測定器たる光取得器5を基板側測定手段またはカバー側測定手段として機能させるべく図の実線で示す10時位置に移動させる。一方、上側での計測を終えた後は、モータ制御機9は、測定器たる光照射器3をカバー側測定手段または基板側測定手段として機能させるべく時計回りに、図の点線で示す4時位置まで移動させ、また、測定器たる光取得器5をカバー側測定手段または基板側測定手段として機能させるべく反時計回りに、図の点線で示す8時位置まで移動させる。これにより、一組の光照射器3及び光取得器5により透光性基板51側及びカバー部材57側の計測を実行することができ、コスト低減を図ることが可能となる。なお、本実施の形態においては環状のレール6を用いているが、少なくともレール6は実線で示す2時位置の光照射器3が点線で示す4時位置へ移動できる範囲、及び、実線で示す10時位置の光取得器5が点線で示す8時位置へ移動できる範囲に存在すればよい。
本実施の形態3は以上の如き構成としてあり、その他の構成及び作用は実施の形態1及び2と同様であるので、対応する部分には同一の参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
実施の形態4
図13は実施の形態4に係る試料解析装置1の構成を示すブロック図である。実施の形態1に係る試料解析装置1のコンピュータ10を動作させるためのコンピュータプログラムは、本実施の形態4のように、CD−ROM、メモリーカード等の可搬型記録媒体1Aで提供することも可能である。さらに、コンピュータプログラムを、LAN、またはインターネット等の図示しない通信網を介して図示しないサーバコンピュータからダウンロードすることも可能である。以下に、その内容を説明する。
図13に示すコンピュータ10の図示しない記録媒体読み取り装置に、基板側の結果を受け付けさせ、カバー側の結果を受け付けさせ、偏光状態を算出させ、特性を解析させるコンピュータプログラムが記録された可搬型記録媒体1Aを、挿入して記憶部11bのプログラム内にこのプログラムをインストールする。または、かかるプログラムを、図示しない通信部を介して外部の図示しないサーバコンピュータからダウンロードし、記憶部11bにインストールするようにしても良い。かかるプログラムはRAM11cにロードして実行される。これにより、上述のような本発明のコンピュータ10として機能する。
本実施の形態4は以上の如き構成としてあり、その他の構成及び作用は実施の形態1乃至3と同様であるので、対応する部分には同一の参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
実施の形態5
実施の形態5は複数の分散式を用いて所定値以下または最小値となる平均二乗誤差を算出する形態に関する。透光性基板51側のモデル及びカバー部材57側のモデルは式(4)で示した分散式以外の他の異なる公知の分散式をも利用することができる。例えばG.E.Jellison, Jr., F.A.Modine, P.Doshi, A. Rohatgi等が”Spectroscopic ellipsometry characterization of thin-film silicon nitride”(Thin Solid Films 313-314(1998) p193-p197)で提案する分散式は、虚数部は式(8)で、実数部は式(9)でそれぞれ表される。
Figure 0004317558
Figure 0004317558
ここで、E0 はピーク遷移エネルギ、Cは拡大ターム、Eg は光学バンドエッジ、Aは推移確率行列エレメントの比例項である。また、ε1 (∞)は積分定数であり一般に1が付与される。記憶部11bには、式(7)、並びに、式(8)及び式(9)等の複数種の分散式が図1に示す記憶部11bに記憶されておりCPU11aは、これらを適宜読み出して所定値以下または最小値となる平均二乗誤差を算出する。
図14及び図15は複数の分散式を用いて平均二乗誤差を算出する手順を示すフローチャートである。CPU11aはキーボード13またはマウス14からモデルの選択を受け付ける(ステップS141)。このモデルの選択は透光性基板51側のモデルとして図4に示すモデルm10乃至m12からモデルを選択し、また、カバー部材57側のモデルとして図6に示すモデルm20またはm21からモデルを選択する。
CPU11aは、選択されたモデルを記憶部11bから読み出す(ステップS142)。またCPU11aは記憶部11bから記憶した一の分散式を読み出す(ステップS143)。そして、CPU11aは、選択されたモデルm11、m20に対応して、予め記憶されていた初期値となる複数の膜厚及び複数の分散式のパラメータを記憶部11bから読み出し、キーボード13またはマウス14から、各モデルの選択を受け付け(ステップS144)、各モデルを確定する。試料解析装置1のCPU11aは読み出したモデルに基づき、透光性基板51側のモデルスペクトルΨMg、ΔMgを算出し、結果を記憶部11bに記憶する(ステップS145)。同様に、試料解析装置1のCPU11aは、カバー部材57側のモデルスペクトルΨMc、ΔMcを算出し、結果を記憶部11bに記憶する(ステップS146)。
試料解析装置1のCPU11aはステップS72で測定した透光性基板51側の測定スペクトルΨEg、ΔEgを読み出し(ステップS147)、さらに、ステップS74で測定したカバー部材57側の測定スペクトルΨEc、ΔEcをそれぞれ読み出す(ステップS148)。CPU11aはフィッティングのため式(7)を用いて、測定スペクトルΨEg、ΔEgとモデルスペクトルΨMg、ΔMg、並びに、カバー部材57側の測定スペクトルΨEc、ΔEcとモデルスペクトルΨMc、ΔMcとを比較し測定スペクトルとモデルスペクトルとの差が最小になるように膜厚、分散式のパラメータ等を変化させる処理(フィッティング)を行い、CPU11aはこのフィッティング結果として最小二乗法を用い、平均二乗誤差χ2 を得る。(ステップS149)。ステップS149において算出された平均二乗誤差はRAM11cに一時的に記憶される。
CPU11a、所定時間を経過したか否かを判断する(ステップS151)。所定時間を経過していないと判断した場合(ステップS151でNO)、各モデルへ設定すべき初期膜厚及び分散式のパラメータを適宜変更して、再びモデルスペクトルΨMg、ΔMg及びモデルスペクトルΨMc、ΔMcを算出する(ステップS152)。その後、再びステップS149へ移行し、同様の処理を繰り返す。CPU11aは所定時間を経過したと判断した場合(ステップS151でYES)、RAM11cに記憶した平均二乗誤差の中から最小となる平均二乗誤差、これに対応する膜厚及び分散式のパラメータ、並びに分散式の種類をRAM11cに記憶する(ステップS153)。なお、本実施の形態においては最小値を算出する処理について説明したが、実施の形態1と同じくステップS151において予め記憶した所定値との比較を行い、この所定値以下となった場合に、ステップS153へ移行するようにしても良い。
続いてCPU11aは、記憶部11bに記憶した全ての分散式について平均二乗誤差を算出したか否かを判断する(ステップS154)。例えば、3種類の分散式が存在する場合、3種類の分散式それぞれを用いて平均二乗誤差の最小値を算出したのか否かを判断する。CPU11aは、全ての分散式について平均二乗誤差を算出していないと判断した場合(ステップS154でNO)、ステップS143へ移行し、以上の処理を繰り返す。CPU11aは全ての分散式について平均二乗誤差を算出したと判断した場合(ステップS154でYES)、上述の例では3種類の分散式それぞれについての平均二乗誤差の最小値を算出した場合、ステップS153にてRAM11cに記憶した複数の分散式に対応する複数の平均二乗誤差の最小値の中から、最小の平均二乗誤差に対応するフィッティングで得られた膜厚及び分散式のパラメータをRAM11cから読み出す(ステップS155)。最後に、CPU11aは、各膜層52乃至55の膜厚、分散式のパラメータ、及びボイド等を参照することで、有機EL素子パネル50の有機膜56の各膜層52乃至55の光学定数(屈折率n、消衰係数k)を最適値として算出する(ステップS156)。このように提案される複数の分散式を用いることにより、より精度良く各層の膜厚及び光学定数を算出することが可能となる。なお、複数の分散式を用いる形態、複数の入射角度を用いる形態、及び複数のモデルの組み合わせを用いる形態等それぞれを個別に適用する例について説明したが、これらを組み合わせても良いことはもちろんである。
本実施の形態5は以上の如き構成としてあり、その他の構成及び作用は実施の形態1乃至4と同様であるので、対応する部分には同一の参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
本発明の実施の形態に係る試料解析装置のハードウェア構成を示すブロック図である。 有機EL素子パネルの積層状態を示す模式的断面図である。 有機EL素子パネルを透光性基板側から計測する際の光の入射及び反射状態を示す模式的断面図である。 透光性基板側から計測する際のモデルを示す説明図である。 有機EL素子パネルを透光性基板側から計測する際の光の入射及び反射状態を示す模式的断面図である。 カバー部材側から計測する際のモデルを示す説明図である。 有機EL素子パネルの測定手順を示すフローチャートである。 膜厚及び光学定数の算出処理の手順を示すフローチャートである。 フィッティング処理の手順を示すフローチャートである。 実施の形態2に係る試料解析装置の測定器の要部を示すブロック図である。 実施の形態2に係る膜厚及び光学定数の算出処理の手順を示すフローチャートである。 実施の形態3に係る試料解析装置の測定器の要部を示すブロック図である。 実施の形態4に係る試料解析装置の構成を示すブロック図である。 複数の分散式を用いて平均二乗誤差を算出する手順を示すフローチャートである。 複数の分散式を用いて平均二乗誤差を算出する手順を示すフローチャートである。
符号の説明
1 試料解析装置
1A 可搬型記録媒体
2 キセノンランプ
3 光照射器(測定器)
4 ステージ
5 光取得器(測定器)
6 レール
7 分光器
8 データ取込機
9 モータ制御機(移動手段)
10 コンピュータ(解析部)
50 有機EL素子パネル(試料)
51 透光性基板
56 有機膜
57 カバー部材
60 空間(ギャップ)

Claims (11)

  1. 透光性基板に積層した膜をカバー部材で覆った試料の光学特性を、偏光された光を照射する測定器で測定し、試料に応じたモデル及び前記測定器の測定結果に基づいて試料の各膜層の特性を解析する試料解析方法において、
    前記透光性基板側から測定器により光を照射し、前記試料で反射した光の偏光状態を測定する基板側測定ステップと、
    前記カバー部材側から測定器により光を照射し、前記試料で反射した光の偏光状態を測定するカバー側測定ステップと、
    予め記憶された透光性基板側から測定する場合の基板側モデル及びカバー部材側から測定する場合のカバー側モデルを読み出し、基板側モデルに基づく光の偏光状態及びカバー側モデルに基づく光の偏光状態をそれぞれ算出する算出ステップと、
    該算出ステップにより算出した、基板側モデルに基づく光の偏光状態及びカバー側モデルに基づく光の偏光状態、前記基板側測定ステップにより測定した偏光状態、並びに、前記カバー側測定ステップにより測定した偏光状態に基づいて、各膜層の特性を解析する解析ステップと
    を備えることを特徴とする試料解析方法。
  2. 前記解析ステップは、
    前記算出ステップにより算出した基板側モデルに基づく光の偏光状態及びカバー側モデルに基づく光の偏光状態、前記基板側測定ステップにより測定した偏光状態、並びに、前記カバー側測定ステップにより測定した偏光状態に基づいて、フィッティングを行うことにより、各膜層の膜厚及び光学定数を算出する
    ことを特徴とする請求項1に記載の試料解析方法。
  3. 前記解析ステップは、
    前記算出ステップにより算出した基板側モデルに基づく光の偏光状態及び前記基板側測定ステップにより測定した偏光状態、並びに、前記算出ステップにより算出したカバー側モデルに基づく光の偏光状態及び前記カバー側測定ステップにより測定した偏光状態に基づき平均二乗誤差を算出する誤差算出ステップと、
    前記誤差算出ステップにより算出した平均二乗誤差が所定値以下または最小値となるまで前記カバー側モデル及び前記基板側モデルのパラメータを変更する変更ステップと、
    該変更ステップにより、平均二乗誤差が所定値以下または最小値となった場合の各膜層の膜厚及び光学定数を算出する最適値算出ステップと
    を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の試料解析方法。
  4. 前記カバー側モデル及び基板側モデルは誘電率の波長依存性を示す複数種の分散式を用いて表現され、
    前記変更ステップは、
    前記誤差算出ステップにより算出した平均二乗誤差が所定値以下または最小値となるまで、複数種の分散式それぞれについてのカバー側モデル及び基板側モデルのパラメータを変更する
    ことを特徴とする請求項3に記載の試料解析方法。
  5. 透光性基板に積層した膜をカバー部材で覆った試料の光学特性を、偏光された光を照射して測定する測定器及び、試料に応じたモデル及び前記測定器の測定結果に基づいて試料の各膜層の特性を解析する解析部を備える試料解析装置において、
    前記試料が載置され、一部に光の経路となる経路孔が貫通された試料台と、
    該試料台の前記経路孔方向または前記試料台上方向から、前記透光性基板側へ向けて前記測定器により光を照射し、前記試料で反射した光の偏光状態を前記測定器により測定する基板側測定手段と、
    前記試料台上方向または前記経路孔方向から、前記カバー部材側へ向けて前記測定器により光を照射し、前記試料で反射した光の偏光状態を前記測定器により測定するカバー側測定手段と、
    予め記憶部に記憶した透光性基板側から測定する場合の基板側モデル及びカバー部材側から測定する場合のカバー側モデルを前記解析部により読み出し、基板側モデルに基づく光の偏光状態及びカバー側モデルに基づく光の偏光状態をそれぞれ算出する算出手段と、
    該算出手段により算出した、基板側モデルに基づく光の偏光状態及びカバー側モデルに基づく光の偏光状態、前記基板側測定手段により測定した偏光状態、並びに、前記カバー側測定手段により測定した偏光状態に基づいて、前記解析部により各膜層の特性を解析する解析手段と
    を備えることを特徴とする試料解析装置。
  6. 前記解析手段は、
    前記算出手段により算出した基板側モデルに基づく光の偏光状態及びカバー側モデルに基づく光の偏光状態、前記基板側測定手段により測定した偏光状態、並びに、前記カバー側測定手段により測定した偏光状態に基づいて、フィッティングを行うことにより、各膜層の膜厚及び分散式のパラメータを算出する手段と、
    算出した分散式のパラメータに基づき各膜層の光学定数を算出する手段とを含む
    ことを特徴とする請求項5に記載の試料解析装置。
  7. 前記解析手段は、
    前記算出手段により算出した基板側モデルに基づく光の偏光状態及び前記基板側測定手段により測定した偏光状態、並びに前記算出手段により算出したカバー側モデルに基づく光の偏光状態及び前記カバー側測定手段により測定した偏光状態に基づき平均二乗誤差を算出する誤差算出手段と、
    前記誤差算出手段により算出した平均二乗誤差が所定値以下または最小値となるまで、前記カバー側モデル及び前記基板側モデルのパラメータを変更する変更手段と、
    該変更手段により、平均二乗誤差が所定値以下または最小値となった場合の各膜層の膜厚及び光学定数を算出する最適値算出手段と
    を備えることを特徴とする請求項5または6に記載の試料解析装置。
  8. 前記記憶部は、前記カバー側モデル及び基板側モデルについて誘電率の波長依存性を示す複数種の分散式を記憶しており、
    前記変更手段は、
    前記記憶部に記憶した複数種の分散式を読み出す手段と、
    前記誤差算出手段により算出した平均二乗誤差が所定値以下または最小値となるまで、前記読み出し、各分散式それぞれについてのカバー側モデル及び基板側モデルのパラメータを変更する手段とを含む
    ことを特徴とする請求項7に記載の試料解析装置。
  9. 前記測定器は、
    前記試料台を介して上側及び下側それぞれに設けられていることを特徴とする請求項5乃至8のいずれか一つに記載の試料解析装置。
  10. 前記測定器を試料台の上側または下側に移動させる移動手段をさらに備えることを特徴とする請求項5乃至8のいずれか一つに記載の試料解析装置。
  11. 透光性基板に積層した膜をカバー部材で覆った試料の光学特性を、偏光された光を照射する測定器で測定し、試料に応じたモデル及び前記測定器の測定結果に基づいて試料の各膜層の特性をコンピュータにより解析するためのプログラムにおいて、
    コンピュータに、
    前記透光性基板側から測定器により光を照射した場合に、前記試料で反射した光の偏光状態を測定した結果を受け付ける基板側測定ステップと、
    前記カバー部材側から測定器により光を照射した場合に、前記試料で反射した光の偏光状態を測定した結果を受け付けるカバー側測定ステップと、
    予め記憶された透光性基板側から測定する場合の基板側モデル及びカバー部材側から測定する場合のカバー側モデルを読み出し、基板側モデルに基づく光の偏光状態及びカバー側モデルに基づく光の偏光状態をそれぞれ算出する算出ステップと、
    該算出ステップにより算出した、基板側モデルに基づく光の偏光状態及びカバー側モデルに基づく光の偏光状態、前記基板側測定ステップにより受け付けた偏光状態、並びに、前記カバー側測定ステップにより受け付けた偏光状態に基づいて、各膜層の特性を解析する解析ステップと
    を実行させるためのプログラム。
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