JP4317270B2 - 投与性組成物および磁気共鳴画像法 - Google Patents

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Description

技術分野
この発明は過分極化ガスの磁気共鳴画像法(MRI)への適用に関する。MRIは生体の病状を診断するのに特に有用なスクリーン表示技法である。この発明は投与可能な組成物、配合物並びに過分極化ガスを含有する造影剤および該造影剤のMRIにおける使用にも関する。
背景技術
核磁気共鳴(NMR)の技術においては、磁場が分数のスピン量子数を有する原子核に作用して該原子核を選択方位内で配列させるように分極させる。測定中においては、核スピンを反転させて方位分布を乱す所定の共鳴エネルギーの高周波数パルスが印加され、次いで原子核は経時的に指数関数的に初期状態へ復帰(緩和)するので、電子的処理によって記録可能なデータに変換されるのシグナルが得られる。該シグナルが空間的に十分なレベルまで微分されると、該データは処理されてスクリーン上に画像として表示される。例えば、生物の組織と接触する水のプロトン(1H)に起因して発生するシグナルを計算することによって、生物の内部器官の直接的な視覚化を可能にする画像(磁気共鳴画像)が得られる。従って、この技術は診断、医療的処置および手術において有力な手段となる。
1Hの自然分極は弱いが(6.8×10-6)、生体組織中には比較的多量の水が存在するために、水素原子核は被検器官の画像を形成するように処理するのに十分なシグナルを与える。この場合のコントラストは被検器官の異なる部位と接触するプロトンのスピン緩和の差によって得られる。フッ素(スピン:1/2)を含有する化合物は被験対象中のガスの検出においてNMRシグナルの発生体として研究されてきているにもかかわらず、MRIによる画像を得るためには水のプロトンのみが最近まで常用されている。この理由は、生体内に存在する他の核スピンを有する原子、即ち、天然に存在する一部の同位体、例えば、31P、13C、23NaおよびSの同位体等の存在量は余りにも少な過ぎるために実用的な画像シグナルが得られないことである。
最近になって、患者にMRIを適用する場合に一部の過分極化形態(hyperpolarized form)の貴ガス、例えば、3He、129Xe、131Xeおよび83Kr等を利用することが提案されている。自然の分極状態にあるこれらの同位体から得られるシグナルは異常に弱いが(1Hから得られるシグナルに比べて5000倍も弱い)、過分極化によって約104〜105倍まで効果的に高めることができる。さらに、過分極化ガスのスピン緩和パラメーターは、投与後に該ガスが分布する環境状態によって非常に強い影響を受ける(即ち、該ガスは異なる強度の微細なシグナル配列を与える)ので、該ガスは非常に重要なMRI用造影剤となる。
貴ガスの過分極化は通常は外部磁場の存在下もしくは不存在下における光学的に励起されたアルカリ金属を用いるスピン交換相互作用によって達成される。これについての参考文献としては次のものが例示される:G.D.ケイツら、Phys. Rev. A、第45巻、第4631頁(1992年);M.A.ブキアトら、Phys. Rev. Lett.第5巻、第373頁(1960年);X.ゼングら、Phys. Rev. A.第31巻、第260頁(1985年)。この種の技術を用いることによって90%もしくはそれ以上の分極化が可能であり、また、標準緩和(T1、T2)は非常に長いので(例えば、Xeアイスの場合には、数分間〜数日間である。)、その後の操作(診断のための用途)は十分に可能である。あるいは、過分極化は準安定性交換によって達成することができる。例えば、3Heをラジオパルスによって231状態まで励起させ、次いで1.08μmの円偏光レーザー光を用いる光学的なエネルギー供給によって23P準安定状態まで変化させた後、基底状態原子を用いる準安定性交換衝突によって分極を基底状態まで転移させることによって過分極化が達成される。これについての参考文献としては次のものが例示される:L.D.シェラー、Phys. Lett.、第180巻、第83頁(1969年);F.ラロエら、AIP Conf.Proc.#131(分極化された3Heビームとターゲットについての討論会:1984年)。
PCT公報WO−A−95/27438には診断のためのMRIにおいて過分極化ガスを利用する技術が開示されている。例えば、生体外で過分極化したガスは単独または不活性成分もしくは活性成分と併用して気体状もしくは液体状の製剤形態で投与することができる。投与は、生体外で該ガスと接触させた血液を吸入または静脈内注射によって体内へ再導入することによっておこなうことができる。投与後、被検者の注目している部位内のガス分布はNMRによって測定し、該分布の計算による可視化データを常套手段によって表示する。非経口投与用の造影剤組成物もしくは配合物の投与の実例は知られておらず、また、添加成分の同定法も知られていない。
米国特許US−A−4,586,511号明細書にはフッ素化有機化合物を生体内へ投与してNMR測定をおこなうことによって化学シフト、緩和時間およびスピン−スピンカップリング定数等に関するデータを得る技術が開示されているが、MRIについては言及されていない。
H.ミドルトンらの報文[Mag.Res.Med.、第33巻、第271頁(1995年)]には、死亡したテンジクネズミの肺内へ分極化した3Heを導入した後、該肺のMR画像を得る技術が開示されている。
P.バチェルトらの報文[Mag.Res.Med.、第36巻、第192頁(1996年)]には、過分極化した3Heを吸入させた人間患者の肺のMR画像を得る技術が記載されている。
M.S.チャウラらは、塩水キャリヤーに3Heのマイクロバブルを懸濁させた懸濁液を用いて血管のMR画像を得る方法を提案している[MRI技術の討論会(バンクーバー、1997年)のアブストラクト参照]。浮力に対するマイクロバブルの安定化のために、チャウラらは液状キャリヤーにPEG(分子量:3350)を40%配合することを推奨している。マイクロバブルはガスをシリンジを用いて三方コックを介して液中へ注入することによって発生する。MRI測定は生体外でおこなわれており、生体内での測定実験は報告されていない。
チャウラらの提案は注目すべきものであるが、気泡がかなり不安定なために実用に供することはできない。気泡安定剤の使用がチャウラらによって推奨されているにもかかわらず、チャウラらによる提案により貴ガスを液状キャリヤー中へ懸濁させることによって調製されるマイクロバブルは外圧の不存在下または適度な外圧の存在下においては数秒間で崩壊する。チャウラらの方法によって調製されるマイクロバブルは非常に不安定なために、実用上の観点や生体内での利用(即ち、患者への診断的応用)の見地からは役に立たない。
発明の概要
この発明の主要な態様においては、製剤学的に投与可能な液状キャリヤー中に過分極化ガスの微小胞(microvesicle)を分散もしくは懸濁させた形態の組成物もしくは配合物であって、生体の血管や組織の実用的なMR画像を得るための注射可能なMRI用造影組成物もしくは造影配合物が提供される。これらの組成物もしくは配合物は、微小胞(マイクロバブルもしくはマイクロバルーン)内にトラップされた過分極化ガスに分子量の大きな外部不活性ガス、例えば、フルオロカーボンのような揮発性フッ素化合物を少量添加することによって大きな安定化効果が得られるという予想外の発見に基づくものである。例えば、気液界面が両親媒性化合物(例えば、リン脂質)の単境界層によって安定化された3Heもしくは129Xeのマイクロバブル(例えば、ヨーロッパ特許EP−A−0 474 833およびEP−A−0 554 213の各明細書参照)にフルオロカーボン、例えばCn2n+2(nは好ましくは1〜12の数を示す)で表される化合物をわずかに1〜10容量%添加することによって加圧下でのマイクロバブルの安定性は著しく増大する。
上記のマイクロバブルの代りに、1種もしくは複数種の安定化ガスを添加した過分極化ガスを充填したマイクロバルーン(microballoon)を液状キャリヤー中に分散もしくは懸濁させた形態の本発明による組成物を用いる変形態様においても同様の効果が得られる。このマイクロバルーンは触知可能な材料、例えばEP−A−0 458 745の明細書に記載のようなポリマーから製造される包被を有する小胞である。
本発明の別の目的は上記の組成物もしくは配合物の製造法、即ち、安定剤としての界面活性剤と両親媒性物質を含む溶液を調製し、次いで1種もしくは複数種の安定化ガスを含有する過分極化ガスを該溶液中で泡立たせることを含む該製造法、あるいは、両親媒性物質および/または界面活性剤の乾燥粉末を1種もしくは複数種の安定化ガスを含有する過分極化ガスと接触させた後、該粉末を投与可能な液状キャリヤー中に分散させることを含む該製造法が提供される。このような貴ガスは高純度品として市販されており、また、分極性両位体は当該分野において既知の常法に従って濃縮することができる。過分極化はPCT公報WO−A−96/39912において提案されているように、例えば、光学的に励起されたルビジウムの蒸気を用いる電子−該スピン交換によっておこなうことができる。これに関する文献としては次のものが例示される:G.D.ケイツら、Phys. Rev. A、第45巻、第4631頁(1992年);M.A.ブキアトら、Phys. Rev. Lett.、第5巻、第373頁(1960年);X.ゼングら、Phys. Rev. A、第31巻、第260頁(1985年)。
別の上記製法の変形態様においては、1種もしくは複数種の安定化ガスを含有する過分極化ガスを充填したマイクロバルーンの懸濁液を調製することを含む。この調製は、ポリマー製マイクロバルーンが形成されて該マイクロバールンが1種もしくは複数種の安定化ガスを含有する過分極化ガスをトラップする条件下において重合性物質のエマルションを用いることによっておこなわれる。
本発明のさらに別の目的は、1種もしくは複数種の安定化ガスを含む過分極化ガスを含有する前記の投与可能な組成物を使用時に生成するのに必要な成分を含むキットおよび該組成物の投与後に通常のMRI手順によって画像を形成させるための該キットの用法を提供することである。
発明の詳細な説明
本発明は、少なくとも1種の過分極化状態の貴ガスと1種もしくは複数種の不活性ガスとの混合物が充填された微小胞(マイクロバブルまたはマイクロバルーン)を含有する投与可能なMRI用造影組成物もしくは造影配合物が得られるという予想外の発見に基づくものである。過分極化ガスはガス成分A(主成分)で示し、不活性ガスはガス成分Bで示す。ガスBは比較的大きな分子量、即ち、80ダルトンよりも大きな分子量を有する。ガスBの使用目的は、常套の界面活性剤、添加剤および安定剤を含有する液状キャリヤー中に懸濁させた小胞内へ過分極化貴ガスAを安定に存在させることによってガス混合物を保護するためである。換言すれば、該小胞の崩壊もしくは合着を防止するため、あるいは過分極化貴ガスが小胞の包被を通って漏出するのを防止するためである。随意に調節可能な2つの特性、即ち、所望の耐圧性と予め決められた循環中の寿命を併有する配合物を調製することができる。ガスBが一定の最小量で存在すると共に水1mlあたりのガスの溶解度が標準状態において0.0283mlよりも小さく維持される限り、MRI用造影組成物は生体内と生体外において、例えば循環系および隣接器官の診断上有用な画像をもたらす。被検者への造影組成物の投与後、常法に従ってMRI用装置を用いて画像を形成させる。主として小胞内に残存する過分極化ガスまたは経時的に小胞内から拡散された過分極化ガスによって有用なMR画像が得られるかどうかは依然として知られていない。
造影剤中のガスBの含有量は大抵の場合は0.5容量%(分子量が大きくて水溶性の低い物質の場合)から約30〜40容量%の範囲内で変化させることができる。実際上は、ガスBの保護効果は高濃度範囲の混合物に対しては平準化される。即ち、所望の保護度に達したならば、通常は混合物中のガスBの量をさらに増加させることは必要でない。この点に関しては、AとBとの混合物の物性、特に消失に対する抑制能と圧力変化に対する耐性に及ぼされるガスBの効果は、Bのみを使用したとき(即ち、純粋形態の場合)とほぼ同等であるということに留意することは重要である。それにもかかわらず、ガスBの濃度を十分な微小胞安定度をもたらすのに適合した最も低い範囲に維持することは重要である。その理由は、過分極化ガスの最大可能濃度によって画像シグナルを発生できる利点があるからである。特に驚くべきことには、小胞内にトラップされた過分極化ガスの緩和パラメーター(該パラメーターは有用なMR画像の形成においては重要な要因となる)は安定化ガスおよび包囲する気液界面上の物質によって著しく妨げられることはない。それどころか、過分極化ガスにフッ素化ガスを混合させることによって、操作中の過分極化ガスの可能な消失量を低減させることができる。
実験結果によれば、分子量が80よりも小さな物質は本発明で用いるガス混合物中の保護成分としては適当ではなく、また、実験に供した大抵の化合物は分子量が80よりも大きい限り有効な保護成分となり得るためにガスBの分子量の上限を確定することは困難である。従って、分子量が約240ダルトンの成分(例えば、デカフルオロブタン)または分子量が290ダルトンの成分(例えば、ペルフルオロペンタン)は非常に有効な保護成分であることが判明した。60〜99.5容量%で存在する主成分Aは過分極化ガス、例えば、3He、129Xe、131Xe、83Krまたはこれらの類似物である。これらの過分極化ガスは従来法に従って入手することができる。所望により、Aは1種もしくは複数種の過分極化ガスに通常ガス、例えば、酸素、空気、窒素、二酸化炭素またはこれらの混合物を添加した混合物であってもよい。しかしながら、成分Aに添加する他の通常の非過分極化ガスとしてはアルゴン、キセノン、クリプトン、CHClF2または亜酸化窒素を用いてもよい。
0.5容量%のドデカフルオロペンタンのような成分もしくは0.8容量%のデカフルオロブタンと貴ガス(特に消失性の高い3He)との混合物の微小胞を水性キャリヤー中に懸濁させることによって、分極緩和を妨げることなくヘリウムの消失を防止する圧力変化に対する優れた耐性と優れた安定性を有する微小胞が得られるということは全く予想外のことであった。
微小胞からのHeの急激な消失は外壁媒体の容易な通気を可能にする低分子量に起因することが判明した。分極化した129Xeの場合、バブル消失は水性キャリヤー中での高い溶解度に起因する。マイクロバブルの消失は種々の界面活性剤、添加剤および安定剤の使用によって低減させることができるが、本発明は壁材を有する微小胞(マイクロバルーン)も提供する。天然もしくは合成ポリマー、例えば、二層脂質(リポソーム)またはアルブミンのような変性タンパク質等から別の添加剤の存在下もしくは不存在下で調製される壁部を有する微小胞が提供される。一般的なマイクロバブルに関して従来から知られていた圧力変化に対する低耐性とこれに起因するバブル数の減少の問題は、血流中で発生する圧力変化に対して高耐性を有するガス粒子に関する研究をおこなう契機となった。弾性壁材の存在によって加圧下での微小胞の安定性にとって有利であることが判明したが、安定化ガス、例えば、六フッ化硫黄またはドデカフルオロペンタン等を添加すればさらに耐久性が改良される。これらのガスを用いた実験によって次のことが判明した。即ち、これらのガスを低濃度で含有する過分極化ガスを充填したマイクロバブルもしくはマイクロバルーンの懸濁液は、注射後の循環系においては非常に高い耐崩性を示した。これらの初期の発見に基づき、約200種類のガスが過分極化ガスを含有するMRI用造影剤を安定化するのに潜在的に有用であることを確認した。即ち、予想外なことには、これらのガスを過分極化貴ガスに比較的少量混合することによって耐圧性の微小胞が得られるということが判明した、このようにして得られる微小胞は許容される生理学的耐性、血液中における適当な吸収半減基、十分なMRIシグナル発生特性および保護ガスの存在に起因する良好な耐圧性を有する。本発明によるガス混合物のこの驚くべき挙動は成分Aの包囲媒体への拡散が成分Bの大きなガス分子によって遅延するためと考えられる。この驚くべき挙動の理由は解明されていないが、次の様に考えられる。即ち、成分Bの分子は非常に少量ではあるが、マイクロバブルまたはマイクロバルーンの境界部の孔を実質的に塞ぐために、低分子量分子である3Heまたは溶解性の高い129Xe分子の経膜拡散による漏出が防止されると考えられる。
本発明による組成物と配合物の成分Bとして用いる好ましいガスは室温で気体状であるかもしくは液状であるが体温で直ちに揮発する化合物であり、以下のものが例示される:六フッ化硫黄、テトラフルオロメタン、クロロトリフルオロメタン、ブロモトリフルオロメタン、ブロモクロロジフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、クロロペンタフルオロエタン、ヘキサフルオロエタン、ヘキサフルオロプロピレン、オクタフルオロプロパン、ヘキサフルオロブタジエン、オクタフルオロ−2−ブテン、オクタフルオロシクロブタン、デカフルオロデカン、ペルフルオロシクロペンタン、デカフルオロペンタン、およびより好ましくはオクタフルオロシクロブタン、オクタフルオロプロパンおよびデカフルオロブタン。本発明による配合物はガスBとしては好ましくは次の群から選択されるガスを含有する:テトラフルオロメタン、ヘキサフルオロエタン、ヘキサフルオロプロペン、オクタフルオロプロパン、ヘキサフルオロブタジエン、オクタフルオロ−2−ブテン、オクタフルオロシクロブタン、デカフルオロブタン、ペルフルオロシクロペンタン、デカフルオロペンタン、およびより好ましくは六フッ化硫黄および/またはオクタフルオロシクロブタン。
本発明による造影剤ガス混合物を充填し、常套の界面活性剤、添加剤および安定剤を含有する水性キャリヤー中に分散させて形成されるマイクロバブルは有用なMRI用造影剤組成物を提供する。本発明による造影剤組成物はマイクロバブルのほかに界面活性剤、添加剤および安定剤を含有する。層状もしくは薄層状の膜を形成する1種もしくは複数種の界面活性剤を含んでいてもよい界面活性剤を使用してマイクロバブルの消失性気液境界を安定化する。水和剤および/または親水性安定剤化合物、例えばポリエチレングリコール、ラクトースもしくはスクロースのような炭水化物、デキストラン、デンプンおよび他の多糖類並びに次に例示するようなその他の常套の添加剤を使用してもよい:ポリオキシプロピレングリコールおよびポリオキシエチレングリコール;脂肪アルコールとポリオキシアルキレングリコールとのエーテル;脂肪酸および脂肪酸とポリオキシアルキル化ソルビタンとのエステル;セッケン;グリセロール−ポリアルキレンステアレート;グリセロール−ポリオキシエチレンリシノレエート;ポリアルキレングリコールのホモポリマーおよびコポリマー;ポリエトキシル化大豆油およびひまし油並びにこれらの水素化誘導体;所望によりポリオキシアルキル化されていてもよいスクロースもしくはその他の炭水化物と脂肪酸もしくは脂肪アルコールとのエーテルおよびエステル;飽和もしくは不飽和脂肪酸のモノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリド;大豆油とスクロースとのグリセリド。界面活性剤は造膜性または非造膜性であってもよく、リノレイル−レシチンもしくはドデカノエートのような種類の重合性の両親媒性化合物を含んでいてもよい。非造膜性界面活性剤としてはポリオキシプロピレンとポリオキシエチレンとのブロックコポリマーを使用してもよい。好ましくは、界面活性剤は造膜性であって、より好ましくはホスファチジン酸、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオリピン、スフィンゴミエリンおよびこれらの混合物から選択されるリン脂質である。
本発明は、この発明で用いる磁化貴ガス用ビヒクルとしてのマイクロバブルの懸濁液から成る造影剤配合物に限定されるものではない。造影剤ガス混合物を充填したいずれかの適当な中空ビース様粒子、例えば、合成もしくは天然のポリマーもしくはタンパク質から調製される包被を有するリポソームもしくはマイクロバルーンを使用してもよい。造影剤ガス混合物を充填したアルブミン製マイクロバルーン、リポソーム小胞またはイオジパミドエチルエステル製多孔質粒子が良好な映像剤となることが判明した。ソルビトールもしくはポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンコポリマー[プルロニック(商標)として市販されている]のような非イオン界面活性剤でマイクロバブルが安定化された懸濁液も同様に純粋な過分極化ガスのみを用いて調製された配合物に比較して良好な映像能を示すことが判明した。従って、本発明はより一般化された概念のMRI用造影媒体を提供すると共に造影剤特性のより良い調整法を提供する。本発明によるこのような媒体および該媒体を含有する造影剤はMRI技術の発展を一段階高める製品とみなすことができる。
本発明には、常套の界面活性剤と安定剤を含有する生理学的に許容される水性液状キャリヤーに少なくとも2種の成分AとBを含むガス混合物を懸濁させてガス充填マイクロバブルもしくはマイクロバルーンを形成させることを含む上記のMRI用造影剤配合物の製造法も包含される。この方法は該ガス混合物中の成分(B)の最小有効量が次の関係式で決定されることによって特徴づけられる:
c%=K/ebMwt+C
式中、Bc%(容量)はガス混合物中の成分Bの全量を示し、KおよびCはそれぞれ140および−10.8の数を示し、Mwtは成分Bの分子量(>80)を示し、bは操作温度およびマイクロバブルを安定化する膜(脂質膜)の厚さの複合関数を示す。しかしながら、体温は実質上一定であり、また、安定化膜の構造は脂質濃度に実質上左右されない。従って、bの値は0.011〜0.012の間に維持されるので、一定とみなすことができる。この方法によって調製される造影剤は、比較的急速な吸収と圧力変化に対する優れた耐性を示すマイクロバブルもしくはマイクロバルーンの懸濁液を含有する。いずれの特性も実用的な要求に応じて変更できるMRI用造影剤が得られるように調節される。上記の基準によれば、貯蔵時において毒性がなく、体温ではガス状であって前述の分子量と水溶性を有する物質を出発原料として望ましい特性を有する造影剤を製造することが可能である。本発明による配合物を製造するための技法は次のヨーロッパ特許の各明細書に記述されており、これらの明細書の記載内容も本明細書の一部を成すものである:EP−A−0 474 833、EP−A−0 554 213およびEP−A−0 458 745。
例えば、本発明の範囲内において有効に使用されるマイクロバルーンの調製法としては、ポリマーの有機溶液の小滴を水性相キャリヤーに加えて水中油形エマルションを調製し、ポリマーを小滴とキャリヤー界面に沈着させ(例えば、希釈による界面沈殿)、これによって水もしくは溶剤が充填された微小胞がキャリヤー中に懸濁された懸濁液を調製し、次いで、該懸濁液を、小胞内にトラップされた溶剤が蒸発して本発明によるガス混合物によって置換されるような条件(例えば、凍結乾燥条件)に付す工程を含む調製法が挙げられる。上記方法に使用するのに適当なポリマーは次のポリマー群から選択される生分解性ポリマーである:多糖、ポリアミノ酸、ポリアクチドとポリグリコリドおよびこれらのコポリマー、ラクチドとラクトンのコポリマー、ポリペプチド、ポリ−(オルト)エステル、ポリジオキサノン、ポリ−β−アミノケトン、ポリホスファゼン、ポリアンヒドリドおよびポリ(アルキル−シアノアクリレート)。より好ましくは、ポリグルタミン酸誘導体もしくはポリアスパラギン酸誘導体および他のアミノ酸とこれらのコポリマーを使用してもよい。ポリマーには配合成分として種々の添加剤を配合してもよい。例えば、イソプロピルミリステートやグリセリルモノステアレートのような可塑剤を添加して柔軟性を調節してもよく、また、界面活性剤およびレシチンのようなリン脂質等の両親媒性物質を添加して多孔度の増大によって透過性を調節してもよく、また、パラフィンワックスのような高分子量炭化水素等の疎水性化合物を添加することによって多孔度を低減させてもよい。
あるいは、ポリマーはPCT公報WO−A−96/04018に記載されているように、フッ素原子を有していてもよい。即ち、ペルフルオロメチル基やペルフルオロ−t−ブチル基等を有する含フッ素化合物を共有結合によってポリマーと反応させてもよい。あるいはまた、フッ素化構造部はペルフルオロガス、例えばペルフルオロプロパン、ペルフルオロアルキルエステル、ペルフルオロアシルハライドおよびペルフルオロアンヒドリドとの反応によって導入してもよい。
本発明によるマイクロバルーン用ポリマーとしてはさらに別のポリマーも有効であり、この種のポリマーとしてはPCT公報に開示されているようなフッ素化および/または重水素化したポリシロキサンおよびポリシラン等が例示される。
本発明には界面活性剤、添加剤および安定剤を含有し、1種もしくは複数種の過分極化ガス(ガス成分A)と1種もしくは複数種の保護ガス(ガス成分B)を含有するガス混合物の存在下で貯蔵される乾燥配合物も包含される。この乾燥配合物は親液性化膜形成性界面活性剤および所望による水和剤、例えば、ポリエチレングリコールまたはその他の常套の親水性物質を含有していてもよい。注射前において、この乾燥配合物を生理学的に許容され得る液状キャリヤーと混合することによって本発明によるMRI用造影剤組成物が得られる。造膜性物質はホスファチジン酸、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオリピン、スフィンゴミエリンおよびこれらの混合物から成る群から選択されるリン脂質が好ましい。
変形態様においては、マイクロバブルの消失性気液包被の安定化はポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンとのコポリマーのような非イオン界面活性剤とジパルミトイルホスファチジルグリセロールのような造膜性界面活性剤の併用によって確実におこなってもよい。従前のように、水性液状キャリヤーはさらに親水性添加剤、例えばグリセロール、PEGおよびソルビトール等を含有していてもよい。さらにまた、本発明による有用な配合物はTween(商標)20、ソルビトール、大豆油および随意の他の添加剤を含有する生理食塩液を用いて調製してもよい。
界面活性剤、添加剤および安定剤を含有し、ガス混合物の存在下で貯蔵される乾燥配合物(第1成分)および該第1成分と接触したときにMRI用造影剤配合物を形成する生理学的に許容される液状キャリヤー(第2成分)を含む2成分キットも本発明によって提供される。このキットは各々の成分を別々に保有する2つの小瓶(vial)から成る系であって、該小瓶が造影剤の使用前に両方の成分が簡便に接触できるように連結された系を含む形態であってもよい。この場合、乾燥配合物を保有する小瓶は本発明によるガス成分AとBの混合物も保有する。また、該キットは2つの成分を予め充填したシリンジの形態にするのが簡便であり、該キットは針をその端部の一方へ連結する手段を具有していてもよい。
3成分キット、即ち、界面活性剤、添加剤および安定剤を含有する乾燥配合物を安定化ガス(B)の分圧下で貯蔵した第1成分、過分極化ガス(A)である第2成分および生理学的に許容され得る液状キャリヤーである第3成分から成るキットも本発明によって提供される。
本発明にはガスAとBの混合物を含むMRI用造影剤を保有するマイクロバブルを含有する造影剤配合物の製造法およびヒトもしくは動物の患者の器官の撮像における該造影剤配合物の使用も包含される。
人体もしくは動物体の器官の撮像に際しては、本発明によるMRI用造影剤媒体を前記の生理学的に許容され得る液状キャリヤー中に微小胞を懸濁させた水性懸濁液の形態で投与した後、MRI用装置を用いて患者を走査することによって器官の画像または体の一部の画像が得られる。
本発明を以下の例示的な実施例によって説明する。
実施例1
ジアラキドイルホスファチジルコリン(DAPC)[アバンチ・ポーラー・リピズ社(米国)製]58mg、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)[アバンチ・ポーラー・リピズ社製]2.4mgおよびポリエチレングリコール[ジークフリード社(スイス国)製のPEG4000]3.94gを60℃でt−ブタノール20mlに溶解させて得られた透明溶液を−45℃まで急速冷却させて凍結乾燥させることによって白色固体を調製した。この白色固体のアリコート(25mg)をガラス製小瓶(10ml)に収納した。
これらの小瓶にゴム栓をして真空下で排気した。次いでキセノンと種々の量のフルオロカーボンから成る混合物をゴム栓を穿刺した針を通して小瓶内へ注入した。
グリセロール3%水溶液10mlを各々の小瓶内へ注入した後、撹しく混合させることによってバブル懸濁液を得た。圧力Pcに対する耐性を比濁分析アッセイによって決定した(ヨーロッパ特許EP−A−0 554 213号明細書参照)。以下の表1に示す数値は、最初に存在したバブルの約半数が崩壊する圧力(大気圧)に対応する。バブル濃度と平均バブル径はクールター・マルチサイザー(Coulter Multisizer)II(クールター・エレクトロニクス社製)を用いて分析した。平均バブル径は2.0μmであった。
Figure 0004317270
上記の結果によれば、キセノンバブルの耐崩壊性は5%のC48によって著しく増大する。さらに、NMRによって確認したところによれば、C48を含有する過分極化キセノンサンプルの分極は該フルオロカーボンを含有しない場合に比べて貯蔵中においてはより長時間維持された。
実施例2
実施例1の手順に準拠し、以下の配合成分の均質化によって無水配合物を調製した。
成分 配合量
ジステラロイルホスファチジルコリン(DSPC) 30mg
ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG) 30mg
ポリエチレングリコール400(PEG) 3.94g
t−ブタノール(t.BuOH) 20ml
上記配合処方によって得られたサンプル20mgを小瓶に入れてゴム栓をした後、真空下で排気し、以下の表2に示すガスもしくはガス混合物を小瓶内へ注入した。各々の小瓶内へ生理食塩水10mlを針を用いて注入した後、振盪させることによってバブル懸濁液を生成させた。以下の表2においては、使用したガス、バブル数(調製直後と6時間後)、カプセル化されたガスの体積(μl/ml)およびバブル数を半減させるのに要した印加圧(mmHg)を示す。純粋なHeおよびXeの場合には、6時間後の結果が得られなかったが、これはバブルが全て崩壊したからである。
表2において、「ind」は測定値が小さすぎて正確な測定ができなかったことを示す。
表2に示す結果は、バブルの安定化に成分Bが重要な役割を果たしていることを明らかにする。
Figure 0004317270
実施例3
実施例2の手順に準拠し、DSPC(30mg)、DPPG(30mg)、PEG(3g)およびt.BuOH(20ml)の均質混合物からアリコート20mlを採取し、このサンプルを小瓶内へ移した後、表3に示す種々のガスもしくはガス混合物と接触させた。前述の実施例1および2に記載のようにしてバブル懸濁液を生成させて試験に供した。得られた結果を以下の表3にまとめて示す。表3に示すデータはマイクロバブルの安定性に影響を及ぼす貴ガスに対する種々のフルオロカーボンの添加効果を示す。
Figure 0004317270
実施例4
保護ガスBとしてのC410を過分極化3Heに種々の割合で混合したガスを使用して実施例3の操作を繰り返した。試験条件と得られた結果を表4にまとめて示す。
Figure 0004317270
上記の実験において貴ガスとしてXeを使用したときの結果を以下の表5にまとめて示す。
Figure 0004317270
上記の表4および表5から明らかなように、わずかに1%のデカフルオロブタンの混合によって過分極化HeおよびXeには著しい安定化効果がもたらされる。
実施例5
実施例3で調製した造影剤(過分極化Xe90%+デカフルオロブタン10%)のNMRスペクトルをオックスフォード・マグネット(Oxford magnet)を用いて2テスラで測定したチャートを図1に示す。129Xeのピークは23.55MHzに出現した。

Claims (27)

  1. ガス充填微小胞であって、該微小胞を安定化する1種もしくは複数種の両親媒性物質を含有する液状キャリヤー中の気液界面またはポリマー膜によって包囲された微小胞において、該ガスが過分極化貴ガスと80ダルトンよりも高い分子量を有するフッ素化ガスとの混合物であって、該フッ素化ガスの含有量が0.5〜40容量%である該混合物を含有することを特徴とするガス充填微小胞。
  2. フッ素化ガスの含有量が0.5〜20容量%である請求項1記載の微小胞。
  3. 過分極化貴ガスが3He、Ar、129Xe、131XeおよびKrから成る群から選択されるガスである請求項1記載の微小胞。
  4. ッ素化ガスペルフルオロ化ガスである請求項1記載の微小胞。
  5. フッ素化ガスがSF6、CF4、C26、C36、C38、C46、C48、C410、C510、C512およびC614から成る群から選択される少なくとも1種のガスまたはこれらの混合物である請求項記載の微小胞。
  6. 平均サイズが0.1〜10μmである請求項1記載の微小胞。
  7. 両親媒性物質が糖誘導体、天然もしくは合成の両親媒性ポリマー、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーおよびリン脂質等から成る群から選択される請求項1記載の微小胞。
  8. 両親媒性物質が、コリン、エタノールアミン、セリン、グリセロール、ペントースおよびヘキソースから成る群から選択される親水性部を有する請求項7記載の微小胞。
  9. リン脂質が造膜性飽和リン脂質を含有する請求項7記載の微小胞。
  10. リン脂質がホスファチジン酸、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオリピンおよびスフィンゴミエリンから選択される請求項7記載の微小胞。
  11. リン脂質がジセチルホスフェート、コレステロール、エルゴステロール、フィトステロール、シトステロール、ラノステロール、トコフェロール、没食子酸プロピル、アスコルビルパルミテート、ブチル化ヒドロキシトルエンおよび脂肪酸から選択される物質をさらに含む請求項10記載の微小胞。
  12. リン脂質がレシチンまたはその誘導体を含む請求項11記載の微小胞。
  13. 高分子量のフッ素化炭化水素ガスを含有し、リン脂質単層によって安定化された請求項1記載の微小胞。
  14. ポリマーが天然もしくは合成のタンパク質、炭化水素、フッ素化炭化水素、重合成リン脂質およびポリアミノ酸から選択される請求項1記載の微小胞。
  15. ポリマーがポリサッカリド、ポリアミノ酸、ポリアクチドおよびポリグリコリドおよびこれらのコポリマー、ラクチドとラクトンのコポリマー、ポリペプチド、ポリ−(オルト)エステル、ポリジオキサノン、ポリ−β−アミノケトン、ポリホスファゼン、ポリ無水物およびポリアルキル−(シアノ)アクリレートから選択される生分解性ポリマーである請求項1記載の微小胞。
  16. 膜を形成するポリマーがポリグルタミン酸もしくはポリアスパラギン酸の誘導体および他のアミノ酸とのこれらのコポリマーから選択される請求項1記載の微小胞。
  17. 請求項7記載のガス充填微小胞を含有する水性分散液。
  18. 線状もしくは架橋状のポリサッカリドおよびオリゴサッカリド、糖、親水性ポリマーおよびヨウ化物から選択される溶解化造粘剤もしくは安定剤を界面活性剤に対して約1:5〜100:1の重量比で含有する請求項7記載のガス充填微小胞を含有する水性分散液。
  19. 脂肪酸、脂肪酸とアルコールもしくはポリオールとのエステル、およびアルコールおよび/またはポリオールのエーテルから選択される非ラミナー界面活性剤をさらに50重量%まで含有する請求項18記載の水性分散液。
  20. ポリオールがポリアルキレングリコール、ポリアルキレン化した糖およびその他の炭水化物およびポリアルキレン化グリセロールである請求項19記載の水性分散液。
  21. 1mlあたり107〜108個もしくは108〜109個または1010〜1011個のマイクロバブルを保有する請求項1記載のガス充填微小胞を含有する水性分散液。
  22. 1種もしくは複数種のガス含有微小胞発生性界面活性剤を含有する液状キャリヤー中に生体適合性の過分極化貴ガスと80ダルトンよりも高い分子量を有するフッ素化ガスを含有するガス微小胞であって、該フッ素化ガスの含有量が0.5〜40容量%である該ガス微小胞を発生させることを含むMRI用造影剤の製造方法。
  23. リン脂質を含む両親媒性物質含有液中においてフッ素化ガスおよび過分極化貴ガスを振盪処理または超音波処理に付す請求項22記載の方法。
  24. 造影剤を凍結乾燥によって単離する請求項22記載の方法
  25. 請求項22記載の方法によって製造されるMRI用造影剤。
  26. ヒトおよび動物の患者の器官および組織をMRIによって撮像するために用いる請求項23記載の方法によって製造される診断のためのMRI用造影剤。
  27. 請求項23記載の方法によって製造されるMRIと超音波法に用いる二機能性造影剤。
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