JP4317044B2 - 潜在的水濡れ性付与成形体及び水濡れ性付与成形体 - Google Patents

潜在的水濡れ性付与成形体及び水濡れ性付与成形体 Download PDF

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Description

本発明は、ウレタン樹脂、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂被膜を形成した成形体の表面に化学反応を利用して水濡れ性を発現させる組織層を形成し、さらにそれを覆う保護被覆層をも形成することができる新規表面処理法により製造される成形体に関する。
成形体表面、例えば、ガラスびんなどのガラス容器の表面には、熱硬化性樹脂被膜を形成することが行われている。これは、エポキシ系、メラミン系、アクリル系、ウレタン系などの熱硬化性樹脂を含み、必要に応じてスチレンブタジエンゴム、界面活性剤、シランカップリング剤、着色料などを添加したコーティング液でガラス外面をコーティングするものである。このようなコーティングは、ガラス面が傷つくのを防止すると共に、びんを着色したり、フロスト調などに装飾したり、紫外線を遮断したりする機能も付加することができる。
すなわち、無色透明びんに着色剤等の入った熱硬化性樹脂のコーティングを行うことで着色びんとして使用できるが、このびんをカレットにして再利用するときはフリント(無色透明)のカレットとして再利用できる。フリントのカレットは着色ガラスのカレットと比較して格段に需要が高いため、熱硬化性樹脂のコーティングを行ったガラスびんはガラスのリサイクルに貢献するものとしてニーズが高まってきている。
プラスチック製容器においては、基本的な疎水性ゆえに耐電防止剤を添加して静電気による弊害や汚れ防止を図っている。しかし意匠的見地から光沢塗装する容器では、さらに積極的な汚れ防止策が必要である。プラスチック製透明材料には親水性を求められる農業用ハウスなどの例があり、一時的な濡れ性付与添加剤では得られない耐久性も求められる。
ポリエチレンワックスなどの熱可塑性滑剤を含む被膜に水濡れ性を付与する方法は、特開2001−328613号公報などに開示されているが、ウレタン樹脂、メラミン樹脂などを塗布して形成した被膜に十分な水濡れ性を付与する方法は存在しなかった。
特開2001−328613号公報
プラスチック材料表面はもとより、熱硬化性樹脂被膜を形成したガラス容器表面もガラス表面に比較して水濡れ性に劣り、水洗後の表面の水滴付着により異物検査機などの誤動作を生じやすい。紙ラベル接着に際しても天然糊料の接着性が悪くでんぷん糊などを使用できないため合成糊使用による付着過多を生じ、回収洗浄時のラベル残留などの弊害も生じている。また製造後の新成形体の保管に際して、納品する以前に表面が汚れる事例も少なくなく、このような場合この前後の膨大な製品個々を再度検査することになり、この事故はかなりの負担を強いる結果となる。
本発明は、成形体表面に熱硬化性樹脂被膜を形成する際に、該被膜表面に水濡れ性を付与する申請被膜を形成すると共に、該親水性皮膜を保護する保護膜をも形成する技術により、親水性被膜が有する多湿環境下でのべたつきやカビ発生など、成形体の保管時に生ずる問題点をも回避できる成形体を得ることを課題としてなされたものである。
(構成1)本発明は、 成形体表面に設けた未硬化の縮合反応性高分子オリゴマー被膜上に、糖類及び/又は多価アルコール類と、有機酸ないし無機酸を硬化反応促進触媒として含む処理水溶液を塗布し、加熱して糖類及び/又は多価アルコール類を縮合反応により前記高分子オリゴマー被膜上に固定することで、前記成形体表面に親水性被膜が形成され、更に該被膜の表面に前記縮合反応性高分子オリゴマー成分から成る自己縮合物が硬化し、表面洗浄により容易に剥離可能な保護膜が形成されていることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体である。
本発明は、縮合反応性高分子オリゴマー被膜に処理水溶液を塗布、加熱して、縮合反応により前記高分子オリゴマー被膜への糖類及び/又は多価アルコール類の固定と、前記被膜の硬化を図り、表面に水濡れ性を付与した状態、すなわち被膜表面に余剰水酸基が多く偏在する形態とする。これにより成形体表面に一時的に親水性被膜が形成されるが、この処理水溶液に酸触媒が添加されているので、多くの縮合反応の通則として反応速度の増加が起こり、縮合反応性高分子オリゴマーと糖類及び/又は多価アルコール類との反応が促進されるのはもとより、縮合反応性高分子オリゴマー中のヒドロキシメチル基(一般的にはメチロール基という)などの官能基を有する分子同士が自己縮合し、エーテル結合やメチレン結合を主体とする重合反応が開始される。特に酸触媒が含まれる処理水溶液と接触する表面の縮合反応性高分子オリゴマーでは、分子中に複数のメチロール基を有する低分子物質の一部による局部的ゲル化はいわゆる皮張り状の遊離被膜組織を形成し、前記の一時的に形成された親水性被膜の表面側に分離した保護膜を生成するに至る。塗料のように一般的な縮合反応性高分子オリゴマー被膜の場合は皮張りもいずれは一体化して被膜となるが、糖類及び/又は多価アルコール類を塗布し親水性被膜が化学的に固定される反応が並行する本発明においては、保護膜は被塗面から親水性被膜の上側に排除され、成形体/縮合高分子膜/親水性被膜/保護膜の順に積層された層構造を形成する。図4はこの様子を模式的に描いたもので、左側に洗浄前、右側に洗浄後を示している。
図4は点線の樹脂表面に糖類が縮合付加した層と、さらにその上に高分子オリゴマー縮合物による皮張り状態の保護膜が形成された状態を模式的に現している。このように水濡れ性が付与された親水性被膜が保護膜の下に潜在的に設けられた構造は、従来の熱硬化性樹脂被膜と同様に成形体を保護して傷つくのを防止すると共に、温アルカリ水等で洗浄することで保護膜は容易に脱落し、新鮮な水濡れ性付与表面を露出させることができる。保護膜はメチロール基など極性基を内側にして造膜されるため、メラミン分子などの樹脂骨格が外側に向くような立体的配置で硬化している確率が高く、疎水性で水濡れ性を示さない。
本発明において成形体とは、あらゆるガラス製品(ガラス容器(ガラスびん、ガラス食器、花瓶など)、板ガラス、置物など)、あらゆるプラスチック製品(各種容器、電気製品の函体、玩具、板、パイプ、シート及びあらゆる金属製品を含む。
(構成2)また本発明は、前記構成1の成形体において、前記縮合反応性高分子オリゴマーがメラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂などの分子中に複数のヒドロキシメチル基(一般にメチロール基と略称)を有するものであることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体である。
分子中に複数のヒドロキシメチル基(一般にメチロール基と略称)を有する縮合反応性高分子オリゴマーは、糖類、多価アルコール類との縮合反応により親水性被膜表面に水酸基を多く偏在させることが可能である。
(構成3)また本発明は、前記構成1の成形体において、前記縮合反応性高分子オリゴマー被膜がメラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂などの分子中に複数のヒドロキシメチル基を有するオリゴマーと硬化形水性ウレタン樹脂で変性した組成物で形成されたものであることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体である。
本発明は、前記構成1における縮合反応性高分子オリゴマーがメラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂などのヒドロキシメチル基を有する縮合形熱硬化性樹脂の低分子量化合物や重合物と、イソシアネート基ないし同基を再生可能な構造を有するポリイソシアネート系樹脂オリゴマーの混合物である被膜上に、有機酸ないし無機酸を硬化反応促進触媒として含む糖類及び/又は多価アルコール類を塗布し、糖類及び/又は多価アルコール類を前記高分子オリゴマー被膜に付加反応によって固定すると共に、被塗面を加熱して被膜を硬化させることを特徴とする潜在的水濡れ性を付与した成形体に関するものである。
成形体表面に設けたイソシアネート基ないし同基を再生可能な構造を含む未硬化の高分子オリゴマーは被膜表面で糖類・多価アルコール類の水酸基(−OH)とが付加反応を起こし被膜に糖類・多価アルコール類の固定をより確実にする。イソシアネート基ないし同基を再生可能な構造を有するポリイソシアネート系樹脂オリゴマーは芳香族系または脂肪族系のイソシアネート化合物重合オリゴマー(アダクトを含む)と脂肪族系多価アルコールやポリエーテルポリオール類あるいはポリエステル結合を含むポリオール類などとの付加重合物である。重合末端にはイソシアネート基が存在するが、さらに解離可能なアミン誘導体化により同基を再生可能な尿素形安定化重合体等も使用できる。また水分散形のポリウレタン樹脂のようにアミンブロックポリイソシアネートに4級アンモニウム構造官能基を導入してアイオノマー分子化し、水分散性を計ると共に反応基を分子鎖中央部で保護する分子設計がなされた商品も使用できる。ポリエーテル型ソフトセグメントを有するウレタン樹脂はゴム特有の適度のクッション性を有するので、成形体が傷つくのを防止する効果も大きい。
(構成4)また本発明は、前記構成1〜3のいずれかの成形体において、前記処理水溶液中の糖類が単糖類、二糖類またはオリゴ糖類であり、処理水溶液を塗布したときの糖塗着物量が0.1〜00mg/平方デシメートル(dm)であることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体である。
処理水溶液中の糖類の濃度は3〜10%で良好なスプレー塗布性を示し、塗布手段は他に浸漬法、刷毛塗り法、ロール塗り法など一般的な塗布方法が使用できるが、適当な濃度はそれぞれ異なる。一般性を考慮して乾燥後の単位面積あたり塗着重量(mg/平方デシメートル(dm))で成形体表面塗布量を示した。
これらの低分子量糖類は、縮合性高分子材料やイソシアネート基ないし同基を再生可能な構造との反応性もよく、反応後に残留する水酸基を多く有するので、親水性被膜表面に好適な水濡れ性を付与できる。特に二糖類は分子量が大きすぎず小さすぎず、被塗着膜内への浸透拡散が適度となり、成形体上反応性高分子オリゴマー皮膜への物性に与える影響が少ない。乾燥後糖塗着物量は0.1〜100mg/平方デシメートル(dm)が好適であり、0.1mg/dmよりも少ないと不均質な膜形成や無塗着面残留の発生する機会が増し、100mg/dmより多いと被塗面の光沢低下、べたつき、液垂れといった品質に関わる各種の不都合を生じる。なお、1平方デシメートル(dm)は100cmである。
(構成5)また本発明は、前記構成4の成形体において、前記処理水溶液中の単糖類がぶどう糖であることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体である。ぶどう糖が縮合性高分子オリゴマーとの反応性もよく、反応後に残留する水酸基が多く、単糖類中で最も好ましい物質であることを確認した。
(構成6)また本発明は、前記構成4の成形体において、前記処理水溶液中の二糖類が蔗糖であることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体である。蔗糖は縮合性高分子オリゴマーとの反応性もよく、反応後に残留する水酸基が多く、二糖類中で最も好ましい物質であることを確認した。
(構成7)また本発明は、前記構成1〜6のいずれかの成形体において、前記硬化反応促進触媒がpKaが4以下の無機酸類又は有機酸類であり、その処理液中の濃度が0.01〜1mass%であることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体である。
成形体表面への潜在的水濡れ性付与と皮張り現象による保護膜形成において、酸触媒が縮合反応や付加反応を活発化する。しかし、添加しすぎると被膜が黄変するおそれがあり、また、潜在的水濡れ性も低下する(ゲル化が進みすぎて官能基(OH基)が減少する)。反応性高分子オリゴマーがメチロール基などの官能基を含むので、加熱、硬化させた被膜の表面にそれらの自己縮合物である保護膜が形成されて表面が保護されるため、余剰の糖成分による工場ラインの汚染、保管時に蟻が集まることを防止できる。表面を保護している保護膜はアルカリ洗浄により取り除き、良好な水濡れ性が付与された表面を顕在化することができる。酸触媒としてはリン酸や塩酸などの無機酸も有機酸類も使用することができる。
pKaが4以下の酸触媒として、無機酸として塩酸、硫酸、硝酸、リン酸が有効であるが糖類の黄変をも促進する傾向がある。有機多塩基酸としてクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、グリセリン酸のようなαヒドロキシカルボン酸類は特に有効であり、糖類の黄変を抑制する効果がある。他にギ酸、シュウ酸、塩素化酢酸類、塩素化プロピオン酸類、パラトルエンスルホン酸、ピルビン酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸なども使用することが出来る。なお、pKaは酸解離指数であり、酸解離定数をKaとすると、pKa=−logKaである。
(構成8)また本発明は、前記構成1〜7のいずれかの成形体において、前記処理水溶液がグリセリン、ジグリセリン又はポリグリセリン類を含み、乾燥後塗着物中のグリセリン、ジグリセリン又はポリグリセリン類の量が20〜60mass%であることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体である。
スプレー塗布法で処理水溶液に1〜20mass%のグリセリン又はジグリセリン又はポリグリセリンを含む場合に好適な親水性被膜表面への水濡れ性付与が図られたが、これを一般的塗布方法に当てはめるため、乾燥後塗着物中にグリセリン又はジグリセリン又はポリグリセリン類を処理水溶液乾燥重量に対する濃度で20〜60mass%含むとした。グリセリン、ポリグリセリンは成形体表面の前記高分子オリゴマー被膜に対する相溶性と糖類に対する親和性があり、処理水溶液の水分蒸発時に糖類結晶の析出防止と、反応媒体としての効果がある。ただし、配合しすぎるとこれらグリセリン類は被膜内に浸透しすぎて被膜自体が弱化するおそれがある。
(構成9)また本発明は、前記構成1〜8のいずれかの成形体において、前記処理水溶液がポリエーテル脂肪酸モノエステル類及び/又はポリグリセリン脂肪酸モノエステル類を含み、乾燥後塗着物中のポリエーテル脂肪酸モノエステル類及び/又はポリグリセリン脂肪酸モノエステル類の量が0.05〜1mass%であることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体である。
ポリエーテル脂肪酸モノエステル類及び/又はポリグリセリン脂肪酸モノエステル類は、処理水溶液塗布乾燥過程においてレベリング剤(平滑剤)として機能し、成形体表面を平滑にし、均質な反応を促す。高分子材料被膜は一般に撥水性を有するため、表面張力の小さい被膜面に表面張力の大きい水溶性処理溶液を塗布しても均質に付着せず、また乾燥過程で対流による組織のムラを生じ厚さも不均一となりやすい。レベリング剤を添加することで処理水溶液を被膜表面に均一に付着させることができ、硬化反応後の表面も平坦で均質な成形体を製造できる。添加量が0.05mass%よりも少ないと十分なレベリング効果を期待できず、1mass%よりも多くても表面水濡れ性向上は少なく成形体被膜の硬度を低下させる傾向が現れる。
(構成10)また本発明は、前記構成9の成形体において、前記ポリグリセリン脂肪酸モノエステル類が炭素数12〜18高級脂肪酸のポリグリセリルモノエステルの酢酸エステル誘導体であることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体である。
ポリグリセリン脂肪酸エステル系レベリング剤として炭素数12から18の高級脂肪酸ヘキサグリセリルモノエステルないしその部分酢酸エステル誘導体をより好適に使用することが出来る。強力なレベリング剤(平滑剤)として表面の不均一性を緩和する特に優れた効果をもたらす。
(構成11)また本発明は、前記構成1〜10のいずれかの成形体において、前記成形体がガラス製品であることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体である。ガラス製品は、ガラスびん、ガラス食器、板ガラスなど、種々のガラス製品を含む。
(構成12)また本発明は、前記構成11の成形体において、前記ガラス製品がガラスびんであることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体である。
(構成13)また本発明は、前記構成1〜10のいずれかの成形体において、前記成形体がプラスチック製品であることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体である。プラスチック製品は、ボトル容器、パウチ容器、カップ容器、トレー容器、板、パイプ、シート、フィルムなど種々のプラスチック成形加工品を含む。
(構成14)また本発明は、前記構成1〜13のいずれかの成形体の表面の前記保護膜を剥離し、前記親水性被膜を露出させたことを特徴とする水濡れ性付与成形体である。
本願発明は、成形体表面にウレタン樹脂、メラミン樹脂などの被膜を形成し、表面の傷付きを防止でき、また必要に応じて着色、フロスト調仕上げ、紫外線遮断などの付加機能を付加できると共に、親水性被膜によって表面に水濡れ性を付与できるので、ガラスびんでは水滴付着による検査機の誤作動を防止し、本来疎水性である成形体表面においては紙ラベルを貼るときの糊の接着性も改善され、デンプン糊、アルブミン糊、ゼラチン糊などの天然糊料を使用でき、成形体表面への印刷性も改善される。本発明における水濡れ性を有する被膜はあらゆる成形体製品に適用可能であり、基本的に疎水性なプラスチック材表面の親水性付与にも使用できる。特に、本発明における水濡れ性は湯洗浄やアルカリ洗浄を行っても維持されるので、繰り返し使用されるリターナブル用途のガラスびんに用いることもできる。
更に本発明の成形体は、親水性被膜の表面に急速な自己縮合による局部的なゲル化物によって親水成膜を保護する役割を担い得る強度を有する保護膜が形成される。保護膜によって成形体表面の汚れ、余剰の糖成分による工場ラインの汚染、保管時に蟻が集まることを防止できる。保護膜は熱アルカリ性水などで膨潤剥離する性質があり、容易に多価アルコールや糖で形成された下部の親水性被膜を露出させることが可能である。
[未硬化高分子オリゴマー被膜の形成]
水性ウレタン樹脂(ポリエーテル系芳香族ポリウレタン尿素化ブロック水分散タイプ)100、メチロール化メラミン樹脂12.5、エポキシ樹脂3、トリメトキシシラン(ソフト添加剤)0.3、フッ素系界面活性剤(レベリング剤)0.08、アントラキノン系染料(消色剤)0.006、純水25の重量部混合比でなるコーティング液を、バーコータ(#75)により光学顕微鏡用スライドガラス片面に塗布し、恒温槽にて110℃で4分間乾燥させ、ガラス表面に未硬化高分子オリゴマー被膜(膜厚20〜30μm)を形成した。
この未硬化高分子オリゴマー皮膜は縮合型反応性のメチロールメラミン樹脂オリゴマーとポリエーテル型ウレタン樹脂を尿素化安定化した水性の被膜形成材料であり、本発明における必要な要件を備えた代表的未硬化高分子オリゴマー被膜例としてあらゆる試験評価に使うことが出来るものであり、以後記載する性状評価試験及び実施形態においては、全てこの被膜を用いている。
[処理水溶液の塗布・加熱]
上記のスライドガラス表面に形成した未硬化高分子オリゴマー被膜の上に、図1に示すように、下記の種々の処理水溶液をスプレーガンで塗布し、電気オーブンにて180℃で10分間加熱し、高分子オリゴマー被膜を硬化させた。
なお本発明において、コーティング液及び処理水溶液を塗布する方法は、スプレーによる吹き付け、刷毛塗り、ディッピング(浸漬)など任意の方法を採ることができる。また、塗布したコーティング液を乾燥する方法は、自然乾燥、強制乾燥を問わない。また、加熱温度は、使用した高分子オリゴマーが硬化するに十分な温度であればよいが、糖類がカラメル化して被膜が黄変しない温度、経験的には190℃を越えないことが好ましい。
[グリセリンの評価]
グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンは糖を含む処理水溶液に反応溶媒として作用するばかりでなく、糖や多価カアルコールの水溶解性を助け、安定した塗布状態を維持するのに役立つ。処理水乾燥後重量に対して20〜60mass%に相当するグリセリン類が存在する処理水溶液が良好なウェットフィルム状態を形成するのに好ましい。
表1に示すように、処理水溶液として、二糖類であるサッカロース(蔗糖)10%、モノラウリン酸ヘキサグリセリル(レベリング剤)0.1%、グリセリン0〜10%の水溶液を用いた。処理水溶液を塗布せずに硬化させた高分子オリゴマー被膜の水接触角は、
水洗後で約72°
80℃10分洗浄後で約70°
であった。表1において、「水洗後」はサンプルを水洗いし、水滴を滴下直後の水接触角、「80℃10分洗浄後」はサンプルを80℃の湯で10分洗浄後、水滴を滴下直後の水接触角を示している。水接触角は、図3で液体が水の場合のθである。処理水溶液を塗布し場合に比較し、表1の場合はいずれも接触角が小さく、水洗、湯洗浄後も十分な水濡れ性能を維持している。これは主に蔗糖の作用である。ただし、グリセリンの濃度が少ないと、塗布後に処理水溶液が乾燥すると蔗糖が結晶化して好ましくなく、また多すぎると被処理被膜樹脂が黄変して好ましくない。また、グリセリンの量が適量であると水接触角が特に小さくなり、良好な水濡れ性を示す。これらを総合すると、処理水溶液のグリセリン量は処理水乾燥後重量に対して20〜60mass%が適当である。
[糖類・多価アルコール類の評価]
表2に示すように、処理水溶液として、蔗糖(二糖類)1〜5%、モノラウリン酸ヘキサグリセリル(レベリング剤)0.1%の処理水溶液を用いた。いずれも、処理水溶液を塗布すると前記の未処理の高分子材料被膜の水接触角よりも小さな値を示しているが、特に、蔗糖の濃度が3%よりも多くなると、急激に水接触角が小さな値となり、水濡れ性が顕著になる。2mass%は反応が均一に起こらないことを伺わせる。糖類の塗着物量は0.1〜100mg/平方デシメートル(dm)が適当である。この結果は酸触媒添加処理液においても生かされる。

※ 水滴を滴下直後の水接触角(以下同様)
表3は、処理水溶液に用いる糖類、多価アルコール類の効果を比較したものである。処理水溶液として、蔗糖、ブドウ糖、アラビノース、ペンタエリスリトール又はキシリトールを含有させた(いずれも濃度5%)5種類のものを用いた。各処理水溶液のグリセリン濃度は2%、モノラウリン酸ヘキサグリセリル(レベリング剤)の濃度は0.1%である。いずれの場合も水濡れ性が改善されているが、特に蔗糖が優れている。表3において、「アルカリ洗浄後水接触角」はサンプルを80℃の2.5%の水酸化ナトリウム溶液中で10分間洗浄した後の水滴を滴下直後の水接触角を示している。蔗糖の場合、水洗後水接触角が10.4°であるのに対し、アルカリ洗浄後水接触角が55.0°に増加し、水濡れ性の低下が見られるが、これは撥水するレベルではなく、十分な水濡れ性を付与している。このように、本発明はアルカリ洗浄にも耐えるもので、繰り返し使用するリターナブルびんについても利用できるものである。酸触媒添加親水性処理でも、表のアルカリ洗浄後の評価はそのまま生かされる。
[レベリング剤の評価]
未硬化の縮合反応性高分子オリゴマー被膜は疎水性であるので、処理水溶液を塗布すると撥水してしまい、斑点状にしか塗布できない。処理水溶液の均一な塗布には、高分子オリゴマー被膜表面と水溶液を仲立ちする界面活性物質の添加が必要と考えた。ポリグリセリンモノラウリルエステル部分酢酸エステル製品「ヘキサグリン」(商品名:化学式1参照)をレベリング剤として添加、レベリング濡れ評価を行った。蔗糖10mass%、グリセリン10mass%、ヘキサグリン0.01%及び0.05%の処理水溶液を塗布したところ、ヘキサグリン0.01%の処理水溶液は斑点状に付着し、所望の処理を行うことができなかった。ヘキサグリン0.05%の処理水溶液は高分子オリゴマー被膜のほぼ全面に良好に付着した。加熱硬化後の水接触角(水滴下直後)は水洗後12°、80℃10分湯洗浄後10°、80℃30分2.5mass%水酸化ナトリウム溶液洗浄後13°で、良好な水濡れ性を示した。また、蔗糖10mass%、グリセリン10mass%、ヘキサグリン0.05%、クエン酸0.1mass%の処理水溶液を塗布したところ、処理水溶液は高分子オリゴマー被膜のほぼ全面に良好に付着した。加熱硬化後の水接触角(水滴下直後)は80℃10分湯洗浄後39°、80℃30分2.5mass%カセイソーダ溶液洗浄後11°で、良好な水濡れ性を示した。レベリング剤(ポリエーテル脂肪酸モノエステル類、ポリグリセリン脂肪酸モノエステル類)の量は、乾燥後塗着物中において0.05〜1mass%が適当である。
[反応原理]
本発明において、例えばメラミンを含む未硬化の縮合反応性高分子オリゴマー被膜上に、糖類及び/又は多価アルコール類を塗布すると、メラミンと糖類又は多価アルコール類のメチロール基(−CHOH)同士が脱水縮合反応する。この反応式(ブドウ糖モデル)を化学式2に示す。この式の右端の六角形部分(化学式2は六角形部分のOH基は省略して表している)のOH基が親水性被膜の表面に露出し、親水性被膜が水濡れ性を呈する。この反応は酸触媒の存在により活性化し、さらに式中のジメチレンエーテル結合は脱ホルムアルデヒド縮合でメチレン橋化してゆく。
[酸触媒の評価]
メラミン等の官能基の反応は酸触媒の存在化で活性化する縮合反応であるため、蔗糖5%、グリセリン2%、ヘキサグリン0.1%の液に、酸触媒としてリン酸、塩酸、クエン酸を添加したものにつき親水性の評価を行った(表4参照)。酸触媒を添加した場合表面は堅い疎水性の保護膜が形成される。これら保護膜は温アルカリ洗浄後に表面から脱離して親水性被膜が露出し、酸触媒未添加の表面より明確な表面水濡れ性が付与された接触角となる。特に塩酸、クエン酸は接触角低下の効果が高い。表面水濡れ性とは係わらない特性であるが、リン酸、塩酸など鉱酸を添加したサンプルには黄変が見られたが、クエン酸の場合はまったく黄変が見られず、酸触媒未添加の蔗糖サンプルより無色であった。クエン酸は反応促進効果以外に蔗糖の黄変を抑制している。

※酸触媒未添加のサンプル皮膜はやや発色している
酸触媒添加処理被膜の接触角測定結果(表4)より、グリセリンのみのモデル(表1)で見られた被膜親水性とは明らかに相違する疎水性(保護膜の生成)が見られ、これは縮合反応性高分子オリゴマー中の低分子活性成分のブリードアウトによるものと考えられる。そこで、硬化直後の表面をアセトニトリル洗浄し、洗浄液の蒸発残渣につきIR分析を行った結果、ブリードアウト成分はメラミン樹脂系オリゴマーであった。酸触媒での硬化表面の疎水性はこれらの局部的自己縮合物により与えられている(図3のIRスペクトル参照)。
図3はメラミンホルムアルデヒド樹脂主体のポリエーテル系ウレタン硬化皮膜にクエン酸触媒の蔗糖処理水溶液を塗布し、加熱硬化させた表面物質のIRスペクトルから酸触媒なしの場合の硬化表面物質を差し引いた差スペクトルである。1550、1490、815cm−1はメラミン樹脂硬化皮膜中のメラミン環構造に由来する吸収であり、糖処理液由来の3400,1047、996cm−1付近吸収は酸触媒なしの表面で多く、1002cm−1はメラミン樹脂オリゴマーメチロール基に由来する。
図5は白濁水(酸化チタン懸濁濡れ性試験液)にディッピングし、サンプル(ガラスびん)の濡れ性を可視化したものである。クエン酸触媒蔗糖(蔗糖)処理水溶液による親水性が確認された。なお同図において、「比較例」は処理水溶液による水濡れ性付与処理を行わなかったもの、「実施例」は処理水溶液として蔗糖10mass%、グリセリン10mass%の水溶液を、「蔗糖+ヘキサグリンサンプル」は処理水溶液として蔗糖10mass%、グリセリン10mass%、ヘキサグリン0.1mass%の水溶液を用いて水濡れ性付与処理を行い、80℃−10分の2.5mass%カセイソーダ水溶液浸漬を行ったものである。実施例は白濁水がまんべんなく付着し、良好な水濡れ性が付与されていることが認められる。
成形体材料がPET樹脂の場合もガラスと同様に処理水溶液による水濡れ性が得られる。でんぷん糊による紙ラベルの添着性を含めて比較した。糖類10%、グリセリン10%、モノラウリン酸ヘキサグリセリル(レベリング剤)0.1%の基本組成の処理水溶液にクエン酸0.1%を加え、前記の水性ウレタン樹脂とメチロール化メラミン樹脂からなる前記高分子オリゴマー被膜を形成したPETシートに塗布、110℃10分加熱硬化させた結果を表5に示した。表5において「アルカリ洗浄直後」は2.5%カセイソーダ洗浄後(保護膜剥離後)の状態を示し、水濡れ性及びでんぷん糊付着性が確保されている。
高分子オリゴマー被膜を形成したスライドガラスに処理水溶液を塗布する方法の説明図である。 接触角の説明図である。 縮合性高分子オリゴマー被膜中から分離したブリードアウト物質のIRスペクトルから酸触媒なし表面を差し引いた酸触媒処理最表面層を強調した差スペクトルである。 メラミンホルムアルデヒド樹脂・ポリエーテル系ウレタン樹脂半硬化皮膜上に形成した親水性被膜及び保護膜と洗浄後剥離の概念図である。 白濁水による表面水濡れ性確認の説明図である。

Claims (14)

  1. 成形体表面に設けた未硬化の縮合反応性高分子オリゴマー被膜上に、糖類及び/又は多価アルコール類と、有機酸ないし無機酸を硬化反応促進触媒として含む処理水溶液を塗布し、加熱して糖類及び/又は多価アルコール類を縮合反応により前記高分子オリゴマー被膜上に固定することで、前記成形体表面に親水性被膜が形成され、更に該被膜の表面に前記縮合反応性高分子オリゴマー成分から成る自己縮合物が硬化し、表面洗浄により容易に剥離可能な保護膜が形成されていることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体
  2. 請求項1の成形体において、前記縮合反応性高分子オリゴマーがメラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂などの分子中に複数のヒドロキシメチル基(一般にメチロール基と略称)を有するものであることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体
  3. 請求項1の成形体において、前記縮合反応性高分子オリゴマー被膜がメラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂などの分子中に複数のヒドロキシメチル基を有するオリゴマーと硬化形水性ウレタン樹脂で変性した組成物で形成されたものであることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体
  4. 請求項1〜3のいずれかの成形体において、前記処理水溶液中の糖類が単糖類、二糖類またはオリゴ糖類であり、処理水溶液を塗布したときの糖塗着物量が0.1〜100mg/平方デシメートル(dm)であることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体
  5. 請求項4の成形体において、前記処理水溶液中の単糖類がぶどう糖であることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体
  6. 請求項4の成形体において、前記処理水溶液中の二糖類が蔗糖であることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体
  7. 請求項1〜6のいずれかの成形体において、前記硬化反応促進触媒がpKa(酸解離指数)4以下の無機酸類又は有機酸類であり、その処理液中の濃度が0.01〜1mass%であることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体
  8. 請求項1〜7のいずれかの成形体において、前記処理水溶液がグリセリン、ジグリセリン又はポリグリセリン類を含み、乾燥後塗着物中のグリセリン、ジグリセリン又はポリグリセリン類の量が20〜60mass%であることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体
  9. 請求項1〜8のいずれかの成形体において、前記処理水溶液がポリエーテル脂肪酸モノエステル類及び/又はポリグリセリン脂肪酸モノエステル類を含み、乾燥後塗着物中のポリエーテル脂肪酸モノエステル類及び/又はポリグリセリン脂肪酸モノエステル類の量が0.05〜1mass%であることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体
  10. 請求項9の成形体において、前記ポリグリセリン脂肪酸モノエステル類が炭素数12〜18高級脂肪酸のポリグリセリルモノエステルの酢酸エステル誘導体であることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体
  11. 請求項1〜10のいずれかの成形体において、前記成形体がガラス製品であることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体
  12. 請求項11の成形体において、前記ガラス製品がガラスびんであることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体
  13. 請求項1〜10のいずれかの成形体において、前記成形体がプラスチック製品であることを特徴とする潜在的水濡れ性付与成形体
  14. 請求項1〜13のいずれかの成形体の表面の前記保護膜を剥離し、前記親水性被膜を露出させたことを特徴とする水濡れ性付与成形体
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