JP4316746B2 - 溶極式ガスシールドアーク溶接方法および溶接電源 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高速溶接や極薄板の溶接を安定に行い、良好な溶接結果を得るための溶極式ガスシールドアーク溶接方法および溶接電源に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図6は、従来の外部特性が略定電圧特性の直流の溶接電源を用いてアーク電圧が高い通常のマグ溶接をしたときの電流波形を示す図である。図中に▼印で示す個所では、溶接ワイヤ(以下、ワイヤという。)と母材との間に短絡が発生しているが、短絡時には溶接電流よりも遥かに大きい短絡電流が流れ、ワイヤ先端の一部がワイヤから離脱することにより、短絡が解消されている。このように、アーク電圧が高い場合には、短絡期間が長くも、短絡が連続して発生することはほとんどなく、アークが不安定になることは少ない。
【0003】
一方、高速溶接や極薄板の溶接において良好な溶接結果を得るためには、アーク長をできるだけ短く保ち、低アーク電圧で溶接する必要がある。この場合、ワイヤと母材が短絡する頻度が高くなるため、短絡期間を短くしてアークの安定性を確保することが重要となる。
【0004】
図7は、特公平4−71629号に開示された技術による出力波形図であり、上段は溶接電流波形を、下段はアーク電圧波形を示している。この技術では、出力電流値が所定値以上にある期間が予め定める期間Tsに達するまでは出力電流の変化率を通常値とし、出力電流値が所定値以上にある期間が期間Tsを経過した後は出力電流の変化率を通常より大きくすることにより、低アーク電圧域において生じ易いワイヤと溶融池との短絡に起因するアーク不安定を抑制するようにしている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、この方法の場合、期間Tsを経過するまでは通常の出力制御を行うため、有効性には限界がある。また、出力電流の変化率を極端に大きくすると出力制御回路が不安定になるため、変化率の上限値にも制約がある。
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術における課題を解決し、高速溶接や極薄板の溶接などに用いられる比較的短いアーク長(低アーク電圧域)の溶接においてもアークが安定で、良好な溶接作業性および溶接結果が得られる溶極式ガスシールドアーク溶接方法および溶接電源を提供するにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、請求項1の発明は、出力回路中にリアクタを備える外部特性が略定電圧特性の直流溶接電源を用い、予め定める平均出力電圧を維持するようにして、パルス電圧を出力するパルス期間と、前記パルス電圧よりも低い電圧のベース電圧を出力するベース期間とを交互に繰り返す溶極式ガスシールドアーク溶接方法において、前記パルス電圧と、前記パルス期間と、前記ベース期間とを予め定める値に固定し、前記ベース電圧の値を前記パルス電圧、前記パルス期間、前記ベース期間及び予め定めた前記平均出力電圧に基づいて設定し、前記リアクタのリアクタンスの値を、パルス期間および溶接ワイヤと母材とが短絡する短絡期間は小さくし、その他の期間は大きくすることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2の発明は、溶接ワイヤと母材との短絡を検出する検出手段と、出力回路中にリアクタとを備え、外部特性が略定電圧特性の直流の溶極式ガスシールドアーク溶接電源において、前記リアクタを同一の鉄心に巻きつけた第1のコイルと第1のコイルよりも巻数が多い第2のコイルとで構成すると共に、前記第1のコイルと前記第2のコイルを発生する磁束の方向が同一になるようにして前記出力回路に接続しておき、パルス電圧を出力するパルス期間と前記パルス電圧よりも低い電圧のベース電圧を出力するベース期間とを予め定める平均出力電圧を維持するようにして交互に繰り返して溶接する場合、前記パルス期間および溶接ワイヤと母材との短絡期間は前記第1のコイルを前記出力回路に接続し、その他の期間は前記第2のコイルを出力回路に接続することを特徴とする。
【0009】
また、請求項3の発明は、請求項2において、前記第2のコイルを前記出力回路に常時接続させておき、通電状態の前記第1のコイルが前記第2のコイルに対して逆バイアスする方向に作用するように構成することを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本発明に係る溶極式ガスシールドアーク溶接電源(以下、溶接電源という。)の構成図である。この溶接電源Pは、商用の三相交流電源1の交流電圧を第1の整流回路2で整流し、整流した直流電圧をIGBTやFET等の大電流スイッチング素子で構成されたインバータ回路3で約20kHzの高周波交流電圧に変換する。そして、変換した高周波交流電圧を高周波変圧器4で溶接に適した交流電圧に変換し、第2の整流回路5で整流する。第2の整流回路5のプラス側端子は、後述するリアクタ切換制御回路30により制御されるスイッチ6の共通端子6cに、マイナス側端子は母材10に接続されている。鉄心とコイルとからなるリアクタLpとリアクタLbは、鉄心7cが共通であり、リアクタLpを構成するコイル7aは巻数がNp、リアクタLbを構成するコイル7bは巻数がNb(ただし、Nb>Npである。)である。そして、コイル7aは一方の端子をスイッチ6の端子6aに、他方の端子をローラ8により送り出されるワイヤ9に接続されている。また、コイル7bは、溶接電流が流れることにより発生する磁束の方向が、コイル7aに溶接電流が流れることによりコイル7aに発生する磁束の方向と同一になるようにして、一方の端子をスイッチ6の端子6bに、他方の端子をコイル7aの他方の端子に接続されている。ワイヤ9と母材10との間には短絡検出回路11が接続されている。短絡検出回路11は、アーク電圧Vと予め設定されている判定電圧Vhの大小を比較し、V≦Vhとなる期間TSはワイヤ9と母材10とが短絡したと判定して短絡信号をリアクタ切換制御回路30に出力する。
【0012】
制御回路20には、高電圧のパルス電圧Vpを設定するためのVp設定器21と、パルス電圧Vpを継続させる期間Tpを設定するためのTp設定器22と、パルス電圧Vpよりも低いベース電圧Vbを継続させる期間Tbを設定するためのTb設定器23と、ベース電圧Vbを設定するVb演算装置24とが接続されている。そして、制御回路20は、外部特性が略定電圧特性になるようにして、パルス電圧Vpの期間Tpとベース電圧Vbの期間Tbを交互に繰り返すようにインバータ回路3を制御する。
【0013】
Vb演算装置24には、Vp設定器21と、Tp設定器22と、Tb設定器23と、アーク電圧V(ワイヤ9と母材10の間の電圧)の平均値である平均アーク電圧Vavの値を指令するためのVav設定器25が接続されている。そして、Vb演算装置24は、Vp設定器21、Tp設定器22およびTb設定器23でそれぞれ設定された値に応じて、アーク電圧Vの平均値がVav設定器25で指令された指令値Vavに一致するように、ベース電圧Vbを
Vb={Vav(Tp+Tb)−VpTp}/Tb
として演算し、演算した値を制御回路20に入力する。
【0014】
リアクタ切換制御回路30は、制御回路20と短絡検出回路11に接続され、スイッチ6を切り換える。
【0015】
ワイヤ送給速度制御装置40は、溶接電流設定器41で設定される溶接電流値(平均値)に応じた一定の速度でワイヤ9を送り出す。
【0016】
次に、本実施の形態の動作を説明する。
【0017】
溶接時、ワイヤ9は溶接電流設定器41で設定された値で定速度送給される。制御回路20は、外部特性が略定電圧特性になるようにして、パルス電圧Vpの期間Tpとベース電圧Vbの期間Tbを交互に繰り返すようにインバータ回路3を制御し、リアクタ切換制御回路30は期間Tpおよび短絡信号が出力される期間TSには共通端子6cと端子6aを接続し、その他の期間は共通端子6cと端子6bを接続する。
【0018】
図2は本発明に係る出力波形図であり、上段は溶接電流波形を、下段はアーク電圧波形を示している。期間Tbが終了して、期間Tpに移行する際、リアクタLbに蓄えられていたエネルギがリアクタLp側へ変換され、出力回路すなわちワイヤ9と母材10との間には、溶接電流として両者のアンペアターンが等しくなるような過渡電流Iptが流れる。この結果、出力回路に流れる電流は、ベース電圧Vbによって通電されていた電流値Ibから過渡電流値Ipt(Ipt=Nb・Ib/Np。ただし、Npはコイル7aの巻数、Nbはコイル7bの巻数である。)まで急激に増加し、その後漸増してパルス電圧Vpによって決まる電流値Ipになる。
【0019】
また、期間Tpが終了して、期間Tbに移行する際、リアクタLbに蓄えられるエネルギがリアクタLp側へ変換され、出力回路には、溶接電流として両者のアンペアターンが等しくなるような過渡電流Ibtが流れる。この結果、出力回路に流れる電流は、パルス電圧Vpによって通電されていた電流値Ipから過渡電流値Ibt(Ibt=Np・Ip/Nb)まで急激に減少し、その後徐々にベース電圧Vbによって決まる電流値Ibになる。
【0020】
そして、期間Tb中に短絡が発生した時も、溶接電流は上記と同様の挙動を示し、短絡が生じている期間TSでは、上述のパルス電流波形に類似した、矩形波に極めて近いパルス状の電流が出力回路に供給される。
【0021】
図3は、本発明により板厚2.3mmのSPCC材の重ねすみ肉継手を溶接したときの実際の出力波形図であり、上段は溶接電流波形を、下段はアーク電圧波形を示している。なお、溶接電流は400A、パルス電圧Vpは45V、期間Tpは0.9ms、期間Tbは2.5ms、平均アーク電圧Vavは30V、溶接速度は2.5m/min、ワイヤは1.2mmのJIS YGW11ワイヤ、シールドガスは炭酸ガス100%である。
【0022】
同図中に▼印で示す個所では、ワイヤ9の先端に形成された溶滴と母材10上に形成された溶融池との間に短絡が発生しているが、短絡に起因する溶接電流の増加は少なく、ほぼ均一な溶接電流であった。この結果、短絡に伴うスパッタの発生が極めて少なく、美麗なビード外観が得られた。また、1mm程度のルートギャップが存在しても、良好な溶接結果が得られることを確認できた。
【0023】
図4は、本発明により板厚0.5mmのSUS304材の重ねすみ肉継手を溶接したときの実際の溶接電流波形を示す図であり、溶接電流は45A、パルス電圧Vpは38V、期間Tpは1.0ms、期間Tbは3.0ms、平均アーク電圧Vavは16V、溶接速度800mm/min、ワイヤは0.6mmのSUS308ワイヤ、シールドガスはAr+5%O2である。
【0024】
同図中に▼印で示す個所が短絡の発生個所であり、短絡の発生に伴う溶接電流の増加が多少認められるが、例えば上記図6の場合に比べて短絡時間、短絡周期共にかなり短くなっており、ワイヤ先端に形成される溶滴が比較的小粒で短絡移行していることが推察される。この結果、短絡およびその解放によって溶融池に加えられる圧力や振動などが低減され、板厚0.5mmという極薄板であるにもかかわらず、溶落ちや穴明きがない良好な溶接結果が得ることができた。
【0025】
この実施の形態では、リアクタLpとリアクタLbの鉄心を同一とし、発生する磁束の方向が同一になるようにして出力回路に接続したから、リアクタLpとリアクタLbの電磁的結合を密にすることができる。
【0026】
なお、上記では鉄心7cに対してコイル7aとコイル7bを別々に巻きつけるようにしたが、1個のコイルに中間端子を設けておき、コイル7aを一方の端子から中間端子までとし、コイル7bを一方の端子から他方の端子までとするように構成してもよい。
【0027】
また、図1に破線で示すように、ワイヤ送給速度を示すワイヤ送給制御回路31からの信号とワイヤ径や材質などに応じて決まる所定の関数に基づいて、アーク電圧設定器25の設定を自動的に実行するように構成すると、溶接条件設定の一元化が可能となり、溶接装置の取扱いをより容易にすることができる。
【0028】
図5は、本発明に係る他の溶接電源の構成およびその接続図であり、図1と同じものまたは機能が同一のものは同一の符号を付して説明を省略する。
【0029】
高周波変圧器50の二次側には中間タップKが設けてある。整流回路51は4個のダイオード51a〜51dで構成されている。そして、整流回路51のプラス側の一方の端子52pはスイッチング素子53を介してコイル7aの一方の端子に接続されており、他方の端子52bはコイル7bの一方の端子に接続されている。スイッチング素子53はリアクタ切換制御回路30によりオンオフ制御される。また、54は溶接トーチである。
【0030】
次に、この実施の形態の動作を説明する。
【0031】
溶接時、ワイヤ9は溶接電流設定器41で設定された値で定速度送給される。制御回路20は、外部特性が略定電圧特性になるようにして、パルス電圧Vpの期間Tpとベース電圧Vbの期間Tbを交互に繰り返すようにインバータ回路3を制御し、リアクタ切換制御回路30は期間Tpおよび短絡信号が出力される期間TSにはスイッチング素子53をオンし、その他の期間はスイッチング素子53をオフする。スイッチング素子53がオンされてコイル7aに通電が開始されると、コイル7aに発生する電圧が逆バイアスする方向に作用する結果、コイル7bには電流が流れない。したがって、端子52bとコイル7bを接続する回路を遮断する装置を設けなくても、スイッチング素子53をオンするだけで、コイル7b側の回路を遮断することができ、スイッチング素子53をオフすることにより溶接電流をコイル7bに流すことができる。なお、スイッチング素子53以外の動作は上記図1に示した実施の形態の場合と実質的に同一であるため説明を省略するが、上記図1の場合と同様の効果を得ることができる。
【0032】
なお、この実施の形態の場合も、図中に破線で示すように、ワイヤ送給速度を示すワイヤ送給制御回路31からの信号とワイヤ径や材質などに応じて決まる所定の関数に基づいて、アーク電圧設定器25の設定を自動的に実行するように構成すると、溶接条件設定の一元化が可能となり、溶接装置の取扱いをより容易にすることができる。
【0033】
また、上記ではいずれも期間Tbに短絡が生じる場合について説明したが、ベース電圧Vbを短絡が発生しないアーク電圧に設定して溶接をする場合にも本発明を適用できることは言うまでもない。そして、ベース電圧値をかなり高く設定する大電流域では、大きいベース電流が通電されるから、アークの指向性・硬直性が一層強められると共に母材への入熱が増加し、従来よりも深い溶込みを得ることができる。
【0034】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、電磁的な結合が極めて良好で巻数が異なる2つの直流リアクタを用い、パルス期間中および短絡発生期間中は巻数が少ないリアクタに通電し、短絡が生じていないベース期間中は巻数が多いリアクタへ通電することにより、通電遮断側のリアクタに蓄えられているエネルギを通電開始側となる他方のリアクタに変換するから、パルス期間および短絡発生期間の開始時および終了時の電流の変化率を大きくでき、ほぼ矩形波状のパルス電流を供給することができる。したがって、パルス電流値およびパルス電流期間を必要最小限の大きさにすることができるだけでなく、短絡電流通電期間も短くすることができ、溶滴移行の規則性が向上し、スパッタ発生量の低減および短絡に起因するアーク不安定の抑制を図ることができる。また、アーク電圧を低くしても安定なアーク状態を維持することができるから、溶接速度の高速化だけでなく、極薄板の溶接およびルートギャップが大きい場合の溶接が容易になる。また、ベース電圧によって平均アーク電圧を変化させるようにしたから、高いベース電圧の設定によって大電流のベース電流が通電されることとなる大電流域では、アークの指向性・硬直性がより一層強化され、ワイヤの抵抗発熱が減少して母材への入熱が増加し、従来よりも深い溶込みを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る溶接電源の構成図である。
【図2】本発明に係る出力波形図であ。
【図3】本発明に係る実際の溶接時の出力波形図である。
【図4】本発明に係る実際の溶接電流波形を示す図である。
【図5】本発明に係る他の溶接電源の構成図である。
【図6】従来の電流波形を示す図である。
【図7】従来の電流波形を示す図である。
【符号の説明】
7a コイル
7b コイル
7c 鉄心
9 ワイヤ
10 母材
Tp 期間
TS 短絡期間
Vp パルス電圧
Vb ベース電圧
Lp リアクタ
Lb リアクタ
Claims (3)
- 出力回路中にリアクタを備える外部特性が略定電圧特性の直流溶接電源を用い、予め定める平均出力電圧を維持するようにして、パルス電圧を出力するパルス期間と、前記パルス電圧よりも低い電圧のベース電圧を出力するベース期間とを交互に繰り返す溶極式ガスシールドアーク溶接方法において、
前記パルス電圧と、前記パルス期間と、前記ベース期間とを予め定める値に固定し、前記ベース電圧の値を前記パルス電圧、前記パルス期間、前記ベース期間及び予め定めた前記平均出力電圧に基づいて設定し、
前記リアクタのリアクタンスの値を、パルス期間および溶接ワイヤと母材とが短絡する短絡期間は小さくし、その他の期間は大きくすることを特徴とする溶極式ガスシールドアーク溶接方法。 - 溶接ワイヤと母材との短絡を検出する検出手段と、出力回路中にリアクタとを備え、外部特性が略定電圧特性の直流の溶極式ガスシールドアーク溶接電源において、
前記リアクタを同一の鉄心に巻きつけた第1のコイルと第1のコイルよりも巻数が多い第2のコイルとで構成すると共に、前記第1のコイルと前記第2のコイルを発生する磁束の方向が同一になるようにして前記出力回路に接続しておき、パルス電圧を出力するパルス期間と前記パルス電圧よりも低い電圧のベース電圧を出力するベース期間とを予め定める平均出力電圧を維持するようにして交互に繰り返して溶接する場合、前記パルス期間および溶接ワイヤと母材との短絡期間は前記第1のコイルを前記出力回路に接続し、その他の期間は前記第2のコイルを出力回路に接続することを特徴とする溶極式ガスシールドアーク溶接電源。 - 前記第2のコイルを前記出力回路に常時接続させておき、通電状態の前記第1のコイルが前記第2のコイルに対して逆バイアスする方向に作用するように構成することを特徴とする請求項2に記載の溶極式ガスシールドアーク溶接電源。
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