JP4311621B2 - 6自由度位置・姿勢測定装置による機械の運動誤差補正方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワークテーブルの上に取り付けられた工作物に対して相対的に運動するツール(加工用ツールあるいは測定用プローブ等)を空間内に運動させる機構を持つ精密工作機械や測定器等の位置決め精度および運動精度を向上させるための技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
工作機械や測定器の加工・測定精度向上のためには、工作物とツールの相対位置関係が安定していることが重要である。そして、そのためには機械全体および各々の構成要素の位置決めおよび運動精度の向上だけでなく、それらを保持しているベース、コラム等の静的な構造物つまり機械のフレームが、静・動的に安定していることが重要である。しかし実際の機械では図7に示すように、機械構造物を構成する各運動要素の位置決め誤差や運動誤差が生ずる。加えて、基礎部から伝わる振動や床変形による外乱や切削抵抗等の加工負荷により機械全体は力学的に変形し、その結果、工作物とツールの柏対的位置には誤差が生ずる。
【0003】
さらに、室温変動や加工時に発生する熱等の外乱により機械全体は熱変位を起こし、同様に工作物とツール間の相対位置精度は悪化してしまう。従来の技術では、機械の運動精度を向上させるために、各機械要素部品の加工精度や組立精度を改善したり、静圧空気案内等の高精度で高価な機械要素を用いてきた。さらには、力学的変形を最小にするため、機械の構造部材の断面積や断面二次モーメントを増加させ、剛性を向上させている。しかしこのような機械要素の加工・組立精度向上には技術的・コスト的な限界がある。また、機械全体の剛性を向上させようとすればするほど機械構造物が重厚長大化する傾向がある。その結果、部材自体の質量が大となるため、自重による基礎部の変形や部材自体の変形をもたらした。さらに、慣性質量が大きくなるために運動精度や性能が悪化したりする弊害も発生している。
【0004】
機械の熱変形については、低膨脹材料を用いたり、有限要素法等を用いて熱変形を最小化するための最適設計が行われている。また、フレーム部に設置した温度センサや室温センサ等を用いて熱変形を予測・補償すること等も行われているが、一般的な梁構造を持つ機械の場合、熱変形は部材の長さ方向だけでなく、撓みとしても発生するため、梁構造を積み重ねた複雑な構造物の熱変形挙動は非常に複雑であり、急激な室温変動があった際に部材の内外および部材間で温度差が生じ、熱変位解析や予測は著しく困難である。また有限個の温度センサによる熱変形予測では、構造物のごく一部の局所的な温度しか測れないため、全体の変形を高精度に予測することは困難である。このため温度センサによる変形補償は、温度の時間的変化の勾配が比較的緩やかな場合に限定されてしまう。
【0005】
以上のような室温変動の影響を小さくするために、機械を設置する部屋を恒温に制御することが一般的に行われている。しかしこのような恒温室では、加工熱や作業者の発する熱等の影響もあって、厳密な恒温環境を保つには設備や膨大な電力が必要である。以上のように、機械の各要素の運動誤差や変形を減じて機械全体の精度を向上させようとする手法には技術的およびコスト的な困難が多い。工作物とツールの相対的な運動誤差を低減させるために、図8に示すような機械外部あるいは機械上に設置した複数の変位センサを用いて、ツールが取付けられている主軸の変位および運動誤差を測定し、これに基づいてNC(数値制御)指令値を補正する方法等が提案されている。
【0006】
しかしこのような従来の方法では、主軸の並進方向3方向の変位は測定・補正できるが、主軸の姿勢変化すなわち3方向のロール・ピッチ・ヨー運動までは測定できない。このため主軸の並進方向の位置決め精度をある程度は向上させることができても、特に突出し量の大きなツールやプローブ等を使用する場合において、主軸の姿勢誤差がある場合には、ツール先端の並進方向の位置誤差を発生する。このような姿勢誤差に起因する位置誤差の大きさは姿勢誤差が一般に小さい量であるとすると、位置誤差≒〔位置測定点・ツール先端間の距離(オフセット)〕×〔主軸の姿勢誤差の大きさ〕となることが知られている。したがって、このような複数の変位計を設置する際には、位置誤差を測定する変位計の測定方向の延長線上にツール先端を配置し、オフセットを僅少にする必要があった。一般的に、これは「アッベの原理」と呼ばれている。
【0007】
例えば、図9を用いて1次元の長さ測定を行うノギスとマイクロメータを例にアッベの原理を説明すれば、図9(a)のノギスはスケール(目盛)軸の延長線上に被測定物がないため、姿勢誤差とオフセットの積に比例した測定誤差が発生する可能性がある。図9(b)のマイクロメータではオフセットが0であるから、このような誤差は僅少となる。つまり、メカニズムには必ず姿勢誤差を含む運動誤差が発生するため、これらの姿勢誤差の影響を受けずに変位を測定したい場合は、オフセットを0にする、すなわち測定対象物を測定軸の延長線上に配置する必要があった。このアッベの原理は1次元的な測長器等では遵守が容易であるが、図10のような直交座標型等の工作機械や3次元座標測定器等の空間的な機構では遵守することは非常に困難である。つまり設計の制約が大きく存在する。
【0008】
そのようなことから、本件発明者は、構造物の形状、剛性に関わりなく、稼働中のフレームの力学的およぴ熱的変形を測定してメカニズムの運動を補正できるところの、工作物とツールとのあいだの相対的位置・姿勢精度を向上させるためのパラレルメカニズムを用いたフレーム変形補正方法およびその装置を提案した(下記特許文献1参照)。
【0009】
【特許文献1】
特開2002−346959(段落0010)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
このパラレルメカニズムを用いたフレーム変形補正方法およびその装置は、図11に示すように、工作物を搭載する定盤(基準プレート)を基準として、フレーム(2)のメカニズム取付部(14)3カ所の位置と姿勢を複数の変位センサにより測定するものである。この装置では機械の稼働中のフレーム部分の変形の測定・補正が可能であるが、この装置で測定できるのはフレーム(2)の変形のみであり、フレーム(2)に取り付けられたパラレルメカニズムの運動誤差までは測定できない。したがって機械全体の精度を向上させるためには、フレーム変形補正と同時に、ツールの運動を担っているパラレルメカニズムの運動精度の向上が必要である。したがって、図11における技術では測定装置を含む機械全体の構成が複雑化する欠点があり、機械全体の補正精度の向上に限界があった。
【0011】
そこで、本発明では、ツールと工作物との間の相対運動の解析結果に基づき、前記本件発明者の提案になるパラレルメカニズムを用いたフレーム変形補正方法およびその装置をさらに改良して、格段の運動精度の向上が図れる6自由度位置・姿勢測定装置による機械の運動誤差補正方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
このため本発明は、ワークテーブルの上に取り付けられた工作物に対して相対的にツールを空間内に運動させる機械における前記ツールとワークテーブルとの間の位置・姿勢をパラレルメカニズムを用いて測定して相対位置関係を補正する機械の運動誤差補正方法において、前記ツールとワークテーブル間を6自由度の相対運動すなわち並進位置3自由度と姿勢3自由度を測定することを特徴とする。また本発明は、前記ツールとワークテーブルとの間の運動を測定する際に、測定対象と測定器の測定軸とを同軸上に配置するところのアッベの原理の適用が不要な測定方法により測定することを特徴とする。また本発明は、前記ツールとワークテーブルとの間の6自由度の相対運動を測定するための6台の測定器を内蔵した6自由度パラレルメカニズムを、アクチュエータを持たない受動ジョイントから構成したことを特徴とする。また本発明は、前記ツールとワークテーブルとの間の相対運動を測定するための測定系構造物とツールとワークテーブルの相対運動を得るための駆動用構造物とを分離して構成したことを特徴とする。また本発明は、前記ツールとワークテーブルの相対位置関係を、機械構造物とは全く別に設置した測定装置により測定できるように構成したことを特徴とする。また本発明は、前記測定された機械の6自由度相対運動と目標値から位置誤差と姿勢誤差を算出し、機械本体のアクチュエータにフィードバックして機械の運動を補正するように構成したことを特徴とするもので、これらを課題解決のための手段とするものである。
【0013】
【実施の形態】
以下、本発明における6自由度位置・姿勢測定装置による機械の運動誤差補正方法の実施の形態について詳細に説明する。図1は本発明で用いる測定装置を示し、伸縮型の6自由度パラレルメカニズムを用いた基本的な概念図、図2は本発明の実施の形態の装置例、図3は伸縮型の6自由度パラレルメカニズムの座標系説明図、図4は装置機械の運動誤差を補正する原理概念図、図5は熱膨張・弾性変形を検出可能なリニアスケールを有する伸縮リンク例断面図、図6はパラレルメカニズムの形態例を示す説明図である。本発明の基本的な構成は図2に示すように、ワークテーブル(ベースプラットフォーム:定盤)の上に取り付けられた工作物に対して相対的にツール(エンドエフェクタ)を空間内に運動させる機械における前記ツールとワークテーブルとの間の位置・姿勢をパラレルメカニズムを用いて測定して相対位置関係を補正する方法において、前記ツールとワークテーブル間を6自由度の相対運動すなわち並進位置3自由度と姿勢3自由度を測定することを特徴とする。
【0014】
以下に詳細に説明する。本発明では、工作物・ツール間の相対運動が6自由度つまり並進位置3自由度と姿勢(回転)3自由度を持っていることに着目してなされたものである。このため、装置機械において工作物が載置されるワークテーブルを基準としたツールの並進位置3自由度と姿勢3自由度を、ツール・ワークテーブル間に連結するように並列に配置した複数のリンクから構成される6自由度パラレルメカニズムを用いて測定する。機械の駆動は機械本体のアクチュエータにより行う。このような全てのジョイントが受動的なジョイントからなるパラレルメカニズムにはアクチュエータを設置する必要はないが、ジョイントの変位や角度を測るための測定器(リニアスケールやロータリエンコーダ等)を6台設置する。これらの6台の測定器で測定されたジョイントの伸縮量や角度を用いて、6自由度パラレルメカニズムの順運動学式からツール・ワークテーブル間の相対的な並進位置3自由度と姿勢3自由度を算出することができる。
【0015】
以上のパラレルメカニズムを用いた測定系構造物にはツールを運動させるための駆動力や加工に伴う加工力等が作用しないため、パラレルメカニズムを構成するリンクやジョイントに作用する内力・外力は最小となり、これらによるジョイントやリンクの弾性変形の影響を最小にすることが可能である。さらに機械の熱変形の影響等を受けないよう、主要部分を低熱膨脹ガラス材料やスーパーインバー材等の低熱膨張材料で製作することも可能となる。このように、力学的変形および熱的変形を最小にすることにより、ワークテーブル・ツール間の6自由度相対運動を高精度に測定できる。以上から得られたワークテーブル・ツール間の相対的位置・姿勢と、機械に与えたツールの目標値から6自由度の運動誤差を算出し、機械本体のアクチュエータにフィードバックして機械の運動を補正すれば、機械の運動精度を飛躍的に向上させることが可能になる。
【0016】
以上に述べた6自由度パラレルメカニズムを用いる手法では、前記図8に示した従来の方法とは異なり、変位を測定する変位計等の測定方向の延長線上にツール先端を配置する必要がない。つまり前述のアッベの原理を守る必要がない。なぜならば、従来の方法ではワークテーブル・ツール間の相対運動のうち変位のみを測定していて、残りの姿勢3方向の全てを測定していないため、測定点とツールの間にオフセットが存在して姿勢誤差が生じたとき、〔オフセット〕×〔姿勢誤差〕なる並進方向の運動誤差が発生してしまうからである。6自由度パラレルメカニズムを用いて測定対象の持つ6自由度の位置と姿勢の全てを測定する本発明では、当然〔姿勢誤差〕をも測定しているため、オフセットの大きさが分かっていれば、上記のような姿勢誤差に起因する〔オフセット〕×〔姿勢誤差〕なる並進方向の運動誤差の量は容易に算出することができ、かつ容易に補正が可能となる。したがって、従来のように、測定対象を測定軸と同軸に置く必要性がなく、測定器等の配置が非常に容易となる特長を有する。従来はアッベの原理を守るために、機械の設計時に測定器等の配置に大きな困難と制約を伴ってきたが、本発明ではこのような制約を受けることがなく、高い自由度の下に新たな設計思想に基づいた高精度な機械設計の実現が可能となる。
【0017】
さらに、従来の図11およぴ図12に示したフレームの変形を測定する装置を用いた精度向上方法では、フレームの変形の測定・補正が可能であるが、これだけでは機械全体の精度向上は望めず、フレームの変形の測定・補正のためにはフレームに取り付けられてツールの運動を担っているメカニズム部分の精度向上を図る必要があった。つまり、フレームの変形補正だけではなくメカニズム部分の精度向上のための装置をメカニズム自体に組み込む必要があるため、全体としての構成は複雑化し、その結果、補正精度の向上を困難にしていた。本発明では、ワークテーブルから見たツールの運動を直接測定・補正を行うために、フレームの変形とメカニズムの運動誤差の両方つまり機械全体の運動誤差の測定・補正が可能となる。さらに本発明の装置の構成は、前記図11および図12の装置にメカニズム自体の補正を組み込んだ場合と比較して非常にシンプルとなり、ワークテーブル・ツール間の相対位置・姿勢を高精度に測定することが可能になり、その結果、機械全体の補正精度が向上できることとなった。
【0018】
本発明で用いるパラレルメカニズムを利用した6自由度位置・姿勢測定装置の概要を図1に示す。ここでは一般的な伸縮型の直進対隅6本を持つ6自由度のパラレルメカニズムを用いて説明する。ベースプラットフオームとムービングプラットフオーム上には、それぞれ6個の球面ジョイントあるいはユニバーサルジョイントが配置され、その間を6組のリンクにより接続する。各リンクには直動ジョイントが内蔵され、リンクはその長さ方向に伸縮できる。これら6組のリンクの伸縮量は、内蔵した6台のリニアスケール等の測長器により測定される。このメカニズムでは、これを設置する機械のワークテーブル・ツール間の相対運動により受動的に駆動されるため、リンクの伸縮やジョイントの回転を行うアクチュエータを設置する必要はない。
【0019】
以上のリンク装置を図2に示すように、目的とする機械のエンドエフェクタ(ツール等)とワークテーブル(定盤)の間に設置する。図示の工作機械の例では、ツールが取り付けられているスピンドル(エンドエフェクタ側)にパラレルメカニズムのムービングプラットフオームを、工作物が載置されるワークテーブル側にパラレルメカニズムのベースプラットフオームをそれぞれ設置してある。機械自身が持つサーボモータ等のアクチュエータによって機械のエンドエフェクタは運動し、それに固定されたムービングプラットフオームも運動を行う。ムービングプラットフオームが運動する際、ムービングプラットフオーム上の6個の球面ジョイントとベースプラットフオーム上の6個の球面ジョイントの間の距離は刻一刻変化するが、これらの6距離の変化は6本のリンクに内蔵された前記6台の測長器(スケールユニット)等により測定される。
【0020】
したがって、ムービングプラットフオーム上の球面ジョイントの位置、ベース上の球面ジョイントの位置およひ各リンクの初期長さ等をあらかじめ測定して求めておけば、ベースプラットフオーム側から見たムービングプラットフオームの位置と姿勢は、一般的なパラレルメカニズムの順運動学計算により容易に求めることが可能である。したがって、工作物はベース上に搭載され、ツールはムービングプラットフオーム側に固定されているため、以上の装置により工作物・ツール間の相対的な6自由度の位置および姿勢が求められる。この6自由度の位置・姿勢X={x,y,z,α,β,γ}T を求めるには、一般的に以下のような方法を用いる。ここで、x,y,zはそれぞれツールのx、yおよぴz方向の位置(座標値)、α、βおよびγはそれぞれx軸回り、y軸回りおよぴz軸回りの姿勢(ロール角・ピッチ角・ヨー角)を表す。また上付きのTは転置行列(Transposed Matrix)を表す。
【0021】
先ず、図3のように、ワークテーブルに固定された座標系をΣB とし、この座標系から見たワークテーブル上のジョイントBi (但しi=1・・・6)の位置ベクトルを BP ̄Biとする。また、ツールに固定された座標系をΣS として、こからみたムービングプラットフオーム上のジョイントSi (但しi=1・・・6)の位置ベクトルを SP ̄Siとする。(ここで、P ̄はベクトルを表し、どの座標系の表示であるかを左肩字で表す。)ワーク座標系ΣB から見たツール座標系ΣS の位置を表す位置ベクトルを BP ̄S 、姿勢を表す回転変換行列を BS とすると、ワーク座標系から見たムービングプラットフオーム上のジョイントSi の位置ベクトル BP ̄Siは以下の式で表される。但しi=1・・・6
BP ̄Si BP ̄S BS SP ̄Si
【0022】
したがって、ワークテーブル上のジョイントBi とムービングプラットフオーム上のジョイントSi 間の距離すなわち図3の伸縮するリンクの長さl ̄i (但しl ̄はベクトルを表し、i=1〜6)は、
l ̄i =| BP ̄Si BP ̄Bi
となり、6個の方程式が得られる。距離l ̄i を用いて座標系ΣB からみた座標系ΣB の位置 BP ̄S と姿勢 BS を求める、つまり6個の未知数を求めるためには以上の連立方程式を解く必要があるが、これは代表的な6自由度のパラレルメカニズムの順運動学の式と同一であり、あらかじめ定数であるジョイントの位置ベクトル BP ̄Biおよび SP ̄Siを求めておく、すなわちパラレルメカニズムの機構パラメータの校正を行っておけば、リンクに内蔵されたリニアスケールの値からリンクの長さl ̄i から、ワーク座標系から見たツールの位置 BP ̄S と姿勢 BS すなわち6自由度の相対運動を計算により求めることができる。
【0023】
次に、上記で求めた工作物・ツール間の相対的な位置・姿勢を用いて機械の運動精度を向上させる手段について図4を用いて説明する。測定された工作物・ツール間の6自由度の相対的な位置・姿勢と機械に与えられた目標指令値(多軸加工機では位置3自由度に加えて姿勢3自由度の場合もあるが、一般の直交3軸から構成されている機械では位置のみであって、姿勢の目標値は一般に0である)から、工作物・ツール間の運動誤差(位置および姿勢)が算出できる。この誤差が0になるように機械のアクチュエ一タに対してフィードバック制御を行えば、工作物・ツール間の相対的位置・姿勢の精度を保つ、すなわち機械の運動精度を飛躍的に向上させることが可能になる。
【0024】
以上の方法によれば、例えば、工作物をツールで加工している際に発生する切削力等によって機械構造物が弾性変形しツールの位置・姿勢に運動誤差が生じた場合にも、パラレルメカニズムには切削力等が作用しないために工作物・ツール間の6自由度の相対的位置・姿勢は高精度に測定できる。よって、測定された工作物とツールの相対的位置・姿勢を目標値に一致させるようにアクチュエータを駆動できる。また、室温変動が生じて機械に熱的変形を生じ、工作物とツールの相対的位置・姿勢が変化した場合も、パラレルメカニズムの主要構造部を超低熱膨脹ガラスやスーパーインバー等の低熱膨脹材料で製作しておけば、工作物・ツール間の相対的位置・姿勢は室温変動の影響を受けずに高精度に測定される。この結果、工作物・ツール間の相対的位置姿勢が目標指令値と等しくなるようにアクチュエータが駆動され、工作物・ツール間の位置・姿勢は目標値通りの値を得ることができる。
【0025】
パラレルメカニズム型位置・姿勢測定装置が外力や温度変動の影響を受けないように工夫した実施例の概念図を図5に示す。図ではパラレルメカニズムの6本の伸縮するリンクのうち、1本について示している。先ず、ムービングプラットフオームおよびベースプラットフオームはスーパーインバー材や低熱膨張鋳鉄等の低熱膨張材料で製作する。ユニバーサルジョイントや球面ジョイント内には同様の低熱膨張材で製作したボール付きシャンクを設置する。リンクの伸縮は内蔵のリニアスケールユニットで測定するが、このユニットのスケール部分と片方のジョイント内のボールを低膨張材からなるロッドで連結する。図ではロッド端部をジョイント内のボール面に引張りバネにより一定の接触力で押し付けている。さらにユニットの読取りヘッドともう片方のジョイント内のボールを同様のロッドで連結する。スケールと読取りヘッドは、リンクの長手方向に沿って微小な並進運動が可能なように、案内要素を介して固定側リンクと移動側リンクに接続されている。
【0026】
このようにすれば、ロッドの熱膨張量は僅少であるため、ボール・スケール間距離とボール・読取りヘッド間の距離は温度変動の影響を殆ど受けないことになる。したがって、リンクの伸縮量すなわち両端のボール間距離の変動は温度変動の影響を受けずに内蔵のスケールユニットにより正確に測定される。さらに外力や自重等によりジョイントやリンクが力学的に弾性変形を生じても、ロッドにはこのような力は伝わらずロッドは殆ど伸縮しないため、両端のボール間の距離の変動として正確に内蔵のスケールユニットで測定される。以上をまとめると、図5の例では、パラレルメカニズムに熱的伸縮や弾性変形が生じても、これらの変形は内蔵のリニアスケールユニットでリンクの伸縮量と共に正確に測定することができる。これは本手法で補正対象としている機械全体を、低膨張材料で製作したり剛性を高めることなく、温度変動や外力等に起因するワークテーブル・ツール間の6自由度相対運動を本パラレルメカニズムにて外力や温度変動の影響を受けることなく正確に測定可能であることを示している。
【0027】
本発明の精度補正対象となる機械は形式を問わない。つまり一般的な直交座標型メカニズム、パラレルメカニズムそして多関節型メカニズム等にも応用が可能である。さらに設計変更等によって測定対象となる機械の性能や材質等が変更されても、本発明で使用する6自由度位置・姿勢測定装置は、その変更とは関係なく実施が可能である。このため、開発コスト等が削減できる等の特長を持つ。また、本発明により精度補正対象となる機械は、一般的な並進3自由度を持つ直交座標型メカニズム(XYZメカニズム)を用いた機械だけではなく、ツールの姿勢を変化させることのできる4軸以上の自由度を持つ機械、例えば5軸加工機や6自由度パラレルメカニズム型工作機械にも適用が可能であることは言うまでもない。
【0028】
直交3軸を持つ機械では、一般的に姿勢誤差は微小であるため、直交3軸のアクチュエータによる補正のみでも機械の精度を向上させることが可能である。後者の5軸加工機や6自由度パラレルメカニズム型機械では位置と姿勢の両方の補正が可能である。無論、直交座標型メカニズムだけではなく、工業用ロボット等に多く採用されている多関節型メカニズム等にも適用が可能であることは言うまでもない。また、本発明で用いるパラレルメカニズムは図1に示した伸縮する能動直動ジョイントを持つ伸縮型6自由度パラレルメカニズム(図6(a))以外にも、図6(b)に示す回転ジョイントを持つ屈曲型6自由度パラレルメカニズムや図6(c)の直動ジョイントをワークテーブル側に固定した開閉型6自由度パラレルメカニズム等を用いても実施は可能である。つまり6自由度の位置と姿勢を測定できる6自由度のパラレルメカニズムならば実施が可能である。
【0029】
以上本発明の実施の形態を説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、パラレルメカニズムとしてのベースの形状、リンク部を構成する直動ジョイント等の形状、形式、本数およびそのベースとの位置関係、球面ジョイントの形状、形式、球面ジョイントのベースおよびフレームへの設置形態、フレームの形状、形式、球面ジョイント等取付部基準点とベース側定盤等との間のスケールユニット等による距離の測定形式(スーパーインバーロッドと変位センサによるもの、レーザー干渉測長器によるものの他に適宜のものが採用され得る)、フレームの変形補正方式(パラレルメカニズムの運動学式中の球面ジョイントの座標位置のパラメータを補正するものとして、リンク部を構成する直動ジョイント等における伸縮制御を補正する他、適宜の別途の制御手段を設置することもできる)、変位センサーの形式および設置位置および設置形態等については適宜選定できる。またパラレルメカニズムは図1に示したようにジョイントに内蔵した6個の測定器を持ったものを用いて説明しているが、このようなパラレルメカニズムにパラメータ校正(キヤリブレーション)等のための冗長的な測定器やジョイントさらにリンクを加えても実施は可能であることは言うまでもない。
【0030】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、ワークテーブルの上に取り付けられた工作物に対して相対的にツールを空間内に運動させる機械における前記ツールとワークテーブルとの間の位置・姿勢をパラレルメカニズムを用いて測定して相対位置関係を補正する機械の運動誤差補正方法において、前記ツールとワークテーブル間を6自由度の相対運動すなわち並進位置3自由度と姿勢3自由度を測定することにより、ツールとワークテーブル間に測定機構を組み込んだだけの受動リンクから構成されるパラレルメカニズムを用いて、工作機械や測定器の相対位置誤差および運動誤差を極端に減らすことができ、市販の普通の工作機械や測定器でさえも、格段の精度向上が達成できる。
【0031】
また、前記ツールとワークテーブルとの間の運動を測定する際に、測定対象と測定器の測定軸とを同軸上に配置するところのアッベの原理の適用が不要な測定方法により測定することにより、従来の測定器のようにアッベの原理を守るための測定部の配置に大きな制約を伴うことがなく、高い自由度の下に新たな設計思想に基づいた高精度な機械設計の実現が可能となる。
【0032】
さらに、前記ツールとワークテーブルとの間の6自由度の相対運動を測定するための6台の測定器を内蔵した6自由度パラレルメカニズムを、アクチュエータを持たない受動ジョイントから構成したことにより、機械のワークテーブル・ツール間の相対運動により受動的に駆動されるため、パラレルメカニズムを構成するこれらのリンクの長さ方向の伸縮量は、内蔵した6台のリニアスケール等の測長器により測定され、これを設置するリンクの伸縮やジョイントの回転を行うアクチュエータを設置する必要がなく、構造が簡素化される。
【0033】
さらにまた、前記ツールとワークテーブルとの間の相対運動を測定するための測定系構造物とツールとワークテーブルの相対運動を得るための駆動用構造物とを分離していることにより、ツールとワークテーブルとの間の相対運動を測定するための測定系構造物が駆動用構造物からの内・外力等の影響を受けにくく、測定精度が向上する。さらに、前記ツールとワークテーブルの相対位置関係を、機械構造物とは全く別に設置した測定装置により測定できるように構成したことにより、機械構造物の形式・構造・形態およびその変形等に全く無関係に、ツールとワークテーブル間の相対運動を測定できて、測定精度を向上させることができる。
【0034】
また、前記測定された機械の6自由度相対運動と目標値から位置誤差と姿勢誤差を算出し、機械本体のアクチュエータにフィードバックして機械の運動を補正するように構成したことにより、測定された工作物とツールの相対的位置・姿勢を目標値に一致させるようにアクチュエータを駆動して、工作物とツールの相対運動精度を向上させて高い精度で工作物の加工が可能となった。かくして、本発明によれば、本件発明者の提案になるパラレルメカニズムを用いたフレーム変形補正方法およびその装置をさらに改良した、格段の運動精度の向上が図れる6自由度位置・姿勢測定装置による運動誤差補正方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で用いる6自由度位置・姿勢測定装置を示し、その基本的な概念図で、伸縮型の6自由度パラレルメカニズムを用いた例である。
【図2】本発明の実施の形態であり、一部断面図である。
【図3】同、伸縮型の6自由度パラレルメカニズムの座標系説明図である。
【図4】同、装置機械の運動誤差を補正する原理概念図である。
【図5】同、ジョイントやリンクの熱膨張・弾性変形を検出可能な内蔵のリニアスケールを有する伸縮リンク例の断面図である。
【図6】同、パラレルメカニズムの3つの形態例を示す説明図である。
【図7】一般的な機械構造物の変形の要因の説明図である。
【図8】機械における姿勢誤差とツールの位置誤差との関連説明図である。
【図9】アッベの原理の説明図である。
【図10】直交座標型メカニズムとアッベの原理との関連の説明図である。
【図11】既提案の3自由度パラレルメカニズムに適用されたフレーム変形測定・補正装置の全体斜視図である。
【図12】フレームの変形の測定・補正とツールの運動を担うメカニズム部分の精度向上との関連説明図である。

Claims (3)

  1. ワークテーブルの上に取り付けられた工作物に対して相対的にツールを空間内に運動させる機械における前記ツールとワークテーブルとの間の位置・姿勢をパラレルメカニズムを用いて測定して相対位置関係を補正する機械の運動誤差補正方法において、
    前記パラレルメカニズムは、前記ツールとともに運動するムービングプラットフォームと、前記ワークテーブルと、前記ムービングプラットフォームと前記ワークテーブルとを機械的に接続する少なくとも6本のリンクと、により構成され、
    前記パラレルメカニズムは、前記ツールと前記ワークテーブルとを相対的に運動させる駆動用構造物とは別に設けられており、
    前記少なくとも6本のリンクの各リンクの長さを測定することにより、前記ツールとワークテーブル間を6自由度の相対運動すなわち並進位置3自由度と姿勢3自由度を測定することを特徴とする6自由度位置・姿勢測定装置による機械の運動誤差補正方法。
  2. 前記測定された機械の6自由度相対運動と目標値から位置誤差と姿勢誤差を算出し、機械本体の前記駆動用構造物にフィードバックして機械の運動を補正するように構成したことを特徴とする請求項1記載の6自由度位置・姿勢測定装置による機械の運動誤差補正方法。
  3. 対象物を載置可能なワークテーブルと、前記対象物に作用するエンドエフェクタと、前記エンドエフェクタと前記ワークテーブルとを相対的に運動させる駆動用構造物と、を有し、前記エンドエフェクタと前記ワークテーブルとの間の位置・姿勢をパラレルメカニズムを用いて測定して相対位置関係を補正する機械であって、
    前記パラレルメカニズムは、前記エンドエフェクタとともに運動するムービングプラットフォームと、前記ワークテーブルと、前記ムービングプラットフォームと前記ワークテーブルとを機械的に接続する少なくとも6本のリンクと、により構成され、
    前記パラレルメカニズムは、前記ツールと前記ワークテーブルとを相対的に運動させる駆動用構造物とは別に設けられており、
    前記少なくとも6本のリンクの各リンクの長さを測定することにより、前記エンドエフェクタとワークテーブル間を6自由度の相対運動すなわち並進位置3自由度と姿勢3自由度を測定することを特徴とする機械。
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