JP4310610B2 - 白華抑制塗材及び白華抑制方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、白華現象(エフロレッセンス)が有意に抑制されてなる石灰を含有する水性塗材に関する。さらに本発明は、石灰を含有する塗材の被膜表面に発生する白華現象(エフロレッセンス)を抑制する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、消費者の自然化志向によって漆喰壁が見直されてきている。しかしながら、漆喰壁はその施工性の悪さもさることながら、原料である石灰中のカルシウムイオンに起因するアルカリ成分が水の介在によって被膜表面に移行して生じる、所謂「白華現象」と呼ばれる問題を有している。かかる白華現象は、漆喰塗材を塗布した被膜表面に白い粉状の斑点や染みが生じるものであり、これによって建築物の美感が著しく損なわれてしまう。
【0003】
従来より漆喰壁の白華現象を抑制する方法としては、被膜表面に油を塗布して水密性を向上させ、被膜内部に水分が侵入するのを防止する方法が採られているが、当該方法によると、表面に艶むらが出る、油塗布面に塵や埃が付着する、施工に手間がかかるなどといった問題がある。また、漆喰と同様に白華現象が問題となるセメント系製品に関しては、白華現象の抑制方法として、耐アルカリ性に優れる塗料を表面に塗布する方法やセメント原料にゼオライト結晶を含む混和剤を配合する方法(特開昭62-21739号)等が種々提案されている。しかしながら、前者の方法によると漆喰独特の艶消しの外観が損なわれてしまうという問題があり、また後者の方法を用いるとポゾラン現象が生じて水性塗材が経時的にゲル化し硬化してしまい使用できなくなるという問題がある。また、漆喰塗材の原料である石灰は気硬性であるのに対してセメントは水硬性であるように両者は硬化メカニズムが異なることから、セメントで有効な白華現象抑制方法が必ずしも漆喰塗材に適用できるとは限らない。
【0004】
このように、従来より漆喰塗材等のように石灰を主成分とする塗材に関して、当該漆喰塗材に適した白華現象防止法の開発が求められている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、石灰を含有する塗材に関する従来の問題を解消しようとするものである。具体的には、第一に本発明は、上記石灰含有水性塗材における白華現象の発生を防止し、長期にわたって美感に優れた被膜を形成する塗材を提供することを目的とする。第二に本発明は、石灰含有水性塗材に関して、白華現象の発生を防止するための有効な方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的を達成するために日夜鋭意研究を重ねていたところ、石灰を含有する水性塗材の材料として、石灰とカルシウムイオンよりイオン化傾向の小さい金属の酸化物とを水存在下で共存させた組成物を用いることにより、被膜形成後、被膜面に発生する白華現象が有意に抑制できることを見出した。この理由は定かでなく、また予想される理由に何ら拘束はされないが、水存在下で石灰とカルシウムイオンよりイオン化傾向の小さい金属の酸化物(金属酸化物)とを共存させることによって、石灰から生じた遊離カルシウムイオンが金属酸化物の金属イオンとイオン交換されて酸化されることで不溶性化合物となり、これによって水中の白華現象の原因となる遊離カルシウムイオンが減少するためと考えられる。本発明はかかる知見に基づいて開発されたものである。
【0007】
すなわち、本発明は下記(1)〜(4)に掲げる石灰を含有する水性塗材である。
(1)石灰に加えて白華抑制剤を含有する水性塗材であって、白華抑制剤がカルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の酸化物であることを特徴とする石灰含有水性塗材。
(2)白華抑制剤が酸化亜鉛である(1)に記載の石灰含有水性塗材。
(3)消石灰100重量部または消石灰と生石灰を含有する場合はこれらの総量100重量部に対して、白華抑制剤を0.1〜40重量部の割合で含有する(1)または(2)に記載の石灰含有水性塗材。
(4)さらに結合剤、無機顔料、及び光触媒活性成分よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する(1)乃至(3)のいずれかに記載の石灰含有水性塗材。
【0008】
かかる本発明の塗材によれば、石灰に含まれるカルシウムイオンに起因して生じる白華現象の発生が有意に抑制され、美感を長期にわたって保持してなる耐久性に優れた被膜を形成することができる。なお、本発明が対象とする石灰含有水性塗材とは、その形態を特に制限するものではなく、目的とする被施工面(被塗工面)に被膜(塗膜)を形成するために用いられる塗工材料を広く意味するものであって、狭義の塗料及び塗材がいずれも包含される。
【0009】
また本発明は、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の石灰含有水性塗材から形成される被膜を有することを特徴とする塗装物である。
【0010】
さらに、本発明は下記(6)〜(8)に掲げる石灰を含有する水性塗材の白華現象抑制方法である。
(6)石灰とカルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の酸化物とを水存在下で共存状態においた塗材を用いて施工することを特徴とする、石灰含有水性塗材の白華現象抑制方法。
(7)カルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の酸化物が酸化亜鉛である(6)に記載の石灰含有水性塗材の白華現象抑制方法。
(8)消石灰100重量部または消石灰と生石灰を含有する場合はこれらの総量100重量部に対して、カルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の酸化物を0.1〜40重量部の割合で共存させる(6)または(7)に記載の石灰含有水性塗材の白華現象抑制方法。
【0011】
かかる本発明の方法によれば、石灰を含有とする水性塗材において従来より問題であった白華現象を有意に防止することができ、美感を長期にわたって保持してなる耐久性に優れた被膜を形成するのに貢献できる。
【0012】
本発明の白華現象抑制方法は、具体的には、例えば石灰と水を含む混合物にカルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の酸化物を配合して、水中に遊離したカルシウムイオンを不溶性化合物へと導き、遊離カルシウムイオンが存在しないか若しくは有意に低減されてなる塗材を調製し、該塗材を用いて被施工物に塗工を施し被膜を形成することによって達成することができる。また被膜形成後に被膜内に浸入した水によって生じる遊離カルシウムイオンは、被膜中に存在する金属酸化物によって捕捉されて不溶性化合物となるため、経時的に生じる被膜の白華現象も防止することができる。
【0013】
なお、上記(6)に記載する本発明の白華現象抑制方法は「石灰とカルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の酸化物とを水存在下で共存状態においた石灰含有水性塗材を用いて施工することを特徴とする、白華現象が抑制された石灰含有被膜の調製方法。」と言い換えることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
(1)石灰含有水性塗材
本発明が対象とする塗材は石灰を含有するものである。
【0015】
ここで石灰としては、漆喰材料として使用される石灰を広く挙げることができる。具体的には酸化カルシウムを主成分とする生石灰,水酸化カルシウムを主成分とする消石灰,炭酸カルシウム(カルサイト,アラゴナイト,バテライト,塩基性炭酸カルシウム及び非晶質炭酸カルシウムなどの沈降炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム)及びドロマイト(CaMg(CO3)2)などの石灰を挙げることができる。なお、これらの石灰としては、建築・土木部材などの廃材から再生された石灰を使用することもできるし、また着色などの任意処理を施した石灰を使用してもよい。これらの石灰は1種単独で使用してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。好ましくは消石灰である。なお、ここで消石灰とは水酸化カルシウムを主成分として含有する石灰を意味し、例えば工業用石灰(JIS A6902)を挙げることができる。また、消石灰の主成分である水酸化カルシウムは空気中の二酸化炭素の影響を受けて経時的に炭酸カルシウムになる性質を有することから、消石灰の一部若しくは全部に代えて炭酸カルシウムを用いることもできる。さらに他成分として上記の生石灰またはドロマイトなどを含有していてもよい。なお、本発明で用いる石灰は、その粒子径も特に制限されず、工業用消石灰として通常使用される粒子径のほか、該粒子径より小さいものも任意に使用することができる。
【0016】
本発明の塗材中に含まれる上記石灰の配合割合は、本発明の塗材によって形成される被膜(塗膜)が所望の被膜性能(塗膜性能)を備え、本発明の効果を妨げないものであれば特に制限されない。例えば、塗材の固形分100重量%あたりの石灰(総量)の配合割合としては通常下限5重量%、上限90重量%の範囲から適宜選択調整することができる。漆喰特有の艶消しの質感を発揮させるためには石灰の配合割合は多い方が好ましく、この場合20重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上の割合を例示することができる。より具体的には20〜70重量%、好ましくは30〜70重量%、40〜70重量%、または30〜60重量%の範囲を例示することができる。
【0017】
本発明の塗材は、上記石灰に加えて白華抑制剤としてカルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の酸化物を含有することを特徴とする。カルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属としては、イオン化傾向の大きい順にナトリウム、マンガン、亜鉛、クロム、鉄(II)、カドミウム、コバルト、ニッケル、錫、鉛、鉄(III)、銅、水銀、銀及び金を挙げることができる。本発明においては、これらの金属を一種または二種以上を含有する酸化物を任意に用いることができるが、好ましくは人体に安全であり、且つ水もしくはアルカリ水溶液中に可溶性のものである。
【0018】
かかる白華抑制剤としては酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化クロム(CrO3)、酸化コバルト(CoO)、酸化スズ(SnO)、酸化鉛(PbO、Pb2O3)、酸化銅(Cu2O、CuO)、酸化銀(Ag2O)、酸化金(Au2O、Au2O3)、クロム酸鉛(PbCrO4)、モリブデン酸鉛(PbMoO4)等を挙げることができる。これらは1種単独で使用しても、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0019】
好ましくは酸化亜鉛である。酸化亜鉛を含む組成物を用いて被膜形成した場合、乾燥被膜中の亜鉛が空気中の水分と二酸化炭素の作用によって酸化被膜を形成するため、被膜内部が保護され被膜の緻密性が向上する結果、被膜の耐水性の向上が期待できる。また、酸化亜鉛は紫外線吸収作用を有するため、塗材成分として光触媒活性成分を配合した場合には、被膜中に存在する酸化亜鉛によって光触媒活性を増強することも可能となる。
【0020】
これらの白華抑制剤は、本発明の塗材中に含まれる消石灰100重量部(さらに生石灰が含まれる場合には、消石灰及び生石灰の総量100重量部)に対して、通常0.1重量部以上の割合で配合することが好ましい。白華現象を抑制するという効果の点からはその上限は何等制限されないが、塗材としての性質を保持するために好適な上限として60重量部、好ましくは40重量部が例示される。好ましくは0.1〜40重量部、より好ましくは0.3〜20重量部、さらにより好ましくは0.3〜10重量部の割合である。なお、本発明の水性塗材中の白華抑制剤の配合割合としては、水性塗材の固形分100重量%中の下限量として0.05重量%、好ましくは0.1重量%、より好ましくは0.3重量%を挙げることができ、上限量として10重量%、好ましくは5重量%、より好ましくは3重量%、さらに好ましくは2重量%を挙げることができる。具体的には、本発明の石灰含有水性塗材の固形分100重量%中の白華抑制剤の含有割合として固形換算で0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.1〜3重量%、より好ましくは0.3〜2重量%の範囲を例示することができる。
【0021】
本発明の塗材は、通常前述する石灰に水を添加して調製した混合物中に上記白華抑制剤を添加配合するか、該白華抑制剤に水を添加して調製した混合物中に石灰を添加配合するか、若しくは石灰と白華抑制剤を含む混合物に水を添加配合することによって調製することができる。
【0022】
これによって、水中で石灰から生じた遊離カルシウムイオンと白華抑制剤として用いる金属酸化物との間にイオン交換が生じ、白華現象の原因となる遊離カルシウムイオンが酸素イオンを捕捉して不溶性化合物に変化するものと予想される。従って、塗材調製には水中で上記イオン交換反応が起こるような割合で水を配合することが好ましい。水の配合割合は、上記限度において特に制限されないが、通常、含水塗材中に水が5重量%以上の割合で含まれるように調整することができる。塗材の性状、被膜性状並びに施工作業性などを考慮すれば、含水塗材中の水分含量としては5〜70重量%、好ましくは15〜70重量%を挙げることができる。より具体的には、制限はされないが、本発明の石灰含有水性塗材を塗料形態に調製する場合は、通常水が30〜60重量%、好ましくは35〜50重量%の割合で含まれるように調製するのが望ましく、また塗材(狭義の塗材)の形態に調製する場合は、通常水が15〜40重量%、好ましくは20〜35重量%の割合で含まれるように調製するのが望ましい。
【0023】
斯くして、塗材の水媒体中に存在する遊離カルシウムイオンが減少することによって、被膜に発生する白華現象、特に被膜形成後初期に発生する白華現象を防止することができる。また、被膜形成後、被膜内部への水の浸入によって経時的に生じる二次若しくは三次の白華現象は、被膜内に過剰に存在する白華抑制剤(金属酸化物)によって同様にして遊離カルシウムイオンが捕捉されることで防止することができる。
【0024】
なお、本発明の塗材には、さらに塗材に付着性、結着性及び被膜強度を付与しまた被膜性能を改善する目的で各種の結合剤を配合することができる。かかる結合剤は、フノリ、海藻糊または銀杏糊等の天然糊剤のように従来から漆喰塗材に使用されている天然ポリマーであってもよいし、また水溶性若しくは水分散性樹脂などの合成ポリマーであってもよい。合成ポリマーとして好ましくは水溶性若しくは水分散性樹脂を挙げることができる。
【0025】
かかる樹脂としては、従来建築・土木用塗材若しくは建築・土木用の塗料分野で使用されている公知の水溶性又は水分散性樹脂を広く挙げることができる。具体的には、制限はされないが、例えばビニル系合成樹脂を挙げることができる。かかるビニル系合成樹脂としては、特に制限されないが、乳化重合可能なビニル系モノマーの重合体を用いることができる。
【0026】
かかるビニル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、アミド結合含有ビニルモノマー、スチレン又はスチレン誘導体、カルボキシル基含有ビニルモノマー、ハロゲン化ビニル類、ビニルエステル類、シリル基含有ビニルモノマー等が挙げられる。
【0027】
より詳細には、(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸パルミチルまたはアクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が1〜18のアクリル酸アルキルエステル;メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸n−プロピル、メタアクリル酸イソプロピル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸イソブチル、メタアクリル酸t−ブチル、メタアクリル酸ヘキシル、メタアクリル酸n−オクチル、メタアクリル酸−2−エチルヘキシル、メタアクリル酸ラウリル、メタアクリル酸ステアリル、メタアクリル酸パルミチル及びメタアクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が1〜18程度のメタアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシブチル等のように(メタ)アクリル酸の側鎖に水酸基を有するアルキルエステル;アクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸メトキシブチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシブチル、メタクリル酸エトキシブチル等のように(メタ)アクリル酸の側鎖にアルコキシル基を有するアルキルエステル;アクリル酸アリルやメタクリル酸アリル等の(メタ)アクリル酸のアルケニルエステル;アリルオキシエチルアクリレートやアリルオキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルケニルオキシアルキルエステル;アクリル酸グリシジル、メタアクリル酸グリシジル、並びにアクリル酸メチルグリシジルやメタアクリル酸メチルグリシジル等のようにアクリル酸の側鎖にエポキシ基を有するアルキルエステル;アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸メチルアミノエチル、メタクリル酸メチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸のモノ−又はジ−アルキルアミノアルキルエステル;側鎖としてシリル基、アルコキシシリル基または加水分解性アルコキシシリル基などを有するシリコーン変性(メタ)アクリル酸エステル等が例示できる。
【0028】
また、アミド結合含有ビニルモノマーとしては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド;α−エチルアクリルアミド、 N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メチルアクリルアミドまたはN−メチルメタクリルアミド等のようにアルキル基を有する(メタ)アクリルアミド;N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のようにメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;N−アルコキシメチロールアクリルアミド(例えば、N−イソブトキシメチロールアクリルアミド等)、及びN−アルコキシメチロールメタクリルアミド(例えば、N−イソブトキシメチロールメタクリルアミド等)等のようにアルコキシメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;N−ブトキシメチルアクリルアミドやN−ブトキシメチルメタクリルアミドなどのアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリルアミド;メチレンビスアクリルアミドやメチレンビスメタクリルアミドなどのN−置換(メタ)アクリルアミド2量体; N−ビニルピロリドン等が例示できる。
【0029】
スチレン又はスチレン誘導体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルトルエン、モノクロルスチレン等が挙げられる。
【0030】
カルボキシル基含有ビニルモノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸の半エステル化物、フマル酸、フマル酸の半エステル化物、イタコン酸、イタコン酸の半エステル化物、クロトン酸、ケイ皮酸等のα,β−不飽和カルボン酸;カルボキシエチル(メタ)アクリレートやカルボキシプロピル(メタ)アクリレートなどのカルボキシアルキル(メタ)アクリレート;フタル酸モノヒドロキシエチルアクリレートやコハク酸モノヒドロキシエチルアクリレートなどのジカルボン酸とモノヒドロキシアルキルアクリレートとのエステル等が挙げられる。
【0031】
ハロゲン化ビニル類としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0032】
ビニルエステル類としては、酢酸ビニル、乳酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、V酸(versatic acid)ビニル、安息香酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
【0033】
また、シリル基含有ビニルモノマーとしては、例えば、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジ−β−メトキシエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス−β−メトキシエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0034】
これらのビニル系単量体は単独で、または二種以上を任意に混合して使用することができる。すなわち、本発明で用いられる水溶性若しくは水分散性の樹脂は、例えば上記に掲げる各種のモノマー成分の1種単独から構成されるホモポリマーであっても2種以上の任意の組み合わせからなるコポリマーであってもよい。また重合用モノマーとして、必要に応じて上記の他に、ブタジエン、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレートなどの他成分を、適宜用いることもできる。かかるビニル系重合体は公知の方法により調製することができ、具体的には上記各種重合用モノマー成分を常法により乳化剤存在下に乳化重合させることにより調製できる。
【0035】
かかるビニル系合成樹脂として、具体的にはスチレン−アクリルエステル,スチレン−アクリロニトリル及びスチレン−アクリルアミド−アクリル酸エチルなどのスチレン/アクリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステルや酢酸ビニル−メタクリル酸エステル等の酢酸ビニル/アクリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル等のブタジエン/アクリル共重合体、塩化ビニル/アクリル共重合体、塩化ビニリデン/アクリル共重合体、ベオバ/アクリル共重合体、アクリル共重合体、塩化ビニル/エチレン共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル/ベオバ共重合体、酢酸ビニル/エチレン共重合体、酢酸ビニル/ベオバ共重合体、酢酸ビニル/フマール酸エステル(例えば酢酸ビニル/フマール酸ジブチル等)、酢酸ビニル/マレイン酸エステル(例えば酢酸ビニル/マレイン酸ジブチル等);ベオバ/エチレン、アクリル変性・アルキド樹脂、アクリル変性・酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体樹脂、フッ素変性アクリル樹脂等が例示できる。
【0036】
また本発明においては、水溶性若しくは水分散性樹脂として上記ビニル系合成樹脂に代えて若しくはそれらと共に当業界において被膜形成成分として周知の樹脂を使用することもできる。このような被膜形成成分としては、フッ素樹脂、ポリシロキサン樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、アクリルシリコン樹脂(アクリル変性シリコン樹脂)、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フタル酸樹脂等が例示できる。
【0037】
本発明で用いられる樹脂の種類、各モノマー成分の配合割合及び重合度等は、得られる本発明の塗材の使用温度(硬化温度)、石灰や白華抑制剤、その他の成分との相溶性、並びに被膜(被覆層)の付着性や成膜性等を考慮しながら、例えば得られる樹脂のガラス転移点(Tg)等を目安として適宜選択される。
【0038】
また用いられる樹脂の形態は特に制限されず、エマルションや水性ポリマーディスパージョン等の水性乳濁もしくは分散形態、再乳化形粉末樹脂などの粉末形態、液状ポリマーなどの液状等のいずれの態様であってもよい。好ましくはエマルションの態様である。エマルションを用いる場合、エマルションは重合性不飽和二重結合を有するモノマーをエマルション重合して得られるもの、または、予め合成した樹脂を水系分散媒に分散剤を使用して分散したものの何れでもよく、さらに粉末型のポリマーを水等に分散して調製したものであってもよい。
【0039】
上記の水溶性若しくは水分散性の樹脂をはじめとする結合剤の配合割合は、所望の接着性や付着性が得られ、更に好ましくは塗装(塗工)作業性並びに成膜性、または配合安定性(相溶性)等といった水性塗材(水性塗料を含む)として要求される性能を充足する範囲であれば特に制限されず、使用する結合剤の種類に応じて適宜定めることができる。具体的には本発明の水性塗材の固形分100重量%中に含まれる結合剤(固形分)の配合割合として、通常1〜50重量%(固形換算)の範囲から選択調整することができる。好ましくは5〜40重量%、より好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは5〜20重量%を例示することができる。
【0040】
本発明の塗材にはさらに無機顔料を配合することもできる。無機顔料としては具体的には酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、リトポン、鉛白、アンチモン白及びジルコニア等の無機白色顔料を例示することができる。これらの無機白色顔料は1種単独で用いてもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて用いることもできる。好ましくは酸化チタンである。また2種以上を組み合わせて用いる場合には酸化チタンと他の1種もしくは2種以上の無機白色顔料とを組み合せることが好ましい。組合せの態様としては、酸化チタンと亜鉛華,硫化亜鉛,リトポン,鉛白,アンチモン白またはジルコニアのいずれか少なくとも1種との組合せを挙げることができるが、好ましくは酸化チタンと亜鉛華との組合せ、また酸化チタンと硫化亜鉛との組合せである。
【0041】
本発明の塗材に無機白色顔料を配合する場合、その配合割合は特に制限されず、使用する塗材の使用態様や施工方法に合わせて適宜選択調整することができる。例えば被膜表面上の色差や色むらの発生が有意に抑制できるような割合、または薄塗施工をする場合には所定の隠蔽力が発現するような割合で配合することが好ましい。具体的には、特に制限されないが、塗材に含まれる石灰100重量部に対する無機白色顔料の配合割合として0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜40重量部、より好ましくは1〜30重量部、さらに好ましくは5〜25重量部、よりさらに好ましくは8〜20重量部の範囲を例示することができる。なお制限はされないが、石灰含有水性塗材の固形分100重量%中に含まれる無機白色顔料の配合配合割合としては固形換算で0.05〜40重量%、好ましくは0.25〜30重量%、より好ましくは0.5〜25重量%、さらに好ましくは2.5〜20重量%、よりさらに好ましくは4〜15重量%の割合を例示することができる。
【0042】
また無機顔料として無機有色顔料を配合することもできる。かかる無機有色顔料としてはカーボンブラックや酸化鉄(鉄黒)等の黒色顔料:カドミウムレッド,べんがら(赤色酸化鉄),モリブデンレッド、鉛丹等の赤色顔料:黄鉛(クロムイエロー),チタンイエロー,カドミウムイエロー,黄色酸化鉄(黄鉄),タン,アンチモンイエロー,バナジウムスズイエロー,バナジウムジルコニウムイエローの黄色顔料:酸化クロム,ビリジアン,チタンコバルトグリーン,コバルトグリーン,コバルトクロムグリーン,ビクトリアグリーン等の緑色顔料:群青,紺青,コバルトブルー,セルリアンブルー,コバルトシリカブルー,コバルト亜鉛シリカブルーなどの青色顔料を例示することができる。好ましくは、黒色酸化鉄(鉄黒)、べんがら(赤色酸化鉄)、黄色酸化鉄(黄鉄)などの酸化鉄や群青等の酸化金属からなる着色顔料である。なお、これらは1種単独で使用されても、また2種以上を任意に組み合わせてもよく、所望の色彩(明度、色度、彩度)に応じて適宜選択調合することができる。
【0043】
なお制限はされないが、本発明の石灰含有水性塗材を着色塗材として調製する場合は、上記無機有色顔料に加えて前述する無機白色顔料を組み合わせて用いることが好ましい。これにより、白華や他の要因によって発生する被膜表面の色むらや色差を有意に抑制することが可能となる。この場合、無機有色顔料の配合割合としては、使用する無機有色顔料の種類や色によって種々異なるが、塗材に配合する無機白色顔料100重量部に対して0.01〜100重量部、好ましくは0.05〜100重量部、より好ましくは0.1〜80重量部、さらに好ましくは0.1〜50重量部、よりさらに好ましくは0.2〜40重量部、一層好ましくは0.5〜30重量部の割合で用いることができる。
【0044】
本発明の塗材にはさらに体質顔料を配合することができる。かかる体質顔料は、上記無機白色顔料と併用することによって、上記無機白色顔料の隠蔽力をさらに向上する効果を奏する。また、刷毛滑り等の施工性(塗装性)の改善に寄与することができる。体質顔料としてはタルク,カオリンクレー,水酸化アルミニウム,炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム、軽質(沈降性)炭酸カルシウム),ベントナイト,硫酸バリウム(沈降性硫酸バリウム、バライト粉)、ホワイトカーボン、シリカなどを例示することができる。好ましくは炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルクであり、より好ましくは被膜の隠蔽力の増強効果、刷毛さばきのよさ、および貯蔵安定性のよさの観点から炭酸カルシウムである。炭酸カルシウムとしては、軽質炭酸カルシウムの他、多孔質炭酸カルシウムが好適に使用できる。
【0045】
本発明の水性塗材に体質顔料を配合する場合、その配合割合は特に制限されないが、通常水性塗材中の固形分100重量%中の配合割合として1〜50重量%(固形換算)の範囲から選択して用いることができる。好適には1〜30重量%、より好ましくは1〜20重量%の範囲である。
【0046】
本発明の塗材において上記の無機顔料(特に無機白色顔料)または/及び体質顔料は任意成分であるが、これらの配合により被膜の隠蔽力が増大し被膜の薄膜化若しくは薄膜施工が可能となる。すなわち、無機顔料(特に無機白色顔料)または/及び体質顔料を含有する本発明の塗材は、潜在的に高い被膜隠蔽力を備えることができる。なお、ここで被膜隠蔽力とは、塗材を素地(被施工面)に塗布した場合にその素地の色を認識し得なくなる被膜の最小膜厚のことであり、具体的には黒白板上に塗装した被膜を通して肉眼で観察した場合に下地の黒白の判別が不可能となる被膜の最小膜厚を意味する。例えば上記塗材は、必要に応じて、被膜隠蔽力(最小膜厚)が1mm以下、500μm以下、300μm以下となるように調製することができる。よって、かかる無機顔料または/及び体質顔料を含有する本発明の塗材は、特に塗材を塗料形態で使用する場合、スプレー、刷毛若しくはローラーなどの通常の塗装方法で施工する場合、または単回若しくは数回の施工で仕上げる場合に有用である。
【0047】
ただし、上記被膜隠蔽力は塗材の潜在的な特性であって、使用に際してはこの膜厚に何ら制限されない。通常本発明の塗材は、上記無機顔料(特に無機白色顔料)または/及び体質顔料の配合の有無にかかわらず、通常0.1mm以上、好ましくは0.2mm以上の厚さを有する被膜が形成できるように調製され、使用することができる。
【0048】
また本発明の塗材には(特に本発明の塗材を狭義の塗材の形態に調製する場合には)、必要に応じて充填材(フィラー)を配合することができる。かかる充填材としては無機の材料(無機充填材)が好適に用いられる。具体的には、無機充填材として、例えば珪砂、寒水砂、パーライト,バーミキュライト,シラス球及び汚泥焼成骨材などの再生骨材等の無機質骨材(細骨材)の他、カオリン、ハロイサイト、モンモリロナイト、ベントナイト、ギブサイト、マイカ、セラミックサンド、ガラスビーズ、パーライト、酸性白土、陶石、ロウ石、長石、石灰石、石膏、ドロマイト、マグネサイト、滑石などの天然無機質材料;水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、天然カルシウム等の水不溶性金属水酸化物;トベルモナイトやゾノトライト等のケイ酸カルシウム系水和物;カルシウムアルミネート水和物、カルシウムスルホアルミネート水和物等の各種酸化物の水和物;アルミナ、シリカ、含水ケイ酸、マグネシア、酸化亜鉛、スピネル、合成炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、チタン酸カリウムなどの合成無機質などの粉末状、繊維状もしくは粒状の無機材料を挙げることができる。
【0049】
充填材を用いる場合、水性塗材の固形分100重量%中に配合される当該充填材の割合は、特に制限されないが、通常5〜70重量%(固形換算)の範囲から適宜選択して用いることができる。
【0050】
さらに本発明の塗材には、必要に応じて光触媒活性成分を配合することができる。かかる光触媒活性成分としては特に制限されないが、光触媒活性を有する無機酸化物を例示することができる。かかる光触媒活性を有する無機酸化物としては、具体的には公知の酸化チタン、酸化ルビジウム、酸化コバルト、酸化セシウム、酸化クロム、酸化ロジウム、酸化バナジウム、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化レニウム、酸化第二鉄、三酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化ビスマス、酸化ルテニウム、チタン酸ストロンチウム、酸化モリブデン、酸化ゲルマニウム、酸化鉛、酸化カドミウム、酸化銅、酸化ニオブ及び酸化タンタルなどを例示することができる。好ましくは酸化チタン(特にアナタース型)である。
【0051】
このような無機酸化物は、本発明の塗材を構成する他の成分中に粉末状態で直接混入してもよいし、また予め水やイソプロパノール、エタノールなどの親水性溶媒に分散させた分散液の状態で配合することもできる。次いで、ディスパー、サンドミル、シェーカー等の撹拌機で塗材中に分散混合される。また他の配合方法として、無機酸化物を前記樹脂成分に混合し、適度な粘度(50〜100KU)を有する中で分散してペーストとしてから、必要に応じて塗材化または塗料化する方法を挙げることもできる。
【0052】
光触媒活性成分を用いる場合、本発明の水性塗材の固形分100重量%中に配合される当該光触媒活性成分の割合は、形成される被膜の成膜性や下地への付着性に影響を与えることなく、被膜が所望の消臭性、抗菌性、自浄性または大気浄化性などの環境浄化機能を備える範囲であれば特に制限されない。通常は被膜の成膜性や下地への付着性への影響を考慮して使用する結合剤の種類に応じて、5〜50重量%(固形換算)の範囲から適宜選択することができる。好適には10〜50重量%、好ましくは10〜40重量%の範囲を例示することができる。
【0053】
本発明の好適な水性塗材としては、石灰、白華抑制剤、結合剤及び無機白色顔料を水と共に含有する塗材を例示することができる。また本発明の水性塗材は、上記成分に加えて、さらに充填材、体質顔料、及び光触媒活性成分よりなる群から選択される少なくとも1種を含有していてもよい。更に本発明の水性塗材は、それを着色(有色)塗材として調製する場合には、上記成分に加えて無機有色顔料を含有することができる。
【0054】
かかる本発明の石灰含有水性塗材に関して、該塗材の固形分100重量%中に含まれる各成分の割合の一例を挙げるとすれば、各々固形換算で、石灰20〜70重量%、白華抑制剤0.1〜3重量%、結合剤5〜40重量%、無機白色顔料0.05〜40重量%を挙げることができる。また、さらに無機有色顔料、体質顔料、充填材、または光触媒活性成分のいずれかを配合する場合は、本発明塗材の固形分100重量%中の各含有割合として、無機有色顔料0.001〜40重量%、体質顔料1〜50重量%、充填材5〜70重量%、光触媒活性成分5〜50重量%の配合割合を例示することができる。
【0055】
さらに本発明の塗材には、建築・土木用塗材若しくは塗料に一般的に使用される添加物や従来の漆喰塗材に使用されるスサやその他の繊維物を同様に配合することができる。
【0056】
添加剤としては、例えば顔料分散剤、湿潤剤、消泡剤、増粘剤、凍結融解安定剤、皮膜形成助剤及びレオロジー調整剤等の塗膜形成助剤の他、無機充填剤、pH調整剤、イオン交換樹脂、界面活性剤、可塑剤、減水剤、流動化剤、防腐剤、防水剤、抗菌剤、凝結剤又は凝結促進剤等を挙げることができる。
【0057】
顔料分散剤及び湿潤剤としては、いずれも通常塗料や塗材に配合して用いられるものが広く採用でき、例えばアルキルナフタレンスルホン酸ソーダのホルマリン縮合物、低分子ポリアクリル酸アンモン、低分子量スチレン−マレイン酸アンモン共重合体、ポリオキシエチレンの脂肪酸エステルやアルキルフェノールエーテル、スルホコハク酸誘導体、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドとのブロックポリマーなどを例示することができる。
【0058】
消泡剤としては、通常塗料、塗材や建築用吹き付け材に配合して用いられるものであれば特に制限されず、いずれをも採用することもできる。例えば、オクチルアルコール、グリコール誘導体、シクロヘキサン、シリコン、プルロニック系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の各種の抑泡剤及び破泡剤を挙げることができる。
【0059】
増粘剤としてはメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系;サッカロース、グルコースなどの多糖類;アクリル系;その他、アルミニウムステアレート、ジンクステアレート、有機ベントナイト、シリカゲル、ポリビニルアルコール、アルギン酸ソーダ、ケイ酸系、ベントナイト、カゼイン酸ソーダ等を例示することができる。
【0060】
防水剤としては、特に制限されないが、シリコーンオイル、シリコーン樹脂、オルガノアルコキシシラン等を例示することができる。これらの成分によれば、一般に被膜の防水性、耐薬品性及び耐候性等を向上させることができるが、被膜に調湿性が求められる場合は、該調湿性を妨げない範囲で用いることが好ましい。
【0061】
凝結剤又は凝結促進剤としても特に制限されない。例えば、カルシウム化合物として硫酸カルシウムを用いる場合は、該硫酸カルシウムの水和硬化性発現を補助もしくは増強する作用を有するものを使用することが好ましい。かかる作用を有するものとして、具体的には硫酸カリウム、ミョウバン、二水セッコウの微粉末、シュウ酸などの有機酸などが例示できる。また本発明の塗材には更に珪藻土またはゼオライト(合成ゼオライトを含む)を配合することもできる。
【0062】
本発明の塗材は、上記各成分と水を混合して塗材又は塗料の常套方法、例えば塗料調合用機器(ミキサー、シェーカー、ミル、ニーダーなど)等を用いて混合することにより、液状(スプレー)、スラリー状またはパテ状等、各種形態の塗材又は塗料として調製することができる。
【0063】
この際、塗材は、例えばスプレー塗り(エアスプレー、エアレススプレーなど)、刷毛塗り、ローラー塗り、パテ塗り、コート塗り(カーテンフローコーター、ロールコーター)、鏝塗りなどの各種塗装乃至は塗工方法に応じて所望の粘度を有するように調製することができる。この場合、塗装作業性、レベリング、被膜外観等を考慮して好ましい粘度範囲を適宜選択調製することができる。通常、常温(25℃±5)で100〜60000センチポイズの範囲となるように調製される。
【0064】
本発明の塗材は、建築用または土木用の塗材または塗料として有用である。制限はされないが、具体的には例えば各種建築物の天井面や壁(内・外壁)面等の内装面及び外装面の塗装(塗工);建築物の天井や壁(内・外壁)の下地材や化粧材として用いられる各種の建築用部材(クロス、パネル、ボード)の塗装(塗工);またトンネル壁面、ガードレール、遮音壁及び防護壁などの道路構造物の表面、及び橋梁構造物の表面等の塗装(塗工);並びにトンネル壁、遮音壁、防護壁などの各種壁材や橋梁構造物の各種部材等の土木用部材(パネル、ボード、柱)の塗装(塗工)に使用することができる。また、本発明の塗材は常法に従って塗装若しくは塗工した後に、凹凸模様付けローラーやコテで模様付けを行ったり、被膜表面を処理することによってさらに意匠仕上げを施すこともできる。
【0065】
なお、本発明の石灰含有水性塗材には下記の態様が含まれる:
(a) 石灰、白華抑制材としてカルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の酸化物、結合剤、及び無機白色顔料を含有する石灰含有水性塗材。
(b) さらに充填材を含有する(a)に記載の石灰含有水性塗材。
(c) さらに光触媒活性成分を含有する(a)または(b)に記載の石灰含有水性塗材。
(d) さらに無機有色顔料を含有する(a)乃至(c)のいずれかに記載の石灰含有水性塗材。
【0066】
(2)塗装物
また、本発明は上記石灰含有水性塗材を塗布してなる塗装物を提供する。
【0067】
本発明の塗材を塗布・塗工する基材(被塗布物)としては、特に制限されることはないが、好適には建築物の天井や壁(内・外壁)の下地材や化粧材として用いられる各種の建材、例えばクロス、ボード及びパネル等を挙げることができる。なお、かかる基材は表面がシーラー処理等の各種処理がなされていてもよい。また、基材(被塗布物)として、トンネル壁材、ガードレール材、遮音壁材、防護壁材及び橋梁構造物として用いられる各種の土木用の部材、例えばパネル、ボードを挙げることができる。
【0068】
クロスとしては、例えば建築用の内装(室内の壁や天井等)に用いられるクロス材料を広く挙げることができる。クロス材料としては紙や各種繊維からなる不織布または織布等の繊維質シートを挙げることができる。具体的には、紙としては和紙、洋紙(上質紙、中質紙)、クラフト紙、薄葉紙、裏打紙、樹脂含浸紙等、ボール紙、厚紙等のいずれであってもよく、例えば難燃処理を施した紙であって壁紙の施工に適したもの、例えば難燃性裏打紙や不燃紙等も包含される。繊維質シートとしては、例えば天然繊維;ガラス繊維;またはポリプロピレン、アクリル、ナイロン、ポリエステル、ポリアミド、ビニロン等の合成繊維などを構成素材として得られる織布や不織布、編み物等を挙げることができる。なお、上記素材は、1種単独で用いられても、また2種以上を任意で組み合わせて用いることもできる。
【0069】
ボード及びパネルとしては、例えば建築用の内装(室内の壁や天井等)や外装に用いられるボード材料及びパネル材料を広く挙げることができる。具体的には、木質板、合板、中密度繊維板、プラスチック板、セメントモルタル、石綿セメント珪酸カルシウムボード、中空セメント板、木毛セメント板、鋼板パネル、コンクリート板、PCパネル、ALCパネル、石綿スレート、石膏ボード、パーティクルボード、発泡セメントボード、木片セメント板、ケイ酸カルシウムボード、サイディングボードなどを例示することができる。好ましくは、石膏ボード、石膏パーティクルボード、木質板、中密度繊維板、珪酸カルシウムボード、プラスチック板、サイディングボード(金属系、窯業系を含む)等である。また、トンネル壁材、ガードレール材,遮音壁材、防護壁材及び橋梁構造物の各種部材として用いられるボード材料及びパネル材料を挙げることもできる。
【0070】
これらの基材(建築用部材、土木用部材)への塗材の塗布方法は、特に制限されず、ロールコーターやフローコーター、ハケ、ローラーまたはコテ等を用いる塗付け方法及びスプレーや各種ガンを用いた吹きつけ方法等の慣用法を挙げることができる。基材に塗布された塗材は、次いで乾燥されることによって硬化する。乾燥には、自然乾燥法、通風乾燥法、強制乾燥法または加熱乾燥法のいずれもが使用できる。この際、塗材に含まれる石灰は結合剤とともに相互に結合硬化して被覆層を形成するとともに、基材表面に付着して基材と一体化する。なお、本発明の塗装物は必要に応じて、形成された被膜層の表面をさらに凹凸模様付きローラーやコテ等で意匠を施したりヤスリや各種研磨機で研磨ずりして仕上げることもできる。
【0071】
本発明の塗材から形成される被膜の厚さは、基材の塗布面が十分に隠蔽被覆される厚さであれば特に制限されず、通常0.1〜10mm厚の範囲から適宜選択することができる。
【0072】
本発明の石灰含有水性塗材から形成される被膜を有する塗装物は、塗材に配合される白華抑制剤の作用によって、カルシウムイオンに起因して発生する白華現象が有意に抑制され、その結果、長期にわたって美感や耐久性に優れることを特徴とするものである。
【0073】
(3)白華現象抑制方法
本発明の白華現象を抑制する方法は、白華現象が問題となる石灰含有水性塗材に広く適用することができる。
【0074】
本発明の白華現象抑制方法は、石灰と前述する白華抑制剤、すなわちカルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の酸化物(金属酸化物)を水存在下で共存状態においた塗材をを被施工物(被塗布物)の表面に施工塗布して被膜を形成することによって実施達成することができる。上記塗材は、石灰と水を含む混合物にカルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の酸化物を配合するか、カルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の酸化物と水を含む混合物に石灰を配合するか、または石灰とカルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の酸化物を含む混合物に水を配合することによって調製することができる。なお、石灰と金属酸化物との共存状態は、特に制限されないが24時間以上、好ましくは72時間以上維持されることが好ましい。
【0075】
なお、斯くして調製される塗材としては、具体的には前述する本発明の石灰含有水性塗材を挙げることができる。
【0076】
このような水存在下における石灰と金属酸化物(白華抑制剤)の共存状態では、石灰から遊離したカルシウムイオンと金属酸化物との間でイオン交換反応が生じて、遊離カルシウムイオンが酸素イオンと結合して不溶性化合物に導かれているものと考えられる。これによって水中の白華現象の原因となる遊離カルシウムイオンが減少し、これを用いて被施工面(被塗布面)を塗布施工することで被膜面に発生する白華現象が抑制されると考えられる。
【0077】
なお、塗材の具体的な施工方法などは、石灰含有水性塗材に関して前述する通りである。
【0078】
本発明の白華現象抑制方法には下記の態様が含まれる:
(ア) 石灰とカルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の酸化物を水存在下で共存状態においた石灰含有水性塗材を用いて施工することを特徴とする、石灰含有水性塗材の白華現象抑制方法。
(イ) 石灰含有水性塗材が、石灰、カルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の酸化物及び水に加えてさらに結合剤及び無機白色顔料を含有するものである(ア)に記載の白華現象抑制方法。
(ウ) 石灰含有水性塗材が、さらに充填材を含有するものである(イ)に記載の白華現象抑制方法。
(エ) 石灰含有水性塗材が、さらに光触媒活性成分を含有するものである(イ)または(ウ)に記載の白華現象抑制方法。
(オ) 石灰含有水性塗材が、さらに無機有色顔料を含有するものである(イ)乃至(エ)のいずれかに記載の白華現象抑制方法。
【0079】
本発明の白華現象抑制方法は、下記に掲げるように、白華現象が抑制されてなる石灰含有被膜の調製方法と言い換えることができる。
(i)石灰とカルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の酸化物を水存在下で共存状態においた石灰含有水性塗材を用いて被施工面(被塗布面)を塗布施工することを特徴とする、白華現象の発生が抑制されてなる石灰含有被膜の調製方法。
(ii)カルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の酸化物が酸化亜鉛である(i)に記載の白華現象の発生が抑制されてなる石灰含有被膜の調製方法。
(iii)消石灰100重量部または消石灰と生石灰を含む場合はその総量100重量部に対して、カルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の酸化物を0.1〜40重量部の割合で共存させる、(i)または(ii)に記載の白華現象の発生が抑制されてなる石灰含有被膜の調製方法。
(iv)石灰含有水性塗材が、石灰、カルシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の酸化物及び水に加えてさらに結合剤及び無機白色顔料を含有するものである(i)乃至(iii)のいずれかに記載の石灰含有被膜の調製方法。
(v) 石灰含有水性塗材が、さらに充填材を含有するものである(i)乃至(iv)のいずれかに記載の石灰含有被膜の調製方法。
(vi) 石灰含有水性塗材が、さらに光触媒活性成分を含有するものである(i)乃至(v)のいずれかに記載の石灰含有被膜の調製方法。
(vii) 石灰含有水性塗材が、さらに無機有色顔料を含有するものである(i)乃至(vi)のいずれかに記載の石灰含有被膜の調製方法。
【0080】
当該方法によれば、石灰を含有とする水性塗材において従来より問題であった白華現象を有意に防止することができ、美感を長期にわたって保持してなる耐久性に優れた被膜を形成することができる。
【0081】
【実施例】
以下、本発明の内容を以下の実施例及び実験例を用いて具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
上記成分(固形分)を水とともに塗料調合用ミキサーに入れて撹拌することにより固形分を水に安定に分散させて、本発明の石灰含有水性塗材(粘度1100cps(25℃)B型粘度計;固形分含有率約54%)を調製した。
【0082】
上記成分(固形分)を水とともに塗料調合用ミキサーに入れて撹拌することにより固形分を水に安定に分散させて、本発明の石灰含有水性塗材(粘度1000cps(25℃)B型粘度計;固形分含有率約50%)を調製した。
【0083】
実験例1
表1に記載の成分を水に配合して石灰含有水性塗材(固形分70%、実施例3〜6,比較例1)を調製し、これを基板に1mm厚で塗布して一晩乾燥養生した後、被膜表面に水を散布して白華現象の発生の有無をみた。結果を表1に合わせて示す。
【0084】
【表1】
【0085】
この結果からわかるように、石灰100重量部に対して少なくとも酸化亜鉛0.1重量部を配合することで有意に白華現象が抑制できることが確認できた。
【0086】
実験例2
実施例1で調製した塗材を用いて付着強度並びに乾燥塗膜の強度を測定した。
(1)付着強度
実施例1で調製した石灰含有水性塗材をエアレススプレーに入れて、歩道板(プライマー処理ありとプライマー処理なしの2種類)及びベニア板(プライマー処理なし)(300×150×5mm)の一面に満遍なく吹き付け、通風乾燥によって固化させて被膜厚0.5mmのパネル(試験板)を作成した。かかるパネルをそれぞれ3検体ずつ用いてJIS K5400-1990 8.8に規定される試験(引張強さ)に従って試験を行い、塗膜の付着性を評価した。なお、引張り試験機としてADHESION TESTER ELCOMETERを使用した。具体的には、接着面破断または内部面破断を生じた時点の荷重(kgf)を測定して、引張強さを算出した(JIS K5400-1990 8.8)。結果として、各試験板において行った3検体の平均を表2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
(2) 乾燥塗膜強度
上記で調製した試験板についてJIS K5400-1990 8.4に規定される鉛筆引っかき値測定法(手かき法)に従って試験を行い、被膜の強度を評価した。具体的には、上記で調製した試験板(歩道板)に形成された被膜表面に鉛筆で引っかいて、5回の試験で被膜のすり傷が2回以上になる鉛筆の芯濃度(H)から本発明の塗材から形成される被膜の強度を評価したところ、HBであった。
【0089】
以上の実験例1及び2の結果から、本発明の石灰含有水性塗材によって形成された被膜は、有意に白華現象の発生が抑制されており、また基板への付着強度及び表面強度に優れており、建築用、特に外装用の塗材及び塗料として好適な塗膜性能を備えているものと判断された。
【0090】
実験例3
実施例1及び2で調製した石灰含有水性塗材(塗料1、塗料2)について、日本工業規格JIS K 5400に規定されている方法に基づいて、(1)容器の中での状態(JIS K 5400の4.1(2))、(2)塗装作業性(JIS K 5400の6.1)、(3)低温安定性(JIS K 5400の5.1)について調べ、さらに形成された被膜について、(4)乾燥時間(JIS K 5400の6.5)、(5)塗膜の外観(JIS K 5400の7.1)、(6)隠蔽率(JIS K 5400の7.2)、(7)耐アルカリ性(JIS K 5400の8.21)、(8)耐洗浄性(JIS K 5400の8.11)、(9)耐水性(JIS K 5400の8.19)及び(10)促進耐候性(JIS K 5400の9.8.1)の各項目について調べた。なお各項目の試験方法並びに評価は、全てJIS K5663-1995に規定されている方法に準拠した。
【0091】
(1) 容器の中での状態(JIS K5663-1995の5.3)
塗料を容器(金属製内面コート缶)に充填し、室温で24時間以上静置した後、容器の蓋を開け棒で中身をかき混ぜて塗料の状態を調べた。かき混ぜたときに、堅い塊がなくて中身全体が一様になる場合を「良好」、塊はないが一様になりにくい場合を「普通」、塊を認める場合を「不良」とした。
【0092】
(2) 塗装作業性(JIS K5663-1995の5.4)
試験板(フレキシブル板、500×200×3mm)の平滑な面に塗料をそれぞれ刷毛で一様に塗り(1回目、塗布量:10〜13mml/1枚)、6時間おいてから2回目の刷毛塗り(塗布量:9〜11mml/1枚)を行い、2回目を塗る際の刷毛運びの困難性の有無から塗装作業性を評価した。2回目を塗る際の刷毛運びが困難でない場合を「2回塗りで塗装作業に支障がない」として評価を「良好」とし、刷毛運びの困難性に応じて順次「普通」、「不良」とした。
【0093】
(3) 低温安定性(JIS K5663-1995の5.5)
塗料を容器(金属製内面コート缶)にほぼ一杯に満たして密閉し、温度−5±2℃の低温恒温器中に18時間収納した後、取り出して室温下に6時間放置する操作を3回繰り返した。次いで、容器の蓋を開けて中の塗料を棒でかき混ぜて一様になるかどうかを調べた。また、前述する(2)の方法に準じて塗装作業性を調べた。具体的には、低温恒温器に入れる前の塗料で1回塗りし、低温安定性を調べた処理塗料を用いて2回塗りを行い、2回目の刷毛運びの困難性を評価した。さらに、上記塗装作業性試験の終わった試験板を24時間乾燥して、形成された塗膜の外観を評価した。塗料が容易に一様となり、塗装作業性と塗膜の外観に異常がないとき「−5℃に冷やしたときに変質しない」として評価を「良好」とし、順次不良の程度に応じて「普通」及び「不良」とした。
【0094】
(4) 乾燥時間(JIS K5663-1995の5.6)
塗料をガラス板(200×100×2mm)の片面に隙間100μmのB形フィルムアプリケータを用いて塗布し、これを20±1℃、湿度65±5%の恒温恒湿室に入れて、塗膜が半硬化状態(塗面の中央を指先で静かに軽くこすって塗面に擦り傷がつかない状態)まで乾燥する時間を測定した。
【0095】
(5) 塗膜の外観(JIS K5663-1995の5.7)
上記(2)塗装作業性の試験で塗料を塗布した試験板を24時間乾燥させて、拡散昼光の下で塗面を肉眼でみて、刷毛目の程度の大きさ、穴や弛みの有無、塗膜表面の一様性(むらなし)を評価した。刷毛目の程度が大きくなく、穴や弛みがなく、塗膜表面が一様(むらなし)であるとき、「塗膜の外観が正常である」として評価を「良好」とし、順次不良の程度に応じて「普通」及び「不良」とした。
【0096】
(6) 隠蔽率(JIS K5663-1995の5.8)
隠蔽率試験紙をガラス板の上に固定し、その上に塗料を隙間150μmのB形フィルムアプリケーターを用いて塗り、24時間放置して乾燥させた。試験紙の白地と黒地の上に形成された塗膜の視感反射率を反射率測定装置を用いて、試験片の3カ所について測定した。得られた視感反射率から下記の式から隠蔽率を求めた。
【0097】
【数1】
【0098】
(7) 耐アルカリ性(JIS K5663-1995の5.10)
▲1▼ 試験片:予め周辺及び裏面を同種の塗料で2〜3回塗り包んでおいたフレキシブル板(150×70×3mm)の表面に塗料を刷毛で1±0.1ml/100cm2 の割合で一様に塗り、6時間後、同様に更に1回塗って5日間乾燥し、次いで試験板の周辺及び裏面をパラフィンで被覆して、試験片とした(3枚準備、うち1枚は原状試験片)。
▲2▼ 上記試験片を水酸化カルシウム飽和溶液(20±1℃)中に18〜48時間浸漬し、2枚の試験片について溶液から取り出した直後と2時間後の観察で、塗膜の状態を原状試験片との比較で評価した(膨れ、割れ、剥がれ、穴、軟化、色、艶)。
▲3▼ 評価:48時間の18時間の浸漬処理で、試験片2枚の塗膜に膨れ、割れ、剥がれ、穴、軟化を認めず、更に浸漬溶液の着色や濁りがなく、原状試験片と比べて艶の変化や変色の程度が大きくない時を、それぞれ「48時間浸したとき異常がない」として評価を「良好」、または「18時間浸したとき異常がない」として評価を「良」とした。
【0099】
(8) 耐洗浄性(JIS K5663-1995の5.11)
▲1▼ 試験片:フレキシブル板(430×170×5mm)の中央部の長辺の長さ約400mmに隙間150μmのB形フィルムアプリケーターで塗料を塗り、塗面を上向きにして7日間乾燥したものを試験片とした(2枚準備)。
▲2▼ ウォッシャビリティーマシンを用いて、0.5%の石鹸水で濡らした試験片(2枚)の塗膜面をブラシで往復(100回〜500回)して擦り、その後試験片を試験機から外して水で洗い、ブラシで擦った跡の中央にあたる長さ100mmの部分の塗膜を拡散昼光の下で、塗膜の破れや摩滅の有無を目視で調べた。
▲3▼ 評価:500回以上のブラシ往復で、試験片2枚とも中央部分の塗膜が破れまたは摩滅によって試験片の素地の露出が認められない場合を「500回の洗浄に耐える」として評価を「良好」とし、また100回以上の往復で試験片の素地の露出が認められない場合を「100回の洗浄に耐える」として評価を「良」とした。
【0100】
(9) 耐水性(JIS K5663-1995の5.9)
上記(7)耐アルカリ性試験で使用した試験片と同じものを使用して(2枚)、これを脱イオン水(20±1℃)に96時間浸漬して、試験片2枚について溶液から取り出した直後と2時間後の観察で、塗面の状態を評価した(シワ、膨れ、割れ、剥がれ、色、艶)。
【0101】
(10) 促進耐候性(JIS K5663-1995の5.12)(サンシャインカーボンアーク灯式:JIS K 5400 9.8.1)
▲1▼ 試験片:予めJPIA-23の合成樹脂エマルジョンシーラーで処理したフレキシブル板(150×70×3mm)に塗料を2回一様に刷毛塗りし(一回につき塗布量:1.0±0.1ml/cm2)、5日間乾燥して試験片とした(2枚、うち1枚原状試験片)。尚、1回塗りと2回塗りとの間が6時間とした。
▲2▼ サンシャインカーボンアーク灯式耐光性試験器(ブラックパネル温度:63℃、降雨サイクル:120分間隔で18分間)を用いて200時間照射して、原状試験片と耐候試験片の塗膜を肉眼観察して、色むらと色つやの変化の程度、白亜化・膨れ・剥がれ・割れの有無を調べた。
▲3▼ 白亜化度が8点以上で、膨れ、はがれ、割れがなく、色の変化の程度が原状試験片に比べて大きくないときは、評価を「良好」とし、順次不良の程度に応じて「普通」及び「不良」とした。結果を表3に示す。
【0102】
【表3】
【0103】
これらの結果から、本発明の塗材は、合成樹脂エマルションペイントの1種の規格(JIS K5663-1995)を満たす塗料として調製可能であることが確認された。
【0104】
実験例4
表4に記載の成分を塗材調合用ミキサーに入れて撹拌することにより各成分を水に分散させて、有色の石灰含有水性塗材(粘度約15,000cps(25℃)に調整(B型粘度計))(実施例7〜8、比較例2〜3)を調製した。次いで調製した水性塗材を耐水性のフィルムバック(サラン-UB#158:旭化成(株):厚み15μm(ASTM D-3985)、酸素透過度10ml/(m2.day.MPa)(20℃、75%RH)(ASTM D-3985)、透湿度1g/(m2.day)(38℃、90%RH)(ASTM F-372))に充填して開口部を気密状態に脱気しながらヒートシールして密封し、この状態で室温で保存した。保存から3日後に、中身の塗材を揉みほぐしながらフィルムバックを開封し、得られた塗材を基板に2mm厚で塗布し被膜を形成した。これをただちに4℃、湿度65%RH雰囲気下にいれて24時間保存した後に、これを取り出して塗材塗布面(被膜面)の白華の出現の有無を調べた。さらにこれを室温(20±3℃)条件下で水平に置き、その塗材塗布表面(被膜面)に水を垂らして、室温乾燥後の白華の出現の有無を調べた。結果を表4に合わせて示す。なお、白華の出現の有無は下記の基準に従って評価した。
【0105】
[白華出現の有無] ◎:白華が全く生じていない。
△:若干色むらが認められる。
×:明らかに白華が生じている。
【0106】
【表4】
【0107】
これらの結果から、白華抑制剤を含有する本発明の石灰含有水性塗材によれば、有意に白華の発生を抑制できることが確認された。
【0108】
【発明の効果】
本発明の石灰含有水性塗材は、原料成分として石灰に加えて、白華抑制剤としてカルシウムよりイオン化傾向の小さい金属の酸化物を含有することによって、石灰から生じる遊離カルシウムイオンに起因して生じる被膜の白華現象を有意に抑制することができる。これは、おそらくは、配合する金属酸化物によって石灰から生じる遊離のカルシウムイオンが捕捉されて不溶性化合物となることによるものと考えられる。
【0109】
特に併用する白華抑制剤としては酸化亜鉛が好ましい。この場合、被膜形成後、被膜に存在する亜鉛は更に空気中の水分と二酸化炭素との作用によって酸化被膜を形成するため、被膜内部が保護されまた被膜の緻密性が向上する結果、被膜強度の向上並びに耐水性の向上を期待することができる。さらに酸化亜鉛は紫外線吸収能を有する。このため、塗材中にさらに光触媒活性成分を配合することによって、酸化亜鉛の紫外線吸収作用と相俟ってより高い光触媒活性(消臭性、抗菌性、防汚性、大気浄化性等)を発揮する被膜を形成することが可能となる。
Claims (3)
- 石灰と、酸化亜鉛および光触媒活性を有する酸化チタンを水存在下で共存状態においた石灰含有水性塗材を用いて被施工面を塗布施工することを特徴とする、白華現象の発生が抑制されてなる石灰含有被膜を調製する方法。
- 請求項1記載の方法で調製された白華現象の発生が抑制されてなる石灰含有被膜を有することを特徴とする塗装物。
- 石灰と、酸化亜鉛および光触媒活性を有する酸化チタンを水存在下で共存状態においた石灰含有水性塗材を用いて被施工物に施工を施し被膜を形成することを特徴とする、石灰含有水性塗材の被膜面に発生する白華現象を抑制する方法。
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