JP4309648B2 - 高純度塩化アルミニウムの製造方法および高純度塩化アルミニウムの製造装置 - Google Patents
高純度塩化アルミニウムの製造方法および高純度塩化アルミニウムの製造装置 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高純度であることが求められる、酸化アルミナ用の原料として好適に用いることができる高純度塩化アルミニウムの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウム箔を用いたコンデンサー製造においてはそのキャパシティ増大のためにアルミニウム箔エッチング用無機酸として塩酸、燐酸、硝酸を主成分とする混酸を用いてアルミニウム箔をエッチングしている。このエッチング工程からアルミニウムを溶解した廃酸が大量に発生する。
【0003】
従来、この廃酸の処理法としては、濃縮して揮発性塩酸の大部分を留去して回収した後、排水処理用凝集剤PAC(ポリ塩化アルミニウム)として再使用するものであった。また、この廃酸を直接加熱分解してアルミナと塩酸水溶液として回収する方法も試みられている。
【0004】
特許第2981931号の特許公報(特許文献1)の特許請求の範囲、請求項1にはアルミニウムエッチング廃酸をそのまままたは濃縮したのち、塩化水素濃度が35重量%以上の塩酸、もしくは塩化水素(HCl)ガス、あるいは塩化水素を含有するガスを導入して、廃液中の大部分のアルミニウムを粉状の塩化アルミニウム・6水塩(AlCl3・6H20)結晶として晶析分離させると共に、結晶を分離した残りの母液を回収して、エッチング用に再利用すると云うことが提案されている。
【0005】
この公報の請求項2には、分離された粉状の塩化アルミニウム・6水塩の結晶を、濃度が30〜35重量%の塩酸で洗浄する、あるいは、再晶析を行って精製すると共に、結晶を洗浄した洗浄液を回収して、エッチング用に再利用する方法が、同請求項3においては請求項1記載の母液と請求項2記載の洗浄液を合わせて蒸留し、過剰の塩化水素ガスを晶析用及び/または洗浄用に使用するために回収すると同時に、蒸留残液中の不揮発の無機酸を回収してエッチング用に循環使用する方法、また、上記公報の請求項4においては、その請求項1または2での晶析分離された粉状の塩化アルミニウム・6水塩の結晶をそのまま、またはスラリーとして、あるいは、再溶解した水溶液として供給し、水蒸気を含む加熱雰雰囲気下において熱分解処理し、分解生成物として塩化水素と炭酸アルミニウム(Al2C03)を得る方法を、また、請求項5においては請求項4記載の分解生成物である塩化水素を、晶析精製用及び/または回収エッチング液の成分調整用の塩化水素ガスまたは塩酸として回収するか、あるいは分解生成物である塩化水素を水溶液として回収すると共に、晶析の際に生成する母液、洗浄液等の高濃度の塩酸を含む溶液と共に蒸留精製し、また回収無機酸はエッチング用にそれぞれ循環使用し、さらにもう一方の分解生成物である酸化アルミニウムは高純度セラミック原料として回収する方法が記載されている。
【0006】
また、特許第2988650号の特許公報(特許文献2)には、エッチング廃液を濃縮して粉末状の塩化アルミニウム結晶を析出させ、得られたスラリーにスラリー母液中のアルミニウム1モルに対し0.1〜1.0モルに相当する量の塩酸を添加して塩化アルミニウム結晶を析出させ、塩化アルミニウム結晶と母液を分離し、そしてこの母液に更に、濃縮前廃液中のアルミニウム1モルに対して塩素2〜6モルの塩酸を添加して塩化アルミニウムを析出させてから、塩化アルミニウム結晶と母液とを分離する方法が記載されている。
【0007】
【特許文献1】
特許第2981931号公報(第1頁)
【特許文献2】
特許第2988650号公報(第1頁)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許第2981931号公報で提案されている方法、および、特許第2988650号公報で提案されている方法の両者のいずれによっても、得られる高純度アルミナの原料として求められる純度が充分ではない。
【0009】
本発明者等は上記従来技術について、詳細に検討を行った。
その結果、特許第2981931号公報に係る技術、すなわち、アルミニウムエッチング廃酸をそのまま、または濃縮したものに、濃度35重量%以上の塩酸、もしくは塩化水素含有ガスを導入して、大部分のアルミニウムイオンを塩化アルミニウム・6水塩の結晶として晶析分離させる方法では、必然的に溶液中の大部分のアルミニウムイオンが塩化アルミニウム・6水塩の結晶として析出するような濃厚な濃度の塩酸を用いるため、得られる結晶の粒径が小さく、その結果、その後の結晶と母液との分離の際のに結晶粒子に付着・残留母液が多く、この結果、得られる塩化アルミニウムの結品の純度が低いという欠点があった。
【0010】
ここで、結晶粒子に付着・残留する母液を除去するために、多量の30〜35重量%の塩酸で洗浄する必要が生じ、洗浄に用いた塩酸の回収・再利用のため、蒸留が必要になるなど複雑な操作と処理工程とが多くなり、しかも、このような洗浄操作を行っても得られる塩化アルミニウムの結品の純度の改善は芳しくないという欠点があった。
【0011】
一方、特許第2988650号で提案されている方法では、エッチング廃液を予め濃縮して塩化アルミニウム結晶を析出させる工程が不可欠であり、このとき得られたスラリーにスラリー母液中のアルミニウム1モルに対し0.1〜1.0モルに相当する量の塩酸を添加して塩化アルミニウム結晶を析出させ、塩化アルミニウム結晶と母液を分離し、そしてこの母液にさらに、濃縮前廃液中のアルミニウム1モルに対して塩素2〜6モル相当の塩酸を添加して塩化アルミニウムを析出させてから、塩化アルミニウム結晶と母液とを分離する方法であり、エッチング液の蒸発濃縮によって一部の塩化アルミニウムは比較的粒径の大きい結晶として析出するものの、その結晶を分離した後、濃厚な塩酸等を用いて再び母液中のアルミニウムを塩化アルミニウムとして析出させこれを再び分離するという2工程に渡る塩化アルミニウムの分離操作などを含む複雑な処理方法であり、2段目の工程で得られる塩化アルミニウムの結晶の粒径は小さく、充分な純度が得られず、さらに廃酸が発生する等、特許第2981931号公報に係る技術と同様の欠点を有する。
【0012】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、設備的にも工程的にもコスト上昇をもたらす蒸留回収などの必要が生じる多量の廃酸が発生せず、かつ、高純度の塩化アルミニウムが得られる、高純度塩化アルミニウムの製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記の検討により、高純度の塩化アルミニウムを得るためには、アルミニウムイオンを含む混酸溶液に塙酸または塩化水素ガスを導入して塩化アルミニウムの溶解度を低下させ、塩化アルミニウム結晶を生成させる際に、粒径の大きい結晶を生成させればよいことが判った。
【0014】
ここで、塩化アルミニウムの溶解度は、過剰の塩素イオンが溶液中に共存すると低下することは文献等で公知であり、また、溶解度の小さい無機化合物では結晶析出時の結晶核生成速度が大きくなり、かつ、結晶成長速度も遅くなることも知られている。また燐酸等の不純物が溶液中に共存する場合は燐酸が塩化アルミニウムの結晶格子内に組み込まれる分と結品問或いは表面に付着している分とを解明する必要がある等、多くの解決すべき課題がありこれらについて鋭意検討を行って本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の高純度塩化アルミニウムの製造方法は請求項1に記載のとおり、 アルミニウムが溶解した、塩酸と、硝酸,硫酸及び燐酸から選ばれた少なくとも一種以上の無機酸とを有する混合酸水溶液を原料溶液として粉末状の塩化アルミニウムを製造する粉状の高純度塩化アルミニウムの製造方法において、複数の結晶析出槽を直列に用い、1段目の結晶析出槽に塩酸または塩化水素の濃度が10重量%以上30重量%以下の範囲となるように原料溶液を供給するとともに、1段目の結晶析出槽内で生成した粉末状塩化アルミニウム・6水塩を含んだ液を2段目の結晶析出槽に送出し、1段目の結晶析出槽の液量を一定に保ち、2段目以降の結晶析出槽であって最終段より前の結晶析出槽の底部から抜き出される粉状の塩化アルミニウム・6水塩を含むスラリーを順次、その一段後段の結晶析出槽に移送するとともに各結晶析出槽の母液の少なくとも一部を順次、その一段前段の結晶析出槽に送り、最終段の結晶析出槽底部の粉状の塩化アルミニウム・6水塩を含むスラリーから粉状の塩化アルミニウム・6水塩を回収するとともに、2段目以降の各結晶析出槽内溶液中の遊離の塩酸濃度をその一段前段の結晶析出槽内溶液中の遊離の塩酸濃度より高くする高純度塩化アルミニウムの製造方法である。このような構成により、大量の廃酸の発生もなく、極めて高純度の塩化アルミニウムを極めて効率よく得ることができる。
【0016】
上記高純度塩化アルミニウムの製造方法において、さらに請求項2に記載のように、3つの結晶析出槽を直列に用い、1段目の結晶析出槽中内溶液中の遊離の塩酸濃度を10重量%以上30重量%以下に保つと共に該1段目の結晶析出槽中内溶液温度を40℃以上50℃以下に保ち、2段目の結晶析出槽中内溶液中の遊離の塩酸濃度を20重量%以上32.5重量%以下に保ち、かつ、3段目の結晶析出槽中内溶液中の遊離の塩酸濃度を30重量%以上40重量%以下に保つと共に該1段目の結晶析出槽中内溶液温度を40℃以上50℃以下に保つことにより、3槽と云う少ない、経済的な槽数で、しかも高い純度の塩化アルミニウムを効率よく得ることができる。
【0017】
本発明の高純度アルミニウムの製造装置は請求項3に記載のように複数の結晶析出槽を直列に連結してなり、1段目の結晶析出槽は生成した粉末状塩化アルミニウム・6水塩を含む液をオーバーフローさせて、1段目の結晶析出槽の液量を一定に保つと共に、該オーバーフローした液を2段目の結晶析出槽に送出するオーバーフロー液搬送手段を備え、2段目以降の結晶析出槽であって最終段以外の各結晶析出槽はそれぞれの底部ないし底部付近から粉状の塩化アルミニウム・6水塩を含むスラリーを取り出しそれぞれの一段後段の結晶析出槽へ導くスラリー搬送管を備え、2段目以降の各結晶析出槽は各槽内の母液の少なくとも一部を取り出し、それぞれの一段前段の結晶析出槽へ導く母液搬送管を備え、最終段の結晶析出槽の底部ないし底部付近から粉状の塩化アルミニウム・6水塩を含むスラリーを取り出す最終生成物取出口を備え、かつ、各前記結晶析出槽は塩化水素ガス供給手段および/あるいは塩酸供給手段を備えて、いる高純度アルミニウムの製造装置であり、上記高純度アルミニウムの製造方法を効率よく実施することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、図1のブロック図を用いて本発明に係る、複数(n個、nは3以上)の結晶析出槽を直列に用いる、高純度塩化アルミニウムの製造方法を説明する。
アルミニウムが溶解した、塩酸と他の無機酸とを有する混合酸水溶液は1段目の結晶析出槽に供給される。塩化水素ガスおよび/あるいは塩酸は各結晶析出槽に添加可能となっている。
【0019】
1段目の結晶析出槽に上記原料溶液を供給するとともに、1段目の結晶析出槽内で生成した粉末状塩化アルミニウム・6水塩を含んだ液をオーバーフローさせて、1段目の結晶析出槽の液量を一定に保つと共に、オーバーフローした液を2段目の結晶析出槽に送出している。また、2段目以降の結晶析出槽であって最終段(第n段)より前の結晶析出槽(すなわち、2段目〜n−1段目結晶析出槽)の底部から抜き出される粉状の塩化アルミニウム・6水塩を含むスラリーを順次、その一段後段の結晶析出槽に移送するとともに各結晶析出槽の母液の少なくとも一部を順次、その一段前段の結晶析出槽に送る。
【0020】
最終段(n段)の結晶析出槽底部の粉状の塩化アルミニウム・6水塩を含むスラリーから粉状の塩化アルミニウム・6水塩を回収する。このとき前段への母液送出量と、塩化水素ガスあるいは/および塩酸の添加によって2段目以降の各結晶析出槽内溶液中の遊離の塩酸濃度をその一段前段の結晶析出槽内溶液中の遊離の塩酸濃度より高くする。
【0021】
ついで、図2を用いて本発明に係る高純度塩化アルミニウムの製造装置を説明する。
図2は複数(この例では3つ)の結晶析出槽3〜5を直列に連結してなり、1段目の結晶析出槽1は生成した粉末状塩化アルミニウム・6水塩を含む液をオーバーフローさせて、1段目の結晶析出槽の液量を一定に保つと共に、該オーバーフローした液を2段目の結晶析出槽に送出するオーバーフロー液搬送手段3aを備え、2段目以降の結晶析出槽(本例ではすべて逆円錐型結晶析出槽)であって最終段(本例では3段目)以外の各結晶析出槽(本例では2段目の結晶析出槽4のみが該当)はそれぞれの底部ないし底部付近(本例では底部)から粉状の塩化アルミニウム・6水塩を含むスラリーを取り出しそれぞれの一段後段の結晶析出槽(本例では3段目の結晶析出槽)へ導くスラリー搬送管(本例では2段目の結晶析出槽4のスラリー搬送管4a)を備え、2段目以降の各結晶析出槽(本例では2段目および3段目の結晶析出槽4および5)は各槽内の母液の少なくとも一部を取り出し、それぞれの一段前段の結晶析出槽(本例では1段目および2段目の結晶析出槽3および4)へ導く母液搬送管(本例では2段目および3段目の結晶析出槽4および5にそれぞれ設けられた母液搬送管4bおよび5b)を備え、かつ、最終段の結晶析出槽(本例では3段目の結晶析出槽5)の底部ないし底部付近(本例では底部)から粉状の塩化アルミニウム・6水塩を含むスラリーを取り出す最終生成物取出口(本例では最終生成物取出口5c)を備えている、本発明に係る高純度塩化アルミニウムの製造装置をモデル的に示した図である。図中符号1は各結晶析出槽3〜5に塩化水素ガス(あるいは塩酸)を供給する塩化水素供給ライン、符号2は原料溶液を1段目結晶析出槽に供給するための原料溶液ライン、符号7、8および9は送液ポンプをそれぞれ示す。
【0022】
結晶析出槽3〜5にはそれぞれモータ(図示しない)に接続された攪拌翼付きシャフト3b、4cおよび5eが付属し、各槽内液を攪拌できるようになっている。また、結晶析出槽3〜5にはそれぞれ水冷ジャケット10、11および12が冷却手段として付属し、結晶析出槽の液温を所定の範囲に保つことができるようになっている。
さらに、本例では1段目の結晶析出槽3のオーバーフロー液搬送手段3aは、結晶析出槽1壁に設けられたオーバーフロー口3a1と配管3a2とからなっている。なお、この例では1段目の結晶析出槽3は2段目の結晶析出槽4に対して高所に配置されているために配管3a2に供給された粉末状塩化アルミニウム・6水塩を含む液はポンプなどの動力搬送手段なしで結晶析出槽2に供給される。
【0023】
また、最終段の結晶析出槽(本例では3段目の結晶析出槽5)の底部ないし底部付近(本例では底部)から粉状の塩化アルミニウム・6水塩を含むスラリーを取り出す最終生成物取出口(本例では最終生成物取出口5c)は配管5bが接続され、粉状の塩化アルミニウム・6水塩を含むスラリーは最終的に母液と粉末状の塩化アルミニウム結晶とを分離するための脱液手段6(この例では連続的な分離が可能な連続遠心脱水機を用いている)に供給される。濾過手段6で分離された、製品である粉末状の塩化アルミニウム結晶はコンベア装置6a等により所定の場所に搬送される。一方、母液は配管6bにより回収される。この母液はアルミ箔エッチング用無機酸として処理される。なお、各段の結晶析出槽の液量は常にほぼ一定となる用に制御される
【0024】
次に、このような装置を用いて行う本発明に係る高純度塩化アルミニウムの製造方法について説明する。
原料溶液として用いる、塩酸と、硝酸,硫酸及び燐酸から選ばれた少なくとも一種以上の無機酸と(本発明においては単に「塩酸と他の無機酸と」とも云う)の混合酸水溶液に溶解しているアルミニウムを含む溶液はアルミニウムイオン(Al+3イオン)としては8重量%以上12重量%以下の濃度範囲であることが好ましい。このとき、塩化アルミニウム(AlCl3)濃度としては概ね40重量%以上60重量%以下の範囲であり、さらに、例えば、りん酸イオン(P04 -3イオン)が2〜4重量%程度含まれる。
【0025】
原料溶液中の塩化アルミニウム濃度は高いほどエネルギー的に経済的であり、そのため、予め原料溶液を60〜70℃に加熱し、この範囲の温度での塩化アルミニウムの飽和溶液、ないし、飽和濃度に近い濃度にすることが望ましい。すなわち、原料溶液中の塩化アルミニウム濃度が薄いと最終製品として得られるスラリー中の塩化アルミニウム濃度が薄くなり、母液が多く排出されるため、母液の処理ないし回収が必要となる。
このような原料溶液を1段目の結晶析出槽に供給すると共に、2段目の結晶析出槽から供給される母液(1段目の結晶析出槽の液よりも高濃度の遊離の塩酸(塩化水素を含む)と混合し、溶液に溶解しているアルミニウムイオンの一部を塩化アルミニウム・6水塩(AlCl3・6H2O)結晶として析出させる。
【0026】
1段目の結晶析出槽の液中における塩酸(塩化水素)の濃度は10重量%以上30重量%以下の範囲であり好ましくは20wt%前後の濃度、すなわち10重量%以上25重量%以下がよい。10重量%未満であると塩化アルミニウム・6水塩晶析率が低くなり、30重量%超であると微細な結晶となりやすく、純度を高めることが困難となる。
1段目の結晶析出槽の液中における塩酸の濃度は2段目の結晶析出槽から供給される、より濃い塩酸濃度の母液の供給量の増減のほかに、2段目の結晶析出槽に直接、塩酸または塩化水素ガスを導入することで調整してもよい。
【0027】
2段目の結晶析出槽から1段目の結晶析出槽へ供給される母液の流量は、2段目の結晶析出槽の底部から排出されるスラリー(塩化アルミニウム・6水塩と母液との混合物)量の1〜5倍程度が望ましく、結果として1段目の結晶析出槽の平均スラリー濃度、すなわちスラリー中の塩化アルミニウム・6水塩の含有量は概略20重量%となるように調整する。その結果、1段目の結晶析出槽では原料溶液中のアルミニウムイオンの25〜35%程度が結晶となる。
【0028】
2段目の結晶析出槽から1段目の結晶槽へ供給される母液は、塩化アルミニウム結晶を実質的に含まない清澄液でも良いが、塩化アルミニウムの微結晶を含む母液とすることにより2段目の結晶析出槽で過剰に、または不必要にも関わらず、生成した結晶核を、2段目の結晶析出槽に比べて、塩化アルミニウムの溶解度が大きく、結晶核も生成しにくく、かつ、結晶の成長速度も大きい1段目の結晶析出槽に導くことにより、一段目の結晶析出槽での塩化アルミニウム結晶の結晶生成速度を制御でき、かつ、そのとき1段目の結晶析出槽での結晶の成長を促進できる。
【0029】
1段目の結晶析出槽で生成した粉状の塩化アルミニウム・6水塩結晶を含むスラリーは2段目の結晶析出槽に導入され、2段目の結晶析出槽ではこのスラリーと第3結晶析出槽から供給される塩酸濃度の高い母液と混合攪拌されて、溶液に溶解しているアルミニウムイオンの一部がさらに塩化アルミニウム・6水塩の結晶として析出してくるが、2段目の結晶槽では実質的に新たな結晶核は生成せず1段目の結晶析出槽から供給されたスラリー中の塩化アルミニウム・6水塩結晶の成長に役立てられる。2段目の結晶析出槽の塩酸濃度は20重量%以上35重量%以下でが望ましく、さらに好ましくは25重量%前後、具体的には25重量%以上32.5重量%以下が良い。この濃度は第3結晶析出槽から循環される更に濃い塩酸濃度とその流量の他に直接塩酸または塩酸ガスを導入することで調整される。
【0030】
4段以上の結晶析出槽を直列に接続した場合の第3結晶析出槽でも同様に後段の結晶析出槽からの供給される母液と直接導入される塩酸及び/または塩化水素ガスによって結晶析出槽内の塩酸濃度を順次高めて塩化アルミニウムの溶解度を減少させ結果として原料供給液中の大部分のアルミニウムを塩化アルミニウム・6水塩結晶として回収できる。結晶析出を何段に分割するかについては本発明では限定しないが工業的見地から見た場合、三段晶析が望ましい。
【0031】
本発明で得られる結晶は塩化アルミニウム・6水塩の結晶は1mm以上3mm以下の粒子径を有する粗大なとなるように、上記運転条件を定めることが望ましい。
母液との分離においては例えば連続遠心脱水機等が使用可能であり、脱水ケーキ中の母液付着率が好ましくは1重量%程度に下がるので脱水ケーキに対して0.5倍程度の水を用いて洗浄しても良く、従来技術では不可欠であった濃厚な塩酸等でケーキを洗浄する必要がない。また、本発明では塩酸濃度が比較的低い条件から順次結晶析出を行わせるので燐酸などの不純物が結晶に取り込まれることも少なく結晶径が大きいので結果として不純物の少ない粉末状塩化アルミニウム・6水塩の結晶が得られる。
【0032】
本発明に係る高純度塩化アルミニウムの製造装置における各結晶析出槽は、さらに完全混合型結晶析出槽、分級層結晶析出槽、運搬槽型結晶析出槽の単独あるいはそれらの組み合わせと共に用いても良いが、1段目の結晶析出槽は結晶と母液とを分離する必要がないので、完全混合型でよい。しかし、1段目の結晶析出槽以外は装置内で母液と結晶スラリーの分離機能が必要で分級層型晶析装置、あるいは完全混合型晶析装置にシックナーを組み合わせた装置であることが必要で、逆円錐型晶析装置であると、母液の持ち出しの少ない結晶スラリーが得られるので望ましい。各結晶析出槽は塩酸の濃度上昇と結晶化熱のために冷却装置を備えていた方がよい。
【0033】
【実施例】
以下に本発明の高純度塩化アルミニウムの製造方法についての実施例について説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
<実施例1>
アルミニウム箔のエッチング工程で実際に排出された廃液の濃縮液として、典型的な塩化アルミニウム(AlCl3):24.4重量%、塩化水素(HCl):0.4重量%、りん酸(オルトりん酸、H3PO4):1.4重量%の溶液を第1母液として準備し、容量370mlの結晶析出槽3台(直列接続)による連続晶析を行った。
【0034】
まず、上記第1母液と35重量%塩酸水溶液とをそれぞれ200g/hrの流速で1段目の結晶析出槽に導入するとともに2段目の結晶析出槽からの母液(少量の結晶を含む)を供給する。このとき、液温が45℃に保たれるように調整しながら1段目の結晶析出槽に塩化水素ガスを導入し、結晶析出槽の液中塩化水素濃度を塩化水素ガスの導入速度を調節することでほぼ27.5重量%に保った。
1段目の結晶析出槽中で生成したスラリーを2段目の結晶析出槽へ送った。
【0035】
2段目の結晶析出槽には上記1段目の結晶析出槽中で生成したスラリーおよび3段目の結晶析出槽からの母液(少量の結晶を含む)が供給される。さらに液温を45℃に保ちながら塩化水素ガスを吸収させ、塩化水素ガスの導入速度を調節することで液中の塩化水素濃度を31.6重量%に保った。
2段目の結晶析出槽のスラリーは結晶析出槽の底部から3段目の結晶析出槽に送り出され、結果として2段目の結晶析出槽の液量は一定に保たれる。
3段目の結晶析出槽には上記2段目の結晶析出槽からのスラリーが供給される。液温を45℃に保ちながら3段目の結晶析出槽の液に塩化水素ガスを吸収させ、塩化水素ガスの導入速度を調節することで液中の塩化水素濃度を37.4重量%と一定とした。3段目の結晶析出槽内部の液量が一定になるようにその底部から採取したスラリーをガラスフィルターにより母液(第3母液)と結晶ケークに分離した。第3母液を分析したところ、塩化アルミニウム:0.08重量%、塩化水素:37.4重量%、および、りん酸:0.61重量%をそれぞれ有していた。結晶ケークとしての塩化アルミニウム・6水塩(AlCl3・6H2O)回収率は99%であった。
【0036】
ガラスフィルター上に残った結晶ケークに、結晶ケークと同体積の35重量%塩酸水溶液を上から注いで、ケークに付着・残留している母液を置換洗浄した。洗浄後の結晶ケーク中のリン酸イオン(PO4 3-)の残留量は、この結晶ケークをその後に焼成したときに得られた酸化アルミニウム(Al2O3)量に対し0.62%であり、酸化アルミナの原料として用いることのできる高度であることが判った。
上記ガラスガラスフィルター上に残った結晶ケークをアセトンで洗浄して得た塩化アルミニウム・6水塩の結晶を調べたところ、その平均粒子径は0.26mmと大きいものであった。
【0037】
<実施例2>
上記と同じ第1母液を用い、容量100mlの1段目および2段目の結晶析出槽と容量370mlの3段目の結晶析出槽との3つの結晶析出槽(直列接続)による連続晶析を行った。この第1母液と35重量%塩酸水溶液をそれぞれ200g/hrの流速で1段目の結晶析出槽に導入した。
【0038】
まず、上記第1母液と35重量%塩酸水溶液とをそれぞれ200g/hrの流速で1段目の結晶析出槽に導入するとともに2段目の結晶析出槽からの母液(少量の結晶を含む)を供給する。このとき、液温が45℃に保たれるように調整しながら1段目の結晶析出槽に塩化水素ガスを導入し、結晶析出槽の液中塩化水素濃度を塩化水素ガスの導入速度を調節することでほぼ28.0重量%に保った。
1段目の結晶析出槽中で生成したスラリーを2段目の結晶析出槽へ送った。
【0039】
2段目の結晶析出槽には上記1段目の結晶析出槽中で生成したスラリーおよび3段目の結晶析出槽からの母液(少量の結晶を含む)が供給される。さらに液温を45℃に保ちながら塩化水素ガスを吸収させ、塩化水素ガスの導入速度を調節することで液中の塩化水素濃度を32重量%に保った。
2段目の結晶析出槽のスラリーは結晶析出槽の底部から3段目の結晶析出槽に送り出され、結果として2段目の結晶析出槽の液量は一定に保たれる。
3段目の結晶析出槽には上記2段目の結晶析出槽からのスラリーが供給される。液温を45℃に保ちながら3段目の結晶析出槽の液に塩化水素ガスを吸収させ、塩化水素ガスの導入速度を調節することで液中の塩化水素濃度を38.0重量%と一定とした。3段目の結晶析出槽内部の液量が一定になるようにその底部から採取したスラリーをガラスフィルターにより母液(第2母液)と結晶ケークに分離した。第2母液を分析したところ、塩化アルミニウム:0.08重量%、塩化水素:38.0重量%、および、りん酸:0.61重量%をそれぞれ有していた。
結晶ケークとしての塩化アルミニウム・6水塩回収率は99%であった。
【0040】
ガラスフィルター上に残った結晶ケークに、結晶ケークと同体積の35重量%塩酸水溶液を上から注いで、ケークに付着・残留している母液を置換洗浄した。洗浄後の結晶ケーク中のPO4 3-の残留量は、この結晶ケークをその後に焼成したときに得られた酸化アルミニウム(Al2O3)量に対し0.62%であり、酸化アルミナの原料として用いることのできる高度であることが判った。上記ガラスガラスフィルター上に残った結晶ケークをアセトンで洗浄して得られた塩化アルミニウム・6水塩の結晶を調べたところ、その平均粒子径は0.35mmと大きいものであった。
【0041】
<比較例1>
上記実施例1での第1母液と同じ母液を400g/hrの流速で、容量370mlの結晶析出槽に導入した。液温を45℃に保つよう調節しながら、この溶液に塩化水素ガスを連続的に吸収させた。このとき、塩化水素ガスの導入速度の調節により溶液中の塩化水素濃度をほぼ35重量%に保持して、塩化アルミニウム・6水塩を析出させた。
【0042】
結晶析出槽からのスラリーをガラスフィルターにより母液と結晶ケークに分離し、塩化アルミニウム:0.5重量%、塩化水素:35重量%、りん酸:1.4重量%の分離母液を得た。結晶ケークとしての塩化アルミニウム・6水塩回収率は98.0%であった。一方、ガラスフィルター上に残った結晶ケークを、結晶ケークと同体積の35重量%塩酸水溶液を上から注いでケーキに付着・残留している母液を置換洗浄した。結晶ケーク中のPO4 3-の残留量は焼成後の酸化アルミニウム量に対し1.5%であり、、酸化アルミナの原料とするには純度が低いことが判った。上記ガラスフィルター上に残った結晶ケークをアセトンで洗浄して得た塩化アルミニウム・6水塩結晶を調べたところ、その平均粒子径は、0.17mmと小さいものであった。
【0043】
<比較例2>
実施例1と同じ第1母液200mを容積300mlの結晶析出槽に移した。次いで、液温が45℃に保たれるように調節しながらこの第1母液に塩化水素ガスを吸収させ、塩化アルミニウム・6水塩を析出させた。母液から塩化水素ガスの排出が見られるようになった時点で塩化水素ガスの導入を停止した。
【0044】
生成したスラリーをガラスフィルターにより母液と結晶ケークに分離し、塩化アルミニウム:0.2重量%、塩化水素:36重量%、りん酸:1.4重量%の分離母液を得た。結晶ケークとしての塩化アルミニウム・6水塩回収率は99.2%であった。一方、ガラスフィルター上に残った結晶ケークを、この結晶ケークと同体積の35重量%塩酸水溶液を上から注いでケークに付着・残留した母液を置換洗浄した。結晶ケーク中のPO4 3-の残留量は焼成後の酸化アルミニウム量に対し0.79%であり、酸化アルミナの原料とするには純度が低いことが判った。上記ガラスフィルター上に残った結晶ケークをアセトンで洗浄して得られた塩化アルミニウム・6水塩結晶を調べたところ、その平均粒子径は、0.08mmと非常に小さいものであった。
【0045】
【発明の効果】
本発明の高純度塩化アルミニウムの製造方法によれば、高純度であることが求められる、酸化アルミナ用の原料として好適に用いることができる高純度な塩化アルミニウムを効率よく得ることがことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の高純度塩化アルミニウムの製造方法を説明するためのブロック図である。
【図2】本発明に係る高純度塩化アルミニウムの製造装置の一例を示すモデル図である。
【符号の説明】
1 塩化水素供給ライン
2 原料溶液ライン
3〜5 結晶析出槽
3a オーバーフロー液搬送手段
4a スラリー搬送管
4b、5b 母液搬送管
3b、4c、5e 攪拌翼付きシャフト
5c 最終生成物取出口
6 脱液手段
7、8、9 送液ポンプ
10、11、12 水冷ジャケット
Claims (3)
- アルミニウムが溶解した、塩酸と、硝酸,硫酸及び燐酸から選ばれた少なくとも一種以上の無機酸とを有する混合酸水溶液を原料溶液として粉末状の塩化アルミニウムを製造する粉状の高純度塩化アルミニウムの製造方法において、
複数の結晶析出槽を直列に用い、
1段目の結晶析出槽に塩酸または塩化水素の濃度が10重量%以上30重量%以下の範囲となるように原料溶液を供給するとともに、1段目の結晶析出槽内で生成した粉末状塩化アルミニウム・6水塩を含んだ液を2段目の結晶析出槽に送出し、1段目の結晶析出槽の液量を一定に保ち、
2段目以降の結晶析出槽であって最終段より前の結晶析出槽の底部から抜き出される粉状の塩化アルミニウム・6水塩を含むスラリーを順次、その一段後段の結晶析出槽に移送するとともに各結晶析出槽の母液の少なくとも一部を順次、その一段前段の結晶析出槽に送り、最終段の結晶析出槽底部の粉状の塩化アルミニウム・6水塩を含むスラリーから粉状の塩化アルミニウム・6水塩を回収するとともに、2段目以降の各結晶析出槽内溶液中の遊離の塩酸濃度をその一段前段の結晶析出槽内溶液中の遊離の塩酸濃度より高くすることを特徴とする高純度塩化アルミニウムの製造方法。 - 3つの結晶析出槽を直列に用い、1段目の結晶析出槽中内溶液中の遊離の塩酸濃度を10重量%以上30重量%以下に保つと共に該1段目の結晶析出槽中内溶液温度を40℃以上50℃以下に保ち、
2段目の結晶析出槽中内溶液中の遊離の塩酸濃度を20重量%以上32.5重量%以下に保ち、かつ、
3段目の結晶析出槽中内溶液中の遊離の塩酸濃度を30重量%以上40重量%以下に保つと共に該1段目の結晶析出槽中内溶液温度を40℃以上50℃以下に保つことを特徴とする請求項1に記載の高純度塩化アルミニウムの製造方法。 - 複数の結晶析出槽を直列に連結してなり、
1段目の結晶析出槽は生成した粉末状塩化アルミニウム・6水塩を含む液をオーバーフローさせて、1段目の結晶析出槽の液量を一定に保つと共に、該オーバーフローした液を2段目の結晶析出槽に送出するオーバーフロー液搬送手段を備え、
2段目以降の結晶析出槽であって最終段以外の各結晶析出槽はそれぞれの底部ないし底部付近から粉状の塩化アルミニウム・6水塩を含むスラリーを取り出しそれぞれの一段後段の結晶析出槽へ導くスラリー搬送管を備え、
2段目以降の各結晶析出槽は各槽内の母液の少なくとも一部を取り出し、それぞれの一段前段の結晶析出槽へ導く母液搬送管を備え、
最終段の結晶析出槽の底部ないし底部付近から粉状の塩化アルミニウム・6水塩を含むスラリーを取り出す最終生成物取出口を備え、かつ、
各前記結晶析出槽は塩化水素ガス供給手段および/あるいは塩酸供給手段を備えて、いることを特徴とする高純度塩化アルミニウムの製造装置。
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