JP4307771B2 - マイクロ流体デバイスの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マイクロ流体デバイス、即ち微細な毛細管状の流路を有するデバイスの製造方法に関し、少なくとも1つの樹脂層が他の部材に積層され固着されて成るマイクロ流体デバイスの製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は樹脂層を一時的な支持体上に形成し、それを他の部材に積層して固着させた後に一時的な支持体を溶解により除去して、該樹脂層を他の部材上に転写することを特徴とするマイクロ流体デバイスの製造方法に関する。
【0002】
本発明は、薄く柔軟な樹脂層や、表裏を貫通するスリット状の欠損部を有する樹脂層が他の部材に積層されて成るマイクロ流体デバイスの製造方法として好適であり、バルブやポンプ用のダイヤフラムを有するマイクロ流体デバイス;弁を有するマイクロ流体デバイス、分離膜を有するマイクロ流体デバイスの製造方法として特に好適である。
【0003】
本発明の製造方法は、例えば、化学、生化学の分野で用いられる反応用のマイクロ流体デバイス(マイクロ・リアクター);DNA分析、免疫分析などの用途に使用される分析用マイクロ流体デバイス;マイクロアレイ製造用ノズルなどの流体吐出用マイクロ流体デバイス、などの製造方法として好適に用いることが出来る。
【0004】
【従来の技術】
「サイエンス(SCIENCE)」誌(第288巻、113頁、2000年)には、注型法にて表面に溝を有するシリコンゴム製の部材を形成し、2つの該部材でシリコンゴムシートを挟んで固着することによって、立体交差する毛細管状の流路を形成する方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、自立できないほどに薄く柔軟なフィルムを他の部材に積層して、積層構造のマイクロ流体デバイスを工業的に製造することは相当に困難であった。更に、何らかの構造、例えば表裏を貫通する欠損部や厚みの異なる部位を有する樹脂層を、正確に位置を合わせて他の部材に積層することは非常に困難であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、柔軟で、特に非常に薄く破損しやすい塗膜状の樹脂層を工業的に安定した方法で他の部材に積層して固着し、また、該樹脂層を他の部材に正確に位置を合わせて積層し形成される、積層構造を有するマイクロ流体デバイスを高い生産性で製造する方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決する方法について鋭意検討した結果、一時的な支持体上に、柔軟で、特に非常に薄く破損しやすい塗膜状の部材(B)を形成し、さらに該部材(B)を部材(A)に積層して固着した後、前記一時的な支持体を溶解することによって、該部材(B)に欠陥を与えることなく部材(B)を部材(A)上に転写し積層構造を有するマイクロ流体デバイスを容易に製造できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、部材表面に開口し、かつ流路と成る欠損部が形成された部材(A)と、塗膜状の部材(B)が積層されて成り、一部が固定されたシート状の弁体と毛細管状の流路を有するマイクロ流体デバイスの製造方法であって、
(I)一時的な支持体上に塗膜状の部材(B)形成材料を固化することにより、前記一時的な支持体上に形成した塗膜状の部材(B)を形成するとともに、前記一部が固定されたシート状の弁体を形成する工程、
(II)前記シート状の弁体が前記欠損部に相対するように、前記部材(B)を前記部材(A)の前記欠損部形成面に積層して、前記弁体を除いた部分を固着する工程、及び、
(III)前記部材(B)から前記一時的な支持体を溶解によって除去する工程を行なうことにより
前記塗膜状の部材(B)を前記部材(A)に転写することを特徴とするマイクロ流体デバイスの製造方法を提供する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、部材(A)に塗膜状の部材(B)が積層されて成り、毛細管状の流路を有するマイクロ流体デバイスの製造方法に関する。
本発明の製造方法で製造されるマイクロ流体デバイスは、毛細管状の流路(以下、単に「流路」と称する)を有する。該流路は、表面に達する欠損部として部材(A)中に形成されていても良いし、部材(A)の表面に達する欠損部(例えば、溝や凹部)と部材(B)でもって形成されていても良いし、部材(B)表面の溝や凹部と部材(A)で形成されていても良い。勿論、これらから選ばれる複数の流路を有していても良い。
【0010】
これらの流路は互いに接続されていても独立した流路であっても良い。本発明で言う「流路」とは、流体が流れる、又は流体を通じて圧力が伝達される空洞を言い、単なる流体移送用の流路の他、反応場、混合場、抽出場、分離場、流量測定部、検出部、ポンプ室、バルブ室、弁体の周囲部分、貯液槽、加圧タンク、減圧タンク、多孔質体などとして使用されるものであっても良い。
【0011】
本発明で製造されるマイクロ流体デバイスが有する流路の断面積は任意であるが、好ましくは1×10−12〜1×10−6、さらに好ましくは1×10−10〜2.5×10−5である。流路断面の幅、高さは、両者とも好ましくは1μm〜1000μmであり、さらに好ましくは10μm〜500μmである。
【0012】
断面積や幅や高さがこれらの寸法より小さい場合には製造が困難となる。断面積や幅や高さが上記より大きい場合、マイクロ流体デバイスとしての特長が減少するが、例えば貯液槽や廃液吸収部のように、部分的に上記より大きい部分を有することは可能である。本発明で製造されるマイクロ流体デバイスは、この範囲の断面積の流路を有することで、反応・分析時間の短縮、少量の試料で合成・分析が可能、少廃棄物、温調精度の向上、などのマイクロ流体デバイスとしての特長が発揮される。
【0013】
流路断面の幅/高さ比は、用途、目的に応じて任意に設定できるが、一般には、0.5〜10が好ましく、0.7〜5が更に好ましい。流路の断面形状は、矩形(角が丸められた矩形を含む。以下同じ)、台形、円、半円形、スリット状など任意である。流路の幅は一定である必要はない。
【0014】
マイクロ流体デバイス外から見た流路の形状は、本発明の製造方法で製造されるマイクロ流体デバイスを部材(B)側を部材(A)の上にして置いた姿勢で説明すれば(以下、説明の煩雑さを避けるために、この姿勢で、上下、横、高さ、幅などを表現する)上から見た形状は、用途目的に応じて直線、分岐、櫛型、曲線、渦巻き、ジグザグ、その他任意の形状であってよい。
【0015】
本発明の製造方法で用いられる一時的な支持体は、部材(B)形成材料をその上に固化した塗膜状に成形することが可能であり、且つ、賦形した部材(B)形成材料を固化させた後に溶解させて除去できるものである。なお、本発明においては「塗膜」に「注型物」を含めるものとする。
【0016】
一時的な支持体の形状は特に限定する必要はなく、任意の形状を採りうる。例えば、シート状(フィルム状、リボン状、ベルト状を含む。以下同様)、板状、その他複雑な形状の成型物や鋳型等であり得るが、溶解除去を容易にするために、シート状であることが好ましい。また、鋳型としての凹凸を有するシート状であることも好ましい。シートの厚みは任意であるが、好ましくは1〜1000μm、さらに好ましくは5〜300μmである。一時的な支持体を、他の台やロールに保持した状態で、後述の工程(I)や工程(II)等を実施しても良い。
【0017】
好ましい厚みは素材の剛性や強度にも依存し、剛性や強度が高い場合には薄くすることが可能である。即ち、一時的な支持体は、保持したときに伸びや変形が生じず、一定形状を保つことが好ましく、更に1点で保持しても垂れることなく自立していることが好ましい。厚みが過小であると、変形が生じがちとなって、精密に位置を合わせて部材(A)に積層することが困難となり、厚みが過大であると、溶解に要する時間が長くなる。
【0018】
一時的な支持体の素材は、上記の条件を満たすもので有れば任意であるが、重合体(ポリマー)であることが、十分な剛性と強度を有しつつ、水やアルコールのような取り扱いが容易な液体で溶解除去可能な点から好ましい。
一時的な支持体に使用できる重合体は、特定の溶剤に溶解可能な鎖状重合体であれば任意であり、単独重合体であっても、共重合体であっても良いし、ポリマーブレンドやポリマーアロイで構成されていても良いし、積層体その他の複合体であっても良い。更に、一時的な支持体は、改質剤、着色剤、充填材、強化材などの添加物を含有しても良い。
【0019】
一時的な支持体に好ましく使用できる重合体としては、例えば、ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン、ポリスチレン/マレイン酸共重合体、ポリスチレン/アクリロニトリル共重合体の如きスチレン系重合体;ポルスルホン、ポリエーテルスルホンの如きポリスルホン系重合体;ポリアクリル酸、ポリ(N置換)アクリルアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルの如き(メタ)アクリル系重合体;ポリマレイミド系重合体;ビスフェノールA系ポリカーボネート、ビスフェノールF系ポリカーボネート、ビスフェノールZ系ポリカーボネートなどのポリカーボネート系重合体;
【0020】
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1の如きポリオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩化ビニリデンの如き塩素含有重合体;酢酸セルロース、メチルセルロースの如きセルロース系重合体;ポリウレタン系重合体;ポリアミド系重合体;ポリイミド系重合体;ポリエチレンオキサイド、ポリ2、6ジメチルオキサイドなどのポリエーテル系重合体;ポリアリレートの如きポリエステル系重合体;フッ素系重合体、等、及びこれらの共重合体が挙げられる。
【0021】
これらの中でも、水、酸、アルカリなどの水系液体に可溶である、ポリビニアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリ(N置換)アクリルアミド、ポリアクリル酸などのカルボキシル基含有重合体、スルホン含有重合体、燐酸含有重合体、アミノ又はアンモニウム含有の重合体が好ましい。但し、これらの中で、ポリエチレンオキサイド、ポリ(N置換)アクリルアミド、ポリアクリル酸は、強度を増すために、少量の他の共重合性モノマー例えば(メタ)アクリル酸エステル等の共重合体とすることが好ましい。
【0022】
一時的な支持体は、部材(B)形成材料の濡れ性向上などを目的として表面処理されていても良い。一時的な支持体の表面処理方法は任意であり、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、酸又はアルカリ処理、スルホン化処理、シランカップリング剤等によるプライマー処理、表面グラフト重合、界面活性剤や離型剤等の塗布、ラビングやサンドブラストなどの物理的処理等が挙げられる。
【0023】
一時的な支持体は、部材(B)形成材料により濡れるものであるか、又は、はじく力が弱いものであることが好ましい。即ち、使用する部材(B)形成材料との接触角が60度以下であることが好ましく、45度以下であることが更に好ましく、25度以下であることが更に好ましく、0度であることが最も好ましい。
【0024】
一時的な支持体に含有させることができる改質剤としては、例えば、水溶性重合体、界面活性剤、シリカゲルなどの無機粉末、などの親水化剤が挙げられる。一時的な支持体に含有させることができる着色剤としては、任意の染料や顔料、蛍光性の染料や顔料、紫外線吸収剤が挙げられる。一時的な支持体に含有させることができる強化材としては、例えば、クレイなどの無機粉末、有機や無機の繊維や織物が挙げられる。
また、一時的な支持体には、位置決め、方向指示などのための印が印刷その他により形成されていることも好ましい。
【0025】
次に本発明の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、まず、一時的な支持体上に塗膜状の部材(B)を形成する材料(以下、部材(B)形成材料という)を固化させ形成する。この工程を「工程(I)」と称する。
【0026】
部材(B)形成材料は、固化して部材(B)である樹脂層を形成する材料である。部材(B)形成材料は、例えば、固化が活性エネルギー線の照射による硬化である場合には、エネルギー線重合性化合物(a)を含有するエネルギー線硬化性組成物(x)であり得るし、固化が熱硬化によるものである場合には、熱重合性の化合物を含有する熱重合性の組成物であり得るし、固化が乾燥によるものである場合には、溶剤溶解性の重合体の溶液であり得るし、固化が、溶融物の冷却である場合には、熱可塑性樹脂であり得るし、固化が、蒸着やCVD(化学蒸着法)である場合には気体であり得る。
【0027】
部材(B)形成材料は、加工して部材(B)を形成することが出来れば、固体、液体、気体、ゲル状などを問わない。これらの中で、高い成形性とエネルギー線重合性化合物(a)を含有するエネルギー線硬化性組成物(x)であり生産性故に、エネルギー線硬化性組成物(x)であることが好ましい。また、例えば、部材(B)の一部がダイヤフラムとなす場合には、部材(B)形成材料は、後述のように、ダイヤフラムと成った時に特定の引張弾性率を有するものであることが好ましい。
【0028】
部材(B)に使用できる重合体としては、例えば、ポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン、ポリスチレン/マレイン酸共重合体、ポリスチレン/アクリロニトリル共重合体の如きスチレン系重合体;ポルスルホン、ポリエーテルスルホンの如きポリスルホン系重合体;ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルの如き(メタ)アクリル系重合体;ポリマレイミド系重合体;ビスフェノールA系ポリカーボネート、ビスフェノールF系ポリカーボネート、ビスフェノールZ系ポリカーボネートなどのポリカーボネート系重合体;
【0029】
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1の如きポリオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩化ビニリデンの如き塩素含有重合体;酢酸セルロース、メチルセルロースの如きセルロース系重合体;ポリウレタン系重合体;ポリアミド系重合体;ポリイミド系重合体;ポリ−2,6−ジメチルフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイドの如きポリエーテル系又はポリチオエーテル系重合体;ポリエーテルエーテルケトンの如きポリエーテルケトン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレートの如きポリエステル系重合体
【0030】
;エポキシ樹脂;ウレア樹脂;フェノール樹脂;ポリ四フッ化エチレン、PFA(四フッ化エチレンとパーフロロアルコキシエチレンの共重合体)などのフッ素系重合体、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン系重合体;本発明で使用するエネルギー線硬化性組成物(X)の硬化物、等が挙げられる。
【0031】
これらの中でも、固着性が良好な点などから、スチレン系重合体、(メタ)アクリル系重合体、ポリカーボネート系重合体、ポリスルホン系重合体、ポリエステル系重合体が好ましい。また部材(B)は、エネルギー線硬化性樹脂の硬化物であることも好ましい。部材(B)は、ポリマーブレンドやポリマーアロイで構成されていても良いし、積層体その他の複合体であっても良い。更に、部材(B)は、改質剤、着色剤、充填材、強化材などの添加物を含有しても良い。
【0032】
部材(B)に含有させることができる改質剤としては、例えば、シリコンオイルやフッ素置換炭化水素などの疎水化剤(撥水剤);水溶性重合体、界面活性剤、シリカゲルなどの無機粉末、などの親水化剤が挙げられる。部材(B)に含有させることができる着色剤としては、任意の染料や顔料、蛍光性の染料や顔料、紫外線吸収剤が挙げられる。部材(B)に含有させることができる強化材としては、例えば、クレイなどの無機粉末、有機や無機の繊維が挙げられる。
【0033】
部材(B)が固着性の低い素材、例えば、ポリオレフィン、フッ素系重合体、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン等の場合には、部材(B)の固着面の表面処理やプライマーの使用により、固着性を賦与或いは向上させることが好ましい。また、部材(B)の表面にエネルギー線硬化性組成物を塗布し、活性エネルギー線照射により半硬化させた層を形成し、これを部材(B)とすることも部材(A)との固着性向上の為に好ましく、固着性の観点からは、部材(B)がエネルギー線硬化性組成物を素材とする場合には、同種のエネルギー線硬化性組成物を用いることが更に好ましい。
【0034】
部材(B)は、必要に応じて、部材(A)と固着させる前に表面処理を行うことが出来る。表面処理としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、常圧プラズマ処理などの物理処理、プライマー処理、酸処理、アルカリ処理、有機溶剤処理、スルホン化処理、アシル化処理などの化学処理であり得る。
【0035】
部材(B)形成材料がエネルギー線硬化性組成物(x)である場合には、部材(B)形成材料の成分として使用することの出来るエネルギー線重合性化合物(a)(以下、単に「化合物(a)」と略称する場合もある)は、活性エネルギー線によって重合し硬化するものであれば、ラジカル重合性、アニオン重合性、カチオン重合性等の任意のものであってよい。化合物(a)は、重合開始剤の非存在下で重合するものに限らず、重合開始剤の存在下でのみ活性エネルギー線により重合するものも使用することができる。
【0036】
化合物(a)は、付加重合性の化合物であることが、重合速度が高いため好ましく、活性エネルギー線重合性官能基として重合性の炭素−炭素二重結合を有するものが好ましく、中でも、反応性の高い(メタ)アクリル系化合物やビニルエーテル類、また光重合開始剤の不存在下でも硬化するマレイミド系化合物が好ましい。
【0037】
更に、化合物(a)は、硬化後の強度が高い点で、重合して架橋重合体を形成する化合物であることが好ましい。そのために、1分子中に2つ以上の重合性の炭素−炭素二重結合を有する化合物(以下「1分子中に2つ以上の重合性の炭素−炭素二重結合を有する」ことを「多官能」と称することがある)であることが更に好ましい。
【0038】
化合物(a)として、好ましく使用できる多官能(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2′−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエチレンオキシフェニル)プロパン、2,2′−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリプロピレンオキシフェニル)プロパン、ヒドロキシジピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、
【0039】
ビス(アクロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、N−メチレンビスアクリルアミドの如き2官能モノマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレートの如き3官能モノマー;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートの如き4官能モノマー;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートの如き6官能モノマー等が挙げられる。
【0040】
また、化合物(a)として、重合性オリゴマー(プレポリマーを含む。以下同じ)を用いることもでき、例えば、質量平均分子量が500〜50000のものが挙げられる。そのような重合性オリゴマーしては、例えば、エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ポリエーテル樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ポリブタジエン樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、分子末端に(メタ)アクリロイル基を有するポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0041】
マレイミド系の化合物(a)としては、例えば、4,4′−メチレンビス(N−フェニルマレイミド)、2,3−ビス(2,4,5−トリメチル−3−チエニル)マレイミド、1,2−ビスマレイミドエタン、1,6−ビスマレイミドヘキサン、トリエチレングリコールビスマレイミド、N,N′−m−フェニレンジマレイミド、m−トリレンジマレイミド、N,N′−1,4−フェニレンジマレイミド、N,N′−ジフェニルメタンジマレイミド、N,N′−ジフェニルエーテルジマレイミド、N,N′−ジフェニルスルホンジマレイミド、
【0042】
1,4−ビス(マレイミドエチル)−1,4−ジアゾニアビシクロ−[2,2,2]オクタンジクロリド等の2官能マレイミド;N−(9−アクリジニル)マレイミドの如きマレイミド基とマレイミド基以外の重合性官能基とを有するマレイミド等が挙げられる。マレイミド系のモノマーは、ビニルモノマー、ビニルエーテル類、アクリル系モノマー等の重合性の炭素−炭素二重結合を有する化合物と共重合させることもできる。
【0043】
これらの化合物(a)は、単独で用いることも、2種類以上を混合して用いることもできる。また、エネルギー線重合性化合物(a)は、粘度の調節、固着性や半硬化状態での粘着性を増すなどの目的で、多官能モノマーと単官能モノマーの混合物とすることもできる。
【0044】
単官能(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、メチルメタクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリセロールアクリレートメタクリレート、
【0045】
ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、エチレノキサイド変性フタル酸アクリレート、w−カルゴキシアプロラクトンモノアクリレート、2−アクリロイルオキシプロピルハイドロジェンフタレート、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、アクリル酸ダイマー、2−アクリロイルオキシプロピリヘキサヒドロハイドロジェンフタレート、フッ素置換アルキル(メタ)アクリレート、
【0046】
塩素置換アルキル(メタ)アクリレート、スルホン酸ソーダエトキシ(メタ)アクリレート、スルホン酸−2−メチルプロパン−2−アクリルアミド、燐酸エステル基含有(メタ)アクリレート、スルホン酸エステル基含有(メタ)アクリレート、シラノ基含有(メタ)アクリレート、((ジ)アルキル)アミノ基含有(メタ)アクリレート、4級((ジ)アルキル)アンモニウム基含有(メタ)アクリレート、(N−アルキル)アクリルアミド、(N、N−ジアルキル)アクリルアミド、アクロロイルモリホリン等が挙げられる。
【0047】
単官能マレイミド系モノマーとしては、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ドデシルマレイミドの如きN−アルキルマレイミド;N−シクロヘキシルマレイミドの如きN−脂環族マレイミド;N−ベンジルマレイミド;N−フェニルマレイミド、N−(アルキルフェニル)マレイミド、N−ジアルコキシフェニルマレイミド、N−(2−クロロフェニル)マレイミド、
【0048】
2,3−ジクロロ−N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、2,3−ジクロロ−N−(2−エチル−6−メチルフェニル)マレイミドの如きN−(置換又は非置換フェニル)マレイミド;N−ベンジル−2,3−ジクロロマレイミド、N−(4′−フルオロフェニル)−2,3−ジクロロマレイミドの如きハロゲンを有するマレイミド;ヒドロキシフェニルマレイミドの如き水酸基を有するマレイミド;N−(4−カルボキシ−3−ヒドロキシフェニル)マレイミドの如きカルボキシ基を有するマレイミド;
【0049】
N−メトキシフェニルマレイミドの如きアルコキシル基を有するマレイミド;N−[3−(ジエチルアミノ)プロピル]マレイミドの如きアミノ基を有するマレイミド;N−(1−ピレニル)マレイミドの如き多環芳香族マレイミド;N−(ジメチルアミノ−4−メチル−3−クマリニル)マレイミド、N−(4−アニリノ−1−ナフチル)マレイミドの如き複素環を有するマレイミド等が挙げられる。
【0050】
エネルギー線硬化性組成物(x)に後述の両親媒性の化合物(b)を添加する場合には、化合物(a)は疎水性の化合物(a)を使用することが好ましい。疎水性の化合物(a)とは、その単独重合体が、60度以上の水との接触角を示すものを言う。疎水性の化合物(a)としては、化合物(a)として上に例示した化合物の中から選択使用できるが、例示した化合物の殆どは疎水性の化合物(a)である。
【0051】
部材(B)形成材料として使用できるエネルギー線硬化性組成物(x)(以下、単に「組成物(x)」と称する場合がある)は、活性エネルギー線の照射により硬化樹脂となるものであり、必須成分として化合物(a)を含有する。組成物(x)は化合物(a)単独を含むものであってもよく、複数種の化合物(a)の混合物でもよい。組成物(x)には、必要に応じて他の成分を添加することが出来る。組成物(x)に添加しうる他の成分としては、化合物(a)と共重合性の化合物、活性エネルギー線重合開始剤、重合遅延剤、重合禁止剤、増粘剤、改質剤、着色剤、溶剤を挙げることができる。
【0052】
組成物(x)に添加しうる、化合物(a)と共重合性の化合物は、両親媒性化合物、親水性化合物、疎水性化合物などであり得る。組成物(x)に添加しうる、化合物(a)と共重合性の親水性化合物は、分子内に親水基を有し、親水性の重合体を与えるものである。
【0053】
このような化合物としては、例えば、ビニルピロリドン;N置換または非置換」アクリルアミド;アクリル酸;ポリエチレングリコール基含有(メタ)アクリレート;水酸基含有(メタ)アクリレート;アミノ基含有(メタ)アクリレート;カルボキシル基含有(メタ)アクリレート;燐酸基含有(メタ)アクリレート;スルホン基含有(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0054】
組成物(x)に添加しうる、化合物(a)と共重合性の疎水性化合物は、分子内に疎水基を有し、疎水性の重合体を与えるものである。このような化合物としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート;フッ素含有(メタ)アクリレート;(アルキル置換)シロキサン基含有(メタ)アクリレート等を例示できる。
【0055】
組成物(x)に添加しうる、化合物(a)と共重合性の両親媒性の化合物(以下、このような化合物を「両親媒性化合物(b)」又は、単に「化合物(b)」と称する)は、1分子中に1個以上の重合性炭素−炭素不飽和結合を有する化合物であることが好ましい。両親媒性の化合物(b)はその単独重合体が架橋重合体となるものである必要はないが、架橋重合体となる化合物であってもよい。
【0056】
また、両親媒性の化合物(b)は、疎水性の化合物(a)と均一に相溶するものである。この場合の「相溶する」とは、巨視的に相分離しないことを言い、ミセルを形成して安定的に分散している状態も含まれる。
【0057】
本発明で言う、両親媒性の化合物とは、分子中に親水基と疎水基を有し、水、疎水性溶媒の両者とそれぞれ相溶する化合物を言う。この場合においても、相溶とは巨視的に相分離しないことを言い、ミセルを形成して安定的に分散している状態も含まれる。両親媒性の化合物(b)は、0℃において、水に対する溶解度が0.5質量%以上で、且つ25℃のシクロヘキサン:トルエン=5:1(質量比)混合溶媒に対する溶解度が25質量%以上であることが好ましい。
【0058】
ここで言う溶解度、例えば、溶解度が0.5質量%以上であるとは、少なくとも0.5質量%の化合物が溶解可能であることを言うのであって、0.5質量%の化合物は溶媒に溶解しないものの、該化合物中にごくわずかの溶媒が溶解可能であるものは含まない。水に対する溶解度、あるいはシクロヘキサン:トルエン=5:1(質量比)混合溶媒に対する溶解度の少なくとも一方がこれらの値より低い化合物を使用すると、高い表面親水性と耐水性の両者を満足することが困難となる。
【0059】
両親媒性の化合物(b)は、特にノニオン性親水基、特にポリエーテル系の親水基を有する場合には、親水性と疎水性のバランスが、グリフィンのHLB(エイチ・エル・ビー) 値にして10〜16の範囲にあるものが好ましく、11〜15の範囲にあるものが更に好ましい。この範囲外では、高い親水性と耐水性に優れた成形物を得ることが困難であるか、それを得るための化合物の組み合わせや混合比が極めて限定されたものとなり、成形物の性能が不安定となりがちである。
【0060】
両親媒性の化合物(b)が有する親水基は任意であり、例えば、アミノ基、四級アンモニウム基、フォスフォニウム基の如きカチオン基;スルホン基、燐酸基、カルボニル基の如きアニオン基;水酸基、ポリエチレングリコール基などのポリエーテル基、アミド基の如きノニオン基;アミノ酸基の如き両性イオン基であってよい。親水基として、好ましいのは、ポリエーテル基、特に好ましくは繰り返し数6〜20のポリエチレングリコール鎖を有する化合物である。
【0061】
両親媒性の化合物(b)の疎水基としては、例えば、アルキル基、アルキレン基、アルキルフェニル基、長鎖アルコキシ基、フッ素置換アルキル基、シロキサン基などが挙げられる。両親媒性の化合物(b)は、疎水基として、炭素数6〜20のアルキル基又はアルキレン基を含むことが好ましい。炭素数6〜20のアルキル基又はアルキレン基は、例えば、アルキルフェニル基、アルキルフェノキシ基、アルコキシ基、フェニルアルキル基などの形で含有されていてもよい。
【0062】
両親媒性の化合物(b)は、親水基として繰り返し数6〜20のポリエチレングリコール鎖を有し、且つ、疎水基として炭素原子数6〜20のアルキル基又はアルキレン基を有する化合物であることが好ましい。更に好ましく使用できる両親媒性の化合物(b)として、一般式(1)で表わされる化合物を挙げることができる。
【0063】
一般式(1)
CH=CRCOO(RO)−φ−R
(式中、Rは水素、ハロゲン原子又は低級アルキル基を表わし、Rは炭素数1〜3のアルキレン基を表わし、nは6〜20の整数、φはフェニレン基、Rは炭素数6〜20のアルキル基を表わす)
【0064】
ここで、Rはより具体的には、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、又はペンタデシル基であり、好ましくはノニル基又はドデシル基である。一般式(1)において、nの数が大きいほど、Rの炭素原子数も大きいことが好ましい。
【0065】
n数とRの炭素数の関係はグリフィンのHLB値にして10〜16の範囲にあることが好ましく、11〜15の範囲にあることが特に好ましい。これらの両親媒性の化合物(b)の中でも、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(n=8〜17)(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(n=8〜17)(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0066】
組成物(x)に添加することができる活性エネルギー線重合開始剤は、本発明で使用する活性エネルギー線に対して活性であり、化合物(a)を重合させることが可能なものであれば、特に制限はなく、例えば、ラジカル重合開始剤、アニオン重合開始剤、カチオン重合開始剤であって良い。活性エネルギー線重合開始剤は、使用する活性エネルギー線が光線である場合に特に有効である。
【0067】
そのような光重合開始剤としては、例えば、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2′−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンの如きアセトフェノン類;ベンゾフェノン、4、4′−ビスジメチルアミノベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントンの如きケトン類;
【0068】
ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルの如きベンゾインエーテル類;ベンジルジメチルケタール、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの如きベンジルケタール類;N−アジドスルフォニルフェニルマレイミド等のアジドなどが挙げられる。また、マレイミド系化合物などの重合性光重合開始剤を挙げることができる。
【0069】
組成物(x)に光重合開始剤を混合使用する場合の使用量は、非重合性光重合開始剤の場合、0.005〜20質量%の範囲が好ましく、0.1〜5質量%の範囲が特に好ましい。光重合開始剤は重合性のもの、例えば、エネルギー線重合性化合物(a)として例示した多官能や単官能のマレイミド系モノマーであっても良い。この場合の使用量は、上記に限られない。
【0070】
組成物(x)に添加することができる重合遅延剤としては、例えばエネルギー線重合性化合物(a)がアクリロイル基含有化合物の場合には、スチレン、α−メチルスチレン、α−フェニルスチレン、p−オクチルスチレン、p−(4−ペンチルシクロヘキシル)スチレン、p−フェニルスチレン、 p−(p−エトキシフェニル)フェニルスチレン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、4,4′−ジビニルビフェニル、2−ビニルナフタレン等の、使用するエネルギー線重合性化合物(a)より重合速度の低いビニル系モノマーを挙げることができる。
【0071】
組成物(x)に添加することができる重合禁止剤としては、例えばエネルギー線重合性化合物(a)が重合性の炭素−炭素二重結合含有化合物の場合には、ハイドロキノン、メトキシハイドロキノン等のハイドロキノン誘導体;ブチルヒドロキシトルエン、tert−ブチルフェノール、ジオクチルフェノールなどのヒンダントフェノール類等が挙げられる。
【0072】
活性エネルギー線として紫外線などの光線を使用する場合には、パターニング精度を向上させるために、重合遅延剤及び重合禁止剤の少なくとも1種以上と光重合開始剤を併用することが好ましい。また、組成物(x)に添加することができる増粘剤としては、例えば、ポリスチレンなどの鎖状重合体が挙げられる。
【0073】
組成物(x)に添加することができる改質剤としては、例えば、撥水剤や剥離剤として機能するシリコンオイルやフッ素置換炭化水素などの疎水性化合物;親水化剤や吸着抑制剤として機能するポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどの水溶性重合体;濡れ性向上剤、離型剤、吸着抑制剤として機能する、ノニオン系、アニオン系、カチオン系などの界面活性剤が挙げられる。組成物(x)に必要に応じて混合使用することができる着色剤としては、任意の染料や顔料、蛍光色素、紫外線吸収剤が挙げられる。
【0074】
組成物(x)に添加することの出来る溶剤としては、組成物(x)の各成分を溶解して均一な溶液とするものであれば任意であり、揮発性の溶剤であることが好ましい。組成物(x)の粘度が高い場合や、特に薄く塗工する場合などには、組成物(x)に溶剤を添加することが好ましい。該溶剤は、塗工後、或いはその後の任意の工程で揮発除去される。
【0075】
工程(I)において形成する部材(B)の厚みは任意であるが、0.5μm以上であることが好ましく、2μm以上が更に好ましく、5μm以上であることが更に好ましい。これより薄いと製造が困難となる。
【0076】
また、部材(B)の厚みは500μm以下であることが好ましく、200μm以下がより好ましく、100μm以下であることが更に好ましい。これより厚いとマイクロ流体デバイスとしての効果が減じる。塗膜が注型物である場合には、最も薄い部分の厚みが上記範囲にあることが好ましい。一時的な支持体上に部材(B)が形成される部位は任意であり、一時的な支持体の全面であっても、部分的であってもよい。又逆に、後述の部材(A)と積層する部分以外の部分にも形成されていてもよい。
【0077】
部材(B)の形成方法は任意である。部材(B)の形成が、未硬化の部材(B)形成材料の塗工と重合硬化(以下、「重合硬化」を単に「硬化」と称する)による方法である場合や、溶液状の部材(B)形成材料の塗工と乾燥である場合には、一時的な支持体に部材(B)形成材料を塗工する方法としては、一時的な支持体の上に塗工できる任意の塗工方法を用いることができ、例えば、スピンコート法、ローラーコート法、流延法、ディッピング法、スプレー法、バーコーター法、X−Yアプリケータ法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、グラビア印刷法、ノズルからの押し出しや注型などが挙げられる。また、部材(B)形成材料が組成物(x)であり、組成物(x)が高粘度である場合や特に薄く塗工する場合には、組成物(x)に溶剤を含有させて塗工した後、該溶剤を揮発させる方法を採用することもできる。
【0078】
部材(B)の固化が硬化である場合には、次いで、部材(B)形成材料の未硬化の塗工物を硬化させ部材(B)と成す。ここで言う硬化とは、部材(B)形成材料が非流動性となり、後の工程である接着剤の塗工や部材(A)との固着が可能な程度に固化することを言い、完全硬化に限らず、重合可能な官能基が残存している状態であっても良い。工程(I)における硬化を半硬化とすることによって、接着剤を使用することなく部材(A)と固着させることが出来、接着剤を使用する場合にも固着強度の向上が計れる。ただし、本発明において半硬化とは流動性は喪失しているが固着性は残存している状態で硬化しているものを言う。
【0079】
本工程における硬化が半硬化である場合には、最終的なマイクロ流体デバイスと成す前のいずれかの工程に於いて完全に硬化させることが好ましいが、本発明のマイクロ流体デバイスの機能に差し障りがなければ必ずしも完全に硬化させる必要はない。部材(B)の硬化は任意であり、例えば、活性エネルギー線による硬化や熱硬化であり得る。
【0080】
部材(B)の固化が乾燥によるものである場合には、上述の硬化の代わりに乾燥による溶剤除去を行うことで固化した部材(B)を得ることが出来る。この場合にも、固化は完全乾燥である必要はなく、溶剤が残存していても良い。不完全乾燥することによって、接着剤を使用することなく部材(A)と固着させることが出来、接着剤を使用する場合にも固着強度の向上が計れる。本工程における固化が不完全乾燥である場合には、最終的なマイクロ流体デバイスと成す前のいずれかの工程に於いて完全に乾燥させることが好ましいが、本発明のマイクロ流体デバイスの機能に差し障りがなければ必ずしも完全に乾燥させる必要はない。
【0081】
部材(B)の形成が、熱可塑性樹脂の溶融成型である場合には、射出成型法、熱プレス法、溶融キャスト法などを採用できる。その他、固化は部材(B)形成材料の種類に応じて好適な方法を採ることが出来、例えば、水分による硬化等であり得る。これらの中で活性エネルギー線の照射による硬化又は乾燥であることが好ましい。
【0082】
部材(B)形成材料がエネルギー線硬化性組成物(x)である場合には、用いることの出来る活性エネルギー線としては、紫外線、可視光線、赤外線、レーザー光線、放射光の如き光線;エックス線、ガンマ線、放射光の如き電離放射線;電子線、イオンビーム、ベータ線、重粒子線の如き粒子線が挙げられる。これらの中でも、取り扱い性や硬化速度の面から紫外線及び可視光が好ましく、紫外線が特に好ましい。硬化速度を速め、硬化を完全に行う目的で、活性エネルギー線の照射を低酸素濃度雰囲気で行うことが好ましい。低酸素濃度雰囲気としては、窒素気流中、二酸化炭素気流中、アルゴン気流中、真空又は減圧雰囲気が好ましい。
【0083】
工程(I)において、一時的な支持体上の部材(B)に欠損部を形成することも可能である。部材(B)に形成する欠損部の形状は、用途目的に応じて任意に設定できる。該欠損部は、部材(B)層の表裏を貫通する孔状やスリット状の欠損部であり得るし、また、部材(B)表面の溝状や凹状の欠損部であり得る。このような欠損部は、部材(A)と積層されることで部材(A)との間や部材(B)中の流路と成りうる。該欠損部は、前記の流路の他、例えば、センサー埋め込み部として使用する空間などとして使用するものの全部又は一部とすることが出来る。
【0084】
部材(B)に欠損部を設ける方法は任意であるが、例えば、部材(B)形成材料としてエネルギー線硬化性組成物(x)を用い、該組成物(x)の塗膜に、欠損部と成す部分以外の部分に活性エネルギー線を照射し、未照射部分の未硬化の組成物(x)を除去して欠損部を形成することが出来る。
【0085】
この際、後述するように接着剤を用いて部材(B)と部材(A)とを積層し固着する場合には、エネルギー線硬化性組成物(x)を一時的な支持体へ塗布し、エネルギー線硬化性組成物(x)の未硬化塗膜に活性エネルギー線をパターニング照射し、非照射部分を未硬化状態に残して照射部分を硬化させ、塗膜の非照射部の未硬化のエネルギー線硬化性組成物(x)を除去することにより、部材(B)に、該部材表面に形成された凹の欠損部、該部材を貫通する欠損部、またはその両者を形成することができる。
【0086】
また、後述するように接着剤を用いずに部材(B)と部材(A)とを積層し活性エネルギー線を照射して部材(B)を硬化し部材(A)に固着する場合には、エネルギー線硬化性組成物(x)を一時的な支持体へ塗布し、エネルギー線硬化性組成物(x)の未硬化塗膜に活性エネルギー線をパターニング照射し、非照射部分を未硬化状態に残して、照射部分を半硬化し、塗膜の非照射部の未硬化のエネルギー線硬化性組成物(x)を除去することにより、部材(B)に、該部材表面に形成された凹の欠損部、該部材を貫通する欠損部、またはその両者を形成することができる。
【0087】
この時の活性エネルギー線の照射方法は、例えば、照射不要部分をマスキングして照射する方法、あるいはレーザーなどの活性エネルギー線のビームを走査する方法を使用できる。未硬化の組成物(x)の除去方法も任意であり、例えば組成物(x)を溶解する溶剤による溶解除去、組成物(x)を溶解しない非溶剤による洗い流しや超音波洗浄、圧力気体による吹き飛ばし等であり得る。
【0088】
また、部材(B)に欠損部を設ける他の方法としては、任意の方法で形成された部材(B)に、打ち抜き、刃物による切れ目の形成、切削、サンドブラスト、レーザー穿孔、エッチング等の方法で、欠損部を形成することも可能である。欠損部は切れ目であっても良い。この際、一時的な支持体にも欠損部が形成されても良い。
【0089】
工程(I)の後に、一時的な支持体上に形成し部材(B)と部材(A)とを積層し固着する。この工程を「工程(II)」と称する。部材(B)と部材(A)との積層は、用途、目的に応じた形態であってよく、必ずしも全面である必要はない。以下、「積層する」とは、接着剤を介して積層することも含む。また、部材が互いに「隣接する」とは、接着剤を介して隣接することも含む。
【0090】
固着は任意の方式であって良く、接着、融着(熔着)、半固化物を接触状態で固化させることによる固着、等であり得る。
固着が半固化物を接触状態で固化させることによる固着である例としては、エネルギー線硬化性組成物(x)を半硬化して部材(B)を形成し、これを部材(A)と積層した状態でさらに硬化を進めて固着させる方法を使用できる。部材(B)を部材(A)と積層した状態でさらに硬化を進める方法は、活性エネルギー線の再照射であっても良いし、加熱であっても良い。また、再照射の活性エネルギー線は部材(B)の半硬化に使用したものと同じものであっても異なっていても良い。本法は、後述のように、部材(B)に欠損部を形成する場合に好適である。
【0091】
固着が半固化物を接触状態で固化させることによる固着である他の例としては、部材(B)形成材料として重合体溶液を使用し、製膜後、半乾燥状態で部材(A)と積層して、その状態で乾燥を進めることによって固着させる方法が挙げられる。この時、部材(A)も又、部材(B)形成材料に使用する溶剤に溶解する素材で形成されていることが好ましい。
固着が融着による例としては、部材(B)の溶融状態での積層、超音波融着、高周波融着などを挙げることができる。部材(B)の表面のみを溶融した状態で積層しても良い。
【0092】
固着が接着剤による接着である場合には、接着剤は任意であり、例えばエネルギー線硬化性の接着剤、エポキシ系などの熱硬化性の接着剤、溶融型接着剤、溶剤型接着剤、シアノアクリレートなどの水分硬化型接着剤、等が使用できるが、エネルギー線硬化性の接着剤が生産性が高く好ましい。エネルギー線硬化性の接着剤は、本発明で使用するエネルギー線硬化性組成物(x)として示されたものの中から選択して使用することが出来る。但し、該接着剤は部材(B)に使用するエネルギー線硬化性組成物(x)と全く同じ組成である必要はない。
【0093】
接着剤はまた、粘度が1000mPa・s以上であることが好ましい。このような粘度の高い接着剤を使用することにより、部材(B)と部材(A)を積層した状態で接着剤を硬化させるに当たり、接着剤層が粘着性を有するため、圧迫状態を保持する必要が無い。
【0094】
接着剤は、部材(A)の欠損部や部材(B)となる塗膜の欠損部を閉塞しなければ、欠損部の内側や、ダイヤフラムの欠損部に面する部分をコートしていてもよい。
【0095】
部材(B)形成材料の硬化塗膜を部材(A)と接着剤を介して積層する方法は、欠損部が流路と成された際に該流路が閉塞することがなければ任意であり、部材(B)への塗布、部材(A)への塗布、その両者への塗布であり得る。塗布方法も部材(B)となる塗膜の形成方法と同様であるが、極薄い接着剤層を形成するためbに、スピンコート法、ディッピング法、塗工後のエアナイフによる過剰な接着剤の除去法が好ましく、また、溶剤で希釈した接着剤を塗布した後、溶剤を揮発させる方法が好ましい。
【0096】
接着剤層の厚みは、欠損部が流路と成された際に該流路が閉塞しなければ任意であるが、本発明の構成からして、部材(B)に比べて十分に薄いものであることが好ましく、部材(B)の厚みの1/5以下であることが好ましく1/10以下であることがさらに好ましく、1/30以下であることが最も好ましい。接着剤層の厚みの下限は、部材(B)が部材(A)と固着しておれば任意であり、特に限定することを要しないし、非常に薄い場合には測定困難であるが、例えば0.5nm程度であり得る。
【0097】
部材(B)の一部がダイヤフラムとなる場合には、工程(II)に於いて積層固着されることによって、部材(A)の表面に形成された欠損部に相対する部分の部材(B)がダイヤフラムと成る。このようにして形成されたダイヤフラムは、ダイヤフラム式バルブやダイヤフラム式ポンプのダイヤフラムであり得る。
【0098】
本発明の製造方法に於いては、層状の部材(B)をリジッドな一時的な支持体上に形成した状態で部材(A)と積層するため、自立不能なほどに薄く柔軟なダイヤフラムとなる部材(B)を部材(A)に積層することが容易であり、ダイヤフラムを有するマイクロ流体デバイスの製造方法に特に好適である。
【0099】
本発明で形成するダイヤフラムの面積は任意であるが、好ましくは1×10−10〜1×10−5であり、さらに好ましくは2.5×10−9〜1×10−6である。これらの範囲未満であると流体移送の駆動力が低下し、これらの範囲を越えるとデバイスが大きくなり、マイクロデバイスとしてのメリットが減少するか、あるいは相対的に大容量のポンプを使用することになって流量調節能が低下し、共に好ましくない。
【0100】
本発明のマイクロ流体デバイスにおいてダイヤフラムが部材(B)の面積に占める割合(比率)は特に限定されるものではないが、通常寸法のポンプのダイヤフラムに比べると極めて小さく、好ましくは1×10−8〜3×10−2、更に好ましくは1×10−7〜1×10−2である。この1×10×−8以上であればマイクロ流体デバイスとしてのメリットがより増加し、3×10−2以内であれば微小なダイヤフラムの製造がより容易となる。
【0101】
部材(A)と部材(B)を、互いに位置を合わせて積層することも可能である。位置を合わせて積層することで、例えば部材(A)と部材(B)の流路を接続することが出来るし、部材(A)の流路の流入部に部材(B)で形成された弁を接続することもできる。
【0102】
本発明の製造方法に於いては、層状の部材(B)をリジッドな一時的な支持体上に形成した状態で部材(A)と積層するため、部材の垂れが無く、2点以上で保持しても伸びによる寸法変化が無いため、正確な位置合わせが容易であり、位置合わせする必要があるマイクロ流体デバイスの製造方法に特に好適である。また、部材(B)が表裏を貫通するスリット状の欠損部を有する場合であっても、部材(A)と位置合わせして積層することが容易である。
【0103】
部材(A)と部材(B)が、互いに位置を合わせて積層されて固着されたマイクロ流体デバイスの例としては、複数の樹脂層に設けられた流路が立体交差しているマイクロ流体デバイスや、層状の部材の一部が弁体を構成しているマイクロ流体デバイスが挙げられる。立体交差した流路は、それぞれ独立した流路であっても良いし、1本の流路であっても良いし、分岐した流路であっても良い。
【0104】
このような立体交差が可能となることで、流路の形成密度を上げることが可能となり、例えば、密集して形成された多数の吐出口にそれぞれ接続された多数の独立した流路を有するノズルの形成が可能となる。
【0105】
両部材の固着部位は、部材(B)や部材(A)に欠損部が形成されていいる場合には該欠損部を閉塞することが無く、かつ、該欠損部が不必要にデバイス外部や他の欠損部と連絡することがなければ、その位置や形状は任意であるが、欠損部以外の全面であることが好ましい。
【0106】
部材(B)の一部に、部材(A)と接触していながら固着していない部分を形成することが出来る。この場合には、例えば、接着剤としてエネルギー線硬化性の接着剤を使用し、工程(II)に於ける接着剤の塗布と積層との間において、接着剤塗膜の一部に選択的に活性エネルギー線を照射して接着剤を部分的に硬化させておき、その後、他の部材と積層し、未硬化部分の接着剤を硬化させることによって、他の部材と固着する。この時、接着剤の部分硬化の度合いは、他の部材と積層した状態で、他の部分の接着剤を硬化させても、該被照射部分が他の部材と固着しない程度であれば任意である。
【0107】
このような部分硬化法は、接着剤がエネルギー線硬化性以外のものであっても実施でき、例えば、接着剤が熱硬化性である場合には部分加熱によって、また、接着剤が水分硬化性である場合には、硬化すべき部分のみの水分との接触によって実施できるが、エネルギー線硬化性の接着剤が、解像度や生産性の点で最も優れるため好ましい。
【0108】
接着剤に部分硬化を施す場合、接着剤が部材(B)又は部材(A)の一方に塗布されている場合には、該塗布された接着剤層に部分硬化を施す。接着剤が部材(B)と部材(A)の両方に塗布されている場合には、両部材の非固着とすべき部分に部分硬化を施す。
このような、部材(B)の一部に、部材(A)と接触していながら固着していない部分を形成することによって、該非固着部の部材(B)をダイヤフラムとすることができる。この場合には、ダイヤフラム室は常態において体積ゼロであり、ダイヤフラムの変形によって正の体積を持つ。
【0109】
部材(A)は、部材(B)が積層して固着される任意の部材であるが、部材表面に達し、かつ、流体の流路を成す欠損部を有する部材であることが有用であり好ましい。部材表面に達する欠損部とは、部材表面に開口している欠損部を意味し、部材表面の凹状の欠損部、部材を貫通する欠損部、部材内部の欠損部に連絡した部材表面に開口した欠損部、などであり得る。勿論これらの構造の複合構造であって良い。
【0110】
部材を貫通する欠損部の形状は、例えば丸孔、角孔、スリット状、円錐状、角錐状、樽状、ネジ孔、切れ目(常態では断面積がゼロで、その周辺部分の変形によって、有限の断面積の流路が生じるもの)、断面積や方向が変化する複雑な形状の欠損部であり得る。部材表面の凹状の欠損部は、例えばポンプ室やバルブ室となる、円錐や角錐、台形や逆台形、円錐や角錐などの凹部であって良いし、流路と成る溝であっても良い。表面の凹状の欠損部に連絡して、部材を貫通する欠損部が設けられていても良い。部材内部の欠損部に連絡した部材表面に開口した欠損部は、例えば、両端又は片端が開口した毛細管状の欠損部、表面から見てその面積より小さな面積の開口部を有するダイヤフラム室、等であり得る。
【0111】
部材(A)には互いに独立した複数の欠損部が設けられていても良い。これらの欠損部には、例えば弁体のような構造が形成されていても良い。勿論、部材(A)は、独立した複数の、表面に達する欠損部を有していて良いし、その他の欠損部も有していても良い。
【0112】
部材(A)の外形は特に限定する必要はなく、用途目的に応じた形状を採りうる。例えば、シート状、板状、塗膜状、棒状、管状、その他複雑な形状の成型物などであり得るが、成形し易く、部材(B)を積層し固着し易いといった面から、固着すべき面が平面状又は2次曲面状であることが好ましく、シート状又は板状であることが特に好ましい。
【0113】
部材(A)の素材は、本発明の製造方法で部材(B)と固着可能なものであれば特に制約はない。例えば、重合体;ガラス、石英の如き結晶;セラミック;シリコンの如き半導体;炭素;金属などであてよい。これらの中でも、易成形性、高生産性、低価格などの点から重合体(ポリマー)が特に好ましい。部材(A)は、複数の層状部材が積層され固着された構造物であり得る。複数の層状部材は、同種又は異種の素材で構成されていて良く、上記の部材(A)に使用可能な素材から選ばれる任意の組み合わせであって良い。複数の重合体層が積層されて形成されている場合には、同種或いは異種の重合体であって良い。
【0114】
部材(A)は素材に応じた任意の方法で製造される。重合体の場合には、例えば、射出成形、溶融レプリカ法、溶液キャスト法、活性エネルギー線硬化法、エネルギー線硬化性組成物を用いたキャスト成型法、キャスト重合法、光造形法などにより製造できる。
複数のマイクロ流体デバイスを1つの部材(A)上に形成することも可能であるし、製造後、これらを切断して複数のマイクロ流体デバイスとすることも可能である。
【0115】
部材(A)に使用する重合体は、単独重合体であっても、共重合体であっても良く、また、熱可塑性重合体であっても、熱硬化性重合体であっても良い。生産性の面から、部材(A)に使用する重合体は、熱可塑性重合体又はエネルギー線硬化性の架橋重合体であることが好ましい。
部材(A)に使用できる重合体としては、部材(B)に使用できる重合体として上げた物と同様である。部材(B)に添加することの出来る添加物を含有しても良い。
【0116】
また、本発明のマイクロ流体デバイスの使用に当たって、タンパク質などの溶質のデバイス表面への吸着を抑制する目的で、部材(A)の表面を親水化することも好ましい。この場合についても部材(B)の場合と同様である。
【0117】
工程(II)の後、部材(A)に固着された部材(B)から一時的な支持体を溶解除去することにより、部材(B)を部材(A)に転写する。この工程を「工程(III)」と称する。
【0118】
一時的な支持体の溶解除去法は、部材(A)や部材(B)に損傷を与えなければ任意であり、例えば、液体への浸漬、シャワーなどの流動液体や噴霧液体との接触、気泡を巻き込んだ液体との接触、蒸気との接触、超臨界流体との接触、等であり得る。液体への浸漬は、浸漬静置、攪拌した液体への浸漬、液体中デイの揺動等であり得る。勿論、昇温又は降温することも可能である。例えば、一時的な支持体の溶解時間の短縮のための昇温や、一時的な支持体全体が膨潤して部材(A)が損傷することを防ぐために溶解度を増すための昇温であり得るし、また、部材(A)や部材(B)の膨潤などを防ぐ為の降温であり得る。
【0119】
これらの中で、一時的な支持体の全体が膨潤して部材(A)に損傷を与えることを防ぐために急速な溶解であることが好ましく、昇温条件で、流動する液体との接触や蒸気の吹きつけが好ましい。本発明に於ける溶解による除去とは、一時的な支持体が必ずしも完全に溶解する必用はなく、その一部が溶解して脱落除去されることも含む。
【0120】
支持体を溶解させる物質は液体や蒸気であり得るが、支持体を構成する物質の項で述べたように、支持体に応じて好適なものを採用できる。それらの中で、水、酸、アルカリなどの水系液体;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類が、部材(A)、部材(B)の素材の選択の幅が広く、また取り扱い容易であるため特に好ましい。
【0121】
本発明の製造方法に於いては、工程(III)の後に、必要に応じて、アフターキュアを行い、半硬化状態の部材や接着剤があれば、それを完全に硬化させることも好ましい。
【0122】
部材(A)に部材(B)を積層した後、部材(B)に他の部材(C)を固着することも好ましい。部材(C)の形状や寸法は部材(A)と同様であり得る。即ち、部材表面に流路となる欠損部を有する部材であり得る。該欠損部の形状や寸法は、部材(A)の場合と同様である。固着方法も任意であり、部材(A)と部材(B)の積層及び固着の場合と同様の方法が使用できる。
【0123】
部材(C)を積層し、固着して、例えば部材(B)の一部として形成されたダイヤフラムや弁体を挟んで部材(A)の反対側に流路を形成することも好ましい。
【0124】
本発明の製造方法により、ダイヤフラム式のバルブ機構を有するマイクロ流体デバイスを好ましく製造することが出来る。ダイヤフラム式バルブ機構の好ましい第1の態様は、部材(B)が、表面に溝状の欠損部とその途上に凹状の欠損部が形成された部材(A)と積層され固着されており、部材(A)が部材(B)と積層されることで、凹状の欠損部に相対する部分の部材(B)がダイヤフラムとなり、凹状の欠損部がバルブ室(その容積や断面積を変化させることで開閉や流量調節を行うダイヤフラム室)となり、溝状の欠損部が毛細管状の流路となるものである。本態様は、ダイヤフラム部分が圧迫されることで、ダイヤフラムが変形し、バルブ室の容積が減少して、流路を流れる流体の流量を制御することが出来る。流量制御は、流量をゼロにする開閉も含む。
【0125】
本発明で製造されるダイヤフラム式バルブ機構の好ましい第2の態様は、部材(A)がバルブ室となる凹部を有し、該凹部の底面に、バルブ室への流入口又は流出口、またはその両者となる孔状の欠損部を有し、流入口、流出口の少なくとも一方が、ダイヤフラムの対向面に形成されていて、その周がダイヤフラムに接していないものである。本態様は、ダイヤフラムを変形させて、該流入口、流出口の少なくとも一方の周に接することによって流路を閉鎖することが出来る。
【0126】
本発明で製造されるダイヤフラム式バルブ機構の好ましい第3の態様は、部材(A)がバルブ室となる凹部を有せず、流入口又は流出口、またはその両者となる欠損部を有し、ダイヤフラムが、部材(B)の一部に、部材(A)と接触していながら固着していない部分として形成され、バルブ室が常態において容量ゼロであり、バルブ室には流入口、流出口の少なくとも一方が、ダイヤフラムの対向面に形成されていて、その周が常態においてダイヤフラムに接しているものである。流入口や流出口となる欠損部は部材(A)に穿たれた孔であっても良いし、
【0127】
部材(A)表面に孔状の開口部を有する欠損部であっても良いし、本第1の態様のような溝状の構造であってもよい。本態様は常時閉のバルブを与え、ダイヤフラムを引くことによって流体の流通を可とすることが出来る。あるいは、流路中の流体圧力が一定値以上となったときに開となる、いわゆるチェックバルブを与える。本第3の例の構造は、工程(II)において部分硬化を施す製造方法によって得ることが出来る。
【0128】
また、本発明の製造方法により、ダイヤフラム式のポンプ機構を有するマイクロ流体デバイスを好ましく製造することが出来る。この場合、ポンプ室、即ちダイヤフラムの変形によってその容量が変化するダイヤフラム室に接続された流路のいずれかの部分に逆止弁を設けることにより、ダイヤフラム式ポンプとすることができる。逆止弁は、ポンプ室に流入する(吸引側)流路とポンプ室から流出する(吐出側)流路のそれぞれに設けることが好ましい。
【0129】
逆止弁の構造は任意であり、例えば、弁体、弁体が塞ぐ流路開口部、及び弁体の可動空間で構成されており、弁体は、舌状などのその一部が固定されたシート状(フィルム状を含む)の弁体;ダイヤフラム室に閉じこめられた球状、円錐状、板状などの独立した塊状物などであり得る。これらの中で、その一部が固定されたシート状であることが、製造が容易であり好ましい。
【0130】
ポンプの場合にも、バルブの場合と同様に、ポンプ室の容量が常態においてゼロのポンプを製造することが出来る。このようなポンプは、常時閉のバルブ機能も同時に有しており、ポンプを稼働した時にバルブ開となり、流体が移相される。
【0131】
本発明の製造方法においては、本発明の工程(I)において、部材(B)となる塗膜に、弁体と成る部分を残してその周囲を欠損部とする形状に露光することにより、部材(B)中のダイヤフラム部分と異なる部分に弁体を形成することが出来る。例えば、舌状の弁体となる構造を形成するには、馬蹄形の欠損部を形成すべく露光すればよい。
【0132】
そして、弁体の形成された部材(B)の一方の側には弁体より小さな面積の孔状の欠損部を有する部材を、孔状の欠損部を弁体に合わせて積層し、部材(B)の他方の側には弁体が可動出来るように、弁体より大きなダイヤフラム室となる欠損部を有する部材を積層することによって逆止弁を形成することが出来る。
【0133】
弁体が形成された部材(B)を、弁体より小さな面積の孔状の欠損部を有する部材と固着する際に、弁体の部分も隣接する部材と固着されてしまうことを避けるために、工程(II)において積層する前に、部分硬化法によって該部分が固着する不都合を除去することができる。
【0134】
形成したマイクロ流体デバイスは、穿孔、切断などの後加工することも可能である。また、本発明のマイクロ流体デバイスは全体が微小な大きさである為、一枚の樹脂層に多数の部材を同時に作成することが生産効率、並びに各部材の細部の精度の良い位置決めに有用である。即ち、複数の微小なマイクロ流体デバイスを一枚の露光現像版上に作成することにより、再現性良く、且つ高い精度の寸法安定性を有して多数のマイクロ流体デバイスを一度に生産することができる。
【0135】
ダイヤフラムを変形させる方法は任意であり、例えば機械的な圧迫又は吸引、磁気的な圧迫又は吸引、ダイヤフラムの反対側に形成したダイヤフラム室への流体の圧入や減圧などの圧力変化、などでありうる。
【0136】
【実施例】
以下、実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、「部」及び「%」は、特に断りがない限り、各々「質量部」及び「質量%」を表わす。
【0137】
[活性エネルギー線照射]
200Wメタルハライドランプを光源とするウシオ電機株式会社製のマルチライト200型露光装置用光源ユニットを用い、365nmにおける紫外線強度が100mW/cmの紫外線を、室温、窒素雰囲気中で照射した。
【0138】
[組成物(x)の調製]
〔組成物(x−1)の調製〕
エネルギー線重合性化合物(a)として、平均分子量約2000の3官能ウレタンアクリレートオリゴマー(大日本インキ化学工業株式会社製の「ユニディックV−4263」)30部、ω−テトラデカンジオールジアクリレートとω−ペンタデカンジオールジアクリレートを主成分とするアルキルジアクリレート(ソマール株式会社製の「サートマーC2000」)45部、
【0139】
及びノニルフェノキシポリエチレングリコール(n=17)アクリレート(第一工業製薬株式会社製の「N−177E」)25部、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバガイギー社製の「イルガキュアー184」)5部、及び重合遅延剤として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(関東化学株式会社製)0.1部を混合して、エネルギー線硬化性組成物(x−1)を調製した。なお、エネルギー線硬化性組成物(x−1)の紫外線硬化物は、引張弾性率が160MPa、水との接触角が14度であった。
【0140】
〔エネルギー線硬化性組成物(x−2)の調製〕
「ユニディックV4263」(大日本インキ化学工業株式会社製の3官能ウレタンアクリレートオリゴマー)10部、「R−684」(日本化薬株式会社製のジシクロペンタニルジアクリレート)を70部、N−177E(第一工業製薬株式会社製のノニルフェノキシポリエチレングリコール(n=17)アクリレート)を20部、紫外線重合開始剤として「イルガキュアー184」(チバガイギー社製の1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)5部、及び重合遅延剤として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(関東化学株式会社製)を0.1部を混合して、エネルギー線硬化性組成物(x−2)を調製した。なお、エネルギー線硬化性組成物(x−2)の紫外線硬化物は、引張弾性率が1160MPa、破断伸度が7.6%、水との接触角が16度であった。
【0141】
参考例1]本参考例では、隣接する部材と常態において接触しているダイヤフラムを有し、該ダイヤフラムが常時閉のバルブを構成しているマイクロ流体デバイスの製造方法について述べる。
【0142】
〔部材(A)の作製〕
76mm×26mm×厚さ3mmのポリスチレン(大日本インキ化学工業株式会社製の「ディックスチレンxC−520」)製の板と表面に幅150μm、高さ25μm、長さ20mmの2本の凸状突起を有するシリコンウェハー製の鋳型(図示せず)をガラス板に挟み、バネ式のクランプで止めて120℃の熱風炉中で約2時間加熱し、室温で冷却後、剥離することにより、ポリスチレン板(1)の表面に、流体の流路となる幅150μm、深さ25μm、長さ20mmの2本の溝状の欠損部(2)、欠損部(3)を間隔0.5mmを開けて形成し、部材(A−1)とした。
【0143】
〔工程(I):部材(B)の作製〕
一時的な支持体(図示せず)として、ポリビニルアルコール(和光純薬部式会社製、重合度2000)製の厚さ約80μmのシート(溶液キャスト法で作製)を用いこの上に、50μmのバーコーターを用いて組成物(x−1)を塗布し、フォトマスクを使用せずに10秒間紫外線を照射して、一時的な支持体上に厚み約35μmの硬化塗膜(4)を形成した。
【0144】
〔工程(II):部材(A)と部材(B)の固着〕
一時的な支持体上の硬化塗膜(4)の上に、エネルギー線硬化性組成物(x−1)の5%アセトン溶液をスピンコーターで塗布し、ダイヤフラムとなる中央部の直径1mmの円形の部分のみに紫外線を10秒間照射して、照射部分のエネルギー線硬化性組成物(x−1)を硬化させて非固着性とし、部材(A)の欠損部(2)、(3)の端が該非固着性部分内に入るように位置を合わせて部材(A−1)に積層し、紫外線を30秒間照射して固着し、硬化塗膜(4)を部材(B)(4)とした。
【0145】
〔工程(III):一時的な支持体の溶解除去〕
その後、一時的な支持体(図示せず)ごと45℃の温水に浸漬し、揺動して一時的な支持体を溶解させて除去して、部材(A−1)と部材(B)の積層体を得た。即ち、非固着部分の部材(B)(4)がダイヤフラム(5)を構成している。また、接着剤層の厚みは約1.5μmであった。
【0146】
〔その他の構造の形成〕
その後、欠損部(2)、欠損部(3)の両端部において、部材(B)(4)に、ドリルにより直径0.5mmの孔を穿ち、流入部(6)および流出部(7)を形成し、その上に、ルアーフィッティング(8)、ルアーフィッティング(9)を固着して、マイクロ流体デバイス(D−1)を作製した。
【0147】
〔試験〕
マイクロ流体デバイス(D−1)の流入部(6)のルアーフィッティング(8)に接続したマイクロシリンジから水を注入したところ、圧力が約7kPa未満では水は流通せず、それ以上の圧力を掛けると水は流通した。即ちチェックバルブとして機能することが確認された。
【0148】
参考例2]本参考例では、隣接する部材と常態において接触しているダイヤフラムを有し、該ダイヤフラムがポンプのダイヤフラムを構成しているマイクロ流体デバイスの製造方法について述べる。
〔部材(A)の作製〕参考例1と全く同様にして、部材(A−1)と同じ部材を作製し、部材(A−2)とした。
【0149】
〔工程(I):部材(B)の作製〕露光が、図5に示された形状の馬蹄形の非照射部分を有するフォトマスクを使用したこと、非照射部分の未硬化のエネルギー線硬化性組成物(x−1)を50%エタノール水溶液で洗浄除去したこと、以外は参考例1と同様にして、図5に示された形状の馬蹄形の欠損部(11)と該欠損部で囲まれた弁体(12)が形成されていること以外は参考例1と同様にして、硬化塗膜(4)の代わりに硬化塗膜(10)を形成した。
【0150】
〔工程(II):部材(A)と部材(B)の固着、及び、工程(III):一時的な支持体の溶解除去〕紫外線を部分照射して非固着性とする部分が、ダイヤフラム(5)と成す部分と弁体(12)と成す部分であること、及び、弁体(12)の中心に欠損部(3)の端部を合わせて積層したこと以外は、参考例1と同様にして、硬化塗膜(10)を部材(B)(10)と成し、部材(A−2)と部材(B)(10)との積層体を形成した。
【0151】
〔その他の構造の形成〕欠損部(3)の端部においては、部材(B)(10)に孔を穿たなかったこと、及び、部材(B)(10)、ダイヤフラム(5)部分の上に、直径1mmの鋼球(図示せず)をエネルギー線硬化性組成物(x−1)と紫外線で固着したこと、以外は参考例1と同様にしてマイクロ流体デバイス(D−2)を作製した。
〔試験〕マイクロ流体デバイス(D−2)をダイヤフラム側を上にして置き、流入部(6)のルアーフィッティング(8)に接続したマイクロシリンジから水を注入して欠損部(11)及び弁体(12)までの空間に水を充填した。次いでマイクロシリンジを取り外し、マイクロ流体デバイスの上方からアルニコ磁石を鋼球に近づけて上下に運動させたところ、水は流入部(6)から欠損部(11)及び弁体(12)へと移送され、磁石の運動を止めると水の移送は停止した。即ちポンプとして機能すること、及び、常態において流路が閉の状態となるバルブ機能を兼ねることが確認された。
【0152】
参考例3]本参考例では、常時開のダイヤフラム式バルブを構成しているダイヤフラムを有するマイクロ流体デバイスの製造方法について述べる。
〔部材(A)の形成〕ポリスチレン(大日本インキ化学工業株式会社製の「ディックスチレンXC−520」)からなる5cm×5cm×厚さ3mmの板状の基材(21)に、127μmのバーコーターを用いてエネルギー線硬化性組成物(x−2)を塗工し、塗膜(22)を形成した。次いで、フォトマスクなしに紫外線を10秒間照射して硬化させ、基材(21)の表面に樹脂層(22)を形成した。次いで、樹脂層(22)の上に、127μmのバーコーターを用いてエネルギー線硬化性組成物(x−2)を塗工して塗膜(22)を形成し、フォトマスクを通して、幅100μm、長さ30mmの図6に示した非露光部(24)以外の部分に紫外線を10秒間照射する露光を行って硬化させ、非露光部を除去し、欠損部(24)を有する樹脂層(23)を形成し、部材(A−3)とした。
【0153】
〔工程(I):部材(B)の作製〕
一時的な支持体(図示せず)として、ポリビニルアルコール(和光純薬部式会社製、重合度2000)製の厚さ約80μmのシート(溶液キャスト法で作製)を用いこの上に、50μmのバーコーターを用いて組成物(x−1)を塗布し、フォトマスクを使用せずに10秒間紫外線を照射して、一時的な支持体上に厚み約35μmの硬化塗膜(56)を形成した。
【0154】
〔工程(II):部材(A)と部材(B)の固着〕
一時的な支持体上の硬化塗膜(25)の上に、エネルギー線硬化性組成物(x−1)の5%アセトン溶液をスピンコーターで塗布して部材(A−3)に積層し、紫外線を10秒間照射して固着し、硬化塗膜(25)を部材(B)(25)とした。
【0155】
〔工程(III):一時的な支持体の溶解除去〕その後、一時的な支持体(図示せず)を参考例1と同様にして溶解除去して、部材(A−3)と部材(B)(25)の積層体を得た。即ち、部材(A−3)の欠損部に面した部材(B)(25)の一部がダイヤフラム(5)を構成している。また、接着剤層の厚みは約1.5μmであった。
【0156】
〔部材(C)の作製と固着〕
欠損部(24)の代わりに、中央部の直径600μmの円と、それに接続された幅200μm、長さ20mmの直線上の欠損部(26)を設けたこと以外は部材(A−3)と同様にして、ポリスチレン製の基材(27)、欠損部を有しない樹脂層(28)、欠損部を有する樹脂層(29)、部材(C−3)を作製した。次いで、部材(A−3)と部材(B)(25)の積層体の、部材(A−3)とは反対の部材(B)表面に工程(II)と同様にして接着剤を塗布し、部材(C−3)を図6に示された位置に合わせて積層し、紫外線を30秒間照射して部材(C−3)を固着した。
【0157】
〔その他の構造の形成〕
樹脂層(23)の欠損部(24)の両端部において、部材(A−3)の基材(21)及び樹脂層(22)に、ドリルにて直径5.1mmの孔を穿ち、外径5mmの塩化ビニル管をエポキシ系接着剤にて固着して、欠損部(24)に連絡する液体流入部(30)及び液体流出部(31)を形成した。
【0158】
また、樹脂層(29)の欠損部(26)の外側端部において、部材(C−3)の基材(27)及び樹脂層(28)に、ドリルにて直径1.6mmの孔を穿ち、外径1.6mmのステンレス管をエポキシ系接着剤にて固着して、欠損部(26)に連絡する気体導入部(32)を形成して、マイクロ流体デバイス(D−3)を作製した。作製されたマイクロ流体デバイスの平面図の模式図を図6に、図6中のA部における断面図の模式図を図7に示す。
【0159】
〔流量調節試験〕
液体流入部(30)から圧力約10kPaで水を導入し、大気に解放した液体流出部(31)から流出させた状態で、気体導入部(32)から0.5MPaの圧力の窒素を導入したところ、水の流量は殆どゼロになった。また、窒素圧を変化させることによって水の流量を調節することができた。即ち、開閉バルブ及び流量調節バルブとして作動することを確認した。
【0160】
[実施例]本実施例では、逆止弁を有し、ポンプのダイヤフラムとして機能するダイヤフラムを有するマイクロ流体デバイスの製造方法について述べる。
【0161】
〔部材(A)の作製〕
ポリスチレン(大日本インキ化学工業株式会社製の「ディックスチレンXC−520」)からなる5cm×5cm×厚さ3mmの板を基材(41)としてこれに組成物(x−2)をバーコーターを用いて塗布し、フォトマスク無しで紫外線を10秒間照射して欠損部の無い厚さ約100μmの樹脂層(X−4−1)(42)を形成した。
【0162】
〔樹脂層(X−4−2)の作製と固着〕
更にその上に組成物(x−2)を塗布し、フォトマスクを用いて図8に示された、欠損部(44)、欠損部(44’)と成す部分以外の部分に紫外線を10秒間照射し、未照射部分の未硬化の組成物(x−2)を50%エタノール水溶液にて除去して該層の欠損部として表面に幅100μm、間隔0.6mmを置いて直列に並んだ長さ10mmの2本の凹状の欠損部(44)、欠損部(44’)を有する厚さ約100μmの樹脂層(X−4−2)(43)を形成した。この積層体の凹状の欠損部(44)、欠損部(44’)の両端部において直径3mmの貫通孔(45)、貫通孔(45’)を穿ち部材(A−4−1)とした。
【0163】
〔樹脂層(X−4−3)の作製と固着〕一時的な支持体(図示せず)として参考例1の部材(A)の作製で用いたと同じフィルムを用いこの上に、127μmのバーコーターを用いて組成物(x−2)を塗布し、フォトマスクを使用して、図9に示されたような、欠損部と成す部分以外の部分に紫外線を10秒間照射して、照射部分の組成物(x−2)塗膜を硬化させ、非照射部分の未硬化の塗膜をエタノールにて洗浄除去し、中心間距離が1mmで設けられた直径100μmと600μmの2つの孔状の欠損部(47)、欠損部(47')を有する硬化塗膜(X−4−3)(46)を形成した。
【0164】
一時的な支持体上の硬化塗膜(X−4−3)(46)の上に、エネルギー線硬化性組成物(x−2)の5%アセトン溶液をスピンコーターで塗布し、欠損部(47)、欠損部(47’)がそれぞれ樹脂層(X−4−2)(43)の欠損部(44)、欠損部(44’)に連絡するように位置を合わせて積層し、紫外線を10秒間照射して固着し、硬化塗膜(X−4−3)(46)を樹脂層(X−4−3)(46)とした。その後、一時的な支持体(図示せず)を樹脂層(X−4−3)(46)から溶解して除去し、部材(A)(A−4−1)の上に上記形状の欠損部を有する樹脂層(X−4−3)(46)を積層し固着し、これを部材(A−4−2)とした。樹脂層(X−4−3)(46)の厚みは約100μm、接着剤層の厚みは約1.5μmであった。
【0165】
〔弁体を有する樹脂層(X−4−4)の作製〕
又別途、欠損部と成す形状が、図10に示されたように、芯間距離1mmで設けられた、長さ、幅共に400μmの舌状の弁(50)、舌状の弁体(50’)と成す部分の周囲の幅100μmの馬蹄形(49、49’)であること、接着剤がエネルギー線硬化性組成物(x−1)の5%アセトン溶液であること、及び接着剤の塗布後、フォトマスクを用いて、馬蹄形の欠損部(49、49’)で囲まれた舌状の弁体(50、50’)と成す部分のみにさらに紫外線を20秒間照射し、照射部分の接着剤を硬化させて非固着性とした後に積層し固着したこと、以外は、樹脂層(X−4−3)(46)の形成と同様にして、樹脂層(X−4−4)(48)を部材(A−4−2)の上に積層し固着して、部材(A−4−3)とした。樹脂層(X−4−4)(48)の厚みは約37μm、接着剤層の厚みは約1.5μmであった。
【0166】
〔樹脂層(X−4−5)の形成と固着〕
大小の2つの孔状の欠損部(52)、欠損部(52’)の位置を樹脂層(X−4−3)(46)の孔状の欠損部(47)、欠損部(47’)とは逆向きにして積層したこと以外は樹脂層(X−4−3)(46)と同様の方法で、図9に示された樹脂層(X−4−5)(51)を作製して積層し固着して、これを部材(A−4−4)とした。
【0167】
〔樹脂層(X−4−6)の形成と固着〕
欠損部(54)の形状が、図11に示された様な、長さ1.5mm、幅700μmの直線状であること以外は、樹脂層(X−4−3)(46)と同様にして、樹脂層(X−4−6)(53)を形成し、部材(A−4−4)の樹脂層(X−4−5)(51)の上に積層し固着して、これを部材(A−4)とした。樹脂層(X−4−6)(53)の厚みは約100μm、接着剤層の厚みは約1.5μmであった。
【0168】
〔部材(B)の形成〕
紫外線照射に当たりフォトマスクを使用せず、塗膜全面に照射して、欠損部を設けなかったこと以外は弁を有する樹脂層(X−4−4)(48)の場合と同様にして、部材(A−4)の上に、柔軟な素材で形成された欠損部を有しない部材(B)(55)を積層し固着した。部材(B)(55)の厚みは約37μm、接着剤層の厚みは約1.5μmであった。
【0169】
〔部材(C)の作製と固着〕
凹状の欠損部(58)の形状が図13に示したように、長さ1.5mm、幅700μmの直線と、長さ10mm、幅300μmの直線から成るT字型であること、及び部材を貫通する孔状の欠損部(59)が、幅300μmの凹状の欠損部の端に1カ所設けられていること以外は部材(A−4−1)と同様の部材(C−8)を部材(A−4−1)と同様の方法で作製した。即ち、部材(C−8)は、ポリスチレン製の基材(56)と欠損部(58)を有する樹脂層(57)の積層体として形成され、部材を貫通する孔状の欠損部(59)が設けられている。
【0170】
次いで、部材(A−4−5)と部材(B)の積層体の部材(B)面に、接着剤として組成物(x−1)の5%アセトン溶液をスピンコーターで塗布し、その上に部材(C−8)を、該部材の欠損部(58)を部材(B)(55)を隔てて樹脂層(X−4−4)の欠損部(54)に相対する位置に合わせて積層し、紫外線を30秒間照射することによって部材(B)(55)に固着した。また、この紫外線照射によって、その他の樹脂層も十分に硬化させた。
【0171】
〔流入出部の形成〕
部材(A−4)及び部材(C−8)に設けられた欠損部(45)、欠損部(45’)、(59)からなる孔に、外径3mmの塩化ビニル管をエポキシ系接着剤にて固着して、液体流入部(60)、液体流出部(61)、及び気体導入部(62)を形成して、マイクロ流体デバイス(D−4)を作製した。作製されたマイクロ流体デバイスの平面図の模式図を図14に、図14注のA部に於ける断面図の模式図を図15に示す。
【0172】
〔送液試験〕
液体流入部(60)から水を導入したところ、水は大気に解放した液体流出部(61)から流出した。逆に、液体流出部(61)に水を導入しても液体流入部(60)からは流出しなかった。次いで、気体導入部(62)に0.5MPaの圧力の窒素を間欠的に導入したところ、水は液体流入部(60)から吸い込まれ、液体流出部(61)から流出した。即ち、本マイクロ流体デバイスはポンプとして作動した。
【0173】
【発明の効果】
本発明は、柔軟で、特に非常に薄く破損しやすい塗膜状の樹脂層を工業的に安定した方法で他の部材に積層して固着し、また、該樹脂層を他の部材に正確に位置を合わせて積層し形成される、積層構造を有するマイクロ流体デバイスを高い生産性で製造する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】参考例1及び2で使用した部材(A)を、表面に垂直な方向から見た平面図の模式図である。
【図2】参考例1で使用した部材(B)を、表面に垂直な方向から見た平面図の模式図である。
【図3】参考例1で作製したマイクロ流体デバイスの平面図の模式図である。
【図4】参考例1で作製したマイクロ流体デバイスのα部における立面断面図の模式図である。但し、接着剤層は省略してある。
【図5】参考例2で使用した部材(B)を、表面に垂直な方向から見た平面図の模式図である。
【図6】参考例3で作製したマイクロ流体デバイスの平面図の模式図である。
【図7】参考例3で作製したマイクロ流体デバイスの、図6のA部での断面図の模式図である。但し、接着剤層は省略してある。
【図8】実施例で作製した部材(A−4−1)を、欠損部が形成された表面に垂直な方向から見た平面図の模式図である。
【図9】実施例で作製した樹脂層(X−4−1)及び樹脂層(X−4−3)の平面図の模式図である。
【図10】実施例で作製した樹脂層(X−4−2)の平面図の模式図である。
【図11】実施例で作製した樹脂層(X−4−4)の平面図の模式図である。
【図12】実施例で作製した部材(B)の平面図である。
【図13】実施例で作製した部材(C−4)を、欠損部が形成された表面に垂直な方向から見た平面図の模式図である。
【図14】実施例で作製したマイクロ流体デバイスの部分拡大図を含む平面図の模式図である。
【図15】実施例で作製したマイクロ流体デバイスの、図14のA部での断面図の模式図である。但し、接着剤層は省略してある。

Claims (8)

  1. 部材表面に開口し、かつ流路と成る欠損部が形成された部材(A)と、塗膜状の部材(B)が積層されて成り、一部が固定されたシート状の弁体と毛細管状の流路を有するマイクロ流体デバイスの製造方法であって、
    (I)一時的な支持体上に塗膜状の部材(B)形成材料を固化することにより、前記一時的な支持体上に形成した塗膜状の部材(B)を形成するとともに、前記一部が固定されたシート状の弁体を形成する工程、
    (II)前記シート状の弁体が前記欠損部に相対するように、前記部材(B)を前記部材(A)の前記欠損部形成面に積層して、前記弁体を除いた部分を固着する工程、及び、
    (III)前記部材(B)から前記一時的な支持体を溶解によって除去する工程を行なうことにより
    前記塗膜状の部材(B)を前記部材(A)に転写することを特徴とするマイクロ流体デバイスの製造方法。
  2. 前記部材(B)形成材料が活性エネルギー線重合性化合物(a)を含有する活性エネルギー線硬化性組成物(x)であり、前記工程(I)における塗膜状の部材(B)形成材料の固化が活性エネルギー線の照射によるものである請求項1に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法。
  3. 前記工程(I)が、(I-i)前記エネルギー線硬化性組成物(x)を前記一時的な支持体へ塗布し、(I-ii)前記エネルギー線硬化性組成物(x)の未硬化塗膜に活性エネルギー線をパターニング照射し、非照射部分を未硬化状態に残して照射部分を硬化させ、(I-iii)前記塗膜の非照射部の未硬化のエネルギー線硬化性組成物(x)を除去することにより、前記部材(B)に、前記弁体と成る部分を残してその周囲に、該部材を貫通する欠損部を形成する工程からなり、さらに、前記工程(II)が、(II-i)該部材(B)と、前記部材(A)とを積層して接着剤により固着する工程からなる請求項記載のマイクロ流体デバイスの製造方法。
  4. 前記工程(I)が、(I-i’)前記エネルギー線硬化性組成物(x)を前記一時的な支持体へ塗布し、(I-ii’)前記エネルギー線硬化性組成物(x)の未硬化塗膜に活性エネルギー線をパターニング照射し、非照射部分を未硬化状態に残して、照射部分を半硬化し、(I-iii’)前記塗膜の非照射部の未硬化のエネルギー線硬化性組成物(x)を除去することにより、前記部材(B)に、前記弁体と成る部分を残してその周囲に、該部材を貫通する欠損部を形成する工程からなり、さらに、前記工程(II)が、(II-i’)該部材(B)と前記部材(A)とを積層し、活性エネルギー線を照射して前記部材(B)を硬化し前記部材(A)に固着する工程から成る請求項記載のマイクロ流体デバイスの製造方法。
  5. 前記エネルギー線重合性化合物(a)が、一分子中に2つ以上の活性エネルギー線重合性官能基を有する化合物である請求項に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法。
  6. 前記活性エネルギー線硬化性組成物(x)が、前記エネルギー線重合性化合物(a)と共重合しうる両親媒性の重合性化合物(b)を含有するものである請求項に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法。
  7. 前記部材(B)の引張弾性率と厚みの積が、3×10−4〜1×10−1MPa・mの範囲にある請求項1に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法。
  8. 前記工程(I)〜(III)を行った後に、表面に達し流路となる欠損部を有する部材(C)を前記部材(B)に積層し固着させる請求項1に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法。
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