JP4306178B2 - 鋼材の加熱方法及びそのプログラム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、誘導加熱装置を用いて温度分布をもつ鋼材を搬送しつつ均一に加熱する技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
複数の誘導加熱装置を用いて、鋼材を搬送しながら加熱する場合の制御方法に関しては、例えば特開平11−297460において、消費電力が最も少なくなるような各誘導加熱装置の電力分配を与える制御方法が提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、誘導加熱装置を設置したライン上に鋼材を搬送しながら加熱する場合、鋼材の先端部と後端部では最初の誘導加熱装置によって誘導加熱されるまでの待ち時間が異なる。この結果、大気への熱放散によって鋼材の先端部と後端部では温度差が生じる。従って、先端部を加熱するために必要な電力と同じ電力を誘導加熱装置に設定して鋼材全体を加熱すると、鋼材は均一に加熱されず先端部と後端部で最終的な加熱温度に差が生じることになる。
【0004】
このため、鋼材の進行方向に分割された各部分の温度を測定し、その温度値を用いて誘導加熱装置の最適な加熱電力をその都度繰り返して解析手法により計算することが考えられる。しかし、この方式では計算量が非常に多く、電力の計算を実行する制御装置に過大な負荷をかけることとなるため、現実的な構成ではない。
【0005】
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであって、誘導加熱装置の設定電力の計算を行う制御装置に過大な負担をかけることなく、温度分布の存在する鋼材の温度を均一に加熱することができる鋼材の熱処理方法およびそのプログラムを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解消するための本発明は、初段の誘導加熱装置の入側に設けられた温度検出器で検出された前記鋼材の先頭部分の温度と前記鋼材の搬送速度とからそれぞれの誘導加熱装置毎の加熱目標温度を算出する目標温度算出ステップと、前記鋼材の先頭部分においては、前記加熱目標温度に基づいてそれぞれの誘導加熱装置に供給する電力を算出し、前記鋼材の先頭部分の移動に合わせてそれぞれの誘導加熱装置に前記電力を制御して供給する電力供給ステップと、前記鋼材の先頭より後の部分においては、前記温度検出器で検出された温度と先頭部分の温度との温度差に応じて、それぞれの誘導加熱装置の前記加熱目標温度を補正した新たな加熱目標温度を算出する目標温度補正ステップと、前記新たな加熱目標温度に基づいてそれぞれの誘導加熱装置に供給する新たな電力を算出し、前記鋼材の先頭より後の部分の移動に合わせてそれぞれの誘導加熱装置に前記新たな電力を制御して供給する補正電力制御ステップとを備え、前記目標温度補正ステップは、ラインに設置された複数の誘導加熱装置のうち、先頭からj番目の誘導加熱装置の加熱目標温度Tr(j)、前記鋼材の先頭より後の部分と前記鋼材の先頭部分との温度差ΔT、係数α(j)、誘導加熱装置台数Nを用いて、下記式から前記新たな加熱目標温度Tr’(j)を算出することを特徴とする鋼材の加熱方法。
Tr’(j)= Tr(j)−ΔT×α(j)
ここで、αは、下記条件を満たす係数。
1>α(1)>α(2)>・・・>α(N)=0
【0009】
また本発明は、コンピュータに、初段の誘導加熱装置の入側に設けられた温度検出器で検出された前記鋼材の先頭部分の温度と前記鋼材の搬送速度とからそれぞれの誘導加熱装置毎の加熱目標温度を算出する目標温度算出手順、前記鋼材の先頭部分においては、前記加熱目標温度に基づいてそれぞれの誘導加熱装置に供給する電力を算出し、前記鋼材の先頭部分の移動に合わせてそれぞれの誘導加熱装置に前記電力を制御して供給する電力供給手順、前記鋼材の先頭より後の部分においては、前記温度検出器で検出された温度と先頭部分の温度との温度差に応じて、それぞれの誘導加熱装置の前記加熱目標温度を補正した新たな加熱目標温度を算出する目標温度補正手順、前記新たな加熱目標温度に基づいてそれぞれの誘導加熱装置に供給する新たな電力を算出し、前記鋼材の先頭より後の部分の移動に合わせてそれぞれの誘導加熱装置に前記新たな電力を制御して供給する補正電力制御手順、を実行させ、前記目標温度補正手順は、ラインに設置された複数の誘導加熱装置のうち、先頭からj番目の誘導加熱装置の加熱目標温度Tr(j)、前記鋼材の先頭より後の部分と前記鋼材の先頭部分との温度差ΔT、係数α(j)、誘導加熱装置台数Nを用いて、下記式から前記新たな加熱目標温度Tr’(j)を算出することを特徴とするプログラム。
Tr’(j)= Tr(j)−ΔT×α(j)
ここで、αは、下記条件を満たす係数。
1>α(1)>α(2)>・・・>α(N)=0
【0013】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る誘導加熱装置の概略構成を示す側面図である。
【0014】
ライン上には誘導加熱装置1が複数台設置されており、被加熱材である鋼材2は図中左から右の方向に搬送されながら、それぞれの誘導加熱装置1によって加熱される。
【0015】
初段の誘導加熱装置1の入側には温度検出器3が備えられ、加熱前の鋼材2の温度を検出する。検出された温度は制御装置4に入力され、制御装置4は鋼材2の温度から、それぞれの誘導加熱装置1に供給するべき電力量を計算し、電力供給装置5に対してその電力量を設定値として出力する。そして、電力供給装置5は誘導加熱装置1の電力を制御装置4からの設定値になるよう制御する。
【0016】
尚、制御装置4には搬送ローラ7から搬送パルスが入力され、制御装置4はこのパルス信号に基づいて、鋼材2の搬送速度、搬送量を計算する。また、最終段の誘導加熱装置1の出側には温度検出器8が備えられ、加熱処理された鋼材2の温度を監視できるようになっている。
【0017】
次に、本構成の誘導加熱装置1を用いて鋼材2の温度を制御する方法について説明する。
【0018】
本実施の形態では、鋼材2の移動方向の温度を精度良く制御するため、鋼材2を仮想的に複数の部分(以下、「仮想部分」という)に分割して温度を管理する。図1で鋼材2に記された点線が仮想部分の境界を示している。この仮想部分に記載された番号i−1、i、i+1は、鋼材2の先頭からの順番を表したものである。
【0019】
図2は、鋼材2の温度を制御する概略の手順を示すフロー図である。
【0020】
誘導加熱装置1を複数台用いて鋼材2を加熱する場合、それぞれの誘導加熱装置1での加熱目標温度は、最終目標温度、消費電力、鋼材2の熱処理上受ける温度制約条件などの要因により決定されるものである。通常これらの条件は加熱処理のための基準として、鋼材2毎に予め上位コンピュータ等から指示され、制御装置4に入力されている。
【0021】
そこで、制御装置4はこれから加熱しようとする鋼材2について最終目標温度を取り出す(S1)。
【0022】
鋼材2が搬送され所定の位置を通過したときに、図示しない通過検出器が「材有り」を検出して制御装置4に信号を出力する。制御装置4はこのタイミングで鋼材2の先頭部分の温度と鋼材2の搬送速度を読み込む(S2)。そして、伝熱計算等の手法によって、各誘導加熱装置1での加熱目標温度を決定する(S3)。ここで、ラインに設置される複数の誘導加熱装置1のうち先頭からj番目の誘導加熱装置1の加熱目標温度をTr(j)とする。
【0023】
尚、各誘導加熱装置1の加熱目標温度は、各誘導加熱装置1の加熱電力が能力の範囲内で、各誘導加熱装置1の消費電力の和が最小になり、加熱途中の温度が与えられた制約条件(例えば加熱上限温度等)を超えない範囲に納まるように決定される。
【0024】
そして、加熱目標温度Tr(j)を得るための電力量をそれぞれの誘導加熱装置1毎に算出する(S4)。ここで、加熱後の鋼材2の温度が目標温度Tr(j)となるようなj番目の誘導加熱装置1の設定電力をP(j)とする。
【0025】
続いて、鋼材2の先頭部分の移動に同期して、算出した設定電力P(j)を電力供給装置5に出力する(S5)。電力供給装置5は、この設定電力電力P(j)に基づいて誘導加熱装置1を制御する。
【0026】
ところで、鋼材2の先頭部分と後端部分とでは、加熱されるまでの待ち時間の差によって図3に示すような温度分布が存在する。そこで、鋼材2のi番目の仮想部分の温度を制御するため、鋼材2の移動量に基づいて鋼材2のi番目の仮想部分の温度を読み込む(S6)。
【0027】
ここで、もし目標温度Tr(j)を変更せずに以降の加熱制御を続けた場合は、最初の誘導加熱装置1に供給すべき設定電力P(1)のみが過大な負荷を負うことになり、鋼材2に対する急激な熱負荷による品質への悪影響が懸念され、また設備的にも誘導加熱装置1の能力増が必要とされるなどの問題点が発生する。
【0028】
そこで、制御装置4は加熱目標温度Tr(j)を補正し、鋼材2の先頭からi番目の仮想部分の新たな加熱目標温度Tr’(i,j)を算出する(S7)。
【0029】
鋼材2の先頭からi番目の仮想部分の温度をT0(i)と表し、鋼材の先端温度T0(1)とT0(i)との差ΔTiを用いて、j番目の誘導加熱装置での補正された加熱目標温度Tr’(i,j)を以下の式で与える。
【0030】
Tr’(i,j)= Tr(j)−ΔTi×α(i,j) (1)
ΔTi= T0(1)− T0(i) (2)
ここで、αは、式(3)の条件を満たす係数である。
【0031】
1>=α(i,1)>=α(i,2)
>=・・・>=α(i,N)=0 (3)
ただし、N:誘導加熱装置の台数
図4は、当初の目標温度と補正された目標温度を表した模式図である。
【0032】
このようにして、初期温度差ΔTiの影響を加熱目標温度を変更して、全ての誘導加熱装置1を使用して解消することによって鋼材2に対して均一な加熱処理を施すことができ、また誘導加熱装置1の負荷の平準化を図ることが出来る。
【0033】
尚、α(i,j)は式(3)に示す関係を有するものであれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜決定しても良い。例えば、α(i,j)を一定量だけ減少するように設定しても良く、徐々に差が小さくなるように設定しても良い。一般的にα(i,j)を式(4)で当てはめて設定するものであっても良い。
【0034】
α(i,x+1)−α(i,x)= ax−n+b (4)
ここで、nは0以上の正の実数。
【0036】
1>α(i,1)かつα(i,2)=0の場合は、1台目はTr(1)より低めの加熱目標温度Tr’1(1)で加熱を行い、2番目の誘導加熱装置1で電力の不足分を補うことになる。
【0037】
制御装置4は、このようにして新しい目標温度を算出した後、それぞれの誘導加熱装置1に加算すべき電力量ΔP(i,1)を式(5)を用いて求める(S8)。
【0038】
ΔP(i,j)=ΔTi×(1−α(i,j))×m×Cp/Δt (5)
ただし、
m:加熱対象部分の鋼材の質量
Cp:比熱
Δt:加熱対象部分がそれぞれの誘導加熱装置を通過する時間
この場合、鋼材2の先端からi番目の部分のj台目の誘導加熱装置1に供給すべき電力P’(i,j)は、式(6)で表される。
【0039】
P’(i,j)=P(j)+ΔP(i,j) (6)
図5は、当初の電力量と補正された電力量を表した模式図である。
【0040】
そして、鋼材2の先端からi番目の仮想部分の移動に同期して、算出した設定電力を電力供給装置5に出力する(S9)。以上の処理を鋼材2の後端部分が全ての誘導加熱装置1を通過するまで繰り返す(S10)。
【0041】
このように、先端部分より後の部分については、先端部との温度差に応じて、それぞれの誘導加熱装置1での加熱目標温度を補正するように構成することにより、改めて目標値を計算する必要がないため制御装置4に過大な負荷をかけることなく、また特定の誘導加熱装置1に大きな負荷をかけることなく鋼材全体を加熱目標温度に無理なく加熱することができる。
【0042】
尚、本実施の形態では、制御装置4から電力量を電力供給装置5に出力しているが、本発明はこの形態に限定されるものではなく、制御装置4から目標温度を電力供給装置5に出力し、電力供給装置5で電力量を算出して誘導加熱装置1に供給するように構成しても良い。
【0043】
また、本発明では温度が徐々に低下しているような温度分布を示す鋼材2の温度を均一にする実施例について説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく温度が徐々に上昇している場合にも適用することができ、さらに温度が極値を持つような分布をしている場合にも適用することができることは上述の手順に従えば当然に把握できることである。
【0044】
尚、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明を抽出することができる。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成を発明として抽出することができる。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、誘導加熱装置の設定電力値の計算を行う制御装置に過大な負担をかけることなく、温度分布の存在する鋼材の温度を均一に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る誘導加熱装置の概略構成を示す側面図。
【図2】鋼材の温度を制御する概略の手順を示すフロー図。
【図3】鋼材の温度分布を示す図。
【図4】当初の加熱目標温度と補正された加熱目標温度を表した模式図。
【図5】当初の電力量と補正された電力量を表した模式図。
【符号の説明】
1…誘導加熱装置
2…鋼材
3…温度検出器
4…制御装置
5…電力供給装置
7…搬送ローラ
Claims (2)
- 誘導加熱装置を複数台配設したライン上を通過させることにより鋼材を目標温度に加熱する鋼材の加熱方法において、
初段の誘導加熱装置の入側に設けられた温度検出器で検出された前記鋼材の先頭部分の温度と前記鋼材の搬送速度とからそれぞれの誘導加熱装置毎の加熱目標温度を算出する目標温度算出ステップと、
前記鋼材の先頭部分においては、前記加熱目標温度に基づいてそれぞれの誘導加熱装置に供給する電力を算出し、前記鋼材の先頭部分の移動に合わせてそれぞれの誘導加熱装置に前記電力を制御して供給する電力供給ステップと、
前記鋼材の先頭より後の部分においては、前記温度検出器で検出された温度と先頭部分の温度との温度差に応じて、それぞれの誘導加熱装置の前記加熱目標温度を補正した新たな加熱目標温度を算出する目標温度補正ステップと、
前記新たな加熱目標温度に基づいてそれぞれの誘導加熱装置に供給する新たな電力を算出し、前記鋼材の先頭より後の部分の移動に合わせてそれぞれの誘導加熱装置に前記新たな電力を制御して供給する補正電力制御ステップと
を備え、
前記目標温度補正ステップは、
ラインに設置された複数の誘導加熱装置のうち、先頭からj番目の誘導加熱装置の加熱目標温度Tr(j)、前記鋼材の先頭より後の部分と前記鋼材の先頭部分との温度差ΔT、係数α(j)、誘導加熱装置台数Nを用いて、
下記式から前記新たな加熱目標温度Tr’(j)を算出することを特徴とする鋼材の加熱方法。
Tr’(j)= Tr(j)−ΔT×α(j)
ここで、αは、下記条件を満たす係数。
1>α(1)>α(2)>・・・>α(N)=0 - 誘導加熱装置を複数台配設したライン上を通過させることにより鋼材を目標温度に加熱する鋼材の加熱制御プログラムにおいて、
コンピュータに、
初段の誘導加熱装置の入側に設けられた温度検出器で検出された前記鋼材の先頭部分の温度と前記鋼材の搬送速度とからそれぞれの誘導加熱装置毎の加熱目標温度を算出する目標温度算出手順、
前記鋼材の先頭部分においては、前記加熱目標温度に基づいてそれぞれの誘導加熱装置に供給する電力を算出し、前記鋼材の先頭部分の移動に合わせてそれぞれの誘導加熱装置に前記電力を制御して供給する電力供給手順、
前記鋼材の先頭より後の部分においては、前記温度検出器で検出された温度と先頭部分の温度との温度差に応じて、それぞれの誘導加熱装置の前記加熱目標温度を補正した新たな加熱目標温度を算出する目標温度補正手順、
前記新たな加熱目標温度に基づいてそれぞれの誘導加熱装置に供給する新たな電力を算出し、前記鋼材の先頭より後の部分の移動に合わせてそれぞれの誘導加熱装置に前記新たな電力を制御して供給する補正電力制御手順、
を実行させ、
前記目標温度補正手順は、
ラインに設置された複数の誘導加熱装置のうち、先頭からj番目の誘導加熱装置の加熱目標温度Tr(j)、前記鋼材の先頭より後の部分と前記鋼材の先頭部分との温度差ΔT、係数α(j)、誘導加熱装置台数Nを用いて、
下記式から前記新たな加熱目標温度Tr’(j)を算出することを特徴とするプログラム。
Tr’(j)= Tr(j)−ΔT×α(j)
ここで、αは、下記条件を満たす係数。
1>α(1)>α(2)>・・・>α(N)=0
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