JP4299050B2 - 運転室補強構造 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、運転室補強構造、さらに詳しくは、運転室に作業機械の転倒などにより外力が作用したときに、運転室の変形、潰れを抑制して室内のオペレータを保護する、運転室補強構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
作業機械に備えられる運転室は、機体フレームにその床部分が防振のための弾性支持部材である例えばビスカスマウントを介して取付けられている(例えば、特許文献1参照)。この運転室設置構造においては、万一機体が転倒するなどにより外力が作用した場合、ビスカスマウントに運転室と機体フレームとを引き離す力が作用し、この力が過度になるとビスカスマウントが破損し、運転室が倒壊し、室内にオペレータの空間を確保するのが難しくなる。
【0003】
この対策として、例えばビスカスマウントがその作用範囲以上に引っ張られて破損しないように、ビスカスマウントのストロークを制限する補強構造物を追加することが行われる(例えば、特許文献2参照)。この形態においては運転室を倒壊させようとするエネルギーはすべて運転室の構造物で受けることになり、静的な荷重であれば対応できても衝撃荷重の場合には構造物の変形、潰れによってエネルギーを吸収するのが難しい。
【0004】
したがってこのような場合には、運転室保護構造として、運転室全体を覆うように形成したキャブガードが採用されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、この運転室保護構造は、運転室とは別体に運転室全体を覆うようにかつ倒壊しないように頑強に形成されるので、コストが高く、設置スペースを設けるための機体のレイアウトが難しく、また室内のオペレータからの視界が悪くなる、などの解決すべき問題を有している。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−317850号公報(第1図、第2図)
【特許文献2】
特開2002−339406号公報(第4図)
【特許文献3】
特開2001−173017号公報(第1図)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事実に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、作業機械の転倒時などに運転室に加わる力によるエネルギーを、運転室の変形以外においても吸収できるようにし、運転室本体の変形を抑制し、オペレータの空間確保に必要な運転室の剛性追加を最小限にできるようにし、安価で、設置スペースに制限されない、またオペレータの視界を妨げない、運転室補強構造を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載された発明は、弾性支持部材を介して作業機械の機体フレームに取付けられた運転室と該機体フレームとの間に1個以上の緩衝手段を介在させ、
該緩衝手段が、該機体フレーム又は運転室のいずれか一方に取付けられた引張弾性部材と、該機体フレーム又は運転室の他方に取付けられてこの引張弾性部材に該引離し方向において係合する引張部材とを備え、該運転室に機体フレームから引離す方向の力が作用し引離し変位が該弾性支持部材の作用範囲を越えた所定の大きさになると、該緩衝手段が作用して該所定の大きさを越えた変位を弾性的に吸収する、ことを特徴とする運転室補強構造である。
【0008】
そして、運転室に過大な力が作用し、弾性支持部材の作用範囲を変位が越え、所定の大きさになった場合には、その変位を緩衝手段に伝え、運転室を倒壊させようとするエネルギーの一部又は全部を緩衝手段によって吸収し、運転室本体の変形を抑制し、オペレータの空間を確保し、また運転室の剛性補強を最小限にするすることができるようにする。さらに、構造が従来のキャブガードなどに比べて簡単にできるので、安価であり、設置スペースに制限されず、オペレータの視界も妨害しない。
【0010】
すなわち、引張弾性部材と引張部材を係合させ、引張弾性部材を変形させることにより変位を弾性的に吸収し、運転室を変形させようとするエネルギーを吸収する。
【0011】
請求項に記載された発明は、請求項記載の運転室補強構造において、該引張弾性部材が引張コイルスプリングを備え、該引張部材の一端が引張コイルスプリング内に挿入され、この挿入部と引張コイルスプリングとが係合可能に形成されているものである。
【0012】
そして、引張コイルスプリングを用いることにより、安価で小スペースの緩衝手段を構成する。
【0013】
請求項に記載された発明は、請求項又は記載の運転室補強構造において、該引張弾性部材がその弾性限界を越えて伸張変位したときに当接する、該引張弾性部材の取付部材に設けられた干渉部材を備えているものである。
【0014】
そして、引張弾性部材だけでは吸収することのできない大きなエネルギーは、干渉部材との当接によって吸収する。干渉部材は、吸収するエネルギーの大きさに応じて、柔構造にあるいは剛構造に適宜に設定することができる。
【0021】
請求項に記載された発明は、請求項1からまでのいずれかに記載の運転室補強構造において、該弾性支持部材が該引張部材を介して機体フレーム又は運転室に連結されているものである。
【0022】
そして、機体フレームと運転室の間に介在される弾性支持部材の一方の側に緩衝手段の引張部材を連結することにより、緩衝手段を弾性支持部材の設置部分にコンパクトに配設する。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に従って構成された運転室補強構造について、典型的な作業機械である油圧ショベルの運転室おける好適実施形態を図示している添付図面を参照して、さらに詳細に説明する。
【0024】
図1を参照して油圧ショベルについて説明する。全体を番号2で示す油圧ショベルは、下部走行体4と、下部走行体4上に旋回自在に取付けられた上部旋回体6を備え、機体フレームとしての上部旋回体6のスイングフレーム8には、運転室10、運転室10の前方に張り出して上下方向に揺動作動を自在に取付けられたフロント作業装置12、及び運転室10の後方に配置されエンジンなどの機器が収容された後部機体14を備えている。
【0025】
運転室10とスイングフレーム8の取付関係について、骨組み構造で示した運転室10とスイングフレーム8とを、機体の内方側から見た図2、及び本発明に係る運転室補強構造の第1の実施の形態を示した図3を参照して説明する。
【0026】
運転室10は、運転室本体10aのピラー、パネル、ルーフなどが鋼製部材によって形成され溶接接合されて構成されている。運転室本体10aは、防振のための弾性支持部材であるビスカスマウント16を介してスイングフレーム8に取付けられたフロアプレート10bに、ボルト18によって取付けられている。フロアプレート10bは、運転室本体10aの底部形状に合わせた略矩形の平板状に形成され、少なくともその4隅にビスカスマウント16が配設されている。ビスカスマウント16は周知のものであり、例えば特開2002−317850号公報に開示されている。フロアプレート10b上にオペレータの運転席(図示していない)が配設されている。
【0027】
運転室補強構造の第1の実施の形態について図3を参照して説明する。ビスカスマウント16を介してスイングフレーム8上に取付けられたフロアプレート10bとスイングフレーム8の間に、全体を符号K1で示す緩衝手段が介在されている。後に詳述するように、緩衝手段K1は、運転室10に矢印Xで示すスイングフレーム8から引離す方向(図3の上向方向)の力が作用し、引離し変位がビスカスマウント16の作用範囲を越えて所定の大きさになると作用して所定の大きさを越えた変位を弾性的に吸収する。ビスカスマウント16は、その本体ケース16aがスイングフレーム8に取付けられ、運転室10側の端の雌ねじ16bに、フロアプレート10bに取付けられた緩衝手段K1の引張バー22が連結されている。
【0028】
緩衝手段K1は、スイングフレーム8に取付けられた引張弾性部材としての引張コイルスプリング20と、運転室10のフロアプレート10bに取付けられて引離し方向Xにおいてスプリング20と係合する引張部材としての引張バー22を備えている。
【0029】
スプリング20は、矩形断面のばね鋼線材を密巻きにして形成され、その下端部には取付プレート20aがスプリングの内径と略同じ大きさの穴20bを有した円板状に形成されて、また上端部には係止プレート20cがスプリングの外径と略同じ外径を有し中央に引張バー22のバー22a通すための穴20dを有した円板状に形成されて、それぞれ一体的に接合されている。
【0030】
引張バー22は、鋼により形成され、丸棒状のバー22aと、バー22aより大径に下端部に設けられた円板状のストッパ22bと、下端部の先端に形成されビスカスマウント16の雌ねじ16bと螺合する雄ねじ22cを備えている。ストッパ22bの外径はスプリング20の内径部に挿入可能な大きさに形成されている。引張バー22は、ビスカスマウント16に取付けた状態で、スプリング20の係止プレート20cから上方に突出し、その先端がフロアプレート10bの下面に当接する長さに形成されている。
【0031】
係止プレート20cの下面とストッパ22bの上面の間には、所定の大きさの隙間Lが設けられている。この隙間Lは、運転室10の通常の振動によるビスカスマウント16の作用範囲では干渉しない大きさで、機体転倒時などに運転室10に過大な力が作用し運転室10の矢印Xの引離し方向の変位が作用範囲を越えたときに初めて接触するように設定されている。すなわち、隙間Lは、運転室10に機体フレーム8から引離す方向の力が作用し引離し変位が弾性支持部材16の作用範囲を越えた所定の大きさを規定している。
【0032】
この運転室補強構造を組み立てるには、先ずスイングフレーム8に取付けられたビスカスマウント16の雌ねじ16bに引張バー22を取付け、その後スプリング20を引張バー22及びビスカスマウント16に被せ、その取付プレート20aをボルト24によってスイングフレーム8に固定する。そして、引張バー22の上端をフロアプレート10bにボルト26によって取付ける。
【0033】
したがって、緩衝手段K1は、運転室10の矢印Xで示す引離す方向の変位が隙間Lを越えると作用して、隙間Lを越えた変位をスプリング20が伸張することにより弾性的に吸収する。
【0034】
運転室補強構造の第2の実施の形態について図4を参照して説明する。この形態においては、フロアプレート10bとスイングフレーム8の間に全体を符号K2で示す緩衝手段が介在されている。緩衝手段K2は、ビスカスマウントとは別体に設置されており、前述の緩衝手段K1とはビスカスマウント以外実質的に同一に構成されている。したがって、重複する部分については同一の符号で示し必要な場合を除いてその説明を省略する。
【0035】
緩衝手段K2は、スイングフレーム8に取付けられた引張弾性部材としての引張コイルスプリング28と、フロアプレート10bに取付けられて引離し方向Xにおいてスプリング28と係合する引張部材である引張バー30を備えている。
【0036】
引張コイルスプリング28は、前述の引張コイルスプリング20の取付プレート20aを穴20bを備えない円板状にしたものであり、引張バー30は前述の引張バー22の雄ねじ22cを削除したものである。
【0037】
運転室補強構造の第3の実施の形態について図5を参照して説明する。この形態においては、フロアプレート10bとスイングフレーム8の間に全体を符号K3で示す緩衝手段が介在されている。緩衝手段K3は、上述の緩衝手段K2にさらに、引張コイルスプリング28が引離し方向Xにおいてその弾性限界の寸法Hを越えて変位したときに当接する、引張コイルスプリング28が取付けられているスイングフレーム8に設けられた干渉部材であるストッパフレーム32を備えている。ストッパフレーム32は、フロアプレート10bとスプリング28間に位置付けられ引張バー30の丸棒バー30aが挿通される穴32aを有した平板部32bを備え、寸法Hは平板部32bとスプリング28の上端との隙間によって形成されている。
【0038】
このストッパフレーム32は、スプリング28の引張変形が過大に進んでスプリング28が弾性限界を越えた場合、スプリング28の係止プレート28a及び引張バー30のストッパ30bを受け止めて運転室10がスイングフレーム8から引き離され離脱するのを防止する。さらに、引張スプリング28の作用によって吸収することができなかったエネルギーを吸収する。ストッパフレーム32は、受け止めるエネルギーの大きさによって柔構造にあるいは剛構造に形成するとよい。
【0045】
なお、上述した緩衝手段K1、K2あるいはKによって弾性的に吸収する変移であるエネルギーの大きさ、すなわち緩衝手段の剛性は、運転室10の運転室本体10aの剛性と同等かそれ以下に設定する。運転室本体10aよりも剛性を高くすると、運転室10に加わるエネルギーが緩衝手段によって吸収されず、全て運転室10の変形、潰れによって受け止められてしまう。
【0046】
上述したとおりの運転室補強構造の作用について説明する。
【0047】
(1)エネルギーの吸収:
運転室保護構造として運転室とそれが取付けられた機体フレームの間に緩衝手段を設け、運転室に機体フレームから引離す方向の力が作用した場合に、そのエネルギーを吸収できるようにしたので、運転室が変形すると同時又はそれ以前に緩衝手段が変形し、その分運転室の変形を抑えることができる。
【0048】
この緩衝手段は、運転室を支持する弾性支持部材、例えばビスカスマウントの保護を目的とするものではなく、弾性支持部材が作用範囲を越えて破壊した場合この破壊もエネルギーの吸収になる。さらに、緩衝手段の引張弾性部材あるいは圧縮弾性部材も弾性変形内での使用を前提としているわけではなく、これらの弾性限度を越えた破壊によってもエネルギーを吸収し、運転室の変形によるエネルギーの吸収を減少させる。
【0049】
したがって、本発明に係る緩衝手段は、機体転倒時のエネルギーを全て吸収するものではなく、オペレータ空間確保に必要な運転室の剛性補強を最小限にできるようにするために運転室以外の部分でエネルギーの吸収を行うものである。
【0050】
(2)コスト、設置スペース、視界:
運転室保護構造として運転室とそれが取付けられた機体フレームとの間に設けた緩衝手段は、構造が簡単であり、安価であり、設置スペースに制限されず、またオペレータの視界も妨害しない。
【0051】
以上、本発明を実施の形態に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、例えば下記のように、本発明の範囲内においてさまざまな変形あるいは修正ができるものである。
【0052】
(1)緩衝手段の個数:
本実施の形態においては、緩衝手段K1〜Kは、それぞれ運転室と機体フレームの間に1個設置されているが、この個数は1個に限定されるものではなく運転室に加わる力の大きさ、方向などに応じて複数個設置すればよい。
【0053】
(2)弾性部材と引張部材の配置:
本実施の形態の緩衝手段K1〜Kにおいては、引張部材が運転室の側に、そして引張弾性部材が機体フレームの側に設けられたが、これらの取付けは逆でもよい。すなわち、引張部材を機体フレームの側に、そして引張弾性部材を運転室の側にしてもよい。
【0054】
(3)弾性支持部材との関係:
本実施の形態の緩衝手段K1においては緩衝手段が弾性支持部材に連結されて取付けられ、緩衝手段K2、3においては連結されていないが、緩衝手段K2、3においては緩衝手段K1と同様に連結してもよい。
【0055】
(4)引張弾性部材:
本実施の形態においては引張弾性部材として引張コイルスプリングが用いられているが、スプリングは例えば皿ばねのような他の形態のスプリングであってもよいし、引張弾性部材に引張弾性を有する合成ゴム、合成樹脂などを用いてもよい。
【0056】
【発明の効果】
本発明に従って構成された運転室補強構造によれば、作業機械の転倒時などに運転室に加わる力によるエネルギーを、運転室の変形以外においても吸収できるようにし、運転室本体の変形を抑制し、オペレータの空間確保に必要な運転室の剛性追加を最小限にできるようにし、安価で、設置スペースに制限されない、またオペレータの視界を妨げない、運転室補強構造が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に従って構成された運転室保護構造を備えた作業機械の典型例である油圧ショベルの斜視図。
【図2】 図1の機体フレームと運転室の関係を、機体フレームの一部と運転室の骨組み構造との関係で示した拡大斜視図。
【図3】 第1の実施の形態の要部を図2のA−A矢印方向に見て示した拡大断面図。
【図4】 第2の実施の形態の要部を図2のB−B矢印方向に見て示した拡大断面図。
【図5】 第3の実施の形態の要部を図2のB−B矢印方向に見て示した拡大断面図
【符号の説明】
2:油圧ショベル(作業機械)
8:スイングフレーム(機体フレーム)
10:運転室
16:ビスカスマウント(弾性支持部材)
20:引張コイルスプリング(引張弾性部材)
22:引張バー(引張部材)
30:引張バー(引張部材)
32:ストッパフレーム(干渉部材
1:緩衝手段
K2:緩衝手段
K3:緩衝手
:所定の大きさの隙間

Claims (4)

  1. 弾性支持部材(16)を介して作業機械(2)の機体フレーム(8)に取付けられた運転室(10)と該機体フレーム(8)との間に1個以上の緩衝手段(K1)を介在させ、
    該緩衝手段(K1)が、該機体フレーム(8)又は運転室(10)のいずれか一方に取付けられた引張弾性部材(20)と、該機体フレーム(8)又は運転室(10)の他方に取付けられてこの引張弾性部材(20)に該引離し方向において係合する引張部材(22)とを備え、
    該運転室(10)に機体フレーム(8)から引離す方向の力が作用し引離し変位が該弾性支持部材(16)の作用範囲を越えた所定の大きさになると、該緩衝手段(K1)が作用して該所定の大きさを越えた変位を弾性的に吸収する、ことを特徴とする運転室補強構造。
  2. 該引張弾性部材が引張コイルスプリング(20)を備え、該引張部材(22)の一端が引張コイルスプリング(20)内に挿入され、この挿入部と引張コイルスプリング(20)とが係合可能に形成されている、請求項1記載の運転室補強構造。
  3. 該引張弾性部材(28)がその弾性限界を越えて伸張変位したときに当接する、該引張弾性部材(28)の取付部材(8)に設けられた干渉部材(32)を備えている、請求項1又は2に記載の運転室補強構造。
  4. 該弾性支持部材(16)が該引張部材(22)を介して機体フレーム(8)又は運転室(10)に連結されている、請求項1からまでのいずれかに記載の運転室補強構造。
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