JP4298948B2 - 雌ねじ成形屑吸着タッピンねじ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワークに形成されている下穴にねじ込まれるねじに関し、特に、比較的軟質なワークに対してこの下穴に雌ねじを成形しながらねじ込む際に発生するねじ込み時の成形屑が落下するのを防止するようにした雌ねじ成形屑吸着タッピンねじに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年増加傾向にある電子機器部品の取り付けにおいては、部品やカバーの取り付けにねじが多く使用されているが、この場合、図10に示すように、ワーク120にあらかじめ下穴(図示せず)をあけてからタッピンねじ101をねじ込んでこの下穴に脚部103のねじ山110を介して雌ねじ121を形成しているのが一般的になっている。このワーク120として使用される材料としては、軽量化及び最近の環境問題を考慮して比較的リサイクル性の高い材料が使用されており、例えば、アルミニウム合金あるいはマグネシウム合金等が多くなっている。特に、最近ではこのような材料が急速に普及しているパソコン、携帯電話等の通信機器、デジタルカメラ・デジタルビデオカメラ・ミニディスク等のデジタル家電機器、高度道路交通システム関連機器、自動車部品等に多く使用されつつある。しかしながら、これらの製品に多く使用されている前記材料からなるワークは軽量化及びコンパクト化が進んでおり、一方、電子機器の部品として使用される電子回路は軽量化が求められ、小型化された回路となっていることから益々ねじの小型化も進展しているのが現状となっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところがこのように小型化された部品を前記のような軟質なワークに固定する場合、タッピンねじでワークの下穴に雌ねじを形成しながらねじ込んで部品を固定するようにしているため、ねじ込み作業中における雌ねじの成形時には摩擦力や雌ねじが成形されるワークの降伏点を超えて下穴を変形させていることから発生する摩擦粉あるいは剥離片が成形屑となって、部品上に落下したり、一方、ねじ抜き取り時にねじ山に付着した成形屑が落下することがあり、このため、プリント基板化されている電子回路上にこれが落下して回路がショートして機器を破壊したり、時には火災が生じる等の危険性を有している。また、ワークが軟質材であることからタッピンねじでの雌ねじの成形において、通常のタッピンねじではねじの谷の間隔が狭い等の理由により、摩擦熱が生じ易く、タッピンねじが途中でワークと焼き付いてねじ込まれなくなり、ねじの頭部座面がワークに接しない所謂、ねじ浮き状態となることも生じている。更に、このような問題を解消するためにタッピンねじを使用しないで、あらかじめワークの下穴に雌ねじを形成してから通常のねじをねじ込んで部品をワークに固定することも行われているが、これによってもワークとの間には僅かに発生する成形屑の落下が生じており、依然として電子機器のトラブルの要因となっている。しかも、あらかじめ雌ねじを形成するという組立工程が必要となることから製造コストが上昇することになり、安価な製品の提供に限界が生じている等の課題がある。
【0004】
本発明の目的は、このような課題を解消するとともに簡単な構成で確実なねじ込み作業が効率良く得られるようにし且つねじ込み時に発生する成形屑を常時吸着して部品上への落下を阻止することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、ドライバビットが係合する駆動部を持つ頭部2とこれと一体でねじ山10が形成された脚部3とからなり、ワーク20の下穴に雌ねじを成形しながらねじ込まれるタッピンねじにおいて、ねじ山10が形成された脚部3の全長に対して脚部3の先端から少なくとも60%の部分に長時間の流動性を有し且つ適度な粘度の液状の吸収・吸着剤の溶液を封入したマイクロカプセルを含有する被覆材8を塗布し、しかも、脚部3はその全長に渡って断面が非円形形状であって、ねじ山10の1ピッチ内に設けられている複数の、最大半径で形成されたねじ山頂点13間にこの最大半径のねじ山10の軌跡円よりねじ山高さが低く且つ脚部3の中心からの同一半径における軌跡円上では頂点部のねじ山厚みより薄い断面形状となった逃げ部14を設け、前記被覆材8によりねじ込み時に発生する成形屑23が下穴から落下しないようねじの脚部3に吸着保持される構成にした雌ねじ成形屑吸着タッピンねじを提供することで達成される。
【0006】
また、この目的は、この構成において、ねじ山は遊び側フランク角α及び進み側フランク角βが不等角であって、進み側フランク角βは遊び側フランク角αより大きい構成にした雌ねじ成形屑吸着タッピンねじとしても同様に達成される。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図1乃至図9に基づき説明する。図1において、1は頭部2とこの頭部2と一体で且つ外周にねじ山10を有する脚部3とからなるタッピンねじである。このタッピンねじ1の頭部2には脚部3の中心線上にドライバビット(図示せず)と係合して駆動部を構成する十字円錐溝形状の駆動穴4が形成されている。この頭部2の駆動部は十字円錐溝形状の駆動穴4であるが、この他に、例えば、四角、六角形状あるいはその他の溝あるいは穴形状であってもよく、一般に普及している形状であれば、これに制限されるものではない。
【0008】
また、この頭部2には、その座面5に頭部2より小径の円柱形状の脚部3が一体に形成してあり、この脚部3にはねじ山10が所定のピッチを有して成形されている。この脚部3のねじ山10はそのねじ山頂角が50°以下に形成してあり、ねじ山10のピッチをJISに規定されているタッピンねじのピッチより比較的大きく形成することで、ねじ1の谷部6の間隔が広くなるように形成されている。これらの構成によりタッピンねじ1はねじ込み時のワーク20の下穴(図示せず)に雌ねじ21を形成する際に生じる摩擦をできるだけ緩和するようになっている。前記頭部2とねじ山10が形成されている脚部3との間には頭部側が大径となったテーパ形状の首部7が形成してあり、これにより比較的呼び径の小さいねじ1はねじ込み時の頭部2と脚部3との破断が阻止されている。
【0009】
更に、前記脚部3の先端から頭部側にかけてはその脚部3に形成されているねじ山10の全長の少なくとも60%以上の位置までの部分にその全周に渡って被覆材8が塗布してあり、この被覆材8はねじ山10のフランク面11と谷部6に付着している。この被覆材8は高密度に分布しているマイクロカプセル(図示せず)を含有しており、これらマイクロカプセル内には主成分としての吸収・吸着剤からなり、長時間の流動性(濡れ性)を有する液状の溶液が封入されている。一方、前記主成分としての吸引・吸着剤はその粘度が40〜100cPであり、外気温が100℃以下であれば、流動性を長時間、例えば、5年間程度に渡って維持する性状の液体である。この吸収・吸着剤は必要によって着色可能であり、このように着色することにより、ねじ1の脚部3に被覆処理がされたか否かが素早く確認できる。このようにして被覆材8が脚部3に塗布された前記ねじ1をワーク20の下穴にねじ込み、雌ねじ成形時に生じる圧力により前記マイクロカプセルが破壊されることで、吸収・吸着材からなる溶液が漏れだし、成形時の摩擦粉や剥離片等の成形屑23がねじ山10に吸着保持されるものである。
【0010】
更に、図2及び図3には前記構成のタッピンねじ1の脚部形状に加えて、この脚部3のねじ山10の1ピッチ内に図3及び図7に示すように、ねじ山高さより低く谷部より高い位置に底面を有する4個の凹溝12が等間隔をおいて形成されている。この凹溝12は脚部3のねじ山10に軸線に沿い形成されることで複数の条溝となっている。この条溝は通常、脚部3の軸線に平行に形成されているが、これ以外に、例えば、脚部3の軸線に対して、僅か傾斜させて形成してもよい。また、図4は前記ねじ山10の遊び側フランク角αと進み側フランク角βの夫々の角度が等角となっているのに対し、これらが非対称な角度即ち、不等角となっており、図4に示すように、進み側フランク角βは遊び側フランク角αより大きい形状となったねじ山10が示してあり、このねじ山10にすることでコンパクト設計された軟質材製のワーク20の雌ねじ破壊が軽減されることになる。しかも、このねじ山10にも前記と同様に複数の凹溝12からなる条溝が形成されているとともにこの脚部3には前記と同様の主成分を有するマイクロカプセルを含有する被覆材8が塗布されている。これにより、成形屑23は図7に示すように、凹溝12に吸着保持されることになる。尚、この実施の形態では四個の凹溝12を形成しているが、この凹溝12を例えば、等間隔に二〜六個形成してもよい。
【0011】
更に、図5及び図6は非円形のねじ1の脚部3とそのねじ山10の展開断面を示しており、このねじ山10はこれの1回転中、即ち、1ピッチ当たり3頂点となる最大ねじ山半径となった、所謂、おむすび形状であり、このねじ山頂点13間には脚部の中心からの最小ねじ山半径の軌跡円に接する稜線を有する逃げ部14を有している。この逃げ部14は脚部3の中心からの同一半径での軌跡円上即ち、図5に示すX―X線上では3頂点部のねじ山厚みより薄くなった、図6に示す断面形状となっており、このねじ1でワーク20の下穴に雌ねじ21を形成する場合は前記3個のねじ山頂点13で雌ねじ21が形成されるから逃げ部14の稜線やこれの両側のフランク面11と雌ねじ21との間には隙間が生じることになる。この脚部3のねじ山10にも前記と同様に主成分が同様の被覆材8が塗布されているので、図8に示すように、このねじ1により雌ねじ21を成形する時に生じる成形屑23は逃げ部14と雌ねじ21との間に吸着保持されることになる。
【0012】
このようにして得られたタッピンねじ1を使用してワーク20にあらかじめあけられている下穴にねじ込むと、このねじ1のねじ山10により雌ねじ21が形成されながらねじ込まれる。この時生じる成形屑23は全てねじ山10に塗布されている被覆材8によりねじ山10のフランク面11、凹溝12あるいは逃げ部14に吸着保持されることになる。これにより、このねじ1をねじ込んだり、抜き取ったりした時に発生する成形屑23が部品上に落下しなくなる。
【0013】
一方、一旦、ねじ込まれたねじ1を緩めて抜き取る場合は、このねじ1の脚部3に塗布された被覆材8は成形屑23を吸着保持した状態でねじ山10とともにせり上がって雌ねじ21から抜け出る。この時、被覆材8に吸着されている成形屑23は図9に示すように、あらかじめワーク20のねじ1がねじ込まれる下穴のねじ込み側に形成されている前記下穴より大径でねじ1の頭部径より小径の座ぐり22に溜まることになり、ねじ1の抜き取り時における成形屑23の飛散が阻止される。
【0014】
尚、この実施の形態では、タッピンねじ1について説明したが、この他にあらかじめワーク20の下穴に雌ねじ21を形成してこの雌ねじ21が形成された下穴にねじ1をねじ込むようにしてもよく、この場合は比較的成形屑23は出にくいが、このねじ1にも前記と同様の被覆材8をねじ1の脚部3に塗布して使用することで、電子機器のプリント基板上に成形屑23が落下するのをより確実に阻止することができる。
【0015】
【発明の効果】
本発明は以上説明した実施の形態から明らかなように、ワーク20の下穴にねじ込まれるねじのねじ山10が形成された脚部3の全長の先端から少なくとも60%の部分にかけて適度な粘度の吸収・吸着剤を封入したマイクロカプセルを含有した被覆材8を塗布し、これによりねじ込み時に発生するワーク20の成形屑23が落下しないよう吸着するようにした雌ねじ成形屑吸着ねじであるので、軟質材製のワークに小型化された部品を固定する場合に、タッピンねじで直接雌ねじを成形しながらねじ込むことができ、このような場合において、ねじ込み作業中に発生する雌ねじ成形時の摩擦粉や剥離片等の成形屑が落下することがない。特に、この吸収・吸着剤の粘度が高いと、当然に成形屑の吸着がより確実になる。また、この成形屑の落下が解消されることで、成形屑が精密電子部品上に落下して付着することもなく、電子機器の回路がショートする等の故障の原因が解消されるとともに火災の原因になることもない。更に、このねじを抜き取る際に、ねじ山に付着している成形屑が落下するといったことも解消し、機器の修理において故障を誘発することも皆無になる。
【0016】
また、ねじはねじ山角度が50°以下で且つねじ山10のピッチを比較的大きく形成してねじ山10の谷部6の間隔を比較的広く形成したり、ねじ山10の遊び側フランク角α及び進み側フランク角βは非対称な角度即ち、不等角であって、進み側フランク角βを遊び側フランク角αより大きくした形状としているので、軟質材製のワークに対するタッピンねじでの雌ねじの成形の際に、摩擦熱が生じにくく、タッピンねじがねじ込み途中でワークに焼き付くことが減少するとともに凝着現象も抑制されてねじの頭部座面がワークに着座しない所謂、ねじ浮き現象を生じることも解消される。更に、脚部3の円周上に等間隔をあけて二〜六等分された位置に、凹溝12からなる条溝が複数条軸線に平行あるいは軸線に傾斜して設けられたり、一方、脚部3の断面が非円形形状であって、ねじ山10の1ピッチ内に設けられている複数のねじ山頂点13間に最大半径のねじ山10の軌跡円より高さが低く且つ脚部の中心からの同一半径における軌跡円上では頂点部のねじ山厚みより薄い断面形状の逃げ部14を設けているので、雌ねじを成形しながらねじ込む途中に発生する成形屑をこれら凹溝あるいは逃げ部と雌ねじとの間に確実に封じ込めることができ、ねじ込み時の成形屑の落下が防止できる。
【0017】
その上、これに使用されるマイクロカプセルは吸収・吸着剤を主成分とする長時間の流動性を有する液状の溶液を封入しており、脚部3に形成されたねじ山10のフランク面11と凹溝12あるいは逃げ部14が覆われるように塗布されているので、ねじのワークへのねじ込み後においても依然として固まることなく成形屑を吸着することができ、このねじを抜き取って再度ねじ込む場合においても、成形屑の吸着作用を長く持続でき、再利用にも十分に対応できる。更に、この溶液を封入したマイクロカプセルを含有する被覆材を通常のねじに使用しても、ワークとの間に僅かに発生する成形屑を吸着でき、同様に電子機器のトラブル要因を事前に除くことができる。
【0018】
しかも、ねじ1がねじ込まれるワーク20の下穴のねじ込み側にはこれより大径でねじの頭部径より小径の座ぐり22が形成されているので、一旦ねじ込まれたねじを抜き取る際にこれに吸着されている成形屑がねじ山とともにせり上がってきても、この座ぐりが屑溜まりとなるので、摩擦粉や剥離片等の成形屑がワーク上に飛散することがなく、必要に応じて容易に除去できる等の特有の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態を示すねじの正面図である。
【図2】本発明のもう一つの実施の形態を示す正面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】本発明の他の実施の形態を示す要部拡大正面図である。
【図5】本発明のもう一つの他の実施の形態を示す底面図である。
【図6】図5のX−X線に沿う拡大展開断面図である。
【図7】図2に示したねじとワークとのねじ込み状態を示す拡大断面図である。
【図8】図5に示したねじとワークとのねじ込み状態を示す拡大断面図である。
【図9】図1に示したねじをワークから抜き取っている状態を示す要部断面図である。
【図10】従来のタッピンねじをワークにねじ込んだ状態を示す断面正面図である。
【符号の説明】
1 タッピンねじ
2 頭部
3 脚部
4 駆動穴
5 座面
6 谷部
7 首部
8 被覆材
10 ねじ山
11 フランク面
12 凹溝
13 ねじ山頂点
14 逃げ部
20 ワーク
21 雌ねじ
22 座ぐり
23 成形屑
Claims (2)
- ドライバビットが係合する駆動部を持つ頭部(2)とこれと一体でねじ山(10)が形成された脚部(3)とからなり、ワーク(20)の下穴に雌ねじを成形しながらねじ込まれるタッピンねじにおいて、
ねじ山が形成された脚部の全長に対して脚部の先端から少なくとも60%の部分に長時間の流動性を有し且つ適度な粘度の液状の吸収・吸着剤の溶液を封入したマイクロカプセルを含有する被覆材(8)を塗布し、しかも、脚部はその全長に渡って断面が非円形形状であって、ねじ山の1ピッチ内に設けられている複数の、最大半径で形成されたねじ山頂点(13)間にこの最大半径のねじ山の軌跡円よりねじ山高さが低く且つ脚部の中心からの同一半径における軌跡円上では頂点部のねじ山厚みより薄い断面形状となった逃げ部(14)を設け、前記被覆材によりねじ込み時に発生する成形屑(23)が下穴から落下しないようねじの脚部に吸着保持される構成にしたことを特徴とする雌ねじ成形屑吸着タッピンねじ。 - ねじ山は遊び側フランク角α及び進み側フランク角βが不等角であって、進み側フランク角βは遊び側フランク角αより大きい構成にしたことを特徴とする請求項1記載の雌ねじ成形屑吸着タッピンねじ。
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