JP4296286B2 - 車両の左右輪駆動装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両の左右の車輪を電動モータにより駆動する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
左右1対の遊星歯車機構と、1対の小型電動モータと、ブレーキ手段とからなる左右輪駆動装置が従来から知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開平9−79348号公報(第3−5頁、第2図)。
【0004】
この従来の左右輪駆動装置においては、各遊星歯車機構のキャリアは車両の左右従動輪に連結され、各遊星歯車機構のサンギアはそれぞれ小型電動モータに連結され、各遊星歯車機構のリンクギアは中間軸によって互いに連結されている。ブレーキ手段は、中間軸の回転を拘束するようになっている。
【0005】
この左右駆動装置において、ブレーキ手段で中間軸の回転を拘束すると、各遊星歯車機構は単なる減速機として機能する。この状態で2つの小型電動モータを同一方向へ回転駆動すると、左右従動輪に前進あるいは後進方向のトルクが伝達され、車両の発進をアシストすることができる。また、中間軸の回転を許容しつつ2つの小型電動モータを互いに反対方同へ回転駆動すると、左右従動輪に反対方向のトルクが伝達され、車両の旋回をアシストすることができる。
【0006】
上記のような発進アシストおよび旋回アシストは、車両の左右従動輪に直接電動モータを連結することでも達成可能であるが、その場合電動モータの回転速度が車速の上昇につれて上昇するため、高車速時に効果的な旋回アシストを行うことができない。この問題は、電動モータのトルク特性(低速域では一定の最大トルクが得られ、中高速域では回転速度に反比例して最大トルクが低下する)に起因して発生するが、上記の従来装置では、中間軸の回転を許容するとモータ回転速度が車輪回転速度と無関係になり、かつその状態で2つの小型電動モータを反対方向へ回転駆動すると車輪ヘモータトルクを伝達することができる。従って、旋回アシストを行う場合は車速に関係なく電動モータの高トルク回転域(低速域)を使用することが可能となり、小型の電動モータを使用しても十分な旋回アシストを行うことができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら従来の方法では、旋回アシストの大きさに関して何ら制限を施しておらず、車両の挙動が不安定化する恐れがあった。たとえば旋回アシストしながら車両が旋回している状況にあっては、いずれかの車輪、例えば右輪が、濡れた路面や雪面のように摩擦係数の低い路面に乗り上げると、右輪がスリップする。右輪がひとたびスリップすると、右輪が路面からの受ける反力が小さくなるため、作用反作用により左輪の旋回アシスト力が発生しなくなってしまうと同時に右輪のスリップが増大してしまう。結果として、旋回アシスト力が低下し、かつ右輪が空転しタイヤの横力まで小さくなってしまうため、車両の挙動が不安定化してしまうという事態になりえる。
【0008】
このように、電気モータで右側車輪と左側車輪に同じ大きさの逆向きトルクを発生させて車両の旋回をアシストする車両の左右輪駆動装置にあっては、片輪がスリップすることで両輪の旋回アシスト力が低下し、車輪のスリップが増大する為、車両挙動が不安定化するという虞があった。
【0009】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明の車両の左右輪駆動装置は、少なくとも1つの電気モータにより、右側車輪と左側車輪に同じ大きさの逆向きトルクを発生させて車両の旋回をアシストするものであって、左右輪で発生すべき必要横力を演算する手段と、必要横力が大きいほどモータトルクの上限値を小さくするモータトルク制限手段と、を備えている。
【0010】
【発明の効果】
本発明によれば、大きな横力が必要な時ほど指令トルクTCの上限を小さく抑えるの構成としたので、車両の後端が横滑りを起こして車両挙動が不安定化するという事態を回避できる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1は、エンジン35により変速機36を介して左右の前輪31L,31Rを駆動する前輪駆動車両を示しており、各前輪31L,31Rは両端に等速ジョイント32L,33L,32R,33Rを有する各ドライブシャフト34L,34Rを介して変速機36に連結されている。左右の後輪1L,1Rには夫々等速ジョイント2L,3L,2R,3Rを有する連結軸4L,4Rが連結され、両連結軸4L,4R間に減速歯車5L,6L,5R,6Rを介して連結装置20が配置されている。
【0013】
図2に示すように連結装置20は、クラッチモータ125である。
【0014】
クラッチモータ125は、インナーロータ108およびアウターロータ109がそれぞれベアリング(不図示)によってケースに対して回転自在に支持される三相同期電動モータである。
【0015】
インナーロータ108は、薄板状の電磁鋼板を積層して形成した円筒形状のロータであり、外周面に複数の永久磁石(不図示)を固定支持してある。アウターロータ109は、インナーロータ108の外周と所定間隔を隔てて筒状に配置されており、内周面に薄板の電磁鋼板を積層して形成したリング状のコアを有し、当該コアに形成されたスロットには複数のコイルが配置されている。アウターロータ109のコイルに回転磁界を発生させることにより、インナーロータ108に対するトルクを発生させることができる。
【0016】
アウターロータ109のロータ軸には、3本のスリップリングが配置されており、本スリップリングを通じて駆動回路110とアウターロータ109のコイル間で電力の送受が可能である。また、駆動回路110はバッテリ113と電気的に接続されているため、バッテリ113の電力を用いてクラッチモータ125にトルクを発生させることも、クラッチモータ125でトルクを吸収することにより発生する回生電力をバッテリ113に蓄電することも可能である。クラッチモータ125に発生(吸収も含む)させるトルクの指令値は後述するコントローラ114にて演算され、その演算値を受け、駆動回路110は、クラッチモータ125のトルクが指令値に一致するようにクラッチモータ125への電流を制御する。このような実施形態により、コントローラ114にて演算する指令トルク値通りに、クラッチモータ125のトルクを調整することができる。
【0017】
尚、バッテリ113には、リチウム・イオン電池、ニッケル・水素電池、鉛電池などの各種電池や、電機二重層キャパシターいわゆるパワーキャパシターを用いることができる。また、クラッチモータ125を三相同期電動モータとしたが、インナーロータとアウターロータがともに回転自在なモータであれば良く、DCモータなどでも構わない。
【0018】
コントローラ114には、ドライバが操作するアクセルの踏み込み量を検出するポテンショ式センサ140と、ステアリングの回転角を検出するステアリング角センサ142と、オートマティックトランスミッションの走行レンジ(P、R、N、Dレンジ)を検出するスイッチからなる走行レンジセンサ143と、車両の右前輪101Rの回転速度を検出する回転速度センサ171、車両の左前輪101Lの回転速度を検出する回転速度センサ172、従動輪である後左輪1Lの回転速度を検出する回転速度センサ173、後右輪1Rの回転速度を検出する回転速度センサ174、車両の起動を検出するイグニッションスイッチ145、アウターロータ109の回転速度を検出するアウターロータ回転速度センサ147、インナーロータ108の回転速度を検出するインナーロータ回転速度センサ148の信号が入力されている。
【0019】
コントローラ114は、マイクロコンピュータのほかにRAM/ROMなどの周辺部品を備えており、前述の入力信号を受けて、クラッチモータ125への指令トルクTCを演算する。これらの演算は、一定時間(例えば10ms)ごとに図3に示すフローチャートをを実行することで実現する。即ち、図3のS2001にてコントローラ114に入力される信号を変数に格納し、S2002にてクラッチモータ125への指令トルクTCを演算する。S2003でクラッチモータ125への指令トルクTCをコントローラ114から駆動回路110へ出力する。
【0020】
指令トルクTCは、右輪1Rを前に駆動する向きを正にとり、車両を後ろに駆動する向きを負にとるものとする。また、イグニッションスイッチON時に、指令トルクTCは、TC=0に初期化しておく。
【0021】
以下、クラッチモータ125への指令トルクTCの演算方法について、図4のフローチャートに従って説明する。
【0022】
S2101では、走行レンジ信号RNGがDであるか否かを判定する。Dレンジでない(P,N,Rレンジ)である場合には、S2102へ移行してTC=0とし、ルーチンを終了する。Dレンジである場合には、S2103へ移行する。
【0023】
S2103では、右輪のスリップ率slip_rrおよび左輪のスリップ率slip_rlを次式で演算する。
【0024】
【数1】
slip_rr=(Wrr/Wfr)−1 (Wrr>=Wfrのとき)…(1)
【0025】
【数2】
slip_rr=(Wfr/Wrr)−1 (Wrr<Wfrのとき)…(2)
【0026】
【数3】
slip_rl=(Wrl/Wfl)−1 (Wrl>=Wflのとき)…(3)
【0027】
【数4】
slip_rl=(Wfl/Wrl)−1 (Wrl<Wflのとき)…(4)
尚、Wfrは右前輪31Rの回転速度、Wflは左前輪31Lの回転速度、Wrrは右後輪1Rの回転速度、Wrlは左後輪1Lの回転速度である。
【0028】
ここで上記(1)式〜(4)式内の分数分母は、車両が停止しているときの0割を回避するために、ごく小さな値eps(eps>0)を下限値として使用するもとのする。またWfrおよびWflは、車両のステアリング角Strおよび車両Vspに応じて車両前輪と後輪の旋回半径差を補正したWfrおよびWflを使用するとなお良い。例えば、低速で大きなステアリング角で旋回する場合、前輪と後輪の旋回半径の関係は、右輪がWfr>Wrr,左輪がWfl>Wrlとなるので、その差をそれぞれ補正したWfr値およびWfl値を前述値の式に用いると、より精度良くスリップ率を演算することができる(図25参照)。
【0029】
S2104では、後輪1Rと後輪1Lの駆動トルク差となって現れる分のクラッチモータ125の指令トルクTCをマップMAP_TY1の表引き値によって演算する。マップMAP_TY1は、予め車速Vspとステアリング角Strに応じて対応付けられてROMに格納されているデータであり、例えば図5に示すように、車速とステアリング角に応じて値が変わるように設定しておく。ステアリングが左に切られている(車両挙動は左旋回)状況において、左旋回へのヨーモーメントを発生させるように、すなわち、後輪1Rに車両を駆動させる向きのトルクが発生するように、正の値を割り付けておく。逆にステアリングが右に切られている(車両挙動は右旋回)状況において、後輪1Rに車両を制動させる向きのトルクが発生するように、負の値を割り付けておく。このようにしておくことで、ステアリングを操作したときに、車両にヨーモーメントを発生させ車両を安定化させる作用を実現できる。
【0030】
S2105では、後輪1R,1Lで発生すべき横力Fynを演算する。まず、車速Vspとステアリング角Strから定常的に発生すべき横力の大きさu(k)をマップMAP_FYS(Vsp,Str)参照により演算する。ここで、kは現時点の値を意味するものとし、u(k−1)は前回のJOBでの演算値とする。マップMAP_FYS(Vsp,Str)は、例えばμ=1路面における車両走行時の後輪軸横力の計測値として設定しておく。なお、左旋回時の値が正になるように設定する。車速Vspが大きいほど、またステアリング角Strが大きいほど、参照値の絶対値が大きな値になるように設定しておく。
【0031】
次に次式(5)を用いて過渡応答を考慮した必要横力に変換する。
【0032】
【数5】
Fyn(k)=a1*Fyn(k−1)+a2*Fyn(k−2)+b0*u(k−1)+b1*u(k−2) …(5)
ここで、a1,a2,b0,b1は全て車速Vspに関連付けられた変数であり、それぞれ、テーブルの表引きにより演算する。これら変数は横力の過渡的な発生具合を表現するものであり、車速一定の状態でステアリングを操舵した場合の横力発生波形を実験的に計測し、その波形に基づいて設定しておく。また、uからFynへの定常ゲインが1となるように1−a1−a2=b0+b1を満たすように設定する。
【0033】
S2106では、路面の摩擦係数を推定する。路面摩擦係数の推定方法としては、例えば特開平5−85339号公報などに開示がある。本公報には、ハンドルを操作して車両が旋回する場合に、舵角センサにより検出した操舵角の変化から、従動内外輪の回転速度に基づいて検出される横加速度が発生するまでの遅れ時間を求め、その遅れ時間を基に路面摩擦係数を検出する方法が開示されている。他の例としては、特開平5−238404号公報などもあり、そこではハンドル操舵に対する路面反力を検出するとともに、この捩れ量とハンドル舵角とに応じて路面摩擦係数を推定する方法も示されている。他にも操舵システムの信号を用いない方式として、車輪速の振動から推定する特開2002−178903号公報など、多数の方式が開示されいる。本実施形態においてもそれらのいずれかの方式を適用すればよいので説明は省略する。
【0034】
S2107では、後輪1R,1Lの左右輪の駆動力差となって現われるクラッチモータ125への指令トルクTCの最大値TC_LMT1を必要横力Fynに基づいて演算する。
【0035】
最大値TC_LMT1は、必要横力Fynの絶対値abs(Fyn)と推定路面摩擦係数μeとに関連付けられているマップMAP_LMTT1(abs(Fyn),μe)の表引きによって演算する。マップMAP_LMTT1(図示せず)は、タイヤの摩擦円特性を考慮し、abs(Fyn)が大きいほど、またμeが小さいほど小さな値となるように設定しておく。
【0036】
続いて、S2108では、S2104にて演算した指令トルクTCに対して、その絶対値がS2107で演算した最大値TC_LMT1を超えないように制限を加える。
【0037】
S2109では、後輪1R,1Lの最大許容スリップ率SL_LMT1を必要横力Fynの絶対値abs(Fyn)と推定路面摩擦係数μeとに関連付けられているマップMAP_LMTS1(abs(Fyn),μe)の表引きによって演算する。マップMAP_LMTS1(図示せず)は、タイヤの摩擦円特性を考慮し、abs(Fyn)が大きいほど、またμeが小さいほど最大許容スリップ率SL_LMT1が小さな値となるように設定しておく。
【0038】
S2110では、S2109で演算したSL_LMT1と、S2103で演算したslip_rrとslip_rlとの大きさ比較を行ない、slip_rrとslip_rlのいずれかがSL_LMT1を越えている場合には、S2130へ移行し、いずれもSL_LMT1を越えていない場合には、本ルーチンを終了する。
【0039】
S2130へ移行した場合には、slip_rrとslip_rlとの大きい方の値が、SL_LMT1と一致するように指令トルクTCの大きさを小さく制限する。制限の方法としては、たとえば、S2130ではTC=0とする方法がある(この場合、slip_rrとslip_rlとの大きい方の値がSL_LMT1を越えたらTC=0とし、それ以外の場合にTCはS2108にて演算した値とする方法)。他にも、max(slip_rr,slip_rl)−SL_LMT1に応じて、max(slip_rr,slip_rl)−SL_LMT1>0の場合に限り、max(slip_rr,slip_rl)−SL_LMT1の値が大きいほどTC値を小さい値に補正するなどの方法でも良い。
【0040】
このような第1実施形態においては、常に左右輪のいずれも空転させない範囲でクラッチモータ125による旋回アシストを行なうことができるようになり、路面の状態によらず、車輪の空転により車両挙動が不安定となる事態を回避することができる。
【0041】
また、大きな横力が必要な時ほど指令トルクTCの上限を小さく抑えるの構成としたので、車両の後端が横滑りを起こして車両挙動が不安定化するという事態を回避できる。
【0042】
そして、路面の摩擦係数が低いほど、指令トルクTCの上限を小さく抑える構成としたので、車両の後端が横滑りを起こして車両挙動が不安定化する事態を、路面の摩擦係数によらず回避できる。
【0043】
また、必要横力が大きいほど後輪1R,1Lの高い方のスリップ率をより小さく抑えるように指令トルクTCを制限する構成としたので、車両の状態(積載量・重心位置の変化など)や路面状態や路面の摩擦係数の推定遅れや路面の摩擦係数の推定誤差によらず、横力Fyを確保しつつ、タイヤのグリップ力を路面の摩擦係数に応じて最大限に活用できる形態で指令トルクTCを制限できる。
【0044】
さて、図4では、必要横力に応じてクラッチモータ125の指令トルクTCを制限する方式を説明したが、以下に示す方法で指令トルクTCを制限するようにしてもよい。
【0045】
すなわち、上述した図2の構成に加え、後輪車軸上に設置され、後輪の向きと後輪の進行方向とのなす角度である後輪の横滑り角βrを検出するジャイロセンサ180を設け、このジャイロセンサ180からの信号をコントローラ114に入力し(図2を参照)、上述した図3のS2002における指令トルクTCの演算を、図4に替わって図6に示すフローチャートに従って演算することも可能である。
【0046】
つまり、横滑り角βrに応じて指令トルクTCを制限するようにしてもよい。尚、ジャイロセンサ180によって検出される横滑り角βrは、車両後輪軸の進行方向が車両の向きに対して時計まわりの向きを正とする。
【0047】
横滑り角βrに応じて指令トルクTCを制限する方法を図6に従って説明する。
【0048】
S2201では、走行レンジ信号RNGがDであるか否かを判定する。Dレンジでない(P,N,Rレンジ)である場合には、S2202へ移行してTC=0とする。Dレンジである場合には、S2203へ移行する。
【0049】
S2203では、後輪1Rのスリップ率slip_rrおよび後輪1Lのスリップ率slip_rlを上述した図4のS2103と同様に演算し、S2204では、指令トルクTCを図4のS2104と同様マップMAP_TY1の表引き値によって演算し、またS2205では、図4のS2106と同様に路面の摩擦係数を推定する。
【0050】
S2206では、後輪1R,1Lで許容する横滑り角の絶対値βrnを演算する。許容する横滑り角βrnは、車速Vspおよび操舵角Strに関連付けられたマップMAP_Brn(Vsp,STr)(図示せず)の表引き値に対して、推定路面摩擦係数に関連付けられたテーブルTBL_Brn(μe)(図示せず)の表引き値を掛け合わせて演算する。マップMAP_Brn(Vsp, STr)およびテーブルTBL_Brn(μe)は、実現させたい車両挙動特性にあわせてそれぞれ設定する。
【0051】
S2207では、計測した横滑り角βrの絶対値Abs(βr)と許容横滑り角βrnとの大小比較を行ない、Abs(βr)の方が大きい場合には横滑りしすぎであると判断して、後輪1R,1Lのトルク差を抑えることでタイヤの横力を上げる為の演算をするべくS2210ヘ移行し、そうでない場合にはS2220ヘ移行する。
【0052】
S2210では、横滑り角βrの絶対値Abs(βr)が許容横滑り角βrnと一致するようにS2204にて演算した指令トルクTCに対して、その大きさを制限する。制限の方法としては、たとえば、横滑り角βrの絶対値Abs(βr)と許容横滑り角βrnとの差に応じて割り当てられている値Kを乗じる方法などがある。ここで、Kの値は、Abs(βr)とβrnとの差がほぼ0の場合には「1」弱であり、差が大きいほど小さい正値をとるように予め関連づけておく。
【0053】
S2220では、S2203で演算したslip_rrとslip_rlの何れかが所定値Sth(例えば0.15)より大きいか否かを判定し、いずれかが大きければ、S2221へ移行しクラッチモータ125への指令トルクTCの大きさを制限した上で本ルーチンを終了し、大きくなければ直ちに本ルーチンを終了する。S2221での制限方法としては、上述した図4のS2130で示した方法を用いる。このようにすることで、後輪1R,1Lの空転を防止できる。
【0054】
なお上記S2207とS2210でクラッチモータ125の指令トルクTCを制限する(タイヤの横力を確保するためにすべり角に応じて制限する)別の形態として、S2220の前で次の処理を施しても良い。まず、横滑り角βrの絶対値Abs(βr)と許容横滑り角βrnとの差に関連付けた値Sth_k1、および、路面摩擦係数推定値μeに関連付けた値Sth_k2を導入する。
【0055】
Sth_k1は次のように関連付けておく。
Abs(βr)>βrnのとき、Abs(βr)―βrn が大きいほど小さな正の値(1未満)に設定しておく。また、Abs(βr)<=βrnのときには、Sth_k1=1と設定しておく。
【0056】
Sth_k2は、μe=1のときに1であり、μeが小さいほど小さな正値となるように設定しておく。
【0057】
その上で、S2220で使用するSthを次式(6)で演算する。
【0058】
【数6】
Sth=Sth_k1*Sth_k2*Sth_0 …(6)
ここで、Sth_0は予め設定されている定数であり、例えば0.15である。
【0059】
このようにすることで、すべり角βrが許容横滑り角βrnを越えるほど、また、路面摩擦係数推定値μeが小さいほど、Sthが小さい値に設定され、したがって指令トルクTCの絶対値も小さく制限されることになる。故に、路面の摩擦係数に応じて、また、車両の横滑り具合に応じて、適正にタイヤが横力を発生できる範囲で左右輪の駆動トルク差を制限し、旋回アシストをできる。
【0060】
次に本発明の第2実施形態について説明する。この第2実施形態は、図1における後輪の左右輪駆動装置として、上述した図2の構成ではなく図7の構成をとるものであって、ブレーキ11がONのとき2つのクラッチモータ41R,41Lで車両を制駆動させ、OFFのとき左右輪1R,1Lに逆トルクを発生させることで旋回アシストを実現するものである。
【0061】
図7に示すように、連結装置20には、アウターロータ9L,9Rとが機械的に連結された、クラッチモータ41R,41Lとが配置されている。
【0062】
クラッチモータ41R,41Lは、インナーロータ8L,8Rおよびアウターロータ9L,9Rがそれぞれベアリング(不図示)によってケース25に対して回転自在に支持される三相同期電動モータである。
【0063】
インナーロータ8L,8Rは、薄板状の電磁鋼板を積層して形成した円筒形状のロータであり、外周面に複数の永久磁石(不図示)を固定支持してある。アウターロータ9L,9Rは、インナーロータ8L,8Rの外周と所定間隔を隔てて筒状に配置されており、内周面に薄板の電磁鋼板を積層して形成したリング状のコアを有し、当該コアに形成されたスロットには複数のコイルが配置されている。アウターロータ9L,9Rのコイルに回転磁界を発生させることにより、インナーロータ8L,8Rに対するトルクを発生させることができる。
【0064】
アウターロータ9L,9Rのロータ軸には、それぞれスリップリング(不図示、それぞれ3本ずつ)が配置されており、本スリップリングを通じて駆動回路10L,10Rとアウターロータ9L,9Rのコイル間で電力の送受が可能である。また、駆動回路10L,10Rはバッテリ13と電気的に接続されているため、バッテリ13の電力を用いてクラッチモータ41R,41Lにトルクを発生させることも、クラッチモータ41R,41Lでトルクを吸収することにより発生する回生電力をバッテリ13に蓄電することも可能である。クラッチモータ41R,41Lに発生(吸収も含む)させるトルクの指令値は後述するコントローラ14にて演算され、その演算値を受け、駆動回路10R,10Lは、クラッチモータ41R,41Lのトルクがそれぞれの指令値に一致するようにクラッチモータ41R,41Lへの電流を制御する。このような実施形態により、コントローラ14にて演算する指令トルク通りに、クラッチモータ41R,41Lのトルクをそれぞれ独立に調整することができる。
【0065】
尚、バッテリ13には、リチウム・イオン電池、ニッケル・水素電池、鉛電池などの各種電池や、電機二重層キャパシターいわゆるパワーキャパシターを用いることができる。また、クラッチモータ41R,41Lを三相同期電動モータとしたが、インナーロータとアウターロータがともに回転自在なモータであれば良く、DCモータなどでも構わない。
【0066】
連結装置20は、両アウターロータ9L,9Rの車体に対する回転を拘束するブレーキ手段としての油圧式のブレーキ11を備えている。コントローラ14からのON/OFF指令に応じて、駆動回路12は油圧回路を調整し、ブレーキ11のON/OFF(ON:アウターロータ9L,9Rの回転を拘束する。OFF:拘束しない)を切替える。なお、ブレーキ11は、油圧クラッチや電磁クラッチなどで構成することも可能である。いずれにせよ、コントローラ14からのON/OFF指令に応じて、アウターロータ9L,9Rの回転の拘束/非拘束を切替えられる形態であればよい。
【0067】
後輪1L、1Rには摩擦ブレーキ(不図示)が備え付けられている。摩擦ブレーキは、運転者のブレーキペダル操作に応じて増圧される油圧の力で、ブレーキバッドをブレーキディスクに押し付け、ブレーキ力を発生する機構となっている。また、コントローラ14からの指令に応じて、油圧弁を調整することで油圧を任意に減圧できる、つまり、摩擦ブレーキ力を任意に弱めることができる構成となっている。
【0068】
コントローラ14には、ドライバが操作するアクセルの踏み込み量を検出するポテンショ式センサ40と、ステアリングの回転角を検出するステアリング角センサ42と、オートマティックトランスミッションの走行レンジ(P,R,N,Dレンジ)を検出するスイッチからなる走行レンジセンサ43と、車両の速度を検出する車速センサ44、車両の起動を検出するイグニションスイッチ45、バッテリの蓄電量を検出するSOC(State Of Charge)センサ46、アウターロータ9L,9Rの回転速度を検出するアウターロータ回転速度センサ47、インナーロータ8Lの回転速度を検出する左ロータ回転速度センサ48、インナーロータ8Rの回転速度を検出する右ロータ回転速度センサ49、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキ踏力センサ70、の信号が入力されている。また、車両の右前輪32Rの回転速度を検出する回転速度センサ171、車両の左前輪32Lの回転速度を検出する回転速度センサ172、従動輪である後左輪1Lの回転速度を検出する回転速度センサ173、後右輪1Rの回転速度を検出する回転速度センサ174の信号も入力され、さらに後輪1R,1Lの横滑り角(後輪の向きと後輪の進行方向とのなす角度)を検出するために後輪車軸上に設置されたジャイロセンサ180からの信号も入力されている。
【0069】
コントローラ14は、マイクロコンピュータのほかにRAM/ROMなどの周辺部品を備えており、前述の入力信号を受けて、ブレーキ11のON/OFFを判断し、クラッチモータ41R,41Lへの指令トルクを演算する。ブレーキ11のON/OFF判断、およびクラッチモータ41R,41Lへの指令トルクの演算は、一定時間(例えば10ms)ごとに図8に示すフローチャートの制御を実行することで実現する。即ち、図8のS401にてコントローラ14に入力される信号を変数に格納し、S402ではブレーキ11のON/OFF判断を行ないflag_bに代入するとともに、連結装置20の状態をあらわす変数stateの決定を行なう。続いてS403ではクラッチモータ41L,41Rへの指令トルクTL,TRをそれぞれ演算し、摩擦ブレーキの油圧の減圧指令値Tbrも演算する。S404でブレーキON/OFF指令、TL,TRをコントローラ14から駆動回路10L,10R,12へ出力する。そしてS405にて、摩擦ブレーキの油圧の減圧指令値を出力する。
【0070】
ここで、ブレーキON/OFF判定フラグflag_bは、ブレーキ11を締結(ON)すべきと判断したときに1、開放(OFF)すべきと判定したときには0の値とする。連結装置20の状態をあらわす変数stateは次のように定義する(図9参照)。ブレーキ11が完全に締結し、車両を駆動または回生制動できる状態(状態1)にあるときに1とし、ブレーキ11が完全に開放し、車両を旋回アシストできる状態(状態2)にあるとき2とする。また、状態1から状態2へ移行する際の過渡状態として、ブレーキ11の開放動作中状態(状態6)であるときに6とし、状態2への移行準備状態(状態4)のときに4とする。さらに、状態2から状態1へ移行する際の過渡状態として、ブレーキ11締結の為の準備状態(状態3)のときに3とし、ブレーキ11の締結動作中状態(状態5)であるときに5とする。また、指令トルクTL,TRは、ブレーキ11をONした状況において、車両を前に駆動する向きを正にとり、車両を後ろに駆動する向きを負にとるものとする。
【0071】
ブレーキON/OFF指令は、state=1またはstate=5のときにON指令し、state値がそれ以外の時にOFF指令する(flag_bをそのまま出力するわけではない)。摩擦ブレーキの油圧の減圧指令値Tbrは、ブレーキ11締結時のクラッチモータ41R,41L軸換算のトルク値であり、0または負の値をとる。負の値のときに、クラッチモータ軸換算で−Tbrの制動を左右輪各輪で実現するという関係とする。また、これらの値は、イグニッションスイッチON時に図10に示すフローチャートの制御を実行することで初期化しておく。つまり、ブレーキON/OFF判定フラグflag_bの初期値は1、指令トルクTL,TRの初期値は0、減圧指令値Tbrの初期値は0、状態stateの初期値は1、となるようそれぞれ初期化される。
【0072】
以下、ブレーキ11のON/OFF判断flag_bに続いて状態stateの決定を行なうS402と、クラッチモータ41R,41Lへの指令トルクおよび摩擦ブレーキの油圧の減圧指令値Tbrを演算するS403について順に説明する。
【0073】
ブレーキ11のON/OFF判定フラグflag_bは、車速Vspなどをもとに図11にしたがって決定する。状態stateは、レンジ信号がP,N,Rのいずれかの場合には1とし、Dの場合には図9に従って決定する。ここで状態stateは、flag_bを演算後に決定する。
【0074】
まず図11に従って、flag_bが1か否かを判断する方法を説明する。図11の横軸は車速Vspであり、縦軸は、次式で演算する後輪軸分の制駆動トルク指令値Tdrv(クラッチモータ軸換算の1輪あたりのトルク値)である。
【0075】
【数7】
Tdrv=MAP_TD(Vsp,Aps)+MAP_BRK(Vsp,BRK) …(7)
マップMAP_TDは、予め車速Vspとアクセル踏み込み量Apsに対応付けられてROMに格納されているデータであり、例えば図12の特性である。アクセルの踏み込み量が大きいほど、クラッチモータ41R、および、41Lによる駆動力が大きくなるように、アクセルの踏み込み量Apsが大きいほど大きな値に設定してある。特にアクセルの踏み込み量Apsが0のとき、クラッチモータ41R、および、41Lが回生動作を行うように負の値に設定する。
【0076】
マップMAP_BRKは、予め車速Vspとブレーキ踏力BRKに対応付けられてROMに格納されているデータであり、例えば図13の特性である。ブレーキ踏力BRKに応じて回生制動する値を設定する。値は全て負の値であり、ブレーキ踏力BRKが大きいほど、値が小さくなるように設定しておく。
【0077】
車速がV1以上かつTdrvがTdrv1以上の時には、flag_b=0とし、車速がV0以下或いはTdrvがTdrv0以下の時には、flag_b=1とする。また、それ以外の領域(太い実線と点線の間の領域)はヒステリシス領域であり、状況に応じてどちらの値もとり得る。例えば、VspとTdrvの2状態が方向Aに従って移動するとき、点線に達するまではflag_b=1とし、点線と交差した時点でflag_b=0とする。逆に、VspとTdrvの2状態が方向Bに従って移動するとき、太線に達するまではflag_b=0とし、太線と交差した時点でflag_b=1とする。ここで、V0としては例えば26[km/h]、V1としては30[km/h]のようにV1>V0となるように設定しておく。また、Tdrv1としては例えば30[Nm]、Tdrv0としては例えば−30[Nm]のように、0[Nm]近傍でTdrv1>Tdrv0となるように設定しておく。
【0078】
ただし、後述する図14のステップS612aにて判定する”状態1への移行禁止判定”結果が、”移行禁止”である場合には、flag_b=0からflag_b=1への変化を禁止するものとする。
【0079】
続いて、状態stateの決定方法を図9に従って説明する。ここでstateの初期値は、図10のフローに従って1に設定されている。
(state=1のとき)
状態1は、ブレーキ11が完全に締結し、車両を駆動または回生制動できる状態である。前述の演算によりflag_b=0となったらstate=6とし、それ以外のときにはstate=1を保持する。
(state=6のとき)
状態6は、ブレーキ11の開放動作中状態である。ブレーキ11が完全に開放したと判断したら、state=4とし、まだ完全には開放していないと判断したらstate=6を保持する。ただし、flag_b=1となったら、state=5とし状態5へ移行する。ブレーキ11が完全に開放したことは、state=6が時間Td1継続したことをもって判断する。時間Td1は、図8のステップS404にてブレーキ開放指令してから、実際にブレーキ11が完全に開放されるまでの時間遅れ、例えば0.2sと予め決めておく。
(state=4のとき)
状態4は、状態1から状態2へ移行する際の過渡状態であり、後述(図14を参照)するようにアウターロータ9R、9L回転速度とインナーロータ8R,8L回転速度を略一致させる制御を実施する状態である。アウターロータ9R、9L回転速度とインナーロータ8R,8L回転速度が略一致したら、state=2とする。アウターロータ9R、9L回転速度とインナーロータ8R,8L回転速度が略一致したことは、回転速度RoutとRLinの差が例えば10rpm以内であることをもって判断する。state=2とする前に、flag_b=1となったら、state=3とし、状態3へ移行する。それ以外の場合は、state=4を保持する。
(state=2のとき)
状態2は、ブレーキ11が完全に開放し、車両を旋回アシストできる状態である。flag_b=1となったら、state=3とし、状態3へ移行する。それ以外の場合は、state=2を保持する。
(state=3のとき)
状態3は、状態2から状態1へ移行する際の過渡状態であり、後述(図14を参照)するようにアウターロータ9R、9L回転速度をほぼ0にさせる制御を実施する状態である。アウターロータ9R、9L回転速度Routがほぼ0になったら、state=5とする。アウターロータ9R、9L回転速度がほぼ0になったことは、回転速度が例えば−10rpm〜+10rpm内であることをもって判断する。state=5とする前に、flag_b=0となったら、state=4とし、状態4へ移行する。それ以外の場合は、state=3を保持する。
(state=5のとき)
状態5は、ブレーキ11の締結動作中状態である。ブレーキ11が完全に締結したら、state=1とし、完全に締結するまでは、state=5を保持する。ただし、flag_b=0となったら、state=6として状態6へ移行する。ブレーキ11が完全に締結したことは、state=5が時間Td2継続したことをもって判断する。時間Td2は、図8のステップS404にてブレーキ締結指令してから、実際にブレーキ11が完全に締結されるまでの時間遅れ、例えば0.1sと予め決めておく。
【0080】
続いて、クラッチモータ41R,41Lへの指令トルクTR,TLおよび摩擦ブレーキの油圧の減圧指令値Tbrを演算する方法を、図14に示すフローチャートに従って説明する。
【0081】
まず、S601にて走行レンジ(Rng)がDレンジ(前進走行レンジ)であるか、stateの値が、5または6であるかを判定する。ここでDレンジでなければ、つまり、Pレンジ(パーキングレンジ)またはRレンジ(後退走行レンジ)またはNレンジ(ニュートラルレンジ)のいずれかであればS602へ進み、S602にてTR=0、TL=0、S613にて摩擦ブレーキの油圧の減圧指令値Tbr=0として本ルーチンを終了する。stateの値が、5または6である場合も同じである。この場合、クラッチモータ41L,41Rは共にトルクを発生せず、車両の運動特性に何ら影響を与えない。走行レンジがDレンジでありかつstateの値が4以下であれば、S610へ進む。
【0082】
S610では、状態stateが2であればS611へ進み、それ以外の状態であればS620へ進む。
【0083】
S611へ進んだ場合には、クラッチモータ41Lへの指令トルクTLは、アウターロータの回転速度Routと左インナーロータの回転速度RLinとが一致するように演算する。例えば、次式で示すように、アウターロータの回転速度Routと左インナーロータの回転速度RLinとの差が0となるようにフィードバック制御(PI制御)をする方法がある。
【0084】
【数8】
TL=Kp*(Rout−RLin)+∫Ki*(Rout−RLin)dt…(8)
ここで、この式(8)中の∫Ki*(Rout−RLin)dtは時間積分項であり、また、Kp(比例ゲイン)及びKi(積分ゲイン)は予めフィードバック系が所望のレギュレーション特性を有するように決定されている正の固定値である。また、RoutおよびRLinは、それぞれ車両が前進しているときのインナーロータ8L、8Rの回転の向きを正にとるものとする。
【0085】
このようにすることで、アウターロータの回転速度Routは左インナーロータの回転速度RLinと一致するようにフィードバック制御される。
【0086】
S612では、クラッチモータ41Rへの指令トルクTRを演算する。ここで、この指令トルクTRは、上述した図4または図6に示すフローチャートに従って算出された指令トルクTCをTC=TRとして置き換えたものであり、詳細な説明は重複するため省略する。
【0087】
ここで、クラッチモータ41L,41Rの作用とその作用による車両挙動について補足しておく。理解を容易にするため、車両がほぼ直進に進行している状況、つまり、クラッチモータ41L,41Rのインナーロータ8Lと8Rがほぼ同一回転速度の状況を用いて補足する。
【0088】
クラッチモータ41Rに正のトルクTRを発生させると、後輪1Rからの反力によりアウターロータ9R,9Lには回転速度Routを減速させる反作用(トルクの大きさはTRに等しい)が生じる。一方クラッチモータ41Lは、アウターロータ9R,9Lの回転速度Routをインナーロータ8Lと同一(インナーロータ8Rともほぼ同一)にすべくフィードバック制御を行っているので、アウターロータ9R,9Lの回転速度Routを加速させるように作用する。このとき、クラッチモータ41Lのトルクは−TR(負値)となる。クラッチモータ41Lのトルク−TRは後輪1Lに対して車両を制動させる向きに後輪1Lにトルクを発生させる。
【0089】
即ちクラッチモータ41Rへ正のトルクを指令すると、車両を駆動させる向きのトルクが後輪1Rに加わると同時に、同じ大きさの車両を制動させる向きのトルクが後輪1Lに加わり、両者のトルク差により車両に左旋回のヨーモーメントを発生させ、左旋回の性能を向上させる効果を実現する。逆にクラッチモータ41Rへ負のトルクを指令すると、車両を制動させる向きのトルクが後輪1Rに加わると同時に、同じ大きさの車両を駆動させる向きのトルクが後輪1Lに加わり、両者のトルク差により車両に右旋回のヨーモーメントを発生させ、右旋回の性能を向上させる効果を実現する。
【0090】
S612実行後は、S612aにて、状態1への移行禁止判定を行なう。判定は、車速テーブル値TH_YとマップMAP_TY1(上述した図5を参照)の表引き値とに基づいて行なう。車速テーブル値TH_Yは、状態1のときに、クラッチモータ41R、41Lで実現し得る最大トルク値、例えば図15のような特性として、予めROMに持たせておく。状態1では車速とクラッチモータ41R、および、41Lの回転速度(つまりインナーロータとアウターロータとの回転速度差)がほぼ反比例する為、クラッチモータの基底回転数以上の車速においては、テーブル値はほぼ車速に反比例する特性とする。
【0091】
マップMAP_TY1は、予め車速Vspとステアリング角Strに応じて対応付けられてROMに格納されているデータであり、上述した図5に示すように、車速とステアリング角に応じて値が変わるように設定しておく。ステアリングが左に切られている(車両挙動は左旋回)状況において、左旋回へのヨーモーメントを発生させるように、すなわち、後輪1Rに車両を駆動させる向きのトルクが発生するように、正の値を割り付けておく。逆にステアリングが右に切られている(車両挙動は右旋回)状況において、後輪1Rに車両を制動させる向きのトルクが発生するように、負の値を割り付けておく。
(1)車速テーブルTH_Y参照値=<マップMAP_TY1表引き値の絶対値なら、状態1への移行を”禁止”すると判定し、
(2)車速テーブルTH_Y参照値>マップMAP_TY1表引き値の絶対値 なら、状態1への移行を”禁止しない”と判定する。
【0092】
本判定結果は、前述の図8のステップS402で使用する。なお、本判定結果を使用するのは次回の定時割り込みルーチン実行時である。
S613では、摩擦ブレーキの油圧の減圧指令値Tbrを0として本ルーチンを終了する。
【0093】
さて、S610にてNoと判断した場合には、S620へ進む。
【0094】
S620では、状態stateが1であればS621へ進み、それ以外の状態であればS630へ進む。
【0095】
S621では、車両制駆動分の指令トルク値の基本値tmpをマップMAP_TDおよびマップMAP_BRKの表引きの和の値として求める。前述したように、マップMAP_TDは例えば図12の特性であり、マップMAP_BRKは例えば図13の特性である。
【0096】
S622では、バッテリ13のSOC値Batが、予め設定されているSOC許容下限値BAT_L(例えば40%)以下か否かを判定し、BAT_L以下ならS623へ進み、BAT_L以下でないならS624へ進む。
【0097】
S623では、指令トルク値の基本値tmpの値としてtmpと0との小さいほうを新たなtmp値として代入する。このように、S622にてバッテリ13の蓄電量が少ないと判定した場合には、指令トルク値の基本値tmpを0または負値に限定することで、車両を駆動するために使用するバッテリ電力を抑制する機能を実現する。
【0098】
S624では、バッテリ13のSOC値Batが、予め設定されているSOC許容上限値BAT_H(例えば70%)以下か否かを判定し、BAT_H以上ならS625へ進み、BAT_H以上でないならS626へ進む。
【0099】
S625では、指令トルク値の基本値tmpの値としてtmpと0との大きいほうを新たなtmp値として代入する。このように、S624にてバッテリの蓄電量が多いと判定した場合には、指令トルク値の基本値tmpを0または正値に限定することで、回生によるバッテリ充電を抑制する機能を実現する。
【0100】
S626では、後輪1Rと後輪1Lの駆動トルク差となって現れる分のクラッチモータトルク指令値tmp2をマップMAP_TY1の表引き値によって演算する。ここで、マップMAP_TY1は、上述したステップS612aで説明したものであり、その特性例は図5である。
【0101】
S627では、制駆動分トルクtmpに対して、tmpが負値(回生制動要求)であるときにtmp2の左右トルク差を実現できる範囲で制限をかける。つまり、tmpからtmp2の絶対値を差し引いたトルク値が、指令トルクTLおよび最小値tmp1よりも大きくなるようにtmpの値を次式で制限する。
【0102】
【数9】
tmp1=TBL_LMT(Vsp) …(9)
【0103】
【数10】
tmp=max(tmp,tmp1+abs(tmp2)) …(10)
ここで、指令トルクTL、TRの最小値(負値)tmp1は、図16のように車速テーブル値TBL_LMTとして予めROMに持たせておく。状態1では、クラッチモータ41R、および、41Lのインナーロータとアウターロータ回転速度差が、車速とほぼ比例する為、クラッチモータの基底回転数以上の車速においては、テーブル値はほぼ車速に反比例する形とする。
【0104】
S628では、クラッチモータ41Lへの指令トルクTL、および、クラッチモータ41Rへの指令トルクTR、および、摩擦ブレーキの油圧の減圧指令値Tbrを次のように演算する。
【0105】
【数11】
TR=tmp+tmp2 …(11)
【0106】
【数12】
TL=tmp−tmp2 …(12)
【0107】
【数13】
Tbr=min(tmp,0) …(13)
さて、S620にて状態stateが1でないと判定された場合には、S630に進む。
【0108】
S630にて、状態stateが3であればS631に、それ以外の状態(つまり状態state=4)であればS632に進む。
【0109】
S631へ進んだ場合には、クラッチモータ41Lへの指令トルクTLは、アウターロータの回転速度Routが0に一致するように演算する。例えば、次式(14)で示すように、アウターロータの回転速度Routが0となるようにフィードバック制御(PI制御)をする方法がある。
【0110】
【数14】
TL=Kp*(Rout)+∫Ki*(Rout)dt …(14)
ここで、この式(14)中の∫Ki*(Rout)dtは時間積分項であり、また、Kp(比例ゲイン)及びKi(積分ゲイン)は予めフィードバック系が所望のレギュレーション特性を有するように決定されている正の固定値である。また、Routは、車両が前進しているときのRLinの回転の向きを正にとるものとする。このようにすることで、アウターロータの回転速度Routは0となるようにフィードバック制御される。
【0111】
その後、S633にてクラッチモータ41Rの指令トルクTRを0とし、S634にて摩擦ブレーキの油圧の減圧指令値Tbrを0として本ルーチンを終了する。
【0112】
S632に進んだ場合には、クラッチモータ41Lへの指令トルクTLは、アウターロータの回転速度Routと左インナーロータの回転速度RLinとの回転速度が一致するように演算する。演算方法は、S611と同じにすればよいので説明は省略する。その後、S633でクラッチモータ41Rへの指令トルクTRを0とし、S634にて摩擦ブレーキの油圧の減圧指令値Tbrを0として本ルーチンを終了する。
【0113】
尚、本実施形態においては、S611及びS632に進んだ場合に、クラッチモータ41Lへの指令トルクTLを、アウターロータの回転速度Routと左インナーロータの回転速度RLinとが一致するように演算しているが、クラッチモータ41Rへの指令トルクTRをアウターロータの回転速度Routと右インナーロータの回転速度RRinとが一致するように演算するようにしてもよい。この場合には、S612ではクラッチモータ41Lへの指令トルクTLをマップの表引きにより演算するようにし、S633ではクラッチモータ41Lへの指令トルクTLを0とすることになる。
【0114】
この第2実施形態は、走行レンジがDレンジの時に次の機能を実現することができる。
【0115】
1)状態2のとき:車速およびステアリング角に応じて左右輪1Lと1Rとに駆動トルク差を発生させ、車両の旋回性能を向上させることができる。特にクラッチモータ41L,41Rのアウターロータ9L,9Rとインナーロータ8L,8Rとの回転速度差が車速によらずほぼ0に保たれるため、モータの定トルク領域が使用でき、小型モータで左右輪1Lと1Rとに駆動トルク差を効果的に発生させることができるという特長を有している。
【0116】
2)状態1のとき:アクセル踏み込み量に応じて車両を制駆動動作させることができると共に、ステアリング角に応じて左右輪1Lと1Rとに駆動トルク差をつけることで旋回性能を向上させることもできる。その際、バッテリ13の蓄電状態に応じてバッテリ13の放電・充電を制限する機能も有する。
【0117】
3)状態3のとき:状態1への移行に備えて、予めクラッチモータ41L,41Rのアウターロータ9L,9Rの回転速度差をほぼ0するように備えておくことができる。状態5でブレーキ11のON操作を行った場合に、クラッチモータ41L,41Rのアウターロータ9L,9Rの回転を、速やかに、かつ、ブレーキ11のON時のショックが少なくブレーキの経年劣化を抑えるように固定させることができる。
【0118】
4)状態4のとき:状態2への移行に備えて、予めクラッチモータ41L,41Rのアウターロータ9L,9Rとインナーロータ8L,8Rとの回転速度差を車速によらずほぼ0するように備えておくことができる。
【0119】
5)状態5または6のとき:ブレーキ11の締結動作中あるいは開放動作中の状態である。クラッチモータ41L,41Rのトルクを0とすることで、安定にブレーキ11の締結および開放動作を実現できる。
【0120】
6)特に、クラッチモータ41L,41Rによる回生制動は、状態が1のとき(ブレーキ11が完全に締結しているとき)に限定されるので、安定した回生制動が実現できる。
【0121】
7)図6のS621からS628のステップにより、クラッチモータ41L,41Rによる回生制動分は、摩擦ブレーキが減らさせることになるので、回生動作・非動作によらず、常に運転者の意図した車両制動力を実現することができる。
【0122】
8)状態2にあって、左右輪に所定値以上のトルク差を発生させているときには、状態1への状態遷移を禁止するようにした。これにより、左右輪の駆動力差がなくなることで車両挙動が不安定化することを回避できる。この機能は、前述の図14のステップS612aおよび、図8のステップS402にて実現している。ここで所定値としては、図15に示したように状態1で発生できるトルク差程度としてもよい。そうすることで、図15のトルク差以内の時には、状態1ヘ移行した後で左右輪の駆動力差が減ることなく、制動動作も実現することができる。
【0123】
特に、状態2のときには、上述した第1実施形態と同様に、常に左右輪のいずれも空転させない範囲でクラッチモータ41L、41Rによる旋回アシストを行なうことができるようになり、路面の状態によらず、車輪の空転により車両挙動が不安定となる事態を回避することができる。
【0124】
また、大きな横力が必要な時ほど指令トルクの上限を小さく抑えるの構成としたので、車両の後端が横滑りを起こして車両挙動が不安定化するという事態を回避できる。
【0125】
そして、路面の摩擦係数が低いほど、指令トルクの上限を小さく抑える構成としたので、車両の後端が横滑りを起こして車両挙動が不安定化する事態を、路面の摩擦係数によらず回避できる。
【0126】
また、必要横力が大きいほど後輪1R,1Lの高い方のスリップ率をより小さく抑えるように指令トルクを制限する構成としたので、車両の状態(積載量・重心位置の変化など)や路面状態や路面の摩擦係数の推定遅れや路面の摩擦係数の推定誤差によらず、横力Fyを確保しつつ、タイヤのグリップ力を路面の摩擦係数に応じて最大限に活用できる形態で指令トルクを制限できる。
【0127】
また、横滑り角βrに応じて指令トルクを制限する場合(図14のS612における演算を図6のフローチャートに従って行う場合)、横滑り角βrが許容横滑り角βrnを越えるほど、また、路面摩擦係数推定値μeが小さいほど、Sthが小さい値に設定され、したがって指令トルクの絶対値も小さく制限されることになる。故に、路面の摩擦係数に応じて、また、車両の横滑り具合に応じて、適正にタイヤが横力を発生できる範囲で左右輪の駆動トルク差を制限し、旋回アシストをできる。
【0128】
続いて、本発明の第3実施形態について説明する。この第3実施形態は、図1における後輪の左右輪駆動装置として、図17の構成をとるものである。
【0129】
右後輪51Rには、等速ジョイント52R,53Rを有する連結軸54Rが連結され、連結軸54Rには減速歯車55R,56Rを介してクラッチモータ63のインナーロータ61が連結されている。左後輪51Lには、等速ジョイント52L,53Lを有する連結軸54Lが連結されており、連結軸54Lは更にクラッチ板72と連結されている。71はクラッチ機構であり、ソレノイド75によってクラッチ板72をディスク73もしくはディスク74に締結させる。ここでディスク73は、回転軸57に連結されており、ディスク74は、ケースが車体に固定された歯車機構50の作用により、ディスク73と逆回転に回転するようになっている。回転軸57には、減速歯車55L,56Lを介してクラッチモータ63のアウターロータ62が連結されている。
【0130】
クラッチモータ63にはその駆動回路64が接続されている。クラッチモータ63およびその駆動回路64およびバッテリ13の構造および作用については、先の実施形態で説明したのでここでは説明を省略する。
【0131】
クラッチ機構71は、コントローラ67からの指令を受けて駆動回路65がソレノイド75を調整することにより、クラッチ板72をディスク73もしくはディスク74に締結したり、ディスク73、ディスク74ともに非締結の状態にしたりする。
【0132】
後輪51L、51Rには摩擦ブレーキ(不図示)が備え付けられている。摩擦ブレーキは、運転者のブレーキペダル操作に応じて増圧される油圧の力で、ブレーキバッドをブレーキディスクに押し付け、ブレーキ力を発生する機構となっている。また、コントローラ67からの指令に応じて、油圧弁を調整することで油圧を任意に減圧できる、つまり、摩擦ブレーキ力を任意に弱めることができる構成となっている。
【0133】
コントローラ67には、ドライバが操作するアクセルの踏み込み量を検出するポテンショ式センサ40と、ステアリングの回転角を検出するステアリング角センサ42と、オートマティックトランスミッションの走行レンジ(P、R、N、Dレンジ)を検出するスイッチからなる走行レンジセンサ43と、車両の速度を検出する車速センサ44、車両の起動を検出するイグニッションスイッチ45、バッテリの蓄電量を検出するSOC(State Of Charge)センサ46、アウターロータ62の回転速度を検出するアウターロータ回転速度センサ47、インナーロータ61の回転速度を検出するインナーロータ回転速度センサ48、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキ踏力センサ70の信号が入力されている。また、車両の右前輪31Rの回転速度を検出する回転速度センサ171、車両の左前輪31Lの回転速度を検出する回転速度センサ172、従動輪である後左輪51Lの回転速度を検出する回転速度センサ173、後右輪51Rの回転速度を検出する回転速度センサ174の信号も入力されている。そして、後輪の横滑り角(後輪の向きと後輪の進行方向とのなす角度)を検出するために後輪車軸上に設置されたジャイロセンサ180からの信号も入力されている。
【0134】
コントローラ67は、マイクロコンピュータのほかにRAM/ROMなどの周辺部品を備えており、前述の入力信号を受けて、クラッチ板72の締結を判断し、クラッチモータ63への指令トルクを演算し、摩擦ブレーキの油圧の減圧指令値も演算する。クラッチ板72の締結判断、およびクラッチモータ63への指令トルク演算は、一定時間(例えば 10ms)ごとに、図18に示すフローチャートを実行することで実現する。即ち、図18のS1301にてコントローラ67に入力される信号を変数に格納し、S1302ではクラッチ板72をディスク73に締結すべきかディスク74に締結すべきかを判断し、その結果をflag_Cに代入する。また、クラッチ板72の締結状態をあらわす変数stateの決定も行なう。続いてS1303ではクラッチモータ63の指令トルクTCを演算し、摩擦ブレーキの油圧の減圧指令値Tbrも演算する。S1304にてクラッチ板72の締結指令およびクラッチモータ63の指令トルクTCをコントローラ67から駆動回路64,65へ出力する。最後にS1305で、摩擦ブレーキの油圧の減圧指令値を出力する。
【0135】
flag_Cはクラッチ板72をディスク74に締結すべきと判断した時に1、ディスク73に締結すべきと判断した時に0と演算する。クラッチ板72の締結状態をあらわす変数stateは、1〜8の整数をとる。状態1(state=1)は、クラッチ板72がディスク74に完全に締結し、車両を駆動または回生制動できる状態である。また、状態2(state=2)は、クラッチ板72がディスク73に完全に締結し、車両を旋回アシストできる状態である。その他の状態は、状態1および状態2の間を状態遷移する際にとる状態でであり、後述する。指令トルクTCは、クラッチ板72をディスク74に締結した状況において、車両を前に駆動する向きを正にとり、車両を後ろに駆動する向きを負にとるものとする。S1304のクラッチ板72の締結指令は、state=1またはstate=5の時にディスク74に締結すると指令し、state=2またはstate=8の時にディスク73に締結すると指令し、それ以外のときには、どちらにも締結しないように指令する。
【0136】
また、これらの値は、イグニッションスイッチON時に、図19に示すフローチャートの制御を実行することで初期化しておく。つまり、締結方向判断フラグflag_Cの初期値は1、指令トルクTCの初期値は0、減圧指令値Tbrの初期値は0、状態stateの初期値は1、となるようそれぞれ初期化される。
【0137】
以下、クラッチ板72の締結方向判断フラグflag_Cと状態stateを決定するS1302と、クラッチモータ63への指令トルクと摩擦ブレーキの油圧の減圧指令値Tbrを演算するS1303について順に説明する。
【0138】
クラッチ板72の締結方向判定フラグflag_Cは、前述したflag_bと同じ方法(図11)で決定する。ただし、後述する図20のステップS1412aにて判定する”状態1への移行禁止判定”結果が、”移行禁止”である場合には、flag_C=0からflag_C=1への変化を禁止するものとする。
【0139】
状態stateは、レンジ信号がP,N,Rのいずれかの場合には1とし、Dの場合には図21に従って決定する。ここで状態stateは、flag_Cを演算後に決定する。なおstateの初期値は、図19のフローに従って1に設定されている。
(state=1のとき)
クラッチ板72がディスク74に完全に締結し、車両を駆動または回生制動できる状態である。前述の演算によりflag_C=0となったらstate=6とし、それ以外のときにはstate=1を保持する。
(state=6のとき)
状態6は、クラッチ板72の開放動作中状態である。クラッチ板72が完全に離れたと判断したら、state=4とし、まだ完全には離れていないと判断したらstate=6を保持する。ただし、flag_C=1となったら、state=5とし状態5へ移行する。クラッチ板72が完全に開放したことは、state=6が時間Td3継続したことをもって判断する。時間Td3は、図18のステップS1304にてクラッチ開放指令してから、実際にクラッチ板72が完全に開放されるまでの時間遅れ、例えば0.2sと予め決めておく。
(state=4のとき)
状態4は、状態1から状態2へ移行する際の過渡状態であり、後述(図20を参照)するようにクラッチモータ63のアウターロータ回転速度とインナーロータ回転速度を略一致させる制御を実施する状態である。両者の回転速度が略一致したら、state=8とする。両者の回転速度が略一致したことは、回転速度RoutとRinの差が例えば10rpm以内であることをもって判断する。state=8とする前に、flag_C=1となったら、state=3とし、状態3へ移行する。それ以外の場合は、state=4を保持する。
(state=8のとき)
状態8は、クラッチ板72の締結動作中状態である。クラッチ板72がディスク73に完全に締結したと判断したら、state=2とし、まだ完全には締結していないと判断したらstate=8を保持する。ただし、flag_C=1となったら、state=7とし状態7へ移行する。クラッチ板72が完全に締結したことは、state=8が時間Td4継続したことをもって判断する。時間Td4は、図18のステップS1304にてクラッチ締結指令してから、実際にクラッチ板72が完全に締結されるまでの時間遅れ、例えば0.1sと予め決めておく。
(state=2のとき)
状態2は、クラッチ板72がディスク73に完全に締結し、車両を旋回アシストできる状態である。flag_C=1となったら、state=7とし、状態7へ移行する。それ以外の場合は、state=2を保持する。
(state=7のとき)
状態7は、クラッチ板72の開放動作中状態である。クラッチ板72が完全に離れたと判断したら、state=3とし、まだ完全には離れていないと判断したらstate=7を保持する。ただし、flag_C=0となったら、state=8とし状態8へ移行する。クラッチ板72が完全に開放したことは、state=7が時間Td5継続したことをもって判断する。時間Td5は、図18のステップS1304にてクラッチ開放指令してから、実際にクラッチ板72が完全に開放されるまでの時間遅れ、例えば0.2sと予め決めておく。
(state=3のとき)
状態3は、状態2から状態1へ移行する際の過渡状態であり、後述(図20を参照)するようにアウターロータ回転速度がインナーロータ回転速度とほぼ逆(Routが−Rinとほぼ一致。つまりクラッチ板72とディスク74の回転速度がほぼ一致。)するように制御を実施する状態である。Routが−Rinとほぼ一致したら、state=5とする。ほぼ一致したことは、(Rout+Rin)が例えば−10rpm〜+10rpm内であることをもって判断する。state=5とする前に、flag_C=0となったら、state=4とし、状態4へ移行する。それ以外の場合は、state=3を保持する。
(state=5のとき)
状態5は、クラッチ板72の締結動作中状態である。クラッチ板72がディスク74に完全に締結したと判断したら、state=1とし、まだ完全には締結していないと判断したらstate=5を保持する。ただし、flag_C=0となったら、state=6とし状態6へ移行する。クラッチ板72が完全に締結したことは、state=5が時間Td4継続したことをもって判断する。時間Td4は、図18のステップS1304にてクラッチ締結指令してから、実際にクラッチが完全に締結されるまでの時間遅れ、例えば0.1sと予め決めておく。
【0140】
続いて、クラッチモータ63への指令トルクTCを演算する方法を、図20に示すフローチャートに従って説明する。
【0141】
まず、S1401にて走行レンジ(Rng)がDレンジ(前進走行レンジ)であるか、stateの値が、5以上であるかを判定する。ここでDレンジでなければ、つまり、Pレンジ(パーキングレンジ)またはRレンジ(後退走行レンジ)またはNレンジ(ニュートラルレンジ)のいずれかであればS1402へ進み、S1402にてTC=0、S1413にて摩擦ブレーキの油圧の減圧指令値Tbr=0として本ルーチンを終了する。stateの値が、5以上である場合も同じである。この場合、クラッチモータ63はトルクを発生せず、車両の運動特性に何ら影響を与えない。走行レンジがDレンジ、かつ、stateの値が、4以下であれば、S1410へ進む。
【0142】
S1410では、stateの値が2か否かを判定し、2であればS1412へ進み、2でなければS1420へ進む。
【0143】
S1412では、クラッチモータ63への指令トルクTCを演算する。ここで、この指令トルクTCは、上述した図4または図6に示すフローチャートに従って算出されたものであり、詳細な説明は重複するため省略する。
【0144】
ここで、クラッチモータ63の作用による車両挙動について補足しておく。理解を容易にするため、車両がほぼ直進に進行している状況を用いて補足する。クラッチモータ63に正のトルクを発生させると、後輪51Rには駆動の向きに力が発生し、その反作用で後輪51Lに対しては車両を制動させる向きに後輪51Lにトルクを発生する。即ちクラッチモータ63へ正のトルクを指令すると、車両を駆動させる向きのトルクが後輪51Rに加わると同時に、同じ大きさの車両を制動させる向きのトルクが後輪51Lに加わり、両者のトルク差により車両に左旋回のヨーモーメントを発生させ、左旋回の性能を向上させる効果を実現する。逆にクラッチモータ63へ負のトルクを指令すると、車両を制動させる向きのトルクが後輪51Rに加わると同時に、同じ大きさの車両を駆動させる向きのトルクが後輪51Lに加わり、両者のトルク差により車両に右旋回のヨーモーメントを発生させ、右旋回の性能を向上させる効果を実現する。
【0145】
S1412aでは、状態1への移行禁止判定を行なう。判定は、図14のS612aと同じなので省略する。ただし、図17の構成では状態1にて旋回アシストすることが不可能であるので、車速テーブル値TH_Yの値としては、車両挙動が大きく変化しない程度の小さい値としておく。
【0146】
S1413では、摩擦ブレーキの油圧の減圧指令値Tbrを0として本ルーチンを終了する。
【0147】
さて、S1410にてNoと判断した場合には、S1420へ進む。S1420では、stateの値が1か否かを判定し、1であればS1421へ進み、1でなければS1430へ進む。
【0148】
S1421からS1425までは、図14のS621からS625までと同じであるので、説明は省略する。
【0149】
S1426では、制駆動分トルクtmpに対して、tmpが負値(回生制動要求)であるときに制限をかける。つまり、tmpのトルク値が、指令トルクTCの最小値(負値)tmp1よりも大きくなるようにtmpの値を次式で制限する。
【0150】
【数15】
tmp1=TBL_LMT(Vsp) …(15)
【0151】
【数16】
tmp=max(tmp,tmp1) …(16)
ここで、指令トルクTCの最小値tmp1は、図16のように車速テーブル値TBL_LMTとして予めROMに持たせておく。
【0152】
続いてS1427では、クラッチモータ63の指令トルクTC、摩擦ブレーキの油圧の減圧指令値Tbrを次のように演算する。
【0153】
【数17】
TC=tmp …(17)
【0154】
【数18】
Tbr=min(tmp,0) …(18)
さて、S1420にてstateの値が2でないと判定された場合には、S1430に進む。
【0155】
S1430にて、stateの値が3であるかを判定し、yesであればS1431に、noであればS1432に進む。
【0156】
S1432に進んだ場合には、クラッチモータ63への指令トルクTCは、アウターロータの回転速度Routとインナーロータの回転速度Rinとの回転速度が一致するように演算する。演算方法としては例えば、次式(19)で示すように、アウターロータの回転速度Routとインナーロータの回転速度Rinとの差が0となるようにフィードバック制御(PI制御)をする方法がある。
【0157】
【数19】
TC=Kp*(Rout−Rin)+∫Ki*(Rout−Rin)dt …(19)
ここで、この式中の∫Ki*(Rout−Rin)dtは時間積分項であり、また、Kp(比例ゲイン)及びKi(積分ゲイン)は予めフィードバック系が所望のレギュレーション特性を有するように決定されている正の固定値である。また、RoutおよびRinは、クラッチ板72がディスク73に締結されている状態で車両が前進しているときのRoutおよびRinの回転の向きをそれぞれ正にとるものとする。このようにすることで、アウターロータの回転速度Routはインナーロータの回転速度Rinと一致するようにフィードバック制御される。
【0158】
S1431に進んだ場合には、クラッチモータ63への指令トルクTCは、アウターロータの回転速度Routがインナーロータの回転速度Rinの符号反転値となるように演算する。演算方法としては例えば、次式(20)で示すように、アウターロータの回転速度Routとインナーロータの回転速度Rinの符号反転値との差が0となるようにフィードバック制御(PI制御)をする方法がある。
【0159】
【数20】
TC=Kp*(Rout+Rin)+∫Ki*(Rout+Rin)dt …(20)
このようにすることで、アウターロータの回転速度Routはインナーロータの回転速度Rinの符号反転値と一致するようにフィードバック制御される。
【0160】
ここで、S1431とS1432は次のような意味を持つ。stateの値が3であるときは、クラッチ板72をディスク74に締結するのに備えて、S1431の操作によりクラッチ板72とディスク74との回転数を合わせておき、ディスク74に締結する際のショックを抑えることができる。また、stateの値が4のときは、クラッチ板72をディスク73に締結するのに備えて、S1432の操作によりクラッチ板72とディスク73との回転数を合わせておき、ディスク73に締結する際のショックを抑えることができる。
【0161】
S1434では、摩擦ブレーキの油圧の減圧指令値Tbrを0として本ルーチンを終了する。
【0162】
このような第3実施形態にいては、走行レンジがDレンジの時に次の機能を実現することができる。
【0163】
1)状態2のとき:車速およびステアリング角に応じて左右輪51Lと51Rとに駆動トルク差を発生させ、車両の旋回性能を向上させることができる。特にクラッチモータ63のアウターロータ62とインナーロータ61との回転速度差が車速によらずほぼ0に保たれるため、モータの定トルク領域が使用でき、小型モータで左右輪51Lと51Rとに駆動トルク差を効果的に発生させることができるという特長を有している。
【0164】
2)状態1のとき:アクセル踏み込み量に応じて車両を制駆動動作させることができる。その際、バッテリの蓄電状態に応じてバッテリの放電・充電を制限する機能も有する。
【0165】
3)状態3〜状態8のとき:クラッチ板72をディスク73もしくは74に締結させるのに備えて、締結側の回転数を合わせておくことで、締結時のショックを抑えることができる。ショックによる運転性悪化を抑えられると共に、クラッチの耐久性を高めることができる。
【0166】
4)特に、クラッチモータ63による回生制動は、状態が1のとき(クラッチ板72が完全にディスク74に締結しているとき)に限定されるので、安定した回生制動が実現できる。
【0167】
5)図20のS1421からS1427のステップにより、クラッチモータ63による回生制動分は、摩擦ブレーキが減らさせることになるので、回生動作・非動作によらず、常に運転者の意図した車両制動力を実現することができる。
【0168】
6)状態2にあって、左右輪51R、51Lに所定値以上のトルク差を発生させているときには、状態1への状態遷移を禁止するようにした。これにより、左右輪51R、51Lの駆動力差がなくなることで車両挙動が不安定化することを回避できる。この機能は、前述の図20のステップS1412aおよび、図18のステップS1302にて実現している。
【0169】
特に、状態2のときには、上述した第1実施形態と同様に、常に左右輪のいずれも空転させない範囲でクラッチモータ63による旋回アシストを行なうことができるようになり、路面の状態によらず、車輪の空転により車両挙動が不安定となる事態を回避することができる。
【0170】
また、大きな横力が必要な時ほど指令トルクの上限を小さく抑えるの構成としたので、車両の後端が横滑りを起こして車両挙動が不安定化するという事態を回避できる。
【0171】
そして、路面の摩擦係数が低いほど、指令トルクTCの上限を小さく抑える構成としたので、車両の後端が横滑りを起こして車両挙動が不安定化する事態を、路面の摩擦係数によらず回避できる。
【0172】
また、必要横力が大きいほど後輪51R,51Lの高い方のスリップ率をより小さく抑えるように指令トルクを制限する構成としたので、車両の状態(積載量・重心位置の変化など)や路面状態や路面の摩擦係数の推定遅れや路面の摩擦係数の推定誤差によらず、横力Fyを確保しつつ、タイヤのグリップ力を路面の摩擦係数に応じて最大限に活用できる形態で指令トルクを制限できる。
【0173】
また、横滑り角βrに応じて指令トルクを制限する場合(図20のS1412における演算を図6のフローチャートに従って行う場合)、横滑り角βrが許容横滑り角βrnを越えるほど、また、路面摩擦係数推定値μeが小さいほど、Sthが小さい値に設定され、したがって指令トルクの絶対値も小さく制限されることになる。故に、路面の摩擦係数に応じて、また、車両の横滑り具合に応じて、適正にタイヤが横力を発生できる範囲で左右輪の駆動トルク差を制限し、旋回アシストをできる。
【0174】
ここでは、上述した第1〜第3実施形態においては、車両の駆動源をエンジンとして実施形態を示したが、エンジン以外にもモータなどの駆動源を用いてもよい。
【0175】
また、他の実施形態として、特開平9−79348号公報に示されるように、クラッチモータを使わずに構成されている左右輪連結装置にも適用することができる。すなわち、少なくとも1つの電気モータを備え、その電気モータにより右側車輪と左側車輪に逆向きのトルクを発生させて車両の旋回をアシストする車両の左右輪駆動装置であればよい。
【0176】
上述した各実施形態から把握し得る本発明の技術的思想について、その効果とともに列記する。
【0177】
(a)車両の左右輪駆動装置は、少なくとも1つの電気モータにより、右側車輪と左側車輪に同じ大きさの逆向きトルクを発生させて車両の旋回をアシストする車両の左右輪駆動装置において、左右輪の駆動側及び制動側のスリップ率を検出する左右輪スリップ率検出手段と、左右輪の高い方のスリップ率を所定範囲内に抑えるようにモータトルクを制限するモータトルク制限手段と、を備える。これにより、常に左右輪のいずれも空転させない範囲でモータによる旋回アシストを行なうことができるようになり、路面の状態によらず、車輪の空転により車両挙動が不安定となる事態を回避することができる。
【0178】
(b)車両の左右輪駆動装置、少なくとも1つの電気モータにより、右側車輪と左側車輪に同じ大きさの逆向きトルクを発生させて車両の旋回をアシストする車両の左右輪駆動装置において、ステアリング操作量および車速から左右輪で発生すべき必要横力を演算する手段と、必要横力が大きいほどモータトルクの上限値を小さくするモータトルク制限手段と、を備える。タイヤの発生できる横力Fyの最大値は、タイヤが前後に発生する力Fxの大きさに依存することが知られており(図22に示すようにFxとFyの合力Fzの最大値がほぼ一定値に制限される、つまり、FxとFyの実現し得る組み合わせが、図22の摩擦円内に限定される)、Fxが大きいほどFyの最大値が小さくなる関係にある。本発明では、大きな横力Fyが必要な時ほど、前後力Fxの上限を小さく抑える構成としたので、図23の前後力Fxにより横力Fy1+Fy2が十分確保できないために車両の後端が横滑りを起こして車両挙動が不安定化するという事態を回避できる。また、本左右輪駆動装置を非操舵輪に適用した場合(前輪操舵の車両などの後輪に適用した場合)、車両が直進状態から旋回し始める際には必要横力が小さいため左右輪の駆動力差を大きな値まで許容し、旋回中には必要横力に応じて左右輪の駆動力差を制限するといった具合に、車両の状態に応じて制限をかけることができる。
【0179】
(c) 上記(b)に記載の構成において、路面の摩擦係数を推定する路面摩擦係数推定手段を備えるとともに、モータトルク制限手段は、路面摩擦係数が小さいほどモータトルクの上限値を小さくする。路面の摩擦係数μの小さい路面では、同じ横力最大値を発生させる為に、前後力を小さく抑える必要がある。図24には、μ=1の摩擦円とμ=0.5の摩擦円が描かれている。今、横力Fy_nを実現する場合には、μ=1では前後力をFx_bまで出せるものの、μ=0.5では前後力をFx_sまでしか出せない。逆に言うと、μ=1では前後力がFx_b以下なら横力Fy_nを実現できるものの、μ=0.5では前後力をFx_s以下にしないと横力Fy_nを実現できない。本発明はこのような特性に鑑み、μが低いほどど、前後力Fxの上限を小さく抑える構成としたので、前後力Fxにより横力Fy1+Fy2が確保できないために車両の後端が横滑りを起こして車両挙動が不安定化する事態を、μによらず回避できる。
【0180】
(d) 上記(b)または(c)に記載の構成において、左右輪の駆動側及び制動側のスリップ率を検出する左右輪スリップ率検出手段を備えるとともに、モータトルク制限手段は、必要横力が大きいほど左右輪の高い方のスリップ率をより小さく抑えるようにモータのトルクを制限する。車両の状態(積載量・重心位置の変化など)や路面状態やμの推定遅れやμの推定誤差によらず、横力Fyを確保しつつ、タイヤのグリップ力をμに応じて最大限に活用できる形態でモータのトルクを制限できる。したがって、高精度に上記(b)および(c)に記載の構成の効果を得ることができる。
【0181】
(e)車両の左右輪駆動装置は、少なくとも1つの電気モータにより、右側車輪と左側車輪に同じ大きさの逆向きトルクを発生させて車両の旋回をアシストする車両の左右輪駆動装置において、左右輪のタイヤの横滑り角を推定する左右輪横滑り角推定手段と、左右輪横滑り角が大きいほど、モータトルクの上限値を小さくするモータトルク制限手段と、を備える。検出あるいは推定したすべり角から、タイヤの横力不足を検出し、横力Fyの不足具合に応じて前後力Fxを制限することで、横力Fyを増大させることができる。したがって、前後力Fxにより横力Fy1+Fy2が確保できないために車両の後端が横滑りを起こして車両挙動が不安定化する事態を回避できるようになった。横滑りを直接検出あるいは推定するようにしたため、上記(b)〜(d)の構成よりも更に車両の横滑り挙動を精度良く抑制できる。
【0182】
(f) 上記(e)に記載の構成において、路面の摩擦係数を推定する路面摩擦係数推定手段を備えるとともに、モータトルク制限手段は、路面摩擦係数が小さいほどモータトルクの上限値を小さくする。これにより、前後力Fxにより横力Fy1+Fy2が確保できないために車両の後端が横滑りを起こして車両挙動が不安定化する事態を、μによらず回避できる。
【0183】
(g) 上記(e)または(f)に記載の構成において、左右輪の駆動側及び制動側のスリップ率を検出する左右輪スリップ率検出手段を備えるとともに、モータトルク制限手段は、左右輪横滑り角が大きいほど左右輪の高い方のスリップ率をより小さく抑えるようにモータトルクを制限する。車両の状態(積載量・重心位置の変化など)や路面状態やμの推定遅れやμの推定誤差によらず、横力Fyを確保しつつ、タイヤのグリップ力をμに応じて最大限に活用できる形態でモータのトルクを制限できるようになった。したがって、高精度に上記(e)及び(f)に記載の構成の効果を得ることができる。
【0184】
(h) 車両の左右輪駆動装置は、電気モータを一方向へ駆動すると車両の右車輪に駆動力が付与されるとともに左車輪に制動力が付与され、電気モータを反対方向へ駆動すると右車輪に制動力が付与されるとともに左車輪に駆動力が付与される車両の左右輪駆動装置において、左右車輪の横力の不足が発生しない範囲で左右車輪に制動力もしくは駆動力の付与が行われるよう電気モータのモータトルクを制御するモータトルク制御手段を備える。
【0185】
(i) 上記(h)に記載の構成において、モータトルク制御手段は、車両の速度とステアリングの回転角とに基づいて旋回アシストのためのモータトルクを算出するモータトルク算出手段と、左右車輪の横力の不足が発生しないようにモータトルクを制限するモータトルク制限手段と、を含んで構成される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態を示す説明図。
【図2】本発明の一実施の形態を示す説明図。
【図3】本発明に係る車両の左右輪駆動装置の制御の流れを示すフローチャート。
【図4】本発明に係る車両の左右輪駆動装置の制御の流れを示すフローチャート。
【図5】予め車速Vspとステアリング角Strに応じて対応付けられてROMに格納されているデータであるマップMAP_TY1のマップ図。
【図6】本発明に係る車両の左右輪駆動装置の制御の流れを示すフローチャート。
【図7】本発明の第2実施形態を示す説明図。
【図8】本発明の第2実施形態に係る車両の左右輪駆動装置の制御の流れを示すフローチャート。
【図9】本発明の第2実施形態における制御の流れを模式的に示す説明図。
【図10】本発明の第2実施形態に係る車両の左右輪駆動装置の制御の流れを示すフローチャート。
【図11】flag_bの演算方法を模式的に示した説明図。
【図12】予め車速Vspとアクセル踏み込み量Apsに応じて対応付けられてROMに格納されているデータであるマップMAP_TDのマップ図。
【図13】予め車速Vspとブレーキ踏力に応じて対応付けられてROMに格納されているデータであるマップMAP_BRKのマップ図。
【図14】本発明の第2実施形態に係る車両の左右輪駆動装置の制御の流れを示すフローチャート。
【図15】本発明に係る実施形態において使用するROMデータの特性図。
【図16】本発明に係る実施形態において使用するROMデータの特性図。
【図17】本発明の第3実施形態を示す説明図。
【図18】本発明の第3実施形態に係る車両の左右輪駆動装置の制御の流れを示すフローチャート。
【図19】本発明の第3実施形態に係る車両の左右輪駆動装置の制御の流れを示すフローチャート。
【図20】本発明の第3実施形態に係る車両の左右輪駆動装置の制御の流れを示すフローチャート。
【図21】本発明の第3実施形態における制御の流れを模式的に示す説明図。
【図22】本発明の効果を説明する説明図。
【図23】本発明の効果を説明する説明図。
【図24】本発明の効果を説明する説明図。
【図25】本発明の効果を説明する説明図。
【符号の説明】
108…インナーロータ
109…アウターロータ
125…クラッチモータ

Claims (4)

  1. 少なくとも1つの電気モータにより、右側車輪と左側車輪に同じ大きさの逆向きトルクを発生させて車両の旋回をアシストする車両の左右輪駆動装置において、
    左右輪で発生すべき必要横力を演算する手段と、
    必要横力が大きいほどモータトルクの上限値を小さくするモータトルク制限手段と、を備えたことを特徴とする車両の左右輪駆動装置。
  2. 必要横力を演算する手段は、ステアリング操作量および車速から左右輪で発生すべき必要横力を演算することを特徴とする請求項1に記載の車両の左右輪駆動装置。
  3. 路面の摩擦係数を推定する路面摩擦係数推定手段を備えるとともに、モータトルク制限手段は、路面摩擦係数が小さいほどモータトルクの上限値を小さくすることを特徴とする請求項1または2に記載の車両の左右輪駆動装置。
  4. 左右輪の駆動側及び制動側のスリップ率を検出する左右輪スリップ率検出手段を備えるとともに、モータトルク制限手段は、必要横力が大きいほど左右輪の高い方のスリップ率をより小さく抑えるようにモータのトルクを制限することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両の左右輪駆動装置。
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