JP4295444B2 - クローラ走行車 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、左右一対のクローラ走行体を備えるコンバイン等のクローラ走行車の技術分野に属するものである。
【0002】
【従来の技術】
近来、左右一対のクローラ走行体を備えるコンバイン等のクローラ走行車においては、走行動力を左右のクローラ駆動軸に伝動するトランスミッションに、前記走行動力を左右のクローラ駆動軸に同期伝動する直進動力伝動系と、前記走行動力を左右のクローラ駆動軸に選択的に伝動する旋回動力伝動系とを独立状に構成したものがあり、このものでは、直進動力伝動系で良好な直進性を確保しつつ、旋回動力伝動系の変速に基づいて様々な旋回パターンを現出できる利点がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかるに、上記従来のものでは、直進動力伝動系を変速するHST(油圧無段変速装置)とは別に、旋回動力伝動系を変速するHSTを備えるため、コストアップを招来する不都合がある。また、上記従来のものでは、左右一対の遊星ギヤ機構を用いて直進動力と旋回動力とを合成する場合、左右の遊星ギヤ機構に対して旋回動力伝動系が逆方向の回転動力を伝動するように構成していたため、少なくとも逆転軸を設ける必要があり、その結果、部品点数の削減や構造の複雑化を招く不都合があった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、動力源から入力した走行動力を左右のクローラ駆動軸に伝動するトランスミッションを備えるクローラ走行車において、前記トランスミッションは、前記走行動力を左右のクローラ駆動軸に同期伝動する直進動力伝動系と、前記走行動力を複数の変速クラッチで左右各々複数段の変速をし、該左右複数段の変速動力を左右のクローラ駆動軸に選択的に伝動する旋回動力伝動系とを備え、前記直進動力伝動系は、左右のクローラ駆動軸に対し、それぞれ遊星ギヤ機構を介して動力を伝動する一方、旋回動力伝動系は、左右の遊星ギヤ機構に設けられるリングギヤに対し、同方向の回転動力をそれぞれ選択的に伝動して片側変速できるように構成し、前記変速クラッチの選択的な断続動作に基づいて、旋回内側のクローラ駆動軸を減速状態から逆転状態まで複数段変速を可能にしたことを特徴とするクローラ走行車である。つまり、旋回動力伝動系を複数の変速クラッチで多段に変速して様々な旋回パターンを現出させることができるため、旋回動力伝動系を変速するためのHSTを不要にしてコストダウンを図ることができる。また、遊星ギヤ機構を介して直進動力と旋回動力とを合成するため、直進状態から旋回状態への移行や、旋回状態から直進状態への移行を円滑に行うことができ、しかも、左右のリングギヤに同方向の回転動力を選択的に伝動するため、左右のリングギヤに逆方向の回転動力を伝動する場合のように逆転軸を設ける必要がなく、その結果、部品点数の削減および構造の簡略化を図ることができる。
請求項2の発明は、請求項1において、旋回動力伝動系に、旋回内側のクローラ駆動軸を略停止状態に変速して機体を信地旋回させる信地旋回変速状態を設定したことを特徴とするクローラ走行車である。つまり、遊星ギヤ機構を介して直進動力と旋回動力とを合成するものでありながら、旋回内側のクローラ駆動軸を停止させる信地旋回を行うことができるため、サイドクラッチ方式に似せた旋回操作パターンを設定することができる。
請求項3の発明は、請求項1又は2において、旋回動力伝動系に、旋回内側のクローラ駆動軸を略停止状態に変速して機体を信地旋回させる信地旋回変速状態と、旋回内側のクローラ駆動軸を逆転状態に変速して機体を超信地旋回させる超信地旋回変速状態とを設定すると共に、操向操作具の操作に応じて信地旋回変速状態から超信地旋回変速状態へ移行させることを特徴とするクローラ走行車である。つまり、機体の旋回状態を、必要に応じて信地旋回から超信地旋回へ移行させることができるため、小回り旋回が容易になって操作性の向上を図ることができる。
【0005】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態の一つを図面に基づいて説明する。図面において、1はコンバインであって、該コンバイン1は、茎稈を刈取る前処理部2と、刈り取った茎稈の脱穀処理および選別処理を行う脱穀選別部3と、選別した穀粒を貯溜する穀粒タンク4と、脱穀済みの排稈を放出する後処理部5と、運転席6および各種の操作具が設けられる操作部7と、左右一対のクローラ走行体8からなる走行部9とを備えて構成されている。
【0006】
10はコンバイン1に搭載されるトランスミッションであって、該トランスミッション10は、入力プーリ11を備える入力軸12からエンジン動力を入力すると共に、入力した動力を、一側面部に組付けられるHST変速装置13で無段階状に変速し、その出力動力を、独立状に構成される直進動力伝動系14および旋回動力伝動系15を介して左右のクローラ駆動軸16L、16Rに伝動するように構成されている。因みに、上記HST変速装置13は、入力軸12から入力した動力で吐出駆動する斜板式の可変容量ポンプと、該可変容量ポンプの吐出油で回転駆動する固定容量モータとを上下に並設し、上記斜板コントロールに基づいて固定容量モータの出力回転を無段変速する油圧式無段変速機構である。
【0007】
S1〜S11はトランスミッション10に設けられる軸であって、該軸S1〜S11のうち、第一軸S1は、HST変速装置13のモータ軸に一体的に連結される筒状軸であり、第二軸S2に動力伝動を行うギヤ17を一体的に備えている。
【0008】
第二軸S2は、前処理動力取出し軸であって、上記ギヤ17に噛合するギヤ18と、第三軸S3に動力伝動を行うギヤ19と、前処理部2に動力伝動を行う出力プーリ20とを一体的に備えている。
【0009】
第三軸S3は、副変速機構21を構成する副変速軸であって、上記ギヤ19に噛合するギヤ22と、外周部に第一スリーブ23が装着される第一ハブ24と、外周部に第二スリーブ25が装着される第二ハブ26とを一体的に備えると共に、第一〜第三の副変速ギヤ27〜29を回転自在に支持している。そして、各副変速ギヤ27〜29は、何れかのスリーブ25に選択的に噛合可能なクラッチギヤ27a〜29aを一体的に備えており、この選択噛合動作に応じて何れかの副変速ギヤ27〜29が第三軸S3と一体回転するように構成されている。
【0010】
第四軸S4は、直進動力伝動系14と旋回動力伝動系15とに動力を分配する動力分配軸であって、上記第一副変速ギヤ27に噛合し、且つ、第五軸S5および第七軸S7に動力伝動を行うギヤ30と、上記第二副変速ギヤ28に噛合するギヤ31と、上記第三副変速ギヤ29に噛合するギヤ32とを一体的に備えている。
【0011】
第五軸S5は、直進動力伝動用の中継軸であって、上記ギヤ30に噛合し、且つ、第六軸S6に動力伝動を行うギヤ33を回転自在に支持している。
【0012】
第六軸S6は、前記左右のクローラ駆動軸16L、16R間に直列状に配置される直進動力伝動系最終軸であって、上記ギヤ33に噛合するギヤ34を一体的に備えると共に、その左右両端部は、左右一対の遊星ギヤ機構35L、35Rを介して左右のクローラ駆動軸16L、16Rに連動連結されている。遊星ギヤ機構35L、35Rは、第六軸S6の左右両端部に一体化されたサンギヤ36L、36Rと、第六軸S6およびクローラ駆動軸16L、16Rに対して回転自在なリングギヤ37L、37Rと、上記サンギヤ36L、36Rおよびリングギヤ37L、37Rの内周歯37aに噛合する複数のプラネタリギヤ38L、38Rと、該プラネタリギヤ38L、38Rを自転および公転自在に支持し、且つ、クローラ駆動軸16L、16Rに一体的に連結されるキャリア39L、39Rとを備えており、上記サンギヤ36L、36Rから入力される直進系動力と、リングギヤ37L、37Rから入力される旋回系動力とを合成するように構成されている。
【0013】
第七軸S7は、旋回動力伝動用の中継軸であって、上記ギヤ30に噛合し、且つ、第八軸S8に動力伝動を行うギヤ40を回転自在に支持している。
【0014】
第八軸S8は、後述する第一〜第四の変速クラッチC1〜C4に動力を分配する旋回動力分配軸であって、上記ギヤ40に噛合するギヤ41と、上記各変速クラッチC1〜C4に動力伝動を行うギヤ42〜45とを一体的に備えている。
【0015】
第九軸S9は、左右両端部に上記第一、第二変速クラッチC1、C2を備える第一の変速クラッチ軸であって、さらに第九軸S9は、上記ギヤ42に噛合するギヤ46と、上記ギヤ43に噛合する47とを回転自在に支持すると共に、第十一軸S11に動力伝動を行うギヤ48を一体的に備えている。上記各変速クラッチC1、C2は、ギヤ46、47に一体的に連結される駆動ケース49と、第九軸S9に一体的に連結される従動ケース50と、各ケース49、50に一体回転可能に係合し、且つ、交互に重合される複数のディスク51と、該ディスク51を圧縮して両ケース49、50を一体的に接続するクラッチ作動体52と、該クラッチ作動体52を非圧縮方向に付勢して両ケース49、50を分離する復帰バネ53とを備えており、上記クラッチ作動体52の油圧操作に基づいてギヤ46、47と第九軸S9との間の動力伝動を断続するように構成されている。
【0016】
第十軸S10は、左右両端部に上記第三、第四変速クラッチC3、C4を備える第二の変速クラッチ軸であって、さらに第十軸S10は、上記ギヤ44に噛合するギヤ54と、上記ギヤ45に噛合するギヤ55とを回転自在に支持すると共に、第十一軸S11に動力伝動を行うギヤ56を一体的に備えている。尚、上記変速クラッチC3、C4の構成および作用は、変速クラッチC1、C2と略同一であるため、詳細な説明は省略する。
【0017】
第十一軸S11は、左右両端部に左右一対の旋回用クラッチ57L、57Rおよび左右一対の直進用ブレーキ58L、58Rを備えるクラッチ・ブレーキ軸であって、さらに第十一軸S11は、上記ギヤ48、56に噛合するギヤ59を回転自在に支持している。上記各旋回用クラッチ57L、57Rは、ギヤ59に一体的に連結される駆動ケース60L、60Rと、第十一軸S11に回転自在に支持される従動ケース61L、61Rと、各ケース60L(60R)、61L(61R)に一体回転可能に係合し、且つ、交互に重合される複数のディスク62L、62Rと、該ディスク62L、62Rを圧縮して両ケース60L(60R)、61L(61R)を一体的に接続するクラッチ作動体63L、63Rと、該クラッチ作動体63L、63Rを介して従動ケース61L、61Rに一体回転可能に連結され、且つ、前記リングギヤ37L、37Rに噛合する旋回駆動ギヤ64L、64Rと、上記クラッチ作動体63を非圧縮方向に付勢して両ケース60L(60R)、61L(61R)を分離する復帰バネ65L、65Rとを備えており、上記クラッチ作動体63L、63Rの選択的な油圧操作に基づいてギヤ59と旋回駆動ギヤ64L、64Rとの間の動力伝動を断続するように構成されている。また、上記直進用ブレーキ58L、58Rは、上記クラッチ作動体63L、63Rの油圧操作に応じ、旋回用クラッチ57L、57Rと背反的に動作するように構成されている。つまり、直進用ブレーキ58L、58Rは、トランスミッションケース66内に固定状態で設けられる固定ケース67L、67Rと、上記従動ケース61L、61Rとの間に、交互に重合する複数のディスク68L、68Rを係合状に介設して構成されており、上記クラッチ作動体63L、63Rがクラッチ切り位置のときは、ディスク68L、68Rの圧縮に応じて両ケース61L(61R)、67L(67R)を一体的に接続することにより、旋回駆動ギヤ64L、64Rの回転を制動する一方、クラッチ作動体63L、63Rがクラッチ入り位置のときは、各ケース61L(61R)、67L(67R)を分離することにより、旋回系動力による旋回駆動ギヤ64L、64Rの駆動回転を許容するが、さらに、クラッチ作動体63L、63Rが中立位置のときは、旋回用クラッチ57L、57Rが切り状態で、且つ、旋回用クラッチ57L、57Rが非制動状態となり、旋回駆動ギヤ64L、64Rの空転が許容される。
【0018】
即ち、トランスミッション10は、HST出力を左右のクローラ駆動軸16L、16Rに同期伝動する直進動力伝動系14と、HST出力を左右のクローラ駆動軸16L、16Rに選択的に伝動する旋回動力伝動系15とを備えており、さらに旋回動力伝動系は、伝動比(減速比)が相違する複数の並列伝動経路を構成すると共に、各並列伝動経路に変速クラッチC1〜C4を備え、該変速クラッチC1〜C4の選択的に断続動作によって旋回系動力を多段に変速するように構成される。これにより、旋回動力伝動系15を変速するためのHST変速装置を設けることなく、旋回動力伝動系15を複数の変速クラッチC1〜C4で左右各々を多段に変速し、様々な旋回パターンを現出させることが可能になる。
【0019】
旋回動力伝動系15は、左右の遊星ギヤ機構35L、35Rに設けられるリングギヤ37L、37Rに対して旋回系動力を伝動するにあたり、旋回用クラッチ57L、57Rの選択的な断続動作に基づき、同方向の回転動力を何れか一方のリングギヤ37L、37Rに選択的に伝動するように構成されている。従って、旋回用クラッチ57L、57Rの選択的な断続動作に基づいて旋回方向が決定され、その際の旋回パターンが、変速クラッチC1〜C4の選択的な断続動作に基づいて決定されることになり、また、旋回用クラッチ57L、57Rを中立状態に保持した場合には、リングギヤ37L、37Rを空転させる空転旋回を行うことが可能になる。その結果、遊星ギヤ機構35L、35Rを介した直進系動力と旋回系動力との合成により、直進状態から旋回状態への移行や、旋回状態から直進状態への移行を円滑に行うことができる許りでなく、左右のリングギヤ37L、37Rに同方向の回転動力を選択的に伝動する片側変速を行うことにより、左右のリングギヤ37L、37Rに逆方向の回転動力を同時に伝動するものの如く、逆転軸を設ける必要がない。
【0020】
次に、トランスミッション10の配置構成を説明する。側面視においては、直進動力伝動系14(S4、S5、S6)と旋回動力伝動系15(S4、S7、S8、S9、S10、S11)とが前後に並列配置されている。これにより、トランスミッションケース66の幅寸法を可及的に小さくして泥押し等による走行性の低下を防止することが可能になる。また、直進動力伝動系14と旋回動力伝動系15とを前後に並列配置するにあたり、旋回動力伝動系15に比して幅狭にし得る直進動力伝動系14が前側に配置されている。そのため、トランスミッションケース66の前部における泥溜りや泥押しをさらに軽減でき、しかも、変速クラッチC1〜C4の油圧配管をトランスミッションケース66の後部に通すことにより、トランスミッションケース66を利用して油圧配管を保護することが可能になる。また、直進動力伝動系14は、側面視でくの字状に曲折するように構成される一方、旋回動力伝動系15は、その一部が直進動力伝動系14の曲折凹部に入り込むように配置されており、その結果、伝動系の配置効率を向上させてトランスミッションケース66の小型化を図ることが可能になる。
【0021】
一方、正面視(背面視)においては、直進動力伝動系14および旋回動力伝動系15のギヤ伝動部14a、15aがトランスミッション10の左右中央部に配置されると共に、その左右両側に複数の変速クラッチC1〜C4(旋回クラッチ57L、57R、直進用ブレーキ58L、58R)が配置されている。これにより、旋回動力伝動系15を複数の変速クラッチC1〜C4で多段に変速するものでありながら、旋回動力伝動系15の伝動経路を可及的に短くして伝動効率の低下を回避でき、しかも、変速クラッチC1〜C4がトランスミッション10の左右に配置されるので、後述のように良好なメンテナンス性を確保することが可能になる。
【0022】
前記トランスミッションケース66の左右両側部には、変速クラッチC1〜C4、旋回クラッチ57L、57Rおよび直進用ブレーキ58L、58Rの外側方を開放可能な開口部66aが形成されている。この開口部66aは、トランスミッションケース66に着脱自在にボルト固定される後述の変速クラッチケース(カバー)69L、69Rによって覆蓋されており、該変速クラッチケース69L、69Rを外すことによって変速クラッチC1〜C4、旋回クラッチ57L、57R、直進用ブレーキ58L、58R等のメンテナンスが可能になる。また、変速クラッチケース69L、69Rをトランスミッションケース66の左右に設けたことにより、何れか一方を選択的に外して一部のクラッチまたはブレーキをメンテナンスしたり、左右の変速クラッチケース69L、69Rを両方外して2人でメンテナンスする等、任意のメンテナンス形態を選択することができる。
【0023】
前記変速クラッチケース69L、69Rは、それぞれ複数個分の変速クラッチケースとして機能するように形成されている。つまり、変速クラッチケース69L、69Rの内側部には、それぞれ複数の固定ケース70L、70R、67L、67Rが一体的に組付けられており、該固定ケース70L、70R、67L、67Rは、それぞれ第九軸S9、第十軸S10および第十一軸S11の左右両端部を支持すると共に、変速クラッチC1〜C4、旋回クラッチ57L、57R(直進用ブレーキ58L、58R)を断続動作させるピストン71L、71R、72L、72Rを進退自在に支持している。これにより、旋回動力伝動系15を複数の変速クラッチC1〜C4で多段に変速するものでありながら、変速クラッチケース69L、69Rに対してそれぞれ複数の変速クラッチC1〜C4、旋回クラッチ57L、57R(直進用ブレーキ58L、58R)を組み付けることにより、軸間距離を縮めてトランスミッション10の小型化を図ることができる許りでなく、部品点数を削減することが可能になる。
【0024】
また、前記遊星ギヤ機構35L、35Rのリングギヤ37L、37Rは、直進操作時、直進用ブレーキ58L、58Rによって制動される。これにより、第六軸S6の直進系動力が左右のクローラ駆動軸16L、16Rに同期的に伝動され、機体が直進することになる。一方、旋回操作時には、左右何れかのリングギヤ37L、37Rに旋回駆動ギヤ64L、64Rの旋回系動力が選択的に伝動される。この動力は、リングギヤ37L、37Rをサンギヤ36L、36Rと逆方向に回転させる。これにより、旋回内側のクローラ駆動軸16L、16Rが減速、停止もしくは逆転し、機体が旋回することになる。上記の如く動作するリングギヤ37L、37Rにあっては、大型化を回避しつつ、必要な支持強度を確保することが要求される。この要求を満たすために上記遊星ギヤ機構35L、35Rでは、次の様なリングギヤ支持構造を採用している。
【0025】
即ち、リングギヤ37L、37Rの内周部を、第一の軸受73を介してキャリア39L、39Rの外周部で支持すると共に、リングギヤ37L、37Rのボス内周部を、第二の軸受74を介してキャリア39L、39Rのボス外周部で支持している。その結果、リングギヤ37L、37Rが二箇所で支持されることになり、一箇所で支持するものに比してリングギヤ37L、37Rの支持強度を高めることができ、しかも、リングギヤ37L、37Rの支持荷重を分散することにより、各支持部を小さくして遊星ギヤ機構35L、35Rの小型化を図ることが可能になる。
【0026】
また、本実施形態の遊星ギヤ機構35L、35Rにおいては、キャリア39L、39Rに径方向を向いて形成される挿通孔39aに、プラネタリギヤ38L、38Rの支軸75を抜止めするロールピン76を挿通状に組付けるにあたり、キャリア39L、39Rの外周部でリングギヤ37L、37Rを支持する前記第一軸受73の内周部と、サンギヤ36L、36R(第六軸S6)を支持するためにキャリア39L、39Rの内周部に設けられる第三軸受77の外周部との間で上記ロールピン76を抜止めしている。これにより、他目的で設けられる軸受73、77を利用してロールピン76を抜止めすることができ、その結果、専用の抜止め部材を不要にして部品点数の削減および構造の簡略化を図ることが可能になる。
【0027】
さて、上記の如く構成したトランスミッション10においては、旋回動力伝動系15に複数構成される並列伝動経路の伝動比設定や、各クラッチの選択的な断続動作に基づいて下記に示す様々な旋回パターンを現出させることができ、本実施形態では、下記に示す全ての旋回パターンを設定する。
(1)複数段の減速旋回(緩旋回)
動作条件:プラネタリギヤ38L、38Rの公転が減速される伝動比(例えば減速比7:3、9:1)を所定の並列伝動経路に設定し、該並列伝動経路の変速クラッチC1〜C4および旋回内側の旋回用クラッチ57L、57Rを入り側に動作させる。
(2)信地旋回
動作条件:プラネタリギヤ38L、38Rの公転が停止する伝動比を所定の並列伝動経路に設定し、該並列伝動経路の変速クラッチC1〜C4および旋回内側の旋回用クラッチ57L、57Rを入り側に動作させる。
(3)超信地旋回
動作条件:プラネタリギヤ38L、38Rが逆転方向に公転する伝動比を所定の並列伝動経路に設定し、該並列伝動経路の変速クラッチC1〜C4および旋回内側の旋回用クラッチ57L、57Rを入り側に動作させる。
(4)空転旋回(リングギヤ空転による方向修正)
動作条件:旋回内側の旋回用クラッチ57L、57Rを中立状態に保持する。
【0028】
一方、操作部7には、HST変速装置13を変速操作する主変速レバー78と、副変速機構21を変速操作する副変速レバー79と、第一の操向操作具であるマルチレバー80とが設けられている。主変速レバー78の操作領域には、前進変速操作領域、中立操作領域および後進変速領域が設定されており、一本のレバー操作で走行無段変速および前後進切換を行うことができる。また、副変速レバー79の操作領域には、高速位置a(走行)、中立位置b、中速位置c(標準)、中立位置dおよび低速位置e(倒伏)が前後に並ぶように設定されており、この領域では、後述する通常旋回モード(モード1)が適用される。また、低速位置eの一側方には、第二の低速位置fが設定されており、この領域では、後述する超信地旋回モード(モード2)が適用される。また、マルチレバー80は、前後および左右方向に操作可能なジョイスティック式操作具であって、前後レバー操作によって前処理部2の昇降を行う一方、左右レバー操作によって機体の旋回および方向修正を行うことができ、さらに、マルチレバー80の握り部には、第二の操向操作具である左右一対の方向修正スイッチ81L、81Rと、超信地旋回モードであることを表示する超信地旋回インジケータ82とが設けられている。
【0029】
83はマイクロコンピュータを用いて構成される制御部であって、該制御部83には、前記方向修正スイッチ81L、81Rと、前記超信地インジケータ82と、前記マルチレバー80の操作位置を検出するレバー位置検出センサ84と、副変速レバー79の操作領域に基づいて適用する旋回操作モードを検出する操作モード検出センサ85と、複数設定される旋回操作パターンの中から任意のパターンを選択操作する操作パターン選択スイッチ86と、左旋回用クラッチ57Lおよび左直進用ブレーキ58Lを動作させる左旋回クラッチアクチュエータ(電磁バルブ等)87Lと、右旋回用クラッチ57Rおよび右直進用ブレーキ58Rを動作させる右旋回クラッチアクチュエータ87Rと、緩旋回(7:3)用に設定した変速クラッチを動作させる緩旋回(7:3)クラッチアクチュエータ88と、緩旋回(9:1)用に設定した変速クラッチを動作させる緩旋回(9:1)クラッチアクチュエータ89と、信地旋回用に設定した変速クラッチを動作させる信地旋回クラッチアクチュエータ90と、超信地旋回用に設定した変速クラッチを動作させる超信地旋回クラッチアクチュエータ91とが接続されている。つまり、制御部83は、第一操向操作具であるマルチレバー80と、第二操向操作具である方向修正スイッチ81L、81Rとの操作に応じて変速クラッチC1〜C4、旋回用クラッチ57L、57Rおよび直進用ブレーキ58L、58Rを動作させることにより、様々な旋回パターンを現出させるように構成されており、以下、各操向操作具に応じた旋回パターンを説明する。
【0030】
方向修正スイッチ81L、81Rを操作した場合は、操作モード検出センサ85や操作パターン選択スイッチ86の状態に拘わらず空転旋回が行われる。そのため、遊星ギヤ機構35L、35Rを介して直進系動力と旋回系動力とを合成するものでありながら、旋回内側のクローラ駆動軸16L、16Rを空転させる空転旋回を行うことができ、その結果、従来のサイドクラッチ方式に似た旋回状態を現出させることが可能になる。
【0031】
一方、マルチレバー80の操作に基づく旋回パターンは、操作モード検出センサ85や操作パターン選択スイッチ86の状態に応じて変化する。以下、各状態の旋回パターンを説明する。
(1)第一旋回操作パターンを選択し、副変速レバー位置がモード1領域の場合マルチレバー80をA領域(6゜〜12゜)に操作すると、緩旋回(7:3)が行われ、さらに、B領域(12゜〜17゜)まで操作すると、緩旋回(9:1)に移行する。
(2)第一旋回操作パターンを選択し、副変速レバー位置がモード2領域の場合マルチレバー80をA領域に操作すると、緩旋回(7:3)が行われ、さらに、B領域まで操作すると、超信地旋回に移行する。
(3)第二旋回操作パターンを選択し、副変速レバー位置がモード1領域の場合マルチレバー80をA領域に操作すると、緩旋回(7:3)が行われ、さらに、B領域まで操作すると、超信地旋回に移行する。
(4)第二旋回操作パターンを選択し、副変速レバー位置がモード2領域の場合マルチレバー80をA領域に操作すると、信地旋回が行われ、さらに、B領域まで操作すると、超信地旋回に移行する。
(5)第三旋回操作パターンを選択し、副変速レバー位置がモード1領域の場合マルチレバー80をA領域に操作すると、信地旋回が行われ、さらに、B領域まで操作しても、信地旋回状態を維持する。
(6)第三旋回操作パターンを選択し、副変速レバー位置がモード2領域の場合マルチレバー80をA領域に操作すると、信地旋回が行われ、さらに、B領域まで操作すると、超信地旋回に移行する。
【0032】
叙述の如く構成されたものにおいて、動力源から入力した走行動力を左右のクローラ駆動軸16L、16Rに伝動するトランスミッション10であって、該トランスミッション10は、前記走行動力を左右のクローラ駆動軸16L、16Rに同期伝動する直進動力伝動系14と、前記走行動力を複数の変速クラッチC1〜C4で変速し、該変速動力を左右のクローラ駆動軸16L、16Rに選択的に伝動する旋回動力伝動系15とを備え、前記直進動力伝動系14は、左右のクローラ駆動軸16L、16Rに対し、それぞれ遊星ギヤ機構35L、35Rを介して動力を伝動する一方、旋回動力伝動系15は、左右の遊星ギヤ機構35L、35Rに設けられるリングギヤ37L、37Rに対し、同方向の回転動力を選択的に伝動するように構成し、前記変速クラッチC1〜C4の選択的な断続動作に基づいて、旋回内側のクローラ駆動軸16L、16Rを減速状態から逆転状態まで変速可能にしている。つまり、旋回動力伝動系15を複数の変速クラッチC1〜C4で多段に変速して様々な旋回パターンを現出させることができるため、旋回動力伝動系15を変速するためのHSTを不要にしてコストダウンを図ることができる。また、遊星ギヤ機構35L、35Rを介して直進動力と旋回動力とを合成するため、直進状態から旋回状態への移行や、旋回状態から直進状態への移行を円滑に行うことができ、しかも、左右のリングギヤ37L、37Rに同方向の回転動力を選択的に伝動するため、左右のリングギヤ37L、37Rに逆方向の回転動力を伝動する場合のように逆転軸を設ける必要がなく、その結果、部品点数の削減および構造の簡略化を図ることができる。
【0033】
また、旋回動力伝動系15に、旋回内側のクローラ駆動軸16L、16Rを略停止状態に変速して機体を信地旋回させる信地旋回変速状態を設定したので、遊星ギヤ機構35L、35Rを介して直進動力と旋回動力とを合成するものでありながら、旋回内側のクローラ駆動軸16L、16Rを停止させる信地旋回を行うことができ、その結果、サイドクラッチ方式に似せた旋回操作パターンを設定することができる。
【0034】
また、旋回動力伝動系15に、旋回内側のクローラ駆動軸16L、16Rを略停止状態に変速して機体を信地旋回させる信地旋回変速状態と、旋回内側のクローラ駆動軸16L、16Rを逆転状態に変速して機体を超信地旋回させる超信地旋回変速状態とを設定すると共に、マルチレバー80の操作に応じて信地旋回変速状態から超信地旋回変速状態へ移行させるため、機体の旋回状態を、必要に応じて信地旋回から超信地旋回へ移行させることにより、小回り旋回が容易になって操作性の向上を図ることができる。
【0035】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されないことは勿論であって、例えば変速クラッチの数は任意に設定することができる。また、前記実施形態では、一つの旋回操作パターンにおいて3つを越える変速クラッチを使用しないため、例えば変速クラッチC4を省いてトランスミッションの構成を簡略化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】コンバインの斜視図である。
【図2】トランスミッションの伝動回路図である。
【図3】直進動力伝動系および旋回動力伝動系の配置を示すトランスミッションの概略側面図である。
【図4】クローラ駆動軸を含むトランスミッションの展開断面図である。
【図5】トランスミッションの展開断面図である。
【図6】同上側面図である。
【図7】旋回動力伝動系を示す同上部分展開断面図である。
【図8】遊星ギヤ機構を示す同上部分展開断面図である。
【図9】操作部の斜視図である。
【図10】副変速レバーの操作領域を示す平面図である。
【図11】マルチレバーを示す斜視図である。
【図12】制御部の入出力を示すブロック図である。
【図13】旋回操作パターンの説明図である。
【符号の説明】
1 コンバイン
8 クローラ走行体
10 トランスミッション
13 HST変速装置
14 直進動力伝動系
15 旋回動力伝動系
16 クローラ駆動軸
21 副変速機構
35 遊星ギヤ機構
36 サンギヤ
37 リングギヤ
38 プラネタリギヤ
39 キャリア
57 旋回用クラッチ
58 直進用ブレーキ
64 旋回駆動ギヤ
78 主変速レバー
79 副変速レバー
80 マルチレバー
81 方向修正スイッチ
83 制御部
C 変速クラッチ
S 軸

Claims (3)

  1. 動力源から入力した走行動力を左右のクローラ駆動軸に伝動するトランスミッションを備えるクローラ走行車において、前記トランスミッションは、前記走行動力を左右のクローラ駆動軸に同期伝動する直進動力伝動系と、前記走行動力を複数の変速クラッチで左右各々複数段の変速をし、該左右複数段の変速動力を左右のクローラ駆動軸に選択的に伝動する旋回動力伝動系とを備え、前記直進動力伝動系は、左右のクローラ駆動軸に対し、それぞれ遊星ギヤ機構を介して動力を伝動する一方、旋回動力伝動系は、左右の遊星ギヤ機構に設けられるリングギヤに対し、同方向の回転動力をそれぞれ選択的に伝動して片側変速できるように構成し、前記変速クラッチの選択的な断続動作に基づいて、旋回内側のクローラ駆動軸を減速状態から逆転状態まで複数段変速を可能にしたことを特徴とするクローラ走行車。
  2. 請求項1において、旋回動力伝動系に、旋回内側のクローラ駆動軸を略停止状態に変速して機体を信地旋回させる信地旋回変速状態を設定したことを特徴とするクローラ走行車。
  3. 請求項1又は2において、旋回動力伝動系に、旋回内側のクローラ駆動軸を略停止状態に変速して機体を信地旋回させる信地旋回変速状態と、旋回内側のクローラ駆動軸を逆転状態に変速して機体を超信地旋回させる超信地旋回変速状態とを設定すると共に、操向操作具の操作に応じて信地旋回変速状態から超信地旋回変速状態へ移行させることを特徴とするクローラ走行車。
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