JP4292297B2 - 免疫組織化学的染色による抗原の検出方法 - Google Patents

免疫組織化学的染色による抗原の検出方法 Download PDF

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本発明は、抗原の検出方法に関し、特に、免疫組織化学的染色を用いた抗原の検出方法に関する。
近年の免疫科学の進歩により、抗原抗体反応を用いて微量の物資を感度良く検出する免疫測定が広く用いられている。免疫測定の中で一般的なものとして、免疫組織染色及び酵素免疫測定がある。
免疫組織染色とは、組織上の特定の抗原を、その抗原を特異的に認識する抗体によって検出する方法である。通常、組織を固定後パラフィン包埋したブロックから薄切した切片上に特定の抗原を認識する抗体を反応させ、反応した抗体の有無から抗原の存在を判断する。最初に抗原と反応させる抗体を、通常、一抗体と呼ぶ。一抗体に、視覚又は機器により検出し得るシグナルを発する物質を結合させておけば、そのシグナルの強度から一抗体の量がわかり、それは即ち切片上の抗原の量に対応する。この目的を達成するためのシグナルを発する物質として蛍光物質、酵素などが挙げられる。
光学顕微鏡での染色像の解析が可能となった現在では、シグナルを発する物質として酵素を用いるのが一般的となった。免疫組織染色を行なう際、一抗体に酵素を結合させておけば、その酵素の発色性の基質を加えることにより酵素活性に対応した発色が得られ、それは抗体の量に対応、即ち組織上に存在する抗原の量に対応する。しかし、この方法では通常十分な感度が得られない。
抗原を検出する免疫組織化学的染色方法には、一次抗体を可視化できる酵素や標識物で標識したものを用いる直接法と一次抗体を標識せずに二次抗体を標識する間接法があることは知られている[例えば、非特許文献1(2002(平成14)年2月18日)、pp.23-25参照]。一般に、間接法には、抗原を一次抗体で標識した後に、この特異抗体を標識する間接法に属するペルオキシダーゼ抗ペルオキシダーゼ法(以下、PAP法という)、ストレプトアビチン-ビオチン複合体法(以下、sABC法という)、二次抗体と標識酵素とポリマーへ結合させたポリマー試薬法、フルオレセインイソチオシアネート(以下、FITCという)で標識した一次抗体ないし二次抗体を西洋ワサビペルオキシダーゼ(以下、HRPということがある)標識抗FITC抗体を用いる方法、sABC法に異化レポーター沈着反応(以下、CARD(catalyzed reporter deposition)反応という)を追加した超高感度の免疫組織化学的染色方法がある。
PAP法は、非特許文献1に記載されている。これには、ウサギの一次抗体を反応させ、次ぎに、過剰なブタ抗ウサギ抗体を反応させる方法である(非特許文献1、pp.136-138)。ブタ抗ウサギ抗体の2つのウサギ抗体に対する結合部の一つに、ウサギ抗HRP抗体とHRPを可溶性結合させた複合体(PAP複合体)を抗原抗体反応で結合する。HRPと過酸化水素水とジアミノベンチジン(以下、DABということがある)等のカップリング色素で抗原の存在部位に呈色反応を生じさせる。ヘマトキシリン溶液で核を対比染色した後に、濃度の漸増するエタノール系列に切片を浸し脱水し、キシレンを浸透させ、カバーガラスでプラスチック溶剤を用いて封入する。
sABC法は、非特許文献1に記載されている(そのpp.138-144)。この方法によれば、固定組織パラフィン切片のパラフィン除去、0.03%過酸化水素水メタノール液に20分間浸し内因性ペルオキシダーゼ活性を抑制し(そのp.163に記載)、リン酸緩衝液で親水化する。切片中の抗原を一次抗体で標識する。ビオチン化二次抗体を一次抗体と反応させ、ストレプトアビチン-HRP複合体で標識し、HRPと過酸化水素水とジアミノベンチジン等のカップリング色素で抗原の存在部位に呈色反応を生じさせる。ヘマトキシリン溶液で核を対比染色した後に、濃度の漸増するエタノール系列に切片を浸し脱水し、キシレンを浸透させ、カバーグラスでプラスチック溶剤を用いて封入する。
また、HRP標識抗FITC抗体を用いる方法が知られている(非特許文献1p.158)。これによれば、sABC法と同様に固定標本切片を親水化し、FITC標識の一次抗体で抗原を標識するか、抗原と反応させた一次抗体をFITC標識二次抗体で標識し、そのFITCをHRPなどの酵素で標識した抗FITC抗体と反応させ、HRPなどの呈色反応で、抗原の検出を間接的に行う。商業的このキットが知られている(例えば、非特許文献2(online)(平成15年2月17日検索)、ザイメッド社のホームページ参照)
また、ポリマー試薬法が知られている[例えば、特許文献1(株式会社ニチレイ、2001(平成13)年7月3日、酵素-タンパク質複合体参照)]。特許文献1では、ポリマーを担体として酵素(HRPなど)と抗体(蛋白)の複合体で、高感度に特異抗体で標識される物質の検出が可能との記載がある。特許文献1の請求項13に、ポリマー試薬法の記載がある。また、非特許文献1のp.147に、以下に示すポリマー試薬法の実施法の記載がある。sABC法と同様に固定標本切片を親水化し、切片中の抗原を特異抗体と反応させ、二次抗体とHRP等の酵素とポリマーの複合体と反応させ、HRPなどの呈色反応で、抗原の検出を間接的に行う。商業的には、EnVision(エンビジョン)、ChemMate EnVision(ケムメイト・エンビジョン)がダコサイトメーション社(DakoCytomation Co.)から、simple stain system(シンプル・ステイン・システム)株式会社ニチレイから、特異抗体と酵素とポリマーの複合体を用いるEPOS system(エポス・システム)がダコサイトメーション社から供給されている。
また、CARD反応が知られており[例えば、特許文献2(Bobrow, et al.(ボブラウ等)、March 24, 1998(平成10年3月24日)、Catalyzed reporter deposition(異化レポーター沈着:CARD反応))参照]、特許文献2では、claim 9(クレイム9)に、ビオチン化タイラマイドや蛍光標識(FITC等)タイラマイドの利用の記述があり、ビオチン化タイラマイドのCARD反応の記載がある。酵素反応での特異物質の沈着を特定の物質の検出の増幅に用い、超高感度の検出が可能であることは知られている[非特許文献1のp.150-152、及び例えば、非特許文献3(1989(平成1)年12月20日)参照]。また、化学固定された組織のパラフィン切片で、抗原回復処理と非特許文献1記載の標識シグナルの増幅法の組み合わせ[ImmunoMax(イムノマックス)]で、化学固定された組織のパラフィン切片では検出できなかった抗原を検出することができることは知られている[例えば、非特許文献4(1995(平成7)年7月)参照]。非特許文献3及び非特許文献4に、超高感度の免疫組織化学的染色法の以下に示す実施法の記載がある。すなわち、sABC法と同様に固定標本切片を親水化し、抗原回復し、sABC法で抗原を標識し、HRPによるビオチン化タイラマイドを沈着させ、ストレプトアビチン-HRP複合体で標識増幅を行い、抗原の検出感度をsABC法の1000倍に増幅する超高感度の免疫組織化学的染色を行う方法である。この染色方法はImmunoMax法として報告され、商業的にはcatalyzed signal amplification (CSA、カタライズド・シグナル・アンプリフィケーション)systemとしてダコサイトメーション社より供給されている。しかし、抗原回復による内因性ビオチンによる非特異反応は強く、非特許文献1のp.164-165に記載の内因性ビオチンを0.1%アビチン溶液と0.01%ビオチン溶液に浸しマスクする方法を導入したものが開発された。そして、modified ImmunoMax(修飾イムノマックス)法が開発された[例えば、本発明者等による非特許文献5(1997(平成9)年)及び非特許文献6(2000(平成12)年)参照]。また、sABC法の代わりに、HRP標
二次抗体を用い、HRPによるFITC標識タイラマイドを沈着させ、HRP標識抗FITC抗体で標識増幅する超高感度の免疫組織化学的染色方法がキット化され、非ビオチン法のCSAIIとしてダコサイトメーション社から供給されている。さらに、標的核酸を標識するin-situ hybridization(インシトゥ・ハイブリダイゼーション)の増幅したシグナルを可視化する方法として、HRP、アルカリフォスファターゼなどの酵素反応の他に、蛍光標識(FITC等)が利用できることは知られている[例えば、特許文献3(Goldberg, et al.(ゴールドバーク等)、March 20, 2001(平成13)年3月20日、Methods and compositions for amplifying detectable signals in specific binding assays(特定の結合アッセイにおける検出可能な信号増幅の為の方法及び組成物)参照)]。特許文献2のclaim 9と特許文献3にCARD反応での沈着したタイラマイドの標識に、蛍光物質を使う記載がある。
また、免疫組織化学的染色における非特異反応は、目的とする抗原以外の非特異的結合物質によって、目的とする抗原の適切な検出を妨げるという問題を有する
このような非特異反応は、固定組織標本切片に内在する原因によるものと固定組織標本切片の処理に起因するもの、染色の各反応の試薬の問題、染色の各反応後の洗浄の問題、染色操作の問題が原因となるものがある。
このような非特異的反応による問題を解決するために、内因性ペルオキシダーゼ活性による非特異反応の抑制方法が知られている(非特許文献1の前述のp.163)。内因性ペルオキシダーゼ活性による非特異反応は、固定組織標本切片の内在する原因による非特異反応の一つである。内因性ペルオキシダーゼ活性の抑制は、固定組織標本パラフィン切片のパラフィンを除き、切片を、親水化の前に0.03%過酸化水素メタノール溶液に20分間浸すか、親水化後に0.3%過酸化水素リン酸緩衝液に5分間浸して行なう。
抗体の非特異反応は、前述の染色の各反応の試薬の問題、染色の各反応後の洗浄の問題による非特異反応に含まれる。これらの染色に関わる非特異的反応の問題に対して、断片化免疫グロブリン抗体を特異(一次)抗体や二次抗体に用いることで、非特異反応を抑制することが知られている[例えば、特許文献4(Tsao, et al.(ツァオ等)、February 9, 1999(平成11)年2月9日、Immuno-histochemical method that reduces background staining(バックグラウンド染色を減少させる免疫組織化学的方法)参照)。また、特異抗体反応前に一価の抗体を反応させることで、抗体の非特異反応を抑制できることが知られている(特許文献4及び非特許文献1のp.43)。また、抗体希釈液に一次抗体と対応したウマ、ヒツジ、ウサギなどの動物血清を1%から5%加えることで非特異反応を抑制することは知られている(非特許文献1のp.185)。抗体希釈液には、0.1%Tween(トゥイーン)20等の界面活性剤を添加したトリス緩衝液が商業的に供給され用いられている。また、0.25%カゼイン溶液を抗体反応の前に5〜30分間反応させることで非特異反応抑制することは知られている(非特許文献1のp.115)
抗原回復法による非特異反応は、固定組織標本切片の処理に起因するものであるが、超高感度の免疫組織化学的染色法で問題となる。その主たる原因が抗原回復された内因性ビオチンである。0.1%アビチン溶液で、内因性ビオチンをマスクし、アビチンの残余ビオチンとの結合部を0.01%ビオチン溶液でマスクする方法の知られている(非特許文献1の前述のp.164-165)。この方法を、sABC法を含む超高感度の免疫組織化学的染色方法に導入することも知られている(非特許文献5)。非特許文献5には、非特許文献2記載のImmunoMax法で、内因性ビオチンによる非特異反応があり、従来発表されているアビチン溶液とビオチン溶液でのビオチンのマスクを導入し、反応後の洗浄条件を変えることで、超高感度免疫組織化学染色が可能であるとの記載がある。非特許文献6には、HRPによるビオチン化タイラマイドの沈着反応による標識の増幅が1000倍であること、内性ビオチンのマスク法の超高感度免疫染色法への至適導入部、各超高感度免疫組織学染色の反応後の洗浄、後固定の非特異反応抑制条件等の記載がある。
免疫組織化学的染色法の洗浄液は、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、界面活性剤を加えたトリス緩衝液が用いられる。免疫組織化学的染色では、各反応後に、5分間3回の洗浄が行われる。非特許文献5と非特許文献6に、超高感度免疫組織化学的染色方法では、それに含まれるsABC法では充分な反応後の洗浄が必要であり、CARD反応のビオチン化タイラマイドの沈着は非特異なものであるので、非沈着ビオチン化タイラマイドの残留を除く洗浄と沈着ビオチン化タイラマイドのHRP標識ストレプトアビチンによる標識後のある程度の洗浄が必要になることの記載がある。また、非特許文献5と非特許文献6に、キャピラリーギャップ法の染色装置を用いた場合には、sABC法の充分な洗浄は35℃に加熱した界面活性剤を加えたトリス緩衝液で、HRPによるビオチン化タイラマイド沈着反応後は室温トリス緩衝液での洗浄が必要であるとの記載がある。
一方、免疫組織化学的染色法の基準化の為に、自動免疫染色装置が普及してきている。キャピラリーギャップ法と呼ばれる2枚の固定組織標本切片のスライドグラスを向き合わせ、その間に毛細管現象を利用して反応液や洗浄液を吸い上げ、反応ないし洗浄後に吸収材で溶液を吸収する。この操作をコンピューター制御するものである。また、コンピューター制御で、反応液や洗浄液を所定の場所からマイクロポンプで吸引し、水平に配置した固定組織標本切片のスライドグラスに反応液や洗浄液を滴下する滴下型がある。この滴下型の自動免疫染色装置の染色方法は用手法と同じもので、普及して来ている。更に、加熱温度制御の出来る基盤の上に、基盤に固定組織標本切片を対面させてスライドガラスをセットし、反応液や洗浄液を基盤とスライドガラスの間に送り、温度制御下で諸反応と洗浄を行う自動免疫装置も出現している。
自動免疫染色装置は、コンピューター制御下の装置で、組織化学的染色方法を実施するものである。組織標本の切片を貼付したスライドの装置へのセットの方法で、二枚のスライドを狭い間隙で重ね、その間に毛細管現象で反応試薬等は入ってくるキャピラリーギャップ法とその変法、スライドに反応試薬等を滴下する滴下型がある。また、免疫組織染色方法の各反応の時間、各反応後の洗浄の方法等をコンピューターのプログラムとして供給されているものと、各反応の試薬の各スライドへの分配、各反応の時間、各反応後の洗浄方法を、任意に設定できるものがある。前者は、特定の免疫組織化学的方法を実施するもの(固定型装置)であり、一般に、その試薬や洗浄液等が共に供給されることが多い。後者は、その使用者の設定した免疫組織化学的染色法を実施させることが可能なもの(自由型装置)がある。コンピューター制御による水平に配列したスライドへの滴下方式での自動免疫染色装置は知られている[例えば、特許文献5(Rhett, et al.(レット等)、February 19, 2002(平成14年2月19日) Method and apparatus for automatic tissue staining(自動組織染色の為の方法及び機器)参照)]。特許文献5には、この自由型装置の記載がある。また、抗原回復を加熱式攪拌装置での熱処理による抗原回復法と従来発表されているアビチン溶液とビオチン溶液でのビオチンのマスクを導入した超高感度免疫染色法(CSA法)の自動免疫染色装置での実施が可能であることは知られている[例えば、非特許文献7(2001(平成13)年3月)参照]。非特許文献7には、この自動免疫染色装置での超高感度の免疫組織化学的染色が可能であると記載されている。加熱温度制御の出来る基盤の上に、基盤に対応する面に固定組織標本切片が来る形でスライドグラスをセットするか、又は基盤に対面して固定組織標本切片のスライドガラスをセットし、反応液や洗浄液を基盤とスライドグラス(ガラス)の間に送り、温度制御下で諸反応と洗浄を行う自動免疫装置(The Ventana Discovery(ザ・ベンタナ・ディスカバリー))は知られている[例えば、非特許文献8(online)(平成15年2月17日検索)参照]
特開2001-181299号公報 米国特許第5,731,158号明細書 米国特許第6,203,989号明細書 米国特許第5,869,274号明細書 米国特許第6,349,264号明細書 名倉宏、長村義之、堤寛編、「渡辺・中根 酵素抗体法」、改訂四版、学際企画、2002(平成14)年2月18日発刊、p.23-25、p.43、p.115、p.136-138、p.138-144、p.147、p.150-152、p.158、p.163、p.164-165、p.185 ザイメッド社のホームページ(http://WWW.zymed.com/)、"NBA kit(非ビオチン法のキット)"のページ、[online]、[平成15年2月17日検索]、インターネット〈URL:http://WWW.zymed.com/pindex/index9.html〉 Bobrow(ボブロウ) MN, Harris(ハリス) TD, Shaughnessy(ショーネシー) KJ, Litt(リッツ) GJ. Catalyzed reporter deposition(異化レポーター沈着), a novel method of signal amplification(信号増幅の新しい方法). Application to immunoassays(免疫アッセイへの適用). J-Immunol-Methods.(Journal of Immunological Methods)、1989 Dec. 20(平成1年12月20日); 125(1-2): pp.279-85 Merz(メルツ) H, Malisius(マリシウス) R, Mannweiler(マンワイラー)S, Zhou(チョウ) R, Hartmann(ハートマン) W, Orscheschek(オルシェチェク) K, Moubayed(モーベイド) P, Feller(フェラー) AC (1995)、" ImmunoMax.(イムノマックス.)、Amaximized immunohistochemical method for the retrieval and enhancement of hiddenantigens.(隠された抗原の回復及び増強用の最大化された免疫組織化学的方法.)" LabInvest.(Laboratory Investigation)、The United States and Canadian Academy of Pathology. LWW, Lippincott Williams and Wilkins publishes(リピンコット・ウイリアムズ・アンド・ウィルキンス出版社) 1995 Jul.(平成7年7月);73(1): pp.149-56. 蓮井和久(Hasui K), Sato(サトウ) E, Tanaka(タナカ) Y, Yashiki(ヤシキ) S, Izumo(イズモ) S.(1997)、"Quantitative highly-sensitive immunohistochemistry(Modified ImmunoMax) of HTLV-1 p40tax and p27rex proteins in HTLV-1-associated non-neoplastic lymphadenopathy(HANNLA) with estimation of HTLV-1 dose by polymerase chain reaction(HTLV-1関連非腫瘍性リンパ節腫脹(HANNLA)におけるHTLV-1 p40Tax及びp27Rexタンパク質のポリメラーゼ連鎖反応法によるHTLV-1用量の推定を伴う定量的高感度免疫組織化学(修飾イムノマックス))." 、DENDRITIC CELLS、1997(平成9年)、Japanese Dendritic Cell Society(日本樹状細胞研究会)、7: pp.19-27 蓮井和久、"平成10年度〜平成11年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(2))研究成果報告書HTLV-1関連疾患のHTLV-1超高感度組織化学的検出法による研究(課題番号10670166)"、2000(平成12)年3月、pp.3-9 Hashizume(ハシヅメ) K, Hatanaka(ハタナカ) Y, Kamihara(カミハラ)Y, Tani(タニ) Y.、" Automated immunohistochemical staining of formalin-fixed andparaffin-embedded tissues using a catalyzed signal amplification method(触媒化信号増幅法を用いるホルマリン固定化及びパラフィン-包埋化組織の自動免疫組織化学染色)."Appl-Immunohistochem-Mol-Morphol.(Applied Immunohistochemistry & Molecular Morphology)、2001 Mar(平成13年3月); 9(1): pp.54-60 Ventana Medical Systems, Inc.、" The Ventana Discovery"、[online]、[平成15年2月17日検索]、インターネット〈URL: http://WWW.ventanadiscovery.com/product/index.html〉
しかしながら、sABC法とCARD反応による超高感度の免疫組織化学的染色法は、非特許文献5、非特許文献6に記載された内因性ビオチンのマスク法を導入し、更に、非特許文献6に記載された自動免疫染色装置への導入が行われているが、この内因性ビオチンのマスクでは内因性ビオチンによる非特異反応の抑制は完全には達成できない。ここで、内因性ビオチンとは、組織切片中の細胞等に分布するビオチンを意味する。このような内因性ビオチンは、ある程度各組織の細胞中に存在するが、特に、内因性ビオチンの含有量が高いのは、肝臓や甲状腺である。この内因性ビオチンによる非特異反応を回避すべく開発され非特許文献1のp.158と非特許文献2に記載された非ビオチン法とCARD反応による超高感度の免疫染色法の抗原検出感度は、sABC法とCARD反応による超高感度の免疫組織化学的染色の方法より低いという問題も存在する。
一方、本発明者は、sABC法の代わりに、一次抗体を、二次抗体とHRP等の酵素とポリマー(担体)とを含むポリマー複合体(商業的には、ChemMate EnVision、DakoCytomation)と反応させ、HRPによるビオチン化タイラマイドを沈着させ、ストレプトアビチン-HRP複合体で標識増幅を行う方法を検討したが、この方法には特有の非特異反応がもたらされることを見出した(後述の参考例1、2、実施例1等参照)
そこで、本発明は、新しい検出方法を用い、検出感度を落とすことなく、内因性ビオチン等による非特異反応の抑制を達成し得る超高感度の免疫組織化学的染色用複合体、及び当該複合体を利用した免疫組織化学的染色による抗原の検出方法を提供するものである。
本発明者は、非特異的反応の抑制に着目し鋭意研究の結果、次抗体とHRPとの酵素標識試薬、あるいはまたそれらと担体とのポリマー試薬反応を特異抗体の標識に導入するとともに、適切な非特異的反応抑制剤を検討することで、上記課題を解決した。
すなわち、本発明は、免疫組織化学的染色方法によって固定組織標本切片中の抗原を検出するにあたり、一次抗体を抗原と反応させる工程、二次抗体および西洋ワサビペルオキシダーゼを備える複合体を、前記一次抗体と反応させる工程、および標識タイラマイドを前記複合体と反応させる工程を具え、少なくとも、前記複合体と前記一次抗体との反応に先立って非特異反応をウシ血清アルブミン(BSA)によって抑制するか、または前記複合体と前記一次抗体との反応後であって前記標識タイラマイドの沈着反応に先立って非特異反応をBSAまたはポリエチレングリコール(PEG)によって抑制することを特徴とする、方法に係るものである。本発明にかかる免疫組織化学的染色用複合体は、好ましくは、抗原と、前記抗原へ結合する一次抗体と、前記一次抗体へ結合する二次抗体と、前記二次抗体及び第一の西洋ワサビペルオキシダーゼからなる第一の複合体と、標識タイマライド及び当該標識タイマライドへ結合する第二の西洋ワサビペルオキシダーゼからなる第二の複合体とからなる。
また、免疫組織化学的染色用複合体の好ましい態様において、前記標識タイマライドと前記第二の西洋ワサビペルオキシダーゼとの結合を、ビオチンとアビチン、又は蛍光物質とを用いて行う。
また、免疫組織化学的染色用複合体の好ましい態様において、前記二次抗体が、非ビオチン化二次抗体である。
本発明の抗原の検出方法は、好ましくは、固定組織標本切片中の抗原を検出する免疫組織化学的染色方法による抗原の検出方法であって、前記抗原と一次抗体とを結合させて、二次抗体及び西洋ワサビペルオキシダーゼを含むポリマー複合体と、前記結合した一次抗体とを結合させて、前記複合体を得た後、前記西洋ワサビペルオキシダーゼによる標識タイラマイドの沈着反応の標識物を可視化することによって、抗原を検出する。
また、本発明の抗原の検出方法において、前記ポリマー複合体と前記結合した一次抗体との反応前に、非特異反応を抑制する処理を行うことができる
また、本発明の抗原の検出方法において、前記ポリマー複合体と前記結合した一次抗体との反応後に、非特異反応を抑制する処理を行うことができる
また、本発明の抗原の検出方法において、前記標識タイラマイドの沈着反応前に、非特異反応を抑制する処理を行うことができる
また、本発明の抗原の検出方法の好ましい態様において、前記非特異反応を抑制する処理、二次抗体と同種の動物血清による処理、スキミルクによる処理、ノンファットミルクによる処理による処理及びガゼイン溶液による処理からなる群から選択される少なくとも1種を加えることができる
また、本発明の抗原の検出方法の好ましい態様において、前記カゼイン処理を、0.025〜2.5%の範囲のカゼインを含む溶液により行なうことができる。
また、本発明の抗原の検出方法の好ましい実施態様において、前記BSAが、界面活性剤添加BSAであることを特徴とする。さらにまた、本発明の抗原の検出方法の好ましい実施態様において、界面活性剤が、Tween20又はTritonX-100であることを特徴とする。
また、本発明の抗原の検出方法の好ましい実施態様において、前記界面活性剤が、0.01〜1%であることを特徴とする。
また、本発明の抗原の検出方法の好ましい実施態様において、前記BSAが、0.01〜5%であるか、またはTween20添加BSAが、0.1%Tween添加3%BSAであることを特徴とする。
また、本発明の抗原の検出方法の好ましい実施態様において、前記PEGの分子量が3000以上、または好ましくは20000前後であるか、または界面活性剤添加溶液は0.1%Tween20添加3%PEGであることを特徴とする。
また、本発明の抗原の検出方法の好ましい実施態様において、さらに、非特異反応生成物、及びその他の残存反応物を除去するために、加熱した洗浄液によって洗浄する工程を含む、ことを特徴とする。
また、本発明の抗原の検出方法の好ましい実施態様において、前記加熱した洗浄液の温度が、25〜60℃の範囲内であることを特徴とする。
また、本発明の抗原の検出方法の好ましい実施態様において、前記標識物が、可視化することができる物質であることを特徴とする。
また、本発明の抗原の検出方法の好ましい実施態様において、前記可視化することができる物質が、ビオチン、蛍光物質の少なくとも一つを含むものであることを特徴とする。
また、本発明の抗原の検出方法の好ましい実施態様において、蛍光物質が、フルオレセンイソチオシアネト(FITC)であることを特徴とする。
また、本発明の抗原の検出方法の好ましい実施態様において、反応液、反応時間、及び洗浄回数をプログラムして自動免疫装置に組み込み、自動化して行なうことを特徴とする。
西洋ワサビペルオキシダーゼによる標識タイラマイドの沈着反応(CARD反応)とその標識物の検出を含む超高感度の免疫組織化学的染色法の抗原検出感度は、CARD反応の前に実施する間接的免疫組織化学的染色法の1000倍となる。現在の光顕的免疫組織化学的染色で検出されている蛋白等は、病態での異常高発現ないし生理的に多量に存在するものであるとの理解がある。超高感度免疫組織化学的染色法の光顕的免疫組織化学的染色への導入は、特異な微量蛋白の検出や生理的な蛋白の発現の検出を可能にすることが期待されている。
本発明は、超高感度の免疫組織化学の実用への大きな契機となると考えられる。
まず、本発明の超高感度の免疫組織化学的染色の産物、すなわち、本発明にかかる免疫組織化学的染色用複合体について説明すれば、以下のようである。すなわち、本発明にかかる免疫組織化学的染色用複合体は、抗原と、前記抗原へ結合する一次抗体と、前記一次抗体へ結合する二次抗体と、前記二次抗体及び第一の西洋ワサビペルオキシダーゼからなる複合体と、標識タイマライド及び当該標識タイマライドへ結合する第二の西洋ワサビペルオキシダーゼからなる複合体とからなることができる
ここで、抗原とは、本発明の抗原の検出方法の対象となる抗原を意味する。このような抗原に結合する一次抗体としても特に限定されるものではなく、目的の抗原にしたがって、適宜適当なものを選定することができる。前記一次抗体に結合する二次抗体に関しても同様に、特に限定されるものではない。
また、前記標識タイマライドと前記第二の西洋ワサビペルオキシダーゼとの結合をビオチンとアビチン、又は蛍光物質を用いて行うことができる。アビチンとしては、ストレプトアビチンなどを使用することができる。また、ビオチンとFITCには、それらを標識する抗体を利用し、当該抗体にHRP又はALP標識をしたものがあるので、これらを利用することも可能である。
例えば、本発明にかかる複合体は、抗原、一次抗体、二次抗体とHRPとポリマーで形成される複合体の周囲にCARDで沈着したビオチン化タイラマイドとそれを標識したHRP標識ストレプトアビチンとそのHRPの呈色産物(ジアミノベンチジン)から構成されることができる。従って、この発明の超高感度の免疫組織化学的染色の産物は非特異反応の産物が含まれない点で構成が従来のものとは異なる新規なものである。
本発明の1つの特徴として、二次抗体として、ビオチン化していないものを使用した点を挙げることができる。これは、本発明者の鋭意研究の結果、ビオチン化した二次抗体を用いると検出反応が余分に生じ、工程が増えるということ、当該ビオチン化二次抗体のビオチンによって非特異反応が生じること、からである。すなわち、ビオチン化二次抗体を用いない場合には、工程が簡略化され、さらには、抗原の検出感度に影響を及ぼす非特異反応を抑制するという利点を有する。
次に、本発明の抗原の検出方法について概略を説明すれば、以下のようになる。
基本的には、抗原回復処理(この処理は必須ではないが、抗原の抗原性をより高め、ひいては、目的抗原を検出しやすくするのに用いられる。)、洗浄、内因性ペオキシダーゼ活性の抑制、特異抗体反応(一次抗体と第一抗原との抗原抗体反応)、前記抗原抗体反応した一次抗体と酵素を含む二次抗体との結合(複合体の形成)、第一抗原の同定、の各工程からなる。この工程中に、適宜洗浄、非特異反応抑制処理を行いより高感度な検出を可能にせんとするものである。
本発明の抗原の検出方法は、固定組織標本切片中の抗原を検出する超高感度の免疫組織化学的染色方法による抗原の検出方法である。ここで、固定組織(パラフィン包埋)標本切片について説明すると、固定組織(パラフィン包埋)標本とは、生物組織から切り出され、固定化された標本のことで、例えば、10%緩衝ホルマリン液等で化学固定され、濃度が漸増するエタノール溶液系列で水分が除かれ、100%キシレン等で浸透され、60℃前後の溶解したパラフィン等の溶液で浸透され、低温下パラフィン等で固化された標本をいう。固定組織(パラフィン包埋)標本切片は、通常、薄切装置で作成されたその標本の3ミクロン前後の厚さの切片で、適切に処理されたスライドに貼付されている。固定組織パラフィン標本切片が免疫組織化学的染色に供される時には、100%キシレンに浸透することでパラフィンを除き、100%エタノールでそのキシレンを置換した後に、リン酸緩衝液等に浸透して、親水化される。
内因性ペルオキシダーゼ活性の抑制は、化学固定やその後の組織の処理でも活性を失わない組織中の細胞の有するペオキシダーゼの活性を抑制するものであり、たとえば、以下の処理を行なう。固定組織パラフィン標本切片から100%キシレンでパラフィンを除き、キシレンを100%エタノールで除いた後に、0.03〜1%過酸化水素メタノール溶液に10〜30分間浸すか、固定組織パラフィン標本切片を親水化した後に、1〜5%過酸化水素含有0.01Mリン酸緩衝食塩水pH7.2に5〜10分間浸す。これは、非特許文献1のp113、非特許文献5及び6、並びに、ダコサイトメーション社から供給されているCSAキットにも含まれている。
また、本発明は、次抗体とHRPとのポリマー試薬とその非特異反応抑制処理(例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)による前処理、カゼイン溶液による前処理)を超高感度免疫組織化学的染色法のsABC法と置換することにより、検出感度を低下させずに内因性非特異反応の無い新規な超高感度免疫組織化学的染色法を開発したものであるともいえる。
次に、本発明の方法の原理について説明すれば、以下のようになる。本発明を含む免疫組織化学的染色法で形成され光学顕微鏡下で識別される産物の概念図の一例を図1に示す。従来のsABC法とCARDと沈着したビオチン化タイラマイドの可視化による超高感度の免疫組織化学的染色法で産生される光学顕微鏡で識別される産物は、抗原、一次抗体、ビオチン化二次抗体、HRP標識ストレプトアビチンで形成される複合体の周囲にCARDで沈着したビオチン化タイラマイドとそれを標識したHRP標識ストレプトアビチンとそのHRPの呈色産物(ジアミノベンチジン)から構成される。
本発明においては、固定組織標本切片中の抗原と一次抗体とを結合させて、二次抗体と西洋ワサビペルオキシダーゼとのポリマー複合体と、前記結合した一次抗体とを結合させて、前記西洋ワサビペルオキシダーゼによる標識タイラマイドの沈着反応の標識物を可視化することによって、抗原を検出することができる。ここで、二次抗体及び西洋ワサビペルオキシダーゼを含むポリマー複合体を用いのは、上述のように従来のビオチン化二次抗体によるビオチンの使用による弊害を除去しようとするものである。西洋ワサビペルオキシダーゼによる標識タイラマイドの沈着反応については、常法により、特に限定されるものではない。
また、沈着反応の標識物は、免疫染色された標本の観察に光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、又はレーザー共焦点顕微鏡などが用いられるという観点から、可視化できる物質が好ましい。また、好ましい実施態様において、前記可視化することができる物質が、ビオチン、蛍光物質の少なくとも一つを含むものを挙げることができる。また、蛍光物質としては、フルオレセンイソチオシアネトを挙げることができる。
本発明においては、適宜非特異反応抑制処理を行なうことが好ましい。これは、当該非特異反応抑制処理によって、一次抗体と非特異的に結合する非特異的結合物質が処理され、前記一次抗体と非特異的結合物質との結合を抑制することが可能である。
ここで、非特異反応抑制処理とは、広く、一次抗体と、非特異反応結合物質との結合を抑制する処理を意図し、このような作用があれば、特に限定されるものではない。このような非特異反応抑制処理として、ウシ血清アルブミン(BSA)、ポリエチレングリコール以外では、例えば、カゼインによる処理、二次抗体と同種の動物血清、スキミルク乃至ノンファットミルクからなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。スキミルク、ノンファットミルクは、特に血清中の酵素等の活性を避ける為にも用いることができる。
動物血清として、ウシ血清アルブミン(BSA)のみからなるものは含まれない。BSAは、標識タイラマイドとして、特に、FITCタイマライドを用いた場合でも優れた非特異反応抑制効果を発揮し得る点有利である。好ましくは、例えば、Tween20、又はTriton X-100などの界面活性剤を添加したBSAである。Tween20又はTriton X-100など界面活性剤の添加量は、特に限定されないが、例えば、非特異反応抑制効果をより効率的に発揮し得るという観点から、0.01〜1%であり、好ましくは、0.05〜0.5%である。Tween 20 添加BSAとしては、溶液の粘性を高めないという観点から、より好ましくは、0.1%Tween 20添加3%BSA である。
また、BSAの割合としては、限定されないが、非特異反応抑制効果をより発揮し得るという観点から、0.01〜5%であり、好ましくは、0.05〜3%である。
また、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)などに代表される化学的に安定な分子で分子量が1500〜20000前後、3000以上のものも、また、これとTweeen 20等との溶液を、非特異沈着反応抑制処理剤として挙げることができる。Tween20の割合としては、特に限定されないが、例えば、溶液の粘性を高めないという観点から、0.01〜1%であり、好ましくは、0.05〜0.5%である。
カゼイン処理の場合には、前記カゼイン処理を、0.025〜2.5%の範囲のカゼインを含む溶液により行なうことが好ましい。このような範囲としたのは、さらに好ましくは、0.1〜1.0%の範囲、最も好ましくは、0.25%±0.1%である。
さらに、FITCタイマライドでのCARD反応によるシグナル増幅の極端な感度の低下を防止するという観点から、以下の溶液を非特異的反応抑制処理に用いることができる。すなわち、非特異免疫反応抑制作用を最小にして、非特異沈着反応を抑制するという観点から、分子量が3000以上、好ましくは20000前後のPEG溶液、好ましくは0.1%Tween20添加PEG溶液、ないし、0.1%Tween20添加0.3%BSA溶液を用いることができる。
非特異反応を抑制する処理は、好ましくは、前記ポリマー複合体と前記結合した一次抗体との反応前、前記ポリマー複合体と前記結合した一次抗体との反応後、前記標識タイラマイドの沈着反応前に行う。それぞれ、前記ポリマー複合体と前記結合した一次抗体の反応の前での非特異的反応を抑制する処理は、一次抗体を抗原として二次抗体の特異な抗原抗体反応のみを反応産物として残し、後者は標識タイラマイドの異化反応を生じる部位をポリマー複合体の西洋ワサビペオキシダーゼ存在部に限定し、異化標識タイラマイドの沈着を西洋ワサビペルオキシダーゼ存在部に限局させるという観点からである。また、処理ステップ数を減じるという観点から、一次抗体、ポリマー試薬、標識タイラマイドの希釈溶液中に、非特異反応抑制剤を入れて、非特異反応抑制処理を行ってもよい。
本発明の抗原の検出方法では、さらに、非特異反応生成物、及びその他の残存反応物を除去するために、加熱した洗浄液によって洗浄する工程を含んでもよい。
また、本発明の抗原の検出方法の好ましい実施態様において、さらに、非特異反応生成物、及びその他の残存反応物を除去するために、加熱した洗浄液によって洗浄する工程を含む。この工程において、非特異的反応生成物及び残存反応物を除去することができる。また、前記加熱した洗浄液の温度が、25〜60℃の範囲内であることを特徴とする。かかる温度範囲では、抗原抗体反応が起こり、ひいては、非特異的反応生成物及び残存反応物の充分な除去が可能となる。
また、本発明の抗原の検出方法の好ましい実施態様において、反応液、反応時間、及び洗浄回数をプログラムして自動免疫装置に組み込み、自動化して行なうことができる。
すなわち、市販の自動免疫組織化学的染色装置に、上記反応液、反応時間、及び洗浄回数などの情報をプログラムして導入し、自動化して行なうことができる。
以下、本発明を参考例、実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定して解釈される意図ではない。
本発明の超高感度の免疫組織化学的染色法(以下、new simplified CSA systemないし、新規簡素化CSA法とも記す。)は、基本的には次の17工程により実施することができる
1)固定組織パラフィン切片を、キシレンとエタノールにそれぞれ3〜5回、3〜20分間浸すことでパラフィンを除き、
2)0.3〜6% 過酸化水素水メタノール溶液に5〜30分間浸し、一次の内因性ペルオキシダーゼの活性の抑制を行い、
3)0.005〜0.02Mリン酸緩衝液0.5〜1%塩化ナトリウム溶液(PBS)で洗浄し、固定組織標本切片の親水化を行い、
4)抗原に対応した抗原回復処理(一般的には、0.001〜0.02Mクエン酸緩衝液等に切片を浸し、オートクレーブで110〜140℃、1〜15分間の熱処理を行い、冷却後に、PBSに浸す。)を行い、
5)自動免疫染色装置に固定組織標本切片を配置し、
6)0.3〜6%過酸化水素水PBSに1〜15分間反応させ、二次の内因性ペルオキシダーゼの活性の抑制を行い、25〜60℃に加熱した0.01〜0.2% ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween 20)を含む0.5〜1%塩化ナトリウムを加えた0.01〜0.1Mトリス緩衝液(TBS)洗浄液で1〜4回洗浄し、
7)0.1〜1%カゼイン溶液に2〜30分間反応させ、抗原特異(一次)抗体の非特異反応の抑制前処理を行い、
8)それぞれ一次抗体の至適希釈溶液と至適反応時間(13分間〜2時間)で反応させた後、25〜60℃に加熱したTBS洗浄液で2〜5回洗浄し、
9)0.1〜1%カゼイン溶液に2〜30分間反応させ、特異ポリマー試薬反応の非特異反応の抑制前処理を行い、
10)ポリマー試薬を10分間〜1時間反応させ、25〜60℃前後に加熱したTBS洗浄液で2〜5回洗浄し、
11)0.1〜1%ガゼイン溶液に2〜30分間反応させ、ビオチンないし蛍光物質で標識されたタイラマイド試薬反応の非特異反応の抑制処理を行い、
12)ビオチンないし蛍光物質で標識されたタイラマイド試薬と10〜30分間反応させ、25〜60℃前後に加熱したTBS洗浄液で2〜4回洗浄し、
13)ストレプトアビチンないし蛍光物質と特異的に反応する抗体と西洋ワサビペルオキシダーゼ等の酵素ないし蛍光物質の複合体溶液と10分間〜1時間反応させ、25〜60℃前後に加熱したTBS洗浄液で2〜4回洗浄する。
14)対応した酵素の発色剤(HRPであればアミノベンチジン等と過酸化水素)の溶液で呈色反応させ、水で1〜3回洗浄し、
15)ヘマトキシン等の溶液で、後対比染色を行い、水で1〜3回洗浄し、
16)自動免疫染色装置から固定組織標本切片を外し、
17)封入剤に対応した処理を行い、超高感度免疫染色を行った固定組織標本パラフィン切片を永久標本とし、光学顕微鏡下での抗原の検出となる。
11)の過程で、蛍光物質で標識したタイラマイド試薬を12)で用いる場合には、0.1〜1%ゼイン溶液に2〜30分間反応させ、ビオチンないし蛍光物質で標識されたタイラマイド試薬反応の非特異反応の抑制処理を行なった後、25〜60℃に加熱したTBS洗浄液で、1〜3回洗浄する。
13)の過程で、ストレプトアビチンないし蛍光物質と特異的に反応する抗体と蛍光物質の複合体溶液を用いる場合、その後に、蛍光物質による核等の対比染色を実施するか、実施せずに、染色は終了し、蛍光顕微鏡下での抗原の検出となる。
本発明として、別法により一次抗体を反応させ、洗浄した後に、工程9から工程13を実施することが重要な点である。
自動化としては、工程5から工程15までの各反応液、反応時間、洗浄回数をプログラムして自動免疫染色装置に組み込み、染色を基準化することを挙げることができる。
<発明の実施の形態の溶液等の説明>
<キシレン>
キシレンは、特級キシレンを用いる。
<エタノール>
エタノールは、特級エタノールを用いる。
<0.3%過酸化水素水メタノール溶液>
特級過酸化水素水(30%溶液)を、特級メタノールで100倍希釈したものを用いる。
<0.01Mリン酸緩衝液0.85%塩化ナトリウム溶液(PBS)>
28.7gのリン酸水素第二ナトリウム・12水と3.3gのリン酸第二水素ナトリウム二水和物を1Lのイオン交換水に溶解した0.1Mリン酸緩衝液に、85gの塩化ナトリウムを加え、オートクレーブで完全に溶解し室温まで冷却し、10N 水酸化ナトリウム水でpHを7.6に調整したものを10倍溶液として、使用時に10倍にイオン交換水で希釈する。
<0.01Mクエン酸緩衝液等>
2.1gのクエン酸・一水和物と2.94gクエン酸三ナトリウム・二水和物を100mlのイオン交換水にオートクレーブで加熱し溶解し、10N 水酸化ナトリウム水でpHを6.0に調整し、イオン交換水で100mlに調節したものを10倍溶液とし、使用時に10倍にイオン交換水で希釈する。商業的には、10倍溶液がDakoCytomation Co.やダイヤトロンから供給されている。その他に、抗原回復には、[非特許文献7]のp.114に記載されている1mM EDTA溶液 pH 8.0、などが用いられ、DakoCytomation Co.から供給されている。
<3%過酸化水素水PBS>
特級過酸化水素水(30%溶液)を、28.7gのリン酸水素第二ナトリウム・12水と3.3gのリン酸第二水素ナトリウム二水和物を1Lのイオン交換水に溶解した0.1Mリン酸緩衝液に、85gの塩化ナトリウムを加え、オートクレーブで完全に溶解し室温まで冷却し、10N 水酸化ナトリウム水でpHを7.6に調整したものを10倍溶液として、使用時に10倍にイオン交換水で希釈する0.01Mリン酸緩衝液0.85%塩化ナトリウム溶液(PBS)で100倍に希釈する。
<35℃前後に加熱した0.1%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween 20)を含む0.825塩化ナトリウム加0.05Mトリス緩衝液(TBS)洗浄液>
121.1gのトリスハイドロオキシメチルアミノメタン(シグマ社)を800mlのイオン交換水で希釈しオートクレーブで加熱溶解後に、1N塩酸でpHを7.5に調整し、イオン交換水で1Lにした1Mトリス溶液500mlと、292.2gの塩化ナトリウムを800mlのイオン交換水でオートクレーブ加熱溶解しイオン交換水で1Lにした5M塩化ナトリウム溶液360mlを、イオン交換水で20Lに希釈し、0.1%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween 20)とした溶液。自動免疫染色装置の洗浄液タンクに入れて、35℃前後に加熱したものである。
<0.25%カゼイン溶液>
25mgのカゼイン(シグマ社)を28.7gのリン酸水素第二ナトリウム・12水と3.3gのリン酸第二水素ナトリウム二水和物を1Lのイオン交換水に溶解した0.1Mリン酸緩衝液に、85gの塩化ナトリウムを加え、オートクレーブで完全に溶解し室温まで冷却し、10N水酸化ナトリウム水でpHを7.6に調整したものを10倍溶液として、使用時に10倍にイオン交換水で希釈する0.01M PBSの10mlに希釈したもの。商業的には、DakoCytomation Co.から供給されている。
<ポリマー試薬>
デキストランポリマーに直接二次抗体とHRPを結合させた試薬で、DakoCytomation Co.から商業的にダコ ChemMate EnVision試薬として供給されている。
<ビオチンないし蛍光物質で標識されたタイラマイド試薬>
ビオチン化タイラマイドと過酸化水素水の試薬で、DakoCytomation Co.からはダコCSA Systemの増幅試薬として、パーキンエルマーライフサイエンスジャパン株式会社からはTSA免疫組織化学染色・in situ Hybridization増感システムのキットの増幅試薬として供給されている。
<ストレプトアビチンと西洋ワサビペルオキシダーゼ等の酵素ないし蛍光物質の複合体溶液>
ビオチンないし蛍光物質で標識されたタイラマイド試薬に対応した沈着したタイラマイドを標識する試薬。HRP標識タイラマイドであればストレプトアビチンと西洋ワサビペルオキシダーゼ等複合体溶液は、DakoCytomation Co.からはダコCSA Systemの酵素標識試薬として供給されている。パーキンエルマーライフサイエンスジャパン株式会社からはTSA免疫組織化学染色・in situ Hybridization増感システムのキットの酵素や蛍光物質標識試薬として供給されている。
<対応した酵素の発色剤(HRPであればアミノベンチジン等と過酸化水素)の溶液>
酵素の発色基質溶液。商業的に、種々のものが供給されている。
<ヘマトキシン等の溶液>
上記の発色色素と区別できる色素溶液を用いた核ないし細胞質の染色で、後対比染色を行う。一般的には、ヘマトキシリン溶液が用いられる。DakoCytomation Co.から自動免疫染色装置での染色用にダコ ChemMateヘマトキシリン試薬が供給されている。
<封入剤に対応した処理>
発色基質に合わせて、ジアミノベンチジンであれば、エタノール系列に浸しての脱水後に、プラスチック封入剤で封入し、長期の保存に耐える永久標本を作成する。3-アミノ-9-エチルカルバゾールでの発色では、DakoCytomation Co.から供給されるUltramount試薬で、70℃での加熱固化で永久標本を作成する。ベクター社の種々の発色基質では、冷風による乾燥後に、VectaMount封入剤で封入し乾燥固化し、永久標本を作成する。
参考例1
sABC法とHRPによるCARD反応とその検出からなる超高感度免疫組織化学の方法(DAKO CSA system, DakoCytomation Co)を自動免疫染色装置で実験するが、各反応後の洗浄に、35℃加熱0.1%Tween20界面活性剤添加トリス緩衝液(TBS)洗浄液を用い、洗浄回数と洗浄効果の関係の検討を行った。その結果、sABC法の各洗浄は35℃加熱0.1%Tween20界面活性剤添加TBSによる三回の洗浄が、HRPによるCARD反応とその検出の反応後の洗浄は35℃加熱0.1%Tween20界面活性剤添加TBSによる二回の洗浄が、至適な洗浄であることが示された。
参考例2
洗浄は参考例1で示した至適洗浄法で、従来の超高感度の免疫組織化学の方法を種々の臓器の固定組織パラフィン標本切片で自動免疫染色装置を使い実験した。
1)熱処理にて抗原回復を行わない固定組織パラフィン標本切片では、従来の超高感度免疫組織化学の方法で一次抗体反応を省くと、陽性反応を認めない。図2の1と2に、ヒト扁桃組織固定パラフィン標本切片で、抗原回復処理を行わず、一次抗体反応を省いて、従来の超高感度の免疫組織化学的染色を自動免疫染色装置での実験例を示す。全く非特異陽性所見を認めない。
2)0.01Mクエン酸緩衝液pH6.0に切片を浸し、オートクレーブで121℃5分間の加熱処理での抗原回復を行い、従来の超高感度免疫組織化学の方法で一次抗体反応を省いて実施したが、図2の3に示すように、強い内因性ビオチンによる非特異反応を認める。
3)抗原回復を加熱型攪拌器を用いて、94℃40分間の熱処理で行い、同様の実験で、図2の4に示すように、内因性ビオチンによる非特異反応を認める。図2の3に示すオートクレーブでの抗原回復例と比べて、非特異反応は弱いが、特異反応の評価に問題となる非特異反応である。
4)前記加熱型攪拌器を用いた抗原処理を行い、緩衝10%ホルマリン溶液で後固定30分間行い、同様に従来の超高感度免疫組織化学の方法で一次抗体反応を省き実験した所、図2の5に示すように、内因性ビオチンによる非特異反応は消失した。しかし、一次抗体に増殖細胞の核を標識する抗Ki-67抗原抗体溶液を用い、前記加熱型攪拌器を用いた抗原処理を行い、緩衝10%ホルマリン溶液で後固定30分間行い、同様に従来の超高感度免疫組織化学の方法を行い、図2の6に示すように、極少数の核が陽性を示したのみであった。抗原回復した抗原が緩衝10%ホルマリン溶液での後固定で再度マスクされていることが判明した。
従って、従来の超高感度免疫組織化学の方法の根本的な非特異反応の抑制の方法が必要となった。
緩衝10%ホルマリン溶液は、リン酸一ナトリウム・2水塩4gとリン酸二ナトリウム・12水塩26gをイオン交換水900mlに溶解し、特級ホルムアルデヒド液(ホルマリン)100mlを加えて作成する。
後固定とは、固定組織パラフィン標本切片は、作成の過程で初めに化学固定されているが、パラフィンを除き親水化してから、再度、化学固定することである。
Ki-67抗原抗体溶液は、Ki-67 Antigen(アンティゲン), MIB-1(マウス単クローン抗体)(DakoCytomation Co. M7240)のダコ抗体希釈溶液での50倍希釈溶液である。
参考例3
二次抗体と西洋ワサビペルオキシダーゼとポリマーとの複合体によるポリマー試薬法の抗原検出感度を検討した。従来の超高感度の免疫組織化学的染色方法に組み込まれているsABC法を対照とした。結果を表1に示す。
検索に用いた固定組織パラフィン標本切片は、ヒトT細胞親和性ウイルス1型(HTLV-1)関連のMT-1細胞株のセルブロック標本である。用いた一次抗体は、HTLV-1の関連蛋白であるp40Tax蛋白のラット単クローン抗体(WATM-1,琉球大学の田中勇悦教授より供与)を用い、100倍、500倍、1000倍にダコ抗体希釈液で希釈した溶液を用いた。検討したポリマー試薬法は、抗ラット免疫グロブリン抗体と西洋ワサビペルオキシダーゼを短いポリマーと複合体を用いるもの(表1の2)、ダコChemMate EnVision(表1の3)、ダコEnVision+(抗マウス一次抗体用)(表1の4)、株式会社ニチレイ(ザイメット社)のヒストファイン・シンプル・ステイン・マルチ(ペルオキシダーゼ標識)(Histofine Simple Stain, MULTI(PO)、表1の5)である。sABC法と対比して、結果を表1に示す。ポリマー試薬法の全てが、sABC法(表1の1)と比較して背景の非特異反応が少なかった。抗ラット免疫グロブリン抗体と西洋ワサビペルオキシダーゼを短いポリマーと複合体を用いるもの(表1の2)がほぼsABC法と同等の抗原検出感度を示した。抗マウス免疫グロブリン抗体のラット免疫グロブリンとの交叉反応で陽性像を示す他のポリマー試薬法では、ダコChemMate EnVision(表1の3)がsABC法とほぼ同様の検出感度であった。ダコChemMate EnVision(表1の3)とダコEnVision+(抗マウス一次抗体用)(表1の4)の抗原検出感度の差は、ダコChemMate EnVision(表1の3)より短いポリマーを用いていることに起因している可能性が示唆された。図3に、それぞれの100倍希釈一次抗体溶液での染色結果を示す。
<セルブロック標本>
セルブロック標本は、大量に培養した細胞ないし採取された細胞を試験管に集め、500rpmで10秒程、フラッシュ遠沈し、細胞集塊を作り、それに、10%緩衝ホルマリン溶液を注ぎ30分間固定し、この固定された細胞集塊を組織と同様に処理し、パラフィン包埋標本を作成した。
<ダコChemMate EnVision
ダコChemMate EnVision(K5027)は、商業的に供給されているポリマー法の一つであり、自動免疫染色装置での染色を前提に供給されている。ダコEnVisionより抗原検出感度が高いとされている。
<ダコEnVision+(抗マウス一次抗体用)>
ダコEnVision+(抗マウス一次抗体用)(K4006は、商業的に供給されているポリマー法である。株式会社ニチレイ(ザイメット社)のヒストファイン・シンプル・ステイン・マルチニチレイ(ザイメット社)のヒストファイン・シンプル・ステイン・マルチ(ペルオキシダーゼ標識)(Histofine Simple Stain, MULTI(PO)、424154)は、商業的に供給されているポリマー試薬法である。
Figure 0004292297
参考例4
次に、ヒト扁桃組織の固定組織パラフィン標本切片を用い、0.01Mクエン酸緩衝液pH6.0に浸しオートクレーブでの熱処理による抗原回復を行い、一次抗体は抗Ki-67抗原抗体溶液でKi-67 Antigen, MIB-1(マウス単クローン抗体)(DakoCytomation Co. M7240)をダコ抗体希釈溶液での50倍に希釈した溶液を用い、sABC法とダコChemMate EnVisionを実施した。その染色像を、図4に示す。sABC法(図4の1、3、5)とダコChemMate EnVision(図4の2、4、6)は、ややsABC法が強いがほぼ同様の陽性像を示した。
従って、ウサギ、マウス、ラットの一次抗体の利用の観点から、sABC法と同等の抗原検出感度を有し、超高感度の免疫組織化学的染色方法にsABC法に代わって組み込めるのはダコChemMate EnVisionポリマー法である。
参考5
ポリマー試薬反応前の非特異反応抑制処理を行い、ポリマー試薬反応後ないしCARD反応前の非特異反応処理を行わずに、超高感度免疫組織化学的染色を、ヒト扁桃固定組織パラフィン標本切片を用い、0.01Mクエン酸緩衝液pH6.0に浸しオートクレーブでの熱処理による抗原回復を行い、一次抗体は抗Ki-67抗原抗体溶液でKi-67 Antigen, MIB-1(マウス単クローン抗体)(DakoCytomation Co. M7240)をダコ抗体希釈溶液での50倍に希釈した溶液を用い、実験した。
固定の良好な切片の領域では、リンパ球と扁平上皮の増殖細胞の核が標識された(図5の1、2、3)。一方、固定の余り良くない領域では、背景の非特異反応が強く出現した(図5の4と5)。20%緩衝ホルマリン溶液で化学固定された組織パラフィン標本切片では、良好な染色結果が得られた(図5の6)。
従って、超高感度免疫組織化学的染色法で、固定の良好である固定組織パラフィン標本切片では、非常に背景の非特異反応の少ない染色が可能であることが示された。
参考6
次に、非特異反応を、さらに抑制する方法を見出すべく、種々の比較試験を行なった。
上記参考に記載のポリマー試薬法導入の超高感度免疫染色で、catalyzed reportor deposition (CARD)反応を、ビオチン化タイラマイド反応とストレプトアビチン-HRP複合体反応による増幅反応とフルオレセインイソチオシアネート(FITC)-タイラマイド反応とHRP標識抗FITC抗体反応による増幅反応を比較した。
図6は、陰性コントロール染色でのビオチン化タイラマイド法とフルオレセンイソチオシアネート(FITC)-タイラマイド法の比較(ヒト虫垂組織)を示す。まず、10%ホルマリン液固定パラフィン包埋ヒト虫垂粘膜組織標本切片を、パラフィンを除いた後に、0.01Mクエン酸緩衝液によるオートクレーブ121℃5分間で抗原回復前処理を行い、一次抗体反応を省いた後に、aは ポリマー試薬法前非特異反応抑制処理、ポリマー試薬法、ビオチン化タイラマイド反応、ストレプトアビチン-HRP複合体反応による増幅反応、DAB過酸化水素呈色反応を行い、ヘマトキシリン核染色を行った。bはポリマー試薬法前非特異反応抑制処理、ポリマー試薬法、FITC-タイラマイド反応とHRP標識抗FITC抗体反応による増幅反応、DAB過酸化水素呈色反応を行い、ヘマトキシリン核染色を行った。その結果、共に、ヒト虫垂粘膜組織の腺上皮に非特異反応を示した。しかし、bの方が、非特異反応は弱かった。この反応はビオチンによるものではなく、異化タイラマイドの非特異沈着反応によるものであり、ビオチンはC12H16N2O3S 分子量:244.3であり、FITCはC21H11NO5S 分子量:389.4であり、タイラマイド(tyramine、チラミン)C8H11NO 分子量:137.2であることから、分子量はFITC-タイラマイドがビオチン化タイラマイドより大きくなり、FITC-タイラマイドの非特異沈着反応での移動が少ないことが示唆された。
上記を確認する為に、ヒトリンパ節、ヒト扁平上皮癌組織、ヒト肝臓癌組織、ヒト胃癌組織、ヒト胃カルチノイド組織の緩衝10%ホルマリン溶液固定パラフィン包埋組織切片を用いて、抗体Ki-67抗原抗体(MIB-1)を用い、染色方法は、超高感度免疫染色方法でのビオチン化タイラマイド法、FITC-タイラマイド法を用いると共に、対象として、ChemMate EnVision(ポリマー試薬法)と一次抗体反応を省いたストレプトアビチン-HRP複合体反応による内因性ビオチンの検出法を行った。
超高感度免疫染色方法は、全て、ポリマー試薬法前非特異反応抑制処理とポリマー試薬法を導入した方法に、ビオチン化タイラマイド法はビオチン化タイラマイド反応の前に0.25%のカゼイン溶液による非特異反応抑制を行い、FITC-タイラマイド法は0.25%のカゼイン溶液による非特異反応抑制後に2回の界面活性剤添加トリス緩衝液での洗浄を行った後にFITC-タイラマイド反応を2倍の時間(30分間)行った。このそれぞれの染色プロトコールの相違は、0.25%のカゼイン溶液による非特異反応抑制の有無とその後の界面活性剤添加トリス緩衝液の有無の効果を評価して、それぞれが最も強い陽性反応を示す設定を決めたものである。染色は、DAKO autostainer(オートステイナー)を用いて、洗浄緩衝液は35℃に加熱した界面活性剤添加トリス緩衝液である。
図7は、Ki-67抗原のポリマー試薬法、ポリマー試薬法を導入した超感度免疫組織化学的染色方法、ポリマー試薬法とビオチン化タイラマイド反応前非特異反応抑制処理を行った超高感度免疫組織化学的染色方法による検出とストレプトアビチン-HRP複合体反応による内因性ビオチンの検出(ヒトリンパ節、肝臓癌周囲の肝臓正常部、胃カルチノイド組織)を示す。
aはポリマー試薬法、bは一次抗体(MB-1)反応を省きストレプトアビチン-HRP複合体反応を行ったもの、cはポリマー試薬法前非特異反応抑制処理とポリマー試薬法を導入した超高感度免疫組織化学染色法、dはポリマー試薬法前非特異反応抑制処理とポリマー試薬法を導入した超高感度免疫組織化学染色法のビオチン化タイラマイド反応前に0.25%カゼイン溶液による非特異反応抑制を行ったものである。ただし、一次抗体は、界面活性剤添加トリス緩衝液抗体希釈液で100倍に希釈して用い、一次抗体反応前の非特異反応処理を行い、aは1時間、cとdは30分の反応で行った。標本は、1はリンパ節、2は肝臓癌の伴う肝臓正常部、3は胃粘膜でカルチノイドを伴う部分である。その結果、図7に示す様に、bでの内因性ビオチンのストレプトアビチン-HRP複合体反応による検出は、2の肝臓正常部で淡く認められるのみであった。aとdは、dがより感度の高いKi-67抗原の検出が行われているが、cでは非特異反応がどの切片でも強いことが理解出来る。従って、ビオチン化タイラマイド反応前に0.25%カゼイン溶液による非特異反応抑制で、ビオチン化タイラマイド反応による非特異反応の抑制が出来ることが判明した。
図8は、ポリマー試薬法前非特異反応抑制処理とポリマー試薬法を導入した超高感度免疫染色方法での前に0.25%カゼイン溶液による非特異反応抑制処理を行ったビオチン化タイラマイド法(a)とFITC-タイラマイド法(b)で、リンパ節(1)、扁平上皮癌(2)、肝臓癌(3)、胃癌(4)の組織でKi-67抗原を検出したものである。ビオチン化タイラマイド法(a)よりFITC-タイラマイド法 (b)は Ki-67抗原の検出感度が低くなっているのが明らかである。これは、ビオチンとFITCの分子量がそれぞれ244.3、389.4であることから、ポリマー試薬のHRPによるそれぞれのタイラマイドとの複合体の異化反応による沈着反応が分子量に反比例して低下していることが示唆された。
CARD反応による標識タイラマイドの異化沈着反応の検出では、その洗浄は強く行ってはならないことは、非特許文献5(DENDRITIC CELLS 7:19-27, 1997)で明らかにしている。従って、用手法での染色の実際では、室温での界面活性剤を添加しないトリス緩衝液ないしリン酸緩衝液での洗浄が行われてた。
第2世代として商業的に供給されているFITC-タイラマイドによる増幅反応は、異化沈着物質の分子量の増加による沈着範囲の狭小化により、この問題を解決するものであるが、図8に示したように抗原検出感度を一方で低下させている事がわかった。
上記の我々の発見したビオチン化タイラマイド反応前の非特異反応の抑制で、このCARD反応の非特異沈着の抑制ないし拡散した沈着の抑制は抗原の検出感度を低めることなく、超高感度免疫組織化学的染色を実行出来るものである。
従来法では、充分な洗浄を行うと共に、非特異反応の出現する現象が見られた。この現象は、ストレプトアビチン(St-Av)-西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)複合体反応による内因性ビオチンの検出なのか、catalyzed reporter deposition (CARD)反応の非特異反応であるのかが問題となった。
上記の試験によって、ビオチン化タイラマイドCARD反応とストレプトアビチン-HRP複合体(St-Av-HRP)反応による増幅反応とフルオレセンイソチオシアネート(FITC)-タイラマイド反応とHRP標識抗FITC抗体反応による増幅反応を比較して、後者の増幅反応での非特異反応が少ないことから、CARD反応における異化物質の非特異拡散沈着反応がこの非特異反応の原因であることが示唆され、それがこの検索で確認されると共に、その抑制には、0.25%カゼイン溶液による非特異反応の抑制が有効であり、かつ、抗原検出感度は、ビオチン化タイラマイドのCARD反応による超高感度免疫組織化学的染色方法がより高いことが示された。
参考6に用いた試薬等>
<ポリマー試薬>
ダコ・サイトメーション社のダコChemMate EnVision K5027。
0.25%カゼイン溶液試薬
ダコ・サイトメーション社の非特異反応ブロッキング試薬 X0909。
<ビオチン化タイラマイド試薬>
ダコ・サイトメーション社のダコCSA System K1500のボトル8の増幅試薬。
<ストレプトアビチン-HRP複合体>
ダコ・サイトメーション社のダコCSA System K1500のボトル9の酵素標識試薬。
<FITC-タイラマイド試薬>
ダコ・サイトメーション社のCSA II (K1497)の増幅試薬ないしダコ・サイトメーション社のダコGenPoint system(ゲンポイント・システム)(K0618)のFITC標識タイラマイド溶液。
<HRP標識抗FITC抗体試薬>
ダコ・サイトメーション社のダコGenPoint system (K0618)の抗FITC抗体/HRP二次酵素試薬。
実施例1
上記の参考5で確立した簡化CSA法(simplified CSA法)は、生検、針生検標本では、非特異反応が強すぎることが判明した。一次抗体等の抗体希釈液の汚染等の問題を検討したが、この非特異反応が抗体等の希釈溶液等の汚染によるのではなく、CARD反応の非特異反応であることが示唆されたことから、参考6でCARD反応前に非特異反応抑制処理を行う新規簡化CSA法(new simplified CSA system(以下、nsCSAsystemともいう))実験し、これを確認した。しかし、このCARD反応の非特異反応抑制は、ビオチン標識タイラマイド(biotinyl-tyramide)を用いる場合には、非特異反応を減じたが、FITC標識タイラマイド(FITC-tyramide)では、CARD反応によるシグナル増幅が極端に低下する傾向があった。
本実施例では、新規簡化 CSAのCARD反応前の非特異反応抑制処理の検討と、ビオチン標識タイラマイドを使用する場合の非特異反応抑制処理の検討、FITC標識タイラマイドのCARD反応のシグナル増幅の低下の理由の検討したものである。
材料と方法
この検索には、連結不可能匿名化が行われた壊死性リンパ節炎を示すリンパ節のホルマリン固定パラフィン包埋標本切片を用いた。
切片は、60 ℃で30分間のbaking(ベーキング:パラフィン切片パラフィン処理したガラススライドへの接着強化)を行い、キシレンに10分間3回、エタノール10分間3回にて脱パラフィンを行い、0.3% 過酸化水素メタノールで20分間で内因性ペルオキシダーゼ活性の抑制を行い、0.1% NP-40添加0.01M クエン酸緩衝液 に浸し、オートクレーブで121 ℃ 2気圧、5分間の抗原回復前処理を行った。その後、PBSにて冷却洗浄し、表2に示す各免疫染色のプロトコールでDako autostainerによる染色を行った。一次抗体反応は、抗Ki-67抗原抗体(Dakocytomation, MIB-1, x50希釈)を用いた。
その後、風乾し、エタノールとキシレンを潜らせて、プラスチック封入剤で封入した。
表2のnew simplified CSA systemでは、protein block(プロテインブロック)をDako Protein block(ダコ・プロテインブロック)で5分間実施している。CSAIIは、オリジナルでは、protein blockは、primary antibody(一次抗体)反応前の1回のみである。
実験1は、new simplified CSA systemのprotein blockが、Dako Protein Block以外の非特異反応抑制剤で可能か否かを検討した。検討した非特異反応抑制剤は、Dako Protein Block, 3% bovine serum albumin (ウシ血清アルブミン、BSA) PBS, 0.25% Casein(カゼイン) PBS, 0.25% Casein 1% BSA PBS, Block Ace(ブロックエース), Block Ace diluted 4 times with deionized water(脱イオン水で4倍希釈のブロックエース)である。また、0.1% Tween20添加の効果も検討した。Protein blockの反応時間も、5分と15分を検討した。ビオチン標識タイラマイドないしFITC標識タイラマイドでのCARD反応で検討を行った。
実験2は、new simplified CSA systemとCSAIIの比較検討を行った。ただし、CSAIIでは、HRP標識抗体(以下HRP-labeled antibodyともいう)反応の前にDako Protein Blockによる非特異反応抑制を行った。ビオチン標識タイラマイドのCARD反応では、new simplified CSA systemとCSAIIの両者でCARD反応前の非特異反応抑制をDako Protein Blockで行った。FITC標識タイラマイドのCARD反応では、反応前の非特異反応抑制を行っていない。
実験3は、new simplified CSA systemで、CARD反応の前のProtein Blockの影響を、反応時間を1分間として、0.05M Tris 1.8M NaCl 溶液、0.25M PBS, 0.3% BSA 0.1% Tween20 PBS, 0.025% Casein 0.1% Tween20 PBS, 0.3% Glycerin(グリセリン) 0.1%Tween20 PBS, 0.3% polyethylene Glycol (PEG)#400 0.1% Tween20 PBS, 3% PEG#1500 0.1%Tween20 PBS, 3%PEG#20000 0.1% Tween20 PBSで検討した。
表2は、この研究に用いた各間接酵素抗体法の脱パラフィン、内因性ペルオキシダーゼ活性抑制処理、抗原回復前処理後のDako autostainerでのプロトコールを示す。
Figure 0004292297
Wash buffer(洗浄緩衝液): 0.05M Tris 1.8M NaCl pH 7.5, 温度35 ℃での洗浄。
Wash water(洗浄水): 脱イオン水による洗浄。
Protein block:ダコプロテインブロック試薬でプロテインブロックを5分間行った。新規簡素化CSA法は、ポリマー試薬法(簡素化CSA法、the Histochem J, Hasui et al, 2002)及びCARD反応前に2回追加のプロテインブロックを行った。
以上の結果、下記のことが判明した。
<結果1、新規簡素化CSA法(ビオチン標識タイラマイドを用いる場合)に於ける種々の非特異抑制剤の効果(実験1)>
図9は、新規簡素化CSA法(以下、new simplified CSA system、nsCSA法とも記す。)でのいろいろな試薬による非特異反応抑制効果の比較を示す。
図9の上から1、2段目は、new simplified CSA systemにおける各5分間の非特異染色抑制処理を3回行った結果を示している。図9の上から2段の図、1段目が壊死を認めない部分、2段目が壊死を認める部分に示す様に、new simplified CSA systemでは、3回のprotein blockを行うが、その全てを5分間行い、図9の左から、Dako Protein Block, Block Ace, Block Ace diluted 4 times with deionized water、 0.25% Casein PBS, 0.25% Casein 1% BSA PBS, 3% bovine serum albumin (BSA) PBSで比較検討し、非特異反応がほとんど見られないのは、Dako Protein Blockのみであった。
図9の上から3と4段目は、new simplified CSA systemにおける各5分間の非特異染色抑制処理を、各非特異反応抑制剤溶液を0.1%Tween20溶液として、3回行いった場合の結果を示している。図9の上から3と4段目の図、3段目が壊死を認めない部分、4段目が壊死を認める部分に示す様に、各非特異反応抑制剤に0.1%Tween20の添加で、Dako Protein Blockでは特異反応も少し抑制された。すなわち、この実験において、DAB過酸化水素反応による呈色反応も、自動免疫装置で実施しているので、DAB過酸化水素反応による呈色反応による茶色が少なくなったことは、特異反応が抑制されたことを意味する。また、3% BSA PBSでは非特異反応がかなり減少した。すなわち、図9の3段目の右端の図と1段目の右端の図とを比較すると、1段目の右端の図では茶色の陽性反応部分以外に背景に淡く茶色の染色があるが、3段目の右端の図では、背景の茶色の非特特異反応が減少し、青色の核を染色したヘマトキシリンが澄んでいるのが分かる。従って、非特異反応がかなり減少したことが分かる。0.25% Casein PBS, 0.25% Casein 1% BSA PBS, Block Ace, Block Ace diluted 4 times with deionized waterでは、非特異反応が相当残存するものの、0.1% Tween20添加前よりも、非特異反応は減少した。3% BSA 0.1% Tween20 PBSも、Dako Protein Blockと同様にnew simplified CSA systemのprotein blockに使えることが示唆された。
図9の上から5,6段目の図は、new simplified CSA systemにおける各15分間の非特異染色抑制処理を、各非特異反応抑制剤溶液を0.1%Tween20溶液として、3回行った場合の結果を示している。
図9の上から5と6段の図、5段目が壊死を認めない部分、6段目が壊死を認める部分に示す様に、0.1% Tween20を添加し、Protein blockの反応時間を15分間に延長すると、Dako Protein Blockでは特異反応も相当抑制され、3% BSA PBSでは非特異反応が非常に少なく、特異反応が一部抑制されていた。ここでは、一次抗体反応、ポリマー試薬反応、CARD反応の前の非特異抑制に、0.1%Tween20の添加と処理時間を15分延長した場合の効果を見ている。この実施例では、最終段階のDAB過酸化水素反応も自動免疫染色装置で行っている。従って、茶色の抗体の特異反応を反映する発色の消失は、特異反応抑制を意味する。CADR反応前の処理時間の延長では、CARD反応自体は同じ条件で実施されているので、標識タイラマイドの反応と理解することができる。0.25% Casein PBSとBlock Ace diluted 4 times with deionized waterでは非特異反応の抑制が出来なかった。0.25% Casein 1% BSA PBSとBlock Ace, Block Ace diluted 4 times with deionized waterでは、かなり非特異反応を抑制できたが完全ではなかった。
従って、Dako Protein Blockの非特異反応抑制効果は時間に依存し、特異反応もその処理時間の延長にて抑制されることが判明した。3% BSA 0.1% Tween20 PBSは、反応時間の延長にて、非特異反応の抑制効果があるも、特異反応への抑制効果が低いことが示唆された。
0.1% Tween20を添加し、protein blockの反応時間を1分間に短縮し、前記の非特異反応抑制剤で、FITC標識タイラマイドでのCARD反応で、new simplified CSA systemの染色を行った。その結果、Block Ace diluted 4 times with deionized waterにて、僅かな陽性染色を認めるのみであった。New simplified CSA systemでは、FITC標識タイラマイドを利用する場合には、CARD反応前のProtein Blockの検討が必要であることが示唆された。
<結果2、CSAIIとnew simplified CSA systemの比較検討>
CSAIIはHRP-labeled antibody methodを、new simplified CSA systemはHRP- and antibody-labeled polymer methodを用いて、抗原と反応した一次抗体を標識している。
図10の左図は、上下で、このHRP-labeled antibody methodとHRP- and antibody-labeled polymer method (EnVison)のみでの抗原検出を比較した。共に、増殖細胞を全て検出するこは出来なかった。陽性染色部はよりEnVisionの方が広かった。DAB過酸化水素水でのHRP反応産物は茶色になるので、陽性染色部とは、茶色の部分をさす。陽性部ではHRP-labeled antibody methodの方がより均一で強い陽性像を示し、EnVisionでは陽性染色の強弱ないしコントラストが強いものであった。
図10の中央の上下で示すように、Dako Protein Blockにて、一次抗体反応、HRP-labeled antibody methodないしEnVision、ビオチン標識タイラマイドのCARD反応の前での非特異反応抑制を5分間行い、CSAIIとnew simplified CSA systemの染色を行った。CSAII(上)では、濃淡が目立つが、ほとんどの増殖細胞は染色された。一方、new simplified CSA system(下)では、濃淡は目立たないが、ほとんどの増殖細胞が染色された。
図10の右の上下で示すように、Dako Protein Blockにて、一次抗体反応、HRP-labeled antibody methodないしEnVisionの前での非特異反応抑制を5分間行い、FITC標識タイラマイドのCARD反応の前での非特異反応抑制を行わずに、CSAIIとnew simplified CSA systemの染色を行った。CSAIIとnew simplified CSA system共に染色の低下が見られ、よりCSAIIでの染色の低下が強かった。
この結果は、HRP-labeled antibody試薬とEnVision試薬における抗体とHRPの比率がよりEnVisonの方が高く、より広範囲で陽性所見を示し、陽性部ではより淡い標識から強い標識までを一様にカバーし、HRP-labeled antibody methodでは、シグナル増幅の前では(左図)一様に陽性所見が見えても、シグナル増幅を行ったところ、より強く標識される部分と淡く標識される部分があり、その結果、シグナル増幅の低いFITC標識タイラマイドでのCARD反応では陽性細胞の激減を生じていることを示唆した。ここで、シグナル増幅について説明すれば、CARD反応を利用して、HRP標識抗体のHRPによるビオチン標識タイラマイドのCARD反応によるHRP標識抗体の近傍への異化ビオチン標識タイラマイドの非特異沈着を生じて、その沈着した異化ビオチン標識タイラマイドをストレプアビンHRP複合体で標識することでHRP標識抗体の反応近傍に、非常に多くのHRPが存在することになるが、これをシグナル増幅と表現している。
図10は、CSAIIとnsCSA systemにおける抗原検出の差を示す。PAP: HRP-labeled antibody method. EnVision: HRP- and anibody-labeled polymer method. 左上下:PAPとEnVisonでは、一次抗体反応前に、Dako Protein Blockで5分の非特異反応の抑制を行っている。中上下:PAP+ビオチン標識タイラマイド(CSAII)とEnVision+ビオチン標識タイラマイド(nsCSA system)では、一次抗体反応、PAPないしEnVison試薬反応、CARD反応の前に、Dako Protein Blockで5分の非特異反応の抑制を行っている。右上下:PAP+FITC標識タイラマイド(CSAII)とEnVision+FITC標識タイラマイド(nsCSA system)では、一次抗体反応、PAPないしEnVison試薬反応の前に、Dako Protein Blockで5分感の非特異反応の抑制を行っている。
<結果3、FITC標識タイラマイドでのCARD反応によるシグナル増幅への非特異反応抑制処理の影響>
new simplified CSA systemで、FITCタイラマイドによるCARD反応の前のProtein Blockに、反応時間を1分間として、0.25M PBS, 0.05M Tris 1.8M NaCl 溶液(Tween20を除いたDakoautostainerでの洗浄緩衝液)、0.025% Casein 0.1% Tween20 PBS, 0.3% BSA 0.1% Tween20 PBS、0.3% Glycerin 0.1%Tween20 PBS, 0.3% polyethylene Glycole (PEG)#400 0.1% Tween20 PBS, 3% PEG#1500 0.1%Tween20 PBS, 3%PEG#20000 0.1% Tween20 PBSで染色した。前2つの緩衝液は残留Tween20を除くものである。後の4つの溶液は、化学的には安定である分子量が100〜20000までの分子を含む溶液である。
図11は、FITCタイラマイドを用いるnsCSA systemにおけるCARD反応前非特異反応抑制処理をした時の様子を示す。
図11の上段の左から1番目と2番目の図に、0.25M PBSと0.05M Tris 1.8M NaCl 溶液での染色像を示す。前者の方がより陽性像は強いが非特異反応が強い。この染色は、Ki-67抗原を染色しているので、陽性像とは細胞の核が茶色になる反応が陽性反応になる。従って、図11の染色に染まった核の集まる部分はKi-67抗原陽性である増殖細胞の集まりである。その青色に染まる核を有するリンパ球の分布する部分は、あまり増殖細胞がいないので、極少数の明らかに茶色に染まる陽性核を認めるのみである。しかし、図11の上段の左から1番目の図は、上段の他の図と比較して、この部分に、茶色が染まる非特異反応を認める。次に、図11の上段の左から2番目の図が、上段の左から3番目と4番目の図がよりも、茶色に染まる非特異反応を認める。これが非特異反応が強いと表現している。従って、0.05M Tris 1.8M NaCl 溶液の洗浄能力が0.25M PBS溶液より優れているが、残留Tween20を除いてもFITCタイラマイドによるCARD反応の非特異反応の抑制は達成できないことが示唆された。
図11の上段の左から3番目と4番目に、0.025% Casein 0.1% Tween20 PBSと0.3% BSA 0.1% Tween20 PBSの染色結果を示す。前者では非特異反応も抑制された(Ki-67抗原陽性で茶色に染まる増殖細胞が少ない領域の茶色の非特異反応が少なく)が、特異反応もかなり抑制された(図11の増殖細胞の茶色の陽性反応が、0.1%Tween 20 PBSでの0.025%カゼインで最も淡くなっていることが示唆される。)。一方、後者では、非特異反応が抑制され、特異反応の抑制は目立たなかった。
図11の下段に、左から、0.3% Glycerin 0.1%Tween20 PBS, 0.3% polyethylene Glycole (PEG)#400 0.1% Tween20 PBS, 3% PEG#1500 0.1% Tween20 PBS, 3%PEG#20000 0.1% Tween20 PBSでの染色結果を示す。前2者では、特異反応の抑制も非特異反応の抑制も見られなかったが、3% PEG#1500 0.1% Tween20 PBSでは、非特異反応の抑制と強い特異反応の抑制が見られた。しかし、3%PEG#20000 0.1% Tween20 PBSでは、非特異反応が見られずに、特異反応の減弱も見られなかった。
この結果は、0.3% BSA 0.1% Tween20 PBSあるいは0.3% BSA 0.1% Tween20 0.05M Tris 1.8M NaCl 溶液ないし3%PEG#200000.1% Tween20 PBSをFITC標識タイラマイドでのnew simplified CSA systemの場合のCARD反応の前の非特異反応抑制に用いることが可能であることが示唆された。また、0.025% Casein 0.1% Tween20 PBSと0.3% BSA 0.1% Tween20 PBSの染色結果の差は、Caseinによる異化FITC標識タイラマイドの沈着阻害によるものであり、Caseinの非特異反応の抑制効果は、非特異沈着にも特異な沈着機序が介在し、その機序に対して競合的に作用し、BSAにはこの作用がないことを示唆した。また、異化FITC標識タイラマイドは、分子量として1500前後であり、PEG#1500と沈着競合することが示唆された。
この検索にて、ビオチン標識タイラマイドのCARD反応を含むnew simplified CSA systemは、現在の間接酵素抗体法の中で、最も、抗原検出感度が高く、非特異反応を最も減じたものであることが明らかになった。また、その非特異反応の抑制には、Dako Protein Blockの他に、0.3% BSA 0.1% Tween20 PBS ないし0.3% BSA 0.1% Tween20 0.05M Tris 1.8M NaCl 溶液が使用可能であることが判明した。更に、極僅かな内因ビオチンの反応が問題となる切片の検索には、抗原検出感度が低くなるが、FITC標識タイラマイドでのCARD反応を含むnew simplified CSA systemの応用が可能であり、そのFITC標識タイラマイドでのCARD反応の非特異反応を、0.3% BSA 0.1% Tween20 PBS、0.3%BSA 0.1% Tween 20 0.05M Tris 1.8M NaCl 溶液、3% PEG#20000 0.1% Tween 20 PBS、3% PEG#20000 0.1% Tween 20 0.05M Tris 1.8M NaCl 溶液での1分間の処理で抑制できることが判明した。
CSAIIはHRP-labeled antibody methodをCARD反応の前に用いることから、HRPの抗体に対する標識率がより高いHRP- and antibody-labeled polymer methodを用いるnew simplified CSA systemより、抗原検出感度が低いことが示された。
CARD反応はHRPの標識tyramideの異化反応に依存することから、複数の標識tyramideの濃度の異なる反応溶液を準備して、最適な濃度の溶液での反応を染色結果として用いるよりは、一定の標識tyramide溶液での反応の前にその非特異反応を抑制する方法の方がより妥当なものであると考えられる。FITC以外の蛍光物質での標識tyramideでは、0.3% BSA Tween 20 溶液等が使用できない場合にも、分子量にあったPEG系列での非特異反応と競合する分子量を推定し、充分に大きな分子量のPEG溶液にて、その非特異反応の抑制が可能であることがこの検索で示唆されることからも、標識tyramideの濃度による非特異反応の抑制は余り有効な方法ではないと考えられる。
今回の検索では、new simplified CSA system等での染色に、50倍希釈のMIB-1抗体での30分の反応を用いているが、実際の免疫反応では15分で一応の反応が終了し、それ以降は追加的な反応で、陽性所見の強化が図られることから、new simplified CSA systemを基礎に、至適抗体濃度と反応時間を設定する方が現実的である。
CARD反応を利用する間接酵素抗体法は、凍結標本等にも応用が可能であるが、化学固定によるマスクされた抗原の抗原回復処理により、通常のヒト病理標本への応用にて、より広範囲の分子病理学的研究に活用されることが予測される。
高感度の抗原検出法を提供できるため、生物学、医学、分子生物学等の種々の関連分野において、研究分析にとどまらず、実用面にも多大な需要があると考えられる。
本発明の超高感度の免疫組織化学的染色方法を含む免疫組織化学的染色法の一実施態様における光顕的に識別される最終産物の概念図である。 ヒト扁桃固定組織パラフィン標本を用いた本発明の免疫組織化学的染色法による抗原の検出方法による結果を示す。標本切片を用い従来の超高感度免疫組織化学的染色法を実施し、抗原回復の有無と抗原回復後の固定の影響を検討した。 HTLV-1関連細胞株MT-1のセルブロック標本で、HTLV-1関連蛋白のp40Tax蛋白の特異抗体(WATM-1)を用い、sABC法とポリマー試薬法で免疫組織化学的染色を実施した結果を示す。 ヒト扁桃固定組織パラフィン標本切片を用い、抗原回復後に、Ki-67抗原抗体一次抗体反応を行い、sABC法とダコChemMate EnVision法で免疫組織化学的染色を実施した結果を示す。 ヒト扁桃固定組織パラフィン標本切片を用い、抗原回復後に、Ki-67抗原抗体一次抗体反応を行い、本発明の超高感度免疫組織化学的染色を実施したもの。固定が良好の部分。やや固定が不良な部分。固定を20%緩衝ホルマリン溶液で行った結果を示す。 陰性コントロール染色でのビオチン化タイラマイド法とフルオレセンイソチオシアネート(FITC)-タイラマイド法の比較(ヒト虫垂組織)を示す。 Ki-67抗原のポリマー試薬法、ポリマー試薬法を導入した超感度免疫組織化学的染色方法、ポリマー試薬法とビオチン化タイラマイド反応前非特異反応抑制処理を行った超高感度免疫組織化学的染色方法による検出とストレプトアビチン-HRP複合体反応による内因性ビオチンの検出(ヒトリンパ節、肝臓癌周囲の肝臓正常部、胃カルチノイド組織)を示す。 Ki-67抗原のポリマー試薬法とビオチン化タイラマイド反応前非特異反応抑制処理を行ったビオチン化タイラマイド法、FITC-タイラマイド法の超感度免疫組織化学的染色による検出感度の相違(ヒトリンパ節、扁平上皮癌、肝臓癌、胃癌組織)を示す。 nsCSA systemでのいろいろな試薬による非特異反応抑制効果の比較を示す。 CSAIIとnsCSA systemにおける抗原検出の差を示す。 FITC標識タイマライドを用いるnsCSA systemにおけるCARD反応前非特異反応抑制処理をした時の様子を示す。

Claims (16)

  1. 免疫組織化学的染色方法によって固定組織標本切片中の抗原を検出するにあたり
    一次抗体を抗原と反応させる工程
    二次抗体および西洋ワサビペルオキシダーゼを備える複合体を、前記一次抗体と反応させる工程、および
    標識タイラマイドを前記複合体と反応させる工程
    を具え、
    少なくとも、前記複合体と前記一次抗体との反応に先立って非特異反応をウシ血清アルブミン(BSA)によって抑制するか、または前記複合体と前記一次抗体との反応後であって前記標識タイラマイドの沈着反応に先立って非特異反応をウシ血清アルブミンまたはポリエチレングリコール(PEG)によって抑制することを特徴とする、方法
  2. 前記複合体は、二次抗体、西洋ワサビペルオキシダーゼおよび担体を備えるポリマー複合体である、請求項1記載の方法
  3. 前記複合体と前記一次抗体との反応に先立って非特異反応をBSAによって抑制し、および前記複合体と前記一次抗体との反応後であって前記標識タイラマイドの沈着反応に先立って非特異反応をPEGによって抑制する、請求項1または2記載の方法
  4. BSAまたはPEGを界面活性剤添加溶液として用いる、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  5. 界面活性剤はトゥイーン(Tween)20又はトリトン(Triton)X-100である、請求項4記載の方法。
  6. 界面活性剤の濃度は0.01〜1%である、請求項4または5記載の方法。
  7. BSAの濃度は0.01〜5%である、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
  8. 界面活性剤添加溶液は0.1%Tween20添加3%BSAである、請求項4〜7のいずれか1項記載の方法。
  9. PEGの分子量は3000以上である、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
  10. 界面活性剤添加溶液は0.1%Tween20添加3%PEGである、請求項4〜9のいずれか1項記載の方法。
  11. さらに、非特異反応生成物、及びその他の残存反応物を除去するために、加熱した洗浄液によって洗浄する工程を含む、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
  12. 前記加熱した洗浄液の温度は25〜60℃の範囲内である、請求項11記載の方法。
  13. 標識タイラマイドの標識物が可視化のための物質である、請求項1〜12のいずれか1項記載の方法。
  14. 前記可視化のための物質に、ビオチンおよび蛍光物質の少なくとも1種が含まれる、請求項13記載の方法。
  15. 蛍光物質はフルオレスセンスイソチオシアネート(FITC)である、請求項14記載の方法。
  16. 反応液、反応時間、及び洗浄回数をプログラムして自動免疫装置に組み込み、自動化して行なう、請求項1〜15のいずれか1項記載の方法。
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