JP4291939B2 - 高周波誘導加熱方法とその装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数の加熱部分を持つ、例えば金属製機械部品の該歯車部分を、同時に高周波焼入するときに用いられる、高周波誘導加熱する方法およびその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種の高周波誘導加熱方法およびその装置では、前記複数の歯車部分を持つ金属製機械部品で、例えば、図2(a)、図2(b)に示すような、同一軸線C上に、ある間隔で配置され、それぞれ直径が異なる複数(図では、3個)の歯車1a,1b,1cが設けられた金属製の機械部品が、被加熱物1として適用される。
このような被加熱物1の前記複数箇所に設けられた歯車部1a,1b,1cを、同時に高周波加熱する場合、図3に示すように、加熱部分である、該歯車部1a,1b,1cに相対して、複数の高周波誘導加熱コイル2a,2b,2cが使用される。
【0003】
この場合、前記複数の高周波誘導加熱コイル2a,2b,2cが、直列や並列の一体構造であると、加熱の際、前記被加熱物1への着脱が困難であり、必然的に複数部分を別々の高周波誘導加熱コイルに分離し、例えば図4に示すように、一方の高周波誘導加熱コイル2b,2cを固定し、他方の高周波誘導加熱コイル2aを上方に移動させて、該被加熱物1を着脱する必要があった。そのため、該高周波誘導加熱コイルは、2個以上必要であった。
【0004】
そして、これらの複数箇所の高周波誘導加熱は、大別すると2種類あって、その1は、1つの高周波電源(例えば、高周波発振器)を用い、切替器を使用して複数箇所を順次に加熱、処理する方法と、その2は、図または図に示すように、複数の高周波電源3a,3b,3cを用いて、複数箇所を同時に加熱、処理する方法があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、図2に示すような、複雑形状の前記被加熱物1を高周波誘導加熱する、従来の方法およびその装置では、次のような問題点があった。
すなわち、(1)1つの高周波電源を用い、切替器を使用して複数箇所を順次に加熱、処理する方法は、その箇所ごとに、加熱時間だけでなく、空冷時間及び水冷時間等の処理工程にかかる時間も必要とすることから、サイクルタイムが長くなるという問題点があった。
【0006】
(2) 他方、複数の高周波電源を用いて、同時に加熱、処理する方法は、それぞれの高周波誘導加熱コイル2a,2b,2cごとに、専用の複数台の高周波電源3a,3b,3cを使用することから、多くの費用とスペースが必要となり、設備のイニシアルコストが高くなるという問題点があった。
【0007】
本発明はかかる点を鑑みなされたもので,その目的は前記問題点を解消し、1つの高周波電源により、複数の被加熱面を有する被加熱体の、該被加熱面を、同時に高周波誘導加熱できる高周波誘導加熱方法を提案することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、1つの高周波電源により、複数の被加熱面を有する被加熱体の、該被加熱面を、同時に高周波誘導加熱できる高周波誘導加熱装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するための本発明の構成は、複数の被加熱面を有する被加熱体の、該被加熱面を、同時に高周波誘導加熱するに際し、1つの高周波電源から、1次共振回路を形成する1次側高周波誘導加熱コイルにより、前記被加熱体の1つの前記被加熱面を誘導加熱し、該1次側高周波誘導加熱コイル近傍に配設され、該1次側高周波誘導加熱コイルによって電磁誘導されるとともに、高周波電源に接続されていない、コンデンサを含む直列共振回路から成る2次共振回路を形成するそれぞれの2次側高周波誘導加熱コイルにより、他のすべての前記被加熱面を誘導加熱する方法である。
【0010】
また、複数の被加熱面を有する被加熱体の、該被加熱面を、同時に高周波誘導加熱する装置であって、1つの高周波電源と、該高周波電源に接続され、1次共振回路を形成するとともに、前記被加熱体の1つの前記被加熱面を誘導加熱するための1次側高周波誘導加熱コイルと、該1次側コイルの近傍に配設されるとともに、該1次側高周波誘導加熱コイルによって電磁誘導され、他のすべての前記被加熱面を誘導加熱するそれぞれの2次側高周波誘導加熱コイルと、該それぞれの2次側高周波誘導加熱コイルとコンデンサにて形成される、高周波電源に接続されていない直列共振回路から成るそれぞれの2次共振回路とから構成される高周波誘導加熱装置である。
【0011】
さらに、前記被加熱体が磁性体からなる方法または装置である。
【0013】
また、前記1次側高周波誘導加熱コイルと前記2次側高周波誘導加熱コイルヘの出力配分は、前記1次側及び前記2次側の高周波誘導加熱コイルのそれぞれのリアクタンスの比率、または前記1次及び2次の共振回路のそれぞれのコンデンサ容量の比率、または前記コイルのそれぞれの間隔を調整することにより行われる方法または装置である。
【0014】
本発明の高周波誘導加熱方法とその装置は、以上のように構成されるので、設備のイニシアルコストを含む多くの費用とスペースが低減され、さらに、サイクルタイムを短縮することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
図1は、本発明の高周波誘導加熱装置の一実施例を示す、回路図を含む構成図で、該高周波誘導加熱装置10により、自動車エンジンの部品の1つで、複数箇所(本実施の形態では、3箇所)の被加熱面を有する歯車の高周波誘導加熱と焼入処理を行っている。
【0016】
図1において、被加熱物(前記歯車で、一般にワークともいう)1は、図2(b)に示すような、同一軸線C上に、ある間隔で配置され、装置直径が異なる複数(図では、3個)の歯車部1a,1b,1cが設けられた磁性材(例えば、鉄鋼系材)の金属機械部品で、該歯車部1a,1b,1cを高周波誘導加熱により焼入処理を行う。
【0017】
前記高周波誘導加熱装置10は、加熱コイル部11と、電源部21と、2次共振回路部31とから構成されている。
前記加熱コイル部11は、金属機械部品である前記被加熱物1を保持するワーク受け治具12と、該ワーク受け治具12に配設され、前記被加熱物1のうち大径歯車部1bに対向して配置された1次側高周波誘導加熱コイル13と、他の小径歯車部1cに対向して配置された2次側高周波誘導加熱コイル14と、図示しないコイル移動治具に配設され、前記被加熱物1の、さらに他の小径歯車部1aに対向して配置された2次側高周波誘導加熱コイル15とからなる。
【0018】
前記電源部21は、交流電源に接続され、直流電力に変換するAC/DCコンバータ22と、該直流により動作して高周波誘導加熱電力を出力する高周波電源(例えば、発振器)23と、その出力側に接続され、前記1次側高周波誘導加熱コイル13に高周波電力を供給するため、該高周波コイル13を含め、結合トランス24aとコンデンサ24bとからなる1次共振回路24が接続されている。
【0019】
前記2次共振回路部31は、誘導加熱周波数で共振する、前記2次側高周波誘導加熱コイル14と、結合トランス32aと、コンデンサ32bとで形成された2次共振回路32すなわち高周波電源に接続されていない直列共振回路、誘導加熱周波数で共振する、前記2次側高周波誘導加熱コイル15と、結合トランス33aと、コンデンサ33bとで形成された2次共振回路33すなわち高周波電源に接続されていない直列共振回路とからなる(図1参照)
【0020】
前記1次側高周波誘導加熱コイル13と、2個の前記2次側高周波誘導加熱コイル14,15は、図1に示すように配置され、その管内には、前記被加熱物1を焼入するための冷却液が、流通可能な銅管で構成されている。
【0021】
次いで、前記被加熱物1を、前記高周波誘導加熱装置10に取り付けるときは、前記2次側高周波誘導加熱コイル15を、図示しない前記コイル移動治具により、該被加熱物1と接触しない位置まで移動させてから、該被加熱物1を前記ワーク受け治具12上に載置する。該被加熱物1を該ワーク受け治具12上に載置後、前記2次側高周波誘導加熱コイル15を、前記コイル移動治具により、所定位置に配置して、前記被加熱物1の前記小径歯車部1aに対向させる。
【0022】
ここで、前記1次側高周波誘導加熱コイル13に、前記高周波電源23から前記1次側共振回路24に高周波電流を供給すると、該高周波コイル13に高周波電流が流れて、磁性材である前記被加熱物1内に磁界が発生し、前記大径歯車部1bを加熱すると同時に、この磁界により前記2次側高周波誘導加熱コイル14,15を励起させ、前記2次側コンデンサ32b,33bを調整することで、前記2次側共振回路32,33を共振させ、前記小径歯車部1c,1aを同時に加熱する。
【0023】
なお、前記1次側高周波誘導加熱コイル13と前記2次側高周波誘導加熱コイル14,15ヘの出力配分は、前記1次及び2次の共振回路24,32,33のそれぞれのコンデンサ24b,32b,33bの容量の比率を調整するほか、前記1次側及び前記2次側の高周波コイル13,14,15のそれぞれのリアクタンスの比率、または前記コイル13,14,15のそれぞれの間隔を調整することにより行ってもよい。
【0024】
前記被加熱物1の、前記大径歯車部1bおよび前記小径歯車部1c,1aを加熱後、そのままの位置で、短い時間空冷する。しかる後、前記各高周波誘導加熱コイル13,14,15から、該被加熱物1に向けて設けられた複数の穴を通して、該被加熱物1に焼入用冷却液(例えば、冷却水など)を噴射して、焼入処理を行っている。
前記被加熱物1の焼入処理後、前記ワーク受け治具12と前記コイル移動治具とにより、前記加熱コイル13,14,15を、前記被加熱物1から、速やかに他の位置に移動させ、該被加熱物1を外部に搬出する。
【0025】
以下に、本実施例の具体的な加熱、処理条件を記載する。
(1)歯車(前記被加熱物)の寸法及び材質
(ア)歯車大径部の外径: φ130mm
(イ)歯車小径部の外径: φ74mm (2箇所)
(ウ)歯車の高さ: 41mm
(エ)歯車の材質: 焼結材(鉄系粉末の焼結材)
【0026】
(2)高周波誘導加熱条件
(ア)周波数: 50kHz
(イ)出力 95kW
(ウ)加熱時間: 3.0秒
(エ)空冷時間: 0.5秒
(オ)水冷時間: 5.0秒
(カ)加熱温度: 900゜C
【0027】
(3)歯車の高周波熱処理規格及ぴ処理結果
(ア)表面硬さ規格: HRA60以上
(イ)表面硬さ結果: HRA65〜72
(ウ)歯底硬化層深さ規格: 0.6mm以上
(エ)歯底硬化層深さ結果: 0.9〜1.6mm
【0028】
前記高周波誘導加熱装置10において、前述の加熱、処理条件で加工することで、良好な焼入加工を行うことができた。
【0029】
以上、本発明の一実施の形態について述べたが、本発明は、この実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。例えば、前述のような高周波誘導加熱装置にて、前記1次側共振回路24を動作中、前記2次共振回路32,33を短絡させることにより、該2次回路の共振を中断し、簡単に、2次側の加熱時間の調整を行うことが可能である。
【0030】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように本発明の高周波誘導加熱方法によれば、複数の被加熱面を有する被加熱体の、該被加熱面を、同時に高周波誘導加熱するに際し、1つの高周波電源から、1次共振回路を形成する1次側高周波誘導加熱コイルにより、前記被加熱体の1つの前記被加熱面を誘導加熱し、該1次側高周波誘導加熱コイル近傍に配設され、該1次側高周波誘導加熱コイルによって電磁誘導されるとともに、高周波電源に接続されていない、コンデンサを含む直列共振回路から成る2次共振回路を形成するそれぞれの2次側高周波誘導加熱コイルにより、他のすべての前記被加熱面を誘導加熱するので、複数の被加熱面を有する被加熱体の、該被加熱面を、同時に高周波誘導加熱できるとともに、1台の高周波電源で済み、設備費用及スペース、さらにはサイクルタイムの短縮が可能となる優れた効果を奏する。
【0031】
また、本発明の高周波誘導加熱装置によれば、複数の被加熱面を有する被加熱体の、該被加熱面を、同時に高周波誘導加熱する装置であって、1つの高周波電源と、該高周波電源に接続され、1次共振回路を形成するとともに、前記被加熱体の1つの前記被加熱面を誘導加熱するための1次側高周波誘導加熱コイルと、該1次側高周波誘導加熱コイルの近傍に配設されるとともに、該1次側高周波誘導加熱コイルによって電磁誘導され、他のすべての前記被加熱面を誘導加熱するそれぞれの2次側高周波誘導加熱コイルと、該それぞれの2次側高周波誘導加熱コイルとコンデンサにて形成される、高周波電源に接続されていない直列共振回路から成るそれぞれの2次共振回路とから構成されるので、複数の被加熱面を有する被加熱体の、該被加熱面を、同時に高周波誘導加熱できるとともに、1台の高周波電源で済み、設備費用及スペース、さらにはサイクルタイムの短縮が可能となる。特に、設備のイニシアルコストが安価で、設備の床面積は小さく、作業スペースが少なくて済むという優れた効果を奏するため、本発明は産業上有益な装置であるということができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の高周波誘導加熱装置の一実施例を示す回路を含む構成図である。
【図2】本実施例で使用した被加熱物の図で、図2(a)はその平面図、図2(b)は図2(a)の縦断面図である。
【図3】従来の高周波誘導加熱方法またはその装置を示す概略構成図である。
【図4】従来の高周波誘導加熱装置への被加熱物の着脱方法を示す構成図である。
【符号の説明】
1 被加熱物
1a,1b,1c 歯車部(被加熱面)
10 高周波誘導加熱装置
11 加熱コイル部
12 ワーク受け治具
13 1次側高周波誘導加熱コイル
14,15 2次側高周波誘導加熱コイル
21 電源部
23 高周波電源
24 1次共振回路
24a,32a,33a 結合トランス
24b,32b,33b コンデンサ
31 2次共振回路部
32,33 2次共振回路

Claims (6)

  1. 複数の被加熱面を有する被加熱体の、該被加熱面を、同時に高周波誘導加熱するに際し、
    1つの高周波電源から、1次共振回路を形成する1次側高周波誘導加熱コイルにより、前記被加熱体の1つの前記被加熱面を誘導加熱し、
    該1次側高周波誘導加熱コイル近傍に配設され、該1次側高周波誘導加熱コイルによって電磁誘導されるとともに、高周波電源に接続されていない、コンデンサを含む直列共振回路から成る2次共振回路を形成するそれぞれの2次側高周波誘導加熱コイルにより、他のすべての前記被加熱面を誘導加熱すること
    を特徴とする高周波誘導加熱方法。
  2. 前記被加熱体が磁性体からなることを特徴とする請求項1に記載の高周波誘導加熱方法。
  3. 前記1次側高周波誘導加熱コイルと前記2次側高周波誘導加熱コイルヘの出力配分は、前記1次側および前記2次側の高周波誘導加熱コイルのそれぞれのリアクタンスの比率、または前記1次及び2次の共振回路のそれぞれのコンデンサ容量の比率、または前記コイルのそれぞれの間隔を調整することにより行われることを特徴とする請求項1に記載の高周波誘導加熱方法。
  4. 複数の被加熱面を有する被加熱体の、該被加熱面を、同時に高周波誘導加熱する装置であって、
    1つの高周波電源と、
    該高周波電源に接続され、1次共振回路を形成するとともに、前記被加熱体の1つの前記被加熱面を誘導加熱するための1次側高周波誘導加熱コイルと、
    該1次側高周波誘導加熱コイルの近傍に配設されるとともに、該1次側高周波誘導加熱コイルによって電磁誘導され、他のすべての前記被加熱面を誘導加熱するそれぞれの2次側高周波誘導加熱コイルと、
    該それぞれの2次側高周波誘導加熱コイルとコンデンサにて形成される、高周波電源に接続されていない直列共振回路から成るそれぞれの2次共振回路と、
    から構成されること、
    を特徴とする高周波誘導加熱装置。
  5. 前記被加熱体が磁性体からなることを特徴とする請求項に記載の高周波誘導加熱装置。
  6. 前記1次側高周波誘導加熱コイルと前記2次側高周波誘導加熱コイルヘの出力配分は、前記1次側及び前記2次側の高周波誘導加熱コイルのそれぞれのリアクタンスの比率、または前記1次及び2次の共振回路のそれぞれのコンデンサ容量の比率、または前記コイルのそれぞれの間隔を調整することにより行われることを特徴とする請求項に記載の高周波誘導加熱装置。
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