JP4289602B2 - プロセス監視方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、互いに相関がある複数のプロセスデータに基づいてプロセスを監視する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種工業プラントにおいては、プラントの機器設備に設置したセンサ類より得られるプロセス状態量及び制御装置からアクチュエータに出力される制御信号などのプロセスデータを数値で表示したり、プロセスデータを履歴として蓄積し、過去から現在にいたる傾向をトレンドグラフとして表示させたりして、オペレータがプロセスの状態を監視している。特に、大規模な化学プラントなどにおいては、監視すべきプロセスデータが膨大であるばかりでなく、多数のプロセスデータが相互に作用するので、プロセスデータ間の相関を考慮してプロセスの状態を判断しなければならないために、オペレータの監視作業に対する負荷が大きい。
【0003】
そこで、多変量統計解析を使用して、複数のプロセスデータから代替変数を生成し、この代替変数を用いてプロセスの状態を判定する製造プロセスの監視・制御方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
また、複数の運転データを用いて主成分分析を行い、得られた主成分得点及び残差得点に基づいて運転状態の監視を行う方法が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】
特開平7−200040号公報
【特許文献2】
特開2002−25981号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
実際のプラントでは、生産量の調整や製品の銘柄切り替えなどにより、運転条件が大きく変更されることは珍しくない。しかしながら、上記の監視方法は何れもプロセスの運転条件が変更された場合、異常ではない状態を異常として検出することがあった。即ち、運転条件の変更を直接的に表わす変数(以下では外部変数と呼ぶ)が変化した時や、外部変数以外の変数(以下では主変数と呼ぶ)が運転条件の変更の影響を受けた時に、これを異常として検出するという問題があった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決しようとするものであり、運転条件の変更の影響を受けることなく、互いに相関がある複数のプロセスデータに基づいてプロセスの状態を的確に判定することができるプロセス監視方法を提供することを目的としている。
【0007】
上記課題を解決する本発明は、複数のプロセスデータを収集する工程と、収集した複数のプロセスデータを運転条件の変更を直接的に表わす外部変数とそれ以外の変数である主変数とに区分けすると共に外部変数の主変数への影響を除去する工程と、外部変数の主変数への影響を除去することにより得られた新たな変数を多変量統計解析により統計量に変換する工程と、変換された統計量を予め設定されたしきい値と比較することによりプロセスの状態を判定する工程とを有することを特徴とするプロセス監視方法である。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、図面を用いて本発明のプロセス監視方法について詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態に係るプロセス監視方法の流れを示すフロー図である。このプロセス監視方法1は、プラント2から複数のプロセスデータを、予め設定されたサンプル周期で収集するプロセスデータ収集工程4と、収集した複数のプロセスデータを運転条件の変更を直接的に表わす外部変数とそれ以外の変数である主変数とに区分けすると共に外部変数の主変数への影響を除去する外部分析処理工程7と、外部変数の主変数への影響を除去することにより得られた新たな変数を多変量統計解析により統計量に変換する統計量変換工程8と、変換された統計量を予め設定されたしきい値と比較することにより、プロセスの状態を判定するプロセス判定工程10とを有し、判定結果がオペレータ3に通知される。
【0009】
また、プロセスデータ収集工程4で収集したプロセスデータはプロセスデータベース5に保存され、統計量変換工程8で変換された統計量は統計量データベース9に保存される。さらに、収集した複数のプロセスデータを正常状態のプロセスデータの平均値及び標準偏差を用いて標準化するデータ前処理工程6をプロセスデータ収集工程4の後に設けてもよく、オペレータ3の要求により保存されたプロセスデータ及び保存された統計量を表示するプロセスデータ・統計量表示工程11を設けてもよい。
本実施の形態においては、複数の変数のうち、運転条件の変更を直接的に表わす変数を外部変数とし、外部変数以外の変数を主変数とする。
【0010】
次に各工程について説明する。
(プロセスデータ収集工程)
プロセスデータ収集工程4では、予め決められた監視対象である変数の実測値にあたるプロセスデータを一定のサンプル周期で収集する。収集されたプロセスデータは、プロセスデータベース5に送られて保存されると同時に、データ前処理工程6又は外部分析処理工程7に送られる。
【0011】
(データ前処理工程)
データ前処理工程6では、サンプル数をk、変数の数をmとして、収集したプロセスデータを行列Xで表わし、各プロセスデータ行列から各変数の平均値を減算した後、標準偏差により除算して標準化(平均0、分散1)する。この標準化されたプロセスデータは、外部分析処理工程7に送られる。
【0012】
(外部分析処理工程)
外部分析処理工程7では、プロセスデータ収集工程4で収集された複数のプロセスデータ又はデータ前処理工程6で標準化されたプロセスデータを主変数と外部変数とに区分けすると共に外部変数の主変数への影響を除去する。変数のうちmg個を外部変数、mh(=m−mg)個を主変数とすると、プロセスデータを表わす行列Xは、式(1)のように外部変数Gと主変数Hとに区分けすることができる。
【数1】
ここで、外部変数Gは運転条件の変更を表わす変数であるため、外部変数Gを監視する必要はなく、主変数Hだけを監視すればよい。そこで、主変数Hを外部変数Gで表現できる(外部変数の影響を受ける)部分と表現できない(外部変数の影響を受けない)部分とに分解し、主変数Hを目的変数、外部変数Gを説明変数として重回帰分析を行う。
【0013】
全ての外部変数Gが互いに線形独立である場合には、式(2)で表わされる変数Eの全要素の二乗和が最小となるように最小二乗法を用いて偏回帰係数行列Cを決定し、外部変数Gの主変数Hへの影響を除去した新たな変数Eを求める。そして得られた変数Eは、統計量変換工程8に送られる。
【数2】
ここで、Cは正規方程式の解として式(3)で与えられる。
【数3】
一方、外部変数Gの間に相関がある場合には、部分最小二乗法を用いて偏回帰係数行列Cを決定し、外部変数Gの主変数Hへの影響を除去した新たな変数Eを求める。
【0014】
(統計量変換工程)
統計量変換工程8では、外部分析処理工程7で得られた変数Eを、多変量統計解析、例えば、主成分分析を用いてT2統計量とQ統計量に変換する。T2統計量は、式(4)のように定義される。
【数4】
ここで、trはr番目の主成分に対する主成分得点であり、σ2(tr)はその分散である。Rは主成分分析における主成分の数である。主成分得点trは式(5)で定義される。
【数5】
ここで、eは、偏差ベクトルであり変数Eの列にあたる。Pは、ローディング行列であり、プロセスが正常状態にある時のデータを基に算出される。
【0015】
一方、Q統計量は、式(6)のように定義される。
【数6】
ここで、eiとei^(^付きei)はそれぞれ、i番目の変数とその予測値(再構成された値)である。ei^は式(7)のように求められる。
【数7】
このようにして変換されたT2統計量とその寄与率tr/σ(tr)及びQ統計量とその寄与率ei−ei^は、統計量データベース9に保存されると同時に、プロセス判定工程10に送られる。
【0016】
(プロセス判定工程)
プロセス判定工程10では、プロセスが正常状態にある時のプロセスデータ(参照データ)からしきい値を設定し、これを基準にプロセスの状態を判定する。このしきい値は、例えば、オフラインでデータ前処理工程6に参照データを入力し、統計量変換工程8まで処理を進め、得られるT2統計量又はQ統計量の範囲から設定することができる。この時、プロセスの異常状態の見逃しを防止するために、参照データの99%が含まれるようにしきい値を設定することが好ましい。プロセスの運転状態の判定には、主成分分析の相関の崩れ、即ち、主成分分析の予測誤差の二乗であるQ統計量を用いることが望ましい。
【0017】
Q統計量は、過去の参照データにより構築されたローディング行列Pと、新たなサンプルデータから外部変数の影響を除去した部分eを用いて式(6)のように求められ、その際、Q統計量が設定したしきい値よりも小さい場合、そのサンプルデータがローディング行列Pで構成される隠れ構造空間にほぼ合致しているため正常と判定され、逆にQ統計量が設定したしきい値よりも大きい場合、そのサンプルデータがローディング行列Pで構成される隠れ構造に合致していないため異常と判定される。このようにして異常判定がなされると、図示しない端末からアラーム音を発すると共に異常内容を示したメッセージを表示して、オペレータ3へ異常である旨が自動的に通知される。このようにしきい値を設定し、その値と統計量の比較を行うことで、プロセスの状態を的確に判定することができる。
【0018】
(プロセスデータ・統計量表示工程)
プロセスデータ・統計量表示工程11では、プロセスデータデータベース5及び統計量データベース9に保存された値を、オペレータ3からの要求に応じて表示する。例えば、Q統計量の主変数への寄与率を表示することにより、どの主変数の影響でQ統計量が上昇したのかをオペレータ3が確認することができる。
【0019】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
図2に示されるように、モノマー製造プラントにおける反応器出口の反応物を凝縮して分離する工程において、機器Aが閉塞するというプロセス異常が発生した。ここで、原料フィード量を変数F1、回収物フィード量を変数F2、機器A入口圧力を変数P1、機器A出口圧力を変数P2、機器B出口圧力を変数P3、反応器出口温度を変数T、機器A前後の差圧を変数P1−P2とし、縦軸は各変数から平均値を減算した値として、サンプル周期1時間で7500サンプル(約10ヶ月間)をプロットしたトレンドを示すグラフを図3に示した。
【0020】
変数P1−P2のトレンドグラフをみると、約2000サンプル過ぎから差圧が上昇し始めたことが分かる。つまり、この頃から機器Aでの閉塞が進行して差圧が上昇したといえる。その後、閉塞により二度のプラント停止(約2350〜約2800サンプル区間と約3800〜約4500サンプル区間)があり、閉塞物の除去を行い、運転を再開した。運転再開後、約6500サンプル過ぎの差圧は、閉塞進行時(約2000〜約2350サンプル区間)の差圧以上になっているが、機器Aでは閉塞が起こっていないことが確認された。即ち、この約6500サンプル過ぎの区間において、他の変数とP1−P2との関係をみると、P1−P2の上昇と共に回収物フィード量F2が低下しているので、この差圧上昇は回収物フィード量F2の変更によるものであることが分かる。また、4500サンプル過ぎのトレンドグラフをみると、原料フィード量F1の変更の影響が、機器Aの圧力P1、機器Bの圧力P2、温度T及び差圧P1−P2にみられる。
以上のことから、機器Aでの閉塞を監視するために機器Aの差圧の変化を監視することは重要であるが、差圧は運転条件の変更の影響を受けているので、その影響を除去して監視する必要がある。
【0021】
そこで、このモノマー製造プラントに本発明のプロセス監視方法を適用した。プロセスの動特性を考慮した運転監視を行うために、動的外部分析を適用する方法もあるが、今回対象としているモノマー製造プラントでは、サンプル周期を1時間としているため、静的外部分析を用いた。
【0022】
外部変数は、運転条件の変更を直接的に表わす変数である原料フィード量F1と回収物フィード量F2の2つとし、主変数は、機器A入口圧力P1、機器A出口圧力P2、機器B出口圧力P3、反応器出口温度Tとした。主成分分析をおこなうための参照データとしては、差圧P1−P2が上昇する前の0〜2000サンプルデータを用い、検証データとしては、2000〜7500サンプルデータ(ただし、プラント停止区間を除く)を使用した。また、主成分の数は、検証データ中の閉塞区間でQ統計量が大きくなるように選択し、主変数4つに対し3つを選択した。この時の累積寄与率は98.3%と高いものであった。プロセスデータを外部分析処理し、主成分分析法を用いてT2統計量及びQ統計量に変換したトレンドを示すグラフを図4に示した。ここで、T2統計量及びQ統計量に対するしきい値は、参照データ(0〜2000サンプル区間)の99%が含まれる値として設定されており、それぞれ10.7及び0.43である。
【0023】
T2統計量のトレンドグラフをみると、閉塞が進行し、差圧が上昇した約2000〜約2350サンプルでの値の上昇は顕著ではなく、しきい値を越えることが少ない。また、閉塞物除去後の約5000サンプル以降では、しきい値を越えている。従って、T2統計量は、異常発生初期の感度が小さい点と異常復旧後の正常状態と異常状態との判定が困難な点から閉塞を監視する指標として適していない。
【0024】
一方、Q統計量のトレンドグラフをみると、約2000サンプル過ぎより値が上昇し始め、閉塞が進行していた約2800〜約3800サンプル区間では、Q統計量が約50であり、しきい値を大きく超えていることが分かる。また、閉塞物除去後の約5000サンプル以降では、Q統計量がしきい値を超えていない。このことから、機器Aの閉塞を監視するためには、Q統計量を使用するのが適当である。
【0025】
また、各主変数がどの程度Q統計量へ寄与しているか示すために、各主変数に対するQ統計量の寄与率を図5に示した。図5において、縦軸は、参照データ(0〜2000サンプル区間)と2350サンプル時のデータを比較し相対的に示したものである。寄与率の絶対値が大きい主変数は、P1及びP2である。そして、P1は正の方向に、P2は負の方向に大きいことから、差圧P1−P2は参照データ時と比較し、大きくなったことが読みとれる。このように、各主変数に対するQ統計量の寄与率を示すことにより、どの変数の影響でQ統計量が上昇したのかが分かる。
【0026】
本実施例のプロセス監視方法の適用後に、機器Aにおいて閉塞が再び進行することがあった。この時のF1、F2及びQ統計量を、サンプル周期1時間で1800サンプルをプロットしたトレンドを示すグラフを図6に示した。回収物フィード量F2はほぼ一定であり、原料フィード量F1は増加させる操作を実施していた。1100サンプル過ぎからQ統計量が上昇しており、設定したQ統計量のしきい値である0.43を越えた時点で、アラーム音及び異常内容を示すメッセージがオペレータに通知された。その後、機器Aを調査したところ、閉塞の進行が確認された。
以上のように、本発明のプロセス監視方法をモノマー製造プラントに適用することにより、閉塞などのプロセス異常に対して早期に対応することができる。また、プロセスの状態の判定とオペレータへの通知が自動で行われるので、オペレータの作業負荷を低減することができる。
【0027】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、大規模な化学プラントなどにおいて、プロセスの運転条件の変更の影響を受けることなく、互いに相関がある複数のプロセスデータに基づいてプロセスの状態を的確に判定することができるプロセス監視方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態に係るプロセス監視方法の流れを示すフロー図である。
【図2】 実施形態におけるモノマー製造プラントの工程概要を示す図である。
【図3】 実施形態における変数のトレンドを示すグラフである。
【図4】 実施形態におけるT2統計量及びQ統計量のトレンドを示すグラフである。
【図5】 実施形態におけるQ統計量の寄与率を示すグラフである。
【図6】 実施形態における変数及びQ統計量を示すグラフである。
【符号の説明】
1 プロセス監視方法、2 プラント、3 オペレータ、4 プロセスデータ収集工程、5 プロセスデータベース、6 データ前処理工程、7 外部分析処理工程、8 統計量変換工程、9 統計量データベース、10 プロセス判定工程、11 プロセスデータ・統計量データ表示工程
Claims (3)
- 複数のプロセスデータを収集する工程と、
収集した複数のプロセスデータを運転条件の変更を直接的に表わす外部変数とそれ以外の変数である主変数とに区分けすると共に外部変数の主変数への影響を除去する工程と、
外部変数の主変数への影響を除去することにより得られた新たな変数を多変量統計解析により統計量に変換する工程と、
変換された統計量を予め設定されたしきい値と比較することによりプロセスの状態を判定する工程とを有するプロセス監視方法であって、
外部変数の主変数への影響の除去が、最小二乗法又は部分最小二乗法により行われることを特徴とするプロセス監視方法。 - 収集した複数のプロセスデータを正常状態のプロセスデータに基づいて標準化する工程を更に有することを特徴とする請求項1に記載のプロセス監視方法。
- 複数のプロセスデータを収集する工程と、
収集した複数のプロセスデータを運転条件の変更を直接的に表わす外部変数とそれ以外の変数である主変数とに区分けすると共に外部変数の主変数への影響を除去する工程と、
外部変数の主変数への影響を除去することにより得られた新たな変数を多変量統計解析により統計量に変換する工程と、
変換された統計量を予め設定されたしきい値と比較することによりプロセスの状態を判定する工程とを有するプロセス監視方法であって、
収集した複数のプロセスデータを正常状態のプロセスデータに基づいて標準化する工程を更に有することを特徴とするプロセス監視方法。
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