JP4289573B2 - 生分解性樹脂水系分散体及び生分解性複合材料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は生分解性水系分散体及び生分解性複合材料に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
布製品や紙製品等の植物性繊維や皮革等の動物性素材のような動植物性原料よりなる製品は、微生物により分解され易く、これらの製品を土中に埋設して廃棄処分した場合でも容易に生分解されるため、廃棄処分が容易であるという利点を有している。これに対して、近年多量に消費されているポリオレフィン等の合成樹脂は、微生物等によって分解されることが殆どないため、合成樹脂製品は埋設による廃棄処分が困難となる。また合成樹脂製品を焼却によって廃棄処分する場合には、焼却時の燃焼カロリーが高いため焼却炉に損傷を与える等の問題や、有害なガスが発生して環境汚染を引き起こす等の虞れがあった。このように近年、合成樹脂製品の廃棄物処理問題等の環境問題が注目を集めるなかで、従来の合成樹脂に代わる各種の生分解性樹脂が開発されている。
【0003】
これら生分解性樹脂のなかで、アセチルセルロース系生分解性樹脂は、光沢、耐熱性、引っ張り強さ、硬度、透明性、耐衝撃性、帯電防止性等に優れるとともに、比較的安価な生分解性樹脂であり、廃棄可能なシート材、不織布、発泡製品、家電製品等として、各種の分野への応用が期待されている。例えばアセチルセルロース系生分解性樹脂を、紙、パルプ、天然繊維の不織布、織物、編布、皮革等の動植物原料からなる製品と複合化することにより、動植物素材本来の生分解性を有したまま、光沢、強度、耐水性等を付与することができる。
【0004】
上記の生分解性複合体は、紙、パルプ、繊維製品等の表面にアセチルセルロース系生分解性樹脂を熱融着させたり、アセチルセルロース系樹脂の加熱溶融物や、有機溶媒溶液を、塗布、含浸させたりして製造されている。しかしながら、紙、パルプ、繊維製品等の表面に、アセチルセルロース系生分解性樹脂を熱融着させたり、アセチルセルロース系樹脂の加熱溶融物や有機溶媒溶液を塗布、含浸させたりして複合化する場合、熱融着させる方法や加熱溶融物を塗布、含浸させる方法では、ラミネーターや、樹脂を加熱溶融させて塗布する装置等の特殊な設備を必要としたり、生産性が悪いためにコスト高となる等の問題があり、また有機溶媒溶液を塗布、含浸させる方法では、有機溶媒による環境汚染や作業環境の悪化をきたす等の問題があった。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みなされたもので、生分解性に優れ、布製品、紙製品等との複合化が容易にできる生分解性樹脂水系分散体及び、該生分解性樹脂水系分散体とシート基材とを複合化してなる生分解性複合材料を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
即ち本発明の生分解性樹脂水系分散体は、分散安定化剤として、平均分子量30万以上のカチオン性高分子化合物又は平均分子量30万以上のアニオン性高分子化合物と、ポリビニルアルコールとを重量比で、平均分子量30万以上のカチオン性高分子化合物又は平均分子量30万以上のアニオン性高分子化合物:ポリビニルアルコール=8:2〜1:9の割合で含有し、アセチルセルロース系生分解性樹脂が水に分散安定化されてなることを特徴とする。
【0007】
また本発明の生分解性複合材料は、上記生分解性水系分散体をシート基材と複合化してなることを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の生分解性樹脂水系分散体において、生分解性樹脂として用いられるアセチルセルロース系生分解性樹脂としては、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース等が挙げられるが、光沢、透明性、引っ張り強さ、硬度等の物理的特性と生分解性が良好である点でアセチルセルロースが特に好ましい。この場合のアセチルセルロースのアセチル化度は特に限定されないが、40〜70%程度のものが好ましい。アセチル化度が40%未満であると、アセチルセルロース系樹脂の特長が少なくなる虞れがあり、アセチル化度が70%を超える場合には、生分解性が徐々に低下する虞れがある。また通常アセチルセルロース系生分解性樹脂は、成形加工性を向上させるために可塑剤を添加して用いる。本発明の生分解性樹脂水系分散体において用い可塑剤としては、生分解性が良好で可塑化効果の優れた可塑剤であれば特に限定されないが、低分子量のポリエステル系可塑剤が好ましい。このようなアセチルセルロース系生分解性樹脂としては、例えばダイセル化学工業株式会社製「セルグリーンPCAシリーズ」、株式会社日本触媒製「レナーレZT」等が挙げられる。アセチルセルロース系樹脂は、樹脂物性の改善や分散特性の向上を目的として、他の生分解性樹脂構成モノマーをグラフト重合等の方法により共重合しても良く、また他の生分解性樹脂と混合して用いることもできる。
【0009】
本発明において、上記生分解性樹脂を水に安定に分散させ、安定な分散体を形成するために、分散安定化剤として、平均分子量30万以上のカチオン性高分子化合物又は平均分子量30万以上のアニオン性高分子化合物と、ポリビニルアルコールとを重量比で、平均分子量30万以上のカチオン性高分子化合物又は平均分子量30万以上のアニオン性高分子化合物:ポリビニルアルコール=8:2〜1:9の割合で用いる。
【0010】
上記カチオン性高分子化合物としては、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノプロピル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノプロピル、ジメチルアミノメチルメタクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ジメチルアミノメチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のカチオン性アクリル系モノマーや、これらカチオン性アクリル系モノマーにハロゲン化アルキル、ジアルキル硫酸、モノクロル酢酸等を反応して得られる、例えばメタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、メタクリル酸ジエチルアミノエチルジメチル硫酸塩、メタクリル酸ジメチルアミノプロピルクロル酢酸塩等の4級アンモニウム塩等の単独重合体や共重合体が挙げられる。
【0011】
更には上記カチオン性アクリル系モノマーと、アクリル酸アルキルエステル、アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、アクリル酸ポリオキシエチレンエステル、アクリル酸アルコキシポリオキシエチレンエステル、メタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、メタクリル酸ポリオキシエチレンエステル、メタクリル酸アルコキシポリオキシエチレンエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、ジエチルメタクリルアミド、メチロールアクリルアミド、モルホリルアクリルアミド等のアクリルモノマー、エチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、トリエチレングリコールビニルエーテル、メトキシトリエチレングリコールビニルエーテル等のビニルエーテル類、ヒドロキシエチルアリルエーテル、テトラエチレングリコールアリルエーテル、メトキシエチレングリコールアリルエーテル等のアリルエーテル類、酢酸ビニル、モノクロル酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、メチルビニルイミダゾール等のビニルアミン類、ジアリルアンモニウムクロライド、或いは上記カチオン性アクリル系モノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとの共重合体等のアクリル系ポリマーが挙げられる。
【0012】
更にアクリル系ポリマー以外のカチオン性高分子化合物として、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリ−3−メチルプロピルイミン、ポリ−2−エチルプロピルイミン等の環状イミンの重合体、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等の不飽和アミンの重合体等や、これらの4級アンモニウム塩等のカチオン系ポリマーが挙げられる。またこれらのカチオン系ポリマーに、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、ポリオキシアルキレン基、カルボキシアルキル基等を付加したものでも良い。アルキル基はアルキルハライドを、ヒドロキシアルキル基は1,2−エポキシアルカンを、アシル基はアシルハライドを、ポリオキシアルキレン基は酸化エチレンを、カルボキシアルキル基はモノクロル酢酸やアクリル酸等を、それぞれカチオン系ポリマーと反応させることにより付加させることができる。
【0013】
カチオン性高分子化合物は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の二塩基酸類や、これら二塩基酸類のアルキルエステル類、ヘキサメチレンジイソシアネートグリシジルエーテル、ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート類、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、オルソフタル酸ジグリシジルエーテル等のジエポキシ類、ソルビタンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル類、尿素、グアニジン類、二塩基酸ジハライド、ジアルデヒド等で架橋したものでも良い。
【0014】
本発明において、カチオン性高分子化合物としてカチオン性アクリル系モノマーと他のモノマーとの共重合体を用いる場合、カチオン性高分子化合物中におけるカチオン性アクリル系モノマーの含有率は30モル%以上であることが好ましい。カチオン性高分子化合物は、通常、適当な酸性化合物の塩として用いるのが好ましく、このような酸性化合物としては、塩酸、硫酸、蟻酸、リン酸等の無機酸、酢酸、蓚酸、酒石酸、リンゴ酸、安息香酸等の有機酸のいずれでも良いが、中でも酢酸、リン酸、乳酸が安全性、価格、熱安定性、着色性等の面で好ましい。本発明においてカチオン性高分子化合物としては、上記した化合物のなかから、平均分子量30万以上の化合物を選択して用いる。
【0015】
本発明において上記したカチオン性高分子化合物うち、メタクリル酸ジメチルアミノエチルやその中和物等のモノマー、或いはこれらモノマーの4級塩の少なくとも一種を主成分とする重合体が好ましい。
【0016】
一方、アニオン性高分子化合物としては、不飽和モノカルボン酸系単量体、不飽和ジカルボン酸系単量体、不飽和スルホン酸系単量体等の単量体の単独重合体やこれら単量体相互の共重合体、これら不飽和モノカルボン酸系単量体、不飽和ジカルボン酸系単量体、不飽和スルホン酸系単量体等の単量体と、共重合可能な他の単量体(以下、単に他の単量体と呼ぶ。)との共重合体等が挙げられる。不飽和モノカルボン酸系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸やこれらの酸の中和物、部分中和物等が挙げられ、不飽和ジカルボン酸系単量体としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸やこれらの酸の中和物、部分中和物等が挙げられ、不飽和スルホン酸系単量体としては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホエチルマレイミド、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸やこれらの中和物、部分中和物等が挙げられる。
【0017】
アニオン性高分子化合物として、上記不飽和モノカルボン酸系単量体、不飽和ジカルボン酸系単量体、不飽和スルホン酸系単量体等の単量体と他の単量体との共重合体を用いる場合、他の単量体としては特に制限はないが、例えば(メタ)アクリルアミド、イソプロピルアミド、t−ブチル(メタ)アクリルアミド等のアミド系単量体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、スチレン、2−メチルスチレン、酢酸ビニル等の疎水性単量体、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリルアルコール、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアリルエーテル、3−メチル−3−ブテン−1−オール(イソプレノール)、ポリエチレングリコールモノイソプレノールエーテル、ポリプロピレングリコールモノイソプレノールエーテル、3−メチル−2−ブテン−1−オール(プレノール)、ポリエチレングリコールモノプレノールエステル、ポリプロピレングリコールモノプレノールエステル、2−メチル−3−ブテン−2−オール(イソプレンアルコール)、ポリエチレングリコールモノイソプレンアルコールエーテル、ポリプロピレングリコールモノイソプレンアルコールエーテル、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、グリセロールモノアリルエーテル、ビニルアルコール等の水酸基含有単量体、(メタ)アクリルアミドメタンホスホン酸、(メタ)アクリルアミドメタンスルホン酸メチルエステル、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンホスホン酸等のリン含有単量体、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0018】
アニオン性高分子化合物は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の二塩基酸類や、これら二塩基酸類のアルキルエステル類、ヘキサメチレンジイソシアネートグリシジルエーテル、ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート類、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、オルソフタル酸ジグリシジルエーテル等のジエポキシ類、ソルビタンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル類、尿素、グアニジン類、二塩基酸ジハライド、ジアルデヒド等で架橋したものでも良い。
【0019】
アニオン性高分子化合物は、通常、適当な塩基性化合物の塩として用いるのが好ましく、このような塩基性化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のアミン化合物、アンモニア等が用いられる。
【0020】
アニオン性高分子化合物としては、上記したものの中から平均分子量30万以上のものを選択して用いる。上記アニオン性高分子化合物のうち、メタクリル酸やその中和物の少なくとも一種を主成分とする重合体が好ましい。
【0021】
分散安定化剤として、上記した平均分子量30万以上のカチオン性高分子化合物又は平均分子量30万以上のアニオン性高分子化合物と、ポリビニルアルコールとを併用する場合、ポリビニルアルコールとしては、鹸化度が70〜90%、平均分子量が5〜30万のものが好ましい。
【0022】
尚、カチオン性高分子化合物、アニオン性高分子化合物、ポリビニルアルコールの平均分子量は、数平均分子量を意味する。またポリビニルアルコールの鹸化度は、ポリビニルアルコールの水酸基価から算出することができる。
【0023】
本発明において、平均分子量30万以上のカチオン性高分子化合物又は平均分子量30万以上のアニオン性高分子化合物と、ポリビニルアルコールとを重量比で、カチオン性高分子化合物又はアニオン性高分子化合物:ポリビニルアルコール=8:2〜1:9の割合で使用することにより、セルロースアセテート系生分解性樹脂を、より安定に水分散させることができる。
【0024】
本発明の生分解性樹脂水系エマルジョンには、必要に応じて上記成分以外に更に、増粘剤、表面平滑剤、離型剤、撥水剤(疎水性向上剤)、防錆剤、流動性調整剤、可塑剤、着色剤等を含有せしめることができ、増粘剤としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、カチオン化澱粉、エーテル化澱粉等の澱粉誘導体、アラビアガム、グアーガム、キサンタンガム等の植物ガム、カゼイン、キトサン、キチン等の動物性高分子等が挙げられる。一方、表面平滑性、離型性、撥水性等を改善するために、天然ワックス、合成ワックス等のワックス類を含有させることができる。天然ワックスとしては、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ろう、ホホバ固体ろう等の植物系天然ワックス、みつろう、ラノリン、鯨ろう等の動物系天然ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン等の鉱物系天然ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムワックス等の石油系天然ワックス等が挙げられる。また合成ワックスとしては、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス等の合成炭化水素類、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体等の変性ワックス、硬化ひまし油、硬化ひまし油誘導体等の水素化ワックス、12−ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸アミド、無水フタル酸イミド等が挙げられる。
【0025】
本発明の生分解性樹脂水系分散体は、紙、パルプ、動植物繊維の不織布、織布、編布、皮革製品等の動植物素材からなる製品に複合化することで、これらの製品の撥水・撥油性、耐水性、気密性、表面光沢等を向上させることができる。複合化方法としては、本発明の水系分散体を、動植物素材からなるシート状物、板状物、不織布、織布、編布、成形品等の製品の表面に塗布したり噴霧したり、これらの製品に含浸させた後、加熱ロール、プレス、金型等によって加熱、加圧処理する方法等が挙げられる。また、これらの製品の製造原料として用いる動植物素材の粉末、粒状体、スラリー、ペースト等に添加して複合化したり、他の天然素材、例えば粘土、砂等の無機系鉱物質等の粉末、粒状体相互を結合するためのバインダーとして用いて粉末、粒状体等と複合化しても良い。例えば、シート基材が紙の場合、生分解性樹脂水系分散体をパルプスラリー中に添加して抄紙することにより、パルプとアセチルセルロース系生分解性樹脂とを複合化させることができる。
【0026】
本発明の生分解性樹脂水系分散体を、動植物素材からなる製品の耐水性、耐溶剤性等を高めるために用いる場合、離型性・疎水性向上剤として天然ワックス及び/又は合成ワックスを含有していることが好ましい。天然ワックス及び/又は合成ワックスを含有する場合、製品の撥水・撥油性、耐水性、耐油性、気密性等のより向上を図ることができるとともに、加工時の熱処理工程における加熱ロール、プレス、金型等からの離型性が向上するため好ましい。
【0027】
本発明の生分解性樹脂水系分散体は、例えば分散安定化剤として、平均分子量30万以上のカチオン性高分子化合物又は平均分子量30万以上のアニオン性高分子化合物と、ポリビニルアルコールとを併用する場合、攪拌装置を有する密閉槽内に、アセチルセルロース系生分解性樹脂、平均分子量30万以上のカチオン性高分子化合物又は平均分子量30万以上のアニオン性高分子化合物、ポリビニルアルコール、及び水を同時に仕込み、加熱攪拌しながら加圧して生分解性樹脂を分散させる加圧分散法、加圧下で保持されている熱水中に、生分解性樹脂、カチオン性高分子化合物又はアニオン性高分子化合物、ポリビニルアルコールとを含む溶融物を添加攪拌して分散させる直接分散法、生分解性樹脂の有機溶媒溶液を、カチオン性高分子化合物又はアニオン性高分子化合物、ポリビニルアルコールを含む水溶液中に添加攪拌して分散させた後、有機溶媒を除去する方法、生分解性樹脂を加熱溶融させ、これにカチオン性高分子化合物又はアニオン性高分子化合物と、ポリビニルアルコールとを含む水溶液を添加攪拌して生分解性樹脂を水に分散させる転相法等により得ることができる。
【0028】
上記以外の方法でも、生分解性樹脂の水系分散体を得ることができる方法であれば適宜採用することができるが、生分解性樹脂の幅広い種類に適応が可能な点で、上記した生分解性樹脂の有機溶媒溶液を、必要に応じてカチオン性高分子化合物又はアニオン性高分子化合物と、ポリビニルアルコールとを添加した水中に添加攪拌して分散させる方法が好ましい。また水系分散体を調製するに際し、必要により高圧ホモゲナイザー等の分散装置を併用しても良い。
【0029】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0030】
実施例1〜7
表1に示す生分解性樹脂、カチオン性高分子化合物又はアニオン性高分子化合物、ポリビニルアルコール、脱イオン水、酢酸エチルを同表に示す割合でオートクレーブに仕込み、150℃に加熱して10,000r.p.m.で1分間撹拌した後、400r.p.m.で撹拌しながら40℃まで冷却して、生分解性樹脂の水系分散体を得た。尚、カチオン性高分子化合物を用いた場合、pHが6以上のときには酢酸でpHを6に調整し、アニオン性高分子化合物を用いた場合、pHが8以下のときには水酸化ナトリウムでpHを8に調整してから加熱、撹拌した。得られた各水系分散体中に分散している生分解性樹脂の粒子径を比較するために、水系分散体製造直後に粒度分布測定装置(堀場製作所株式会社製:LA−910型粒度分布測定装置)にて分散している生分解性樹脂の粒子径を測定した。またこの水系分散体を、20℃と40℃の雰囲気下で保持し、それぞれの温度における水系分散体の経時安定性を評価した。これらの結果を表1にあわせて示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示した水系分散体の安定性は、100mlのスクリュー管に水系分散体50mlを入れ、20℃と40℃の恒温槽中で静置した後、1カ月後及び2カ月後の分散状態を目視観察し、
◎・・・分離が認められない。
○・・・分離は認められるが、沈殿物の発生は認められない。
△・・・分離・沈降が認められるが、スクリュー管の横倒し、立て直し操作を10回繰り返すと、再分散して均一となる。
×・・・分離・沈降が認められると共に沈降物がハードケーキ状となり、スクリュー管の横倒し、立て直し操作を10回繰り返しても再分散しない。
として評価した。
【0033】
尚、上記表1に示す生分解性樹脂、カチオン性高分子化合物、アニオン性高分子化合物等は以下の通りである。
【0034】
(1)生分解性分解性樹脂
▲1▼生分解性樹脂A:ダイセル化学工業株式会社製「セルグリーンP−CA02」
▲2▼生分解性樹脂B:ダイセル化学工業株式会社製「セルグリーンP−CA05」
【0035】
(2)カチオン性高分子化合物
▲1▼カチオンA:メタクリル酸ジメチルアミノエチル/アクリルアミド(重量比で80:20)共重合体(カチオン化度64%、平均分子量6,000,000)。
▲2▼カチオンB:メタクリル酸ジエチルアミノエチル/アクリルアミド/メタクリルアミド(重量比で93:5:2)共重合体(カチオン化度84%、平均分子量5,000,000)
▲3▼カチオンC:アクリル酸ジメチルアミノエチル/アクリルアミド/メタクリルアミド(重量比で33:39:28)共重合体(カチオン化度20%、平均分子量20万)
【0036】
(3)アニオン性高分子化合物
▲1▼アニオンA:アクリルアミド/メタクリル酸(重量比で90:10)共重合体(平均分子量21,000,000)
▲2▼アニオンB:アクリルアミド/メタクリルアミド/メタクリル酸(重量比で55:10:35)共重合体(平均分子量16,000,000)
▲3▼アニオンC:アクリルアミド/メタクリル酸/アクリル酸(重量比で70:10:20)共重合体(平均分子量80万)
【0037】
(4)ポリビニルアルコール
▲1▼PVA−A:鹸化度81.1%、平均分子量220,000
▲2▼PVA−B:鹸化度87.5%、平均分子量150,000
▲3▼PVA−C:鹸化度75.3%、平均分子量80,000
【0038】
上記実施例1〜7の各エマルジョンを、中性上質紙(坪量70g/m2)にバーコーターNo.10で塗工し、40℃の熱風乾燥機中で30分間乾燥した後、フェロ板に挟み、株式会社羽島製全自動転写プレス:HP−84にて200℃、200g/cm2の条件にて1分間プレスして処理した。次いで処理紙をJIS−P−8111に準拠し、20℃、60%RHで前処理した後、撥水性、撥油性、表面光沢、生分解性を測定した。結果を未処理中性上質紙の結果と共に表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
※1:撥水性は、JIS−P−8140に準拠して5分後の吸水度で示した。
※2:撥油性は、TAPPI紙パルプ試験法No.40に準じて測定した。
※3:表面光沢は、JIS−8142に準拠して測定した。
※4:生分解性は、処理紙を運転中の家庭用生ゴミ処理機に投入し、処理機の内容物を毎日、生ゴミ投入前に3メッシュの金網でふるい、処理紙が分解して金網上に残らなくなる間での日数で評価した。
【0041】
比較例1
上記と同様の中性上質紙に、市販のポリエチレンエマルジョンを同様にして塗工処理したものの撥水性、撥油性、表面光沢、生分解性を測定した。結果を表2に示す。
【0042】
比較例2
上記と同様の中性上質紙に、市販のアクリルエマルジョンを同様にして塗工処理したものの撥水性、撥油性、表面光沢、生分解性を測定した。結果を表2に示す。
【0043】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の生分解性水系分散体は、アセチルセルロース系生分解性樹脂が、分散剤として平均分子量30万以上のカチオン性高分子化合物又は平均分子量30万以上のアニオン性高分子化合物、又は平均分子量30万以上のカチオン性高分子化合物又は平均分子量30万以上のアニオン性高分子化合物と、ポリビニルアルコールとの特定割合の混合物の存在下に水に分散していることにより、セルロースアセテート系生分解性樹脂の分散安定性に優れている。また本発明の生分解性樹脂水系分散体は、自然界において微生物により容易に分解されるため、本発明の分散体を布製品、紙製品に塗布することにより、布製品、紙製品の耐水性、耐油性、気密性等を向上することができるとともに、これらの布製品や紙製品を埋設廃棄した場合でも、容易に微生物によって分解されるため、環境を汚染する虞れがなく、本発明の生分解性水系分散体をシート基材と複合化してなる本発明の生分解性複合材料は、優れた生分解性とともに、優れた耐水性、耐油性等を発現する等の効果を有する。
Claims (2)
- 分散安定化剤として、平均分子量30万以上のカチオン性高分子化合物又は平均分子量30万以上のアニオン性高分子化合物と、ポリビニルアルコールとを重量比で、平均分子量30万以上のカチオン性高分子化合物又は平均分子量30万以上のアニオン性高分子化合物:ポリビニルアルコール=8:2〜1:9の割合で含有し、アセチルセルロース系生分解性樹脂が水に分散安定化されてなることを特徴とする生分解性樹脂水系分散体。
- 請求項1に記載の生分解性水系分散体を、シート基材と複合化してなることを特徴とする生分解性複合材料。
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