本発明の実施形態に係る枕を、図面を参照して説明する。
本発明の実施形態に係る枕1は、図1及び図2に示すように、内部に空洞2aを有する可撓部材から形成される扁平な直方体形状の頭載部材2と、頭載部材2の後側に配置され、頭載部材2の空洞2aの後方を覆う蓋部材3と、頭載部材2の空洞2aの上方部分を上方に付勢するよう支持するように、空洞2aに設けられた付勢装置4とを有している。なお、ここでは、枕1に人の頭部を載せた状態で頭頂部が位置する側を後側、人の頸部が位置する側を前側としている。さらに、枕1は、空洞2a内に付勢装置4を配設し、頭載部材2の後端に蓋部材3を接着させた状態で、外側全体が外被布5で被覆される。
枕1は、人の頭部を仰向きに載せて寝たとき(以下、仰向き寝時という)の高さを調整する仰向き寝時高さ調整機能と、人の頭部を横向きに載せて寝たとき(以下、横向き寝時という)の高さを調整する横向き寝時高さ調整機能からなる2つの高さ調整機能を備えている。
頭載部材2は、可撓部材から形成されるが、ここでは、高反発ウレタンフォーム製の成形体から成っている。高反発ウレタンフォームは、枕用の素材として普及している低反発ウレタンフォームと比較して、硬さの温度依存性が低いという利点を有している。そのため、低反発ウレタンフォームから形成される枕のように、夏に軟く、冬に硬くなるなど、温度差による支障が少ない。高反発ウレタンフォームは、馴染み性が少ないが、枕1は前記2つの高さ調整機能を備えているので、馴染み性が少ないことによる問題は生じない。頭載部材2は、平面視の形状が横長の略長方形となる扁平な直方体形状に形成されている。なお、頭載部材2は、低反発ウレタンフォーム製の成形体から成るものであってもよい。頭載部材2は、その上面が前上がりに、その前面が後方に傾くように形成されている。
空洞2aは、後方を開口させて形成されている。頭載部材2は、空洞部2aの上部部分の中央部に、空洞2aと外部とを連通する通気孔2bが多数形成されており、空洞2aに熱がこもることが防止されている。なお、通気孔2bの上方に位置する部分の外被布5には、立体編み物5aを配して、通気孔2bからの通気を通気孔2bの存しない部分にも作用させている。頭載部材2の形状は空洞部2aを備えた扁平な直方体形状に形成されていればよく、図示する形状に限定されない。
人の頭部を枕1に載せたときに、空洞2a内に配置された付勢装置4の存在を感じ取って違和感を抱かないように、頭載部材2の空洞2aの上部部分は所定以上の厚さ、例えば20〜30mm程度の厚さを必要とする。しかし、枕1の全体高さが高過ぎることは好ましく無い。そこで、頭載部材2は、その空洞2aの上部部分の厚みが、空洞2aの下部部分の厚みより厚くなっている。一方、頭載部材2の底部部分の厚さは、薄く、例えば10mm程度にすることが好ましい。しかし、底部部分の厚さを薄くすると、十分な強度が得られず、特に成形時に裂け易い。そのため、空洞2a用内型枠の外周に布を被覆して頭載部材2を成形することにより、空洞2aの内面全体に布張りを行い、頭載部材2を補強している。
蓋部材3は、頭載部材2と同様に可撓部材から形成され、ここでは、高反発ウレタンフォーム製の成形体から成っている。蓋部材3は、頭載部材2の前側部と同程度の厚さを有して、その前端面が頭載部材2の後端面の形状に合うようにして、前後方向に短い扁平な直方体形状に形成されている。頭載部材2の後端面は、垂直に形成されており、空洞2a内に付勢装置4等を配置した状態で、この後端面に蓋部材3の前端面を合わせて、その接合面を接着している。
付勢装置4は、空洞2aに横方向に離隔させて配置した一対の矩形リンク機構6,6を備えている。各矩形リンク機構6,6は、前後水平に延びる下側リンク7,7と、下側リンク7,7の前端部に下端部が回動自在に連結された前側リンク8,8と、下側リンク7,7の後端部に下端部が回動自在に連結された後側リンク9,9と、前側リンク8,8の上端部に前端部が、後側リンク9,9の上端部に後端部がそれぞれ互いに回動自在に連結された上側リンク10,10とから成るものである。ここで、前側リンク8,8の前方への傾斜角は、後側リンク9,9の前方への傾斜角よりも大きくなるように、且つ、上側リンク10,10が前上がりに傾斜するように構成されている。付勢装置4が空洞2aに配置させたとき、上側リンク10,10は空洞2aの上部部分と対向する。各リンク7〜10は、それぞれ細長い金属平板から成るものであり、各リンク間は、詳細は図示しないが、ヒンジ機構によって回動自在に連結されている。
左右の両下側リンク7,7は、図3に示すように、細長い長方形状の下部連結部材11によって左右間に所定の離間距離を保つように互いに平行に連結されている。下部連結部材11は、細長い長方形状の金属平板から成るものであり、両下側リンク7,7の後端部同士を連結している。ここでは、下部連結部材11は、両下側リンク7,7と一体化して形成されているが、溶接等によって両下側リンク7,7に固定されるものであってもよい。左右の両上側リンク10,10は、細長い長方形状の上部連結部材12によって左右間に所定の離間距離を保つように互いに平行に連結されている。上部連結部材12は、細長い長方形状の金属平板から成るものであり、両上側リンク10,10の後端部同士を連結している。ここでは、上部連結部材12は、両上側リンク10,10と一体化して形成されているが、溶接等によって両上側リンク10,10に固定されるものであってもよい。
付勢装置4は、図2及び図3に示すように、左右方向に平行に伸びる3つの軸13〜15を備えている。これらの軸13〜15は、両下側リンク7,7の後端部に前後に隣接して設けられており、下部連結部材11の上方近傍に位置している。3つの軸13〜15は、共に金属パイプから形成されており、前側から、第1の軸13、第2の軸14、第3の軸15の順に並んでいる。左右の両下側リンク7,7は、その後端部外側にそれぞれ軸支板16,16が上方に突出して固定されており、これら軸支板16,16には、軸13〜15を支持する軸支孔がそれぞれ3つ形成されている。3つの軸13〜15は、左右の両軸支板16,16の軸支孔に挿通され支持されることによって、回動自在に軸支されている。なお、3つの軸13〜15は、それぞれ右側の軸支板16から外方に突出する端部に調整部13a〜15aを有しており、ここでは、六角レンチで回動調整可能なように六角レンチ穴が調整部13a〜15aとして形成されている。なお、3つの軸13〜15は、図示しないが、それぞれブレーキ機構を有しており、回動調整された状態を保持することが可能なように構成されている。さらに、3つの軸13〜15は、下側リンク7,7の後端部近傍に設けられおり、頸部が位置する枕1の前側には設けられず、沈み込む頸部の邪魔にならない。
付勢装置4は、上側リンク10,10が上方に変位するように各矩形リンク機構6,6を付勢する第1の付勢手段としての引張ばね17,17を備えている。この引張ばね17,17は、その一端側が前側リンク8,8の上部の外側に固定され、他端側がワイヤ17b,17bを介して第2の軸14に固定されることにより、張設されている。ここでは、引張ばね17,17の一端側のフックが、前側リンク8,8の上端部付近に外方に突出するように固定されたばね取付片17a,17aの孔に引っ掛けられている。そして、引張ばね17,17の他端側のフックは、ワイヤ17b,17bの一端側に係止され、ワイヤ17b,17bの他端側は第2の軸14に巻き付け固定されている。このようにして、引張ばね17,17により、前側リンク8,8を起き上がらせる方向にばね力が作用することによって、上側リンク10,10が上方に変位するように付勢されている。
付勢装置4は、上側リンク10,10が所定以上下降したとき、上側リンク10,10を上向きに付勢する第2の付勢手段としての円錐ばね18,18を備えている。この円錐ばね18,18は、その底側が下側リンク7,7の前後方向中央部付近の上面に固定され、頂側が自由端となっている。このようにして、上側リンク10,10が円錐ばね18,18の頂部より下方に沈み込んだとき、上側リンク10,10によって圧縮させた円錐ばね18,18の復元力としてのばね力によって、上側リンク10,10は上方に変位するように付勢される。なお、円錐ばね18,18の代わりに板ばねを用いてもよいが、円錐ばね18,18のほうが耐久性があるので好ましい。
付勢装置4は、上側リンク10,10が下降したとき、当接する部分を有する部材としてのカム19,19を備えている。上側リンク10,10が下降したとき、後側リンク9,9が前方に倒れ込み、後側リンク9,9の前面がカム19,19のカム面と当接する。カム19,19のカム面が前記当接する部分となっている。そして、カム19,19を回動させ、前方に倒れ込む後側リンク9,9の前面と当接するカム面を変えることにより、上側リンク10,10の最下降位置を調整することができる。カム19,19は、下側リンク7,7の上方直近にて、第1の軸13に回動自在に支持されている。ここで、カム19,19は、第1の軸13に挿通され、左右方向に貫通する貫通孔が形成されており、この貫通孔からの距離が徐々に変化するカム面をその外周に有している。また、カム19,19には、ワイヤ20,20の一端側が固定されており、このワイヤ20,20の他端側は、第3の軸15に巻き付け固定されている。なお、カム19,19は下側リンク7,7の後部に設けられた第1の軸13に回動可能に軸支されており、頸部が位置する枕1の前側にカム19,19や第1の軸13が配置されていないので、頸部が沈み込んでも邪魔にならない。さらに、カム19,19が適切なカム面を有することによって、上側リンク10,10の最下降位置を微妙に調整することができる。
後側リンク9,9は、そのリンクとしての作用線9aは図2に示すよう直線であるが、前方へ倒れ込んだときに、第2の軸14や第3の軸15との干渉を避けるために作用線9aから後方に膨むよう、側面視略C字状に形成されている。そして、後側リンク9,9は、その上部前面がカム19,19との当接面となっているが、上側リンク10,10を下側リンク7,7の直近まで沈み込ませることが可能なように、上部前面の形状をカム19,19を倒したときのカム面の形状に合わせている。
付勢装置4は、上側リンク10,10より下方に固定された一端と上側リンク10,10との間に架け渡された屈曲自在なベルト21,21を備えている。このベルト21,21は、上側リンク10,10が引張ばね17,17の付勢力によって上方に回動することを防止している。また、ベルト21,21の架渡長さを調整することにより、上側リンク10,10の最上昇位置を調整することが可能となっている。ここで、ベルト21,21は、布から形成されており、その一端側が第1の軸13に巻き付け固定され、他端側が上部連結部材12に貼り付け固定されている。また、上側リンク10,10は、ベルト21,21によって下方への変位が邪魔されないので、ベルト21,21の架渡長さに拘わらず自由に下方に変位することができる。
さらに、付勢装置4には、下板22、メッシュ布23、上板24、及び柔軟シート25が取り付けられている。下板22は、PET(ポリエチレンテレフタラート)等からなる硬質樹脂平板から成り、空洞2aの下面と略同一の略長方形状から前部と中央部を切除した形状に形成されている。下板22は、両下側リンク7,7及び下部連結部材11の下面に図示しないボルト等によって固定されている。空洞2aの下面に下板22を載置することにより、空洞2a内の所定位置に付勢装置4を配置することが可能となっている。このように、金属製部材である下側リンク7,7及び下部連結部材11の下面を下板22で覆ったので、使用者は枕1の下部から金属製部材の存在を感知せず、違和感が無い。
メッシュ布23は、左右の両後側リンク9,9及び両上側リンク10,10の間に張り渡されている。
上板24は、PET等からなる硬質樹脂平板から成り、両上側リンク10,10及び上部連結部材12の形状に合わせて、略U字状に形成されている。上板24は、両上側リンク10,10及び上部連結部材12の上面に図示しないボルト等によって固定されている。このように、金属製部材である上側リンク10,10及び上部連結部材12の上面を上板24で覆ったので、使用者は枕1の上部から金属製部材の存在を感知せず、違和感が無い。
柔軟シート25は、ウレタン等からなる1枚の軟質樹脂シートから形成されており、両上側リンク10,10の前部上面と両前側リンク8,8の中央部前面との間を左右に渡って張り渡されている。なお、柔軟シート25には、多数の通気孔が形成されている。
付勢装置4は、空洞2a内に配置されるが、このとき、付勢装置4の上方と後方には、可撓部材としてのスポンジ部材26が設けられている。これにより、頭載部材2を充分柔らかくしても、上板24の硬さを感じることが無い。なお、スポンジ部材26の中央部には、多数の通気孔が形成されている。さらに、図5に示すように、付勢装置4の左右両外方には、骨材スポンジ部材27が設けられている。骨材スポンジ部材27は、その上面にかかる荷重が大きくなるほど該上面が沈み込むと共に該上面を元の状態に復元させるものであり、略直方体形状に形成されている。なお、骨材スポンジ部材27は、スポンジ材以外の弾性材から成るものであってもよい。
以上のように構成された枕1は、その上に何も載せていない不使用時、引張ばね17,17の付勢力(引張力)によって、前側リンク8,8が起き上がるよう、即ち上側リンク10,10が起き上がって上方に変位するように付勢されている。しかし、上側リンク10,10は、その最上昇位置がベルト21,21により規制されるため、上側リンク10,10は、結局、最上昇位置に存することとなる。そして、この最上昇位置は、調整部13aに六角レンチを係合させて第1の軸13を回動させ、ベルト21,21の架け渡し長さを変更することによって調整することができる。このように、枕1は、ベルト21,21の架渡長さを調整することにより、上側リンク10,10の最上昇位置を調整することができる。このときの枕1の高さは、例えば、7cmから15cmである。また、左右に離間した2本のベルト21,21の架渡長さを1本の第1の軸13で調整しているので、左右の上側リンク10,10の最上昇位置が共通となり、不使用時の枕1の上面に左右差が生じない。
次に、仰向きの姿勢で寝るために頭部を枕1の左右方向中央部上面に載せたときの枕1の動作について説明する。一般的に仰向きの姿勢で寝る時は、背中が蒲団に当たり、頸部、後頭部の順で枕1に当接する。そして、図6に示すように、本枕1の形状は、頸部の当たる部分が後頭部の当たる部分よりも2cmから4cm程度高い位置にある。そのため、仰向きの姿勢で頭部を枕1の上に載せようとするとき、最初、頭載部材2の前側部に前側から後側に向かって頭部が載る。また、枕1の上面及び上側リンク10,10が前上がりに傾斜している。そのため、上側リンク10,10の前側部、特に前側端部に頸部による大きな荷重が作用することになる。このとき、前側リンク8,8の前方への傾斜角が後側リンク9,9の前方への傾斜角よりも大きいため、前側リンク8,8と後側リンク9,9の前方への傾斜角が同じ場合に比べて、前側リンク8,8に大きな前回りの回転モーメントが作用する。よって、前側リンク8,8がより前方に倒れ込み易い。
前側リンク8,8が前方に倒れ込むと、これに対抗して引張ばね17,17の引張力が反発力として作用する。この引張ばね17,17は、その一端側が前側リンク8,8の上部の外側に固定され、他端側が下側リンク7,7の後端部近傍に位置する第2の軸14に固定されている。そのため、上側リンク10,10の前側部、特に前側端部付近に頭部による荷重が作用したとき、前側リンク8,8の前方への倒れ込みに対する引張ばね17,17による反発力は小さい。引張ばね17,17は前側リンク8,8の前方へのスムースな倒れ込みを妨げない程度の反発力しか発生しないので、上側リンク10,10が下方に変位し易く、頭載部材2の上面が沈み込み易いので、仰向けの姿勢で頭部を載せた枕1がスムースに沈み込む。なお、枕1がスムースに沈み込むとは、反発力が少なく、さらに密閉された頭載部材2に設けられた通気孔2bからの空気の流出により適度の速さをもって沈み込むことをいう。
なお、この反発力は、調整部14aに六角レンチを係合させて第2の軸14を回動させ、引張ばね17,17の張設長さを変更することによって調整することができる。このように、引張ばね17,17の張設長さを調整することによって、仰向きの姿勢で頭部を枕1の上に載せたときの沈み込みに対する反発力を調整することが可能となっている。また、左右に離間した引張ばね17,17の張設長さを1本の第2の軸14で調整しているので、左右の引張ばね17,17の引張力が共通となり、反発力に左右差が生じない。
そして、さらに上側リンク10,10が沈み込むと、図6に示すように、上側リンク10,10が円錐ばね18,18の頂部に当接する。そして、これ以降、上側リンク10,10がさらに沈み込むと、上側リンク10,10には円錐ばね18,18の付勢力が上方に変位させる付勢力として作用する。そして、この付勢力は、上側リンク10,10が下方に変位するに伴い大きくなる。一方、上側リンク10,10が円錐ばね18,18の頂部に当接する程に沈み込むと、引張ばね17,17の引張力の上向き成分の割合の減少が伸びによる引張力の増加より大きくなり、引張ばね17,17が上側リンク10,10を上方に変位させる付勢力は小さくなる。このようにして、引張ばね17,17と円錐ばね18,18との付勢力の合算によって、図7に示すように、上側リンク10,10が円錐ばね18,18の頂部に当接してからさらに下方に沈み込む間における上側リンク10,10を上方に変位させる力を略一定にしている。これらの構造により、仰向き寝時の高さを変更しても、反発力は大きく変わらず、フワフワ感を防止することができる。なお、引張ばね17,17は、前上がりの状態では、上側リンク10,10を上方へ変位させるように付勢力を作用させるが、水平状態を経て、前下がりの状態になると上側リンク10,10を下方へ変位させるように付勢力を作用させる。
以下、実験例を示す。この実験例では、下側リンク7,7、前側リンク8,8、後側リンク9,9、上側リンク10,10の長さをそれぞれ228mm、106mm、84mm、251mmとし、初期状態における前側リンク8,8、後側リンク9,9の前方への傾斜角度をそれぞれ74度、85度とした付勢装置4単体を用いて実験した。まず、初期状態から上側リンク10,10を下方に変位させるために必要な初期荷重を作用部を代えて測定した。その結果、初期荷重は、上側リンク10,10の前端部に作用させた場合には3120g、上側リンク10,10の前後方向中間部に作用させた場合には4060g、上側リンク10,10の後端部に作用させた場合には4640gであった。この測定結果からも、上側リンク10,10の前部に荷重を作用させたほうが、上側リンク10,10の中央部や後部に荷重を作用させるよりも、上側リンク10,10が沈み込み易いことが理解される。さらに、上側リンク10,10をその位置を維持するために必要な荷重を測定した。その結果、上側リンク10,10が下降して円錐ばね18,18に当接した状態では、上側リンク10,10の前端部に1150gの下向きの荷重を作用させる必要があった。一方、上側リンク10,10が最下降位置に存する状態では、上側リンク10,10の前端部に1210gの下向きの荷重を作用させる必要があった。この測定結果からも、上側リンク10,10が円錐ばね18,18に当接した状態と、上側リンク10,10が最下降位置に存する状態とで、上側リンク10,10を上方に変位させる反発力が略同じであることが理解される。
このように、上側リンク10,10は円錐ばね18,18の頂部に当接した後さらに略一定の反発力に抗して沈み込む。そして、この反発力は、上側リンク10,10が沈み始めてから円錐ばね18,18の頂部に当接するまでの反発力に比べて小さいものである。そのため、頭部の自重によって、上側リンク10,10は最下降位置まで沈み込むことが可能となる。しかしながら、上側リンク10,10が下降するに伴い、後側リンク9,9は前方に倒れ込むが、この後側リンク9,9の前面にカム19,19のカム面が当接することにより、後側リンク9,9の倒れ込みが制限される。そのため、後側リンク9,9が倒れ込み可能な限度にて、上側リンク10,10の下降が制限される。後側リンク9,9の倒れ込みは、調整部15aに六角レンチを係合させて第3の軸15を回動させ、カム19,19を回動させて後側リンク9,9と当接するカム面を変更することによって調整することができる。このように、後側リンク9,9の倒れ込みを調整することによって、仰向き寝時の枕1の高さを調整することが可能となっている。このようにして、枕1は、その上に人の頭部を仰向きに載せて寝たときの上側リンク10,10の高さを調整する仰向き寝時高さ調整手段(高さ調整手段)を備えている。仰向き寝時の枕1の高さは、1cmから5cmである。さらに、最下降位置まで沈み込んだ上側リンク10,10を上方に変位させる力は、前述したように、仰向き寝時で高さを調整する範囲では、反発力は小さく保たれているので、圧迫感やフワフワ感が生じない。また、左右に離間したカム19,19の回動を1本の第3の軸15で調整しているので、左右の上側リンク10,10の最下降位置が共通となり、仰向き寝時の枕1の上面に左右差が生じない。
次に、横向きの姿勢で寝るために頭部を枕1の左右方向中央部上面に載せたときの枕1の動作について説明する。図8に示すように、横向き寝時には側頭部と肩部との高さの差が大きいため、頭部の荷重は枕1の中央部に作用し、頭部の荷重の一部は頸部を介して肩部により支持される。枕1はその上面が前上がりに傾斜しているが、横向きの姿勢で寝る際に使用者が枕1の上に頭部を載せようとするとき、側頭部が肩部で支えられて枕1の前側部には直接荷重が作用することが少ない。そのため、後側リンク9,9より前方に倒れ込み易い前側リンク8,8に作用する前回りの回転モーメントが減少するので、前側リンク8,8は前方に倒れ込み難い。また、引張ばね17,17が作用する上側リンク10,10は、前側リンク8,8よりも垂直に近い後側リンク9,9によって支えられているために、前側に比べ、後側は倒れ込み難い構造となっているので、上側リンク10,10は安定して最上昇位置の状態が維持される。
なお、この反発力は、体格や頭重などの個人差に合わせて調整部14aに六角レンチを係合させて第2の軸14を回動させ、引張ばね17,17の張設長さを変更することによって調整することができる。このように、引張ばね17,17の張設長さを調整することによって、横向き寝時に上側リンク10,10を最上昇位置に維持することが可能となっている。横向き寝時の高さは、上側リンク10,10を引張ばね17,17で最上昇位置に維持することによる。上側リンク10,10の最上昇位置は、横向き寝時の高さ調整手段であるベルト21,21を軸13に巻き付けることにより、上側リンク10,10に架け渡した長さを調整して行う。横向き寝時の枕1の高さは、例えば、7cmから15cmである。さらに、上側リンク10,10を下方に変位させようとする荷重が引張ばね17,17の付勢力未満であれば、上側リンク10,10を最上昇位置に維持できるので、横向き寝時に枕1の上に作用する僅かな荷重の変動によっては、枕1の高さは変化しない。そのため、横向き寝時における枕1の高さが安定し、使用者にフワフワ感を与えない。
次に、横向き寝時から寝返りを打って仰向きになるときの枕1の動作について説明する。横向き寝時においては、前述したように、上側リンク10,10は最上昇位置に存する。そして、この状態から、使用者が肩部を出して仰向きの姿勢をとったときは、前述した仰向きの姿勢で寝る場合と同様に、上側リンク10,10は最下降位置まで沈み込む。このように、寝返りを打って横向き寝時から仰向き姿勢になっても、上側リンク10,10が仰向き寝時に適するように調整した高さまで変位して自動的に停止するので、その後も快適な睡眠を得ることができる。
次に、仰向き寝時から寝返りを打って横向きになるときの枕1の動作について説明する。仰向き寝時においては、前述したように、上側リンク10,10は最下降位置に存する。そして、この状態から、使用者が肩部を入れて横向きの姿勢をとったとき、一時的に肩部で頭部が支持されることによって、上側リンク10,10に頭部の自重による荷重が無くなる、或いは非常に小さくなる。このとき、円錐ばね18,18の復元力によって、また、引張ばね17,17が水平状態より前上がり状態にある場合には、引張ばね17,17の引張力によって前側リンク8,8が起き上がり、上側リンク10,10が自動的に上方に変位する。そして、上側リンク10,10が最上昇位置まで変位して、自動的に停止する。このように、寝返りを打って仰向き寝時から横向き姿勢になっても、上側リンク10,10が横向き寝時に適するように調整した高さまで変位して自動的に停止するので、その後も快適な睡眠を得ることができる。
ところで、仰向き寝時から寝返りを打って横向きになるときに、使用者が肩部を動かさずに頭部のみ横向きの姿勢をとる場合がある。この姿勢は、不自然であり、頸部に負担がかかるので、肩部を入れ込ませた自然な横向き姿勢を促すことが好ましい。そこで、次のようにして、自然な横向き姿勢を促している。
仰向き寝時から寝返りを打って肩部を動かさずに頭部だけ横向きになると、頭部は左右方向中央部から左右何れかの外側部方向に移動して、図5に一点鎖線で示すように、頭部の一部が骨材スポンジ部材27の上方に位置することになる。そこで、頭部による荷重の一部が骨材スポンジ部材27の上面にかかり、頭部は骨材スポンジ部材27による上向きの復元力を受ける。このように、頭部の一部が骨材スポンジ部材27の上方に位置すること及び頭部が骨材スポンジ部材27による上向きの復元力を受けることによって、付勢装置4の上面にかかる頭部による荷重が減少するので、引張ばね17,17及び円錐ばね18,18の復元力により、上側リンク10,10が上方に変位する。そのため、枕1の高さが仰向き寝時の高さよりも高くなって、頭部が上昇して肩部が入り込む自然な横向き姿勢に適した高さに近づくので、使用者が肩部を入れ込んで自然な横向き姿勢をとるよう促すことができる。そして、肩部が入れ込むことによって、枕1は横向き寝時に適するように調整した高さまで上昇し、自然な横向き寝の姿勢になる。
このように、寝返りを打って姿勢を変えたとき、上側リンク10,10が自動的に変位して枕1が適切な高さに自動的に変化すると共に、仰向き寝時と横向き寝時における枕1の高さを個人の体格等に応じて独立して調整することが可能である。従って、横向き寝時と仰向き寝時との双方で最適な姿勢をとることができ、快適な睡眠が得られる。
さらに、仰向き寝時高さ調整手段は、カム19,19のカム面を変更し、上側リンク10,10の最下降位置を調整することによって、仰向き寝時の枕1の高さを調整する。また、横向き寝時高さ調整手段は、ベルト21,21の架渡長さを変更し、上側リンク10,10の最上昇位置を調整することによって、横向き寝時の枕1の高さを調整する。そのため、仰向き寝時と横向き寝時とにおける枕1の高さは共に、頭部の重さや付勢力に関係なく調整することができる。そして、カム19,19のカム面とベルト21,21の架渡長さとは互いに依存しないので、仰向き寝時と横向き寝時における枕1の高さとを独立して調整することができる。
また、引張ばね17,17の付勢力は、横向き寝時に上側リンク10,10を最上昇位置に維持するために、横向き寝時の頭部に自重による上側リンク10,10を下方に変位させようとする力以上であればよい。そして、この条件を満たしていなければ、第2の軸14を回動させて、引張ばね17,17の付勢力の調整を行う。そのため、仰向けの姿勢で頭部を枕1の上に載せたときの沈み込み易さを、個人の好み等に応じて自由に調整することができる。
また、隣接する第1の軸13、第2の軸14、第3の軸15を六角レンチによって回動することにより、それぞれ横向き寝時の高さ、沈み込み易さ、仰向き寝時の高さを調整することができるので、これらを調整するための操作部が一箇所に集約されており、操作性が良い。
また、高反発ウレタンフォーム製の成形体から成る頭載部材2の中央部に頭部を載せて寝たとき、頭部の自重により頭載部材2の空洞2aの上方部分の下面が金属部材からなる矩形リンク機構6,6の上面を越えて沈み込む。さらに、上面視で頭部及び頸部の下方には、頭載部材2、外被布5、メッシュ布23、柔軟シート25、及びスポンジ部材26が存在するが、これらは全て軟質部材から形成されており、硬質部材は存在してない。そのため、頭部を載せて寝たとき、その下方の硬質部材を感知して不快と感じることが無いと共に、柔らかな感触を得ることができる。また、頭部や頸部の下方に硬質部材が無いので、頭載部材2の空洞2aの上方部分の厚みを厚くしなくとも、柔らかな感触を得ることができる。また、空洞2aの上方部分に厚みのある頭載部材2を用いることなく、柔らかな感触を得ることができるので、枕1の高さを低く抑えることが可能となる。
1…枕、2…頭載部材、2a…空洞、3…蓋部材、4…付勢装置、6…矩形リンク機構、7…下側リンク、8…前側リンク、9…後側リンク、10…上側リンク、11…下部連結部材、12…上部連結部材、13…第1の軸、14…第2の軸、15…第3の軸、17…引張ばね(付勢手段)、18…円錐ばね(付勢手段)、19…カム、20…ワイヤ、21…ベルト、22…下板、23…メッシュ布、24…上板、25…柔軟シート、26…スポンジ部材、27…骨材スポンジ部材。