JP4278183B2 - サトウキビの生産 - Google Patents

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Description

【0001】
サトウキビの生産 本発明は、サトウキビ植物、特にこのような植物を生産する方法に関する。
【0002】
サトウキビは、その食料生産の用途、及びその副産物、例えば糖蜜、バガス滓、フィルター及びエタノールの使用のため、極めて重要な穀類植物として知られており、発展途上国及び先進国の両方にとって大きな価値を有する。
【0003】
一般に、サトウキビは、多年生穀物として耕作されている。この植物は、1年間育て、「栽培モロコシ(plant cane)」として知られている。栽培モロコシは、この段階で切り取り、砂糖を製造するために処理する。栽培モロコシの根と少量の茎が土地に残り、これが次の年に成長し「最初の新芽」を形成する。その後、これは収穫されて砂糖を製造し、植物の残部は残り、さらに次の年に成長して、「第2の新芽」を形成する。幾つかの国では、成長サイクルを「第4の新芽」まで繰り返し、植物はついに根絶やしにされる。
【0004】
サトウキビは、風受粉であり、このため種子から得られる植物の変異性が大きい。これは、繁殖計画には有用である。なぜなら、これは新しく有用なクローンの選別に使用できる多くの異なった植物変種を生産するからである。しかしながら、通常の商業上の繁殖としては、自然の再生産法が、型に忠実な植物を与えることはない。その結果、今まで、植物繁殖は、サトウキビを繁殖させることが唯一の実際的方法であった。現在のサトウキビを繁殖させる方法は、成熟したサトウキビの茎を用いることによる。この方法は、サトウキビ作物の全体的な生産性を低下させる点で極めて浪費的であり、労働力コストの点でも高価であり、そしてウィルス性疾患、例えばフジ病、バクテリア疾患、例えば赤腐れ病、そして黒穂病の主な細菌病を蔓延させる点で問題がある。サトウキビ生産における病気の問題は、極めて深刻である。なぜなら、それらは多くの異なった保菌生物により拡がり、サトウキビ農場全体に急速に拡がるためである。
【0005】
不運にも、植物繁殖は、植物が9〜12ヶ月で成長し、茎を切断して約30cmの部分にしなければならないため、極めて高価である。主な問題は、サトウキビの切断末端が、特にサトウキビ樹液中の栄養になるスクロースの存在のために汚染に曝される。その結果、サトウキビ生産に深刻な影響を与えるウィルス性、バクテリア性及び細菌性の病気の拡大が容易である。
【0006】
新しいサトウキビ作物の生産のこれら全ての問題のために、組織培養法が、品種改良及び増殖計画について、またウィルスの除去について研究されている。例えば、Barredo R., Luzamen R and Dequinto B.(1994)は、紡錘体の葉(苗条の最も奥深い部分の葉)を用いて、変種フィル(Phil)74−64から13500の苗を製造した。しかしながら、彼らは、畑に植えることができる苗を製造するためには実験作業を始めてから8ヶ月要することが分かった。Barba R.C., Zamora A.B., Linga C.K.and Thai Van N.(1975)は、カルス形成法を用いて、3cm片のサトウキビの苗条から4000本の苗を製造した。しかし、この方法は遺伝変種をもたらすとの不利がある。
【0007】
バイオテクノロジーの最近の進歩は、植物組織繁殖技術により作物及び増殖の改良に新しい機会を提供している。
【0008】
体細胞胚は、苗条と根の分裂組織の両方を含む2極構造である。これらは、カルスと細胞の両方の懸濁培養体で形成され、直接成熟植物の形成をもたらすことができる。体細胞の胚形成は、大規模な作物栽培のための潜在力のあるシステムを与える。しかしながら、植物の大規模生産に現実的である体細胞の胚形成としては、膨大な問題を克服しなければならず、本発明の完成まで、サトウキビ植物の生産方法に使用するには障害が残っていた。本発明の完成までは、成熟した体細胞胚は、個体培地で育ったカルスから製造されていた。カルス中の成長細胞は、遺伝的に不安定であることが知られており、このためカルスから成長した胚は遺伝的には異なったものとなりがちである。さらに、カルス−由来の胚は同時発生で育たず、その操作が労働集約的となる。このような問題が、カルス由来体細胞の胚形成を商業的大規模増殖に不適当なものとしている。対照的に、液体培養の細胞懸濁液は、より向上した遺伝的安定性を示し、成長条件を変えることにより同時発生的にすることができ、自動操作を行うことができる。本発明の完成までは、液体培養の試みは、未熟な球状胚の製造に成功しただけであった。
【0009】
本発明は、前述の問題を考慮して提供するものである。本発明はこれらの問題に取り組み、能率的で、信頼できるサトウキビの生産方法、特に大規模な商業目的の使用に好適な方法を提供する。
【0010】
本発明に従い、下記の工程:
(1)外植体から未熟胚を培養する工程、
(2)これらの未熟胚から成熟したサトウキビの体細胞胚を培養する工程を含み、少なくとも工程(1)がアブシジン酸及び2,4−Dオーキシンの存在下で行われ、少なくとも工程(2)がアブシジン酸を含み、且つ2,4−Dオーキシンを含まない液体培地中の懸濁培養で行われ、且つ
少なくとも工程(2)において下記の手段:
(i)外植体材料としてサトウキビの根を使用するか、
(ii)懸濁液培養におけるサトウキビ根外植体から製造された細胞を含むか、
(iii)懸濁液培地にサトウキビ根由来培養から産出された粘ちょう性物質を含むか、または、
(iv)外植体材料としてサトウキビ葉外植体のみが使用され、懸濁液培地中にアスコルビン酸を含んで使用されるか、
のいずれか1手段によって、培養液及び細胞の褐色化が最小化されることを特徴とするサトウキビ外植体からサトウキビの体細胞胚を製造することを含む方法が提供される。
【0011】
本発明は、成熟した体細胞胚を迅速に、大量に製造し、元の植物遺伝子の特徴が体細胞胚に維持されているような、サトウキビ植物の製造に使用される体細胞胚製造用の体細胞胚形成を含むシステムを提供する。
【0012】
本発明の方法により製造されるサトウキビ体細胞胚を、ついで発芽させて、サトウキビ植物を生産することができ、或いはカプセル化剤中でカプセル化し、現場での続く胚の発芽のため畑に直接播くために「人造種子」を製造することができる。最も好ましくは、少なくとも工程2を懸濁液体培地中で行うことであり、これは大規模でこの方法を利用するための最も実際的な培地である。
【0013】
本発明の方法によりサトウキビ体細胞胚の製造は、体細胞胚形成を包含する。この方法は、ほぼ同時に小容量の培地で非常に多量の胚を製造することが可能であるので極めて価値がある。しかしながら、大きい繁殖速度のみが、サトウキビ植物の繁殖方法に比べて、サトウキビ植物の続く製造のために体細胞胚形成により与えられる幾つかの潜在的優位性の第1である。例えば、工程(1)における胚発生組織の成長と続く工程(2)における胚の成熟までの成長との両方を、液体培地で実施することができ、最小の操作で、大量の胎芽の処理を可能にする。
【0014】
さらに、体細胞胚形成による生成物は、極めて小さい更なる労働力の付加により再生産サトウキビ植物に成長させることができる胚である。植物繁殖及びミクロ増殖の従来技術に対して、サトウキビ植物の製造用の体細胞胚形成の優位性は、同じ単位の根及び苗条の両方が存在することであり、このため労働力による搬送作業の必要が無く、従って、極めて大幅に作業コストを低減できる。
【0015】
さらに、繰り返しの搬送作業が無いため、接触により拡がる汚染を有利に低減することができる。さらにまた、胚発生システムは分離した個々の胚を製造することができ、母体組織或いは他の胚に接触することが無いとの優位性もある。従って、胚発生培養は完全のみならず分離した胎芽を製造する。これらの2個の性質の組合せにより、体細胞胚が温室又は畑に直接播種するための潜在性(例えば、人造種子の成分として、又は流体すじ播きシステムで)を有するようになる。
【0016】
本発明の方法は、大量のサトウキビ胚を液体培地中で迅速に得る新たな可能性を与える生体外での繁殖手段を提供する。これは、他の技術を用いて現在得られるもの(例、多くの労働コストがかかるミクロ増殖)より、さらに多くの、さらに速いサトウキビ植物の繁殖可能にする。
【0017】
体細胞胚発生を含む本発明の方法を用いて再生されるサトウキビ植物は、サトウキビ植物の特定の有機的分裂組織又は分裂組織細胞に由来することが最も好ましい。これらの細胞は、本来、遺伝的に安定で、突然変異の傾向はない。実際、体細胞の成長の間、遺伝的に正常な細胞を選択する強い傾向がある。結果として、本発明の方法から得られるサトウキビ植物は、サトウキビの信頼でき、能率的な大量生産に重要であるクローンな集団を実際に生じさせる。
【0018】
胚発生懸濁培養は、特に植物組織の繰り返し操作がないこと、その容易にスケールアップできる潜在性及びその方法を自動化が比較的容易であることから大規模製造に好適である。この方法を実際の製造システムに展開するには、理想的には、単一の胚を製造し、その胚を同時に成長させ、そして最後に高い変換率で苗木にすることが必要である。さらに、本発明の方法は、サトウキビ植物を、処理された培養で選択された細胞から選択することができる手段を提供するのに有利である。従って、本発明の方法は、穀類の改良(例、体細胞の交配、遺伝的形質転換)のためのサトウキビの新規な遺伝的処理技術に使用される能率的な方法を提供する。
【0019】
本発明の工程1で使用される外植体を、サトウキビ母体植物の成長のいずれの部分及び成長のいずれの段階においても取り出すことができる。例えば、外植体の源は、サトウキビ植物の葉、根、若い苗条、芽、開花、若い節間から得ることができ、及び/又は外植体は、葉、根、若い苗条、芽、開花、若い節間にストレスを加えることにより得られる体細胞胚を含むことができる。ストレスの付加は、植物部分を95%エタノールである時間(好ましくは1〜5時間)処理することにより、及び/又は植物部分を約5〜15℃の温度にて、約1〜3ヶ月冷却することにより実施される。根由来胚又は成熟胚を、外植体材料として使用することが最も好ましい。
【0020】
根の外植体は、未熟な胚を形成する際に最も生産的に有利であり、それは恐らく主に分裂組織から構成される根(特に先端)によるためである。さらに、根の外植体は、植物組織培養技術における培地及び細胞の「褐色化」等の公知の問題により影響されることがほとんどない。「褐色化」効果は、フェノール性化合物のキノン酸化生成物への酸化により生み出される。根の外植体に由来する場合の未熟な胚培養の褐色化は、実質的には無いので、培地を変える必要は無く、従って根由来培養は、どのような固定時間でもさらに多い生物体量を集積する傾向にある。
【0021】
葉及び苗条(shoot)の外植体よりむしろ根−外植体を用いた方が、細かく、高度に分散された未熟な胚培養液を製造するのに有利である。さらに、根の外植体は、中間カルスの形成の必要無しに、培地を2〜5日毎に変える必要なく直接、懸濁液培地で胚を形成するために使用することができる。この特徴は、体細胞の胚形成を用いるサトウキビの繁殖手段として、本発明の方法を工業的に適用するのに極めて重要である。根外植体を根以外の外植体と一緒に培養する場合も、根外植体のみの上述の優位性と実質的に同じ優位性が、混合培養において得られる。例えば、「褐色化」が苗条−外植体の培養において通常発生した場合、このような褐色化も、混合された苗条及び根の外植体培養においても最小となる。
【0022】
さらにまた、根外植体は、根が、少なくとも1個の節を含む苗条材料を蒸留水に置くことにより容易に引き起こされるので、簡単に入手できる。ある期間後、根の網状組織は、成長し、外植体材料の源となる。これは、特に本発明の方法の工業的利用に有用である。葉の外植体の使用の優位性は、その容易な適用性、及び通常非汚染状態で源となり得ることを含むものである。
【0023】
葉の外植体を用いた場合、培地の頻繁な褐色化が生長点からの距離の増大と共に増加するので、葉の外植体を植物の生長点に近い領域を源として得ることが最も好ましい。さらに、葉の外植体を源とする供与体の植物の年齢は、約3〜12ヶ月の間が好ましいが、培地の褐色化の頻発が実質的に存在せず、約9ヶ月齢の4全ての葉片は高度に胚発生されていることから、約9ヶ月が最も好ましい。
【0024】
根の外植体、単独又は他の外植体の源との組合せを用いる上述の優位性、及び特に植物培養技術における「褐色化」との屡々直面する問題を避けるための上述の優位性は、全てのタイプの植物(例、木、ナツメヤシ、ジャガイモ)の培養に利益があり、そして従って、サトウキビの根の外植体の使用はサトウキビの培養に限定されるものではない。
【0025】
外植体から未熟胚を培養する方法(本発明の工程1)は、下記の工程:a)培地で外植体材料を培養して体細胞胚を形成する工程、b)外植体材料に由来する体細胞を選別又は繁殖させる工程、c)体細胞を、ある時間培地で培養し、その体細胞から未熟なサトウキビ胚を誘導する工程を含むことが好ましい。
【0026】
未熟な胚は、固体培地上で胚発生カルスとして、或いは液体培地で又は固体と液体の両方の培地の組合せ(好ましくは「二層」培地)で、胚発生細胞の懸濁培養として、成長開始させ、維持することができる。
【0027】
広範囲の固体及び/又は液体培地は、本発明の方法で、比較的薄い培地からより高濃度の調製液[Evans et al, Gamborg et al, Schneck and Hildebrandt(SH培地)及びMurashige and Skoog(MS培地)の調製液]を使用することができる。
【0028】
固体又は液体のMS培地が本発明の方法では最も好ましく使用される。なぜなら、それは、特に、恐らくMS培地のより高いレベルのアンモニア性窒素の存在により、胚発生カルス/懸濁培養としての未熟胚の形成に、又その体細胞の胚発生の誘導に有利であるからである。異なる培地を、必要に応じ、本発明の方法の異なる段階で使用することができる。最も好ましい植物成長調整剤として、例えばオーキシン(例、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、ナフタレン酢酸(NAA)、インドール−3−酢酸(IAA))、シトキニン、ギベレリン、アビシジン酸(ABA)、抗オーキシン、キネチン、ゼアチン及び/又は活性炭等を挙げることができ、これらを培地製剤中に、単独或いは組み合わせて含むことができる。本発明では、少なくとも工程(1)がアブシジン酸及び2,4−Dオーキシンの存在下に行われ、少なくとも工程(2)がアブシジン酸を含み、且つ2,4−Dオーキシンを含まない液体培地中で行われる
【0029】
2,4−Dオーキシンは、本発明の方法において、外植体から未熟な胚(カルス形成及び/又は券抱く培養)の発育の誘導に、また未熟な胚からの体細胞の発育に最も効果的である。広範囲の濃度の2,4−Dは、例えば0.5〜10mg/L(リットル)が好適であるが、比較的高濃度、例えば約3〜5mg/Lを使用することが最も好ましい。対照的に、シトキニンは、未熟なサトウキビ胚の成長に抑制効果を示す。ABAは、培地中に、2,4−Dと共に0.1〜20mg/Lの濃度で含むことが好ましく、約1mg/Lの濃度が最も好ましい。ABAは、非胚発生細胞の成長を遅らせるので、培養中の胚発生細胞の百分率が最適化される。
【0030】
炭素及びエネルギー源としては、炭水化物が主であり、本質的に組織培地の構成成分である。サトウキビの培養のために本発明の方法で使用される培地の主な炭水化物構成成分として、スクロースを使用するのが最も好ましい。多くの他の一糖類としては、グルコース及びフルクトースを、二糖類としては、ラクトースを、そして他の糖類としてはメリビオースを挙げることができ、これらも本発明の培養方法で成長及び胚発生を支持することができる。しかしながら、スクロースの使用は、培養液の褐色化を増大させないので特に有利である。使用されるスクロースの濃度は、10〜60g/Lの範囲が好ましい。使用されるスクロースの濃度は、約30g/Lが最も好ましい。本発明の完成までは、サトウキビの培養では通常ココナツ水が培地の構成成分であった。しかしながら、本発明の方法では、ココナツ水は必要な構成成分ではなく、コストを引き下げられるので有利である。
【0031】
胚発生カルス及び/又は胚発生懸濁培養液の製造は、外植体材料を培地に導入する(工程a)の前に、外植体材料及び/又は外植体材料を源とする組織にストレスをかけることにより最も効果的に刺激される。
【0032】
例えば、これは、外植体を約5〜15℃の温度で、約1〜3ヶ月冷却することを含むストレス処理により達成される。外植体は、約10℃で約2ヶ月冷却することが最も好ましい。胚製造を刺激する他の好適なストレス処理としては、約95%のエタノールに1〜5時間外植体を浸す処理を挙げることができる。後者のエタノール法は、胚材料を形成するために生育できる細胞を培養液に残しながら、感染を除去するためにサトウキビ外植体を処理する容易な方法であるので、好ましい。外植体をエタノール中に浸す最も好ましい時間は、約4時間である。
【0033】
母体サトウキビから与えられる組織の露出した切断末端を、切断で露出した組織にエタノールが吸収されないように、エタノール処理前にワックス(例、キャンドルワックス)で被覆することが好ましい。組織をエタノールに浸した後、組織を殺菌乾燥したティッシュペーパー又は類似品で包み、余分なエタノールを吸収した。その後、外植体材料を、選択し、供与体組織(例、葉、苗条、根)から切断し、そして培地に導入することができる。その後、外植体をある期間培養し、体細胞の形成に導く。体細胞の発育は、ABAからなる培地を用いて明確に選択されることが最も好ましい。ABAは他のタイプの細胞の成長を遅らせ、所望の体細胞の百分率を最適化する。体細胞は、さらにサイズ及び形に従い細胞を分離する方法により選別される。サトウキビの体細胞は、典型的には、好ましくは直径40〜65μm、最も好ましくは直径43〜63μmの形の円形にされる。
【0034】
対照的に、非胚発生サトウキビは典型的に長く伸ばされており、長さは、約46μm未満である。実質的に唯一の体細胞を選択する便利な方法は、培養液を100〜50μmメッシュサイズの第1の篩いに通し、従って実質的に体細胞及び非胚発生細胞を通過させ(しかし、凝集細胞等の大きな粒子は集められる)てふるい分けし、その後その篩にかけた培養液を50〜38μmメッシュサイズの第2の篩いに通してふるい分けし、実質的に非胚発生細胞を通過させ、実質的に体細胞を集める。体細胞の最適な選択は、第1の篩いが63μm付近、第2の篩いが45μm付近である。
【0035】
選択された体細胞は、その後、前述の2,4−D含有培地に再懸濁されることが好ましい。また培地は、さらに繁殖目的に前述のABAも含むことが好ましい。
【0036】
体細胞は、それからある期間培養され、未熟な胚を形成する(工程(c))。
【0037】
一般に、ある期間は、10〜40日で、例えば外植体の性質、使用される培地、そして使用される成長調整剤のタイプにより変動する。一般に、未熟な胚を形成する体細胞の百分率は、2,4−Dの濃度のとともに増加する。
【0038】
未熟な胚は、本発明の方法により、暗条件又は明(光)条件下で、あるいは明、暗両方の条件下で製造することができる。培養液は、16時間の明(光)及び8時間の暗の期間周期で光に曝されることが最も好ましい。この周期が最大量の胚を製造するからである。
【0039】
外植体由来の体細胞胚から得られる未熟な胚の培養は、初期培養からの副次培養の成長も含んでいる。初期培養は、少なくとも3ヶ月間、初期培地で行い、その後新しい培地に交換することが最も好ましい。これは最適数の胚発生培養を製造するために見出された。外植体の初期培養が、固体培地上の外植体から得られた胚発生カルスの発育開始(initiation)を含む場合、本発明の方法の工程1は、さらに液体培地中の外植体から胚発生カルスを副次培養し、胚発生細胞懸濁培養を確立、維持することも含む。本発明がなされるまでは、このような副次培養には、液体培地に移送した際カルス培養の広範囲の褐色化、液体培養の胚よりむしろ根が大量に生産されること、微細懸濁培養の形成よりむしろカルス細胞の凝集が起こること等の膨大な問題があった。
【0040】
以前、液体培地の褐色化は、培地を3〜5日毎に繰り返して変えることによってのみ防止できた。このような交換は、時間の浪費であり、また高価な培地を無駄にすることになる。培地を変えることは、培養汚染の可能性及び細胞によって生産される重要な化学製品の損失をもたらし得る。このため、褐色化問題を克服するための培地の交換は、体細胞胚形成を介してサトウキビの大規模増殖を行うための実施可能な選択ではない。この問題の異なる解決法は、褐色化の回避のためにこのような繰り返しの副次培養を要求しない本発明により見出された。
【0041】
本発明では、根外植体の単独あるいは他の種類の外植体との組み合わせにより形成される胚発生カルスを、懸濁液体培養を形成のために使用することが最も好ましい。根カルスは、迅速に分散し、最小の細胞凝集を有する微細懸濁液を形成する。さらに、根カルスは実質的にいかなる培地或いは細胞の褐色化をもたらさず、従って、根カルスの懸濁培養では別の副次培養を必要とせず、培地及び/又は細胞の褐色化の問題を回避する。培養のためにサトウキビ根外植体を用いる本発明の方法は、すべての種類の植物、例えばナツメヤシの培養に重要であり、本発明の完成までは、これらの植物培養は「褐色化」の問題を蒙っていた。
【0042】
少なくとも葉外植体由来の培養の場合、アスコルビン酸及びクエン酸は、細胞及び培地の褐色化を防止するのに助力する。従って、アスコルビン酸は、カルス開始固体培地及び液体胚発生懸濁培地として、包含されることが好ましい。アスコルビン酸及び/又はクエン酸の異なる濃度が、本発明の培養方法の異なる段階で必要とされる。葉外植体からのカルスの開始時に、約1〜2mg/Lのアスコルビン酸が、外植体の褐色化を防ぐために固体培地中に含まれることが最も好ましい。カルスからの懸濁培養の開始のために、好ましくは50〜200mg/L、最も好ましくは約100mg/Lのアスコルビン酸を、好ましくは250mg/L、最も好ましくは約150mg/Lのクエン酸と共に培地中に含まれる。懸濁培養の開始段階の後、2〜20mg/Lの濃度、そして最も好ましくは約10mg/Lのアスコルビン酸が、褐色化を避けるために保持培地中に存在すべきである。
【0043】
他の酸化防止剤が有用である場合があり、例えば活性炭が初期の固体培地に導入され、その後カルスが液体培地に移されて懸濁培養を開始させることができる。
【0044】
或いは、根外植体/根カルスの存在が実質的に培地及び細胞の褐色化の発生を抑えるので、根外植体及び根以外の外植体の両方を一緒に培養する。
【0045】
懸濁培養の形成及び続くそれらの成長に影響を与える重要な因子は、カルスの苗菌体の濃度(密度)である。苗菌体濃度が高ければ高いほど、細胞凝集の頻度も増大する。微細に分散した懸濁培養を得るために、苗菌体濃度が、培地の1〜10g/Lの範囲にあることが好ましい。濃度は約5g/Lが最も好ましい。
【0046】
懸濁培養の最適成長のための光露出時間は、16時間の光露出/8時間の暗状態のサイクルが最も好ましい。
【0047】
液体培地中の炭水化物源は、スクロースが最も好ましい。勿論、炭水化物の他の種類、例えば前述の一糖類及び二糖類でも良い。最適胚製造のために、20〜60g/Lの濃度、最も好ましくは約30g/Lのスクロース及び/又はグルコースが使用される。液体培地に含まれるアブシジン酸(ABA)は、0.1〜20mg/Lの間の濃度が好ましく、最も好ましくは約1mg/Lであり、なぜなら、これは非胚発生細胞の成長を抑え、一方で実質的に純粋な胚の製造を促進するからである。これは、十分に長期間の胚発生を保証する各副次培養の間に形成される非胚発生細胞における労働力による集中除去の必要を回避するので、これは特に胚発生培養の長期間の十分な保持に有利である。非胚発生細胞の成長を抑制するために培地中のABAを使用することは、他の種類植物の培養にも重要であり得る。
【0048】
サトウキビ胚の商業的大規模増殖のために、外植体由来カルスを、それを液体培養で更なる成長のために移送するため、初期に固体培地上で成長させる場合が好ましい。初期に固体培地上で成長した外植体由来カルスが固体培地上で成長続ける場合、それらはサトウキビ苗として結局確立されるとしても、外植体は同時に成長しないので、個々に処理されなければならない。従って、サトウキビの商業的大規模増殖のためには、外植体由来カルスを固体培地から更なる成長のための液体懸濁培養に移すことが好ましい。しかしながら、そうではなく、根外植体から直接未熟な球形状胚の製造を、少なくとも苗条や葉の外植体培養で要求される固体培地上での初期誘導の必要性が回避された液体懸濁培養で直接開始することも可能である。
【0049】
本発明の方法の工程2は、したがって、液体層懸濁培養における未熟な球形胚を体細胞胚形成の誘導による完全に成長した胚まで成熟させることを包含することが最も好ましい。本発明の完成までは、液体培地中での成熟サトウキビの良好な製造は、問題があった。
【0050】
本発明は、初期植物組織源として、根、苗条及び葉の外植体を用いて、これを良好に達成する方法を提供する。根の外植体を使用することが最も好ましい。工程2で根由来培養は、懸濁液を粘ちょうにする粘ちょう物質を生成するので有利である。この粘ちょう性物質は褐色化の防止を助ける重要な性質を有する。さらに、培地の粘ちょう性の増大は、胚形成の程度も向上させる。粘ちょう性物質の生成は、根を、比較的高い温度(例えば35℃)で殺菌(sterile)条件下で水中に沈ませることにより、サトウキビの根から誘導されるであろう。粘ちょう性物質は、その後回収され、「褐色化」を受ける植物組織/細胞培養液に添加される。この物質の使用は、通常褐色の回避が要求される培地において高価な酸化防止剤の含有の必要性にとって代わることができるだろう。
【0051】
前述のように、サトウキビの未熟な胚は2,4−Dを含む培地中で外植体から効率良く誘導される。工程2において、未熟胚を続いて2,4−Dオーキシンを含まない液体に移し、成熟胚の形成を促進す。しかしながら、根由来懸濁培養だけでも、2,4−Dを含まない液体培地で、褐色化無しに成熟胚を形成することができる。葉及び苗条由来の懸濁培養液は、例えば2,4−Dを含まない培地に移された場合、胚の成熟を低減させる褐色化が発生する。
【0052】
従って、このような環境では、この段階で、活性炭又は適当な他の酸化防止剤を培地に添加することが好ましい。これは培地及び細胞の褐色化を抑制し、成熟胚の形成を促進する助けをする。活性炭/酸化防止剤の添加は、根由来培養においては必須要件ではないが、ある環境、例えば根培養が約二ヶ月を経過したものである時(この期間を過ぎると、根培養は通常褐色化を受け始めるから)に行うことができる。活性炭が必要な場合、約3g/Lの濃度で液体培地に添加するのが最も好ましい。
【0053】
培養は、ある期間にわたって、好ましくは50〜60日間の間で成長させることが好ましい。成熟期間中、培地をしばしば変えること、例えば一週間ごとに変えることが好ましい。未熟な球形胚の、2極の、その後は成熟体細胞の魚雷型胚への体細胞の胚形成が、培養条件にもよるが、約30〜40日で生成する。
【0054】
サトウキビ植物の大規模生産に使用すべき体細胞胚形成のためには、畑に供給する成熟胚(好ましくは合成種子の形で)が、植物の均質な成長をもたらし、農作業(例、雑草刈、灌概及び収穫)を簡易にするものでなければならない。サトウキビの場合、最大の糖生産を達成するため、植物は、成熟したある年齢でなければならない。糖の収率は、開花後、急激に低下する。このため、続く発芽のための成熟胚の全てを得るのを、植物の成熟が同時にあるように、成長と同じ段階で行うことは臨界的である。
【0055】
未熟胚の非同時成熟を回避するため、工程2は非同時成長を克服するために胚を処理する方法を包含する。適当な処理方法としては、懸濁培養液を冷却保存する方法をあげることができる。選択できる条件は、例えば、5℃±1℃で約10日間である。汚染の怖れがなく系内で容易に、有利に適用できる、他の簡単な処理は、熱処理、例えば約50℃で45〜60分間の処理である。この処理の後、非胚発生及び胚発生細胞は、それらの生育能力を失い、一方胚は影響されない。
【0056】
熱処理に続き、又はそうでない場合も、懸濁培養液は、高百分率の体細胞胚を有する培養用に選択するために、本発明の第一工程に関連して上述したように篩い分けされる。最適には、懸濁液は63μmメッシュの第1の篩を通して篩い分けられ、45μmメッシュの第2の篩で集められる。
【0057】
最適には、篩い分けに続いて、培養液を激しく動かして、実質的に残留非胚発生細胞を除去する。培養液が攪拌バイオ反応器内にある場合、上記激動は攪拌機を約500rpmで約1時間作動させることにより達成するのが便宜である。培養液中の胚の同時成長を最適化する上記方法が、どうのような種類の植物の培養に対しても有利に利用できると認められるであろう。上記植物の培養において、非同時成長は、例えば木、ナツメヤシ及びジャガイモの製造のための胚の培養において発生する。
【0058】
バイオ反応器を用いるサトウキビ体細胞胚の製造は、組織及び細胞の培養によるサトウキビ植物の大量増殖に極めて好適である。バイオ反応器を用いると、培養条件を制御すること、方法を自動すること、大量の懸濁培養を製造すること及び製造した懸濁培養を副次培養する必要を回避すること、が可能となる。
【0059】
バイオ反応器は、体細胞胚形成用の振動フラスコに対して多くに利点を持つ。その大きな作業容量は別にして、バイオ反応器は、均質培養を提供する。なぜなら、機械攪拌或いは培地に空気を通すことにより製造された混合物であるからである。バイオ反応器を用いることにより、pH、溶解酸素濃度及び他の環境因子をモニターすることができる。
【0060】
最も重要な因子の一つは、培地中の溶解酸素濃度であり、これは空気の導入及び激動(攪拌)の速度により制御される。重要な他の因子は培地内の細胞の分布及び濃度である。バイオ反応器はどのような種類でも、本発明の方法に適するものである場合使用でき、例えばエアー−リフトバイオ反応器及び機械的攪拌可能なバイオ反応器を挙げることができる。エアー−リフトバイオ反応器において、空気は空気導入と培養液の混合の両方のために使用される。機械的攪拌可能なバイオ反応器では、混合物の液位に関係なく、培地の酸素飽和を制御できる。従って、後者のタイプのバイオ反応器は、機械的攪拌機の攪拌速度を独立して変えることが可能であるので、好ましい。非胚発生細胞は500rpmを超えるロータ速度では生き残ることはできず、ロータ速度の変更が、胚発生培養の同時性を改良する重要な手段である。
【0061】
攪拌タンクのバイオ反応器の体細胞胚形成の百分率は、エアー−リフトバイオ反応器のものより一般に高い。攪拌タンクは全ての段階で良好な混合を与え、一方、エアー−リフトバイオ反応器の流速は、成長の増大と共に連続的に増加させなければならない。なぜなら、空気流流速が低いと多量の細胞が留まるためである。かなりの蒸発及び泡の形成は、高い空気流速度で起こり、多くの細胞がバイオ反応器の壁に付着する。
【0062】
本発明を別の側面から見れば、下記の工程:
(1)外植体から未熟胚の液体懸濁倍様体を調製する工程、
(2)この懸濁液をバイオ反応器で培養し、体細胞胚を形成する工程を含む未成熟胚からサトウキビの成熟体細胞胚を培養する方法が提供される。
【0063】
工程(1)及び工程(2)の培養は、バイオ反応器で行われることが最も好ましい。しかしながら、工程(1)は、そうではなく、例えば振動フラスコで行うことができ、そして未熟体細胞培養液は工程(2)の培養用苗菌体(innoculum)として使用される。
【0064】
工程(1)は、2,4−D及びABAを含む培地中で根外植体から根胚カルスを直接培養することを含む。最適には、2,4−Dの濃度は0.1〜5mg/Lの範囲、最も好ましくは3mg/Lであり、ABAの濃度は0.1〜20mg/Lの範囲が最適で、最も好ましくは1mg/Lである。工程(2)の前に、この方法は、培養液を篩を通して篩い分けし、前述のように微細な懸濁液を得ることを含むことが好ましい。篩のメッシュサイズは63μmが好ましく、懸濁液は45μmメッシュサイズの篩上で集められ、これは微細な懸濁液は実質的に体細胞を含むことを実質的に保証するものである。続いて、この方法は、工程2の前に、工程1の培養液を再懸濁させる追加の工程を含むことが好ましい。この追加の工程は、2,4−D及びABAを含む新しい培地中で副次培養を、最適には約1ヶ月間行い、高度な胚培養液を得ることを含むのが好ましい。バイオ反応器中の再懸濁のための接種濃度は、約5g/Lが最も好ましい。残っている非胚発生細胞は、培養を500rpmで1時間激動することにより除去されるので最も好ましい。これは攪拌タンクタイプのバイオ反応器で行うのが、そこでは攪拌機のロータ速度を調節できるので最も便宜である。
【0065】
工程(2)は、ABAを含み2,4−Dを含まない培地中で懸濁液を培養することを含。攪拌バイオ反応器で行うことが好ましい。バイオ反応器の培地は、成熟が起こるまで、定期的に取替えらることが最も好ましい。これは一般に約50日で起こる。培地は、例えば10日毎に取り替えることが好ましい。
【0066】
本発明の方法(バイオ反応器もしくはそれ以外で)によって製造される成熟胚は、続いてカプセル化され、「人造種子」となることができる。
【0067】
サトウキビの苗の製造は、胚の発芽により、体細胞胚を植物苗木に成熟させる工程を含む。この工程は、液体培地中で個々の体細胞杯を培養することを含むことが最も好ましい。ポリテン(polythene)フォームで培養することが好ましい。
【0068】
ポリテンフォームは、苗木の畑への簡単な直接移転を可能にする苗木を有利に支持する。体細胞胚は、遅い魚雷(torpedo)段階にあることが好ましい。この胚は、2,4−Dを含まない液体培地で培養され。この培地は、ABAを0.05〜1mg/L、最も好ましくは0.1mg/Lで含有するのが有利である。ABA処理された胚から製造される苗木は、温室条件でより活発で、より長生きすることが分かった。本発明の方法により製造される体細胞胚は、カプセル化され、発芽前に人造種子を形成することができる。
【0069】
本発明の他の側面によれば、少なくとも1種のカプセル化剤を体細胞胚に添加する工程を含む体細胞胚をカプセル化する方法が提供される。この方法は、これに限定されないがサトウキビ、全ての種類の木、ジャガイモ、ナツメヤシ等を含む多くの植物の体細胞胚のカプセル化に好適であり、操作、貯蔵及び搬送が容易ないわゆる「人造種子」を形成する。
【0070】
カプセル化剤は、少なくとも全体が穀粉/水のペーストを含む。このようなペーストのカプセル化剤は、特に有利である。なぜなら、それは封入した胚のための栄養物を提供し、胚の空気導入を可能にし、外皮を形成して胚を湿らせた状態にし、そして胚の容易な発芽が高価なものとしないためである。全部のもろこし穀類が、これらは特に廉価であるので、特に好ましい剤である。使用することができる穀粉は、発酵させても、させなくてもよい。発酵した穀粉は、それから製造されたカプセルが実質的にに耐クラッキング性であるので最も好ましい。穀分と水の混合比は、100mlの水に対して5〜30gの穀粉が好ましく、100mlの水に対して約10gの穀粉が最も好ましい。
【0071】
カプセル化の方法は、下記の工程:
(1)穀粉/水ペーストを形成する工程、
(2)このペーストに体細胞胚を加える工程、
(3)ペースト中にカプセル化された個々の胚を水中に入れて、各胚の周囲にカプセルを形成する工程、
(4)そのカプセルを乾燥する工程を含むことが好ましい。
【0072】
穀粉/水ペーストの形成方法は、穀粉と水を一緒に混合し、混合物を加熱してペーストを形成し、ペーストを圧力釜で消毒し、ペーストを冷却する各工程を含むことが好ましい。
【0073】
乾燥の前に、カプセルを殺菌剤及び/又は殺バクテリア剤等の殺微生物剤に浸漬することができる。
【0074】
工程(4)の前又は後に、胚をカプセル化する方法は、下記の工程:
a)アルギン酸ナトリウムをカプセルに加える工程、
b)次いでそのカプセルを塩化カルシウム溶液に入れる工程をさらに含むことができる。
【0075】
これらの付加工程は、穀粉ペーストでカプセル化された単一胚を含むアルギン酸カルシウムのビーズを製造する。
【0076】
最適には、上述の工程で使用されるアルギン酸ナトリウム溶液の濃度は、約3%で、これは最適には工程(ii)で塩化カルシウムの75mM溶液に移される。単一胚を含むアルギン酸カルシウムのビースを、液体又は固体の培地(例、2,4−D非含有培地)又は直接土壌で発芽させることができる。
【0077】
本発明の別の側面によれば、穀粉ベースの材料中にカプセル化された植物胚を含む人造種子が提供される。穀類カプセル化された胚は、アルギン酸カルシウムビーズ内にカプセル化されることが好ましい。人造ビーズは、上述の方法により製造されることが最も好ましい。植物胚は、本発明の方法により製造されるサトウキビ体細胞胚であることは最も好ましい。
【0078】
体細胞胚を含むこのような人造種子は、有性生殖種子に対して膨大な利点を提供する。例えば、発芽は有性生殖種子を用いる場合より速い速度で起こる。さらにまた、人造種子は、有性生殖種子が示す染色体の変化及び弱い生育力に比較して、遺伝的に安定で高度に生育し得る。さらに、このような人造種子は、サトウキビの使用法、労働力及び搬送の点でコストがかかりそして病気感染の危険性が高いサトウキビの植物増殖に対して、膨大な利点を有する。体細胞胚の製造及びそれに続くカプセル化で本発明の人造種子を形成する方法は、サトウキビ生産における極めて効率の良い方法である。なぜなら、この方法は、汚染がなく、低労働力で、時間が効率的な、単一サトウキビ外植体から生育がよく遺伝的に同一の人造種子の大量生産方法を提供するものである。製造された人造種子は、貯蔵、搬送そして播種を最低コストで可能である。
【0079】
母胎植物の植物増殖により製造された植物は、本発明に従う体細胞胚発生により製造されたものとモルホロジー、糖含有量、生化学的に類似している。さらに、本発明で製造された植物は、元の母胎植物と、種々の性質において類似している。従って、本発明の方法は、サトウキビの大規模生産のための商業的に重要で生育が良好な新しい方法を提供する。
【0080】
本発明の別の側面から見れば、下記の工程:
(1)外植体から未熟胚を培養する工程、
(2)これらの未熟胚から成熟したサトウキビの体細胞胚を培養する工程を含む方法により得られるサトウキビの体細胞胚が提供される。
【0081】
本発明の別の側面から見れば、下記の工程:
(1)外植体から未熟胚を培養する工程、
(2)これらの未熟胚から成熟したサトウキビの体細胞胚を培養する工程、
(3)これらの体細胞胚を発芽させて、少なくとも1種のサトウキビ植物を形成する工程を含む方法により得られるサトウキビ植物が提供される。
【0082】
上記方法が、工程(3)の前に、カプセル化剤中で、工程(2)において形成される成熟した体細胞胚をカプセル化する添加工程を含むことが最も好ましい。
【0083】
サトウキビの体細胞胚は、本発明の上述の側面に従う方法により製造することが好ましい。
【0084】
以下の例示的な、従って非限定的な実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
【0085】
実施例(葉外植体の調製)
サトウキビCo527変種(ケナーナ、シュガー社)の切断片を、雑菌混入許容条件下において、52℃の水浴中に二日間浸漬して、分茎、分根させた。
【0086】
次いで、25℃においてレヴィントン多目的用コンポスト(Fisons)により、11月から4月までは温室中の16時間灯光により、5月から10月までは自然光により成長させた。
【0087】
この成長植物に、週に一回、液肥(トモライト、レイ、TM、Fisons)を施こした。
【0088】
この葉外植体を、三ヶ月目に内葉および外葉の5mm切断片として切断した。
【0089】
この葉外植体を95%濃度のエタノールに20分間浸漬して滅菌した。
【0090】
(苗条ないし根外植体の調製)
葉外植体(Co527変種)起源のカルス培養から苗を得る。これらの苗から母植物を選択し、増殖させて苗条増殖培地とした。根および苗条外植体を、無菌培養液中における再生植物から、滅菌処理することなく転移させた。
【0091】
(1962年、MurashingeおよびSkoogによるMS培地の調製)
ストック溶液から基礎培地を調製し、次いで植物成長制御剤、ビタミンおよび糖の混合物を添加した(ストック溶液は別途に調製され、暗色瓶中において−20℃で貯蔵された)。この培地に、ミオ−イノシトール、固化剤(寒天)および炭水化物を添加し、二重蒸留水を添加して培地を調製した。熱安定性の植物成長調整剤およびその他の化合物は、高圧加熱滅菌処理前に添加したが、ゼアチンおよびABAのような熱不安定性化合物は、滅菌皿への注下直前の微温培地に添加した。高圧加熱滅菌処理前に、1MのNaOHまたは1MのHClにより培地全体をpH5.8に調整した。固体培地の場合には、pH調整前に0.9%(w/v)寒天(英国シグマ社)を添加した。
【0092】
振とうフラスコおよびバイオ反応器中のカルス培養、懸濁培養の成長、維持のために、30g/Lのスクロースおよび3mg/Lの2,4−Dを含有する、ムラシゲ/スクーグ(1962)培地を使用した。これを以下において(MSI)と称する。また胚発生のために、30g/Lのスクロースを含有するムラシゲ/スクーグ培地を使用した。これを以下において(MS2)と称する。培地の調整は随時行ない得る。
【0093】
周期的試料は無菌的に採取され、MYGP(モルト、イースト抽出物、グルコース、ペプトン)寒天、PDA(ポテトデキストロース寒天)およびNA(栄養素寒天)(オキソイド、ベイシングストーク、ハンツ各社)上に塗布された。微生物成長検査のため、これら植物体を25℃において1週間培養した。
【0094】
(カルス培養の開始)
カルス培養は、外植体を、0.9%の寒天で固体化したMS1を含有する90×15mmプラスチック製滅菌ペトリ皿(英国ステリリン社)中で培養することにより開始された。このペトリ皿は、蒸発による水分のロスを低減させるためパラフィン(アメリカン、ナショナル、キャン社)で密封された。数週間の培養によりカルスが成長してから、これを滅菌ピンセットで除去し、新らたな寒天上に載置し、さらに数週間培養を行なった。暗褐色、ないし汚染された組織を含む残存原外植体を廃棄した。
【0095】
(懸濁培養液の調製)
50mlのMS1を含有する250ml容積の無菌エルレンマイヤー振とうフラスコ(コーニング、ストーン、スタフス)中に、0.5−1.0g(生重量)のカルス培養材料を入れることにより、懸濁培地を調製した。約12×12cm面積の滅菌アルミニウム二重箔で密封したフラスコを、100rpmで回転する振とう器に装着した。数週間にわたるこの穏和な振とう作用により、微小な細片および多数の単一細胞が大きい集塊から分離された。次いでこの培地ないし培養基を副次培養して、さらに小さな集塊となし、大きい集塊を廃棄した。毎週、細胞の微小集塊10−15mlを、250mlの振とうフラスコ中において50mlの新らたな培地に転化させた。
【0096】
(小規模生産のための根懸濁培養の開始)
成熟植物から、あるいは微生増殖から採取された根を、0.5−10mg/Lにとに3mg/L)の2,4−Dおよび0.1−10mg/L(ことに1mg/L)のABAを含有する液体培地中にそのまま投入して、懸濁培養を行なった。
【0097】
(体細胞胚による成熟胚の形成)
胚形成のために、培養液を2,4−Dを含まないMS培地に変えた。このMS培地中において、成長調整剤なしに胚の成熟が生起した。
【0098】
(工業用根懸濁培養(大バイオ反応器用植菌体として)の開始)
植物材料源として、9ヶ月期の直立母サトウキビを使用する。これを地上約10cmの節目2個分(約20cm長さ)で切断し、切断面を溶融ワックスで封止した。この切断片を20%濃度の次亜塩素酸塩溶液で20分間滅菌処理し、蒸留水で複数回洗浄し、ワックス封止端部を切除した。芽を注意深く除去して、バイオ反応器中における苗条の成長を阻止した。次いでこれをバイオ反応器の壁面近くに置き、非毒性接着剤を使用して、シリコンチューブで壁面に固定した。
【0099】
バイオ反応器に蒸留水を満たし、撹拌器を作動させることなく、水浴により温度を35℃に調整した。これにより根の網状体が成長形成され、根の長さが約1インチに延びた時点で蒸留水を排出し、MS1培地でバイオ反応器を満たした。
【0100】
次いで温度を27℃まで下げ、撹拌器を100rpmで作動させた。1ヶ月後に、直ちに植菌体として使用可能の褐色を帯びない懸濁液が得られた。この懸濁液は63μmメッシュの節を透過し、45μmメッシュの節で捕集された。
【0101】
(5L容積バイオ反応器による商業的用途の体細胞胚の生産)
上述植菌体から、25gの細胞を植菌するために、MS2培地を含有する5L容積の撹拌バイオ反応器を使用した。500rpmで撹拌器を作動させて、残存する非胚形成細胞を除去した。これにより高度に同調された成長がもたらされた。実験の末期において、胚の93%は、1L当たりほぼ100万個の胚を有する密度の爆発的胚(torpedo embryos)であった。
【0102】
(カプセル化された体細胞胚の生産)
モロコシ穀粉(10g)に水(100ml)を加え、pH値を5.8に調整した。この混合物を絶えず撹拌しながら濃厚なペースト状に成し、その一滴を水中に投入すると直ちに固化するようにした。この段階で、15psiの圧力、121℃の温度において、20分間にわたって高圧加熱滅菌処理に附した。次いで、これを40℃に冷却し、3週間後、カプセル化するために、熟成胚を熟成培地から取出し、上記ペースト中に投入した。この段階において、カプセルを殺菌剤、殺バクテリア剤中に浸漬してもよい。
【0103】
他方において、アルギン酸ナトリウム(シグマ)を、3.0%(w/v)の濃度で、MS2に添加した。この培地を、pH5.8に調整した後、高圧加熱滅菌処理した。穀粉でカプセル化された胚を、まずアルギン酸ナトリウム滅菌溶液中に浸漬し、次いで磁気撹拌器上に載置されたビーカー中の75mM塩化カルシウム溶液中に投入した。塩化カルシウム溶液を傾しゃすることにより、それぞれ単一の体細胞胚を包含するカプセルを回収し、MS液体培地で洗浄した。
【0104】
(植物苗を形成するための胚の発芽)
MS培地(固体もしくは液体)中において発芽させた後、この植物苗をパーライト板に、次いでレビントンコンポスト(3週間後)に移植し、15−32℃の温度、87%の相対湿度において温室中で成長させた。この間、水銀灯により長日条件(16時間画光に相当)を維持した。3週間後に、この苗はコンポストに移植された。
【0105】
(成熟性テスト)
細胞および胚の培養中の成熟性は、フルオロセインジアセタート(FDA)試験法(ウィドホルム、1972年)により行なわれた。使用前に、FDAのアセトン溶液(5mg/ml)を水で希釈して、0.01%の最終濃度とした。この溶液と細胞懸濁液の等容量を混合し、室温下において、少なくとも3分間放置した。この混合液の一滴をピペットにより顕微鏡ガラススライド上に滴下し、ガラスカバーで被覆し、BH−RFL−W型反射蛍光アタッチメント、100ワット水銀灯、EY455エクサイタフィルター、B(DM500+0.515)二色性ミラーおよび530nmバリアフィルターを装着したオリンパスBH2紫外線顕微鏡で観察した。数分後に蛍光が発現してから、黄緑色蛍光細胞(成熟細胞)の数と、蛍光非発現(未熟)細胞を含む細胞の総数とを、ランダムの10視野中において数えた。
【0106】
その追試結果から、この技術分野における専門技術者は、本発明がサトウキビの成熟胚を、時間および労力に関して効率的に、しかも確実に、大規模で生産するのに適する方法を提供し得ることを評価し得る筈である。この方法はバイオ反応器で行なうのに適しており、従って完全にオートメーション化し得る利点を有する。
【0107】
上述した実施例は、上述したように単に例示的に示されたに止まり、本発明がこれら実施例に限定されるべきものではない。

Claims (13)

  1. 下記の工程:
    (1)外植体から未熟胚を培養する工程、
    (2)これらの未熟胚から成熟したサトウキビの体細胞胚を培養する工程を含み、少なくとも工程(1)がアブシジン酸及び2,4−Dオーキシンの存在下で行われ、少なくとも工程(2)がアブシジン酸を含み、且つ2,4−Dオーキシンを含まない液体培地中の懸濁培養で行われ、且つ
    少なくとも工程(2)において下記の手段:
    (i)外植体材料としてサトウキビの根を使用するか、
    (ii)懸濁液培養におけるサトウキビ根外植体から製造された細胞を含むか、
    (iii)懸濁液培地にサトウキビ根由来培養から産出された粘ちょう性物質を含むか、または、
    (iv)外植体材料としてサトウキビ葉外植体のみが使用され、懸濁液培地中にアスコルビン酸を含んで使用されるか、
    のいずれか1手段によって、培養液及び細胞の褐色化が最小化されることを特徴とするサトウキビ外植体からサトウキビの体細胞胚を製造することを含む方法。
  2. 外植体から未熟胚を培養する工程(1)が、下記の工程:
    a)培地で外植体材料を培養して体細胞を形成する工程、
    b)外植体材料に由来する体細胞を選別及び増殖させる工程、
    c)選別した体細胞を、培地で培養し、その体細胞から未熟なサトウキビ胚を誘導する工程、を含み、少なくとも工程b)及び工程c)が懸濁液培養で行われる請求項1に記載の方法。
  3. 炭水化物構成成分としてスクロースを含む培地中で実施する請求項1又は2に記載の方法。
  4. 使用されるスクロース濃度が10〜60g/Lの範囲にある請求項に記載の方法。
  5. 外植体材料が、ワックスで被覆した露出した切断部を有するサトウキビ植物組織に由来する請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 体細胞の選択に、100〜50μmメッシュサイズの第1の篩を透過させ、続いて50〜38μmメッシュサイズの第2の篩で捕集する篩分けを行う請求項2〜5に記載の方法。
  7. 外植体の初期培養が、固体培地上で外植体から胚発生カルスの培養を開始させ、次いで液体培地中で外植体から胚発生カルスを副次培養して、胚発生細胞懸濁液培養を確立、維持する工程を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 形成された成熟胚が、発芽前にカプセル化される請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
  9. カプセル化剤が、穀類の粉/水のペーストを含む請求項に記載の方法。
  10. 穀類の粉が、モロコシ穀粉である請求項に記載の方法。
  11. カプセル化が、下記の工程:
    (1)穀類の粉/水のペーストを形成する工程、
    (2)このペーストに体細胞胚を加える工程、
    (3)ペースト中にカプセル化された個々の胚を水中に入れて、胚の周囲にカプセルを形成する工程、
    (4)そのカプセルを乾燥する工程、
    を含むことを特徴とする請求項9又は10に記載の方法。
  12. 乾燥(工程(4))の前に、カプセルを殺微生物剤に浸漬することを特徴とする請求項11に記載の方法。
  13. 乾燥(工程(4))の前の胚のカプセル化が、下記の工程:
    a)アルギン酸ナトリウムをカプセルに加える工程、
    b)次いでそのカプセルを塩化カルシウム溶液に入れる工程、
    を更に含むことを特徴とする請求項11又は12に記載の方法。
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