JP4275933B2 - 細管ヒートパイプ及び温度調整装置 - Google Patents

細管ヒートパイプ及び温度調整装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子機器、エンジン等の内燃機関、真空ポンプの駆動系等の発熱体から生じる熱を放散するヒートパイプ、及び、このヒートパイプを使用した温度調整装置に関する。特には、受熱部と放熱部が離れており、両部の途中に十分なスペースが存在しない場合にも適用できる細管ヒートパイプに関する。
【0002】
【従来の技術】
電子機器や内燃機関、真空ポンプ等の発熱体の冷却には、従来より放熱器が使用されている。放熱器の中で、ヒートパイプ式のものは熱輸送性能が高いことで知られている。一般的なヒートパイプ式放熱器は、発熱体が取り付けられるベース板と、このベース板に一部(受熱部)が取り付けられているヒートパイプとから主に構成されている。ヒートパイプとは、中空体内部の密閉空間を真空に引いた後に、水やブタン、アルコール等の作動流体を封入したものである。発熱体からベース板に伝えられた熱は、ベース板に接するヒートパイプの受熱部に伝えられ、同部の細管内の作動流体を蒸発させる。発生した蒸気は、ヒートパイプのベース板が取り付けられていない部分(放熱部)に移動し、同部において蒸気が放熱して液体に戻る。この密閉空間内の作動流体の相の変化や移動により、発熱体の熱を放熱する。放熱部にはフィンが設けられる場合もあり、熱を有効に拡散させる。
【0003】
このようなヒートパイプの種類の一つである、ヒートパイプが受熱部と放熱部間を蛇行するように配置された蛇行細管ヒートパイプは、熱の輸送能力が高く特に有効である。蛇行細管ヒートパイプは、例えば、特開平4−190090号に開示されている。
図11は、特開平4−190090号に開示されている蛇行細管ヒートパイプの構造を示す一部断面平面図である。
このヒートパイプ100は、以下の特性を有する。
(A)細孔の両端末が相互に流通自在に連結されて密閉されている(閉ループ型)。
(B)細孔の一部は受熱部H、他の一部は放熱部Cとなっている。
(C)受熱部Hと放熱部Cが交互に配置されており、両部の間を細孔が蛇行している。
(D)細孔内には二相凝縮性流体(作動流体)101が封入されている。
(E)細孔の内壁は、上記作動流体101が常に孔内を閉塞した状態のままで循環または移動することができる最大直径以下の径をもつ。
【0004】
ヒートパイプ100内で作動流体101の循環流が発生し、受熱部から放熱部へ熱(温熱)が輸送される。循環流の発生する方向はヒートパイプ100の姿勢によって異なる。
ヒートパイプ100が水平に配置された状態では、受熱部Hで発生した蒸気泡103の圧力が放熱部Cで減圧縮小されるため、作動流体101は受熱部Hから最も近い放熱部Cに向かって流れ、作動流体101が図の実線矢印方向に循環する。一方、垂直に配置されてボトムヒートとした状態では、受熱部Hで発生した蒸気泡103は、最も抵抗の少ない連結部105を通って上昇し、一方、これらの蒸気泡103の多くが凝縮した作動流体101は重力により蛇行部を下降し、作動流体101が図の破線矢印方向に循環する。なお、受熱部から放熱部に冷熱を送る場合には、上記とは逆に受熱部で作動流体の凝縮が生じ、放熱部で作動流体の蒸発が生じる。
【0005】
このような閉ループ型蛇行細管ヒートパイプの熱輸送特性として、粘性係数の小さい液体(R141b)を作動流体として用いた場合、細管の内径を0.8mmと細径化しても十分な熱輸送特性を有することが確認されている(例えば、後記の非特許文献1参照)。また、ヒートパイプ製作時の初期真空について、ウィック型ヒートパイプは0.010mmHg前後の高真空を要するのに対して、閉ループ型細管ヒートパイプは60mmHg程度の低真空であっても十分な熱輸送能力を有する。
【0006】
さらに、この文献では、作動流体の蒸気相と液相の移動を可視化して、循環流の発生を考察している。その結果、2往復閉ループ型ヒートパイプにおいて、同パイプ内に3つの主蒸気プラグと3つの主液柱が交互に形成され、これらの加熱及び冷却による成長や凝縮により、受熱部と放熱部間で循環流の駆動力が発生している。
【0007】
ヒートパイプは、冷熱輸送(冷却装置)に用いることもできる。ヒートパイプの受熱部に冷熱発生体を取り付けると、この冷熱発生体が発生する冷熱がヒートパイプの受熱部に伝えられ、熱輸送部を経由して冷熱が輸送され、放熱部で放出される。ここで、放熱部に冷却したい対象物(被冷却物)を取り付けると、この被冷却物に冷熱発生体からの冷熱がヒートパイプを経由して輸送され、被冷却物が冷却される。
【0008】
【非特許文献1】
「SEMOS Heat Pipeの熱輸送特性」(永田、西尾、白樫、馬場、第38回日本伝熱シンポジウム講演論文集(2001−5))
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
受熱部と放熱部が離れており、かつ、両部の間に十分なスペースが存在しない環境下で、蛇行細管ヒートパイプを使用する場合、どのような機器構成とするかについては、過去に提案がなされていない。また、上述の非特許文献1には、2往復閉ループ型ヒートパイプの場合には、循環流の駆動力が発生し熱輸送を滑らかに行えることが示されているが、1往復の場合については言及していない。
【0010】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、受熱部と放熱部が離れており、かつ、両部の間に十分なスペースが存在しない対象に適用することのできる細管ヒートパイプ及び温度調整装置を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明の細管ヒートパイプは、 受熱部(55)と、該受熱部から離隔している放熱部(53a)と、前記両部をつなぐ熱輸送部(53b)と、を具備し、 全体として閉ループをなす細管からなる細管ヒートパイプであって、 前記熱輸送部(53b)が、1往復のみの細管により構成されており、 前記受熱部(55)又は放熱部(53a)が、複数のターンを有する蛇行細管(蛇行ターン部(55))により構成されており、 前記蛇行ターン部(55)の一方のターン端部(55R)が加熱され、他方のターン端部(55L)が冷却さるか、あるいは、前記蛇行ターン部(55)の一方のターン端部(55R)が冷却され、他方のターン端部(55L)が加熱され、 これにより受熱部又は放熱部である1箇所の蛇行ターン部(55)内で温度の低い部分と高い部分とが形成されて作動流体が蒸発・凝縮され、もって前記蛇行ターン部(55)内の作動流体の流動力を高めることにより、受熱部(55)と放熱部(53a)間での流動力を増大させたことを特徴とする。
1往復のみとすることにより、熱輸送部を細くできるため、狭い空間を隔てて離れている受熱部と放熱部間で熱輸送を行うことができる。ここで、ループ型の細管ヒートパイプは、熱輸送部を1往復としても十分な熱輸送能力を発揮することができることは、試作品で確認済である。なお、本発明における“熱”は温熱及び冷熱の双方を含み、ヒートパイプの受熱部は、いずれの場合でも輸送させたい熱を発生する側を指す。
【0012】
本発明においては、 前記受熱部及び/又は放熱部を、複数のターンを有する蛇行細管(蛇行ターン部)で構成すれば、受熱部と放熱部の表面積が大きくなり、熱輸送量を多くすることができる。
【0013】
本発明においては、 前記蛇行ターン部の一方のターン端部が加熱又は冷却され、他方のターン端部が冷却又は加熱され、該蛇行ターン部において作動流体を蒸発・凝縮させ、もって前記蛇行ターン部内の作動流体の流動力を増すことが好ましい。
受熱部及び/又は放熱部内での作動流体の流動力を高めることにより、受熱部と放熱部間での本来の蒸発・凝縮による流動力が増大され、細管ヒートパイプ全体での作動流体の流動力がアップする(ブースター効果)。これにより、遠くまで相当量の作動流体を流せるので、熱輸送可能量を増やすことができ、熱輸送可能距離を長くできる。
【0014】
本発明においては、 前記受熱部及び/又は放熱部に、該ヒートパイプ細管と被加熱物・被冷却物との間の熱伝導を中継する良熱伝導性の伝熱部材(ボス)が取り付けられており、 該ボスが、前記受熱部及び/又は放熱部をなすヒートパイプ細管が埋め込まれる溝を有することが好ましい。
良熱伝導性の伝熱部材を介在させることにより、ヒートパイプの受熱部及び/又は放熱部と、被加熱物・被冷却物との間の熱伝導性が良好になり(接触面積が大きくなることによる)、輸送させたい熱を発生する側(温熱の場合は被冷却物、冷熱の場合は被加熱物)から同熱を放熱する側(温熱の場合は被加熱物、冷熱の場合は被冷却物)へ効率的に熱(温熱又は冷熱)を輸送できる。また、細管がボスの溝内に埋め込まれているため、細管−ボス間の熱伝導が良くなるとともに、ボスを被加熱・被冷却部に取り付ける際にボスに機械的な圧縮力がかかっても、細管が変形しない。
【0015】
本発明の温度調整装置は、 ペルチェユニット等の冷熱・温熱発生装置(熱発生装置(83))と、該熱発生装置と被冷却物・被加熱物との間に配置可能な細管ヒートパイプ(51)と、を備える温度調整装置であって、 前記細管ヒートパイプ(51)が、前記熱発生装置(83)に接続される受熱部(55)と、該受熱部から離隔しており被冷却物・被加熱物に接続される放熱部(53a)と、前記両部をつなぐ熱輸送部(53b)と、を具備する、全体として閉ループをなす細管からなり、 前記熱輸送部(53b)が、1往復のみの細管により構成されており、 前記受熱部又は放熱部が、複数のターンを有する蛇行細管(蛇行ターン部(55))により構成されており、 前記蛇行ターン部(55)の一方のターン端部(55L)が前記熱発生装置(83)によって冷却され、他方のターン端部(55R)が前記熱発生装置(83)の素子放熱媒体で加熱さるか、あるいは、前記蛇行ターン部(55)の一方のターン端部(55L)が前記熱発生装置(83)によって加熱され、他方のターン端部(55R)が前記熱発生装置(83)の素子放熱媒体で冷却され、 これにより受熱部又は放熱部である1箇所の蛇行ターン部(55)内で温度の低い部分と高い部分とが形成されて作動流体が蒸発・凝縮され、もって前記蛇行ターン部(55)内の作動流体の流動力を高めることにより、受熱部(55)と放熱部(53a)間での流動力を増大させたことを特徴とする。
上記熱発生装置としては、冷熱のみを発生するもの、温熱のみを発生するもの、冷熱と温熱の両方を発生可能なもの、のいずれでもよい。ペルチェユニットは、流す電流の向きを変えることにより、冷熱発生装置としても温熱発生装置としても切替えて使用できる。
【0016】
本発明においては、 前記受熱部及び/又は放熱部が、複数のターンを有する蛇行細管(蛇行ターン部)により構成されることが好ましい。そして、 前記蛇行ターン部の一方のターン端部が前記熱発生装置によって冷却又は加熱され、他方のターン端部が周囲の空気により加熱又は冷却されることが好ましい。そして、一方のターン端部が熱発生装置によって冷却される場合には、他方のターン端部は該熱発生装置の素子放熱媒体(例えば空気)で加熱されることが好ましい。これにより、蛇行ターン部の両端部を冷却又は加熱しない場合と比べて、さらに熱輸送可能量や熱輸送可能距離が向上する。なお、素子放熱媒体とは以下のようなものである。熱発生装置が例えばペルチェ素子の場合は素子が板状をしており、その片側の面がヒートパイプ受熱部と接する熱的な作用面(例えば冷熱発生面)となり、その作用面の反対側の面(放熱面)に上記作用面と反対の熱的現像(例えば温熱)を生じる。この反対側の面に温熱が生じる場合は、過熱による素子の損傷を防ぐため、この面に風などの素子放熱媒体を当てて放熱させてやる必要がある。ここでは、その素子放熱媒体を前記蛇行ターン部におけるブースター効果を増大させるための補助的な熱源として用いるのである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明のベースとなる細管ヒートパイプの構造を説明する図であり、図1(A)は平面図、図1(B)は側面図である。以下の説明で挙げる寸法は一例である。
この細管ヒートパイプ1は、両端のターン部(受熱部、放熱部)3−1、3−2と、両ターン部3間を延びる直線部(熱輸送部)5とから構成され、1本のパイプの両端を連通させた閉ループを形成している。両ターン部3は、熱伝導性の高い銅等で作製される。
【0018】
両ターン部3は、長さ140mm、外径2.8mm、内径2.1mmのパイプを、パイプのほぼ中心に径が18mmのほぼ円形のループ3aが形成されるように湾曲させたものである。ループ3aの基部3bでは、2本のパイプが接して平行に延びている。
直線部5は、長さ220mm、外径が1.9mm、内径が1.7mmの直線状の2本のパイプ(ステンレス鋼製)7、9から構成される。このように熱輸送部を熱伝導率の比較的小さいステンレス鋼としたのは、同部5ではヒートパイプと外界との熱交換を極力少なく抑えたいからである。この意味から、熱輸送部を断熱部と呼ぶこともある。
【0019】
直線部5のパイプ7、9の両端は、2つのターン部3の基部3bの端に挿入されてロウ付けにより気密接続される。これにより、直線部5とループ部3が接続し、直線部5の2本のパイプ7、9の内孔と2つのターン部3の内孔が連通して閉ループを形成する。このとき、直線部5がターン部3の基部3bに挿入される長さは、一方が20mm、他方が28mmである。直線部5の2本のパイプ7、9は、両ターン部3間を、互いに接触して平行に延びる。そして、両端から85mmの位置で、パイプ7、9は幅15mmの耐熱性のテープ11で固定される。ヒートパイプ1の全長は300mmである。
図中の符号13は、作動流体をヒートパイプ1の内孔に注入するための注入口で、封入後密閉される。
【0020】
この細管ヒートパイプ1は、両ターン部3が受熱部又は放熱部として作用し、直線部5が熱輸送部として作用する。熱輸送部は2本の直線状のパイプ7、9から構成されているので、この細管ヒートパイプ1は受熱部と放熱部を1往復で接続している。この例では、両ターン部3(すなわち受熱部と放熱部)が約220mm程度離れているが、十分な熱輸送能力を発揮することができる。また、ターン部3をつないでいる直線部5は、幅が3.8mm、高さが1.9mm程度と小さく、狭いスペースにも設置することができる。また、この直線部5は途中で湾曲していても、同等の効果を得ることができる。
【0021】
図2は、本発明のベースとなる他の細管ヒートパイプの構造を説明する図であり、図2(A)は平面図、図2(B)は側面図である。
この例の細管ヒートパイプ21は、図1の細管ヒートパイプとほぼ同様の構成を有するが一方のループ部の構造が異なる。この細管ヒートパイプ21は、図の右端の一ターン部23と、図の左端の蛇行ターン部29と、両部をつなぐ直線部27とから構成され、1本のパイプの両端を連通させた閉ループを形成している。
【0022】
一ターン部23は、長さ100mm、外径2.8mm、内径2.1mmのパイプを、パイプのほぼ中心に径が18mmのほぼ円形のループ23aを形成するように湾曲させたものである。ループ23aの基部23bでは、2本のパイプが接して平行に延びている。一ターン部23は、直線部27の図の右端に接続されている。
【0023】
直線部27の図の左端には、蛇行ターン部29が接続されている。直線部27と蛇行ターン部29は、長さ500mm、外径2.0mm、内径1.6mmの一対のパイプ31、33から構成される。直線部27では、各パイプ31、33が直線状に延びている(符号31a、33a)。蛇行ターン部29は、直線パイプ部31a、31bから蛇行型に折り曲げられて、2つのターンと1つの湾曲部を形成する。一つ目のターン31b、33bは、直線パイプ部31a、33aからヘアピン状に折り返されて形成され、二つ目のターン31c、33cは、直線パイプ部31a、33aとほぼ平行となるように半円状に外方向に折り返されて形成される。湾曲部31d、33dは直角方向に1/4円状に湾曲している。蛇行ターン部29のパイプ端部は、接続パイプ35の両端に挿入されてロウ付けにより気密接続されている。これにより、両パイプ31、33が接続し、内孔が連通する。接続パイプ35は、長さ20mm、外径2.8mm、内径2.1mmであり、蛇行ターン部29の端部の挿入長さは7mmである。
【0024】
このように、蛇行ターン部29には、ターン31b、31c、33b、33cの4つのターンと、湾曲部31d、33dと接続パイプ35で構成される1つのターンの、合計5個のターンが形成される。直線部27の長さは約230mm、蛇行ターン部29の長さは70mmで幅は44mmである。
【0025】
2本のパイプ31、33の他方の端部は、一ターン部23の基部23bの端に挿入されてロウ付けにより気密接続される。これにより、直線部27及び蛇行ターン部29と一ターン部23が接続し、直線部27及び蛇行ターン部29の内孔と一ターン部23のパイプの内孔が連通する。このとき、直線部27が一ターン部23に挿入される長さは、約16mm程度である。そして、一ターン部23の端から70mm、蛇行ターン部29の端から75mmの位置で、直線部27のパイプ31、33が幅15mmの耐熱性のテープ37で固定される。ヒートパイプ21の全長は340mmである。
図中の符号39は、作動流体の注入口で、封入後密閉される。
【0026】
この細管ヒートパイプ21は、一ターン部23又は蛇行ターン部29が受熱部又は放熱部として作用し、直線部27が熱輸送部として作用する。直線部27は2本のパイプ31、33から構成されているので、受熱部と放熱部を1往復で接続している。受熱部又は放熱部としてどちらのターン部を用いてもよい。蛇行ターン部29は一ターン部23より表面積が大きいため、図1の細管ヒートパイプ1に比べて、数倍〜数十倍の高い熱輸送能力を期待できる。
【0027】
また、本実施の形態の細管ヒートパイプは、上述のように、ターンの数が多いほど高い受熱能力又は放熱能力を有するので、被冷却物・被加熱物の発生熱量に応じてターンの数を設定すれば、最適な熱輸送装置を構成できる。なお、この例の細管ヒートパイプでは熱輸送部の最大有効長さは1000mm程度である。
【0028】
図3は、本発明のベースとなる他の細管ヒートパイプの構造を説明する図であり、図3(A)は平面図、図3(B)は側面図である。
図4は、図3の細管ヒートパイプのターン部の側面断面図である。
この例の細管ヒートパイプ41は、図1の細管ヒートパイプ1の両方のターン部にボス(伝熱部材)を設けたものである。図3において、図1の細管ヒートパイプと同様の構成・作用を有する部材は同一の符号を付して説明を省略する。なお、図3においては、テープ11を省略している。図1及び図2のヒートパイプ1、21においても、テープ11、37を省略することができる。各部の寸法は、図1の細管ヒートパイプ1の寸法と同様である。
【0029】
両ターン部3−1、3−2には、各々ボス(伝熱部材)45が取り付けられている。各ボス45は、銅等の良熱伝導性の材料で作製され、一例で、径が24mm、厚さが6mmの円盤状である。各ボス45の外周面には溝46が形成されている。この溝46に、ターン部3のループ3aの細管が埋め込まれる。この際、図4に示すように、まず、ループ3aの細管を溝46に沿って湾曲させながら埋め込む。そして、ループ3aの細管の外側の面と溝46との間にハンダ47を流し込み、両者を固定する。これにより、ループ3aの細管とボス45とを十分な熱伝導性をもって固定できる。
【0030】
ボス45の中央には、2つの貫通孔48が形成されている。図4に示すように、ボス45は、これらの貫通孔48に通されたネジ49によって、受熱体や放熱体へ取り付けられる。このように、ボス45の端面が受熱体や放熱体に接するため、ヒートパイプと受熱体又は放熱体との間の接触面積が大きくなり、伝熱性を良くすることができ、熱輸送量が大きくなる。また、取り付けの際にネジ49を締め付けてもパイプには大きな負荷がかからないため、パイプが変形してパイプ内の作動流体の循環に悪影響を与えるようなことがない。さらに、2本のネジ49を用いることにより、各ネジを締め付ける際にネジとともにボス45(ヒートパイプ)が回転せず、ヒートパイプが損傷するようなことがない。
【0031】
図5は、図3の細管ヒートパイプをスクリュー式真空ポンプに適用した状態を説明する図であり、図5(A)は側面断面図、図5(B)は正面断面図である。
スクリュー式真空ポンプ200のケーシング210内には、メインスクリューロータ220(図の左側に示す)とサブスクリューロータ230(図の右側に示す)が収容されている。メインスクリューロータ220は雌雄のスクリューロータ220f、220mから構成され、サブスクリューロータ230も雌雄のスクリューロータ230f、230mから構成されている。雄スクリューロータ220m、230mは軸222に取り付けられており、雌スクリューロータ220f、230fは軸221に取り付けられている。各軸は、軸受231、232、233、234、235等によってケーシング210に回転可能に取り付けられている。なお、メインスクリューロータ220とサブスクリューロータ230は歯数比が異なる。ケーシング210の、各スクリューロータの先端側(図の左側)には吸気口210aが形成されており、同ロータの基端側(図の右側)のケーシング側壁には排気口210cが形成されている。
【0032】
雄スクリューロータ軸222の基端側の端部222aにはタイミングギア242が取り付けられている。このタイミングギア242は、雌スクリューロータ軸221の端部221aに取り付けられたタイミングギア242´とかみ合う。また、雄スクリューロータ軸222は、モータ243の回転軸(図示されず)に接続されている。モータ243が回転すると雄スクリューロータ220m、230mが回転し、タイミングギア242、242´のかみ合いにより雌スクリューロータ220f、230fも回転する。
各スクリューロータ220、230の回転により、空気が吸気口210aから吸い込まれ、各ロータ間で圧縮・移送されて、排気口210cから外部に排出される。
【0033】
このような真空ポンプ200においては、モータ243の駆動によるタイミングギア242の回転により熱が発生しやすく、タイミングギア242が収容されている部分(図の右側)のケーシング210Rの温度が上昇する。ケーシング210の温度上昇により、空気漏れに起因する効率低下等の不具合が生じるため、ケーシング210には冷却手段が設けられている。この冷却手段に、上述の実施形態に係る細管ヒートパイプが用いられる。
【0034】
細管ヒートパイプ41は、ケーシング210の吸気口210aの側210L(図の左側)に設けられた台座251に一方のボス45Lが取り付けられ、タイミングギア242の側方(図の右側)に設けられた台座253に他方のボス45Rが取り付けられ、直線部5は両台座間を延びる。台座251、253は高熱伝導性の材料で作製され、受熱板として作用する。台座251、253はケーシング210と一体に設けられればなおよい。吸気口210a側のボス45Lが放熱部、タイミングギア242側のボス45Rが受熱部となる。細管ヒートパイプの両ボス45L、45Rは、各々台座に2個のボルト49により固定される。なお、図5(B)に示すように、細管ヒートパイプは、ケーシング210の外周に複数個配置される。
【0035】
温度が上昇したタイミングギア242側のケーシング210Rの熱は、台座253を介して、細管ヒートパイプ41のボス45Rに伝えられる。熱は、直線部5を通って吸気口側のボス45Lに輸送され、台座251を介して吸気口210a側のケーシング210Lに伝えられて放熱する。なお、図5(A)では、真空ポンプ200の各ロータ220、230の軸の延びる方向は左右方向に描かれているが、実際には、各ロータ軸が重力方向(上下方向)に沿うような姿勢で真空ポンプ200は設置される。
【0036】
このように、細管ヒートパイプは、ボルトを用いる簡単な作業で、適宜な数だけ取り付けることができるため、従来のように、ヒートパイプをケーシングに埋め込むような複雑な加工を行う必要がない。
【0037】
また、本実施形態の細管ヒートパイプ41は、オートバイ等に搭載されるV字型エンジンにも適用できる。V字型エンジンとは、側面形状がV字型で、前後車輪間に配置される。このエンジンの進行方向前方のシリンダは、走行中に空気が当たりやすく良好に冷却されるが、後方のシリンダは、前方のシリンダに遮られて空気が当たりにくく、冷却の度合いが低下する。そこで、本実施の形態の細管ヒートパイプ41の一方のボス45(受熱部)を後方のシリンダに位置させ、他方のボス45(放熱部)を前方のシリンダに位置させることにより、後方部から前方部へ熱輸送することができる。これにより、長時間の連続走行をしてもエンジンのオーバーヒートが起こりにくくなる。この際も、細管ヒートパイプはボルト等により簡単な作業で取り付けることができる。
【0038】
図6は、本発明の実施の形態に係る細管ヒートパイプの構造を説明する図であり、図6(A)は平面図、図6(B)は側面図である。
この例の細管ヒートパイプ51は、図2の細管ヒートパイプ21とほぼ同様の構成を有するが、図2の細管ヒートパイプ21より長さが大幅に長い。そして、蛇行ターン部のターン数が多くなっている。
【0039】
直線部(熱輸送部)53b及び一ターン部53は、長さ1700mm、外径2.0mm、内径1.6mmのパイプを、パイプのほぼ中心に径が14mmのほぼ円形のループ(放熱部)53aを形成するように湾曲させたものである。ループ53aの基部では、2本のパイプが接して平行に延びて直線部53bを形成している。
【0040】
蛇行ターン部(受熱部)55は、長さ1700mm、外径2.0mm、内径1.6mmの一対のパイプ57、59から構成される。各パイプ57、59は、細管ヒートパイプ51の長さ方向中心に対して対称形に配置される。パイプ57、59の一方の端部は、接続パイプ63を介して別のパイプの端部に接続し、各パイプ57、59の内孔が連通する。また、他方の端部は、接続パイプ61を介して直線部53bの端部と接続し、蛇行ターン部55のパイプの内孔と、直線部53b及び一ターン部53のパイプの内孔が連通する。各パイプ57、59が接続パイプ61、63に挿入される長さは、約20mm程度であり、各パイプ57、59と接続パイプ61、63とはロウ付けによって気密に接続される。接続パイプ61、63の長さは60mm、外径2.8mm、内径2.1mmである。
【0041】
両端部の間には複数のターン部が形成される。詳しく説明すると、パイプ57は接続パイプ61から直線部53bと同方向に延びて第1直線部57aとなる。そして第1直線部57aからやや外方向に拡がるように延びた先で第1直線部57aと平行に延びる第2直線部57bとなる。そして、同第2直線部57bから外方向にヘアピン状に折り返されて、一つ目のループ状ターン57cを形成し、その先は第2直線部57bと接して平行に延びる第3直線部57dとなる。第3直線部57dは、第2直線部57bの基端まで延びて、外方向に半円状に折り返されて一つ目の半円状ターン57eを形成し、その先は第2直線部57b及び第3直線部57dと平行に延びる第4直線部57fとなる。そして、同様に二つ目のループ状ターン57g、第5直線部57h、二つ目の半円状ターン57i、第6直線部57jを形成する。第6直線部57jの先は、直角内方向に1/4円状に湾曲する湾曲部57kとなり、端部が接続パイプ63の端部に挿入されている。
なお、他方のパイプ59は、これと対称の形状を有する。
【0042】
このように、蛇行ターン部55には、4つのループ状ターン57c、57g、59c、59gと、4つの半円状ターン57e、57i、59e、59iとからなる8つのターン、2つの湾曲部57k、59kと接続パイプ63で構成される1つのターンの、合計9個のターンが形成される。蛇行ターン部55の長さは320mm、幅は87mmである。また、細管ヒートパイプ51の全長は1300mmであり、この内、半円状ターン部の端と一ターン部間の長さは980mmである。
【0043】
蛇行ターン部55を受熱部、一ターン部53を放熱部とする。受熱部においては、蛇行ターン部55の全ての部分が受熱板69に当てられるのではなく、蛇行ターン部55の図の左側(L端部55Lの側、ループ状ターン57cや57gの側、一ターン部53の反対側)に受熱板69が配置されて、蛇行ターン部55と受熱板69はハンダで固定される。一方、蛇行ターン部55の右側(R端部55Rの側、半円状ターン57iや57eの側)は大気中に露出される。つまり、受熱部(蛇行ターン部55)内で温度の低い部分(受熱板69に当てられているL端部55L)と高い部分(大気中に露出されているR端部55R)とを作る。
【0044】
この図6のヒートパイプは、受熱部内での作動流体の流動力を高めて、ヒートパイプ全体での作動流体の流動力をアップさせ、長い距離を熱輸送できるように作用する。なお、より詳細には、図7及び図9を参照しつつ後述する。
【0045】
図7は、本発明に係る温度調整装置を冷却装置として用いる場合の構成、及び、その冷却能力試験の様子を説明する図であり、図7(A)は平面図、図7(B)は側面図である。
図8は、本発明に係る温度調整装置を加熱装置として用いる場合の構成を説明する側面図である。
図9は、図7の温度調整装置の一部の構造を説明する斜視図である。
図7の温度調整装置81では、冷却能力を評価するために、図6に示す細管ヒートパイプ51を用いて、ペルチェユニット(熱発生装置)83で作られる冷熱を、ヒータ95で加熱されているステンレスバット93内の温水に輸送している。細管ヒートパイプ51の構造・作用は、図6の細管ヒートパイプと同様であり、説明を省略する。
【0046】
テーブル85上の一端には、ジャッキ87が置かれ、同ジャッキ87上にペルチェユニット83が載置されている。同ユニット83は、ジャッキ87上で、水平に対して30°の角度に傾斜し、排気ダクト89が、傾斜方向下側となるように配置される。これは、ヒートパイプ51を熱移動しやすいボトムヒートの姿勢とするためである(詳細後述)。排気ダクト89からは、ペルチェユニット83の素子放熱面に当った後の温風が吹き出される。この現象について図9を参照して詳細に説明する。
【0047】
ペルチェユニット83の熱発生源であるペルチェ素子は板状の形状であり、片側の面が所望の熱を発生させる熱的作用面(例えば冷熱発生面)となり、同面と反対側の面がその熱的作用と反対の熱的現象が発生する面(例えば放熱面)となる。このようなペルチェ素子において、冷熱発生面と放熱面とで45℃の温度差を作る場合を考えて、例えば、同素子を冷熱発生源として使用する場合に、熱的作用面から−5℃の冷熱を発生させると、その反対側の面では+40℃の温熱が発生する。そこで、この反対側の面を冷風などによって冷やす必要がある。一方、同素子を温熱発生源として使用する場合に、熱的作用面から+50℃の温熱を発生させると、その反対側の面では温度が+5℃の冷熱が発生する。そこで、この反対側の面を温風などによって温める必要がある。
【0048】
図9の場合は、ペルチェ素子は冷熱発生源として使用される。図9に示すように、ペルチェ素子66は、ペルチェユニット83の上面に取り付けられており、上側の面が冷熱発生面、下側の面が放熱面68となる。放熱面68を冷却するために、ペルチェユニット83にはファン84が設けられている。ファン84が回転すると、室内空気70aがユニット83内に取り込まれてペルチェ素子66の放熱面68に当たり、同面68を冷却する。ユニット83内に取り込まれた室内空気70aは放熱面68からの放熱によって温度が室温+2〜3℃程度まで上昇し、この温度が上昇した空気70bがユニット83の排気ダクト89から排出される。この排気温風70bは、後述するようにヒートパイプ51の熱輸送特性の向上のために用いられる。
【0049】
ヒートパイプ51のL端部55Lは、受熱部である蛇行ターン部55にペルチェユニット83から冷熱が供給されるように、ペルチェユニット83に取り付けられる。詳しく説明すると、L端部55Lが固定されている受熱板69がペルチェユニット83の上面(ペルチェ素子66の冷熱発生面)にネジ等で固定されており、同端部55Lには、ペルチェ素子66から受熱板69を介して冷熱が伝えられる。一方、R端部55Rは大気中に露出しており、排気ダクト89から排出される、ペルチェ素子66の放熱面68からの放熱によって温度が上昇した空気70bが当たる。
【0050】
このように蛇行ターン部55内で、温度の低い部分(L端部55L)と温度の高い部分(R端部55R)が形成されると、同部内で作動流体が活発に移動する。したがって、ペルチェユニット83の作動によって付随的に発せられる、温度が上昇した空気を蛇行ターン部55のR端部55Rに当てることにより、L端部55Lに冷熱を供給しただけの場合よりもL端部55LとR端部55Rとの温度差が大きくなり、その結果蛇行ターン部55における作動流体の流動を活発化させてブースター効果をより増大させることができる。つまり、ペルチェ素子の素子放熱媒体(空気70a、70b)をブースター効果を増大させるための補助的な熱源として利用するのである。
【0051】
また、受熱部においては、上述のように、温度の低いL端部55Lが上方、温度の高いR端部55Rが下方に位置し、熱移動しやすいボトムヒートの姿勢をとっている。
【0052】
図7に示すように、テーブル85上の他端には、断熱材91を介してステンレスバット93が置かれている。同バット内には水道水が入れられている。水道水はヒータ(一例で出力27W)95で加熱される。
細管ヒートパイプ51は、ペルチェユニット83に取り付けられた蛇行ターン部55から下方に傾斜し、その先でテーブル85の上面と平行に水平に延びて、一ターン部53の一部がバット93内に沈められている。蛇行ターン部55の先端のベース85上からの高さは520mmである。細管ヒートパイプ51の水平に延びる部分の長さは450mmであり、その内有効な熱交換部(水に浸されている部分)の長さは280mmである。
【0053】
一方、図8に示すような、本発明に係る温度調整装置を加熱装置として用いる場合は、ペルチェユニットに流す電流の向きを、図7に示す冷却装置の場合の反対方向に切替える。すると、同ユニットのペルチェ素子の上側の面が温熱発生面となり、下側の面が冷熱放熱面となる。この状態において、蛇行ターン部55のL端部55Lに当てられている受熱板69をペルチェ素子66の温熱発生面に固定し、R端部55Rを大気中に露出させる。これにより、蛇行ターン部55内で温度の高い部分(L端部55L)と温度の低い部分(R端部55R)が形成される。
【0054】
そして、蛇行ターン部55をボトムヒートの姿勢とするために、温度の高いL端部55Lが下方、温度の低いR端部55Rが上方となるように、同部55をペルチェユニット83上に傾斜して配置する。傾斜角度は一例で水平面に対して30°である。このように、ヒートパイプ51は、蛇行ターン部55から一ターン部53へ向けて上方に傾斜するように配置されている。なお、加熱装置として用いる場合、ペルチェユニット83の排気ダクト89は傾斜方向下側になるように位置させ、ペルチェユニット83からの排気を蛇行ターン部55のR端部55Rに当てない。なぜなら、この場合の排気は冷熱であり、細管ヒートパイプがペルチェ素子から吸収した温熱を低下させる方向に作用してしまうからである。
【0055】
ペルチェユニット83は、上述のようにヒートパイプ51をボトムヒートの姿勢とするために、テーブル85上の一端に置かれたジャッキ87上に、水平に対して30°傾斜して配置されている。そして、テーブル85上の他端には、断熱材91及び支柱92を介して水道水が入れられたステンレスバット93が置かれている。細管ヒートパイプ51は、蛇行ターン部55から上方に傾斜し、その先でテーブル85の上面と平行に水平に延びて、一ターン部53の一部がバット93内に沈められている。この装置は、バット93内の水道水の温度を上昇させる場合に使用される。
【0056】
次に、温度調整装置におけるヒートパイプの作用についてまとめて説明する。ここでは、温度調整装置を冷却装置として使用する場合について、図7、図9を参照しつつ説明する。
ペルチェユニット83を作動させると、蛇行ターン部55においては、L端部55Lで冷熱が吸熱されて、同部のパイプ内で作動流体の凝縮が起こる。同時に、R端部55Rが周囲の空気で温められて、同部のパイプ内で作動流体の蒸発が起こる。L端部55LとR端部55R間の距離は比較的短いので、このような作動流体の凝縮と蒸発により、作動流体は両端部間を活発に移動する。蛇行細管ヒートパイプ51は一つの閉ループを成しているので、蛇行ターン部55内の両端部間で作動流体が活発に移動すると、作動流体の流動力は、蛇行ターン部55から一ターン部53へ延びる直線部53b内の作動流体にも伝えられる(ブースター効果)。これにより、蛇行ターン部55から一ターン部53までの距離が離れている場合でも、作動流体は、蛇行ターン部55から一ターン部53まで直線部53b内を流れる力を得ることができる。この方式によると、熱輸送距離を2000mm程度まで長くすることができる(別の試験で確認済み)。
【0057】
なお、受熱部あるいは放熱部内での作動流体の往復数、すなわち、ターン数が多いほど作動流体の流動力が大きくなり熱輸送能力が高くなることは、通常の蛇行細管ヒートパイプと共通である。
【0058】
次に、図7の冷却装置を使用した冷却実験の結果について説明する。
バット93内の水道水の容積を5リットルとし、実験開始時における水の温度を37℃とした。そして、この水道水を、ヒータ通電状態であっても、32℃に冷却することを目標とした。なお、実験に使用したペルチェユニット83の出力は40Wである。
【0059】
作動流体の熱輸送能力をさらに向上させるために、蛇行ターン部55のR端部55R側において、図9に示すように、熱輸送部53b(中央の2本の直線部57b、59bを含む)に排気ダクト89からの排気温風が当らないように遮蔽板97を設けた。こうすることにより、ペルチェユニット83から作り出される冷熱が、熱輸送部53bを通過する間に、排気温風で加熱されてしまうことを防ぐ。したがって、ペルチェユニット83で発生する冷熱を、熱輸送部53bを通過中に減少させてしまうことなく、バット93内の水道水まで輸送することができる。
【0060】
図10は、図7の冷却装置を用いて行った冷却実験の結果を示すグラフである。
図の縦軸は温度、横軸は経過時間を示す。また、◆はバット内の水道水の温度、●は室温を示す。
まず、ヒータによりバット93内の水道水を37.1℃の温度に加熱した。ペルチェユニット83は予め起動させておき、一ターン部53を水道水に浸けた時点を実験開始時間とし、水温が飽和した8時間後に一ターン部53を水道水から引き上げた。
【0061】
グラフから分かるように、水温は、実験開始から徐々に下降し、約6時間後には31.3℃まで低下した。そして、冷熱輸送を停止するまでの約2時間はこの飽和温度を維持し続けた。ヒータ95は、実験開始から終了までの13時間、常に通電状態にしておいたので、一ターン部53を水道水から引き上げた後は、初期の水温の37℃に向かって、再び水温が上昇して行った。
【0062】
この冷却装置の実験時間内の平均冷却能力は、
5000g×1cal/g・℃×(37.1℃−31.3℃)/(6hr×860cal/hr)=5.6Wであった。
また、図10のグラフから分かるように、実験開始直後の1時間は特に温度降下が大きく(すなわち、冷却能力が大きく)、1時間で水温が2℃低下した。この間の冷却能力は、
5000g×1cal/g・℃×(37.1℃−35.1℃)/(1hr×860cal/hr)=11.6Wであった。
これは、実験開始時点でペルチェユニット83及び受熱板69に溜まっていた冷熱が、一気に放出されたためと考えられる。
【0063】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、熱輸送部を1往復のヒートパイプで形成することにより、受熱部と放熱部が離れており、かつ、両部の間に十分なスペースが存在しない対象に適用することのできる細管ヒートパイプ及び同ヒートパイプを使用した温度調整装置を提供することができる。また、受熱部及び/又は放熱部のターン数を多くすることにより、さらに大きな熱輸送能力を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のベースとなる細管ヒートパイプの構造を説明する図であり、図1(A)は平面図、図1(B)は側面図である。
【図2】 本発明のベースとなる他の細管ヒートパイプの構造を説明する図であり、図2(A)は平面図、図2(B)は側面図である。
【図3】 本発明のベースとなる他の細管ヒートパイプの構造を説明する図であり、図3(A)は平面図、図3(B)は側面図である。
【図4】 図3の細管ヒートパイプの一部の側面断面図である。
【図5】 図3の細管ヒートパイプをスクリュー式真空ポンプに適用した状態を説明する図であり、図5(A)は側面断面図、図5(B)は正面断面図である。
【図6】 本発明の実施の形態に係る細管ヒートパイプの構造を説明する図であり、図6(A)は平面図、図6(B)は側面図である。
【図7】 本発明に係る温度調整装置を冷却装置として用いる場合の構成、及び、その冷却能力試験の様子を説明する図であり、図7(A)は平面図、図7(B)は側面図である。
【図8】 本発明に係る温度調整装置を加熱装置として用いる場合の構成を説明する側面図である。
【図9】 図7の温度調整装置の一部の構造を説明する斜視図である。
【図10】 図7の冷温度調整装置を用いて行った冷却実験の結果を示すグラフである。
【図11】 特開平4−190090号に開示されている蛇行細管ヒートパイプの構造を示す一部断面平面図である。
【符号の説明】
1 細管ヒートパイプ 3 ターン部
5 直線部 7、9 パイプ
11 耐熱テープ 13 注入口
21 細管ヒートパイプ 23 一ターン部
27 直線部 29 複数ターン部
31、33 パイプ 35 接続パイプ
37 耐熱テープ 39 注入口
41 細管ヒートパイプ 45 ボス(伝熱部材)
46 溝 47 ハンダ
48 貫通孔 49 ネジ
51 細管ヒートパイプ 53 一ターン部
55 蛇行ターン部 57、59 パイプ
61、63 接続パイプ 66 ペルチェ素子
68 放熱面 69 受熱板
81 温度調整装置 83 ペルチェユニット
85 テーブル 87 ジャッキ
89 排気ダクト 91 断熱材
93 ステンレスバット 95 ヒータ
200 スクリュー式真空ポンプ 210 ケーシング
220 メインスクリューロータ 221、222 軸
230 サブスクリューロータ
231、232、233、234、235 軸受
241、242 タイミングギア 243 モータ
244 回転軸 251、253 台座
255 ボルト

Claims (3)

  1. 受熱部(55)と、該受熱部から離隔している放熱部(53a)と、前記両部をつなぐ熱輸送部(53b)と、を具備し、
    全体として閉ループをなす細管からなる細管ヒートパイプであって、
    前記熱輸送部(53b)が、1往復のみの細管により構成されており、
    前記受熱部(55)又は放熱部(53a)が、複数のターンを有する蛇行細管(蛇行ターン部(55))により構成されており、
    前記蛇行ターン部(55)の一方のターン端部(55R)が加熱され、他方のターン端部(55L)が冷却さるか、あるいは、前記蛇行ターン部(55)の一方のターン端部(55R)が冷却され、他方のターン端部(55L)が加熱され、
    これにより受熱部又は放熱部である1箇所の蛇行ターン部(55)内で温度の低い部分と高い部分とが形成されて作動流体が蒸発・凝縮され、もって前記蛇行ターン部(55)内の作動流体の流動力を高めることにより、受熱部(55)と放熱部(53a)間での流動力を増大させたことを特徴とする細管ヒートパイプ。
  2. 前記受熱部及び/又は放熱部に、該ヒートパイプ細管と被加熱物・被冷却物との間の熱伝導を中継する良熱伝導性の伝熱部材(ボス(45))が取り付けられており、
    該ボス(45)が、前記受熱部及び/又は放熱部をなすヒートパイプ細管が埋め込まれる溝(46)を有することを特徴とする請求項1記載の細管ヒートパイプ。
  3. ペルチェユニット等の冷熱・温熱発生装置(熱発生装置(83))と、該熱発生装置と被冷却物・被加熱物との間に配置可能な細管ヒートパイプ(51)と、を備える温度調整装置であって、
    前記細管ヒートパイプ(51)が、前記熱発生装置(83)に接続される受熱部(55)と、該受熱部から離隔しており被冷却物・被加熱物に接続される放熱部(53a)と、前記両部をつなぐ熱輸送部(53b)と、を具備する、全体として閉ループをなす細管からなり、
    前記熱輸送部(53b)が、1往復のみの細管により構成されており、
    前記受熱部又は放熱部が、複数のターンを有する蛇行細管(蛇行ターン部(55))により構成されており、
    前記蛇行ターン部(55)の一方のターン端部(55L)が前記熱発生装置(83)によって冷却され、他方のターン端部(55R)が前記熱発生装置(83)の素子放熱媒体で加熱さるか、あるいは、前記蛇行ターン部(55)の一方のターン端部(55L)が前記熱発生装置(83)によって加熱され、他方のターン端部(55R)が前記熱発生装置(83)の素子放熱媒体で冷却され、
    これにより受熱部又は放熱部である1箇所の蛇行ターン部(55)内で温度の低い部分と高い部分とが形成されて作動流体が蒸発・凝縮され、もって前記蛇行ターン部(55)内の作動流体の流動力を高めることにより、受熱部(55)と放熱部(53a)間での流動力を増大させたことを特徴とする温度調整装置。
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