JP4275431B2 - バクテリオファージを用いた細菌性冷水病治療用の薬剤 - Google Patents

バクテリオファージを用いた細菌性冷水病治療用の薬剤 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、魚類の細菌性冷水病を治療する薬剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
1980年代後半から、アユ養殖場等において、フラボバクテリウム・サイクロフィラムを原因菌とする「細菌性冷水病」が発生し始め、近年では全国的に被害が広まっている。細菌性冷水病は、貧血、体表の白濁、鰓蓋下部の出血、体表の潰瘍等の穴あき症状を特徴とし、症状の悪化により死に至る。このような冷水病の発生は年々高まっており、養殖場に限らず天然の河川の遊魚への影響も確認されており、社会問題化している。
【0003】
冷水病の予防策としては、化学的薬剤を投与したり(化学療法)、アユを加温処理する方法、またはこれらを組み合わせた方法が主に用いられている。
【0004】
化学的薬剤としては、例えばスルフィゾール(SIZ)などの、アユのビブリオ病に効能を有する複数の医薬品がフラボバクテリウム・サイクロフィラムに感受性を示すことが分かり、使用されている。さらに、抗生物質等を投与する方法もある。
【0005】
また、上記加熱処理は、保菌アユを25℃前後に加熱処理するという方法である。これは、細菌性冷水病の原因菌であるフラボバクテリウム・サイクロフィラムが水温が低いほど活性化するという性質を利用し、水温を上げることによってフラボバクテリウム・サイクロフィラムの活動を抑え、冷水病の発症が抑えるという方法である。
【0006】
さらに、冷水病を予防する方法として、卵や稚仔魚を消毒する技術の開発や、冷水病のワクチンの開発なども行われている。
【0007】
一方、近年、細菌性の感染症をバクテリオファージを用いて治療する方法が研究されている。例えば、非特許文献1には、マウスの大腸菌感染をファージを用いて治療する方法が記載されている。バクテリオファージは、細菌内で増殖して短時間(約30分)で細菌を殺す能力があり、しかも特定の細菌種あるいは特定の株にのみ感染するという特徴を有するので、感染症の治療に用いることができるのである。また、ファージは自然界における細菌の存在量を調整する役割を担っており、環境への有害性は皆無である。
【0008】
魚類についても、同様の方法を用いて、冷水病に次いで被害の多い細菌感染症である出血性腹水病に関して、出血性腹水病の原因菌に特異的に感染し、溶菌するバクテリオファージを用いて感染症をコントロールできることが非特許文献2および3に記載されている。
【0009】
【非特許文献1】
「ジャーナルオブジェネラルマイクロバイオロジー」("Journal of General Microbiology"),(イギリス),1982年,第128巻,p.307-318
【0010】
【非特許文献2】
「アプライドアンドエンバイロンメンタルマイクロバイオロジー」("APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY"),(アメリカ合衆国),第66巻,2000年4月,p.1416-1422
【0011】
【非特許文献3】
「デジーズオブアクアティックオーガニズムズ」("DISEASES OF AQUATIC ORGANISMS"),(ドイツ),2003年1月,第53巻,p.33-39
【0012】
【非特許文献4】
「プロシーディングスオブザナショナルアカデミーオブサイエンスイズオブザユナイテッドステーツオブアメリカ」("Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America"),(アメリカ合衆国),1996年4月,第93巻,p.3188-3192
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、従来技術の細菌性冷水病の対策では、加熱処理や化学薬剤投与が行われているが、これは自然環境を大きく変化させることとなり、細菌性冷水病を抑えることができたとしても、環境変化に伴う他の問題が生じてしまう。
【0014】
具体的には、保菌アユを加熱処理する方法では、水温の上昇に伴い出血性腹水病が誘発されるという問題を有している。すなわち、細菌性出血性腹水病の原因菌であるシュードモナス・プレコグロシシーダは高温を好み、20℃以上で活性化するため、25℃前後の加熱処理に伴って活性化して増殖し、出血性腹水病が発症しやすい環境になるのである。従って、冷水病対策として加熱処理を続けていると、潜在的にシュードモナス・プレコグロシシーダが増殖し、冷水病に代わって腹水病が発生しやすくなると考えられる。さらに、加熱処理を行うと、アユの生体防御機能が低下するため、細菌性冷水病の被害が大きくなるという問題も有している。
【0015】
また、化学薬剤投与においては、化学薬剤が河川への散布されることで環境汚染につながり、他の生息生物やヒトへ有害な影響が与えられるといった問題が発生する。また、化学薬剤の投与は治療効果が不安定であり、安定して冷水病を抑えることができない。さらに、薬剤耐性を有するフラボバクテリウム・サイクロフィラムが出現することも考えられ、この場合、長期間の使用においては、良好な治療効果が得られなくなるという問題を有している。
【0016】
以上のように、従来の加熱処理や化学薬剤の投与という方法では、他の細菌の増殖や環境汚染を引き起こしたり、良好に細菌性冷水病を抑えることができなかったりという問題を有している。
【0017】
本発明は、上記従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、良好な効果を示す細菌性冷水病の予防および治療のための薬剤を提供ことにあり、特に他の細菌の増殖を誘発せず、環境にも無害であるものを提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明の細菌性冷水病の治療または予防用の薬剤は、上記の課題を解決するために、フラボバクテリウム・サイクロフィラムに特異的に感染して溶菌させるバクテリオファージを含むことを特徴としている。
【0019】
上記バクテリオファージとは、細菌に感染するウィルスであり、フラボバクテリウム・サイクロフィラムに特異的に感染するバクテリオファージは、例えば、フラボバクテリウム・サイクロフィラムを指示細菌として、集殖法または2重寒天法にて採取できる。
【0020】
ここで、上記「指示細菌として採取する」とは、特定の細菌種あるいは細菌株(指示細菌)を含む環境で、この指示細菌を溶菌するバクテリオファージを培養することによってこのバクテリオファージを増殖させて、バクテリオファージを得る方法である。具体的には、集殖法では、材料すなわち目的のバクテリオファージを含む試料を指示細菌をいれた液体培地で培養することにより、材料中のバクテリオファージの数を増やす。また、2重寒天法では、材料と指示細菌とを軟寒天中で混合し、栄養寒天平板上に重層させることで、材料中のバクテリオファージにプラーク(溶菌斑)を形成させる。
【0021】
また、上記バクテリオファージとしては、特にミオウィルス科、シホウィルス科、またはポドウィルス科に分類されるものが挙げられる。
【0022】
このような薬剤を細菌性冷水病を発症した魚類に対して投与すれば、上記バクテリオファージが、細菌性冷水病の原因菌であるフラボバクテリウム・サイクロフィラムに特異的に感染して溶菌するので、安定した治療効果を発揮する。このように、本発明の薬剤はバクテリオファージを用いて、病原菌を溶菌しているので、細菌性冷水病を防ぐ生物農薬であるということもできる。
【0023】
また、本発明に係るバクテリオファージは自然環境に生息するものであるので、環境汚染や人を含めた他生物への悪影響もない。さらに、化学薬剤の投与に対しては薬剤耐性細菌が出現するのに対し、バクテリオファージ耐性のフラボバクテリウム・サイクロフィラムが現れる可能性も低い。
【0024】
また、本発明の薬剤は、上記バクテリオファージとして感染特性の異なる複数種類の株を含んでいることが望ましい。
【0025】
本発明の薬剤に含まれるバクテリオファージはフラボバクテリウム・サイクロフィラムに特異的に感染し、溶菌させるものであるが、それぞれのバクテリオファージ株はすべてのフラボバクテリウム・サイクロフィラムに感染できるわけではなく、フラボバクテリウム・サイクロフィラムの株によって感染可能なものと感染できないものがある。上記「感染特性が異なる」とは、この感染できるフラボバクテリウム・サイクロフィラムの株が異なることを示している。従って、薬剤に複数の株種のバクテリオファージを含ませることで、感染、溶菌が可能なフラボバクテリウム・サイクロフィラムの株が増え、細菌性冷水病の治療の可能性が増える。
【0026】
また、本発明の薬剤は、サケ科またはアユ科の魚類に投与されることを特徴としている。
【0027】
本発明の薬剤を投与する対象としては、サケ科またはアユ科の魚類が挙げられる。サケ科またはアユ科の魚類は、細菌性冷水病の発症が多く確認され、被害が広がっている。これらの魚類に本発明の薬剤を投与することで、細菌性冷水病の被害を抑えることができる。
【0028】
また、魚個体に経口投与されることで、本発明の薬剤は、口から体内に侵入し、腎臓等に蓄積されたフラボバクテリウム・サイクロフィラムを溶菌して、細菌性冷水病を発症した個体を治療したり、発症を抑えたりできる。
【0029】
また、本発明の薬剤に魚類を浸漬することによって、薬剤を投与してもよい。これにより、体表やエラに付着した、フラボバクテリウム・サイクロフィラムを溶菌して、細菌性冷水病を発症した個体を治療したり、発症を抑えたりできる。
【0030】
また、上記バクテリオファージは動物の循環器系を循環したものであることが望ましい。
【0031】
バクテリオファージを生体に投与する場合、バクテリオファージが、体内にある種々の生体防御因子(補体など)の作用により比較的短時間で消滅してしまい、長時間生体に作用できない。そこで、バクテリオファージを動物の循環器系を循環させれば、これらの防御因子の作用を受けにくい、あるいは受けない株が選択され、長時間体内に存在し得るバクテリオファージ株を取得できる。これにより、バクテリオファージが投与対象個体の体内に長く留まり、治療効果が長く持続する薬剤とすることができる。
【0032】
【発明の実施の形態】
バクテリオファージ(以下ファージと称する)は、細菌内で増殖して短時間(約30分)で細菌を殺す能力があり、しかも特定の細菌種あるいは特定の株にのみ感染するという特徴を有するものがある。また、ファージは自然界における細菌の存在量を調整する役割を担っており、環境への有害性は皆無であることが分かっている。そこで、発明者らは、難病とされている「細菌性冷水病」の原因菌であるフラボバクテリウム・サイクロフィラムを特異的に溶菌するファージを採取し、治療に利用できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0033】
以下、本発明の一実施の形態について、図1ないし図4を用いて説明する。
【0034】
本発明の薬剤は、フラボバクテリウム・サイクロフィラム(Flavobacterium psychrophilum 以下 F.psychrophilumと称する)に特異的に感染して溶菌させるバクテリオファージを含むものである。
【0035】
F.psychrophilumは、細菌性冷水病(bacterial coldwater disease、以下冷水病と称する)の原因菌であり、河川や養殖場などで魚類の体表に付着し、あるいはエラや口から侵入して感染し、貧血、体表の白濁、鰓蓋下部の出血の他、体表の潰瘍等の穴明き症状を引き起こす。つまり、細菌性冷水病は、Flavobacterium psychrophilum 感染病である。
【0036】
この冷水病を治療するために、F.psychrophilumに特異的に感染して溶菌するファージを利用するのであるが、このようなファージは、F.psychrophilumを指示細菌として、自然環境から、例えば集殖法や2重寒天法を用いて採取できる。なお、集殖法および2重寒天法については、海洋学講座11「海洋微生物」多賀信夫編、東京大学出版会(1974)に詳細に記載されている。
【0037】
なお、ファージを採取するためのF.psychrophilumは、例えば冷水病を発症した魚個体の患部や、冷水病の魚個体が生息している水から、塗沫法により取得でき、サイトフィーガ培地で18℃にて培養することができる。
【0038】
以上のようにして得たF.psychrophilumを特異的に溶菌するファージは、生育環境とほぼ同等な条件の培養液にて保存することが可能であり、5℃程度の低温で保存した場合は、6ヶ月以上の保存が可能である。なお、F.psychrophilumは貧栄養培地で発育するので、保存のためのコストは低い。
【0039】
上記バクテリオファージは、細菌性冷水病の原因菌であるF.psychrophilumに特異的に感染して溶菌させるので、魚類に対して投与することで、後述の実施例に示すように、冷水病を回復させる治療効果を安定して発揮する。さらに、本発明の薬剤に、出血性腹水病などの他の感染症を治療するバクテリオファージを混合することにより、細菌性冷水病の治療を行うと共に、出血性腹水病の病原菌などの別の細菌の繁殖を防ぎ、菌交代現象を防ぐこともできる。
【0040】
また、上記のバクテリオファージはもともと自然環境に生息し、細菌の存在量を調整する役割を担っているものであるから、環境汚染や、人を含めた他生物への悪影響も皆無であると言える。
【0041】
さらに、細菌を化学薬剤により死滅させる場合と異なり、ファージを細菌に感染させたとしても、ファージ耐性細菌の出現の可能性は低いと言われている(非特許文献1参照)。非特許文献3に示されるバクテリオファージを用いた細菌感染病(腹水病)の治療においても、観察期間の間、バクテリオファージ耐性菌の出現は観察されていない。従って、本発明のバクテリオファージに対する耐性を有するF.psychrophilumが現れる可能性は低く、長期間の使用においても安定した冷水病の効果が得られると考えられる。
【0042】
また、細菌に感染するウィルスであるバクテリオファージは、保持する遺伝子がRNAであるかDNAであるか、あるいは1本鎖であるか2本鎖により分類されており、さらに、粒子の形態的特徴から科に分類される。F.psychrophilumを特異的に溶菌するファージとしては、2本鎖DNAを有し、図1のように、頭部、尾部を有しているもの、すなわち、ミオウィルス科(Myoviridae)、シホウィルス科(Siphoviridae)、ポドウィルス科(Podoviridae)に分類されるものが挙げられる。なお、図1(a)および(b)のミオウィルス科は収縮可能な尾部を持ち、図1(c)のシホウィルス科は収縮不可能な長い尾部を持ち、図1(d)のポドウィルス科は収縮不可能な短い尾部を持つことなどにより特徴付けられている。
【0043】
上記バクテリオファージはさらに細かく株に分類される。薬剤に含むファージは、一種類でも構わないが、多種類の株を含んでいることが好ましい。これは、種々の株のファージを含むことにより、種々の感染特性のファージを含むこととなり、多くの株種のF.psychrophilumへ感染し、溶菌できるためである。多くの種類の株に作用する薬剤であれば、あらゆる細菌性冷水病に対して治療効果を発揮できる。
【0044】
また、本発明の薬剤を投与する対象としては、具体的には、アユ科のアユ、サケ科のギンザケ、ニジマス等が挙げられる。特にアユは、アユ養殖場などにおける冷水病被害が大きいので、その対策が望まれている。また、本実施の形態の薬剤は後述するように、人工的に冷水病を発症させたアユに投与することで、その症状が回復した。
【0045】
しかし、本発明の薬剤の適用対象はこれに限らず、F.psychrophilumに感受性を有する全ての淡水魚に適用可能であり、野生魚、養殖魚、種苗、魚の大きさ、魚の成長段階等を問わず、どのような魚類にも適用可能である。
【0046】
本発明の薬剤は、魚個体に経口投与されることによって、薬剤を投与してもよい。経口投与は、例えば、魚の口内にファージを注入してもよいが、餌に本発明の薬剤を混入して、あるいはスプレーなどで染み込ませて個体に自由に摂取させれば、多数の個体に対して薬剤を投与することができ好ましい。この後ファージは、口から体内に侵入し、腎臓等消化系器官に存在するF.psychrophilumを溶菌して、細菌性冷水病を発症した個体を治療したり、発症を抑えたりできる。
【0047】
また、本発明の薬剤を水槽などに入れ、そこに魚類を浸漬することによって、体表やエラに付着したF.psychrophilumを溶菌して、細菌性冷水病を発症した個体を治療したり、発症を抑えたりできる。その他にも、魚個体それぞれに注射する方法なども考えられる。
【0048】
本発明の薬剤は、どのような濃度で F.psychrophilumを特異的に感染して溶菌するファージを含んでいてもよいが、使用時のファージの濃度は106PFU/ml(g)以上109PFU/ml(g)以下で薬剤に含ませ、魚を浸漬する、あるいは餌などに染み込ませることが望ましい。なお、PFUとは、プラーク形成単位であり、プラーク形成の元となるファージの濃度を示している。
【0049】
また、上記バクテリオファージは動物の循環器系を循環したものであることが望ましい。上記動物にはアユやニジマスを用いることができ、例えばファージをこの動物の腹腔内に注入した後血液からファージを採取(動物透過)し、再び培養することで、動物の循環器系を循環したバクテリオファージを得る事ができる。この動物透過は複数回繰り返すことが好ましい。
【0050】
バクテリオファージを生体に投与する場合、バクテリオファージが体内にある生体防御因子(補体など)の作用により比較的短時間で消滅してしまい、長時間生体に作用できない。しかし、例えば非特許文献4に示されるもののように動物の循環器系を循環させれば、生体防御因子(補体など)の作用を受けない突然変異株が選択され、長時間体内に存在し得るバクテリオファージ株を取得できる。これにより、バクテリオファージが投与対象個体の体内に長く留まり、治療および予防効果が長く持続する薬剤とすることができる。
【0051】
【実施例】
〔実施例1〕特異的にF.psychrophilumを溶菌するファージの取得方法
まず、ファージを得るためのF.psychrophilumの取得方法について説明する。
【0052】
徳島、広島、岡山、島根、山口、山梨および栃木県下で採取した、細菌性冷水病を発症したアユ、ウグイ、錦ゴイ、アマゴから、F.psychrophilum44株を分離した。この44株それぞれについて、分離された魚種、その魚の採取された場所、採取年を表1に示している。
【0053】
【表1】
Figure 0004275431
【0054】
上記のようにして得られたF.psychrophilumを指示細菌として、自然環境から、Patersonらの論文(J.Fish. Res. Can. 1969,26:629-632)に記載の2重寒天法を用いてF.psychrophilumに特異的に感染して溶菌するファージを採取した。
【0055】
次に、得られたPFpWファージの形態および核酸型を調べた。これらの株は全て核酸として2本鎖DNA(dsDNA)を有し、DNAの形態的特徴を基にした分類における、ミオウィルス科(Myoviridae)、シホウィルス科(Siphoviridae)、ポドウィルス科(Podoviridae)のいずれかに属していた(図1参照)。
【0056】
また、得られたファージは、その感染性から、PFpW1、PFpW2、PFpW3、PFpW4、PFpW6の5株に分類された。それぞれの株の属する科と、頭部サイズ、尾部サイズを表2に示す。
【0057】
【表2】
Figure 0004275431
【0058】
次に、このようにして得られた5株のファージの感染性を、上述した44株のF.psychrophilumについて調べた。
【0059】
上述した2重寒天法により、PFpW1、PFpW2、PFpW3、PFpW4、PFpW6の5株のファージが、それぞれのF.psychrophilumに感染するか否かを調べた。その結果が表1に示されている。
【0060】
これによれば、どのF.psychrophilumもPFpW1、PFpW2、PFpW3、PFpW4、PFpW6のうちの少なくとも一つに感受性を示した。
【0061】
また、F.psychrophilumN2−3株に対して、ファージの試験管内増殖抑制効果を調べたところ、いずれのファージも約103PFU/ml以上で増殖抑制効果を示した。
【0062】
〔実施例2〕人工的にアユに冷水病を発症させる方法
上記の44種類のF.psychrophilumのうちのN2−3株を使用し、以下の方法でアユに細菌性冷水病を発症させた。なお、全ての実験において、水温は18℃に保たれている。
【0063】
F.psychrophilumN2−3株を、1.7×107CFU/mlの濃度で含む液に、平均10gのアユを60分間浸漬し(浸漬法)感染させた。この浸漬法によるアユの死亡は、14日間の観察の間認められなかった。
【0064】
また、平均10gのアユを網の中で1分間に100回揉んだ後、上記N2−3株を2.5×105CFU/mlの濃度で含む液に、アユを60分間浸漬し(網もみ・浸漬法)感染させた。この網もみ・浸漬法によるアユの14日目における累積死亡率は66.7%であった。
【0065】
さらに、アユの筋肉内に9.5×105CFU/fishとなるように、上記N2−3株を注射し(筋肉内注射法)感染させた。この筋肉内注射法によるアユの14日目における累積死亡率は100%であった。
【0066】
〔実施例3〕網もみ・浸漬法によって冷水病を発症したアユのファージ治療
実施例2の網もみ・浸漬法と同様の方法で、上記N2−3株を1.6×106CFU/mlの濃度で含む液に浸漬させて、感染させた平均45gのアユについて、感染後、ファージとしてのPFpW3を3.4×106PFU/ml含む液に30分間浸漬して(浸漬法)ファージ治療を行った。感染アユをファージ液に浸漬した区(実験区)と、ファージ液を含まない液に浸漬した区(対照区)とについて、2週間(14日間)に渡って飼育し、累積死亡率を算出した。
【0067】
その結果を図2に示す。これによれば、対照区の累積死亡率が2日で50%を越え、2週間後には90%となるのに対し、実験区の累積死亡率は2週間後でも40%であり、対照区に比べて有意に低かった。
【0068】
また、感染後7日間に渡って魚の腎臓における上記N2−3株とPFpW3の消長を調べたところ、ファージ浸漬後3日目まで腎臓から高濃度(最高で105CFU/g)のファージが検出された。
【0069】
これは、浸漬にて本実施例のファージがアユ体内に高濃度で侵入し、その後3日間持続して腎臓等体内に留まることができたことを示し、このファージによりN2−3株が溶菌したと考えられる。
【0070】
〔実施例4〕筋肉注射によって冷水病を発症したアユのファージ治療
実施例2のアユの筋肉内注射法で、上記N2−3株を6.2×105CFU/fishの割合で注射して感染させた平均45gのアユについて、ファージとしてのPFpW3を3.4×106PFU/ml含む液に30分間浸漬して(浸漬法)ファージ治療を行った。感染アユをファージ液に浸漬した区(実験区)と、浸漬しなかった区(対照区)について、2週間(14日間)に渡って観察を行い、その累積死亡率を算出した。
【0071】
その結果を図3に示す。これによれば、対照区の累積死亡率が2週間後には45%となるのに対し、実験区の累積死亡率は2週間後でも13%であり、対照区に比べて有意に低かった。
【0072】
また、感染後7日間に渡って魚の腎臓における上記N2−3株とPFpW3の消長を調べたところ、ファージ浸漬後3日目までに腎臓から高濃度のファージが検出された。
【0073】
これは、浸漬にて本実施例のファージがアユ体内に高濃度で侵入し、その後3日間持続して腎臓内に留まることができたことを示し、これによりN2−3株が溶菌したものと思われる。
【0074】
〔実施例5〕病魚投与によって冷水病を発症したアユのファージ治療
実施例2のアユの筋肉内注射法で冷水病を発症して死亡したアユを、本試験の試験用アユ(平均10g)を収容した水槽に投入し、死亡アユから排出されるF.psychrophilum N2−3株により試験用アユを感染させた(病魚投与感染法)。この感染アユに、ファージとしてPFpW3を含んだ餌(1.9×108PFU/fish)を自由摂取させて(経口法)、ファージ治療を行った。感染アユにPFpW3を含んだ餌を与えた区(実験区)と、PFpW3を含まない餌を与えた区(対照区)について、2週間(14日間)に渡って観察を行い、その累積死亡率を算出した。
【0075】
その結果を図4に示す。これによれば、対照区の累積死亡率が2週間後には56%となるのに対し、実験区の累積死亡率は2週間後でも28%であり、対照区に比べて有意に低かった。
【0076】
以上のように、F.psychrophilumN2−3株を種々の感染方法により感染させたアユは、PFpW3を含む液に浸漬されることによって、またはPFpW3を経口投与することによって治療され、2週間後の累積死亡率が治療しない場合の半分以下となった。従って、種々の環境下で冷水病を発症したアユに対して、本発明のファージが治療効果を有することが分かった。
【0077】
【発明の効果】
本発明の細菌性冷水病治療用の薬剤は、以上のように、フラボバクテリウム・サイクロフィラムに特異的に感染して溶菌させるバクテリオファージを含むものである。
【0078】
それゆえ、細菌性冷水病の原因菌であるフラボバクテリウム・サイクロフィラムに感染した、あるいは感染する可能性のある魚類に対して投与することで、薬剤に含まれるバクテリオファージが、体内に侵入したフラボバクテリウム・サイクロフィラムに特異的に感染して溶菌するので、冷水病を回復させる治療効果を発揮すると言う効果を奏する。
【0079】
また、本発明に係るバクテリオファージは自然環境に生息するものであるので、環境汚染や、人を含めた他生物への影響等の心配がない。さらに、化学薬剤の投与に対しては薬剤耐性細菌が出現するのに対し、バクテリオファージ耐性のフラボバクテリウム・サイクロフィラムが現れる可能性は低い。
【0080】
従って、細菌性冷水病により深刻な被害がでているアユ養殖場などにおいて、環境への負担がなく、治療効果の高い細菌性冷水病治療用の薬剤として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】バクテリオファージの代表的形態を示す模式図である。
【図2】フラボバクテリウム・サイクロフィラムを含む液内で網もみ・浸漬することにより冷水病を発症したアユを、本発明の実施例に係る薬剤に浸漬したあと、2週間の累積死亡率の推移を示す図面である。
【図3】フラボバクテリウム・サイクロフィラムを筋肉内注射して冷水病を発症したアユを、本発明の実施例に係る薬剤に浸漬したあと、2週間の累積死亡率の推移を示す図面である。
【図4】冷水病により死亡したアユを投与した水槽にて飼育することにより冷水病を発症したアユに、本発明の実施例に係る薬剤を経口投与したあと、2週間の累積死亡率の推移を示す図面である。

Claims (7)

  1. フラボバクテリウム・サイクロフィラムに特異的に感染して溶菌させるバクテリオファージを含み、
    上記バクテリオファージが、感染できるフラボバクテリウム・サイクロフィラムの株の異なる複数種類の株を含んでいることを特徴とする細菌性冷水病治療用の薬剤。
  2. 上記バクテリオファージは、フラボバクテリウム・サイクロフィラムを指示細菌として、集殖法または2重寒天法により得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
  3. 上記バクテリオファージがミオウィルス科、シホウィルス科、またはポドウィルス科に分類されるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の薬剤。
  4. サケ科またはアユ科の魚類に投与されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の薬剤。
  5. 魚類に経口投与されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の薬剤。
  6. 上記薬剤に魚類を浸漬することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の薬剤。
  7. 上記バクテリオファージが動物の循環器系を循環したものであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の薬剤。
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