JP4273534B2 - ヘム蛋白質の安定化剤及び安定化方法 - Google Patents

ヘム蛋白質の安定化剤及び安定化方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヘム蛋白質の安定化方法に関する。このヘム蛋白質は、血清、血漿または尿中のヘム蛋白質の免疫学的測定方法の標準物質などに用いられる。
【0002】
【従来の技術】
心筋梗塞などの心疾患、急性腎疾患において、診断及び治療方針を決定する上で、患者血清、血漿または尿中のミオグロビンの測定は有用である。また糖尿病診断上でヘモグロビンA1cの測定は有用である。従来このようなヘム蛋白質の測定には、ヘム蛋白質を抗ヘム蛋白質抗体を用いて免疫学的に検出する方法が、迅速、簡便で優れているため汎用されている。この検出に用いる試薬には、抗ヘム蛋白質抗体を用いた検出用試薬と共にヒトヘム蛋白質を含む対照試薬が添付され、この測定試薬の活性確認に用いられていた。従来、ヘム蛋白質の保存の際にはグリセロールなどが添加されていた。
【0003】
ところでヒトミオグロビン及びヒトヘモグロビンなどのヘム蛋白質は、温度・湿度などの変動により変性したり、酸素の結合などにより構造変化することなどにより、抗体との反応性が変化(劣化)することを本発明者らは見いだした。このヘム蛋白質と抗体との反応性の変化は、従来用いられていたグリセロールなどでは、防ぐことができないものであった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ヘム蛋白質が時間の経過と共に変性・変化することのない、ヘム蛋白質を安定化するための方法が求められていた。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意研究を行った結果、ヘム蛋白質の安定化剤を見いだし本発明を完成するに至った。即ち本発明は、以下のa及びbからなることを特徴とする、ヘム蛋白質の安定化剤である;a.アルブミン、b.糖またはスピントラップ剤の1種以上。また本発明は、ヘム蛋白質に上述の安定化剤を添加することを特徴とする、ヘム蛋白質の安定化方法である。以下、本発明を更に詳細に説明する。
【0006】
本発明で安定化されるヘム蛋白質には特に限定はなく、例えばミオグロビン又はヘモグロビンなどがあげられる。このヘム蛋白質の製法には特に限定はなく、例えば市販品、通常の方法により動物から精製されたもの、ヘム蛋白質全域又は一部の領域のアミノ酸配列をコードする遺伝子を発現させて得た組換え体、合成ペプチド、アミノ酸配列を置換、欠失、挿入した変異体などが用いられる。
【0007】
本発明では、ヘム蛋白質の安定剤は以下のa及びbからなることが必須である。すなわちaとしては、アルブミンである。またbとしては、糖またはスピントラップ剤の1種以上である。
【0008】
このうちアルブミンは市販のものでよく、また牛、家兎、ヒト血清などから周知の方法により単離精製されたものでもよい。
【0009】
糖は特に限定はないが、例えばグルコース、ガラクトース、フルクトース、サッカロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、マンニトール、またはソルビトールなどから選ばれる1種以上が好ましい。特にサッカロース、マンニトールが好ましく、中でもサッカロースはヘム蛋白質の安定化のために非常に有用である。
【0010】
スピントラップ剤としては特に限定はないが、例えばピペリジン骨格、ピロリジン骨格、又はオキサゾリジン骨格を有する物質を用いることができる。一例をあげると、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール、2,2,5,5−テトラメチル−3−ピロリジンカルボキサミン、3,3,5,5−テトラメチル−1−ピロリンなどが好ましく用いられる。スピントラップ剤はフリーラジカルと結合する性質を有し、これによってヘム蛋白質の安定化がはかられると考えられる。
【0011】
ヘム蛋白質の安定化剤しては上述のa及びbが用いられるが、その組み合わせには特に限定はなく、アルブミン及び糖を用いても、アルブミン及びスピントラップ剤を用いてもよい。しかしながらアルブミン及び糖を用いる方がヘム蛋白質を安定化する機能に優れたものとなる。またアルブミン、糖、及びスピントラップ剤の3種を併用することで、よりヘム蛋白質を安定化する機能に優れた安定化剤となるため好ましいものである。
【0012】
本発明の安定化剤をヘム蛋白質に添加する場合、ヘム蛋白質と安定化剤の少なくとも一方が溶液であることが好ましい。これは両者が混合されたときに均一に混合されやすいからである。この時、溶液とするために緩衝液を用いることが好ましく、この緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液などpH6.0〜8.0領域にて使用される緩衝液であればよい。さらにこの緩衝液には必要に応じてアジ化ナトリウムなどの防腐剤を添加することも可能である。
【0013】
安定化剤として使用される各成分の濃度には特に限定はないが、最終的に得られるヘム蛋白質溶液に対して、アルブミンは最終濃度0.1〜10wt%で用いることが好ましく、また糖を用いる場合は最終濃度1〜10wt%、スピントラップ剤を用いる場合は、最終濃度1〜10mMで用いることが好ましい。これら各成分は個別に又はあらかじめ混合してからヘム蛋白質に添加すればよい。
【0014】
本発明の安定化剤を添加されたヘム蛋白質は、溶液のままでも安定に保存できるが、必要に応じ凍結乾燥し、凍結乾燥品としてより安定に保存することができる。
【0015】
【実施例】
本発明を実施例により説明する。しかし本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0016】
(実施例1)アルブミン、サッカロースを含むヒトミオグロビン試薬の製造
1wt%牛血清アルブミンを含む100mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)に、最終濃度100ng/mlになるようにヒトミオグロビンを添加した。さらに本品に対して最終濃度5wt%になるようにサッカロースを添加した後、凍結乾燥し、ヒトミオグロビン試薬1を得た。また、サッカロースを添加しない以外は同様の方法により比較試薬1を得た。
【0017】
(実施例2)各試薬の安定性
実施例1で得たヒトミオグロビン試薬1及び比較試薬1をそれぞれ35℃保温機中で、又は4℃で1,6,10日間保存し、ヒトミオグロビン濃度を測定した。濃度百分率を以下のように求め、結果を表1に示した。
【0018】
濃度百分率={(35℃保存品のヒトミオグロビン濃度)/(4℃保存品のヒトミオグロビン濃度)}×100
なおヒトミオグロビン濃度は、抗ミオグロビン抗体を2種用いたサンドイッチ酵素免疫測定法により求めた。
【0019】
【表1】
Figure 0004273534
【0020】
表1から明らかなように、ヒトミオグロビン試薬1は、安定化剤としてアルブミン及びサッカロースを含むため、ヒトミオグロビンを安定に保存することができた。これに対し比較試薬1は、保存1日から急激にヒトミオグロビンの変性が生じ、ヒトヘモグロビンを安定に保存することが困難であった。
【0021】
(実施例3)アルブミン、サッカロース及び2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノールを含むヒトミオグロビン試薬の製造
1wt%牛血清アルブミンを含む100mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)に、最終濃度100ng/mlになるようにヒトミオグロビンを添加した。さらに本品に対して最終濃度5wt%になるようにサッカロースを、5mMになるように2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノールをそれぞれ添加した後、凍結乾燥することにより、ヒトミオグロビン試薬2を得た。
【0022】
(実施例4)ヒトミオグロビン試薬2の安定性
実施例3で得たヒトミオグロビン試薬2を35℃保温機中で、又は4℃で1,6,10日間保存し、実施例2と同様にヒトミオグロビンの濃度を測定した。実施例2と同様に濃度百分率を求め、結果を表2に示した。
【0023】
【表2】
Figure 0004273534
【0024】
表2から明らかなように、安定化剤としてアルブミン、糖及び2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノールの3種を併用することにより、より安定にヒトミオグロビンを保存することができた。
【0025】
【発明の効果】
本発明の安定化剤を用いることにより、ヘム蛋白質を長期間安定に保存することができる。特に本発明の安定化剤は、ヘム蛋白質のエピトープ部分を安定に保存することができるため、抗ヘム蛋白質抗体を用いる免疫学的測定に使用されるヘム蛋白質を安定化するのに有用である。
【0026】

Claims (4)

  1. 以下のa、b及びcからなることを特徴とする、ミオグロビン及び/又はヘモグロビンの安定化剤;
    a.アルブミン
    b.糖
    c.2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール
  2. 請求項に記載の安定化剤において、アルブミンが牛、家兎、またはヒト由来であることを特徴とする安定化剤。
  3. 請求項1または2に記載の安定化剤において、糖が、グルコース、ガラクトース、フルクトース、サッカロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、マンニトール、またはソルビトールであることを特徴とする安定化剤。
  4. ミオグロビン及び/又はヘモグロビンに、請求項1〜いずれかの項に記載の安定化剤を添加することを特徴とする、ミオグロビン及び/又はヘモグロビンの安定化方法。
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