しかしながら、ウシ等の大型の哺乳動物を用いて有用タンパク質を生産する場合は、成熟するまでに長期間を要すること、広大な面積の飼育設備が必要なこと、飼育コストが高いこと等の問題を有している。
これに対して、ニワトリを用いて血液中や卵中に有用タンパク質を生産する場合は、成熟するまでの期間がウシ等の大型哺乳類に比して短期間であること、比較的小さな飼育設備で飼育可能であること、飼育コストが安い等のメリットを有している。
現在、ニワトリを始めとする鳥類において、外来タンパク質をコードする遺伝子を導入する系として主にウイルスベクター系が用いられている。かかるウイルスベクター系は、高い効率で外来タンパク質をコードする遺伝子を導入することが可能なこと、容易にウイルスベクターを調製することができるというメリットはあるが、外来タンパク質をコードする遺伝子が染色体のどこに組み込まれるかについては全くランダムであり、その組み込み位置によっては、目的の外来タンパク質が発現しない場合や、重要な機能を有する遺伝子が破壊されてしまう場合や、細胞に不要な遺伝子が活性化されてしまう場合がある。したがって、ウイルスベクター系を用いて有用タンパク質を生産するトランスジェニック動物(ニワトリ)を作出する場合には、外来タンパク質をコードする遺伝子の組み込み位置を制御できないために、種々の問題点が生じてしまう。よって、ニワトリ等の鳥類を用いて外来タンパク質を生産させる場合においては、ジーンターゲッティングにより、目的の場所に外来タンパク質をコードする遺伝子を導入する系が必要となっている。
ところで、既述のごとく卵黄タンパク質の前躯体であるビテロゲニンは、肝臓で合成された後、血流中に分泌され卵巣へと輸送された後、卵母細胞内へ取り込まれ、卵母細胞内のリソソームに局在するアスパラギン酸プロテアーゼ(カテプシンD)により、リポビテリン−1、ホスビチン、リポビテリン−2、β−リベチンに切断されるということが知られている(非特許文献8、9参照)。
かかる卵黄タンパク質の合成系を利用するによって、目的の外来タンパク質を卵黄内に蓄積させることが可能となることが予想できる。すなわちビテロゲニンタンパク質をコードする遺伝子内に、カテプシンD認識配列を両端(N末端、C末端)に有する外来タンパク質をコードする遺伝子を挿入することができれば、ビテロゲニンタンパク質と外来タンパク質の融合タンパク質が肝細胞内で合成され、血流に分泌された後、ビテロゲニンタンパク質のシグナルを用いて卵母細胞内へ取り込まれ、卵母細胞内のカテプシンDの作用によって、最終的に目的の外来タンパク質および卵黄タンパク質が切り出され、卵黄内に目的の外来タンパク質を蓄積させることができるというものである。
上記のタンパク質生産系を実現するためには、外来タンパク質とビテロゲニンタンパク質との融合タンパク質を生産しなければならない。しかもビテロゲニンタンパク質から切り出されるリポビテリン−1、ホスビチン、リポビテリン−2、β−リベチンは、卵黄の大部分を構成する重要なタンパク質であるために、正常なリポビテリン−1、ホスビチン、リポビテリン−2、β−リベチンを合成する必要がある。よって、上記の条件を満たすためには、リポビテリン−1とホスビチンの切断点にカテプシンD認識領域を両端(N末端、C末端)に有するように外来タンパク質をコードする遺伝子を挿入するか、またはホスビチンとリポビテリン−2の切断点にカテプシンD認識領域を両端(N末端、C末端)に有するように外来タンパク質をコードする遺伝子を挿入するか、またはリポビテリン−2とβ−リベチンの切断点にカテプシンD認識領域を両端(N末端、C末端)に有するように外来タンパク質をコードする遺伝子を挿入する必要がある。すなわち、鳥類のゲノムの目的の位置に、目的の外来タンパク質をコードする遺伝子を正確に導入する必要がある。
そこで本発明は、ニワトリを始めとする鳥類の卵黄内に目的の外来タンパク質を生産させる系を実現するために、鳥類の遺伝子を置換するための遺伝子置換ベクター、および当該遺伝子置換ベクターの利用方法を提供することを目的としている。
本発明者は上記課題を解決すべく、導入した外来タンパク質(EGFP;Enhanced Green Fluorescence Protein、クロンテック社製)の両端に、カテプシンD認識配列が付加するようにデザインした遺伝子置換ベクターを用いて、ニワトリ肝細胞株(LMH)へEGFP遺伝子を導入したところ、内在のカテプシンDにより外来タンパク質由来のEGFPが切り出される事を確認した。本発明は上記知見に基づき完成されたものである。
すなわち本発明にかかる遺伝子置換ベクターは、上記課題を解決するために、カテプシンD認識領域を含む鳥類由来ビテロゲニンタンパク質の一部または全部をコードする遺伝子断片を含むことを特徴としている。
また本発明にかかる遺伝子置換ベクターは、鳥類由来ビテロゲニンタンパク質のカテプシンD認識領域のうち、リポビテリン−1とホスビチンの切断点を含むカテプシンD認識領域を認識領域Aとし、ホスビチンとリポビテリン−2との切断点を含むカテプシンD認識領域を認識領域Bとし、リポビテリン−2とβ−リベチンとの切断点を含むカテプシンD認識領域を認識領域Cとすると、上記鳥類由来ビテロゲニンタンパク質の一部が、認識領域A、または認識領域B、または認識領域Cのいずれかを1つ以上含む構成であってもよい。
また本発明にかかる遺伝子置換ベクターは、上記鳥類由来ビテロゲニンタンパク質が、ニワトリ由来ビテロゲニンタンパク質であることを特徴とする請求項1または2に記載の遺伝子置換ベクター。
また本発明にかかる遺伝子置換ベクターは、上記鳥類由来ビテロゲニンタンパク質が、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する構成であってもよい。
また本発明にかかる遺伝子置換ベクターは、上記認識領域Aが、配列番号1の1108位から1114位に示されるアミノ酸配列である構成であってもよい。
また本発明にかかる遺伝子置換ベクターは、上記認識領域Bが、配列番号1の1325位から1331位に示されるアミノ酸配列である構成であってもよい。
また本発明にかかる遺伝子置換ベクターは、上記認識領域Cが、配列番号1の1563位から1569位に示されるアミノ酸配列である構成であってもよい。
上記本発明にかかる遺伝子置換ベクターに含まれる鳥類由来ビテロゲニンタンパク質をコードする遺伝子断片内に、目的の外来タンパク質をコードする遺伝子を導入した後、宿主細胞に当該遺伝子置換ベクターを導入すれば、ビテロゲニンタンパク質をコードする遺伝子の相同配列を有するがゆえに、相同組み換えが起こる。よって、宿主細胞におけるビテロゲニンタンパク質をコードする遺伝子領域を、外来タンパク質が導入された遺伝子と置換することができるという効果を奏する。
また本発明にかかる遺伝子置換ベクターは、さらに、プロモーターと当該プロモーターに制御可能に連結された選択マーカー遺伝子を含んでなる選択マーカー発現カセットが、前記遺伝子断片に挿入されている構成であってもよい。
また本発明にかかる遺伝子置換ベクターは、上記選択マーカー遺伝子が、ブラストシジンS耐性遺伝子であってもよい。
上記構成によれば、本発明にかかる遺伝子置換ベクターを宿主細胞に導入したときに、遺伝子が導入された細胞か否かを、ブラストシジンS等の薬剤に対する耐性を指標に容易に判別することができるという効果を奏する。
また本発明にかかる遺伝子置換ベクターは、さらに、プロモーターと当該プロモーターに制御可能に連結された致死遺伝子を含んでなる致死遺伝子発現カセットが、前記遺伝子断片に連結されている構成であってもよい。
上記致死遺伝子発現カセットは、鳥類由来ビテロゲニンタンパク質をコードする遺伝子領域外に連結されているため、本発明にかかる遺伝子置換ベクターによって、相同組み換えが起これば、前記致死遺伝子発現カセットは宿主細胞のゲノムには組み込まれない。一方、ランダムな位置に組み換えが起これば、致死遺伝子発現カセットを含めて宿主細胞のゲノムに組み込まれる。よって、ランダムな位置に組み換えが起こった細胞は、致死遺伝子の発現により死滅する。したがって、生き残った細胞をセレクトすることにより、目的とする相同組み換えが起こった細胞を選択することができるという効果を奏する。
また本発明にかかる遺伝子置換ベクターは、上記致死遺伝子が、カスパーゼ遺伝子であってもよい。
カスパーゼは細胞のアポトーシスを誘導する。それゆえ、上記致死遺伝子発現カセットが導入され、カスパーゼが細胞内で発現すれば、アポトーシスが起こり当該細胞は死滅する。したがって、本発明にかかる遺伝子置換ベクターに用いる致死遺伝子として好適である。
また本発明にかかる遺伝子置換ベクターは、上記いずれかの遺伝子置換ベクターに含まれるカテプシンD認識領域をコードする遺伝子領域に、外来タンパク質をコードする遺伝子が、前記外来タンパク質をコードする遺伝子の3’末端および5’末端にカテプシンD認識領域をコードするポリヌクレオチドを有するように挿入されているものであってもよい。
上記構成の遺伝子置換ベクターによって、相同組み換えが起これば、宿主細胞においてカテプシンD認識領域を両端(N末端、C末端)に有する外来タンパク質が、ビテロゲニンタンパク質のカテプシンD切断点に挿入された融合タンパク質として合成されることとなる。
かかる融合タンパク質は、血流に分泌された後、ビテロゲニンタンパク質のシグナルを用いて卵母細胞内へ取り込まれ、卵母細胞内のカテプシンDの作用によって、最終的に目的の外来タンパク質および卵黄タンパク質(リポビテリン−1、ホスビチン、リポビテリン−2、β−リベチン)が切り出され、卵黄内に目的の外来タンパク質を蓄積させることができるという効果を奏する。
また本発明にかかる遺伝子置換ベクターは、上記外来タンパク質をコードする遺伝子と、前記カテプシンD認識領域をコードする遺伝子との間に、精製用タグをコードするポリヌクレオチドが挿入されている構成であってもよい。
上記構成によれば、卵黄内に蓄積された目的の外来タンパク質を、精製用タグによって容易に回収・精製することができるという効果を奏する。
また本発明にかかる遺伝子置換ベクターは、上記精製用タグが、ヒスチジンタグであってもよい。
上記ヒスチジンタグによれば、ニッケルカラムを用いることによって、目的とする任意のタンパク質の精製を容易に行なうことができるという効果を奏する。
一方、本発明にかかる鳥類細胞におけるタンパク質の生産方法は、上記いずれかの遺伝子置換ベクターを用いて、鳥類由来細胞に外来タンパク質をコードする遺伝子を導入する遺伝子導入工程を含むことを特徴としている。
上記構成の遺伝子置換ベクターによって、相同組み換えが起これば、宿主細胞においてカテプシンD認識領域を両端(N末端、C末端)に有する外来タンパク質が、ビテロゲニンタンパク質のカテプシンD切断点に挿入された融合タンパク質が合成されることとなる。
かかる融合タンパク質は、血流に分泌された後、ビテロゲニンタンパク質のシグナルを用いて卵母細胞内へ取り込まれ、卵母細胞内のカテプシンDの作用によって、最終的に目的の外来タンパク質および卵黄タンパク質(リポビテリン−1、ホスビチン、リポビテリン−2、β−リベチン)が切り出され、卵黄内に目的の外来タンパク質を蓄積させることができるという効果を奏する。
また本発明にかかる鳥類細胞におけるタンパク質の生産方法は、上記鳥類由来細胞が、ニワトリ由来細胞であってもよい。
ニワトリは、古くから食用動物として飼育されてきており、その飼育施設、飼育方法が確立されていること、また成熟するまでの期間が短いこと、安全性が高いこと等の利点があり、目的の外来タンパク質を大量に生産する宿主として好適である。
また本発明にかかる鳥類細胞におけるタンパク質の生産方法は、上記鳥類由来細胞が鳥類由来肝細胞であってもよい。
ビテロゲニンタンパク質は、肝臓で合成されるタンパク質であるため、肝細胞に外来タンパク質をコードする遺伝子を導入することが好ましい。
一方、本発明にかかる鳥類細胞におけるタンパク質の生産キットは、上記いずれかに記載の遺伝子置換ベクターが含まれていることを特徴としている。
上記本発明にかかる鳥類由来タンパク質の生産キットによれば、カテプシンD認識領域を両端(N末端、C末端)に有する外来タンパク質が、ビテロゲニンタンパク質のカテプシンD切断点に挿入された融合タンパク質を、宿主細胞内で合成することができる。かかる融合タンパク質は、血流に分泌された後、ビテロゲニンタンパク質のシグナルを用いて卵母細胞内へ取り込まれ、卵母細胞内のカテプシンDの作用によって、最終的に目的の外来タンパク質および卵黄タンパク質(リポビテリン−1、ホスビチン、リポビテリン−2、β−リベチン)が切り出され、卵黄内に目的の外来タンパク質を蓄積させることができる。
それゆえ、目的の外来タンパク質をコードする遺伝子を遺伝子置換ベクターに挿入するだけで、種々の外来タンパク質を宿主細胞内で生産することができるという効果を奏する。
上記本発明によれば、相同組み換えにより、ニワトリを始めとする鳥類由来宿主細胞のゲノムにおけるカテプシンDの切断点をコードする領域に、カテプシンD認識領域を両端(N末端、C末端)に有する外来タンパク質をコードする遺伝子を挿入することができる。上記のごとく外来タンパク質をコードする遺伝子が挿入された宿主細胞では、カテプシンD認識領域を両端(N末端、C末端)に有する外来タンパク質が、ビテロゲニンタンパク質のカテプシンD切断点に挿入された融合タンパク質として合成されることとなる。かかる融合タンパク質は、(1)肝細胞で合成され、(2)血流中へ分泌、(3)血流にのり卵母細胞へ到着、(4)ビテロゲニンのシグナルを卵母細胞の膜表面の受容体が認識、(5)ビテロゲニンを卵母細胞に取り込まれ、卵母細胞内に蓄積する。蓄積した融合タンパク質は、卵母細胞内のカテプシンDの作用によって、最終的に目的の外来タンパク質および卵黄タンパク質が切り出され、卵黄内に目的の外来タンパク質を蓄積させることが可能となる。それゆえ、本発明は、ニワトリを始めとする鳥類の卵黄に目的の外来タンパク質を蓄積させて、卵黄から目的の外来タンパク質を回収するというタンパク質の生産系の実現に寄与することができる。
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
(1.本発明にかかる遺伝子置換ベクター)
本発明にかかる遺伝子置換ベクターは、カテプシンD認識領域を含む鳥類由来ビテロゲニンタンパク質の一部または全部をコードする遺伝子断片を含むことを特徴としている。
ここで「ビテロゲニンタンパク質」は、既述の通り、ニワトリを始めとする鳥類の卵黄タンパク質の前躯体であり、カテプシンDの作用により、最終的にリポビテリン−1、ホスビチン、リポビテリン−2、β−リベチンに切断される。よって、鳥類由来ビテロゲニンタンパク質には、3箇所のカテプシンD認識領域、カテプシンDによる切断点が含まれていることとなる。ここでリポビテリン−1とホスビチンの切断点を含むカテプシンDの認識領域を便宜上、「認識領域A」と称し、ホスビチンとリポビテリン−2の切断点を含むカテプシンDの認識領域を便宜上、「認識領域B」と称し、リポビテリン−2とβ−リベチンの切断点を含むカテプシンDの認識領域を便宜上、「認識領域C」と称する。
ここで「カテプシンD認識領域」とは、カテプシンDがポリペプチドを切断する際に認識する一定のアミノ酸配列のことを意味する。かかるカテプシンD認識領域のアミノ酸配列としては、例えば「Asn−Thr−Val−Leu−Ala−Glu−Phe」(配列番号2)、「Glu−Ile−Tyr−Gln−Tyr−Arg−Phe」(配列番号3)、「Trp−Asn−Val−Phe−Ala−Glu−Ala」(配列番号4)、Phe−Ala−Ala−Phe−Phe−Val−Leu(配列番号8)、Glu−His−Phe−Phe−Ala−Leu(配列番号9)、Gly−Gly−His−Phe−Phe−Ala−Leu(配列番号10)、Phe−Gly−His−Phe−Phe−Val−Leu(配列番号11)、Phe−Ala−Ala−Phe−Phe−Val−Leu(配列番号12)、Glu−His−Phe−Phe−Phe−Ala−Leu(配列番号13)、Pro−Thr−Glu−Phe−Phe−Arg−Leu(配列番号14)、Lys−Pro−Ile−Glu−Phe−Phe−Arg−Leu(配列番号15)、Lys−Pro−Val−Glu−Phe−Phe−Arg−Leu(配列番号16)が挙げられる。
なお、Phe−Ala−Ala−Phe−Phe−Val−Leu(配列番号8)は、ウズラ、ウシ由来のカテプシンD認識領域のアミノ酸配列である(Gerhartz B, Auerswald EA, Mentele R, Fritz H, Machleidt W, Kolb HJ, Wittmann J. Proteolytic enzymes in yolk-sac membrane of quail egg. Purification and enzymatic characterisation. Comp Biochem Physiol B Biochem Mol Biol. 1997 Sep;118(1):159-66.参照)。
Glu−His−Phe−Phe−Ala−Leu(配列番号9)、およびGly−Gly−His−Phe−Phe−Ala−Leu(配列番号10)は、ウシ由来のカテプシンD認識領域のアミノ酸配列である(Pohl J, Baudys M, Kostka V. Chromophoric peptide substrates for activity determination of animal aspartic proteinases in the presence of their zymogens: a novel assay. Anal Biochem. 1983 Aug;133(1):104-9.参照)。
また、Phe−Gly−His−Phe−Phe−Val−Leu(配列番号11)は、ウシ由来のカテプシンD認識領域のアミノ酸配列でり、Phe−Ala−Ala−Phe−Phe−Val−Leu(配列番号12)は、ブタ由来のカテプシンD認識領域のアミノ酸配列であり、Glu−His−Phe−Phe−Phe−Ala−Leu(配列番号13)は、ウシ由来のカテプシンD認識領域のアミノ酸配列であり、Pro−Thr−Glu−Phe−Phe−Arg−Leu(配列番号14)は、ウシ、ヒト由来のカテプシンD認識領域のアミノ酸配列であり、Lys−Pro−Ile−Glu−Phe−Phe−Arg−Leu(配列番号15)、およびLys−Pro−Val−Glu−Phe−Phe−Arg−Leu(配列番号16)は、ヒト由来のカテプシンD認識領域のアミノ酸配列である(蛋白質分解酵素I、鶴 大典、船津 勝編、学会出版センター、p77-87)。
上記カテプシンD認識領域のうち、ニワトリ由来のカテプシンD認識領域のアミノ酸配列であり、かつニワトリ由来ビテロゲニンタンパク質に含まれるものとしては、「Asn−Thr−Val−Leu−Ala−Glu−Phe」(配列番号2)、「Glu−Ile−Tyr−Gln−Tyr−Arg−Phe」(配列番号3)、および「Trp−ASn−Val−Phe−Ala−Glu−Ala」(配列番号4)が挙げられる。
図1にニワトリ由来ビテロゲニンタンパク質の全アミノ酸配列(配列番号1)、および各カテプシンD認識領域の位置を示す。なお、上記ニワトリ由来ビテロゲニンタンパク質の全アミノ酸配列(配列番号1)は、ACCESSION Number:CAA31942に開示されている(van het Schip FD, Samallo J, Broos J, Ophuis J, Mojet M, Gruber M, AB G. Nucleotide sequence of a chicken vitellogenin gene and derived amino acid sequence of the encoded yolk precursor protein.J Mol Biol. 1987 Jul 20;196(2):245-60参照)。
なお、図1中のアミノ酸は1文字表記で示している。また、上記アミノ酸配列はこれに限定されるものではない。図1中の16位から1111位のアミノ酸が、リポビテリン−1のアミノ酸配列であり、1112位から1328位のアミノ酸が、ホスビチンのアミノ酸配列であり、1329位から1566位のアミノ酸が、リポボテリン−2のアミノ酸配列であり、1567位から1850位のアミノ酸がβ−リベチンのアミノ酸配列である。
そのうち、1108位から1114位のアミノ酸配列が、上記「Asn−Thr−Val−Leu−Ala−Glu−Phe」(配列番号2)、すなわち認識領域Aに相当し、1111位と1112位との間がカテプシンDによる切断点、すなわちリポビテリン−1とホスビチンの切断点である。なお、図1中では認識領域Aに下線(実線)を引いてその位置を示している。また切断点には矢印を付している。
また、1325位から1331位のアミノ酸配列が、上記「Glu−Ile−Tyr−Gln−Tyr−Arg−Phe」(配列番号3)、すなわち認識領域Bに相当し、1328位と1329位との間がカテプシンDによる切断点、すなわちホスビチンとリポビテリン−2の切断点である。なお、図1中では認識領域Bに下線(2重線)を引いてその位置を示している。また切断点には矢印を付している。
また、1563位から1569位のアミノ酸配列が、上記「Trp−ASn−Val−Phe−Ala−Glu−Ala」(配列番号4)、すなわち認識領域Cに相当し、1328位と1329位との間がカテプシンDによる切断点、すなわちリポビテリン−2とβ−リベチンの切断点である。なお、図1中では認識領域Cに下線(波線)を引いてその位置を示している。また切断点には矢印を付している。
本発明にかかる遺伝子置換ベクターは、遺伝子置換を行なうためにベクターである。すなわち、鳥類の標的遺伝子(本発明においてはビテロゲニンをコードする遺伝子)の相同配列を両端に有する変異型の遺伝子断片(目的の外来タンパク質をコードする遺伝子が挿入された遺伝子断片)を宿主細胞に導入し、相同組み換えを起こさせることにより宿主細胞の標的遺伝子と、変異型の遺伝子とを置換するためのベクターである。したがって、本発明にかかる遺伝子置換ベクターには、標的となる鳥類のビテロゲニンタンパク質をコードする遺伝子の一部または全部が含まれている必要がある。
したがって、鳥類のビテロゲニンをコードする遺伝子のうち、上記カテプシンD認識領域(認識領域A、認識領域B、認識領域C)をコードする領域が含まれる遺伝子断片が、本発明にかかる遺伝子置換ベクターに含まれている必要がある。
例えば、ニワトリのビテロゲニンタンパク質をコードする全遺伝子配列を配列番号5に示した。なお、上記ニワトリ由来ビテロゲニンタンパク質の全塩基配列(配列番号5)は、ACCESSION Number:X13607に開示されている(van het Schip FD, Samallo J, Broos J, Ophuis J, Mojet M, Gruber M, AB G. Nucleotide sequence of a chicken vitellogenin gene and derived amino acid sequence of the encoded yolk precursor protein.J Mol Biol. 1987 Jul 20;196(2):245-60参照)。
なお、ニワトリのビテロゲニンタンパク質をコードする全遺伝子配列は、これに限定されるものではない。配列番号5に示される塩基配列のうち、11115位から11135位が認識領域Aをコードする塩基配列(aacactgtgctagcagagttt;配列番号17)であり、12227位から12250位が認識領域Bをコードする塩基配列(catgagatttatcagtatcgcttt;配列番号18)であり、14655位から14675位が認識領域Cをコードする塩基配列(tggaacgtctttgctgaagcc;配列番号19)である。よって、ニワトリをターゲットとした本発明にかかる遺伝子置換ベクターには、配列番号5に示される塩基配列のうち、11115位から11135位が含まれるような遺伝子断片では、認識領域Aをコードする領域が含まれているといえ、12227位から12250位が含まれていれば、認識領域Bをコードする領域が含まれているといえ、14655位から14675位が含まれていれば、認識領域Cをコードする領域が含まれているといえる。また11115位から12250位が含まれていれば、認識領域Aおよび認識領域Bをコードする領域が含まれているといえ、12227位から14675位が含まれていれば、認識領域Bおよび認識領域Cをコードする領域が含まれているといえ、11115位から14675位が含まれていれば、認識領域A、認識領域Bおよび認識領域Cをコードする領域が全て含まれているといえる。なお、上記認識領域A、認識領域B、認識領域Cをコードする塩基配列はこれらに限定されるものではなく、コドン表に基づいて種々変更することが可能である。
なお、本発明にかかる遺伝子置換ベクターに含まれる遺伝子断片には、上記各種認識領域をコードする領域が少なくとも含まれていればよいが、その前後に少なくとも2500塩基以上を含まれていることが好ましく、5000塩基以上含まれていることがさらに好ましく、8000塩基以上含まれていることが最も好ましい。後述するとおり、相同組み換えが起こる確率は、相同部分が長く含まれているほど、換言すれば全長に近ければ近いほど、高くなるからである。
一般に、相同組み換えを起こさせる場合、相同領域の塩基は長ければ長いほど、より好ましい。しかし、長くなりすぎると遺伝子の導入効率が低下するため、100kbp以下が好ましく、8kbp程度が好ましいといえる(Nature Genetics, volume 36, Number 8, pp867-871,2004、およびBlood First Edition Paper, prepublished online ay 1,2003;DOI10.1182/blood-2003-03-0708参照)。
また本発明が目的とするタンパク質の生産系は、ビテロゲニンタンパク質とカテプシンD認識領域を両端(N末端、C末端)に有する目的の外来タンパク質との融合タンパク質を合成し、卵母細胞に存在するカテプシンDの作用によって、正常なリポビテリン−1、ホスビチン、リポビテリン−2、β−リベチン、および目的の外来タンパク質を卵黄内に蓄積させようとするものである。したがって、目的の外来タンパク質は、ビテロゲニンタンパク質のカテプシンDの切断点にカテプシンD認識領域を両端(N末端、C末端)に有するように挿入されていることが好ましいといえる。
すなわち、遺伝子置換ベクターに含まれるカテプシンD認識領域をコードする領域に、外来の目的の外来タンパク質をコードする遺伝子が、当該遺伝子の3’末端および5’末端にカテプシンD認識領域をコードする塩基配列を有するように挿入させる必要がある。より具体的には、遺伝子置換ベクターには、「5’末端からビテロゲニンタンパク質をコードする遺伝子の一部」−「カテプシンD認識領域をコードする領域」−「目的の外来タンパク質をコードする遺伝子」−「カテプシンD認識領域をコードする領域」−「ビテロゲニンタンパク質をコードする遺伝子の一部」という順で構成させる。
したがって、本発明にかかる遺伝子置換ベクターには、少なくとも1つ以上のカテプシンD認識領域を含むビテロゲニンタンパク質をコードする遺伝子断片が含まれている必要がある。本発明にかかる遺伝子置換ベクターに含まれる遺伝子断片は、例えば、上記認識領域Aをコードする領域、認識領域Bをコードする領域、認識領域Cをコードする領域のいずれか1つを含むものであっても、上記認識領域Aをコードする領域、認識領域Bをコードする領域を含むものであっても、認識領域Bをコードする領域、認識領域Cをコードする領域を含むものであっても、また上記認識領域Aをコードする領域、認識領域Bをコードする領域、認識領域Cをコードする領域全てを含むものであってもよい。ただし、既述の通り、相同組み換えが起こりやすいという理由から、どのような組み合わせであってもいずれかを含み、全長8kbp程度が好ましいといえる。
なお、本発明にかかる遺伝子置換ベクターにおいては、元来存在するカテプシンD認識領域をコードする領域、別のアミノ酸配列を有するカテプシンD認識領域をコードする領域ものに置き換えた態様であってもよい。例えば、認識領域Aをコードする領域を、認識領域Bをコードする領域に置き換えたものであってもよい。また本来含まれていなかったカテプシンD認識領域をコードする領域のものと置き換えた態様であってもよい。
また遺伝子置換ベクターに含まれるカテプシンD認識領域をコードする領域に、目的の外来タンパク質をコードする遺伝子が、当該遺伝子の3’末端および5’末端にカテプシンD認識領域をコードする塩基配列を有するように挿入させるパターンは、特に限定されるものではない。よって目的の外来タンパク質をコードする遺伝子が挿入されるカテプシンD認識領域をコードする領域は、上記認識領域Aをコードする領域であっても、認識領域Bをコードする領域であっても、認識領域Cをコードする領域であってもよい。また、目的の外来タンパク質をコードする遺伝子は、認識領域Aをコードする領域、認識領域Bをコードする領域、認識領域Cをコードする領域のいずれか1箇所のみに挿入されている態様であってもよいが、認識領域Aをコードする領域、認識領域Bをコードする領域、認識領域Cをコードする領域のうち、いずれか2箇所に挿入されていてもよいし、また全てに挿入されていてもよい。
さらには、目的の外来タンパク質をコードする遺伝子は、目的の外来タンパク質をコードする遺伝子が2つ以上、カテプシンD認識領域をコードする領域を介して連結されたものであってもよい。本発明においては、「目的の外来タンパク質をコードする遺伝子」とは、上記のごとく目的の外来タンパク質をコ−ドする遺伝子が複数個連結したものを含む意味である。なお、連結する目的の外来タンパク質をコードする遺伝子は、同じタンパク質をコードする遺伝子であっても、異なるタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。かかる構成とすることで、タンパク質の生産量を向上させたり、2種類以上のタンパク質を同時に生産することができるようになる。なお、本発明において「外来タンパク質をコードする遺伝子」とは、宿主の細胞が、元来有していないタンパク質をコードする遺伝子、および元来有しているタンパク質をコードする遺伝子をも含む意味である。
また遺伝子置換ベクターに含まれるカテプシンD認識領域をコードする領域に、外来の目的の外来タンパク質をコードする遺伝子が、当該遺伝子の3’末端および5’末端にカテプシンD認識領域をコードするポリヌクレオチドを有するように挿入させる手法については、特に限定されるものではなく、通常の遺伝子工学的手法を用いればよい。
例えば、遺伝子置換ベクターに含まれるカテプシンD認識領域(ここでは便宜上、認識領域Aを用いて説明する。当然他のカテプシンD認識領域についても同様実施すればよい。)をコードする領域のみを切断し、かつ目的の外来タンパク質をコードする遺伝子を切断しない制限酵素(例えば、NheI)を用いて、目的の外来タンパク質をコードする遺伝子を含まない本発明にかかる遺伝子置換ベクターをまず切断する。一方、目的の外来タンパク質をコードする遺伝子の両端(5’末端、3’末端)に認識領域Aをコードするポリヌクレオチドを有する融合ポリヌクレオチドを調製する。この融合ポリヌクレオチドは、両端に認識領域Aをコードするポリヌクレオチド塩基配列が付加されるようにデザインしたプライマーを用い、PCR等によって調製することが可能である。次に当該融合ポリヌクレオチドを、遺伝子置換ベクターの切断に用いた制限酵素(例えば、NheI)によって切断する。このように切断を行なった遺伝子置換ベクターおよび前記融合ポリヌクレオチドをライゲーションすれば、遺伝子置換ベクターに含まれるカテプシンD認識領域をコードする領域に、目的の外来タンパク質をコードする遺伝子が、当該遺伝子の3’末端および5’末端にカテプシンD認識領域をコードするポリヌクレオチド塩基配列を有するように挿入された遺伝子置換ベクターを構築することができる。
また、遺伝子置換ベクターに含まれるカテプシンD認識領域をコードする領域を制限酵素等にて切除し、目的の外来タンパク質をコードする遺伝子の両端(5’末端、3’末端)に認識領域Aをコードするポリヌクレオチドを有する融合ポリヌクレオチドをフレームシフトが起こらないように挿入してもよい。
なお、目的の外来タンパク質をコードする遺伝子と、カテプシンD認識領域をコードする遺伝子との間に、ヒスチジンタグ等の精製用タグをコードするポリヌクレオチドが挿入されていてもよい。カテプシンDによって切り出された目的の外来タンパク質を、当該精製用タグによって容易に回収・精製することができる。例えば上記ヒスチジンタグは、ニッケルカラムを用いて容易に目的の外来タンパク質を回収・精製することができる。また精製用タグは、従来公知のものを適宜選択の上、用いればよく、上記ヒスチジンタグのほか、GST(glutathion S transferase)タグ、FLAGタグ、V5タグ、mycタグ、チオレドキシンタグ、AvitagTM等が利用可能である(例えば、先端バイオ用語集、羊土社p15-20参照)。
ところで、本発明にかかる遺伝子置換ベクターには、さらに、プロモーターと当該プロモーターに制御可能に連結された選択マーカー遺伝子を含んでなる選択マーカー発現カセットが、カテプシンD認識領域を含む鳥類由来ビテロゲニンタンパク質の一部または全部をコードする遺伝子断片に挿入されている態様であってもよい。上記選択マーカー遺伝子は、特に限定されるものではなく、従来公知のものを適宜選択の上、用いればよい。例えばブラストシジンS耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン、ピューロマシシン、ゼオシン等が挙げられる。
また上記選択マーカー発現カセットに含まれるプロモーターは、特に限定されるものではなく、宿主細胞において選択マーカー遺伝子のプロモーターと機能するものであればよい。また誘導型プロモ−ターであっても、非誘導型プロモーターであってもよい。ただし、上記薬剤耐性マーカー等の選択マーカーは陽性選択用のマーカーであり、常に発現させる必要があるため非誘導型のプロモーターの方が好ましいといえる。
例えば、選択マーカー用のプロモーターとしては、従来公知のプロモーターを適宜選択の上、用いればよく、誘導型のプロモーターとしては、テトラサイクリンによる誘導を行なうTet System(クロンテック社製)、IPTGによる誘導を行なうLacプロモーター、また非誘導型プロモーターとしては、CMVプロモーター、SV40プロモーターが利用可能である。
またこのほか、上記選択マーカー発現カセットには、ポリA付加シグナル、loxP、IRES等のDNAセグメントが含まれていてもよい。
上記選択マーカーを有する態様によれば、本発明にかかる遺伝子置換ベクターを宿主細胞に導入したときに、目的の遺伝子が導入された細胞か否かを、ブラストシジンS等の薬剤に対する耐性を指標に容易に判別することができる。すなわち、目的の遺伝子が挿入された細胞は、ブラストシジンS等の薬剤耐性遺伝子が発現するために、上記薬剤に対する耐性が現れる。したがって上記ブラストシジンSを含む培地で培養して生育してきた細胞をセレクトすれば、目的の遺伝子が導入された細胞をセレクトできる。
なお、上記選択マーカー遺伝子は、鳥類由来ビテロゲニンタンパク質の一部または全部をコードする遺伝子断片のイントロン部分に挿入されていることが好ましい。エクソン部分に選択マーカー遺伝子が挿入されると、リポビテリン−1、またはホスビチン、またはリポビテリン−2、またはβ−リベチンをコードする遺伝子が破壊され正常なタンパク質が得られないからである。例えば、配列番号5に示されるニワトリのビテロゲニンタンパク質をコードする遺伝子のイントロンは、54位〜168位(イントロン1)、190位〜289位(イントロン2)、442位〜1768位(イントロン3)、2021位〜2531位(イントロン4)、2694位〜2798位(イントロン5)、2948位〜3115位(イントロン6)、3267位〜3384位(イントロン7)、3543位〜3624位(イントロン8)、3791位〜4691位(イントロン9)、4818位〜5221位(イントロン10)、5441位〜6010位(イントロン11)、6229位〜6344位(イントロン12)、6443位〜6919位(イントロン13)、7045位〜7165位(イントロン14)、7268位〜7905位(イントロン15)、8026位〜8111位(イントロン16)、8302位〜9054位(イントロン17)、9149位〜9280位(イントロン18)、9467位〜9958位(イントロン19)、10104位〜10224位(イントロン20)、10448位〜10537位(イントロン21)、10714位〜11066位(イントロン22)、11757位〜12220位(イントロン23)、12272位〜12524位(イントロン24)、12615位〜13053位(イントロン25)、13267位〜13361位(イントロン26)、13505位〜13888位(イントロン27)、14028位〜14567位(イントロン28)、14704位〜15160位(イントロン29)、15348位〜15678位(イントロン30)、15771位〜16856位(イントロン31)、16955位〜17703位(イントロン32)、17864位〜18918位(イントロン33)、19081位〜20002位(イントロン34)であり、上記いずれかにイントロン部分に選択マーカー発現カセットを適宜挿入すればよい。なお上記イントロン情報は、NCBIのホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)で入手した(ACCESSION Number:X13607)。
また本発明にかかる遺伝子置換ベクターにはさらに、プロモーターと当該プロモーターに制御可能に連結された致死遺伝子を含んでなる致死遺伝子発現カセットが、カテプシンD認識領域を含む鳥類由来ビテロゲニンタンパク質の一部または全部をコードする遺伝子断片に連結されている態様であってもよい。上記致死遺伝子発現カセットは、カテプシンD認識領域を含む鳥類由来ビテロゲニンタンパク質の一部または全部をコードする遺伝子断片に連結されている、すなわちビテロゲニンタンパク質の相同領域外に連結されているため、本発明にかかる遺伝子置換ベクターを用いて宿主細胞に目的の外来タンパク質をコードする遺伝子を導入した際に、相同組み換えが起これば、当該致死遺伝子発現カセットは、宿主細胞のゲノムに組み込まれないこととなる。
一方、ランダムな位置に目的の外来タンパク質をコードする遺伝子が導入された場合は、致死遺伝子発現カセットを含めて宿主細胞のゲノムに組み込まれることとなる。したがって、ランダムな位置に目的の外来タンパク質が組み込まれた宿主細胞は、致死遺伝子が発現することによって、細胞が死滅する。よって、宿主細胞を培養して最終的に生育してきた細胞をセレクトすれば、目的の外来タンパク質をコードする遺伝子が、目的とする相同領域に組み込まれた細胞のみをセレクトすることができる。なお、最終的に相同組み換えが起こり目的の領域に目的の外来タンパク質をコードする遺伝子が挿入されたか否かは、サザンハイブリダイゼーション、PCR、シークエンスを行なって確認することが確実性の観点から好ましい。
ここで「致死遺伝子」とは、その発現により宿主細胞が死滅させることができる遺伝子のことであり、その遺伝子発現産物そのものに細胞毒性があり直接的に細胞を死滅させるものであっても、アポトーシス等の細胞死の誘導を行なうシグナル伝達物質のごとく、間接的に宿主細胞を死滅させるものであってもよい。かかる致死遺伝子としては、上記宿主細胞を死滅させることができるものであれば、特に限定されるものではなく、従来公知の致死遺伝子を適宜選択の上、採用すればよい。
かかる致死遺伝子としては例えば、カスパーゼ遺伝子が挙げられる。カスパーゼファミリーは、アポトーシスを誘導するプロテアーゼ群であり、基質特異性の違いからサイトカインのプロセッシングに関与するI群(カスパーゼ−1、カスパーゼ−4、カスパーゼ−5)、細胞死の実行に関与するII群(カスパーゼ−3、カスパーゼ−7、カスパーゼ−2、CED−3)、および細胞死のシグナル伝達に関与するIII群(カスパーゼ−6、カスパーゼ−8、カスパーゼ−9)がある。致死遺伝子としては、上記いずれのカスパーゼをコードする遺伝子は全て利用可能である。特に、カスパーゼ−3等のII群のカスパーゼをコードする遺伝子は、細胞死の実行に関与しており即効性からに特に好ましいといえる。
上記カスパーゼ遺伝子のほか、ジフテリア毒素遺伝子、単純ヘルペスウイルスI型のチミジンキナーゼをコードする遺伝子(HSV−TK)が利用可能である。上記HSV−TKがコードするタンパク質は、DNA塩基のアナログであるアシクロビル、ガンシクロビル等をリン酸化し、その後宿主細胞内のキナーゼによってリン酸化されて、3リン酸化体になり細胞のDNA合成を阻害するというものである。
なお上記致死遺伝子は、公知の塩基配列情報から入手可能である。
致死遺伝子を制御するプロモーターとしては、導入される宿主細胞内で機能するものであれば、特に限定されるものではないが、誘導型のプロモーターがより好ましいといえる。細胞に対して悪影響を及ぼす致死遺伝子の発現を綿密に制御することができ安全性の面において優れていることや、前述の選択マーカーによる選抜と、致死遺伝子による選抜を別個に行なうことができ、より正確に目的とする宿主細胞を選抜することが可能となるからである。致死遺伝子用のプロモーターとしては、従来公知のプロモーターを適宜選択の上、用いればよく、例えば誘導型のプロモーターとしては、テトラサイクリンによる誘導を行なうTet System(クロンテック社製)、IPTGによる誘導を行なうLacプロモーター、また非誘導型プロモーターとしては、CMVプロモーター、SV40プロモーターが利用可能である。
またこのほか、上記致死遺伝子発現カセットには、ポリA付加シグナル、loxP、IRES等のDNAセグメントが含まれていてもよい。
なお、本発明にかかる遺伝子置換ベクターの基本骨格は、特に限定されるものではなく、従来公知のベクターを適宜選抜の上、用いればよい。またかかる従来公知のベクター由来のDNAセグメント(ポリA付加シグナル、ヒスチジンタグ等の精製用タグ、薬剤耐性マーカー、myc epitope等の検出用タグ)が含まれていてもよい。環状であっても、リニア形状であってもよい。ただし、相同組み換えが起こりやすいという理由から、宿主細胞に導入する際には、リニア形状であることが好ましい。
以下に、上記本発明にかかる遺伝子置換ベクターを用いて、相同組み換えが起こったか否かを確認する方法の一例について示す。なお確認方法はこれに限定されるものではない。(1)本発明にかかる遺伝子導入用ベクターを肝臓細胞株に導入し、薬剤等による選択をかける。(2)薬剤等による選択で生存し選択された肝臓細胞株に対して、選択マーカーである致死遺伝子の発現誘導を行なう。(3)致死遺伝子の発現誘導の結果、生存した細胞を選抜する。(4)選抜した細胞について、ビテロゲニン遺伝子座における外来タンパク質をコードする遺伝子の有無をPCR、またはサザンブロット解析によって確認し、相同遺伝子組み換えが起こったか否かを確認する。なお用いる細胞株は、特に肝臓細胞株に限らず、血球系細胞株や培養ES細胞であってもよい。また電気穿孔法で組織に遺伝子置換ベクターを導入し、導入した組織からDNAを抽出して相同遺伝子組み換えの有無を調べてもよい。
(2.本発明にかかる鳥類細胞におけるタンパク質の生産方法)
本発明にかかる鳥類細胞におけるタンパク質の生産方法(以下、本発明にかかるタンパク質の生産方法という。)は、上記「1.本発明にかかる遺伝子置換ベクター」の項で説示したように、本発明にかかる遺伝子置換ベクターに含まれるカテプシンD認識領域をコードする領域に、外来の目的の外来タンパク質をコードする遺伝子が、当該遺伝子の3’末端および5’末端にカテプシンD認識領域をコードする塩基配列を有するように挿入して構築した遺伝子置換ベクターを用いて、目的の外来タンパク質をコードする遺伝子を鳥類由来細胞に導入する遺伝子導入工程を含むことを特徴としている。
<遺伝子導入工程>
本発明にかかるベクターの導入方法は、宿主細胞と当該遺伝子置換ベクターに応じて、公知の方法を適宜採用すればよい。例えば、リポフェクション法、電気穿孔法(エレクトロポレーション)、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法等があげられる。後述する実施例では、エレクトロポレーションを行なって、ニワトリ肝細胞株(LMH)に遺伝子導入を行なっている。
目的の外来タンパク質をコードする遺伝子が挿入されたか否かは、薬剤耐性マーカー等の選択マーカーによって、判定することができる。このとき、1週間程度細胞培養を行なって、一過性の発現(transient expression)を排除し、安定形質転換細胞(stable transformant)をセレクトすることが好ましい。
また、上記「1.本発明にかかる遺伝子置換ベクター」の項で説示したごとく致死遺伝子発現カセットを連結して構築した遺伝子置換ベクターの場合では、致死遺伝子の発現により、相同組み換えにより目的の位置に目的の外来タンパク質をコードする遺伝子が組み込まれたか、ランダムな位置に組み込まれたかを判別することができる。
また宿主細胞は、特に限定されるものではなく、ニワトリを始めとする鳥類由来の細胞を用いればよい。ただし、増殖が早く培養がしやすいこと、扱いが容易であること等の理由により、各種培養細胞が好ましい。各種培養細胞としては、ニワトリ由来LMH(HSRRB(ヒューマンサイエンス研究資源バンク)より分譲)、OU−2(樹立者(岡山大・Ogura Hajime)より分与)、HD11(樹立者(Lillehoj HS・Parasite Biology, Epidemiology and Systematics Laboratory, Animal and Natural Resources Institute, Beltsville Agricultural Research Service, U.S. Department of Agriculture)より分与)、IN24(樹立者(山口大・Inoue Makoto)より分与)、DT40(HSRRB(ヒューマンサイエンス研究資源バンク)より分譲)等が利用可能である。
ただし本発明の最終的な目的は、鳥類の卵黄内に目的の外来タンパク質を蓄積させることであるため、ビテロゲニンタンパク質を生産する肝細胞に挿入することが好ましいといえる。
<細胞培養工程>
本発明にかかるタンパク質の生産方法は、上記「遺伝子導入工程」の他、細胞培養工程を含むものであってもよい。
目的の外来タンパク質をコードする遺伝子が相同組み換えによって、目的の位置の導入された導入された細胞(肝細胞)は、カテプシンD認識領域を両端(N末端、C末端)に有する外来タンパク質が、ビテロゲニンタンパク質のカテプシンD切断点に挿入された融合タンパク質として合成されることとなる。
かかる融合タンパク質をカテプシンDによる消化を行なえば(酵素消化工程)、目的の外来タンパク質、リポビテリン−1、ホスビチン、リポビテリン−2、およびβ−リベチンが切り出されることとなる。このとき目的の外来タンパク質にヒスチジンタグ等の精製用タグが付加されていれば、容易に目的の外来タンパク質を回収することができる(回収・精製工程)。例えば、ヒスチジンタグを利用して目的の外来タンパク質を回収する方法としては、ニッケルカラムを用いて、レジンに吸着した目的の外来タンパク質を溶出して回収すればよい。
またこの系を用いて、トランスジェニック動物(トランスジェニックニワトリ)を作製すれば(トランスジェニック作製工程)、上記融合タンパク質は、血流に分泌された後、ビテロゲニンタンパク質のシグナルを用いて卵母細胞内へ取り込まれ、卵母細胞内のカテプシンDの作用によって、最終的に目的の外来タンパク質および卵黄タンパク質が切り出され、卵黄内に目的の外来タンパク質を蓄積させることができる。
上記の現象を実験的に確認する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。なお、以下の方法は、あくまで一例であってこれに限定されるものではない。(1)ビテロジェニン遺伝子座の上流にあるプロモーターから下流のポリA付加シグナル配列を含む領域をクローン化する。このとき上流のプロモーターをウイルス由来の強いプロモーターに置換したクローンを作成して実験を行なってもよい。(2)これらのDNAクローンのカテプシンD認識領域に外来タンパク質をコードする遺伝子を挿入する。(3)構築したDNA構築物を、産卵をおこなう成鶏メスの肝臓の細胞に電気穿孔法等によって導入する。(4)産卵成鶏メスの肝臓には大量のエストロゲンが存在するため、導入したDNAのビテロゲニンはエストロゲンによって、内在ビテロゲニン遺伝子と同様に発現誘導を受ける。なおウイルス由来のプロモーターを用いた場合には、細胞内在性の転写因子によって発現誘導を受ける。(5)末梢血、生まれてくる卵に含まれる外来タンパク質(外来タンパク質をコードする遺伝子の発現産物を)確認することで、外来タンパク質をコードする遺伝子を挿入したビテロジェニンが血流に乗り、卵黄に移行することを確認することができる。
本発明にかかる遺伝子置換ベクターを用いて、トランジェニックニワトリを作製する方法としては、例えば、ニワトリの胚盤様細胞から樹立したES様細胞にかかる遺伝子置換ベクターを導入し、目的の遺伝子座に遺伝子置換が起きた細胞のみを選択した後、ニワトリの胚へ戻す事により、遺伝子改変された体細胞と通常の体細胞を有するキメラニワトリを作製することが挙げられる。
一方、ランダムな位置に目的の外来タンパク質をコードする遺伝子が挿入された株であっても、細胞培養よってカテプシンD認識領域を両端(N末端、C末端)に有する外来タンパク質を生産することは可能である。この場合、上記と同様カテプシンDによる消化を行なえば、目的の外来タンパク質が切り出されることとなる。このとき目的の外来タンパク質にヒスチジンタグ等の精製用タグが付加されていれば、容易に目的の外来タンパク質を回収することができる。
なお細胞培養の方法は、各種細胞に好適な条件を適宜採用して行なえば良く、特に限定されるものではない。
またこのほか、本発明にかかるタンパク質の生産方法では、遺伝子置換ベクターの構築工程(ベクター構築工程)を含むものであってもよい。当該ベクター構築工程の具体的な方法については、上記「1.本発明にかかる遺伝子置換ベクター」の項で説示した方法を適宜採用すればよい。
(3.本発明にかかるタンパク質の生産キット)
本発明にかかる鳥類細胞におけるタンパク質の生産キット(以下、本発明にかかるタンパク質生産キットという。)は、本発明にかかる遺伝子置換ベクターが含まれていることを特徴としている。なお本発明にかかるタンパク質生産キットに含まれる遺伝子置換ベクターは、外来タンパク質をコードする遺伝子が既に挿入されているものであっても、挿入されていないものであってもよい。
外来タンパク質をコードする遺伝子が既に遺伝子置換ベクターに挿入されている場合は、当該本発明にかかるタンパク質生産キットの使用者が、既に挿入されている外来タンパク質をコードする遺伝子と、目的とする外来タンパク質をコードする遺伝子とを置換して使用すればよい。
また、外来タンパク質をコードする遺伝子が挿入されていない遺伝子置換ベクターが本発明にかかるタンパク質生産キットに含まれている場合には、使用者が適宜目的とする外来タンパク質をコードする遺伝子を挿入して使用すればよい。
上記のほか、本発明にかかるタンパク質生産キットには、遺伝子を導入するために必要な器具・試薬類、タンパク質を回収・精製するために必要な器具・試薬類、細胞を培養するために必要な器具・試薬類等が含まれていてもよい。
上記遺伝子を導入するために必要な器具・試薬類としては、例えば、エレクトロポレーター、サーマルサイクラー、チューブ、制限酵素、緩衝液等が挙げられる。また、タンパク質を回収・精製するために必要な器具・試薬類としては、電気泳動装置、アガロースゲル、ニッケルカラム等の精製用カラム、精製に用いられるレジン、緩衝液等が挙げられる。また、細胞を培養するために必要な器具・試薬類等としては、培養用容器、培養装置、培地、緩衝液、培養細胞等が挙げられる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
〔実施例1〕
カテプシンDの切断点をコードする領域に、カテプシンD認識領域を両端(N末端、C末端)に有する外来タンパク質をコードする遺伝子を挿入した発現ベクターを宿主細胞に導入することで、カテプシンD認識領域を両端(N末端、C末端)に有する外来タンパク質が、ビテロゲニンタンパク質(一部)のカテプシンD切断点に挿入された融合タンパク質として合成されるか否かを確認した。
<発現ベクターの作製>
pcDNA4/myc-his B(Invitrogen社製)のBamHIサイトに、リポビテリンとホスビチンの切断点を含む領域をコードするビテロゲニンタンパク質をコードする遺伝子断片を挿入した。なお上記遺伝子断片は、λベクターにクローニングしたビテロゲニン遺伝子断片を鋳型として、PCR法により取得した。当該PCRに用いたプライマーは5’-CGGGATCCACCATGGGAAACACTG-3’(配列番号20)をフォワードプライマーとし、5’-CGGGATCCGCTGCTCCTGCTGCTGCTGCT-37’(配列番号21)をリバースプライマーとした。なおフォワードプライマーの5’端から数えて3位〜8位の塩基配列、およびリバースプライマーの5’端から数えて3位〜8位の塩基配列は、制限酵素BamHIに消化される配列をコードしている。
次に外来タンパク質をコードする遺伝子としてEGFP(Enhanced Green Fluorescent Protein)遺伝子(クロンテック社製)を、pIRES2-EGFP(クロンテック社製)を鋳型としたPCRにより調製した。上記PCRに用いたプライマーは5’-CCGCTAGCAGAGTTTGGGACACACCACCACCACCACCACGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTG-3(配列番号22)をフォワードプライマーとし、5’-GGGCTAGCACAGTGTTTCCCTTGTACAGCTCGTCCATGCCGAGA-3’(配列番号23)をリバースプライマーとした。なおフォワードプライマーの5’端から数えて22位〜39位の塩基配列は、ヒスチジンタグをコードしている。また、フォワードプライマーの5’端から数えて3位〜8位の塩基配列、およびリバースプライマーの5’端から数えて3位〜8位の塩基配列は、制限酵素NheIに消化される配列をコードしている。さらにフォワードプライマーの5’端から数えて4位〜15位の塩基配列、およびリバースプライマーの5’端から数えて2位〜17位の塩基配列は、カテプシンD認識領域(上記認識領域A)の一部をコードしている。
上記PCRにより増幅したEGFPを含む遺伝子断片を、pcDNA4/myc-his Bに存在するビテロゲニン領域内のNheI領域へ挿入すれば、外来タンパク質をコードする遺伝子(EGFP)の両端に、完全なカテプシン認識領域(認識領域A)をコードする遺伝子が挿入された発現ベクターを構築することができる。
上記のようにして構築した発現ベクターの構造を図2に示す。図2(a)は、pcDNA4/myc-his B(Invitrogen社製)に導入した外来タンパク質をコードする遺伝子の概略を示した図であり、図2(b)は構築した発現ベクターの構造を示す図である。図2(a)において、白抜き四角の部分は、外来タンパク質をコードする遺伝子であるEGFP遺伝子を示し、交差線を付した四角の部分は、ヒスチジンタグをコードするポリヌクレオチド、斜線を付した四角の部分は、カテプシンD認識領域をコードする遺伝子、黒塗り四角の部分はビテロゲニンタンパク質の一部をコードする遺伝子を示している。
また図3には、pcDNA4/myc-his B(Invitrogen社製)のCMVプロモーターの制御下に連結されたpVTG-eGFPの開始コドンから終止コドンまでの領域の塩基配列(配列番号6)とアミノ酸配列(配列番号7)を示した。図3において、破線を引いた部分がカテプシンD認識領域(コード領域)であり、実線を引いた部分がヒスチジンタグの領域であり、四角囲みの部分が外来タンパク質をコードする遺伝子であるEGFPタンパク質(遺伝子)領域であり、波線を引いた部分はビテロゲニンタンパク質(遺伝子)を示し、二重下線を引いた部分がpcDNA4/myc-his B(Invitrogen社製)由来のmyc epitopeとヒスチジンタグの領域を示している。
図3に示す遺伝子構築物から発現する融合タンパク質は、N末端にヒスチジンタグを有するEGFPタンパク質で、さらにその両端にカテプシンD認識領域(配列番号2)が付加されたタンパク質である。またC末端には、pcDNA4/myc-his B(Invitrogen社製)由来のmyc epitopeとヒスチジンタグが付加されている。
<エレクトロポレーションによる遺伝子導入>
Gene Pulser Xcell(BIO−RAD社製)を用いてニワトリ肝細胞株であるLMH(HSRRB(ヒューマンサイエンス研究資源バンク)より分譲)へ、4×105cells、40μgDNAを400μl 10%仔牛血清を含むダルベッコ培地に懸濁し、0.4cm間隔キュベットを用い、270V、950μFで遺伝子導入を行なった。LMHは10%仔牛血清を含むイスコフ培地を用いて、37℃、5% CO2にて培養した。陽性対照としてpIRES2-EGFPを遺伝子導入した。
<EGFPの蛍光顕微鏡観察>
(方法)
遺伝子導入24時間後に蛍光顕微鏡IX71(OLYMPUS社製)を用い細胞を観察した。
(結果)
蛍光顕微鏡観察の結果を図4(A)〜(L)に示した。図4(A)〜(F)は100倍、図4(G)〜(L)は600倍の顕微鏡写真である。図(A)、(D)、(G)、(J)は陽性対照:であるpIRES2-EGFP導入したLMHの結果を示し、図4(B)、(E)、(H)、(K)は構築した発現ベクターを導入したLMHの結果を示し、図4(C)、(F)、(I)、(L)は陰性対照(遺伝子非導入)のLMHの結果を示している。また、図4(A)、(B)、(C)、(G)、(H)、(I)はWIBAフィルターによる蛍光観察、図4(D)、(E)、(F)、(J)、(K)、(L)は明視野による観察の結果である。なお、図中のバーは100μmを示すスケールである。
(結果)
構築した発現ベクターを導入したLMHと、陽性対照のLMHにおいて、EGFPの蛍光が確認された(図4(G)、(H))。陰性対照のLMHは、蛍光が確認されなかった(図4(I))。この結果は、構築した発現ベクターを導入したLMHが、EGFPを発現している事を示している。
<ウェスタンブロットによる導入タンパク質の検出>
(方法)
遺伝子導入48時間後の細胞集団をRIPA 緩衝液(20mM トリス(pH7.2), 1% デオキシコール酸ナトリウム, 1% トリトンX-100, 0.1% ドデシル硫酸ナトリウム, 150mM 塩化ナトリウム, 蛋白質分解酵素阻害剤にて可溶化し、12.5%アクリルアミドゲルを用いて電気泳動を行なった。その後、二フッ化ポリビリニデン性の膜へ転写し、ブロッキングにスキムミルク、一次抗体に抗 GFP抗体、二次抗体にHPRO標識ヤギ抗マウスIg抗体を用い、ECL Plus(キアゲン社製)を用いて検出を行なった。またHRP標識抗myc抗体を用い同様に検出を行なった。
なお、ビテロゲニンとGFPとの融合タンパク質は、LMHの内在性カテプシンDによって切り出される。ただし、遺伝子置換によって全長のビテロゲニンとGFP(外来タンパク質)との融合タンパク質が合成されれば、カテプシンD等の内在性プロテアーゼから隔離された経路(小胞体を通る経路)によって、肝細胞から血流にのるために、卵母細胞に到達する前にカテプシンDによって外来タンパク質が切り出されることはない。
(結果)
図5(a)にウェスタンブロット法によるGFPタンパク質を検出した結果を示し、図5(b)にウェスタンブロット法によるmycタンパク質を検出した結果を示している。またレーン1は陽性対照としてpIRES2-EGFPを導入したLMHの結果を示し、レーン2、5は構築した遺伝子構築用ベクターを導入したLMHの結果を示し、レーン3、6は陰性対照として遺伝子非導入のLMHの結果を示す。またにおけるレーン4、7はPositope Control Protein(Invitrogen社製:53kDa)の結果を示す。
抗GFP抗体、抗myc抗体のいずれにおいてもPositope Control Protein(Invitrogen社製)(レーン4、7、矢印A)、発現する融合タンパク質全長(レーン2,5、矢印B)、及び融合タンパク質全長よりわずかに分子量の小さいバンド(レーン2、5、矢印C)を検出した。
抗GFP抗体では、カテプシンDにより切り出されたGFPタンパク質のバンド(レーン2、矢印D)、陽性対照としてpIRES2-EGFPを遺伝子導入したLMHからはEGFPタンパク質のバンド(レーン1、矢印E)を検出した。
(考察)
上記のウェスタンブロットの結果において、抗GFP抗体、抗myc抗体のいずれにおいても発現した融合タンパク質全長よりわずかに分子量の小さいバンド(レーン2、5、矢印C)が検出された。これは融合タンパク質のN末端側のビテロゲニン領域だけが切り離された為と考える。
カテプシンDにより切り出されたGFPタンパク質(レーン2、矢印D)は、陽性対照の(レーン1、矢印E)よりも分子量が大きい。これはヒスチジンタグとカテプシンD認識領域が付加されているためである。融合タンパク質の全長と、切り出されたEGFPタンパク質が同時に検出されている事から、カテプシンDによる切断を受けたタンパク質は一部である事を示している。また2種類の抗体で検出したPositope Control Proteinのバンドの比較から、抗myc抗体(レーン7、矢印A)は抗GFP抗体(レーン4、矢印A)よりも検出感度が低いことが示された。この為、抗myc抗体において切り出されたC末端側のビテロゲニンタンパク質が検出されないと考えられる。
本実施例では、カテプシンDの切断点をコードする領域に、カテプシンD認識領域を両端(N末端、C末端)に有する外来タンパク質をコードする遺伝子を挿入した発現ベクターを宿主細胞に導入することで、カテプシンD認識領域を両端(N末端、C末端)に有する外来タンパク質が、ビテロゲニンタンパク質(一部)のカテプシンD切断点に挿入された融合タンパク質として合成されることを確認した。さらには、前記融合タンパク質からカテプシンDの作用によって、前記融合タンパク質から目的とする外来タンパク質(EGFP)が切り出される事を確認した。
この事により、本発明によれば本来あるビテロゲニンの機能を損なうことなく卵黄内へ外来タンパク質を蓄積させ、ニワトリの卵を用いて有用タンパク質を大量に生産することが期待できる。