JP4271202B2 - リポ蛋白質中コレステロールの定量方法 - Google Patents

リポ蛋白質中コレステロールの定量方法 Download PDF

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Description

本発明は、臨床診断の分野において、生体試料中のリポ蛋白質画分中のコレステロールを定量する方法に関する。
古くからリポ蛋白質は、超遠心操作により、高比重リポ蛋白質(HDL,比重1.063〜1.21)、低比重リポ蛋白質(LDL,比重1.019〜1.063)、超低比重リポ蛋白質(VLDL,比重1.006〜1.019)、カイロミクロン(CM,比重<1.006)に分画されている。この分画操作は、超遠心機を必要とする上に、遠心は数日に亘って行わなければならず、多検体を処理することは出来なかった。これに代わりポリエチレングリコールまたはデキストラン硫酸等のポリアニオンに、マグネシウムやカルシウム等の二価カチオンを共存させたり、リンタングステン酸に二価カチオンを共存させた分画剤なる溶液と血清とを混和させてLDL、VLDL、CMを沈澱させ、遠心後の上清に残るHDLのみを分画する方法が主流となっていた。この方法は、臨床検査の分野で広く普及している自動分析装置を用いることが出来た。即ち、分画したHDL画分中のコレステロールは、酵素法による総コレステロールの測定が自動分析機で確立しているので、それを応用してHDL画分中のコレステロール濃度を求めることが出来た。
しかしながら、この方法も低速とはいえ、遠心操作が必要であり、分画剤と血清とを混和させるときの人為的な定量誤差や検体の取り違えなどが問題となっていた。その上、自動分析装置で他の一般的な生化学項目と同時には測定出来なかった。臨床検査は迅速対応が求められており、この事からも検査時間の短縮が課題となっていた。
一方、臨床的には動脈硬化のリスクファクターであるLDL画分中のコレステロール値を重視する報告(非特許文献1)〔総コレステロールの基準値と設定根拠,動脈硬化,24(6),260(1996)〕もある。現在LDL画分中のコレステロール値は総コレステロール(T−CHO)、中性脂肪(TG)及びHDL画分中のコレステロールの測定結果から経験的なファクターを代入して求める。その式を以下に示す(非特許文献2;Friedewald WT,et al,Clin.Chem.,18,499−502(1972))。
LDL画分中のコレステロール値=(T−CHO値)−(HDL画分中のコレステロール値)−(TG値)/5
この方法では、測定する3項目が全て正確に測定されなければ成立しない。また、TG値が400mg/dlを越えたり、LDL画分中のコレステロール濃度が100mg/dl以下になると計算値がLDL画分中のコレステロール濃度を反映しなくなると言われている(非特許文献3;Warnick GR,et al,Clin.Chem.36(1),15−19(1990)、非特許文献4;McNamara JR,et al,Clin.Chem.36(1),36−42(1990))。従って、肝心な異常値が求められない方法である。他に、電気泳動でリポ蛋白を分離し蛋白量を測定する方法やHPLCによるリポ蛋白別コレステロールの測定方法もあるが、検体処理能力に欠ける方法であり、高価な装置も必要となる。
近年、HDL画分中のコレステロール測定に関して前述した問題を解決するため、全自動のHDL画分中のコレステロールを測定するキットが開発され普及しつつある。特許文献1〜3(特許第2600065号公報、特開平8−201393号公報および特開平8−131195号公報)に開示される技術では、分画剤を併用するが、分画剤に含まれる二価カチオンとして用いられる金属が自動分析装置で一般的に使用される洗剤により不溶性の沈澱物を形成し、それが廃液機構で蓄積することにより故障の原因となっている。更に反応液中に不溶性の凝集物を形成し、測定結果に影響を与える濁りが生じて測定誤差の原因となっているばかりか、凝集物により反応セルが汚染されて、同時に測定している他の生化学項目の測定結果に少なからず影響を与えている。
普及しているほとんどの自動分析装置は、10分で反応を完了する場合が多い。このとき反応中に濁度変化があっては測定値の正確性に問題がある。その他、反応液が濁ると再現性が低下するという問題も加わる。それ故、測定する検体に制限が加わり、幅広い測定波長と多種多様な患者検体に対応することが出来ない。例えば、340nm付近(UV域)では凝集物による濁りの現象により、吸光度が2〜3以上となり分析機の許容範囲をしばしば越えてしまう欠点がある。
二価カチオンを用いることのない特許文献4(特開平9−96637号公報)に開示される技術は、リポ蛋白と凝集する抗血清を含ませる方法であるが、これも難溶性の抗原抗体凝集物を形成するので、反応セルが汚染される。従って、同時に測定している他の生化学項目の測定結果に少なからず影響を与える。また、反応液中の濁りが強度となるので、特にUV領域によるHDL画分中のコレステロール測定に対しても前述と同じ原因で正確な測定が不可能である。高波長域でも濁りの影響で測定値の正確性に欠ける。
また、このような濁りを最終的に消去する技術は特許文献5(特開平6−242110号公報)に開示されるが、この方法だと最低でも3〜4段階の試薬分注操作が必要となり、一般的に普及している生化学項目用の自動分析機は最大二段階のものが主流であるので応用出来ないことが多い。一方、LDL画分中のコレステロールの測定に至っては、現在も計算による方法を採らざるを得ない状況である。
臨床検査に用いる測定用試薬は、その汎用性を重視するため、緩衝能の維持、安定化、試薬の液状化、防腐効果、短時間測定のため、酵素の活性化等の工夫がなされている。
コレステロール脱水素酵素(CDH)を用いるコレステロールの測定には反応時間の短縮を目的としたヒドラジン類の添加が必要となる(特許文献6;特開平5−176797号公報)。しかしながらこの方法では、第一反応でヒドラジン類を存在させるので反応液が高イオン強度下となり、さらに第二反応ではCDHの至適pHである8.0付近、すなわちアルカリ性側に反応液を変動させたり、コレステロール脱水素酵素やコレステロールエステラーゼの活性化剤である界面活性剤を添加すると、可溶性複合体とした目的物質以外のものが分解し、その分解物が本反応に関与し、測定値のばらつきの原因となる。
HDL画分中のコレステロールを測定する条件において、本反応に関与し易い物質としては、LDL画分中の表面に存在する遊離型コレステロールが挙げられる。これらの分解を抑える方法としては、ポリアニオン、二価金属イオン、水溶性高分子化合物または目的物質以外のものに対する抗体を単独あるいは二種以上を組み合わせて添加し、凝集物あるいは免疫複合体を形成させることにより、本反応への関与を抑えることが可能である。
しかし、これらの凝集物および免疫複合体による濁りの生成は、CDHを用いた波長340nmにおける紫外部測定方法(UV法)では前述の様々な問題も大きな障害となる。
動脈硬化,24(6),260(1996) Clin.Chem.,18,499−502(1972) Clin.Chem.36(1),15−19(1990) Clin.Chem.36(1),36−42(1990) 特許第2600065号公報 特開平8−201393号公報 特開平8−131195号公報 特開平9−96637号公報 特開平6−242110号公報 特開平5−176797号公報
このような状況に鑑み、本発明者らは、汎用の自動分析機を用いて遠心操作による分離をせずに、また反応中に濁りを生じさせることなく、生体試料中のHDLやLDLなどのリポ蛋白質の画分中のコレステロールを定量する方法について鋭意研究を行った。
本発明者らは、予め反応液中で測定誤差となる目的以外のリポ蛋白質画分中のコレステロールをコレステロール酸化酵素で反応させて分解させた後、次いで目的とするリポ蛋白質画分中のコレステロールをコレステロール脱水素酵素などを用いて測定する方法を見い出した。さらに、本発明者らは、生体試料とコレステロール酸化酵素およびコレステロール脱水素酵素との反応時にカリクスアレン類およびその誘導体、ポリアニオン、水溶性ポリマー、多糖類等のリポ蛋白質コレステロールと水可溶性の複合体を形成し得る化合物を存在させることにより(即ち添加することにより)、反応液中に濁りを生じることなく、リポ蛋白質画分中のコレステロールの各種分別定量が可能であることを見い出した。
すなわち、本発明は、以下よりなる。
1.生体試料中の高比重リポ蛋白質中コレステロールを定量するに際し、
第一反応において、前記高比重リポ蛋白質中コレステロール以外のコレステロールをコレステロール酸化酵素と反応させ、
第二反応において、コレステロール脱水素酵素の補酵素およびコレステロール加水分解酵素の存在下で、前記高比重リポ蛋白質中のコレステロールをコレステロール脱水素酵素と反応させることを特徴とする、コレステロールの定量方法。
2.前記コレステロール酸化酵素による反応後の吸光度と、前記コレステロール脱水素酵素による反応後の吸光度との差に基づいて、前記特定のリポ蛋白質中コレステロールを定量する、前項1に記載の定量方法。
3.前記第一反応において、低比重リポ蛋白質および超低比重リポ蛋白質に、4〜8分子のフェノールを基本骨格とする硫酸カリクスアレン、デキストラン硫酸のナトリウム塩またはカリウム塩、リンタングステン酸のナトリウム塩またはカリウム塩、ポリアクリル酸、カラギーナン、Apo−B抗血清、コンカナバリンA、部分ヒドロキシプロピル化シクロデキストリン、部分メチル化シクロデキストリン、ヘパリンのカリウム塩またはナトリウム塩、アルギン酸ナトリウム、および平均分子量200〜6000のポリエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1つの化合物を作用させて可溶性複合体を形成させることにより、前記低比重リポ蛋白質および前記超低比重リポ蛋白質と、前記コレステロール酸化酵素および前記コレステロール脱水素酵素との反応を阻害する、前項1または2に記載の定量方法。
.生体試料中の低比重リポ蛋白質中コレステロールを定量するに際し、
第一反応において、前記低比重リポ蛋白質に、4〜8分子のフェノールを基本骨格とする硫酸カリクスアレン、デキストラン硫酸のナトリウム塩またはカリウム塩、リンタングステン酸のナトリウム塩またはカリウム塩、ポリアクリル酸、カラギーナン、Apo−B抗血清、コンカナバリンA、部分ヒドロキシプロピル化シクロデキストリン、部分メチル化シクロデキストリン、ヘパリンのカリウム塩またはナトリウム塩、アルギン酸ナトリウム、および平均分子量200〜6000のポリエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1つの化合物を作用させて可溶性複合体を形成させることにより、前記低比重リポ蛋白質と前記コレステロール酸化酵素および前記コレステロール脱水素酵素の反応を阻害し、コレステロール加水分解酵素の存在下で前記低比重リポ蛋白質中のコレステロール以外のコレステロールをコレステロール酸化酵素と反応させ、
第二反応において、コレステロール脱水素酵素の補酵素の存在下で前記低比重リポ蛋白質中のコレステロールをコレステロール脱水素酵素と反応させることを特徴とする、コレステロールの定量方法。
5.前記第一反応における前記低比重リポ蛋白質と、前記化合物との反応が、pH6〜8、イオン強度200〜500mmol/Lの条件下で行われる、前項に記載の定量方法。
本発明によれば、第一反応でコレステロール酸化酵素と反応させ、第二反応でコレステロール脱水素酵素と反応させることにより、目的とするリポ蛋白質画分以外の画分由来のコレステロールの影響を排除することが可能となる。
さらに本発明によれば、生体試料中のリポ蛋白質を凝集させることなく、特定のリポ蛋白質画分中のコレステロールを定量することができる。すなわち、測定用試薬に、カリクスアレン類やその誘導体、ポリアニオン、多糖類(シクロデキストリン類など)、水溶性ポリマー等を反応液中に含ませることにより、生体試料中のリポ蛋白質を凝集させることなく、且つ他のリポ蛋白質の影響を受けることなく、選択的に特定のリポ蛋白質画分中のコレステロールを定量することが可能となる。
以下、本発明を実施するための諸条件について詳細に説明するが、本発明は以下の記載により何ら制限されるものではない。
本発明において生体試料とは、血清や血漿などであり、例えば前述のHDL、LDL、VLDL、CMおよびVLDLやCMがリポ蛋白質リパーゼの作用を受けて生じるレムナント様リポ蛋白質等のリポ蛋白質画分を含むものである。リポ蛋白質は、コレステロールを含む脂質成分とアポ蛋白質とが結合することにより内部に脂質、外向きに蛋白質が存在するものであり、生体中で可溶化している。
本発明においては、目的とする画分以外のリポ蛋白質画分由来のコレステロールを分解する為に、まず当該コレステロールとコレステロール酸化酵素を作用させることを特徴とする(第一反応)。コレステロール酸化酵素としては、コレステロールを酸化することができるものであれば、その由来等には格別の制限はない。第一反応は、pH6.0〜8.5、好ましくはpH6.5〜7.5の範囲で、25〜40℃、好ましくは30〜37℃、1〜10分、好ましくは3〜5分間行う。第一反応終了後、当該反応溶液の吸光度を測定する。吸光度測定の条件は、目的とする画分中のコレステロールを測定する際に利用する反応ならびに酵素の種類によっても異なるが、例えば下記第二反応時に使用する補酵素として、コレステロール脱水素酵素を用いて、β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の酸化型から還元型への変換を利用する場合は、波長340nm付近での吸光度を測定すればよい。
生体試料中の特定のリポ蛋白質画分中のコレステロールをコレステロール脱水素酵素に作用させる第二反応は、pH7.0〜10.0、好ましくはpH7.5〜8.5の範囲で、25〜40℃、好ましくは30〜37℃、1〜10分、好ましくは3〜5分間行う。第二反応終了後、第一反応の条件に準じて吸光度を測定する。
当該コレステロール脱水素酵素もその由来等については特に制限はなく、コレステロール脱水素反応を触媒するものであればよい。
第二反応においてコレステロール脱水素酵素を用いる際の補酵素には、β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型(NAD)、Thio−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型(t−NAD)、β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸酸化型(NADP)、Thio−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸酸化型(t−NADP)等が挙げられる。
第一反応におけるpH6.0〜8.5を第二反応でpH7.5以上、好ましくはpH8.0以上にすることで、第一反応に使用したコレステロール酸化酵素は反応に至適なpH条件から外れる。コレステロール脱水素酵素はpH8.0以上に至適pHを有する為、第二反応で効果的に作用する。このpH条件の差により、目的となる特定のリポ蛋白質画分中のコレステロールの定量が可能となるが、コレステロール酸化酵素に対する特異的な阻害物質であるHLB17以上の非イオン界面活性剤もしくはイオン性界面活性剤、またはフッ化ナトリウム等を第二反応で添加してもよい。
本発明においては、生体試料と当該酵素の反応の際、凝集物が生じ、反応液が濁るのを防ぐ為に、カリクスアレン類およびカリクスアレン誘導体、ポリアニオン、水溶性ポリマー、多糖類等の化合物が添加される。これらの化合物は、リポ蛋白質表面とイオン結合または、リポ蛋白質表面の蛋白糖鎖を認識した配位結合により、複合体を形成するが凝集は起こさない。即ち、これらの複合体は、反応溶液中に濁りを生じない可溶性の複合体である。これらの化合物は主にLDL及びVLDL画分と可溶性複合体を形成し、リポ蛋白質中の成分が遊離するのを抑制する。
これらの化合物は、金属イオンをある程度の濃度添加することにより凝集がおこり測定困難となるので、本発明においては金属イオンを添加しないか、当該金属イオンの濃度を凝集をおこさせないように設定する必要がある。金属イオンを添加する場合は約1mMを超えない程度に抑えるが、通常は金属イオンは添加しないことが好ましい。
カリクスアレン類は、フェノールを基本骨格とし、フェノールの4〜8分子をメチレン基で環状に重合させた環状オリゴマーである。これらのカリクスアレン類に水溶性(親水性)基を導入したカリクスアレン誘導体も開発されている。カリクスアレン類およびその誘導体としては、カリクス(4)アレン〔Calix(4)arene〕、カリクス(6)アレン、カリクス(8)アレン、硫酸カリクス(4)アレン、硫酸カリクス(6)アレン、硫酸カリクス(8)アレン、酢酸カリクス(4)アレン、酢酸カリクス(6)アレン、酢酸カリクス(8)アレン、カルボキシカリクス(4)アレン、カルボキシカリクス(6)アレン、カルボキシカリクス(8)アレン、カリクス(4)アレンアミン、カリクス(6)アレンアミン、カリクス(8)アレンアミンなどが挙げられるが、使用に際しては特に制限されない。製品化に成功している硫酸カリクスアレンが水溶性に優れ取扱いが容易である。カリクスアレン類またはその誘導体をコレステロール測定に応用する場合、コレステロールを酵素的に測定する条件下に、反応液中に0.05〜50mmol/L、好ましくは0.1〜10mmol/Lとなるように添加すればよい。カリクスアレン類およびその誘導体は、1種または2種以上を用いることができ、2種以上用いる場合の各カリクスアレン類およびその誘導体の量は上述の範囲内で適宜変更し得る。
ポリアニオンとしては、デキストラン硫酸、リンタングステン酸、ヘパリンなどのナトリウム塩やカリウム塩が挙げられ、反応液中に0.01〜1.0w/v%、好ましくは0.05〜0.2w/v%となるように添加すればよい。
水溶性ポリマーには、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチレングリコール等が挙げられ、反応液中に0.01〜5.0w/v%、好ましくは0.05〜0.2w/v%となるように添加すればよい。
多糖類には、レクチン(コンカナバリンA、ヒママメレクチン等)、λ−カラギーナン、κ−カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、Apo−B抗血清、シクロデキストリン類が挙げられ、反応液中に0.01〜2.0w/v%、好ましくは0.05〜0.5w/v%となるように添加すればよい。
シクロデキストリン(CD)類は、本発明の目的が達成できるものであればいずれも好適に使用できるが、とりわけ部分ヒドロキシプロピル化α−CD、部分ヒドロキシプロピル化β−CD、部分メチル化α−CD、部分メチル化β−CD、部分ポリマー化β−CD等が好ましい。これらCD類は、単独または組み合わせて用いられる。部分ヒドロキシプロピル化とは、αまたはβ−CDを構成する6または7のグルコース残基のうち少なくとも一のグルコース残基において、2位および/または6位の水酸基の水素原子がヒドロキシプロピル基〔例えば2−ヒドロキシプロピル基「−O−CH2 CH(OH)CH3 」〕に置換されていることをいう。また、部分メチル化とは、αまたはβ−CDを構成する6または7のグルコース残基のうち少なくとも一のグルコース残基において、2位および/または6位の水酸基の水素原子がメチル基に置換されていることをいう。さらに、部分ポリマー化とは、一のβ−CDを構成する7のグルコース残基のうち少なくとも一のグルコース残基において、2位、3位および6位の水酸基のうち少なくとも一の水酸基が、他のβ−CDを構成するグルコース残基の2位、3位および6位の水酸基のうち少なくとも一の水酸基に、架橋剤によって相互に架橋され、複数のβ−CD分子がポリマーを形成することをいう。
LDL画分等と可溶性複合体を形成するこれらの化合物群は、目的に応じて組み合わせて使用するとさらに効果的である。
次に各画分中のコレステロールの定量について説明する。HDL画分中のコレステロールを定量する場合、第一反応でHDL画分以外のリポ蛋白質画分、特にLDL画分中の遊離型コレステロールが塩濃度やpHの関係で遊離し易くなる。LDLの分解を抑える方法として、可溶性複合体を形成するカリクスアレン類、カリクスアレン誘導体、ポリアニオン、水溶性ポリマー(水溶性高分子化合物)、多糖類の添加が挙げられる。しかしながら、測定対象となる生体試料には多種多様なリポ蛋白質が存在するため、コレステロールの遊離を完全に抑制することは難しい。従って好ましくは、当該遊離型コレステロールをコレステロール酸化酵素による第一反応にて分解させ、第二反応でHDL画分中のコレステロールを、必要に応じてリポプロテインリパーゼやコレステロール加水分解酵素の共存下で、コレステロール脱水素酵素の反応にて定量する方法が併用される。
可溶性複合体を形成するために用いられるカリクスアレン類等の化合物の添加量は前述のとおりである。
LDL画分中のコレステロールを定量する場合は、先に述べた条件を組み合わせ、即ちpH6.0〜8.0程度、イオン強度200〜500mmol/L程度の条件下で、第一反応でLDLと可溶性複合体を形成させ安定化させる一方で、HDL画分およびVLDL画分中のコレステロールを、必要に応じてリポプロテインリパーゼやコレステロール加水分解酵素の共存下で、コレステロール酸化酵素を作用させる。残ったLDL画分を第二反応にて塩濃度を高めたり界面活性剤を添加したりして分解し、LDL画分中のコレステロールを、必要に応じてリポプロテインリパーゼやコレステロール加水分解酵素の共存下で、コレステロール脱水素酵素の反応にて定量する。第一反応時において、LDLと可溶性複合体を形成する化合物は、その種類の組み合わせと濃度を適宜調整して用いることができる。
VLDL画分中のコレステロールを定量する場合は、先に述べた条件を組み合わせ、即ちpH6.5〜8.5程度、イオン強度300〜600mmol/L程度の条件下で、第一反応でVLDL画分と可溶性複合体を形成させ安定化させる一方で、HDL画分およびLDL画分中のコレステロールを分解する。第一反応時において、VLDLと可溶性複合体を形成する化合物は、その種類の組み合わせと濃度を適宜調整して用いることができる。第二反応でVLDLの可溶性複合体を分解させる手段としては、第二反応における酵素反応を妨害しなければ何等制限されず、界面活性剤、コール酸類や酵素を用いるか、塩濃度等を適宜調整すればよい。
特定のリポ蛋白質画分中のコレステロール濃度は、第一反応および第二反応における吸光度をそれぞれ測定し、その吸光度の差引により求められる。例えば、HDL画分中のコレステロールを定量する場合、HDL画分以外のリポ蛋白質画分のコレステロールを第一反応で分解させた状態での吸光度を測定した後、第二反応での吸光度を測定することにより、第一反応で未反応のHDL画分中のコレステロールを定量することができる。
当該定量方法は、上述のHDL画分、LDL画分およびVLDL画分のみならず、レムナント様リポ蛋白質画分等の他のリポ蛋白質画分にも応用ができる。
本発明の定量方法は、本発明の試薬キットによって好適に実施され得る。本発明の試薬キットは、好ましくは第一反応においてコレステロール酸化酵素が少なくとも反応液中に存在するように、第二反応においてコレステロール脱水素酵素が少なくとも反応液中に存在するように配合されたものである。試薬の形態は、乾燥状、液状など特に限定されるものではない。試薬キット中には、酵素の活性化剤などが配合されていてもよく、また試薬キットが、例えば第一反応用試薬と第二反応用試薬との組合せのように、反応液中に添加する時期が異なる複数の種類の試薬を組み合わせたものであってもよい。
本発明の試薬キットは、特定のリポ蛋白質画分中のコレステロールを、コレステロール脱水素酵素で測定するための試薬キットであり、コレステロール酸化酵素およびコレステロール脱水素酵素を含有し、その他の成分として、特定のリポ蛋白質画分中のコレステロールを定量するために用いられる酵素等の試薬を含有するように適宜調製される。例えば、HDL画分やLDL画分中のコレステロールは、総コレステロールを測定する方法により測定される。この際の試薬キットには、コレステロール酸化酵素およびコレステロール脱水素酵素に加えて、リポプロテインリパーゼ、コレステロールエステラーゼ等の酵素、コレステロールを定量する反応を完成させるための条件下で添加する活性化剤、安定化剤、補酵素等が適宜選択され、試薬キット中に配合され得る。本発明のキットに含められるコレステロール脱水素酵素としては前述の如く、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド依存性コレステロール脱水素酵素、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドフォスフェート依存性コレステロール脱水素酵素等が例示される。
以下、本発明をより詳細に説明するために、HDL画分、LDL画分及びVLDL画分中の各コレステロールの定量例について記すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕 濁度の確認結果
緩衝液に表1に示す化合物を添加し、試薬とした。検体は、超遠心(100,000G)操作で得たVLDL、LDL、HDL画分と正常なヒト血清および乳び検体を用いた。測定は、検体5μlに試薬180μlを加え37℃で5分間インキュベートし、この時点で主波長340nmの吸光度と濁りの確認を行った。対照法として市販されているキット、デタミナーL HDL−C(協和メデックス(株)社製)、コレステストHDL(第一化学薬品工業(株)社製)、HDL−Cダイレクトワコー(和光純薬(株)社製)の第一試薬を用いた。また、特許第2600065号公報、特開平8−201393号公報、特開平9−96637号公報の各公報に記載の実施例を参考にした試薬も調製した。操作はキットに添付されている取り扱い説明書及び各公報記載の実施例に従った。結果を表1に示す。本発明において用いられる化合物を添加した試薬では、濁りが生じていないことがわかる。
Figure 0004271202
注1)各化合物の上段:濁度の強度を示す。下段:340nmにおける検体自身の吸光度を差し引いた複合体形成による吸光度の変化を示す。
注2)表中の記号は、以下の濁度を示す。−:濁らない、+:低度の濁り、++:中度の濁り、+++:高度の濁り、++++:強度の濁り(吸光度2.0以上)
注3)表中のHP−γ−CDは2−ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリンを、DM−β−CDはβ−CDを構成するグルコース残基の2位および6位の水酸基の水素原子がそれぞれメチル基に置換されているγ−シクロデキストリンを示し、PEGはポリエチレングリコールを示す。
〔実施例2〕 HDL画分中のコレステロールの定量
以下の試薬1−A、試薬1−Bおよび試薬2を調製し、HDL−コレステロール濃度を測定した。検体は、一般人の血清10例を用いた。測定は、日立7170型自動分析装置で実施した。操作法は、先ず検体5μlに試薬1−Aまたは試薬1−Bを180μl加え37℃で5分間恒温し、この時点で主波長340nmおよび副波長570nmで吸光度1を測定した。
さらに、試薬2を60μl加え37℃で5分間恒温し、この時点で主波長340nmおよび副波長570nmで吸光度2を測定した。
吸光度1と吸光度2の差を求めて、既知のHDL−コレステロール濃度のコントロールを標準液として検体の値を換算した。対照法としてポリエチレングリコール(PG)法を用いた。PG法は国際試薬(株)製PGポールを使用した。また、遠心後の上清のコレステロール濃度は、国際試薬(株)製T−CHO試薬・Aを用いて求めた。測定結果として対照法との比較を表2に示した。コレステロール酸化酵素が添加されていない試薬1−Aでは、対照法に比べて高値を示すが、コレステロール酸化酵素が添加された試薬1−Bでは、対照法の結果とよく一致した良好な結果となった。
試薬1−Aの調製
緩衝液 pH6.5
二塩化ヒドラジニウム 80 mmol/L
硫酸カリクス(6)アレン 1.0 mmol/L
β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型[NAD]5.0 mmol/L
試薬1−Bの調製
緩衝液 pH6.5
二塩化ヒドラジニウム 80 mmol/L
硫酸カリクス(6)アレン 1.0 mmol/L
β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型[NAD]5.0 mmol/L
コレステロール酸化酵素 10 U/ml
試薬2の調製
緩衝液 pH8.5
コレステロール脱水素酵素 20 U/ml
コレステロール加水分解酵素 6 U/ml
Figure 0004271202
〔実施例3〕 LDL画分中のコレステロールの定量
以下の試薬1および試薬2を調製し、LDL−コレステロール濃度を測定した。検体は、一般人の血清10例を用いた。測定は、日立7170型自動分析装置で実施した。操作法は、先ず検体3μlに試薬1を210μl加え37℃で5分間恒温し、この時点で主波長340nmおよび副波長570nmで吸光度1を測定した。
さらに、試薬2を70μl加え37℃で5分間恒温し、この時点で主波長340nmおよび副波長570nmで吸光度2を測定した。
吸光度1と吸光度2の差を求めて、既知のLDL−コレステロール濃度のコントロールを標準液として検体の値を換算した。対照法では、フリーデワルド式によりLDL−コレステロール濃度を求めた。HDLコレステロール値は、国際試薬(株)製PGポールを使用した。総コレステロール値は、国際試薬(株)製T−CHO試薬・Aを用いて求めた。TG値は、国際試薬(株)製TG試薬・Aを用いて求めた。測定結果として対照法との比較を表3に示した。本法は、対照法の結果とよく一致した良好な結果となった。
試薬1の調製
緩衝液 pH7.0
硫酸カリクス(6)アレン 1.0 mmol/L
コレステロール脱水素酵素 20 U/ml
β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型[NAD]5.0 mmol/L
コレステロール酸化酵素 10 U/ml
コレステロール加水分解酵素 1 U/ml
試薬2の調製
緩衝液 pH8.5
二塩化ヒドラジニウム 300 mmol/L
コレステロール加水分解酵素 3 U/ml
Figure 0004271202
〔実施例4〕 VLDL画分中のコレステロールの定量
以下の試薬1および試薬2を調製し、VLDL−コレステロール濃度を測定した。検体は、一般人の血清5例を用いた。測定は、日立7170型自動分析装置で実施した。操作法は、先ず検体5μlに試薬1を180μl加え37℃で5分間恒温し、この時点で主波長340nmおよび副波長570nmで吸光度1を測定した。
さらに、試薬2を60μl加え37℃で5分間恒温し、この時点で主波長340nmおよび副波長570nmで吸光度2を測定した。吸光度1と吸光度2の差を求めて、既知のVLDL−コレステロール濃度の血清を標準液として検体の値を換算した。対照法として超遠心法を用いた。測定結果として対照法との比較を表4に示した。本法は、対照法の結果とよく一致した良好な結果となった。
試薬1の調製
緩衝液 pH8.0
コレステロール脱水素酵素 20 U/ml
β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型[NAD]5.0 mmol/L
塩化ナトリウム 100 mmol/L
コール酸ナトリウム 0.1 %
コレステロール酸化酵素 10 U/ml
コレステロール加水分解酵素 1 U/ml
試薬2の調製
緩衝液 pH8.5
二塩化ヒドラジニウム 300 mmol/L
トリトンX−100 0.4 %
コレステロール加水分解酵素 3 U/ml
Figure 0004271202
本発明によれば、第一反応でコレステロール酸化酵素と反応させ、第二反応でコレステロール脱水素酵素と反応させることにより、目的とするリポ蛋白質画分以外の画分由来のコレステロールの影響を排除することが可能となる。
さらに本発明によれば、生体試料中のリポ蛋白質を凝集させることなく、特定のリポ蛋白質画分中のコレステロールを定量することができる。すなわち、測定用試薬に、カリクスアレン類やその誘導体、ポリアニオン、多糖類(シクロデキストリン類など)、水溶性ポリマー等を反応液中に含ませることにより、生体試料中のリポ蛋白質を凝集させることなく、且つ他のリポ蛋白質の影響を受けることなく、選択的に特定のリポ蛋白質画分中のコレステロールを定量することが可能となる。
以上のことより、本発明の方法ならびに本発明の試薬キットを用いる方法では、遠心分画などの分離分画が不要であるから、操作が簡便であり、測定誤差や人為的要因での問題を低減させることができる。
また、二種類の試薬を用いる方法に応用できるので、汎用型の自動分析装置を用いた連続的な測定が可能となり、他の検査項目とマルチチャンネル化して測定することができる。

Claims (5)

  1. 生体試料中の高比重リポ蛋白質中コレステロールを定量するに際し、
    第一反応において、前記高比重リポ蛋白質中コレステロール以外のコレステロールをコレステロール酸化酵素と反応させ、
    第二反応において、コレステロール脱水素酵素の補酵素およびコレステロール加水分解酵素の存在下で、前記高比重リポ蛋白質中のコレステロールをコレステロール脱水素酵素と反応させることを特徴とする、コレステロールの定量方法。
  2. 前記コレステロール酸化酵素による反応後の吸光度と、前記コレステロール脱水素酵素による反応後の吸光度との差に基づいて、前記特定のリポ蛋白質中コレステロールを定量する、請求項1に記載の定量方法。
  3. 前記第一反応において、低比重リポ蛋白質および超低比重リポ蛋白質に、4〜8分子のフェノールを基本骨格とする硫酸カリクスアレン、デキストラン硫酸のナトリウム塩またはカリウム塩、リンタングステン酸のナトリウム塩またはカリウム塩、ポリアクリル酸、カラギーナン、Apo−B抗血清、コンカナバリンA、部分ヒドロキシプロピル化シクロデキストリン、部分メチル化シクロデキストリン、ヘパリンのカリウム塩またはナトリウム塩、アルギン酸ナトリウム、および平均分子量200〜6000のポリエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1つの化合物を作用させて可溶性複合体を形成させることにより、前記低比重リポ蛋白質および前記超低比重リポ蛋白質と、前記コレステロール酸化酵素および前記コレステロール脱水素酵素との反応を阻害する、請求項1または2に記載の定量方法。
  4. 生体試料中の低比重リポ蛋白質中コレステロールを定量するに際し、
    第一反応において、前記低比重リポ蛋白質に、4〜8分子のフェノールを基本骨格とする硫酸カリクスアレン、デキストラン硫酸のナトリウム塩またはカリウム塩、リンタングステン酸のナトリウム塩またはカリウム塩、ポリアクリル酸、カラギーナン、Apo−B抗血清、コンカナバリンA、部分ヒドロキシプロピル化シクロデキストリン、部分メチル化シクロデキストリン、ヘパリンのカリウム塩またはナトリウム塩、アルギン酸ナトリウム、および平均分子量200〜6000のポリエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1つの化合物を作用させて可溶性複合体を形成させることにより、前記低比重リポ蛋白質と前記コレステロール酸化酵素および前記コレステロール脱水素酵素の反応を阻害し、コレステロール加水分解酵素の存在下で前記低比重リポ蛋白質中のコレステロール以外のコレステロールをコレステロール酸化酵素と反応させ、
    第二反応において、コレステロール脱水素酵素の補酵素の存在下で前記低比重リポ蛋白質中のコレステロールをコレステロール脱水素酵素と反応させることを特徴とする、コレステロールの定量方法。
  5. 前記第一反応における前記低比重リポ蛋白質と、前記化合物との反応が、pH6〜8、イオン強度200〜500mmol/Lの条件下で行われる、請求項に記載の定量方法。
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